窒化アルミニウム、窒化ガリウム、窒化インジウムといったIII族窒化物半導体結晶は広範囲のバンドギャップエネルギーの値を有しており、それらのバンドギャップエネルギーは、それぞれ6.2eV程度、3.4eV程度、0.7eV程度である。これらのIII族窒化物半導体は任意の組成の混晶半導体をつくることが可能であり、その混晶組成によって、上記のバンドギャップの間の値を取ることが可能である。
したがって、III族窒化物半導体結晶を用いることにより、赤外光から紫外光までの広範囲な発光素子を作ることが原理的に可能となる。特に、近年ではアルミニウム系III族窒化物半導体(主に窒化アルミニウムガリウム混晶)を用いた発光素子の開発が精力的に進められている。アルミニウム系III族窒化物半導体を用いることにより紫外領域の短波長発光が可能となり、白色光源用の紫外発光ダイオード、殺菌用の紫外発光ダイオード、高密度光ディスクメモリの読み書きに利用できるレーザー、通信用レーザー等の発光光源が製造可能になる。
アルミニウム系III族窒化物半導体を用いた発光素子(アルミニウム系III族窒化物半導体発光素子ともいう)は、従来の半導体発光素子と同様に基板上に厚さが数ミクロン程度の半導体単結晶の薄膜(具体的にはp型半導体層、発光層、n型半導体層となる薄膜)を順次積層することにより形成可能である。このような半導体単結晶の薄膜の形成は、分子線エピタキシー(MBE:Molecular Beam Epitaxy)法、有機金属気相エピタキシー(MOVPE:Metalorganic Vapor Phase Epitaxy)法等の結晶成長方法を用いて行うことが可能であり、アルミニウム系III族窒化物半導体発光素子についてもこのよう方法を採用して発光素子として好適な積層構造を形成するための研究がなされている。
現在、紫外発光素子に用いられる基板としては、基板としての結晶品質、紫外光透過性、量産性やコストの観点からサファイア基板が一般的である。しかし、サファイア基板を用いると、サファイア基板と半導体積層膜を形成する窒化アルミニウムガリウムとの物性差に起因する問題が生じる。
例えば、基板と半導体積層膜の格子定数が異なることにより、ミスフィット転位と呼ばれる結晶欠陥が半導体積層膜に導入される。さらには、成長層と基板の熱膨張係数が異なることにより、半導体積層膜の製造時において半導体積層膜の成膜温度から温度を降下させる過程で、熱膨張係数差が原因で成長層または基板にクラックや反りが生じる。このような転位やクラックにより半導体積層膜の発光性能が低下してしまう。
これらの問題を解決するべく、半導体積層膜の成膜条件や構造に様々な工夫が為されているのが現状であるが、前記の問題点を本質的に解決するためには、半導体積層膜の格子定数に近く、熱膨張係数差が小さい基板を使用することが理想的である。アルミニウム系III族窒化物単結晶基板、すなわち窒化アルミニウム単結晶基板や窒化アルミニウムガリウム単結晶基板は正に最適な基板材料と言える。しかしながら、アルミニウム系III族窒化物単結晶基板は現状では大面積かつ均質な基板が安定的に製造できる状況にはなく、高品質のアルミニウム系III族窒化物単結晶基板を製造できれば、上記の問題が解決され、発光素子性能の向上、紫外発光光源の実用化に大きく貢献すると期待される。
アルミニウム系III族窒化物単結晶を基板として用いるには少なくとも100μm以上の厚さが必要であるため成膜速度の遅い前記結晶成長方法を用いてアルミニウム系III族窒化物単結晶からなる基板を製造するのは実用的ではない。
成膜速度の速いアルミニウム系III族窒化物単結晶の成長方法としては、ハイドライド気相エピタキシー(HVPE:Hydride Vapor Phase Epitaxy)法が知られている(特許文献1〜3参照)。HVPE法はMBE法やMOVPE法と比べて膜厚を精密に制御することが困難なため、半導体発光素子の結晶層形成には向かないが、結晶性の良好な単結晶を速い成膜速度で得ることが可能である。従って、HVPE法により、従来のMBE法やMOVPE法では得られなかったアルミニウム系III族窒化物単結晶からなる基板を実用レベルで量産することが可能となる。 HVPE法を用いてアルミニウム系III族窒化物結晶を成長させる場合には、一例を挙げると図1に示すような気相成長装置が使用される。図1に示す装置は、円筒状の石英ガラス成長室(反応管)11からなる反応器本体と、該成長室11の外部に配置される加熱手段12と、該成長室11の内部に配置される基板支持台(以下、単にサセプタともいう。)13と、を有し、成長室11の一方の端部からキャリアガス及び原料ガスを供給し、他方の端部からキャリアガス及び未反応の反応ガスを排出する構造となっている。
原料ガス供給側の成長室は、端部から所定の領域に三重管が挿入されて同心円状の三重管ノズル構造となっており、三重管の内管15の内側の空間を通路としてキャリアガス(たとえば水素ガス)で希釈されたIII族元素源ガスであるハロゲン化アルミニウムを含むIII族ハロゲン化物ガスが供給され、三重管の中管16と外管17の間の空間を通路としてキャリアガス(たとえば水素ガス)で希釈された窒素源ガス(たとえばアンモニアガス)が供給され、内管15と中間16の間の空間を通路として、バリアガス(たとえば窒素ガス)が供給される。バリアガスは、ガス吐出口となる二重管端部近傍でIII族元素源ガスと窒素源ガスとが直ちに混合反応し、このときに生成する生成物がガス吐出口付近に析出して該ガス吐出口を閉塞させてしまうのを防止するために供給される。
