車輪支持部材は車体により支持されているので、車両の走行時には車体と共に運動する。そのため車体がピッチング運動すると、車輪支持部材も車体と共にピッチング運動する。車輪支持部材がピッチング運動すると、車輪支持部材は車輪に対し相対的に回転変位するため、車輪速度センサにより検出される車輪速度には車輪に対する車輪支持部材の相対回転変位に起因する誤差成分が畳重し、車輪速度を正確に検出することができない。
本発明は、車体のピッチング運動に起因する車輪速度の検出誤差の問題に鑑みてなされたものであり、本発明の主要な課題は、車体のピッチング運動に起因する車輪速度の誤差成分と車体のピッチ角速度との間には一定の関係があることに着目することにより、車輪の回転速度、路面に対する車輪の速度、車体のピッチ角速度のうちの二つの状態量を取得することにより残りの状態量を正確に推定することである。
〔課題を解決するための手段及び発明の効果〕
上述の主要な課題は、本発明によれば、請求項1の構成、即ち車輪の回転速度、路面に対する前記車輪の速度、車体のピッチ角速度のうちの二つの状態量を取得する第一及び第二の状態量取得手段と、前記第一及び第二の状態量取得手段により取得された二つの状態量に基づいて残りの状態量を推定する推定手段とを有する車輌の速度情報推定装置に於いて、前記第一の状態量取得手段は車輪の回転速度を検出し、前記第二の状態量取得手段は前記車体のピッチ角速度を検出し、前記推定手段は前記車体のピッチ角速度に基づいて車体のピッチングに起因する前記車輪の回転速度の変動量を演算し、前記車輪の回転速度及び前記車輪の回転速度の変動量に基づいて路面に対する前記車輪の速度を演算することを特徴とする車両の速度情報推定装置、又は請求項2の構成、即ち車輪の回転速度、路面に対する前記車輪の速度、車体のピッチ角速度のうちの二つの状態量を取得する第一及び第二の状態量取得手段と、前記第一及び第二の状態量取得手段により取得された二つの状態量に基づいて残りの状態量を推定する推定手段とを有する車輌の速度情報推定装置に於いて、前記第一の状態量取得手段は車輪の回転速度を検出し、前記第二の状態量取得手段は車両の回転駆動源の回転速度及び回転駆動トルクに基づいて駆動輪の回転速度を推定することにより路面に対する前記駆動輪の速度を推定し、前記推定手段は前記第一の状態量取得手段により検出された前記駆動輪の回転速度及び路面に対する前記駆動輪の速度に基づいて前記駆動輪の回転速度の変動量を演算し、前記駆動輪の回転速度の変動量に基づいて前記車体のピッチ角速度を演算することを特徴とする車両の速度情報推定装置によって達成される。
車輪に駆動スリップや制動スリップが生じていないとすれば、車体がピッチング運動していない場合には、車輪の回転速度に対応する車輪の周速度と路面に対する車輪の速度とが同一の値になるので、車輪の周速度と路面に対する車輪の速度とが相違している場合には、その差は車体のピッチング運動に起因する車輪の周速度の変動分である。また車体のピッチ角と車輪及び車輪支持部材の相対回転角度との間には一定の関係があるので、車体のピッチ角速度と車輪の回転速度の変動量との間にも一定の関係がある。従って車輪の回転速度、路面に対する車輪の速度、車体のピッチ角速度のうちの二つの状態量を取得すれば、それら二つの状態量に基づいて残りの状態量を推定することができる。
上記請求項1の構成によれば、それぞれ第一及び第二の状態量取得手段により車輪の回転速度及び車体のピッチ角速度が検出され、推定手段により車体のピッチ角速度に基づいて車体のピッチングに起因する車輪の回転速度の変動量が演算され、車輪の回転速度及び車輪の回転速度の変動量に基づいて路面に対する車輪の速度が演算されるので、車輪の回転速度及び車体のピッチ角速度を検出することにより、車体のピッチングに起因する車輪の回転速度の誤差成分を含まない値として路面に対する車輪の速度を確実に推定することができる。
