JP4993816B2 - アルミナーシリカ系繊維及びその製造方法、触媒コンバータ用保持シール材 - Google Patents
アルミナーシリカ系繊維及びその製造方法、触媒コンバータ用保持シール材 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、アルミナ−シリカ系繊維の製造方法及び触媒コンバータ用保持シール材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、車両用、特に自動車の動力源として、ガソリンや軽油を燃料とする内燃機関が百年以上にわたり用いられてきた。しかしながら、排気ガスが健康や環境に害を与えることが次第に問題となってきている。それゆえ、最近では排気ガス中に含まれているCO、NOx、HC等を除去する排気ガス浄化用触媒コンバータや、PM等を除去するDPFが各種提案されるに至っている。通常の排気ガス浄化用触媒コンバータは、触媒担持体と、前記触媒担持体の外周を覆う金属製シェルと、両者間のギャップに配置される保持シール材とを備えている。触媒担持体としてはハニカム状に成形したコージェライト担体が用いられており、それには白金等の触媒が担持されている。
【0003】
また最近では、石油を動力源としない次期のクリーンな動力源の研究が進められており、そのうち特に有望なものとして例えば燃料電池がある。燃料電池とは、水素と酸素とが反応して水ができる際に得られる電気を、動力源として用いるものである。酸素は空気中からじかに取り出される反面、水素についてはメタノール、ガソリン等を改質して用いている。この場合、メタノール等の改質は触媒反応によって行われる。そして、このような燃料電池にも、触媒担持体と、触媒担持体の外周を覆う金属製シェルと、両者間のギャップに配置される保持シール材とを備える燃料電池用触媒コンバータが用いられている。触媒担持体としてはハニカム状に成形したコージェライト担体が用いられており、それには銅系の触媒が担持されている。
【0004】
上記の触媒コンバータを製造する方法をここで簡単に説明しておく。
まず、熔融法によりアルミナ−シリカ系繊維を紡糸した後、そのアルミナ−シリカ系繊維をマット状に集合させてなる材料を作製する。この材料を金型で打ち抜くことによって、帯状の保持シール材を作製する。次に、この保持シール材を触媒担持体の外周面に巻き付けた後、金属製シェル内に前記触媒担持体を収容する。その結果、所望の触媒コンバータが完成する。このような収容状態において保持シール材は厚さ方向に圧縮されるため、保持シール材にはその圧縮力に抗する反発力(面圧)が生じる。そして、この反発力が作用することにより、触媒担持体が金属製シェル内に保持されるようになっている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来の保持シール材は使用時に振動や排気ガス等の高温に晒されることから、時間が経つにつれて次第に面圧が低下し、比較的早期のうちに触媒担持体の保持性やシール性が悪くなるという欠点があった。ゆえに、アルミナ−シリカ系繊維自体の機械的強度を向上させることにより、初期面圧の向上及び面圧の経時劣化の防止を図るべきとの要請があった。
【0006】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その第1の目的は、初期面圧が高くて面圧の経時劣化を起こしにくい触媒コンバータ用保持シール材を提供することにある。
【0007】
また、本発明の第2の目的は、機械的強度に優れるため、上記の保持シール材を得るうえで好適なアルミナ−シリカ系繊維の製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決すべく本願発明者は鋭意研究を行い、数多くの試行錯誤を経たのちに、幸運にも機械的強度に優れたアルミナーシリカ系繊維を作出するに至った。このようにして作出されたアルミナーシリカ系繊維は概して黒色系の色を呈しており、通常よく知られている白色透明のアルミナーシリカ系繊維とは明らかに性状が異なるものであった。このように通常とは異なる色の発生原因を突き止めるべく、本願発明者はさらに鋭意研究を行った。その結果、繊維中の残留炭素量が多くなると繊維が黒色系の色に着色されること、及びかかる残留炭素の存在が機械的強度の向上に寄与しているであろうことを知見した。そこで、本願発明者は上記の知見をさらに発展させ、最終的に下記の本願発明を想到するに至ったのである。
