近年、糖尿病患者に代表される生活習慣病患者数は年々増加し続け、本邦で糖尿病の罹患人口は平成15年の厚労省の発表では740万人、その予備群の患者数を含めると2千万人に近づいていると予想されている。糖尿病患者やその他の生活習慣病患者を救うと共に、これを予防し、QOL(Quality of Life)を向上させることが大きな課題となっている。
さて、生活習慣病には様々なものがあるが、例えば高血糖の結果発症する血管障害は毛細血管が多数存在する眼底などに顕著に現れる。その他の部位でも同様の箇所がある。最近この眼底異常の早期診断法として、特徴的な因子情報の1つである酸素飽和度の可視化が試みられている。これは、異なる波長の光源で眼底を照らしたとき、血中ヘモグロビンの分光特性が酸素との結合状態によって異なることを利用するものである。例えば、図11は眼底反射スペクトルの酸素飽和度依存性を示す。これによると545nm、570nm、584nmでは高低の酸素飽和度が一致するが、545nm近傍、例えば539nmや、548nm、577nmでは反射率が異なり、この近傍ではオキシヘモグロビン(酸素血)とデオキシヘモグロビン(脱酸素血)の吸収度の差が大きく、血液の酸素吸収の状態を選択的に検出できることが分かる。さらに、この特性により酸素飽和度の状態を可視化できることが分かる。
なお、生活習慣病、例えば糖尿病には、上述した血管障害の目安となる血中酸素飽和度のほかに、血糖値、タンパク質量、脂質量等がある。これらが糖尿病の指標とされる理由を説明すると、糖尿病は慢性的な高血糖状態になり、グルコース(ブドウ糖)の血中濃度が異常に高い状態が継続するようになる。この状態が血管障害を招き合併症を起して視力を喪失させ、腎臓の機能を低下させる。このとき、体内では代謝異常が生じタンパク質、脂肪などが変動するなどの生化学的異常により機能的、組織学的異常を惹起する。例えば血液中には赤血球タンパク、アルブミン、血漿タンパクなどのタンパク質や、中性脂肪(トリグリセライド)、コレステロール、リン脂質、遊離脂肪酸などのいろいろな脂質成分脂質成分が存在している。従って、糖尿患者の血液を検査すると病気が進行前の状態と比較してタンパク質量、脂質量に変化がみられる。また、網膜症の原因因子として重要な増殖因子(VEGFなど)の増加や、後期糖化反応生成物(AGE)の産生亢進による急速な血液中への蓄積が、眼底検査の直接の対象である網膜症、その他の末梢神経障害、その他の循環障害を引き起こすし、細胞に含まれるAGE受容体(RAGE)もAGEとの作用で細胞を老化させる。
従って、上述した血中酸素飽和度、血糖値、タンパク質量、脂質量、細胞の老化などの因子情報に変化があれば、いち早く糖尿病と早期に診断することができ、予防策を講じることが可能になる。高血圧や高脂血症などのその他の生活習慣病でも、それぞれ同様である。これらの因子情報は、血管に光を照射したとき、それぞれに個別の波長で特有の光吸収を示す。このため注目する生活習慣病ごとにそれぞれ個別の波長の光を照射し、照射した部位の光吸収度を検出すれば、この結果に基づいてこの生活習病の進行状況を早期診断することが可能になる。そして、これを臨床現場で利用できれば、従来のカメラのように単なる眼底血管の形状の観察だけではなく、得られた因子情報を使って質の高い診断を行うことができる。そして、これは今後予想される高齢化社会のQOL向上に大きな貢献をするものである。
さて、従来のこうした眼底の可視画像を得る方法としては、光源として白色光源を用い、眼底からの反射、散乱光をフィルターで波長ごとに撮影して分光画像を取得していた。また、同様に白色光源を照射し、光学素子を機械的に掃引して更にこれを高速フーリエ変換し、各波長のスペクトルを得ることも研究されている。なお、光コヒーレンストモグラフィー(OCT)は眼底の深さ方向断面を2mm〜3mmにわたって撮像ができるが、現状では形状や構造のみの可視化に限られており、生活習慣病の因子情報を検出し、その血管を流れる血液の機能イメージを得ることはできない。
