しかしながら、上述した真空成膜により形成された有機半導体層は、一般に、微結晶の集合した多結晶状態となって多くの粒界が存在し易い上、欠陥が生じ易く、そうした粒界や欠陥が電荷の輸送を阻害する。そのため、有機半導体層を真空成膜により形成する場合においては、有機半導体装置の構成素子である有機半導体層を、十分広い面積にわたって均一な性能で連続的に作ることは事実上困難であった。
一方、高い電荷移動度を示す材料として、ディスコティック液晶が知られている(例えば非特許文献2を参照)。しかしながら、このディスコティック液晶は、カラム状の分子配向に沿った一次元の電荷輸送機構に基づいて電荷の輸送が行われるので、厳密な分子配向の制御が要求され、工業的な利用が難しいという問題があった。このディスコティック液晶を有機半導体層の構成材料に使った薄膜トランジスタの成功例は、未だ報告されていない。
また、フェニルベンゾチアゾール誘導体等の棒状(ロッド状)の液晶性材料も、液晶状態で高い電荷移動度を示すことは既に報告されている(例えば非特許文献3及び特許文献1を参照)。しかしながら、フェニルベンゾチアゾール誘導体の合成ルートの段階で、フェニルベンゾチアゾールの6位の部位への臭素化をすることにより、フェニルベンゾチアゾール誘導体3´位にも臭素化がされて精製が困難になること、また構造上のコアと末端部の間に、スペーサー部として硫黄原子を介しているものの、炭素−硫黄結合が酸化され易く化学的に必ずしも安定でないこと、また液晶化温度範囲が90〜100℃と狭いこと等の課題があり、棒状の液晶性材料を有機半導体層に利用した薄膜トランジスタの成功例は未だ報告されていない。
なお、棒状の液晶性材料は、いくつかの液晶状態を有しているが、この液晶性材料の構造規則性が高くなるにつれて電荷の移動度は上昇する傾向にある。しかし、この液晶性材料がより構造規則性の高い結晶状態に転移すると、電荷の移動度が逆に低下ないし観測されず、当然、薄膜トランジスタの性能を発現することはなかった。
また、高い電荷移動度を示す液晶状態で利用するためには、ガラスのセル等に封入して使用する必要があり、装置製造上の制約があった。さらに、これらの棒状の液晶性材料が液晶性を示すのは比較的高い温度であり、室温付近を含む及び室温に近い液晶化温度で利用することは少ない。
また、分子分散系の高分子材料を液晶性有機化合物として使用する場合においては、この液晶性有機化合物を塗布することにより大面積にわたって均一な電荷移動特性を有する有機半導体層を形成することができる。しかしながら、形成された有機半導体層は、電荷の移動度が1.0×10−5〜1.0×10−6cm2/V・sと低く、しかも温度依存性や電場依存性があるという問題がある。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、広範囲の温度範囲で液晶相を示すと共に高い電荷移動度の発現を可能にする、液晶性有機化合物、及びその液晶性有機化合物を有する有機半導体構造物及び有機半導体装置を提供することにある。また、本発明の他の目的は、そうした液晶性有機化合物の効率的な製造方法を提供することにある。
上記課題を解決するための本発明の第1形態に係る液晶性有機化合物は、L個の6π電子系芳香環、M個の10π電子系芳香環、N個の14π電子系芳香環(ただし、L、M、Nはそれぞれ0〜4の整数を表わし、L+M+N=1〜4とする。)を含む骨格構造(Z1)を有し、当該骨格構造の末端に液晶性を発現する末端構造(R,Y)を有した下記化学式1で表される棒状分子であることを特徴とする。
化学式1において、Z1は、上記骨格構造であり、Rは、Yを介し又はYを介さずにZ1に結合する、炭素数8〜22の直鎖、分岐鎖又は環状構造を有する飽和又は不飽和炭化水素であり、Yは、酸素原子、セレン原子、−CO−基、−OCO−基、−COO−基、−N=CH−基、−CONH−基、−NH−基、−NHCOO−基及び−CH2−基から選ばれる。
上記課題を解決するための本発明の第2形態に係る液晶性有機化合物は、L個の6π電子系芳香環、M個の10π電子系芳香環、N個の14π電子系芳香環(ただし、L、M、Nはそれぞれ0〜4の整数を表わし、L+M+N=1〜4とする。)を含む骨格構造(Z1、Z2)を有し、当該骨格構造の末端に液晶性を発現する末端構造(R,Y)を有した下記化学式2で表される棒状分子であることを特徴とする。
化学式2において、Z1,Z2は、上記骨格構造であり、同じ構造であってもよいし異なる構造であってもよい。Rは、Yを介し又はYを介さずに上記骨格構造に結合する、炭素数8〜22の直鎖、分岐鎖又は環状構造を有する飽和又は不飽和炭化水素であり、Yは、酸素原子、セレン原子、−CO−基、−OCO−基、−COO−基、−N=CH−基、−CONH−基、−NH−基、−NHCOO−基及び−CH2−基から選ばれる。Xは、炭素数1〜22の直鎖、分岐鎖又は環状構造を有する飽和又は不飽和炭化水素であるが、Xは存在せずに直接Z1とZ2とが結合していてもよい。nは1以上の整数を表す。
上記第1及び第2形態に係る本発明の液晶性有機化合物によれば、広い温度範囲で液晶相を示すと共に高い電荷移動度の発現を可能にすることができる。また、これらの液晶性有機化合物は、片側にのみ1本のみアルキル鎖を持つため、両アルキル鎖(又は2本以上のアルキル鎖)を持つ従来の液晶材料と比較して、合成が簡便であり、非対称性が増して溶解度が向上し、分子配向が容易であるので、従来の液晶材料と比較して非常に有用である。
