以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
先ず、本発明で使用する記録用メディアである商業・出版印刷用塗工紙について説明する。
商業・出版印刷用塗工紙とは、オフセット印刷用塗工紙やグラビア印刷用塗工紙に代表されるいわゆる印刷用塗工紙の他、電子写真記録方式用の塗工紙、商業印刷や出版印刷用途向けに開発されたインクジェット記録用塗工紙を包含する。
記録用メディアとして商業・出版印刷用塗工紙は、支持体と、この支持体の少なくとも一方の面に塗工層を有してなり、更に必要に応じてその他の層を有してなる。
−支持体−
支持体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、木材繊維主体の紙、木材繊維及び合成繊維を主体とした不織布のようなシート状物質などが挙げられる。
前記紙としては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、木材パルプ、古紙パルプなどが用いられる。前記木材パルプとしては、例えば、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、NBSP、LBSP、GP、TMPなどが挙げられる。
前記古紙パルプの原料としては、財団法人古紙再生促進センターの古紙標準品質規格表に示されている、上白、罫白、クリーム白、カード、特白、中白、模造、色白、ケント、白アート、特上切、別上切、新聞、雑誌などが挙げられる。具体的には、情報関連用紙である非塗工コンピュータ用紙、感熱紙、感圧紙等のプリンタ用紙;PPC用紙等のOA古紙;アート紙、コート紙、微塗工紙、マット紙等の塗工紙;上質紙、色上質、ノート、便箋、包装紙、ファンシーペーパー、中質紙、新聞用紙、更紙、スーパー掛け紙、模造紙、純白ロール紙、ミルクカートン等の非塗工紙、などの紙や板紙の古紙で、化学パルプ紙、高歩留りパルプ含有紙などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記古紙パルプは、一般的に、以下の4工程の組合せから製造される。
(1)離解は、古紙をパルパーにて機械力と薬品で処理して繊維状にほぐし、印刷インキを繊維より剥離する。
(2)除塵は、古紙に含まれる異物(プラスチックなど)及びゴミをスクリーン、クリーナー等により除去する。
(3)脱墨は、繊維より界面活性剤を用いて剥離された印刷インキをフローテーション法、又は洗浄法で系外に除去する。
(4)漂白は、酸化作用や還元作用を用いて、繊維の白色度を高める。
前記古紙パルプを混合する場合、全パルプ中の古紙パルプの混合比率は、記録後のカール対策から40%以下が好ましい。
前記支持体に使用される内添填料としては、例えば、白色顔料として従来公知の顔料が用いられる。前記白色顔料としては、例えば、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、カオリン、クレー、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、ケイソウ土、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、合成シリカ、水酸化アルミニウム、アルミナ、リトポン、ゼオライト、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム等のような白色無機顔料;スチレン系プラスチックピグメント、アクリル系プラスチックピグメント、ポリエチレン、マイクロカプセル、尿素樹脂、メラミン樹脂等のような有機顔料、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記支持体を抄造する際に使用される内添サイズ剤としては、例えば、中性抄紙に用いられる中性ロジン系サイズ剤、アルケニル無水コハク酸(ASA)、アルキルケテンダイマー(AKD)、石油樹脂系サイズ剤などが挙げられる。これらの中でも、中性ロジンサイズ剤又はアルケニル無水コハク酸が特に好適である。前記アルキルケテンダイマーは、そのサイズ効果が高いことから添加量は少なくて済むが、記録用紙(メディア)表面の摩擦係数が下がり滑りやすくなるため、インクジェット記録時の搬送性の点からは好ましくない場合がある。
−塗工層−
前記塗工層は、顔料及びバインダー(結着剤)を含有してなり、更に必要に応じて、界面活性剤、その他の成分を含有してなる。
前記顔料としては、無機顔料、もしくは無機顔料と有機顔料を併用したものを用いることができる。
前記無機顔料としては、例えば、カオリン、タルク、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、非晶質シリカ、アルミナ、チタンホワイト、炭酸マグネシウム、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、クロライトなどが挙げられる。これらの中でも、カオリンは光沢発現性に優れており、オフセット印刷用の用紙に近い風合いとすることができる点から特に好ましい。着色材がインク中で分散状態である、いわゆる顔料インクの場合には、着色材は塗工層表面に留まるので、塗工層の無機顔料として、非晶質シリカ、アルミナのような屈折率が小さい顔料を多量に使用する必要はない。
前記カオリンには、デラミネーテッドカオリン、焼成カオリン、表面改質等によるエンジニアードカオリン等があるが、光沢発現性を考慮すると、粒子径が2μm以下の割合が80質量%以上の粒子径分布を有するカオリンが、カオリン全体の50質量%以上を占めていることが好ましい。
前記カオリンの添加量は、前記バインダー100質量部に対し50質量部以上が好ましい。前記添加量が50質量部未満であると、光沢度において十分な効果が得られないことがある。前記添加量の上限は特に制限はないが、カオリンの流動性、特に高せん断力下での増粘性を考慮すると、塗工適性の点から、90質量部以下がより好ましい。
前記有機顔料としては、例えば、スチレン−アクリル共重合体粒子、スチレン−ブタジエン共重合体粒子、ポリスチレン粒子、ポリエチレン粒子等の水溶性ディスパージョンがある。これら有機顔料は2種以上が混合されてもよい。
前記有機顔料の添加量は、前記塗工層の全顔料100質量部に対し2〜20質量部が好ましい。前記有機顔料は、光沢発現性に優れていることと、その比重が無機顔料と比べて小さいことから、嵩高く、高光沢で、表面被覆性の良好な塗工層を得ることができる。前記添加量が2質量部未満であると、前記効果がなく、20質量部を超えると、塗工液の流動性が悪化し、塗工操業性の低下に繋がることと、コスト面からも経済的ではない。
前記有機顔料には、その形態において、密実型、中空型、ドーナツ型等があるが、光沢発現性、表面被覆性及び塗工液の流動性のバランスを鑑み、平均粒子径は0.2〜3.0μmが好ましく、より好ましくは空隙率40%以上の中空型が採用される。
前記バインダーとしては、水性樹脂を使用するのが好ましい。
前記水性樹脂としては、水溶性樹脂及び水分散性樹脂の少なくともいずれかを好適に用いられる。前記水溶性樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリビニルアルコール、アニオン変性ポリビニルアルコール、カチオン変性ポリビニルアルコール、アセタール変性ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコールの変性物;ポリウレタン;ポリビニルピロリドン及びポリビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体、ビニルピロリドンとジメチルアミノエチル・メタクリル酸の共重合体、四級化したビニルピロリドンとジメチルアミノエチル・メタクリル酸の共重合体、ビニルピロリドンとメタクリルアミドプロピル塩化トリメチルアンモニウムの共重合体等のポリビニルピロリドンの変性物;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等セルロース;カチオン化ヒドロキシエチルセルロース等のセルロースの変性物;ポリエステル、ポリアクリル酸(エステル)、メラミン樹脂、又はこれらの変性物、ポリエステルとポリウレタンの共重合体等の合成樹脂;ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリルアミド、酸化澱粉、燐酸エステル化澱粉、自家変性澱粉、カチオン化澱粉、又は各種変性澱粉、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸ソーダ、アルギン酸ソーダ、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、インク吸収性の観点から、ポリビニルアルコール、カチオン変性ポリビニルアルコール、アセタール変性ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエステルとポリウレタンの共重合体、などが特に好ましい。
前記水分散性樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル系重合体、酢酸ビニル−(メタ)アクリル酸(エステル)共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、ポリビニルエーテル、シリコーン−アクリル系共重合体、などが挙げられる。また、メチロール化メラミン、メチロール化尿素、メチロール化ヒドロキシプロピレン尿素、イソシアネート等の架橋剤を含有してよいし、N−メチロールアクリルアミドなどの単位を含む共重合体で自己架橋性を持つものでもよい。これら水性樹脂の複数を同時に用いることも可能である。
前記水性樹脂の添加量は、前記顔料100質量部に対し、2〜100質量部が好ましく、3〜50質量部がより好ましい。前記水性樹脂の添加量は記録用メディアの吸液特性が所望の範囲に入るように決定される。
前記着色剤として水分散性の着色剤を使用する場合には、カチオン性有機化合物は必ずしも配合する必要はないが、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択使用することができる。例えば、水溶性インク中の直接染料や酸性染料中のスルホン酸基、カルボキシル基、アミノ基等と反応して不溶な塩を形成する1級〜3級アミン、4級アンモニウム塩のモノマー、オリゴマー、ポリマーなどが挙げられ、これらの中でも、オリゴマー又はポリマーが好ましい。
前記カチオン性有機化合物としては、例えば、ジメチルアミン・エピクロルヒドリン重縮合物、ジメチルアミン・アンモニア・エピクロルヒドリン縮合物、ポリ(メタクリル酸トリメチルアミノエチル・メチル硫酸塩)、ジアリルアミン塩酸塩・アクリルアミド共重合物、ポリ(ジアリルアミン塩酸塩・二酸化イオウ)、ポリアリルアミン塩酸塩、ポリ(アリルアミン塩酸塩・ジアリルアミン塩酸塩)、アクリルアミド・ジアリルアミン共重合物、ポリビニルアミン共重合物、ジシアンジアミド、ジシアンジアミド・塩化アンモニウム・尿素・ホルムアルデヒド縮合物、ポリアルキレンポリアミン・ジシアンジアミドアンモニウム塩縮合物、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド、ポリジアリルメチルアミン塩酸塩、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド・二酸化イオウ)、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド・ジアリルアミン塩酸塩誘導体)、アクリルアミド・ジアリルジメチルアンモニウムクロライド共重合物、アクリル酸塩・アクリルアミド・ジアリルアミン塩酸塩共重合物、ポリエチレンイミン、アクリルアミンポリマー等のエチレンイミン誘導体、ポリエチレンイミンアルキレンオキサイド変性物、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、ジメチルアミン・エピクロルヒドリン重縮合物、ポリアリルアミン塩酸塩等の低分子量のカチオン性有機化合物と他の比較的高分子量のカチオン性有機化合物、例えば、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)等とを組合せて使用するのが好ましい。併用により、単独使用の場合よりも画像濃度を向上させ、フェザリングが更に低減される。
前記カチオン性有機化合物のコロイド滴定法(ポリビニル硫酸カリウム、トルイジンブルー使用)によるカチオン当量は3〜8meq/gが好ましい。前記カチオン当量がこの範囲であれば上記乾燥付着量の範囲で良好な結果が得られる。
ここで、前記コロイド滴定法によるカチオン当量の測定に当たっては、カチオン性有機化合物を固形分0.1質量%となるように蒸留水で希釈し、pH調整は行わないものとする。