【0009】
即ち、請求項1に記載の発明では、無機塩法用のアルミナ−シリカ系繊維紡糸原液を材料として前駆体繊維を得る紡糸工程と、前記前駆体繊維中に含まれる炭素成分の酸化反応を進行させにくい環境下において前記前駆体繊維を加熱することにより、前記前駆体繊維を焼結させる焼成工程とを含むことを特徴とするアルミナーシリカ系繊維の製造方法をその要旨とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記前駆体繊維を窒素雰囲気下において1000℃〜1300℃に加熱することとした。
請求項3に記載の発明は、請求項1または2において、前記前駆体繊維中に含まれる炭素成分は、前記アルミナ−シリカ系繊維紡糸原液に対して曳糸性付与剤として添加された有機重合体に由来することとした。
【0011】
請求項4に記載の発明では、黒色系の色を呈するアルミナ−シリカ系繊維をその要旨とする。
請求項5に記載の発明では、炭素成分に由来する黒色系の色を呈するアルミナ−シリカ系繊維をその要旨とする。
【0012】
請求項6に記載の発明では、残留炭素量が1重量%以上であってその残留炭素成分に由来する黒色系の色を呈するとともに、繊維引張強度が1.2GPa以上、繊維曲げ強度が1.0GPa以上、破壊靭性が0.8MN/m3/2以上であるアルミナ−シリカ系繊維をその要旨とする。
【0013】
請求項7に記載の発明では、マット状に集合した請求項4乃至6のいずれか1項に記載のアルミナ−シリカ系繊維を構成要素とし、触媒担持体とその触媒担持体の外周を覆う金属製シェルとのギャップに配置される触媒コンバータ用保持シール材をその要旨とする。
【0014】
以下、本発明の「作用」について説明する。
請求項1に記載の発明によると、前駆体繊維中の炭素成分を酸化させずに前駆体繊維を焼結させることができる。このため、繊維中に多くの炭素成分を残留させることができ、機械的強度に優れた繊維を簡単にかつ確実に得ることができる。
【0015】
ちなみに、前駆体繊維中の炭素成分は、通常、焼成温度に達するまでの過程で殆ど焼失してしまうため、焼成工程を経て得られるアルミナ−シリカ系繊維中には残りにくい。しかし、炭素成分の酸化反応を進行させにくい環境下において前駆体繊維を加熱した場合には、炭素が繊維中に残ってある程度セラミック骨格中に組み込まれるものと考えられる。
【0016】
請求項2に記載の発明によると、焼成工程を行う際の不活性な雰囲気として安価な窒素雰囲気を用いているため、製造コストを低減することができる。また、焼成温度を上記好適範囲にて加熱しているため、高強度のアルミナ−シリカ系繊維を安定的に得ることが可能となる。
【0017】
前駆体繊維の加熱温度が1000℃未満であると、前駆体繊維の焼結が不完全になりやすく、たとえ残留炭素量が多くても、高強度のアルミナ−シリカ系繊維を安定的に得ることが困難になる。逆に、前駆体繊維の加熱温度を1300℃を超えて設定したとしても、アルミナ−シリカ系繊維の顕著な高強度化にはつながらず、かえって経済性が低下する。
【0018】
請求項3に記載の発明によると、前記有機重合体は、曳糸性付与剤としての役割を果たすばかりでなく、アルミナ−シリカ系繊維に好適な強度を付与するために前駆体繊維に添加される炭素源としての役割も果たすことになる。従って、紡糸原液にわざわざ炭素源を別添する必要がなく、紡糸原液の組成の大幅な変更を伴わない。よって、原液組成のバランスが崩れるような心配もなく、アルミナ−シリカ系繊維の基本的物性の悪化も未然に防止することができる。また、炭素源の別添を伴わないので、製造コストを低減することができる。しかも、前記有機重合体は紡糸原液に均一に分散されやすいため、前駆体繊維中に炭素源が均一に分散した状態となる。ゆえに、得られるアルミナ−シリカ系繊維における残留炭素量も均一になり、機械的強度にムラができにくい。
【0019】
