JP4970547B2 - 気泡安定液の調整方法と気泡掘削施工法 - Google Patents
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Description
このような地中連続壁工法では溝壁の安定を保ち、掘削土砂の排泥を容易にするためにベントナイト系安定液を使用している。しかしながら、この方法では排泥土量が多く、さらにベントナイトの混入した排泥土の再利用は困難でかつ処理費用が高額になることより、それに代わるものが求められていた。
一方、掘削土砂に体積比で15〜40%の気泡及び適量の水を加えた懸濁液(以下、気泡安定液と称す)は安定液としての諸機能を有しており、気泡安定液を使用する地中連続壁施工方法は従来と特に変わるものではないことが知られている。掘削機械の掘削先端部から所要量の気泡及び水を吐出させ掘削土砂と混合・攪拌すると、この懸濁液が溝壁を安定化し、流動性等の機能を持った気泡安定液となり、連続した掘進を行うことができる。排泥土砂中の気泡は気中に放置する、あるいは消泡剤を添加すると容易に消泡するので後処理が容易である。このため、排泥土量はベントナイト系安定液に比較し1/2以下に減少するので、気泡安定液は環境負荷、経済性に優れていると言える。
地盤掘削に気泡を利用した例としては、気泡シールド工法がある(たとえば、非特許文献1、特許文献1−2)。気泡シールド工法は、土圧系シールド工法における加泥材として気泡を用いた工法で、気泡添加により掘削土砂のチャンバ内とスクリューコンベアによる排土時の流動性と止水性を高めるとともに、粘性土の付着を防止するものである。また、排泥土中の気泡は自然消泡または消泡剤により消泡されるので、排泥土は気泡注入前の状態に戻り、後処理が容易であるとされている。しかしながら、気泡を含むチャンバ内土圧により、シールド切羽土圧に抵抗する機構は概念的に示されているが、気泡自体による切羽地盤安定化機構について詳細な検討は行われていない。
一方、地下連続壁工法(たとえば特許文献3)等では、気泡安定液はベントナイト系安定液と同様に直接的に掘削溝壁の安定性に関与するので、気泡シールドの場合に比べてその安定化機構、性能について詳細に検討する必要がある。特に、気泡安定液の主要材料が気泡であることより、溝壁の安定性、流動性等においてはその機能の発現メカニズムにベントナイト系安定液とは大きな違いがある。さらに経済性、環境負荷においても、排泥量、処理費用等に大きな差異が生じる。
ベントナイト系安定液を用いた地中連続壁工事では、比重とファンネル粘性の測定結果をもとにベントナイト安定液の性状管理図を用いて管理が行われ、多くの優れた施工実績が得られている。この管理図の所定の領域では、ベントナイト安定液が良好またはやや良好な性状を保持するが、領域外にその状態が変化する場合にはベントナイトの配合量を増やしたり、CMCなどの助剤を加えたりして適宜な対策をとる必要があるとされている。
気泡安定液は、以上のような既往の知見、技術を踏まえて創案されたものであり、“掘削土砂、気泡及び水の均質な懸濁液であり、溝壁の安定性、止水性、流動性等に優れた安定液”と定義できる。しかしながら、気泡安定液の物性は、添加する気泡量、水量のみならず掘削土砂の粒度、コンシステンシー特性の影響も強く受ける。したがって、気泡安定液を利用した地下掘削時には、それらの影響を評価しうる、ベントナイト安定液の比重とファンネル粘性に相当するような、適切な管理指標を設け、気泡と水の添加量により調整を行いつつ掘削管理を行う必要がある。
だが、現状においては、気泡安定液についての掘削施工上の管理指標に係わる技術手段は実現されていないのが実情である。
シールド技術協会「気泡シールド工法」(平成19年6月)
第1:掘削土に気泡および水又はセメントミルクを加えて混合した地盤掘削用の気泡安定液の調整方法であって、気泡量と水又はセメントミルク量とを以下の指標に基づいて安定化調整する気泡安定液の調整方法。
<A>掘削土に気泡を添加したときに消泡が生じない最小の含水比である消泡含水比(Wmin)
<B>気泡安定液の分離が生じない最大含水比である分離含水比(Wsep)
<C>掘削に必要な流動性からの最小の気泡添加量を示す最小気泡添加率(Qmin)
<D>掘削上必要な最小密度としての気泡安定液の必要密度を得るための最大の気泡添加量を示す最大気泡添加率(Qmax)
第2:気泡安定液の密度と流動性との直交X−Y二次元相関図において、前記指標Wmin、Wsep、Qmin、およびQmaxの曲線で囲まれた範囲内となるように気泡量および水又はセメントミルク量を調整することを特徴とする上記第1に記載の気泡安定液の調整方法。
第3:気泡安定液の密度と流動性は、気泡安定液の単位体積重量γcとTF値により表すことを特徴とする上記第2に記載の気泡安定液の調整方法。
第4:消泡含水比Wminは、掘削土に含まれる粗粒分の表面乾燥含水比と細粒分の収縮限界含水比の和、を基準として決定することを特徴とする上記第1ないし第3いずれかに記載の気泡安定液の調整方法。
第5:分離含水比Wsepは、掘削土砂に含まれる粗粒分の分離含水比と細粒分の分離含水比の和であって、
粗粒分の分離含水比は粗粒分の比表面積と気泡安定液の気泡添加率の一次関数、
細粒分の分離含水比は液性限界、として表すことを特徴とする上記第1ないし第4いずれかに記載の気泡安定液の調整方法。
第6:TF値は、掘削土の細粒分含有率Pが10%以上または10%未満、気泡添加率が1%以上または1%未満の4つの領域毎に、含水比W、気泡添加率Q、掘削土の粗粒分の比表面積S、掘削土の細粒分含有率P、掘削土の細粒分の液性限界WLの関数として管理することを特徴とする上記第1ないし第5いずれかに記載の気泡安定液の調整方法。