前記カチオン性有機化合物の乾燥付着量は0.3〜2.0g/m2が好ましい。前記カチオン性有機化合物の乾燥付着量が0.3g/m2より低いと、充分な画像濃度向上やフェザリング低減の効果が得られないことがある。
前記界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、アニオン活性剤、カチオン活性剤、両性活性剤、非イオン活性剤のいずれも使用することができる。これらの中でも、非イオン活性剤が特に好ましい。前記界面活性剤を添加することにより、画像の耐水性が向上するとともに、画像濃度が高くなり、ブリーディングが改善される。
前記非イオン活性剤としては、例えば、高級アルコールエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物、高級脂肪族アミンエチレンオキサイド付加物、脂肪酸アミドエチレンオキサイド付加物、油脂のエチレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物、グリセロールの脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステル、ソルビトール及びソルビタンの脂肪酸エステル、ショ糖の脂肪酸エステル、多価アルコールのアルキルエーテル、アルカノールアミン類の脂肪酸アミド等が挙られる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記多価アルコールとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、グリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリット、ソルビトール、ショ糖などが挙げられる。また、エチレンオキサイド付加物については、水溶性を維持できる範囲で、エチレンオキサイドの一部をプロピレンオキサイドあるいはブチレンオキサイド等のアルキレンオキサイドに置き換えしたものも有効である。置換率は50%以下が好ましい。前記非イオン活性剤のHLB(親水性/親油性比)は4〜15が好ましく、7〜13がより好ましい。
前記界面活性剤の添加量は、前記カチオン性有機化合物100質量部に対し、0〜10質量部が好ましく、0.1〜1.0質量部がより好ましい。
前記塗工層には、本発明の目的及び効果を損なわない範囲で、更に必要に応じて、その他の成分を添加することができる。該その他の成分としては、アルミナ粉末、pH調整剤、防腐剤、酸化防止剤等の添加剤が挙げられる。
前記塗工層の形成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、前記支持体上に塗工層液を含浸又は塗布する方法により行うことができる。前記塗工層液の含浸又は塗布方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、コンベンショナルサイズプレス、ゲートロールサイズプレス、フィルムトランスファーサイズプレス、ブレードコーター、ロッドコーター、エアーナイフコーター、カーテンコーターなど各種塗工機で塗工することも可能であるが、コストの点から、抄紙機に設置されているコンベンショナルサイズプレス、ゲートロールサイズプレス、フィルムトランスファーサイズプレスなどで含浸又は付着させ、オンマシンで仕上げてもよい。
前記塗工層液の付着量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、固形分で、0.5〜20g/m2が好ましく、1〜15g/m2がより好ましい。
前記含浸又は塗布の後、必要に応じて乾燥させてもよく、この場合の乾燥の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、100〜250℃程度が好ましい。
前記記録用メディアは、更に支持体の裏面にバック層、支持体と塗工層との間、また、支持体とバック層間にその他の層を形成してもよく、塗工層上に保護層を設けることもできる。これらの各層は単層であっても複数層であってもよい。
以上のような組成の記録メディアを、本発明において商業・出版印刷用塗工紙とする。
この商業・出版印刷用塗工紙は、本来、油性インクが使用されるべきメディアだが、油性インクは、他の用紙に使用した場合、その浸透性の高さからインクの裏抜けが発生する、あるいは経時による滲みが発生する恐れがある。商業・出版印刷用塗工紙専用のシステムであれば問題は無いが、オフィスやコンシュマー用途で使用される汎用的なインクジェット記録システムでは、かえって問題となってしまう。
そこで、水性インクを使用した場合の商業・出版印刷用塗工紙の特性であるが、純水を使用した評価により、次の様なデータが得られている。
23℃50%RHの環境条件において、動的走査吸液計で測定した接触時間100msにおける純水の前記記録用メディアへの転移量は、2〜35ml/m2であり、実用的な印字品質を得る為には4〜26ml/m2が好ましい。
前記接触時間100msでの前記インク及び純水の転移量が少なすぎると、ビーディングが発生しやすくなることがあり、多すぎると、記録後のインクドット径が所望の径よりも小さくなりすぎることがある。
動的走査吸液計で測定した接触時間400msにおける純水の前記インクの前記記録用メディアへの転移量は、3〜40ml/m2であり、実用的な印字品質を得る為には5〜29ml/m2が好ましい。
前記接触時間400msでの転移量が少なすぎると、乾燥性が不十分であるため、拍車痕が発生しやすくなることがあり、多すぎると、乾燥後の画像部の光沢が低くなりやすくなることがある。
ここで、前記動的走査吸収液計(dynamic scanning absorptometer;DSA,紙パ技協誌、第48巻、1994年5月、第88〜92頁、空閑重則)は、極めて短時間における吸液量を正確に測定できる装置である。前記動的走査吸液計は、吸液の速度をキャピラリー中のメニスカスの移動から直読する、試料を円盤状とし、この上で吸液ヘッドをらせん状に走査する、予め設定したパターンに従って走査速度を自動的に変化させ、1枚の試料で必要な点の数だけ測定を行う、という方法によって測定を自動化したものである。紙試料への液体供給ヘッドはテフロン(登録商標)管を介してキャピラリーに接続され、キャピラリー中のメニスカスの位置は光学センサで自動的に読み取られる。具体的には、動的走査吸液計(K350シリーズD型、協和精工株式会社製)を用いて、純水又はインクの転移量を測定した。接触時間100ms及び接触時間400msにおける転移量は、それぞれの接触時間の近隣の接触時間における転移量の測定値から補間により求めることができる。その結果を表1に示している。
次に、本発明で使用する高浸透性顔料系インク(顔料インク)について説明する。
一般的に使用される顔料系インクには、特に限定されるものではないが、例えば以下に挙げる顔料が好適に用いられる。また、これら顔料は複数種類を混合して用いても良い。
有機顔料としては、アゾ系、フタロシアニン系、アントラキノン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、インジゴ系、チオインジゴ系、ペリレン系、イソインドレノン系、アニリンブラック、アゾメチン系、ローダミンBレーキ顔料、カーボンブラック等が挙げられる。
無機顔料として酸化鉄、酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、紺青、カドミウムレッド、クロムイエロー、金属粉が挙げられる。
これらの顔料の粒子径は0.01〜0.30μmで用いることが好ましく、0.01μm以下では粒子径が染料に近づくため、耐光性、フェザリングが悪化してしまう。また、0.30μm以上では、吐出口の目詰まりやプリンタ内のフィルターでの目詰まりが発生し、吐出安定性を得ることができない。
ブラック顔料インクに使用されるカーボンブラックとしては、ファーネス法、チャネル法で製造されたカーボンブラックで、一次粒径が、15〜40ミリミクロン、BET法による比表面積が、50〜300平方メートル/g、DBP吸油量が、40〜150ml/100g、揮発分が0.5〜10%、pH値が2〜9を有するものが好ましい。このようなものとしては、例えば、No.2300、No.900、MCF−88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No.2200B(以上、三菱化学製)、Raven700、同5750、同5250、同5000、同3500、同1255(以上、コロンビア製)、Regal400R、同330R、同660R、MogulL、Monarch700、同800、同880、同900、同1000、同1100、同1300、Monarch1400(以上、キャボット製)、カラーブラックFW1、同FW2、同FW2V、同FW18、同FW200、同S150、同S160、同S170、プリンテックス35、同U、同V、同140U、同140V、スペシャルブラック6、同5、同4A、同4(以上、デグッサ製)等を使用することができるが、これらに限定されるものではない。
カラー顔料の具体例を以下に挙げる。
有機顔料としてアゾ系、フタロシアニン系、アントラキノン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、インジゴ系、チオインジゴ系、ペリレン系、イソインドレノン系、アニリンブラック、アゾメチン系、ローダミンBレーキ顔料、カーボンブラック等が挙げられ、無機顔料として酸化鉄、酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、紺青、カドミウムレッド、クロムイエロー、金属粉等が挙げられる。
色別により具体的には以下のものが挙げられる。
イエローインクに使用できる顔料の例としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー1、同2、同3、同12、同13、同14、同16、同17、同73、同74、同75、同83、同93、同95、同97、同98、同114、同128、同129、同151、同154等が挙げられるが、これらに限られるものではない。
マゼンタインクに使用できる顔料の例としては、例えば、C.I.ピグメントレッド5、同7、同12、同48(Ca)、同48(Mn)、同57(Ca)、同57:1、同112、同123、同168、同184、同202等が挙げられるが、これらに限られるものではない。
シアンインクに使用できる顔料の例としては、例えば、C.I.ピグメントブルー1、同2、同3、同15:3、同15:34、同16、同22、同60、C.I.バットブルー4、同60等が挙げられるが、これらに限られるものではない。
又、本発明で使用する各インクに含有される顔料は、本発明のために新たに製造されたものでも使用可能である。
以上に挙げた顔料は高分子分散剤や界面活性剤を用いて水性媒体に分散させることでインクジェット用記録液とすることができる。このような有機顔料粉体を分散させるための分散剤としては、通常の水溶性樹脂や水溶性界面活性剤を用いることができる。
水溶性樹脂の具体例としては、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン誘導体、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステル等、アクリル酸、アクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマール酸、フマール酸誘導体等から選ばれた少なくとも2つ以上の単量体からなるブロック共重合体、あるいはランダム共重合体、又はこれらの塩等が挙げられる。これらの水溶性樹脂は、塩基を溶解させた水溶液に可溶なアルカリ可溶型樹脂であり、これらの中でも重量平均分子量3000〜20000のものが、インクジェット用記録液に用いた場合に、分散液の低粘度化が可能であり、かつ分散も容易であるという利点があるので特に好ましい。
高分子分散剤と自己分散型顔料を同時に使うことは、適度なドット径を得られるため好ましい組合せである。その理由は明らかでないが、以下のように考えられる。
つまり、高分子分散剤を含有することで記録紙への浸透が抑制される。その一方で、高分子分散剤を含有することで自己分散型顔料の凝集が抑えられるため、自己分散型顔料が横方向にスムーズに拡がることができる。そのため、広く薄くドットが拡がり、理想的なドットが形成できると考えられる。
