JP4989855B2 - ガラス繊維集束剤およびガラス繊維 - Google Patents

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Description

本発明は、α‐1,4‐グルカンおよびその修飾物からなるガラス繊維集束剤と、それを用いたガラス繊維に関する。
ガラス繊維は、強化プラスチック(FRP:Fiber Reinforced Plastics)等複合材料の補強材、電気絶縁材料、断熱材、吸音材など、現在幅広く用いられている繊維である。ガラス繊維は通常、溶融したガラスをノズルから押出し、冷却、固化して製造される。これを布に加工したり、あるいは不織布としたりする。その後、必要に応じて加熱して集束剤の成分を焼き飛ばして電気絶縁性を高める(脱油工程)。
ノズルから押出されて固化したガラス繊維は、単独では細く、加工が困難であるために、数本〜数十本の繊維を束ねてから加工を行なう。この時に繊維同士を結着させる目的で、ガラス繊維集束剤が用いられる。また、短いガラス繊維を絡め合せて不織布を製造する際にも、繊維同士の結着のために集束剤が用いられる。
集束剤に求められる性能としては、ガラスとの接着性、束ねた繊維の毛羽立ちの抑制、製織時の滑りやすさ、脱油工程での残存灰分の少ないこと等が挙げられる。
集束剤の主要な成分は、結着の役目を果たす高分子物質で、澱粉等の天然高分子や、合成高分子が用いられている(例えば、特許文献1)。その他成分として、製織時の加工性を高めるための潤滑剤や、集束剤の水溶液を安定に保存するための防腐剤などが添加される。
集束剤として澱粉を用いる場合、主に化学修飾をした澱粉が用いられる(例えば、特許文献2)。これは澱粉を水に分散した後に加熱、糊化して集束剤溶液とした際に、未修飾の澱粉では溶液の粘度が高くなりすぎ、均一に繊維に付着できないこと、また老化によって粘度が経時的に変化してしまうことが原因である。化学修飾した澱粉の例としては、ハイアミロースコーンスターチをエーテル化したものが用いられている。ハイアミロースコーンスターチは、通常の澱粉よりもアミロース含量が高く、皮膜形成性に優れるが、糊化温度が高いために、未糊化の粒子が残存し、糸がすべりにくくなることによる糸切れ等の原因となる。
特許文献1には、澱粉とパラフィンワックスを含有し、前記パラフィンワックスが、カチオン性界面活性剤およびノニオン性高分子界面活性剤を含有する乳化剤により乳化されてなり、固形分換算で澱粉100質量部に対して、5〜70質量部含有してなることを特徴とするガラス繊維用集束剤が開示されている。
特許文献2には、平均径5〜9μmであるガラスフィラメント100〜400本を集束してなるストランドに撚りをかけてなり、ガラスクロスの経糸及び/又は緯糸として用いられるガラス繊維ヤーンの前記ストランドの集束に用いる集束剤であって、前記集束剤がアミロース含量50%未満のエーテル化澱粉と、アミロース含量50%以上のエーテル化ハイアミロース澱粉とを含む澱粉と、植物油と、パラフィンと、前記植物油の乳化剤と、前記パラフィンの乳化剤とを少なくとも含有し、前記エーテル化澱粉と前記エーテル化ハイアミロース澱粉との配合割合が質量部で40〜60:60〜40であり、かつ、前記澱粉100質量部に対する、前記植物油の乳化剤の含有量が5〜12質量部であることを特徴とするガラス繊維ヤーン用集束剤が開示されている。
しかしながら、これら特許文献のガラス繊維用集束剤では天然物である澱粉を用いているため、十分な皮膜強度が得られなかったり、また分子量やアミロース含量等にばらつきがあったりして、前述のような集束剤に要求される性能を十分に満足するものではなかった。
このように、これまでに各種の素材が集束剤として用いられてきたが、ガラス繊維の製造工程に要求される種々の性能を単独で十分満たすものはなく、複数の成分を組み合わせて使用されてきた。また、製織の高速化や脱油後の残存灰分の低下への要求に対応するため、集束剤の更なる性能向上が求められている。
