本発明を具体的に説明する前に、概要を述べる。本発明の実施例は、MFN(MFN:Multi Frequency Network)に対応したディジタル地上波テレビジョン放送において、受信した無線信号を増幅した後に送信する中継装置に関する。中継装置は、受信した無線信号を復調した後に、硬判定を実行する。さらに、無線装置は、硬判定した信号を変調してから、送信すべき無線信号を生成する。なお、中継装置の前段に送信装置が配置されており、当該送信装置には、複数の送信系が備えられており、複数の送信系のいずれかが使用される。
送信装置が無線信号を送信しているときに、複数の送信系間の切替が実行されると、各送信系に搭載された局部発振器の違いによって、無線信号に急激な位相の変化が生じる。中継装置において受信された無線信号の位相が急激に変化すると、中継装置での復調処理が追従できなくなり、復調結果のコンスタレーションに位相回転が発生する。位相回転した復調結果を硬判定した場合、判定結果に誤りが発生する可能性がある。また、誤った判定結果をもとに、送信すべき無線信号を生成すれば、当該無線信号の品質が悪化してしまう。これに対応するために、実施例に係る中継装置は、以下の処理を実行する。
中継装置は、受信した無線信号に対する信号強度を監視する。なお、送信装置において、複数の送信系間の切替はリレー形式にて実行されるので、切替が実行されると、無線信号の信号強度が低下する。つまり、無線信号に瞬断が発生する。この場合の信号強度の低下は、フェージング等による信号強度の低下よりも短期間に生じる。そのため、中継装置は、短期間に信号強度が低下したときに、送信装置での切替が実行されたと推定し、所定の期間にわたって硬判定を停止する。その結果、誤った判定がなされないので、送信すべき無線信号の品質の悪化が抑制される。
図1は、本発明の実施例に係る放送システム300の構成を示す。放送システム300は、送信装置200、中継装置100と総称される第1中継装置100a、第2中継装置100bを含む。また、送信装置200は、第1送信部202、第2送信部204、切替部206を含む。
送信装置200は、所定の番組が含まれた無線信号である放送波を送信する。ここで、中継装置100は、ISDB−T(Terrestrial Integrated Services Digital Broadcasting)方式に対応しているとする。そのため、放送波に含まれた各チャネルは、13セグメントに周波数分割されている。また、13セグメントがひとつの番組に割り当てられている場合もあれば、1セグメントと残りの12セグメントが別の番組に割り当てられている場合もある。ここでは、図を明瞭にするために、ひとつの番組に対応した構成のみが図1に示されている。そのため、送信装置200に含まれた第1送信部202と第2送信部204は、同一の番組を放送可能なように構成されている。
なお、第1送信部202と第2送信部204のうち、一方が実際の放送に使用されており、他方が予備系とされる。第1送信部202および第2送信部204は、放送すべき番組を受けつけると、符号化、変調、周波数変換、増幅を実行することによって、無線信号を生成する。なお、これらの処理には、公知の技術が使用されればよいので、ここでは、説明を省略する。また、第1送信部202および第2送信部204のそれぞれには、周波数変換を実行するために、図示しない局部発振器を備えているが、それらは互いに独立して動作している。そのため、それらによって発振される局部発振信号の位相は互いに異なっており、無線信号の位相も互いに異なっている。切替部206は、第1送信部202あるいは第2送信部204から出力される無線信号のうちの一方を選択して、アンテナから放射する。
第1中継装置100aは、送信装置200から送信された無線信号を受信すると、受信した無線信号を送信する。つまり、第1中継装置100aは、無線信号に対する中継処理を実行する。また、放送システム300はMFNに対応しているので、第1中継装置100aによって受信される無線信号の周波数と、第1中継装置100aから送信される無線信号の周波数とは異なっている。さらに、詳細は後述するが、第1中継装置100aは、受信した無線信号を復調した後に、硬判定し、変調することによって、再び無線信号を生成する。つまり、第1中継装置100aは、再生中継方式に対応する。第2中継装置100bは、第1中継装置100aから送信された無線信号を受信すると、受信した無線信号を送信する。つまり、第2中継装置100bは、第1中継装置100aと同様の動作を実行する。