また、分散剤として使用できる水溶性界面活性剤の具体例としては、下記のものが挙げられる。例えば、アニオン性界面活性剤としては、高級脂肪酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、アルキルエステル硫酸塩、アルキルアリールエーテル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、スルホコハク酸塩、アルキルアリル及びアルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩、アルキルアリルエーテルリン酸塩等が挙げられる。又、カチオン性界面活性剤としては、アルキルアミン塩、ジアルキルアミン塩、テトラアルキルアンモニウム塩、ベンザルコニウム塩、アルキルピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩等が挙げられる。更に両性界面活性剤としては、ジメチルアルキルラウリルベタイン、アルキルグリシン、アルキルジ(アミノエチル)グリシン、イミダゾリニウムベタイン等が挙げられる。又、ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、グリセリンエステル、ソルビタンエステル、ショ糖エステル、グリセリンエステルのポリオキシエチレンエーテル、ソルビタンエステルのポリオキシエチレンエーテル、ソルビトールエステルのポリオキシエチレンエーテル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、アミンオキシド、ポリオキシエチレンアルキルアミン等が挙げられる。
また、顔料は親水性基を有する樹脂によって被覆し、マイクロカプセル化することで、分散性を与えることもできる。
水不溶性の顔料を有機高分子類で被覆してマイクロカプセル化する方法としては、従来公知のすべての方法を用いることが可能である。従来公知の方法として、化学的製法、物理的製法、物理化学的方法、機械的製法などが挙げられる。具体的には、次のような製法がある。
・界面重合法(2種のモノマーもしくは2種の反応物を、分散相と連続相に別々に溶解しておき、両者の界面において両物質を反応させて壁膜を形成させる方法);
・in−situ重合法(液体または気体のモノマーと触媒、もしくは反応性の物質2種を連続相核粒子側のどちらか一方から供給して反応を起こさせ壁膜を形成させる方法);
・液中硬化被膜法(芯物質粒子を含む高分子溶液の滴を硬化剤などにより、液中で不溶化して壁膜を形成する方法);
・コアセルベーション(相分離)法(芯物質粒子を分散している高分子分散液を、高分子濃度の高いコアセルベート(濃厚相)と希薄相に分離させ、壁膜を形成させる方法);
・液中乾燥法(芯物質を壁膜物質の溶液に分散した液を調製し、この分散液の連続相が混和しない液中に分散液を入れて、複合エマルションとし、壁膜物質を溶解している媒質を徐々に除くことで壁膜を形成させる方法);
・融解分散冷却法(加熱すると液状に溶融し常温では固化する壁膜物質を利用し、この物質を加熱液化し、その中に芯物質粒子を分散し、それを微細な粒子にして冷却し壁膜を形成させる方法);
・気中懸濁被覆法(粉体の芯物質粒子を流動床によって気中に懸濁し、気流中に浮遊させながら、壁膜物質のコーティング液を噴霧混合させて、壁膜を形成させる方法);
・スプレードライング法(カプセル化原液を噴霧してこれを熱風と接触させ、揮発分を蒸発乾燥させ壁膜を形成させる方法);
・酸析法(アニオン性基を含有する有機高分子化合物類のアニオン性基の少なくとも一部を塩基性化合物で中和することで水に対する溶解性を付与し色材と共に水性媒体中で混練した後、酸性化合物で中性または酸性にし有機化合物類を析出させ色材に固着せしめた後に中和し分散させる方法);
・転相乳化法(水に対して分散能を有するアニオン性有機高分子類と色材とを含有する混合体を有機溶媒相とし、前記有機溶媒相に水を投入するかもしくは、水に前記有機溶媒相を投入する方法)、などが挙げられる。
マイクロカプセルの壁膜物質を構成する材料として使用される有機高分子類(樹脂)としては、例えば、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエステル、ポリウレア、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、多糖類、ゼラチン、アラビアゴム、デキストラン、カゼイン、タンパク質、天然ゴム、カルボキシポリメチレン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、セルロース、エチルセルロース、メチルセルロース、ニトロセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、酢酸セルロース、ポリエチレン、ポリスチレン、(メタ)アクリル酸の重合体または共重合体、(メタ)アクリル酸エステルの重合体または共重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、アルギン酸ソーダ、脂肪酸、パラフィン、ミツロウ、水ロウ、硬化牛脂、カルナバロウ、アルブミンなどが挙げられる。
これらの中ではカルボン酸基またはスルホン酸基などのアニオン性基を有する有機高分子類を使用することが可能である。また、ノニオン性有機高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレートまたはそれらの(共)重合体)、2−オキサゾリンのカチオン開環重合体などが挙げられる。特に、ポリビニルアルコールの完全ケン物は、水溶性が低く、熱水には解け易いが冷水には解けにくいという性質を有しており特に好ましい。
また、マイクロカプセルの壁膜物質を構成する有機高分子類の量は、有機顔料またはカーボンブラックなどの水不溶性の色材に対して1重量%以上20重量%以下である。有機高分子類の量を上記の範囲にすることによって、カプセル中の有機高分子類の含有率が比較的低いために、有機高分子類が顔料表面を被覆することに起因する顔料の発色性の低下を抑制することが可能となる。有機高分子類の量が1重量%未満ではカプセル化の効果を発揮しづらくなり、逆に20重量%を越えると、顔料の発色性の低下が著しくなる。さらに他の特性などを考慮すると有機高分子類の量は水不溶性の色材に対し5〜10重量%の範囲が好ましい。
すなわち、色材の一部が実質的に被覆されずに露出しているために発色性の低下を抑制することが可能となり、また、逆に、色材の一部が露出せずに実質的に被覆されているために顔料が被覆されている効果を同時に発揮することが可能となるのである。また、本発明に用いる有機高分子類の数平均分子量としては、カプセル製造面などから、2000以上であることが好ましい。ここで「実質的に露出」とは、例えば、ピンホール、亀裂などの欠陥などに伴う一部の露出ではなく、意図的に露出している状態を意味するものである。
さらに、色材として自己分散性の顔料である有機顔料または自己分散性のカーボンブラックを用いれば、カプセル中の有機高分子類の含有率が比較的低くても、顔料の分散性が向上するために、十分なインクの保存安定性を確保することが可能となるので本発明にはより好ましい。
なお、マイクロカプセル化の方法によって、それに適した有機高分子類を選択することが好ましい。例えば、界面重合法による場合は、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリビニルピロリドン、エポキシ樹脂などが適している。in−situ重合法による場合は、(メタ)アクリル酸エステルの重合体または共重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミドなどが適している。液中硬化法による場合は、アルギン酸ソーダ、ポリビニルアルコール、ゼラチン、アルブミン、エポキシ樹脂などが適している。コアセルベーション法による場合は、ゼラチン、セルロース類、カゼインなどが適している。また、微細で、且つ均一なマイクロカプセル化顔料を得るためには、勿論前記以外にも従来公知のカプセル化法すべてを利用することが可能である。
マイクロカプセル化の方法として転相法または酸析法を選択する場合は、マイクロカプセルの壁膜物質を構成する有機高分子類としては、アニオン性有機高分子類を使用する。転相法は、水に対して自己分散能または溶解能を有するアニオン性有機高分子類と、自己分散性有機顔料または自己分散型カーボンブラックなどの色材との複合物または複合体、あるいは自己分散性有機顔料または自己分散型カーボンブラックなどの色材、硬化剤およびアニオン性有機高分子類との混合体を有機溶媒相とし、該有機溶媒相に水を投入するか、あるいは水中に該有機溶媒相を投入して、自己分散(転相乳化)化しながらマイクロカプセル化する方法である。上記転相法において、有機溶媒相中に、記録液用のビヒクルや添加剤を混入させて製造しても何等問題はない。特に、直接記録液用の分散液を製造できることからいえば、記録液の液媒体を混入させる方がより好ましい。
一方、酸析法は、アニオン性基含有有機高分子類のアニオン性基の一部または全部を塩基性化合物で中和し、自己分散性有機顔料または自己分散型カーボンブラックなどの色材と、水性媒体中で混練する工程および酸性化合物でpHを中性または酸性にしてアニオン性基含有有機高分子類を析出させて、顔料に固着する工程とからなる製法によって得られる含水ケーキを、塩基性化合物を用いてアニオン性基の一部または全部を中和することによりマイクロカプセル化する方法である。このようにすることによって、微細で顔料を多く含むアニオン性マイクロカプセル化顔料を含有する水性分散液を製造することができる。
また、上記に挙げたようなマイクロカプセル化の際に用いられる溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルキルアルコール類;ベンゾール、トルオール、キシロールなどの芳香族炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;クロロホルム、二塩化エチレンなどの塩素化炭化水素類;アセトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類;メチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのセロソルブ類などが挙げられる。なお、上記の方法により調製したマイクロカプセルを遠心分離または濾過などによりこれらの溶剤中から一度分離して、これを水および必要な溶剤とともに撹拌、再分散を行い、目的とする本発明に用いることができる記録液を得る。以上の如き方法で得られるカプセル化顔料の平均粒径は50nm〜180nmであることが好ましい。
このように樹脂被覆することによって顔料が印刷物にしっかりと付着することにより、印刷物の擦過性を向上させることができる。
本発明の記録液を所望の物性にするため、あるいは乾燥による記録ヘッドのノズルの詰まりを防止するためなどの目的で、色材の他に、水溶性有機溶媒を使用することが好ましい。水溶性有機溶媒には湿潤剤、浸透剤が含まれる。湿潤剤は乾燥による記録ヘッドのノズルの詰まりを防止することを目的に添加される。湿潤剤の具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−へキサンジオール、グリセリン、1,2,6−へキサントリオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,3−ブタントリオール、ペトリオール等の多価アルコール類、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールアルキルエーテル類、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル等の多価アルコールアリールエ−テル額;N−メチル−2−ピロリドン、N−ヒドロキシエチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、ε−カプロラクタム等の含窒素複素環化合物;ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド類;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン等のアミン類、ジメチルスルホキシド、スルホラン、チオジエタノ−ル等の含硫黄化合物類、プロピレンカーボネート、炭酸エチレン、γ−ブチロラクトン等である。これらの溶媒は、水とともに単独もしくは複数混合して用いられる。
また、浸透剤は記録液と被記録材の濡れ性を向上させ、浸透速度を調整する目的で添加される。浸透剤としては、下記一般式(I)〜(IV),(A)で表されるものが好ましい。すなわち、下記式(I)のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル系界面活性剤、式(II)のアセチレングリコール系界面活性剤、下記式(III)のポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤、式(IV)のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル系界面活性剤、(A)のフッ素系界面活性剤は、液の表面張力を低下させることができるので、濡れ性を向上させ、浸透速度を高めることができる。
