JP4983911B2 - シンチレータパネルの製造方法及びシンチレータパネル用基板の厚さの下限設定方法 - Google Patents

シンチレータパネルの製造方法及びシンチレータパネル用基板の厚さの下限設定方法 Download PDF

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Description

本発明は、可とう性を有するシンチレータパネルおよび該シンチレータパネルの製造方法に関する。
X線画像のような放射線画像は、医療現場において病状の診断に広く用いられている。近年では、放射線検出器を用いた放射線イメージングシステムが普及してきている。このシステムは、放射線検出器による2次元の放射線による画像データを電気信号として取得し、この信号を処理することでモニタ上へ表示させる。
シンチレータパネルは基板側から入射した放射線を光に変換する役割を果たす。1990年代に放射線画像の撮影装置として開発されたFPD(Flat Panel Detector)は、シンチレータパネルと撮像素子を組み合わせた放射線検出器である。この時、シンチレータの材料としてはヨウ化セシウム(CsI)がよく用いられる。CsIはX線から可視光への変換率が比較的高く、蒸着によって容易に柱状結晶構造を形成できるため、光ガイド効果により発光光の散乱を抑えることができる。
しかしながら、一般にシンチレータパネルは図4に示すような蒸着装置で700℃のCsI蒸気にさらされ、かつ上下を逆にして蒸着されるため、基板の変形がない0.5mm厚さ程度のAlやアモルファスカーボンが用いられる。しかし、シンチレータパネルは受光素子のフォトダイオードアレイに接しておかれて上からスポンジを通して受光素子側に押し付けられる。この時、Alやアモルファスカーボンのような、押し付けられても変形しない基板を用いるよりも、受光素子側の形状にしたがって、シンチレータパネルが変形できれば、シンチレータ〜受光素子間の距離が最短に保たれ、光伝達効率が低下しないフラットパネルデテクタが得られる。もし、シンチレータパネルが受光素子の凹凸の形状に合わせて変形できる(可とう性を有する)ならば、光伝達効率が低下しないフラットパネルデテクタが得られることになる。ここで可とう性とは、基板の4辺のうち1辺を固定したときに固定辺より10cmはなれた点で基板の自重による重力で2mm以上基板が垂れ下がる(固定辺の高さよりも低くなる)ものを指す。
シンチレータパネルの基板を変形可能にする技術については既に基板にフレキシブル基板を用いるという技術が開示されている(特許文献1参照)。しかしながら、この技術では光検出器自体もフレキシブルに変形することになっている。医用では、FPDのように人体と同じ大きさが必要なため、現在の技術では液晶パネル製造技術を流用してガラス基板上に光検出器を形成している。この場合は、光検出器自体は変形することはできない。
実開平5−11301号公報
このような問題点に対し、本発明者らはシンチレータパネルの基板を樹脂基板にすることで基板のみに可とう性を付加することで、上記問題のないシンチレータパネルの開発を検討していた。ところが、その開発検討中に、変形の問題がなかった小型の基板と同じ可とう性の基板を用いても、大型の基板ではその変形が大きくなり、基板の一部を保持した場合、基板の他の部分が垂れ下がり、CsI結晶にひびが入り、シンチレータパネルが破損してしまうという問題が発生することを見出した。
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、本発明の目的は、大型化した可とう性を有する樹脂基板を用いても、基板の変形が大きくならず、ハンドリングがしやすく、基板の変形が大きくなることに起因する蛍光体層の破損、画質の劣化という問題のない、可とう性を有する樹脂基板を用いたシンチレータパネルおよび該シンチレータパネルの製造方法を提供することにある。
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