従来の分光測定装置の一例として、白色コヒーレントパルス電磁波を光源とする分光測定装置が提案されている(特許文献1)。特許文献1で開示されている分光測定装置は、白色コヒーレントパルス電磁波を試料透過(あるいは反射)光の光源として用いると共に、時系列信号をフーリエ変換して分光スペクトルを取得し、これを基盤として時間分解及び/又は空間分解を行い、分光イメージングするものである。誘電体物質を構成要素とする電子素子の製造プロセスで静的誘電率をリアルタイムに自動測定するためのものである。しかし、この分光測定装置の検査対象は、血管情報分析装置が対象とする患者の血管とは検出対象がまったく異なり、装置が大掛かりで医療には不向きなものである。
これに対し、異なる波長の光で血液を照明することで網膜の血液の酸素化を判断する網膜機能カメラが提案されている(特許文献2)。特許文献2の網膜機能カメラは、第一波長帯の第一光源と、第二波長帯の第二光源とを有し、酸素化血による第一光源帯域の吸収度は第二波長帯の吸収度より大きくかつ脱酸素化血による第一光源帯域の吸収度は第二波長帯の吸収度より小さく、第一光源および第二光源からの光を眼の網膜の一部上に選択的に合焦させる手段と、それぞれの波長帯域で照明された網膜の一部のそれぞれのイメージを作るためのイメージング手段と、このイメージング手段により得られたイメージを精査するための処理手段とを備える。
第一光源帯域と第二光源帯域は480nm〜1000nmの間から選択され、酸素血と脱酸素血の吸収度の差が大きい帯域が選択される。例えば、第一光源帯域が実質的に488nm、第二光源帯域が600nm、630nm、635nm、700nmの1つ、第一光源帯域が実質的に635nm、第二光源帯域が830nm、910nmの1つ、などである。450nm〜500nmの青色光と600nm〜805nmの近赤外光とを対比させ、機能イメージを得ることができる。
しかし、特許文献2の網膜機能カメラはスキャンする必要があり、酸素吸収度を測定するカメラでありながら、酸素吸収度を効果的に検出する545nm付近の緑色光についてはその旨の示唆がない。もとより、酸素吸収度以外の生活習慣病の因子を検出できるものではない。さらに、特許文献2の機能カメラでは、測定中眼球が光に反応して動いたり瞳孔が縮小したり、拍動が影響したりして、検査結果にノイズが混入する可能性が高く、このカメラで検出精度を向上させるのは本質的に難しい。
ところで、ノイズ除去に関し、本発明者らの1人は、既に画像の中から線情報だけを高速に取り出すことができる線集中度画像フィルターを提案している(特許文献3参照)。この線集中度画像フィルターは、画像上の複数の測定点に対して、各測定点を通る探索線の両翼に計測用の一定形状の近傍領域を用意するとともに、該近傍領域内に含まれる複数の近傍点で画像の輝度勾配ベクトルの向きを計測し、近傍点のそれぞれで輝度勾配ベクトルの向きと探索線の方向の差を評価する集中度を計算し、近傍領域内のすべての集中度から測定点に対する線集中度を計算し、該線集中度が極大になったとき探索線に沿って線情報がある旨の判定を行うもので、さらに、輝度勾配ベクトルの向きと探索線の方向をそれぞれ離散化するとともに、予め集中度を基に各測定点で共用できる基礎加算値を計算しておき、輝度勾配ベクトルの向きを計測したときに、探索線の方向ごとに基礎加算値の候補の中から1つを選んで近傍領域内で加算することにより各測定点の線集中度を計算し、該線集中度が極大となったとき探索線の方向に沿って線情報が存在すると推定するものである。
また、本発明者らの他の1人は、他の研究者と共に緑色を含む狭帯域発振が可能な光ファイバーレーザーを提案している(例えば、非特許文献1、2参照)。
特開2003−279412号公報
特開2005−500870号公報
特開2005−284697号公報
岡田他、IEEE J. Photonics Technol. Lett、17(4)、P.759−P.761、2005年
岡田他、J. Luminescence、106、P.187−P.194、2004年
