JP4990656B2 - 微細構造体を用いたポリマー精製方法 - Google Patents

微細構造体を用いたポリマー精製方法 Download PDF

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Description

本発明は、無機物フィルター、具体的には、ポーラスアルミナメンブレンフィルターを用いた、特に有機溶剤溶媒中の高分子ポリマーを精製する方法に関する。
従来、不純物を含む有機溶剤系の粗高分子ポリマーを精製する、高分子ポリマーの精製工程においては、例えば特許文献1等に記載されているような、不純物、あるいは、所望のポリマーを結晶化して分離する晶析方法や、不純物で合成時に使用される塩類等を除去する場合には、特許文献2等に記載されているようなイオン交換樹脂を用いて分離する方法のほか、特許文献3等に記載されているような、セラミックフィルター等の無機膜フィルターを用いて濾過分離する方法が知られている。
上記の晶析方法を用いたポリマーの精製方法は、高純度のポリマーを得ることができるものの、結晶化そのものの時間がかかるほか、その後、濾過、乾燥、の工程を経ることが一般的であり、また、純度を上げるため再結晶化させるなど、これらの工程を繰返す場合が多く、最終的な所望のポリマーを取り出すまでに長い時間を要するため、改善が望まれていた。
また、イオン交換樹脂を用いる方法では、所望のポリマー自体も吸着してしまうため、収率が低いという問題点がある。セラミックフィルター等の無機膜フィルターを用いて精製させる方法では、この問題点は解消されるものの、セラミックフィルターの孔径は不揃いなものが多く、精製による純度が低下し、いずれの方法にせよ、上記同様、改善が望まれている。
特開昭53−11882号公報 特開昭55−134647号公報 特開平3−97704号公報
したがって、本発明は、耐有機溶剤性、濾過流量に優れ、且つ孔径が単分散であるポーラスアルミナメンブレンフィルターを用いることで、処理工程を大幅に短縮し、ならびに収率・純度の高い、ポリマー、特に有機溶剤系ポリマーの精製方法を提供することを目的とする。
すなわち本発明は、以下を提供する。
(1)精製するポリマーを含有する溶液を、ポア径の標準偏差が平均径の10%以内であるマイクロポアを有するアルミニウム陽極酸化皮膜よりなるフィルターを用いて濾過する工程を少なくとも1回施すことを特徴とする、ポリマーの精製方法。
(2)上記フィルター表面が、精製させるポリマーの付着を妨げる保護膜で被覆されていることを特徴とする、(1)に記載のポリマーの精製方法。
(3)前記マイクロポアは、下記式(1)により定義される規則化度が50%以上である、(1)または(2)に記載のポリマーの精製方法。
規則化度(%)=B/A×100 (1)
上記式(1)中、Aは、測定範囲におけるマイクロポアの全数を表す。Bは、一のマイクロポアの重心を中心とし、他のマイクロポアの縁に内接する最も半径が短い円を描いた場合に、その円の内部に前記一のマイクロポア以外のマイクロポアの重心を6個含むことになる前記一のマイクロポアの測定範囲における数を表す。
本発明のポリマーの精製方法によれば、所望の分子量分布のポリマーが、処理工程を大幅に短縮し、高い収率、純度で得られる。
本発明の方法は、マイクロポアのポア径の標準偏差が平均径の10%以内であるマイクロポアを有するアルミニウム陽極酸化皮膜よりなるフィルターで、粗ポリマーを含有する溶液を濾過して、所望の分子量分布のポリマーを得るポリマーの精製方法である。濾過方法は、低分子量成分を除き分子量分布を所望の範囲とする、または高分子量成分を除き分子量分布を所望の範囲とする、またはその組合せが例示できる。
精製されるポリマーの種類は限定されない。ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−4−メチルペンテン、エチレン系アイオノマー等のアイオのマー、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、酢酸ビニル樹脂、ABS樹脂、ポリスチレン樹脂、AS樹脂、メタクリル樹脂、ポリビニルアルコール、EVA樹脂、セルロース系プラスチック、ポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、等の熱可塑性エラストマー、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ユリア・メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素樹脂、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、非晶ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、液晶ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド、その他のスーパーエンプラ樹脂、ポリマーアロイ等が例示される。
濾過する際のポリマー溶液は、ポリマーの重合時に用いた溶液でもよいが、有機系溶媒で希釈するのが好ましい。例えば、ヘキサン、オクタン、ドデカンなどの脂肪族炭化水素;シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;エチルベンゼン、p−キシレン、トルエン、ベンゼン、テトラヒドロフランなどの芳香族炭化水素;ジイソプロピルエーテルなどのエーテル;メチルアルコール、エチルアルコール、イソブチルアルコールなどのアルコール;アセトン、ジイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルエチルケトン、メチルアミルケトンなどのケトン;酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸プロピルなどのエステルなどが挙げられる。
これらの溶媒の中でも、メチルエチルケトン、ジイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルアミルケトンなどのケトンが好ましい。
濾過時の濃度は限定されない。溶媒中のポリマー固形分量として、0.1g/L〜20g/Lが好ましい。
濾過時の温度は特に限定されないが、好ましくは常温から80℃までであり、必要な場合は加熱してもよい。
濾過圧力は、常圧に対して10kPa〜100MPa分だけ加圧するのが好ましい。この範囲よりも低い条件では濾過時間が長くなり好ましくない。また、この範囲よりも高い条件ではフィルターの変形あるいは破損が生じてしまい、好ましくない。
以下に、本発明に用いるフィルターを詳細に説明する。
本発明に用いるフィルターは、アルミニウム陽極酸化皮膜からなり、マイクロポア貫通孔を有する微細構造体であって、マイクロポアのポア径の標準偏差が平均径の10%以内である。フィルター表面は前記アルミニウム陽極酸化皮膜の水和を妨げる保護膜により被覆されていても良い。
フィルターはガラス繊維等の網状の1個または複数のサポートと組み合わされてフィルターユニットとし、このフィルターユニットを複数個組合せて精製装置としてもよい。
フィルターは、好ましくは、
アルミニウム基板に、少なくとも、
(イ)陽極酸化処理によりマイクロポアを有する酸化皮膜を形成する処理、
(ロ)上記処理で得られた酸化皮膜から、アルミニウムを除去する処理、および
(ハ)上記処理で得られた酸化皮膜のマイクロポアを貫通させる処理、
をこの順に施すことにより製造される。
好ましい(イ)処理は、
工程(1) アルミニウム基板表面を陽極酸化処理して、前記アルミニウム基板の表面にマイクロポアを有する陽極酸化皮膜を形成する工程、
工程(2) 酸またはアルカリを用いて、前記陽極酸化皮膜を部分的に溶解させる工程、
工程(3) 陽極酸化処理を実施して前記マイクロポアを深さ方向に成長させる工程、および
工程(4) 前記マイクロポアの断面形状の変曲点よりも上方の陽極酸化皮膜を除去する工程、をこの順に施して、表面にマイクロポアを有する酸化皮膜を得る。
さらに好ましくは、前記工程(3)および工程(4)をこの順に2回以上繰り返してマイクロポアを有する酸化皮膜を得る。
<アルミニウム基板>
アルミニウム基板は、特に限定されず、例えば、純アルミニウム板;アルミニウムを主成分とし微量の異元素を含む合金板;低純度のアルミニウム(例えば、リサイクル材料)に高純度アルミニウムを蒸着させた基板;シリコンウエハー、石英、ガラス等の表面に蒸着、スパッタ等の方法により高純度アルミニウムを被覆させた基板;アルミニウムをラミネートした樹脂基板が挙げられる。
アルミニウム基板のうち、陽極酸化処理により陽極酸化皮膜を設ける表面は、アルミニウム純度が、99.5質量%以上であるのが好ましく、99.9質量%以上であるのがより好ましく、99.99質量%以上であるのが更に好ましい。アルミニウム純度が上記範囲であると、マイクロポア配列の規則性が十分となる。
アルミニウム基板の表面は、あらかじめ脱脂処理および鏡面仕上げ処理を施されるのが好ましい。
また、あらかじめアルミニウム基板に熱処理を施されてもよい。熱処理により、ポア配列の規則性が向上する。
<熱処理>
熱処理を施す場合は、200〜350℃で30秒〜2分程度施すのが好ましい。これにより、後述する陽極酸化処理により生成するマイクロポアの配列の規則性が向上する。
熱処理後のアルミニウム基板は、急速に冷却するのが好ましい。冷却する方法としては、例えば、水等に直接投入する方法が挙げられる。
<脱脂処理>
脱脂処理は、酸、アルカリ、有機溶剤等を用いて、アルミニウム表面に付着した、ほこり、脂、樹脂等の有機成分等を溶解させて除去し、有機成分を原因とする後述の各処理における欠陥の発生を防止することを目的として行われる。
脱脂処理には、従来公知の脱脂剤を用いることができる。具体的には、例えば、市販されている各種脱脂剤を所定の方法で用いることにより行うことができる。
中でも、以下の各方法が好適に例示される。
アルコール(例えば、メタノール)、ケトン、ベンジン、揮発油等の有機溶剤を常温でアルミニウム表面に接触させる方法(有機溶剤法);石けん、中性洗剤等の界面活性剤を含有する液を常温から80℃までの温度でアルミニウム表面に接触させ、その後、水洗する方法(界面活性剤法);濃度10〜200g/Lの硫酸水溶液を常温から70℃までの温度でアルミニウム表面に30〜80秒間接触させ、その後、水洗する方法;濃度5〜20g/Lの水酸化ナトリウム水溶液を常温でアルミニウム表面に30秒間程度接触させつつ、アルミニウム表面を陰極にして電流密度1〜10A/dm2の直流電流を流して電解し、その後、濃度100〜500g/Lの硝酸水溶液を接触させて中和する方法;各種公知の陽極酸化処理用電解液を常温でアルミニウム表面に接触させつつ、アルミニウム表面を陰極にして電流密度1〜10A/dm2の直流電流を流して、または、交流電流を流して電解する方法;濃度10〜200g/Lのアルカリ水溶液を40〜50℃でアルミニウム表面に15〜60秒間接触させ、その後、濃度100〜500g/Lの硝酸水溶液を接触させて中和する方法;軽油、灯油等に界面活性剤、水等を混合させた乳化液を常温から50℃までの温度でアルミニウム表面に接触させ、その後、水洗する方法(乳化脱脂法);炭酸ナトリウム、リン酸塩類、界面活性剤等の混合液を常温から50℃までの温度でアルミニウム表面に30〜180秒間接触させ、その後、水洗する方法(リン酸塩法)が例示できる。
脱脂処理は、アルミニウム表面の脂分を除去しうる一方で、アルミニウムの溶解がほとんど起こらない方法が好ましい。この点で、有機溶剤法、界面活性剤法、乳化脱脂法、リン酸塩法が好ましい。
<鏡面仕上げ処理>
鏡面仕上げ処理は、アルミニウム基板の表面の凹凸をなくして、電着法等による粒子形成処理の均一性や再現性を向上させるために行われる。アルミニウム基板の表面の凹凸としては、例えば、アルミニウム基板が圧延を経て製造されたものである場合における、圧延時に発生した圧延筋が挙げられる。
本発明において、鏡面仕上げ処理は、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、機械研磨、化学研磨、電解研磨が挙げられる。