また上記請求項2の構成によれば、第二の状態量取得手段により車両の回転駆動源の回転速度及び回転駆動トルクに基づいて駆動輪の回転速度を推定することにより路面に対する駆動輪の速度が推定され、第一の状態量取得手段により検出された駆動輪の回転速度及び路面に対する駆動輪の速度に基づいて駆動輪の回転速度の変動量が演算され、駆動輪の回転速度の変動量に基づいて車体のピッチ角速度が演算される。よって車体のピッチ角速度を推定することができると共に、例えば対地車速センサ等を要することなく路面に対する駆動輪の速度を推定することができる。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項2の構成に於いて、前記推定手段は前記車体のピッチ角速度に基づいて車体のピッチングに起因する他の車輪の回転速度の変動量を演算し、前記他の車輪の回転速度及び前記他の車輪の回転速度の変動量に基づいて路面に対する前記他の車輪の速度を演算するよう構成される(請求項3の構成)。
上記請求項3の構成によれば、車体のピッチ角速度に基づいて車体のピッチングに起因する他の車輪の回転速度の変動量が演算され、他の車輪の回転速度及び他の車輪の回転速度の変動量に基づいて路面に対する他の車輪の速度が演算されるので、路面に対する駆動輪の速度を推定することができると共に、例えば車体のピッチ角速度の検出を要することなく車体のピッチングに起因する車輪の回転速度の誤差成分を含まない値として路面に対する従動輪の速度を推定することができる。
〔課題解決手段の好ましい態様〕
本発明の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1の構成に於いて、第一の状態量取得手段は車輪の回転速度ωwを検出し、第二の状態量取得手段は車体のピッチ角速度ωpを検出し、推定手段は車体のピッチ角速度ωpに基づいて車体のピッチングに起因する車輪の回転速度の変動量Δωwを演算し、車輪の回転速度ωw及び車輪の回転速度の変動量Δωwに基づいて下記の式Aに従って車体のピッチングに起因する車輪の回転速度の誤差成分が排除された車輪の回転速度ωwaを演算するよう構成される(好ましい態様1)。
ωwa=ωw−Δωw ……(A)
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様1の構成に於いて、車輪の半径をRとして、推定手段は車輪の回転速度ωwaに基づき下記の式Bに従って路面に対する車輪の速度Vwaを演算するよう構成される(好ましい態様2)。
Vwa=R・ωwa ……(B)
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1の構成に於いて、第一の状態量取得手段は車輪の周速度Vwを検出し、第二の状態量取得手段は車体のピッチ角速度ωpを検出し、推定手段は車体のピッチ角速度ωpに基づいて車体のピッチングに起因する車輪の周速度の変動量ΔVwを演算し、車輪の周速度Vw及び車輪の周速度の変動量ΔVwに基づいて下記の式Cに従って車体のピッチングに起因する車輪の回転速度の誤差成分が排除された車輪の周速度Vwaを演算するよう構成される(好ましい態様3)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項2の構成に於いて、第一の状態量取得手段は駆動輪の回転速度ωwdを検出し、第二の状態量取得手段はエンジンの回転速度及び駆動トルクに基づいて駆動輪の推定回転速度ωedを演算し、駆動輪の回転速度ωwd及び駆動輪の推定回転速度ωedに基づいて下記の式Dに従って車体のピッチングに起因する駆動輪の回転速度の変動量Δωwdを演算するよう構成される(好ましい態様4)。
Δωwd=ωwd−ωed ……(D)
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項2の構成に於いて、第一の状態量取得手段は駆動輪の回転速度ωwdを検出し、第二の状態量取得手段はエンジンの回転速度及び駆動トルクに基づいて駆動輪の推定回転速度ωeを演算し、駆動輪の回転速度ωwd及び駆動輪の推定回転速度ωedに基づいて上記式Dに従って車体のピッチングに起因する駆動輪の回転速度の変動量Δωwdを演算し、駆動輪の回転速度の変動量Δωwdに基づき車体のピッチ角速度ωpを推定し、車体のピッチ角速度ωpに基づき従動輪の回転速度の変動量Δωwnを演算し、従動輪の回転速度ωwnを検出し、従動輪の回転速度ωwn及び従動輪の回転速度の変動量Δωwnに基づき下記の式Eに従って車体のピッチングに起因する車輪の回転速度の誤差成分が排除された従動輪の回転速度ωwnaを演算するよう構成される(好ましい態様5)。