ここで、図1には、送信装置200、第1中継装置100a、第2中継装置100bのみが示されているが、別の中継装置100が中継装置100に含まれてもよい。その際、別の中継装置100は、送信装置200、第1中継装置100a、第2中継装置100b等からの無線信号に対して中継処理を実行する。さらに、図示しない受信装置、つまりテレビジョン受像装置が含まれてもよい。受信装置は、送信装置200、中継装置100からの無線信号を受信すると、無線信号に含まれた番組を再生し、ディスプレイ等に表示する。
図2は、中継装置100の構成を示す。中継装置100は、受信用アンテナ10、受信部12、乗算部14、第1発振部50、AD部18、直交検波部52、FFT部54、同期検波部56、第1SW部58、硬判定部60、変調部62、第2SW部64、IFFT部66、直交変調部68、DA部26、乗算部28、第2発振部76、送信部30、送信用アンテナ38、制御部40、検出部70を含む。
受信部12は、受信用アンテナ10を介して、無線信号を受信する。また、無線信号は複数のチャネルによって形成されており、複数のチャネルは周波数多重されている。受信部12は、BPF(Band−Pass Filter)を備えており、受信した無線信号に対して、複数のチャネル全体の帯域外の部分を減衰させる。また、受信部12は、BPFからの無線信号に対して、自動利得制御を実行しながら、増幅処理を実行する。なお、受信部12は、複数のチャネルのうち、中継すべきチャネルを抽出してもよい。
乗算部14には、受信部12からの放送周波数帯域の信号の他、第1発振部50からの局部発振信号も入力される。乗算部14は、放送周波数帯域の信号に局部発振信号を乗じて放送周波数帯域の信号を中間周波数帯域の信号に変換する。AD部18は、中間周波数帯域の信号をデジタル信号に変換する。直交検波部52は、AD部18からのデジタル信号に対して直交検波を実行することによって、中間周波数帯域の信号をベースバンドの信号に変換する。なお、ベースバンド信号は、一般的に同相成分と直交成分とを含んでおり、ふたつの信号線によって示されるべきであるが、ここでは、説明を明瞭するために、ひとつの信号によって示される。
FFT部54は、ベースバンド信号に対してFFTを実行することによって、時間領域の信号を周波数領域の信号に変換する。つまり、FFT部54は、複数のサブキャリアによって形成された信号を生成するが、ここでもそれらをひとつの信号線によって示す。同期検波部56は、周波数領域の信号に対してサブキャリア単位に同期検波を実行する。同期検波のために、サブキャリア単位に位相等の推定が実行され、推定された位相等によって復調が実行されるが、公知の技術が使用されればよいので、ここでは、説明を省略する。第1SW部58と第2SW部64は、組み合わされて動作するスイッチである。第1SW部58と第2SW部64は、後述の検出部70からの指示にもとづいて切替動作を実行し、同期検波部56からの信号を硬判定部60、変調部62を経由させてIFFT部66に出力する。あるいは、第1SW部58と第2SW部64は、同期検波部56からの信号をIFFT部66に直接出力する。
硬判定部60は、同期検波部56からの同期検波結果をサブキャリア単位に硬判定する。例えば、硬判定部60は、変調方式がQPSKである場合、同期検波結果が同相軸、直交軸より大きいか否かによって、「1」あるいは「0」と判定する。変調部62は、硬判定部60から硬判定結果に対して変調をサブキャリア単位に実行する。変調部62での変調方式は、中継装置100において受信された無線信号での変調方式と同一であるものとする。IFFT部66は、変調部62からの変調された信号を周波数領域の信号として入力し、IFFTを実行することによって、周波数領域の信号から時間領域の信号へ変換する。直交変調部68は、IFFT部66からの時間領域の信号に対して直交変調を実行することによって、ベースバンド信号を中間周波数帯域の信号に変換する。つまり、直交検波部52から直交変調部68は、受信部12において受信した無線信号に対して、復調、硬判定、変調の順に処理を実行するといえ、これらの処理が、中継に必要とされる処理といえる。
DA部26は、直交変調部68からの中間周波数帯域の信号をアナログ信号に変換し、乗算部28に入力する。乗算部28は、前述の乗算部14と逆の処理を実行することによって、中間周波数帯域の信号を放送周波数帯域の信号へ周波数変換する。なお、乗算部28には、第2発振部76からの局部発振信号が入力されており、第1発振部50からの局部発振信号の周波数と、第2発振部76からの局部発振信号の周波数とは、異なっているので、中継装置100は、MFNに対応する。送信部30は、乗算部28からの放送周波数帯域の無線信号を増幅し、送信用アンテナ38から送信する。