機械研磨としては、例えば、各種市販の研磨布で研磨する方法、市販の各種研磨剤(例えば、ダイヤ、アルミナ)とバフとを組み合わせた方法が挙げられる。具体的には、研磨剤を用いる方法を、用いる研磨剤を粗い粒子から細かい粒子へと経時的に変更して行う方法が好適に例示される。この場合、最終的に用いる研磨剤としては、#1500のものが好ましい。これにより、光沢度を50%以上(圧延アルミニウムである場合、その圧延方向および幅方向ともに50%以上)とすることができる。
化学研磨としては、例えば、「アルミニウムハンドブック」,第6版,(社)日本アルミニウム協会編,2001年,p.164−165に記載されている各種の方法が挙げられる。
また、リン酸−硝酸法、Alupol I法、Alupol V法、Alcoa R5法、H3PO4−CH3COOH−Cu法、H3PO4−HNO3−CH3COOH法が好適に挙げられる。中でも、リン酸−硝酸法、H3PO4−CH3COOH−Cu法、H3PO4−HNO3−CH3COOH法が好ましい。
化学研磨により、光沢度を70%以上(圧延アルミニウムである場合、その圧延方向および幅方向ともに70%以上)とすることができる。
電解研磨としては、例えば、「アルミニウムハンドブック」,第6版,(社)日本アルミニウム協会編,2001年,p.164−165に記載されている各種の方法が挙げられる。
また、米国特許第2708655号明細書に記載されている方法が好適に挙げられる。
また、「実務表面技術」,vol.33,No.3,1986年,p.32−38に記載されている方法も好適に挙げられる。
電解研磨により、光沢度を70%以上(圧延アルミニウムである場合、その圧延方向および幅方向ともに70%以上)とすることができる。
これらの方法は、適宜組み合わせて用いることができる。例えば、研磨剤を用いる方法を、用いる研磨剤を粗い粒子から細かい粒子へと経時的に変更して行い、その後、電解研磨を施す方法が好適に挙げられる。
鏡面仕上げ処理により、例えば、平均表面粗さRa0.1μm以下、光沢度50%以上の表面を得ることができる。平均表面粗さRaは、0.03μm以下であるのが好ましく、0.02μm以下であるのがより好ましい。また、光沢度は70%以上であるのが好ましく、80%以上であるのがより好ましい。
なお、光沢度は、圧延方向に垂直な方向において、JIS Z8741−1997の「方法3 60度鏡面光沢」の規定に準じて求められる正反射率である。具体的には、変角光沢度計(例えば、VG−1D、日本電色工業社製)を用いて、正反射率70%以下の場合には入反射角度60度で、正反射率70%を超える場合には入反射角度20度で、測定する。
<陽極酸化によるマイクロポア形成処理>
処理(イ)では、アルミニウム基板に陽極酸化処理を施すことにより、該アルミニウム基板表面にマイクロポアを有する酸化皮膜を形成する。
陽極酸化処理としては、従来公知の方法を用いることができる。具体的には、後述する自己規則化法を用いるのが好ましい。
自己規則化法は、陽極酸化皮膜のマイクロポアが規則的に配列する性質を利用し、規則的な配列をかく乱する要因を取り除くことで、規則性を向上させる方法である。具体的には、高純度のアルミニウムを使用し、電解液の種類に応じた電圧で、長時間(例えば、数時間から十数時間)かけて、低速で陽極酸化皮膜を形成させる。
この方法においては、ポア径は電圧に依存するので、電圧を制御することにより、ある程度所望のポア径を得ることができる。
なお、自己規則化法によりマイクロポアを形成するには、後述する陽極酸化処理を実施すればよいが、好ましくは、後述する陽極酸化処理、脱膜処理および再陽極酸化処理をこの順に実施する。
<陽極酸化処理、工程(1)、工程(3)>
陽極酸化処理をする際の平均流速は、0.5〜20.0m/minであるのが好ましく、1.0〜15.0m/minであるのがより好ましく、2.0〜10.0m/minであるのが更に好ましい。上記範囲の流速で陽極酸化処理を行うことにより、均一かつ高い規則性を有することができる。
また、電解液を上記条件で流動させる方法は、特に限定されないが、例えば、スターラーのような一般的なかくはん装置を使用する方法が用いられる。かくはん速度をデジタル表示でコントロールできるようなスターラーを用いると、平均流速が制御できるため、好ましい。そのようなかくはん装置としては、例えば、AS ONE社製のマグネティックスターラーHS−50Dが挙げられる。
陽極酸化処理は、例えば、酸濃度1〜10質量%の溶液中で、アルミニウム基板を陽極として通電する方法を用いることができる。陽極酸化処理に用いられる溶液としては、酸溶液であることが好ましく、硫酸、リン酸、クロム酸、シュウ酸、スルファミン酸、ベンゼンスルホン酸、アミドスルホン酸等がより好ましく、中でも硫酸、リン酸、シュウ酸が特に好ましい。これらの酸は単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
陽極酸化処理の条件は、使用される電解液によって種々変化するので一概に決定され得ないが、一般的には電解液濃度0.1〜20質量%、液温−10〜30℃、電流密度0.01〜20A/dm2、電圧3〜300V、電解時間0.5〜30時間であるのが好ましく、電解液濃度0.5〜15質量%、液温−5〜25℃、電流密度0.05〜15A/dm2、電圧5〜250V、電解時間1〜25時間であるのがより好ましく、電解液濃度1〜10質量%、液温0〜20℃、電流密度0.1〜10A/dm2、電圧10〜200V、電解時間2〜20時間であるのが更に好ましい。
陽極酸化処理の処理時間は、0.5分〜16時間であるのが好ましく、1分〜12時間であるのがより好ましく、2分〜8時間であるのが更に好ましい。
陽極酸化処理は、一定電圧下で行う以外に、電圧を断続的または連続的に変化させる方法も用いることができる。この場合は電圧を順次低くしていくのが好ましい。これにより、陽極酸化皮膜の抵抗を下げることが可能になり、陽極酸化皮膜に微細なマイクロポアが生成するため、特に電着処理により封孔処理する際に、均一性が向上する点で、好ましい。
陽極酸化皮膜の膜厚は、1〜300μmであるのが好ましく、5〜150μmであるのがより好ましく、10〜100μmであるのが更に好ましい。
平均ポア密度は50〜1500個/μm2であるのが好ましい。
