近年、記録媒体の光ディスクは、映像データ、音声データ及びコンピュータデータなどのデータを記録再生する手段として広く用いられている。例えば、DVD(Digital Versatile Disc)、ブルーレイディスク(Blu-ray Disc)(登録商標)の規格には、ディスク片側から読み出すことができる、片面に2つの記録層を有する2層ディスクが、再生用、記録用ディスクとして実用化されている。
2層ディスクでは、再生用光ビームの焦点を各層へ移動させるだけで浅い記録層、深い記録層のいずれの記録データもディスク片側から読み出すことができる。光ビームが浅い記録層を透過して深い記録層の電気信号を読み取れるように浅い記録層を半透明膜とし、その膜厚や材料が選択される。深い記録層は反射膜が用いられる。浅い記録層と深い記録層の間にはこれらを一定の厚さで分離するため、光の波長での透過率が高い光透過性のスペーサ層が設けられる。
一方、ブルーレイディスクよりさらに大容量なデータを記録再生できる次世代光ディスクが要求されており、そのために記録層の数を更に増やし多層化された次世代多層光ディスクが提案されている。かかる多層記録においては、従来の2層ディスクと同様に、各層の記録膜厚や材料を最適化することで実現しようという試みのほか、途中の記録層による吸収、散乱で光ビームが減衰することを防止するため、2光子吸収などの非線形光学効果を利用して、ビームスポット以外での不要な吸収及び散乱を低減する試みなどが提案されている。
多層記録においては、光ビーム光軸と記録層の法線との傾きいわゆるチルトによる収差特にコマ収差が問題となる。チルトによるコマ収差は、光透過層の厚さに比例するので多層記録により光ディスクの深い記録層にまで記録再生を行うと光透過層の厚さが厚くなり、チルトによるコマ収差の影響が大きくなるためである。コマ収差は集光スポットをぼかして記録再生の信頼性を低下させるので、次世代の多層光ディスクにおいては、コマ収差補正が極めて重要となる。
一般的に、光ディスク装置における光ピックアップ(以下、単にPUと記す)は光源からの光ビームを光ディスクに対して照射する対物レンズを含む光学系と、対物レンズを介して光ディスクから戻る光を光電変換して電気信号を出力する光検出器と、を備えている。かかるPUでは一般的に、次の3種類のコマ収差が存在する。
(1) 対物レンズを含む光学系の光学部品の加工誤差や組み付け誤差などによって発生するコマ収差で光学系単体のコマ収差(以下、単にPUコマ収差とも記す)。
(2) 光軸(主に対物レンズの光軸)に対して斜め方向から光線が入射した際に発生するコマ収差(以下、単に軸外コマ収差とも記す)。
(3) 光軸(主に対物レンズの光軸)に対して光ディスク基材(又は複数の記録層の積層)の法線が傾いていることで生じるコマ収差(以下、光ビームが目的の記録層に至るまでに透過する透過層にかかわるコマ収差なので、単に透過層コマ収差とも記す)。
光学部品の加工誤差や組み付け誤差をゼロにすることは困難なので、通常、工場で記録再生装置を組み立てる際、(1)のPUコマ収差は、(2)の軸外コマ収差や(3)の透過層コマ収差で相殺する。具体的な調整方法としては、例えば特許文献1や特許文献2がある。
特許文献1では、擬似光ディスクの情報記録面にレーザ光を集光させ、その集光スポットの形状を顕微鏡で直接観察することで、コマ収差が小さくなるようにアクチュエータの取り付け角度を調整する手法が開示されている。
特許文献2では、CD又はDVD等の複数種類の情報記録媒体を記録再生する光ディスク装置に対して、それぞれの情報記録面に複数のレーザ光を集光させ、その再生信号(エラー率)を用いて、コマ収差が小さくなるようにアクチュエータおよびPU全体の取り付け角度を調整する手法が開示されている。
いずれの従来例でも、透過層を透過させて情報記録面にレーザ光を集光させた状態(情報記録面にフォーカスサーボをかけた状態)で、光ディスクを含めた光学系全体のトータルコマ収差量((1)〜(3)のコマ収差の合計)を最小にするようにコマ収差調整手段を最適化している。
従来から、工場出荷時のコマ収差調整は、PUボディ全体を傾けることで、PUコマ収差を透過層コマ収差と相殺するか、対物レンズを傾けることで、PUコマ収差を軸外および透過層コマ収差と相殺するか、アクチュエータを傾けることで、PUコマ収差を軸外および透過層コマ収差と相殺するかの、いずれの相殺方法で行われている。すなわち、記録再生状態においてトータルコマ収差が最小になるように、記録層にビームを集光させた状態でコマ収差量(に関係する信号又は目視観察)をモニタしながらコマ収差調整を行う。この場合、少なくとも透過層コマ収差を使ってPUコマ収差を相殺していることになるため、光ディスク透過層の厚さが固定されている必要がある。なぜなら、透過層コマ収差は光ディスク透過層の厚さに比例するため、光ディスク透過層の厚さが異なると透過層コマ収差が変化し、PUコマ収差と相殺できなくなってしまうからである。
なお、透過層コマ収差の収差量は光ディスク透過層の厚みに比例し、近似的に以下の式で求められる。
上式で、NAは対物レンズの開口数、λは再生波長、nは光ディスク基材の屈折率、Tは光ディスク透過層厚み、θは光ディスク法線とPU光軸の成す角度である。