第7:最小気泡添加率(Qmin)は、含水比Wが消泡含水比(Wmin)のときにTF値を管理値以上に保つために必要な気泡量を示す指標として決定されることを特徴とする上記第1ないし第6いずれかに記載の気泡安定液の調整方法。
第8:安定液の単位体積重量γcを、気泡添加率Q、細粒分含有率P、安定液の含水比W、粗粒分の土粒子の単位体積重量γss、細粒分の土粒子の単位体積重量γsc、水の単位体積重量γw、気泡の単位体積重量γbの関数として管理し、最大気泡添加量(Qmax)は、γcを管理値以上に保つために必要な気泡量として分離含水比Wsepと共に決定されることを特徴とする上記第1ないし第7いずれかに記載の気泡安定液の調整方法。
第9:セメントミルクは、水セメント比(W/C)が0.6〜4.0であることを特徴とする上記第1ないし第8のいずれかに記載の気泡掘削施工法。
第10:上記第1ないし第9のいずれかに記載の方法によって気泡安定液を調整して地盤の掘削を行うことを特徴とする気泡掘削施工法。
第11:溝壁の崩壊を防ぎ排泥を容易とする地下連続壁工法であることを特徴とする上記第10に記載の気泡掘削施工法。
第12:気泡安定液を固化させるに際し、固化体の強度増加のために固化材中に消泡材を混合して固化させることを特徴とする上記第11に記載の気泡掘削施工法。
第13:シールド推進機のカッターフェイスと切羽面の間およびチャンバ内に気泡安定液を充填し、切羽の崩壊を防止しつつ掘削するシールド工法であることを特徴とする上記第10に記載の気泡掘削工法。
図2は、骨材土粒子の含水状態を示した模式図である。
図3は、分離実験に用いたシリンダー状の分離含水比測定装置の模式図である。
図4は、掘削土砂に含まれる比表面積の影響を調べるために、表1の各種珪砂について気泡添加率を2%の一定量とし、含水比を変化させた気泡安定液を作成し、重量比を求めた結果である。
図5は、分離含水比の計測値と式(8)による推定値を要因別に分けて比較した結果である。
図6は、変水位透水試験に準じた実験に使用した実験装置図である。
図7は、気泡安定液及びベントナイト安定液における透水量と時間の関係を調べた結果である。
図8は、気泡安定液及びベントナイト安定液における透水量と時間の関係を調べた結果である。
図9は、安定液で不透水層が形成されて液圧により安定を保っている溝壁に対して、模擬地盤内部の地下水圧を徐々に増加させることにより溝壁面を崩壊させた時の安定液圧と水圧の関係を調査するために使用した実験装置図である。
図10は、豊浦砂を模擬地盤として気泡安定液及びベントナイト安定液を使用した場合の、安定液圧=PW=39.2kN/m2、上載圧PS=29.4kN/m2とした時の実験結果である。
図11は、豊浦砂を模擬地盤として気泡安定液及びベントナイト安定液を使用した場合の、安定液圧=PW=39.2kN/m2、上載圧PS=29.4kN/m2とした時の実験結果である。
図12は、壁の崩壊が生じた時の実験結果を示す表6をもとに地盤内間隙水圧と安定液圧との比である。
図13は、a)気泡添加率、b)比表面積、c)細粒分含有率、d)液性限界をパラメーターとしたときのTF値と含水比の関係を例示した図である。
図14は、α,βの決定に先立ち、図13−a)を含水比をパラメーターとして描き直した結果である。
図15は、α,βの決定に先立ち、図13−c)を含水比をパラメーターとして描き直した結果である。
図16は、式(10)によって得られたTF推定値とTF実測値を領域別に分けて、比較した結果である。
図17は、気泡安定液管理図の一例である。
図18は、施工に使用した安定液管理図ならびに施工中の気泡安定液の単位体積重量とTF値の計測値である。
図19は、現場で使用した気泡安定液の管理図及び施工中の気泡安定液の単位体積重量とTF値の計測値である。
<A>掘削土に気泡を添加したときに消泡が生じない最小の含水比である消泡含水比(Wmin)
<B>気泡安定液の分離が生じない最大含水比である分離含水比(Wsep)
<C>掘削に必要な流動性からの最小の気泡添加量を示す最小気泡添加率(Qmin)
<D>掘削上必要な最小密度としての気泡安定液の必要密度を得るための最大の気泡添加量を示す最大気泡添加率(Qmax)
に基づいて気泡添加量と水又はセメントミルクの添加量とをコントロールする。このような指標は、本発明において初めて具体的に明確にされたものである。
そして、本発明の調整方法では、前記のとおり、気泡安定液の密度と流動性との直交X−Y二次元相関図において、前記指標Wmin、Wsep、Qmin、およびQmaxの曲線で囲まれた範囲内となるように気泡量と水又はセメントミルク量とを調整することを特徴としている。
そこで、以下に、上記の指標群が気泡安定液の調整、管理において有効であることの理由と根拠について詳述する。
1.指標群と気泡安定液の物性
以下の説明においては、具体的検証に係わるものとして次のことが前提とされている。
(1)材料について
<起泡剤>
起泡剤としては、アルキルサルフェート系界面活性剤、部分加水分解蛋白質、アルキルエーテル系化合物複合体等の各種のものを用いることを考慮することができる。なかでも、安定液の機能として最も要求される溝壁を安定した状態に保ち続ける性能を得るためには、消泡し難く、酸やアルカリ等の化学的安定性に優れ、かつ起泡能力の大きい起泡剤としてアルキルサルフェート系界面活性剤を使用するのが好ましい。
なお、以下の検証で用いた起泡剤は気泡コンクリート、エアーモルタル等に使用されている製品である。得られる気泡の粒度がおおよそ20〜500μm程度の範囲のものであれば、以下の検証と同様に用いることができると考えられる。
<試験用土試料>