本発明の液晶性有機化合物は、上記第1ないし第2形態に係る本発明の液晶性有機化合物において、熱分解温度以下の温度において少なくとも一種類のスメクティック液晶相状態を有することを特徴とする。
この発明によれば、熱分解温度以下の温度で少なくとも一種類のスメクティック液晶相状態を有するので、広い面積で均一且つ柔軟な分子配向薄膜を形成することが可能となる。
上記課題を解決するための本発明の有機半導体構造物は、上記本発明の液晶性有機化合物からなる有機半導体層を有する有機半導体構造物であって、前記液晶性有機化合物が熱分解温度以下の温度で少なくとも一種類のスメクティック液晶相状態を有し、前記有機半導体層が電子移動度1.0×10−5cm2/V・s以上、又は、正孔輸送移動度1.0×10−5cm2/V・s以上であることを特徴とする。
この発明によれば、有機半導体層を形成するための液晶性有機化合物が熱分解温度以下の温度で少なくとも一種類のスメクティック液晶相状態を有するので、広い面積で均一且つ柔軟な分子配向薄膜を形成することが可能となり、フレキシブルディスプレイ装置等に利用可能な薄膜トランジスタ等のデバイスに応用することができる。
上記課題を解決するための本発明の有機半導体装置は、少なくとも基板、ゲート電極、ゲート絶縁層、有機半導体層、ドレイン電極、及びソース電極を有する有機半導体装置であって、前記有機半導体層が、上記本発明の液晶性有機化合物で形成されていることを特徴とする。
上記課題を解決するための本発明の液晶性有機化合物の製造方法は、上記本発明の液晶性有機化合物の製造方法であって、液晶性有機化合物を合成する工程と、合成された液晶性有機化合物をプロトン性極性溶媒、非プロトン性極性溶媒、塩基性溶媒、ハロゲン化炭化水素溶媒、及び無極性性溶媒から選ばれる少なくとも2種以上の溶媒を用いて再結晶法により精製する工程と、を有することを特徴とする。
この発明によれば、合成された液晶性有機化合物を、プロトン性極性溶媒、非プロトン性極性溶媒、塩基性溶媒、ハロゲン化炭化水素溶媒、及び無極性性溶媒から選ばれる少なくとも2種以上の溶媒を用いて再結晶法により精製するので、電荷移動度を低下させる原因となる不純物を効果的に除去することができる。
本発明の液晶性有機化合物によれば、上記のL個の6π電子系芳香環、M個の10π電子系芳香環、N個の14π電子系芳香環を含む骨格構造が液晶分子のコアとなり、そのコアに対して側鎖のアルキル鎖を1本持っている。こうした有機化合物は、広い温度範囲で液晶相を示すと共に高い電荷移動度の発現を可能にすることができる。
本発明の有機半導体構造物及び有機半導体装置によれば、有機半導体層を本発明に係る液晶性有機化合物で形成するので、広い面積で均一且つ柔軟な有機半導体薄膜を形成することが可能となり、フレキシブルディスプレイ装置等に利用可能な薄膜トランジスタ等のデバイスに応用することができる。
本発明の液晶性有機化合物の製造方法によれば、電荷移動度を低下させる原因となる不純物を効果的に除去することができるので、高い電荷移動度の発現を可能にする液晶性有機化合物を効率的に製造することができる。
以下、本発明の液晶性有機化合物、その液晶性有機化合物を有する有機半導体構造物及び有機半導体装置、並びに液晶性有機化合物の製造方法について詳しく説明する。
(液晶性有機化合物)
本発明の第1形態に係る液晶性有機化合物は、L個の6π電子系芳香環、M個の10π電子系芳香環、N個の14π電子系芳香環(ただし、L、M、Nはそれぞれ0〜4の整数を表わし、L+M+N=1〜4とする。)を含む骨格構造(コア又はコア構造ともいい、化学式1ではZ1で表される。)を有し、当該骨格構造の末端に液晶性を発現する末端構造(ターミナルグループともいい、化学式1ではR,Yで表される。)を有した下記化学式1で表される棒状分子である。
化学式1において、Z1は、上記骨格構造であり、Rは、Yを介してZ1に結合していてもよいし、Yを介さずにZ1に直接結合していてもよい。このRは、炭素数8〜22の直鎖、分岐鎖又は環状構造を有する飽和又は不飽和炭化水素である。また、Yは、酸素原子、セレン原子、−CO−基、−OCO−基、−COO−基、−N=CH−基、−CONH−基、−NH−基、−NHCOO−基及び−CH2−基から選ばれる。
また、本発明の第2形態に係る液晶性有機化合物は、L個の6π電子系芳香環、M個の10π電子系芳香環、N個の14π電子系芳香環(ただし、L、M、Nはそれぞれ0〜4の整数を表わし、L+M+N=1〜4とする。)を含む骨格構造(コア又はコア構造ともいい、化学式2ではZ1、Z2で表される。)を有し、当該骨格構造の末端に液晶性を発現する末端構造(ターミナルグループともいい、化学式1ではR,Yで表される。)を有した下記化学式2で表される棒状分子である。
化学式2において、Z1,Z2は、上記骨格構造であり、それらは同じ構造であってもよいし異なる構造であってもよい。Yを介して上記骨格構造に結合していてもよいし、Yを介さずに上記骨格構造に直接結合していてもよい。このRは、炭素数8〜22の直鎖、分岐鎖又は環状構造を有する飽和又は不飽和炭化水素であり、Yは、酸素原子、セレン原子、−CO−基、−OCO−基、−COO−基、−N=CH−基、−CONH−基、−NH−基、−NHCOO−基及び−CH2−基から選ばれる。Xは、炭素数1〜22の直鎖、分岐鎖又は環状構造を有する飽和又は不飽和炭化水素であるが、Xは存在せずにZ1とZ2とが直接結合していてもよい。nは1以上の整数を表す。
以下、上記第1及び第2形態に係る液晶性有機化合物の各構成について説明する。なお、特に明記しない場合には、第1及び第2形態に共通のものとして説明する。