ωwna=ωwn−Δωwn ……(E)
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様5の構成に於いて、従動輪の半径をRとして、推定手段は従動輪の回転速度ωwnaに基づき下記の式Fに従って路面に対する従動輪の速度Vwnaを演算するよう構成される(好ましい態様6)。
Vwna=R・ωwna ……(F)
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項2の構成に於いて、第一の状態量取得手段は駆動輪の周速度Vwdを検出し、第二の状態量取得手段はエンジンの回転速度及び駆動トルクに基づいて駆動輪の推定周速度Vedを演算し、駆動輪の周速度Vwd及び駆動輪の推定周速度Vedに基づいて下記の式Gに従って車体のピッチングに起因する駆動輪の回転速度の変動量ΔVwdを演算し、駆動輪の回転速度の変動量ΔVwdに基づき車体のピッチ角速度ωpを推定し、車体のピッチ角速度ωpに基づき従動輪の周速度の変動量ΔVwnを演算し、従動輪の周速度Vwnを検出し、従動輪の周速度Vwn及び従動輪の周速度の変動量ΔVwnに基づき下記の式Hに従って車体のピッチングに起因する車輪の周速度の誤差成分が排除された従動輪の周速度Vwnaを演算するよう構成される(好ましい態様7)。
ΔVwd=Vwd−Ved ……(G)
Vwna=Vwn−ΔVwn ……(H)
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を好ましい幾つかの実施例について詳細に説明する。
[第一の実施例]
図1は路面に対する各車輪の速度を推定するよう構成された本発明による車両の速度情報推定装置の第一の実施例を示す概略構成図、図2は車輪速度センサの搭載状況を示すスケルトン図である。
図1に於いて、速度情報推定装置10は車両12に搭載されている。車両12は四輪の自動車であり、右前輪14FRと、左前輪14FLと、右後輪14RRと、左後輪14RLとを有している。また車両12は制動力を発生する制動装置16を備えており、制動装置16は油圧回路48と、右前輪用ホイールシリンダ18FRと、左前輪用ホイールシリンダ18FLと、右後輪用ホイールシリンダ18RRと、左後輪用ホイールシリンダ18RLと、ブレーキペダル20と、マスタシリンダ22とを含んでいる。
操舵輪である右前輪14FR及び左前輪14FLは図には示されていないが運転者によるステアリングホイールの操舵操作に応答して駆動されるラック・アンド・ピニオン式のステアリング装置によりそれぞれ右タイロッド及び左タイロッドを介して操舵されるようになっている。
また速度情報推定装置10は電子制御装置24と、各車輪14FR〜14RLに対応して設けられそれぞれ車輪14FR〜14RLの回転速度(回転角速度)ωwfr〜ωwrlを検出する車輪速度センサ24FR〜24RLと、ピッチ角速度センサ26とを有している。ピッチ角速度センサ26は車両12の車体28に設けられ、車体28の車両後方へのピッチ角速度を正として図1には示されていない車両12のピッチ軸周りの車体28のピッチ角速度ωpを検出する。尚ピッチ角速度センサ26は車体28のピッチ角速度ωpを検出することができる限り、ジャイロスコープ式のピッチ角速度センサの如く当技術分野に於いて公知の任意の構成のものであってよい。
また図2に示されている如く、車輪速度センサ24FRは右前輪14FRに固定され右前輪14FRと共に回転するセンサロータ32と、右前輪14FRを回転可能に支持する車輪支持部材30に取り付けられた検出器34とよりなる磁気式の車輪速度センサである。センサロータ32の外周には周方向に沿って均等に隔置された複数の凸部が設けられ、検出器34はその電磁コイルにより発生される磁界がセンサロータ32の回転に伴って変化される際の磁界の変化を検出することによって右前輪14FRの回転速度Vwfrを検出する。
尚他の車輪速度センサ24FL、24RR、24RLも車輪速度センサ24FRと同様に構成され、同様に車輪14FR、14RR、14RLの回転速度ωwfl、ωwrr、ωwrlを検出するようになっているが、車輪速度センサ24FR〜24RLはそれぞれ対応する車輪の回転速度ωwi(i=fr、fl、rr、rl)を検出し得る限り、例えば光学式の車輪速度センサの如く当技術分野に於いて公知の任意の構成のものであってよい。