サセプタ13の上には基板(たとえばサファイア基板)14が載置され、加熱手段により基板を加熱し、該基板上14上にIII族元素源ガスと窒素源ガスとの反応によりアルミニウム系III族窒化物が成長する。基板は、良好な結晶層(成長層)を得るためには通常1000℃以上に加熱される。
基板を加熱する方法としては、(1)成長室の外部に取り付けられたヒータにより成長室を直接加熱し、反応器壁を介しての熱伝導や輻射熱により基板を加熱する方法、(2)成長室の内部に取り付けられた円筒型発熱部材(たとえばカーボン)に成長室外部から高周波加熱により円筒型発熱部材を加熱し、その輻射熱により基板を加熱する方法、(3)基板をカーボン製の基板支持台(サセプタ)上に保持し、成長室外部から高周波加熱によりサセプタを加熱し、その熱伝導により基板を加熱する方法、(4)成長室外部から光を照射して基板を加熱する方法、(5)サセプタ自体に発熱体を埋め込み、通電してサセプタを加熱し、その熱伝導により基板を加熱する方法、(6)サセプタおよび/または基板をマイクロ波等の電磁波で加熱する方法等がある。
なお、本発明に類似の技術として、三塩化アルミニウムガスとアンモニアガスから最高温度1100℃程度の外熱方式による加熱により窒化アルミニウムの粒子を生成させる方法がある(非特許文献1参照)。本発明においても同様にハロゲン化物ガスおよび窒素源ガスとしてアンモニアガスを使用するが、ガスの供給温度やガス輸送時の配管加熱温度等をより精密に範囲を限定し、さらに基板を最高2000℃まで加熱して該基板上に単結晶や多結晶のバルク結晶を製造する方法であり、単に原料ガスを反応させて固体粉末を作る方法とは次元の異なる発明である。
特開2003−303774号公報
特開2006−073578号公報
特開2006−114845号公報
Journal of American Ceramics Society 77 [8] 2009-2016 (1994)
本発明の方法では、III族ハロゲン化物ガスと窒素源ガスとを成長室内で反応させて、該成長室内に保持された基板上にIII族窒化物を成長させることによりIII族窒化物を製造する。ここで、III族窒化物およびIII族ハロゲン化物とは、それぞれIII族元素の窒化物およびハロゲン化物を意味し、III族元素とは周期律表のIII族(或いは13族)に属する元素、即ち、B、Al、Ga、In、及びTlからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を意味する。
以下、図面を参照して本発明の方法及び本発明の方法に使用される装置について説明する。
図4に代表的な本発明の方法に使用される装置の概略図を示す。図4に示す装置は、III族ハロゲン化物ガスおよび窒素源ガスを導入するための各ガス導入口48、ガス排出口49、基板を保持するためのサセプタ42、および基板を加熱するための加熱手段を具備する成長室41を有する。なお、成長室41の外部に図1の外部加熱装置12と同様な外部加熱装置を設置して外部より基板を補助的に加熱することも可能であるが、本装置においては必ずしも必要ではない。
成長室41の材質としては、黒鉛、ステンレス、インコネル、ハステロイ等の耐食性金属製のものも使用可能であるが、壁面からの汚染を低減する観点から石英ガラスが好ましい。金属を使用する場合は水冷ジャケット等によりガスとの接触面の温度を室温程度に保つことで金属筐体からの汚染を防ぐことができる。
サセプタ42は、基板保持面を有し、該面に基板43を保持できるようになっている。基板43としては、サファイア、シリコン、シリコンカーバイド、ホウ化ジルコニウム、ガリウム砒素、ガリウムリン、酸化亜鉛、窒化ガリウム、窒化アルミニウムなどの結晶基板が用いられる。さらに、サファイアなどの母材基板上に薄膜の窒化アルミニウム結晶層が積層されたテンプレート基板も用いることができる。
図4に示す装置においては、サセプタ42の内部には発熱抗体が埋設されており、基板を加熱するヒータとしても機能するようになっている。基板を加熱するための加熱手段としては、図1で示される従来の装置で採用されているような、高周波誘導加熱、光加熱等の種々の加熱方式を用いることも可能である。
サセプタ42の材質としては、窒化ホウ素や窒化アルミニウム等の窒化物が好適に使用できる。サセプタにヒータとしての機能を付与するためにはサセプタ本体の内部に発熱抵抗体を埋め込むか又はサセプタ本体の裏面に発熱抵抗体を接合し、その発熱抵抗体に外部から電力を供給すればよい。発熱抵抗体としては使用温度で溶融しないカーボン(C)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)などが使用される。
サセプタ本体を構成する素材としては使用温度において安定でIII族ハロゲン化物ガスによって腐蝕を受け難い材質であれば特に限定されないが、サセプタの少なくとも基板が載置される面全体を均一に加熱できるという観点から、熱伝導率の高い窒化物、すなわち上出の窒化アルミニウム又は窒化ホウ素を使用するのが好適である。
図4に示す装置は、更に温度調節機能を有するガス導入ノズル47、ラインミキサー50、およびガス混合器46を有している。また、前記ガス混合器46は、その上流において配管44・ガス導入口48を介してIII族ハロゲン化物ガス供給源(図示せず)に連結していると共に、配管45・ガス導入口48を介して窒素源ガス供給源(図示せず)に連結される。
本発明においては、III族ハロゲン化物ガスと窒素源ガスとを予め混合した後成長室に導入することを大きな特徴としている。このため、本発明で使用する装置では、ガス導入ノズル47の上流で前記2種の原料ガスを混合するためのガス混合器が具備される。