特許文献3において、酵素合成されたα‐1,4‐グルカンの用途の1つとして、繊維加工用の糊剤として経糸糊や織物仕上糊、捺染糊など、織物樹脂加工用の変性剤、フェルトや不職布などの接着剤としての例が挙げられている。しかしながら、この特許文献で想定されている繊維は木綿や羊毛、各種樹脂から得られる合成繊維に関するもので、ガラス繊維を想定したものではない。このような有機物質で構成された一般の繊維は、無機物質からなるガラス繊維とは、形態は類似しているが素材としてはまったく別のものである。本発明の集束剤はガラス繊維に用いられ、ガラス素材同士の接着において効果が発揮されるものであって、上記特許文献とは異なるものである。従って、上記特許文献には、ガラス繊維用集束剤に関して、開示されておらず、示唆も一切ない。
特開2003‐238210号公報 特開2004‐35280号公報 国際公開第WO 02/06507号パンフレット
本発明が解決しようとする課題は、ガラス繊維の製造加工工程において、ガラス繊維同士の接着性を高め、毛羽立ちを抑制すること、また製織時に良好な飛走性を有し、粉落ちが少ないこと、加えて脱油時に残存灰分が少ないガラス繊維用集束剤を提供することである。
発明者は上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ガラスとの接着性に優れ、皮膜形成能が高いα‐1,4‐グルカンをガラス繊維集束剤として使用する事による優れた効果を見出した。
即ち、本発明は、α‐1,4‐グルカンおよびその修飾物を含有するガラス繊維集束剤に関する。更に、本発明を好適に実施するためには、
上記α‐1,4‐グルカンが酵素合成α‐1,4‐グルカンであり;
上記α‐1,4‐グルカンの修飾物の修飾が、エステル化、エーテル化、酸化および架橋からなる群より選択される化学修飾である;ことが好ましい。
本発明の他の態様として、(a)α‐1,4‐グルカンおよびその修飾物の少なくとも1種、および(b)他の多糖類およびその修飾物、を含有するガラス繊維集束剤がある。更に、本発明を好適に実施するためには、
上記(a)α‐1,4‐グルカンおよびその修飾物の少なくとも1種を1〜95重量%、(b)他の多糖類およびその修飾物を99〜5重量%含有し;
さらに乳化剤、界面活性剤、潤滑剤をあわせて0.01〜30重量%含有し、各成分の合計が100重量%を超えない量で含まれる;ことが好ましい。
本発明の更に別の態様として、前述のようなガラス繊維集束剤を付着してなるガラス繊維がある。
α‐1,4‐グルカンをガラス繊維集束剤として使用することで、ガラス繊維同士の接着性を向上させることができる。また、α‐1,4‐グルカンは皮膜形成性が高くて滑らかな皮膜を形成することができるため、毛羽立ちや製織時の粉落ちを抑制し、飛走性を高めることができる。脱油工程においては、α‐1,4‐グルカンは、もともと含有している灰分が製造工程上少なく、また集束剤としての使用量も少なくてすむために、脱油後の残存灰分を減らすことができる。
加えて、酵素合成によって得られるα‐1,4‐グルカンは、分子量によって粘度や接着性などの異なった性質を有し、かつ製造条件によって分子量をコントロールできることから、集束剤としての物性を制御することが容易である。
用語の説明
用語「分散度Mw/Mn」とは、重量平均分子量Mwに対する数平均分子量Mnの比(すなわち、Mw÷Mn)である。高分子化合物は、タンパク質のような特別の場合を除き、その由来が天然または非天然のいずれであるかに関わらず、その分子量は単一ではなく、ある程度の幅を持っている。そのため、高分子化合物の分子量の分散程度を示すために、高分子化学の分野では通常、分散度Mw/Mnが用いられている。この分散度は、高分子化合物の分子量分布の幅広さの指標である。分子量が完全に単一な高分子化合物であればMw/Mnは1であり、分子量分布が広がるにつれてMw/Mnは1よりも大きな値になる。本明細書中で「分子量」という用語は、特に断りのない限り重量平均分子量(Mw)を指す。
