本発明は、複数の燐光材料を用いた発光素子に関する。
有機エレクトロルミネッセンス(以下有機EL)素子は、テレビ、パーソナルコンピュータや携帯端末などの表示装置や、またはこれらの表示装置に用いられるバックライト、さらには照明機器などへの応用が期待されている。このため、有機EL素子を低電圧で駆動する技術や、有機EL素子の発光効率を良好とするための様々な技術の開発が進められている。
有機EL素子は、例えばITO(インジウム−スズ酸化物)などの透明電極(陽極)とマグネシウムなどの金属電極(陰極)の間に、有機層が形成されてなる構造を有している。当該有機層は発光材料(発光層)を含み、当該発光材料には透明電極と金属電極を介して電圧が印加される構造になっている。
上記の透明電極と金属電極の間に電圧が印加されると、透明電極から正孔が、金属電極から電子が注入され、電子と正孔は発光材料で再結合して発光が生じる。この場合、発光効率を良好とするために、透明電極と金属電極の間に、電子輸送材料(電子輸送層)、正孔輸送材料(正孔輸送層)などを有するように構成してもよい。
上記の有機EL素子を、例えばバックライトや照明機器などに用いる場合には発光色が白色であることが好ましい。この場合、白色の発光を得るためには、発光が可視光の領域をできるだけ広くカバーするように発光素子が構成される。例えば、白色の発光色を有する発光素子の有機層を構成する方法の一例としては、赤、緑、青色の発光色を呈する材料を積層して構成する方法がある。
しかし、このように有機層が多層の発光層を有する構造である場合、白色光を得るまでに各発光層の厚さを変更して発光実験を繰り返す試行錯誤の工程が必要となり、白色光を得るための開発のコストと時間がかかる問題があった。
また、多層の発光層を有する発光素子では、駆動電流を変化させた場合に、電子と正孔の再結合の領域が移動するために、発光色が大きく変化して白色の発光が得られなくなってしまう問題があった。このように、異なる発光色を有する発光層を積層して白色の発光を得る方法は、様々な問題を有していた。
そこで、複数の発光材料を混合して発光層を形成することで、白色の発光を得る方法が提案されていた。例えば、発光層ホストに混合するゲストによって、発光スペクトルを変化させることが可能であり、複数のホスト材料を用いて発光色を制御することが可能である。
このような方法によって形成される発光層は、発光層全体にわたってホストに対するゲストの混合濃度が均一であれば、実質的に発光特性にむらの無い単一の層より構成されることになる。このため、駆動電流の変化に対応して電子と正孔の再結合領域が移動しても、発光スペクトルの変化は多層の発光層に比べて小さくなり、発光色が安定しやすい(例えば非特許文献1参照)。
また、近年、有機EL素子の発光効率を良好とするため、従来の蛍光材料に換わって燐光材料が用いられるようになってきている。従来の蛍光材料は、有機化合物の一重項励起状態から一重項基底状態の輻射遷移である蛍光を利用したものであるため、理論的な外部量子効率(注入電子数に対する外部への放出光子数の割合)としては5%が限界である。
一方、燐光材料は、三重項励起状態から一重項基底状態への輻射遷移である燐光を利用するため、発光効率が良好である特徴を有している(例えば被特許文献2参照)。
J.Kido, H.Shionoya, and K.Nagai, Appl. Phys. Lett. 67,2281(1995)
M.A.Baldo, S.Lamansky, P.E.Burrows, M.E.Thompson, and S.R.Forrest, Appl. Phys. Lett. 75,4(1999)
しかし、三重項エネルギーが異なる(発光スペクトルが異なる)燐光材料を混合した場合には、材料間でエネルギーの移動が生じ、このエネルギー移動が発光色に影響を与えてしまう。さらに、燐光材料を混合した場合には、上記のエネルギー移動に加えて、駆動電流が大きくなると三重項−三重項消滅が同時に発生してしまう問題がある。この場合、三重項−三重項消滅に伴う発光効率の低下の程度は燐光材料毎に異なるため、燐光材料が混合された発光層においては発光色の制御が複雑、かつ困難となってしまう問題が生じていた。
この結果、例えば、上記の発光素子では、駆動電流を変化させた場合に発光色が変化してしまうなどの問題が新たに生じてしまう。このように、燐光材料を混合して安定な発光色(例えば白色)を得ることは困難となっていた。