Z1、Z2で表される骨格構造を構成する6π電子系芳香環としては、例えば、ベンゼン環、ピリジン環ピリミジン環、ピリダジン環、ピラジン環、トロポロン環等を挙げることができ、10π電子系芳香環としては、例えば、ナフタレン環、アズレン環、ベンゾフラン環、インドール環、イミダゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾイミダゾール環、キノリン環、イソキノリン環、キナゾリン環、キノキサリン環等を挙げることができ、14π電子系芳香環としては、例えば、フェナントレン環、アントラセン環等を挙げることができる。こうした骨格構造を有する化合物は、特開平10−312711号公報に挙げられている。なお、本発明の第2形態に係る液晶性有機化合物においては、化学式2のZ1,Z2は、同じ骨格構造からなるものであってもよいし、異なる骨格構造からなるものであってもよい。
Rは、炭素数8〜22の直鎖、分岐鎖又は環状構造を有する飽和又は不飽和炭化水素であり、この範囲で液晶相を発現するが、その炭素数が8〜15の直鎖、分岐鎖又は環状構造を有する飽和又は不飽和炭化水素であることがより好ましい。炭素数が8〜15のRを有する液晶性有機化合物は、液晶相をより発現し易く、且つ液晶化温度範囲をより広くすることができるという利点がある。炭素数が7以下であると、一本鎖の液晶材料の不安定性が増すために液晶相がやや発現し難いことがあり、炭素数が15を超えると、得られた液晶性有機化合物の溶解度がやや低くなることがある。なお、Rにシアノ基、ハロゲン(F、Cl、Br、I)基等の電気陰性度が大きく、分子の長軸に対してダイポールを生じるものを含むと、得られた液晶性有機化合物に電場をかけた際に、その液晶性有機化合物分子が傾き、電荷輸送が不安定になるという難点があるので好ましくない。
炭素数8〜22の直鎖、分岐鎖又は環状構造を有する飽和又は不飽和炭化水素の具体例としては、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、イコシル、エイコシル、ヘンイコシル、ヘンエイコシル、ドコシル、オクテン、ノネン、デセン、ウンデセン、ドデセン、トリデセン、テトラデセン、ペンタデセン、ヘキサデセン、ヘプタデセン、オクタデセン、ノナデセン、イコセン、エイコセン、ヘンイコセン、ヘンエイコセン、ドコセン、オクチン、ノニン、デシン、ウンデシン、ドデシン、トリデシン、テトラデシン、ヘンタデシン、ヘキサデシン、ヘプタデシン、オクタデシン、ノナデシン、イコシン、エイコシン、ヘンイコシン、ヘンエイコシン、ドコシン等を挙げることができる。
また、好ましく用いられる炭素数8〜15の直鎖、分岐鎖又は環状構造を有する飽和又は不飽和炭化水素の具体例としては、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、オクテン、ノネン、デセン、ウンデセン、ドデセン、トリデセン、テトラデセン、ペンタデセン、オクチン、ノニン、デシン、ウンデシン、ドデシン、トリデシン、テトラデシン、ペンタデシン等を挙げることができる。
Yは、酸素原子、−CO−基、−OCO−基、−COO−基、−N=CH−基、−CONH−基、−NH−基、−NHCOO−基及び−CH2−基から選ばれることが、化学的な安定性の点で好ましく、酸素原子、−CO−基、−OCO−基、−COO−基、−CH2−基から選ばれることがより好ましい。なお、従来の液晶性有機化合物には、Yが硫黄原子であるものが知られているが、そうした液晶性有機化合物は、炭素−硫黄結合が酸化され易く、化学的に不安定でその後の精製が困難になることがある。したがって、本発明の液晶性有機化合物は、Yが硫黄原子ではない。
Xは、本発明の第2形態に係る液晶性有機化合物において、Z2で表される骨格構造の連結基として任意に設けられるものであり、炭素数1〜22の直鎖、分岐鎖又は環状構造を有する飽和又は不飽和炭化水素である。Xの具体例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、イコシル、エイコシル、ヘンイコシル、ヘンエイコシル、ドコシル、エテン、プロペン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デセン、ウンデセン、ドデセン、トリデセン、テトラデセン、ペンタデセン、ヘキサデセン、ヘプタデセン、オクタデセン、ノナデセン、イコセン、エイコセン、ヘンイコセン、ヘンエイコセン、ドコセン、エチン、プロピン、ブチン、ペンチン、ヘキシン、ヘプチン、オクチン、ノニン、デシン、ウンデシン、ドデシン、トリデシン、テトラデシン、ヘンタデシン、ヘキサデシン、ヘプタデシン、オクタデシン、ノナデシン、イコシン、エイコシン、ヘンイコシン、ヘンエイコシン、ドコシン、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル等を挙げることができる。
Xは、上述したもののうち、その炭素数が1〜15の直鎖、分岐鎖又は環状構造を有する飽和又は不飽和炭化水素であることがより好ましい。炭素数が1〜15のXを有する第2形態の液晶性有機化合物は、液晶性有機化合物のコア(Z1とZ2)同士が互いに十分な距離を持ち、各々が単分子のように振舞い易くなり、またガラス状態も発現し易くなるという利点がある。