模擬土としての試験用土試料は、粗粒土として豊浦砂、珪砂6号、珪砂5号、珪砂4号、珪砂3号、NS30を、細粒土としてコンシステンシー特性の異なるカオリン、木節粘土、ベントナイトを使用し、適宜粗粒土と細粒土を混合し試料とした。なお、後述の図中の凡例においては、試料に表1のように記号をつけ表記した。粗粒土と細粒土の混合土はTo−Kaのようにハイフンで結合し表記した。また、D50は試料の50%粒径、Sは比表面積、WLは液性限界、Ipは塑性指数である。
気泡安定液は、ここでは先ず、掘削土に気泡と水を加える場合について、検証する。なお、水に換えてセメントミルクを用いる場合については、後で説明をする。
気泡安定液の作成法は、図1に示すように、起泡剤原液を仕様書に従って水で20倍に希釈し、これをさらに25倍の体積になるようにハンドミキサーで泡立てて気泡を作成し、この気泡と水を試料土に添加して、試料土、気泡と水が均一に分散するように混合する。この起泡剤の希釈率は起泡剤の仕様書に規定された希釈倍率である。仕様が異なる気泡剤を用いる場合には、気泡剤としての機能を最大限に発揮することができる希釈倍率を採用し、気泡添加率Qと後述の気泡の単位体積重量γbを調整すればよい。
また、気泡安定液への気泡添加率Qは式(1)で定義することができる。式(1)から明らかなとおり、気泡添加率Qは掘削土の乾燥重量に対する気泡の重量の割合として定義される。そして、気泡添加量は掘削土の乾燥重量に対し添加する気泡の重量である。
気泡と混合する掘削土の含水比が適切であると懸濁状態を保つ安定した気泡安定液となるが、掘削土が乾燥状態にあると土粒子の吸水作用によって気泡の水が吸収され消泡が生じる。これとは逆に加水量が多く含水比が高くなると、土粒子は分離・沈降を生じ気泡安定液は不均質な状態となる。気泡が消泡しない最小含水比を消泡含水比、土粒子が分離・沈降を生じる含水比を分離含水比と名付けると、それぞれ以下のように定義される。なお、ここで言う土粒子とは、掘削土中の粗粒分と細粒分の全ての土粒子を意味する。
<消泡含水比(Wmin)>
気泡安定液に消泡の生じない最小の含水比を消泡含水比(Wmin)とする。気泡安定液に含まれる土粒子の性状の違いが消泡含水比に及ぼす影響を、安定液に含まれる土粒子の粗粒分と細粒分に分けて考える。
a)粗粒分の影響
粗粒分の消泡含水比に及ぼす影響は、コンクリートの骨材配合設計時に用いられる表面乾燥状態含水比に着目して評価した。コンクリート工学では骨材土粒子の含水状態を図2のように4段階に分けており、この中で土粒子が気泡を吸着して消泡現象が起こるのは、表面乾燥状態を下回る含水比のときと考えられる。よって、粗粒分の場合、消泡含水比は表面乾燥状態に相当する含水比(表面乾燥含水比)とすることができる。
b)細粒分の影響
細粒分に関しては、表面乾燥含水比の測定が困難である。そこで、粘土などの細粒分の含水比低下に伴う体積収縮状態の変化に着目した。
細粒分は含水比の低下によって、正規収縮、残留収縮、無収縮という段階を経て収縮する。無収縮時には土粒子骨格体積は変化せず、間隙液体体積のみが現象する。したがって、残留収縮が停止する収縮限界に相当する含水比以下では、細粒分が気泡を吸着し消泡させると考えられる。よって、細粒分の場合には消泡含水比に収縮限界に相当する含水比(収縮限界含水比)を採用することができる。
c)気泡安定液の消泡含水比(Wmin)の決定
上記の気泡安定液に含まれる粗粒分と細粒分が消泡条件に及ぼす影響を考慮して、掘削土に対応する消泡含水比を決定する。気泡が土粒子に吸着されず消泡しないとすれば、粗粒分と細粒分から構成される掘削土の中には最低でも粗粒分の表面乾燥状態に対応する水量と細粒分の収縮限界に対応する水量が存在しなければならない。細粒分と粗粒分の寄与を考慮して、この水量の和を全ての土に対する含水比の形で表し、以下の式(2)ように掘削土の消泡含水比(Wmin)を定義した。
一方、細粒分から構成される一般的な土の収縮限界含水比は表2に示すとおりである。前記の式(2)に表面乾燥含水比の平均値6.97%及び一般的な粘土の収縮限界含水比11.0%を代入すると、式(3)のように表すことができる。
土粒子、水および気泡が分散し安定した懸濁状態にある気泡安定液に徐々に水を加えると、懸濁状態が崩れて土粒子の沈降が生じる含水比が存在する。この懸濁状態が崩れる含水比を分離含水比(Wsep)とする。
分離含水比を求めるための分離実験には、図3に示す上下に2分割できるシリンダー状の分離含水比測定装置(内径90mm、高さ200mm)を用いた。分離含水比測定装置に気泡安定液を満たし重量を測った後に静置し、1時間経過後に上層の容器と下層の容器を注意深く分割して、下層の重量を計測し、上下の気泡安定液の単位体積重量を求める。上下の気泡安定液の単位体積重量の比を式(4)の重量比で表すと、気泡安定液内で土粒子の分離・沈降が生じる場合には、下部容器の単位体積重量が大きくなるので重量比は上昇する。そこで、重量比が急激に大きくなるときの含水比を分離含水比とした。
分離含水比に影響を及ぼす要因として、気泡安定液の含水比W、気泡添加率Q、掘削土の粗粒分の比表面積(以下、比表面積)S、細粒分含有率P、および液性限界wLに着目し、これらの影響を実験で確かめ、分離含水比の推定式を求めることができる。
まず、掘削土に含まれる粗粒分の比表面積の影響を調べるために、表1の各種珪砂について気泡添加率を2%の一定量とし、含水比を変化させた気泡安定液を作成し、重量比を求めた結果を図4に示す。図中の凡例において、Sは各試料の比表面積(m2/kN)を表す。
図4によると、いずれの試料についても重量比が約1.02以上になると重量比は急激に上昇し、気泡安定液が分離することがわかる。そこで、重量比が1.02に対応する含水比を図上で求め、分離含水比(Wsep)とした。豊浦砂の場合の分離含水比は31.0%、珪砂6号では25.0%、珪砂5号では16.5%、珪砂4号では11.5%、珪砂3号では6.0%となり、土粒子の比表面積と分離含水比は比例関係にあることがわかった。これは土粒子と気泡の付着力のために、比表面積が大きいほど気泡の浮力の影響を受けるためと考えることができる。