マイクロポアの占める面積率は、20〜50%であるのが好ましい。なお、マイクロポアの占める面積率は、アルミニウム表面の面積に対するマイクロポアの開口部の面積の合計の割合で定義される。
<工程(2)>
陽極酸化処理によりアルミニウム基板表面に陽極酸化皮膜を形成した後、直ちに後述するアルミニウムを除去する処理を実施してもよいが、工程(1)、工程(2)、工程(3)、工程(4)をこの順で、さらに工程(3)、工程(4)を1回または複数回繰り返してから、アルミニウムを除去する処理を実施することが好ましい。
工程(2)では、工程(1)で形成した陽極酸化皮膜を、酸またはアルカリを用いて、部分的に溶解させる。陽極酸化皮膜を部分的に溶解させるとは、工程(1)で形成した陽極酸化皮膜を完全に溶解させるのではなく、図1(B)に示されるように、アルミニウム基板12a上に、マイクロポア16bを有する陽極酸化皮膜14bが残存するように、図1(A)に示す陽極酸化皮膜14aの表面およびマイクロポア16aの内部を部分的に溶解させることを指す。
ここで、陽極酸化皮膜の溶解量は、陽極酸化皮膜全体の0.001〜50質量%であるのが好ましく、0.005〜30質量%であるのがより好ましく、0.01〜15質量%であるのが更に好ましい。上記範囲であると、陽極酸化皮膜の表面の配列が不規則な部分を溶解させて、マイクロポアの配列の規則性を高くすることができるとともに、マイクロポアの底部分に陽極酸化皮膜を残存させて、工程(3)で実施する陽極酸化処理の起点を残すことができる。
工程(2)は、アルミニウム基板上に形成された陽極酸化皮膜を酸水溶液またはアルカリ水溶液に接触させることにより行う。接触させる方法は、特に限定されず、例えば、浸せき法、スプレー法が挙げられる。中でも、浸せき法が好ましい。
工程(2)に酸水溶液を用いる場合は、硫酸、リン酸、硝酸、塩酸等の無機酸またはこれらの混合物の水溶液を用いることが好ましい。中でも、クロム酸を含有しない水溶液が安全性に優れる点で好ましい。酸水溶液の濃度は1〜10質量%であるのが好ましい。酸水溶液の温度は、25〜60℃であるのが好ましい。
工程(2)にアルカリ水溶液を用いる場合は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化リチウムからなる群から選ばれる少なくとも一つのアルカリの水溶液を用いることが好ましい。アルカリ水溶液の濃度は0.1〜5質量%であるのが好ましい。アルカリ水溶液の温度は、20〜35℃であるのが好ましい。
具体的には、例えば、50g/L、40℃のリン酸水溶液、0.5g/L、30℃の水酸化ナトリウム水溶液または0.5g/L、30℃の水酸化カリウム水溶液が好適に用いられる。
酸水溶液またはアルカリ水溶液への浸せき時間は、8〜120分であるのが好ましく、10〜90分であるのがより好ましく、15〜60分であるのが更に好ましい。
<工程(3)>
工程(3)では、工程(2)で陽極酸化皮膜が部分的に溶解されたアルミニウム基板に対して、再び陽極酸化処理を実施してマイクロポアを深さ方向に成長させる。
図1(C)に示されるように、工程(3)の陽極酸化処理により、図1(B)に示されるアルミニウム基板12aの酸化反応が進行し、アルミニウム基板12b上に、マイクロポア16bよりも深さ方向に成長したマイクロポア16cを有する陽極酸化皮膜14cが形成される。
陽極酸化処理は、従来公知の方法を用いることができるが、上述した自己規則化法と同一の条件で行われるのが好ましい。
また、直流電圧を一定としつつ、断続的に電流のオンおよびオフを繰り返す方法、直流電圧を断続的に変化させつつ、電流のオンおよびオフを繰り返す方法も好適に用いることができる。これらの方法によれば、陽極酸化皮膜に微細なマイクロポアが生成するため、特に電着処理により封孔処理する際に、均一性が向上する点で、好ましい。
上述した電圧を断続的に変化させる方法においては、電圧を順次低くしていくのが好ましい。これにより、陽極酸化皮膜の抵抗を下げることが可能になり、後に電着処理を行う場合に、均一化することができる。
陽極酸化皮膜の厚さの増加量は、0.1〜100μmであるのが好ましく、0.5〜50μmであるのがより好ましい。上記範囲であると、ポアの配列の規則性をより高くすることができる。
<工程(4)>
工程(4)では、図1(C)に示されるマイクロポア16cの断面形状の変曲点30よりも上方の陽極酸化皮膜を除去する。自己規則化法により形成されるマイクロポアは、図1(C)に示されるように、マイクロポア16cの上部を除いて、断面形状が略直管形状になる。言い換えると、マイクロポア16cの上部には、該マイクロポア16cの残りの部分とは断面形状が異なる部分(異形部分)20が存在する。工程(4)では、このようなマイクロポア16c上部に存在する異形部分20を解消するため、マイクロポア16cの断面形状の変曲点30よりも上方の陽極酸化皮膜を除去する。ここで、変曲点30とは、マイクロポア16cの断面形状がなす主たる形状(ここでは、略直管形状)に対して、著しく形状が変化する部分を指し、別の言い方をすると、マイクロポア16cの断面形状において、主たる形状(略直管形状)に対して、形状の連続性が失われる部分を指す。
マイクロポア16cの断面形状の変曲点30よりも上方の陽極酸化皮膜を除去することにより、図1(D)に示されるように、マイクロポア16d全体が略直管形状となる。
工程(4)では、工程(3)実施後の陽極酸化皮膜14cを断面方向からFE−SEMを撮影することによって、マイクロポア16cの断面形状の変曲点30を特定し、該変曲点30よりも上方の陽極酸化皮膜を除去してもよい。
但し、マイクロポアに異形部分が生じるのは、主として、工程(1)のように、アルミニウム基板12a上に新たに陽極酸化皮膜14aを形成した場合である。したがって、マイクロポア16cの断面形状の変曲点30よりも上方の陽極酸化皮膜を除去して、マイクロポア16c上部の異形部分20を解消するには、工程(1)で形成された陽極酸化皮膜を工程(4)で除去すればよい。