ガス混合器とは2種類以上のガス流通経路を合流させて1つのガス流通経路に変換する器具であり、当該器具を用いて複数種類のガスを混合できるものであれば形状は特に限定されない。
具体的な混合器の態様としては、例えば2種類のガス流通経路を合流させて1つのガス流通経路に変換する場合には、T字の形状で接続させた配管やY字の形状で接続させた配管が好適に使用できる。また、3種類のガス流通経路を合流させて1つのガス流通経路に変換する場合には、十字の形状で接続させた配管が好適に使用できる。或いは、先に2種類のガス流通経路を1つに合流させた後にさらに第3のガス流通経路を合流させても良い。
ガス混合器内によって合流したIII族ハロゲン化物ガスと窒素源ガスは、ガス導入ノズル47から噴出されるまでの間に混合されるが、混合は主には拡散の作用によって行われる。ガス混合器内に合流されてからガス導入ノズルの先端に到達するまでにかかる通過時間が0.01秒以上であることが望ましい。
さらに好適な実施態様としては、ガス混合器により1つのガス流通経路に合流させた下流側に、さらにラインミキサー50を設置して混合を促進させることが好ましい。ラインミキサーとは配管のようなガス流経路の内部に混合用の羽が設置されたものであり、複数種類のガスがラインミキサー50を通過中に羽によって強制的に流れを乱されて混合が行われるものである。ラインミキサーを使用することにより、ガス輸送中の短時間のうちに複数種類のガスを混合することが可能になる。
ガス混合器46およびラインミキサー50は、混合ガスの温度制御を行えるものであることが好ましい。ガス混合器の周囲にリボンヒータを巻きつける方法の他に、ガス混合器の周囲に液状熱媒を目的の温度に加熱する方法が使用可能である。供給するIII族元素のハロゲンガスの供給分圧をP(atm)としたとき、温度T(℃)を、数式(1)で規定される下限温度以上600℃未満の温度に制御してガス混合器内部における固体の析出を防止する。
ガス混合器の材質としてはステンレス、インコネル等の耐食性金属配管や石英ガラス製配管等が使用できる。配管加熱を行うため化学的耐久性の良好なものを使用することが好ましい。
ガス混合器46は、その上流において配管44・ガス導入口48を介してIII族ハロゲン化物ガス供給源(図示せず)と接続され、配管の途中に配置されたマスフローコントローラーなどの流量調節手段により所定の流量のガスが供給できる。同様にガス混合器46は、その上流において配管45・ガス導入口48を介して窒素源ガス供給源(図示せず)と接続されており、配管の途中に配置されたマスフローコントローラーなどの流量調節手段により所定の流量のガスを供給できる。
III族ハロゲン化物ガスとしては、アルミニウムハロゲン化物のガス、又はアルミニウムハロゲン化物のガスとアルミニウム以外のIII族元素のハロゲン化物のガスとの混合ガスを使用するのが好ましい。ハロゲン化物は飽和蒸気圧が高いので基板への原料供給量を増やすことが可能であり、高速成長が可能となる。
アルミニウムハロゲン化物のガスの種類は特に限定されないが、反応ガスと接触する部分に石英ガラスを用いる場合には、石英ガラスとの反応性が小さい理由から三塩化アルミニウムガスを使用するのが好ましい。また、アルミニウム以外のIII族元素のハロゲン化物のガスとしては、塩化ガリウム、塩化ホウ素のガスが使用できる。
III族ハロゲン化物ガスとしてアルミニウムハロゲン化物のガスとアルミニウム以外のIII族元素のハロゲン化物のガスとの混合ガスを使用する場合、その組成は目的とするアルミニウム系III族窒化物の混晶組成に応じて、適宜設定すればよい。ただし、この場合、III族元素の種類によって窒素源ガスと反応速度が異なるので、III族ハロゲン化物ガスの供給比率がそのまま混晶組成に対応しないこともあるので、予めガス組成と生成物の組成との関係を調べておくのが好ましい。
III族ハロゲン化物ガスは、アルミニウム、ガリウム、インジウムなどのIII族金属とハロゲン化水素や塩素ガスを反応させることにより得ることができる。たとえば特開2003−303774号公報に記載されているように、上記反応を行う反応器から生成するガスをそのままIII族ハロゲン化物ガス供給源とすることもできる。
また、III族ハロゲン化物ガスは、ハロゲン化アルミニウム、ハロゲン化ガリウム、ハロゲン化インジウム等の固体もしくは液体状のIII族ハロゲン化物そのものを加熱、気化させることにより得ることもできる。この場合、III族ハロゲン化物は無水結晶でありかつ高純度なものを使用するのが好ましい。原料ガスに不純物が混入すると形成される結晶に欠陥が発生するばかりでなく、物理的特性、化学的特性、電気的特性の変化をもたらすことがある。
窒素源ガスとしては、窒素を含有する反応性ガスが採用されるが、コスト、反応性および取扱易さの点でアンモニアガスが好ましい。
III族ハロゲン化物ガスおよび窒素源ガスは、夫々キャリアガスにより所望の濃度に希釈されてガス混合器に導入される態様とすることが好ましい。このときキャリアガスとしては水素、窒素、ヘリウム、もしくはアルゴンの単体ガス、またはこれらの混合ガスが使用可能であり、あらかじめ精製器を用いて酸素、水蒸気、一酸化炭素或いは二酸化炭素等の不純ガス成分を除去しておくことが好ましい。
本発明においては、III族ハロゲン化物ガスと窒素源ガスとを成長室内に導入する前に予混合すること、並びに予混合工程で得られた混合ガスを、該ガス中に析出物を実質的に生成させることなく前記成長室内に導入することが重要な要件であり、このような状態を実現するための具体的諸条件は以下の参考実験の結果を基に決定できる。
〔参考実験〕