なお、比表面積は粗粒分の50%粒径を使用し、式(5)で求めた。
さらに、気泡添加率の影響を調べるために、豊浦砂、珪砂6号、珪砂5号に、気泡添加率Qを0〜10%の範囲で変化させた試料を準備してそれぞれの分離含水比を求めた結果について、表3に示した。
粗粒分の影響は表3における細粒分を含まない試料土のデータ(要因区分SとQ)を使用し、比表面積及び気泡添加率を変数とし重回帰分析を行い、式(6)を得た。
b)細粒分の影響
次に、掘削土に含まれる細粒分含有率の影響を調べるために、各種珪砂にカオリンを重量比で0〜40%の範囲で添加した試料を使用し、気泡添加率は2%として、含水比を変化させて気泡安定液を作成した。この場合も重量比が1.02付近になると分離が急激に生じたので、重量比1.02に対応する含水比を求め分離含水比(Wsep)とした。この結果を表3に示した。
また、豊浦砂にコンシステンシー特性の異なる粘土(カオリン、木節粘土、ベントナイト)を添加した試料を使用し、気泡添加率Qがほぼ2%の場合の分離含水比を求め、表3にあわせて示した。液性限界と分離含水比は比例関係にあり、液性限界が大きい粘土ほど気泡安定液の粘性を増加させるので分離が生じ難くなると考えられる。
c)気泡安定液の分離含水比の決定
気泡安定液の分離含水比についても、最小含水比と同様の粗粒分と細粒分の分離含水比に対応する水量の和を全ての土に対する含水比の形で表すと、式(8)となる。
(3)気泡安定液の溝壁安定性条件
掘削用安定液により溝壁面に形成される不透水層は、逸水を防ぎ、液圧を溝壁に伝えることにより、溝壁の崩壊を防ぐ重要な役割を果たす。ベントナイト系安定液では、溝壁面に形成されたベントナイト泥膜が不透水層の役割を果たす。一方、気泡安定液では、気泡が周辺の原地盤の間隙部分に入り込み、不飽和化した土粒子骨格と一体となって、ベントナイト泥膜の数倍の厚さを持った不透水層を形成することが想定される。
ベントナイト系安定液の現場での管理実績と気泡安定液とベントナイト系安定液による不透水層の形成状況と透水特性を実験的に比較することにより、気泡安定液の機能発現メカニズムと溝壁安定性条件について検討した。
a)気泡安定液の単位体積重量
掘削土の土粒子(粗粒分、細粒分)、気泡、間隙水から構成される気泡安定液の単位体積重量γCは式(9)で表せる。
溝壁の安定を保つに必要な安定液の単位体積重量は、ベントナイト系安定液の性状管理図における比重の最小値1.05に対応する10.3(kN/m3)以上とすることができる。この値と式(9)を利用すると、特定の掘削土を利用した気泡安定液について気泡添加率Qと含水比wが満たすべき不等式が決まる。
b)不透水層の形成状況と透水特性
気泡安定液及びベントナイト安定液による不透水層の形成状況を調査するために、図6に示す実験装置を使用して変水位透水試験に準じた実験を行った。
試験手順は以下の通りである。試料土は豊浦砂、珪砂7号、珪砂6号、珪砂5号、珪砂4号とし、γC=10.3(kN/m3)の気泡安定液およびγC=10.3(kN/m3)、ファンネル粘性24.5secとしたベントナイト安定液を使用した。なお、気泡安定液は、実際の掘削状況を想定して飽和状態の各試料に気泡を加え、気泡添加量を変化させて目標のγCとなるように調整した。まず、シリンダーA内に試料土を高さが10cmになるように3層に分けて突き固めて模擬地盤を作成し、シリンダーB内の水位をシリンダーAの模擬地盤と同じ高さにあわせ、模擬地盤を飽和させた。次に、模擬地盤の上に気泡安定液もしくはベントナイト安定液を入れ、シリンダーA上部に水頭200cmに相当する19.6(kN/m3)を空気圧で加え、シリンダーBから流出する単位時間当たりの透水量が一定になるまで1秒毎に計測した。
気泡安定液及びベントナイト安定液における透水量と時間の関係をそれぞれ図7、図8に、不透水層形成までの時間及び透水量を表4に示す。実験により得られた透水量と時間の関係によると、透水量は不透水層が形成されると図7、図8に示すように急激に減少し、透水速度は十分小さい値で一定となる。この曲線の最大曲率となるまでの所要時間を、図中に矢印で示すように不透水層形成時間とした。
不透水層が形成された後の透水速度を模擬地盤断面積で除して求めた見かけの透水係数(動水勾配、i≒2(m)/0.1(m)=20)を表5に示す。気泡安定液の場合には、見かけの透水係数は10−5(cm/s)オーダーであり、ベントナイト安定液の場合、透水係数は10−6(cm/s)オーダーであり、原地盤の透水係数よりも3桁以上小さい。
掘削時に安定液圧より大きな被圧地下水に遭遇することを想定して、図9に示す実験装置を用いて、安定液で不透水層が形成されて液圧により安定を保っている溝壁に対して、模擬地盤内部の地下水圧を徐々に増加させることにより溝壁面を崩壊させた時の安定液圧と水圧の関係を調査した。
試料土は、豊浦砂及び安定液による不透水層の形成が比較的困難な珪砂5号、珪砂4号を使用した。安定液は、前節と同一の方法で準備したものを用いた。模擬地盤内の水圧は、溝壁面から5〜25cmの間に5個の間隙水圧計を設置し計測した。
まず、模擬地盤土槽に試料土を入れ良く締固め、飽和状態とした。上部のジャッキで、模擬地盤上面に上載圧(9.8〜29.4kN/m2)を加えた。安定液円筒に安定液を入れ、円筒内に安定液圧に相当する空気圧(19.6〜39.2kN/m2)を加えた。