本発明の第1の形態は、第1及び第2の単波長の光をそれぞれ照射する第1及び第2の光源と、光源から順に照射された光を集光し出射端から順次検査部位へ照射する光結合部と、出射端から検査部位に照射されて反射された反射光を受光して撮像する撮像部と、第1及び第2の光で撮像した画像情報の強度比を測定して血管情報分析を行う制御部とを備え、制御部には、画像情報の輝度勾配ベクトルの線集中度によって血管の方向と幅を検出し、検出した方向と幅を有する血管領域に対して血管方向に沿って長い観測領域を設定して異方性ノイズ除去処理を行う画像フィルター手段が設けられていることを特徴とする血管情報分析装置である。この構成によって、検査部位に対して異なる単波長の光を短時間に順次照射するため、検査部位の動き等のノイズを除去することができ、取得した画像情報を基に精緻な血管情報分析を行うことができる。また、光の出射位置と検査部位を一定の位置に配置して、異なった単波長の光ごとに検査部位に合焦点した画像情報を取得するが、線集中度によって画像のコントラスト差と機器等のノイズ混入に影響されずに画像処理で血管を抽出して血管の方向と幅を検出し、血管方向に沿って長い観測領域を設定して、血管固有のノイズを異方性ノイズ除去処理によって除去するので、血管情報に含まれる精度の高い生活習慣病の因子情報を得ることができる。そして、異なった単波長の光を照射し、各光ごとに画像情報を得て、そのまま画像処理によって分析するため、機械的な走査も分光測定する必要はなく、安価でコンパクト、きわめて簡素な構成で、実用的な非侵襲型の血管情報分析装置にすることができる。
本発明の第2の形態は、第1の形態において、第1及び第2の単波長の光が1つの組とされ、1つの組の強度比に基づいて生活習慣病の指標となる一因子の血管情報分析を行うことを特徴とする血管情報分析装置である。この構成によって、生活習慣病の一因子の血管情報分析が1組の単波長の光の照射で簡単に行える。
本発明の第3の形態は、第2の形態において、第1及び第2の単波長の光が緑色光であって、血管の酸素飽和度の血管情報分析を行うことを特徴とする血管情報分析装置である。この構成によって、血管の酸素飽和度の血管情報分析が1組の緑色光の照射で簡単に行える。
本発明の第4の形態は、第1〜第3のいずれかの形態において、第1及び第2の光源のほかに、第3の単波長の光を照射できる少なくとも1個以上の第3の光源を備えて、第1,第2及び第3の光で撮像を行うことを特徴とする血管情報分析装置である。この構成によって、基準となる単波長と測定のための単波長の2波長で測定した場合よりさらに精度の高い血管情報分析が行える。
本発明の第5の形態は、第4のいずれかの形態において、単波長の光の組が複数組設けられ、第1、第2及び第3の光源がそれぞれ複数組の単波長の光を照射して、生活習慣病の指標となる複数因子の血管情報分析を行うことを特徴とする血管情報分析装置である。この構成によって、生活習慣病の複数因子の血管情報分析が同時に複数組の単波長の光の照射で容易に行える。
本発明の第6の形態は、第1〜第5のいずれかの形態において、制御部が、撮像部の出力と同期して光源を駆動し、ビデオレートで単波長の光を順に照射させることを特徴とする血管情報分析装置である。この構成によって、検査部位の動き等のノイズを除去することができ、取得した反射波の画像情報を基に精緻な血管情報分析を行うことができる。
本発明の第7の形態は、第1〜第3のいずれかの形態において、第1及び第2の単波長の光をそれぞれ照射する第1及び第2の光源と、前記光源から順に照射された光を集光し出射端から順次検査部位へ照射する光結合部と、に代えて、光を照射する光源と、前記光源から照射された光の波長を変調して出射端から単波長の光を順次検査部位へ照射する光変調部を設けたことを特徴とする血管情報分析装置である。この構成によって、光源の数を減らしてコンパクトな構成にすることができる。
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態1における血管情報分析装置及び生活習慣病因子情報検査方法について説明をする。実施の形態1における血管情報分析装置は、眼底の毛細血管の血液情報を検査するものを対象としているが、唇やその他の検査部位であっても、血管に光を照射することにより血液のもつ生活習慣病の因子情報を測定可能な部位であれば検査することができる。