検出部70は、FFT部54からの周波数領域の信号を入力する。検出部70は、周波数領域の信号の強度を測定する。前述のごとく、周波数領域の信号は、複数のサブキャリアにて構成されている。例えば、各サブキャリアに対して、QPSKのごとく、振幅の大きさが一定になるような変調方式が使用されている場合、検出部70は、すべてのサブキャリアに配置された信号をもとに強度を測定する。一方、各サブキャリアに対して、16QAMのごとく、振幅の大きさが異なるような変調方式が使用されている場合、検出部70は、パイロット信号が配置されたサブキャリアを抽出し、抽出したサブキャリアでの信号強度を測定する。ここで、検出部70は、信号強度を導出するために、平均等の統計処理を実行している。
例えば、検出部70は、周波数方向に、複数のサブキャリアでの信号強度を平均すると共に、時間方向に複数のシンボルでの信号強度を平均する。なお、受信部12における自動利得制御においても、平均等の統計処理が実行されているが、検出部70での統計処理の時定数は、受信部12での統計処理の時定数よりも短いものとする。ここで、受信部12における自動利得制御は、フェージングによる信号強度の変動に追従するために実行されており、検出部70は、図示しない送信装置200での第1送信部202と第2送信部204との間の切替による信号強度の変動を検出するために実行されている。前者よりも後者の方が短期間の変動であるので、時定数もより短くなるように設定されている。検出部70は、信号強度をしきい値と比較することによって、信号強度の低下を検出する。
なお、検出部70は、所定の時間間隔での信号強度の差を導出し、後方の信号強度が前方の信号強度よりも小さくなり、かつ差がしきい値よりも大きくなったときに、信号強度の低下を検出してもよい。以上の処理によって、検出部70は、受信部12において受信した無線信号に対する強度の低下を検出する。また、検出部70は、受信部12において受信した無線信号の送信元である送信装置200における系の切替、つまり第1送信部202と第2送信部204との間の切替を検出する。
検出部70は、強度の低下を検出したときに、第1SW部58と第2SW部64に対して、一定期間にわたる処理の簡略化を指示する。つまり、検出部70は、強度の低下が検出されていないとき、つまり定常状態において、第1SW部58と第2SW部64に対して、硬判定部60、変調部62を使用するように指示を行う。一方、検出部70は、信号強度の低下を検出したときに、第1SW部58と第2SW部64に対して、一定期間にわたり、硬判定部60、直交変調部68を使用しないことを指示する。なお、一定期間は予め定められているものとする。つまり、検出部70は、第1送信部202と第2送信部204との間の切替を検出したときに、一定期間にわたる硬判定の中止を指示する。
図3(a)−(c)は、中継装置100の内部信号の構成を示す。図3(a)は、送信装置200から送信される無線信号、送信装置200において受信される無線信号、検出部70に入力される信号を示す。ここで、縦軸が信号強度を示し、横軸が時間を示す。また、ポイント「P1」から「P2」にわたって信号強度が低下し、ポイント「P2」から「P3」にわたって信号強度が維持され、ポイント「P3」から「P4」にわたって信号強度が増加する。この期間は、図1に示された送信装置200での第1送信部202と第2送信部204との間の切替期間に相当する。切替部206は、両者の切替をリレー形式にて実行するので、切替時に信号強度が低下する。また、P1以前の信号の位相とP4以降の信号の位相は、一般的に不連続である。そのため、切替直後に硬判定部60が使用されていれば、硬判定結果に誤りが生じる可能性がある。
図3(b)は、検出部70から第1SW部58および第2SW部64へ出力される信号である。図3(a)でのP1からP2への遷移、つまり信号強度の低下が検出されたときに、Highレベル「1」の信号からLowレベル「0」の信号への切替が実行される。ここで、Highレベルの信号は、第1SW部58および第2SW部64に対して、硬判定部60、変調部62を使用させる指示信号に相当し、Lowレベルの信号は、第1SW部58および第2SW部64に対して、硬判定部60、変調部62を使用させない指示信号に相当する。図3(c)は、図3(b)の信号を受けつけた第1SW部58および第2SW部64の動作を示す。前述のごとく、Highレベルの信号を受けつけている期間にわたって、第1SW部58および第2SW部64は、硬判定をONにする。一方、Lowレベルの信号を受けつけている期間にわたって、第1SW部58および第2SW部64は、硬判定をOFFにする。図2に戻る。制御部40は、中継装置100の動作を制御する。
この構成は、ハードウエア的には、任意のコンピュータのCPU、メモリ、その他のLSIで実現でき、ソフトウエア的にはメモリにロードされた通信機能のあるプログラムなどによって実現されるが、ここではそれらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックがハードウエアのみ、ソフトウエアのみ、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現できることは、当業者には理解されるところである。