従来のコマ収差調整方法(特許文献1や特許文献2)で調整した光ディスク装置で、複数の記録層(すなわち複数の光ディスク透過層厚み)を有する多層光ディスクを記録もしくは再生しようとすると、調整時に仮定した特定の記録層以外の記録層では、PUコマ収差が相殺されないため、記録もしくは再生特性が悪くなってしまう。
例えば、NA=0.85、λ=405nm、n=1.6として、光学部品の加工誤差や組み付け誤差などによって発生するPUコマ収差が30mλあった場合について考える。多層光ディスクのディスク透過層厚みT=100μmの記録層に集光した状態でPUボディ角度を調整するとθ=0.34°傾けた時に透過層コマ収差が約30mλとなり、ちょうどPUコマ収差と相殺する。この状態で光ディスク透過層厚みTが異なる記録層に集光したときのトータルコマ収差(絶対値)は図1に示すグラフの特性が得られる。
これまでの経験から調整後のトータルコマ収差は約15mλ以下に抑えないと充分なシステムマージンが確保できないことが分かっているので、T≦50μm、もしくはT≧150μmとなる記録層については安定した記録再生を行えないことになる。一般的に、組み立て誤差によって生じるPUコマ収差をComapu(正の値)、調整後のトータルコマ収差の上限値をComalimit(正の値)、調整時の光ディスク透過層厚みをT0とすると、安定した記録再生が可能な光ディスク透過層厚みTの範囲を以下の式から求めることができる。
上式を整理すると、下式となるので、
安定して記録再生が可能な多層光ディスクの最手前層と最奥層の差は次式で与えられる。
ゆえに、最手前層と最奥層の差が上式の右辺以上ある場合は、従来のコマ収差調整方法では全ての記録層に対して安定した記録再生ができないことになる。図1の例では、ComaPU=30mλ、Comalimit=15mλ、T0=100μmとしたので、最手前層と最奥層の差が100μm以上ある多層ディスクは全ての記録層に対して安定した記録再生ができないことになる。
この点に鑑み、多層光ディスクを記録再生する光ディスク装置に対しては、各層にレーザ光を集光させた状態でトータルコマ収差が最小になるように、あらかじめ層毎に最適なコマ収差補正手段駆動量を求めておき、実際に記録再生するときに、層に応じてコマ収差補正手段の駆動量を切り替えるという提案が出されている(特許文献3、参照)。さらに、全ての層に対してコマ収差補正手段駆動量を最適化する替わりに、特定の記録層に対してのみ最適化したら、他の記録層に対しては係数をかけるだけにすることで、多層光ディスクを記録再生する時のコマ収差補正にかかる時間を短縮するという提案も出されている(特許文献4、参照)。
これら特許文献では、光ディスクの反りなどによって光ビーム光軸と記録層の法線が相対的に傾くことで生じる透過層コマ収差を補正するという目的で書かれているが、実際のPUでは必ず光学系の製造誤差によって生じるPUコマ収差が存在しているので、実質的にはPUコマ収差と透過層コマ収差の両方を含んだトータルコマ収差を対物レンズ角度やコマ収差補正液晶パネルの駆動電圧を変えることで補正することになる。
以下に本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
<記録再生装置>
図4は本実施形態の記録媒体及びその記録又は再生のための記録再生システムの概略構成を示す。
図4に示すように、記録再生装置100は、光ディスク7を回転自在に保持するクランパを有するスピンドルモータ8、光ディスク7へ記録再生用の光ビームを照射する対物レンズを含むピックアップ9、及びこれらを制御する制御装置101などを備えている。制御装置101は、スピンドルモータ8及びピックアップ9に設けられている各種センサから各種出力される出力データに基づいてスピンドルモータ8及びピックアップ9を制御するとともに、それらデータを処理する。制御装置101からの信号によって、ピックアップ9は回転制御されている光ディスク7に対して光ビームの位置を制御しつつ照射し記録マークを光ディスク7に記録したり記録されているデータを再生する。また、制御装置101は光ビームの戻り光から生成される信号をピックアップ9から得てこれを復号処理して出力する。
<記録媒体>
図5は実施形態である多層光ディスク7の概略斜視図である。
PUコマ収差と透過層コマ収差を相殺させる従来のコマ収差補正方法に対して、本発明は、PUコマ収差のみを補正する第1コマ収差補正ステップと、透過層コマ収差のみを補正する第2コマ収差補正ステップを順序だてて実行することで、PUコマ収差と透過層コマ収差を相殺させることなく、トータルコマ収差を補正することが特徴である。
そのため、PUコマ収差のみを補正する第1コマ収差補正ステップでは、透過層コマ収差が発生しないように、光ディスク表面近傍にフォーカシングした状態でコマ収差補正を行う必要がある。
記録再生装置を工場で組み立てる段階で、第1コマ収差補正ステップを行う場合は、例えば、擬似光ディスクの表面にレーザ光を集光させ、その集光スポットの形状を顕微鏡で直接観察することで、PUコマ収差が小さくなるように調整することが可能であるが、ユーザ側で第1コマ収差補正ステップを行う場合は、集光スポットの形状を顕微鏡で直接観察することは不可能であるため、光ディスクの表面にPUコマ収差量に応じて再生信号の大きさが変化するPUコマ収差補正用の周期パターンを形成しておく必要がある。