(Rは分岐していても良い炭素数6〜14の炭化水素鎖、kは5〜20)
(Rは分岐していても良い炭素数6〜14の炭化水素鎖、nは5〜20)
(Rは炭素数6〜14の炭化水素鎖、m、nは20以下の数)
(mは、0〜10の整数、nは、1〜40の整数を表す)。
前記式(I)〜(IV)、(A)の化合物以外では、例えばジエチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールクロロフェニルエーテル等の多価アルコールのアルキル及びアリールエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロック共重合体等のノニオン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、エタノール、2−プロパノール等の低級アルコール類を用いることができるが、特にフッ素系界面活性剤が好ましい。
フッ素系界面活性剤の例としては、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキサイド化合物等が挙げられ、前記一般式(A)で示した構造のものが特に信頼性の観点からも特に好ましい。さらにフッ素系化合物として市販されているものを挙げると、サーフロンS−111,S−112,S−113,S121,S131,S132,S−141,S−145(旭硝子社製)、フルラードFC−93,FC−95,FC−98,FC−129,FC−135,FC−170C,FC−430,FC−431、FC−4430(住友スリーエム社製)、メガファックF−470,F−1405,F474(大日本インク化学工業社製)、ゾニールFS−300,FSN,FSN−100,FSO(デュポン社製)、エフトップEF-351,352,801,802(ジェムコ社製)等が簡単に入手でき本発明に用いることができる。この中でも,特に信頼性と発色向上に関して良好なゾニールFS−300,FSN,FSN−100,FSO(デュポン社製)が好適に使用できる。
また、本発明に係る画像形成方法などで使用する記録液(インク)の表面張力は、35mN/m以下であることがさらに好ましい。
また、本発明に係る画像形成方法などで使用する記録液(インク)の粘度は、1.0〜20.0cPであることが好ましく、吐出安定性の観点からは3.0〜10.0cPであることがさらに好ましい。
また、本発明に係る画像形成方法などで使用する記録液(インク)のpHは、3〜11であることが好ましく、接液する金属部材の腐食防止の観点からは6〜10であることがさらに好ましい。
また、記録液には防腐防黴剤を含有することができる。防腐防黴剤を含有することによって、菌の繁殖を抑えることができ、保存安定性、画質安定性を高めることができる。防腐防黴剤としてはベンゾトリアゾール、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、イソチアゾリン系化合物、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム等が使用できる。
また、記録液には防錆剤を含有することができる。防錆剤を含有することによって、ヘッド等の接液する金属面に被膜を形成し、腐食を防ぐことができる。防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオジグリコール酸アンモン、ジイソプロピルアンモニウムニトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムニトライト等が使用できる。
また、記録液には酸化防止剤を含有することができる。酸化防止剤を含有することによって、腐食の原因となるラジカル種が生じた場合にも酸化防止剤がラジカル種を消滅させることで腐食を防止することができる。
酸化防止剤としては、フェノール系化合物類、アミン系化合物類が代表的であるがフェノール系化合物類としては、ハイドロキノン、ガレート等の化合物、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ステアリル−β−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、テトラキス[メチレン−3(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン等のヒンダードフェノール系化合物が例示され、アミン系化合物類としては、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、フェニル−β−ナフチルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、N,N’−β−ナフチル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジフェニルエチレンジアミン、フェノチアジン、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、4,4’−テトラメチル−ジアミノジフェニルメタン等が例示される。
また、後者としては、硫黄系化合物類、リン系化合物類が代表的であるが、硫黄系化合物としては、ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、ラウリルステアリルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、ジステアリルβ,β’−チオジブチレート、2−メルカプトベンゾイミダゾール、ジラウリルサルファイド等が例示され、リン系化合物類としては、トリフェニルフォスファイト、トリオクタデシルフォスファイト、トリデシルフォスファイト、トリラウリルトリチオフォスファイト、ジフェニルイソデシルフォスファイト、トリノニルフェニルフォスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールフォスファイト等が例示される。
また、記録液にはpH調整剤を含有することができる。pH調整剤としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属元素の水酸化物、水酸化アンモニウム、第4級アンモニウム水酸化物、第4級ホスホニウム水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩、ジエタノールアミン、トリエタノ−ルアミン等のアミン類、硼酸、塩酸、硝酸、硫酸、酢酸等を用いることができる。
本発明で使用する高浸透性顔料系インクでは、更に、フッ素系界面活性剤の添加によって浸透性の向上を図っている。
以下に具体的なインクの例について説明するが、これに限るものではない。
〈ブラックインク〉
キャボット製カーボンブラック分散体(スルホン基付加型自己分散タイプ)を用いて、以下の処方で混合攪拌後、0.8μmポリプロピレンフィルターにて濾過しインクを作製した。
ブラック分散体 40重量部
CAB-O-JET 200(スルホン基付加型 キャボット製)
アクリルシリコン系樹脂エマルジョン 8重量部
ナノクリルSBCX-2821(東洋インキ製)
1,3-ブタンジオール 18重量部
グリセリン 9重量部
2-ピロリドン 2重量部
エチルヘキサンジオール 2重量部
フッ素系界面活性剤FS-300(Du Pont社製) 2重量部
前記一般式(A)m=6〜8 n=26以上
プロキセルLV(アビシア社製) 0.2重量部
イオン交換水 20.8重量部
〈カラーインク〉
特開2001−139849号公報の調製例3を参考に、銅フタロシアニン顔料含有ポリマー微粒子分散液を追試調製した。
まず始めに、ポリマー溶液の調製として、機械式攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、還流管及び滴下ロートを備えた1Lフラスコ内を十分に窒素ガスで置き換えした後、スチレン11.2g、アクリル酸2.8g、ラウリルメタクリレート12.0g、ポリエチレングリコールメタクリレート4.0g、スチレンマクロマー(東亜合成(株)製、商品名:AS−6)4.0g及びメルカプトエタノール0.4gを仕込み、65℃に昇温した。次にスチレン100.8g、アクリル酸25.2g、ラウリルメタクリレート108.0g、ポリエチレングリコールメタクリレート36.0g、ヒドロキシエチルメタクリレート60.0g、スチレンマクロマー(東亜合成(株)製、商品名:AS−6)36.0g、メルカプトエタノール3.6g、アゾビスジメチルバレロニトリル2.4g及びメチルエチルケトン18gの混合溶液を2.5時間かけてフラスコ内に滴下した。滴下終了後、アゾビスジメチルバレロニトリル0.8g及びメチルエチルケトン18gの混合溶液を0.5時間かけてフラスコ内に滴下した。65℃で1時間熟成した後、アゾビスジメチルバレロニトリル0.8gを添加し、更に1時間熟成した。反応終了後、フラスコ内に、メチルエチルケトン364gを添加し、濃度が50%のポリマー溶液800gを得た。
前述で得られたポリマー溶液28g、銅フタロシアニン顔料26g、1mol/L水酸化カリウム水溶液13.6g、メチルエチルケトン20g及びイオン交換水30gを十分に攪拌した。その後、3本ロールミル((株)ノリタケカンパニー製、商品名:NR−84A)を用いて20回混練した。得られたペーストをイオン交換水200gに投入し、十分に攪拌した後、エバポレーターを用いてメチルエチルケトン及び水を留去し、固形分量が20.0wt%のシアン色のポリマー微粒子分散液160gを得た。
この分散液を用いて以下の処方で混合攪拌後、0.8μmポリプロピレンフィルターにて濾過しインクを作製した。
シアンポリマー微粒子分散体 45重量部
1,3-ブタンジオール 21重量部
グリセリン 8重量部
エチルヘキサンジオール 2重量部
フッ素系界面活性剤FSN-100(Du Pont社製) 1重量部
前記一般式(A)m=1〜9 n=0〜25
プロキセルLV(アビシア社製) 0.5重量部
イオン交換水 23.5重量部
このように、水溶性溶剤(1,3-ブタンジオール、エチルヘキサンジオール)に加えて、フッ素系界面活性剤を添加することにより、所謂インクジェット専用紙や普通紙よりも浸透性の劣る商業・出版印刷用塗工紙においても、実用レベルの浸透性を有することが可能となる。
しかしながら、このような高浸透性顔料系インクを使用しても、商業・出版印刷用塗工紙においては、必ずしも速やかなインク定着が行われる訳ではなく、インクジェット専用紙などと比べて低い浸透性からビーディングが発生し易いという問題が残っている。
ここで、絹目光沢紙、普通紙、商業・出版印刷用塗工紙を対比して液滴が着弾したときの様子を後述する図22を参照して説明すると、図22(a)は絹目光沢紙、同図(b)は普通紙、同図(c)は商業・出版印刷用塗工紙の場合を示しており、これらの媒体にドット(液滴)を打った場合(液滴Dが着弾した場合)、絹目光沢紙ではドットDが広がらずにドットDが完全に独立する状態になるのに対し、普通紙ではドットDが広がる(滲みが生じる)。商業・出版印刷用塗工紙は、一方では普通紙のように媒体上で滲みが発生することはないが、他方、絹目光沢紙のようにドットが広がらないものの、完全にドットが独立する状態ではなく、普通紙ほど滲みは発生しないが、隣接するドット同士が凝集し、結果として、インク溢れが発生しやすくなるという特徴(特性、性質)を持っている。
このように、記録液が着弾したときのドットの広がりが小さく、凝集するような性質を有する商業・出版印刷用塗工紙に対して高画質画像を形成するため、本発明では出力階調値に応じてドット配置を使い分ける画像処理を組み合わせて画像形成を行うようにしている。
そこで、先ず、商用・出版印刷用塗工紙に対し、高浸透性顔料系インクを用いて、画像を形成する画像形成装置の一例について図1及び図2を参照して説明する。なお、図1は同画像形成装置の機構部の全体構成を説明する側面説明図、図2は同機構部の平面説明図である。
この画像形成装置は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材であるガイドロッド1とガイドレール2とでキャリッジ3を主走査方向に摺動自在に保持し、主走査モータ4で駆動プーリ6Aと従動プーリ6Bとの間に張架したタイミングベルト5を介して図2で矢示方向(主走査方向)に移動走査する。
このキャリッジ3には、例えば、それぞれイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)のインク滴を吐出する液体吐出ヘッドからなる4個の記録ヘッド7y、7c、7m、7k(色を区別しないときは「記録ヘッド7」という。)を複数のインク吐出口を主走査方向と交叉する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。