なお、後述するように、工程(3)および工程(4)を2回以上繰り返す場合、工程(4)実施後の陽極酸化皮膜14dでは、異形部分30が解消されて、マイクロポア16dの断面形状全体が略直管形状となるので、工程(4)に続いて実施する工程(3)(工程(3’))で形成されるマイクロポア上部には新たに異形部分が生じる。したがって、工程(3’)に続いて実施する工程(4)(工程(4)’)では、工程(3’)で形成されたマイクロポア上部に新たに生じた異形部分を除去する必要がある。このため、工程(4’)では、工程(3’)で形成されるマイクロポアの変曲点よりも上方の陽極酸化被膜を除去する必要がある。
工程(4)で、マイクロポア16cの断面形状の変曲点よりも上方の陽極酸化皮膜を除去する処理としては、例えば、機械研磨、化学研磨、電解研磨等の研磨処理であってもよい。但し、工程(2)のように、酸またはアルカリを用いて、陽極酸化皮膜を溶解させる処理であることが好ましい。この場合、図1(D)に示されるように、図1(C)に示される陽極酸化皮膜14cよりも厚さが小さい陽極酸化皮膜14dが形成される。
なお、図1(D)では、アルミニウム基板12b上に陽極酸化皮膜14cが残存しているが、工程(4)では、アルミニウム基板12b上の陽極酸化皮膜を全て溶解除去してもよい。但し、工程(4)で陽極酸化皮膜を全て溶解除去させる場合、当該工程(4)によって微細構造体を得ることになる。具体的には、工程(3)および工程(4)を2回以上繰り返して実施する場合、途中で実施する工程(4)ではなく、一番最後に実施する工程(4)において、陽極酸化皮膜を全て溶解除去させることが必要となる。
なお、陽極酸化皮膜を全部溶解除去した場合、アルミニウム基板の表面に存在する窪みが微細構造体のマイクロポアとなる。
工程(4)で、酸またはアルカリを用いて、陽極酸化皮膜を部分的に溶解させる場合、陽極酸化皮膜の溶解量は、陽極酸化皮膜の溶解量は、特に限定されず、陽極酸化皮膜全体の0.01〜30質量%であるのが好ましく、0.1〜15質量%であるのがより好ましい。上記範囲であると、陽極酸化皮膜の表面の配列が不規則な部分を溶解させて、マイクロポアの配列の規則性を高くすることができる。また、工程(3)および工程(4)を2回以上繰り返して実施する場合、次に実施する工程(3)での陽極酸化処理の起点を残すことができる。
上記工程(3)および工程(4)は、2回繰り返して行うのが、ポアの配列の規則性が高くなるため好ましく、3回以上繰り返して行うのがより好ましく、4回以上繰り返して行うのが更に好ましい。
上記工程を2回以上繰り返して行う場合、各回の工程(3)および工程(4)の条件はそれぞれ同じであっても、異なっていてもよい。規則化度向上性の観点から、工程(3)は、各回ごとに電圧を変えて実施することが好ましい。この場合、徐々に高電圧の条件に変えていくのが、規則化度向上性の観点から、より好ましい。
図1(D)は、マイクロポアを有する陽極酸化皮膜を示した部分断面図である。図1(D)に示すように、アルミニウム基板12b表面には、マイクロポア16dを有する陽極酸化皮膜14dが形成されている。
<(ロ)アルミニウム除去処理>
アルミニウム除去処理では、図1に示す状態からアルミニウム基板12bを溶解して除去する。図2は、本処理後の状態を示した部分断面図であり、マイクロポア16dを有する陽極酸化皮膜14dからなる微細構造体が示されている。
したがって、アルミニウム除去処理には、アルミナは溶解せず、アルミニウムを溶解する処理液を用いる。
処理液としては、アルミナは溶解せず、アルミニウムを溶解する液であれば特に限定されないが、例えば、塩化水銀、臭素/メタノール混合物、臭素/エタノール混合物、王水、塩酸/塩化銅混合物等の水溶液等が挙げられる。
濃度としては、0.01〜10mol/Lが好ましく、0.05〜5mol/Lがより好ましい。
処理温度としては、−10℃〜80℃が好ましく、0℃〜60℃が好ましい。
アルミニウム除去処理は、上述した処理液に接触させることにより行う。接触させる方法は、特に限定されず、例えば、浸せき法、スプレー法が挙げられる。中でも、浸せき法が好ましい。このときの接触時間としては、10秒〜5時間が好ましく、1分〜3時間がより好ましい。
アルミニウム除去処理後の陽極酸化皮膜の膜厚は、1〜1000μmであるのが好ましく、10〜500μmであるのが更に好ましい。
アルミニウム除去処理後、後述する処理(C)を行う前に、陽極酸化皮膜14dを水洗処理する。水和によるマイクロポア16dのポア径の変化を抑制するため、水洗処理は30℃以下で実施することが好ましい。
<(ハ)マイクロポア貫通処理>
マイクロポア貫通処理では、図2に示すマイクロポア16dを有する陽極酸化皮膜14dを、酸水溶液またはアルカリ水溶液に浸せきさせる、または、アルカリ水溶液への浸漬処理後、アルカリ水溶液を貫通する面に所定時間接触させることにより、陽極酸化皮膜14dを部分的に溶解させる。これにより、マイクロポア16d底部の陽極酸化皮膜14dが除去され、マイクロポア16dが貫通する(マイクロポア貫通孔16が形成される)。図3は、マイクロポア貫通処理後の状態を示した部分断面斜視図であり、マイクロポア貫通孔16を有する陽極酸化皮膜14dからなる微細構造体が示されている。
図3では、陽極酸化皮膜14dに存在する全てのマイクロポアがマイクロポア貫通孔16となっているが、処理(ハ)により、陽極酸化皮膜に存在する全てのマイクロポアが貫通しなくてもよい。但し、本発明の微細構造体をポーラスアルミナメンブレンフィルターとして使用する場合、陽極酸化皮膜に存在するマイクロポアのうち70%が、処理(ハ)により貫通することが好ましい。
マイクロポア貫通処理に酸水溶液を用いる場合は、硫酸、リン酸、硝酸、塩酸等の無機酸またはこれらの混合物の水溶液を用いることが好ましい。酸水溶液の濃度は1〜10質量%であるのが好ましい。酸水溶液の温度は、25〜40℃であるのが好ましい。
マイクロポア貫通処理にアルカリ水溶液を用いる場合は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化リチウムからなる群から選ばれる少なくとも一つのアルカリの水溶液を用いることが好ましい。アルカリ水溶液の濃度は0.1〜5質量%であるのが好ましい。アルカリ水溶液の温度は、20〜35℃であるのが好ましい。
具体的には、例えば、50g/L、40℃のリン酸水溶液、0.5g/L、30℃の水酸化ナトリウム水溶液または0.5g/L、30℃の水酸化カリウム水溶液が好適に用いられる。