化学式2中のnが1の場合には、Z1とZ2は、Xを介して結合していてもよいし、Xが存在せずに直接結合していてもよい。また、化学式2中のnが2以上の場合には、XはZ2と共に繰り返し単位を構成していてもよいし、Xが存在せずZ2のみが複数連続していてもよい。なお、nの上限は、液晶のコア部の数が増加し液晶材料が並び易くなり、またπ軌道の重なりがより大きくなりポッピング電導に有利な観点から、10であることが好ましく、液晶の発現性や溶解性の観点でのより好ましい範囲としてはn=1〜5である。
本発明の液晶性有機化合物は、熱分解温度以下の温度において少なくとも一種類のスメクティック液晶相状態を有している。ここで、「熱分解温度以下の温度」とは、液晶性有機化合物がそれ自身熱分解されない温度条件の下で、の意味であり、具体的には、本発明の液晶性有機化合物は、200℃以下の広い温度範囲で液晶相を呈することができる。この「広い温度範囲」とは、本発明の液晶性化合物が液晶相を呈する温度範囲を表しており、例えば後述する各実施例の液晶性有機化合物では、下限として約50℃を示す液晶性有機化合物や、上限として約100℃を示す液晶性有機化合物が記載されている。なお、熱分解温度は本発明の技術的範囲に含まれる個々の液晶性有機化合物によって異なる。また、「少なくとも一種類のスメクティック液晶相状態を有している」とは、本発明の液晶性有機化合物の熱分解温度以下の温度条件下で複数の液晶相もしくは最低一種類の液晶相を持っている、という意味である。例えば、スメクティック(以下、Smともいう)液晶相としては、SmA相、SmB相、SmC相、…等々の複数種類の液晶状態が知られているが、上記温度範囲以内で、少なくとも一種類の液晶状態を呈するという意味である。
こうした本発明の液晶性有機化合物は、熱分解温度以下の温度で少なくとも一種類のスメクティック液晶相状態を有するので、広い面積で均一且つ柔軟な分子配向薄膜を形成することが可能となる。
本発明において好ましいスメクティック液晶相としては、上記化学式1,2で表される、液晶分子のコア(Z1、又は、Z1及びZ2)に対して側鎖のアルキル鎖(R、又は、R及びY)を1本持つ棒状のスメクティック液晶相を挙げることができる。液晶は自己組織作用を有するので、棒状のスメクティック液晶相は自発的に分子秩序を形成し易く、電荷輸送パスにとって分子結晶のような高い分子秩序が形成される。このようなスメクティック液晶相を有する液晶性有機化合物で有機半導体層を形成すれば、有機半導体層に分子結晶のような優れた電荷輸送特性をもたらすことが可能となる。特に、有機半導体層を、高次のスメクティック液晶相からなる液晶性有機化合物で形成することが好ましい。
液晶性有機化合物で形成される有機半導体層は、ホッピング伝導に基づいた高い電子と正孔についていずれも高速の電荷輸送能が発現する、という電荷移動特性を有している。この理由は以下のように考えられる。
図1は、従来の液晶性有機化合物が自己組織化してなる有機半導体層の一例を示すモデル図である。また、図2は、上述した本発明の液晶性有機化合物が自己組織化してなる有機半導体層の例を示すモデル図である。
図1に示す従来の液晶性有機化合物として、例えば下記化学式3に示す2-(4’-ノニルオキシフェニル)-6-ドデシルベンゾチアゾール(以下、9O−PBT−12と略記する。降温下で「Iso(等方相)/101.6℃/SmA(スメクティックA相)/37.3℃/Cryst(結晶相))を例示できる。
この9O−PBT−12では、両側鎖の炭化水素直鎖、分岐鎖又は環状構造を有する飽和又は不飽和炭化水素であるアルキル鎖(ロ)の存在により自己組織化を起こし、極めて秩序的に配向する。有機半導体層には、そうした液晶性有機化合物により、高い自己組織性を有した分子凝集部分である領域(イ)が形成される。その領域(イ)においては、液晶性有機化合物の剛直な骨格部位が、隣接する液晶性有機化合物と極めて小さな距離で隣接する。その結果、液晶性有機化合物の領域(イ)では、分子間のπ電子軌道の重なりが大きくなることにより、ホッピング伝導に基づいた高速の電子伝導と高速のホール伝導が起こるので、形成された有機半導体層は、高い電荷輸送特性を示すこととなる。なお、この場合における骨格同士の間隔は、0.3〜0.5nm程度である。
一方、図2(A)に示す本発明の液晶有機化合物でも、炭化水素直鎖、分岐鎖又は環状構造を有する飽和又は不飽和炭化水素であるアルキル鎖(ロ)の存在により自己組織化を起こし、極めて秩序的に配向する。有機半導体層には、そうした液晶性有機化合物により、高い自己組織性を有した分子凝集部分である領域(イ)が形成される。その領域(イ)においては、液晶性有機化合物の剛直な骨格部位(上記化学式1のZ1、又は、上記化学式2におけるZ1とZ2)が、隣接する液晶性有機化合物と極めて小さな距離で隣接する。その結果、液晶性有機化合物の領域(イ)では、分子間のπ電子軌道の重なりが大きくなることにより、ホッピング伝導に基づいた高速の電子伝導と高速のホール伝導が起こる。
更に、本発明の液晶有機化合物は、片側にのみアルキル鎖(ロ)を持つので、図2(B)のように2つの分子を仮想的な1つの分子とすれば、液晶有機化合物のコア部により形成されるπ電子軌道の重なりがコア部の延長と共に延びる((イ)+(イ))と考えることができるため、隣接分子間のπ電子軌道の重なりが大きくなり、コア部間のホッピング伝導に基づいた高速の電子伝導と高速のホール伝導が起こり、高い電荷輸送特性を示すことが期待できる。
本発明の液晶性有機化合物で形成される有機半導体層は、液晶性有機化合物自身の自己組織化により、剛直な骨格部位がかなりの距離にわたり連続して重なりあう領域(イ)を有するので、電子やホールのホッピング伝導を容易に起こすことになる。なお、微結晶のように高い分子秩序が長距離にわたって実現していない場合には、結晶粒界でトラップが生成し、高い伝導性は期待できない。