図2に示す装置では、内径20.5mmを有する石英反応管21の片側にIII族ハロゲン化ガス導入ノズル22が設置されており、III族ハロゲン化物ガス導入ノズル22の内側からIII族ハロゲン化物ガスがキャリアガス(水素ガス)に希釈されて供給される。III族ハロゲン化物ガスノズル22の周囲にはさらに同心円状に窒素ガス流(いわゆるバリアガス)を流通するためのバリアノズル23が設置されている。さらにバリアガスノズルの外側からは窒素源ガスがキャリアガス(水素ガス)に希釈されて供給される。供給されたIII族ハロゲン化物ガス、バリアガス、窒素源ガス、キャリアガスは石英反応管21にて混合される。III族ハロゲン化物ガスと窒素源ガスは全長150mmの均熱領域を通過中に反応し、排気される。
参考実験では、外部加熱装置により上記の均熱領域を100〜650℃の範囲で加熱した。III族ハロゲン化物ガスとキャリアガス(水素ガス)が合計300sccm(Standard Cubic Centimeter per Minute)となるようにIII族ハロゲン化物ガス導入ノズル22から供給し、また、バリアノズル23からは窒素ガスを50sccm、その周囲からは窒素源ガスとキャリア水素ガスが合計300sccmになるように各種ガスを供給し、混合後の全ガス流量を650sccmとした。このときの成長室内の圧力は1atmとした。III族ハロゲン化物ガスとして三塩化アルミニウムガスを全ガス流量に対する供給分圧が9×10-3〜1×10-4atmの範囲で供給した。三塩化アルミニウムの発生方法は、特許文献1にあるように金属アルミニウムと塩化水素ガスを500℃において反応させる方法を用いた。また、窒素源ガスとしてアンモニアガスを用い、三塩化アルミニウムガスの供給分圧に対して4倍の供給分圧になる流量を供給した。これらのガスを10〜30分の時間範囲で供給した後、供給と加熱を停止して成長室内の固体析出の状況を逐次観察し、固体析出が起こらない反応温度と原料濃度の条件を決定した。
その結果、三塩化アルミニウム供給分圧と反応温度をパラメータとした場合における固体析出が起こらない領域は、図3に示されるものであった。
図中の○印は固体析出のなかった条件、×印は固体析出が見られた条件である。150℃以上600℃未満の温度範囲であれば、おおむね固体の析出は起こらないことが明らかであるが、下限温度においては固体析出が見られる条件が三塩化アルミニウムガスの供給分圧にも影響される傾向が見られ、これを供給するIII族元素のハロゲンガスの供給分圧をP(atm)、温度をT(℃)としたときに、下限温度は数式(1)に示す関係式により近似的に表すことが可能であった。下限温度以下においては成長室内壁に白い固体析出物が確認された。
混合ガスを安定に保つことができる温度範囲の下限は、III族ハロゲン化物ガス(三塩化アルミニウムガス)と窒素源ガス(アンモニアガス)とが化学的に結合した付加体(アダクトとも言う)の析出温度に対応すると考えられ、特に下限については混合ガスの濃度や混合ガス全体の圧力に影響を受けることもあるが、数式(1)の関係式に従って下限温度以上に保持することにより本発明の効果を好適に得ることができる。一方、600℃以上においては成長室内壁に白い固体析出物が確認され、この温度における析出物は窒化アルミニウムであった。
III族ハロゲン化物ガスおよび窒素源ガスの混合およびノズル47への配管輸送に際しては、ガス混合器および配管を加熱し、混合ガスの温度を数式(1)に示される下限温度以上600℃未満に制御するのが好ましい。混合ガスの温度が数式(1)に示される下限温度未満であると、原料として供給したIII族ハロゲン化物ガス等が固体析出しやすくなる。一方600℃以上であると、混合ガスであるIII族ハロゲン化物ガスと窒素源ガスが反応してIII族窒化物を生成する。これらの理由で配管内に固体が析出すると、ガス組成が変化してIII族窒化物の製造条件が不安定になるほか、配管が閉塞してIII族窒化物の製造そのものが困難になる。
このため、ガス混合器46内の混合ガスの温度を上記範囲に制御するために、配管44および配管45を加熱し、流通するガス温度を数式(1)に示される下限温度以上600℃未満に制御しておくのが好ましい。ガス混合器や配管の加熱は、発熱体を繊維もしくは樹脂に埋設したリボンヒータを巻き付けることにより行うことが可能である。また、混合器や配管に液状熱媒が流通するジャケットを設け、このジャケット内に温度を一定に制御したオイル等の液体を流通させてもよい。
ガス導入ノズル47はガス混合器46で混合されたIII族ハロゲン化物ガスと窒素源ガスとの混合ガスを、固体を析出しないような安定な状態で成長室41内に導入するために温度調節機能を有する。ガス導入ノズル47の温度調節は、ノズルに液状熱媒が流通するジャケットを設け、このジャケット内に温度を一定に制御したオイル等の液体を流通させることにより好適に行うことができる。
液状熱媒の例としては350℃までの加熱であればジベンジルトルエンが使用可能である。ノズルの材質としてはステンレス、インコネル、ハステロイ等の耐食性金属や石英ガラス等を使用することが可能である。
ガス導入ノズル47のノズル径は特に限定されるものではないが、通常ノズル径の目安としては設置する基板の直径と同等もしくはそれ以下とされる。また、ノズル端面に複数の原料ガスの噴出孔を有するシャワーヘッドタイプのノズルも可能である。シャワーヘッドノズルを使用した場合には、得られるIII族窒化物の膜厚および膜質の面内分布がより均一になる。
以下に、図4に示す装置を用いた場合を例に、本発明の方法によりIII族窒化物を製造する際の操作手順や各種条件について説明する。
