JP4968619B2 - 硬質炭素被膜 - Google Patents
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Description
例えば、通常の平滑な鋼材表面の無潤滑下での摩擦係数が0.5〜1.0であるのに対して、硬質炭素被膜においては、無潤滑下での摩擦係数が0.1程度である。
また、このような硬質炭素被膜にAgのクラスターを設ける方法も示されている(特許文献2参照)。
この他、このような硬質炭素被膜に適宜の金属元素を加えた上、更に膜中の酸素の含有量を制御することで低い摩擦係数を得ている(特許文献3参照)。
更に、上記特許文献3では、金属元素の含有量と、酸素の含有量の双方を制御する必要があることから、より簡便なプロセスが望まれている。また、この場合、潤滑油中にモリブデンジチオカーバメイト(MoDTC)のような極圧添加剤が必要なため、効果を発揮できる潤滑油の種類が限られるという問題があった。
上記第1層は、非晶質炭素を主成分とし、コバルト及び/又はニッケルを合計で1.4原子%〜39原子%含有し、
第1層中に存在するコバルト凝集体及びニッケル凝集体は、該第1層を透過型電子顕微鏡で観察した際の顕微鏡像上で、等価円直径が5nmを超える該凝集体の占める領域が面積比で15%以下であり、
上記第2層は、窒化チタン、炭窒化チタン、炭化チタン、窒化クロム及び窒化チタンクロムから成る群より選ばれた少なくとも1種のもので構成された下地層を少なくとも1層含み、
最表面に硬質の粒子及び/又は粒状突起を有し、表面粗さRyが0.1μm〜0.6μmであることを特徴とする。
X<4Y
で表される関係を満たすことを特徴とする。
ここで、上記第1層は、非晶質炭素を主成分とし、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)のいずれか一方又は双方を合計で1.4原子%〜39原子%含有する。
また、第1層中に存在するCo凝集体、Ni凝集体の双方は、該第1層を透過型電子顕微鏡で観察した際の顕微鏡像上で、等価円直径が5nmを超える該凝集体の占める領域領域を、面積比で15%以下とする。
即ち、第1層中にコバルトやニッケルを添加したことによって、硬質炭素被膜の表面は潤滑剤中の基剤(基油)成分やこれに含まれる添加剤成分を吸着する能力が向上し、表面にこれら基油や添加剤から成る薄い膜が形成される。
これによって、面圧が高い条件又は摺動速度が遅い条件、いわゆる境界潤滑条件においても、形成された膜が相手材との直接接蝕を防ぐという機構によって低い摩擦係数が発現するものと考えられる。
また、コバルトやニッケルが凝集体の状態で存在する場合、その周囲の炭素が本来のアモルファスでなくグラファイトとなっている箇所が多く見られるため、この観点からも凝集体の生成は抑制することが望ましい。低摩擦を目的とした硬質炭素被膜においては、グラファイト成分が多くなることは一般に好ましくないとされている。
合計で1.4原子%未満では上記の吸着効果が十分に発揮されない。吸着の効果を十分に得るためには、できれば3原子%以上、より好ましくは6原子%のコバルトやニッケルを添加するとよい。
一方、コバルトやニッケルの添加量が合計で39原子%を超えた場合には、推測ではあるが、炭素原子のネットワーク構造がコバルトやニッケル原子が存在することによって乱されるために、硬質炭素被膜が本来有する低摩擦性能や硬さが損なわれると、推測できる。このため、添加量は39原子%以下、好ましくは20原子%以下、より好ましくは16原子%以下に留めるのがよい。
このため、等価円直径で5nmを超える凝集体の生成が抑制されていればよい。即ち、被膜断面又は摺動層断面を透過型電子顕微鏡で観察した際の該顕微鏡像上で、等価円直径が5nmを超える該凝集体の占める領域が面積比で15%以下になるようにする。好ましくは6面積%以下であることがよい。なお、等価円直径で5nmを超える凝集体は、もちろん少なければ少ないほどよい。
そこで、凝集体の存在比は、添加したコバルト及びニッケルの合計量に対しても、一定以下の割合に抑制することが好ましい。
即ち、上記顕微鏡像上で、等価円直径が5nmを超える凝集体の占める領域の面積比をX%とし、該被膜中又は摺動層中のコバルト、ニッケルの合計含有量をY原子%としたときに、次式
X<4Y