先にも述べたが、PUコマ収差には方向があるので、PUコマ収差は少なくともラジアルとタンジェンシャルの2方向について補正する必要がある。そこで、光ディスク表面にあらかじめ形成しておくPUコマ収差補正用の周期パターンは、対物レンズ17が読み取れるようにラジアル方向RAD及びタンジェンシャル方向TANに有ることが望ましい。
図5に示す光ディスク7においては、情報を記録または再生するための複数の記録層(図示せず、後述する)と、PUからの光ビームの照射方向から見て手前側の表面近傍に形成されかつPUコマ収差量を検出するための周期的なパターンが形成されたPUコマ収差補正用パターン領域CoRと、が含まれる。PUコマ収差補正用パターン領域CoRは、光ディスク中心孔周りのリードイン領域に至る前の表面に、順にラジアルPUコマ収差補正用パターン領域CoRAとタンジェンシャルPUコマ収差補正用パターン領域CoTAと同心円状に配置される。また、逆に、ラジアルPUコマ収差補正用パターン領域CoRAを外にタンジェンシャルPUコマ収差補正用パターン領域CoTAを内に配置してもよい。各領域の補正用のパターンとしては周期的なグルーブ構造やそれ以外にも、凹凸、位相変化、反射率変化およびその複合によって形成され得る。例えば、従来の記録型光ディスクのように相変化もしくは色素タイプの記録膜を光ディスク表面の所定エリアに付けておき、後からパターン形成用の専用ビームで記録することができる。パターンの位置については光ディスク内周部としたが、光ディスク外周部でも、間欠的にでも、記録層のデータを読み書きする時に邪魔にならなければ、光ディスクのどこの表面に設けても良い。
また、図6及び図7に示すように、対物レンズ17による読取スポットSPが読み取れるようにラジアルコマ収差補正用パターンCoRA及びタンジェンシャルコマ収差補正用パターンCoTAにはそれぞれタンジェンシャル方向TAN及びラジアル方向RADに平行に延びる周期的グルーブパターンGvが形成されている。タンジェンシャルコマ収差補正用パターンCoTAとしては、例えば、図8に示すような、ラジアル方向にピットPtが、タンジェンシャル方向より密度が高く(より短いピッチで)なるように、整列させることもできる。
このように、あらかじめ光ディスク表面にPUコマ収差量をモニタするためのパターン、PUコマ収差補正用パターン領域CoRが形成されているので、フォーカスをかけた状態で光検出器からの検出出力信号を用いて、ユーザサイドで、間接的にビームスポットを観察しつつPUコマ収差を補正する第1コマ収差補正ステップを実行することが可能になる。
PUコマ収差補正用パターン領域CoRが形成されるディスク表面について最適な状態を求めた。すなわち、「ディスク表面」「ディスク表面近傍」とはどの位の厚さ又は深さまで許容できるかを求めた。
理論的には、「ディスク表面」「ディスク表面近傍」とは、後に述べる実施例の中で用いている、対物レンズ角度調整やアクチュエータ角度調整手段などの第1コマ収差補正手段を用いてPUコマ収差を相殺する際、第1コマ収差補正手段の状態に依らず透過層コマ収差が充分小さいと見なせるような透過層厚さ又は深さである。
例えば、NA=0.85、λ=0.405nm、ディスク透過層の屈折率n=1.6の場合、コマ収差補正手段の最大補正角度を1度と見込んで、ディスク透過層厚みを変えながら透過層コマ収差量をプロットすると、図9に示すグラフのディスク透過層厚み−rms収差の特性が得られる。
通常、PUの光学部品の製造精度や組み付け精度によるPUコマ収差が少なくとも30mλ程度生じることを考えると、透過層コマ収差としては少なくとも10mλ以下に抑えたい。そのためにはディスク表面から10μm以下にする必要があることが分かる。
つまり、ディスク表面から10μm以下の範囲をディスク表面近傍として、そこにフォーカスをかけると、対物レンズやアクチュエータの角度によらず充分に透過層コマ収差は小さく抑えられるので、PUコマ収差のみを補正するように第1コマ収差補正手段を最適化することが可能となる。
さらに、PUコマ収差補正用パターン領域CoRの周期について最適な状態を求めた。
図10はコマ収差が有る時と無い時のMTFカーブを示すグラフである。グラフ横軸は空間周波数(=パターン周期の逆数)、グラフ縦軸は検出信号の振幅変調度である。両者の比(破線)をプロットすることで空間周波数が約0.75[NA/λ]の時に最もコマ収差の有無に敏感になることが分かる。例えば、図10から明らかなように、NA=0.85、λ=0.405μmとすると、約0.64μmの周期パターンがコマ収差検出用のパターンとしては望ましいと言える。よって、タンジェンシャル及びラジアルPUコマ収差補正用パターンは、対物レンズの開口数をNA、記録再生波長をλとしたとき、周期がλ/(0.75*NA)で、それぞれラジアル及びタンジェンシャル方向と平行な単一周期パターンであることが好ましい。
図11はNA=0.85、λ=0.405μmとして、周期0.64μmのグルーブ構造を再生ビームが横断した時のSUM信号振幅とプッシュプル信号振幅をプロットしたグラフである。この図から、一例として信号振幅が最大になるように第1コマ収差補正手段を最適化することでPUコマ収差量をゼロにできることが分かる。