記録ヘッド7を構成する液体吐出ヘッドとしては、圧電素子などの圧電アクチュエータ、発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いて液体の膜沸騰による相変化を利用するサーマルアクチュエータ、温度変化による金属相変化を用いる形状記憶合金アクチュエータ、静電力を用いる静電アクチュエータなどを、液滴を吐出するための圧力を発生する圧力発生手段として備えたものなどを使用できる。また、各色毎に独立したヘッド構成に限るものではなく、複数の色の液滴を吐出する複数のノズルで構成されるノズル列を有する1又は複数の液体吐出ヘッドで構成することもできる。
また、キャリッジ3には、記録ヘッド7に各色のインクを供給するための各色のサブタンク8を搭載している。このサブタンク8にはインク供給チューブ9を介して図示しないメインタンク(インクカートリッジ)からインクが補充供給される。
一方、給紙カセット10などの用紙積載部(圧板)11上に積載した用紙12を給紙するための給紙部として、用紙積載部11から用紙12を1枚ずつ分離給送する半月コロ(給紙ローラ)13及び給紙ローラ13に対向し、摩擦係数の大きな材質からなる分離パッド14を備え、この分離パッド14は給紙ローラ13側に付勢されている。
そして、この給紙部から給紙された用紙12を記録ヘッド7の下方側で搬送するため、用紙12を静電吸着して搬送するための搬送ベルト21と、給紙部からガイド15を介して送られる用紙12を搬送ベルト21との間で挟んで搬送するためのカウンタローラ22と、略鉛直上方に送られる用紙12を略90°方向転換させて搬送ベルト21上に倣わせるための搬送ガイド23と、押さえ部材24で搬送ベルト21側に付勢された押さえコロ25とを備えている。また、搬送ベルト21表面を帯電させるための帯電手段である帯電ローラ26を備えている。
ここで、搬送ベルト21は、無端状ベルトであり、搬送ローラ27とテンションローラ28との間に掛け渡されて、副走査モータ31からタイミングベルト32及びタイミングローラ33を介して搬送ローラ27が回転されることで、図2のベルト搬送方向(副走査方向)に周回するように構成している。なお、搬送ベルト21の裏面側には記録ヘッド7による画像形成領域に対応してガイド部材29を配置している。また、帯電ローラ26は、搬送ベルト21の表層に接触し、搬送ベルト21の回動に従動して回転するように配置されている。
また、図2に示すように、搬送ローラ27の軸には、スリット円板34を取り付け、このスリット円板34のスリットを検知するセンサ35を設けて、これらのスリット円板34及びセンサ35によってロータリエンコーダ36を構成している。
さらに、記録ヘッド7で記録された用紙12を排紙するための排紙部として、搬送ベルト21から用紙12を分離するための分離爪51と、排紙ローラ52及び排紙コロ53と、排紙される用紙12をストックする排紙トレイ54とを備えている。
また、背部には両面給紙ユニット55が着脱自在に装着されている。この両面給紙ユニット55は搬送ベルト21の逆方向回転で戻される用紙12を取り込んで反転させて再度カウンタローラ22と搬送ベルト21との間に給紙する。
さらに、図2に示すように、キャリッジ3の走査方向の一方側の非印字領域には、記録ヘッド7のノズルの状態を維持し、回復するための維持回復機構56を配置している。
この維持回復機56は、記録ヘッド7の各ノズル面をキャピングするための各キャップ57と、ノズル面をワイピングするためのブレード部材であるワイパーブレード58と、増粘した記録液を排出するために記録に寄与しない液滴を吐出させる空吐出を行なうときの液滴を受ける空吐出受け59などを備えている。
このように構成した画像形成装置においては、給紙部から用紙12が1枚ずつ分離給紙され、略鉛直上方に給紙された用紙12はガイド15で案内され、搬送ベルト21とカウンタローラ22との間に挟まれて搬送され、更に先端を搬送ガイド23で案内されて押さえコロ25で搬送ベルト21に押し付けられ、略90°搬送方向を転換される。
このとき、図示しない制御部によってACバイアス供給部から帯電ローラ26に対して正負が交互に繰り返す交番電圧を印加して、搬送ベルト21を交番する帯電電圧パターン、すなわち、周回方向である副走査方向に、プラスとマイナスが交互に所定の幅で繰り返されるパターンで帯電させる。この帯電した搬送ベルト21上に用紙12が給送されると、用紙12が搬送ベルト21に静電力で吸着され、搬送ベルト21の周回移動によって用紙12が副走査方向に搬送される。
そこで、キャリッジ3を往路及び復路方向に移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド7を駆動することにより、停止している用紙12にインク滴を吐出して1行分を記録し、用紙12を所定量搬送後、次の行の記録を行なう。記録終了信号又は用紙12の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了して、用紙12を排紙トレイ54に排紙する。
また、両面印刷の場合には、表面(最初に印刷する面)の記録が終了したときに、搬送ベルト21を逆回転させることで、記録済みの用紙12を両面給紙ユニット61内に送り込み、用紙12を反転させて(裏面が印刷面となる状態にして)再度カウンタローラ22と搬送ベルト21との間に給紙し、タイミング制御を行って、前述したと同様に搬送ベル21上に搬送して裏面に記録を行った後、排紙トレイ54に排紙する
また、印字(記録)待機中にはキャリッジ3は維持回復機構55側に移動されて、キャップ57で記録ヘッド7のノズル面がキャッピングされて、ノズルを湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、キャップ57で記録ヘッド7をキャッピングした状態でノズルから記録液を吸引し、増粘した記録液や気泡を排出する回復動作を行い、この回復動作によって記録ヘッド7のノズル面に付着したインクを清掃除去するためにワイパーブレード58でワイピングを行なう。また、記録開始前、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出する空吐出動作を行なう。これによって、記録ヘッド7の安定した吐出性能を維持する。
次に、記録ヘッド7を構成している液体吐出ヘッドの一例について図3及び図4を参照して説明する。なお、図3は同ヘッドの液室長手方向に沿う断面説明図、図4は同ヘッドの液室短手方向(ノズルの並び方向)の断面説明図である。
この液体吐出ヘッドは、例えば単結晶シリコン基板を異方性エッチングして形成した流路板101と、この流路板101の下面に接合した例えばニッケル電鋳で形成した振動板102と、流路板101の上面に接合したノズル板103とを接合して積層し、これらによって液滴(インク滴)を吐出するノズル104が連通する流路であるノズル連通路105及び圧力発生室である液室106、液室106に流体抵抗部(供給路)107を通じてインクを供給するための共通液室108に連通するインク供給口109などを形成している。
また、振動板102を変形させて液室106内のインクを加圧するための圧力発生手段(アクチュエータ手段)である電気機械変換素子としての2列(図6では1列のみ図示)の積層型圧電素子121と、この圧電素子121を接合固定するベース基板122とを備えている。なお、圧電素子121の間には支柱部123を設けている。この支柱部123は圧電素子部材を分割加工することで圧電素子121と同時に形成した部分であるが、駆動電圧を印加しないので単なる支柱となる。
また、圧電素子121には図示しない駆動回路(駆動IC)を搭載したFPCケーブル126を接続している。
そして、振動板102の周縁部をフレーム部材130に接合し、このフレーム部材130には、圧電素子121及びベース基板122などで構成されるアクチュエータユニットを収納する貫通部131及び共通液室108となる凹部、この共通液室108に外部からインクを供給するためのインク供給穴132を形成している。このフレーム部材130は、例えばエポキシ系樹脂などの熱硬化性樹脂或いはポリフェニレンサルファイトで射出成形により形成している。
ここで、流路板101は、例えば結晶面方位(110)の単結晶シリコン基板を水酸化カリウム水溶液(KOH)などのアルカリ性エッチング液を用いて異方性エッチングすることで、ノズル連通路105、液室106となる凹部や穴部を形成したものであるが、単結晶シリコン基板に限られるものではなく、その他のステンレス基板や感光性樹脂などを用いることもできる。
振動板102は、ニッケルの金属プレートから形成したもので、例えばエレクトロフォーミング法(電鋳法)で作製しているが、この他、金属板や金属と樹脂板との接合部材などを用いることもできる。この振動板102に圧電素子121及び支柱部123を接着剤接合し、更にフレーム部材130を接着剤接合している。
ノズル板103は各液室106に対応して直径10〜30μmのノズル104を形成し、流路板101に接着剤接合している。このノズル板103は、金属部材からなるノズル形成部材の表面に所要の層を介して最表面に撥水層を形成したものである。なお、撥水層の好ましい例については後述する。
圧電素子121は、圧電材料151と内部電極152とを交互に積層した積層型圧電素子(ここではPZT)である。この圧電素子121の交互に異なる端面に引き出された各内部電極152には個別電極153及び共通電極154が接続されている。なお、この実施形態では、圧電素子121の圧電方向としてd33方向の変位を用いて液室106内インクを加圧する構成としているが、圧電素子121の圧電方向としてd31方向の変位を用いて加圧液室106内インクを加圧する構成とすることもできる。また、1つの基板122に1列の圧電素子121が設けられる構造とすることもできる。
このように構成した液体吐出ヘッドヘッドにおいては、例えば圧電素子121に印加する電圧を基準電位から下げることによって圧電素子121が収縮し、振動板102が下降して液室106の容積が膨張することで、液室106内にインクが流入し、その後圧電素子121に印加する電圧を上げて圧電素子121を積層方向に伸長させ、振動板102をノズル104方向に変形させて液室106の容積/体積を収縮させることにより、液室106内の記録液が加圧され、ノズル104から記録液の滴が吐出(噴射)される。
そして、圧電素子121に印加する電圧を基準電位に戻すことによって振動板102が初期位置に復元し、液室106が膨張して負圧が発生するので、このとき、共通液室108から液室106内に記録液が充填される。そこで、ノズル104のメニスカス面の振動が減衰して安定した後、次の液滴吐出のための動作に移行する。
なお、このヘッドの駆動方法については上記の例(引き−押し打ち)に限るものではなく、駆動波形の与えた方によって引き打ちや押し打ちなどを行なうこともできる。
次に、この画像形成装置の制御部の概要について図5のブロック図を参照して説明する。
この制御部200は、この装置全体の制御を司るCPU211と、CPU211が実行するプログラム、その他の固定データを格納するROM202と、画像データ等を一時格納するRAM203と、装置の電源が遮断されている間もデータを保持するための書き換え可能な不揮発性メモリ204と、画像データに対する各種信号処理、並び替え等を行なう画像処理やその他装置全体を制御するための入出力信号を処理するASIC205とを備えている。
また、この制御部200は、ホスト側とのデータ、信号の送受を行なうためのI/F206と、記録ヘッド7を駆動制御するためのデータ転送手段、駆動波形を生成する駆動波形生成手段を含む印刷制御部207と、キャリッジ3側に設けた記録ヘッド7を駆動するためのヘッドドライバ(ドライバIC)208と、主走査モータ4及び副走査モータ31を駆動するためのモータ駆動部210と、帯電ローラ34にACバイアスを供給するACバイアス供給部212と、エンコーダセンサ43、35からの各検出信号、環境温度を検出する温度センサなどの各種センサからの検出信号を入力するためのI/O213などを備えている。また、この制御部200には、この装置に必要な情報の入力及び表示を行なうための操作パネル214が接続されている。
ここで、制御部200は、パーソナルコンピュータ等の情報処理装置、イメージスキャナなどの画像読み取り装置、デジタルカメラなどの撮像装置などのホスト300側のプリンタドライバ301を含む画像処理プログラムからの画像データ等をケーブル或いはネットを介してI/F206で受信する。
そして、制御部200のCPU201は、I/F206に含まれる受信バッファ内の印刷データを読み出して解析し、ASIC205にて必要な画像処理、データの並び替え処理等を行ない、この画像データをヘッド駆動制御部207からヘッドドライバ208に転送する。なお、画像出力するためのドットパターンデータの生成は後述するようにホスト側のプリンタドライバで行なっている。