以上の構成による中継装置100の動作を説明する。図4は、中継装置100における中継処理の手順を示すフローチャートである。Highレベルの信号期間であるときに(S10のY)、検出部70は、レベル低下を検出すれば(S12のY)、Lowレベルの信号に切りかえる(S14)とともに、硬判定部60での硬判定をOFFにさせる(S16)。一方、検出部70は、レベル低下を検出しなければ(S12のN)、定常処理、つまり硬判定を実行させる。Highレベルの信号期間でないときに(S10のN)、一定期間が経過すれば(S18のY)、検出部70は、Highレベルの信号に切りかえる(S20)とともに、硬判定部60での硬判定をONにさせる(S22)。一方、一定期間が経過しなければ(S18のN)、検出部70は、硬判定部60での硬判定をOFFにさせたままである(S24)。
本発明の変形例を説明する。変形例は、実施例と同様に、受信した無線信号に対して、復調、硬判定、変調を実行した後に、無線信号を送信する中継装置に関する。変形例に係る中継装置は、実施例に加えて、複数のアンテナを備え、複数のアンテナにおいて受信した複数の受信信号に対して、アダプティブアレイ信号処理を実行する。また、中継装置は、適応アルゴリズムを実行することによって、アダプティブアレイ信号処理でのウエイトベクトルを更新する。実施例と同様に、無線信号に急激な位相の変化が生じると、ウエイトベクトルの更新が追従できなくなり、アダプティブアレイ信号処理の精度が悪化する。そのため、変形例に係る中継装置は、実施例と同様に、受信した無線信号に対する信号強度を監視する。また、中継装置は、短期間に信号強度が低下したときに、送信装置での切替が実行されたと推定し、所定の期間にわたってウエイトベクトルの更新を停止する。その結果、誤った判定がなされないので、送信すべき無線信号の品質の悪化が抑制される。
図5は、本発明の変形例に係る中継装置100の構成を示す。中継装置100は、受信用アンテナ10と総称される第1受信用アンテナ10a、第2受信用アンテナ10b、第N受信用アンテナ10n、受信部12と総称される第1受信部12a、第2受信部12b、第N受信部12n、乗算部14と総称される第1乗算部14a、第2乗算部14b、第N乗算部14n、AD部18と総称される第1AD部18a、第2AD部18b、第NAD部18n、直交検波部52と総称される第1直交検波部52a、第2直交検波部52b、第N直交検波部52n、FFT部54と総称される第1FFT部54a、第2FFT部54b、第NFFT部54n、合成部74、第1SW部58、検出部70、ウエイト更新部72を含む。なお、第1SW部58より後段の構成は、図2に示された中継装置100と同様であればよいので、ここでは説明を省略する。
受信用アンテナ10、受信部12、乗算部14、AD部18、直交検波部52、FFT部54は、図1と同様の動作を実行する。これらは、複数の系列だけ備えられているので、複数の無線信号が受信されることに相当する。そのため、FFT部54は、複数系列の周波数領域の信号を出力する。合成部74は、複数系列の周波数領域の信号に対してアレイ合成を実行する。合成部74は、複数系列の周波数領域の信号に対して、サブキャリア単位に対応づけを実行し、ウエイト更新部72から受けつけたウエイトベクトルによる重みづけを実行した後、サブキャリア単位に合成を実行する。つまり、合成部74は、アダプティブアレイ信号処理を実行する。その結果、合成部74から出力される信号も周波数領域の信号である。
ウエイト更新部72は、ウエイトベクトルの更新を実行する。ウエイトベクトルの更新には、LMSアルゴリズム等の適応アルゴリズムが使用されればよいが、公知の技術であるので、ここでは説明を省略する。検出部70は、合成部74からの信号に対して、前述と同様の処理を実行する。また、検出部70は、前述のごとく、信号強度の低下を検出したときに、図示しない第1送信部202と第2送信部204との間の切替を検出したとする。また、検出部70は、切替を検出したとき、ウエイト更新部72に対して、一定期間にわたって、ウエイトベクトルの更新の中止を指示する。ウエイト更新部72は、指示を受けつけるとウエイトベクトルの更新を中止し、既に導出したウエイトベクトルを継続的に出力する。