用語「α‐1,4‐グルカン」とは、本明細書中で用いられる場合、D−グルコースを構成単位とする糖であって、α‐1,4‐グルコシド結合のみによって連結された糖単位を少なくとも2糖単位以上有する糖をいう。α‐1,4‐グルカンは、直鎖状の分子である。α‐1,4‐グルカンは、直鎖状グルカンとも呼ばれる。1分子のα‐1,4‐グルカンに含まれる糖単位の数を、重合度という。本明細書中で「重合度」という用語は、特に断りのない限り重量平均重合度を指す。α‐1,4‐グルカンの場合、重量平均重合度は、重量平均分子量を162で割ることによって算出される。
用語「置換度」は、α‐1,4‐グルカン修飾物における、無水グルコース残基あたりの平均置換水酸基数を表わす。無水グルコース残基の水酸基は3つあり、それがすべて化学修飾によって置換された場合、置換度は3、平均して2個の水酸基が置換された場合は置換度が2となる。
本発明のガラス繊維用集束剤は、α‐1,4‐グルカンおよびその修飾物を含有することを要件とる。上記ガラス繊維用集束剤における上記α‐1,4‐グルカンおよびその修飾物の含有量は50重量%〜99.9重量%、好ましくは70〜99.5重量%、より好ましくは80〜99.0重量%であることが望ましい。上記含有量が50重量%未満では、十分な接着性や皮膜の形成性が確保できない。
前述のように、本発明の他の態様としての(a)α‐1,4‐グルカンおよびその修飾物の少なくとも1種、および(b)他の多糖類およびその修飾物、を含有するガラス繊維集束剤においては、上記(a)の含有率は、1〜95重量%、好ましくは3〜60重量%、より好ましくは5〜40重量%である。上記(a)の含有率が1重量%未満では接着性や皮膜性の向上などのα‐1,4‐グルカンの持つ効果が十分に発現せず、95重量%を超えると集束剤溶液の粘度が高くなってガラス繊維への塗布が困難になる。
α‐1,4‐グルカン類は、グルコースが直鎖状に結合した構造のポリマーである。これは、当該分野で公知の方法で、天然澱粉から、あるいは酵素的な手法等で製造することができる。
天然澱粉からα‐1,4‐グルカンを得る方法としては、たとえば天然澱粉中に存在するアミロペクチンのα‐1,6‐グルコシド結合のみに、枝切り酵素として既知のイソアミラ−ゼやプルラナ−ゼを選択的に作用させ、アミロペクチンを分解することにより、アミロ−スを得る方法(いわゆる澱粉酵素分解法)がある。別の例として、澱粉糊液からアミロ−ス/ブタノ−ル複合体を沈殿させて分離する方法がある。
また公知の酵素合成法を用いて、α‐1,4‐グルカンを調製することもできる。酵素合成法の例としては、スクロースを基質として、アミロスクラーゼ(amylosucrase、EC 2.4.1.4)を作用させる方法がある。
酵素合成法の別の例は、グルカンホスホリラーゼ(α‐glucan phosphorylase、EC 2.4.1.1;通常、ホスホリラーゼといわれる)を用いる方法が挙げられる。ホスホリラーゼは、加リン酸分解反応を触媒する酵素である。
本発明では、酵素合成α‐1,4‐グルカンを用いるのが好ましく、酵素としてのグルカンホスホリラーゼを用いて酵素合成されたα‐1,4‐グルカンを用いるのが特に好ましい。グルカンホスホリラーゼを用いて酵素合成された酵素合成α‐1,4‐グルカンは次のような特徴を有する:
(1)生物資源である糖質を原料として製造される;
(2)天然澱粉と同様にグルコース残基のみで構成されており、α‐1,4‐グルカンも、その分解中間体も、そして最終分解物に至るまで環境および生体に対して毒性がない;
(3)分子量分布が狭く(Mw/Mnが1.1以下)、製造条件を適切に制御することによって任意の重合度(約60〜約37000)を有するものが得られる;
(4)完全に直鎖であり、天然澱粉から分画したアミロースに認められるわずかな分岐構造をも含まない;
(5)皮膜の酸素透過性が低い;
(6)皮膜の形成性が高く、皮膜の強度は通常の合成高分子に匹敵する;