1.可とう性を有する樹脂基板であるポリイミド(PI)またはポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムの上に蒸着により100μm厚以上1000μm以下または1cm当たりの重さ45mg以上675mg以下の蛍光体層を有するシンチレータパネルの製造方法であって、前記可とう性を有する樹脂基板を、10cm角では片側を保持した際変形が7mm以下、辺をacm、辺をbcmとすると、厚の下限を75×{a/(10×b)}1/3μm(a、bは共に10以上)に設定したことを特徴とするシンチレータパネルの製造方法
2.蒸着により100μm厚以上1000μm以下または1cm当たりの重さ45mg以上675mg以下の蛍光体層を有し、可とう性を有する樹脂基板であるポリイミド(PI)またはポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムを用いたシンチレータパネルが、蛍光体側は下記の群Aから選ばれる第1の保護フィルム、基板側は下記の群Aから選ばれる第2の保護フィルムで覆われており、前記第1の保護フィルムと前記第2の保護フィルムがシンチレータパネルに少なくとも一部は密着しているシンチレータパネルの製造方法であって、前記可とう性を有する樹脂基板を、10cm角では片側を保持した際変形が7mm以下とし、長辺をacm、短辺をbcmとすると、前記可とう性を有する樹脂基板と第1、第2の保護フィルムの厚さの合計の下限を75×{a/(10×b)}1/3μm(a、bは共に10以上)に設定したことを特徴とするシンチレータパネルの製造方法
群A:ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)、ポリエステルフィルム、ポリメタクリレートフィルム、ニトロセルロースフィルム、セルロースアセテートフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、または、これらフィルムに金属酸化物などを蒸着した蒸着フィルムを複数枚積層した構成のフィルム
3.前記蛍光体層が柱状結晶であることを特徴とする1又は2に記載のシンチレータパネルの製造方法
4.前記蛍光体層がCsI(ヨウ化セシウム)であることを特徴とする1〜3のいずれか1項に記載のシンチレータパネルの製造方法
5.蒸着により100μm厚以上1000μm以下または1cm 当たりの重さ45mg以上675mg以下の蛍光体層を有するシンチレータパネル用可とう性を有する樹脂基板であるポリイミド(PI)またはポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムの厚みの下限設定方法であって、前記樹脂基板を、10cm角では片側を保持した際変形が7mm以下、辺をacm、辺をbcmとすると、厚さの下限を75×{a /(10×b)} 1/3 μm(a、bは共に10以上)と設定することを特徴とするシンチレータパネル用基板の厚さの下限設定方法。
本発明によれば、大型化した可とう性を有する樹脂基板を用いても、基板の変形が大きくならず、ハンドリングがしやすく、基板の変形が大きくなることに起因する蛍光体層の破損、画質の劣化という問題のない、可とう性を有する樹脂基板を用いたシンチレータパネルおよび該シンチレータパネルの製造方法を提供することができる。
封止場所の異なる、本発明のシンチレータパネルの例を示す概略平面図。 図1(a)のA−A’に沿った概略断面図。 本発明の構成、効果を示す説明図。 本発明に用いた模式的CsI蒸着装置の一例を示す概略断面図。 本発明のシンチレータパネルの一例を示す概略断面図。
符号の説明
1a〜1c シンチレータパネル
101 シンチレータプレート
101a、3 基板
101b 蛍光体層
102a、104 第1保護フィルム(第1保護膜)
102b 第2保護フィルム(第2保護膜)
103a〜103d、105a、105b、107a〜107c 封止部
108 ポリパラキシリレン
2 蒸着装置
201 真空容器
202 蒸発源(抵抗加熱ルツボ)
203 基板ホルダ
204 基板回転機構
205 真空ポンプ(ポンプP)
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明するが、本発明はこれらに限定されない。
以下、本発明について詳述する。本発明のシンチレータは以下の構成を有する。構成要件として、図2を用いて説明する。
(基板)