ちなみに、この種の有機重合体は通常500℃〜600℃程度の温度で焼失してしまうため、焼成工程を経て得られるアルミナ−シリカ系繊維中には何ら残らない。しかし、炭素成分の酸化反応を進行させにくい環境下において前駆体繊維を加熱した場合には、有機重合体を構成する炭素が繊維中に残ってある程度セラミック骨格中に組み込まれるものと考えられる。
【0020】
請求項4,5,6に記載の発明によると、黒色系の色を呈するアルミナ−シリカ系繊維は概して機械的強度に優れるため、これを用いることにより、初期面圧が高くて面圧の経時劣化を起こしにくい保持シール材を実現することができる。なお、繊維引張強度、繊維曲げ強度及び破壊靭性が上記値以上であると、引っ張りや曲げに対して極めて強く、しなやかで破壊しにくいアルミナ−シリカ系繊維となる。よって、さらなる初期面圧の向上及び面圧の経時劣化の確実な防止を図ることができる。
【0021】
請求項7に記載の発明によると、機械的強度に優れたアルミナ−シリカ系繊維を構成要素としているため、初期面圧が高くて面圧の経時劣化を起こしにくい触媒コンバータ用保持シール材を得ることができる。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体化した一実施形態の自動車排気ガス浄化装置用触媒コンバータを図1〜図3に基づき詳細に説明する。
【0023】
図3に示される本実施形態の触媒コンバータ1は、自動車の車体において、エンジンの排気管の途中に設けられる。エンジンから触媒コンバータ1までの距離は比較的短いため、触媒コンバータ1には約700℃〜900℃の高温の排気ガスが供給されるようになっている。エンジンがリーンバーンエンジンである場合には、触媒コンバータ1には約900℃〜1000℃という、さらに高温の排気ガスが供給されるようになっている。
【0024】
図3に示されるように、本実施形態の触媒コンバータ1は、基本的に、触媒担持体2と、触媒担持体2の外周を覆う金属製シェル3と、両者2,3間のギャップに配置される保持シール材4とによって構成されている。
【0025】
前記触媒担持体2は、コージェライト等に代表されるセラミック材料を用いて作製されている。この触媒担持体2は断面円形状をした柱状部材となっている。また、触媒担持体2は、軸線方向に沿って延びる多数のセル5を有するハニカム構造体であることが好ましい。セル壁には排気ガス成分を浄化しうる白金やロジウム等の貴金属系触媒が担持されている。なお、触媒担持体2として、上記のコージェライト担体のほかにも、例えば炭化珪素、窒化珪素等のハニカム多孔質焼結体等を用いてもよい。
【0026】
前記金属製シェル3としては、例えば組み付けに際して圧入方式を採用する場合には、断面O字状の金属製円筒部材が用いられる。なお、円筒部材を形成するための金属材料としては、耐熱性や耐衝撃性に優れた金属(例えばステンレス等のような鋼材等)が選択されることがよい。圧入方式に代えていわゆるキャニング方式を採用する場合には、前記断面O字状の金属製円筒部材を軸線方向に沿って複数片に分割したもの(即ちクラムシェル)が用いられる。
【0027】
そのほか、組み付けに際して巻き締め方式を採用する場合には、例えば断面C字状ないしU字状の金属製円筒部材、言い換えるといわば軸線方向に沿って延びるスリット(開口部)を1箇所にのみ有する金属製円筒部材が用いられる。この場合、触媒担持体2の組み付けに際し、触媒担持体2に保持シール材4を固定したものを金属製シェル3内に収め、その状態で金属製シェル3を巻き締めた後に開口端が接合(溶接、接着、ボルト締め等)される。溶接、接着、ボルト締め等といった接合作業は、キャニング方式を採用したときにも同様に行われる。
【0028】
図1に示されるように、この保持シール材4は長尺状のマット状物であって、その一端には凹状合わせ部11が設けられ、他端には凸状合わせ部12が設けられている。図2に示されるように、触媒担持体2への巻き付け時には、凸状合わせ部12が凹状合わせ部11にちょうど係合するようになっている。
【0029】