(7)必要に応じて澱粉と同様の化学修飾が可能である。
上記のα‐1,4‐グルカンに化学修飾を施したものを用いることもできる。この修飾されたα‐1,4‐グルカンは、本明細書中において「α‐1,4‐グルカン修飾物」と記載することもある。化学修飾の例としては、エステル化、エーテル化および架橋などが挙げられる。α‐1,4‐グルカンを化学修飾する際において、これらの修飾を単独あるいは組み合わせて使用することができる。化学修飾によって、α‐1,4‐グルカンの溶解性の向上や粘度を変化させることができる。また、FRPのようなガラス繊維と樹脂を複合化する場合に、接着性を高め強度を増大する目的で化学修飾をすることができる。
エステル化は、例えば、α‐1,4‐グルカンを各種溶媒中でまたは無溶媒で、エステル化試薬(例えば、酸無水物、有機酸、酸塩化物、ケテンまたは他のエステル化試薬)と反応させることによって行われ得る。このようなエステル化によって、例えば、酢酸エステル、プロピオン酸エステルなどのアシル化エステル修飾物が得られる。
エステル化によって、α‐1,4‐グルカンを構成するグルコース残基に含まれる水酸基の水素を置換することができるアシル基として、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基、ピバロイル基、ラウロイル基、ミリストイル基、ベンゾイル基、アクリロイル基、メタクリロイル基などが挙げられる。
エーテル化は、例えば、α‐1,4‐グルカンを、アルカリ存在下でエーテル化剤(例えば、ハロゲン化アルキル、硫酸ジアルキルなど)と反応させることによって行われ得る。このようなエーテル化によって、例えば、カルボキシメチルエーテル、ヒドロキシプロピルエーテル、ヒドロキシエチルエーテル、ヒドロキシメチルエーテル、メチルエーテル、エチルエーテルの修飾物が得られる。
酸化反応は、例えば、α‐1,4‐グルカンと酸化剤(次亜塩素酸ナトリウムまたはカルシウム、さらし粉、過酸化水素、過マンガン酸カリ、硝酸、塩素、オゾンなど)と反応させることによって行なわれ得る。
架橋は、例えば、α‐1,4‐グルカンを、架橋剤(ホルマリン、エピクロロヒドリン、グルタルアルデヒド、各種ジグリシジルエーテル、各種エステルなど)と反応させることによって行われ得る。
(a)α‐1,4‐グルカン類は、修飾を施していないものまたは修飾を施したものをそれぞれ単独で用いてもよく、またはそれらを併用して用いてもよい。また、2種以上の重合度の異なるα‐1,4‐グルカンおよび/またはその修飾物を併用してもよい。
グルカンホスホリラーゼを用いて酵素合成された酵素合成α‐1,4‐グルカン類を、ガラス繊維集束剤として使用した場合に、次のような利点が得られる:
(I)枝分かれのない均一な構造であることから、ガラス繊維上に形成される皮膜は高強度で柔軟性が高い。またガラスとの接着性も向上させられる。
(II)分子量分布が狭く任意の重合度のものを合成できるため、集束剤溶液の物性を容易に制御することができる。
(III)高分子量の酵素合成α‐1,4‐グルカンは水に容易に溶解し、溶液の粘度は安定であることから、従来の澱粉のような加熱糊化の工程を省略し、安定的生産を図ることができる。
(IV)ガラス繊維上に形成される酵素合成α‐1,4‐グルカンの皮膜は非常に滑らかであることから、製織時の飛走性に優れ、製織の高速化がはかれる。
(V)酵素合成α‐1,4‐グルカンの製造工程において、微量に含まれる塩類は完全に除去可能で、集束剤としての使用量も従来品よりも減らすことができるため、脱油時に問題となる灰分を減らすことができる。
(VI)生物資源由来で生分解性であることから、環境への負荷を低減できる。
本発明のガラス繊維用集束剤は、α‐1,4‐グルカンおよびその修飾物の他に、各種の他の多糖類を含んでいてもよい。他の多糖類の例としては、デキストリン、澱粉類およびその誘導体、セルロースおよびその誘導体、プルラン、アルギン酸、カラギーナン、グアーガム、寒天、キトサン、ジェランガム、ローカストビーンガム、ペクチン、トラガント、キサンタン、アラビアゴム、タマリンドガム等が挙げられる。