そこで、本発明では、上記の問題を解決した、新規で有用な発光素子を提供することを統括的課題としている。
本発明の具体的な課題は、発光効率が良好であるとともに発光色が安定である発光素子を提供することである。
本発明は、上記の課題を、第1の電極と第2の電極の間に、三重項エネルギーが異なる複数の燐光材料を発光材料として含むとともに、該複数の燐光材料とは異なる材料からなる正孔輸送材料および電子輸送材料を含む有機層が形成されてなる発光素子であって、前記有機層の形成に用いる複数の燐光材料のうち、三重項エネルギーが高い高エネルギー燐光材料の発光寿命は、三重項エネルギーが低い低エネルギー燐光材料の発光寿命よりも長いことを特徴とする発光素子により、解決する。
本発明によれば、発光効率が良好であるとともに発光色が安定である発光素子を提供することができる。
また、前記複数の燐光材料は、それぞれが混合されて前記有機層中に拡散した状態であると、発光色がさらに安定となる。
また、前記有機層では、前記複数の燐光材料、前記正孔輸送材料および前記電子輸送材料の濃度比を設定することにより、前記高エネルギー燐光材料から前記低エネルギー燐光材料へのエネルギーの移動が生じ、該有機層の前記複数の燐光材料にそれぞれ対応する発光の発光寿命が同じになっていると、発光色がさらに安定となる。
また、前記有機層は、三重項エネルギーが前記高エネルギー燐光材料よりも小さく前記低エネルギー燐光材料よりも大きいエネルギー移動材料を含むと、発光色の制御が容易となる。
また、前記エネルギー移動材料は、前記電子輸送材料または前記正孔輸送材料の機能を兼ねる材料よりなると、発光色の制御が容易となるとともに発光効率が良好となる。
また、前記エネルギー移動材料は、前記複数の燐光材料とそれぞれ混合されて前記有機層中に拡散した状態であると、発光色がさらに安定となる。
本発明によれば、発光効率が良好であるとともに発光色が安定である発光素子を提供することができる。
発光素子の発光材料として用いられている燐光材料は、三重項励起状態から一重項基底状態への輻射遷移である燐光を利用するため、従来用いられてきた蛍光材料に比べて発光効率が良好である特徴を有している。その一方で、複数の燐光材料を混合して所望の発光色を得ようとする場合には、複数の燐光材料の間でエネルギーの移動が発生することに加えて、三重項−三重項消滅に伴う発光効率の低下の程度が複数の材料毎に異なるため、発光色の制御が複雑、かつ困難となる問題があった。
そこで、本発明の発明者が鋭意研究した結果、複数の燐光材料の間でのエネルギー移動の影響を利用することで、燐光材料の三重項−三重項消滅の違いによる発光色の変動の影響を抑制し、発光効率が良好であるとともに発光色が安定である発光素子を形成することが可能であることを見出した。
以下に、発光効率が良好であるとともに、安定な発光色を得ることが可能な発光素子を構成するための原理について説明する。
燐光材料における三重項−三重項消滅による外部量子効率ηTTの電流密度Jの依存性は、以下の式(1)で示される(M.A.Baldo, C.Adachi, and S.R.Forrest, Phys.Rev.B62,10967(2000)参照)。
ここで、η
0は、三重項−三重項消滅が無い場合の外部量子効率(初期効率)、J
0は外部量子効率が初期量子効率の1/2となる電流密度であり、この値は外部量子効率の低下を示す指標となる。また、J
0は、以下の式(2)で示される。
上記の式(2)においては、qが電荷、dが励起子形成領域の幅、τが発光寿命、k
TTは、三重項−三重項消滅に関する定数である。
例えば、2種類以上の燐光材料を、同一のホスト材料に添加した場合には、それぞれの燐光材料に対応する上記のJ0の値が等しくなるようにすれば、燐光材料間の三重項−三重項消滅の違いによるによる発光色の変化(電流密度変化に伴う変化)は起こらなくなる。
例えば、燐光材料が発光層内で実質的に均一に拡散して混合されているとすると、複数の燐光材料の間でdとkTTには大きな差が生じない。したがって、混合されるそれぞれの燐光材料に対応する発光の発光寿命τが実質的に等しくなるように燐光材料が混合されれば、発光色の電流密度変化に伴う変化は抑制されることになる。
混合された複数の燐光材料の発光寿命は、特に複数の燐光材料の間での三重項エネルギー移動速度に大きく依存する。また、三重項エネルギー移動速度は、燐光材料間の距離、すなわち燐光材料の濃度を変えることで制御することができる。
