JP4974018B2 - 生体材料とその製造方法 - Google Patents

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Description

この発明は、生体材料とその製造方法に関するものである。
従来、この種の生体材料として、リン酸三カルシウムと他のリン酸カルシウム含有化合物を含むセメント粉体を凝集促進剤と硬化加速剤の水溶液と混合した硬化性ペーストが知られている(特許文献1参照。)。
この硬化性ペーストは、硬化可能で凝集性が高く、注入性と機械的強度と硬化時間とを保有する。
特開2000−295号公報
しかしながら、特許文献1に示される硬化性ペーストは、単に、セメント粉体を凝集促進剤と硬化加速剤の水溶液と混合することにより製造されるものであるため、セメント粒子間の結合力が弱いという欠点がある。このため、硬化後に簡単に脆性破壊してしまう不都合がある。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、硬化させた後に、リン酸カルシウム粒子間で高い結合力を維持することで弾性を有し、簡単に脆性破壊しない生体適合性を有する生体組織補填材を構成可能な生体材料とその製造方法を提供することを目的としている。
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、リン酸カルシウム粉体とアルギン酸塩類とをメカノケミカル法を利用して混合してなる生体材料を提供する。
本発明によれば、リン酸カルシウム粉体とアルギン酸塩類とを単に混合するのではなく、メカノケミカル法を利用して混合するため、機械的エネルギーによってリン酸カルシウム粉体表面の高励起状態を発生させ、周囲のアルギン酸塩類との局部的に多様な化学反応を発生させることで、リン酸カルシウム粉体間の結合力を高めることができる。その結果、この生体材料を凝固させることで得られる生体組織補填材に弾性を持たせ、簡単に脆性破壊しない生体組織補填材を製造することが可能となる。
上記発明においては、上記生体材料に、さらに水を混合して構成することにしてもよい。このようにすることで、生体材料に含水させてゲル状に形成することができる。混合する水の量は、自由に設定することができ、水の含量を調整することにより、生体材料の柔らかさおよび流動性を調節することができる。また、このように構成された生体材料は、オートクレーブにより滅菌処理しても、その性状をほとんど変化させることがなく、柔らかさと流動性とを保有することができる。
また、上記発明においては、上記生体材料に、さらに血液または血漿を混合して構成することにしてもよい。このようにすることで、自家生体組織、例えば、自家骨に近い生体材料を構成することが可能となる。また、このように構成された生体材料は、血球細胞等は死滅することとなるが、血液あるいは血漿に含有されている炭酸成分やタンパク質およびサイトカイン等の成長因子を保有した状態に残すことができる。
また、上記発明においては、上記生体材料を、カルシウムイオンを含有する水溶液に接触させて構成してもよい。
このようにすることで、カルシウムイオンに対して親和性の高いアルギン酸をカルシウムイオンによって硬化させ、弾性のある固体状の生体材料を迅速に構成することができる。
また、上記発明においては、さらに、凍結乾燥して構成することにしてもよい。
このようにすることで、ゲル状の生体材料から水分を除去することにより、多孔質の生体材料となる。この場合に、溶解性の異なる微粒状物質やリン酸カルシウム顆粒体を含めておいたり、あるいは、界面活性剤あるいは発泡剤を混合しておいたりすることにより、凍結乾燥後に構成される生体材料の気孔率を調節することが可能となる。
また、本発明は、リン酸カルシウム粉体とアルギン酸塩類とをメカノケミカル法を利用して混合する生体材料の製造方法を提供する。
上記発明においては、リン酸カルシウム粉体とアルギン酸塩類とをメカノケミカル法を利用して混合した後に、さらに水を混合することとしてもよく、血液または血漿を混合しても、また、水を混合した後に血液または血漿を混合することにしてもよい。
さらにカルシウムイオンを含有する水溶液に接触させてもよく、凍結乾燥させることにしてもよい。
本発明によれば、硬化させた後に、リン酸カルシウム粒子間で高い結合力を維持することで弾性を有し、簡単に脆性破壊しない生体適合性を有する生体組織補填材を構成可能な生体材料を提供することができるという効果を奏する。