本発明のガラス繊維用集束剤は、α‐1,4‐グルカンおよびその修飾物の他に、各種の高分子材料を含んでいてもよい。高分子材料の例としては、タンパク質、例えばゼラチン、グルテン、卵白、卵黄など、あるいはポリ乳酸やポリ−ε−カプロラクトン等のポリエステル類、ポリエチレングリコール等のポリエーテル類、ポリビニルアルコールやポリエチレン等のポリオレフィン類、ポリアミド類、等の樹脂が挙げられる。
本発明のガラス繊維用集束剤は、α‐1,4‐グルカンおよびその修飾物の他に乳化剤や界面活性剤、潤滑剤、増粘剤やゲル化剤、防腐剤、カップリング剤等、当該分野で公知に使用される添加剤を含んでいてもよい。上記添加剤の含有量は、合計量であわせて0.01〜30重量%、好ましくは0.1〜10重量%である。上記(a)、(b)および添加剤等の各成分の含有量はそれぞれ前述のような範囲を有するが、各成分の合計が100重量%を超えない量で含まれる。
本発明のガラス繊維用集束剤は、水や有機溶媒等に溶解して用いることができるが、通常のガラス繊維用集束剤と同様、水溶液として使用することが溶媒の回収コストや環境負荷等の観点から好ましい。水溶液中の集束剤濃度は、ガラス繊維へ付着させるのに適した粘度になるように調整することが望ましい。本発明のα‐1,4‐グルカンおよびその修飾物を集束剤として用いる場合は、分子量や化学修飾の種類や程度によっても異なるが、0.1〜10重量%程度の濃度であることが好ましい。また、上記集束剤溶液の粘度は、1〜20mPa・s、好ましくは2〜10mPa・sであることが望ましい。
本発明のガラス繊維集束剤の水溶液を作製する際に、高分子量のα‐1,4‐グルカンや、あるいは軽度に化学修飾したα‐1,4‐グルカンの場合は、常温の水に溶解する性質を持つために、簡便に集束剤水溶液を作製することができる。ここで言う水溶性の高分子量のα‐1,4‐グルカンは、分子量が約700kDa〜6000kDa、好ましくは800kDa〜2000kDa程度のものを指す。分子量が6000kDaを超えるα‐1,4‐グルカンは合成する際の収率が低く、また水溶液の粘度が高くなりすぎるために本発明の集束剤としては適さない。
軽度に化学修飾をすることによって、より幅広い範囲の分子量のα‐1,4‐グルカンを常温の水に溶解させることができる。水溶性を持たせるための軽度の化学修飾の置換度は、化学修飾の種類によっても異なるが、例えばアセチル化やヒドロキシエチル化の場合、置換度が0.01〜1.0程度の範囲のものを指す。この場合の好ましい分子量は、80kDa〜6000kDa、好ましくは100kDa〜2000kDaであることが望ましい。上記分子量が、80kDa未満では水溶性であるものの接着性や皮膜強度に劣り、6000kDaより高いと粘度が高くなりすぎるために本発明の集束剤としては適さない。
常温の水には溶解しないα‐1,4‐グルカンを含む水溶液は、加熱や酸、アルカリによる溶解、有機溶媒によって溶解させることができる。加熱により溶解する場合は、常圧下で熱水に溶解するか、高圧の条件で溶解することができ、通常、澱粉を溶解する工程をそのまま利用できる。酸、アルカリを用いて溶解した場合は、そのままでも集束剤溶液として使用できるが、中和してから用いることがより好ましい。また、有機溶媒に溶解する場合は、未修飾のα‐1,4‐グルカンに対してはジメチルスルホキシドやジメチルホルムアミドが、化学修飾したα‐1,4‐グルカンに対しては化学修飾の種類や置換度に応じた溶媒を選択することができる。例えば、置換度が2以上のアセチル化α‐1,4‐グルカンに対してはアセトンやクロロホルム等の溶媒を使用することができる。
本発明のガラス繊維集束剤をガラス繊維へ塗布する方法は、当該分野で公知の方法の中から適宜選択することができる。例えば集束剤を塗布したロールコーターの表面に繊維を滑らして塗布する方法や、集束剤溶液に繊維を浸漬する方法、繊維に集束剤溶液を噴霧して塗布する方法などが挙げられる。
