JP4978553B2 - 発振デバイス、通信装置、及び磁性素子による発振方法 - Google Patents

発振デバイス、通信装置、及び磁性素子による発振方法 Download PDF

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Description

本発明は、発振デバイス、通信装置、及び磁性素子による発振方法に関する。
近年、巨大磁気抵抗効果(GMR;Giant Magneto−Resistance)を利用した磁気デバイス(GMR素子)の開発が進められている。例えば、スピンバルブ型と呼ばれるGMR素子は、2つの強磁性層の間に非磁性層を挟んだ構造を持ち、一方の強磁性層に反強磁性層を積層して形成されたものである。反強磁性層が積層された強磁性層は、反強磁性層との間の交換バイアスにより磁化が固定されているため、磁化固定層(ピン層)と呼ばれる。もう一方の強磁性層は、ある程度自由に磁化が回転できるため、磁化自由層(フリー層)と呼ばれる。
このGMR素子に外部磁場を作用させて磁化自由層の磁化を回転させ、磁化自由層の磁化と磁化固定層の磁化との成す角を変化させることで、大きな磁気抵抗効果が得られる。このように、磁化自由層の磁化は、外部磁場により回転させることもできるが、磁化固定層の側から注入されるスピン偏極電子の注入によっても回転させることができる。この方法は、外部磁場により磁化自由層の磁化を回転させる方法に比べ、外部磁場を発生させる機構が不要になるため、GMR素子全体を小型化するのに有効である。
スピン偏極電子の注入による磁化自由層の磁化回転は、注入されるスピン偏極電子が持つスピン磁気モーメントと磁化自由層の磁化との間の相互作用に起因して起きる。まず、GMR素子の膜面に垂直方向に電流を流すと、磁化固定層を通過する電子は、磁化固定層の磁化方向にスピン偏極し、そのスピン偏極電子が磁化自由層に注入される。そして、磁化自由層に注入されたスピン偏極電子は、スピン磁気モーメントと磁化自由層の磁化との間に働く相互作用によりスピントルクを発生させる。このスピントルクにより、磁化自由層の磁化が磁化固定層の磁化方向(スピン偏極電子の偏極方向)に回転するのである。
GMR素子は、例えば、ハードディスクドライブ(HDD)の磁気ヘッドや磁気センサ、或いは、磁気発振素子等として様々な場面で利用される。GMR素子は、高い磁気抵抗比を持つ点で非常に優れた素子である。しかしながら、こうした磁気デバイスの応用分野における製造プロセスの微細化に伴い、磁気デバイスの更なる小型化が求められている。そのため、GMR素子よりも大きな磁気抵抗比を持つ磁気デバイスの開発が進められてきた。その成果の一つがトンネル磁気抵抗効果(TMR;Tunneling Magneto−Resistance)を利用した磁気デバイス(TMR素子)である。
TMR素子は、上記のGMR素子の積層構造の中で、非磁性層を絶縁層に置き換えた構造を持つ。TMR素子の場合、スピン偏極電子が絶縁層をトンネリングする確率が磁化自由層の磁化と磁化固定層の磁化との間の成す角に依存する点でGMR素子とは磁気抵抗の発生原因が異なる。しかし、磁化自由層の磁化を回転させることにより、磁気抵抗効果が得られるという点で共通している。このTMR素子は、GMR素子に比べて磁気抵抗比が大きいという特性を持つ。そのため、様々な分野への応用も期待される。
上記の通り、GMR素子及びTMR素子に直流電圧を印加することでスピントルクが発生し、磁化自由層の磁化が回転する。その結果、磁化自由層の磁化回転に応じて電流に係る抵抗値が周期的に変化し、出力端子から振動電流が出力される。この原理に基づき、印加されたマイクロ波により誘起される磁化回転を利用して磁場を検知する高感度磁気センサ等への応用が期待されている。例えば、下記の特許文献1には、スピントルクによる磁気抵抗変化を利用した磁性発振素子が記載されている。この磁性発振素子は、2つの強磁性体を磁化自由層に設定し、両層の磁気共鳴周波数の比を所定範囲に押さえることで、2つの磁化自由層の回転を協調させるというものである。
特開2007−142746号公報
上記のように、GMR素子及びTMR素子について様々な研究開発がなされている。また、磁気センサやハードディスクドライブの磁気ヘッドの他にも、これらの素子を無線通信装置等に利用したいという要望がある。しかしながら、これまでのGMR素子及びTMR素子は、無線通信装置に利用する場合、出力される発振信号の信号レベルが依然として低いと言わざるを得ない。この信号レベルを高めるには、素子の断面積を大きくして流れる電流量を高める必要がある。しかしながら、磁化固定層を形成する強磁性層の断面積を大きくすると、強磁性層の磁区構造が単磁区から変化してしまう。その結果、磁化固定層を通過する電子のスピン偏極方向が均一でなくなってしまう。
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、高出力、高品質な発振信号を得ることが可能な、新規かつ改良された発振デバイス、通信装置、及び磁性素子による発振方法を提供することにある。
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、第1の方向に磁化の向きが固定された強磁性体で形成された第1のピン層と、当該第1のピン層に積層された非磁性体又は絶縁体で形成される第1のスペーサ層とを有する複数のスピン注入素子と、磁化の向きが前記第1方向とは異なる方向に変化可能な強磁性体により形成され、前記複数のスピン注入素子が前記スペーサ層で接合されたフリー層とを備える、発振デバイスが提供される。