図12は、情報を記録または再生するための複数の記録層を有する多層光ディスク7の部分拡大断面である。光ディスク7は、レーザ光の入射側から、表面保護層71、PUコマ収差補正用パターン領域CoR、記録層群50、保持基板3からなる。
表面保護層71は光透過性材料からなり、10μm以下の膜厚で、積層構造の平坦化や、記録層群50などの保護の機能を担う。
PUコマ収差補正用パターン領域CoRはPUコマ収差量を検出するための周期的な凹凸又は反射率変化バターンとして形成することができる。
記録層群50は、互いに平行に積層された第1記録層5a、第1分離層7a、第2記録層5b、第2分離層7b、・・・・第n記録層5n、及び第n分離層7nの光透過性の多層で、各々が情報を記録する複数の記録層5の積層である。ここで記録層は、再生専用ディスクであれば予め位相ピットなどが形成された層のことで、追記型もしくは書き換え型ディスクであれば、DVDやBDのような相変化膜や色素膜などのほか、先に述べた2光子吸収材料などが塗布されている層のことである。当該材料としては例えば特開2005−190609公報や特開2007−59025公報に記載のものが挙げられる。
対物レンズ17は第1コマ収差補正ステップの際にレーザ光(破線)をPUコマ収差補正用パターン領域CoRへ集光せしめ、記録再生の際にレーザ光(実線)を記録層群50の各々の記録層5の集光点に集光せしめ、3次元的にデータ(記録マークRM)を記録もしくは再生する。所定の開口数を有する対物レンズ17は集光ビームを照射しかつ記録層群50からの反射光を集める。集光ビームは記録層群50のいずれかの記録層から信号を書き込み又は読み出すために表面保護層71側から照射されて、情報の記録再生が行われる。
図12では、PUコマ収差補正用パターン領域CoRと記録層に情報を記録する領域を重ねて示しているが、実際には、PUコマ収差補正用パターン領域CoRは、記録層のデータを読み書きする時に邪魔にならないように、光ディスクの内周部や外周部など、特定の領域に設けることができる。
保持基板3は、例えば、ガラス、或いはポリカーボネート、アモルファスポリオレフィン、ポリイミド、PET、PEN、PESなどのプラスチック、紫外線硬化型アクリル樹脂などからなる。なお、光ディスク7の外形は上記のディスク形状以外に、カード形状などでもよい。
<コマ収差補正装置>
図13は、本発明の実施例である収差補正機能を有するコマ収差補正装置10の構成を示すブロック図である。
ピックアップ9に設けられたレーザ光源12は、例えば、波長λ=405nmのレーザ光を発する。レーザ光源12から射出された光ビームはコリメートレンズ13により平行光ビームにされる。当該光ビームは、ビームスプリッタ14、収差補正手段15を通って対物レンズ17で集光され、第2コマ収差補正ステップ時もしくは情報記録再生時は光ディスク7の情報記録面に焦点が結ばれ(実線)、コマ収差補正手段の初期化時は光ディスク7の表面に焦点が結ばれる(破線)。
対物レンズ17はアクチュエータ16で保持、駆動されている。
アクチュエータ16はフォーカシングドライバ29で駆動され、対物レンズを駆動して、光ディスクの表面や記録層群50の記録層の情報記録面に光ビームをフォーカスさせる。フォーカシングドライバ29はフォーカシングしている面の位置データを、後述の収差制御部27コマ収差制御初期化部30に供給する。
アクチュエータ16はピックアップ9のシャーシ9chに固定されているが、固定する際にピックアップ9のシャーシ9chに対してアクチュエータ16の傾きを変えられるような角度調整機構16Aを有している。具体的な角度調整機構としては、特許文献2:特開平10−31826公報に開示されたようないわゆるネジ留めなどによるものが考えられる。また、ピックアップ9は記録再生装置のシャーシ100chに固定されているが、固定する際にスピンドルモータ8ひいては光ディスクに対してピックアップ9の傾きを変えられるような角度調整機構9Aを有している。具体的な傾き調整機構としては、やはり特許文献2:特開平10−31826公報に開示されたようないわゆるネジ留めなどによるものが考えられる。
後述するが、工場で記録再生装置を組み立てる段階でコマ収差補正調整を行う場合は、この角度調整機構が収差補正手段15として機能する。
光ディスク7により反射された光ビームは対物レンズ17で集光され、収差補正手段15、ビームスプリッタ14、集光レンズ18を経て光検出器19で検出される。アクチュエータ16はトラッキングドライバ(図示せず)でも駆動されている。
さらに、アクチュエータ16はとしては例えば特許文献3:WO2003−075266公報の図4に示されているような3軸アクチュエータが用いられる。かかる3軸アクチュエータは、その機能の一部が収差補正手段15に含まれるもので、タンジェンシャル方向TANの直線に対称なコマ収差(ラジアル方向RAD)を補正するように、駆動電圧に応じて対物レンズ17をその光軸からラジアル方向において傾ける機能を有する。
光検出器19で検出された再生信号は信号処理回路21に送られる。信号処理回路21は、受信した再生信号から収差補正手段15を制御するために必要なデータを生成して球面収差検出回路23、コマ収差検出回路24に供給する。より具体的には、信号処理回路21は、プリグルーブあるいは読み取りデータ(RFデータ)のエンベロープ振幅などのデータを抽出し、球面収差検出回路23及びコマ収差検出回路24に供給する。