(重合度) 試験例において、馬鈴薯塊茎由来の精製グルカンホスホリラーゼの調製方法、Streptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼの調製方法、α‐1,4‐グルカンの収率(%)の計算方法、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)の測定方法は、特開2002−345458号の記載により公知である方法に従った。具体的に、合成したグルカンの分子量は次のように測定した。まず、合成したグルカンを1N水酸化ナトリウムで完全に溶解し、適切な量の塩酸で中和した後、グルカン約300μg分を、示差屈折計と多角度光散乱検出器を併用したゲル濾過クロマトグラフィーに供することにより重量平均分子量を求めた。詳しくは、カラムとしてShodex SB806M−HQ(昭和電工製)を用い、検出器としては多角度光散乱検出器(DAWN−DSP、Wyatt Technology社製)および示差屈折計(Shodex RI−71、昭和電工製)をこの順序で連結して用いた。カラムを40℃に保ち、溶離液としては0.1M硝酸ナトリウム溶液を流速1mL/分で用いた。得られたシグナルを、データ解析ソフトウェア(商品名ASTRA、Wyatt Technology社製)を用いて収集し、同ソフトを用いて解析することにより、重量平均分子量、数平均分子量を求めた。
(フィルム強度)
α‐1,4‐グルカンおよびその修飾物のフィルム強度測定は、以下の方法で行なった。得られたフィルムを幅12.7mm×長さ152.4mmの大きさの試験片を26℃、相対湿度55%の恒温恒湿室に1日静置したのち、同じ場所で引張試験を行った。引張試験機(島津製作所製 オ−トグラフAGS−H)にあらかじめ厚みを測定した試験片を、持ち手間距離が100mmになるように固定し、10mm//分の速度で破断するまで引張った。各試験片について5本の試験結果を平均し、持ち手内部で切断した場合は除外した。引張強度は破断時の荷重をフィルムの断面積で割って求めた。また、引張の前後の長さから、伸びの値を求めた。
(ガラス繊維の接着強度測定)
ガラス繊維の接着強度測定は、以下の方法で行なった。電気炉をもちいて500℃で5時間加熱し、有機成分を除いたガラスクロス(坪量100g/m、平織り)を幅25mm、長さ50mmに切断して試験片とした。2枚のテープ片の片端より20mmを接着面として集束剤溶液に浸した後、接着面同士を合わせて接着した。その後、棚式乾燥機にて60℃で1時間以上乾燥し、26℃、相対湿度55%の恒温恒湿室で30分以上静置した。引張試験機を用いて上下に引張り、接着面が剥がれる時の力を接着力として測定した。引張速度4mm//分、チャック間距離は50mm。各サンプル3点ずつ測定し、得られた最大点荷重の平均値を求め、接着強度とした。剥離後のガラスクロス表面を目視および走査型電子顕微鏡で観察し、毛羽立ちや皮膜の剥離等の状態を確認した。
(灰分の測定)
集束剤中の灰分の測定は以下の方法で行なった。あらかじめ十分乾燥させたルツボに集束剤のサンプルを約5g入れ、重量を測定した。これを電気炉に移し、600℃で6時間灰化させたあとデシケーターに移し、室温まで放冷したのちにルツボの重量を測定した。灰分は下式で表わされる。
灰分(%)=(B−C)/(B−A)×100
A:空のルツボの重量(g)
B:灰化前のサンプルとルツボの重量(g)
C:灰化後のサンプルとルツボの重量(g)
製造例1:α‐1,4‐グルカンの合成
15mMリン酸緩衝液(pH7.0)、106mMスクロース、及びマルトオリゴ糖混合物(テトラップH、林原製)5.4mg/リットルを含有する反応液(1リットル)に、馬鈴薯塊茎由来の精製グルカンホスホリラーゼ(1単位/ml)と、Streptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼ(1単位/ml)を加えて37℃で16時間保温し、反応終了後、生成したα‐1,4‐グルカンの収率(%)、重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)を決定した。その結果、重量平均分子量が1250kDa、分子量分布(Mw/Mn)が1.03のα‐1,4‐グルカンを得た。