上記の発振デバイスが備えるスピン注入素子は、各々、第1の方向に磁化の向きが固定された強磁性体で形成された第1のピン層と、当該第1のピン層に積層された非磁性体又は絶縁体で形成される第1のスペーサ層とを有する。そして、第1のピン層には、電子が入力される入力端子が接続されており、発振デバイスに直流電圧が印加されると、第1のピン層を電子が通過して第1のスペーサ層に注入される。このとき、第1のピン層を通過する電子は、スピンが第1の方向に偏極される。そのため、スペーサ層に注入される電子は、第1の方向にスピンが偏極されたスピン偏極電子である。
スペーサ層の抵抗率は、巨大磁気抵抗効果、又はトンネル磁気抵抗効果により、通過する電子のスピン偏極方向に依存して変わる。そのため、スペーサ層に接合されたフリー層の磁化方向に依存して通過する電流量が変化する。また、スペーサ層を介してフリー層に注入されたスピン偏極電子によるスピントルクに起因して、フリー層の磁化が周期的に変動する。その結果、フリー層に接続された出力端子からは、発振信号が出力される。
ところで、上記の発振デバイスにおいては、複数のスピン注入素子が1つのフリー層に対して並列に接合されている。また、接合されるスピン注入素子の数は任意である。従って、フリー層に注入される電流量の多寡に応じてスピン注入素子の数を自由に変更することが可能になる。そのため、電流量を大きくする際に、スピン注入素子の大きさ自体を大きくしなくても済む。その結果、スピン注入素子を形成する強磁性体の大きさは、単磁区を維持できる程度の大きさに留めておくことができる。
また、上記の発振デバイスは、前記スピン注入素子の接合面に対向する前記フリー層の面上に接合された非磁性体又は絶縁体で形成される第2のスペーサ層と、前記第2のスペーサ層に積層され、前記第1の方向とは異なる第2の方向に磁化の向きが固定された強磁性体で形成される第2のピン層と、をさらに備えていてもよい。
また、上記の発振デバイスには、前記複数のスピン注入素子が有する第1のピン層に接続された入力端子と、前記フリー層に接続された出力端子と、前記複数のスピン注入素子及び前記フリー層が接合された素子と、を有するN個(N≧2)の素子ユニットが設けられていてもよく、第Mの前記素子ユニット(1≦M≦N−1)が有する出力端子と、第M+1の前記素子ユニットが有する入力端子とが接続された構造を有していてもよい。
また、前記複数のスピン注入素子が有する第1のピン層に接続された入力端子と、前記第2のピン層に接続された出力端子と、前記複数のスピン注入素子、前記フリー層、前記第2のスペーサ層及び前記第2のピン層が接合された素子と、を有するN個(N≧2)の素子ユニットが設けられていてもよく、第Mの前記素子ユニット(1≦M≦N−1)が有する出力端子と、第M+1の前記素子ユニットが有する入力端子とが接続された構造を有していてもよい。
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、第1の方向に磁化の向きが固定された強磁性体で形成された第1のピン層、及び当該第1のピン層に積層された非磁性体又は絶縁体で形成される第1のスペーサ層を有する複数のスピン注入素子と、磁化の向きが前記第1方向とは異なる方向に変化可能な強磁性体により形成され、前記複数のスピン注入素子が前記スペーサ層で接合されたフリー層と、を有する発振デバイスと、前記発振デバイスに直流電圧を印加する電圧印加部と、を備える、通信装置が提供される。
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、第1の方向に磁化の向きが固定された強磁性体で形成された第1のピン層と、当該第1のピン層に積層された非磁性体又は絶縁体で形成される第1のスペーサ層とを有する複数のスピン注入素子に対し、前記第1のピン層から電子が注入されるステップと、磁化の向きが前記第1方向とは異なる方向に変化可能な強磁性体により形成され、前記複数のスピン注入素子が前記スペーサ層で接合されたフリー層から、当該フリー層と通過した電子による電気信号が出力されるステップと、を含む、磁性素子による発振方法が提供される。
以上説明したように本発明によれば、高出力、高品質な発振信号を得ることが可能になる。
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
《基礎的な技術説明》
まず、本発明の実施形態について説明するに先立ち、磁化自由層における磁化の回転について簡単に説明する。この中で、GMR素子及びTMR素子の基本的な素子構造について述べると共に、磁化の運動を記述するランダウ−リフシッツ−ギルバート方程式(以下、LLG方程式)を用いて磁化自由層の磁化回転について簡単に説明する。なお、磁化自由層のことをフリー層と呼び、磁化固定層のことをピン層と呼ぶことにする。
[発振デバイス100の素子構造]
まず、図1を参照しながら、発振デバイス100の素子構造について説明する。図1は、発振デバイス100の素子構造を示す説明図である。
この発振デバイス100は、スピンバルブ型のGMR素子及びTMR素子の典型的な素子構造を示すものである。特に、この発振デバイス100は、強磁性多層膜の膜面に垂直に通電する構造を有しており、CPP(Current−Perpendicular−to−Plane)型と呼ばれるものである。なお、強磁性多層膜の膜面に水平な方向に通電する構造はCIP(Current−In−Plane)型と呼ばれる。
図1に示すように、発振デバイス100は、主に、端子A102と、反強磁性層104と、強磁性層106(ピン層)と、非磁性層又は絶縁層108(スペーサ層)と、強磁性層110(フリー層)と、端子B112とが積層された多層構造を有する。この強磁性層106(ピン層)の磁化をベクトルMと表記する。また、強磁性層110(フリー層)の磁化をベクトルmと表記する。