以下、本発明の一実施形態に係る生体材料Aについて、図1〜図9を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る生体材料Aは、図1に示されるように、リン酸カルシウム、例えば、βリン酸三カルシウム(βTCP)の粉体と、アルギン酸塩類とをメカノケミカル法を利用して混合する(ステップS1)ことにより製造されるものである。メカノケミカル法は、βリン酸三カルシウムとアルギン酸塩類とを遠心回転型ボールミルやメカノフュージョンシステムのような、非混合物に機械的エネルギーを付与しつつ混合する装置に投入して、混合することにより、βリン酸三カルシウムの粉体表面に、機械的エネルギーによる高励起状態を発生させ、βリン酸三カルシウムの粉体とアルギン酸塩類との化学的相互作用を促進する混合方法である。ここで、混合時間は、3時間以上であることが好ましい。
このようにしてメカノケミカル法を利用して混合されることにより製造された本実施形態に係る生体材料Aは、図2に示されるように、そのまま凍結乾燥する(ステップS2)ことにより、粉末状の生体材料Bに構成することができる。粉末状に構成することで、種々の形状の生体組織補填材を自由に構成することが可能となる。
本実施形態に係る生体材料Aは、高い保水性を有するので、水を混合する(ステップS3)ことにより、容易にゲル状の性状を呈する生体材料Cを構成できる。この場合に、水の含有率を自由に変化させても、柔軟性を異ならせるだけで、分離することなくゲル状の性状を保つことができる。したがって、含水率を変化させて柔軟性を調節することができる。また、患者の末梢血等の血液または血漿を混合し(ステップS4)、水とそれらを混合する(ステップS5)ことにより、同様にゲル状の性状を有しながら、より自家組織に近い生体材料D,Eを構成することができる。
また、図3に示されるように、凍結乾燥させることにより粉末状に構成した生体材料Bに水を混合する(ステップS6)ことにより、形態を自由に変形可能なゲル状の生体材料Fを構成することができる。そして、この場合に、含水率を変更することで、生体材料Fの流動性を調節することが可能となる。上記と同様に、患者の末梢血等の血液または血漿を混合し(ステップS7)、さらに水を混合する(ステップS8)ことにより、同様にゲル状の性状を有しながら、より自家組織に近く、流動性を有する生体材料G,Hを構成することができる。
また、このように構成されたゲル状の生体材料F,G,Hは、図4〜図6に示されるように、適当な形状に整形された(ステップS9〜S11)後に、塩化カルシウム水溶液のようなカルシウムイオンを含有する水溶液に接触させる(ステップS12〜S14)ことにより、生体材料中のアルギン酸がカルシウムイオンと高い親和性を有するので、アルギン酸カルシウムを構成して迅速に硬化させた生体材料I,J,Kを構成することができる。この場合において、本実施形態に係る生体材料I,J,Kは、基となる生体材料Aがアルギン酸とβリン酸三カルシウムの粉体とをメカノケミカル法により混合して構成されているので、アルギン酸カルシウムを生成して硬化した際に、βリン酸三カルシウムの粉体間の結合力が向上される。したがって、製造された固体状の生体材料I,J,Kは、βリン酸三カルシウムの粉体を高い結合力によって連結し、弾性を有するものとなる。その結果、容易に脆性破壊することのない生体組織補填材を構成することができる。
特に、凍結乾燥により粉末状に形成した生体材料Bに水や血液または血漿を混合してゲル状に構成した生体材料F,G,Hは、自由に形態を変更することができる。したがって、小さい切開部から内部に簡易に注入でき、注入後にカルシウムイオンを含有する水溶液に接触させることで、内部において硬化させ、生体材料I,J,Kを構成することができる。その結果、低侵襲で大きな欠損部に補填することができ、患者に与える負担を軽減することができる。
また、生体材料F,G,Hの状態で所望の形状に整形し(ステップS9〜S11)、その後カルシウムイオンを含有する水溶液に接触させることで、その形状のまま硬化させた生体材料I,J,Kを構成することができる。例えば、膜状、袋状、紐状、布状、(穴あき、穴なし)等任意の形状の生体材料I,J,Kを構成することができる。
さらに、図7〜図9に示されるように、生体材料Aに水、血液/血漿、または、水および血液/血漿を混合させた生体材料C,D,Eをカルシウムイオンに混合または浸漬させる(ステップS15〜S17)ことにより、その形態で硬化した生体材料L,O,Rを構成することができ、これを再度凍結乾燥し(ステップS21〜S23)、洗浄することで、難溶性で崩壊しない多孔質の生体材料N,Q,Tを構成することができる。また、生体材料Aに水または血液/血漿を含ませた生体材料C,D,Eをそのまま凍結乾燥させる(ステップS18〜S20)ことによっても、除去した水分等が存在していた部分に気孔を有する多孔質の生体材料M,P,Sを構成することができる。