スメクティック液晶相を呈する本発明の液晶性有機化合物は、上記の化学式1及び2におけるRがリッチ領域(ロ)となっている。この領域は、領域(イ)の電荷輸送パスとなる部位を隔て緩衝層として機能し、大きな電荷輸送異方性を発現させる効果を有する。
本発明の液晶性有機化合物の具体的な構成として、表1及び表2に示す例を好ましく挙げることができるが、これのみには限定されない。なお、表1は化合物1の構成を示すものであり、表2は化合物2の構成を示すものである。
なお、上記の表1及び表2中の化学式4〜9は、以下の通りである。
本発明の液晶性有機化合物は、最終的に形成される有機半導体層に要求される特性を考慮して選定される。選定基準の特性としては、電子又は正孔の電荷移動度が最低でも1.0×10−5cm2/V・s以上であり、望ましくは1.0×10−4cm2/V・s以上である。ここでいう電荷移動度とは、単位電界、1秒あたりの電荷の移動速度のことをいい、Time of flight法(以下、TOF法という)により測定できる。
以上説明したように、本発明の液晶性有機化合物によれば、上記のL個の6π電子系芳香環、M個の10π電子系芳香環、N個の14π電子系芳香環を含む骨格構造が液晶分子のコアとなり、そのコアに対して側鎖のアルキル鎖を1本持っている。こうした有機化合物は、広い温度範囲で液晶相を示すと共に高い電荷移動度の発現を可能にすることができる。また、本発明の液晶性有機化合物は、片側にのみ1本のみアルキル鎖を持つため、両アルキル鎖(又は2本以上のアルキル鎖)を持つ従来の液晶材料と比較して、合成が簡便であり、非対称性が増して溶解度が向上し、分子配向が容易であるので、従来の液晶材料と比較して非常に有用である。
(有機半導体構造物)
本発明の有機半導体構造物は、上記本発明の液晶性有機化合物からなる有機半導体層を有するものであり、その液晶性有機化合物が熱分解温度以下の温度で少なくとも一種類のスメクティック液晶相状態を有し、有機半導体層が電子移動度1.0×10−5cm2/V・s以上、又は、正孔輸送移動度1.0×10−5cm2/V・s以上であることに特徴を有している。
有機半導体層は、本発明の液晶性有機化合物を配向させることにより形成される。配向手段としては、液晶性有機化合物を、例えばポリイミド系材料からなる液晶配向層上に積層したり、微少な凹凸を表面に有した硬化性樹脂からなる液晶配向層上に積層したりすることにより行うことができる。
上述した液晶性有機化合物は、液晶状態を維持する温度以上において流動性を有するので、その状態で塗布することができる。こうした方法によれば、優れた電荷移動特性を有する大面積の有機半導体層を極めて容易に形成することができる。このときの塗布方法としては、各種の塗布方法および印刷方法を適用できる。
本発明の有機半導体構造物は、第一の態様として基板、液晶配向層、有機半導体層を順次積層したものを挙げることができ、第二の態様として、基板、有機半導体層、液晶配向層を順次積層したものを挙げることができ、第三の態様として、基板、液晶配向層、有機半導体層、液晶配向層を順次積層したものを挙げることができる。本発明においては、有機半導体層を、配向処理を施した層と接する形態となるように構成することによって、液晶性有機化合物を構成する液晶相に高い配向性を付与することができる。
以上説明したように、本発明の有機半導体構造物は、広い温度範囲で高次の液晶相を示す液晶性有機化合物からなる有機半導体層を含むので、その有機半導体層は、液晶としての柔軟性を保持する均一な分子配向薄膜として使用することができる。また、その有機半導体層は、広い温度範囲において、液晶相を示すので、分子性結晶相に近い形態の密なパッキング構造を実現することができ、望ましくは1.0×10−4cm2/V・s以上の高い電荷移動特性を示すことができる。その結果、広い面積で均一且つ柔軟な分子配向薄膜を形成することが可能となり、フレキシブルディスプレイ装置等に利用可能な薄膜トランジスタ等のデバイスに応用することができる。
(有機半導体装置)
図3は、本発明の有機半導体装置の一例を示す断面図である。本発明の有機半導体装置10は、少なくとも基板11、ゲート電極12、ゲート絶縁層13、有機半導体層14、ドレイン電極15及びソース電極16で構成される。この有機半導体装置10は、有機半導体層14が、上述した本発明の有機半導体構造物を構成する液晶性有機化合物で形成されている。
本発明の有機半導体装置10の構成の一例としては、基板11上に、ゲート電極12、ゲート絶縁層13、配向した有機半導体層14、ドレイン電極15とソース電極16、保護膜17の順に構成される逆スタガー構造、又は、基板11上に、ゲート電極12、ゲート絶縁層13、ドレイン電極15とソース電極16、有機半導体層14、保護膜(図示しない。)の順に構成されるコプラナー構造、を挙げることができる。こうした構成からなる有機半導体装置10は、ゲート電極12に印加される電圧の極性に応じて、蓄積状態又は空乏状態の何れかで動作する。