次に、安定液と模擬地盤を分離している仕切板を、不透水層が形成されるように5分以上の十分な時間をかけてゆっくりと引き抜いた。仕切板除去後、給水用の水シリンダーから模擬地盤内に加圧水を供給した。加圧水圧は3分間に9.8kN/m2の割合で増加させた。この時、模擬地盤内の間隙水圧の測定値の平均値が、加圧後3分以上経過しても上昇しない状態が続く、あるいは目視により崩壊を確認することにより溝壁の崩壊とした。
豊浦砂を模擬地盤として気泡安定液及びベントナイト安定液を使用した場合の、安定液圧=Pw=39.2kN/m2、上載圧Ps=29.4kN/m2とした時の実験結果を各々図10、図11に示す。気泡安定液を用いた図10によると、加圧水圧を9.8kN/m2とした状態では模擬地盤内の間隙水圧平均値は14.9kN/m2に増加しているが、安定液圧39.24kN/m2の約40%にすぎず不透水層を介して安定液圧が充分作用して、溝壁が安定した状態といえる。その後、段階的に加圧水圧を増加させると、加圧水圧が安定液圧を超えない範囲では模擬地盤内の間隙水圧は単調に増加するが、加圧水圧が安定液圧を超えると間隙水圧は安定液圧より8.84kN/m2高い48.04kN/m2をピークとして増加しなくなった。これは加圧水により模擬地盤内の間隙水が安定液中に流れ込んでいる状態であり、溝壁の崩壊を意味する。ベントナイト安定液を用いた図11では、泥膜の透水係数が十分小さいので、加圧水圧が安定液圧よりも小さい範囲では、地盤内の間隙水圧は加圧水圧にほぼ相当する値となった。しかしながら、加圧水圧が安定液圧を上回ると地盤内間隙水圧は気泡安定液の場合と同様にほぼ48kN/m2で増加しなくなったので、溝壁が崩壊したものと判断できる。なお、試料土として珪砂5号、珪砂4号を使用した場合には気泡安定液では不透水層を形成できたが、ベントナイト安定液は不透水層を形成できず、仕切板を引抜くと同時に溝壁が崩壊した。
壁の崩壊が生じた時の実験結果を示す表6をもとに地盤内間隙水圧と安定液圧との比を図12に示す。気泡安定液、ベントナイト安定液ともに崩壊水圧と安定液圧の比は安定液圧に拘わらず1.1〜1.5の範囲に分布しており、気泡安定液はベントナイト安定液と同等の性能を有しているといえる。なお、図中の凡例のaは気泡安定液、beはベントナイト安定液である。
a)気泡安定液の流動性を支配する要因
気泡安定液の掘削性能に関係する流動性を表す指標として、ファンネル粘性やテーブルフロー値(TF値)が使用される。ベントナイト系安定液に用いられるファンネル粘性は安定液のみの粘性を表す指標であるのに対して、TF値は掘削土砂を含んだより広い範囲の流動性を表すことができるので、気泡安定液の流動性の指標としてTF値を採用することにした。
TF値に影響を及ぼす要因としては、含水比、気泡添加率、掘削土の比表面積、細粒分含有率、液性限界等が考えられる。そこで、気泡添加率、比表面積、細粒分含有率、液性限界をパラメーターとしてTF値と含水比の関係を調べた。
まず、試料土として豊浦砂を使用し気泡添加率を0〜4%の範囲で8段階に設定し、この各々の状態に対し含水比を変化させた気泡安定液を作成し、TF値を計測した。パラメーターとして気泡添加率を用いたTF値と含水比の関係を図13−a)に示す。
次に、試料土は各種珪砂を使用して気泡添加率Q=2.0%とし、含水比を変化させて気泡安定液を作成し、比表面積をパラメーターとしてTF値と含水比の関係図を描くと図13−b)となる。
また、豊浦砂にカオリンを0〜30%の8段階に分けて添加した試料土を使用し、気泡添加率2%の状態で、気泡安定液を作成し、細粒分含有率をパラメーターとしたときのTF値と含水比の関係図を図13−c)に示す。
同様に、コンシステンシー特性の異なる粘土鉱物がTF値に及ぼす影響を調べるために、豊浦砂にカオリン、木節粘土、ベントナイトを添加した試料を使用し、気泡添加率Q=2.0%としたときのTF値と含水比の関係を図13−d)に示す。
図13−a)、b)、c)、d)を見るとTF値は選択したパラメーターに拘わらず、含水比とほぼ比例関係にあることがわかるので、TF値は式(10)で表すことができる。
α,βの決定に先立ち、図13−a)、c)をそれぞれ含水比をパラメーターとして描き直すと図14、図15となる。図14から、気泡添加率が0〜1%の間では気泡量の増加に伴いTF値は急激に増加し比例関係にあることがわかる。しかしながら、気泡添加率が1%を越すと気泡添加量が増加してもTF値は変化せず、むしろわずかな減少傾向がみられる。これは、気泡添加率が1%までは気泡が土粒子間に入り摩擦力を減少させるが、1%を超えると土粒子間の接触はなくなるためではないかと考えられる。一方、図15においては、カオリン含有率が0〜10%の範囲ではTF値は増加傾向が見られるが、10%を越すと減少している。これは、細粒分が少量(10%以下)のときは潤滑材として作用するが、10%を越すと潤滑作用よりも粘性の増加による流動性阻害作用のほうが大きくなるものと考えられる。このような事実を踏まえて、α,βの決定にあたっては、細粒分含有率Pが10%以上とそれ以下の領域、気泡添加率Qが1%以上とそれ以下の4つの領域で、個別に係数αn,βnを求めることとした。αn,βnは気泡添加率、比表面積、細粒分含有率、液性限界の影響を受けるので、これらを変数として重回帰分析を行い、得られたαn,βnの推定式を表7に示す。掘削土に対応したαn,βnの値を式(10)に代入すると、各領域におけるTF値を求めることができる。
以上のようにして得られたTF推定値とTF実測値を領域別に分けて、比較すると図16となる。これより、実用的に意味のあるTF値が100(mm)から300(mm)の範囲では、上式を用いてTF値を推定することが可能と判断できる。