図1は本発明の実施の形態1における血管情報分析装置のブロック構成図、図2は照射する単波長の光の発振スペクトルの一例を示す図、図3は眼底酸素分布を測定した血管情報分析像の写真、図4は545nmの緑色レーザー光を唇に照射したときに得られる画像の写真であり、図5は図4の写真の画像情報から血管部分だけの画像情報を抽出した画像の写真、図6(a)は毛細血管が存在する部位に仮定する狭幅固定の近傍領域の概念図、図6(b)は狭幅固定の近傍領域における輝度勾配ベクトルの分布の実際を説明する図、図7は輝度勾配ベクトルの狭幅固定の近傍領域における理想的な分布を説明する図、図8(a)は空間軸での等方的な小さな観測領域の説明図、図8(b)は空間軸での等方的な大きな観測領域の説明図、図8(c)は空間軸での異方性の観測領域の説明図、図9は本発明の実施の形態1における画像処理の第1のフローチャート、図10は本発明の実施の形態1における画像処理の第2のフローチャートである。
さて、この血管情報分析装置は、眼球に互いに異なる複数の単波長からなる1組、またはこれが複数組となった光をビデオレート、すなわち人間が1コマとして認識できない映像の1フレーム(1/30秒)程度、例えば数mm秒〜数十mm秒のパルス幅で順次照射する。生活習慣病の一因子ごとに異なる数波長で測定する。これを複数組繰り返し、複数因子を検査する。複数の因子間で共通する情報は因子間で共有することができる。眼底で反射された反射波はCCDなどによって撮像され、波長ごとに画像情報を取得する。この画像情報を基に、血液機能イメージ(血管情報像)を生成するものである。従って、従来のように白色光を照射して、反射波を分光して複数の画像情報を得るものではなく、単波長の光で各光ごとに画像情報を得るものである。なお、照射する光の発振スペクトルの一例を図2に示す。本明細書において単波長の光とは、図2に示すような狭帯域の波長の光のことである。
図1は実施の形態1における血管情報分析装置のブロック図を示す。図1において、1は眼球である。2ijは異なる単波長の光を照射する光源であり、検査する生活習慣病の因子が1つの場合は1組設けられ、検査する因子が複数の場合は複数組設けられる。添字の「i」は複数の因子を検査するときの因子(i=1,・・,m)を示し、「j」は検査する各因子で使う光の波長(j=2,・・,n)を示す。従って、光源2ijは全体でm×(n−1)個設けられ、m×(n−1)個の波長の光が照射される。光源2ijからの光は眼球1に向けて照射される。
ここで、一因子に対して2個以上の波長の光源を設けている理由は、酸素飽和度で言えば、図10に示すように545nm、570nm、584nmで高低の酸素飽和度が一致し、例えば539nmや、548nm、577nmにおいてはオキシヘモグロビンとデオキシヘモグロビンの光吸収の差が大きく、これらの箇所で反射率が異なり、比較すると酸素飽和度を測定できるからである。すなわち、酸素飽和度に依存しない高低酸素飽和度が一致した1点を比較のための基準点とし、反射率の異なる酸素飽和度に依存した他の測定点の、少なくとも2点が必要であり、さらに検出精度を上げるためにはより多くの測定点を設けるのが好適であるためである。この場合、各測定点間で重み付けして酸素飽和度が算出されることになる。なお、タンパク質や脂質などについても同様であるが、その検査物質、例えば血漿タンパクなのか、中性脂肪なのか、等が特定されたとき、それぞれ照射する光の波長が定まる。
光源2ijの波長の範囲はどのような範囲でも生活習慣病の因子を測定可能な光を照射できるものであればよい。ただ、紫外線領域はできるだけ避けた方がよい。半導体レーザー、固体レーザー、光ファイバーレーザーなどのレーザーや、LEDなどの光源が、制御し易く好適である。上述したように酸素飽和度を検査するための波長は緑色であるが、緑色2波長、緑色3波長、それ以上の数の緑色光を照射すればよい。なお、レーザー光を照射するに当っては、米国規格ANZIや日本工業規格JIS、その他の規格に照らして、少なくとも2mW/mm2以下のレベルを守る必要があり、紫外線域の波長はとくに注意すべきである。
図1に示す3は複数の光源2ijから照射されるパルスをパルス列(本発明の光信号列)として順次照射する光結合部である。各光源2ijから照射されたパルスは、ここで集光されて光結合部3に結合された出射端からパルス列として照射される。この各パルス光の出射位置と眼底等の検査部位を一定とし、固定的な配置とすることが実施の形態1における血管情報分析装置の画像のずれをなくす点で重要である。