本実施形態の保持シール材4は、マット状に集合したセラミック繊維(即ち繊維集合体)を主要な要素として構成されたものである。前記セラミック繊維として、本実施形態ではアルミナ−シリカ系繊維6が用いられている。この場合、ムライト結晶含有量が0重量%以上かつ10重量%以下のアルミナ−シリカ系繊維6を用いることがより好ましい。このような化学組成であると、非晶質成分が少なくなることから耐熱性に優れたものとなり、かつ圧縮荷重印加時の反発力が高いものとなるからである。従って、ギャップに配置された状態で高温に遭遇したときであっても、発生する面圧の低下が比較的起こりにくくなる。
【0030】
アルミナ−シリカ系繊維6におけるアルミナ量は40重量%〜100重量%であることがよく、シリカ量は0重量%〜60重量%であることがよい。
また、アルミナ−シリカ系繊維6の平均繊維径は、3μm〜25μm程度であることがよく、さらには5μm〜15μm程度であることがなおよい。平均繊維径を小さくしすぎると、呼吸器系に吸い込まれやすくなるという不都合が生じるからである。アルミナ−シリカ系繊維6の平均繊維長は、0.1mm〜100mm程度であることがよく、さらには2mm〜50mm程度であることがなおよい。
【0031】
本実施形態のアルミナ−シリカ系繊維6は、白色透明である通常のアルミナ−シリカ系繊維とは異なり、黒色系の色を呈しているということが特徴的である。アルミナ−シリカ系繊維6を着色している黒色系の色は、紡糸原液中に含まれていた炭素成分に由来するものである。
【0032】
アルミナ−シリカ系繊維6において残留した炭素成分の量は1重量%以上であることがよく、好ましくは1重量%〜20重量%、より好ましくは5重量%〜10重量%である。残留炭素量が1重量%未満であると、十分に機械的強度を向上させることができなくなるおそれがある。逆に、残留炭素量が多すぎると、アルミナ−シリカ系繊維6の基本的物性(例えば耐熱性等)の悪化を伴うおそれがある。
【0033】
アルミナ−シリカ系繊維6の繊維引張強度は1.2GPa以上、特には1.5GPa以上であることがよい。繊維曲げ強度は1.0GPa以上、特には1.5GPa以上であることがよい。破壊靭性は0.8MN/m3/2以上、特には1.3MN/m3/2以上であることがよい。その理由は、繊維引張強度、繊維曲げ強度及び破壊靭性が大きくなると、引っ張りや曲げに対して極めて強く、しなやかで破壊しにくいアルミナ−シリカ系繊維6となるからである。
【0034】
なお、アルミナ−シリカ系繊維6の断面形状は、真円形状でもよいほか、異形断面形状(例えば楕円形状、長円形状、略三角形状等)でも構わない。
組み付け前の状態における保持シール材4の厚さは、触媒担持体2と金属製シェル3とがなすギャップの1.1倍〜4.0倍程度、さらには1.5倍〜3.0倍程度であることが望ましい。前記厚さが1.1倍未満であると、高い担持体保持性を得ることができず、触媒担持体2が金属製シェル3に対してズレたりガタついたりするおそれがある。勿論、この場合には高いシール性も得られなくなるため、ギャップ部分からの排気ガスのリークが起こりやすくなり、高度な低公害性を実現できなくなってしまう。また、前記厚さが4.0倍を超えると、特に圧入方式を採用した場合には、触媒担持体2の金属製シェル3への配置が困難になってしまう。よって、組み付け性の向上を達成できなくなるおそれがある。
【0035】
また、組み付け後における保持シール材4のGBD(嵩密度)は、0.10g/cm3〜0.30g/cm3、さらには0.10g/cm3〜0.25g/cm3となるように設定されることが好ましい。GBDの値が極端に小さいと、十分に高い初期面圧を実現することが困難になる場合がある。一方、GBDが大きすぎると、材料として使用すべきアルミナ−シリカ系繊維6の量が増え、コスト高を招きやすくなる。
【0036】
組み付け状態における保持シール材4の初期面圧は50kPa以上、さらには70kPa以上であることが好ましい。初期面圧の値が高ければ、面圧の経時劣化が起こったとしても、触媒担持体2の好適な保持性を維持することができるからである。
【0037】
なお、保持シール材4に対し必要に応じて、ニードルパンチ処理や樹脂含浸処理等を施してもよい。これらの処理を施すことにより、保持シール材4を厚さ方向に圧縮して肉薄化することが可能となるからである。
【0038】
次に、触媒コンバータ1を製造する手順を説明する。