本発明の有機半導体装置の他の態様として、(i)基板/ゲート電極/ゲート絶縁層(液晶配向層を兼ねる。)/ソース・ドレイン電極/液晶性有機半導体層(/保護層)、(ii)基板/ゲート電極/ゲート絶縁層/ソース・ドレイン電極/液晶配向層/液晶性有機半導体層(/保護層)、(iii)基板/ゲート電極/ゲート絶縁層(液晶配向層を兼ねる)/液晶性有機半導体層/ソース・ドレイン電極/(保護層)、(iv)基板/ゲート電極/ゲート絶縁層(液晶配向層を兼ねる)/液晶性有機半導体層/ソース・ドレイン電極がパターニングされた基板(保護層を兼ねる)、(v)基板/ソース・ドレイン電極/液晶性有機半導体層/ゲート絶縁層(液晶配向層を兼ねる)/ゲート電極/基板(保護層を兼ねる)、(vi)基板(配向層を兼ねる)/ソース・ドレイン電極/液晶性有機半導体層/ゲート絶縁層/ゲート電極/基板(保護層を兼ねる)、又は、(vii)基板/ゲート電極/ゲート絶縁層/ソース・ドレイン電極/液晶性有機半導体層/基板(配向層を兼ねる)、とすることもできる。
すなわち、本発明の有機半導体装置は、ボトムゲート・トップコンタクト構造、ボトムゲート・ボトムコンタクト構造、トップゲート・トップコンタクト構造、トップゲート・ボトムコンタクト構造のいずれの構造に対しても適用できる。
以上、本発明の有機半導体装置によれば、有機半導体層を本発明に係る液晶性有機化合物で形成するので、広い面積で均一且つ柔軟な有機半導体薄膜を形成することが可能となり、フレキシブルディスプレイ装置等に利用可能な薄膜トランジスタ等のデバイスに応用することができる。
(液晶性有機化合物の製造方法)
本発明の液晶性有機化合物の製造方法は、上記本発明の液晶性有機化合物の製造方法であって、液晶性有機化合物を合成する工程と、合成された液晶性有機化合物をプロトン性極性溶媒、非プロトン性極性溶媒、塩基性溶媒、ハロゲン化炭化水素溶媒、及び無極性性溶媒から選ばれる少なくとも2種以上の溶媒を用いて再結晶法により精製する工程と、を有する。なお、本発明において、液晶性有機化合物を合成する工程は、合成しようとする液晶性有機化合物の種類によっても異なるが、例えば後述する実施例の方法を挙げることができる。
再結晶のための混合溶媒としては、プロトン性極性溶媒、非プロトン性極性溶媒、塩基性溶媒、ハロゲン化炭化水素溶媒、及び無極性性溶媒から選ばれる少なくとも2種以上の溶媒が用いられる。2種類以上の単体溶媒を順番に用いる再結晶法、又は2種以上の混合溶媒による再結晶法のどちらでも構わない。特に、液晶性有機化合物の溶解度が高温において十分に高く、且つ室温付近での溶解度が十分低いものであることが好ましく、さらに再結晶の操作によって合成過程等の不純物が除去されるものが特に好ましい。このような特性を持つ溶媒としては、以下、再結晶に用いる溶媒を例示するが、特にこれらの溶媒に限定されない。
再結晶のための混合溶媒を構成できるプロトン性極性溶媒としては、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、酢酸等を挙げることができる。また、非プロトン性極性溶媒としては、トルエン、o-キシレン、m−キシレン、p−キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン、ジフェニルエーテル、石油エーテル、等のエーテル類、ぎ酸メチル、ぎ酸エチル、ぎ酸ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、N,N-ジメチルホルミアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、テトラメチル尿素等のアミド系、ジメチルスルホキシド、スルホラン、ヘキサメチルホスホロアミド等の硫黄系、その他、アセトニトリル等を挙げることができる。また、塩基性溶媒としては、ピリジン、α―ピコリン、2,6−ルチジン、N―メチルモルホリン等を挙げることができる。また、ハロゲン化炭化水素溶媒としては、o-クロロベンゼン、m-クロロベンゼン、p−クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等を挙げることができる。また、無極性溶媒としては、ベンゼン、シクロヘキサン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ペンテン等を挙げることができる。
本発明においては、これらの溶媒を2種以上用いることにより、溶解性の異なる不純物をプロトン性極性溶媒、非プロトン性極性溶媒、塩基性溶媒、ハロゲン化炭化水素溶媒、及び無極性性溶媒から選ばれる少なくとも2種以上の溶媒に溶解させることができる。その結果、1種類の溶媒で多重再結晶をするよりも、再結晶を効率的に行うことができる。
これらのうち、特に好ましい再結晶溶媒として、ヘキサン(無極性溶媒)、エタノール(プロトン性極性溶媒)、アセトン(非プロトン性極性溶媒)等を挙げることができる。
再結晶は、公知の方法で実施することができ、再結晶で得られた結晶は、濾過、洗浄後、適当な方法で乾燥される。再結晶工程中に吸着剤と接触させる工程を含ませてもよく、そうすることにより、さら不純物を低減することができる。その方法として、溶液中に吸着剤を添加して撹拌を行うバッチ法、カラム中に充填した吸着剤層に溶液を通す流通法のいずれによっても好適に実施される。吸着剤としては、活性炭、アルミナ、シリカ、ゼオライト、等が好適に使用されるが、活性炭が特に好ましい。
液晶性有機化合物を合成する工程及び合成された液晶性有機化合物に対して、本精製による精製をしなければ、イオン化した有機分子自身が実際に媒質の中を移動する不純物となり、1.0×10−5cm2/V・s以下のイオン伝導が支配的になってしまう。このとき、TOFによる移動度の測定の際に、時定数の遅れによる過渡光電流波形を、速い領域のトランジットタイムと誤って解釈しないよう注意することが必要であり、過渡光電流波形を速い領域をトランジットタイムと解釈すると、1.0×10−3cm2/V・s以上の移動度と誤ってしまう恐れがあるためである。
