JP4943678B2 - 細胞の脂肪酸組成を改変する方法およびその利用 - Google Patents

細胞の脂肪酸組成を改変する方法およびその利用 Download PDF

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本発明は、種々の細胞の脂肪酸組成を改変する方法に関するものであり、特に、機能性脂質であるエイコサペンタエン酸(EPA)を始めとする不飽和脂肪酸の含有量を高める方法に関する。さらに、EPA等の不飽和脂肪酸を含有する医薬品、食品、またはその他の工業製品と、その製造方法に関する。
不飽和脂肪酸、特にn−3系高度不飽和脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)等は、機能性脂質と呼ばれ、医薬品や食品等、様々な分野で利用されている。例えばEPAは、閉塞性動脈硬化症などの改善に用いられる医薬品、DHAは健康食品素材として利用されている。また、これらEPAおよびDHAは食品添加物やサプリメントとして利用されることもある。このように工業的に利用されているn−3系高度不飽和脂肪酸の多くは、脂肪態のものである。
現在、これらn−3系高度不飽和脂肪酸を始めとする不飽和脂肪酸は、その原料のほとんどが魚油である。魚油は、その分子形態はトリアシルグリセロール(脂肪)であり、現在医薬品として200億円規模の売上があるEPAエチルエステルの原料となっている。
また最近、n−3系高度不飽和脂肪酸のリン脂質態の抗腫瘍作用や臓器の白色脂肪量の低下作用、抗酸化作用が見出されるなど、新しい生理機能が明らかにされてきている。リン脂質態n−3系高度不飽和脂肪酸の原料は、主としてイカ等の水産資源である。
また、水産資源以外からの採取以外の不飽和脂肪酸の製造方法としては、微生物を利用する方法が試みられている。例えば、特許文献1には、EPAの生合成酵素群をコードする遺伝子(EPA合成酵素遺伝子群)をシーワネラ・ピュートリファシエンス(Shewanella putrefaciens)SCRC−2874(FERM BP-1625)から取得し、これをベクターと連結してプラスミドを作成して該プラスミドにて大腸菌を形質転換し、この形質転換した大腸菌を培養してEPAを産生する技術が記載されている。
また、特許文献2には、シーワネラ・ピュートリファシエンス(Shewanella putrefaciens)SCRC−2874(FERM BP-1625)由来のEPA生合成酵素遺伝子群の一部遺伝子を欠損させることによって、よりEPA生産能の高い遺伝子群を見出したことが記載されている。
特開平8−242867号公報(公開日:1996年9月24日) 国際公開番号:WO98/01565(国際公開日:1998年1月15日)
上述したように、現在、n−3系高度不飽和脂肪酸を始めとする不飽和脂肪酸の原料としては、主に水産資源が利用されている。しかし、水産資源を不飽和脂肪酸の原料とするには、以下のような問題点がある。まず、魚油を始めとする水産資源は独特の臭気(いわゆる魚臭さ)が避けられない。そのため、この臭気が製品としての品質や価値を損なう可能性がある。また、漁獲高の不安定性および経年的な減少傾向によって、水産資源の原料としての供給の安定性には問題がある。さらに、環境汚染による水産資源の汚染も、将来的により大きな問題となると考えられている。
上述したように、形質転換した大腸菌によって不飽和脂肪酸を産生する方法も提案されている。しかし、工業的に不飽和脂肪酸を製造するには、不飽和脂肪酸をより効率よく産生することのできる新たな技術が求められている。
本発明は、上記従来の課題に鑑みたものであり、その目的は、不飽和脂肪酸をより効率よく製造することを可能にする方法と、その代表的な利用技術とを提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、不飽和脂肪酸合成能を有する細胞に対して、当該細胞が合成した不飽和脂肪酸の酸化を抑制することによって、上記細胞の脂肪酸組成を改変することができ、それゆえ不飽和脂肪酸をより効率よく製造することが可能になることを独自に見出し、本発明を完成するに至った。本発明は上記新規な知見に基づいて完成されたものであり、以下の発明を包含する。
(1)不飽和脂肪酸合成能を有する細胞に対して、当該細胞が合成した不飽和脂肪酸の酸化を抑制することによって上記細胞の脂肪酸組成を改変する方法。
(2)上記不飽和脂肪酸合成能を有する細胞に対して、不飽和脂肪酸の酸化を抑制することのできるタンパク質をコードする遺伝子を発現可能に導入する工程を含む上記(1)に記載の方法。
(3)上記遺伝子は、カタラーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子である上記(2)に記載の方法。
(4)上記遺伝子は、ヴィブリオ・ルモイエンシスS−1株に由来する上記(3)に記載の方法。
(5)上記不飽和脂肪酸合成能を有する細胞は、不飽和脂肪酸合成能を有するタンパク質をコードする遺伝子を発現可能に導入してなる細胞である上記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)上記遺伝子は、EPA合成能を有するタンパク質をコードする遺伝子である上記(5)に記載の方法。