この発振デバイス100は、スペーサ層に非磁性金属(非磁性層)を用いる場合、GMR素子として機能する。一方、スペーサ層に絶縁体(絶縁層)を用いる場合、この発振デバイス100は、TMR素子として機能する。なお、この発振デバイス100には、z方向に外部磁場Hが印加されているものとする。また、端子A102から端子B112に直流電圧が印加される。また、端子A102から端子B112に流れる電流をJと表記する。
まず、反強磁性層104を介して端子A102から強磁性層106に電子が注入される。強磁性層106は、反強磁性層104に接合されており、反強磁性層104との間の交換バイアスにより磁化Mが固定されている。そのため、強磁性層106に注入された電子のスピンは磁化Mの方向に偏極される。但し、強磁性層106が自発磁化を強く保磁する強磁性材料により形成されている場合、反強磁性層104を接合せずに単独で磁化固定層(ハード層)として機能させることができる。
このスピン偏極は、異方性磁気抵抗(AMR;Anisotropic Magneto−Resistance)と呼ばれる現象に起因するものである。このAMRと呼ばれる現象は、電流の方向が磁化の向きに対して平行な場合と垂直な場合とで抵抗値が異なるというものであり、例えば、Fe、Ni、Co等の遷移金属合金において観測される。この現象は、スピン軌道相互作用により伝導電子の散乱確率がスピンと電流との間の相対的な角度に依存することに起因して起きる。従って、強磁性層106の磁化に平行なスピンを持つ電子が強磁性層106を通過するのである。
強磁性層106を通過した電子(以下、スピン偏極電子)は、非磁性層又は絶縁層108を通じて強磁性層110(フリー層)に注入される。スピン偏極電子が強磁性層110に注入されると、スピン偏極電子のスピン磁気モーメントと強磁性層110の磁化mとの間に働く相互作用によりスピントルクが発生する。なお、スピントルクのことをスピン輸送トルク(STT;Spin Transfer Torque)と呼ぶ場合もある。
(スピントルクについて)
スピン偏極電子が強磁性層110に注入されると、スピン偏極電子のスピンと強磁性層110の磁化mとの間の相互作用により、磁化mの周りで歳差運動が生じる。そのため、強磁性層110の内部で強磁性層110の磁化mに平行なスピン成分(縦スピン)は保存するが、磁化mに垂直なスピン成分(横スピン)は保存しない。従って、強磁性層110を通過した全てのスピン偏極電子の横スピンを足し合わせると、正味の横スピンは0になる。つまり、スピン偏極電子は、強磁性層110内で横スピン成分に相当する角運動量を磁化mに与えることになる。このようにして与えられた角運動量によりスピントルクが発生し、強磁性層110の磁化mが不安定な状態になる。
(磁化mの運動について)
ここで、スピントルクの効果を含む磁化の運動方程式(LLG方程式)を用いて強磁性層110(フリー層)が有する磁化mの運動について説明する。スピントルクを考慮したLLG方程式は、下記の式(1)で表現される。なお、この式には、スピントルクによる効果、熱ゆらぎによる効果、スピン注入による効果、横スピン流の吸収による効果、スピンと磁化mとの間の角度に依存する減衰効果等が考慮されている。また、表記を簡単化するため、強磁性層106、110の磁化M、mの大きさが等しい(|M|=|m|=M)ものと仮定する。
Figure 0004978553
上記の式(1)の中で、z’は、z軸方向を向いた単位ベクトルである。m’は、強磁性層110の磁化mの方向を向いた単位ベクトルである。γは、磁気回転比である。Heffは、下記の式(2)で表現される有効磁場である。Hは、有限温度下において生じる確率的な熱ゆらぎの効果を表す。αは、強磁性体における磁化の緩和を特徴付けるギルバート減衰係数である。μは、真空の透磁率である。なお、m’、Heff、H、Nはベクトル量である。また、「×」は外積を表す。
上記の式(1)の第1項は、外部磁場Hの効果、強磁性層110における異方性磁場の効果、反磁場の効果、及び熱ゆらぎの効果が磁化mに与える影響を表すものである。これらの効果により、z軸方向を基軸とする磁化mの歳差運動が誘起されると考えられる。
また、式(1)の第2項は、強磁性層110の内部における磁化mの緩和を表す項である。この第2項は、強磁性層110内の格子振動によるスピンフリップ散乱等に起因して生じるエネルギー拡散の効果を考慮したものである。なお、ギルバート減衰定数αは、現象論的に決定されるものである。また、式(1)の第3項は、スピン偏極電子の注入による効果を示す項である。この第3項には、下記の式(4)に示すようなスピントルクの効果が含まれる。
Figure 0004978553
上記の式(2)の中で、Vは、強磁性層110の体積である。Eは、体積Vを持つ強磁性層110のエネルギーであり、下記の式(3)のように表現される。この式の中で、定数h、h、hは、異方性磁場による効果等を表すものである。また、h=H/Mである。θ、φが示す回転方向については、図2Aを参照されたい。
Figure 0004978553
また、上記の式(1)の中で、Nは、本来、スピントルクの効果、電流による誘起磁場の効果、スピン注入による効果等を含む。しかし、本稿においては、スピントルクによる効果のみを考え、他の効果は小さいものとして、下記の式(4)に示すようにNの値を近似したモデルを考える。この項は、スピン偏極電流と角運動量保存則から導かれる。
Figure 0004978553