まず、アルミニウム塩水溶液、シリカゾル及び有機重合体を混合し、紡糸原液を作製する。言い換えると、無機塩法により紡糸原液を作製する。アルミナ源であるアルミニウム塩水溶液は、紡糸原液に粘性を付与するための成分でもある。なお、このような水溶液として、塩基性アルミニウム塩の水溶液を選択することがよい。シリカ源であるシリカゾルは、繊維に高い強度を付与するための成分でもある。有機重合体は紡糸原液に曳糸性付与剤としての役割を果たす成分であって、本実施形態においてはアルミナ−シリカ系繊維6に好適な機械的強度を付与する炭素源としての役割も果たす成分でもある。有機重合体としては、PVA(ポリビニルアルコール)等のように炭素を含む直鎖状高分子を用いることができる。なお、炭素源としての役割を果たすものとしては、直鎖状高分子のみに限定されることはなく、炭素を含む化合物であれば、鎖状構造を有しない比較的低分子のもの(重合体でないもの)を選択することも可能である。
【0039】
次いで、得られた紡糸原液を減圧濃縮することにより、紡糸に適した濃度・温度・粘度等に調製した紡糸原液とする。ここでは、20重量%程度であった紡糸原液を濃縮して30重量%〜40重量%程度にすることがよい。また、粘度を10ポアズ〜2000ポアズに設定することがよい。
【0040】
さらに、調製後の紡糸原液を紡糸装置のノズルから空気中に吐出すると、ノズルの開口形状に相似の断面形状を有する前駆体繊維が連続的に得られる。このようにして紡出された前駆体繊維を延伸しながら順次巻き取るようにする。この場合、例えば乾式圧力紡糸法などが採用されることが好ましい。
【0041】
次に、焼成工程を行って前駆体繊維を焼結してセラミック化(結晶化)することにより、前駆体繊維を硬化させ、アルミナ−シリカ系繊維6を得る。
焼成工程においては、前駆体繊維中に含まれる炭素成分(即ち前記有機重合体)の酸化反応を進行させにくい環境下において、前駆体繊維を加熱する必要がある。本実施形態において具体的には、代表的な不活性雰囲気である窒素雰囲気の下において加熱を行うこととしている。
【0042】
窒素雰囲気下において加熱する際、温度は1000℃〜1300℃、好ましくは1050℃〜1250℃に設定されることがよい。
加熱温度が1000℃未満であると、前駆体繊維の焼結が不完全になりやすく、たとえ残留炭素量が多くても、高強度のアルミナ−シリカ系繊維6を安定的に得ることが困難になる。逆に、加熱温度を1300℃を超えて設定したとしても、アルミナ−シリカ系繊維6の顕著な高強度化にはつながらず、かえって経済性が低下する。
【0043】
続いて、上記の各工程を経て得られたアルミナ−シリカ系繊維6の長繊維を所定長さにチョップしてある程度短繊維化する。この後、短繊維を集綿、解繊及び積層することにより、あるいは、短繊維を水に分散させて得た繊維分散液を成形型内に流し込んで加圧・乾燥することにより、マット状の繊維集合体を得る。さらに、この繊維集合体を所定形状に打ち抜き、黒系色の保持シール材4とする。
【0044】
この後、必要に応じて保持シール材4に対する有機バインダの含浸を行った後、さらに保持シール材4を厚さ方向に圧縮成形してもよい。この場合の有機バインダとしては、アクリルゴムやニトリルゴム等のようなラテックス等のほか、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂等が挙げられる。
【0045】
そして、保持シール材4を触媒担持体2の外周面に巻き付けて有機テープ13を固定する。その後、圧入、キャニングまたは巻き締めを行えば、所望の触媒コンバータ1が完成する。
【0046】
以下、上記実施形態をより具体化した実施例及びその比較例について説明する。
【0047】
【実施例及び比較例】
(実施例1)
実施例1では、まず、塩基性塩化アルミニウム水溶液(23.5重量%)、シリカゾル(20重量%、シリカ粒径15nm)及び曳糸性付与剤であるポリビニルアルコール(10重量%)を混合し、紡糸原液を作製した。次いで、得られた紡糸原液をエバポレータを用いて50℃で減圧濃縮し、濃度38重量%、粘度1500ポアズの紡糸原液に調製した。
【0048】
調製後の紡糸原液を紡糸装置のノズル(断面真円状)から空気中に連続的に噴出するとともに、形成された前駆体繊維を延伸しながら巻き取った。