(7)不飽和脂肪酸合成能を有する細胞に対して、配列番号1に記載の配列を有するポリヌクレオチドを発現可能に導入することによって、上記細胞の脂肪酸組成を改変する方法。
(8)上記(1)〜(7)のいずれかに記載の方法を一工程として含む不飽和脂肪酸含有組成物の製造方法。
(9)上記(4)に記載の製造方法により製造される不飽和脂肪酸含有組成物。
(10)上記(1)〜(7)のいずれか1項に記載の方法によって脂肪酸組成が改変された細胞。
(11)不飽和脂肪酸合成能を有すると共に、不飽和脂肪酸の酸化を抑制することのできるタンパク質をコードした遺伝子が発現可能に導入されてなる細胞。
(12)宿主細胞に、不飽和脂肪酸合成酵素遺伝子と、不飽和脂肪酸の酸化を抑制することのできるタンパク質をコードした遺伝子とが共発現可能に導入されてなる上記(11)に記載の細胞。
以上のように、本発明は、不飽和脂肪酸合成能を有する細胞に対して、当該細胞が合成した不飽和脂肪酸の酸化を抑制することによって上記細胞の脂肪酸組成を改変する方法と、その代表的な利用法とを含む。
本発明に係る細胞の脂肪酸組成を改変する方法によれば、細胞の不飽和脂肪酸の含有量を高めることができる。そのため、当該方法によって脂肪酸組成を改変された細胞は、不飽和脂肪酸の製造に好適に用いることができる。つまり、当該方法によると、不飽和脂肪酸を安定かつ効率よく供給することが可能となる。
本発明の実施の一形態について説明すれば、以下の通りである。なお、本発明は、これに限定されるものではない。
本発明は、不飽和脂肪酸合成能を有する細胞に対して、当該細胞が合成した不飽和脂肪酸の酸化を抑制することによって、上記細胞の脂肪酸組成を改変する方法(以下、単に脂肪酸組成改変方法と称する場合がある)、およびその利用に関するものである。そこで、以下ではまず、上記細胞の脂肪酸組成を改変する方法について説明し、次いで、その代表的な利用法について説明する。
<1.脂肪酸組成改変方法>
上記脂肪酸組成改変方法としては、不飽和脂肪酸合成能を有する細胞に対して、当該細胞が合成した不飽和脂肪酸の酸化を抑制することによって上記細胞の脂肪酸組成を改変することができればよく、対象となる細胞、不飽和脂肪酸、工程、試薬等は特に限定されない。
本発明における不飽和脂肪酸とは、特に断らない限り、二重結合または三重結合をもつ脂肪酸およびその誘導体の両方を意味する。つまり、特に断らない限り、不飽和脂肪酸には、単純脂質としてのモノエン脂肪酸、ポリエン脂肪酸、高度不飽和脂肪酸、およびアセチレン型脂肪酸、並びにこれら脂肪酸の誘導体が含まれる。
不飽和脂肪酸の誘導体としては、リン脂質等の複合脂質、極性脂質、エステル等、上述の不飽和脂肪酸を含む化合物であれば特に限定されない。
本発明の脂肪酸組成改変方法の対象となる細胞としては、不飽和脂肪酸合成能を有する細胞であればよく、従来公知の各種細胞を好適に用いることができる。つまり、植物、動物、細菌、酵母等、あらゆる生物の細胞を対象とすることが可能である。具体的には、大腸菌(E. coli)等の細菌、酵母(出芽酵母Saccharomyces cerevisiae、分裂酵母Schizosaccharomyces pombe)、線虫(Caenorhabditis elegans)、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)の卵母細胞等を挙げることができるが、特に限定されるものではない。上記の細胞のための適切な培養培地および条件は当分野で周知である。
なお、リン脂質を得ることを目的とする場合、対象となる細胞として特に好適なのは、細菌、または酵母などのようにミトコンドリアなどの細胞内膜系をもつ生物である。これらの細胞は、脂肪酸の多くをリン脂質成分として合成するので、不飽和脂肪酸のリン脂質を特に効率よく生産することができる。
これらの対象となる細胞としては、元来不飽和脂肪酸合成能を有する細胞であってもよい。また、不飽和脂肪酸合成能を持たない、またはその能力の低い細胞に対して、人工的に不飽和脂肪酸合成能を付与することもできる。
不飽和脂肪酸合成能を元来有する細胞としては、具体的には、Alteromonas属、Shewanella属、Colwellia属、Vibrio属、Flexibacter属などの細菌、さらに具体的には、Shewanella sp. strain GA-22、Shewanella sp. AC10、Shewanella violacea DSS12、 Photobacterium profundum strain SS9を挙げることができる。
なお、この他にも、低温で生存可能な細胞の多くは不飽和脂肪酸合成能を有しているので、本発明に利用可能である。
また、細胞に対して人工的に不飽和脂肪酸合成能を付与する方法としては、例えば遺伝子導入が挙げられる。つまり、本発明において不飽和脂肪酸合成能を有する細胞とは、不飽和脂肪酸合成能酵素をコードする遺伝子(不飽和脂肪酸合成酵素遺伝子)を発現可能に導入して得られる細胞であってもよい。このとき導入される遺伝子としては、不飽和脂肪酸合成酵素遺伝子を利用することができる。遺伝子導入の対象となる細胞(宿主細胞)としては、上述した脂肪酸組成改変方法の対象となる細胞と同様、従来公知の各種細胞を用いることができる。