球面収差検出回路23は、エンベロープ振幅データに基づいて球面収差を補正するための最適な補正電圧を生成し、収差制御部27に供給する。
コマ収差検出回路24は、エンベロープ振幅データに基づいてコマ収差を補正するための最適な補正電圧Vinを生成し、コマ収差制御初期化部30に供給する。
コマ収差制御初期化部30は、図27に示すように、フォーカシングドライバ29から供給されたデータに基づいて、フォーカシングしている面の位置データlayerに応じて異なる動作を実行する。第1コマ収差補正ステップとしてディスク表面にフォーカシング(A)し、タンジェンシャルPUコマ収差補正用パターン領域CoTAを再生しているときは、入力電圧VinをVTANとしてメモリに格納し、ラジアルPUコマ収差補正用パターン領域CoTRを再生しているときは、入力電圧VinをVoffsetとしてメモリに格納する。一方、第2コマ収差補正ステップとして特定記録層にフォーカシング(B)しているときは、入力電圧VinからVoffsetを引いた値をVRADとしてメモリする。
収差制御部27は、フォーカシングドライバ29、各球面収差検出回路23及びコマ収差制御初期化部30から供給されたデータに基づいて、収差補正手段15をそれぞれ駆動し、収差補正制御をなす。
図26に示すように、コマ収差制御初期化部30から収差信号としてVTANとVRADが供給された収差制御部27は、TANコマ収差補正ドライバ28TANの駆動電圧としてVTANをそのまま出力して、TANコマ収差補正ユニット15TANを駆動する。また、RADコマ収差補正ドライバ28RADの駆動電圧としてはVRADに所定係数α(フォーカシングしている記録層までの透過層厚み/特定記録層までの透過層厚み)を乗算した値を出力して3軸アクチュエータ16(レンズ傾き)を駆動する。
TANコマ収差補正ユニット15TAN及び3軸アクチュエータ16をTANコマ収差補正ドライバ28TAN及びRADコマ収差補正ドライバ28RADを介してそれぞれ駆動電圧で駆動する。TANコマ収差補正ユニット15TANはラジアル方向の直線に対称なコマ収差(タンジェンシャル方向)を補正する機能を有する。
図14は、収差補正手段15に含まれる球面収差補正ユニット15Pの一例を示す。球面収差補正ユニット15Pは、光軸上に共軸な凹レンズ5A及び凸レンズ5Bと、これらレンズの光軸上間隔を電気機械的に変える手段51とを含み、球面収差補正ドライバ28Pからの駆動電流より駆動され、レンズ間隔を変化させて球面収差を補正する。
図15は、本発明の他の実施例である収差補正機能を有するコマ収差補正装置10の構成を示すブロック図である。図に示すコマ収差補正装置は図13に示すものと、3軸アクチュエータを2軸アクチュエータに代えて、他の収差補正ユニットと共軸に配置された液晶光学素子のRADコマ収差補正ユニット15RADを搭載し、球面収差補正ユニット15Pを液晶光学素子に代えた以外、同一である。RADコマ収差補正ユニット15RADはタンジェンシャル方向の直線に対称なコマ収差(ラジアル方向)を補正する機能を有する。これらコマ収差補正ユニットと球面収差補正ユニットは例えば、公知の液晶光学素子である。
図16に、液晶光学素子LCPの概略断面図を示す。第1のITO透明電極61と第2のITO透明電極65は、それぞれ対向する第1のガラス基板60の内面と第2のガラス基板66の内面に蒸着されており、これら第1及び第2のITO透明電極61、65は、外部からの電圧信号を液晶67に印加すると共に、光を透過させる。第1のポリビニルアルコール配向膜62と第2のポリビニルアルコール配向膜64は、それぞれ第1のITO透明電極61上と第2のITO透明電極65上に蒸着されている。これら第1及び第2のポリビニルアルコール配向膜62、64は、液晶67の配向を制御する。液晶67の周囲はエポキシ樹脂層などでそれが外に漏れないように封止されている。液晶光学素子の透明電極パターンに印可する電圧により、透過する光ビームの進行方向に垂直な面内での屈折率分布を任意に調整でき、光ビームの波面の位相を透明電極パターンに応じて制御することができる。
液晶光学素子のRADコマ収差補正ユニット15RADの場合、第1のITO透明電極61は、タンジェンシャル方向の直線に対称なコマ収差(ラジアル方向)を補正するために、図17に示すようなタンジェンシャル方向直線に対称なパターンでパターニングされて3つの領域(Eg、E3、E4)に分割されている。液晶光学素子のTANコマ収差補正ユニット15TANの場合、第1のITO透明電極61は、ラジアル方向の直線に対称なコマ収差(タンジェンシャル方向)を補正するために、図18に示すようなラジアル方向直線に対称なパターンでパターニングされて3つの領域(Eg、E3、E4)に分割されている。それぞれ透明電極(Eg、E3、E4)の各々の間には間隙が設けられ、互いに電気的に分離されている。
また、液晶光学素子の球面収差補正ユニット15の場合、第2のITO透明電極65は、光軸に対称に発生する球面収差を補正するために、図19に示すような同心円状に形成された透明電極パターンにパターニングされて3つの領域(Ec、E1、E2)に分割されている。球面収差補正ユニット15Pも収差制御部27が球面収差補正ドライバ28Pを介して駆動する。
