JP4934591B2 - 細菌性細胞溶解素の精製方法 - Google Patents

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Description

本発明は、細菌性細胞溶解素の精製の分野、特に、ニューモリシンの精製方法に関する。ニューモリシンは、良好な抗原性を有するストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus neumoniae;肺炎球菌)由来のタンパク質であり、S.ニューモニエ感染または中耳炎に対する適切なワクチン成分である。本発明の方法は、界面活性剤および高塩の存在下でニューモリシンを疎水性相互作用カラムに結合させることによる、単一のクロマトグラフィーステップでニューモリシンを精製する独特で有利な工程について記載している。この方法は、特に凝集条件においてコレステロールのような芳香族化合物に対し高親和性を示すという細菌性細胞溶解素の特性を有利に利用するものであり、したがって、この毒素ファミリーのメンバーの精製に概ね適用できる。本発明のさらなる有利な態様は、機械的に破壊することおよび前濾過することによって、カラムにローディングされるサンプルを調製することである。
チオール活性化細胞溶解素は、連鎖球菌溶血素Oを代表例とする細菌性毒素の主要な一群を構成している(非特許文献1)。これらの毒素は、細胞膜に孔を空けることにより真核細胞に対して溶解性である。酸化剤はそれらの細胞溶解活性に負の影響を及ぼすが、還元剤は活性を回復させる。この群のメンバーは、一次アミノ酸配列において30〜60%の類似性を示し、C末端近傍にほぼ不変なウンデカペプチド配列を含んでいる。コレステロールは、これらの毒素の主要な標的細胞受容体である。細胞溶解素は、コレステロールを含む膜に結合し、オリゴマー化して、直径が30nm以上で40〜80のモノマーサブユニットからなる膜貫通性の孔を形成する。膜コレステロールに結合すると、毒素モノマーの立体構造の変化が誘発され、それに続いて起こるオリゴマー化、膜への挿入および孔の形成という事象が駆動される。
ストレプトコッカス・ニューモニエは、肺炎、菌血症、髄膜炎、中耳炎および副鼻腔炎を含む幾つかのヒト疾患の原因物質である。これらの疾患は、抗生物質が使えるにも関わらず、時には致死的状態に至ることもある。S.ニューモニエの抗生物質耐性株の出現により、この病原体により引き起こされる問題は悪化している。こうした事情から、S.ニューモニエに対する有効なワクチンを開発することが重要である。
精製莢膜多糖を含む多価肺炎球菌ワクチンは、数年にわたって利用できるようになっている。それらの適用は、特に乳児、高齢者および鎌状赤血球性貧血、多発性骨髄腫、肝硬変もしくはアルコール症の患者を含む高リスク群においては、免疫原性が低いために制限されている。また、それらがもたらす保護は血清型特異的であり、既存の製剤は、判明している90種の血清型のうち23種しか有効ではない。このため、米国人では判明している血清型の90%に対して保護できるが、アジア人では判明している血清型の約70%に対してしか保護できない。近年、コンジュゲート型の7価のワクチンが利用できるようになったが、これらも同様に、全ての肺炎球菌株に対する保護には問題がある。
ニューモリシン(Ply)は、S.ニューモニエの全ての株に見られる53kDaのチオール活性化細胞溶解素であり、自己溶解時に放出され、S.ニューモニエの病因に寄与している。それは、各種の血清型のPlyタンパク質間で、高度に保存されており、数個のアミノ酸置換しか存在しない。ニューモリシンは、高度に保存されていることと免疫原性を持つことから、ワクチン成分の有望な候補になっている。しかし、野生型Plyは、毒性があるために、ヒトに使用するためのワクチンに配合するには不適当である。Plyは、膜結合コレステロールと相互作用し、オリゴマー化して、膜に孔をあけることにより、細胞膜の損傷を引き起こす。C末端近傍で見出された保存されているシステイン含有モチーフが、溶解活性に関与している。Plyの変異がこの毒性を低下させることが示唆されている(特許文献1および2)。
ニューモリシンを精製するための2ステップ法がLockらにより記載されている(非特許文献2)。組換えニューモリシンは、イオン交換クロマトグラフィーとゲル濾過クロマトグラフィーの組合せを用いることによって、大腸菌の培養物から精製される。この方法は、抽出物を調製し、それをDEAE-セファロースカラムに通過させ、続いてセファクリルS200-HRカラムに通過させるステップを含む。この方法は、組換えニューモリシンまたは天然ニューモリシンの精製に使用できた。
Kuoらは、組換えGST-ニューモリシン融合タンパク質の精製方法を記載している(非特許文献3)。この融合タンパク質は、大腸菌培養物中で発現させ、細胞溶解物をグルタチオンアガロースゲルにローディングする。この融合タンパク質をグルタチオンで溶出させ、トロンビンを用いてこの融合タンパク質を切断することができる。これらのタンパク質を再度グルタチオン-アガロースカラムに通過させてGSTを取り除いた。このアフィニティ精製したニューモリシンを、ヒドロキシアパタイトカラムを用いてさらに精製した。
Mitchellら(非特許文献4)は、疎水性相互作用クロマトグラフィーを用いたニューモリシンの精製方法を記載している。それらを用いる条件下(250mMのNaCl)では、ニューモリシンはカラムにしっかり結合せず、しかしその進行は遅くなり、ニューモリシンはブロードなピークとして溶出される。ニューモリシンがカラム材料にしっかり結合しないという問題を克服するためには、どの画分が純粋なニューモリシンを含有するのかを決定し、陽性画分を濃縮し、カラムに再ローディングし、少量の水で溶出させる、というさらなるステップが必要であった。
S.ニューモニエに対する改良されたワクチンが、今なお必要とされている。Ply成分を配合することが有望であるが、このタンパク質の毒性が依然として問題になっている。また、ニューモリシンをバルク精製するための迅速かつ効率的手法の開発も必要である。以前に記載された方法では、複数の精製ステップと、その合間に行われるアッセイおよび濃縮のステップとを伴う。本発明は、有利にも単一のクロマトグラフィーステップを用いたより効率的な精製方法を提供するものであり、これは、大量バッチのニューモリシンの精製に使用可能である。
WO90/06951 WO99/03884 Billingtonら, FEMS Microbiol. Lett. (2000),182; 197-205 Microbial Pathogenesis (1996) 21; 71-83 Infection and Immunity (1995) 63; 2706-2713 Mitchellら, BBA (1989) 1007; 67-72
詳細な説明
方法
本発明の方法は、ニューモリシンなどの細菌性細胞溶解素の精製方法である。細胞溶解素、例えばニューモリシンは、単一のカラムクロマトグラフィーステップを用いて精製される。タンパク質は、界面活性剤および塩の存在下で、疎水性相互作用カラムに凝集形態で結合する。これらの条件下でカラムに結合するタンパク質はほとんどなく、単一ステップで細胞溶解素の精製が可能になる。本発明方法は特に、細胞溶解素の大量精製に適している。それは、本発明の好ましい実施形態において、カラムにローディングされる溶解物を調製する間、遠心分離を行わないためである。遠心分離を行うことは、しばしば製造方法における制限工程となる。本発明のさらに好ましい実施形態において、変性/回復ステップを、一般的に100μg/mlよりも高い濃度の細胞溶解素にて行う。
本発明の目的のために、細胞溶解素(好ましくはニューモリシン)の可溶性凝集体は、30,000gで20分間遠心分離した後で上清中に残存する細胞溶解素の凝集形態である。この可溶性凝集体は、界面活性剤および高塩(好ましくは1M)の存在下で、疎水性相互作用クロマトグラフィー材料(好ましくはフェニル-セファロース)上に保持される。場合により、この可溶性凝集体はコロイド状である。
塩濃度には、緩衝塩を含めた全ての塩の溶液または懸濁液中に占める濃度が含まれる。
本発明の目的は、低塩条件下で伝導度(コンダクティビティ)を5 mS/cm未満、好ましくは1〜2 mS/cmとすることである。また、高塩条件下で伝導度を30 mS/cmより速く、好ましくは50 mS/cmより速く、より好ましくは60〜80 mS/cmとすることである。
細胞溶解素(好ましくはニューモリシン)は、カラムに可溶性凝集体として結合する。フィルターやカラムの詰まりおよび材料の損失などのさまざまな理由から、凝集体をカラムにローディングすることは異例である。しかし、凝集体のサイズを小さくして可溶性凝集体を形成させる界面活性剤を、好ましくはアルカリ性pHにて、使用することにより、これらの凝集体は界面活性剤条件下でカラムにしっかり結合するが、カラムのフィルターに悪影響を及ぼさずに、SDS-PAGE分析により評価した場合に少なくとも50%、60%、70%、80%、好ましくは90%、95%、さらに好ましくは97%、98%または99%の純度で溶出できることが判明した。この方法によれば、好ましくは、発酵1リットル当たり少なくとも100、200、500、700、さらに好ましくは1000、1500、1700または1900mgの収量の細胞溶解素(好ましくはニューモリシン)が得られる。好ましくは、発酵培養物から少なくとも1%、2%、5%、7%、9%または10%のタンパク質が、精製細胞溶解素(好ましくはニューモリシン)として回収される。
この方法は、ニューモリシンなどの細胞溶解素の、コレステロールおよび他の芳香族化合物へ結合する能力を利用したものである。この結合は、細胞溶解素が凝集している場合に特に強固であり、界面活性剤の存在下で細胞溶解素が結合できるようにする。この方法は、細胞溶解素ファミリーの他のメンバーにも拡張できる。というのも、その全てのメンバーは、芳香族化合物に結合し孔を形成できる能力を共有しているからである。事実、この方法は、コレステロールまたは他の芳香族化合物に結合し、かつ/または孔を開ける、好ましくはそれらの両者を行う他のタンパク質ファミリーの精製にも使用できた。
したがって、第1の実施形態では、以下のステップ:
a)細菌性細胞溶解素を発現する細胞の培養物を増殖させるステップ;
b)細胞の培養物を機械的に破壊して抽出物を調製するステップ;
c)抽出物を前濾過するステップ;
d)抽出物中に含まれる可溶性の凝集した細菌性細胞溶解素を、界面活性剤(好ましくは脂肪族界面活性剤)の存在下で、高塩(好ましくは0.5〜2Mの塩)条件下で、疎水性相互作用クロマトグラフィー材料と結合させるステップ;
e)界面活性剤(好ましくは脂肪族界面活性剤)の存在下で、低塩(好ましくは0〜0.2 Mの塩)条件下で、細菌性細胞溶解素を溶出させるステップ、
を含む、細菌性細胞溶解素の精製方法が提供される。
第2の実施形態では、以下のステップ:
a)細菌性細胞溶解素を発現する細胞の培養物を増殖させるステップ;
b)細胞の培養物を機械的に破壊して抽出物を調製するステップ;
c)抽出物を前濾過するステップ;
d)抽出物中に含まれる細菌性細胞溶解素を、0.5〜2 Mまたは0.7〜1.5 M、好ましくは0.8〜1.2 Mの塩および0.1%〜1.5%、好ましくは0.5〜1.2%の界面活性剤を含有する溶液の条件下で、疎水性相互作用クロマトグラフィー材料と結合させるステップ;
e)0.1%〜1.5%、好ましくは0.5〜1.2%の界面活性剤を含有する低塩(好ましくは0〜0.2 Mの塩)溶液を用いて細菌性細胞溶解素を溶出させるステップ、
を含む、細菌性細胞溶解素の精製方法が提供される。
上記の実施形態のいずれにおいても、本発明の方法は、以下のさらなるステップ:
f)細菌性細胞溶解素から界面活性剤を除去するステップ;
g)変性剤を添加することにより細菌性細胞溶解素を可溶するステップ;
h)細菌性細胞溶解素からその変性剤を除去するステップ、
を含むことが好ましい。
本発明の以下の説明は、上に挙げたいずれかの実施形態にあてはまる。
本発明の方法は、肺炎球菌ニューモリシンの精製に有利に使用できる。本発明の方法により精製可能な他の細胞溶解素としては、A.ピオゲネス(A. pyogenes)由来のピオリシン、B.セレウス(B. cereus)由来のセレオリシン、B.チューリンゲンシス(B. thuringiensis)由来のチューリンギオリシンO(thuringiolysin O)、B.ラテロスポルス(B. latersporus)由来のラテロスポロリシン(laterosporolysin)、C.ビフェルメンタンス(C. bifermentans)由来のビフェルメントリシン(bifermentolysin)、C.ボツリナム(C. botulinum)由来のボツキノリシン(botukinolysin)、C.チャウボエル(C. chauvoel)由来のチャウベオリシン(chauveolysin)、C.ヒストリチクム(C. histolyticum)由来のヒストリチコリシン(histolyticolysin)、C.ノビイ(C. novyi)A型由来のオエデマトリシン(oedematolysin)、C.パーフリンゲンス(C. perfringens)由来パーフリンゴリシンO、C.セプチカム(C. septicum)由来のセプチコリシンO(septicolysin O)、C.ソルデリー(C. sordellii)由来のソルデリリシン(sordellilysin)、C.テタニ(C. tetani)由来のテタノリシン(tetanolysin)、L.イバノビ(L. ivanovi)由来のイバノリシンO(ivanolysin O)、L.モノサイトゲネス(L. monocytogenes)由来のリステリオリシン(listeriolysin O)、L.シーリゲリ(L. seeligeri)由来のシーリゲリリシンO(seeligerilysin O)、P.アルベイ(P. alvei)由来のアルベオリシン(alveolysin)、S.ピオゲネス(S. pyogenes)、S.キャニス(S. canis)もしくはS.エキシミリス(S. equisimilis)由来のストレプトリシンO、S.インタメディウス(S. intermedius)由来のインタメジリシン(intermedilysin)、S.スイス(S. suis)由来のスイリシン(suilysin)、またはS.ニューモニエ由来のニューモリシンが挙げられ、これらは野生型であってもよいし、PdAおよびPdBなど(WO90/06951、WO99/03884)の毒性レベルが低い遺伝子改変型毒素であってもよい。