上記の式(4)の中で、η(θ)は、角度θに依存するスピントルクの効果を表す。hバーは、プランク定数hを2πで割ったものである。eは電荷素量である。Jは電流密度である。dは、強磁性層110の膜厚である。また、M’=M/Mである。これらの方程式は、厳密な解析解を算出することが難しいため、数値計算による解法が用いられる。
上記の式(2)、式(3)、式(4)を考慮して式(1)を解くと、スピン偏極電子の注入によるスピントルクの影響を受けて強磁性層110の磁化mが周期的な運動をすることが分かる。その一例として、磁化mが示す運動の軌跡を図2Bに示した。このように、磁化mが周期的に運動することで、ピン層である強磁性層106の磁化Mと、フリー層である強磁性層110の磁化mとの間の相対角度が周期的に変わることになる。そのため、多層膜の抵抗率が周期的に変化し、端子B112から発振信号が出力される。
以上、発振デバイス100の構造を例に挙げ、GMR素子及びTMR素子の基本的な素子構造、スピン偏極電子の注入によるスピントルクの原理、及びフリー層が有する磁化の運動について簡単に説明した。このように、GMR素子及びTMR素子を用いると、スピン偏極電子による磁化反転を利用して発振デバイスが構築できる。但し、上記の発振デバイス100の構造では、実用上、出力信号のレベルが低く、より効率的に発振信号を得るための工夫が求められる。そこで、発振デバイス100よりも効率よく発信信号を得ることが可能な発振デバイス200の構成について、以下で説明する。
ところで、上記の発振デバイス100における典型的な材料構成としては、例えば、GMR素子の場合、Fe/Cr/FeやCo/Cu/Co等が用いられる。一方、TMR素子には、例えば、Fe/Al/Fe等が用いられる。その他にも、強磁性層の材料としては、例えば、Fe、Co、Ni又はこれらを含む合金が用いられる。非磁性層としては、例えば、V、Cr、Nb、Mo、Ru、Re、Os、Ir、Cu、Ag、及びAuから成る群より選択された少なくとも1種の金属を含む非磁性材料が用いられる。反強磁性層の材料としては、例えば、FeMn、PtMn、PdMn、NiMn、PdPtMn等が用いられる。
[発振デバイス200の素子構造]
次に、図3を参照しながら、発振デバイス200の素子構造について説明する。図3は、発振デバイス200の素子構造を示す説明図である。この発振デバイス200には、上記の発振デバイス200よりも発振信号の出力効率を高めるべく、フリー層を挟むようにして互いに磁化方向の異なる2つのピン層が設けられている。
図3に示すように、発振デバイス200は、主に、端子A202と、反強磁性層204と、強磁性層206(ピン層)と、非磁性層又は絶縁層208(スペーサ層)と、強磁性層210(フリー層)と、非磁性層又は絶縁層212(スペーサ層)と、強磁性層214(フリー層)と、反強磁性層216と、端子B218とが積層された多層構造を有する。なお、各層の材料構成は、上記の発振デバイス100と同様である。
強磁性層206(ピン層)は磁化M1を有し、強磁性層214は磁化M2を有する。そして、強磁性層206の磁化M1と、強磁性層214の磁化M2とは互いに異なる方向を向いている(M1≠M2)。但し、磁化M1と磁化M2とが直交している方が好ましい。また、強磁性層210(フリー層)は磁化mを有する。
この発振デバイス200は、スペーサ層に非磁性金属(非磁性層)を用いる場合、GMR素子として機能する。一方、スペーサ層に絶縁体(絶縁層)を用いる場合、この発振デバイス200は、TMR素子として機能する。なお、この発振デバイス200には、発振デバイス100とは異なり、z方向に外部磁場Hが印加されていなくてもよい。また、端子A202から端子B218に直流電圧が印加される。また、端子A202から端子B218に流れる電流をJと表記する。
まず、反強磁性層204を介して端子A202から強磁性層206に電子が注入される。強磁性層206は、反強磁性層204に接合されており、反強磁性層204との間の交換バイアスにより磁化M1が固定されている。そのため、強磁性層206に注入された電子のスピンは磁化M1の方向に偏極される。但し、強磁性層206が自発磁化を強く保磁する強磁性材料により形成されている場合、反強磁性層204を接合せずに単独で磁化固定層(ハード層)として機能させることができる。
強磁性層206を通過したスピン偏極電子は、非磁性層又は絶縁層208を通じて強磁性層210(フリー層)に注入される。スピン偏極電子が強磁性層210に注入されると、スピン偏極電子のスピン磁気モーメントと強磁性層210の磁化mとの間に働く相互作用によりスピントルクが発生する。既に述べた通り、スピントルクは、スピン偏極電子が持つ横スピンの角運動量が強磁性層210の磁化mに受け渡されることによって生じる。
但し、強磁性層210の磁化mにトルクを及ぼすスピン偏極電子は、強磁性層206の磁化M1を持つものだけではない点に注意が必要である。強磁性層210を通過した電子は、非磁性層又は絶縁層212を通じて強磁性層214に注入される。上記の通り、強磁性層214は、強磁性層206の磁化M1と異なる磁化M2を有する。そのため、非磁性層又は絶縁層212と強磁性層214との間の境界で磁化M2に垂直なスピンを持つ電子が散乱され、強磁性層210に注入される。この電子により、強磁性層210の磁化mがスピントルクを受けることになる。つまり、系全体で角運動量保存則が成り立つ。
なお、上記の考察は、あくまでも定性的、概念的なものである。従って、実際には、より詳細な考察の下に強磁性層210の磁化mの運動を議論すべきである。特に、強磁性層206、210、214、非磁性層又は絶縁層208、212の境界における境界条件を考慮し、電子の散乱や横スピン緩和等の効果を量子動力学的に議論する必要がある。しかしながら、磁化mの巨視的な運動を定性的に捉え、その効果を利用する上において、上記の考察から得られる磁化mの特性は十分な理解を与えるものである。そのため、ここでは微視的な描像には言及せず、概念的な説明に留めることにする。