で表される関係を満たすように凝集体の存在比を調整することが好ましい。
これにより、後述するように、摺動する際の相手材を研磨して平滑にする効果を発揮する。
このような水素含有量の低い硬質炭素被膜は、例えば、スパッタリング法やイオンプレーティング法など、水素や水素含有化合物を実質的に使用しないPVD法(物理気相堆積法)によって成膜することができる。かかるスパッタリング法においては、雰囲気ガスに炭化水素ガスを加えることもできるが、本発明では炭化水素ガスを加えないことが望ましい。
具体的には、成膜をPVD法により行い、炭素源にもグラファイトなど炭化水素を含まないものを用い、雰囲気に炭化水素系ガスを加えなかった場合は通常、膜内の水素含有量は1原子%以下に抑えられる。
ここで、成膜原理としてスパッタリング法とアークイオンプレーティング法を比較した場合、金属凝集体のできにくさ(抑制のしやすさ)という点では、スパッタリング法が一般に優位である。
ただし、スパッタリング法でも条件によっては凝集体が発生するので、プロセス条件の適切な設定が重要であることは言うまでもない。
このときは、摩擦係数の更なる低減を図るためには、相手材を研磨して平滑にする効果を補うことができる。なお、スパッタリング法で下地層を形成するときは表面にドロップレットが生成しにくい。
もちろん第2層と第1層の間に中間層を挿入したり、第1層の表面側に犠牲層を設けたりする変形も可能である。
Ryが0.1μm未満では研磨効果が過小となり、0.6μm超過では膜の剥離が生じる。成膜直後の段階でRyが0.6μm超過であれば、後加工として表面に適宜のラッピングを施して粗大なドロップレットを除去し、0.6μm以下に収めればよい。
典型的な値として、第2層の膜厚を0.2〜1.0μm程度、第1層を0.2〜0.6μm程度とすることができる。
上記潤滑剤としては、具体的には、自動車用のエンジン油などを用いることができる。特に、添加剤を含有するものを用いることができる。より詳しくは、該添加剤が、その分子内に水酸基を有していることが好ましい。上記添加剤としては、脂肪酸のモノグリセリドなどが挙げられるが、これに限定されないことは当然である。
このときは、上述のように、分子内の水酸基が、該硬質炭素被膜の表面に吸着し、相手材との直接接触を緩和する作用を発揮し得ると推察できる。
但し、水酸基の数が多すぎる場合は基油成分と分離することもあるので、部品の使用状況(主に温度)に応じて適宜添加剤を選択するのがよい。
コーティングには、アークイオンプレーティング法(AIP法)の蒸発源と、マグネトロンスパッタリング(MS)ターゲットの双方を備えてなる、複合型と呼ばれる真空成膜装置を用いた。
基材として浸炭鋼(日本工業規格 SCM415)から成る直径30mm、厚さ3mmの円板を準備し、その表面をRa0.020μmに超仕上げ加工した。
この基材を真空成膜装置に収め、まずAIP法で第2層を形成した。AIP蒸発源はチタンから成り、雰囲気としてアルゴンと窒素の混合ガスを流すことで窒化チタン薄膜を合成した。AIP法の第2層の厚さの狙い値は0.4μmとした。先んじて行った予備実験ではAIP層成膜終了後の表面粗さはRy 0.66μmであったので、第1層の厚さは0.4μmに設定した。
第1層のプロセス時間については、予備実験で求めた成膜レートから計算した。予備実験ではコバルト板なしに、炭素ターゲットのみで上記と同条件で成膜した。予備実験の結果、成膜レートは毎時0.31μmと求められた。このレートから成膜時間を逆算した。(0.4÷0.31=1時間17分)
成膜終了後に測定した表面粗さは、Ry 0.40μmであった。
得られた硬質炭素被膜について膜中の元素の分析を行った。
コバルトについては、X線光電子分光法(XPS)を用い、アルゴンガスで表面からエッチングしながら深さプロファイルを測定した。試料表面から5nm、10nm、15nmの3点でコバルト濃度を測定し、それらの平均をもって膜中の平均含有量とした。
測定の結果、コバルト含有量は9原子%であった。
得られた硬質炭素被膜の第1層(非晶質炭素層)について、凝集体の評価を行った。
凝集体の観察は透過型電子顕微鏡によった。凝集体の寸法が十分に大きい場合は走査型電子顕微鏡での観察も可能であるが、5nm程度となると透過型電子顕微鏡を用いることとなる。本分析においては高分解能透過型電子顕微鏡を、加速電圧300kVで用いた。