基板101aとしてはスポンジで押圧することでシンチレータパネルが平面受光素子面形状に合った形状に変形し、放射線フラットパネルデテクタの受光面全体で均一な鮮鋭性が得られるように、可とう性を有する高分子フィルムが用いられる。蛍光体層蒸着時の耐熱性の観点からポリイミド(PI)またはポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムが好ましい。
本発明に係る可とう性を有する樹脂基板における可とう性とは、図3に示すような配置で、基板の4辺のうち1辺を固定したときに固定辺より10cmはなれた点で2mm以上基板が基板自身の重さにより垂れ下がる(固定辺の高さよりも低くなる)ことを指す。
(反射層)
基板101aの蛍光体101b側には、反射層が用いられる場合がある。反射層は蛍光体で変換された光の内、基板がわへ出た光を受光素子側へ反射し、シンチレータパネルの輝度を上げるためのものである。外部へ出射するため反射層として機能させることが可能であり、発光光の利用効率の面で導電性金属反射層は反射率の高い金属で形成することが好ましい。通常はアルミニウム(Al)のスパッタ膜が用いられる。
(透明絶縁膜)
反射層と蛍光体101bの間には、反射層金属(例えばAl)の腐食を防ぐため、透明絶縁膜からなる保護膜を設ける場合がある。透明絶縁膜は溶剤に溶解した樹脂を塗布、乾燥して形成することが好ましい。ガラス転位点が30〜100℃のポリマーであることが蒸着結晶と基板との膜付の点で好ましく、具体的には、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、ポリアミド樹脂、ポリビニルブチラール、ポリエステル樹脂、セルロース誘導体(ニトロセルロース等)、スチレン−ブタジエン共重合体、各種の合成ゴム系樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノキシ樹脂、シリコン樹脂、アクリル系樹脂、尿素ホルムアミド樹脂等が挙げられるが、特にポリエステル樹脂であることが好ましい。
透明絶縁膜の膜厚としては接着性の点で0.1μm以上が好ましく、透明絶縁膜表面の平滑性確保の点で3.0μm以下が好ましい。より好ましくは透明絶縁膜の厚さが0.2〜2.5μmの範囲である。
透明絶縁膜作製に用いる溶剤としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノールなどの低級アルコール、メチレンクロライド、エチレンクロライドなどの塩素原子含有炭化水素、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン、トルエン、ベンゼン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、キシレンなどの芳香族化合物、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの低級脂肪酸と低級アルコールとのエステル、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエステル、エチレングリコールモノメチルエステルなどのエーテル及びそれらの混合物を挙げることができる。
(蛍光体層)
本発明に係る蛍光体層101bの蛍光体とは、X線等の入射された放射線のエネルギーを吸収して、波長が300nmから800nmの電磁波、即ち可視光線を中心に紫外光から赤外光に亘る電磁波(光)を発光する蛍光体をいう。
蛍光体を形成する材料としては、種々の公知の蛍光体材料を使用することができるが、X線から可視光に対する変更率が比較的高く、蒸着によって容易に蛍光体を柱状結晶構造に形成できるため、光ガイド効果により結晶内での発光光の散乱が抑えられ、蛍光体層の厚さを厚くすることが可能であることから、ヨウ化セシウム(CsI)が好ましい。CsIのみでは発光効率が低いために各種の賦活剤が添加されることが更に好ましい。
例えば、特公昭54−35060号公報の如く、CsIとヨウ化ナトリウム(NaI)を任意のモル比で混合したものが挙げられる。また、例えば、特開2001−59899号公報に開示されているようなCsIを、蒸着でインジウム(In)、タリウム(Tl)、リチウム(Li)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、ナトリウム(Na)などの賦活剤を含有するCsIが好ましい。
