JP4958369B2 - 食物アレルゲン、食物アレルゲンの検出方法及び食物アレルギー誘発性食品の検出方法 - Google Patents

食物アレルゲン、食物アレルゲンの検出方法及び食物アレルギー誘発性食品の検出方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、食物アレルギー患者のIgE抗体が認識する未変性及び/又は変性物質からなる複数の食物アレルゲンの混合物、当該食物アレルゲン混合物を動物に免疫して得られる抗体、及び当該抗体を用いる食物アレルゲン並びに当該アレルゲンを含有する食物アレルギー誘発性食品及びそれらを含有する食品の検出方法に関する。そして、本発明は食物アレルゲンの発症機構の解明、食物アレルゲンの低アレルゲン化技術の開発、低アレルゲン化技術の有用性の検証、食品及び食品原材料中に混在する食物アレルゲンの検出、並びに食品加工機械や製造工程等の食品製造環境中に存在する食物アレルゲンの検出などに活用できるので、食物アレルギー患者の安全性確保に資することができる。
【0002】
【従来の技術】
食物アレルギーは、食品中に含まれるアレルギー誘発物質(以下、食物アレルゲン)の摂取が引き起こす有害な免疫反応であり、皮膚炎、喘息、消化管障害、アナフィラキシーショック等を引き起こす。アレルギー反応は作用機序の違いから、I型からIV型に分類されているが、食物アレルギーは、主に、食物の摂取によって体内に侵入した食物アレルゲンとIgE抗体が反応するI型アレルギーによって惹起される。そして、近年、このような食物アレルギーの患者が増加しており、医学上及び食品産業上、深刻な問題を生じている。
このような危害を未然に防ぐために、表示を通じた消費者への情報提供の必要性も高まっており、FAO/WHO合同食品規格委員会(CODEX委員会)は、アレルギー物資として知られている8種の原材料を含む食品にあっては、それを含む旨の表示について合意し、加盟国で各国の制度に適した表示方法を検討することとした(1999年6月)。日本では過去の健康危害などの程度、頻度を考慮して重篤なアレルギー症状を惹起した実績のある24品目の食品について、その表示方法が定められた(2002年4月より施行)。このように、これらの表示制度は、アレルギー物質または食物アレルゲン自体の表示ではなく、アレルギー物質または食物アレルゲンを含有する食品(本願明細書では、食物アレルギー誘発性食品と称する)の表示を求めていることに注目する必要がある。
食物アレルギー誘発性食品としては、卵類、牛乳類、肉類、魚類、甲殻類および軟体動物類、穀類、豆類およびナッツ類、果実類、野菜類、ビール酵母もしくはゼラチンなどが知られている。
また、食物アレルギー誘発性食品には、オボアルブミン、オボムコイド、リゾチーム、カゼイン、β-ラクトグロブリン、α-ラクトアルブミン、グルテン、α-アミラーゼインヒビターなどの食物アレルギーを誘発する食品成分も含まれる。
さらに、(1)現時点では物質名は特定されていないが、食物アレルギーを誘発する食品や食品成分(食物アレルゲン)が多数存在するものと考えられる;(2) 食物アレルギーを誘発する食品や食品成分(食物アレルゲン)は、食物アレルギー患者毎に異なり、多様である;そして(3)後記の実施例が示すように、食物アレルギーを誘発する1種類の食品中にさえも、既知及び未知の食物アレルゲンが多数存在する。しかし従来は、これらの食物アレルギーを誘発する多数の食品や多数の食物アレルゲンを簡便に検出することが出来なかった。
【0003】
食品は、食品の消化性、保存性、嗜好性、物性等の改善や殺菌の目的で加熱、凍結、乾燥、塩蔵、発酵、酵素処理等の処理(以下、食品加工処理)がなされて調製される。これらの食品加工処理は蛋白質等の食品成分に作用して、食品成分の分子構造を変化させるが(例:蛋白質の変性)、これらの食品加工処理が新たな食物アレルゲンを生じるか否かについては従来あまり検討されていなかった。
しかし、後記の実施例が示すように、本発明は次ぎのことを明らかにした:(1)加熱処理された食品成分もアレルゲン性を有する、(2)同一食品であっても、加熱処理されていない場合と加熱処理された場合では、アレルギーを誘発する成分又はエピトープが変化する。即ち、a)非加熱の卵抗原、b)前記a)を加熱して調製した加熱卵抗原、c)複数の食物アレルギー患者から採取しプールした血清(以下、患者プール血清)とa)を混合した後の血清(非加熱卵抗原除去血清)、d)患者プール血清とb)を混合した後の血清(加熱卵抗原除去血清)を調製し、a)とc)又はd)を反応させた試験結果、並びに、b)とc)又はd)を反応させた試験結果から、非加熱卵抗原除去血清は、非加熱卵抗原と抗原抗体反応しなくなったが、加熱卵抗原とは依然として抗原抗体反応した:一方、加熱卵抗原除去血清は、加熱卵抗原と抗原抗体反応しなくなったが、非加熱卵抗原とは依然として抗原抗体反応した。要約すれば、食物アレルギー患者は、加熱等の食品加工処理を受けた食品に対して特異的なIgE抗体、及び、食品加工処理を受けていない食品に対して特異的なIgE抗体を夫々持っており、これらが食物アレルギーの惹起に関係していると考えられる。
しかし、従来は、食品加工処理の施された食品や食品成分のアレルゲン性を簡便に検査することは出来なかった。
【0004】