次に、フローチャートを参照して、コマ収差補正装置の収差補正動作の手順について説明する。
<実施例1>
図13に示すコマ収差補正装置を含む記録再生装置において、図5に示す光ディスク7を記録再生する前に行うコマ収差補正手順を説明する。すなわち、第1ラジアルコマ収差補正手段と第2ラジアルコマ収差補正手段を3軸アクチュエータにより兼用した記録再生装置において、ユーザがディスクをローディングした時に第1コマ収差補正ステップと第2コマ収差補正ステップの両方を行ったのちに記録再生を開始するまでの手順を示す。
ここでは、図20に示すフローチャートを実行する。
まずはじめに、第1コマ収差補正ステップを実行する。光ディスク7が図4に示す記録再生装置に挿入されると、スピンドルモータ8を回転(ステップS1)した後、光ディスク7の表面にフォーカスをかける(ステップS2)。この際、球面収差が最小になるように球面収差補正ユニット15Pを駆動する。
次にピックアップ9をラジアルPUコマ収差補正用パターンエリアCoRAに移動し(ステップS3)、3軸アクチュエータ16(この段階では第1ラジアルコマ収差補正手段として機能する)の基準点としてVoffsetをメモリする(ステップS4)。具体的には、例えば、図21に示すフローチャートを実行する。まず3軸アクチュエータ16のレンズ傾きの駆動電圧を最小値にした状態で信号処理回路21から出力されるエンベロープ振幅を、コマ収差検出回路24において、駆動電圧とセットでメモリに入れる(ステップS41)。通常、光ディスクは少なからず偏芯しているため、ラジアルPUコマ収差補正用パターンエリアCoRAでは、再生ビームスポットSPはラジアルPUコマ収差補正用パターンエリアCoRAを横切るように移動するため再生信号振幅が得られる。万が一、偏芯がゼロとなった場合は、3軸アクチュエータ16のレンズ傾きの駆動電圧によらず信号処理回路21から出力されるエンベロープ振幅がほぼゼロになる。この場合は光ディスク7をクランプし直せば良い。
次に駆動電圧を僅かに大きくして、その時エンベロープ振幅を、駆動電圧とセットで別のアドレスにメモリする(ステップS42)。これを駆動電圧が最大値に達するまで行い(ステップS43、S44)、最終的にエンベロープ振幅が最大となった時の駆動電圧をコマ収差制御初期化部30に送る。コマ収差制御初期化部30では3軸アクチュエータ16のレンズ傾きの基準点としてVoffsetをメモリする(ステップS45)(第1ラジアルコマ収差補正手段の最適化)。
次に、タンジェンシャルPUコマ収差補正用パターンエリアCoTAに移動し(ステップS5)、TANタンジェンシャルコマ収差補正ユニット15TAN(第1タンジェンシャルコマ収差補正手段)の駆動電圧を最適化したのちVTANとしてメモリする。具体的な方法についてはラジアル方向と同様なフローで行うことができる(ステップS6)。以上までが第1コマ収差補正ステップである。
つぎに第2コマ収差補正ステップを行う。まず特定層として最奥層にフォーカスをかけ(ステップS7)、そこで3軸アクチュエータ16(この段階では第2ラジアルコマ収差補正手段として機能する)の駆動電圧を最適化する。最適化された駆動電圧はコマ収差制御初期化部30に送られ、ここで先にメモリしたVoffsetを減算することでVRADをメモリする(ステップS8)。具体的には、第1コマ収差補正ステップのときと同様の手順で可能である。
ここまでが第2コマ収差補正ステップである。
ユーザが、特定層から別の記録層にフォーカスジャンプ(ステップS9)した場合は、特定層とジャンプした先の記録層の光ディスク透過層厚みの比である所定係数αを先にメモリした駆動電圧値VRADに乗算した電圧値V’RADで3軸アクチュエータ16を駆動する(ステップS10)。トラッキングを実行し(ステップS11)、記録再生を開始する。
本実施例では、まず初めに、光ディスクの表面にビームをフォーカスした状態で第1コマ収差補正手段の最適化を行う(第1コマ収差補正ステップ)。光ディスク表面にフォーカスさせるのは、光ディスク透過層厚みをゼロにすることで透過層コマ収差を発生させないためであり、この状態で第1コマ収差補正手段を調整することで、PUコマ収差を軸外コマ収差のみで相殺させることが可能となる。ただし、この状態ではビームの光軸と光ディスクの法線がいくら傾いていても透過層コマ収差は発生しないため、ユーザが情報を記録再生するために記録層にジャンプした時に発生する透過層コマ収差は補正できていない。そこで次に、光ディスク7の特定層にフォーカスをかけ直した状態で透過層コマ収差をモニタしながら第2コマ収差補正手段を調整する(第2コマ収差補正ステップ)。この際、ビーム光軸と光ディスクの法線が傾いていることで発生する透過層コマ収差が大きいほど調整精度が上がることを考慮すると、できるだけ透過層を厚くした方が良いので特定層としては最奥層が望ましい。