なお、特に1種類以上のタリウム化合物を含む賦活剤とヨウ化セシウムとを原材料とすることが好ましい。即ち、タリウム賦活ヨウ化セシウム(CsI:Tl)は400nmから750nmまでの広い発光波長を持つことから好ましい。本発明において、1種類以上のタリウム化合物を含有する賦活剤のタリウム化合物としては、種々のタリウム化合物(+Iと+IIIの酸化数の化合物)を使用することができる。本発明において、好ましいタリウム化合物は臭化タリウム(TlBr)、塩化タリウム(TlCl)、またはフッ化タリウム(TlF、TlF)等である。
本発明に係る蛍光体において、当該賦活剤の含有量は目的性能等に応じて最適量にすることが望ましいが、ヨウ化セシウムの含有量に対して0.001〜50mol%、更に0.1〜10.0mol%であることが好ましい。ヨウ化セシウムに対し賦活剤が0.001mol%以上であることで発光輝度を改善することができ、また、50mol%以下であることでヨウ化セシウムの性質、機能を保持することができて好ましい。
本発明において、本発明に係る蛍光体層は、100μm厚または1cm当たりの重さ45mg以上である。100μm厚または1cm当たりの重さ45mg以上であり、かつ、1500μm厚または1cm当たりの重さ675mg以下であることが好ましく、150μm厚または1cm当たりの重さ67.5mg以上であり、かつ、700μm厚または1cm当たりの重さ315mg以下であることがより好ましい。100μm厚または1cm当たりの重さ45mg以上であることにより、必要な画像が得られるだけのX線吸収と蛍光体の発光量を得ることができて好ましく、かつ、1500μm厚または1cm当たりの重さ675mg以下であることにより、X線を吸収して発光した450〜700nmの光を吸収したり、散乱して画像の輝度、解像度が劣化してしまうことがなくて好ましい。
(保護フィルム(以下、保護膜ともいう。))
保護膜102a、102bは蛍光体層を防湿し、蛍光体層の劣化を抑制するためのもので、透湿度の低いフィルムから構成される。例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)を用いることができる。PETの他には、ポリエステルフィルム、ポリメタクリレートフィルム、ニトロセルロースフィルム、セルロースアセテートフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム等を用いることができる。また、必要とされる防湿性にあわせて、これらフィルムに金属酸化物などを蒸着した蒸着フィルムを複数枚積層した構成とすることもできる。
また、シンチレータシートの基板側と蛍光体層側の互いに対向する面には、互いを熱融着して封止するための熱融着性の樹脂が用いられることが好ましい。熱融着層としては、一般に使用されるインパルスシーラーで融着可能な樹脂フィルムを使用できる。例えば、エチレン酢酸ビニルコポリマー(EVA)やポリプロピレン(PP)フィルム、ポリエチレン(PE)フィルム等が挙げられるが、これに限られたものではない。
シンチレータシートを上下の保護膜で挟み、減圧雰囲気中で上下の保護膜が接触する端部を融着することにより封止することができる。封止部を103b、103dに示す。本発明において、保護膜としてフィルムを用いたが、耐湿性を有する、ポリパラキシリレンなどの有機膜、無機膜を堆積してもよい。また、上下の保護膜を別々に分けずに1回の成膜で堆積してもよい。
本発明において、保護膜の厚さは10〜100μmであることが好ましい。
本発明においては、保護膜は防湿性が付与されているが、具体的には前記保護層の透湿度(水蒸気透過率ともいう)が50g/m・day以下であることが好ましく、更に好ましくは10g/m・day以下であり、特に好ましくは1g/m・day以下である。ここで、保護層の透湿度はJIS Z 0208により規定された方法を参照して測定することができる。