また図2に於いて、符号36及び38はそれぞれアッパアーム及びロアアームを示しており、アッパアーム36は内端にてゴムブッシュ40により車体28に枢支され、外端にてボールジョイント42により車輪支持部材30に枢着されている。ロアアーム38は内端にてゴムブッシュ44により車体28に枢支され、外端にてボールジョイント46により車輪支持部材30に枢着されている。車輪を懸架するサスペンションも図示のダブルウイッシュボーン式のサスペンションに限定されるものではなく、例えばマクファーソンストラット式のサスペンションの如く当技術分野に於いて公知の任意の構成のものであってよい。
各車輪14FR〜14RLの制動力は制動装置16の油圧回路48によりホイールシリンダ18FL、18FR、18RL、18RR内の圧力、即ち制動圧が制御されることによって制御されるようになっている。図1には示されていないが、油圧回路48はオイルリザーバ、オイルポンプ、種々の弁装置等を含み、各ホイールシリンダの制動圧は通常時には運転者によるブレーキペダル20の踏み込み操作に応じて駆動されるマスタシリンダ22により制御され、また必要に応じて後に詳細に説明する如く電子制御装置24の制動力制御部により個別に制御される。
尚電子制御装置24の制動力制御部は何れかの車輪についてアンチスキッド制御(ABS制御)の実行条件が成立しているときには、当該車輪の制動圧を増減することにより制動スリップ量を所定の範囲内にするためのアンチスキッド制御を実行する。また電子制御装置24の制動力制御部は何れかの駆動輪についてトラクション制御(TRC制御)の実行条件が成立しているときには、当該駆動輪の制動圧を増減することにより駆動スリップ量を所定の範囲内にするためのトラクション制御を実行する。
また電子制御装置24の制動力制御部により実行される制動力の制御自体は本発明の要旨をなすものではなく、当技術分野に於いて公知の任意の要領にて行われてよく、例えば車両の走行運動状態がスピン状態又はドリフトアウト状態の如く不安定であるときにはこれらを抑制すべく当技術分野に於いて公知の任意の要領にて各車輪の制動圧を増減して各車輪の制動力を制御する走行運動制御を行うようになっていてもよい。
図1には詳細に示されていないが、電子制御装置24はCPUとROMとRAMと入出力ポート装置とを有し、これらが双方向性のコモンバスにより互いに接続されたマイクロコンピュータを含む一般的な構成のものであってよい。
図3に示されている如く、車体28がピッチングし、路面50に対し前後方向に傾斜すると、車体28はアッパアーム36及びロアアーム38と共に車輪14に対し相対的に回転し、車輪支持部材30も検出器34と共に車輪14及びセンサロータ32に対し相対的に回転する。車体28がピッチングすると、車輪14はバウンド又はリバウンドし、車輪14の回転軸線54はアッパアーム36及びロアアーム38等のリンク機構により決定される軌跡56に沿って上下変位すると共に車両前後方向へ変位するので、車輪14は車体28に対し相対的に回転し、これにより車輪支持部材30及び検出器34は車輪14及びセンサロータ32に対し相対的に回転する。
車体28のピッチ角をφpとし、車体28のピッチングに起因する車輪支持部材30及び検出器34と車輪14及びセンサロータ32との間の相対回転角度をΔθwとすると、相対回転角度Δθwは車体28のピッチ角φpの関数F(φp)として車両毎に一義的に定まり、下記の式1により表される。
Δθw=F(φp) ……(1)
上記式を時間にて微分すると、左辺は相対回転角速度Δωwとなり、これは車体28のピッチングに起因する車輪支持部材30及び検出器34と車輪14及びセンサロータ32との間の相対回転角速度、即ち車体28のピッチングに起因する車輪14の回転角速度ωwdの誤差成分であり、車体28のピッチ角速度をωp=d/dt(φp)とすると、下記の式2により表される。
Δωw=d/dt{F(φp)}
=G(ωp) ……(2)