本発明の別の変形例を説明する。本発明の別の変形例は、SFNに対応したディジタル地上波テレビジョン放送において、受信した無線信号を増幅した後に送信する中継装置に関する。中継装置には、回り込みキャンセラ機能が備えられているとともに、回り込みキャンセラでの発振状態を検出する機能も備えられており、発振状態が検出されると、中継装置の動作が停止される。回り込みキャンセラは、受信した無線信号からレプリカ信号を生成し、レプリカ信号をフィードバックしながら、新たに受信した無線信号からレプリカ信号を削除する(以下、レプリカ信号を削除した信号を「処理信号」という)。
なお、処理信号の電力が急激に増加したときに、発振状態が検出される。前述のごとく、送信装置において、複数の送信系間の切替が実行されたとき、無線信号に瞬断が発生する。これを詳細に説明すれば、無線信号の信号強度は、急激に低下してから一定期間経過後、急激に増加する。発振状態になっていない中継装置が、このような無線信号を受信したとき、処理信号の信号強度も急激に低下してから一定期間経過後、急激に増加する。急激に増加する際、発振検知がなされていると、発振状態でないのにもかかわらず、中継装置の動作が停止されてしまう。これに対応するために、別の変形例に係る中継装置は、以下の処理を実行する。
中継装置は、実施例と同様に、受信した無線信号に対する信号強度を監視する。また、中継装置は、短期間に信号強度が低下したときに、送信装置での切替が実行されたと推定し、所定の期間にわたって発振検知の処理を停止する。その結果、無線信号の瞬断の際に、処理信号の信号強度が急激に増加しても、中継装置の動作は停止されない。
図6は、本発明の別の変形例に係る中継装置100の構成を示す。中継装置100は、受信用アンテナ10、受信部12、乗算部14、発振部16、AD部18、直交検波部52、回り込みキャンセラ部20、等化部22、調査部24、検出部80、直交変調部68、DA部26、SW部82、乗算部28、送信部30、送信用アンテナ38、制御部40を含む。また、回り込みキャンセラ部20は、加算部32、FIRフィルタ部34、推定部36を含む。
受信用アンテナ10、受信部12、乗算部14、AD部18、直交検波部52、直交変調部68、DA部26、乗算部28、送信部30、送信用アンテナ38は、図1と同様の処理を実行するので、ここでは説明を省略する。なお、乗算部14および乗算部28には、発振部16からの局部発振信号が入力されているので、図6に係る中継装置100は、SFNに対応している。
ここでは、直交検波部52から回り込みキャンセラ部20に入力される信号および等化部22から回り込みキャンセラ部20に入力される信号を「中間信号」とよぶ。回り込みキャンセラ部20は、中間信号からレプリカ信号を生成する。また、回り込みキャンセラ部20は、生成したレプリカ信号をフィードバックすることによって、新たに入力した中間信号からレプリカ信号を削除する。ここでは、このような回り込みキャンセラ部20の構成をさらに詳しく説明する。加算部32は、直交検波部52から中間信号を入力し、後述のFIRフィルタ部34からレプリカ信号の反転成分を入力し、両者を加算する。当該加算が、前述の中間信号からレプリカ信号の削除に相当する。なお、レプリカ信号とは、後述する送信用アンテナ38から送信された無線信号が、回り込みながら受信用アンテナ10において受信される場合に、受信された無線信号の模擬信号に相当する。また、加算部32は、中間信号からレプリカ信号を削除した信号を処理信号として出力する。
等化部22は、加算部32からの処理信号に対して等化処理を実行する。等化処理には、公知の技術が使用されればよいが、等化部22は、図示しない送信装置から受信用アンテナ10の間において、無線信号が受けるマルチパスの影響を低減する。例えば、等化部22は、FIRフィルタによって構成されている。等化部22は、等化処理した処理信号を等化信号として出力する。FIRフィルタ部34は、複数のタップにて構成されており、等化部22からの等化信号を受けつけ、受けつけた等化信号を順次遅延させる。また、等化部22は、推定部36から設定されたタップ係数と、等化信号との間において畳み込み積分を実行する。畳み込みの結果が、前述のレプリカ信号に相当し、FIRフィルタ部34は、レプリカ信号を反転しながら出力する。
推定部36は、FIRフィルタ部34における複数のタップのそれぞれに対するタップ係数を導出する。推定部36において導出される複数のタップ係数は、送信用アンテナ38から受信用アンテナ10へ至る回り込み波の伝送路特性に相当する。推定部36は、タップ係数、つまり伝送路特性を導出するために、一例として以下の処理を実行する。中継装置100による中継処理を中止した状態において、送信部30から既知のパターンの信号を送信する。受信部12は、既知のパターンの信号を受信する。推定部36は、受信した信号と、予め記憶した既知のパターンの信号とをもとに、相関処理を実行することによって、伝送路特性を導出する。なお、相関処理の代わりに、LMSアルゴリズム等の適応アルゴリズムが使用されてもよい。一方、中継装置100が中継処理を実行している間、推定部36は、動作を停止してもよい。