具体的には、本発明における透湿度は以下の方法で測定することができる。40℃において、前記保護膜を境界面とし、一方の側を90%RH(相対湿度)、他方の側を吸湿剤を用いて乾燥状態に保つ。この状態で24時間にこの保護膜を通過する水蒸気の質量(g)(保護膜を1mに換算する)を本発明における保護膜の透湿度と定義する。
保護膜の透湿度を上記の範囲に調整し、防湿性を向上させる観点から、ポリエチレンテレフタレートフィルムやポリエチレンテレフタレートフィルム上に酸化アルミナ薄膜を蒸着した蒸着フィルムが好ましく用いられる。
(蛍光体層の形成)
本発明に係る蛍光体層は、図4に模式的に示す蒸着装置によって形成することができる。CsIの膜厚はX線吸収に最低限必要な膜厚でよく、医用では20〜125keVが用いられることを考えると100〜1000μmを考えればよい。
(シンチレータパネルの形成)
基板上に蛍光体層を設けたシンチレータシートは、シンチレータシートを上下の保護膜で挟み、減圧雰囲気中で上下の保護膜が接触する端部を融着することにより封止し、シンチレータパネルの形成することができる。
図1(a)〜(c)に封止場所の異なる、本発明のシンチレータパネルの概略平面図を示す。
我々は、本発明にある可とう性樹脂基板を用いて、シンチレータパネルを作製する際、以下の困難に遭遇した。まず我々は10cm角のPI(ポリイミド)厚さ75μmの基板を用いてCsIを蒸着法にて100μm〜1000μm堆積し、図2にあるようなフィルム封止を行った。この場合、CsIの蒸着〜フィルム封止またはそれ以降の組み立て作業の際に、PIフィルム(基板)が変形し、折れてしまうことはなかった。このときPIフィルムの可とう性としては、10cm角の片側辺を押さえて10cm先が7mm頭を下げる程度であった。
しかしながら、10cmよりも大きい、15cm角、20cm角、30cm角の基板を作製しようとすると、同じ100μm膜厚のCsIを堆積しているのにもかかわらず、基板の変形量が予測しているより大きくなった。例えば、蒸着→封止のハンドリング時、封止以降のハンドリング時に基板の片側または両側を手で持っただけで、基板が下に変形し、その結果CsI柱状結晶に折れ目等の傷がつき、シンチレータパネルの画質が損なわれるという問題が発生した。CsIは膜状でなく柱状に成長する結晶であり、この点もCsIが変形しやすかった原因の一つであると考えられる。
これについて、考察を行ったのが、図3である。長辺a、短辺bの基板でWの荷重が基板の先にかかるとすると、その時のたわみ量yの関係は、
たわみ量y=(W・a)/(3・E・L)・・・・・式(1)
ここで、Eは基板のヤング率(引っ張り弾性率)でポリイミドであれば4.6×10kg/cmである。また、Lは断面の2次モーメントであり、図3(b)のような長方形の場合はbを幅、hを厚さとすると、2次モーメントは、
L=b・h/12・・・・・式(2)
で表される。
式(1)を元に、可とう性基板を用いる場合、蛍光体層による重み付加による変形を防ぐための、基板の大きさと厚さの関係を考えてみる。今、CsIの密度は4.51g/cmであるので、100μm膜厚のCsIの単位面積当たりの重さは45mg/cmとなる。本発明では100μm厚以上のCsIを堆積した場合、10cm以上の大きさの可とう性基板がCsI層を傷つけるような変形をしないためには、基板の厚さをどのように設定すればよいかを示したものである。本発明の範囲の蛍光体の重さは10cm基板で基板がある程度剛性を有し、変形でCsIが傷つかない範囲である。
まず、CsIの膜厚は100μm〜1000μmであるので、蛍光体層の重さはCsIの密度が4.51g/cmであることを考えて、(1cm×1cm×0.01cm×4.51g/cm=45.1mg)/cm〜(1cm×1cm×1cm×4.51g/cm=451mg)/cmであることからして、45〜451mg/cmがCsIの単位面積当たりの重さである。この範囲の重さのCsIが10cm角ポリイミド基板に蒸着された場合、ポリイミド基板ではハンドリング時に可とう性の変形によるCsIの破損がなかった。
また、この時用いたポリイミド基板の変形量はa=10cm、b=10cmの大きさでCsI600μmを堆積後、h=75μm、y=7mmであった。より大型の基板を用いた実験において、基板の変形でCsIが破損するのは、式(1)、(2)で基板の大きさが、長辺がa、短辺がbであったとすると、式(2)を(1)に代入して、