生体材料L,O,Rは、基となる生体材料Aがアルギン酸とβリン酸三カルシウムの粉体とをメカノケミカル法により混合して構成されているので、アルギン酸カルシウムを生成して硬化した際に、βリン酸三カルシウムの粉体間の結合力が向上される。したがって、製造された固体状の生体材料L,O,Rは、βリン酸三カルシウムの粉体を高い結合力によって連結し、弾性を有するものとなる。その結果、容易に脆性破壊することのない生体組織補填材を構成することができる。
この場合に、生体材料L,O,Rは高い保水性を有するため、生体内に補填するとその剛性は低下する。したがって、生体内における剛性を高めるために、例えば、乳糖のような物質を混合することにより硬度を調節し、補填後の剛性を確保することが可能となる。
また、生体材料M,N,P,Q,S,Tの気孔率は、使用する生体材料Aのβリン酸カルシウム粉体の粒径を調節したり、生体材料C,D,Eの保水量を調節したり、あるいは溶解性の異なる物質を混合したり、界面活性剤や発泡剤を混合したりすることで、任意に調節することが可能となる。また、生体材料M,N,P,Q,S,Tの剛性を高めるために、例えば、乳糖の様な物質を混合することにより、硬度を調節することができる。
上述した生体材料A〜Tは全て、高い生体吸収性を有するので、生体内に補填した後は、これを除去する必要がない。例えば、気孔を有しない膜状の生体材料I,J,Kは、保水性を有するので、例えば、止血膜として使用することで、止血効果を発揮するとともに、止血後にこれを除去することなく放置することで、その後吸収されて消滅する。したがって、治癒後に生体材料I,J,Kを除去する必要がなく、患者にかかる負担を軽減することができる。
また、上記生体材料A〜Tは全て、熱に強く、オートクレーブ処理を行ってもその性状を維持することができる。例えば、ゲル状の生体材料C〜Hにおいても、オートクレーブ処理により性状を変化させることなく、滅菌することができる。
特に、血液または血漿を混合してなる生体材料D,E,G,Hは、オートクレーブ処理により血球細胞等が死滅するが、血液中に含まれているサイトカイン等の成長因子は変質することなく残る。したがって、生体内に補填したときに、周囲の細胞の成長を促進するような、実際の生体組織に近い機能を発揮することができる。
なお、上記成長因子等の薬剤を積極的に混合することにしてもよいことは言うまでもない。
また、本実施形態においては、リン酸カルシウムとしてβリン酸三カルシウムを例示したが、これに限定されるものではなく、他の任意のリン酸カルシウム粉体を使用することとしてもよい。
本発明の一実施形態に係る生体材料Aの製造工程を示すフローチャートである。 図1の生体材料Aを用いた生体材料B〜Eの製造工程を示すフローチャートである。 図2の生体材料Bを用いた生体材料F,G,Hの製造工程を示すフローチャートである。 図3の生体材料Fを用いた生体材料Iの製造工程を示すフローチャートである。 図3の生体材料Gを用いた生体材料Jの製造工程を示すフローチャートである。 図3の生体材料Hを用いた生体材料Kの製造工程を示すフローチャートである。 図2の生体材料Cを用いた生体材料L,M,Nの製造工程を示すフローチャートである。 図2の生体材料Dを用いた生体材料O,P,Qの製造工程を示すフローチャートである。 図2の生体材料Eを用いた生体材料R,S,Tの製造工程を示すフローチャートである。
符号の説明
A〜T 生体材料
S1 メカノケミカル法による混合ステップ

Claims (10)

  1. リン酸カルシウム粉体とアルギン酸塩類とをメカノケミカル法を利用して混合してなる生体材料。
  2. 請求項1に記載の生体材料に、さらに水を混合してなる生体材料。
  3. 請求項1に記載の生体材料に、さらに血液または血漿を混合してなる生体材料。
  4. 請求項2または請求項3に記載の生体材料を、カルシウムイオンを含有する水溶液に接触させてなる生体材料。
  5. 請求項2から請求項4のいずれかに記載の生体材料を凍結乾燥してなる生体材料。
  6. リン酸カルシウム粉体とアルギン酸塩類とをメカノケミカル法を利用して混合する生体材料の製造方法。
  7. リン酸カルシウム粉体とアルギン酸塩類とをメカノケミカル法を利用して混合した後にさらに、水を混合する請求項5に記載の生体材料の製造方法。
  8. リン酸カルシウム粉体とアルギン酸塩類とをメカノケミカル法を利用して混合した後にさらに、血液または血漿を混合する請求項5に記載の生体材料の製造方法。
  9. さらに、カルシウムイオンを含有する水溶液に接触させる請求項7または請求項8に記載の生体材料の製造方法。
  10. さらに、凍結乾燥する請求項7から請求項9のいずれかに記載の生体材料の製造方法。
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