気泡安定液中の気泡は掘削深度が大きくなると拘束圧により圧縮されて、気泡安定液の基本性状に変化が生じることが懸念される。実験的に検討した結果、掘削深度30mに相当する約310(kN/m2)までの拘束圧の範囲では、流体的性質を保持することを確認している。これ以上の拘束圧の下でもある程度の機能を保持することが推定されるが、実工事等で確認する必要がある。
2.気泡安定液の現場管理手法
1)気泡安定液の管理項目及び管理限界値
以上の気泡安定液の物性と基本性能に関する実験結果に基づいて、気泡安定液の現場適用における管理項目として、下記の性能指標に着目した。
・掘削に関わる気泡安定液の流動性
・気泡安定液の懸濁安定性に係わる最小含水比、分離含水比
・溝壁の安定に関わる単位体積重量、不透水層形成性能
これらの性能指標を支配する管理指標として、ベントナイト安定液の比重とファンネル粘性に相当する、気泡安定液の単位体積重量γCとTF値を採用した。γCとTF値は共に、掘削土の物性値(P,S,WL,γSS,γSC)と水と気泡の単位体積重量(γw,γb)が与えられると、気泡安定液の気泡添加率Qと含水比wの2つの変数の関数となる。そこで下記のような手順でQとwの限界値を定め、それをもとにγCとTF値による気泡安定液の管理図を作成した。
(a)掘削性能より定まる管理限界値
掘削性能を支配する気泡安定液の流動性は、TRD工法ではTF値で150〜200mmを管理目標としている。前章の結果によれば、TF値は細粒分含有率10%以上と以下の土において、各々気泡添加率Qが1%以上と以下の4種の領域n(=1,2,3,4)において、式(10)に表7のαn,βnを代入することにより表されるので、TF値の管理条件式は式(11)となる。
(b)安定液の懸濁安定性より定まる管理限界値
気泡安定液の含水比は、気泡の消泡限界を表す最小含水比(Wmin)より大きく、分離限界である分離含水比(Wsep)より小さく保たねばならないので懸濁安定性に関する管理限界は式(12)で表される。
溝壁安定性に関しては、前述のように気泡安定液の単位体積重量による管理が重要である。管理限界値は地下水圧に対抗するために、ベントナイト系安定液の管理図で比重1.05に相当する単位体積重量10.3(kN/m2)以上を目標とすることができる。気泡安定液の理論単位体積重量は式(9)で表されるので、管理条件は次式(15)で表される。
なお、管理限界値(Wmin,Wsep,Qmin,Qmax)を計算する順序は式(3)、式(11)、式(8)、式(13)に掘削土の物性値を代入する。すると式(3)よりWminが計算でき、Wminを式(11)に代入するとQminが得られ、これを式(8)に代入しWsepを求め、これを式(12)に代入しQmaxが得られる。
2)気泡安定液の管理図の作成及びそれを利用した気泡安定液の調整方法
ベントナイト安定液の調整管理は、ベントナイト安定液の比重とファンネル粘性の関係図を使用するが、これに準じて、気泡安定液の単位体積重量γCとTF値の関係図に管理限界である最小含水比Wmin、分離含水比Wsep、最大気泡添加率Qmax、最小添加率Qminをプロットした気泡安定液管理図を使用することで、簡便に気泡安定液の管理、調整が可能となる。気泡安定液管理図の一例を図17に示す。
前述のように、気泡安定液の単位体積重量γC(式(9))およびTF値(式(10)と表7)はQとWをパラメーターとした関数なので、市販の表計算ソフトを利用して、含水比を一定値とし、気泡添加率を変化させてγCとTF値を計算し、γC−TF平面上でこれらの点を結ぶと、等含水比線が描ける。同様にして、Qを一定値としWを変化させてγCとTF値を計算し、これらを結ぶと等気泡添加率線が得られる。このようにして得られた等含水比線、等気泡添加率線図の最小含水比Wmin、分離含水比Wsep、最大気泡添加率Qmax、最小添加率Qminで囲まれた内部の領域が、気泡安定液による安定した掘削が可能な領域である。
1)気泡安定液管理図の利用
図17に示す気泡安定液管理図を利用した気泡安定液の調整方法は、下記のように要約することができる。
<1>:気泡安定液の単位体積重量及びTF値がAの領域内にあるときは安定した施工が可能である。
<2>:Bの領域では、気泡安定液の単位体積重量が小さく、溝壁の崩壊が生じる危険がある。気泡安定液の状態がAとBの境界に近づいたときには、気泡添加量を減少させ単位体積重量を増加させる。
<3>:Cの領域では土粒子の分離・沈降が生じるので、AとCの境界に近づいたときは加水量を減少させ、分離・沈降を防ぐ。
<4>:Dの領域ではTF値が急激に小さくなり、流動性が損なわれるので、AとDの境界に近づいたときは気泡添加量を増やす。
<5>:Eの領域では気泡の消泡が生じるので、AとEの境界に近づいたときは加水量を増加させる。
以上のように、掘削時の気泡安定液の調整および管理は気泡添加量と加水量を組み合わせることにより達成できる。
3.セメントミルクを用いて気泡安定液を作成する場合
以上のこの出願の発明の気泡安定液の調整方法は、掘削土に気泡および水を加えて気泡安定液を作成する場合について説明したが、この出願の発明においては、掘削土に気泡とセメントミルクを加えた気泡安定液についても、全く同様に管理および調整することができる。
この場合の詳細は、以下のとおりである。
(1)セメントミルクは、基本的にセメントと水を混合したものとする。ここで、セメントミルクは、水/セメント比(WWC/WC)を0.6〜4.0の範囲の所望の値とすることができ、使用範囲はセメントの添加量が掘削土1m3あたり50〜400kg/m3とすることが例示される。
セメントは、水と混合されると直ちに凝結反応が生じこわばりが生じるが、このこわばりは機械的な撹拌により容易に解消されて凝結反応が全く生じていないような状態となる。セメントの凝結は、規格では1時間以内に生じてはいけないこととなっているため、1時間以内にワーカビリチーが損なわれることはない。従って、気泡安定液を掘削土、気泡およびセメントミルクで構成する場合、1時間以内では水を加えた場合と同様な性状を示すと考えることができる。また、セメントミルクに凝結遅延剤を添加すると硬化までの時間を遅くすることもできる。