鶏卵蛋白質、ピーナッツ蛋白質、カゼイン、β-ラクトグロブリン、グルテンを対象とする食物アレルゲン検査用の製品が市販されている(食品と開発,Vol.35,p10-11)。しかし、これら製品の一部又は全てには次ぎのような問題点があった:(1)必ずしもアレルギー患者が認識するアレルゲンを検出する訳ではなかった、言換えれば、食物アレルギー患者のIgE抗体が認識する物質を検出している訳ではなかった;(2)既知かつ単一のアレルゲンしか検出できなかった(単一抗体);(3)単一のアレルゲンを検出する単一抗体を用いる検出方法の場合には、当該アレルゲンの検出を妨害する物質を含有する食品には適用できなかった;(4)後記の実施例が示すように、単一抗体を用いる検査方法を用いて食物アレルギー誘発性食品を定量しようとする場合には、必ずしも正確な定量値が得られなかった;(5)後記の実施例が示すように、単一抗体を用いる検出方法の場合には、当該アレルゲンを含まない食物アレルギー誘発性食品の検査に適用できなかった(例:卵白部分に局在するオボアルブミン等を抗原として得られる単一抗体を用いる検出法の場合には、卵黄や卵黄マヨネーズ等の検査に適用できなかった。なお、卵黄成分が食物アレルギーを発症する事例も知られている。);(6)食品の加工処理によって変性又は分子修飾されたアレルゲンを検出できなかったので、加工食品の検査には適用できなかった、(7)未変性及び変性β-ラクトグロブリン、オボアルブミン、α-カゼインを認識するモノクローナル抗体が報告されたが(アレルギー、Vol. 50, p309)、モノクローナル抗体は食物アレルゲン分子中の特定のエピトープしか認識しないから(厳密には、1クローン化ハイブリドーマから作られるモノクローナル抗体は1エピトープのみを認識する)、食品の製造工程で当該エピトープが除去又は分子修飾された場合には、モノクローナル抗体を用いたアレルゲン性判定法の有用性は低減した。
【0005】
食物アレルギー患者の血清を用いる方法として、米アレルギー患者の血清を用いるアレルゲン分析法(特開平2000-65820公報)、卵、牛乳アレルギー患者のプール血清を用いるアレルゲン分析法(食肉の科学,Vol.39,p166-169)が報告されたが、大量の患者のヒト血清を必要とするので、病院等の限られた施設では利用できたが、多くの検査機関や食品製造工場等では利用できなかった。
マウスのアナフィラキシー反応を利用した食物アレルゲンを検査する方法(FFI J.,No.180,p77-82)も報告されたが、煩雑な操作を要すると共に実験動物を維持管理しなければならないので、大多数の食品製造工場では利用できなかった。フローシステムと酵素標識抗体を組み合わせたシステムやマイクロ電極を利用したアレルゲンセンサーも開発されたが(食品工業,Vol.42,p53-56)、実用化までには多くの解決すべき課題が残されていた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は従来技術に存在する上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、(1)食物アレルギー患者のIgE抗体が認識する既知及び/又は未知、並びに、未変性及び/又は変性物質からなる複数の食物アレルゲンの混合物(便宜上、本発明の第1の発明という)、(2)当該食物アレルゲンの混合物を動物に免疫して得られる抗体(便宜上、本発明の第2の発明という)、及び当該抗体を用いる食物アレルゲン並びに食物アレルギー誘発性食品の検出方法(便宜上、本発明の第3の発明という)を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明の第1の発明は、
(1-i)食物アレルギー患者プール血清からIgE抗体画分を分離し、
(1-ii)食品加工処理と同程度の処理された、及び/又は処理されていない食品又は食品成分(以下、食品という)の中から、前記IgE抗体画分と反応する複数の成分(換言すれば、食物アレルギー患者のIgE抗体が認識する複数の食物アレルゲン)をアフィニティークロマトグラフィー又は免疫沈降等の慣用の免疫学的な方法を用いて採取する。
又は、本発明の第1の発明は、
(2-i)慣用の方法に従って、食品成分をSDS-PAGEし、メンブランに転写し、
(2-ii)当該メンブラン、患者プール血清、標識化抗ヒトIgE抗体及び染色試薬を用いてウエスタンブロッティングする(換言すれば、食物アレルギー患者のIgE抗体が認識する複数の食物アレルゲンのプロファイルを作成する)と共に、
(2-iii)当該メンブラン、食品成分を慣用の方法で動物に免疫して調製した動物血清、標識化抗当該動物IgG抗体及び染色試薬を用いてウエスタンブロッティングする、そして、
(2-iv)両ウエスタンブロッティング像を比較して、前者では染色されないが、後者で染色される染色バンド(換言すれば、食物アレルギー患者のIgE抗体が認識しない複数の非食品アレルゲン成分)の分子量を測定し、
(2-v)前記測定結果に基づいて、分子篩担体を用いるゲル濾過クロマトグラフィー等の慣用の方法で、食品成分から、食物アレルギー患者のIgE抗体が認識する複数の食物アレルゲンを採取する。
本発明の第2の発明は、前記第1の発明によって得られた、食物アレルギー患者のIgE抗体が認識する複数の食物アレルゲン(含む、食品加工処理された、及び/又は、同処理をされていない食物アレルゲン)を動物に免疫して調製した抗食物アレルゲン動物抗体である(以下、複合抗原を認識する抗体と称する場合もある)。
また、本発明の第3の発明は、当該複合抗原を認識する抗体を用いることを特徴とする食物アレルゲンおよび食物アレルギー誘発性食品の検出方法である。
【0008】