ニューモリシンすなわちPlyとは、肺炎球菌(pneumococcus)由来の天然ニューモリシン、または組換えニューモリシン、野生型ニューモリシンもしくはニューモリシンの突然変異型(例えば、WO90/06951およびWO99/03884に記載されているもの)を意味する。場合によっては、ニューモリシンはまた、野生型ニューモリシンの配列に対し少なくとも70、80、90または95%のアミノ酸配列同一性を共有するニューモリシンの任意の断片またはニューモリシンの任意の改変体(Walkerら1987, Infect. Immun. 55; 1184-9またはMitchellら1990, Nucleic Acids Res. 18; 4010に開示される)であって、当業者であれば容易に測定できる本発明の方法により精製される能力をなお保持しているものをも、意味しうる。
本発明の1つの好ましい実施形態では、ステップb)とd)、b)とe)、d)とe)において、さらに好ましくはステップb)とd)とe)において、同じ界面活性剤が、好ましくは0.1%〜5%(w/v)の濃度で存在する。好ましくはこの同じ界面活性剤は、ステップb)とd)、b)とe)、d)とe)において、さらに好ましくはステップb)とd)とe)において存在するように、ステップc)にも存在する。界面活性剤は、好ましくは0.1%〜1.5% (w/v)、より好ましくは0.5%〜1.2%(w/v)または約1% (w/v)の濃度で存在する。本発明の目的のために、脂肪族界面活性剤とは、ステップd)において細胞溶解素とカラムとの結合を阻害するには不十分な芳香族特性を有する、実質的に脂肪族性の界面活性剤として定義される。好ましくは、界面活性剤は、1個以下の芳香環を有し、最も好ましくは芳香環を全く有していない。ステップb)の間、界面活性剤は、細胞溶解素のより大きな凝集体をより小さな凝集体へと分解して可溶性凝集体を形成させるものであることが有利である。ステップd)およびe)の間、界面活性剤は、細胞溶解素の可溶性凝集状態を有利に保持し、それによって該状態のものを高塩条件においてカラムに高い親和性で結合させることができる。
細胞溶解素(好ましくはニューモリシン)は、細菌細胞、好ましくはS.ニューモニエ、大腸菌、あるいは酵母細胞、昆虫細胞、哺乳動物細胞もしくはその発現に適する任意の他の発現系の培養物中で発現される。高収量のニューモリシンを産生する発現系では、ニューモリシンは自然に凝集することが多く、本発明の方法はその精製に理想的である。好ましくは、ニューモリシンは、高収量で発現されて、発現系中の総タンパク質の2、3、4、5、7または10%より多くを構成する。好ましくは、ニューモリシンは凝集形態であり、および/または、多くの場合、溶血活性を持たない。例えば、発酵槽において、大腸菌内で、高い発現を可能にするファージλポロモーターまたは他のプロモーター下で発現させることは、当業者には周知である。
好ましくは、細胞溶解素は、発現系から凝集体として抽出される。あるいはまた、より低収量の発現系によっても、可溶性細胞溶解素を得ることができる。この場合、細胞溶解素(好ましくはニューモリシン)を含む抽出物は、少なくとも8時間、好ましくは少なくとも24時間の期間にわたり細胞溶解素を凝集させるpH7.5未満に調整する。
ステップb)には、好ましくは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10または11回以上のステップで細胞を機械的に(場合によってRannieにてパスさせることよって)破壊すること、および/または、その細胞を界面活性剤で処理することを含む。高収率の方法で製造した場合、ニューモリシンは凝集体の形態のままであるが、その凝集体は、不溶性の細胞破砕物をペレット化するのに必要な条件下でサンプルを遠心分離した後、上清中に留まるように十分に小さいものでなければならない。好ましくは、本発明で使用される界面活性剤は、芳香環を含んでいない脂肪族界面活性剤であり、好ましくはイオン性界面活性剤であり、さらに好ましくはカチオン性またはアニオン性界面活性剤であり、最も好ましくは、界面活性剤はラウロイルサルコシン酸ナトリウムである。好ましい界面活性剤は、ニューモリシンを、疎水性相互作用カラムに取り付けられているフィルターの目詰まりを起こすことなく、そのカラムに結合する小さな凝集体の形態にしたままで、そのニューモリシンを可溶化させることができるものである。好ましい界面活性剤は、ニューモリシン凝集体のサイズを小さくすることができ、それにより、サンプルを30,000gで20分間遠心分離した後でそのニューモリシン凝集体が上清中に留まるように十分に小さいものになる。そのような可溶性の凝集体は、疎水性相互作用カラム上で精製可能である。界面活性剤は、0.1%〜1.5%、好ましくは0.5%〜1.2%(w/v)、さらに好ましくは約1%の濃度で存在する。好ましくは、界面活性剤は透析可能なものである。
ステップb)において培養物を機械的および/または界面活性剤により破壊した後、本発明の方法は、後続のステップで、カラムに詰まる可能性があるサイズの大きな凝集体を除去する前濾過ステップ c)を含む。前濾過ステップでは、好ましくは細孔径が0.45μm、0.65μm、1.2μm、2.45μmまたは5μmのフィルターを使用する。好ましくは、フィルターの細孔径は0.45〜2.5μmまたは0.6〜1.2μmである。また、好ましくは、機械的な破壊及び前濾過するステップにより、遠心分離をせずに本発明方法を実施することができる。
本発明方法は、細胞の培養物を機械的に破壊する前に、細胞の培養物を界面活性剤を用いてインキュベートする前培養ステップを任意で含む。この前培養ステップは、細胞の培養物を機械的に破壊する前に少なくとも1、5、10、20、30、60または120分間上記の界面活性剤を添加してインキュベートすることを含む。
好ましくは、ステップb)および/またはc)はアルカリ性のpHで行い、好ましいpHは8〜10、8.5〜9.5または約9である。好ましくは、ステップf)、g)およびh)はアルカリ性のpHで行い、好ましいpHは8〜10、8.5〜9.5または約9である。好ましくは、ステップd)および/またはe)は中性のpHで行い、好ましいpHは6〜8、6.5〜7.5または約7である。好ましくは、ステップb)および/またはc)は塩濃度が0〜0.1 M、より好ましくは10〜50 mMまたは20〜30 mMで行う。好ましくは、ステップf)、g)、およびh)は塩濃度が0〜0.1 M、より好ましくは10〜50 mMまたは20〜30 mMで行う。
本発明の方法は、ニューモリシンを単一のステップで精製するために、疎水性相互作用クロマトグラフィーを用いる。ステップd)において用いられるカラム材料は、好ましくは芳香族基、好ましくはフェニル基を含むものであり、さらに好ましくはそれはフェニル−セファロースである。
カラムのローディングおよび溶出の際にステップd)および/またはステップe)において用いられる溶液は、イオン性界面活性剤、好ましくはカチオン性またはアニオン性界面活性剤、好ましくは0.5Mを超える塩濃度で可溶性である界面活性剤を含み、最も好ましくは、その界面活性剤はラウロイルサルコシン酸ナトリウムである。使用される界面活性剤は、細胞溶解素(好ましくはニューモリシン)凝集体のサイズを小さくし、それにより該細胞溶解素がサンプル中に可溶性凝集体として存在してそれがカラムに不可逆的に付着することなく疎水性相互作用カラム材料に結合できるようにするものである。界面活性剤は、好ましくは、0.1%〜1.5%、好ましくは0.5%〜1.2%(w/v)、さらに好ましくは0.75%〜1.2%、最も好ましくは約1%の濃度で存在する。
ステップd)および/またはe)において用いられる溶液は、塩、好ましくは塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化アンモニウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸マグネシウム、リン酸アンモニウムからなる群から選択される塩を含有し、好ましくはpH6〜8、好ましくは約pH7に緩衝化されている。pHをpH6〜9の間に維持できる緩衝液であれば、いずれも使用できる。
本発明の方法においてニューモリシンをカラムに結合させるのに使用する溶液は、高塩濃度、好ましくは0.6〜2M、さらに好ましくは約1Mを含むものである。塩濃度は、ニューモリシンが可溶性凝集形態であって、かつ疎水性クロマトグラフィー材料に結合できるように、選択される。
単一のカラム精製で、細胞溶解素を殆ど精製することができ、好ましくはニューモリシンを少なくとも90、92、94、96、98または99%の純度まで精製することができる。しかしながら、小さなカラム径を使用する場合や細胞溶解素が大量にある場合の本発明の実施態様では、好ましくはニューモリシンをカラムにローディングし、上記条件下で余計に1、2、3または4回以上同じカラムに通過させて、より高いレベルの純度を得ることができる。
場合により、ステップd)には、約0.5Mの塩である中程度の塩条件下で、または十分結合しない不純物を除去できる塩濃度でカラムを洗浄するという追加のステップが、含まれてもよい。
本発明の方法では、ニューモリシンをカラムから溶出させるために、漸減塩勾配が用いられる。好ましくは、ステップe)において塩勾配を形成するのに用いられる低塩溶液は、0〜0.1Mの塩、さらに好ましくは0〜40mMの塩を含有する。あるいはまた、0〜0.2Mの塩、さらに好ましくは0〜40mMの塩を含有するステップe)において用いられる低塩緩衝液による段階的な溶出を用いることも可能である。
任意のステップを、それがニューモリシンを変性させ、続いて変性剤の除去によりそれをリフォールディングさせるのに好ましい場合には、本発明の方法に追加することができる。これらの任意のステップにより、天然の構造および/または生物学的活性(例えば、赤血球の溶血)を有する純度の高い細胞溶解素(好ましくはニューモリシン)を確実に得ることができる。第1の任意ステップf)は、透析濾過、透析または希釈による界面活性剤の除去を含む。このステップは、好ましくは、pH8〜10、好ましくは約9の緩衝液に対する透析濾過/透析を含み、さらに好ましくは、この緩衝液は、アルカリ性のpH値で緩衝化を行えるものであり、最も好ましくは、この緩衝液はジエタノールアミン(DEA)である。この溶液は、好ましくはイオン強度が低いもの、好ましくは10〜50mM、最も好ましくは約25mMのものである。透析濾過または透析は、好ましくは4℃で行うが、あるいはまたは、室温で行う。
第2の任意ステップでは、変性剤の添加により細胞溶解素(好ましくはニューモリシン)を変性させ可溶化させる。好ましくは、ステップg)で用いられる変性剤は塩酸グアニジンであり、さらに好ましくは5〜8Mの塩酸グアニジンであり、最も好ましくは約6Mの塩酸グアニジンである。ニューモリシンを塩酸グアニジンと共に、少なくとも10分間、好ましくは少なくとも1時間、さらに好ましくは約1時間インキュベートする。
次に、ステップg)の間に、細胞溶解素(好ましくはニューモリシン)を5〜9Mの尿素、好ましくは約8Mの尿素と接触させることが好ましい。これは、細胞溶解素(好ましくはニューモリシン)を尿素に対して透析濾過または透析することにより達成される。好ましくは、変性剤を交換する際、同じ緩衝液およびpHを維持する。好ましくは、変性剤を交換する際、還元剤(DTT、2-メルカプトエタノールまたはグルタチオン)を添加する。
好ましくは、ステップg)は、細胞溶解素(好ましくはニューモリシン)を5〜8Mの塩酸グアニジンと接触させ、次にその塩酸グアニジンを5〜9Mの尿素に交換することを含む。
細胞溶解素(好ましくはニューモリシン)を変性させる際に不適切なジスルフィド結合が形成されないようにするためには、少なくともステップg)およびh)部分において、還元剤を確実に存在させることが有利である。好ましい還元剤は、0.1〜10mMのDTT、好ましくは約1mMのDTTである。あるいはまた、グルタチオンまたは2-メルカプトエタノールを使用する。グルタチオンの好ましい濃度は1〜20 mMまたは5〜15 mM、さらに好ましくは5〜10 mMである。
任意ステップh)は、好ましくはpH6〜10、好ましくは約pH9の低塩緩衝液に対して透析濾過または透析することにより変性剤を除去して、細胞溶解素(好ましくはニューモリシン)をリフォールディングさせることを含む。好ましくは、対数的というよりむしろ直線的に、通常透析または透析濾過により変性剤を除去する。すなわち、透析または透析濾過ステップの間ずっと、同程度または一定の速度で細胞溶解素から変性剤を除去し、或いは透析濾過ステップの開始時は終了時よりも遅い速度で変性剤を除去する。これは、ステップの開始時に近いほどより速い速度で変性剤を除去する大部分の方法と対照的といえる。また、上記は再循環流速を次第に速めて透析濾過するか、或いは溶液に含まれる変性剤の量を次第に減らして透析することにより達成される。例えば、透析濾過は50ml/時〜500ml/時の速度で行い得、透析濾過の速度は1、2、3、4、5、6、7、8、9、10回または11回以上速めることができる。好ましくは、細胞溶解素(好ましくはニューモリシン)の濃度は、少なくとも100μg/ml、好ましくは100μg/ml〜1000μg/ml、さらに好ましくは約500μg/mlに維持される。場合により、透析濾過または透析は、プロピレングリコールを10〜30%、好ましくは約15%含有する緩衝液に対するものとする。好ましくは、上記のような還元剤をステップh)において維持する。透析濾過または透析は、好ましくは4℃で実施するが、そうでなければ室温で実施する。このリフォールディング方法は、他のタンパク質に対しても利用できる。