従ってピッチ角速度センサ26により検出された車体28のピッチ角速度ωpに基づいて、下記の式3に従ってピッチングに起因する左前輪、右前輪、左後輪、右後輪の回転角速度ωwiの誤差成分Δωwi(i=fr、fl、rr、rl)を演算することができ、よって下記の式4に従って車輪速度センサ24FR〜24RLにより検出された車輪速度ωwiよりそれぞれ対応する誤差成分Δωwiを減算することにより、車体28のピッチングに起因する誤差成分が除去された各車輪の回転角速度ωwai(i=fr、fl、rr、rl)を演算することができる。
Δωwi=Gi(ωp) ……(3)
ωwai=ωwi−Δωwi ……(4)
従って電子制御装置24はピッチ角速度センサ26により検出された車体28のピッチ角速度ωpに基づいて車体28のピッチングに起因する誤差成分が除去された各車輪の回転角速度ωwaiを上記式3及び4に対応する下記の式5に従って演算する。
ωwai=ωwi−Gi(ωp) ……(5)
かくして図示の第一の実施例によれば、車輪速度センサ24FR〜24RLにより各車輪の回転速度ωwiを検出し、ピッチ角速度センサ26により車体28のピッチ角速度ωpを検出することにより、車体28のピッチングに起因する誤差成分が除去された各車輪の回転角速度ωwaiを確実に求めることができる。
[第二の実施例]
この第二の実施例は上記第一の実施例の修正例である。左前輪、右前輪、左後輪、右後輪の半径をそれぞれRi(i=fr、fl、rr、rl)とすると、左前輪、右前輪、左後輪、右後輪の周速度Vwi(i=fr、fl、rr、rl)は下記の式6により表され、ピッチングに起因する左前輪、右前輪、左後輪、右後輪の周速度Vwiの誤差成分ΔVwi(i=fr、fl、rr、rl)は下記の式7により表される。
Vwi=Ri・ωwi ……(6) ΔVwi=Ri・Δωwi
=Ri・Gi(ωp)……(7)
よって上記式5に対応する下記の式8に従って車輪速度センサ24FR〜24RLにより検出された周速度Vwiよりそれぞれ対応する誤差成分ΔVwiを減算することにより、車体28のピッチングに起因する誤差成分が除去された各車輪の周速度Vwai(i=fr、fl、rr、rl)を演算することができる。
Vwai=Ri・ωwai
=Vwi−Ri・Gi(ωp) ……(8)
この第二の実施例に於いては、車輪速度センサ24FR〜24RLはそれぞれ対応する車輪の周速度Vwi(i=fr、fl、rr、rl)を検出する。また電子制御装置24はピッチ角速度センサ26により検出された車体28のピッチ角速度ωpに基づいて車体28のピッチングに起因する誤差成分が除去された各車輪の周速度Vwaiを上記式8に従って演算する。
かくして図示の第二の実施例によれば、上述の第一の実施例の場合と同様、車輪速度センサ24FR〜24RLにより各車輪の周速度Vwiを検出し、ピッチ角速度センサ26により車体28のピッチ角速度ωpを検出することにより、車体28のピッチングに起因する誤差成分が除去された各車輪の周速度Vwaiを確実に求めることができる。
尚上述の第一及び第二の実施例によれば、車両の駆動形式は不問であるので、第一及び第二の実施例の速度情報推定装置は後輪駆動車、前輪駆動車、四輪駆動車の何れに適用されてもよい。
また車体28のピッチ角速度ωpは例えば車両の前後加速度や各車輪位置の車高に基づいて推定されてもよいが、上述の第一及び第二の実施例によれば、車体28のピッチ角速度ωpはピッチ角速度センサ26により検出されるので、車両の前後加速度に基づいて推定される場合に於ける積分演算に伴う推定の遅れや誤差を排除することができ、また各車輪位置の車高に基づいて推定される場合に於ける路面の凹凸に起因する推定誤差を確実に排除することができる。
[第三の実施例]
図4は後輪駆動車に適用され車体のピッチ角速度を推定すると共に路面に対する左右前輪の回転速度を推定するよう構成された本発明による車両の速度情報推定装置の第三の実施例を示す概略構成図である。尚図4に於いて図1に示された部材と同一の部材には図1に於いて付された符号と同一の符号が付されている。
図4に於いて、60は車両の回転駆動源としてのエンジンを示しており、エンジン60の駆動力はトルクコンバータ62及び歯車式変速機構64を含むオートマチックトランスミッション66を介してプロペラシャフト68へ伝達される。プロペラシャフト68の駆動力はディファレンシャル70により左後輪車軸72L及び右後輪車軸72Rへ伝達され、これにより駆動輪である左右の後輪14RL及び14RRが回転駆動される。一方左右の前輪14FL及び14FRは従動輪であると共に操舵輪であり、図4には示されていないが、運転者によるステアリングホイールの転舵に応答して駆動されるラック・アンド・ピニオン式のパワーステアリング装置によりタイロッドを介して操舵される。