図4に示す装置を用いてIII族窒化物を製造するにあたり、既述の材質の基板をサセプタに設置する。次いで、原料以外のキャリアガスを流通し、ガス導入ノズル47を既述の温度に加熱する。次いでサセプタを加熱する。原料ガスの反応が進行し、基板上にIII族窒化物が成長する加熱温度、すなわち700〜2000℃の範囲に加熱する。所定の温度に達した後、III族ハロゲン化物ガスおよび窒素源ガスの供給を開始して、基板上にIII族窒化物を堆積させる。
原料の供給量は図2を参考に固体析出の起こらない条件を決定すればよいが、III族ハロゲン化物ガスの供給分圧は、好ましくは1×10-2atm以下、より好ましくは1×10-7atm 〜1×10-2atmである。これよりも大きな供給分圧では、固体析出が起こり易くなる。原料の供給時間は希望する膜厚が得られる時間とする。原料の供給を停止した後、サセプタの加熱、ガス導入ノズルの加熱を停止し、冷却した後基板を取り出す。得られるIII族窒化物は、成長温度と成長速度によって、単結晶が得られるか多結晶が得られるかがほぼ決まる知見が発明者らの研究により得られている。一般的な傾向として、成長温度が高く、成長速度が遅いほど単結晶が得られやすい。
ガス導入ノズルの先端から基板中心までの距離は収率に影響する。ガス導入ノズルから放出されたIII族ハロゲン化物ガスと窒素源ガスの混合ガスは基板表面に到達して反応し、基板表面においてIII族窒化物が生成する。当該距離が長い場合、ガス導入ノズルから放出された原料ガスは基板に到達せずに散逸してしまう割合が高くなる。このため、基板表面に到達する原料ガスが減少して収率が低下する。更に、当該距離が長い場合には混合ガスが基板に到達するまでの滞留時間が長くなるため、気相中でIII族窒化物の固体が生成してしまい、良質のIII族窒化物膜が得られないことがある。一方、ガス導入ノズルの先端から基板表面の中心位置までの距離が短過ぎる場合には、高温の基板と低温のノズルとが近接することになり、それぞれの温度制御が困難になるので好ましくない。このような理由から当該距離は1〜50mm、より好ましくは2〜30mmの範囲に設定するとよい。
以上、図4に示す装置を用いて本発明の製造方法を実施する態様について詳しく説明したが、本発明の方法に使用される装置は図4に示すものに限定されるものではない。図4に示す装置は縦型反応器の一例であるが、他の形式の縦型反応器や横型反応器、或いは縦横が混在した形の反応器を使用することも可能である。また、反応条件等も使用する装置に応じて適宜変更される。
本発明の製造方法によれば、高速且つ高収率でIII族窒化物を製造することができる。しかも、製造条件を適宜選択することにより得られIII族窒化物の結晶性をコントロールすることもでき、容易に単結晶基板や多結晶基板を製造することができる。
従って、本発明の方法は、アルミニウム系III族窒化物半導体発光素子を製造する際の基板として好適な窒化アルミニウム単結晶基板や窒化アルミニウムガリウム単結晶基板を製造する方法として好適である。特に、窒化アルミニウムと、窒化ガリウムおよび/または窒化インジウムとからなる混晶であって、窒化アルミニウムの含有量が20モル%以上である混晶も紫外発光素子の発光波長によってはその基板として用いることも可能であり、このような組成を変化させた混晶の単結晶基板も本発明の方法により効率よく製造することができる。
本発明で得られたIII族窒化物は、単結晶のものであれば成長用に用いた基板から剥離し必要に応じて剥離した面を研磨する。化学的機械研磨により原子ステップが出る程度に精度良く研磨したものは自立基板として深紫外発光素子用の基板として用いることが可能である。
なお、本発明における収率、III族窒化物の成膜速度、得られたIII族窒化物の結晶性は次のような方法で評価することができる。
すなわち、収率は、成長前後の基板の質量変化から基板上に成長したIII族窒化物結晶の質量を求め、これをIII族窒化物結晶の分子量(例えば窒化アルミニウムの場合、分子量は41)で除することにより基板上に固定化されたIII族金属のグラム原子数(A)を求め、次に、成長中に供給したIII族ハロゲン化物の総グラム原子数(B)を、(混合ガスの供給流量/sccm)×(III族ハロゲン化物ガスの供給分圧/atm)×(供給時間/分)÷(22400/cc・mol-1)により計算し、(A)を(B)で除して百分率に直すことにより決定することができる。
成膜速度は、得られた膜の平均膜厚を測定し、その値を成膜時間で除することにより決定することができる。このとき、得られたIII族窒化物結晶膜の平均膜厚は、成長した結晶の質量、基板面積、ならびにIII族窒化物結晶の密度{たとえば窒化アルミニウムの場合、密度は3.26g/cm3である}から計算することができる。
得られた結晶膜の結晶品質の評価は、X線ロッキングカーブ測定により行うことができる。ロッキングカーブとは、特定の結晶面がブラッグの回折条件を満たす角度の2倍の位置にディテクターを固定して、X線の入射角を変化させて得られる回折のことであり、該ロッキングカーブの半値幅により結晶品質の良否を判断できる。半値幅の値が小さいほど、III族窒化物結晶の結晶品質が良好であると言える。ロッキングカーブ測定は、通常、Tilt(チルト)と呼ばれる(002)方向に関して行われる。また、θ-2θモード測定により2θが10〜100°の範囲でX線回折プロファイルを測定した。θ-2θモード測定とは、サンプルに対する入射角をθとしたときに、2θの位置にディテクターを固定して得られる回折を測定する測定法である。III族窒化物結晶の回折プロファイルが(002)回折、および(004)回折のみが観測されれば、得られたIII族窒化物結晶は単結晶であると判断できる。窒化アルミニウムの場合(002)回折は2θ=36.039°付近、(004)回折は2θ=76.439°付近に観測される。