さらなる任意ステップh)は、細胞溶解素(好ましくはニューモリシン)がリフォールディングされた後で還元剤を除去することを含む。これは、好ましくは、pH7〜10、好ましくは約pH9の低塩緩衝液に対する透析濾過または透析により達成される。場合により、透析濾過または透析は、プロピレングリコールを10〜30%、好ましくは約15%含有する緩衝液に対するものとする。透析濾過または透析は、好ましくは4℃で実施するが、あるいはそうでなければ室温で実施する。
本発明の好ましい方法において、細胞溶解素(好ましくはニューモリシン)は、その溶血活性が、適切にフォールディングしたタンパク質の溶血活性の25%、50%、75%を超えるまで、最も好ましくは90%を超えるまで回復されるようにリフォールディングされる。本発明の目的のために、「フォールディングした」タンパク質とは、非変性プロセスにより製造されたタンパク質の三次構造を有するタンパク質である。野生型ニューモリシンの場合、リフォールディングしたニューモリシンの予測溶血活性は、500,000〜1,000,000溶血単位/mg(ニューモリシン)である。溶血活性が低い点突然変異型ニューモリシンの場合、リフォールディングしたニューモリシンの溶血活性は相応に低いであろう。
毒素の無毒化
本発明の方法により精製された細胞溶解素(好ましくはニューモリシン)は、化学的処理による無毒化のさらなる任意ステップに供することができる。この追加のステップは、細胞溶解素(好ましくはニューモリシン)を動物またはヒトに投与しようとする場合に特に有利である。野生型ニューモリシンは毒性が高い。毒性が低下している突然変異型ニューモリシンタンパク質が幾つか単離されているが、これらは、そのニューモリシンを内服投与した場合に問題となり得る残存毒性を依然として持ったままである(WO99/03884、WO90/06951)。あるいはまた、多糖にコンジュゲートさせることにより無毒化することが可能である(WO96/05859)。
本発明の方法は、野生型または突然変異型の細胞溶解素(例えばニューモリシン)を化学的処理によって無毒化することができる。好ましい実施形態では、架橋剤、さらに好ましくはホルムアルデヒド、グルタルアルデヒドならびにN-ヒドロキシスクシンイミド(N-hydroxysuccinomido)エステルおよび/またはマレイミド基を含有する架橋試薬(例えば、GMBS)からなる群から選択される1種以上の化学物質を含有する架橋剤が、使用される。
無毒化方法はそれ自体が、本発明の1つの態様であり、他の方法により調製された細菌性毒素(好ましくはニューモリシン)を無毒化するのに使用できる。
1つの実施形態において、本発明の無毒化方法は、アミン基、さらに好ましくは第一級アミン基と反応性であり、好ましくは選択的に反応性であり、最も好ましくは特異的に反応性である化合物、好ましくは架橋試薬により、細菌性毒素を処理することを含む、その細菌性毒素の無毒化を記載するものである。
本出願の目的のためには、架橋試薬とは、少なくとも2つの反応性基を有し、そのうちの少なくとも1つが細菌性毒素の少なくとも1つの基と反応できるような化合物として定義される。さらなる反応性基は、細菌性毒素または別の化合物(例えば、アミノ酸、ペプチド、ポリペプチド、糖または多糖)の1つの基と反応できるものである。
好ましくは、その化合物または架橋試薬は、アミン基およびスルフヒドリル基と反応性の、さらに好ましくは選択的に反応性の、最も好ましくは特異的に反応性のものである。好ましくは、その化合物はリジンの第一級アミン基と反応し、さらに好ましくは、その架橋試薬はリジンの第一級アミン基およびシステインのスルフヒドリル基と反応する。この方法は、ニューモリシンを無毒化する場合に特に有利である。というのも、システイン残基およびリジン残基の双方を修飾することにより、架橋試薬がリジンのみまたはシステインのみと反応する場合の残存溶血活性と比較して、溶血レベルが相乗的に低下するからである。
そこで別の実施形態では、その毒素の毒性活性(好ましくは溶解活性)に関与するシステイン残基(任意に毒素のC末端近傍にある)を修飾することを含む細菌性毒素の無毒化方法であって、その毒素を、スルフヒドリル基をその毒素の別のアミノ酸(好ましくは、一次構造において該システインから2個、5個、10個、15個、20個、30個、40個だけ離れているアミノ酸)と架橋する架橋試薬(好ましくはヘテロ二官能性架橋試薬)で処理することを含む、上記方法が提供される。好ましくは、その別のアミノ酸は、第一級アミン基を含み、さらに好ましくは、そのアミノ酸はリジンである。
幾つかの実施形態においては、50%、60%、70%、80%、90%または95%を超えるその毒素が、処理後にSDS-PAGEで評価した場合、元の分子量の5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%または90%以内、さらに好ましくは1〜50%、最も好ましくは5〜10%の分子量を保持する。好ましくは、その毒素は、幾つかのアミノ酸残基が化合物との共有結合により修飾されるようになるため、無毒化処理の後にわずかに大きい分子量獲得する。しかし、本発明の方法は、好ましくは、毒素が他の毒素分子と共有結合して多量体四次構造を持つ毒素を形成することによるか、または毒素が他の大きなタンパク質、多糖もしくはリポ多糖に共有結合することによる、その毒素の広範なコンジュゲーションは伴わない。最も好ましくは、WO96/05859に開示されている方法、タンパク質または生成物は、本発明には包含されない。
本発明の方法は、細菌性毒素の無毒化に使用できる。好ましい毒素としては、チオール活性化細胞溶解素であるA.ピオゲネス由来のピオリシン、B.セレウス由来のセレオリシン、B.チューリンゲンシス由来のチューリンギオリシンO、B.ラテロスポルス由来のラテロスポロリシン、C.ビフェルメンタンス由来のビフェルメントリシン、C.ボツリウム由来のボツキノリシン、C.チャウボエル由来のチャウベオリシン、C.ヒストリチクム由来のヒストリチコリシン、C.ノビイA型由来のオエデマトリシン、C.パーフリンゲンス由来のパーフリンゴリシンO、C.セプチカム由来のセプチコリシンO、C.ソルデリー由来のソルデリリシン、C.テタニ由来のテタノリシン、L.イバノビ由来のイバノリシンO、L.モノサイトゲネス由来のリステリオリシンO、L.シーリゲリ由来のシーリゲリリシンO、P.アルベイ由来のアルベオリシン、S.ピオゲネス、S.キャニスもしくはS.エキシミリス由来のストレプトリシンO、S.インタメディアス由来のインタメジリシン、S.スイス由来のスイリシン、またはS.ニューモニエ由来のニューモリシンが挙げられ、これらは野生型であってもよいし、PdAおよびPdBなどの毒性レベルが低い遺伝子改変型毒素であってもよい(WO90/06951、WO99/03884)。
また、この方法は、ナイセリア属菌毒素FrpA、FrpC(WO92/01460)、FrpB(Microbiology 142; 3269-3274, (1996); J. Bacteriol. 181; 2895-2901 (1999))、NM-ADPRT(13th International Pathogenic Neisseria Conference 2002 Masignaniら, p135)を無毒化するのにも使用できる。FrpAおよびFrpCは、これらの2種のタンパク質間で保存されている領域を含み、これらの毒素の好ましい断片は、好ましくはFrpA/Cの配列のアミノ酸227〜1004を含む、この保存された断片を含むポリペプチドである。
また、本発明の方法は、アデニル酸シクラーゼ(CyaA)(Glaser (1988) Mol. Microbiol. 2; 19-30)を含むボルデテラ属毒素、皮膚壊死性毒素(Livey (1984) J. Med、Microbiol. 17; 91-103)および百日咳毒素(PT)(Munozら(1981) Infect Immun 33; 820-826)を無毒化するのにも使用できる。また、本発明の方法は、破傷風毒素(TT)およびジフテリア毒素(DT)、ならびに自己溶解素(AtlE、アミダーゼおよびグルコサミニダーゼ)、骨シアロ結合タンパク質(HarA)および溶血素などのS.アウレウス(S. aureus)およびS.エピデルミディス(S. epidermidis)由来の毒素(WO01/98499、WO02/59148、WO 03/11899の1, 2, 3, 5, 7, 78, 84)を無毒化するのにも使用できる。
本発明の方法は、毒素の毒性および/または溶血活性の量を少なくとも90%、好ましくは95%、96%、98%、99%、99.5%、99.9%または99.99%低下させる(溶血活性は、実施例3の方法を用いて測定し、毒性は実施例5の方法により測定できる)。天然ニューモリシンは、ニューモリシン1mg当たり500,000〜1,000,000単位の溶血活性を有する。ニューモリシンの幾つかの点突然変異型の変異体は、毒性および溶血活性が低下していた。変異体ニューモリシンの無毒化は、溶血活性が低下し始める出発点が低いために、それほど大きい溶血活性の低減率は達成できないかもしれないが、残存する溶血活性の殆どが本発明の方法により取り除かれると思われる。
本発明の方法の無毒化ステップは、好ましくは、実質的に不可逆的な架橋反応をもたらす。可逆性は、無毒化した毒素の溶血活性レベルを、無毒化後、ならびに25℃より高い、好ましくは30℃より高い、さらに好ましくは35℃より高い、最も好ましくは37℃より高い温度で、少なくとも5、6、7、8、9または10日間にわたりインキュベートした後、直接モニターすることにより評価する。実質的に不可逆的な反応により、実質的に不可逆的な無毒化がもたらされ、これは、上記したように上昇した温度でインキュベートした後で、溶血活性レベルが100%、50%、40%、30%、20%、10%未満上昇する反応として定義される。例えばホルムアルデヒド処理を用いることなどによる多くの無毒化方法では、安定的ではないが経時的に毒性が増大する無毒化が起こる。
本発明の方法の好ましい無毒化ステップにおいて、50%、60%、70%、80%、90%、95%または98%を超える毒素が、架橋反応後に単量体四次構造を保持する。多くの架橋試薬は、分子間架橋を形成する(例えば、ホルムアルデヒドおよびグルタルアルデヒド)。これにより、毒素の免疫学的性質が影響を受ける可能性がある。というのも、エピトープの中には凝集体の内部に隠れてしまうものがあるからである。本発明の方法は、アミノ酸残基(好ましくはアミノ酸のスルフヒドリル基および/または第一級アミン基)を単に修飾すること、ならびに/または主に分子内架橋を形成することを含むことが好ましい。そうして得られる単量体四次構造により、エピトープは毒素の表面に露出したままでいることが可能になる。
無毒化ステップの1つの好ましい実施形態においては、架橋試薬は、ヘテロ二官能性である。好ましい架橋試薬は、第一級アミン基と選択的に、さらに好ましくは特異的に反応するN-ヒドロキシスクシンイミドエステル基を含むものである。好ましくは、架橋試薬は、スルフヒドリル基と選択的に、さらに好ましくは特異的に反応するマレイミド基を含むものである。7付近のpHでは、マレイミド基は、アミンを有する場合よりも1000倍早く、スルフヒドリル基と反応する。好ましくは、架橋試薬は、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル基とマレイミド基の両方を含むものである。架橋剤は、好ましくは還元剤を用いて切断可能なものでははない。というのも、それにより有効な無毒化がもたらされなくなるからである。
架橋試薬の反応性基同士の距離は、無毒化の効率に影響を及ぼしうる。本発明の方法において、好ましくは、アミン基およびスルフヒドリル基との反応性を有する架橋試薬の基同士の距離は、1.5〜20オングストローム、さらに好ましくは5〜15オングストローム、最も好ましくは約10オングストロームである。好ましくは、細菌性毒素のアミノ酸残基は、5、7、10、12、15、18、20、50、100、500オングストローム長を超える基の付加により修飾される。好ましくは、修飾基は、5〜100オングストローム、さらに好ましくは10〜20オングストロームの大きさである。
本発明の方法の無毒化ステップにより、十分な残基が修飾されて、それらの立体干渉および/または立体構造変化がその細菌性毒素の機能を阻害するようになる。好ましくは、細菌性毒素の少なくとも5個、7個、10個、12個、14個、15個、20個または25個のアミノ酸残基を修飾する。架橋試薬に未反応のマレイミド基が存在する場合、エルマン(Ellman)反応を用いて、毒素の各分子に結合する架橋剤分子の数を(間接的に)見積もることができる(Ellman 1959 Arch. Biochem. Biophys. 82; 70)。
好ましい架橋試薬は、SMPT、スルホ-LC-SMPT、スルホ-KMUS、LC-SMCC、KMUA、スルホ-LC-SPDP、LC-SPDP、SMPB、スルホ-SMPB、SMPH、スルホ-SMCC、SMCC、SIAB、スルホ-SIAB、GMBS (N-(γ-マレイミドブチリルオキシ)スクシンイミドエステル)、スルホ-GMBS、MBS、スルホ-MBS、スルホ-EMCS、EMCA、EMCS、BMPS、SPDP、SBAP、BMPA、AMAS、SATPおよびSIA(Pierce)である。