本発明において、不飽和脂肪酸の酸化を抑制する方法は、最終的に細胞の脂肪酸組成を改変することができればよく、特に限定されない。不飽和脂肪酸の酸化を抑制する方法として、例えば不飽和脂肪酸能を有する細胞に対して、不飽和脂肪酸の酸化を抑制するような化合物を与える、不飽和脂肪酸の酸化を抑制することのできるタンパク質をコードする遺伝子を発現可能に導入する、等が挙げられる。このとき用いられる遺伝子については、下記<2>欄で説明する。
また、本発明の脂肪酸組成改変方法は、不飽和脂肪酸の酸化を抑制することのできるタンパク質を高発現する細胞に、不飽和脂肪酸合成酵素遺伝子を発現可能に導入し、産生される不飽和脂肪酸の酸化を抑制し、細胞の脂肪酸組成を改変する方法であってもよい。
「不飽和脂肪酸の酸化を抑制することのできるタンパク質」とは、特に限定されるものではないが、例えば、過酸化水素等の活性酸素種を基質とする酸化還元酵素が挙げられる。より具体的には、過酸化水素を基質とするカタラーゼやペルオキシダーゼ等のヒドロペルオキシダーゼが挙げられる。
「不飽和脂肪酸の酸化を抑制することのできるタンパク質を高発現する細胞」とは、例えば、ヴィブリオ・ルモイエンシス(Vibrio rumoiensis)S−1株、Rhodopseudomonas capsulata、Micrococcus luteus、 Alcaligenes faecalis等のように、一般的な大腸菌等と比較して高い活性を有するカタラーゼを発現する細胞、または、カタラーゼの発現量が多いため、細胞全体のカタラーゼ活性が高い細胞を意味する。もちろん、カタラーゼ以外のヒドロペルオキシダーゼについても同様である。
また、不飽和脂肪酸の酸化を抑制する化合物としては、特に限定されないが、具体的には、還元剤である還元型グルタチオン;ビタミンC、ビタミンE等のビタミン類;ポリフェノール類;およびβ−カロチン等が挙げられる。
なお、「細胞の脂肪酸組成を改変する」とは、細胞に含まれる脂肪酸および細胞から外分泌される脂肪酸の少なくとも一方の組成が改変されることを意味する。つまり、細胞を培地で培養する場合、細胞および培地の少なくとも一方の脂肪酸組成が改変されていればよい。
また、細胞の脂肪酸組成を改変することによって、細胞および当該細胞を培養する培地の少なくとも一方の不飽和脂肪酸の含有量が増加することが好ましい。不飽和脂肪酸の含有量が増加するとは、総脂肪酸中の不飽和脂肪酸の含有率が高くなることであってもよく、例えば培養液の単位体積当たりの不飽和脂肪酸の量自体が増えることであってもよい。
以上のように、不飽和脂肪酸の酸化を抑制することによって、細胞の脂肪酸組成を改変することができることは、本発明者等が見出した全く新規の知見である。また、後述するように、様々な産業分野での利用価値は非常に高い。
以下、上述した本発明の脂肪酸組成改変方法について、より具体的に説明する。
<2.利用可能な遺伝子>
以下に、上記<1>欄でのべた脂肪酸組成改変方法において利用可能な遺伝子について説明する。
(2−1)不飽和脂肪酸合成酵素遺伝子
本発明に利用可能な不飽和脂肪酸合成酵素遺伝子としては、宿主細胞内で不飽和脂肪酸を合成することができるものであればよい。例えば、EPAクラスター(EPA合成酵素遺伝子群)、DHA合成酵素遺伝子等、脂肪酸不飽和化酵素遺伝子など、目的とする不飽和脂肪酸によって、適宜変更可能である。
以下では、不飽和脂肪酸合成酵素遺伝子の一例として、EPAクラスターについて説明する。
EPAクラスターとしては、EPAを発現するのに必要な遺伝子が含まれていればよい。従って、その由来となる生物種は特に限定されず、例えば、Shewanella sp. strain GA-22、Shewanella sp. AC10、Shewanella violacea DSS12、 Photobacterium profundum strain SS9などに由来するEPAクラスターを用いることができる。
また、Alteromonas属、Shewanella属、Colwellia属、Vibrio属、Flexibacter属などの細菌はEPAをもつ(EPA合成能力をもつ)ことが知られている。これらEPAをもつ細菌は、EPAクラスターと同様の遺伝子群をもつと予想される。そのため、これらEPA合成能力を持つ微生物に由来するEPAクラスターも利用することができる。特に、Shewanella olleyana のように30℃でも増殖が可能な非低温性細菌のEPA合成酵素遺伝子の場合は、低温に限らず常温以上の温度でEPAを合成することも可能なのでより好ましい。
また、EPAクラスターとしては、特許文献2に記載されたシーワネラ・ピュートリファシエンス(Shewanella putrefaciens)SCRC−2874(FERM BP-1625)由来のEPAクラスター、およびその一部を欠失させることによって得られたよりEPA生産能の高い遺伝子群が、特に好適に用いられる。
また、EPAクラスター全長である必要はなく、EPAを発現することができれば、EPAクラスターの部分長であってもよい。また、EPAを発現することができれば、1または複数個のヌクレオチドの付加、欠失および/または他のヌクレオチドによる置換がなされているEPAクラスターも本発明に利用することができる。
(2−2)不飽和脂肪酸の酸化を抑制するタンパク質およびそれをコードする遺伝子
「不飽和脂肪酸の酸化を抑制するタンパク質」とは、特に限定されるものではないが、例えば、過酸化水素等の活性酸素種を基質とする酸化還元酵素が挙げられる。より具体的には、過酸化水素を基質とするカタラーゼやペルオキシダーゼ等のヒドロペルオキシダーゼが挙げられる。