前記の食品加工処理と同等の処理のうち、加熱温度は、40℃から250℃、好ましくは60℃から120℃である。そして、無処理を含め2から6段階の異なる温度帯により処理したものを混合し、その混合物から、上記本発明の第1の発明によって、食物アレルギー患者のIgE抗体が認識する食物アレルゲン画分を採取し、動物に免疫する。
なお、食物アレルゲンの検出対象が加熱処理された食品に限定される場合には、加熱処理した食品のみから本発明の第1の発明によって、食物アレルギー患者のIgE抗体が認識する食物アレルゲン画分を採取し、動物に免疫することもできる。
免疫する動物としては、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ラット、マウス、モルモット、ウマ、ブタ、又はニワトリ等を例示することができる。免疫期間中は部分採血して抗食物アレルゲン抗体の産生されていることを確認するのが望ましい。
本発明の抗体はモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体の何れでも良い。後記の実施例が示すように、食物アレルギーを誘発する1種類の食品中には、食物アレルギー患者のIgE抗体が認識する既知及び未知の複数の食物アレルゲンが含まれるから、これらの複数の食物アレルゲンを動物に免疫することによって、複数の食物アレルゲンを認識する多価抗体、即ち複合抗原を認識する抗体を容易に調製することができる。
食物アレルギー患者のIgE抗体が認識する食物アレルゲンに対する動物抗体として、当該動物の抗血清をそのまま使用することもできる。また、食物アレルギー患者のIgE抗体が認識しない非食物アレルゲン画分を用いて吸収操作を施すか、動物血清のIgG画分を慣用の方法で精製して使用することもできる。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明の食物アレルゲン及び食物アレルギー誘発性食品の検出方法は、食物アレルゲンを含有する食品及びこれを含有する食品であれば、特に限定されることなく適用でき、例えば、食物アレルギー誘発性の食品としては、卵類、牛乳類、肉類、魚類、甲殻類および軟体動物類、穀類、豆類およびナッツ類、果実類、野菜類、ビール酵母もしくはゼラチン、より詳細には、卵類としての卵白、卵黄、牛乳類としてのミルク、チーズ、肉類としての豚肉、牛肉、鶏肉、羊肉、魚類としてのサバ、アジ、イワシ、マグロ、サケ、タラ、カレイ、イクラ、甲殻類および軟体動物類としてのカニ、エビ、ムラサキガイ、イカ、タコ、ロブスター、アワビ、穀類としてのコムギ、コメ、ソバ、ライムギ、オオムギ、オートムギ、トウモロコシ、キビ、アワ、ヒエ、豆類およびナッツ類としてのダイズ、ピーナッツ、カカオ、エンドウ、インゲン、ヘーゼルナッツ、ブラジルナッツ、アーモンド、ココナッツ、クルミ、果実類としてのリンゴ、バナナ、オレンジ、モモ、キウイ、イチゴ、メロン、アボガド、グレープフルーツ、マンゴ、洋ナシ、ゴマ、マスタード、野菜類としてのトマト、ニンジン、ジャガイモ、ホウレンソウ、タマネギ、ニンニク、タケノコ、カボチャ、サツマイモ、セロリ、パセリ、ヤマイモ、マツタケ、又はそれらを含有する食品、並びに前記食品の構成成分(例えば、オボアルブミン、オボムコイド、リゾチーム、カゼイン、β−ラクトグロブリン、α−ラクトアルブミン、グルテン、α−アミラーゼインヒビター)を挙げることができる。また、これら食品が、加熱、凍結、乾燥、塩蔵、発酵、酵素処理等の食品加工処理が施されているか否かの別は問わない。
一般に、50%以上の確率で食物アレルギー患者のIgE抗体が認識するアレルゲンをメジャーアレルゲン、それ以外はマイナーアレルゲンと呼んでいる。食物アレルギーはメジャーアレルゲンのみによって惹起される訳ではなく、マイナーアレルゲンによっても惹起される。また、患者によっては、メジャーアレルゲンに感作していないが、マイナーアレルゲンにのみ感作している場合もある。従って、食物アレルゲンの検出方法は、メジャーアレルゲン及びマイナーアレルゲンの両方を検出し得ることが必要である。また、本発明の検出方法は、食物アレルギー患者が認識する複数のアレルゲンについて未変性及び変性したものの両方を検出し得ることが必要である。
【0010】
このような要件を満たす抗体を調製するために、本発明者らは鋭意検討した結果、以下のことを見出した。
即ち、食品成分を慣用の方法に従ってSDS-PAGEし、メンブランに転写し、
(i)当該メンブランを、患者プール血清、標識化抗ヒトIgE抗体及び染色試薬を用いてウエスタンブロッティングする(換言すれば、食物アレルギー患者のIgE抗体が認識する複数の食物アレルゲンのプロファイルを作成する)と共に、
(ii)当該メンブランを、食品成分を慣用の方法で動物に免疫して調製した動物血清、標識化抗当該動物IgG抗体及び染色試薬を用いてウエスタンブロッティングし、
(iii)両ウエスタンブロッティング像を比較すると、(1)両者共通して染色される染色バンドと、(2)前者では染色されないが、後者でのみ染色される染色バンド(換言すれば、食物アレルギー患者のIgE抗体が認識しない複数の非食品アレルゲン成分)の存在することが確認され、さらに、(3) 前者で染色される染色バンドの分子量分布と後者でのみ染色される染色バンドの分子量分布を比較すると、後者でのみ染色される染色バンドは前者で染色される染色バンドよりも高分子側及び/又は低分子側にも存在していることが分かった、そこで、