したがって、複数の燐光材料を混合する場合には、混合された後にそれぞれの燐光材料に対応する発光寿命が等しくなるような濃度で混合すれば、発光色は安定することになる。
また、複数の燐光材料を混合した場合には、複数の燐光材料の間でエネルギーの移動が生じるため、このエネルギーの移動によって、それぞれの燐光材料に対応する発光寿命が等しくなる方向に変化するように、燐光材料を選択し、混合することが重要である。
例えば、図1は、青色燐光材料と橙色燐光材料を混合した場合のエネルギーの移動を模式的に示した図である。先に説明したように、燐光材料は、三重項励起状態から一重項基底状態への輻射遷移に伴い発光が生じる。また、燐光材料の三重項エネルギー(燐光材料の最も短波長側の発光のピークに対応したエネルギー)は、短波長側で発光が生じる燐光材料のほうが、長波長側で発光が生じる燐光材料よりも大きいことが知られている。すなわち、青色燐光材料と橙色燐光材料を比較した場合、青色燐光材料の方が橙色燐光材料よりも三重項エネルギーは大きいことになる。
このように、三重項エネルギーが異なる燐光材料を混合した場合には、三重項エネルギーが大きい燐光材料(例えば青色燐光材料)から、三重項エネルギーが小さい燐光材料(例えば橙色燐光材料)の側へとエネルギーの移動が発生する。
上記のエネルギーの移動によって、それぞれの燐光材料に対応した発光の発光寿命が変化する現象が生じる。例えば、三重項エネルギーが大きい燐光材料に対応する発光については発光寿命が短くなる方向に変化する。
上記を鑑みると、発光素子の発光色を安定させるには、発光層の形成に用いる複数の燐光材料のうち、三重項エネルギーが高い高エネルギー燐光材料の発光寿命は、三重項エネルギーが低い低エネルギー燐光材料の発光寿命よりも長いものを用いることが好ましいことがわかる。
次に、三重項エネルギーが異なる燐光材料を混合してそれぞれの燐光材料に対応する発光寿命を制御し、発光素子を形成した具体的な例を以下に説明する。
図2は、本発明の実施例1による発光素子10を模式的に示す図である。図2を参照するに、前記発光素子10は、透明なガラスよりなる基板1上に形成され、電極2(陽極)と電極4(陰極)の間に発光材料を含む有機層3が形成されてなる構造を有している。前記基板1の側に形成された前記電極2はITOよりなり、該基板1と対向する前記電極4は、Ba(膜厚3nm)とAl(膜厚150nm)が積層されて構成されている。
前記有機層3には、発光材料として、以下に示す2種類のイリジウム錯体よりなる燐光材料が含有され、それぞれが混合されて有機層中に拡散した状態になっている。当該2種類の燐光材料のうちの1つは、下記のFIrTp(以下燐光材料1)であり、
もう1つは、下記のm−PF−PY(以下燐光材料2)である。
また、前記有機層3には、正孔を輸送する性質を有する正孔輸送材料として、下記のポリ(N−ビニルカルバゾール)(PVK)(以下正孔輸送材料1)と、
さらに、電子を輸送する性質を有する電子輸送材料として、下記のNAB2(以下電子輸送材料1)とが加えられている。
前記有機層3は以下のようにして形成した。まず、上記の燐光材料1,燐光材料2、正孔輸送材料1、および電子輸送材料1を所定の溶液に対して均一となるように混合して、スピンコート法により、前記電極2上に形成した。この場合、燐光材料1,燐光材料2、正孔輸送材料1、および電子輸送材料1の重量濃度比は、燐光材料1:燐光材料2:正孔輸送材料1:電子輸送材料2が、20:0.1:50:30となるように構成した。
図3は、上記の燐光材料1、燐光材料2、正孔輸送材料1、および電子輸送材料1を混合して形成した膜(膜厚100nm)のフォトルミネッセンス(PL)スペクトル(励起波長355nm)を示したものである。
図3を参照するに、460nmと490nmにピークを有する青色発光は燐光材料1に対応する発光であり、560nmにピークを有する橙色発光は燐光材料2に対応する発光である。上記の発光素子では、燐光材料1による発光と燐光材料2による発光の混色(加法混色)によって、広い波長領域での発光を得ることが可能となり、実質的な白色発光を得ることが可能となっている。
また、三重項エネルギーは、一般的にPL(燐光)スペクトルの最も短波長のピークのエネルギーに相当することから、燐光材料1の三重項エネルギーは2.7eV(460nm)、燐光材料2の三重項エネルギーは2.2eV(560nm)と見積もられる。