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1
図4に示す構造の装置を用いて、III族窒物の一つである窒化アルミニウムの単結晶の成長反応を行った。III族金属含有ガスとしては、三塩化アルミニウムを用いた。該三塩化アルミニウムは、配管44より上流側(図示せず)で500℃に保持した金属アルミニウムと塩化水素を反応させることにより発生させて供給した。窒素源ガスとしてはアンモニアガスを用いた。配管44、配管45、ラインミキサー50、ガス混合器46は周囲にリボンヒータを巻き付け300℃に加熱保持した。また、ノズル47はステンレス(SUS316L)製でノズル内部に保温用のオイルを循環可能な構造(温調ノズル)とし、300℃に加熱したオイルを循環し、ノズルの温度を当該温度に保温した。このとき、ノズル47の先端と基板43表面との距離は25mmであった。基板としては直径2インチのサファイアc面基板を用い、カーボン発熱体が埋設された窒化ホウ素製サセプタの下面に設置し、当該カーボン発熱体に電力を供給することにより基板温度を1300℃に加熱した。
配管44から三塩化アルミニウムガス4sccmを水素キャリアガス2996sccmで希釈して供給し、配管45からアンモニアガス16sccmを水素キャリアガス4984sccmで希釈して供給した。供給したガスは配管44および配管45を経て混合器46において合流後、ラインミキサーにより均一に混合された後、ノズルから基板上に供給された。この条件において混合ガス8000sccm中の三塩化アルミニウムの供給分圧は5×10-4atm、アンモニアガスの三塩化アルミニウムガスに対するモル比(V/III比)は4であった。また、ノズルの周囲には系内排気用のパージガスとして窒素ガス3000sccmを流通したが、このパージガスは反応には直接関わるものではない。また、成長中は系内の圧力は圧力コントローラーを有するドライポンプによって550Torr(1気圧は760Torr)に保った。
該基板に該混合ガスを60分間供給し、基板上に窒化アルミニウム単結晶を成長した。60分経過後、三塩化アルミニウムガスのみ供給を停止して窒化アルミニウムの成長を停止した。基板温度を500℃まで冷却した後、アンモニアガスを停止し、さらに室温まで冷却した後、基板を取り出して評価を行った。その結果、基板に成長した窒化アルミニウムによる重量変化は、成長前に比べてプラス0.1057gであり、窒化アルミニウムの平均膜厚は16μm、成膜速度に換算すると結晶成長速度は16μm/hrであった。また、基板上に固定化されたIII族金属の物質量(固定化III族金属物質量)は0.0026molであった。成長中に基板に供給したIII族金属含有ガスの物質量(基板供給III族金属物質量)は0.0107molであるので、収率は24%と計算された。θ-2θモードX線回折プロファイルからは、基板に用いたサファイア基板以外には窒化アルミニウムの(002)回折および(004)回折のみが観測され、得られた窒化アルミニウムは単結晶であると判断された。また、Tiltのロッキングカーブ値は300minであった。
実施例2
実施例1において基板加熱温度を1600℃にした以外は、実施例1と同様の操作を行った。
基板に原料混合ガスを60分間供給し、基板上に窒化アルミニウム単結晶を成長した。60分経過後、三塩化アルミニウムガスのみ供給を停止して窒化アルミニウムの成長を停止した。500℃まで冷却した後、アンモニアガスを停止し、さらに室温まで冷却した後、基板を取り出して評価を行った。その結果、基板に成長した窒化アルミニウムによる重量変化は、成長前に比べてプラス0.0925gであり、窒化アルミニウムの平均膜厚は14μm、成膜速度に換算すると結晶成長速度は14μm/hrであった。また、基板上に固定化されたIII族金属の物質量(固定化III族金属物質量)は0.0023molであった。成長中に基板に供給したIII族金属含有ガスの物質量(基板供給III族金属物質量)は0.0107molであるので、収率は21%と計算された。基板を高温に加熱した状態においても安定してアルミニウム系III族窒化物結晶を成長することが可能であった。θ-2θモードX線回折プロファイルからは、基板に用いたサファイア基板以外には窒化アルミニウムの(002)回折および(004)回折のみが観測され、得られた窒化アルミニウムは単結晶であると判断された。また、Tiltのロッキングカーブ値は280minであった。
実施例3
図4に示す構造を有する装置を用いたが、図4におけるノズル47と基板43の表面との距離を10mmとし、また、基板加熱温度を1300℃に、温調ノズルの温度を200℃にした以外は、実施例1と同様の操作を行った。