(iv)前記試験結果に基づいて、分子篩担体を用いるゲル濾過クロマトグラフィー等の慣用の方法を用いて、食品成分から、食物アレルギー患者のIgE抗体が認識する複数の食物アレルゲン画分を採取し、これを免疫原として動物に免疫して、食物アレルギー患者のIgE抗体が認識する複数の食物アレルゲンに対する動物抗体を調製した。動物抗体の調製に供する動物は、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ラット、マウス、モルモット、ウマ、ブタ、又はニワトリ等の恒温動物であり、これらの動物を免疫する方法は、当業者の公知の方法でよい。
【0011】
本発明の食物アレルゲンの検出方法は、上記のようにして得た抗体を用いるが、マイクロタイタープレート、PVDF膜、ニトロセルロース膜、クロマトストリップ、試験管、ビーズ、ナイロン膜等に固相化して用いることもできる。また、エンザイムイムノアッセイ法、イムノブロッティング法、ドットブロット法又はイムノクロマトグラフィー法、及び抗体チップ法等の免疫学的手法に適用することができる。
【0012】
本発明の食物アレルゲンの検出方法は、前述のように、食品並びに食品加工機械や製造工程等の食品製造環境中に存在する複数のアレルゲンを検出することを目的としている。測定に際しては、食品の抽出液が好適に用いられ、抽出溶液は水、リン酸緩衝生理食塩水、トリス塩酸緩衝液又はアルコール等が望ましいが、アレルゲンが含まれるものであれば、これらに限定されるものではない。また、供試食品からのアレルゲンの抽出効率を改善する目的で、必要に応じて、アレルゲン抽出溶液に蛋白質変性剤(例えば、SDS又は尿素)、SH基含有酸化防止剤(例えば、2-メルカプトエタノール)等を添加することもできる。食品加工機械や製造工程等の食品製造環境のふき取り(swab)液、食品製造環境の空気をインピージャー瓶にトラップした検液を供試すれば、食品加工機械や製造工程等の食品製造環境中に存在する複数のアレルゲンを検出することができる。
【0013】
本発明の検出方法における被験物質の検出原理は、エンザイムイムノアッセイ法、イムノブロッティング法、ドットブロット法、イムノクロマト法、マルチ蛍光マイクロビーズ法等の免疫学的手法であれば特定のものに限定されない。例えば、エンザイムイムノアッセイ法としては、サンドイッチELISA法、競合法及び直接法等を例示できる。供試抗体を標識する場合には、酵素(例えば、ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ又はβ-ガラクシダーゼ)、蛍光物質(例えば、フルオレセインニソチアネート)、生物発光物質(例えば、ルシフェリン-ルシフェラーゼ)、化学発光物質(例えば、ルミノール、アクリジン誘導体又はアダマンタン誘導体)、ビオチン、アビジン、金コロイド又は放射性物質(例えば、32P)等を用いることができる。
【0014】
以下に本発明の検出方法の好適な例として、サンドイッチELISA法、競合法及び直接法の手順の概略を順次説明する。
サンドイッチELISA法ではまず、本発明の複数のアレルゲンを認識する抗体(複合抗原を認識する抗体)の標識物(標識化抗体)を準備する。一方、ELISAプレートに本発明の複合抗原を認識する抗体の非標識化抗体を吸着させるか又は化学的結合法で固相化させておく。次に固相の抗体非吸着面を、その反応系に影響しない蛋白質、例えば、ゼラチンやウサギ血清アルブミン等でブロッキング処理する。検査を行う食品及び原料の抽出物または食品の製造環境から採取した抽出物(以下、検体という)もしくは標準抗原を固相に添加し、第1回目の抗原抗体反応を行う。反応後、洗浄し、上述の標識化抗体を添加して固相化しておいた抗体に補足されたアレルゲンと2回目の抗原抗体反応を行う。次に、未反応の標識化抗体を洗浄、除去し、標識に応じた検出試薬(例えば、ペルオキシダーゼを標識として用いた場合には、1,2-フェニルジアミンとH2O2:アルカリフォスファターゼを標識として用いた場合には、P-ニトロフェニルリン酸)を加え、標識と検出試薬の反応生成物の量を測定し、アレルゲンを検出または定量する。
ELISAプレートに添加する標準抗原または食物アレルギー誘発性食品(例えば、卵、牛乳)の量を変化させることによって、標準曲線が得られる。また、この標準曲線から供試試料中の食物アレルゲンまたは食物アレルギー誘発性食品の量を測定することができる。なお、その測定値が1ppm以上の場合には、当該供試試料は食物アレルギー誘発性食品であると考えられている。
【0015】
なお、後記の実施例が示すように、単一抗原を認識する抗体と当該抗体を用いて作製した標準曲線から、供試試料中の食物アレルゲンを測定する場合には、当該抗体の認識するエピトープと未知の供試試料中に存在する食物アレルゲン種の組み合わせによっては、(1)食物アレルゲンを適切に定量できる場合もあるが、(2) 食物アレルゲンを適切に検出できない場合もある、また(3)食物アレルゲン含有量が1ppm以下であっても、当該食物アレルゲンがあたかも1ppm以上存在すると定量し、不適切な判定をもたらす場合も生じる。
即ち、単一抗原を認識する抗体を用いる検出法では、単一抗原を認識して得られた値から食品アレルギー誘発性食品の量に換算しなければならないので、誤差が生じやすい。
単一の抗原としてオボムコイドとオボアルブミンを例にすると、それらは、全卵中にはそれぞれ約4%と約2%が含まれ、卵白中にはそれぞれ2倍の約8%と約4%が含まれる。しかし、卵黄中には両者とも含まれない。このことから、オボムコイドまたはオボアルブミンのみを認識する検出系では、(1)卵黄タンパク質を検出できない;一方、(2)全卵を用いて作製した標準曲線を卵白の測定に適用とする場合には、実際の含量より2倍程度多く換算してしまう;さらに、(3)検出の定量範囲を超えた場合には、異常に高い値が算出されてしまう。