また、上記の燐光材料1と燐光材料2の、混合される前の単独でのそれぞれのPLの発光の減衰特性を図4に示す。図4に示す発光特性は、燐光材料1と燐光材料2を、それぞれ個別に化学的に不活性な媒体であるポリカーボネートに添加して形成した膜のPL減衰特性(励起波長355nm)を示すものである。この場合、燐光材料1と燐光材料2の重量濃度比はそれぞれ5重量%とした。
図4を参照するに、発光強度が1/eとなる時間(発光寿命と定義する)は、燐光材料1(青色燐光材料)の場合に3.5μs、燐光材料2(橙色燐光材料)の場合に1.1μsとなっている。すなわち、それぞれの燐光材料が混合される前の状態では、燐光材料1が燐光材料2の約3倍の長さの発光寿命を有していることがわかる。
一方、図5は、上記の有機層3(燐光材料1、燐光材料2、正孔輸送材料1、および電子輸送材料1が混合されて形成された膜)の、所定の波長(460nm、560nm)のPL減衰特性を調べた図である。図5を参照するに、460nmの発光(燐光材料1の発光に対応)の強度と、560nmの発光(燐光材料2の発光に対応)の強度は、同様な減衰特性を示しており、発光強度が1/eとなる発光寿命はともに2.3μsで、実質的に等しくなっている。
これは、図1で先に説明したように、燐光材料1(青色燐光材料)から燐光材料2(橙色燐光材料)への三重項エネルギーの移動が起こっているためと考えられる。すなわち、三重項エネルギーが高い(短波長側に発光のピークがある)燐光材料1から、三重項エネルギーが低い(長波長側に発光のピークがある)燐光材料2へとエネルギーが移動することで、燐光材料1の発光寿命は顕著に短くなると考えられる。
また、前記有機層3において、燐光材料1の濃度が燐光材料2の濃度より著しく高いにも関わらず、それぞれの材料に対応する発光強度が同程度であることからも、当該燐光材料1から当該燐光材料2へのエネルギーの移動が起こっていることが推察される。
本実施例による有機層を形成する場合において、三重項エネルギーが高い燐光材料と三重項エネルギーが低い燐光材料を混合する場合の組み合わせとしては、以下のようにされることが好ましい。すなわち、それぞれの燐光材料の、混合前の実質的な単独での発光寿命を比較して、三重項エネルギーが高い燐光材料の発光寿命が、三重項エネルギーが低い燐光材料の発光寿命よりも長くなるような組み合わせとされることが好ましい。
上記の組み合わせにおいては、燐光材料が混合されてエネルギーの移動が生じた際に、三重項エネルギーが高い燐光材料の発光寿命が短くなる方向に変化し、複数の燐光材料の発光寿命が近づく方向のエネルギー移動が生じることになる。
また、燐光材料2の発光寿命が、混合前の場合に1.1μsであるのに対して、混合後に2.3μsへと長くなっているのは、燐光材料2の濃度が極めて小さいため、燐光材料2間の相互作用が小さくなったためであると考えられる。
なお、上記の有機層3において、正孔輸送材料1と電子輸送材料1は、燐光材料1と燐光材料2の間のエネルギー移動には直接関与しない。これは、正孔輸送材料1と電子輸送材料1の三重項エネルギーは、それぞれ2.9eVと2.8eVであり、燐光材料1と燐光材料2の三重項エネルギーよりも大きくなっているためである。このため、燐光材料1と燐光材料2の三重項エネルギーは、正孔輸送材料1と電子輸送材料1の三重項エネルギーに閉じこめられる形となっている。
また、図6は、上記の発光素子10に電圧を印加した場合のELスペクトルを示す図である。図6を参照するに、ELスペクトルは、電流密度を0.1mA/cm2、1.0mA/cm2、10mA/cm2と変化させた場合においても大きな形状の変化は見られない。また、上記の発光を色度座標に示すと、電流密度が0.1mA/cm2の場合に(0.33,0.40)、電流密度が10mA/cm2の場合に(0.32,0.40)となっており(図14で後掲)、駆動電流を変化させた場合にも安定した発光色(白色発光)を示すことがわかる。
本実施例による発光素子では、最高2000cd/m2を超える輝度が得られたた。例えば、ブラウン管の輝度が100cd/m2程度であることと考慮すると、当該発光素子は実用化に十分な明るさを有していることが確認された。また、上記の発光素子では、5%の高い外部量子効率が得られた。
上記の本実施例における発光素子10において、正孔輸送材料は、3級アミンであるカルバゾール、電子輸送材料は、イミダゾール、トリアゾール構造を含むものを用いても良い。また、正孔輸送材料には、蛍光性高分子で正孔の輸送能力を有する主鎖共役系高分子であるチオフェン、フェニレン、p−フェニレンビニレンやフルオレン構造を用いても良い。