また、カタラーゼ遺伝子としては、例えば、ヴィブリオ・ルモイエンシス(Vibrio rumoiensis)S−1株、Rhodopseudomonas capsulata、Micrococcus luteus、 Alcaligenes faecalisなどに由来するカタラーゼ遺伝子が好適に用いられる。これら遺伝子は、大腸菌または他の宿主細胞に導入した場合に、高いカタラーゼ活性を示すカタラーゼ遺伝子である。
ヴィブリオ・ルモイエンシスS−1株由来のカタラーゼ遺伝子として、より具体的にはvktAが挙げられる。vktAは、塩基数1527個の単一のORFを含む全1530bpの配列からなり、509アミノ酸残基からなるVRカタラーゼをコードしている(特開2000−316584号公報:2000年11月21日公開)。また、vktAは、異種細胞に導入されてもカタラーゼタンパク質を特に高いレベルで発現、蓄積し、大腸菌などの細菌に比べて2桁から3桁高いカタラーゼ活性を示す。
なお、本発明の脂肪酸組成改変方法にvktAを利用する場合は、少なくともvktAを含むポリヌクレオチドを、細胞に発現可能に導入すればよい。また、Vibrio rumoiensis株には様々な変異株が存在し、それぞれのカタラーゼ活性も僅かに異なることが予想される。従って、上記vktAのDNA配列中、1または複数個のヌクレオチドの付加、欠失および/または他のヌクレオチドによる置換がなされているカタラーゼ遺伝子も、EPA合成量を高めることができる限り、本発明の脂肪酸組成改変方法に利用可能である。
また、vktAを含むDNA断片としては、配列番号1に示す4904bpのポリヌクレオチド(4.9kb断片)を好適に用いることができる。言い換えると、本発明の脂肪酸組成改変方法は、不飽和脂肪酸合成能を有する細胞に対して、配列番号1に記載の配列を有するポリヌクレオチドを発現可能に導入することによって、上記細胞中の脂肪酸組成を改変する方法であってもよい。
なお、「ポリヌクレオチドが発現可能」とは、ポリヌクレオチド中の遺伝子がコードするタンパク質が発現することを意味する。また、このタンパク質としては、4.9kb断片中のカタラーゼ、およびその他4.9kb断片中に含まれる遺伝子によってコードされるすべてのタンパク質を含む。カタラーゼ以外のこれらのタンパク質が、脂肪酸組成の改変に関与している可能性もある。
また、EPA合成量を高めることができる限り、4.9 kbpのサイズに関わらず、この4.9kbpDNA断片に由来するポリヌクレオチドを用いてもよい。
なお、以下では、不飽和脂肪酸の酸化を抑制するタンパク質を酸化抑制タンパク質、それをコードする遺伝子を酸化抑制遺伝子と称する場合がある。
(2−3)遺伝子導入方法
上記<1>欄で述べたように、本発明に係る脂肪酸組成改変方法の例としては、遺伝子導入を利用する方法も含まれる。つまり、宿主細胞に酸化抑制遺伝子または不飽和脂肪酸合成酵素遺伝子のどちらか一方を発現可能に導入する方法、宿主細胞に、不飽和脂肪酸合成酵素遺伝子と、酸化抑制遺伝子とを共発現可能に導入する方法も、本発明に含まれる。
なお、宿主細胞としては、上記<1>欄で本発明の脂肪酸改変方法の対象となる細胞として述べた通りである。
ここで「遺伝子が発現可能に導入される」とは、ある遺伝子が遺伝子工学的手法(遺伝子操作技術)により、細胞内に共発現可能に導入されることを意味する。また、遺伝子を細胞に導入する方法は特に限定されず、公知の技術を好適に利用することができる。
また「共発現可能」とは、2種以上の遺伝子が、同一細胞内で発現することができることを意味する。従って、遺伝子を「共発現可能に導入する」場合、これら2種以上の遺伝子が宿主細胞に導入される順序、方法等は特に限定されない。つまり、本発明においては、酸化抑制遺伝子と不飽和脂肪酸合成酵素遺伝子とが導入されることによって、不飽和脂肪酸合成酵素遺伝子単独で導入した場合と比較して、細胞の脂肪酸組成が変化すればよく、これら酸化抑制遺伝子と不飽和脂肪酸合成酵素遺伝子とが同時に発現することが好ましいが、脂肪酸組成の改変という効果が得られれば、発現の順序も特に限定されるものではない。
なお、導入する酸化抑制遺伝子および不飽和脂肪酸合成酵素遺伝子は、1種類に限らず、複数の遺伝子を組み合わせて用いてもよい。
遺伝子導入方法としては、例えば組換え発現ベクターを細胞に導入して形質転換する方法を挙げることができる。また、形質転換の対象となる生物も特に限定されるものではなく、後述するように、各種微生物や動物を挙げることができる。
発現ベクターとしては、特に限定されるものではなく、上記(2−1),(2−2)欄で述べた遺伝子が挿入された組換え発現ベクターが挙げられる。組換え発現ベクターの作製には、プラスミド、ファージ、又はコスミドなどを用いることができるが特に限定されるものではない。また、作製方法も公知の方法を用いて行えばよい。また、酸化抑制遺伝子と不飽和脂肪酸合成酵素遺伝子とを同一のベクターに挿入し、このベクターを細胞に導入してもよく、それぞれを別のベクターに挿入して導入してもよい。
ベクターの具体的な種類は特に限定されるものではなく、宿主細胞中で発現可能なベクターを適宜選択すればよい。すなわち、宿主細胞の種類に応じて、確実に遺伝子を発現させるために適宜プロモータ配列を選択し、これと本発明の遺伝子を各種プラスミド等に組み込んだものを発現ベクターとして用いればよい。