印刷制御部207は、上述した画像データをシリアルデータでヘッドドライバ208に転送するとともに、この画像データの転送及び転送の確定などに必要な転送クロックやラッチ信号、滴制御信号(マスク信号)などをヘッドドライバ208に出力する以外にも、ROMに格納されている駆動信号のパターンデータをD/A変換するD/A変換器及び電圧増幅器、電流増幅器等で構成される駆動波形生成部及びヘッドドライバに与える駆動波形選択手段を含み、1の駆動パルス(駆動信号)或いは複数の駆動パルス(駆動信号)で構成される駆動波形を生成してヘッドドライバ208に対して出力する。
ヘッドドライバ208は、シリアルに入力される記録ヘッド7の1行分に相当する画像データに基づいて印刷制御部207から与えられる駆動波形を構成する駆動信号を選択的に記録ヘッド7の液滴を吐出させるエネルギーを発生する駆動素子(例えば前述したような圧電素子)に対して印加することで記録ヘッド7を駆動する。このとき、駆動波形を構成する駆動パルスを選択することによって、例えば、大滴(大ドット)、中滴(中ドット)、小滴(小ドット)など、大きさの異なるドットを打ち分けることができる。
また、CPU201は、リニアエンコーダを構成するエンコーダセンサ43からの検出パルスをサンプリングして得られる速度検出値及び位置検出値と、予め格納した速度・位置プロファイルから得られる速度目標値及び位置目標値とに基づいて主走査モータ4に対する駆動出力値(制御値)を算出してモータ駆動部210を介して主走査モータ4を駆動する。同様に、ロータリエンコーダを構成するエンコーダセンサ35からの検出パルスをサンプリングして得られる速度検出値及び位置検出値と、予め格納した速度・位置プロファイルから得られる速度目標値及び位置目標値とに基づいて副走査モータ31対する駆動出力値(制御値)を算出してモータ駆動部210を介しモータドライバを介して副走査モータ31を駆動する。
次に、上記の画像形成装置によって印刷画像を出力するための本発明に係る画像形成方法をコンピュータに実行させる本発明に係るプログラムを搭載した画像処理装置及び上記画像形成装置について以下に説明する。
本発明に係る画像処理装置と上述した画像形成装置であるインクジェットプリンタ(インクジェット記録装置)とで構成した本発明に係る画像形成システムの一例について図6を参照して説明する。
この印刷システム(画像形成システム)は、パーソナルコンピュータ(PC)などからなる1又は複数台の画像処理装置400と、インクジェットプリンタ500とが、所定のインターフェイス又はネットワークで接続されて構成されている。
画像処理装置400は、図7に示すように、CPU401と、メモリ手段である各種のROM402やRAM403とが、バスラインで接続されている。このバスラインには、所定のインターフェイスを介して、ハードディスクなどの磁気記憶装置を用いた記憶装置406と、マウスやキーボードなどの入力装置404と、LCDやCRTなどのモニタ405と、図示しないが、光ディスクなどの記憶媒体を読み取る記憶媒体読取装置が接続され、また、インターネットなどのネットワークやUSBなどの外部機器と通信を行なう所定のインターフェイス(外部I/F)407が接続されている。
画像処理装置400の記憶装置406には、本発明に係るプログラムを含む画像処理プログラムが記憶されている。この画像処理プログラムは、記憶媒体から記憶媒体読取装置により読み取って、あるいは、インターネットなどのネットワークからダウンロードするなどして、記憶装置406にインストールしたものである。このインストールにより画像処理装置400は、以下のような画像処理を行なうために動作可能な状態となる。なお、この画像処理プログラムは、所定のOS上で動作するものであってもよい。また、特定のアプリケーションソフトの一部をなすものであってもよい。
ここで、画像処理装置400側のプログラムで本発明に係る画像処理方法を実行する例について図8の機能ブロック図を参照して説明する。
画像処理装置400(PC)側の本発明に係るプログラムであるプリンタドライバ411は、アプリケーションソフトなどから与えられた画像データ410をモニタ表示用の色空間から記録装置(画像形成装置)用の色空間への変換(RGB表色系→CMY表色系)を行なうCMM(Color Management Module)処理部412、CMYの値から黒生成/下色除去を行なうBG/UCR(black generation/ Under Color Removal)処理部413、記録制御信号となるCMYK信号に対し画像形成装置が画像形成できる記録色材の最大総量値に応じてCMYK信号を補正する総量規制部414、記録装置の特性やユーザーの嗜好を反映した入出力補正を行なうγ補正部415、図示しないが画像形成装置の解像度に合わせて拡大処理を行なうズーミング(Zooming)処理、画像データを画像形成装置から噴射するドットのパターン配置に置き換える多値・少値マトリクスを含む中間調処理部(多値・少値マトリクス)416、中間調処理で得られた印刷画像データであるドットパターンデータを各スキャン毎のデータに分割し、更に記録を行なう各ノズル位置に合わせてデータ展開するラスタライジング部417を含み、ラスタライジング部417の出力418をインクジェットプリンタ500に送出する。
このような画像処理のうちの一部をインクジェットプリンタ500側で実行することもできる。この例について図9の機能ブロック図を参照して説明する。
画像処理装置400(PC)側のプリンタドライバ421は、上述したγ補正までの処理を行なって生成した画像データをインクジェットプリンタ500に送出する。
一方、インクジェットプリンタ500のプリンタコントローラ511(制御部200)は、図示しないが画像形成装置の解像度に合わせて拡大処理を行なうズーミング(Zooming)部、画像データを画像形成装置から噴射するドットのパターン配置に置き換える多値・少値マトリクス(ディザマスク)を含む中間調処理部(多値・少値マトリクス)516、中間調処理で得られる印刷画像データのドットパターンデータを各スキャン毎のデータに分割し、更に記録を行なう各ノズル位置に合わせてデータ展開するラスタライジング部517を含み、ラスタライジング部517の出力を印刷制御部207に与える。
本発明に係る画像処理方法は、図8及び図9のいずれの構成であっても好適に適用することができる。ここでは、図8に示す構成のように、インクジェット記録装置側では、装置内に画像の描画又は文字のプリント命令を受けて実際に記録するドットパターンを発生する機能を持たない例で説明する。すなわち、ホストとなる画像処理装置400で実行されるアプリケーションソフトなどからのプリント命令は、画像処理装置400(ホストコンピュータ)内にソフトウェアとして組み込まれたプリンタドライバ411で画像処理されてインクジェットプリンタ500が出力可能な多値のドットパターンのデータ(印刷画像データ)が生成され、それがラスタライズされてインクジェットプリンタ500に転送され,インクジェットプリンタ500が印刷出力される例で説明する。
具体的には、画像処理装置400内では、アプリケーションやオペレーティングシステムからの画像の描画又は文字の記録命令(例えば記録する線の位置と太さと形などを記述したものや、記録する文字の書体と大きさと位置などを記述したもの)は描画データメモリに一時的に保存される。なお、これらの命令は、特定のプリント言語で記述されたものである。
そして、描画データメモリに記憶された命令は、ラスタライザによって解釈され、線の記録命令であれば、指定された位置や太さ等に応じた記録ドットパターンに変換され、また、文字の記録命令であれば画像処理装置(ホストコンピュータ)400内に保存されているフォントアウトラインデータから対応する文字の輪郭情報を呼びだし指定された位置や大きさに応じた記録ドットパターンに変換され、イメージデータであれば、そのまま記録ドットのパターンに変換される。
その後、これらの記録ドットパターン(画像データ410)に対して画像処理を施してラスタデータメモリに記憶する。このとき、画像処理装置400は、直交格子を基本記録位置として、記録ドットパターンのデータにラスタライズする。画像処理としては、上述したように、例えば色を調整するためのカラーマネージメント処理(CMM)やγ補正処理、ディザ法や誤差拡散法などの中間調処理、さらには下地除去処理、インク総量規制処理などがある。そして、ラスタデータメモリに記憶された記録ドットパターンがインタフェースを経由してインクジェット記録装置500へ転送されるものである。
そこで、画像処理装置400側のプリンタドライバ(プログラム)による画像処理の流れについて図10に示すブロック図を参照して説明する。
パーソナルコンピュータなどのデータ処理装置上で動作するアプリケーションソフトから「印刷」指示が出されると、プリンタドライバにおいては、入力600に対してオブジェクト判定処理601でオブジェクトの種類を判定し、オブジェクト毎、つまり文字の画像データ602、線画の画像データ603、グラフィックスの画像データ604、イメージの画像データ605毎にデータが渡され、それぞれのルートを通って処理が行われる。
つまり、文字602、線画603、グラフィックス604については、カラー調整処理606を行なう。そして、文字についてはカラーマッチング処理607、BG/UCR処理609、総量規制処理611を行い、更に文字ディザ処理(中間調処理)615を行なう。また、線画及グラフィックスについてはカラーマッチング処理608、BG/UCR処理610、総量規制処理612、γ補正処理613を行い、更にグラフィックスディザ処理(中間調処理)616を行なう。
一方、イメージ605については、色判定及び圧縮方式判定処理621を行って、通常の場合には、カラー調整処理622、カラーマッチング処理623を行なった後、BG/UCR処理624、総量規制処理625、γ補正処理623を行い、更に誤差拡散処理(中間調処理)627を行なう。また、2色以下の場合には、イメージ間引き処理631、カラー調整処理632、カラーマッチング処理233a又はインデックスレス処理(カラーマッチングを行なわない処理)633bを行なった後、BG/UCR処理624、総量規制処理625、γ補正処理626を行い、更に誤差拡散処理(中間調処理)627を行なう。
なお、線画及びグラフィックスについてはカラー調整処理606に至る前に分岐してROP処理641を経てイメージの場合のカラーマッチング処理632に移行することもある。
このようにしてオブジェクト毎に処理された画像データは、また元の一つの画像データに合成され、図示しないがラスタライジング処理を経て画像形成装置へと渡されることになる。
本発明に係る画像形成方法では、上述したディザマスクを使用した中間調処理において、出力階調値に応じてドット配置を使い分ける画像処理を行うようにしている。
先ず、本発明で用いるディザマトリクスについて図11ないし図14を参照して説明する。なお、図11は同ディザマトリクスの全体模式的説明図、図12は同ディザマトリクスの具体的一例を示す説明図、図13は同ディザマトリクスの図12のうちの小ドット用ディザマトリクスの説明図、図14は集中型ディザマトリクスと分散型ディザマトリクスの説明に供する説明図である。
ここでは、前述した画像形成装置においては、記録ヘッド7から吐出できる液滴の大きさは小、中、大の3種類であるので、これに非吐出を加えた4値を出力階調値とする、つまり、出力階調値を4値(無=0、小ドット=1、中ドット=2、大ドット=3)としたディザマトリクスの例で説明している。
このディザマトリクス700は、小ドットディザマトリクス701、中ドット用ディザマトリクス702、大ドット用ディザマトリクス703で構成される。
画像処理においては、入力画像の画素と対応するディザマトリクス700の閾値を比較し、出力階調値を決定する。画素の値が小ドット用ディザマトリクス701の閾値より小さければ出力階調は「0」、中ドット用ディザマトリクス702の閾値より小さければ出力階調は「1」、大ドット用ディザマトリクス703の閾値より小さければ出力階調は「2」大きければ「3」、というように処理される。
ここで、1つのディザマトリクス、例えば小ドット用ディザマトリクス701は、図13にも示すように、20×20サイズの閾値の表として定義される。ただし、表のサイズはこれに限ったものではなく、20×40、40×40、256×256など、どのようなサイズであっても良い。