酸水溶液またはアルカリ水溶液への浸せき時間は、8〜120分であるのが好ましく、10〜90分であるのがより好ましく、15〜60分であるのが更に好ましい。
マイクロポア貫通処理後の陽極酸化皮膜の膜厚は、1〜1000μmであるのが好ましく、10〜500μmであるのが更に好ましい。
マイクロポア貫通処理後、陽極酸化皮膜14dを水洗処理する。水和によるマイクロポア貫通孔16のポア径の変化を抑制するため、水洗処理は30℃以下で実施することが好ましい。
<ポーラスアルミナメンブレンフィルターの形状解析>
表面写真(倍率20000倍)をFE−SEMにより撮影し、1μm×1μmの視野で任意のマイクロポア300個について、平均径、ポア径の標準偏差および径の分散を下記式により求め、分散/平均径を求める。
平均径:μx=(1/n)ΣXi
分散:σ2=(1/n)(ΣXi2)−μx 2
Figure 0004990656
標準偏差/平均径=σ/μx
ここでXiは、1μm2の範囲で測定された1個のマイクロポアのポア径である。
本発明に用いるフィルターのポア径の標準偏差は平均径の10%以内とする。この範囲を値が超えると径のバラツキが大きくなり精製精度が低下し好ましくない。したがって精度向上を考えると、好ましくは、7%以下、より好ましくは0〜4%である。
所望のポア径の標準偏差を得るフィルターの製造方法は、個々の陽極酸化処理時に製造されるマイクロポアのポア径が広いアルミニウム表面に渡って均質となるような条件を見出して実施することと、陽極酸化処理、脱膜処理の繰り返し回数を最適回とすることである。
また、同じく任意のマイクロポア300個を用いて、下記式(1)で定義される規則化度を求める。
規則化度(%)=B/A×100 (1)
上記式(1)中、Aは、測定範囲におけるマイクロポアの全数を表す。Bは、一のマイクロポアの重心(等価円の中心)を中心とし、他のマイクロポアの縁に内接する最も半径が短い円を描いた場合に、その円の内部に前記一のマイクロポア以外のマイクロポアの重心を6個含むことになる前記一のマイクロポアの測定範囲における数を表す。
本発明に用いるフィルターの規則化度は好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上である。この範囲であると、フィルターのマイクロポアの配列が均一で濾過する際の圧力が均一にかかるので濾過速度が速くても濾材の損傷が少ない。
なお図4は、ポアの規則化度を算出する方法の説明図である。図4を用いて、上記式(1)をより具体的に説明する。
図4(A)に示されるマイクロポア1は、マイクロポア1の重心(等価円中心)を中心とし、他のマイクロポアの縁に内接する最も半径が短い円3(マイクロポア2に内接している。)を描いた場合に、円3の内部にマイクロポア1以外のマイクロポアの重心を6個含んでいる。したがって、マイクロポア1は、Bに算入される。
図4(B)に示されるマイクロポア4は、マイクロポア4の重心を中心とし、他のマイクロポアの縁に内接する最も半径が短い円6(マイクロポア5に内接している。)を描いた場合に、円6の内部にマイクロポア4以外のマイクロポアの重心を5個含んでいる。したがって、マイクロポア4は、Bに算入されない。また、図4(B)に示されるマイクロポア7は、マイクロポア7の重心を中心とし、他のマイクロポアの縁に内接する最も半径が短い円9(マイクロポア8に内接している。)を描いた場合に、円9の内部にマイクロポア7以外のマイクロポアの重心を7個含んでいる。したがって、マイクロポア7は、Bに算入されない。
所望の規則化度を得るフィルターの製造方法としては、陽極酸化処理と皮膜溶解処理を繰り返した方式が、ポア径の均一性を高める点からも好ましい。
<(ニ)保護膜形成処理>
保護膜形成処理では、図3に示すマイクロポア貫通孔16を有する陽極酸化皮膜14dからなる微細構造体に対して、マイクロポア貫通孔16の内部を含めた陽極酸化皮膜14dの表面全域にわたって、該陽極酸化皮膜の水和を妨げる保護膜を形成する。
保護膜としては、Zr元素およびSi元素からなる群から選択される少なくとも1つを含有する無機保護膜、又は、水不溶性ポリマーを含有する有機保護膜が挙げられる。
<無機保護膜>
Zr元素を有する保護膜の形成としては、特に限定されないが、例えば、ジルコニウム化合物が溶解している水溶液に直接浸せきして処理する方法が一般的であり、保護膜の強固性/安定性の観点からリン化合物をあわせて溶解させた水溶液を用いることが好ましい。
ジルコニウム化合物としては、ジルコニウム、フッ化ジルコニウム、フッ化ジルコン酸ナトリウム、フッ化ジルコン酸カルシウム、フッ化ジルコニウム、塩化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムプロポキシド、ジルコニウムブトキシド、ジルコニウムアセチルアセトナート、テトラクロロビス(テトラヒドロフラン)ジルコニウム、ビス(メチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、ジシクロペンタジエニルジルコニウムジクロリド、エチレンビス(インデニル)ジルコニウム(IV)ジクロリド等が使用でき、特にフッ化ジルコン酸ナトリウムが好ましい。また濃度としては、保護膜厚の均一性の観点から、0.01〜10wt%が好ましく、0.05〜5wt%がより好ましい。
リン化合物としては、リン酸、リン酸ナトリウム、リン酸カルシウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸水素カルシウム等が使用でき、特にリン酸水素ナトリウムが好ましい。また濃度としては、保護膜厚の均一性の観点から、0.1〜20wt%が好ましく、0.5〜10wt%がより好ましい。
また、形成される保護膜の陽極酸化皮膜の水和を妨げる機能が向上することから、浸せき処理の際、ジルコニウム化合物が溶解している水溶液にタンニン酸を含めることが好ましい。この場合、水溶液中におけるタンニン酸の濃度は、0.05〜10wt%であることが好ましく、0.1〜5wt%がより好ましい。
また処理温度としては、0〜120℃が好ましく、20〜100℃がより好ましい。