発現ベクターは、好ましくは少なくとも1つの選択マーカーを含む。このようなマーカーとしては、真核生物細胞培養についてはジヒドロ葉酸レダクターゼまたはネオマイシン耐性遺伝子が、大腸菌(Escherichia coli)および他の細菌における培養についてはテトラサイクリン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ストレプトマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
上記選択マーカーを用いれば、本発明に係るポリヌクレオチドが宿主細胞に導入されたか否か、さらには宿主細胞中で確実に発現しているか否かを確認することができる。あるいは、本発明に係るポリペプチドを融合ポリペプチドとして発現させてもよく、例えば、オワンクラゲ由来の緑色蛍光ポリペプチドGFP(Green Fluorescent Protein)をマーカーとして用い、本発明に係るポリペプチドをGFP融合ポリペプチドとして発現させてもよい。
また、宿主細胞へのカタラーゼ遺伝子の導入および発現を確認するには、カタラーゼ活性を利用することができる。細胞中でカタラーゼが発現していれば、過酸化水素水中に細胞を浸したときにカタラーゼ活性に起因する強い発泡が見られる。
上記発現ベクターを宿主細胞に導入する方法、すなわち形質転換法も特に限定されるものではなく、電気穿孔法、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法等の従来公知の方法を好適に用いることができる。また、例えば、本発明に係るポリペプチドを昆虫で転移発現させる場合には、バキュロウイルスを用いた発現系を用いればよい。
<3.細胞>
本発明には、上記<1>欄の方法(脂肪酸組成改変方法)によって脂肪酸組成が改変された細胞が含まれる。また、この他にも、不飽和脂肪酸合成能を有すると共に、酸化抑制遺伝子が発現可能に導入された細胞、酸化抑制タンパク質を発現すると共に、不飽和脂肪酸合成酵素をコードする遺伝子が発現可能に導入されてなる細胞、および、宿主細胞に、不飽和脂肪酸合成酵素遺伝子と、酸化抑制遺伝子とが共発現可能に導入されてなる細胞も含まれる。これらの細胞は、例えば、後述の不飽和脂肪酸含有組成物の製造に利用することができる。
細胞の種類としては、上記<1>欄で本発明の脂肪酸改変方法の対象となる細胞として例を挙げて説明した通りである。なお、本発明には、これら本発明に係る細胞を含む組織、器官、さらには生物個体も含まれる。
<4.不飽和脂肪酸含有組成物およびその製造方法>
本発明に係る不飽和脂肪酸含有組成物の製造方法は、上述の脂肪酸組成改変方法を一工程として含めばよく、その他の工程、製造設備・器具等の諸条件については、特に限定されるものではない。
本発明の不飽和脂肪酸含有組成物の製造方法は、より具体的には、上述の改変方法によって脂肪酸組成が改変された細胞を培養する工程を含み、細胞またはその培地を利用して、不飽和脂肪酸含有組成物を製造する方法であるともいえる。
上記細胞の培養条件(培地、培養温度、通気状態等)は、細胞の種類や、目的とする不飽和脂肪酸の種類、その量等に応じて適宜設定することができる。ただし、細胞が大腸菌由来である場合、培養温度は10℃以上30℃未満であることが好ましい。
なお、不飽和脂肪酸含有組成物とは、不飽和脂肪酸を含む物質であればよく、その含有量、純度、形状、組成、等は特に限定されるものではない。つまり、本発明では、脂肪酸組成が改変された細胞またはその培地自体を、不飽和脂肪酸含有組成物とみなしてもよい。また、この細胞または培地から不飽和脂肪酸を精製する工程をさらに含んでいてもよい。不飽和脂肪酸を精製する方法としては、不飽和脂肪酸を始めとする脂質(複合脂質を含む)の精製方法として公知である方法を適用することができる。
また、本発明の不飽和脂肪酸含有組成物には、種々の医薬品、食品、または工業製品も含まれ、その利用分野は特に限定されない。また、本発明の食品には、サプリメント等の健康食品や、食品添加物等が含まれる。また、工業製品としては、人以外の生物を対象とした飼料、フィルム、生分解性プラスチック、機能性繊維、潤滑油、洗剤等が挙げられる。
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
〔実施例1および比較例1・2〕
<ベクターおよび細胞>
以下、脂肪酸組成改変方法の対象となる細胞として、大腸菌を用い、酸化抑制遺伝子として、4.9kb断片を用いた。
また、不飽和脂肪酸合成酵素遺伝子として特許文献2に記載されているEPAクラスター(Shewanella putrefaciens SCRC-2874由来のEPA生合成酵素遺伝子群)を導入した。ただし、本実施例と特許文献2とではEPAクラスターのORFの番号のつけ方が異なる。本実施例におけるORFの番号のつけ方の詳細は、Orikasa et al., Cellular and Molecular Biology, 50:625-630,2004 に記載されている。なお、図1に、以下で用いるEPAクラスターのORFと、それが挿入されたベクター(pEPAΔ1、pNEBΔ1349、pEPAΔ123、ORF2/pSTV28)とを図示する。