さて、上記の通り、強磁性層210の磁化mには、強磁性層206の磁化M1によるスピントルクと、強磁性層214によるスピントルクとが間接的に作用する。例えば、図3に示すように、磁化M1の方向を多層膜の膜面に垂直な−x方向に向け、磁化M2の方向を多層膜の膜面に水平なz方向に向けると、強磁性層210の磁化mは、スピン注入により多層膜の膜面内で回転するように周期的な運動を始める。このとき、外部磁場Hは印加されていなくてもよい。このように、異なる方向を向いた角運動量が磁化mに作用することにより、強磁性層210の磁化mは効率的に周期運動ができるようになる。
このように、強磁性層210の磁化mが周期的に運動することで、ピン層である強磁性層214の磁化M2と、フリー層である強磁性層210の磁化mとの間の相対角度が周期的に変わることになる。そのため、多層膜の抵抗率が周期的に変化し、端子B218から発振信号が出力される。
以上、発振デバイス200の素子構造について説明した。上記の通り、発振デバイス200は、上記の発振デバイス100に比べると発振効率が高い。しかしながら、実施の態様によっては、発振信号の出力レベルが未だ低いと言わざるを得ない。そこで、上記の発振デバイス100、200において発振信号の出力レベルを向上させるに当たって問題となる点について考察する。
[課題の整理]
まず、出力信号を大きくするためには、上記の強磁性多層膜に流れる電流を増加させる方法が有効である。そのためには、強磁性多層膜の膜面に水平な方向の面積(ピラーの断面積)を大きくすればよい。しかしながら、GMR効果やTMR効果を得るためには、ピン層の磁化が所定方向に向けて一様に固定されている必要がある。そのため、面積の大きい単磁区の強磁性体を用いる必要がある。
ところが、単磁区の大きな強磁性単結晶を作成することは容易でない。強磁性単結晶に現れる磁区構造は、静磁場エネルギーが高い構造から低い構造へと遷移しようとする。単磁区構造は、磁極が強磁性単結晶の表面に現れるため、静磁場エネルギーが高い構造である。従って、強磁性層の表面積が大きくなると、より静磁場エネルギーの低い磁区構造に遷移してしまう。その結果、ピン層の磁化が膜面全体で不均一になり、電子が通過する位置に応じてスピンの偏極方向がバラバラになってしまう。
そこで、強磁性単結晶を大きくせず、上記の発振デバイス100、200のような強磁性多層膜のピラーを並列に複数個設置し、発振信号の出力レベルを増加させる方法が考えられるかもしれない。この方法を用いる場合、出力される発振信号の位相を正確に一致させる必要がある。この発振信号の位相は、フリー層の磁気共鳴周波数に依存する。この磁気共鳴周波数は、外部磁場の大きさ、磁性材料の種類、フリー層の膜厚等に依存する。そのため、複数のピラーから出力される発振信号の位相を揃えるためには、複数のピラーを極めて精度良く同じ素子構造にする必要がある。
こうした理由から、ピン層の表面積を増大させず、フリー層に注入されるスピン偏極電流を増大させる工夫が求められている。この要求に対し、本発明に係る下記の実施形態は、一つの解決策を提供するものである。当該実施形態に係る素子構造を利用することで、高い出力レベルの発振信号を得ることができる。
<実施形態>
本発明の一実施形態について説明する。本実施形態は、単磁区の強磁性単結晶で形成されるピン層を含んだ複数のスピン注入素子がフリー層に接合された素子構造に関する。複数のスピン注入素子に含まれるピン層は、互いに同じ方向を向いた磁化を有し、同方向にスピン偏極した電子をフリー層に注入する機能を提供する。以下、より詳細に説明する。
[発振デバイス300の素子構造]
まず、図4を参照しながら、本実施形態に係る発振デバイス300の素子構造について説明する。図4は、本実施形態に係る発振デバイス300の素子構造を示す説明図である。図中には、2つのスピン注入素子が記載されているが、3つ以上のスピン注入素子が形成されていてもよい。また、図中には、CPP型の素子構造が記載されているが、本実施形態に係る技術をCIP型の素子構造に応用することもできる。
図4に示すように、発振デバイス300は、主に、端子A302と、複数のスピン注入素子A、Bと、強磁性層310と、端子B312とが積層された素子構造を有する。また、スピン注入素子A、Bは、それぞれ、反強磁性層304と、強磁性層306(ピン層)と、非磁性層又は絶縁層308(スペーサ層)とが積層された多層構造を有する。但し、強磁性層306(ピン層)は、スピン注入素子A、Bのいずれにおいても同じ方向の磁化Mを持つ。また、強磁性層310(フリー層)は磁化mを持つ。
発振デバイス300は、スペーサ層に非磁性金属(非磁性層)を用いる場合、GMR素子として機能する。一方、スペーサ層に絶縁体(絶縁層)を用いる場合、発振デバイス300は、TMR素子として機能する。なお、この発振デバイス300には、z方向に外部磁場Hが印加されているものとする。また、端子A302から端子B312に直流電圧が印加される。また、端子A302から端子B312に流れる電流をJと表記する。
まず、端子A302から、スピン注入素子A、Bのいずれにも並列に、反強磁性層304を介して強磁性層306に電子が注入される。強磁性層306は、反強磁性層304に接合されており、反強磁性層304との間の交換バイアスにより磁化Mが固定されている。そのため、強磁性層306に注入された電子のスピンは磁化Mの方向に偏極される。但し、強磁性層306が保磁力の強い強磁性材料により形成されている場合、反強磁性層304を接合せずに単独で磁化固定層(ハード層)として機能させることもできる。