同様に、全牛乳タンパク質中に占めるカゼインの含量は約80%、β-ラクトグロブリンの含量は約10%であるから、カゼインナトリウムや乳清タンパク質等が使用されている加工乳を単一の抗原を認識する抗体を用いて定量しようとする場合には、正確な定量値が得られないという問題点がある。
しかし、本発明の複合抗原を認識する抗体はこのような問題は生じない、または少ない。
【0016】
競合法では、使用する抗体が認識する一定量のアレルゲンとして標準抗原を直接固相に吸着させ、その反応に影響しない蛋白質でブロッキング処理をした後、アレルゲンを認識する酵素標識抗体と検体を同時に添加する。一定時間反応させた後、洗浄して固相に非結合のものを除去し、発色基質を加えて酵素と反応させる。反応停止後、検体の添加による酵素標識抗体の固相化されたアレルゲンとの反応を検出すればよい。
直接法では、検体を直接固相に吸着させ、その反応系に影響しない蛋白質でブロッキング処理し、次いでアレルゲンを認識する酵素標識抗体を添加、反応させる。以降は、サンドイッチ法と同様の操作を行い、検体中のアレルゲンを検出する。
【0017】
上述のサンドイッチELISA法、競合法及び直接法の何れにおいても、標識酵素-発色基質の組み合わせを、標識酵素-蛍光基質、標識酵素-生物発光基質及び化学発光基質等の組み合わせに変えることができる。これら本発明の各検出方法における他の反応条件等については、その目的、検体の種類、測定原理等に応じて、当業者が適宜決定することができる。
本発明のアレルゲンの検出方法においては、食品及び原料抽出液中に含まれる0.1ng/ml以上ないし1.0ng/ml以上のアレルゲンが検出可能であり、極めて高感度でアレルゲンを検出することができる。
【0018】
【発明の効果】
本発明の食物アレルギー患者のIgE抗体が認識する未変性及び/又は変性物質からなる複数の食物アレルゲンの混合物及びその抗体は、食物アレルゲンの発症機構の解明、食物アレルゲンの低アレルゲン化技術の開発に供することができる。また、本発明の食物アレルゲンの検出方法は、低アレルゲン化技術の有用性の検証、食品に混在する食物アレルゲンの検出、並びに食物アレルギー誘発性食品および食品加工機械や製造工程等の食品製造環境中に存在する食物アレルゲンの検出などに活用できる。従って、本発明は、食物アレルギー患者の安全性確保に資することができると共に、近年の食物アレルギーの患者の増加に伴う、医学上及び食品産業上の深刻な問題の解決に資することが出来る。
【0019】
【実施例】
以下に、実施例をもって本発明をより具体的に説明するが、これらは実施例の一例として示すものであり、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。なお、記載に用いる略号は当該技術分野における慣用略号によるものである。
【0020】
実施例1(各種食品の標準抗原の調製)
(1) 鶏卵、うずら卵、あひる卵
鶏卵1kgの殻を外し、均一にホモジナイズした後に凍結乾燥し、微粉砕し標準卵抗原を調製した。その10gに10倍量のリン酸緩衝生理食塩水(Phosphate-buffered saline;以下、PBS; pH7.0)を加えて溶解し、5本の試験管に分注し、それぞれ無処理、60℃、80℃、100℃と120℃で30分間加熱処理し、混合し、均一化して試料を調製した。同様に、うずら卵とあひる卵から試料を調製した。
【0021】
(2) 牛乳
牛乳1リットルを冷却しながら撹拌し、乳脂塊を凝固させ脱脂綿で濾過した。この操作を3回繰り返し脂肪を除去した後、濾液を凍結乾燥し、微粉砕し、標準牛乳抗原を調製した。そして、上記(1)と同様にして試料を調製した。
【0022】
(3) 小麦、米
小麦粉1kgに5倍量の4M尿素加0.1Mトリス塩酸緩衝液(pH8.6)を加え、室温で2時間撹拌しながら抽出し、遠心分離後の上清を透析し、凍結乾燥し、微粉砕し、標準小麦抗原を調製した。そして、上記(1)と同様にして試料を調製した。同様に、米粉から試料を調製した。
【0023】
(4) そば
そば1kgに5倍量の1%NaCl加0.1Mトリス塩酸緩衝液(pH8.4)を加え、室温で2時間撹拌しながら抽出し、遠心分離後の上清を透析し、凍結乾燥し、微粉砕し、標準そば抗原を調製した。そして、上記(1)と同様にして試料を調製した。
【0024】
(5) ピーナッツ
ピーナッツ1kgを粉砕し、5倍量のヘキサンを加え、室温で2時間撹拌しながら脱脂した。この操作を3回繰り返した後、ヘキサンを除去し、5倍量の1%NaClを含む0.1Mトリス塩酸緩衝液(pH8.4)を加え、室温で2時間撹拌しながら抽出した。次に、遠心分離後の上清を透析し、凍結乾燥し、微粉砕し、標準ピーナッツ抗原を調製した。そして、上記(1)と同様にして試料を調製した。
【0025】
(6) 大豆
上記(5)と同様の方法で大豆から標準大豆抗原を調製した。そして、上記(1)と同様にして試料を調製した。
【0026】
実施例2(各種の精製食物アレルゲン)
(1) 精製鶏卵アレルゲン
鶏卵のメジャーアレルゲンであるオボアルブミンに10倍量のPBS(pH7.0)を加えて溶解し、5本の試験管に分注し、それぞれ無処理、60℃、80℃、100℃と120℃で30分間加熱処理し混合し均一化して試料を調製した。また、オボムコイドについても同様に試料を調製した。なお、オボアルブミン及びオボムコイドは卵白部分に局在するタンパク質として知られている。