EPAクラスターを有するベクターとしてコスミドベクターpEPAΔ1を、4.9kb断片を有するベクターとしてプラスミドpKT230::vktAを、宿主細胞である大腸菌(DH5α)に導入した。こうして得られた形質転換体(細胞)を実施例1とし、その脂肪酸組成を調べた。また、4.9kb断片が挿入されていない空のpKT230ベクターを、pKT230::vktAの代わりに大腸菌に導入し、得られた形質転換体を比較例1とした。また、pEPAΔ1のみを導入した形質転換体を比較例2とした。
pEPAΔ1、および後述するΔ1349pNEBは、それぞれ特許文献2にプラスミドpEPAΔ2およびΔ2,4,5,10/pNEBとして記載されている。pEPAΔ1およびΔ1349pNEBの構成は図1に示す通りである。Δ1349pNEBは、大腸菌JM109に導入した場合、最も高レベルのEPA(全脂肪酸の約16%)を産生することのできるベクターとして報告されている(特許文献2)。なお、このpEPAΔ1、および後述するΔ1349pNEBは、共に(財)相模中央化学研究所より提供されたものである。
また、pKT230::vktAは、以下に述べるように、特開2000−316584(公開日:2000年11月21日)に記載されているプラスミドpBSsalを用いて作成された。図2に、pKT230::vktAの作製方法(pKT230への4.9kb断片の挿入)を示す。
図2に示すように、pBSsalは、プラスミドpBluescript SKII+のSalI部位に、4.9kb断片が挿入されたプラスミドである。このpBSsalを制限酵素BamH IおよびXho Iで切り出した後、アガロース電気泳動に供した。電気泳動によって分離された4960 bpのDNA断片をゲルから切り出し回収した。このDNA断片を、定法に従ってプラスミドpKT230のBamH IおよびXho I部位に連結し、プラスミドpKT230::vktAを得た(図2)。
pEPAΔ1およびpKT230::vktAの大腸菌への導入は、何れもヒートショック法により、始めにpEPAΔ1を導入し、次いでpKT230::vktA(またはpKT230)を導入した。詳細には、まずコンピテント化した大腸菌懸濁液200μlに対し、ベクター(pEPAΔ1)液1μlを加え、42℃、30秒間反応させ、その後振盪培養を1時間行った。形質転換株の選別は後述の抗生物質を含む培地で行った。得られた形質転換株をコンピテント化し、これを用いて同様にpKT230::vktAまたはpKT230により大腸菌を形質転換した。
こうして得られた形質転換体を2〜5mlのLB培地にて振盪培養した。また、pEPAΔ1はアンピシリン耐性遺伝子を有し、pKT230およびpKT230::vktAはストレプトマイシン耐性遺伝子を有するので、上記LB培地には、形質転換体の選択用抗生物質として、アンピシリンおよびストレプトマイシンを適量加えて培養を行った。なお、pKT230::vktAが導入され、カタラーゼが発現していることは、細胞を過酸化水素水に浸したときの発泡によって確認した。
培養時の温度を15、20、25、30℃とし、各温度で培養された形質転換体を下記の脂肪酸組成分析に供した。
<脂肪酸組成分析>
上記条件で培養した大腸菌培養液から遠心分離によって細胞を回収した。この細胞に2Nメタノール性塩酸を加えて細胞を完全に懸濁した後、アルミブロックヒータを使用して懸濁液を80℃で60分間、または60℃で20分間保持することによって、脂質のメタノリシス反応を行った。こうして脂肪酸メチルエステル(FAME)に変換した脂肪酸成分を、ヘキサンにより抽出した。
次に、抽出した脂肪酸メチルエステルについて、ガスクロマトグラフィーによりその組成を分析した。脂肪酸の同定は、ガスクロマトグラフィー/マススペクトロメトリによって行った。ガスクロマトグラフィーのカラムには、キャピラリカラムBPX70(30m×0.25mm)を使用した。また、分析には、GL Science GC−353B ガスクロマトグラフを用いた。
カラムオーブンの温度条件は、3℃/minの割合で150℃から180℃に昇温し10分間保持、または4℃/minの割合で80℃から240℃に昇温するものとした。インジェクターおよびディテクターの温度は221℃に設定した。
ガスクロマトグラフィー/マススペクトロメータ(model CP−3800 gas chromatograph,Saturn 2200 mass spectrometer,Varian Technology Japan,Inc)は、ガスクロマトグラフィーと同じカラムを用いた。カラムオーブンの温度は4℃/min割合で80℃から240℃に昇温してクロマトグラフィを行った。
図3に、実施例1(pEPAΔ1とpKT230::vktAとを導入)、図4に比較例1(pEPAΔ1とpKT230とを導入)の形質転換体(20℃で培養)に由来する全脂肪酸のガスクロマトグラフィーの結果を示す。
また、図5に、培養温度と、菌体中の全脂肪酸に対するEPA含有率との関係を表すグラフを示す。図5では、横軸が培養温度(℃)を、縦軸がEPA含有率(%)を示す。
図5に示すように、15〜25℃で培養されたとき、実施例1(pEPAΔ1とpKT230::vktAとが導入)は、比較例1(pEPAΔ1とpKT230とが導入)に比べて、約2倍〜5倍高いEPA含量を示した。以下にこの脂肪酸組成分析の結果について詳しく述べる。