光結合部3としては、例えば複数の光ファイバーを1本の光ファイバーに光を集合させる光結合器を利用すればよい。なお、光ファイバーが細く、ケーブル状に束ねたとき各パルス光の出射位置が一定位置と看做せるようであれば、単純に各光源の光を個別の光ファイバーで導き、端を束ねて出射端とするのでもよい。また、光結合部3を各光源2ijから照射された光を所定のタイミングで能動的に切り換えてパルス列として出力する光スイッチでもよい。この場合後述の制御部5によって制御される。
なお、異なる単波長の光を照射する光源を複数設けて、複数の単波長の光を照射するのではなく、光源から照射された光を電気的光変調器等の光変調部で変調して複数の単波長の光として出射端から照射するのでもよい。また、一部の単波長の光をそれぞれの光源から、残りの単波長の光は変調器によって変調することにより、1光源から出射することもできる。この構成によって、光源の数を減らしてコンパクトな構成にすることができる。
図1において、4は眼底等からの反射光を受光するCCDやCMOS等の撮像部、4aは撮像制御部、4bは反射光の受光で撮像部4に蓄積された電荷が出力される画像信号処理部、5は制御部、6は記憶部である。
光源2ijの照射で撮像部4の各画素が反射光の光を受光すると、撮像部4から蓄積された電荷が画像信号として画像信号処理部4bに出力され、ここで撮像ノイズを除去され、増幅されて、A/D変換されてから画像情報として制御部5に転送される。
制御部5はハードウェア的には血管情報分析装置全体のシステムを制御する1個または複数個のプロセッサーであり、記憶部6に格納されているプログラムを読み出して所定の制御機能を実行する機能実行手段として構成される。
記憶部6はハードウェア的にはROMとRAM、さらに画像情報を格納する不揮発メモリ等から構成され、撮像部4が得た画像情報は一旦記憶部6の検査情報メモリ部6aに保存される。各生活環境病の各因子ごとに、所定の波長の発光で検出された基準となる画像情報と、測定用の波長で検出された測定画像情報が1組として格納される。
次に、図1に示す制御部5には次の機能実現手段が搭載されている。7は検査情報メモリ部6aに保存された画像情報を基に血管の血液状態情報を算出するデータ演算手段、8は画像情報から血管部分を抽出すると共に取得した血管機能イメージ(血管情報像)に色付けをしたりその他の画像処理を行う画像処理手段である。そして、8aは、画像情報のノイズを取り除く画像フィルター手段である。なお、本発明ではビデオレートで画像情報を取得しており、光の照射を受けて瞳孔が収縮する時間の数十分の1の短時間に撮像を終えるため、眼の動きが原因のノイズが混入する可能性は低い。
さて、データ演算手段7は波長ごとの血管の血液状態情報、すなわち生活習慣病の因子情報を算出する。酸化飽和度で言えば、酸素飽和度に依存しない545nmの基準となる血管の画像情報と、酸素飽和度に依存した近傍の539nmで検出された血管の測定画像情報の、少なくとも2つの画像情報の強度(輝度)を求め、両者の輝度の強度比を計算することにより、血液の酸素飽和度を求めることができる。図3は眼底酸素分布を測定した血管情報分析像の一例である。なお、この図3の血管情報分析像は人間のものではなく、猿に対して行ったものである。
画像処理手段8はデータ演算手段7が演算を行う前に、血管の画像情報から画像フィルター手段8aによって血管の抽出とノイズ除去を行う。この詳細については後述する。各波長で取得した画像情報から血管部分だけを抽出し、この血管部分の画像のノイズを背景の情報が影響しないように補正する。図4は545nmの緑色レーザー光を唇に照射したときに得られる画像であり、図5はこの画像から血管部分だけの画像情報を抽出して補正を行った画像である。図5のような画像を基準となる画像情報と測定画像情報とでそれぞれ作り、血管部分の対応位置で画像の強度比を求め、強度比の2次元分布を取得し、これを段階別で色分けなどしたものが図3のような血管情報分析像となる。
図3に示す画像の中央の丸く明るいグレーの領域が、眼底の毛細血管が多数存在するところであり、この領域の中で白くみえているところが酸素の分布が比較的多いところである。中央の白い部分の中で黒っぽく表示されているところが最も酸素濃度が高いところである。これに対し、グレーの丸い領域の外部の暗い部分は各光源2ijからの光量が足らず、照度が低い部分である。しかし、実施の形態1における血管情報分析装置においては、この中央の情報で十分な情報量が得られる。