小ドット用ディザマトリクス701は、複数のサブマトリクス711で構成される。このサブマトリクス711は、ディザマトリクス701を構成する要素であって、ディザマトリクス701でドット配置を割り当てるときの単位として使用するものであり、このサブマトリクス711の形や配置によりディザマトリクス701に網点パターンやスクリーン線を形成している。なお、サブマトリクス711の形はこの例に限るものではなく、ディザマトリクス701の中を隙間無く、また重複無く埋めることができる形であればどのような形であっても良い。この例では、6×6ドットと2×2ドットの正方形を組み合わせた形を使用しており、SIN(6/2)のスクリーン角を形成するディザマトリクスとしている。
なお、中ドット用ディザマトリクス702、大ドット用ディザマトリクス703においても、同様に、ドット配置を割り当てるときの単位として使用する、ディザマトリクス構成要素としての複数のサブマトリクス721、732を含んでいる。
次に、サブマトリクス内のドット配置パターンについての集中型と分散型の違いについて図14を参照して説明する。
集中型は、同図(a)に示すように、ある点を中心にドットが隣接するように配置したものである。一方、分散型は、同図(b)に示すように、できるだけドットが隣接しないように分散的にドットを配置したものである。
集中させる配置順の決定方法の例としては、中心点からの幾何学的な直線距離が近いドットから順に配置する、配置の連続性を優先して中心点から渦巻き上に配置してくなどの方法がある。また、分散の配置順の決定方法の例としては、ベイヤーパターンを利用する、ディザマスク全体でハイパスフィルタ特性を持たせるような順序にする、ランダムに配置する、などの方法が挙げられる。いずれも視覚的に、集中的、あるいは分散的なドット配置をとるものであればどのような配置であっても良い。
図11及び図12に戻って、上述したように、ディザマトリクス700は、出力階調を4値(無=0、小ドット=1、中ドット=2、大ドット=3)としたディザ画像処理で使用するディザマトリクスであり、このディザマトリクス700を構成する、小ドット用ディザマトリクス701及び中ドット用ディザマトリクス702の構成要素であるサブマトリクス711、721については、集中型のサブマトリクスパターンを使用し、大ドット用ディザマトリクス703の構成要素であるサブマトリクス731については分散型のサブマトリクスパターンを使用している。
したがって、このディザマトリクス700を使用して、入力階調値(M値)の入力画像データをこれより少ない少値(N値:M>N>2)の出力画像データに変換して出力するとき、出力階調値が予め定めた閾値(T値:N>T>1、この例ではT=3)未満である無(=0)、小ドット(=1)、中ドット(=2)であるときには、ドット配置順序が集中型であり、出力階調値(N値)が予め定めた閾値(T値)以上である大ドット(=3)であるときには、ドット配置順序が分散型となるディザ処理が行なわれることになる。
つまり、ドットが小さいため集中によるメリットが大きい階調においては集中型のパターンをとり、ドットが大きいため集中によるデメリット(にじみ、あふれ等)が大きい階調では分散型のパターンに切り替えたディザ画像処理を行うことができる。なお、この例では集中型と分散型の切換を大ドット以降としているが、切換点はこれに限ったものではなく任意の出力階調とすることができる。
このように、ディザマトリクス内により小さな複数のサブマトリクスを一定のスクリーン角を持たせて隙間及び重複無く配置することにより出力画素の配置パターンが網点パターン又はスクリーン線を形成するようにするとともに、サブマトリクス内のドット配置順序が、出力階調値が予め定めた閾値T未満の場合は集中型であり、閾値T以上の場合は分散型である構成とすることによって、集中型の網点パターンやスクリーン角を形成しつつ、集中による弊害(にじみ、ビーディング、等)が発生する出力階調においては分散型のパターンに切り替えることにより問題を回避することができ、画像品質が向上する。
次に、集中型と分散型の切換点について図15を参照して詳しく説明する。なお、図15は1つのサブマトリクスサイズでのドット配置の遷移の一例を示す説明図である。
本実施形態においては、前述したように、大ドット以降を分散型、それ以前の小ドットと中ドットを集中型としている。
ここで、集中型に属する小ドットのサブマトリクス711及び中ドット721は、小ドット803と中ドット804を使用して集中型のドットパターンを形成する。そして、これらの集中型においては、最終的にはサブマトリクス721の全てのドットを埋めた状態のパターン805で完成し、次の出力階調である分散型の大ドットのサブマトリクス731に移行する。分散型である大ドットのディザマトリクス703では中ドット804で全て埋まったパターン805を開始パターンとし、分散型にてドットを形成し、最終的にはサブマトリクス731の全てのドットを埋めた状態のパターン806で完成する。
このように、集中型から分散型に切り替える直前にベタパターンを経ることにより、集中による問題が発生しない最後の出力階調を生かして最大の濃度を表現することができるようになり、また、全てのドットが一様に埋まっていることによって、続く分散パターンの形成を集中型と独立して設計することができるようになる。
次に、集中型と分散型の切換点についての他の例について図16を参照して詳しく説明する。なお、図16も1つのサブマトリクスサイズでのドット配置の遷移の一例を示す説明図である。
この例は、出力階調毎にサブマトリクス全体を埋める構成としている。つまり、集中型に属する小ドットのサブマトリクス711は、小ドットを使用して集中型のドットパターンを形成し、最終的にはサブマトリクス711の全てのドットを埋めた状態のパターン814で完成して、次の出力階調である集中型に属する中ドットのサブマトリクス721に移行する。そして、集中型に属する中ドットのサブマトリクス721は、中ドットを使用して集中型のドットパターンを形成し、最終的にはサブマトリクス721の全てのドットを埋めた状態のパターン815で完成して、次の出力階調である分散型の大ドットのサブマトリクス731に移行する。そして、分散型である大ドットのサブマトリクス703は分散型にてドットを形成し、最終的にはサブマトリクス731の全てのドットを埋めた状態のパターン816で完成する。
つまり、この例は、図15に示した集中、分散の切換点においてベタパターンを経由する構成を基本とし、任意の出力階調の切換点(小から中への切換点)においてもベタパターンを形成する例である。
このように、任意の出力階調でベタパターンを形成することにより、早い階調で用紙に対するドットの被覆率を高めることができ、インクの広がりが悪い用紙において白ムラ等の発生を抑えることができる。
次に、1つのディザマトリクスを構成する要素として複数のサブマトリクスに対するドットの配置順の割り当てについて図17を参照して説明する。なお、図17では小ドット用ディザマトリクスを例にして説明するが、中、大ドット用ディザマトリクスも同様である。
図17はディザマトリクス701の構成要素である複数のサブマトリクス711について、図中に丸付き数字1〜10で示すように、隣接するサブマトリクス711を連続して選択しないように、斜めの連続方向に1つ飛ばしで選択して、ドットの配置順を割り当てている。つまり、複数のサブマトリクスは隣接するサブマトリクスが連続して選択されない、言い換えれば、連続する閾値が隣接するサブマトリクスに配置されていない構成とする。
このような順序にすることにより、分散的にサブマトリクスを配置することができ、サブマトリクスを分散的に選択(配置)することにより、ディザマトリクス全体としてドット発生の偏りを無くし、異模様(テクスチャ)のように見える現象を抑制することができる。
なお、複数のサブマトリクスを分散的に配置(選択)するのは上述した例に限るものではなく、分散的であればこの順序限ったものではなく、ランダムに配置(選択)したり、或いは、ハイパスフィルタ特性を持たせるような順序で配置(選択)したりすることもできる。
次に、入力画像が複数のカラープレーンで構成されるカラー画像であるときの対応について説明する。
上述した図17で説明した例などのようにして作成された図18(a)に示す基準ディザマトリクスを元に、図18(b)〜(d)に示すように、回転、反転、平行移動したディザマトリクスを作成する。そして、このようにして作成したパターンを色版(カラープレーン)毎に使用することができる。なお、図18(b)は基準ディザマトリクスを時計回りに90°回転した例、同図(c)は同じく中央の垂直線に対称に反転した例、同図(d)は同じく下方向に5ドット分平行移動した例である。
例えば、図11に示したディザマトリクスを基準ディザマトリクスとしてシアンに割り当て、基準マトリクスを下方向に5ドット平行移動したものをブラック用、10ドット平行移動したものをマゼンタ用、15ドット平行移動したものをイエロー用、などとする構成を採用することができる。
また、2つの色版(カラープレーン)のドットができるだけ重ならないようにするため、基準ディザマトリクスのドット発生順序を出力階調単位で反転したパターンの例を図19に示している。
この例では、図19(a)に示す基準ディザマスクと同図(b)に示す順序を逆にしたディザマスクとは、互いに逆のパターンでドットを配置するため、面積比で50%のドット配置になるパターン900以下の階調においては2つの色版のドットがまったく重ならないような構成にすることができる。
このように、力画像が複数のカラープレーンで構成されるカラー画像であるときには、色版(カラープレーン)毎に、基準ディザマトリクスを元に「回転」、「線対称に反転」、「平行移動」、また「出力階調毎のドット発生順序反転」等の加工を施したディザマトリクスを割り当てることにより、2次色以上において異なる色のドットが分散的に形成されるため、色相に偏り無く、また、用紙の被覆率が高まるた白ムラのように見える画質低下を抑制することができる。
また、上記の例は大きさの異なる正方形を組み合わせた形でサブマトリクスを形成しているが、大きさの異なる長方形を組み合わせた形でサブマトリクスを形成することで、ディザマトリクスを隙間無く、重複無く埋めるサブマトリクスを作成可能であり、長方形の大きさの組合せにより、スクリーン角、スクリーン線数を調整することができる。さらに、色版(カラープレーン)に対しては上下方向にずらしたパターンを採用することにより、モアレが少なく、色相に偏りの少ないカラーディザ画像処理を実現することができるようになる。
また、2つ以上の色版(カラープレーン)により画像を形成するときには、インクの重なり方が不均等であると色相がずれるという問題がある。特に、グレー系での色でその問題が生じ易い。
そこで、本発明では、Kインクを含めずにグレーバランスをとる場合には、インクの重なり方を均等にするために、図20に示すように、それぞれの色版(カラープレーン)のドットができるだけ重ならないように各色版(カラープレーン)のディザマトリクス901c、901m、901yを、平行移動(この例ではそれぞれ5ドットずつ移動)させている。
このようにすることによって、ある色に対してそれ以外の各色のドットを均等に重ね合い、色相に偏りの少ないカラーディザ画像処理を実現することができる。
なお、この場合、インクの重なり方を均等にできるのであれば、平行移動以外にも、回転、反転、または、ディザマトリクスのドット発生順序を変更する、という方法ないし手段を用いることもできる。
また、Kインクも加えてグレーバランスを取る場合には、先ずはKインクを含めずに上述した方法でグレーバランスを取る。その後、K以外のそれぞれの色版のドットに対するKのドットの重畳率が等しくなるように、図21に示すように、Kのディザマスクを一定のスクリーン角を持ったライン型のディザパターン(Kのディザパターンの基調を901kで示している。)とする。これにより、Kインクも加えてグレーバランスを取ることができる。
なお、Kのディザマスクはライン型のディザパターンに限るものではなく、これ以外にも、例えば、基準ディザマトリクスの回転、反転、平行移動、ディザマトリクスのドット発生順序の変更、または、ベイヤー型のディザマスクなどとすることもできる。
なお、上述したディザ処理は商業・出版印刷用塗工紙以外にも転用可能であり、また、記録メディアやインクの特性に応じて、吸収性・浸透性に優れた用紙や浸透速度に優れたインクなどを併用して使う場合は、より高線数化を狙ったディザパターンと切り替えるようにすることもできる。
ここで、特に本発明で使用するディザマトリクスを用いた中間調処理が有効である記録液が着弾したときのドットの広がりが小さく、凝集するような性質を有する用紙(媒体)について図20を参照して説明しておく。
本発明に係る画像処理方法で画像データを生成することが好ましい、記録液が着弾したときのドットの広がりが小さく、凝集するような性質を有する用紙(媒体)としては、雑誌のグラビア印刷などで使用されるような表面にコート層を持つオフセット印刷向けの用紙がある。具体的にはPODグロス紙(王子製紙製)などが挙げられるが、ドットの広がりが小さく、凝集するような性質を有する用紙であれば、このPODグロス紙に限定されるものではない。例えば、スーパーMIダル(日本製紙製:商品名)、スペースDX(商品名)などがある。