また、前記有機層3を形成するための成膜方法としてはスピンコート法に限定されず、例えば、印刷法、インクジェット法などの湿式法を適用することが可能であり、この場合に低コストで大画面の表示装置を構成することが可能となる。
また、前記電極2(陽極)は、一般にはガラス基板上に形成することが可能な透明な材料を用いて形成する。例えば、前記電極2としては、ITO、酸化インジウム、酸化スズ又は酸化インジウム酸化亜鉛合金を用いることが好ましい。また、前記電極2としては、金、白金、銀マグネシウムなどの金属の薄膜を用いても良い。また、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール、およびこれらの誘導体からなる導電性高分子を用いても良い。
また、前記電極4(陰極)としては、仕事関数の低いLi、Kなどのアルカリ金属やMg、Ca、Baなどのアルカリ土類金属を用いることが、電子注入のしやすさの観点からは好ましい。また、物質として安定なAlを用いても良い。また、物質としての安定性と電子注入のしやすさを両立させるために、2種類以上の材料を含む層にしてもよい。例えば、前記電極4として、セシウム、バリウム、カルシウム、ストロンチウムなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属層(0.01〜10nm程度の厚さ)をAlと組み合わせて(積層して)形成してもよい。
また、前記電極2と前記電極4は、例えば真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法などの公知の方法により形成することができる。また、前記電極2、または前記電極4のパターニングは、フォトリソグラフィを用いた化学的なエッチング、またはレーザなどによる物理的なエッチングにより行うことができる。また、マスクを重ねて真空蒸着やスパッタリングなどを行って電極のパターニングをしてもよい。
また、前記基板1としては、通常のガラス基板の他に、例えばプラスチック基板を用いることが可能である。基板として用いるプラスチックは、例えば、耐熱性、寸法安定性、溶剤の耐性、電気絶縁性、加工性などに優れ、さらに、低通気性、および低吸湿性であることが好ましい。
上記の性質を有するプラスチックとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリイミド、などがある。また、上記のフレキシブルな性質を有する基板を用いることで、フレキシブルな高分子有機EL素子を構成することが可能になる。
また、前記基板1の前記電極2に面する側か、またはその反対側、もしくは前記基板1の両面に、透湿防止層(ガスバリア層)を形成しておくことが好ましい。当該透湿防止層は、例えば高周波スパッタリング法により成膜できる。また、必要に応じて基板にハードコート層やアンダーコート層を設けても良い。
また、前記基板1には、発光素子を画素毎に制御するトランジスタ(例えばTFTなど)が形成されていてもよい。当該トランジスタの駆動によって、いわゆるアクティブタイプの表示装置を構成することが可能である。また、当該トランジスタを有機材料により形成してもよい。
また、実施例1による発光素子10において、前記有機層3に、燐光材料1から燐光材料2へのエネルギーの移動に関与する有機材料(以下エネルギー移動材料)を加えるようにしてもよい。
図7は、上記のエネルギー移動材料の作用を模式的に示した図である。図7を参照するに、エネルギー移動材料は、三重項エネルギーが、燐光材料1(図中青色燐光材料と表示)よりも小さく、燐光材料2(図中橙色燐光材料と表示)よりも大きいことが好ましい。この場合、燐光材料1のエネルギーは、一旦エネルギー移動材料に移動し、さらに該エネルギー移動材料に移動したエネルギーは、燐光材料2に移動することになる。上記のエネルギー移動材料は、発光に直接関与しない材料であっても良く、また、正孔輸送材料または電子輸送材料の機能を兼ねる材料であってもよい。
例えば、有機層に上記のエネルギー移動材料が加えられることで、複数の燐光材料の間でのエネルギーの移動が容易になり、燐光材料の組み合わせの自由度が向上する効果を奏する。例えば、燐光材料の組み合わせによっては、三重項エネルギーの差が大きくなりすぎて発光寿命を制御するための濃度差を設定することが実質的に困難となる場合がある。