ステップS10で、どの記録層でも透過層厚み比である所定係数αをかけるだけで最適な3軸アクチュエータ16の駆動電圧V’RADを得られるのは、先に光ディスク表面でラジアル方向のPUコマ収差を軸外コマ収差で相殺するための駆動電圧値Voffsetを基準点としたことで(第1コマ収差補正ステップを実行したことで)、第2コマ収差補正手段で補正しなければならないコマ収差が透過層コマ収差だけになっているためである。これにより全ての記録層に対して第2コマ収差補正手段の駆動電圧を最適化する必要がなくなり、ユーザが光ディスクをローディングした際の調整時間を大幅に短縮することができる。
なお、本実施例ではタンジェンシャル方向については、第2コマ収差補正ステップを実行していないが、これは光ディスクの反りによって生じるタンジェンシャル方向の透過層コマ収差がラジアル方向と比較すると小さいためで、もしタンジェンシャル方向の透過層コマ収差も補正する必要がある場合は、ラジアル方向と全く同様な手段および方法で行うことができる。
ところでPUコマ収差は、光学部品の加工誤差や組み付け誤差などによって発生するコマ収差であるので、第1コマ収差補正ステップは、一度実行すればディスクがローディングされる度に実行する必要はない。ただし、環境温度の変化や経時的に生じるPUの光学系の変化によりPUコマ収差も長い時間の間には変化する可能性がある。そのため、第1コマ収差補正ステップを定期的に実行することで、常にPUコマ収差が補償された状態を保つことができ、長期にわたって安定した記録再生が実現できる。
なお、多層光ディスクの最手前の記録層が充分表面に近い場合には、最手前の記録層にフォーカスをかけた状態で第1コマ収差補正ステップを行っても良い。この場合、例として、特開2004−355759公報や特開2005−196896公報に開示されるような、トラッキングエラー信号やRF信号の振幅などをモニタすることでコマ収差量を調整することが可能になる。
なお、本実施例では、所定係数αとして透過層厚みの比を用いたが、球面収差補正量に依存してビーム径が変化する場合や残留球面収差が存在する場合などは、あらかじめ光線追跡などで最も透過層コマ収差が小さくなる係数を求めておき、それをαとして利用することができる。
<実施例2>
実施例2は、工場で記録再生装置を組み立てる段階で、あらかじめコマ収差補正を実行するものである。図13に示すコマ収差補正装置を用いる。
ここでは、図23に示すフローチャートを実行する。先に述べたように、工場での組み立て段階においては、第1コマ収差補正ステップにおいて、直接スポット形状を観察することができるので、図5の光ディスク7のように表面にPUコマ収差補正用の周期パターンが形成されていない多層ディスクを基準ディスクとして用いることができる。
まず、第1コマ収差補正ステップでは、基準光ディスク表面にフォーカスをかけた状態で(ステップS1)、TANコマ収差補正液晶パネル15TAN(第1タンジェンシャルコマ収差補正手段)の駆動電圧を最適化し、VTANとしてメモリする(ステップS2)。また3軸アクチュエータ16(この段階では第1ラジアルコマ収差補正手段として機能する)のレンズ傾き駆動電圧を最適化し、その値をVoffsetとしてメモリする(ステップS3、S4)。具体的には、基準光ディスク越しのビームスポット形状を直接観察しながらビームスポット形状が真円に近づくように調整することで駆動電圧を最適化できる。
続いて、第2コマ収差補正ステップを行う。特定の記録層(最奥の記録層が望ましい)にフォーカスジャンプし(ステップS5)、ピックアップ9の取り付け角度を、角度調整機構9A(本実施例ではこれが第2ラジアルコマ収差補正手段として機能する)で、再びビームスポットを観察しながら調整する(ステップS6)。
この調整手法で調整された記録再生装置の場合、仮にユーザが記録再生する多層光ディスクの反りが基準光ディスクの反りと一致していれば、透過層コマ収差は既に補正されていることになるので、ユーザ側では、コマ収差補正を行わなくても、全ての層においてトータルコマ収差がほぼゼロの状態で記録再生を行うことができる。
また、もしユーザが記録再生する多層光ディスクの反りが基準光ディスクの反りと一致していない場合は、ディスクがローディングされたときに、特定層にフォーカスをかけ、3軸アクチュエータ16のレンズ傾き駆動電圧を最適化したうえで、工場出荷時にメモリされたVRADを書き変えれば良い。既に工場出荷時にPUコマ収差がちょうど相殺される駆動電圧が基準点Voffsetとしてメモリされているので、第1コマ収差補正ステップを実行せずとも、純粋にその多層光ディスクの反りによって生じた透過層コマ収差を補正するために必要な駆動電圧VRADを得ることができる。
このように工場出荷時に第1コマ収差補正ステップと第2コマ収差補正ステップを実行しておけば、ユーザ側では、両ステップを省略したり、第2コマ収差補正ステップを実行するだけで、実施例1と同様の効果を得ることができる。第1コマ収差補正ステップを実行しなくても良いということは、ディスク表面にPUコマ収差補正用パターンが形成されていない多層ディスクを記録再生する場合にも適用できることを意味する。
これによって、記録層毎にコマ収差補正手段の駆動電圧を最適化する必要がなくなり、ユーザが光ディスクをローディングした際の調整時間を大幅に短縮することができる。
<実施例3>
実施例3は、図15に示すコマ収差補正装置により、工場側でコマ収差補正方法を実行する場合の手順である。すなわち、第1コマ収差補正手段として、2方向(タンジェンシャル及びラジアル方向)のコマ収差補正液晶パネルを用いる。