【0027】
(2) 精製牛乳アレルゲン
実施例2(1)と同様に、カゼイン、β-ラクトグロブリンおよびα-ラクトアルブミンについて試料を調製した。なお、β-ラクトグロブリンおよびα-ラクトアルブミンは牛乳ホエイ中に局在するタンパク質として知られている。
【0028】
実施例3(抗体の調製)
1 )各種標準抗原に対するウサギ抗体の調製
実施例1で調製した各試料をフロイント完全アジュバンド(第1回目の免疫原として使用)またはフロイント不完全アジュバンド(第2回目以降の免疫原として使用)と乳化し、日本白色種ウサギに4から6回免疫した。この間、部分採血を行い供試抗原に対する抗体の産生を確認し、全採血を行い、抗体を調製した。
【0029】
2 )各種精製食物アレルゲンに対する抗体の調製
上記と同様にして、各種精製食物アレルゲンに対する抗体を調製した。
【0030】
実施例4(イムノブロッティング法による各種食物アレルゲンの検出)
1 )患者プール血清及びウサギ抗体
卵、牛乳及び小麦に対するRAST(Radioallergosorbent test)スコア2以上(特異的IgE 抗体>0.7UA/ml)の食物アレルギー患者20例の血清を等量ずつ混合して患者プール血清を調製した。一方、卵、牛乳及び小麦に対するウサギ抗体は、実施例3(1)で調製した抗体を使用した。
【0031】
2 )ドデシル硫酸ナトリウム - ポリアクリルアミドゲル電気泳動( SDS-PAGE
上記の卵、牛乳及び小麦の標準抗原を2-メルカプトエタノール存在下で3分間加熱し、ゲル濃度10%のミニスラブゲルを用いて電気泳動し、その後にPVDF(ポリビニリデンジフルオリド)膜上に電気的に転写した。膜の一部は,金コロイド染色キット(BIO-RAD社製)による全蛋白質バンドの検出に使用した。
【0032】
3 )イムノステイニング
上記のPVDF膜を1%ヒト血清アルブミン(HSA)でブロッキングした。次いで、転写膜を0.05%Tween20を含むPBS(PBST)で洗浄し、患者プール血清(100倍希釈)又はウサギ抗体(1000倍希釈)と室温で2時間反応させ、洗浄し、アルカリフォスファターゼ標識ヤギ抗ヒトIgE-ε鎖抗体(2500倍希釈)又はアルカリフォスファターゼ標識抗ウサギIgG抗体(4000倍希釈)を二次抗体として室温で1時間反応させた。その後、転写膜をPBSTで洗浄し、化学発光基質4-Methoxy-4(3-phosphatephenyl)spiro[1,2-dioxetane-3,2-adamantane]disodium salt(Lumi-Phos 530,和光純薬工業社製)と室温で30分間反応させ、アルカリフォスファターゼの脱リン酸化反応により生じる発光を感光フィルム上に検出した。
これらの結果を図1に示した。
図1が示す通り、患者プール血清と反応するバンド(図1、レーン1、4、7)が複数存在し、各種食品には患者IgEが認識する複数の食物アレルゲンが存在することが示された。
一方、ウサギ抗体もこれらの患者IgEが認識する食物アレルゲンを認識した(図1、レーン2、5、8)。
両血清が共通して認識した物質は次の通りであった。
卵のオボアルブミン、オボムコイド、リゾチーム、オボトランスフェリン;牛乳のカゼイン、β-ラクトグロブリン、α-ラクトアルブミン;小麦のグリアジン、α-アミラーゼインヒビター;ソバの132kDa、84kDa、27kDa、11kDa成分;そしてピーナッツの107kDa、72kDa、35kDa、28kDa成分。
なお、ウサギ抗体は、患者IgEが認識しない非食物アレルゲンも認識した。
【0033】
(4) アレルゲンの濃縮・分画
アレルゲン以外の物質を認識しない抗体を次ぎの要領で調製した。
患者血清で染色される染色バンドの分子量分布と動物抗体で染色される染色バンドの分子量分布を比較すると、後者でのみ染色される染色バンドは前者で染色される染色バンドよりも高分子側及び/又は低分子側にも存在していることが分かった(図1)。そこで、ゲル濾過クロマトグラフィーにより、食物アレルギー患者のIgE抗体が認識する複数の食物アレルゲン画分の分子量に相当する画分を標準抗原から採取し(以下、アレルゲン画分)、実施例1と同様に試料を調製し、これを免疫原として動物に免疫して、抗アレルゲン分画抗体を得た。そして、この抗体を用いて上記と同様にウエスタンブロッティングしたところ、この抗体は、概ね、患者プール血清が認識する食物アレルゲンを認識していることが確認された(図1、レーン3、6、9)。
なお、このようなアレルゲンの濃縮・分画は、イオン交換クロマトグラフィー、患者IgE抗体を利用した免疫沈降やアフィニティークロマトグラフィーによっても行うことができる。
【0034】
実施例5(ドットブロット法によるメジャーアレルゲン及び同加熱済み物の検出)
PBSに平衡化したPVDF膜をドットブロット装置にセットし、メジャーアレルゲンとして知られている精製アレルゲン(オボアルブミン、オボムコイド、オボトランスフェリン、リゾチーム、カゼイン、β-ラクトグロブリン、α-ラクトアルブミン、α-アミラーゼインヒビター、グリアジン)及びそれらの加熱済み物を吸着させた。その後、3%RSA加TBSでブロッキングし、TBSTで洗浄し、実施例4(4)で調製した抗卵アレルゲン分画抗体、抗牛乳アレルゲン分画抗体または抗小麦アレルゲン分画抗体(2000倍希釈)を加え、室温で1時間反応させた。次いで、ビオチン標識ヤギ抗ウサギIgG抗体を反応させ、HRP標識アビジン(4000倍)を反応させ、洗浄し、化学発光基質を加えて反応により生じる光を感光フィルム上に検出した。