エンジン60の駆動力はエンジン制御装置76により制御され、オートマチックトランスミッション66の変速段、即ち歯車式変速機構64の変速比はトランスミッション制御装置78により制御される。エンジン制御装置76はエンジン回転数Ne及び駆動トルクTeを示す信号を電子制御装置24へ出力し、トランスミッション制御装置78は歯車式変速機構64の変速比Rtgを示す信号を電子制御装置24へ出力する。
この第三の実施例に於いても、左右の前輪14FL、14FR及び左右の後輪14RL、14RRの制動力は制動装置16の油圧回路48により対応するホイールシリンダ18FL、18FR、18RL、18RRの制動圧が制御されることによって制御される。図4には示されていないが、油圧回路48はオイルリザーバ、オイルポンプ、種々の弁装置等を含んでいる。
次に図5に示されたフローチャートを参照して第三の実施例に於いて電子制御装置24により達成される車体28のピッチ角速度ωpの推定及び車体28のピッチングに起因する誤差成分が除去された左右前輪の回転角速度ωwafl、ωwafrの演算ルーチンについて説明する。尚図5に示されたフローチャートによる演算制御は図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、所定の時間毎に繰返し実行される。
まずステップ10に於いては車輪速度センサ24FR〜24RLにより検出された車輪速度ωwiを示す信号等の読み込みが行われ、ステップ20に於いてはエンジン回転数Ne及び駆動トルクTeを入力とし左右後輪14RR、14RLの回転速度ωewrr、ωewrl及び駆動トルクTwrr、Twrlを出力とする図6に示された車両モデルを利用して、エンジン制御装置76より入力されるエンジン回転数Ne、駆動トルクTe及びトランスミッション制御装置78より入力される歯車式変速機構64の変速比Rtgに基づき左右後輪14RR、14RLの回転速度ωewrr、ωewrlが演算される。尚図6に於いて、74はプロペラシャフト68等の弾性を示しており、その弾性係数Kは既知の値である
ステップ30に於いては左右後輪14RR、14RLの回転速度ωwrr、ωwrlの平均値が後輪の回転速度ωwrとして演算されると共に、左右後輪14RR、14RLの回転速度ωewrr、ωewrlの平均値が車体28のピッチングに起因する誤差成分を含まない後輪の回転速度ωewrとして演算され、ステップ40に於いては下記の式9に従って後輪の回転速度ωwrの変動量Δωwrが演算される。
Δωwr=ωwr−ωewr ……(9)
ステップ50に於いては後輪の回転速度ωwrの変動量Δωwrに基づき上記式3に対応する下記の式10に従って車体28のピッチ角速度ωpが演算される。
ωp=G−1(Δωwr) ……(10)
ステップ60に於いてはピッチ角速度ωpに基づき左右前輪14FR、14FLの回転速度の誤差成分Δωwfr、Δωwflが演算され、ステップ70に於いてはそれぞれ下記の式11及び12に従って左右前輪14FR、14FLの回転速度ωwfr、ωwflよりそれぞれ対応する回転速度の誤差成分Δωwfr、Δωwflを減算することにより、車体28のピッチングに起因する誤差成分が除去された左右前輪の回転角速度ωwafr、ωwaflが演算される。
ωwafr=ωwfr−Δωwfr ……(11)
ωwafl=ωwfl−Δωwfl ……(12)
かくして図示の第三の実施例によれば、エンジン回転数Ne及び駆動トルクTeに基づき駆動輪である左右後輪14RR、14RLの回転速度ωewrr、ωewrlが演算され、左右後輪14RR、14RLの回転速度ωewrr、ωewrlの平均値ωewrと回転速度ωwrr、ωwrlの平均値ωwrとの偏差として後輪の回転速度ωwrの変動量Δωwrが演算され、変動量Δωwrに基づき車体28のピッチ角速度ωpが演算されるので、エンジン回転数Ne、駆動トルクTe、左右後輪14RR、14RLの回転速度ωwrr、ωwrlを取得することにより、車体28のピッチ角速度ωpを確実に求めることができる。