強磁性層306を通過したスピン偏極電子は、非磁性層又は絶縁層308を通じて強磁性層310(フリー層)に注入される。スピン偏極電子が強磁性層310に注入されると、スピン偏極電子のスピン磁気モーメントと強磁性層310の磁化mとの間に働く相互作用によりスピントルクが発生する。このスピントルクの発生に関する基本的な機構については、発振デバイス100、200の例において既に説明したものと同様である。
発振デバイス300の場合、複数のスピン注入素子A、Bから注入されるスピン偏極電子は、スピン注入素子A、Bと強磁性層310との間の境界付近で、それぞれ強磁性層310の内部にスピン波を誘起する。スピン波は、固体の素励起の一種であり、強磁性体結晶の格子上にあるスピンの相対的な方位の振動状態として理解することができる。上記の境界付近で誘起されるスピン波は、緩和過程を経て強磁性層310の全体に伝搬する。
このとき、スピン注入素子A、Bから注入されるスピンの偏極方向が異なると、スピン波の位相がずれてしまう。その結果、両スピンにより誘起された局所的なスピン波はインコヒーレントな状態で重ね合わされ、振幅が低減されてしまう。しかしながら、本実施形態に係る発振デバイス300においては、スピン注入素子A、Bから注入される電子スピンの偏極方向が固定されているため、強磁性層310内で振幅の大きなスピン波が励起される。その結果、大きな出力レベルの発振信号が得られるのである。なお、この発振信号の周波数スペクトルは、非常に狭い線幅を持つものとなる。
以上、本実施形態に係る発振デバイス300の素子構造について説明した。上記の素子構造を用いることで、振幅が大きく、良好な周波数特性を有する発振信号が得られる。また、この素子構造には、大きな単磁区の強磁性体結晶を用いずに済むため、製造が比較的容易であるという効果もある。さらに、多数のスピン注入素子を並列に設けることもできるため、求める発振信号の大きさに応じて、その数を容易に増大することが可能である。
なお、図4では、強磁性層306の磁化方向を多層膜の膜面に水平な方向に設定した。しかし、本実施形態に係る技術はこれに限定されず、膜面に垂直な方向に設定してもよい。また、図4に記載した磁化M、mの向きを示す矢印は、説明の便宜上記載したものであり、その大きさや方向に関して、これに限定されるものではない。
[変形例1:発振デバイス400の素子構造]
次に、図5を参照しながら、本実施形態の一変形例(変形例1)に係る発振デバイス400の素子構造について説明する。図5は、本実施形態の一変形例に係る発振デバイス400の素子構造を示す説明図である。この素子構造は、本実施形態に係る技術を上記の発振デバイス200の構成に応用したものである。なお、図中には、2つのスピン注入素子が記載されているが、3つ以上のスピン注入素子が形成されていてもよい。また、図中には、CPP型の素子構造が記載されているが、本実施形態に係る技術をCIP型の素子構造に応用することもできる。
図5に示すように、発振デバイス400は、主に、端子A402と、複数のスピン注入素子A、Bと、強磁性層410と、非磁性層又は絶縁層412と、強磁性層414と、反強磁性層416と、端子B418とが積層された素子構造を有する。また、スピン注入素子A、Bは、それぞれ、反強磁性層404と、強磁性層406(ピン層)と、非磁性層又は絶縁層408(スペーサ層)とが積層された多層構造を有する。
但し、強磁性層406(ピン層)は磁化M1を有し、強磁性層414は磁化M2を有する。そして、強磁性層406の磁化M1と、強磁性層414の磁化M2とは互いに異なる方向を向いている(M1≠M2)。但し、磁化M1と磁化M2とが直交している方が好ましい。また、強磁性層410(フリー層)は磁化mを有する。
発振デバイス400は、スペーサ層に非磁性金属(非磁性層)を用いる場合、GMR素子として機能する。一方、スペーサ層に絶縁体(絶縁層)を用いる場合、この発振デバイス400は、TMR素子として機能する。なお、この発振デバイス400には、発振デバイス300とは異なり、z方向に外部磁場Hが印加されていなくてもよい。また、端子A402から端子B418に直流電圧が印加される。また、端子A402から端子B418に流れる電流をJと表記する。
まず、端子A402から、スピン注入素子A、Bのいずれにも並列に、反強磁性層404を介して強磁性層406に電子が注入される。強磁性層406は、反強磁性層404に接合されており、反強磁性層404との間の交換バイアスにより磁化M1が固定されている。そのため、強磁性層406に注入された電子のスピンは磁化M1の方向に偏極される。但し、強磁性層406が自発磁化を強く保磁する強磁性材料により形成されている場合、反強磁性層404を接合せずに単独で磁化固定層(ハード層)として機能させることができる。
強磁性層406を通過したスピン偏極電子は、非磁性層又は絶縁層408を通じて強磁性層410(フリー層)に注入される。スピン偏極電子が強磁性層410に注入されると、スピン偏極電子のスピン磁気モーメントと強磁性層410の磁化mとの間に働く相互作用によりスピントルクが発生する。但し、強磁性層410の磁化mにスピントルクを及ぼすスピン偏極電子は、強磁性層406が持つ磁化M1の方向を向くスピンを有するものだけではない点に注意が必要である。
強磁性層410を通過した電子は、非磁性層又は絶縁層412を通じて強磁性層414に注入される。上記の通り、強磁性層414は、強磁性層406の磁化M1と異なる磁化M2を有する。そのため、非磁性層又は絶縁層412と強磁性層414との間の境界で磁化M2に垂直なスピンを持つ電子が散乱され、強磁性層410に注入される。この電子により、強磁性層410の磁化mがスピントルクを受けることになる。つまり、系全体で角運動量保存則が成り立つ。