また、観察の視野が小さいと統計的な変動の影響を受けるので、本分析では250nm×250nmの範囲を撮影した上で分析した。
当該試料について、ボールオンディスク法による摩擦特性の評価を行った。試験に際して、潤滑剤として自動車用エンジン油5W−30SLを用いた。
試料をこのエンジン油中で回転させ、軸受鋼(日本工業規格 SUJ2)から成る直径6mmのボールを押し当て、このボールを保持しているアームにかかるトルクを測定することにより摩擦係数を計算した。摺動痕の直径は10mm、油温は80℃とした。また、上記ボールにかけた垂直荷重は7Nである。
なお、ボールは固定しており、摺動によって転がることのないようにした。摺動速度は毎秒3cmとした。
本例の硬質炭素被膜の摩擦係数は、0.018であった。
これらの結果をまとめて表1に示す。
スパッタリングのターゲットにおいて、頂角を2.5°に変更した以外は、実施例1と同様の操作を繰返して、本例の硬質炭素被膜を得た。
また、実施例1と同様の方法で膜の分析を行った結果、コバルト量は6原子%、凝集体量は5面積%であった。摩擦係数は0.013であった。これらの結果を表1に示す。
スパッタリングのターゲットにおいて、頂角を2.5°に変更し、基板バイアス電圧を80Vに変更した以外は、実施例1と同様の操作を繰返して、本例の硬質炭素被膜を得た。
また、実施例1と同様の方法で膜の分析を行った結果、コバルト量は4原子%、凝集体量は8面積%であった。摩擦係数は0.022であった。これらの結果を表1に示す。
第2層の膜厚を0.6μmと厚くした以外は、実施例1と同様の操作を繰返して、本例の硬質炭素被膜を得た。
また、実施例1と同様の方法で膜の分析を行った結果、コバルト量は9原子%、凝集体量は11面積%であった。摩擦係数は0.016であった。これらの結果を表1に示す。
実施例1と同様の操作を繰返して、本例の硬質炭素被膜を得た。但し、摩擦特性は、以下に示す別の潤滑剤中で評価した。
実施例1と同様の操作を繰返して、本例の硬質炭素被膜を得た。但し、摩擦特性は、以下に示す別の潤滑剤中で評価した。
実施例1と同様の操作を繰返して、本例の硬質炭素被膜を得た。但し、摩擦特性は、以下に示す別の潤滑剤中で評価した。
スパッタリングのターゲットにおいて、頂角を7.5°に変更し、基板バイアス電圧を30Vに変更した以外は、実施例1と同様の操作を繰返して、本例の硬質炭素被膜を得た。
また、実施例1と同様の方法で膜の分析を行った結果、コバルト量は15原子%、凝集体量は13面積%であった。摩擦係数は0.019であった。これらの結果を表1に示す。
スパッタリングのターゲットにおいて、頂角を7.5°に変更し、プラズマ励振電力を100Wとした以外は、実施例1と同様の操作を繰返して、本例の硬質炭素被膜を得た。
また、実施例1と同様の方法で膜の分析を行った結果、コバルト量は16原子%、凝集体量は14面積%であった。摩擦係数は0.021であった。これらの結果を表1に示す。
第2層の成膜においてコバルトに代えてニッケルを非晶質炭素層中に加えた以外は、実施例1と同様の操作を繰返して、本例の硬質炭素被膜を得た。
また、実施例1と同様の方法で膜の分析を行った結果、ニッケル量は8原子%、凝集体量は14面積%であった。摩擦係数は0.016であった。これらの結果を表1に示す。
第2層を炭窒化チタンとした。成膜原理はAIPで同じであるが、成膜時の雰囲気としてアルゴン、窒素、メタンの混合ガスを用いることで炭窒化チタン層が形成されるようにした。これ以外は、実施例1と同様の操作を繰返して、本例の硬質炭素被膜を得た。
また、実施例1と同様の方法で膜の分析を行った結果、コバルト量は9原子%、凝集体量は11面積%であった。摩擦係数は0.018であった。これらの結果を表2に示す。
第2層を炭化チタンとした。成膜原理はAIPで同じであるが、成膜時の雰囲気としてアルゴン、窒素、メタンの混合ガスを用いることで炭化チタン層が形成されるようにした。また、第2層の成膜においてコバルトに代えてニッケルを非晶質炭素層中に加えた。これら以外は、実施例1と同様の操作を繰返して、本例の硬質炭素被膜を得た。
また、実施例1と同様の方法で膜の分析を行った結果、ニッケル量は11原子%、凝集体量は14面積%であった。摩擦係数は0.020であった。これらの結果を表2に示す。