基板に原料混合ガスを180分間供給し、基板上に窒化アルミニウム結晶を成長した。180分経過後、三塩化アルミニウムガスのみ供給を停止して窒化アルミニウムの成長を停止した。500℃まで冷却した後、アンモニアガスを停止し、さらに室温まで冷却した後、基板を取り出して評価を行った。その結果、基板に成長した窒化アルミニウムによる重量変化は、成長前に比べてプラス0.6870gであり、窒化アルミニウムの平均膜厚は104μm、成膜速度に換算すると結晶成長速度は35μm/hrであった。また、基板上に固定化されたIII族金属の物質量(固定化III族金属物質量)は0.0168molであった。成長中に基板に供給したIII族金属含有ガスの物質量(基板供給III族金属物質量)は0.0322molであるので、収率は52%と計算された。ノズルと基板の距離が近かったために基板に到達する原料供給量が増加したと考えられ、得られた窒化アルミニウムは外観では白色であった。θ-2θモードX線回折プロファイルからは、基板に用いたサファイア基板以外には窒化アルミニウムの(002)回折および(004)回折以外にも、(100)回折(2θ=33.21°)、(101)回折(2θ=37.92°)、(102)回折(2θ=49.81°)、(103)回折(2θ=66.05°) 、(200)回折(2θ=69.73°) 、(202)回折(2θ=81.08°) が観測され、得られた窒化アルミニウムは多結晶であると判断された。多結晶が生成したのは、基板温度に対して成長速度が速かったことに起因していると考えられる。
実施例4
実施例1において、図4におけるノズル47と基板43の表面との距離を50mmとした以外は実施例1と同様の操作を行った。
基板に原料混合ガスを60分間供給し、基板上に窒化アルミニウム結晶を成長した。60分経過後、三塩化アルミニウムガスのみ供給を停止して窒化アルミニウムの成長を停止した。500℃まで冷却した後、アンモニアガスを停止し、さらに室温まで冷却した後、基板を取り出して評価を行った。その結果、基板に成長した窒化アルミニウムによる重量変化は、成長前に比べてプラス0.0727gであり、窒化アルミニウムの平均膜厚は11μm、成膜速度に換算すると結晶成長速度は11μm/hrであった。また、基板上に固定化されたIII族金属の物質量(固定化III族金属物質量)は0.0018molであった。成長中に基板に供給したIII族金属含有ガスの物質量(基板供給III族金属物質量)は0.0107molであるので、収率は17%と計算された。ノズルと基板の距離が広くなったために基板に到達する原料供給量が減少し、収率が減少したと考えられた。θ-2θモードX線回折プロファイルからは、基板に用いたサファイア基板以外には窒化アルミニウムの(002)回折および(004)回折のみが観測され、得られた窒化アルミニウムは単結晶であると判断された。また、Tiltのロッキングカーブ値は270minであった。
実施例5
図4に示す構造を有する装置を用いたが、図4におけるノズル47の先端に、ノズル端面に多数の微細な原料ガスの噴出孔を有するシャワーヘッドタイプのノズルを設置し、ノズルの先端と基板43の表面との距離を10mmとし、基板温度を1500℃とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。ノズル47のシャワーヘッドによる噴出口の最外周の直径は50mmとし、ノズル端面に直径1mmの微細な混合ガスの噴出孔を均一に80本配置したものを使用した。
基板に原料混合ガスを60分間供給し、基板上に窒化アルミニウム結晶を成長した。60分経過後、三塩化アルミニウムガスのみ供給を停止して窒化アルミニウムの成長を停止した。500℃まで冷却した後、アンモニアガスを停止し、さらに室温まで冷却した後、基板を取り出して評価を行った。その結果、基板に成長した窒化アルミニウムによる重量変化は、成長前に比べてプラス0.2642gであり、窒化アルミニウムの平均膜厚は40μm、成膜速度に換算すると結晶成長速度は40μm/hrであった。また、基板上に固定化されたIII族金属の物質量(固定化III族金属物質量)は0.0064molであった。成長中に基板に供給したIII族金属含有ガスの物質量(基板供給III族金属物質量)は0.0107molであるので、収率は60%と計算された。θ-2θモードX線回折プロファイルからは、基板に用いたサファイア基板以外には窒化アルミニウムの(002)回折および(004)回折のみが観測され、得られた窒化アルミニウムは単結晶であると判断された。また、Tiltのロッキングカーブ値は320minであった。
実施例6
図4に示す構造を有する装置を用いて、III族ハロゲン化物ガスとして三塩化アルミニウムガスと塩化ガリウムガスとの混合ガスを用いて窒化アルミニウムガリウムを成長させた。配管44から三塩化アルミニウムガス0.15sccmと塩化ガリウムガス0.1sccmを窒素キャリアガス10000sccmで希釈して供給し、配管45からアンモニアガス5sccmを窒素キャリアガス4995sccmで希釈して供給した。供給したガスは混合器46において合流後、300℃に温度制御された温調ノズル47から基板43上に供給された。この条件において混合ガス中の三塩化アルミニウムガスの供給分圧は1×10−5atm、塩化ガリウムガスの供給分圧は2×10−4atm、アンモニアガスのIII族金属含有ガスに対する比は20であった。また、基板加熱温度は1200℃とし、系内圧力を200Torrとした以外は実施例1と同様の操作を行った。
基板に原料混合ガスを60分間供給し、基板上に窒化アルミニウムガリウム結晶を成長させた。60分経過後、III族金属含有ガスのみ供給を停止して窒化アルミニウムガリウムの成長を停止させた。500℃まで冷却した後アンモニアガスを停止し、さらに室温まで冷却した後、基板を取り出して評価を行った。