y=(W×a×4)/(E×b×h)・・・・・式(3)
yが基板の変形と関係する物理量である。すなわちyがある値を超えると、CsIを堆積した基板のそりが大きくなり、CsIが破損すると考えられる。今、式(1)、(2)で基板の大きさが、長辺がea、短辺がfbになったとする(長辺がe倍、短辺がf倍)と式(3)のaにea、bにfbを代入して、
y=(W×e×a×4)/(E×f×b×h)・・・・・式(4)
となる。すなわち長辺をe倍すると、そり量yはeの3乗で大きくなってしまう。では、長辺をe倍したときに、CsIの破損の確率をe倍する前と同一にするためにはどうしたらよいかというと、基板の変形量yと基板の長い辺の比率が一定になればよい(単位長さあたりの変形量が長辺をe倍する前と同じになるようにすればよい。)のでyもe倍、すなわち
y=e×(W×a×4)/(E×b×h)・・・・・式(5)
であればよい。CsIの破損の確率を、長辺をe倍する前より小さくするには、式(4)での右辺の値が≦eyならよいわけなので、
ey≧(W×e×a×4)/(E×f×b×h)・・・・・式(6)
ここで、このとき厚さhはc倍してchでなければいけないとするとhの場所にchを代入して
ey≧(W×e×a×4)/(E×f×b×(ch))・・・・・式(7)
これを(ch)について解いて
(ch)3≧(W×e×a×4)/(E×f×b×(ey))・・・・・式(8)
ここでyに式(3)を代入して整理すると、
(ch)≧e×h/f・・・・・式(9)
すなわち
c≧(e/f)1/3・・・・・式(10)
のように厚さhを大きくしていけばよいことになる。今、75μm厚さの10cm角の基板について、CsIの破損がなかったので、少なくとも厚さhとして75μmは下限としてよい。ここから長辺をe倍、短辺をf倍したときに、厚さをc≧(e/f)1/3倍しないとCsIの破損が起こることになるので、hとしては75×c=75×(e/f)1/3の厚さ以上にしないといけないことになる。e,fは10cmに対して何倍になっているかであるから、a,bをcm単位の実際の長さで表すとすると、e=a/10、f=b/10とすればよいので、
ch≧75×{a/(10×b)}1/3μm・・・・・式(11)
となる。
上式の要点は、10cm角では片側を保持した際7mmの変形ですむ樹脂基板でも、基板をa倍の長さにすると変形量yは式3よりaの3乗で効いてくるため、変形は3乗倍で起こる。これをa倍ですませる(蛍光体の膜折れのない変形量)には、上述の議論により、
膜厚ch=75×{a/(10×b)}1/3μm・・・・・式(11)
の式に従ってc倍に厚くすれば、これまでと同じ取り扱いができ、蛍光体の折れ等の損傷がなくなる。
基板の厚さの上限はX線吸収率で考えればよい。今20kVの領域でのX線透過率を90%程度以上確保するには、ポリイミド膜厚は1mm以下とすればよい。
以上ポリイミドを例に本発明を説明したが、本発明においては、可とう性を有する樹脂基板として、例えば、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)がある。PIと似た弾性率をもつ樹脂基板には前記の考察を適用することが可能である。また、これらの樹脂基板は透明であり、光伝達効率がよいことから蛍光体パネルの支持体として好ましい。本発明においてはポリイミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)が特に好ましい。
また、本発明では請求の範囲2で述べたように、保護フィルムと基板が減圧雰囲気下で、ある面の粗さを有して接しているときは、保護フィルムと基板の摩擦力により一体化したものと考えられるので、基板の厚さの代わりに基板と基板に接している第2の保護フィルムの厚さの合計をhとし、(11)式を当てはめればよい。すると封止後の可とう性による変形からCsI層を守ることが出来る。
また、保護膜にポリパラキシリレン等の基板と一体化する膜を用いた場合は、蛍光体側の保護膜、基板、基板側の保護膜の厚さの合計をhとし、(11)式を当てはめればよい。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
実施例1