次いで、窒素雰囲気かつ常圧に保持された電気炉内で、上記前駆体繊維に対する250℃、30分間の加熱(前処理)を行った後、同じく窒素雰囲気かつ常圧に保持された電気炉内で1250℃、10分間の焼成を行った。
【0049】
その結果、アルミナ/シリカの重量比が72:28、平均繊維径が10.5μm、炭素残留量5重量%の真円状アルミナ−シリカ系繊維6を得た(表1参照)。このアルミナ−シリカ系繊維6の機械的強度をそれぞれ従来公知の手法により測定したところ、繊維引張強度が2.0GPa、繊維曲げ強度が1.8GPa、破壊靭性が1.5MN/m3/2であった。つまり、実施例1のアルミナ−シリカ系繊維6は、非常に優れた機械的強度を備えていた。
【0050】
得られたアルミナ−シリカ系繊維6を観察したところ、直径及び断面形状が揃っていて、品質的に極めて安定していると言いうるものであった。また、このアルミナ−シリカ系繊維6は黒色(いわゆるカーボンブラック)を呈しており、これまでにない新規なものであった。
【0051】
続いて、アルミナ−シリカ系繊維6の長繊維を5mm長にチョップして短繊維化した。その後、この短繊維を水に分散させ、得られた繊維分散液を成形型枠内に流し込んで加圧・乾燥することにより、マット状繊維集合体を得た。そして、この繊維集合体からサンプルを作製し、面圧に関する測定試験を以下のように行った。
【0052】
まず、繊維集合体を25mm角に打ち抜いて面圧測定用サンプルとし、これを専用の治具にて挟持し、嵩密度(GBD)が0.30g/cm3となるようにした。この状態の面圧測定用サンプルを1000℃の大気圧中に保持し、1時間後、10時間後、100時間後の面圧を測定した。なお、無挟持、無加熱のままの面圧を「初期面圧」として位置付け、100時間後の面圧を「耐久後面圧」として位置付けた。また、(耐久後面圧/初期面圧)×100(%)を計算し、面圧経時劣化率とした。それらの結果を表1に示す。
【0053】
これによると、実施例1のサンプルでは、初期面圧も耐久後面圧も100kPaを超えており、面圧経時劣化率も50%以内に収まり比較的小さかった。なお、100時間経過後のサンプルを観察してみたところ、アルミナ−シリカ系繊維6の性状に特に変化はなく、依然として黒色を呈していた。残留炭素量も5重量%のままであった。
【0054】
また、前記マット状繊維集合体を所定形状に打ち抜いて実際に保持シール材4を作製した後、これを触媒担持体2に巻き付けて金属製シェル3内に圧入した。触媒担持体2としては、外径130mmφ、長さ100mmのコージェライトモノリスを用いた。金属製シェル3としては、肉厚1.5mmかつ内径140mmφであって断面O字状のSUS304製円筒部材を用いた。このようにして組み立てられた触媒コンバータ1を、3リットルのガソリンエンジンに実際に搭載して連続運転するという試験を行った。その結果、走行時における異音の発生も触媒担持体2のガタつきも認められず、初期面圧の向上及び面圧の経時劣化の防止が確実に図られていることが実証された。また、風蝕性能も好適であった。
(実施例2,3)
実施例2,3では、焼成温度及び焼成時間を表1のとおりに変更したことを除き、基本的には実施例1の手順に従ってそれぞれアルミナ−シリカ系繊維6を作製した。その結果、非常に機械的強度に優れたアルミナ−シリカ系繊維6を得ることができた。
【0055】
また、面圧測定用サンプルを作製して初期面圧、耐久後面圧、面圧経時劣化率を測定したところ、実施例1と同様に好結果を得ることができた(表1参照)。勿論、色や残留炭素量に何ら変化は認められなかった。
【0056】
さらに、保持シール材4を作製して触媒コンバータ1とし、これを搭載して連続運転試験を行った。その結果、走行時における異音の発生も触媒担持体2のガタつきも認められず、初期面圧の向上及び面圧の経時劣化の防止が確実に図られていることが実証された。
(比較例)
比較例では、実施例1と同じ組成の紡糸原液を用いて紡糸を行い、前駆体繊維を形成した。次いで、酸素を含む活性雰囲気(大気)かつ常圧に保持された電気炉内で、上記前駆体繊維に対する250℃、30分間の加熱(前処理)を行った後、同じく活性雰囲気(大気)かつ常圧に保持された電気炉内で1250℃、10分間の焼成を行った。
【0057】