Si元素を有する保護膜の形成としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ金属ケイ酸塩が溶解している水溶液に直接浸せきして処理する方法が一般的である。
アルカリ金属ケイ酸塩の水溶液は、ケイ酸塩の成分である酸化ケイ素SiO2とアルカリ金属酸化物M2Oの比率(一般に〔SiO2〕/〔M2O〕のモル比で表す)と濃度によって保護膜厚の調節が可能である。ここでMとしては、特にナトリウム、カリウムが好適に用いられる。
モル比としては、〔SiO2〕/〔M2O〕が0.1〜5.0が好ましく、0.5〜3.0がより好ましい。また、SiO2の含有量としては、0.1〜20質量%が好ましく、0.5〜10質量%がより好ましい。
<有機保護膜>
有機保護膜としては、水不溶性ポリマーが溶解している有機溶剤に、直接浸せきしたのち、加熱処理により溶剤のみを揮発させる方法が好ましい。
水不溶性ポリマーとしては、例えば、ポリ塩化ビニリデン、ポリ(メタ)アクリロニトリル、ポリサルホン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアミド、セロハン等が挙げられる。
また、有機溶剤としては、エチレンジクロライド、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノール、2−メトキシエチルアセテート、1−メトキシ−2−プロピルアセテート、ジメトキシエタン、乳酸メチル、乳酸エチル、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラメチルウレア、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ−ブチロラクトン、トルエン、等が挙げられる。濃度としては、0.1〜50wt%が好ましく、1〜30wt%がより好ましい。
また、溶剤揮発時の加熱温度としては、30〜300℃が好ましく、50〜200℃がより好ましい。
保護膜形成処理後において、保護膜の膜厚は、1〜50nmであるのが好ましく、5〜25nmであるのが更に好ましい。
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されない。
[実施例1]
1.ポーラスアルミナメンブレンフィルターの作成
(1)電解研磨処理
高純度アルミニウム基板(住友軽金属社製、純度99.99質量%、厚さ0.4mm)を、径47mmΦの大きさで陽極酸化処理できるようカットし、以下組成の電解研磨液を用いて、電圧25V、液温度65℃、液流速3.0m/minの条件で電解研磨処理を行った。陰極はカーボン電極とし、電源は、GP0110−30R(高砂製作所社製)を用いた。また電解液の流速は渦式フローモニターFLM22−10PCW(AS ONE製)を用いて計測した。
<電解研磨液組成>
・85質量%リン酸(和光純薬社製試薬) 660mL
・純水 160mL
・硫酸 150mL
・エチレングリコール 30mL
(2)陽極酸化によるマイクロポア形成処理
上記で得られた研磨処理後のサンプルを、0.30mol/L硫酸の電解液で、電圧25V、液温度15℃、液流速3.0m/minの条件で1時間陽極酸化処理した。さらに得られたサンプルを、0.5mol/Lリン酸の混合水溶液を用いて40℃の条件で20分間浸漬して脱膜処理した。
この処理を4回繰り返した後、0.30mol/L硫酸の電解液で、電圧25V、液温度15℃、液流速3.0m/minの条件で5時間再陽極酸化処理し、0.5mol/Lリン酸の混合水溶液を用いて40℃の条件で20分間浸漬して(脱膜処理し)、図1に示す、アルミニウム基板12b表面に、マイクロポア16dが直管状で且つハニカム状に配列された陽極酸化皮膜14dを形成した。
なお、陽極酸化処理、再陽極酸化処理共に、陰極はステンレス電極とし、電源は、GP0110−30R(高砂製作所社製)を用いた。また、冷却装置としては、NeoCool BD36(ヤマト科学社製)、かくはん加温装置としてペアスターラー PS−100(EYELA社製)を用いた。電解液の流速は渦式フローモニターFLM22−10PCW(AS ONE製)を用いて計測した。
(3)アルミニウム除去処理
上記で得られたサンプルを、20質量%塩酸、及び、0.1mol/L塩化第二銅の混合水溶液を用いて、25℃、20分間浸漬させ、アルミニウム基板12bを溶解して除去し、図2に示すマイクロポア16dを有する陽極酸化皮膜14dからなる微細構造体を作成した。
(4)マイクロポア貫通処理
上記で得られたサンプルを、0.10mol/L塩化カリウム水溶液に、25℃、2分間浸漬処理したのち、0.10mol/L水酸化カリウムを用いて、貫通する面に20℃、10分間接触処理し、マイクロポアを貫通させて、図3に示す、マイクロポア貫通孔16を有する陽極酸化皮膜14dからなる微細構造体を作成した。
(5)加熱処理
上記で得られた図3に示す微細構造体を、温度400℃の条件下で1時間加熱処理を施し、実施例1評価用のポーラスアルミナメンブレンフィルターを得た。
(6)ポーラスアルミナメンブレンフィルターの形状解析
表面写真(倍率20000倍)をFE−SEMにより撮影し、1μm×1μmの視野で任意のマイクロポア300個について、平均径および径の標準偏差を下記式により求め、分散/平均径を求めた。結果、平均径は38nm、分散は2.4nmであった。
平均径:μx=(1/n)ΣXi
分散:σ2=(1/n)(ΣXi2)−μx 2
Figure 0004990656
標準偏差/平均径=σ/μx
ここでXi、xは、1μm2の範囲で測定された1個のマイクロポアのポア径である。
また、同じく任意のマイクロポア300個を用いて、下記式(1)で定義される規則化度を求めた。結果、規則化度は90%であった。
規則化度(%)=B/A×100 (1)
上記式(1)中、Aは、測定範囲におけるマイクロポアの全数を表す。Bは、一のマイクロポアの重心(等価円の中心)を中心とし、他のマイクロポアの縁に内接する最も半径が短い円を描いた場合に、その円の内部に前記一のマイクロポア以外のマイクロポアの重心を6個含むことになる前記一のマイクロポアの測定範囲における数を表す。
2.ポリマーの精製工程と評価