図2に示す20cm角の基板101aに必要なポリイミド膜厚を(11)式を用いて94μmとした。また、別の43cm角の基板101aでポリイミド膜厚を122μmとし、それぞれ、その上にAl(アルミニウム)を70nmスパッタした。次に、反射層と蛍光体101bの間に反射層金属(Al)の腐食を防ぐため、透明絶縁膜(ポリエステル)からなる保護膜を約1μm設ける。次に、基板を図4に示す蒸着装置にセットする。
図4に模式的CsI蒸着装置の一例の断面図を示す。CsIをTa製抵抗加熱ルツボ202に充填した。次に、ポリイミド樹脂の基板3を10mm厚のAl板の支持体203に機械的に固定し、回転する。その次に、支持体と抵抗加熱ルツボ(蒸発源)との間隔を400mmに調節した。続いて、蒸着装置内をポンプP(真空ポンプ)で排気した後、Arガスを導入して0.5Paに真空度を調整した。次いで、10rpmの速度で支持体を回転しながら、支持体の温度を200℃に保持し、その後、抵抗加熱ルツボを加熱して蛍光体を蒸着し、蛍光体層の膜厚が600μmとなったところで蒸着を終了させた。その後、CsI蛍光体600μm(270mg/cm)がついた基板3を蒸着装置からはがし、保護膜作製装置まで移動する。このはがす過程、ないしは移動する過程でハンドリング上の問題で基板の片側のみを保持するまたは対向する2辺のみを保持する際、20cm角75μm厚の基板であると10cm角75μm厚の基板に比べ、式(1)、(2)より、長さのa/b=2乗分2=4倍変形する、43cm角であると(4.3)=18倍変形するため、基板が折れやすく、その結果CsI層に傷が入り、画像欠陥のもととなる。本発明では、基板の厚さを式(11)に従ってスケーリングすることにより、20cmであっても43cmであっても基板の変形量を長さに比例するようにしたことにより、長さと変形量の比を基板の大きさに対し、一定にすることで基板変形の割合を一定とし、CsIに傷が生じることを防ぐものである。
次に保護膜を形成するが、蛍光体層側の保護膜102a(第1の保護膜)は、PET(ポリエチレンテレフタレートフィルム)とCPP(キャステングポリプロプレン)の積層フィルムを使用した。積層フィルムの積層方法はドライラミネーションで接着剤層の厚みは1μmとした。使用した接着剤は2液反応型のウレタン系接着剤である。基板側の保護膜102b(第2の保護膜)も同様のものを使用した。このように上下に配置した保護膜を、周縁部を、インパルスシーラーを用いて融着することで封止(103b、103d)し、シンチレータパネル(1a)を作製した。図2にその断面図を示す。封止の場所を4辺としたシンチレータパネル(1a)の平面図を図1(a)、封止の場所を2辺としたシンチレータパネル(1b)の平面図を図1(b)、封止の場所を3辺としたシンチレータパネル(1c)の平面図を図1(c)に示す。
実施例2
本実施例では、他の工程は第1の実施例と同じであるが、基板側の第2の保護膜、基板の裏面をRaで0.05〜5.0μmとする。また、1000Paの減圧下で周縁部を、インパルスシーラーを用いて融着する。また、フィルムをPET(ポリエチレンテレフタレートフィルム)とCPP(キャステングポリプロプレン)の積層フィルム70μmとする。これにより、図2で保護膜102bと基板101aは左右に力を加えたときでもずれることなく、1枚の基板のようにみなすことが出来る。この場合は、第2の保護膜と基板を一つの基板とみなし、第2の保護膜と基板の平均のヤング率をEとすれば、Eに対して、(3)式を満たすように、フィルムと基板の合計の厚さを設定すればよい。
本発明は、基板の変形を10cm角シンチレータレベルに抑制することで、封止後の基板の変形によるCsIの傷発生を防止する効果があり、基板の厚さを第2の保護膜(70μm)の分だけ減らすことができる。すなわち43cm角基板で、実施例1では122μm必要であったのが52μmでよいことになる。
実施例3
本実施例では、保護膜堆積前までの、他の工程は第1の実施例と同じであるが、保護膜堆積をポリパラキシリレンの蒸着法で行う。例えば10μmの厚さのポリパラキシリレンを堆積すると、ポリパラキシリレンは基板または、蛍光体と密着するので、この厚さ、例えば蛍光体の上で10μm、基板の裏に5μmついたとすると、図5で保護膜108と基板101aは左右に力を加えたときでもずれることなく、1枚の基板のようにみなすことができる。この場合は、保護膜108と基板101aを一つの基板とみなし、保護膜と基板の平均のヤング率をEとすれば、Eに対して、(3)式を満たすように、フィルムと基板の合計の厚さを設定すればよい。