本発明の1つの好ましい方法では、毒素を、5.0〜9.0、好ましくは6.5〜8.0、最も好ましくは7.0〜7.8のpH条件下で化合物または架橋試薬と反応させる。マレイミド基のスルフヒドリル基との反応を促進させる処理において、好ましい反応pHは、6.0〜8.0、さらに好ましくは6.5〜7.5である。この反応の際の好ましい塩濃度は、100mM〜1M、さらに好ましくは150mM〜500mM、最も好ましくは200mM〜300mMである。しかし、本発明者らは、塩化ナトリウムまたは他の塩を添加しない低塩濃度で反応を行うことが好ましい場合もあることを見出した。反応を7.6〜7.8のpHで行う場合、その反応は、場合により、塩を添加せずに行うことができる。同様に、毒素に対するGMBSの比率がより高いものを用いる場合は、7.0〜8.0のpH値で、塩を添加せずに実施することができる。
好ましくは、各毒素に対して50〜500倍、さらに好ましくは130〜350倍または350〜900倍、最も好ましくは約250倍モル過剰な化合物または架橋試薬を用いる。肺炎球菌ニューモリシンは、31個のリジン残基を含んでいる。したがって、ニューモリシンよりも248倍モル過剰の化合物または架橋試薬は、各リジン残基に対して8倍モル過剰の化合物または架橋試薬と等しい。本発明の方法では、好ましくは、リジン残基に対して2〜20倍、さらに好ましくは4〜15倍または15〜30倍、最も好ましくは約8倍のモル比の化合物または架橋試薬が用いられる。
架橋試薬による処理は、少なくとも15分間、好ましくは少なくとも30分間、最も好ましくは約1時間にわたり、4℃〜40℃、好ましくは15℃〜25℃、最も好ましくは室温で進行させる。本発明の方法は、スルフヒドリル基を含む化合物を用いるクエンチングステップをさらに含むことができ、好ましくは、そのクエンチング化合物は分子量が50、100または120以上であり、さらに好ましくは、そのクエンチング化合物はシステインなどのアミノ酸である。あるいはまた、それらの基は、マレイミドと反応することができるペプチドまたは多糖部分(例えばシステイン残基を含むペプチド)と反応し得る。これは、クエンチングステップの前に未反応のマレイミド基が存在する場合に、特に適している。
無毒化ステップは、上記で記載したような細菌性毒素について使用するのに適している。好ましくは、細菌性毒素はストレプトコッカス・ニューモニエ由来のものであり、最も好ましくは、その毒素はニューモリシンである。ニューモリシンは、天然または組換えタンパク質であるか、あるいはその毒性が低下するように遺伝子工学的に操作されたタンパク質(上記したようなもの)である。毒素(好ましくはニューモリシン)の融合タンパク質または毒素(好ましくはニューモリシン)の断片は、本発明の方法を用いて無毒化することができる。
したがって、好ましい実施形態においては、毒素(ニューモリシンなど)は、好ましくはリジン残基およびシステイン残基と反応性である基を有するヘテロ二官能性であり、かつ一定の大きさを有する架橋試薬、最も好ましくは、以下:
a)(好ましくはエルマン反応により間接的に測定した場合に)毒素の5〜30個、好ましくは約12〜14個のアミノ酸残基が、好ましくはリジン残基またはアルギニン残基に共有結合する架橋分子により修飾され、他方の末端が(好ましくはシステインで)クエンチングされている;かつ/または、
b)毒素の毒性活性に関与するシステイン側鎖(好ましくは毒素のC末端に向いたもの)が、好ましくはその毒素の一次構造においてそのシステイン残基から2、5、10、20、30または40アミノ酸を超えて離れているその毒素の別の側鎖に(好ましくはリジン残基またはアルギニン残基に)架橋される、
のいずれか一方、好ましくは両者が起こるように10〜20オングストロームだけ間隔を空けた反応性基を有する架橋試薬によって、無毒化される。
さらに好ましい実施形態においては、毒素(好ましくはニューモリシン)は、一官能性化合物で無毒化されるが、その一官能性化合物は、好ましくは第一級アミン基を含むアミノ酸、さらに好ましくはリジンと反応し、かつ一定の大きさ、最も好ましくは10〜100オングストロームを有するものであり、それにより毒素がアミノ酸残基に結合している5〜30個、さらに好ましくは約14個の化合物で覆われるものである。
多糖コンジュゲート
ワクチン接種についての多糖法に付随する問題は、多糖自体の免疫原性が低いという事実である。これを克服するために、多糖をタンパク質担体とコンジュゲートして、バイスタンダーT細胞効果をもたらしてもよい。本発明の方法は、有利にも、細胞溶解素(好ましくはニューモリシン)を細菌性多糖(例えばリポオリゴ糖、好ましくは莢膜多糖)とコンジュゲートさせるさらなるステップを含んでもよい。
本発明の1つの好ましいコンジュゲートは、本発明の方法により得られる細胞溶解素(好ましくはニューモリシン)を、ストレプトコッカス・ニューモニエから誘導される莢膜多糖とコンジュゲートさせたものを含む。肺炎球菌の莢膜多糖抗原は、好ましくは、血清型1、2、3、4、5、6B、7F、8、9N、9V、10A、11A、12F、14、15B、17F、18C、19A、19F、20、22F、23Fおよび33F(最も好ましくは血清型1、3、4、5、6B、7F、9V、14、18C、19Fおよび23F)、またはそれらのコンジュゲートの2種以上(4、7、9、11、13または23)の混合物から選択される。
また、本発明の方法により精製された細胞溶解素(好ましくはニューモリシン)は、好ましくは、他の細菌株に由来する莢膜多糖、リポ多糖またはリポオリゴ糖とコンジュゲートされる。そのような多糖は、例えば、H.インフルエンザ(H. influenzae)、H.インフルエンザB型(Hib)、N.メニンギティディス(N. meningitidis)、S.ニューモニエ以外のストレプトコッカス属(例えばB群ストレプトコッカス、S.ピオゲネス(S. pyogenes)など)、スタフィロコッカス(Staphylococcus)(例えばS.アウレウス(S. aureus)、S.エピデルミディス(S. epidermidis))、大腸菌(E. coli)、エンテロコッカス(Enterococcus)(例えばE.フェカリス(E. faecalis)およびE.フェシウム(E. faecium))などから単離できる。好ましくは、多糖は、H.インフルエンザB型(Hib)ならびに/またはN. メニンギティディスA群、C群、W135群および/もしくはY群に由来するものである。好ましいリポオリゴ糖は、N.メニンギティディス(L2、L3、L4および/またはL6免疫型)、M. カタラーリスならびにH. インルエンザを含む。
多糖は、いずれの公知の方法によって細胞溶解素(好ましくはニューモリシン)に結合させてもよい(例えば、Likhiteによる米国特許第4,372,945号、およびArmorらによる米国特許第4,474,757号)。好ましくは、CDAPコンジュゲート化を行う(WO95/08348)。免疫原性を高めるために、多糖はアジュバント添加してもよいし、かつ/または凍結乾燥してもよい。本発明の多糖は、その完全な大きさでもよいし、精製後にそれより小さい多糖やオリゴ糖に調製してもよい。
本発明のさらなる実施態様では、細胞溶解素、好ましくはニューモリシンを上記の多糖またはオリゴ糖のいずれかと組み合わせて、細胞溶解素を多糖またはオリゴ糖にコンジュゲートさせることなく、免疫原性組成物またはワクチンをつくることができる。
本発明の方法は、好ましくは、細胞溶解素(好ましくはニューモリシン)をワクチンへと製剤化するさらなるステップを含む。
「多糖」という用語には、生体から単離された完全な大きさの多糖が含まれ、また莢膜多糖、リポ多糖およびリポオリゴ糖が包含される。さらに、サイズを小さくした多糖およびオリゴ糖も含まれる。
本明細書において、「含んでいる(comprising)」、「含む(comprise)」および「含む(comprises)」という用語は、あらゆる場合において、それぞれ「からなっている(consisting of)」、「からなる(consist of)」および「からなる(consists of)」という用語に、発明者が任意で置換できることが意図される。
タンパク質および免疫原性組成物
本発明のさらなる実施形態は、本発明の方法により精製される細胞溶解素(好ましくはニューモリシン)である。これは、本発明の方法により製造されるニューモリシン-細菌莢膜多糖コンジュゲートを含む。
本発明のさらなる実施形態は、(上記のような)本発明の方法により得られる細胞溶解素(好ましくはニューモリシン)またはニューモリシン-細菌莢膜多糖を含む免疫原性組成物である。
本発明の免疫原性組成物は、好ましくは、肺炎球菌コリン結合タンパク質ファミリーの1種以上のメンバー(好ましくはコリン結合プロテインA)もしくはその免疫学的断片、および/またはポリヒスチジン三連構造ファミリー(それらの融合タンパク質を含む)の1種以上のメンバー(好ましくはPhtA、PhtB、PhtDもしくはPhtE)もしくはそれらの免疫学的断片をさらに含む。
コリン結合タンパク質ファミリー(CbpX)に関して言えば、このファミリーのメンバーは、元来、コリンアフィニティクロマトグラフィーにより精製可能な肺炎球菌タンパク質として同定された。コリン結合タンパク質は全て、細胞壁タイコ酸および膜結合リポタイコ酸のホスホリルコリン部分に非共有結合している。構造的には、それらはファミリー全体にわたって共通するいくつかの領域を有するが、それらタンパク質の正確な性質(アミノ酸配列、長さ、他)はさまざまに異なり得る。一般に、コリン結合タンパク質は、N末端領域(N)、保存されたリピート領域(R1および/またはR2)、プロリンリッチ領域(P)、および、複数のリピートから構成されておりそのタンパク質のほぼ半分を含む保存されたコリン結合領域(C)を含む。本出願で用いられる「コリン結合タンパク質ファミリー(CbpX)」という用語は、WO97/41151で同定されたコリン結合タンパク質、PbcA、SpsA、PspC、CbpA、CbpDおよびCbpGからなる群から選択される。CbpAは、WO97/41151に開示されている。CbpDおよびCbpGは、WO00/29434に開示されている。PspCは、WO97/09994に開示されている。PbcAは、WO98/21337に開示されている。SpsAは、WO98/39450に開示されているコリン結合タンパク質である。好ましくは、コリン結合タンパク質は、CbpA、PbcA、SpsAおよびPspCからなる群から選択される。
別の好ましい実施形態は、CbpX末端切断体であり、ここで、「CbpX」とは上記で定義されており、「末端切断体」とは、コリン結合領域(C)の50%以上が欠失しているCbpXタンパク質を言う。好ましくは、そのようなタンパク質は、コリン結合領域全体を欠失している。さらに好ましくは、そのようなタンパク質の末端切断体は、(i)コリン結合領域、そして(ii)そのタンパク質のN末端側半分の一部も欠失しているが、なお少なくとも1つのリピート領域(R1またはR2)を保持している。さらにより好ましくは、この末端切断体は、2つのリピート領域(R1およびR2)を有し、さらに好ましくは、この末端切断体はプロリンリッチ領域(P)を保持している。そのような好ましい実施形態の例は、WO99/51266またはWO99/51188で例示されているようなNR1xR2およびR1xR2ならびにNR1XR2Pであるが、同様のコリン結合領域を欠失している他のコリン結合タンパク質もまた、本発明の範囲内であることが意図される。
LytXファミリーは、細胞溶解に関係する膜結合タンパク質である。N末端ドメインは、コリン結合ドメインを含んでいるが、LytXファミリーは、上記で述べたようなCbpAファミリーに見られる特徴全てを備えてはおらず、したがって、LytXファミリーはCbpXファミリーとは区別されると考えられる。CbpXファミリーとは違って、そのC末端ドメインは、LytXタンパク質ファミリーの触媒ドメインを含んでいる。このファミリーには、LytA、BおよびCが含まれる。LytXファミリーについては、LytAがRondaら, Eur J Biochem, 164:621-624 (1987)に開示されている。LytBはWO98/18930に開示されており、Sp46とも呼ばれる。LytCもまたWO98/18930に開示されており、Sp91とも呼ばれる。このファミリーの好ましいメンバーはLytCである。
別の好ましい実施形態は、LytX末端切断体であり、ここで、「LytX」は上記で定義されており、「末端切断体」とは、コリン結合領域の50%以上を欠失しているLytXタンパク質をいう。好ましくは、そのようなタンパク質は、コリン結合領域の全体を欠失している。そのような末端切断体の例は、本明細書の実施例の項に見ることができる。
本発明のさらに別の好ましい実施形態は、CbpX末端切断体-LytX末端切断体キメラタンパク質(または融合体)である。好ましくは、これは、CbpXのNR1xR2(またはR1xR2またはNR1XR2P)およびLytXのC末端部分(Cterm、すなわちコリン結合ドメインを欠失しているもの)(例えばLytCCtermまたはSp91Cterm)を含む。さらに好ましくは、CbpXは、CbpA、PbcA、SpsAおよびPspCからなる群から選択される。さらになお好ましくは、それはCbpAである。好ましくは、LytXはLytCである(これはまたSp91とも呼ばれる)。
本発明の別の実施形態は、PspAまたはPsaA、または場合によりLytXとの融合タンパク質として発現されるコリン結合ドメイン(C)を欠失している末端切断体である。好ましくは、LytXはLytCである。
Pht(ポリヒスチジン三連構造)ファミリーには、タンパク質PhtA、PhtB、PhtDおよびPhtEが含まれる。このファミリーは、脂質付加配列、プロリンリッチ領域で隔てられた2つのドメイン、および幾つかのヒスチジン三連構造(おそらく金属もしくはヌクレオシド結合活性または酵素活性に関与すると思われる)、(3−5)コイルドコイル領域、保存されたN末端、および不均一C末端を特徴とする。それは、試験した全ての肺炎球菌株に存在する。相同なタンパク質もまた、他のストレプトコッカス属およびナイセリア属において見出だされている。このファミリーの好ましいメンバーは、PhtA、PhtBおよびPhtDを含む。さらに好ましくは、それはPhtAまたはPhtDを含む。しかし、PhtA、B、DおよびEという用語は、下記の引用文献に開示されている配列を有するタンパク質だけでなく基準タンパク質と少なくとも90%同一である配列相同性を有するそれらの天然に存在する(および人為的な)変異体を言うものと理解される。好ましくは、それは、少なくとも95%同一であり、最も好ましくは、それは97%同一である。