そこで、上記のエネルギー移動材料を用いることで、必要とされる燐光材料の濃度差を小さくし、実質的に発光の制御の幅を広げることができる。
例えば、実施例1の発光素子10において、電子輸送材料1(NAB2)に換えて、電子輸送材料としての機能とエネルギー移動材料としての機能を兼ねる、下記に示す、オキサジアゾール誘導体であるOXD−7(以下エネルギー移動材料1)を用いることが可能である。
上記のエネルギー移動材料1の三重項エネルギーは2.6eVであり、燐光材料1の三重項エネルギー(2.7eV)と、燐光材料2の三重項エネルギー(2.2eV)の間に位置している。
本実施例の場合、前記有機層3において、燐光材料1,燐光材料2、正孔輸送材料1、およびエネルギー移動材料1の重量濃度比を、燐光材料1:燐光材料2:正孔輸送材料1:エネルギー移動材料1が、10:0.2:60:30となるようにし、他の構成は実施例1の場合と同様にして発光素子を形成した。
図8は、実施例1の場合と同様にして、本実施例による有機層(燐光材料1、燐光材料2、正孔輸送材料1、およびエネルギー移動材料1が混合されて形成された膜)の、所定の波長(460nm、560nm)のPL減衰特性を調べた図である。図8を参照するに、460nmの発光(燐光材料1の発光に対応)の強度と、560nmの発光(燐光材料2の発光に対応)の強度は、同様な減衰特性を示しており、発光寿命はともに6.2μsで、実質的に等しくなっている。
本実施例の場合、燐光材料1と燐光材料2の発光寿命は、実施例1の場合よりも長くなっており、さらに、発光寿命が同じになる場合の燐光材料1と燐光材料2の混合比が異なっている。これは、エネルギー移動材料1が、燐光材料1から燐光材料2へのエネルギーの移動に関与しているためである。
また、発光寿命を同じにするための、燐光材料1と燐光材料2の濃度差が実施例1の場合と比べて小さくなっており、エネルギー移動材料が用いられたことで、発光寿命(発光色)の制御が容易となっていることがわかる。
また、図9は、本実施例による発光素子に電圧を印加した場合のELスペクトルを示す図である。図9を参照するに、ELスペクトルは、電流密度を0.1mA/cm2、1.0mA/cm2、10mA/cm2と変化させた場合においても殆ど形状の変化は見られない。また、上記の発光を色度座標に示すと、電流密度が0.1〜10mA/cm2の場合に(0.32,0.43)と殆ど同じ座標となり(図14で後掲)、駆動電流を変化させた場合にも安定した発光色(白色発光)を示すことがわかった。
また、上記の実施例による発光素子の正孔輸送材料には、高分子材料を用いる場合を例にとって説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、実施例1〜実施例2で用いた正孔輸送材料1に相当するものとして、低分子材料を用いて有機層と電極(陽極)との間に正孔輸送層を形成するようにしてもよい。
図10は、本発明の実施例3による発光素子10Aを模式的に示す断面図である。ただし、先に説明した部分には同一の符号を付し、説明を省略する。また、特に説明しない部分は実施例1の場合と同様とする。
図10を参照するに、本実施例による発光素子10Aでは、実施例1の有機層3に相当する構成として、前記電極2と前記電極4の間に、正孔輸送層3A、発光層3B、および電子輸送層3Cが積層された構造が形成されている。前記正孔輸送層3Aは、実施例1で用いた正孔輸送材料1に、また、前記電子輸送層3Cは、実施例1で用いた電子輸送材料1にそれぞれ相当する。
上記の構造を形成する場合には、正孔輸送層3A、発光層3B、および電子輸送層3Cは、例えば蒸着法により、形成することができる。また、前記発光層3Bは、実施例1の場合の有機層3と同様に形成され、複数の燐光材料が含有されるように形成される。
また、前記正孔輸送層3Aを構成する材料としては、例えば、TPD,α−NPD、トリフェニルアミン多量体などを用いることができる。また、前記発光層3Bは、正孔輸送性、もしくは電子輸送性を有するホスト中に燐光材料をドープして形成することが可能である。また、前記電子輸送層3Cを構成する材料としては、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、イミダゾール誘導体を用いることができる。