本発明は、基板の変形を10cm角シンチレータレベルに抑制することで、封止後の基板の変形によるCsIの傷発生を防止する効果があり、基板の厚さを上下の保護膜厚さの分(ここでは15μm)だけ減らすことができる。すなわち43cm角基板で、実施例1では122μm必要であったのが107μmでよいことになる。
実施例1〜3から明らかなように、本発明によれば、大型化した可とう性を有する樹脂基板を用いても、基板の変形が大きくならず、ハンドリングがしやすく、基板の変形が大きくなることに起因する蛍光体層(好ましくはCsI蛍光体層)の破損、画質の劣化という問題のない、可とう性を有する樹脂基板を用いたシンチレータパネルおよび該シンチレータパネルの製造方法を提供することができることがわかる。

Claims (5)

  1. 可とう性を有する樹脂基板であるポリイミド(PI)またはポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムの上に蒸着により100μm厚以上1000μm以下または1cm当たりの重さ45mg以上675mg以下の蛍光体層を有するシンチレータパネルの製造方法であって、前記可とう性を有する樹脂基板を、10cm角では片側を保持した際変形が7mm以下、辺をacm、辺をbcmとすると、厚の下限を75×{a/(10×b)}1/3μm(a、bは共に10以上)に設定したことを特徴とするシンチレータパネルの製造方法
  2. 蒸着により100μm厚以上1000μm以下または1cm当たりの重さ45mg以上675mg以下の蛍光体層を有し、可とう性を有する樹脂基板であるポリイミド(PI)またはポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムを用いたシンチレータパネルが、蛍光体側は下記の群Aから選ばれる第1の保護フィルム、基板側は下記の群Aから選ばれる第2の保護フィルムで覆われており、前記第1の保護フィルムと前記第2の保護フィルムがシンチレータパネルに少なくとも一部は密着しているシンチレータパネルの製造方法であって、前記可とう性を有する樹脂基板を、10cm角では片側を保持した際変形が7mm以下とし、長辺をacm、短辺をbcmとすると、前記可とう性を有する樹脂基板と第1、第2の保護フィルムの厚さの合計の下限を75×{a/(10×b)}1/3μm(a、bは共に10以上)に設定したことを特徴とするシンチレータパネルの製造方法
    群A:ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)、ポリエステルフィルム、ポリメタクリレートフィルム、ニトロセルロースフィルム、セルロースアセテートフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、または、これらフィルムに金属酸化物などを蒸着した蒸着フィルムを複数枚積層した構成のフィルム
  3. 前記蛍光体層が柱状結晶であることを特徴とする請求項1又は2に記載のシンチレータパネルの製造方法
  4. 前記蛍光体層がCsI(ヨウ化セシウム)であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のシンチレータパネルの製造方法
  5. 蒸着により100μm厚以上1000μm以下または1cm 当たりの重さ45mg以上675mg以下の蛍光体層を有するシンチレータパネル用可とう性を有する樹脂基板であるポリイミド(PI)またはポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムの厚みの下限設定方法であって、前記樹脂基板を、10cm角では片側を保持した際変形が7mm以下、辺をacm、辺をbcmとすると、厚さの下限を75×{a /(10×b)} 1/3 μm(a、bは共に10以上)と設定することを特徴とするシンチレータパネル用基板の厚さの下限設定方法。
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