ここでは、図22に示すフローチャートを実行する。
まず、第1コマ収差補正ステップでは、基準光ディスク表面にフォーカスをかけた状態で(ステップS1)、2方向のコマ収差補正液晶パネルの駆動電圧を最適化する(ステップS2、S3)。これは例えば、実施例2と同様に、基準光ディスク越しのビームスポット形状を直接観察しながら液晶の駆動電圧を調整することで可能である。ラジアル方向の液晶パネルの最適駆動電圧が求まったら、その値を基準点としてVoffsetをメモリする(ステップS4)。
続く第2コマ収差補正ステップでは、特定層(最奥の記録層が望ましい)にフォーカスジャンプし(ステップS5)、ピックアップ9の取り付け角度を、角度調整機構9A(本実施例でもこれが第2ラジアルコマ収差補正手段として機能する)で、再びビームスポットを観察しながら調整する(ステップS6)。
この調整手法で調整された記録再生装置の場合、仮にユーザが記録再生する多層光ディスクの反りが基準光ディスクの反りと一致していれば、VTANとVRADは既にメモリされているので、ユーザ側では、改めてコマ収差補正手段の最適化を行わなくても、全ての層においてトータルコマ収差がほぼゼロの状態で記録再生を行うことができる。
また、もしユーザが記録再生する多層光ディスクの反りが基準光ディスクの反りと一致していない場合は、ディスクがローディングされたときに、特定層にフォーカスをかけ、RADコマ収差補正液晶パネル15RADの駆動電圧を最適化したうえで、工場出荷時にメモリされたVRADを書き変えれば良い。既に工場出荷時にPUコマ収差がちょうど相殺される駆動電圧が基準点Voffsetとしてメモリされているので、第1コマ収差補正ステップを実行せずとも、純粋にその光ディスクの反りによって生じた透過層コマ収差を補正するために必要な駆動電圧VRADを得ることができる。
このように工場出荷時に第1コマ収差補正ステップと第2コマ収差補正ステップを実行しておけば、ユーザ側では、両ステップを省略したり、第2コマ収差補正ステップを実行するだけで、実施例1と同様の効果を得ることができる。また、第1コマ収差補正ステップを実行しなくても良いということは、ディスク表面にPUコマ収差補正用パターンが形成されていない多層ディスクを記録再生する場合にも適用できることを意味する。
これによって、記録層毎にコマ収差補正手段の駆動電圧を最適化する必要がなくなり、ユーザが光ディスクをローディングした際の調整時間を大幅に短縮することができる。
<実施例4>
実施例4は、工場側で、第1および第2コマ収差補正ステップを実行するものである。光ディスクドライブ装置としては、例えば図24に示すように、球面収差補正ユニット15Pと、ピックアップ9およびアクチュエータ16の取り付け角度を変えられる調整機構9A、16Aを有している。具体的な傾き調整機構としては、特許文献2:特開平10−31826公報に開示されたようないわゆるネジ留めなどによるものである。
ここでは、図25に示すフローチャートを実行する。
まず、第1コマ収差補正ステップでは、基準光ディスク表面にフォーカスをかけた状態(ステップS1)で、アクチュエータの取り付け角度を調整することでPUコマ収差を補正(相殺)する(ステップS2)。これは例えば、実施例2や3と同様に、基準光ディスク越しのビームスポット形状を直接観察しながら角度調整機構16Aでアクチュエータ16の取り付け角度を調整することで可能である。
続く第2コマ収差補正ステップでは、特定層に集光した時に球面収差が最小になるように球面収差補正ユニットを駆動し、その記録層にフォーカスジャンプする(ステップS3)。この状態で透過層コマ収差が最小になるように今度はピックアップ9の取り付け角度を調整する(ステップS4)。この時も、基準光ディスク越しのビームスポット形状を直接観察しながら角度調整機構9Aを調整することで可能である。
この調整手法では、PUコマ収差を軸外コマ収差のみで相殺し、透過層コマ収差は基準光ディスクに対してPU全体の角度を調整することで消しているので、仮にユーザが記録再生する多層光ディスクの反りが基準光ディスクの反りと一致していれば、ユーザ側ではコマ収差補正手段の最適化を行うことなく、全ての層に対してトータルコマ収差をほぼゼロにすることができる。
このように、光ディスクへのデータの記録又は再生を行う記録再生装置におけるピックアップのコマ収差補正方法においては、多層光ディスクに対して光ビームを照射する対物レンズを含む光学系単体のPUコマ収差を補正する第1コマ収差補正ステップと、多層光ディスクと光学系の相対傾きに起因する透過層コマ収差を補正する第2コマ収差補正ステップと、を行う。一例としては、上記のように、PUの対物レンズを駆動して、光ディスクの表面近傍および複数の記録層に光ビームをフォーカシングさせるフォーカシングステップを含み、第1コマ収差補正ステップでは、光学系において光ディスクの表面近傍に光ビームをフォーカシングした状態で、該第1コマ収差補正手段の駆動電圧を最適化して、光学系単体のコマ収差を補正し、そして、第2コマ収差補正ステップでは、光学系において光ディスクの記録層にフォーカシングした状態で、第2コマ収差補正手段の駆動電圧を最適化して、光ディスクと光学系の相対傾きに起因するコマ収差を補正する。