また、励起子の閉じ込め効果をさらに大きくするために、発光層と電子輸送層との間に、例えばBCPなどよりなる正孔ブロック層を設けても良い。
本実施例による発光素子10Aでは、前記発光層3Bを、以下に示す蛍光材料CDBPをホストに用いて、燐光材料1を10重量%と燐光材料2を0.2重量%ドープして形成した。
当該発光層3Bの所定の波長(460nm、560nm)のPL減衰特性を調べたところ、460nmの発光(燐光材料1の発光に対応)の発光寿命は2.1μs、560nmの発光(燐光材料2の発光に対応)の発光寿命は2.2μsとなり、発光寿命は実質的に等しくなったことが確認された。
また、図11は、本実施例による発光素子10Aに電圧を印加した場合のELスペクトルを示す図である。図11を参照するに、ELスペクトルは、電流密度を0.1mA/cm2、1.0mA/cm2、10mA/cm2と変化させた場合においても殆ど形状の変化は見られない。また、上記の発光を色度座標に示すと、電流密度が0.1〜10mA/cm2の場合に(0.41,0.47)と殆ど同じ座標となり(図14で後掲)、駆動電流を変化させた場合にも安定した発光色(白色発光)を示すことがわかった。
また、本実施例による発光素子に、実施例2に示したようにエネルギー移動材料を加えても良い。この場合、エネルギー移動材料を前記発光層3Bにドープすることで、実施例2の場合と同様に、複数の燐光材料の間でのエネルギーの移動を容易とし、燐光材料の組み合わせの自由度を向上させることができる。
また、前記発光層3Bのホストに、イリジウム、白金、パラジウム、ロジウムなどの重金属錯体である燐光材料を用いてもよい。
また、実施例1〜実施例3に記載の発光素子において、発光材料として、イリジウム、白金、パラジウム、ロジウムなどの重金属錯体であり、発光成分に赤、緑、青色発光を含む3種類以上の燐光材料を用いても良い。これにより、発光素子の発光の波長領域を実質的に広くすることが可能となり、照明光源に必要な演色性(色再現性)を高めることができる。
この場合、3種類以上の燐光材料の間においても実施例1の場合に説明したようなエネルギーの移動が発生することになる。この場合、三重項エネルギーが高い燐光材料と三重項エネルギーが低い燐光材料を混合する場合の組み合わせとしては、実施例1に示した場合と同様にすればよい。すなわち、それぞれの燐光材料の、混合前の実質的な単独での発光寿命を比較して、三重項エネルギーが高い燐光材料の発光寿命が、三重項エネルギーが低い燐光材料の発光寿命よりも長くなるような組み合わせとされることが好ましい。
上記の組み合わせにおいては、燐光材料が混合されてエネルギーの移動が生じた際に、三重項エネルギーが高い燐光材料の発光寿命が短くなる方向に変化し、複数の燐光材料の発光寿命が近づく方向のエネルギー移動が生じる。
また、上記の実施例1〜3で説明した発光素子と、カラーフィルタを組み合わせることにより、簡便なフルカラーディスプレイを構成することが可能になる。上記のカラーフィルタは、例えば、基板表面(基板の電極が形成された側の反対側)、あるいは基板と電極の間など、様々な場所に配置することが可能である。また、発光色の変調を行うために異なった種類のカラーフィルタを組み合わせて用いても良い。
また、上記のカラーフィルタは、例えば、赤、緑、青の三原色を組み合わせた構造(パターン)を有するように構成され、例えば印刷法などの方法により、容易に微細化した構造を形成することが可能である。
[比較例]
また、上記の実施例と比較するため、実施例1に記載した発光素子において燐光材料1と燐光材料2を、以下に示す燐光材料3と燐光材料4にそれぞれ変更して発光素子を形成した。
燐光材料3として、470nmに発光のピークを有する、以下に示すFIrpicを用いた。
また、燐光材料4として、610nmに発光のピークを有する、以下に示すbtp
2Ir(acac)を用いた。
この場合、燐光材料3,燐光材料4、正孔輸送材料1、および電子輸送材料1の重量濃度比は、燐光材料3:燐光材料4:正孔輸送材料1:電子輸送材料1が、20:0.2:50:30となるように構成した。上記の変更以外は実施例1に記載した場合と同様の構成(方法)により、発光素子を形成した。
上記の比較例においては、実施例1〜3の場合とは逆に、上記の燐光材料3,燐光材料4の混合前の発光の減衰特性を比較した場合、三重項エネルギーが高い燐光材料(燐光材料3)の発光寿命が、三重項エネルギーが低い燐光材料(燐光材料4)の発光寿命よりも短い組み合わせとされている。