以上、本発明の液晶性有機化合物の製造方法によれば、合成された液晶性有機化合物を、プロトン性極性溶媒、非プロトン性極性溶媒、塩基性溶媒、及びハロゲン化炭化水素溶媒、無極性性溶媒から選ばれる少なくとも2種以上の溶媒で再結晶法により精製するので、電荷移動度を低下させる原因となる不純物を効果的に除去することができる。その結果、少なくとも室温を含む温度範囲で液晶相を示すと共に高い電荷移動度の発現を可能にする液晶性有機化合物を効率的に製造することができる。
次に、実施例と比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例には限定されない。
(実施例1)
<2-(4´-ノニルオキシフェニル)ドデシルベンゾチアゾール(以下、9O−PBTと略記する)の合成>
DMSO(ジメチルスルホキシド )溶媒(50ml)、4-ヒドロキシベンズアルデヒド(20mmol、2.4g)及び炭酸ナトリウム(24mmol、2.1g)を入れた反応容器に、1-ヨードノナン(24mmol、6.1g)とDMSO(10ml)を加え、80℃で24時間攪拌した。反応終了後、酢酸エチルで抽出を行い、カラムで単離し、収率84%(収量4.1g)で、p-ノニルオキシベンズアルデヒドを得た。
次に、o-アミノ-チオフェノール(10.3mmol、1.6g)及びp-ノニルオキシベンズアルデヒド(8.61mmol、2g)にDMSO(30ml)を加えて150℃で6時間攪拌した。反応終了後、内容物をろ過し、冷水で希釈した。析出した固体を酢酸エチルで抽出し、カラム(ヘキサン:酢酸エチル=10:1)で単離し、さらに活性炭処理をした後にアセトンで再結晶し、収率50%(収量1.73g)で、9O−PBTを得た。
得られた9O−PBTについて、DSC(示差型走査熱分析)で相転移温度を測定した結果、降温下で「Iso(等方相)/75.1℃/SmA(スメクティックA相)/59.6℃/Cryst(結晶相)」であった。各相間の温度は、相転移温度を示している。液晶相の同定はX線回折で行なった。
液晶セルとしては、真空成膜によりITO電極(表面抵抗100〜200Ω/□)を設けたセルギャップ15μmのガラス基板を用いた。液晶セルへの注入に際し、ヘキサン、エタノール、アセトンの順で再結晶を行って9O−PBTを精製した。精製した試料の液晶セルへの注入は、ホットプレート上で加熱した液晶セルに等方相にまで昇温した試料を毛細管現象を利用してセルにしみ込ませた。移動度の測定は、光源337nmの窒素レーザーを使用して液晶相でTime of Flight法による測定を行なった。このとき、SmAでの正孔の移動度は7×10−4cm2/V・s以上であった。
(実施例2)
<2-(4´-ドデシルオキシフェニル)ドデシルベンゾチアゾール(以下、12O−PBTと略記する)の合成>
DMSO溶媒(50ml)、4-ヒドロキシベンズアルデヒド(20mmol、2.4g)及び炭酸ナトリウム(24mmol、6.1g)を入れた反応容器に、1-ヨードドデカン(24mmol、2.1g)とDMSO(10ml)を加え、80℃で24時間攪拌した。反応終了後、酢酸エチルで抽出を行い、カラムで単離し、収率83%(収量5.8g)で、p-ドデシルオキシベンズアルデヒドを得た。
次に、o-アミノ-チオフェノール(10.3mmol、1.6g)及びp-ドデシルオキシベンズアルデヒド(8.61mmol、2.5g)にDMSO(30ml)を加えて150℃で6時間攪拌した。反応終了後、内容物をろ過し、冷水で希釈した。析出した固体を酢酸エチルで抽出し、カラム(ヘキサン:酢酸エチル=10:1)で単離し、活性炭処理をした後にアセトンで再結晶し、収率60%(収量2g)で、12O−PBTを得た。
得られた12O−PBTについて、DSC(示差型走査熱分析)で相転移温度を測定した結果、降温下で「Iso(等方相)/84℃/SmA(スメクティックA相)/64℃/Cryst(結晶相)」であった。各相間の温度は、相転移温度を示している。液晶相の同定はX線回折で行なった。
液晶セルとしては、真空成膜によりITO電極(表面抵抗100〜200Ω/□)を設けたセルギャップ15μmのガラス基板を用いた。液晶セルへの注入に際し、ヘキサン、エタノール、アセトンの順で再結晶を行って12O−PBTを精製した。精製した試料の液晶セルへの注入は、ホットプレート上で加熱した液晶セルに等方相にまで昇温した試料を、毛細管現象を利用してセルにしみ込ませた。移動度の測定は、光源337nmの窒素レーザーを使用して液晶相でTime of Flight法による測定を行なった。このとき、SmAでの正孔の移動度は6×10−4cm2/V・s以上であった。
(比較例1)
<2-(4´-ヘプチルオキシフェニル)ベンゾチアゾール(以下、7O−PBTと略記する)の合成>
DMSO溶媒(50ml)、4-ヒドロキシベンズアルデヒド(20mmol、2.4g)及び炭酸ナトリウム(24mmol、2.1g)を入れた反応容器に、1-ヨードヘプタン(24mmol、5.4g)とDMSO(10ml)を加え、80℃で24時間攪拌した。反応終了後、酢酸エチルで抽出を行い、カラムで単離し、収率77%(収量3.4g)で、p-ヘプチルオキシベンズアルデヒドを得た。
次に、o-アミノ-チオフェノール(14.8mmol、1.85g)及びp-ヘプチルオキシベンズアルデヒド(12.3mmol、2.7g)にDMSO(30ml)を加えて150℃で6時間攪拌した。反応終了後、内容物をろ過し、冷水で希釈した。析出した固体を酢酸エチルで抽出してカラム(ヘキサン:酢酸エチル=10:1)で単離し、活性炭処理をし、た後にアセトンで再結晶し、収率42%(収量1.68g)で、7O−PBTを得た。