本発明の免疫原性組成物は、ヒスチジン三連構造タンパク質の融合タンパク質を組み入れてもよい。これらには、1つのヒスチジン三連構造タンパク質またはその断片が、第2のヒスチジン三連構造タンパク質またはその断片と連結されている融合タンパク質が含まれる。好ましい融合タンパク質は、i)PhtEもしくはその断片に連結されているPhtDもしくはその断片、またはii)PhtEもしくはその断片に連結されているPhtBもしくはその断片、を含む。
PhtXタンパク質に関しては、PhtAはWO98/18930に開示されており、Sp36とも呼ばれる。上記で述べたように、それはポリヒスチジン三連構造ファミリー由来のタンパク質であり、LXXCのII型シグナルモチーフを有する。
PhtDは、WO00/37105に開示されており、Sp036Dとも呼ばれる。上記で述べたように、それもまた、ポリヒスチジン三連構造ファミリー由来のタンパク質であり、LXXCのII型シグナルモチーフを有する。PhtBは、WO00/37105に開示されており、Sp036Bとも呼ばれる。PhtBファミリーの別のメンバーが、WO00/17370に開示されているようなC3分解性ポリペプチドである。このタンパク質もまた、ポリヒスチジン三連構造ファミリー由来であり、LXXCのII型シグナルモチーフを有する。好ましい免疫学的機能性等価物は、WO98/18930に開示されているタンパク質Sp42である。PhtB末端切断体(約79kD)はWO99/15675に開示されており、これもまたPhtXファミリーのメンバーであると考えられる。
PhtEは、WO00/30299に開示されており、BVH-3と呼ばれる。
中耳炎に関与する2種以上の病原体に対して免疫応答を惹起させることができる本発明の免疫原性組成物を作製するためには、本発明の免疫原性組成物は、S.ニューモニエ、不定型ヘモフィルス・インフルエンザ、モラクセラ・カタラーリス、RSV、パラインフルエンザウイルスおよび/またはインフルエンザウイルスの1種以上(2種、3種、4種、5種、6種)由来の抗原をさらに含むことが有利である。
本発明はまた、一連の異なる病原体に対して保護をもたらす混合ワクチンを企図する。現在、多くの小児用ワクチンは、小児に投与する注射の回数を減らすような混合ワクチンとして提供されている。したがって、小児用ワクチンでは、他の病原体由来の他の抗原を、本発明のワクチンと共に製剤化してもよい。例えば、本発明のワクチンは、ジフテリアトキソイド(DT)、破傷風トキソイド(TT)および百日咳成分[典型的には、任意にペルタクチン(PRN)および/またはアグルチニン1+2を含む無毒化百日咳トキソイド(PT)および線維状赤血球凝集素(FHA)]を含む周知の「3価」混合ワクチンと共に、例えばDT、TT、PT、FHAおよびPRN抗原を含む市販のワクチンINFANRIX-DTPa(商標)(SmithKlineBeecham Biologicals)と共に、または全細胞百日咳成分、例えばSmithKlineBeecham Biologicals s.a.からTritanrix(商標)として市販されているものと共に、製剤化できる(または別々にしかし同時に投与してもよい)。混合ワクチンはまた、B型肝炎表面抗原(HBsAg)、ポリオウイルス抗原(例えば不活性型3価ポリオウイルス−IPV)、モラクセラ・カタラーリス外膜タンパク質、不定型ヘモフィルス・インフルエンザタンパク質、N.メニンギティディスB外膜タンパク質などの他の抗原を含んでもよい。
混合ワクチン(特に中耳炎の予防用)に含めることが可能な好ましいモラクセラ・カタラーリスタンパク質抗原の例は、OMP106[WO97/41731(Antex)およびWO96/34960(PMC)];OMP21;LbpAおよび/またはLbpB[WO98/55606(PMC)];TbpAおよび/またはTbpB[WO97/13785およびWO97/32980(PMC)];CopB[Helminen MEら (1993) Infect. Immun. 61:2003-2010];UspA1および/またはUspA2[WO93/03761(University of Texas)];OmpCD;HasR(PCT/EP99/03824);PilQ(PCT/EP99/03823);OMP85(PCT/EP00/01468);lipo06(GB 9917977.2);lipo10(GB 9918208.1);lipo11(GB 9918302.2);lipo18(GB 9918038.2);P6(PCT/EP99/03038);D15(PCT/EP99/03822);OmplA1(PCT/EP99/06781);Hly3(PCT/EP99/03257);ならびにOmpEがある。混合ワクチン(特に中耳炎の予防用)に含めることが可能な不定型ヘモフィルス・インフルエンザ抗原の例としては、フィンブリンタンパク質[(US 5766608) - Ohio State Research Foundation]およびそれに由来するペプチドを含む融合体[例えばLB1(f)ペプチド融合体;US 5843464 (OSU)またはWO99/64067];OMP26[WO97/01638(Cortecs)];P6[EP 281673(State University of New York)];TbpAおよび/またはTbpB;Hia;Hsf;Hin47;Hif;Hmw1;Hmw2;Hmw3;Hmw4;Hap;D15(WO94/12641);プロテインD(EP 594610);P2;ならびにP5(WO94/26304)が挙げられる。
想定される他の組合せは、本発明の細胞溶解素(好ましくはニューモリシン)を、例えばインフルエンザ(弱毒化物、分割物、またはサブユニット[例えば表面糖タンパク質ノイラミニダーゼ(NA)およびヘマグルチニン(HA)、例えばChaloupka I.ら, Eur. Journal Clin. Microbiol. Infect. Dis. 1996, 15:121-127を参照]、RSV(例えば、FおよびG抗原またはF/G融合体、例えばSchmidt A. C.ら, J Virol, May 2001, p4594-4603を参照)、パラインフルエンザウイルス3(PIV3)(例えばHNおよびFタンパク質、Schmidtら、前掲を参照)、水痘(例えば弱毒化物、糖タンパク質I-V、等)、ならびにMMR(麻疹、おたふくかぜ、風疹)の任意(または全て)の成分に由来するウイルス抗原と、組み合わせたものである。
ワクチン
本発明のさらなる実施形態は、本発明の方法により得られる細胞溶解素(好ましくはニューモリシン)もしくはニューモリシン-細菌莢膜多糖コンジュゲートと、薬学的に許容される賦形剤と、場合によりアジュバントとを含むワクチンである。
本発明のワクチンは、上記の本発明の免疫原性組成物と、薬学的に許容される賦形剤とを含むことができる。
本発明のワクチンは、S.ニューモニエ感染および/または中耳炎に対する保護的免疫応答を引き起こすことができる。
本発明のさらなる実施形態は、本発明の方法により製造される細胞溶解素(好ましくはニューモリシン)を取り出し、それを、薬学的に許容される賦形剤と場合により上記1種以上の別の抗原と共に、ワクチンとして製剤化することによる、ワクチンの製造方法を包含する。
本発明のもう1つの実施形態は、本発明のワクチンまたは免疫原性組成物を投与することを含む、細菌感染、好ましくはストレプトコッカス・ニューモニエ感染または中耳炎の治療方法または予防方法を包含する。
本発明のさらなる実施形態は、細菌感染、好ましくはストレプトコッカス・ニューモニエ感染または中耳炎を治療または予防するためのワクチンの調製における、いずれも本発明の方法により得られる細胞溶解素(好ましくはニューモリシン)および/またはニューモリシン−細菌莢膜多糖コンジュゲートの使用である。
本発明のワクチンは、好ましくはアジュバント添加したものである。好適なアジュバントとしては、水酸化アルミニウムゲル(alum)またはリン酸アルミニウムなどのアルミニウム塩が挙げられるが、カルシウム、マグネシウム、鉄または亜鉛の塩であってもよく、あるいは、アシル化チロシンまたはアシル化糖、カチオンもしくはアニオン誘導体化多糖またはポリホスファゼンの不溶性懸濁液であってもよい。
アジュバントは、TH1型応答の優勢誘発物質であるように選択されることが好ましい。そのような高レベルのTh1型サイトカインは、所与の抗原に対する細胞媒介性免疫応答の誘導に有利に働く傾向があり、一方、高レベルのTh2型サイトカインは、その抗原に対する体液性免疫応答の誘導に有利に働く傾向がある。
Th1型とTh2型の免疫応答の区別は絶対的なものではないことに留意することは重要である。実際に、人は、Th1優勢であるとかTh2優勢であると言い表される免疫応答を有する。しかし、たいていの場合、サイトカインのファミリーを、MosmannおよびCoffmanによりマウスCD4 +ve T細胞クローンにおいて記載されている用語として考えることが好都合である(Mosmann, T.R.およびCoffman, R.L. (1989) TH1 and TH2 cells: different patterns of lymphokine secretion lead to different functional properties. Annual Review of Immunology, 7, p145-173)。従来、Th1型応答は、Tリンパ球によるINF-γおよびIL-2サイトカインの産生に関係している。しばしばTh1型免疫応答の誘導と直接的に関係する他のサイトカインは、IL-12などのように、T細胞によって産生されるものではない。これに対して、Th2型応答は、Il-4、IL-5、IL-6、IL-10の分泌に関係している。優勢Th1応答を促進する好適なアジュバント系としては、モノホスホリルリピドAまたはその誘導体、特に3-デ-O-アシル化モノホスホリルリピドA(3D-MPL)(その調製についてはGB 2220211 Aを参照されたい); ならびにモノホスホリルリピドA(好ましくは3-デ-O-アシル化モノホスホリルリピドA)とアルミニウム塩(例えばリン酸アルミニウムもしくは水酸化アルミニウム)または水中油型エマルジョンとの組合せが挙げられる。そのような組合せでは、抗原と3D-MPLとは、同じ微粒子構造中に含まれて、それにより抗原性および免疫刺激性のシグナルをいっそう効率的に送達できるようにする。研究から、3D-MPLがアルム吸着抗原の免疫原性をさらに増強することができることが示されている[Thoelenら. Vaccine (1998) 16:708-14;EP 689454-B1]。
増強した系は、WO94/00153に開示されているようなモノホスホリルリピドAとサポニン誘導体との組合せ、特にQS21と3D-MPLとの組合せ、またはWO96/33739に開示されているようなQS21がコレステロールによりクエンチングされている反応原性の低い組成物を含む。
水中油型エマルジョン中にQS21、3D-MPLおよびトコフェロールを含む特に強力なアジュバント製剤はWO95/17210に記載されており、これは好ましい製剤である。
好ましくは、上記ワクチンは、サポニン、さらに好ましくはQS21をさらに含む。この製剤はまた、水中油型エマルジョンおよびトコフェロールを含むことができる(WO95/17210)。
本発明はまた、本発明の細胞溶解素を薬学的に許容される賦形剤(例えば3D-MPL)と混合することを含む、ワクチン製剤の製造方法を提供する。
非メチル化CpG含有オリゴヌクレオチド(WO96/02555)もまた、TH1応答の好ましい誘発物質であり、本発明における使用に適している。
本発明のさらなる態様においては、医薬において使用するための本明細書に記載のワクチンが提供される。1つの実施形態では、高齢者(55歳を超える)における肺炎の予防または軽減方法であって、安全かつ有効な量の本発明のワクチンを、場合によってはTh1アジュバントと共にその高齢患者に投与することを含む方法がある。
さらなる実施形態においては、乳児(24月齢以下)または小児(典型的には24月齢〜5才)における中耳炎の予防または軽減方法であって、本発明の細胞溶解素(好ましくはニューモリシン)を、任意に上記のさらなる1種以上の抗原および場合によってはTh1アジュバントと共に含むワクチンの安全かつ有効な量を、その乳児または小児に投与することを含む方法が提供される。
本発明のワクチン調製物は、そのワクチンを全身的経路または粘膜経路で投与することにより、感染を受けやすい哺乳動物(好ましくはヒト患者)の保護または治療に使用できる。これらの投与としては、筋肉内、腹腔内、皮内または皮下経路での注射、または口腔/消化管、気道、尿生殖路への粘膜投与による注入が挙げられる。肺炎または中耳炎を治療するためのワクチンの鼻腔内投与が好ましい(ニューモコッカス属の鼻咽伝播を効果的に予防でき、したがって、その最も初期段階で感染を減衰させるので)。本発明のワクチンは単回用量として投与することができるが、その成分を同時または時間をずらして共投与してもよい(例えば、ワクチン中に多糖が存在する場合、互いに免疫応答の協働性を最適にするために、これらは同時に、または細菌性タンパク質の組合せの投与の1〜2週間後に、別々に投与してもよい)。単一の投与経路に加えて、2種類の異なる投与経路を用いることも可能である。例えば、ウイルス性抗原はID(皮内)で投与し、一方、細菌性タンパク質はIM(筋肉内)またはIN(鼻腔内)で投与してもよい。多糖が存在する場合、それらはIM(またはID)で、細菌性タンパク質はIN(またはID)で投与することができる。さらに、本発明のワクチンは、初回投与ではIMで、追加投与ではINで投与することができる。