(2)セメントの粒径はほぼ6〜9μmの範囲内であるので、土粒子として考えると細粒土のシルト(5〜75μm)に相当する。従って、水に代えてセメントミルクを使用する場合には、掘削土の細粒土であるシルトと水に置き換えて考えることができる。
(3)すなわち、水に代えてセメントミルクを使用する場合は、掘削土はセメント添加量相等分だけシルトが増え、セメントミルクの水量分だけ含水比が増加していると考えることができる。これを掘削土Cとする。
(4)水に代えてセメントミルクで掘削する時の各種の条件式について、簡便のため、掘削土砂の物性値(S,WL,P)および気泡添加率Q、気泡安定液の含水比W、単位体積重量γC、最小含水比Wmin、分離含水比Wsep、TFを、それぞれ掘削土砂Cの物性値(SC,WLC,PC)および気泡添加率QC、気泡安定液の含水比WC、単位体積重量γCC、最小含水比WminC、分離含水比WsepC、TFCに置き換えて、以下に検証する。
a)記号の対応
気泡安定液を掘削土、気泡、水で構成する場合に用いた記号(W)と、水をセメントミルクに置き換えた場合(C)に用いる記号との相関を表8に、セメントミルクを使用する場合の計算に用いる記号を表9に示した。
b)液性限界wLC(%)
セメントミルクを使用する場合の液性限界は、土粒子の細粒分に適量のセメントを混合して計測した値を使用することができる。
c)細粒分含有率PC
掘削土の細粒分含有率Pは、下式(17)で表されるため、セメントミルクを使用する場合には細粒分が増加すると考え、式(18)で表すことができる。
気泡添加率は前出の式(1)による定義から下式(19)で表されるため、セメントミルクを使用する場合には細粒分が増加すると考え、式(20)で表すことができる。
含水比は下式(21)で表されるため、セメントミルクを使用する場合には式(22)で表すことができる。
気泡安定液の単位体積重量は前出の式(9)で表されるため、セメントミルクを使用する場合の単位体積重量γCCはこれにセメントミルクの重量および水の重量を入れ、下式(23)で表される。
g)最小含水比Wminc(%)
最小含水比は、前出の式(13)で表されるため、セメントミルクを使用する場合の最小含水比は、Pに代えてPCを使用することで次式(24)で表すことができる。
分離含水比は、前出の式(14)で表されるため、セメントミルクを使用する場合の分離含水比は、Q,P,WLに代えてQC,PC,WLCを使用することで次式(25)で表すことができる。
TF値は下式(26)で表されるため、セメントミルクを使用する場合のTFnc値は、αn,βnに代えてαnc,βncとして下式(27)で計算することができる。なお、αn,βnはQ,S,P,WLの関数なので、αnc,βncはQC,SC(=S),PC,WLCを使用して計算すると、αnc,βncは表10のとおりになる。
管理値限界は、下式(28)〜(30)とすることができる。
なお、上記の本願発明の気泡掘削施工法の説明においては、具体的な値を用いて検証を進めたため、式、表に特定の数値が含まれている。本願発明の方法は、これらの値をそのまま利用することができるが、もちろん、本願発明の方法がこれらの値に限定されるものでないことはいうまでもない。
さらに、この出願の発明の気泡掘削施工法は、以上の気泡安定液の調整方法に基いて気泡安定液を調整し、地盤の掘削を行うことを特徴とする。このような気泡掘削施工として、代表的には、溝壁の崩壊を防ぎ排泥を容易とする地下連続壁工法や、シールド推進機のカッターフェイスと切羽面の間およびチャンバ内に気泡安定液を充填し、切羽の崩壊を防止しつつ掘削するシールド工法等を例示することができ、もちろんこれに限定されることはない。なお、これらの施工法において、現場で気泡安定液を固化させる場合に、固化体の強度増加のために固化材中に消泡材を混合して固化させること等も考慮することができる。
強風化凝灰岩及び天満砂礫層をTRD掘削機により気泡安定液を利用してソイルセメント地中連続壁を施工した実績をもとに、前章で考案した気泡安定液の現場管理手法の妥当性を検証した。
(1)強風化凝灰岩の掘削
1)工事概要
次の表11のとおりとした。
施工管理のために掘削予定地点の採取土の物性試験及び気泡安定液の配合試験を行った。配合試験では、排泥土量を少なくするために気泡添加率は1.0%とし、加水量を変化させて、気泡安定液を作成した。
その結果、単位体積重量=10.3kN/m3、TF値=180mmを得るための配合量として、掘削土1m3当たりの気泡量0.305m3(気泡添加率=1.0%に相当)、加水量0.290m3とした(第2工区では0.350m3)。図18に施工に使用した安定液管理図ならびに施工中の気泡安定液の単位体積重量とTF値の計測値の範囲をプロットした。施工は最初に決めた気泡量、加水量を変えることなく安定した掘削が可能であり、気泡安定液の単位体積重量は11.8〜12.8kN/m3、TF値は185〜200mmで安定していた。
3)排泥土量
掘削時の掘削土量、気泡添加量、加水量ならびに掘削時の排泥土量を表12に示す。排泥土量が気泡と水の添加量より少ないのは、ソイルセメント壁造成時に気泡を消泡させたこと及び気泡安定液が溝壁から透水したことによると推定される。掘削に伴う排泥土量率を式(31)で求めると、2つの工区の排泥土量率の平均値は28.6%であり、同様な土質でベントナイト系安定液を使用した場合の実績値55〜70%と比較すると1/2以下であった。
1)工事概要
次の表13のとおりとした。