その結果、アルミナ/シリカの重量比が72:28、平均繊維径が10.2μm、炭素残留量0重量%の真円状かつ白色透明のアルミナ−シリカ系繊維6を得た(表1参照)。このアルミナ−シリカ系繊維6の機械的強度は表1に示すとおりであり、実施例1〜3の半分程度であった。即ち、比較例のアルミナ−シリカ系繊維6は、実施例1〜3に比べて明らかに機械的強度に劣っていた。
【0058】
また、面圧測定用サンプルを作製して初期面圧、耐久後面圧、面圧経時劣化率を測定したところ、実施例1〜3よりも明らかに劣っていた(表1参照)。
【0059】
【表1】
従って、本実施形態によれば以下のような効果を得ることができる。
【0060】
(1)この保持シール材4に用いられているアルミナ−シリカ系繊維6は、炭素成分に由来する黒色系の色を呈しており、繊維引張強度、繊維曲げ強度、破壊靭性等といった機械的強度に非常に優れている。よって、これを用いることにより、初期面圧が高くて面圧の経時劣化を起こしにくい保持シール材4を実現することができる。従って、触媒担持体2の保持性やシール性に優れた触媒コンバータ1を得ることができる。
【0061】
(2)黒色のアルミナ−シリカ系繊維6を用いて触媒コンバータ1を構成した場合、保持シール材4にスス等の黒色系物質が付着したとしても、保持シール材4の見た目には変化が現れにくい。つまり、そもそも黒色の保持シール材4であることから、使用前後で色に大きな変化が生じない。ゆえに、「劣化した」あるいは「汚れた」という印象をユーザに与えることがない、という点で有利である。
【0062】
(3)本実施形態の製造方法では、前駆体繊維中に含まれる炭素成分の酸化反応を進行させにくい環境下において加熱することにより、前駆体繊維を焼結させる焼成工程を行っている。従って、アルミナ−シリカ系繊維6中に多くの炭素成分を残留させることができ、機械的強度に優れたアルミナ−シリカ系繊維6を簡単にかつ確実に得ることができる。
【0063】
(4)本実施形態の製造方法では、焼成工程を行う際の不活性な雰囲気として安価な窒素雰囲気を用いている。このため、保持シール材4の製造コストを低減することができる。また、焼成温度を上記好適範囲にて加熱しているため、高強度のアルミナ−シリカ系繊維6を安定的に得ることが可能となる。
【0064】
(5)本実施形態の製造方法の場合、前駆体繊維中に含まれる炭素成分は、紡糸原液に対して曳糸性付与剤として添加された有機重合体に由来する。従って、紡糸原液にわざわざ炭素源を別添する必要がなく、紡糸原液の組成の大幅な変更を伴わない。よって、原液組成のバランスが崩れるような心配もなく、アルミナ−シリカ系繊維6の基本的物性の悪化も未然に防止することができる。また、炭素源の別添を伴わないので、保持シール材4の製造コストを低減することができる。しかも、前記有機重合体は紡糸原液に均一に分散されやすいため、前駆体繊維中に炭素源が均一に分散した状態となる。ゆえに、得られるアルミナ−シリカ系繊維6における残留炭素量も均一になり、機械的強度にムラができにくい。
【0065】
なお、本発明の実施形態は以下のように変更してもよい。
・ 炭素成分の酸化反応を進行させにくい環境とは、必ずしも不活性雰囲気のみに限定されるわけではなく、例えば減圧状態の大気も含む。減圧大気下にて焼成を行えば、常圧大気下にて焼成を行った場合に比べて酸化反応の進行が抑制されるからである。
【0066】
・ 窒素以外の不活性雰囲気、例えばアルゴン中において焼成を行うようにしてもよく、さらには減圧不活性雰囲気下において焼成を行うようにしてもよい。
・ 前駆体繊維中に含まれる炭素成分は、曳糸性付与剤として添加された有機重合体に由来しなくてもよく、別に添加される炭素源に由来するものでもよい。この場合、有機重合体のような有機物のみに限定されず、例えばカーボン等の無機物を採用してもよい。
【0067】
・ 「黒色系の色」のアルミナ−シリカ系繊維6とは、黒色(真黒)のものを指すばかりでなく、黒灰色であるものも含む。
・ 保持シール材4の形状は任意に変更することが可能である。例えば、凹凸状の位置合わせ部11,12を省略して、より単純な形状にしてもよい。
【0068】
・ 触媒担持体2の断面形状は真円状に限定されることはなく、例えば楕円状または長円状等であってもよい。この場合、金属製シェル3の断面形状も、それに合わせて楕円状または長円状等に変更してもよい。