また、発振デバイス400の場合、複数のスピン注入素子A、Bから注入されるスピン偏極電子は、スピン注入素子A、Bと強磁性層410との間の境界付近で、それぞれ強磁性層410の内部にスピン波を誘起する。さらに、この境界付近で誘起されるスピン波は、緩和過程を経て強磁性層410の全体に伝搬する。但し、この緩和過程の中で、非磁性層又は絶縁層412と強磁性層414との間の境界で散乱された電子が影響する。
発振デバイス400においては、スピン注入素子A、Bから注入される電子スピンの偏極方向が固定されているため、強磁性層410内で振幅の大きなスピン波が励起される。その結果、大きな出力レベルの発振信号が得られる。また、この発振信号の周波数スペクトルは、スピン波の共鳴により非常に狭い線幅を持つものとなる。
以上、本実施形態の一変形例(変形例1)に係る発振デバイス400の素子構造について説明した。上記の素子構造を用いることで、振幅が大きく、良好な周波数特性を有する発振信号が得られる。また、この素子構造には、大きな単磁区の強磁性体結晶を用いずに済むため、製造が比較的容易であるという効果もある。さらに、多数のスピン注入素子を並列に設けることもできるため、求める発振信号の大きさに応じて、その数を容易に増大することが可能である。そして、注入されるスピンの向きと異なる方向を向く磁化M2の強磁性層414を接合していることで、強磁性層410の磁化mの周期的な運動が効率的に行われ、発振信号の出力効率が高まる。
なお、図5では、強磁性層406の磁化方向を多層膜の膜面に水平な方向に設定した。しかし、本実施形態に係る技術はこれに限定されず、膜面に垂直な方向に設定してもよい。また、図5に記載した磁化M、mの向きを示す矢印は、説明の便宜上記載したものであり、その大きさや方向に関して、これに限定されるものではない。
また、上記の発振デバイス400の素子構造は、次のように変形してもよい。上記の通り、強磁性層410(フリー層)の磁化mは、スピン注入素子A、Bから注入されるスピン偏極電子により周期的な運動をする。一方で、強磁性層410の磁化mは、強磁性層414と非磁性層又は絶縁層412との間の境界で散乱されたスピンの影響も受ける。この影響を考慮すると、強磁性層414が単磁区の強磁性結晶で構成されることもスピン波のコヒーレンスを高める上で重要になる場合があるかもしれない。
こうした点を考慮に入れると、上記の発振デバイス400を構成する非磁性層又は絶縁層412、強磁性層414、反強磁性層416を複数のスピン注入素子で構成する変形例が考えられる。つまり、スピン注入素子A、Bと同様の構造で、ピン層の磁化がスピン注入素子A、Bとは異なるものを強磁性層410の下層に接合する素子構造が考えられる。その効果としては、上記の発振デバイス400が奏する効果に加え、発振信号の信号振幅をより高めると共に、その周波数スペクトルの線幅をより狭くするというものである。このような変形も、本実施形態の技術的範囲に含まれる。
[変形例2:発振デバイス500の素子構造]
次に、図6を参照しながら、本実施形態の一変形例(変形例2)に係る発振デバイス500の素子構造について説明する。図6は、本実施形態の一変形例に係る発振デバイス500の素子構造を示す説明図である。この素子構造は、上記の発振デバイス400の構成を応用したものである。
図6に示すように、発振デバイス500は、複数の発振デバイス400を直列に接続したものである。図6には、2つの発振デバイス400が直列に接続された素子構造が記載されているが、3つ以上の発振デバイス400が直列に接続されていてもよい。このように、発振デバイス500の基本的な素子構造は、上記の発振デバイス400と同じであるため、各構成要素に係る詳細な説明は省略する。
図6に示すように、発振デバイス500は、主に、端子A502と、複数のスピン注入素子A、Bと、強磁性層510と、非磁性層又は絶縁層512と、強磁性層514と、反強磁性層516と、複数のスピン注入素子C、Dと、強磁性層540と、非磁性層又は絶縁層542と、強磁性層544と、反強磁性層546と、端子B548とが積層された素子構造を有する。また、スピン注入素子A、B、C、Dは、それぞれ、反強磁性層504、534と、強磁性層506、536(ピン層)と、非磁性層又は絶縁層508、538(スペーサ層)とが積層された多層構造を有する。
但し、強磁性層506、536(ピン層)は磁化M1を有し、強磁性層514、544は磁化M2を有する。そして、強磁性層506、536の磁化M1と、強磁性層514、544の磁化M2とは互いに異なる方向を向いている(M1≠M2)。但し、磁化M1と磁化M2とが直交している方が好ましい。また、強磁性層510、540(フリー層)は磁化mを有する。
上記の通り、発振デバイス500は、上記の発振デバイス400を電気的に直列接続したものである。従って、接続した発振デバイス400の数分だけ大きな出力信号を得ることができる。もちろん、発振デバイス500は、発振デバイス400が奏する効果を踏襲した上で、発振信号の出力レベルを高めることができる。なお、発振デバイス500と同様の考えから、上記の発振デバイス300を電気的に直列接続する構成も考えられる。
以上、本実施形態に係る種々の発振デバイスについて説明した。上記の通り、本実施形態に係る発振デバイスは、スピン注入によるGMR効果又はTMR効果を用いた高出力、且つ、高品質な信号出力を得ることが可能な素子である。この素子は、ピン層を含む複数のスピン注入素子を1つのフリー層に接合している素子構造に特徴がある。このような素子構造を適用することにより、大きな単磁区の強磁性結晶を用いることなく、フリー層に流れる電流量を増加させることが可能になる。