図5に示すように、実施例1および比較例1はいずれも、培養温度が25℃で培養されたときにEPA含有率が最大となった。このときのEPA含有率はそれぞれ14%(実施例1)および6.5%(比較例1)であった。培養温度が25℃より低温になるにつれて、実施例1・比較例1共に、EPA発現量は徐々に低下した。図5に示すように、培養温度が15℃のときのEPA含有率は実施例1で11%、比較例1で2%となり、培養温度が20℃のときのEPA含有率は実施例1で12.5%、比較例1で4%となった(図3・4を参照)。また、実施例1・比較例1共に、EPA含有率は30℃で培養されたときに最小(0%)となった。なお、EPAクラスターを導入しなかった大腸菌では、EPA含有率は0%であった(データ不図示)。
また、実施例1(pEPAΔ1とpKT230::vktAとを導入)、比較例1(pEPAΔ1とpKT230とを導入)、比較例2(pEPAΔ1単独を導入)の大腸菌を、20℃で約50〜60時間培養し、一定体積の培養液中の細胞に含まれるEPAの量(EPA 収量)を測定した。脂肪酸の定量は、ヘネイコ酸(21:0)を標準物質とした内部標準法によりガスクロマトグラフィーによって行った。
表1には、培養液の単位体積当たりのEPA収量(μg/ml)を示す。表1に示すように、比較例1および比較例2のEPA収量は、それぞれ4.17μg/mlおよび3.02μg/mlであったが、実施例1におけるEPA収量は7.93μg/mlであった。以上の結果からvktAを含む4.9kb断片をEPAクラスターと共発現させることにより、EPAの全脂肪酸に対する割合だけではなく、EPAの収量そのものも増大することが分かった。
Figure 0004943678
なお、本発明者らは、EPA合成酵素遺伝子を発現させた大腸菌が、細胞外より与えられた過酸化水素に対して耐性を示すことを、独自に見出している。つまり、EPAは細胞内で生産される過酸化水素を自ら酸化されることにより消去する働きが考えられる。従って、カタラーゼの活性が増強された大腸菌では過酸化水素(細胞の通常の酸素代謝により恒常的に合成されている)の消去が、一義的にカタラーゼにより行われるため、酸化によるEPAの酸化が抑制され、その結果、脂肪酸に占めるEPAの割合が変化したと共に、EPA収量が増加したと考えられる。
〔実施例2および比較例2・3〕
EPAクラスターを有するベクターとしてΔ1349pNEBを、4.9kb断片を有するベクターとして実施例1と同様pKT230::vktAを導入し、実施例2とした。また、Δ1349pNEBのみを大腸菌に導入して比較例3とし、Δ1349pNEBとpKT230とを導入して比較例4とした。ベクター以外の他の操作は、実施例1と同様に行った。
実施例2、および比較例3・4について、15、20、25、30℃の各温度で培養し、回収した細胞の脂肪酸組成をガスクロマトグラフィーによって調べた。結果を表2および図6に示す。表1に、実施例2および比較例2・3の各温度でのEPA含有率を示す。図6は、図5と同様に、培養温度と、菌体中の全脂肪酸に対するEPA含有率との関係を表すグラフである。
Figure 0004943678
図6に示すように、実施例2は、15℃で培養したときに最もEPA含有率が高く、37%であった。また、培養温度が15℃のとき、比較例3・4のEPA含有率はそれぞれ約30%および約20%であり、これら比較例と比べて、実施例2の大腸菌は高いEPA含有率を示した。
〔実施例3および比較例5〕
EPAクラスターを有するベクターとしてpEPAΔ1を、4.9kb断片を有するベクターとしてプラスミドpGBM3::vktAを、実施例1と同様の方法で大腸菌に導入し、実施例3とした。また、4.9kb断片を持たない空のpGBM3とpEPAΔ1とを導入し、比較例5とした。
pGBM3::vktAの作製方法(pGBMへの4.9kb断片の挿入)を図7に示す。図7に示すように、pGBM3::vktAは、実施例1に記載されたものと同様の方法により、pBSsa1より切り出した4960 bpのDNA断片を、pGBM3のBamH I及びXho Iサイトにクローニングして得た。
ベクター以外の他の操作は、実施例1と同様に行い、20℃で培養した形質転換体について、脂肪酸組成をガスクロマトグラフィーで分析した。実施例3および比較例5のクロマトグラムを、図8および図9にそれぞれ示す。図8・11から、実施例3は、比較例5よりもEPA含有量が高くなっていることが分かる。
また、表3に、実施例3および比較例5(20℃培養)における主な脂肪酸組成の比較を示す、表3に示すように、比較例5および実施例3のEPA含有率はそれぞれ5.5%および15.9%であり、ベクターとしてpGBM3を用いた場合でも、vktAを含む4.9kb断片とEPAクラスターとの共発現により、EPA含量の増加が認められた。
Figure 0004943678
また、表4に、実施例3および比較例2・5(20℃培養)におけるEPA収量の比較を示す。表4に示すように、培養液当たりのEPAの収量はpEPAΔ1とpGBM3::vktAを共発現したもので7.03μg/ml、pEPAΔ1とpGBM3を共発現したもので4.34μg/ml、比較例2で3.02μg/mlであった。pGBM3をベクターとした大腸菌の発現系においても、vktAを含む4.9kb断片とEPAクラスターとの共発現がEPAの生産量を増加させることは明らかである。
Figure 0004943678