【0069】
・ 触媒担持体2としては、実施形態のようなハニカム状に成形したコージェライト担体が用いられるほか、例えば炭化珪素、窒化珪素等のハニカム多孔質焼結体などが用いられてもよい。
【0070】
・ 実施形態では、本発明の保持シール材4を排気ガス浄化装置用触媒コンバータ1に使用した例を示した。勿論、本発明の保持シール材4は、排気ガス浄化装置用触媒コンバータ1以外のもの、例えばディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)や、燃料電池改質器用触媒コンバータ等に使用することも許容される。
【0071】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
(1) 請求項1において、前記焼成工程では、不活性雰囲気下及び/または減圧下において前記前駆体繊維の加熱を行うこと。従って、この技術的思想1に記載の発明によれば、機械的強度に優れたアルミナーシリカ系繊維を安定的に得ることができる。
【0072】
【発明の効果】
以上詳述したように、請求項1〜3に記載の発明によれば、機械的強度に優れるアルミナーシリカ系繊維を簡単にかつ確実に得ることができる製造方法を提供することができる。
【0073】
請求項2に記載の発明によれば、低コスト化を図りつつ上記繊維を安定的に得ることができる。
請求項3に記載の発明によれば、低コスト化を図りつつ繊維の基本的物性を維持することができる。
【0074】
請求項4〜6に記載の発明によれば、機械的強度に優れるため、初期面圧が高くて面圧の経時劣化を起こしにくい保持シール材を得るうえで好適なアルミナーシリカ系繊維を提供することができる。
【0075】
請求項7に記載の発明によれば、初期面圧が高くて面圧の経時劣化を起こしにくい触媒コンバータ用保持シール材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を具体化した実施形態の触媒コンバータ用保持シール材の斜視図。
【図2】前記実施形態の触媒コンバータの製造工程を説明するための斜視図。
【図3】前記実施形態の触媒コンバータの断面図。
【符号の説明】
2…触媒担持体、3…金属製シェル、4…触媒コンバータ用保持シール材、6…アルミナ−シリカ系繊維。
Claims (4)
- 触媒担持体とその触媒担持体の外周を覆う金属製シェルとのギャップに配置される触媒コンバータ用保持シール材に用いられるアルミナ−シリカ系繊維の製造方法であって、
無機塩法用のアルミナ−シリカ系繊維紡糸原液を材料として前駆体繊維を得る紡糸工程と、前記前駆体繊維中に含まれる炭素成分の酸化反応を進行させにくい環境下において前記前駆体繊維を加熱することにより、前記前駆体繊維を焼結させる焼成工程とを含み、
上記アルミナ−シリカ系繊維は、残留炭素量が5〜10重量%であってその残留炭素成分に由来する黒色系の色を呈するとともに、繊維引張強度が1.2GPa以上、繊維曲げ強度が1.0GPa以上、破壊靭性が0.8MN/m3/2以上であることを特徴とするアルミナ−シリカ系繊維の製造方法。 - 前記前駆体繊維を窒素雰囲気下において1000℃〜1300℃に加熱することを特徴とする請求項1に記載のアルミナ−シリカ系繊維の製造方法。
- 前記前駆体繊維中に含まれる炭素成分は、前記アルミナ−シリカ系繊維紡糸原液に対して曳糸性付与剤として添加された有機重合体に由来することを特徴とする請求項1または2に記載のアルミナ−シリカ系繊維の製造方法。
- 触媒担持体とその触媒担持体の外周を覆う金属製シェルとのギャップに配置される触媒コンバータ用保持シール材であって、
該触媒コンバータ用保持シール材を構成するアルミナ−シリカ系繊維は、平均繊維長が2〜50mm、平均繊維径が3〜25μm、残留炭素量が5〜10重量%であり、その残留炭素成分に由来する黒色系の色を呈するとともに、繊維引張強度が1.2GPa以上、繊維曲げ強度が1.0GPa以上、破壊靭性が0.8MN/m3/2以上であることを特徴とする触媒コンバータ用保持シール材。
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