得られた7O−PBTについて、DSC(示差型走査熱分析)で相転移温度を測定した結果、降温下で「Iso/73.6℃/Cryst」であり、液晶相は発現しなかった。この生成物は、90−PBTと比較して、アルキル鎖が短くなり液晶の発現が不安定となったため液晶相が発現しなかったと考えられる。
(比較例2)
<(ビス[4´-(ベンゾチアゾール-2-イル)フェノキシ]ドデカン)(以下BTP−O12O−PBTと略記する)の合成>
DMSO溶媒(50ml)、4-ヒドロキシベンズアルデヒド(20mmol、2.4g)及び炭酸ナトリウム(20mmol、2.1g)を入れた反応容器に、1,12-ジブロモドデカン(16.6mmol、5.4g)とDMF(N,N-ジメチルホルムアミド)(10ml)を加え、120℃で24時間攪拌した。反応終了後、冷水を加え析出した沈殿物をカラムで単離した後、メタノールで再結晶し、収率73.5%(収量5g)で1,12-ビス(4-ホルミルフェノキシ)ドデカンを得た。
次に、o-アミノ-チオフェノール(12.7mmol、1.59g)及び1,12-ビス(4-ホルミルフェノキシ)ドデカン(5.3mmol、2g)にDMSO(30ml)を加えて150℃で6時間攪拌した。反応終了後、内容物をろ過し、冷水で希釈した。析出した固体を酢酸エチルで抽出し、さらに活性炭処理した後、クロロベンゼンで再結晶して、収率40%(収量1.3g)でBTP−O12O−PBTを得た。
得られたBTP−O12O−PBTについて、DSC(示差型走査熱分析)で相転移温度を測定した結果、降温下で「Iso/166℃/Cryst」であり、液晶相は発現しなかった。
(参考例1)
実施例1において、再結晶をヘキサンのみで行った以外は、実施例1と同様にして、収率50%(収量1.73g)の9O−PBTを得た。
実施例1と同様に、液晶セルとしては、真空成膜によりITO電極(表面抵抗100〜200Ω/□)を設けたセルギャップ15μmのガラス基板を用いた。液晶セルへの注入に際し、ここでは、ヘキサン1種類のみで再結晶を行って9O−PBTを精製した。精製した試料の液晶セルへの注入は、ホットプレート上で加熱した液晶セルに等方相にまで昇温した試料を、毛細管現象を利用してセルにしみ込ませた。移動度の測定は、光源337nmの窒素レーザーを使用して液晶相でTime of Flight法による測定を行なった。しかしながら、ヘキサン1種類のみの再結晶では不純物が除去しきれず、電気伝導はイオン伝導が支配的であり、SmAでの正孔の移動度は1×10−5cm2/V・s以下であった。
(評価方法及び結果)
相転移温度の測定には、DSC(示差型走査熱分析、セイコー電子工業DSC220C)を用いた。このDSC測定において、昇温条件及び降温条件は、いずれも5℃/minで行った。液晶相の同定には、ホットステージ付きX線回折装置(RIGAKU RAD-B,理学電気製)を用いた。
電荷移動度の測定は、図4に示す装置を用い、励起光として窒素パルスレーザーを用い、Time of flight法による測定を各液晶相で行った。より詳しくは、液晶セルに注入された試料に電界を印加し、窒素パルスレーザーを照射すると、試料が照射光に対して十分に大きな吸光係数を持ち、かつ、キャリアが効率的に生成すれば、励起光は電極界面付近にのみ生成し、その分布がデルタ関数的となる。生成したキャリアは電界との相互作用により試料中をドリフトし、その際に外部回路に変位電流(過渡光電流)が誘起される。キャリアが対向電極に到達すると、変位電流は0に減衰する。ここで得られた過渡光電流波形の変曲点がtransit time tTに対応する。試料の厚さをdとし、電界強度をE、印加電圧をVとすると、移動度μは、図4中の式で表される。本願での過渡光電流の測定には、励起光として、N2-dye laser (Laser photonics LN203C, wavelength = 337nm, pulse width = 600ps, and power = 40 μJ/pulse)を用い、直流電源として菊水PAV 250を用いた。生じた変位電流はpreamplifier (Princeton applied research Model 115, 内部抵抗50Ω)により増幅し、digital oscilloscope (Nicolet, Pro92) に記録・解析した。
表3は、測定された電荷移動度の結果である。表3によれば、片側にのみアルキル鎖を持つ本発明に係る液晶性有機化合物のコア部にベンゾチアゾール環を用いることにより、従来のイオン伝導と比較して電荷移動度の向上が見られた。一方、実施例1と比較例1を比較すると、実施例1の9O−PBTは液晶相が発現したのに対して、アルキル鎖を短くした比較例1の70−PBTに関しては液晶相が発現しなかった。アルキル鎖の長短により液晶相の発現のしやすさ及びしにくさがあることが分かった。
更に、従来の液晶有機化合物はコア部の両側鎖にアルキル鎖があるのに対して、比較例2においてはアルキル鎖の両側にコア部を導入し、事実上、実施例2のダイマー骨格とした。しかしながら液晶相は発現しなかった。このことから、コア部に対して少なくとも1つ以上のアルキル側鎖が液晶相の発現に必要であることが分かった。
一方、実施例1と参考例1を比較すると、参考例1のように1種類の溶媒による再結晶よりも、実施例1のように3種類の溶媒を用いた方が精製に効果があることが分かった。