次にデータ演算手段7は、このようにして得られた画像情報を基に、画像強度から血管部分の強度比を計算し、強度比分布の情報を生成する。画像処理手段8はこれに基づいて血管情報分析像を生成する。この血管情報分析像、さらに原画像等は制御部5によって後述する表示装置10に表示させることができる。また、このとき取得された血管情報分析像のデータや画像情報は、1因子ごとに検査情報メモリ部6aに格納される。
なお、基準となる画像情報と測定画像情報をそれぞれ1つずつ測定するほかに、第2の波長、例えば548nmで撮影した測定画像情報などがあるときは、この第2の波長548nmで撮影した測定画像情報と基準となる画像情報とから得られた第2の強度比を計算するのがよい。さらに第3、第4の波長があれば第3、第4の強度比を計算し、これらを第1の強度比との間で重みづけした強度比を算出して、強度比分布とする。画像処理手段8はこれに基づいて血管情報分析像を生成する。従って、第2、第3の波長で測定して全体として強度比を算出すれば、第1の波長だけで測定した場合よりさらに精度の高い血管情報分析像となる。
続いて、図1に戻って血管情報分析装置の表示機能について説明する。9は表示制御手段、10は表示制御手段9からの出力で血管情報分析像、原画、あるいは演算によって得られた酸素飽和度等の数値データを表示する表示装置である。制御部5は表示制御手段9によって検査情報メモリ部6aの血管情報分析像、画像情報等のRGB信号を表示装置10に出力させる。表示装置10では、このRGB信号に従って血管情報分析像、原画像等を表示する。
また、血管情報分析装置の光源制御機能は制御部5が行う。図1において、11は制御部5に設けられたタイマ等の計時手段である。少なくともmm秒をカウントできる。制御部5は、画像信号処理部4bに撮像部4から画像信号を出力するのに同期して次の光源2ijの駆動部(図示しない)を順に動作させるが、計時手段11によってカウントされた所定の時間遅延させたタイミングで次の光源2ijを動作させることもできる。これにより、各光源2ijのパルスは光結合部3によってパルス列とされ、眼底からの反射光は撮像部4で受光される。
このように実施の形態1における血管情報分析装置は、眼球に異なる波長の1組または複数組の光をビデオレートで順次照射し、この光を極短時間のパルスとすることによって眼球の動き等のノイズを除き、この反射波の画像情報を基に血管の血液状態情報を測定する。従って、従来のように白色光を照射し、反射波を分光して複数の画像情報を取得して分析するものではなく、異なった単波長の光ごとにそのまま画像情報を得て、画像処理によって血液状態の情報を測定するものである。このため、安価でコンパクト、きわめて簡素な構成で、実用的な非侵襲型の血管情報分析装置にすることができる。また、実施の形態1における血管情報分析装置は、検査対象が血管であることを利用して、この特性を活かして画像処理によって精度の高い情報を得るものである。
そこで、実施の形態1における血管情報分析装置の画像フィルター手段8aについて詳細に説明する。実施の形態1における血管情報分析装置では、瞬間的に光を照射して眼底等のスポットライト的な画像を取得し、これによって血管情報を抽出する。このときスポットライト的な画像であるため、画像に大きなコントラストの差が生じることが避けられない。通常の画像処理では、コントラストの影響を取り除くために前処理が必要で、演算が複雑で時間がかかり、処理結果はノイズが多く、血管情報を抽出することは難しい。
このため実施の形態1では、得られた画像を線集中ベクトル場(Line-convergence vector field)として捉え、線状領域のモデルを使ってコントラスト、線の幅等の影響を受けずに血管情報を検出する。このとき輝度の1次微分ベクトル(以下、輝度勾配ベクトル)の強度を無視し、ベクトルの方向分布のみに着目する。ベクトルの方向だけに注目すると、血管が理想的な線状凸領域の場合、尾根線は輝度の最大値をもつ。この状態で輝度勾配ベクトルはこの尾根線と直交する向きを持ち、この尾根線の両側で対向して分布し、尾根線に向って揃って線集中する。このような性質を利用して血管情報(向きと幅)を抽出し、不要なノイズを除去するものである。なお、このような輝度勾配ベクトルが集中する尾根線をベクトル集中線という。図6(a)は毛細血管が存在する部位に仮定する狭幅固定の近傍領域の概念図、図6(b)は狭幅固定の近傍領域における輝度勾配ベクトルの分布の実際を説明する図である。図7は輝度勾配ベクトルの狭幅固定の近傍領域における理想的な分布を説明する図である。図6(b)、図7においてVはベクトル集中線、r1、r2は狭幅固定の矩形の近傍領域を示し、φはベクトル集中線V(尾根線)の方向、Wは後述する線集中度の計算で線分(血管)と判断された幅である。これらは本発明者が詳細に特許文献3で開示したとおりである。