上記の抗体は、メジャーアレルゲンであるオボアルブミン、オボムコイド、オボトランスフェリン、リゾチーム、カゼイン、β-ラクトグロブリン、α-ラクトアルブミン、α-アミラーゼインヒビター、グリアジンを認識した。また、上記の抗体は上記の精製アレルゲンの加熱済み物も認識した。
【0035】
実施例6(サンドイッチELISA法による卵、牛乳及び小麦アレルゲンの検出)
(1) 抗体
実施例4(4)で調製した抗卵アレルゲン分画抗体、抗牛乳アレルゲン分画抗体または抗小麦アレルゲン分画抗体、並びにそれらから常法に従って調製したビオチン標識抗体を以下の試験に供した。
【0036】
2 )マイクロタイタープレートへの抗体のコーティングとブロッキング
上記の抗体(10μg/ml)の100μlをELISAプレート(Nunc社)に分注し、4℃で一晩コーティングし、洗浄し(150mM NaClと0.05% Tween20加20mMトリス塩酸緩衝液、pH7.4)、0.1% RSA(Sigma社)加トリス塩酸緩衝液(pH7.4)で25℃1時間ブロッキングした。
【0037】
(3) 卵、牛乳及び小麦アレルゲンの検出
各ウエル中のブロッキング溶液を除去し、希釈溶液(0.1%RSA,150mM NaClと0.05%Tween20加20mMトリス塩酸緩衝液、pH7.4)95μlと各種食品のPBS抽出液を5μlを加え、25℃で2時間放置した。また、実施例1に記載の卵、牛乳又は小麦の標準抗原も同様に各ウェルに5μl加え、25℃で1時間放置した。各ウエルを洗浄液300μlで5回洗浄した後、ビオチン標識化抗体(10000倍希釈)100μlを加え、25℃で1時間放置した。洗浄後、ペルオキシダーゼ標識アビジン(2500倍希釈)100μlを加え、25℃で30分間放置した。次に、各ウエルを洗浄し、3,3',5,5'テトラメチルベンジジン溶液100μlを加え、25℃30分間遮光下で反応させた。その後、1N硫酸100μlを加え反応を停止させた。各ウエルの吸光度をマイクロプレートリーダー(主波長450nm、副波長630nm)で測定した。
これらの測定結果を表1に示す。表1の示す通り、各種食品抽出液中の卵、牛乳又は小麦アレルゲンを検出することができた。
【0038】
Figure 0004958369
【0039】
実施例7(サンドイッチELISA法による食物アレルゲン検査キットの基礎性能試験)
1 )標準抗原の希釈試験
実施例6の試験法に従って、実施例1で調製した卵、牛乳及び小麦の標準抗原を定量した。これらの結果をグラフ用紙にプロットする時、ほぼ原点を通る良好な標準曲線の得られることが確認された。
【0040】
2 )同時再現性試験
上記の試験法に従い、標準卵抗原について検出レンジ内の5つの濃度で検体AからEを調製し、各5回ずつの同時再現性試験を行った。これらの結果は、表2に示した通り、CV値は5%以下で良好な同時再現性を示した。
【0041】
Figure 0004958369
【0042】
3 )日差再現性試験
上記の試験法に従い、標準牛乳抗原について検出レンジ内の5つの濃度で検体AからEを調製し、連続5日間の日差再現性試験を行った。これらの結果は、表3に示した通り、CV値は5%以下で良好な日差再現性を示した。
【0043】
Figure 0004958369
【0044】
これらの結果から、本検査法は食品及びその原材料中に含まれる複数の未変性及び変性した食物アレルゲンを迅速かつ安定的に検出できる系であることが確認された。なお、本検出方法は0.5ng/ml以上の食物アレルゲンまたは食物アレルゲンを含有する食品を検出することが出来た。
【0045】
実施例8(食物アレルギー患者は食物アレルゲンの未加熱物および加熱済み物に対するIgE抗体を保有している。)
卵アレルギーを例にして、食物アレルギー患者は未加熱の食物アレルゲンのみならず同加熱処理済み物に対してもIgE抗体を保有していることを確認した。
即ち、全卵液(非加熱卵抗原)をPBSに溶解し(1.0%、w/v)、その半量を120℃30分間加熱処理し(加熱卵抗原)、夫々の10倍希釈液100μlをELISAプレート(Nunc社製)に分注し、コーティングし、洗浄し、1%HAS加PBSでブロッキングし、洗浄し、未加熱卵抗原プレートと加熱卵抗原プレートを調製した。
一方、実施例4(1)に記載の患者プール血清(1000倍希釈)に非加熱卵抗原または加熱卵抗原を添加し(1、5、50、100、500と1000ng/ml)、37℃2時間反応させ、遠心分離上清を得て2種類の血清を調製した。以下、前者を非加熱卵抗原除去血清、後者を加熱卵抗原除去血清と呼ぶ。
そして、上記の非加熱卵抗原プレートまたは加熱卵抗原プレートに非加熱卵抗原除去血清または加熱卵抗原除去血清の夫々100μlを分注し、37℃2時間反応させ、PBSTで洗浄し、ビオチン標識ヤギ抗ヒトIgE-ε鎖抗体(2500倍希釈)100μlを分注し、37℃1時間反応させ、PBSTで洗浄し、アルカリフォスファターゼ標識アビジンを加え(37℃30分間)、発光基質を加え、発光の程度を測定した(ルミノメーターCT-9000D、ダイアヤトロン社製)。その結果を図2に示す。
図2が示すように、加熱卵抗原除去血清(図2の○印)は非加熱卵抗原と特異的に反応したが(図2左)、加熱卵抗原とは反応しなくなった(図2右)。一方、非加熱卵抗原除去血清(図2の●印)は加熱卵抗原と特異的に反応したが(図2右)、非加熱卵抗原とは反応しなくなった(図2左)。