〔参考例〕
<ベクターおよび細胞>
細胞がもつカタラーゼ活性とEPA含量の関係を見るために、通常レベルのカタラーゼ活性をもつ大腸菌(DH5α)とカタラーゼ活性を全く持たない大腸菌の突然変異株(UM2:エール大学より分譲された)にEPA合成能を与えて、それぞれの細胞の全脂肪酸に占めるEPAの割合を調べた。
EPAクラスター中でEPA合成に必須であるORFを有するベクターとして、pEPAΔ123、ORF2/pSTV28およびΔ1349pNEBを用いた。
pEPAΔ123は、次のようにして作製した。まず、特許文献2にpEPAと記載されているベクターの挿入断片から、XbaI処理により、ORF1(特許文献2ではORF2と記載)の上流側1,187 bpの塩基配列、ORF2(特許文献2ではORF3と記載)の全部の塩基配列、および、ORF3(特許文献2ではORF4)の上流側2,468 bpの塩基配列を切り出した後、ライゲーションにより結合したものである(図1)。
ORF2/pSTV28は特許文献2でORF3/pSTV28と記載されているものである。Δ1349pNEBについては既に述べた。pEPAΔ123、ORF2/pSTV28およびΔ1349pNEBの構造は図1に示す通りである。
pEPAΔ123およびORF2/pSTV28の二つのベクターによりDH5α株またはUM2株を形質転換する場合は、ヒートショック法により初めにpEPAΔ123を導入し、ついでORF2/pSTV28を導入した。それぞれのコンピテント細胞懸濁液200μlとベクター(pEPAΔ123)液5μlを混合し、42℃、30秒間反応させ、その後振盪培養を1時間行った。形質転換株の選別は後述の抗生物質を含む培地で行った。得られた形質転換株をコンピテント細胞化し、上述の方法によりORF2/pSTV28によって大腸菌を形質転換した。Δ1349pNEBによりDH5α株またはUM2株を形質転換する方法は上述と同様であり、それぞれのコンピテント細胞200μlと5μlのΔ1349pNEBを混合した。
<形質転換体の脂肪酸組成>
形質転換されたDH5α株またはUM2株は、LB培地により20℃、180rpmで48〜60時間、定常期まで振盪培養して、遠心により集菌した。細胞を1%NaCl溶液により3回洗浄後、湿細胞を前述の方法によりメタノリシスし、得られた脂肪酸メチルエステルをガスクロマトグラフィー(オーブン温度180℃、インジェジュクター温度240℃、ディテクター温度240℃)で分析した。
表5に、各形質転換体の脂肪酸組成を示す。
Figure 0004943678
DH5α株またはUM2株に、pEPAΔ123とORF2/pSTV28とを導入した形質転換体の脂肪酸組成をみると、EPAの含有率はDH5α株で11.6%、UM2株で5.8%であった(表5)。一方、Δ1349pNEBのみを導入した形質転換体のEPA含有率は、DH5α株で21.3%、UM2株で12.8%であった。このように、EPAクラスターの構造に関わらず、カタラーゼ活性をもつDH5α株の方が、カタラーゼ活性を欠くUM2株に比べて約1.7〜2倍のEPA含有量を示した。
大腸菌のカタラーゼ(HP II; katE)は、酸化ストレスが増す定常期の細胞で誘導されることが知られており、DH5α株の形質転換体のカタラーゼ活性は、定常期で特に高くなっていると考えられる。一方、UM2はカタラーゼ活性を全く持たないので、定常期においても酸化ストレスを解消することができないために、より酸化を受けやすい分子であるEPAが酸化されると予想される。以上の結果から細胞の酸化を抑制する(酸化ストレスを解消する)ことがEPAの増加をもたらすと考えられる。
本発明は、EPA、DHA等の不飽和脂肪酸を含む医薬品、食品、または工業製品の製造に非常に好適に用いることができる。
本発明の実施例で用いたEPAクラスターのORFと、それが挿入されたベクターの構造を示す図面である。 pKT230::vktAの作製方法を示す図面である。 実施例1の脂肪酸組成を示すクロマトグラムである。 比較例1の脂肪酸組成を示すクロマトグラムである。 培養温度とEPA含有率との関係を示すグラフである。 培養温度とEPA含有率との関係を示すグラフである。 pGBM3::vktAの作製方法を示す図面である。 実施例3の脂肪酸組成を示すクロマトグラムである。 比較例5の脂肪酸組成を示すクロマトグラムである。

Claims (4)

  1. n−3系高度不飽和脂肪酸合成能を有する細胞に対して、カタラーゼをコードする遺伝子を発現可能に導入することによって、細胞のn−3系高度不飽和脂肪酸含量を増加させて、上記細胞のn−3系高度不飽和脂肪酸組成を改変する、方法。
  2. 上記遺伝子は、ヴィブリオ・ルモイエンシスS−1株に由来することを特徴とする請求項1に記載の方法。
  3. n−3系高度不飽和脂肪酸合成能を有する細胞に対して、配列番号1に記載の配列を有するポリヌクレオチドを発現可能に導入することによって、細胞のn−3系高度不飽和脂肪酸含量を増加させて、上記細胞中のn−3系高度不飽和脂肪酸組成を改変する、方法。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法を一工程として含むことを特徴とするn−3系高度不飽和脂肪酸含有組成物の製造方法。
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