調査部24は、加算部32からの処理信号を調査対象信号として入力する。調査部24は、調査対象信号に対して移動平均を実行し、平均電力値をしきい値と比較する。ここで、移動平均は、例えば2048サンプルにて使用される。これは、ISDB−Tのモード3における1シンボルの期間の1/4に相当する。また、平均電力値がしきい値より大きくなった場合に、調査部24は、発振状態であると結論づける。これは、調査対象信号の信号強度の増加に相当し、調査部24は、発振検知を実行するといえる。調査部24は、SW部82に対して、DA部26と乗算部28との接続を切断させる。つまり、調査部24は、発振状態にある場合に回り込みキャンセラ部20の動作を停止させ、削除の中止を指示する。
検出部80は、調査部24と同様に、加算部32からの処理信号を調査対象信号として入力する。また、検出部80は、調査対象信号の信号強度を測定し、検出部70と同様の信号強度の低下を検出することによって、図示しない第1送信部202と第2送信部204との間の切替を検出する。検出部80は、信号強度の低下を検知したとき、つまり切替を検出したときに、調査部24に対して、一定期間にわたる処理の中止を指示する。ここで、一定期間は、送信装置200での第1送信部202と第2送信部204との間の切替に要すべき期間、つまり図3(a)において信号強度が低下している「P1」から「P4」の期間よりも長くなるように規定される。以上の処理によって、調査部24は、図3(a)のP3からP4において、信号強度の増加を検知しなくなり、当該増加を発振状態と誤検知しなくなる。なお、検出部80から調査部24への信号がHighレベルの信号であれば、調査部24は発振検知を実行し、検出部80から調査部24への信号がLowレベルの信号であれば、調査部24は発振検知を実行しない。
以上の構成による中継装置100の動作を説明する。図7は、中継装置100における中継処理の手順を示すフローチャートである。Highレベルの信号期間であるときに(S40のY)、検出部80は、レベル低下を検出すれば(S42のY)、Lowレベルの信号に切りかえる(S50)とともに、調査部24の発振検知を停止させる(S52)。一方、検出部80は、レベル低下を検出しなければ(S42のN)、調査部24は、発振を検知したとき(S44のY)、回り込みキャンセラ部20を停止させる(S48)。また、調査部24は、発振を検知しないとき(S44のN)、回り込みキャンセラ部20を動作させる(S46)。Highレベルの信号期間でないときに(S40のN)、検出部80は、調査部24の発振検知を停止させる(S54)。一定期間が経過すれば(S56のY)、検出部80は、Highレベルの信号に切りかえる(S58)。一方、一定期間が経過しなければ(S56のN)、ステップ58の処理は、スキップされる。
本発明のさらに別の変形例を説明する。本発明のさらに別の変形例は、実施例と同様に、受信した無線信号に対して、復調、硬判定、変調を実行した後に、無線信号を送信する中継装置に関する。実施例では、復調結果における位相回転の発生要因として、複数の送信系間の切替を考慮した。別の変形例では、別の発生要因を検討する。中継装置は、無線信号を周波数変換するために局部発振器を備える。また、局部発振器の故障の影響を低減するために、複数の局部発振器が備えられる。中継装置が無線信号を受信しているときに、複数の局部発振器間の切替が生じたとき、周波数変換された無線信号に急激な位相の変化が生じる。その結果、実施例と同様に、判定結果に誤りが発生する可能性がある。これに対応するために、実施例に係る中継装置は、以下の処理を実行する。
中継装置は、周波数変換した無線信号に対する位相回転量の変化を監視する。また、中継装置は、短期間に位相回転量が大きく変化したときに、局部発振器の切替が実行されたと推定し、所定の期間にわたって硬判定を停止する。その結果、誤った判定がなされないので、送信すべき無線信号の品質の悪化が抑制される。
図8は、本発明のさらに別の変形例に係る中継装置100の構成を示す。図8に示された中継装置100は、図2に示された中継装置100と比較して、第1発振部50、検出部70、第2発振部76を備えずに、代わりに切替部90、第1発振部92、第2発振部94、検出部96を備える。