各ワクチン用量中のコンジュゲート抗原の量は、通常のワクチンにおいて著しい有害な副作用を引き起こさずに免疫保護応答を誘導する量として選択される。そのような量は、具体的にどのような免疫原が用いられるのか、それがどのように提供されるのか、によって異なる。ワクチン中のタンパク質抗原の含有量は、典型的には1〜100μg、好ましくは5〜50μgの範囲、最も典型的には5〜25μgの範囲である。多糖が含まれる場合、一般に、各用量が0.1〜100μgの多糖、好ましくは0.1〜50μg、さらに好ましくは0.1〜10μgを含み、1〜5μgが最も好ましい範囲であると予測される。
特定のワクチンの各成分の最適量は、被験体において適切な免疫応答を観察することを含む標準的な研究により確認できる。初回ワクチン投与の後、被験体は、適当に間隔をあけて1回〜数回の追加免疫を受けることができる。典型的には、ワクチンは、抗原(タンパク質)、アジュバント、および賦形剤もしくは薬学的に許容される担体を含む。
ワクチン調製物は、概説的には、「ワクチン設計(Vaccine Design)(“The subunit and adjuvant approach” (Powell M.F. & Newman M.J.編) (1995) Plenum Press New York)」に記載されている。リポソーム中へのカプセル封入は、Fullerton、米国特許第4,235,877号により記載されている。
本発明のワクチンは、どのような経路で投与してもよいが、記載のワクチンの皮膚中への投与(ID)は、本発明の1つの実施形態を構成する。ヒトの皮膚は、角質層と呼ばれる外側の「角質」小皮を含み、これが表皮を覆っている。この表皮の下部には、真皮と呼ばれる層が存在し、これが同様に皮下組織を覆っている。研究者により、ワクチンを皮膚(特に真皮)に注射すると、さらなるいくつかの利点とも関連するであろう免疫応答が刺激されることが示された。本明細書で記載するワクチンによる皮内ワクチン接種は、本発明の好ましい特徴を構成する。
従来の皮内注射方法(「マントー(mantoux)法」)は、皮膚を清浄し、次に一方の手で引っ張り、細いゲージの針(26〜31ゲージ)の斜面を上に向けて、その針を10〜15°の角度で挿入するステップを含む。針の斜面が挿入されたら、針の斜面を浅く刺し、それを皮膚の下で持ち上げるようにして僅かな圧力をかけながら、さらに進入させる。次に、液体を非常にゆっくりと注入し、そうして皮膚表面にブレブまたは隆起を形成させ、次に針をゆっくり引き抜く。
ごく最近になって、液剤を皮膚内部に、または皮膚を通して投与するように特に設計された装置が記載され(例えばWO99/34850およびEP 1092444に記載されている装置)、また、ジェット注入装置も例えばWO01/13977;US 5,480,381、US 5,599,302、US 5,334,144、US 5,993,412、US 5,649,912、US 5,569,189、US 5,704,911、US 5,383,851、US 5,893,397、US 5,466,220、US 5,339,163、US 5,312,335、US 5,503,627、US 5,064,413、US 5,520,639、US 4,596,556、US 4,790,824、US 4,941,880、US 4,940,460、WO97/37705およびWO97/13537に記載されている。ワクチン調製物の別の皮内投与方法は、慣用のシリジンと針、または固形ワクチンの衝撃送達(ballistic delivery)用に設計された装置(WO99/27961)、または経皮パッチ(WO97/48440;WO98/28037)、あるいは皮膚表面への塗布(経皮(transdermal or transcutaneous)送達、WO98/20734;WO98/28037)を含み得る。
本発明のワクチンを皮膚、具体的には真皮に投与しようとする場合、そのワクチンは少ない液量、特には約0.05ml〜0.2mlの容量とする。
本発明の皮膚用または皮内用ワクチン中の抗原の含有量は、筋肉内ワクチンで見られるような従来の用量とほぼ同じとすることができる。したがって、皮内用ワクチン中に存在するタンパク質抗原は、1〜100μg、好ましくは5〜50μgの範囲とすることができる。同様に、多糖コンジュゲート抗原が存在する場合、各ワクチン中のその抗原の量は、一般に、0.1〜100μg、好ましくは0.1〜50μg、好ましくは0.1〜10μgの多糖を含むと予測され、1〜5μgとすることができる。しかし、皮膚用または皮内用ワクチンの1つの特徴は、製剤を「低用量」とすることができる点である。したがって、「低容量」ワクチン中のタンパク質抗原は、好ましくは、1回用量当たり0.1〜10μgという少量、好ましくは0.1〜5μgで存在し、多糖コンジュゲート抗原が存在する場合、それは1回用量当たり多糖が0.01〜1μg、好ましくは0.01〜0.5μgの範囲で存在することができる。
本明細書中で用いられる「皮内送達」という用語は、ワクチンを皮膚の真皮の領域へと送達することを意味する。しかし、ワクチンは、必ずしも真皮だけに存在しなくてもよい。真皮は、ヒトの皮膚の表面から約1.0〜約2.0mmのところに位置する層であるが、個体間および身体の各種の部分間で多少の変動がある。一般に、皮膚表面から1.5mmまでのところまでいくと真皮に到達すると期待できる。真皮は、表面の角質層および表皮とその下の皮下層の間に位置している。ワクチンは、送達様式に応じて、最終的に真皮内部だけに、または主に真皮内部に存在してもよいし、あるいは、最終的には表皮および真皮の内部で散在していてもよい。
本発明の免疫原性組成物およびワクチンは、種々の動物モデルまたはヒト血清中で評価できる。一例として、次の動物モデルを用いて肺炎球菌感染を評価することができる。C3H/HeJマウス(6〜8週齢)を、アジュバントとして50μlのCFAを添加した15μgのタンパク質でs.c.免疫し、3〜4週間後、IFAを含む15μgのタンパク質で追加免疫することができる。全身感染からの受動および能動保護を実証するために、マウスに免疫血清またはタンパク質を腹腔内投与した後、腹腔内注射によりチャレンジしたところ、第8〜10週において、肺炎球菌のLD50が15〜90となった。さらに、タンパク質は、マウス鼻咽頭コロニー形成モデルで試験することができる(Wuら, Microbial Pathogenesis 1997; 23:127-137)。
マウスに加えて、乳仔ラットはコロニー形成やS.ニューモニエ感染を受けやすい。受動保護研究において、2〜5日齢の乳仔ラット幼体において、マウス免疫血清を投与した後(i.p.で100μlまたはi.n.で10μl)、S.ニューモニエ(10μl)の鼻腔内投与によりチャレンジを行うことができる。コロニー形成は、鼻洗浄物(20〜40μlを注入し、10μlを取り出す)をプレーティングすることにより測定できる。
混合ワクチンのタンパク質(またはタンパク質と多糖)成分間の好ましい相互作用は、1価ワクチンでは十分保護できないであろう用量の各タンパク質(またはタンパク質と多糖)を含むワクチンを投与することにより実証できる。1価ワクチンと比較した混合ワクチンの保護効力の増大は、それら成分間での望ましい相互作用に起因するであろう。
添付の実施例において、本発明を説明する。実施例は、別段の記載がない限り、当業者にとっては周知かつルーチンである標準的な技法を用いて実施する。これらの実施例は例示するためのものであり、本発明を限定するものではない。
実施例1−ニューモリシンの精製
ニューモリシンは、大腸菌培養物において組換えによって発現された。温度を39.5℃まで上昇させることにより大腸菌培養物の誘導を18時間行った後、大腸菌を、17,000gで1時間遠心分離することによりペレット化した。このペレットを25mMのジエタノールアミン(pH9.0)に再懸濁し、Rannie装置内で500PSIにて1パスを用いて大腸菌を機械的に破壊した。1%ラウロイルサルコシン酸ナトリウム(SLS)を破壊した大腸菌に添加し、混合物を室温で1時間インキュベートした後、30,000gで20分間遠心分離して、細胞破砕物をペレット化した。上清を1M NaClおよび1%SLSを含有する20mMリン酸(pH7.0)中で最終的に2.5倍に希釈し、次に、同じ緩衝液(1M NaClおよび1%SLSを含有する20mMリン酸、pH7.0 =平衡化緩衝液)で平衡化したフェニル-セファロースHPカラムにローディングした。カラムを4倍カラム容量の平衡化緩衝液で洗浄し、次に2倍カラム容量の0.5M NaClおよび1%SLSを含有する20mMリン酸緩衝液(pH7.0)で洗浄した。1%SLS含有20mMリン酸緩衝液(pH7.0)を含有する低塩緩衝液をアプライすることにより、カラムからニューモリシンを溶出させた。SDS-PAGE分析を用いてニューモリシンを含む画分を同定し、プールし、その緩衝液を透析濾過により25mMジエタノールアミン(pH9.0)に交換した。
固体塩酸グアニジンを最終濃度が6Mになるまで添加し、1時間インキュベートすることにより、ニューモリシンを変性させて、可溶化した。次に、それを、1mM DTTを含有する25mM ジエタノールアミン(pH9.0)中の8M尿素に対して透析濾過した。ニューモリシンを、1mM DTTを含有する20mMホウ酸緩衝液(pH9.0)に対して透析濾過することによりリフォールディングした。再生後、20mMホウ酸緩衝液(pH9.0)に対して透析濾過することによりDTTを除去した。
得られたニューモリシンの純度を、SDS-PAGEで泳動し、クーマシーブリリアントブルーで染色することにより分析した。個々のゲルを、大腸菌に対する抗体を用いたウエスタンブロッティングにより分析して、精製ニューモリシン調製物中に残存する大腸菌タンパク質のレベルを検出した。精製ニューモリシンの生物学的活性は、in vitro溶血アッセイを用いて評価した。
結果
図1に示すように、上記の方法は、単一のクロマトグラフィーステップ後にニューモリシンの高効率な精製をもたらすことができた。パネルAにおけるクーマシーブルー染色ゲルは、塩化ナトリウムが添加されていない低塩緩衝液によるカラムの溶出により、そのカラムからニューモリシンに対応する53kDaのバンドを高度に精製された形態で溶出できたことを示している。約45kDaのずっと薄いバンドもニューモリシンであると考えられる。何故ならば、この第2のバンドは、抗ニューモリシン抗体に結合し(結果は示さず)、またパネルBに示すように抗大腸菌抗体には結合しないからである。パネルBのウエスタンブロットは、精製ニューモリシン中に残存する混入タンパク質を検出する非常に高感度な方法である。この方法により、ごく僅かな混入物を検出できたが、その存在物は、クーマシー染色の検出レベルを下回る低レベルであった。したがって、ニューモリシンは、98〜100%の純度のレベルまで精製される。
この精製方法の収量も良好であり、典型的な操作により、発酵1リットル当たり約1900mgのニューモリシンが得られる。発酵培養物からのタンパク質の約10%が、精製ニューモリシンとして回収された。
溶血アッセイにおけるニューモリシンの活性は、ニューモリシンを塩酸グアニジン/尿素で処理し、変性剤の除去によりリフォールディングした後で評価した。溶血活性を、1.3ng/mlの濃度まで希釈した精製ニューモリシンの希釈物中で検出したところ、溶血活性が再確立されたことが示された。これは、500,000〜1,000,000溶血単位/mg(野生型ニューモリシン)に相当する。
実施例2 遠心分離をしないニューモリシンの精製
ニューモリシンは、大腸菌培養物中で遺伝子組換えして発現させた。温度を39.5℃まで上昇させることにより大腸菌培養物の誘導を18時間行った後、培養物を20℃まで冷却し、最終濃度が1%になるようにラウロイルサルコシン酸ナトリウム(SLS)を培養物に添加した。培養物はSLSの存在下で30分間インキュベートした。ジエタノールアミン(DEA)を最終濃度が25 mM(pH 9.0)になるよう培養物に添加した。培養物はRannie装置内を1000 PSIにて4回パスさせ、機械的に破壊した。培養物は、OD600が60と等価となるまで希釈し、0.65 μm厚のフィルター(例えば、Millistock COHC フィルター)に通過させ、前濾過した。濾過した培養物は、1%SLSおよび2M NaClを含有する緩衝液(pH 7.0)で2.5倍に希釈した。濾過した培養物は緩衝液(1M NaClおよび1%SLSを含有する20mMリン酸、pH 7.0 =平衡化緩衝液)で平衡化したフェニル-セファロースHPカラム(Amersham)にローディングした。カラムを4倍カラム容量の平衡化緩衝液で洗浄し、次に2倍カラム容量の0.5M NaClおよび1%SLSを含有する20 mMリン酸緩衝液(pH 7.0)で洗浄した。1%SLS含有20 mMリン酸緩衝液(pH 7.0)を含有する(NaClを含まない)低塩緩衝液をアプライすることにより、カラムからニューモリシンを溶出させた。単一のカラムステップで、少なくとも純度90%のニューモリシンを産生することができた。より高いレベルの純度が必要な場合は、ゲル濾過カラムにニューモリシンを通過させて、得ることができる。SDS-PAGE分析を用いてニューモリシンを含む画分を同定し、プールし、その緩衝液を透析濾過により25 mMジエタノールアミン(pH 9.0)に交換した。
固体塩酸グアニジンを最終濃度が6Mになるまで添加し、1時間インキュベートすることにより、ニューモリシンを変性させて、可溶化した。次に、それを、1mM DTTを含有する25 mM ジエタノールアミン(pH 9.0)中の8M尿素に対して透析濾過した。ニューモリシンを、1 mM DTTを含有する20 mMホウ酸緩衝液(pH 9.0)に対して透析濾過することによりリフォールディングした。最後の透析濾過は、はじめの1時間は100 ml/分、次の1時間は200 ml/分、3度目の1時間は300 ml/分、およびさらに2〜3時間は400 ml/分の流速でおこなった。再生後、20 mMホウ酸緩衝液(pH 9.0)に対して透析濾過することによりDTTを除去した。精製した活性ニューモリシンは、4℃または-20℃以下で凍結保存した。