あらかじめ掘削土の物性試験及び気泡安定液の配合試験を行った。気泡安定液の単位体積重量=10.3kN/m3、TF値=180mmを得るための配合量として気泡添加量は0.391m3(気泡添加率1.25%に相当)、加水量は0.162m3とした。現場で使用した気泡安定液の管理図及び施工中の気泡安定液の単位体積重量とTF値の計測値を図19に示す。この現場の掘削土砂は掘削対象層の約1/2が天満礫層であることより、前節の青森の現場に比較して粒度が粗いために含水比の許容管理幅が狭かったが、気泡安定液の単位体積重量11.8〜13.7kN/m3、TF値は190〜200mmの範囲で安定した施工ができた。また、掘削に伴う排泥土量は約170m3であり、全掘削土量1140m3の14.7%であった。これは同様な土層構成の地盤をベントナイト系安定液で掘削した場合の実績値の1/3程度であった。
以上詳しく説明したように、気泡安定液は、安定液の懸濁安定に関係する消泡含水比と分離含水比、溝壁安定と掘削性能に関係する単位体積重量とTF値の4種類の項目によってその基本性能が決まる。これらの4種の項目は、それぞれ掘削土砂の物性値、気泡添加率、含水比を変数とする関数で表示できる。
このため、気泡安定液の調整においては、本発明のように、
Wmin:消泡含水比
Wsep:分離含水比
Qmin:最小気泡添加率
Qmax:最大気泡添加率
を指標として、気泡量と水量とをコントロールすればよいことになる。
そして、図17から図19に例示したように、気泡安定液の密度と流動性との直交X−Y二次元相関図において、前記指標Wmin、Wsep、QminおよびQmaxの曲線で囲まれた範囲内となるように気泡量と水量とを調整することが有効であることがわかる。
すなわち、本発明によって、「掘削土砂、気泡および水又はセメントミルクの均質な懸濁液であり、溝壁の安定性や止水性、掘削時の流動性等に優れた安定液」として定義される気泡安定液の実際施工に適合した安定化調整がより確実に、簡便に行うことが可能となる。これによって、高品質、高効率、そして経済性等にも優れた気泡掘削施工が実現されることになる。
Claims (9)
- 掘削土に気泡および水又はセメントミルクを加えて混合した地盤掘削用の気泡安定液の調整方法であって、気泡量および水又はセメントミルク量を以下の指標、
<A>掘削土に気泡を添加したときに消泡が生じない気泡安定液の最小の含水比である消泡含水比(Wmin)
<B>気泡安定液の分離が生じない気泡安定液の最大の含水比である分離含水比(Wsep)
<C>掘削上必要な流動性からの最小の気泡添加量である最小気泡添加率(Qmin)
<D>掘削上必要な最小密度としての気泡安定液の必要密度を得るための最大の気泡添加量を示す最大気泡添加率(Qmax)
に基づいて安定化調整し、
消泡含水比Wminは、掘削土に含まれる粗粒分の表面乾燥含水状態に対応する水量と細粒分の収縮限界に対応する水量の和を粗粒分と細粒分の土粒子の乾燥重量で除した百分率であって、細粒分含有率の一次関数として表し、
分離含水比Wsepは、掘削土に含まれる粗粒分の分離含水比に対応する水量と細粒分の分離含水比に対応する水量の和を粗粒分と細粒分の土粒子の乾燥重量で除した百分率であって、粗粒分の分離含水比は粗粒分の比表面積と気泡安定液の気泡添加率の一次関数、細粒分の分離含水比は液性限界、として表し、
TF値は、掘削土の細粒分含有率Pが10%以上または10%未満、気泡添加率が1%以上または1%未満の4つの領域毎に、気泡安定液の含水比W、気泡添加率Q、掘削土の粗粒分の比表面積S、掘削土の細粒分含有率P、掘削土の細粒分の液性限界WLの関数として管理し、
最小気泡添加率(Qmin)は、気泡安定液の含水比Wが消泡含水比(Wmin)のときにTF値を所定の管理値以上に保つために必要な気泡量として決定することを特徴とする気泡安定液の調整方法。 - 気泡安定液の密度と流動性との直交X−Y二次元相関図において、前記指標Wmin、Wsep、Qmin、およびQmaxの曲線で囲まれた範囲内となるように気泡量および水又はセメントミルク量を調整することを特徴とする請求項1に記載の気泡安定液の調整方法。
- 気泡安定液の密度と流動性は、気泡安定液の単位体積重量γcとTF値により表すことを特徴とする請求項2に記載の気泡安定液の調整方法。
- 気泡安定液の単位体積重量γ C を、気泡添加率Q、細粒分含有率P、気泡安定液の含水比W、粗粒分の土粒子の単位体積重量γ SS 、細粒分の土粒子の単位体積重量γ SC 、水の単位体積重量γ W 、気泡の単位体積重量γ b の関数として管理し、最大気泡添加率(Qmax)は、γ C を管理値以上に保つために必要な気泡量として分離含水比Wsepと共に決定されることを特徴とする請求項1ないし3いずれかに記載の気泡安定液の調整方法。
- セメントミルクは、水セメント比(W/C)が0.6〜4.0であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の気泡安定液の調整方法。
- 請求項1ないし5のいずれかに記載の方法によって気泡安定液を調整して地盤の掘削を行うことを特徴とする気泡掘削施工法。
- 溝壁の崩壊を防ぎ排泥を容易とする地下連続壁工法であることを特徴とする請求項6に記載の気泡掘削施工法。
- 気泡安定液を固化させるに際し、固化体の強度増加のために固化材中に消泡材を混合して固化させることを特徴とする請求項7に記載の気泡掘削施工法。
- シールド推進機のカッターフェイスと切羽面の間およびチャンバ内に気泡安定液を充填し、切羽の崩壊を防止しつつ掘削するシールド工法であることを特徴とする請求項6に記載の気泡掘削工法。
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