第1発振部92および第2発振部94のそれぞれは、局部発振信号を発振する。切替部90は、第1発振部92から発振される局部発振信号および第2発振部94から発振される局部発振信号のいずれか一方を選択して出力する。ここで、通常は、第1発振部92からの局部発振信号が選択され、第1発振部92が故障している場合に、第2発振部94からの局部発振信号が選択されるものとする。また、乗算部14は、受信部12において受信した無線信号に対して、第1発振部92あるいは第2発振部94から出力される局部発振信号を使用しながら周波数変換を実行する。なお、第1発振部92から発振される局部発振信号と、第2発振部94から発振される局部発振号では、周波数が同等であるが、一般的に位相が異なっている。そのため、第1発振部92と第2発振部94との間において切替が実行されたとき、同期検波部56から出力される信号の位相が回転する。そのような状態において硬判定部60の硬判定が実行されれば、実施例と同様に、判定誤りが発生する可能性がある。
検出部96は、FFT部54からの周波数領域の信号を入力する。また、検出部96は、入力した周波数領域の信号から、パイロット信号が配置されたサブキャリアを抽出する。なお、パイロット信号が配置されたサブキャリアは既知であるとする。検出部96は、抽出したサブキャリアにおける位相回転量を導出する。例えば、検出部96は、時間的に異なったパイロット信号での位相差を導出する。また、検出部96は、予めしきい値を規定しており、位相回転量の大きさとしきい値とを比較する。さらに、検出部96は、位相回転量の大きさがしきい値よりも大きくなったときに、第1SW部58と第2SW部64に対して、硬判定部60、変調部62の処理の中止を指示する。つまり、当該場合に、検出部96は、Highレベルの信号をLowレベルの信号に切りかえる。
なお、中継装置100は、図5に示された中継装置100と同様に複数の受信用アンテナ10等、合成部74、ウエイト更新部72を備えることによって、アダプティブアレイ信号処理を実行してもよい。その場合、検出部96は、前述のごとく導出した位相回転量が大きくなったときに、ウエイト更新部72に対して、ウエイトベクトルの更新の中止を指示する。
以上の構成による中継装置100の動作を説明する。図9は、中継装置100における中継処理の手順を示すフローチャートである。Highレベルの信号期間であるときに(S70のY)、検出部96は、位相の不連続を検出すれば(S72のY)、Lowレベルの信号に切りかえる(S74)とともに、硬判定部60の硬判定をOFFにさせる(S76)。一方、検出部96は、位相の不連続を検出しなければ(S72のN)、定常処理、つまり硬判定を実行させる。Highレベルの信号期間でないときに(S70のN)、一定期間が経過すれば(S78のY)、検出部96は、Highレベルの信号に切りかえる(S80)とともに、硬判定部60の硬判定をONにさせる(S82)。一方、一定期間が経過しなければ(S78のN)、検出部70は、硬判定部60の硬判定をOFFにさせたままである(S84)。
本発明の実施例によれば、信号強度の低下を検出したときに、中継に必要とされる処理の簡略化を実行するので、処理に対する処理対象の信号の急激な変化の影響を低減できる。また、処理に対する処理対象の信号の急激な変化の影響が低減されるので、中継処理に及ぼされる影響を低減できる。また、中継に必要とされる処理の簡略化を実行するだけなので、簡易に影響を低減できる。また、平均等の統計処理での時定数が自動利得制御での時定数よりも短くするので、無線伝送路の変動よりも短い期間に生じる変化を検出できる。
また、系の切替を検出したときに硬判定の中止を指示するので、系の切替によって生じる位相回転による硬判定の誤りを抑制できる。また、系の切替によって生じる位相回転による硬判定の誤りが抑制されるので、処理に対する処理対象の信号の急激な変化の影響を低減でき、中継処理に及ぼされる影響を低減できる。また、硬判定を中止するが、中継を継続するので、放送を維持できる。また、系の切替を検出したときにウエイトベクトルの更新の中止を指示するので、系の切替によって生じる位相回転によるウエイトベクトルの誤更新を抑制できる。また、系の切替によって生じる位相回転によるウエイトベクトルの誤更新が抑制されるので、アダプティブアレイ信号処理の特性の悪化を抑制できる。また、系の切替によって生じる位相回転によるウエイトベクトルの誤更新が抑制されるので、処理に対する処理対象の信号の急激な変化の影響を低減でき、中継処理に及ぼされる影響を低減できる。
また、系の切替を検出したときに発振状態の調査の中止を指示するので、系の切替によって生じる信号強度の変化による発振状態の誤検出を抑制できる。また、系の切替によって生じる信号強度の変化による発振状態の誤検出が抑制されるので、処理に対する処理対象の信号の急激な変化の影響を低減でき、中継処理に及ぼされる影響を低減できる。また、発振状態の検出を抽出することによって、回り込みキャンセラが動作された状態にて中継処理が継続されるので、放送を維持できる。また、無線信号の送信元における系の切替に要すべき期間よりも長い期間にわたって、調査の中止が指示されるので、切替の影響を低減できる。