基板上に成長した窒化アルミニウムガリウムによる重量変化は、成長前に比べて0.005g増加した。基板を切断して断面を走査型電子顕微鏡を用いて観察したところ、窒化アルミニウムガリウムの膜厚は0.58μm、成膜速度に換算すると結晶成長速度は0.58μm/hrであった。該成長膜のエネルギー分散型X線スペクトルを測定した結果、窒化アルミニウムガリウム内のアルミニウム:ガリウム元素比は70:30であった。III族金属元素の比から窒化アルミニウムガリウムの分子量を53.9と仮定して計算した結果、基板上に固定化されたIII族金属の物質量(固定化III族金属物質量)は0.00093molであった。成長中に基板に供給したIII族金属含有ガスの物質量(基板供給III族金属物質量)は0.00041molであるので、収率は23%となる。基板を高温に加熱した状態においても安定して窒化アルミニウムガリウム結晶を成長させることが可能であった。θ-2θモードX線回折プロファイルからは、基板に用いたサファイア基板以外には窒化アルミニウムガリウムの(002)回折および(004)回折のみが観測され、得られた窒化アルミニウムガリウムは単結晶であることが確認された。
比較例1
図1に示す構造の装置を用いて、窒化アルミニウムの成長反応を行った。ノズルとしては従来型の石英ガラス製三重管ノズルを用いた。中心のノズル15よりIII族金属含有ガスとして三塩化アルミニウムを供給し、その外側のノズル16よりバリアガスとして窒素ガスを流通した。また、ノズル16の周囲からは水素キャリアガスに希釈して窒素源ガスとしてのアンモニアガスを供給した。ノズル16から基板表面の距離は実施例4と同様の50mmであった。その他、基板加熱温度、配管加熱温度、基板加熱温度、圧力等は実施例1と同じ条件とした。
原料ガスの供給条件としては、ノズル15からは三塩化アルミニウムガス4sccmをキャリアガスである水素ガス4996sccmで希釈して供給した。バリアノズル16からはバリアガスとして窒素ガスを3000sccm供給した。また、ノズルの外周からかはアンモニアガス16sccmをキャリアガスである水素ガス3984sccmで希釈して供給した。このとき、混合ガスの流量は合計12000sccmであり、三塩化アルミニウムの供給分圧は3.3×10-4atmであった。
基板に原料混合ガスを60分間供給し、基板上に窒化アルミニウム単結晶を成長させた。60分経過後、三塩化アルミニウムガスのみ供給を停止して窒化アルミニウムの成長を停止した。500℃まで冷却した後、アンモニアガスを停止し、さらに室温まで冷却した後、基板を取り出して評価を行った。その結果、基板に成長した窒化アルミニウムによる重量変化は、成長前に比べてプラス0.0350gであり、窒化アルミニウムの平均膜厚は5.3μm、成膜速度に換算すると結晶成長速度は5.3μm/hrであった。また、基板上に固定化されたIII族金属の物質量(固定化III族金属物質量)は0.00085molであった。成長中に基板に供給したIII族金属含有ガスの物質量(基板供給III族金属物質量)は0.0107molであるので、収率は8%と計算された。実施例1と原料供給量が同一量であるが、本比較例では収率が低下していることが明らかであり、本発明の予混合供給方式の方が収率が高まるといえる。θ-2θモードX線回折プロファイルからは、基板に用いたサファイア基板以外には窒化アルミニウムの(002)回折および(004)回折のみが観測され、得られた窒化アルミニウムは単結晶であると判断された。また、Tiltのロッキングカーブ値は220minであった。
比較例2
実施例1の装置において、ノズルとして、温度制御ができない石英ガラス製のノズルを用いた以外は、実施例1と同様に行った。
原料の供給を開始した直後から石英ガラス製ノズルの先端付近や内壁に白色の固体析出物が観測され、時間の経過と共に蓄積していった。
60分経過後にIII塩化アルミニウムガスのみ供給を停止して窒化アルミニウムの成長を停止した。500℃まで冷却した後、アンモニアガスを停止し、さらに室温まで冷却した後、基板を取り出して評価を行った。その結果、基板に成長した窒化アルミニウムによる重量変化は、成長前に比べてプラス0.0086gであり、窒化アルミニウムの平均膜厚は1.3μm、成膜速度に換算すると結晶成長速度は1.3μm/hrであった。また、基板上に固定化されたIII族金属の物質量(固定化III族金属物質量)は0.00021molであった。成長中に基板に供給したIII族金属含有ガスの物質量(基板供給III族金属物質量)は0.0107molであるので、収率は2%と計算された。θ-2θモードX線回折プロファイルからは、基板に用いたサファイア基板以外には窒化アルミニウムの(002)回折および(004)回折のみが観測され、得られた窒化アルミニウムは単結晶であると判断された。また、Tiltのロッキングカーブ値は200minであった。
石英ガラス製ノズルに付着した白色析出固体は粉末X線回折の測定結果から窒化アルミニウムであることがわかった。収率が大幅に下った原因は、基板加熱用ヒータからの輻射熱により石英ガラスノズルの温度が上昇し、原料ガスが基板に供給される前に石英ガラスノズル先端や内壁に窒化アルミニウムとして析出したことに起因する。反応時のノズルの温度は実測できなかったが、窒化アルミニウムが生成したことを考慮すると600℃以上の温度に達していたと推測される。すなわち、本発明による予混合供給方式においては予混合時のガス温度の管理だけでなく、ノズルの温度の管理も重要であることが示された。
比較例3
実施例1において、温調ノズルに循環するオイルの加熱温度を100℃にした以外は、実施例1と同様に行った。
原料の供給を開始した直後から温調ノズル47の内壁に白色の固体析出物が観測され、次第に温調ノズル47の内壁が閉塞したため、実験を中止した。すなわち、本発明による原料供給方式においては、予混合時のガス温度を適切に制御しないと、安定した成長が困難であることが示された。
実施例および比較例の条件と結果を表1に示す。