得られたニューモリシンの純度は、SDS-PAGEで泳動し、クマシーブリリアントブルーで染色することにより分析した。この方法により得られたニューモリシンの収量は、発酵1リットルあたり約1000 mgであった。HR400ゲル濾過カラムで分析した結果、ニューモリシンの90〜95%は単量体であった。in vitro溶血アッセイの結果、ニューモリシンが正しくリフォールディングされたことが実証され、溶血活性が維持されたことが示された。
実施例3−GMBSを用いたS.ニューモニエ・ニューモリシンの無毒化
精製ニューモリシンは、NHSエステル-マレイミド架橋試薬GMBS(N-(γ-マレイミドブチリルオキシ)スクシンイミドエステル)を用いてスルフヒドリルおよび第一級アミン基を修飾することにより無毒化した。1 mg/mlの濃度のニューモリシンを、50 mMホウ酸緩衝液(pH 9.0)に対して透析した。GMBSをまずDMSOに溶解させ、それをGMBSが248倍モル過剰となるようニューモリシンに添加した。処理を室温で1時間継続した。過剰なGMBSおよび副生成物を、100mMリン酸ナトリウム(pH6.8)に対する透析により除去した。0.6mg/mlのシステインと室温にて2時間反応させることにより、さらなるマレイミド基をクエンチングした。過剰なシステインを除去するために、サンプルを2mMリン酸ナトリウム(pH7.15)に対して透析した。
実施例4−GMBSを用いたS.ニューモニエ・ニューモリシンの無毒化
精製ニューモリシンは、NHSエステル-マレイミド架橋試薬GMBS(N-(γ-マレイミドブチリルオキシ)スクシンイミドエステル)を用いてスルフヒドリルおよび第一級アミン基を修飾することにより無毒化した。0.5 mg/mlの濃度のニューモリシンをKH2PO4およびNaClを添加した250 mM緩衝液(pH 7.5)に加えた。GMBSをまずDMSOに溶解させ、それをGMBSが248倍モル過剰となるようニューモリシンに添加した。処理は室温で1時間継続した。過剰なGMBSおよび副生成物を、2 mMリン酸ナトリウム(pH 7.15)に対し30kDの膜で透析濾過して除去した。その後、NaH2PO4を添加してpHを6.8に調整した。さらに、室温にて2時間0.6 mg/mlのシステインと反応させて、マレイミド基をクエンチングさせた。過剰なシステインを除去するために、サンプルを2mMリン酸ナトリウム(pH 7.15)に対して透析濾過し1 mg/mlまで濃縮した。
実施例5- GMBSを用いたS.ニューモニエ・ニューモリシンの無毒化
ニューモリシンはまず、50 mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.2)に対して透析した。へテロ二官能性架橋試薬GMBS(N-(γ-マレイミドブチリルオキシ)スクシンイミドエステル、ピアス社)をDMSOに溶解させ10 mg/mlとした。ニューモリシン1 mlに対し、選択量(1 mg/ml)に等しくなるよう一定分量のGMBSを添加した。室温で60分間処理した後、活性化ニューモリシンは、PD10カラム(Amersham)内で、またはゲル濾過(Toyopearl HW-40、XK 16/40、100 mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 6.8)で溶出)により、または透析により過剰な試薬およびGMBSの副生成物を除去して、精製した。Ellmanテスト(Aitken及びLeurmonth p487-488 The protein protocols handbook Ed: J.M. Walker (1996))によりマレイミド基を検出して、PLYが誘導体化された割合を測定した。無毒化過程の最終ステップとして、マレイミド基をシステイン溶液により(4 mg/mlのシステイン(Merck)と室温にて60分間インキュベートさせて)クエンチングさせた。過剰なシステインを除去するため、サンプルを100 mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 6.8)に対し透析した。その後、サンプルは滅菌消毒した0.22μmの膜で濾過した。
実施例6−無毒化ニューモリシンの特性決定
溶血活性
溶血アッセイを用いて、無毒化ニューモリシンの残存毒性を評価した。ニューモリシンの連続2倍希釈物を、ヒツジ赤血球と共にインキュベートした。遠心分離した後、上清をイムノプレートに移し、放出されたヘモグロビンを、405nmでの光学密度の読み取りを用いて測定した。結果は、OD曲線の中点に対応するng/ml(ニューモリシン)として表した。このアッセイを、無毒化ニューモリシンを37℃で7日間インキュベートした後で繰り返して、無毒化の可逆性をモニターした。
表1に示すように、GMBSで処理すると、PLYの溶血活性を実質的に低下させることができ、溶血活性を最大3,000倍低下させることができた。GMBS/リジンのモル比を高くするほど、溶血活性をより良好に排除することができ、本実験ではそれは4/1および5/1が最適であった。この処理により、結果として約14個のリジン残基が修飾されるものと見積もられた。修飾されたリジン残基の数が少ないほど、溶血活性の低下は小さかった。
ELISA
無毒化ニューモリシンの抗原性を、ELISAにより評価した。ELISAプレートをモルモット抗-ニューモリシン抗体で被覆した。ニューモリシンの希釈物を含有するサンプルを、このプレート内で、室温で1時間インキュベートした。洗浄した後、結合したニューモリシンを、西洋ワサビペルオキシダーゼとコンジュゲートさせた、ニューモリシンに対するウサギ・ポリクローナル抗体を用いて検出した。このプレートを洗浄した後、基質反応を用いて、各ウェルに結合したニューモリシンの量を評価した。
表1に示すように、GMBSで処理すると、ELISAで評価した場合の抗原性は多少失われた。しかし、ELISAでの測定値は、未処理のPLYによってもたらされた値の約66%であり、このことから、多くの抗体が依然として修飾ニューモリシンを認識できることが示された。
SDS-PAGE分析
無毒化ニューモリシンタンパク質をSDS-PAGE(Novex 4〜20%ポリアクリルアミドゲルゲル Invitrogen)上で泳動し、クーマシーブリリアントブルーを用いてそのタンパク質を可視化した。図2に示すように、GMBSで処理すると、PLYの分子量が53kDaから約56kDaへと僅かに増大した。この増大は、複数のアミノ酸残基がGMBSで修飾されたことによる。分子量が約110kDaおよび170kDaの薄いバンドの出現から判るように、PLYの一部が多量体形態へと変換されるが、大部分のPLYは、本質的に単量体形態のままである。PLYを37℃で7日間インキュベートしたところ、SDS-PAGEでのPLYの外観は実質的に変化しなかったが、このことは修飾PLYが変性またはその後の共有結合した多量体の形成を生じないことを示している。
Figure 0004934591
試行は、1mgのPLY(1mg/ml)について実施したが、最後のアッセイでは3mg(0.68 mg/mlのPLY)を処理した。
実施例7−ラットにおける無毒化ニューモリシンの反応原性評価
OFAラット3匹からなる群を、食塩水、ニューモリシン、またはGMBS無毒化ニューモリシン、アジュバント添加GMBD無毒化ニューモリシン、NHS-アセテート無毒化ニューモリシンの筋肉内(脛骨筋)接種により、一回免疫した。免疫した3日後、全てのラットを屠殺し、脛骨筋を組織学的実験用に調製した。脛骨筋をホルマリンで固定し、2mmの切片に切断し、これを脱水し、パラフィン包埋した。7μmの切片を切り出し、マッソン・トリクローム(Trichrome Masson)法を用いて染色した後で、顕微鏡観察により調べた。
反応原性(reactogenicity)は、次の4つの基準を用いて評価した:変性/壊死、筋内膜炎症、出血、および腱膜炎症。それぞれの組織学的基準について、各群の各筋肉にスコアを付け、次に各群について平均損傷スコアを算出した。スコア0=正常、1=最小、2=軽度、3=中程度、4=顕著、5=重篤。
結果
切片の組織学を調べた。変性/壊死、筋内膜炎症、出血、および腱膜炎症についての平均スコアを表2に示す。
Figure 0004934591
天然ニューモリシンと無毒化ニューモリシンの組織学的スコアの比較から、GMBSが、ニューモリシンの無毒化に使用するのに特に有効な架橋試薬であることが示され、変性/壊死、筋内膜炎症、出血、および腱膜炎症が大きく低下した。
実施例8−マウスにおけるGMBS処理ニューモリシンの毒性の評価
OF1マウス20匹からなる群を、天然ニューモリシンまたはGMBS処理ニューモリシンのいずれかで鼻腔内チャレンジし、これらのマウスをその後9日間にわたりモニターした。
図3に示すように、2μgの天然ニューモリシンでチャンレンジすると、その群のマウスは全て、すぐさま死亡した。ニューモリシンは、呼吸器系全体にわたって病変を生じ、それが呼吸困難および死を招いた。これに対して、GMBS処理ニューモリシンは毒性が大幅に低下し、2μg、5μgまたは10μgのGMBS処理ニューモリシンを接種したマウスは全て、チャレンジを生き残った。
実施例9:無毒化ニューモリシンを用いた保護研究
OF1マウス20匹からなる群を、0日目、14日目および28日目の3回にわたり、5μgのニューモリシンおよびアジュバントとしての5μgのMPLおよび50μgのリン酸アルミニウムで筋肉内免疫した。コントロールのマウスは、アジュバントのみを用いて免疫化した。ニューモリシンは、未処理のものか、あるいは上記のGMBS処理を用いて無毒化したものとした。
42日目に、マウスに、2μgの天然ニューモリシンで鼻腔内致死チャレンジを施した。その後9日間にわたりマウスの生存をモニターした。
結果
致死チャレンジモデルでは、対照マウスでは90%の死亡率であった(図4)。GMBS無毒化ニューモリシンで免疫すると、非常に良好な保護が達成され、5%のマウスがその9日間に死亡しただけであった。これは、その後10%のマウスが死亡した天然ニューモリシン接種後にもたらされた保護に匹敵するものであった。
実施例10−マウス致死チャレンジモデルにおけるPhtDと組み合わせた無毒化ニューモリシンの評価
OF1マウス20匹からなる群を、a)アジュバントのみ、またはb)1μgのPhtDとアジュバント、またはc)1μgのPhtDと5μgのGMBS無毒化ニューモリシンとアジュバントで筋肉内投与で免疫した。使用したアジュバントは、50μgのリン酸アルミニウムおよび5μgのMPLからなり、免疫は0日目および14日目に実施した。マウスを、鼻腔内致死用量の5.105CFUの血清型2のS.ニューモニエD39株でチャレンジし、生存をその後10日間にわたりモニターした。
結果
図5に示すように、D39株でチャレンジすると、対照マウスでは、10日後には75%の死亡率であった。PhtDのみで免疫した場合、有意な保護は達成されず、この群のマウスの70%が10日後に死亡した(p=0.29)。PhtDとGMBS無毒化ニューモリシンとで免疫した場合、有意に良好な保護が達成され、死亡率は50%に低下した(p=0.04)。
実施例11−ホルムアルデヒドを用いたニューモリシンの無毒化
精製ニューモリシンの濃度約0.4 mg/mlのストックを、25 mMリン酸カリウム緩衝液、50 mMのリジンおよび0.1%(w/v)のホルムアルデヒドで処理した。pHは7.0に調製し、混合物を40℃で21日間インキュベートした。未反応のホルムアルデヒド、リジンおよびその他の低分子量副生成物は、2 mMリン酸ナトリウム(pH 7.15)に対し透析濾過し、除去した。
実施例12−GMBSで無毒化したニューモリシンのコンジュゲート
GMBSで処理したニューモリシン(± 3 mg/ml 20 mMホウ酸緩衝液)を、2 mMリン酸緩衝液(pH 6.8、150 mM NaCl)に対して透析濾過し、15〜20 mg/mlの濃度とした。透析濾過は、Centramate膜(0.09 m2, 10 kDaカットオフ)を用いて行った。
活性化および結合は25℃で行った。S.ニューモニエ PS19Fは2 M NaClで希釈して9 mg/mlとし、0.05 N HClを添加してpH 6.0に調製した。はじめ(time 0)に、シアノジアミノピリジニウム テトラフルオロボレート(CDAP)溶液(注射用にアセトニトリル/水:50/50 (v/v)に溶解した100 mg/ml溶液)を手作業で加え、CDAP/PS19Fの割合を1.5 (w/w)とした。そして1.5分後、0.1M NaOHを添加してpHを9.0に上昇させた。その後、GMBSで処理したニューモリシン(15 mg/ml)を添加してdPLY/PSの割合を3とした。溶液はpH調整下で240分間放置し、2 Mグリシン(Gly/PS (w/w))を加えて反応を停止させた。この溶液はSephacryl S400HRで精製する前に30分間放置した後、dPLY/PSの割合が2.62/1 (w/w)となるようにコンジュゲートさせた。
同様の方法により、GMBSで処理したニューモリシンもPS8、PS12FおよびPS22Fにコンジュゲートさせた。コンジュゲートの結果、dPLY/PSの割合はそれぞれ1.61、1.45および1.36であった。
実施例13−タンパク質担体としてGMBSで無毒化したニューモリシンにコンジュゲートしたS.ニューモニエ由来の莢膜多糖の免疫原性
雌のBalb/cマウス40匹からなる群に対し、0日目、14日目および28日目に肺炎球菌莢膜PS 8、12F、19Fおよび22Fを含む4価の多糖(PS)製剤(用量: 0.1μg/PS)を筋肉内投与して免疫した。
未処理のPSまたはGMBSで無毒化したニューモリシンにコンジュゲートしたPSから構成される2種類の製剤をマウスに投与した。いずれのワクチン製剤にも、MPLおよびQS21を含む水中油型エマルジョンを添加した。