上記の組み合わせにおいては、燐光材料が混合されてエネルギーの移動が生じた際に、複数の燐光材料の発光寿命の差が大きくなる方向のエネルギー移動が生じることになる。
図12は、本比較例による発光素子の有機層(燐光材料3、燐光材料4、正孔輸送材料1、および電子輸送材料1が混合されて形成された膜)の、所定の波長(470nm、610nm)のPL減衰特性を調べた図である。図12を参照するに、470nmの発光(燐光材料3の発光に対応)の強度と、610nmの発光(燐光材料4の発光に対応)の強度の減衰特性は、明らかに異なっていることがわかる。この場合、燐光材料3は、470nmに発光のピークを有することから三重項エネルギーは2.6eVであり、対応する発光寿命は0.6μsであった。また、燐光材料4は、610nmに発光のピークを有することから三重項エネルギーは2.0eVであり、対応する発光寿命は5.7μsであった。
すなわち、本比較例の場合には、形成された有機層における、複数の燐光材料に対応した発光の発光寿命が大きく異なっていることがわかる。
また、図13は、上記の発光素子に電圧を印加した場合のELスペクトルを示す図である。図13を参照するに、ELスペクトルは、電流密度を0.1mA/cm2、1.0mA/cm2、10mA/cm2と変化させた場合には、特に長波長側のスペクトル形状が大きく変化しており、長波長側での発光強度の減衰が著しいことがわかる。
この現象は、本比較例においては三重項エネルギーが小さい燐光材料(燐光材料4)の発光寿命が長いことに起因していると考えられる。先に説明した式(2)からすると、発光寿命(τ)の長い燐光材料4(長波長側)においてJ0が小さくなる。この場合には短波長側に比べて長波長側で三重項−三重項消滅による発光効率の低下の影響が大きくなっていると考えられる。
本比較例の場合には、上記の発光を色度座標に示すと、電流密度が0.1mA/cm2の場合に(0.41,0.39)、電流密度が10mA/cm2の場合に(0.36,0.38)となっており(図14で後掲)、駆動電流の変化によって色度変化が生じていることがわかる。
図14は、上記の実施例1〜3,および比較例に係る発光素子の発光色を、色度座標に示して比較したものである。
図14を参照するに、混合された複数の燐光材料に対応した発光の発光寿命が大きく異なる比較例の場合には、駆動電流を変化させた場合に色度変化が生じており、安定した発光色が得られていないことがわかる。
一方で、混合された複数の燐光材料に対応した発光の発光寿命が実質的に同じになっている実施例1〜実施例3に係る発光素子の発光色は、駆動電流を変化させた場合にも色度変化が生じておらす、安定していることがわかる。このため、上記の実施例に係る発光素子は、安定な白色発光が得られる発光素子であることがわかる。
また、上記の発光素子では、複数の発光材料(燐光材料)が混合されて有機層(発光層)中に拡散した状態となっている。このため、例えば、複数の異なる発光層が積層された構造を有する発光素子と比較した場合、駆動電流の変化に対する発光色の変動が少ない特徴を有している。また、上記の実施例に係る発光素子は、複数の発光層が積層されてなる発光素子に比べて、発光素子の構造が単純で製造が容易であるとともに、発光色の視野角依存性が小さい特徴を有している。
以上、本発明を好ましい実施例について説明したが、本発明は上記の特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した要旨内において様々な変形・変更が可能である。
燐光材料間のエネルギー移動を模式的に示した図(その1)である。
実施例1による発光素子を示す図である。
図2の発光素子のPLスペクトルを示す図である。
燐光材料のPL減衰特性を示す図(その1)である。
有機層のPL減衰特性を調べた図(その1)である。
発光素子の発光スペクトル(その1)である。
燐光材料間のエネルギー移動を模式的に示した図(その2)である。
有機層のPL減衰特性を調べた図(その2)である。
発光素子の発光スペクトル(その2)である。
実施例3による発光素子を示す図である。
発光素子の発光スペクトル(その3)である。
有機層のPL減衰特性を調べた図(その3)である。
発光素子の発光スペクトル(その4)である。
発光素子の発光の色度を比較した図である。
符号の説明
10,10A 発光素子
1 基板
2,4 電極
3 有機層
5 電源
3A 正孔輸送層
3B 発光層
3C 電子輸送層