第2層を窒化クロムとした。実施例1で用いた蒸発源をクロムに交換し、雰囲気ガスにはアルゴンと窒素の混合物を用いた。これら以外は、実施例1と同様の操作を繰返して、本例の硬質炭素被膜を得た。
また、実施例1と同様の方法で膜の分析を行った結果、コバルト量は8原子%、凝集体量は12面積%であった。摩擦係数は0.019であった。これらの結果を表2に示す。
第2層を窒化チタンクロムとした。実施例1で用いた蒸発源をチタン及びクロムの複合蒸発源に交換し、雰囲気ガスにはアルゴンと窒素の混合物を用いた。これら以外は、実施例1と同様の操作を繰返して、本例の硬質炭素被膜を得た。
また、実施例1と同様の方法で膜の分析を行った結果、コバルト量は10原子%、凝集体量は13面積%であった。摩擦係数は0.017であった。これらの結果を表2に示す。
マグネトロンスパッタリングのみで成膜した例である。実施例1と同様の基材表面に硬質炭素被膜をコーティングした。
スパッタリングのターゲットには、半径80mmの円板状炭素ターゲットの上に、半径80mm、頂角5°の扇形状の金属コバルトの板を置いた。基板バイアス電圧は40Vとし、プラズマ励振電力は200Wとした。膜厚の狙い値は0.8μmとした。
また、実施例1と同様の方法で膜の分析を行った結果、コバルト量は8原子%、凝集体量は12面積%であったが、摩擦係数は0.043で高くなった。これらの結果を表2に示す。ドロップレットがないことによる研磨効果不足の影響と推測された。
非晶質炭素から成る第1層中の凝集体が多い例である。基板バイアス電圧を80Vとし、プラズマ励振電力を600Wとした以外は、実施例1と同様の操作を繰返して、本例の硬質炭素被膜を得た。
また、実施例1と同様の方法で膜の分析を行った結果、コバルト量は10原子%、凝集体量は35面積%であったが、摩擦係数は0.054で高くなった。これらの結果を表2に示す。
被膜表面が粗い例である。下地となる第2層の膜厚が1.0μm、第1層の膜厚が0.2μmになるよう成膜時間を調節した以外は、実施例1と同様の操作を繰返して、本例の硬質炭素被膜を得た。
また、実施例1と同様の方法で膜の分析を行った結果、コバルト量は10原子%、凝集体量は14面積%であったが、摩擦係数は0.048で高くなった。これらの結果を表2に示す。
また、その中でも凝集体の量を、膜中の金属含有量に対し一定以下に抑えたりした場合には、特に低い摩擦係数が得られた。
2 凝集体
3 硬質炭素被膜
4 観察用試験片
5 分割前の亜鈴形状の輪郭線
6 分割線
Claims (6)
- 最表面の第1層とその下層の第2層がなす積層構造を含んで成る硬質炭素被膜であって、
上記第1層は、非晶質炭素を主成分とし、コバルト及び/又はニッケルを合計で1.4原子%〜39原子%含有し、
第1層中に存在するコバルト凝集体及びニッケル凝集体は、該第1層を透過型電子顕微鏡で観察した際の顕微鏡像上で、等価円直径が5nmを超える該凝集体の占める領域が面積比で合計15%以下であり、
上記第2層は、窒化チタン、炭窒化チタン、炭化チタン、窒化クロム及び窒化チタンクロムから成る群より選ばれた少なくとも1種のもので構成された下地層を少なくとも1層含み、
表面に硬質の粒子及び/又は粒状突起を有し、表面粗さRyが0.1μm〜0.6μmであることを特徴とする硬質炭素被膜。 - 上記第1層の顕微鏡像上で、等価円直径が5nmを超える凝集体の占める領域の面積比をX%とし、該被膜中のコバルト及び/又はニッケルの合計含有量をY原子%としたときに、次式
X<4Y
で表される関係を満たすことを特徴とする請求項1に記載の硬質炭素被膜。 - 上記第2層は、アークイオンプレーティング法で成膜されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の硬質炭素被膜。
- 潤滑剤中で使用されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の硬質炭素被膜。
- 上記潤滑剤は添加剤を含有して成り、該添加剤は分子内に水酸基を有することを特徴とする請求項4に記載の硬質炭素被膜。
- 上記潤滑剤が自動車用エンジン油であることを特徴とする請求項4又は5に記載の硬質炭素被膜。
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