原則としてWO 02/22167に記載のEILSAおよびオプソニン貪食アッセイにより、42日目に収集した血清中の抗PS ELISA IgGレベルおよびオプソニン貪食作用力価を測定した。オプソニン貪食アッセイでは、S.ニューモニエ血清型8、12F、19Fおよび 22Fについて血清サンプルを調べた。EILSAでは、必要な莢膜多糖10〜40μg/mlでウェルを被覆した。
結果
GMBSで無毒化したニューモリシンにコンジュゲートしたPSで免疫されたマウスでは、未処理のPSを与えられたマウスと比べ、全てのPSについてIgG反応の強力な改善が観察された(図6)。抗PS抗体についてのオプソニン貪食活性(OPA)もまた、増強された(図7)。
図1は、ニューモリシンの精製を示すSDS-PAGEゲルである。パネルAおよびBは、実施例1の方法によるニューモリシンの精製を示す。パネルAは、クマシーブルー染色後のゲルを示す。パネルBは、抗大腸菌抗体を用いてタンパク質の混入を調べたウエスタンブロッティング法によるゲルを示す。次のサンプルをSDS-PAGEゲルで泳動した:レーン1−分子量標準、レーン2−細胞抽出物の上清、レーン3−フェニル-セファロースの流出液、レーン4−フェニル-セファロースの1回目の洗浄液、レーン5−フェニル-セファロースの2回目の洗浄液、レーン6−0.5M NaClによるフェニル-セファロースの洗浄液、レーン7−低塩緩衝液によるフェニル-セファロースの溶出液、レーン8−変性/リフォールディングステップ後のニューモリシン、レーン9−滅菌濾過後のニューモリシン。パネルCは、クマシー染色後のゲルを示す。実施例2に記載の方法によりニューモリシンが精製されたことがわかる。次のサンプルをSDS-PAGEゲルで泳動した: レーン1−分子量標準、レーン2−Rannie装置で処理した発酵培養液、レーン3−濾過精製した培養液、レーン4−OD60に希釈した濾過精製したサンプル、レーン5−フェニル-セファロースの流出液、レーン6−フェニル-セファロースの洗浄液、レーン7−0.5M NaClによるフェニル-セファロースの溶出液、レーン8−低塩緩衝液によるフェニル-セファロースの溶出液、レーン9−滅菌濾過後のニューモリシン。 図2は、クーマシーブルー染色したGMBS(N-(γ-マレイミドブチリルオキシ)スクシンイミドエステル)修飾ニューモリシンのSDS-PAGE分析である。次のサンプルをSDS-PAGEゲルで泳動した:レーン1−分子量標準、レーン2−未修飾ニューモリシン、レーン3−GMBS/リシンが4/1となるモル比にてGMBSで処理したPLY 、レーン4−GMBS/リジンが4/1となるモル比にてGMBSで処理し、37℃で7日間インキュベートしたPLY、レーン5−GMBS/リジンが8/1となるモル比にてGMBSで処理したPLY、レーン6−37℃で7日間インキュベートした後にGMBS/リジンが8/1となるモル比でGMBSで処理したPLY、レーン7−NHS/リジンが10/1のモル比でスルホ-NHSアセテートで処理したPLY、レーン8−NEMで処理したPLY、レーン9−37℃で7日間インキュベートした後でNEMで処理したPLY。 図3−マウスに鼻腔内投与して得られたGMBS処理ニューモリシンの毒性。ダイヤ形で印をつけた線は、2μgの天然ニューモリシンでチャレンジしたマウスの生存率を示す。四角で印をつけた線は、10μgのGMBS処理したニューモリシンでチャレンジしたマウスの生存率を示す。 図4−天然ニューモリシンで鼻腔内チャレンジしたマウスにおけるGMBS処理ニューモリシンにより誘導される保護。矩形で印をつけた線は、アジュバントのみを接種したマウスにおける生存率を示す。ダイヤ形で印をつけた線は、天然ニューモリシンを接種したマウスの生存率を示す。四角で印をつけた線は、GMBS処理ニューモリシンを接種したマウスの生存率を示す。 図5−2型肺炎球菌D39株で鼻腔内チャレンジしたマウスにおけるPhtDおよびGMBS処理ニューモリシンの接種により誘導される保護。矩形で印をつけた線は、アジュバントのみを接種したマウスの生存率を示す。ダイヤ形で印をつけた線は、PhtDを接種したマウスの生存率を示す。四角で印をつけた線は、PhtDおよびGMBS処理ニューモリシンを接種したマウスの生存率を示す。 未処理の4価の多糖またはGMBSで無毒化したニューモリシンにコンジュケートさせた4価の多糖を接種後の抗多糖IgG抗体レベルについてのELISA結果を示す。パネルAは抗PS8 IgGレベルを示す。パネルBは抗PS12F IgGレベルを示す。パネルCは抗PS19F IgGレベルを示す。パネルDは抗PS22F IgGレベルを示す。 未処理の4価の多糖またはGMBSで無毒化したニューモリシンにコンジュケートさせた4価の多糖を接種後のオプソニン貪食作用(GMT)を示す。パネルAは抗8型オプソニン貪食アッセイの結果を示す。パネルBは抗12F型オプソニン貪食アッセイの結果を示す。パネルCは抗19F型オプソニン貪食アッセイの結果を示す。パネルDは抗22F型オプソニン貪食アッセイの結果を示す。

Claims (44)

  1. 以下のステップ:
    a)細菌性細胞溶解素を発現する細胞の培養物を増殖させるステップ;
    b)細胞の培養物を機械的に破壊して抽出物を調製するステップ;
    c)抽出物を前濾過するステップ;
    d)抽出物中に含まれる可溶性の凝集した細菌性細胞溶解素を、界面活性剤の存在下で、0.6〜2 Mの高塩条件下で、疎水性相互作用クロマトグラフィー材料と結合させるステップ;
    e)界面活性剤の存在下で、0〜0.2 Mの低塩条件下で、細菌性細胞溶解素を溶出させるステップ、
    を含み、ステップd)および/またはステップe)で用いられる溶液中に存在する界面活性剤が、ニューモリシン凝集体のサイズを小さくして可溶性にすることができる脂肪族界面活性剤である、細菌性細胞溶解素の精製方法。
  2. 以下のステップ:
    f)細菌性細胞溶解素から界面活性剤を除去するステップ;
    g)変性剤を添加することにより細菌性細胞溶解素を可溶化するステップ;
    h)細菌性細胞溶解素からその変性剤を除去するステップ、
    をさらに含む、請求項1に記載の方法。
  3. 細菌性細胞溶解素が肺炎球菌ニューモリシンである、請求項1または2に記載の方法。
  4. ステップb)を、界面活性剤の存在下で行う、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
  5. ステップb)がさらに、細胞の培養物を機械的に破壊する前に、細胞の培養物を界面活性剤と共にインキュベートする前培養ステップを含む、請求項4に記載の方法。
  6. 前培養ステップが10分よりも長く継続する、請求項5に記載の方法。
  7. ステップb) および/またはc) を、pH 8〜10にて行う、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
  8. ステップb)および/またはc)を、0〜0.1 Mの塩濃度で行う、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
  9. 前濾過で用いられるフィルターのサイズが0.45〜2.5μmである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
  10. ステップd)およびe)において同じ界面活性剤が存在する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
  11. ステップb)、d)およびe)において同じ界面活性剤が存在する、請求項10に記載の方法。
  12. 界面活性剤の濃度が0.1〜2%(w/v)の濃度で存在する、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
  13. 遠心分離するステップを含まない、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
  14. ステップd)で用いられる疎水性相互作用クロマトグラフィー材料が芳香族基を含む、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
  15. 疎水性クロマトグラフィー材料がフェニル-セファロースである、請求項14に記載の方法。
  16. 界面活性剤がラウロイルサルコシン酸ナトリウムである、請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
  17. ステップd)の高塩条件が1Mの塩を含むものである、請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
  18. ステップd)および/またはe)で用いられる溶液が、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化アンモニウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸マグネシウム、リン酸アンモニウムからなる群から選択される塩を含有する、請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法。
  19. ステップd)および/またはステップe)を、pH 6〜8で行う、請求項1〜18のいずれか1項に記載の方法。
  20. ステップe)で用いられる条件が0〜0.1 Mの塩を含有するものである、請求項1〜19のいずれか1項に記載の方法。
  21. ステップe)で用いられる条件が0〜40 mMの塩を含有するものである、請求項20に記載の方法。
  22. ステップf)が、透析濾過または透析による界面活性剤の除去を含む、請求項1〜21のいずれか1項に記載の方法。
  23. 透析濾過/透析がpH 8〜10の低塩緩衝液に対するものである、請求項22に記載の方法。
  24. ステップg)が、変性剤を添加することにより細菌性細胞溶解素を変性させることを含み、ステップh)が、その変性剤を徐々に除去することにより細菌性細胞溶解素をリフォールディングすることを含む、請求項2〜23のいずれか1項に記載の方法。
  25. ステップg)で用いられる変性剤が塩酸グアニジンである、請求項2〜24のいずれか1項に記載の方法。
  26. 5〜8 Mの塩酸グアニジンが用いられる、請求項25に記載の方法。
  27. ステップg)の間に細菌性細胞溶解素を5〜9 Mの尿素と接触させる、請求項24〜26のいずれか1項に記載の方法。
  28. ステップg)が、細菌性細胞溶解素を5〜8 Mの塩酸グアニジンと接触させ、続いてその塩酸グアニジンを5〜9 Mの尿素に交換することを含む、請求項27に記載の方法。
  29. 少なくともステップg)およびh)において還元剤が存在する、請求項24〜28のいずれか1項に記載の方法。
  30. 還元剤が0.1〜10 mMのDTTである、請求項29に記載の方法。
  31. ステップh)において、細菌性細胞溶解素をリフォールディングして、その溶血活性がフォールディングしたタンパク質の溶血活性の50%を超えるまで回復するようにする、請求項2〜30のいずれか1項に記載の方法。
  32. ステップh)が透析濾過または透析による変性剤の除去を含む、請求項2〜31のいずれか1項に記載の方法。
  33. ステップh)が透析濾過または透析により一定の速度で変性剤を除去することを含む、請求項32に記載の方法。
  34. ステップh)が流速を次第に速めて透析濾過することを含む、請求項32または33に記載の方法。
  35. ステップh)が溶液に含まれる変性剤を次第に減らして透析することを含む、請求項32または33に記載の方法。
  36. 透析濾過または透析がpH 7〜9の溶液に対するものである、請求項32〜35のいずれか1項に記載の方法。
  37. 細菌性細胞溶解素を化学的処理により無毒化するさらなるステップを含む、請求項1〜36のいずれか1項に記載の方法。
  38. 化学的処理が架橋剤の使用を含む、請求項37に記載の方法。
  39. 架橋剤が、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、N-ヒドロキシスクシンイミドエステルおよびGMBSからなる群から選択される1種以上の化学物質を含む、請求項38に記載の方法。
  40. 細菌性細胞溶解素を細菌性多糖とコンジュゲートさせるさらなるステップを含む、請求項1〜39のいずれか1項に記載の方法。
  41. 細菌性多糖がストレプトコッカス・ニューモニエに由来する、請求項40に記載の方法。
  42. 細菌性細胞溶解素を薬学的に許容される賦形剤と共にワクチン組成物へと製剤化するさらなるステップを含む、請求項1〜41のいずれか1項に記載の方法。
  43. 細菌性細胞溶解素をコリン結合タンパク質Aまたはその免疫原性断片、PhtA、PhtB、PhtDもしくはPhtEまたはそれらの免疫原性断片、不定型ヘモフィルス・インフルエンザ(Haemophilus influenzae)(NtHi)由来の抗原、モラクセラ・カタラーリス(Moraxella catarrhalis)由来の抗原、RSV由来の抗原、パラインフルエンザウイルス由来の抗原、或いはインフルエンザウイルス由来の抗原のうち1種以上と共に、製剤化するさらなるステップを含む、請求項1〜42のいずれか1項に記載の方法。
  44. 細胞性細胞溶解素を水酸化アルミニウムゲル(alum)またはリン酸アルミニウムなどのアルミニウム塩、カルシウム、マグネシウム、鉄または亜鉛の塩、アシル化糖、カチオンもしくはアニオン誘導体化多糖またはポリホスファゼンの不溶性懸濁液、MPLまたはその誘導体、3D-MPL、サポニン、QS21、及び非メチル化CpG含有オリゴヌクレオチドからなる群から選択されるアジュバントと共に、製剤化するさらなるステップを含む、請求項1〜43のいずれか1項に記載の方法。
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