さらに、各スピン注入素子からスピン偏極電子が同じスピン偏極方向を持って注入されることにより、フリー層内に励起されるスピン波の位相が揃い、より高品質な発振信号を得ることができる。また、本実施形態に係る素子構造は、1つのフリー層上に形成されるスピン注入素子の数に制限が無いことから、スピン注入素子の数分だけ信号品質を向上させることができる。
[適用形態]
本実施形態に係る発振デバイスは、発振信号の出力レベルが高いことや、その信号品質が高いことから、無線通信装置における発振デバイスとして好適に利用される。もちろん、本実施形態の適用範囲がこれに限定されるものではない。例えば、図4に示した本実施形態に係る発振デバイス300と、図1に示した発振デバイス100とを比較すると分かる通り、発振デバイス300は、上記のような優れた効果が得られるにも拘わらず、多層膜の膜厚や断面積が変わっていない。そのため、これまでのGMR素子又はTMR素子を容易に代替することができる。しかし、上記のような優れた信号特性が得られることから、より広範な応用分野への適用拡大が期待される。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
例えば、図5又は図6に示す発振デバイス400、500の構造において、下段のピン層である強磁性層414、514、544をスピン注入素子A、B等のように、複数の比較的小さなピラーに分けることも可能である。このように構成することで、下段のピン層においても単磁区を構成しやすくなり、下段で散乱されるスピン偏極電子のスピン方向を揃えやすくなる。
GMR又はTMRを利用した発振デバイスの素子構成を示す説明図である。 磁化mの極座標配置を示す説明図である。 磁化mの運動を模式的に示した説明図である。 GMR又はTMRを利用した発振デバイスの素子構成を示す説明図である。 本発明の一実施形態に係る発振デバイスの素子構成を示す説明図である。 同実施形態に係る発振デバイスの素子構成を示す説明図である。 同実施形態に係る発振デバイスの素子構成を示す説明図である。
符号の説明
100、200、300、400、500 発振デバイス
102、202、302、402、502 端子A
104、204、216、304、404、416、504、516、534、546 反強磁性層
106、206、214、306、406、414、506、514、536、544 強磁性層(ピン層)
108、208、212、308、408、412、508、512、538、542 非磁性層又は絶縁層
110、210、310、410、510、540 強磁性層(フリー層)
112、218、312、418、548 端子B

Claims (6)

  1. 第1の方向に磁化の向きが固定された強磁性体で形成された第1のピン層と、当該第1のピン層に積層された非磁性体又は絶縁体で形成される第1のスペーサ層とを有する複数のスピン注入素子と、
    磁化の向きが前記第1方向とは異なる方向に変化可能な強磁性体により形成され、前記複数のスピン注入素子が前記スペーサ層で接合されたフリー層と、
    を備える、発振デバイス。
  2. 前記スピン注入素子の接合面に対向する前記フリー層の面上に接合された非磁性体又は絶縁体で形成される第2のスペーサ層と、
    前記第2のスペーサ層に積層され、前記第1の方向とは異なる第2の方向に磁化の向きが固定された強磁性体で形成される第2のピン層と、
    をさらに備える、請求項1に記載の発振デバイス。
  3. 前記複数のスピン注入素子が有する第1のピン層に接続された入力端子と、前記フリー層に接続された出力端子と、前記複数のスピン注入素子及び前記フリー層が接合された素子と、を有するN個(N≧2)の素子ユニットが設けられ、
    第Mの前記素子ユニット(1≦M≦N−1)が有する出力端子と、第M+1の前記素子ユニットが有する入力端子とが接続された構造を有する、請求項1に記載の発振デバイス。
  4. 前記複数のスピン注入素子が有する第1のピン層に接続された入力端子と、前記第2のピン層に接続された出力端子と、前記複数のスピン注入素子、前記フリー層、前記第2のスペーサ層及び前記第2のピン層が接合された素子と、を有するN個(N≧2)の素子ユニットが設けられ、
    第Mの前記素子ユニット(1≦M≦N−1)が有する出力端子と、第M+1の前記素子ユニットが有する入力端子とが接続された構造を有する、請求項2に記載の発振デバイス。
  5. 第1の方向に磁化の向きが固定された強磁性体で形成された第1のピン層、及び当該第1のピン層に積層された非磁性体又は絶縁体で形成される第1のスペーサ層を有する複数のスピン注入素子と、磁化の向きが前記第1方向とは異なる方向に変化可能な強磁性体により形成され、前記複数のスピン注入素子が前記スペーサ層で接合されたフリー層と、を有する発振デバイスと、
    前記発振デバイスに直流電圧を印加する電圧印加部と、
    を備える、通信装置。
  6. 第1の方向に磁化の向きが固定された強磁性体で形成された第1のピン層と、当該第1のピン層に積層された非磁性体又は絶縁体で形成される第1のスペーサ層とを有する複数のスピン注入素子に対し、前記第1のピン層から電子が注入されるステップと、
    磁化の向きが前記第1方向とは異なる方向に変化可能な強磁性体により形成され、前記複数のスピン注入素子が前記スペーサ層で接合されたフリー層から、当該フリー層と通過した電子による電気信号が出力されるステップと、
    を含む、磁性素子による発振方法。
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