図5に示す、マイクロポア貫通孔を有する陽極酸化皮膜14dを、サポート18a、18bで挟んで構成した精製装置50を用いて酢酸ビニルポリマーの重合工程において、同ポリマーの精製実験を下記の条件により行った。なお、サポート18a、18bは、ガラス繊維の1mm×1mm孔を複数有する網を用いた。
(1)被処理原液の作成
ハステロイ製のオートクレーブ(日東高圧(株)製)の200cm 3 の反応容器にて、温度120℃、6MPaの条件下で、40.00gの塩化ビニル、10%酢酸の懸濁重合終了後、冷却した酢酸ビニルポリマー含有メチルエチルケトン溶液をメチルエチルケトンで溶解し、濃度10g/Lの被処理原液を500mL得た。
なお、酢酸ビニルポリマーの重量平均分子量分布をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したところ、図6の分布を示した。
(2)濾過処理
上記で作成した被処理原液500mLに、メチルエチルケトンを500mL添加して、1Lの被処理液を調整し、この処理液を、作製したポーラスアルミナメンブレンフィルターに循環供給して濾過処理を行なった。
(3)精製評価
上記濾過後のフィルターを乾燥し、フィルター表面にトラップされた酢酸ビニルポリマーの重量平均分子量分布をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したところ、図6の分布を示した。これにより低分子成分は完全に分離され、所望の分子量分布を有する酢酸ビニルをトラップできることが確認できた。
[実施例2]
1.ポーラスアルミナメンブレンフィルターの作成
上記1.(2)陽極酸化によるマイクロポア形成処理で使用する電解液を、0.50mol/Lシュウ酸の電解液とし、電圧を40Vとした以外は、実施例1と同様の方法にて、実施例2評価用のポーラスアルミナメンブレンフィルターを得た。なお、本フィルターにおいても、実施例1同様、マイクロポアの平均径、径の分散、および規則化度を評価したところ、平均径:69nm、分散:2.9nm、規則化度90%であった。
下記水溶液に浸漬させて、フィルター表面に保護膜を形成した。
液組成:1% 3号珪酸ナトリウム水溶液
液温:30℃
処理時間:10秒
2.ポリマーの精製工程と評価
(1)被処理原液の作成
ハステロイ製のオートクレーブ(日東高圧(株)製)の200cm 3 の反応容器に、フェノール32g、88%パラホルムアルデヒド5g、反応溶媒としてイオン交換水39gを仕込み、374℃ とした。更に10秒後、これに88%パラホルムアルデヒド4gを攪拌しながら150時間反応させ、フェノール性樹脂を合成した。この時の反応容器内の圧力は、18MPaであった。添加終了後の樹脂をテトラヒドロフランに溶解させ、濃度25g/Lの被処理原液を回収した。
なお、フェノール性樹脂の重量平均分子量分布をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したところ、図7の濾過前の分布を示した。
(2)濾過処理
上記2.(2)濾過処理で、溶媒をテトラヒドロフランとした以外は、実施例1と同様の方法にて濾過処理を行なった。
(3)精製評価
上記濾過処理において、フィルターを通過したテトラヒドロフラン溶液を回収し、フェノール性樹脂の重量平均分子量分布をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したところ、図7の分布を示した。このことから、晶析による分子量分離を行わずとも、所望の分子量のポリマーを得ることができることが確認できた。
[比較例1]
ポーラスアルミナメンブレンフィルターとして、47mmΦANODISC(ワットマン製ミクロフィルター/公称平均孔径0.02μm)を用いた以外は、実施例1と同様にして各評価を行った。なお形状解析の結果、平均径は35nm、分散は14.6nm、及び、規則化度は8%であった。
次いで実施例1と同様に、酢酸ビニルポリマーの重量平均分子量分布をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したところ、図8の分布を示し、分離精製が不十分であることが確認された。
図1は、アルミニウム基板にマイクロポアを有する陽極酸化皮膜を形成する工程(A),(B),(C)、(D)を説明する模式図である。 図2は、アルミニウム除去処理後の状態を示した部分断面図である。 図3は、マイクロポア貫通処理後の状態を示した部分断面図である。 図4は、ポアの規則化度を算出する方法の説明図である。 図5は、本発明に用いる精製装置の構成を示す断面図である。 図6は、実施例1の結果の重量平均分子量分布を示すグラフである。 図7は、実施例2の結果の重量平均分子量分布を示すグラフである。 図8は、比較例1の結果の重量平均分子量分布を示すグラフである。
符号の説明
1、2、4、5、7、8 マイクロポア
3、6、9 円
12a、12b アルミニウム基板
14a、14b、14c、14d 陽極酸化皮膜
16a、16b、16c、16d マイクロポア
16 マイクロポア貫通孔
18a サポート
18b サポート
20 異形部分
30 変曲点
50 精製装置

Claims (3)

  1. 精製するポリマーを含有する溶液を、ポア径の標準偏差が平均径の10%以内であるマイクロポアを有するアルミニウム陽極酸化皮膜よりなるフィルターを用いて濾過する工程を少なくとも1回施すことを特徴とする、ポリマーの精製方法。
  2. 上記フィルター表面が、精製させるポリマーの付着を妨げる保護膜で被覆されていることを特徴とする、請求項1に記載のポリマーの精製方法。
  3. 前記マイクロポアは、下記式(1)により定義される規則化度が50%以上である、請求項1または2に記載のポリマーの精製方法。
    規則化度(%)=B/A×100 (1)
    上記式(1)中、Aは、測定範囲におけるマイクロポアの全数を表す。Bは、一のマイクロポアの重心を中心とし、他のマイクロポアの縁に内接する最も半径が短い円を描いた場合に、その円の内部に前記一のマイクロポア以外のマイクロポアの重心を6個含むことになる前記一のマイクロポアの測定範囲における数を表す。
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