また上述の第三の実施例によれば、車体28のピッチ角速度ωpに基づき従動輪である左右前輪14FR、14FLの回転速度の誤差成分Δωwfr、Δωwflが演算され、左右前輪14FR、14FLの回転速度ωwfr、ωwflよりそれぞれ対応する回転速度の誤差成分Δωwfr、Δωwflを減算することにより、車体28のピッチングに起因する誤差成分が除去された左右前輪の回転角速度ωwafr、ωwaflが演算されるので、車体28のピッチ角速度ωpの検出を要することなく従動輪である左右前輪14FR、14FLの回転角速度ωwafr、ωwaflを演算することができる。
特に図示の第三の実施例によれば、左右後輪14RR、14RLの回転速度ωewrr、ωewrlの平均値ωewrと回転速度ωwrr、ωwrlの平均値ωwrとの偏差として後輪の回転速度ωwrの変動量Δωwrが演算されるので、例えば後輪の回転速度ωwrの変動量Δωwrが回転速度ωewrrと回転速度ωwrrとの偏差又は回転速度ωewrlと回転速度ωwrlとの偏差として演算される場合に比して、後輪の回転速度ωwrの変動量Δωwrを正確に演算することができる。
尚上述の第三の実施例に於いては、左右後輪14RR、14RLの回転速度ωewrr、ωewrlの平均値ωewrと回転速度ωwrr、ωwrlの平均値ωwrとの偏差として後輪の回転速度ωwrの変動量Δωwrが演算されるようになっているが、後輪の回転速度ωwrの変動量Δωwrは回転速度ωewrrと回転速度ωwrrとの偏差又は回転速度ωewrlと回転速度ωwrlとの偏差として演算されてもよく、またこれらの場合には前輪と同様の要領にてそれぞれ左後輪、右後輪についても車体28のピッチングに起因する誤差成分が除去された回転角速度ωwarl、ωwarrが演算されてもよい。
[第四の実施例]
この第四の実施例は上記第三の実施例の修正例であり、この第四の実施例に於いては、第二の実施例の場合と同様、車輪速度センサ24FR〜24RLはそれぞれ対応する車輪の周速度Vwi(i=fr、fl、rr、rl)を検出する。また電子制御装置24は図7に示されたフローチャートに従って車体28のピッチ角速度ωp及び車体28のピッチングに起因する誤差成分が除去された左右前輪の周速度Vwafr、Vwaflを演算する。
まずステップ110に於いては車輪速度センサ24FR〜24RLにより検出された各車輪の周速度Vwiを示す信号等の読み込みが行われ、ステップ120に於いてはエンジン回転数Ne及び駆動トルクTeを入力とし左右後輪14RR、14RLの周速度Vewrr、Vewrl及び駆動トルクTwrr、Twrlを出力とする図6に示された車両モデルと同様の車両モデルを利用して、エンジン制御装置76より入力されるエンジン回転数Ne、駆動トルクTe及びトランスミッション制御装置78より入力される歯車式変速機構64の変速比Rtgに基づき左右後輪14RR、14RLの周速度Vewrr、Vewrlが演算される。
ステップ130に於いては左右後輪14RR、14RLの周速度Vwrr、Vwrlの平均値が後輪の周速度Vwrとして演算されると共に、左右後輪14RR、14RLの周速度Vewrr、Vewrlの平均値が車体28のピッチングに起因する誤差成分を含まない後輪の周速度Vewrとして演算され、ステップ140に於いては下記の式13に従って後輪の周速度Vwrの変動量ΔVwrが演算される。
ΔVwr=Vwr−Vewr ……(13)
ステップ150に於いては後輪の周速度Vwrの変動量ΔVwrに基づき上記式7に対応する下記の式14に従って車体28のピッチ角速度ωpが演算される。
ωp=G−1(ΔVwr) ……(14)
ステップ160に於いてはピッチ角速度ωpに基づき左右前輪14FR、14FLの周速度の誤差成分ΔVwfr、ΔVwflが演算され、ステップ170に於いてはそれぞれ下記の式15及び16に従って左右前輪14FR、14FLの周速度Vwfr、Vwflよりそれぞれ対応する周速度の誤差成分ΔVwfr、ΔVwflを減算することにより、車体28のピッチングに起因する誤差成分が除去された左右前輪の周速度Vwafr、Vwaflが演算される。
Vwafr=Vwfr−ΔVwfr ……(15)
Vwafl=Vwfl−ΔVwfl ……(16)