この方法では画像から血管情報を抽出するとき、画像中に出現した線状凸領域(血管)のベクトル集中線V(尾根線)を検出する。具体的には、処理対象の血管画像に対して仮定の注目点Pを次々と移動し、それぞれの注目点Pで狭幅固定の近傍領域r1、r2を想定して、線集中度CNが最大となる探索線(仮定のベクトル集中線)を求める。なお、線集中度CNはベクトルの集中を評価できる所定の範囲で単減少する余弦関数等の関数を利用して評価する評価値である。余弦関数の場合線集中度CNは−1〜+1の値をもつ。この線集中度CNが最大となる探索線が尾根線であるベクトル集中線になる。尾根線が抽出できれば、画像から線分(血管)が抽出できたことになる。線集中度CNがノイズ耐性値、例えば0.5以上の部分が線分であると定義すればこの部分が血管部分と判断され、この線分の幅を血管の幅と判断できる。
線集中度がノイズ耐性値より大きい値だけを線情報と判断し、それより低い場合を線とは看做さず除去するので、線分を残し画像を鮮明にすることができる。ベクトルの向く方向で線集中度CNを計算するのでコントラストの影響は受けにくく、狭幅固定の近傍領域r1、r2による線集中度CNは非常に狭い小さな領域だけであるため、ノイズの影響を受けず、尾根線だけをシャープに抽出することができる。実施の形態1のように、単波長の光をごく短時間照射するような線集中度CNでは、10倍以上のコントラスト差を持つ場合でも、異なる方向で交叉する線をそれぞれ個別に検出することが可能で、実画像が入り組んだ複雑な構造であっても安定した線の方向と広がりの検出が可能になる。
さて、実施の形態1における血管情報分析装置の画像フィルター手段8aは、このような狭幅固定の近傍領域r1、r2による線集中度CNによって血管の方向と幅を検出した後に、さらに血管部分で血管特有のノイズ除去を行う。ところで微細な構造を高速に測定するとき、機器から混入するノイズ(外乱)の時間的、空間的発生確率は一般的に正規分布に従う。従って、時間軸、空間軸における平滑化処理によりこの除去が可能である。
しかし、ごく短時間で時間的変化するような場合には、時間軸によるノイズの推定と除去に必要な十分な測定時間を確保できない。加えて、測定対象が毛細血管などのように非常に細長い形状をしている場合、図8(a)、図8(b)に示すとおり、一般的な空間軸での等方的な観測では適当な観測領域を確保できない。すなわち、このような場合の測定においては、図8(a)に示すような観測領域Aを使うのでは領域が小さすぎてノイズ除去能力が低下してしまうし、図8(b)に示すような観測領域を使うのでも、観測領域Aが大きすぎて背景の画像の影響で画像の劣化が大きくなってしまう。
そこで、図8(c)のように、対象領域の形状に応じて対象領域を決定する異方性ノイズ除去処理が有効となる。しかし、実画像においてはコントラストに多様性がある上、線の交叉などの影響により構造が複雑になり、従来の画像フィルターでは正確に対象領域の形状を検出することは難しい。
しかし、実施の形態1における画像フィルター手段8aは、上述したように狭幅固定の近傍領域r1、r2による線集中度CNによって、線分(血管)の方向と幅の情報を有している。そこで、線集中度の算出によって得られた血管の方向と幅情報を基に、異方性ノイズ除去処理に必要な十分な大きさの観測領域Aを設定し、背景の影響による劣化を避けつつ、十分なノイズ除去能力をもつ異方性フィルターを構築できる。しかも、血管に沿って血液の流れは一様性を保っているので、この異方性フィルターは血管の特徴を最も反映した画像フィルターとなりえるものである。この観測領域Aは線分(血管)の幅W内に収まる図8(d)のような血管に沿って長い矩形領域か、図8(e)のような楕円形領域が好適であり、この観測領域内では処理をガウラシアンフィルター、あるいはメディアンフィルターとしてノイズ除去するのがよい。なお、観測領域の幅wは血管の幅Wとの間にW=(4〜6)×w程度の関係があれば十分である。この異方性フィルターを用いることにより、血管のノイズは十分に除去できる。