製造例2:ヒドロキシエチル化α‐1,4‐グルカンの作製
耐圧反応容器中で、1000ミリリットルの蒸留水に水酸化ナトリウム6g、塩化ナトリウム36gおよび製造例1で得られたα‐1,4‐グルカン50gを溶解した。窒素ガス置換を行った後に、エチレンオキシド16gを添加し、38℃で10時間撹拌した。希塩酸でpHを6に調整して反応を止めた後に500ミリリットルのエタノールを加えて沈殿を析出させた。沈殿を濾過後、エタノールで洗浄、乾燥してヒドロキシエチル化α‐1,4‐グルカン(HEAG)を得た。
製造例3:ヒドロキシエチル化澱粉の作製
α‐1,4‐グルカンをコーンスターチあるいはハイアミロースに変えた以外は製造例2と同様な方法で、ヒドロキシエチル化コーンスターチ(HECS)およびヒドロキシエチル化ハイアミロースコーンスターチ(HEHA)を作製した。
実施例1:集束剤溶液の作製
製造例1で得られたα‐1,4‐グルカン、各種澱粉、および製造例2と製造例3で得られたヒドロキシエチル化したサンプルから、集束剤溶液を作製した。95℃に加熱した蒸留水にトータルで5重量%になるように各サンプルを投入し、撹拌しながら1時間加熱した。その後撹拌を止めて放冷し、50℃で保持した。表1に集束剤溶液の組成および放冷後の溶液の状態を示す。
Figure 0004989855
実施例2:フィルム強度の測定
実施例1で得られた集束剤溶液を基板上に流延し、50℃に保った棚式乾燥機で一晩乾燥してフィルムを作製した。フィルムが得られたものについて強度を測定した。結果を表2に示す。α‐1,4‐グルカンおよびその修飾物からなるフィルムは強度、伸びともに良好な結果を示した。またヒドロキシエチル化コーンスターチに重量比で10%のヒドロキシエチル化α‐1,4‐グルカンを配合することで、強度と伸びを向上させられることが分かった。
Figure 0004989855
実施例3:ガラス繊維接着強度の測定
実施例1で得られた集束剤溶液を用いて、ガラス繊維の接着強度の測定と剥離後の表面状態の観察をした。結果を表3に示す。(*間に合えば電子顕微鏡の写真を追加します)
Figure 0004989855
実施例4:灰分の測定
実施例1で用いた集束剤用サンプルの灰分を測定した。結果を表4に示す。
Figure 0004989855
ガラス繊維同士の接着性を高め、毛羽立ちを抑制すること、また製織時に良好な飛走性を有し、粉落ちが少ないこと、加えて脱油時に残存灰分が少ないガラス繊維を製造することができる。これにより製織の高速化やガラス繊維の性能向上への要求に応えることができる。

Claims (6)

  1. 酵素合成されたα‐1,4‐グルカンまたはその修飾物を含有するガラス繊維集束剤。
  2. 前記α‐1,4‐グルカンの修飾物の修飾が、エステル化、エーテル化、酸化および架橋からなる群より選択される化学修飾である請求項1に記載のガラス繊維集束剤。
  3. (a)前記α‐1,4‐グルカンまたはその修飾物の少なくとも1種と、(b)他の多糖類またはその修飾物と、を含有する請求項1に記載のガラス繊維集束剤。
  4. 前記(a)α‐1,4‐グルカンまたはその修飾物の少なくとも1種を1〜95重量%、(b)他の多糖類またはその修飾物を99〜5重量%含有する、請求項に記載のガラス繊維集束剤。
  5. さらに乳化剤、界面活性剤、潤滑剤をあわせて0.01〜30重量%含有し、各成分の合計が100重量%を超えない量で含まれる、請求項に記載のガラス繊維集束剤。
  6. 請求項1〜のいずれかに記載のガラス繊維集束剤を付着してなるガラス繊維。
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