かくして図示の第四の実施例によれば、上述の第三の実施例の場合と同様、エンジン回転数Ne、駆動トルクTe、左右後輪14RR、14RLの周速度Vwrr、Vwrlを取得することにより、車体28のピッチ角速度ωpを確実に求めることができ、また車体28のピッチ角速度ωpの検出を要することなく従動輪である左右前輪14FR、14FLの回転角速度ωwafr、ωwaflを演算することができる。
特に図示の第四の実施例によれば、左右後輪14RR、14RLの周速度Vewrr、Vewrlの平均値Vewrと周速度Vwrr、Vwrlの平均値Vwrとの偏差として後輪の周速度Vwrの変動量ΔVwrが演算されるので、例えば後輪の周速度Vwrの変動量ΔVwrが周速度Vewrrと周速度Vwrrとの偏差又は周速度Vewrlと周速度Vwrlとの偏差として演算される場合に比して、後輪の周速度Vwrの変動量ΔVwrを正確に演算することができる。
尚上述の第四の実施例に於いては、左右後輪14RR、14RLの周速度Vewrr、Vewrlの平均値Vewrと回周速度Vwrr、Vwrlの平均値Vwrとの偏差として後輪の周速度Vwrの変動量ΔVwrが演算されるようになっているが、後輪の周速度Vwrの変動量ΔVwrは周速度Vewrrと周速度Vwrrとの偏差又は周速度Vewrlと周速度Vwrlとの偏差として演算されてもよく、またこれらの場合には前輪と同様の要領にてそれぞれ左後輪、右後輪についても車体28のピッチングに起因する誤差成分が除去された周速度Vwarl、Vwarrが演算されてもよい。
尚上述の第一及び第三の実施例に於いて、左前輪、右前輪、左後輪、右後輪の半径をそれぞれRi(i=fr、fl、rr、rl)として、Riと回転角速度ωwaiとの積により、車体28のピッチングに起因する誤差成分が除去された各車輪の周速度Vwi(i=fr、fl、rr、rl)が演算されてもよい。
また上述の第三及び第四の実施例に於いては、車両は後輪駆動車であるが、車両は前輪駆動車であってもよく、その場合には後輪の周速度Vwrの変動量ΔVwrと同様の要領にて駆動輪である左右前輪について周速度Vwfの変動量ΔVwfが演算され、後輪の周速度Vwrの変動量ΔVwrに基づき上記式12と同様の式に従って車体28のピッチ角速度ωpが演算され、ピッチ角速度ωpに基づき左右後輪14RR、14RLの周速度の誤差成分ΔVwrr、ΔVwrlが演算され、右後輪14RR、14RLの周速度Vwrr、Vwrlよりそれぞれ対応する周速度の誤差成分ΔVwrr、ΔVwrlを減算することにより、車体28のピッチングに起因する誤差成分が除去された右後輪の周速度Vwarr、Vwarlが演算される。
また上述の各実施例に於いて演算される各車輪の回転角速度ωwaiや周速度Vwaiは、例えば上述のアンチスキッド制御、トラクション制御、走行運動制御の如く車両の任意の制御に使用されてよい。
以上に於いては本発明を特定の実施例について詳細に説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施例が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
例えば上述の各実施例に於いては、車輪の回転速度又は周速度が常時推定されるようになっているが、車輪に駆動スリップや制動スリップが生じているときには、各実施例に於いて推定される車輪の回転速度又は周速度にはスリップに起因する誤差が含まれるので、例えば路面の摩擦係数が低い場合や車両の急激な加減速時には各実施例による車輪の回転速度又は周速度の推定が行われないよう修正されてもよい。
また上述の第三及び第四の実施例に於いては、車両の回転駆動源はエンジンであるが、駆動輪の回転速度又は周速度を推定し得る限り、例えば電動機やハイブリッドシステムの如く当技術分野に於いて公知の任意の回転駆動源であってよい。
更に上述の各実施例に於いて、車輪の回転速度より周速度を演算するために使用される車輪の半径Riは例えばタイヤ空気圧が検出される車両の場合には、タイヤ空気圧に応じて可変設定されてもよい。
10…速度情報推定装置、12…車両、16…制動装置、24…電子制御装置、24FR〜24RL…車輪速度センサ、26…ピッチ角速度センサ、28…車体、60…エンジン、66…オートマチックトランスミッション、76…エンジン制御装置、78…トランスミッション制御装置