また、局部発振器の切替によって位相回転量が大きくなったときに硬判定の中止を指示するので、位相回転による硬判定の誤りを抑制できる。また、位相回転による硬判定の誤りが抑制されるので、処理に対する処理対象の信号の急激な変化の影響を低減でき、中継処理に及ぼされる影響を低減できる。また、局部発振器の切替によって位相回転量が大きくなったときにウエイトベクトルの更新の中止を指示するので、位相回転によるウエイトベクトルの誤更新が抑制され、処理に対する処理対象の信号の急激な変化の影響を低減でき、中継処理に及ぼされる影響を低減できる。
以上、本発明を実施例をもとに説明した。この実施例は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
これまで説明した実施例に示された中継装置100および変形例等に示された中継装置100の任意の組合せも有効である。例えば、検出部70、検出部80、検出部96が、送信装置200における第1送信部202と第2送信部204との切替、および第1発振部92と第2発振部94との間の切替を両方とも検出してもよい。また、検出部70、検出部80が、検出部96と同様に位相回転量をもとに切替を検出してもよい。本変形例によれば、組み合わせた効果が得られる。
実施例に記載された発明の特徴は、次の項目によって規定されてもよい。
(項目1)
無線信号を受信する受信部と、
前記受信部において受信した無線信号に対して、中継に必要とされる処理を実行する処理部と、
前記処理部において処理が実行された無線信号を送信する送信部と、
前記受信部において受信した無線信号に対する強度の低下を検出する検出部と、
前記検出部において強度の低下が検出されたときに、前記処理部に対して、一定期間にわたる処理の簡略化を指示する指示部と、
を備えることを特徴とする中継装置。
(項目2)
前記受信部は、受信した無線信号に対して、自動利得制御を実行しながら、増幅処理を実行し、
前記検出部は、無線信号に対する強度を導出するために統計処理を実行しており、統計処理での時定数が自動利得制御での時定数よりも短いことを特徴とする項目1に記載の中継装置。
(項目3)
無線信号を受信する受信部と、
前記受信部において受信した無線信号に対して、復調、硬判定、変調の順に処理を実行する処理部と、
前記処理部において処理が実行された無線信号を送信する送信部と、
前記受信部において受信した無線信号の送信元における系の切替を検出する検出部と、
前記検出部において切替が検出されたときに、前記処理部に対して、一定期間にわたる硬判定の中止を指示する指示部と、
を備えることを特徴とする中継装置。
(項目4)
前記受信部は、複数のアンテナを介して複数の無線信号を受信しており、
前記処理部は、前記受信部において受信した複数の無線信号に対して、ウエイトベクトルを更新しながら、アダプティブアレイ信号処理を実行し、
前記指示部は、前記検出部において切替が検出されたときに、前記処理部に対して、ウエイトベクトルの更新の中止を指示することを特徴とする項目3に記載の中継装置。
(項目5)
無線信号を受信する受信部と、
前記受信部において受信した無線信号からレプリカ信号を生成しながら、生成したレプリカ信号をフィードバックすることによって、新たに受信した無線信号からレプリカ信号を削除する処理部と、
前記処理部においてレプリカ信号が削除された無線信号を送信する送信部と、
前記処理部においてレプリカ信号が削除された無線信号に対して、発振状態にあるか否かを調査し、発振状態にある場合に、前記処理部に対して削除の中止を指示する調査部と、
前記受信部において受信した無線信号の送信元における系の切替を検出する検出部と、
前記検出部において切替が検出されたときに、前記調査部に対して、一定期間にわたる調査の中止を指示する指示部と、
を備えることを特徴とする中継装置。
(項目6)
前記指示部において調査の中止が指示される期間は、無線信号の送信元における系の切替に要すべき期間よりも長くなるように規定されることを特徴とする項目5に記載の中継装置。
10 受信用アンテナ、 12 受信部、 14 乗算部、 16 発振部、 18 AD部、 20 回り込みキャンセラ部、 22 等化部、 24 調査部、 26 DA部、 28 乗算部、 30 送信部、 32 加算部、 34 FIRフィルタ部、 36 推定部、 38 送信用アンテナ、 40 制御部、 50 第1発振部、 52 直交検波部、 54 FFT部、 56 同期検波部、 58 第1SW部、 60 硬判定部、 62 変調部、 64 第2SW部、 66 IFFT部、 68 直交変調部、 70 検出部、 72 ウエイト更新部、 74 合成部、 76 第2発振部、 80 検出部、 82 SW部、 90 切替部、 92 第1発振部、 94 第2発振部、 96 検出部、 100 中継装置。