以上説明した実施の形態1におけるノイズ処理の手順(異方性ノイズ除去方法)について図9、図10のフローチャートに基づいて説明する。なお、図9、図10の異方性ノイズ除去フィルターによるノイズ処理は実装方法が異なるだけであり、両者は実質的には変わらない。まず、図9の説明をすると、入力画像の中に注目点Pを仮定し(step1)、注目点Pで狭幅固定の近傍領域r1、r2を想定して、探索線を仮定し、線集中度CNが最大となる探索線(ベクトル集中線)を求める(step2)。注目点Pを次々と移動し、すべてのベクトル集中線Vが取得されたか否かを判断し(step3)、すべてのベクトル集中線Vが取得されていない場合はstep1へ戻り、全ベクトル集中線Vが取得されている場合は、画像上のすべての線分(血管)の方向と幅が取得されたことになる(step4)。
次いで、方向と幅とが分かった血管の中に注目点Pを仮定し、この注目点Pに対するノイズ除去のための観測領域Aを仮定する(step5)。この観測領域内A内の値によるノイズ除去処理を行って(step6)、出力画像の注目点Pの位置にデータを保存する。この後、すべての画素(注目点P)で次々と観測領域Aを仮定してノイズ除去処理を繰り返し、ノイズ除去が終了したか否かがチェックされ、終了していなければstep5に戻って繰り返し、終了していればノイズ除去処理は終了する。なお、血管以外の領域についても一般のノイズ処理を行うのがよい。また、血管の幅の両サイドでは観測領域Aの設定が難しく、ノイズ除去できない狭い領域が残る可能性があるが、観測領域の幅wを小さくするなどこれは更なるノイズ除去の今後の課題である。なお、step6のノイズ除去処理に関して、メディアンフィルターやモフォロジカルフィルターなど、ノイズ評価値が最小となるような探索を行う再帰的な処理もある。
続いて、図10に示すラスタースキャンに準じた第2の実装方法によるノイズ処理を説明する。図10において、まず注目点Pの位置を初期化する(step11)。次に、入力画像の注目点P上の線集中度を計測し、ベクトル集中線と集中ベクトル場の情報を取得する(step12)。
次に、線分(血管)の存在と方向と幅を取得し(step13)、注目点Pの近傍領域である観測領域Aを決定する(step14)。そして、入力画像の観測領域Aの情報を使って注目点Pのノイズを除去し、出力画像の注目点Pの位置に保存する(step15)。さらに次の画素に注目点Pを移動する(step16)。ここで、すべての画素について計算したか否かを判定し(step17)、すべての画素について計算が終了していなければstep12へ戻り、終了していれば終了する。
なお、既述したように実施の形態1の画像フィルターは、細長い線状構造物であれば、込み入った複雑な構造でも、画像情報の輝度ベクトルの線集中度によって線の方向と幅を検出し、検出した線状領域に対して異方性ノイズ除去処理を行うことができるものである。それ故、血管情報分析装置だけでなく、細長い線状構造物なら一般的に高精度に分析が可能となる。血管を分析したときはきわめて効果的に血管固有のノイズを除去することができる。
このように、実施の形態1における血管情報分析装置によれば、眼球に異なる単波長の1組または複数組の光をビデオレートで順次照射するので、眼球の動き等のノイズを排除することができ、この反射波の画像情報を基に血液情報を取得することができる。異なった単波長の光を照射し、各光ごとに画像情報を得て、そのまま画像処理して分析するため、機械的な走査も分光測定する必要はなく、安価でコンパクト、きわめて簡素な構成で、実用的な非侵襲型の血管情報分析装置にすることができる。また、この生活習慣病因子情報検査方法によれば、生活習慣病の1以上の因子情報を簡単にまた同時に検査することができる。
さらに、実施の形態1における血管情報分析装置は、輝度勾配ベクトルの線集中度を使った画像処理で画像のコントラスト差に影響されずに血管を抽出することができ、検査対象が血管であることを利用して、この特性を活かした画像フィルターによって血管情報に含まれる精度の高い生活習慣病の因子情報を得ることができる。