これらの事から、食物アレルギー患者は非加熱の卵を特異的に認識するIgE抗体を保有していると同時に、加熱済みの卵を特異的に認識するIgE抗体を保有していることが証明された。
従って、食物アレルゲンの検出方法は、非加熱のアレルゲンのみならず、加熱済みアレルゲンの両方の検出が可能な方法でなければならないと言える。
【0046】
実施例9(加熱処理抗原を免疫して得た抗体によるELISA強度の増強)
実施例4に記載の抗アレルゲン分画抗体を用いて食物アレルゲンを測定する場合でも、同抗体と加熱処理済みの供試検体を反応させた時のELISA強度(Optical density、OD値)は、同抗体と未加熱の供試検体を反応させた時のそれよりも低いという問題点がある。これには、(1)加熱処理済み検体から抽出される蛋白質濃度が未加熱の検体から抽出される蛋白質濃度より低いこと;及び(2)検液中の蛋白質濃度を同一に調整しても、加熱処理済み検体と抗体との反応性は未加熱検体と抗体との反応性より低いことが関係していると思われる。そこで、加熱処理済み検体との反応性を増強した抗体の調製法を検討した。
実施例4(4)に記載の卵のアレルゲン分画を120℃30分間オートクレーブ加熱し、冷却し、4M尿素加PBSを加えてホモジナイズし、その遠心分離上清を取り、凍結乾燥し、微粉砕し、これを免疫源として、実施例3(1)と同様にウサギ抗体を調製し(以下、抗オートクレーブ加熱卵抗原抗体)、実施例6の記載に準じて、実施例8に記載の未加熱卵抗原プレートと加熱卵抗原プレートを反応させた。また、実施例4(4)に記載の抗アレルゲン分画抗体についても同様の操作を行った。
これらの測定結果を表4に示めす。表4に示す通り、オートクレーブ加熱した食物アレルゲンの抽出物を免疫源として得られた抗体を用いることによって、未加熱卵抗原と加熱卵抗原をほぼ同等のELISA強度で検出することが可能となり、上記の問題点を克服することができた。
【0047】
Figure 0004958369
【0048】
実施例10(食物アレルゲンおよび食物アレルギー誘発性食品の測定−1)
本発明の複合抗原を認識する抗体(実施例3に記載の抗体)を用いると共に実施例7の記載に準じて、食物アレルゲンを含む食品の検出の可否を調べた。また、実施例7の記載に準じて作製した標準曲線から、定量し、その定量指数(測定値/供試量x100)を比較した。卵黄、卵白、卵黄マヨネーズと全卵マヨネーズについて調べた結果を表5に示す。
表5に示すように、卵白に局在する物質を免疫原として得た単一抗原のみを認識する抗体の場合には、1)卵白を検出することは出来たが、卵黄を検出することはできなかった、また、2)標準曲線から求めた標準卵抗原量の定量値は、実際に供試した量の2倍から60倍超であった。
一方、本発明の複合抗原を認識する抗標準卵抗原抗体の場合には、3)卵黄および卵白の両方を検出することができた、また、4)標準曲線から求めた標準卵抗原量の測定値は、実際に供試した量とほぼ同様であった。
これらのことから、本発明の複合抗原を認識する抗標準卵抗原抗体は食物アレルギー誘発性食品である卵及びその加工食品中の卵成分の検出または定量に適用可能であることが分かった。
【0049】
Figure 0004958369
【0050】
実施例11(食物アレルゲンおよび食物アレルギー誘発性食品の測定−2)
実施例10と同様にして、牛乳ホエイ、カゼイン、ラクトフェリンとカゼイン加水分解ペプチドについて調べた結果を表6に示す。
表6に示すように、(1)本発明の複合抗原を認識する抗標準牛乳抗原抗体は食物アレルギー誘発性食品である牛乳及びその成分の検出または定量が可能であった;しかし(2) 牛乳のホエイ部分等に局在する物質を免疫原として得た単一抗原のみを認識する抗体を使用する場合には、定量できなかった。なお、表6において、△は検出されたが定量指数が5以下であったことを示す。
【0051】
Figure 0004958369

【図面の簡単な説明】
【図1】標準抗原と患者IgE抗体および標準抗原と本発明の抗標準抗原抗体の反応性を比較した図である。
【図2】患者血清中には未変性及び変性卵蛋白質に特異的なIgEの存在することを示す図である。

Claims (4)

  1. 下記の(1)〜(5)から選ばれた食物アレルゲンの混合物の未変性及び加熱変性物を動物に免疫して得られるポリクローナル抗体。
    (1)卵のオボアルブミン、オボムコイド、リゾチーム及びオボトランスフェリンを含むアレルゲンの混合物;
    (2)牛乳のカゼイン、β-ラクトグロブリン及びα-ラクトアルブミンを含むアレルゲンの混合物;
    (3)小麦のグリアジン及びα-アミラーゼインヒビターを含むアレルゲンの混合物;
    (4)ソバの132kDa、84kDa、27kDa及び11kDa成分を含むアレルゲンの混合物;
    (5)ピーナッツの107kDa、72kDa、35kDa及び28kDa成分を含むアレルゲンの混合物。
  2. 請求項1記載の抗体を用いることを特徴とする食物アレルゲンの検出方法。
  3. 請求項1記載の抗体を用いることを特徴とする食物アレルギー誘発性食品の検出方法。
  4. 食物アレルギー誘発性食品が、卵、牛乳、小麦、ソバ若しくはピーナッツ又はそれらを含有する食品である請求項3に記載の食物アレルギー誘発性食品の検出方法。
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