ここで、絹目光沢紙、普通紙、グロス紙を対比して液滴が着弾したときの様子を図20を参照して説明すると、図20(a)は絹目光沢紙、同図(b)は普通紙、同図(c)はグロス紙の場合を示しており、これらの媒体にドット(液滴)を打った場合(液滴Dが着弾した場合)、絹目光沢紙ではドットDが広がらずにドットDが完全に独立する状態になるのに対し、普通紙ではドットDが広がる(滲みが生じる)。グロス紙は、一方では普通紙のように媒体上で滲みが発生することはないが、他方、絹目光沢紙のようにドットが広がらないものの、完全にドットが独立する状態ではなく、普通紙ほど滲みは発生しないが、隣接するドット同士が凝集し、結果として、インク溢れが発生しやすくなるという特徴(特性、性質)を持っている。
このように、記録液が着弾したときのドットの広がりが小さく、凝集するような性質を有する用紙(媒体)に対して形成する画像についての中間調処理として、上述したように、ドットが小さいため集中によるメリットが大きい階調においては集中型のパターンをとり、ドットが大きいため集中によるデメリット(にじみ、ビーディング等)が大きい階調では分散型のパターンに切り替えたディザ画像処理を行うことによって、集中によるにじみ、ビーディングなどを確実に抑制して、高い画像品質で画像を形成することができるようになる。
なお、上記実施形態においては、本発明に係るプログラムとしてのプリンタドライバが本発明に係る画像形成方法における画像処理をコンピュータに実行させるようにして画像処理装置を構成したが、画像形成装置自体が上述した画像形成方法を実行する手段を備えるようにすることもできる。また、本発明に係る画像形成方法における画像処理を実行する特定用途向け集積回路(ASIC)を画像形成装置に搭載することもできる。
商業・出版印刷用塗工紙に対する画像を高品質で形成するためには、本発明に係る画像形成方法における画像処理を実施した上で、更に液体吐出ヘッドのノズル面の表面処理を適切にすることが好ましい。
そこで、本発明に係る画像形成方法における前述したインク(記録液)、記録メディアと液体吐出ヘッドの表面処理との関係について説明する。
本発明の画像形成方法で用いられるインクのように、比較的低い表面張力を有するインクを用いる場合、液体吐出ヘッドのノズル形成部材の表面は撥水性(撥インク性)に優れていることが好ましい。これは、撥水性、撥インク性に優れるノズル形成部材を用いることによって、低い表面張力のインクでもインクのメニスカスが正常に形成でき、その結果、インク滴の形成(粒子化)が良好にできるためである。メニスカスが正常に形成されると、インクが噴射するときに一方方向にインクが引っ張られることがなくなり、その結果、インクの噴射曲がりが少なく、ドット位置精度が高い画像を得ることができる。
また、本発明の画像形成方法で画像を形成するメディア(用紙)のように、吸収性が低いメディアに印刷するときにはドット位置精度の善し悪しが画像品質に顕著に現れる。つまり、吸収性が低いメディアの上ではインクが広がりづらいため、ドット位置精度が少しでも低くなると、メディアをインクが埋めきらない箇所、つまり、白抜け部が生じてしまう。この埋めきれない箇所は画像濃度ムラ、画像濃度低下につながり、画像品質の低下に現れる。
そこで、液体吐出ヘッドとして、表面に撥水層(撥水膜、撥インク層、撥インク膜も同じ意味で用いる。)を形成したヘッドを用いることにより、低表面張力のインクを用いても高いドット位置精度が得られるため、吸収性が低いメディアを用いてもインクがメディアを埋めることができるため、画像濃度ムラや画像濃度低下にならず、高い画像品質の印刷物を得ることができる。
先ず、前述したインク(記録液)及び記録メディアを用いる液体吐出ヘッドのノズル板の一例について図23及び図24を参照して説明する。なお、図23は同ヘッドのノズル板の拡大断面説明図、図24は図23の要部拡大断面説明図である。
この液体吐出ヘッドのノズル板1002は、ノズル1004を形成するノズル基材1011の表面に撥水層1012を形成している。例えば、ノズル基材1011はNi電鋳で形成したNi皮膜であり、このノズル基材1011の表面にシリコーン樹脂皮膜(撥水層)1012を形成している。
ここで、撥水層1012の表面粗さRaは、0.2μm以下にすることが好ましい。表面粗さRaを0.2μm以下にすることで、ワイピング時の拭き残しを低減することができる。撥水層1012の膜厚は、0.1μm以上としているが、0.05μm以上であることが好ましい。
このノズル板1002においては、図示しない液室にインク1003を充填したときには、図24(c)に示すように、シリコーン樹脂皮膜(撥水層)1012とノズル基材1011との境界部分にメニスカス(液面)Pが形成される。
ここで、ノズル基材の液滴吐出用開口部が形成された面に形成される撥水層の液滴吐出用開口部近傍における当該撥水層の開口部の中心線に垂直な平面での断面積が、ノズル基材表面から離れるにつれて順次大きくなっていくよう形成することが好ましい。
この場合、撥水層の開口部近傍における形状は、曲面形状であることが好ましい。また、撥水層の開口部の中心線を含む平面での断面における撥水層の当該開口部近傍の曲線の曲率半径は、撥水層の膜厚以上の長さであることが好ましい。また、撥水層の開口部の中心線を含む平面での断面における撥水層の当該開口部縁端から当該開口部近傍の曲線が略円弧曲線をなし、該円弧の曲率半径が、該撥水層の膜厚以上であることが好ましい。
また、撥水層の開口部の中心線を含む平面での断面における撥水層の当該開口部縁端を通る接線が、当該縁部を含むノズル基材表面からの角度が90度未満であることが好ましい。
これらの点について図24を参照して具体的に説明する。
ノズル基材1011のノズル1004を形成する開口部1011aは、図24中に一点鎖線で示す中心線aに垂直な平面による断面が、この中心線aを中心とした略円形となるよう形成されている。また、ノズル基材1011における液体吐出面(液滴吐出面)側に形成された撥水層1012の開口部1012aは、この中心線aに垂直な平面による開口部分の断面積がノズル基材1011から離れるにつれて順次大きくなっていくよう形成されている。つまり、撥水層1012の開口部1012aは、液体吐出方向に向って順次開口断面積が大きくなるように形成されている。
より詳細には、撥水層1012の開口部1012aを形成する部分は、図24(a)に示すように、ノズル基材1011の開口部1011a縁端から撥水層1012表面に至る曲線が曲率半径rのラウンド形状となっている。この曲率半径rは、撥水層1012の開口部1012a近傍以外における厚み(膜厚保)d以上であることが好ましい。
この厚みdは、撥水層1012の開口部1012aを形成しているラウンド部分以外の部分における厚みであり、好ましくは撥水層1012の最大厚みであってよい。
このように、ノズル基材1011の開口部1011aに連続して形成される撥水層1012の開口部1012aが、略尖鋭端のない形状(尖形部分のないなめらかな曲線)で、引っ掛かり部分のない曲線になっていることにより、ゴムなどの材料で形成されたワイパーブレード(図2のワイパーブレード58)でワイピングした場合であっても、尖形部分がワイパーブレードに引っ掛かって撥水層1012がノズル基材1011から剥離することを低減ないし抑制できる。
また、図24(b)に示すように、ノズル基材1011の開口部1011aの中心線aを含む平面での断面における、撥水層1012の開口部1012aを形成する部分の縁端を通る接線bとノズル基材1011の開口部1012a縁端を含むノズル基材1011表面とがなす角度θは90度未満となっていることが好ましい。
このように、撥水層1012の開口部1012aを形成する部分での接線とノズル基材1011とがなす角度θが90度未満であることにより、図24(c)に示すように、撥水層1012とノズル基材1011との境界部分にメニスカス(液面)Pが安定的に形成され、他の部分にメニスカスPが形成される可能性を大きく減らすことができる。
これにより、メニスカスの形成面を安定させることができるため、このようなノズル板1002を含む液体吐出ヘッドを用いた画像形成装置で画像形成を行うとき、液滴の噴射安定性を良好なものとすることができる。
次に、撥水層1012を形成するシリコーン樹脂について説明する。シリコーン樹脂としては、室温硬化型の液状シリコーンレジンが好ましく、特に加水分解反応を伴うものが好ましい。下記の例では東レ・ダウコーニング株式会社製のSR2411を用いた。
ここで、撥水層1012の開口部1012aを形成する部分での接線とノズル基材1011とがなす角度θ、及び、撥水層1012の開口部1012aを形成する部分の曲率半径rと、ノズル周囲のインク溜まり、エッジ剥離、噴射安定性に関して評価した結果を表2に示している。
このように、撥水層1012のエッジ部(開口部分縁端近傍)に略尖鋭端が含まれる形状のものでは、ノズル周囲にインク溜まりが見られ、ワイピングによるエッジの剥離が発生した。これに対し、ラウンド形状のものでは、何れもインク溜まりは発生しなかったが、比較例として図25(a)に例示するようなr<dのもので一部エッジの剥離が発生し、図25(b)に例示するようなθ>90度のものでは液滴の噴射が不安定な結果であった。
すなわち、図25(c)に示すように、r<dのものや、θ>90度のものでは、インク3の充填時に、撥水層1012´とノズル基材1011の境界部分にメニスカス(液面)Pが形成される場合と、撥水層1012´における開口部分中心に向けての凸部(開口部分における中心線に垂直な断面積が最も小さくなる部分)にメニスカスQが形成される場合とがありうる。このため、こうしたノズル板を含む液体吐出ヘッドを用いた画像形成装置で画像形成を行うときの液滴の噴射安定性にばらつきが発生してしまうこととなった。
次に、上述した液体吐出ヘッドのノズル板の製造方法の一例について図26を参照して説明する。この例は、ディスペンサを用いてノズル基材の表面にシリコーン樹脂を塗布して撥水層を形成する製造方法の一例を示す説明図である。
この例では、Ni電鋳によるノズル基材1011の液滴吐出面側にシリコーン溶液を塗布するためのディスペンサ1021を配置し、ノズル機材1011とニードル1022先端とが予め定められた一定の距離間隔を保ったままとなるように、ニードル1022先端からシリコーン樹脂1023を吐出しながらディスペンサ1021を走査することにより、ノズル基材1011の液滴吐出面に選択的にシリコーン樹脂皮膜を形成する。
ここでは、シリコーン樹脂として、常温硬化型シリコーンレジンSR2411(東レ・ダウコーニング株式会社製)、粘度:10mPa・sを用いた。ただし、ノズル基材1011の開口部1011a及びノズル基材1011裏面に若干のシリコーンの周り込みが見られた。このようにして選択的に形成したシリコーン樹脂皮膜(撥水層1012)の厚さは1.2μmであり、表面粗さRaは0.18μmであった。
ディスペンサ1021のニードル1022先端の塗布口は、図27に示すように、塗布対象であると同じ幅を有している。このようなディスペンサ1021を用いることで、塗布方向(同図で矢示方向)に1回走査するだけで、塗布対象全体への塗布を完了させることができる。すなわち、塗布動作のための走査方向を1方向のみとすることができる。
これに対して、図28に示すように、ディスペンサ1021のニードル1022先端の塗布口がノズル基材1011に対する塗布幅よりも小さい場合には、ディスペンサ1021の走査方向を変えたり、反対方向に走査したりといったことを行わなければならない。
つまり、一般のニードル1022´の先端は、図28に示すように、塗布対象であるノズル基材1011への塗布幅よりはるかに狭いため、塗布対象全体への塗布を完了させるためには、塗布動作のための走査方向を90度変えて移動させたり、反対方向に走査したりして複数方向に走査する必要があり、塗布対象全体への均一な厚みでの塗布が困難であった。
上述したように、ニードル1022先端の塗布口の幅が塗布対象であるノズル機材011への塗布幅だけ確保されることにより、塗布対象全体に渡って塗布する厚みを均一とすることができ、精度のよい表面仕上がりとすることができる。
次に、上述した液体吐出ヘッドのノズル板の製造方法の他の例について図29を参照して説明する。この例は、ディスペンサを用いてノズル基材の表面にシリコーン樹脂を塗布して撥水層を形成する製造方法の他の例を示す説明図である。
この例では、ノズル基材1011の開口部1011aに対し、撥水層を形成する面と反対側の面側から気体1024を噴射しながらシリコーン樹脂1023を塗布する。この気体1024としては、塗布するシリコーン樹脂1023と化学反応を起こしにくい気体であれば各種のものを用いてよく、例えば空気であってもよい。
このように気体1024を開口部1011aから噴射しながら塗布を行うことにより、ノズル基材1011の開口部1011aを除くノズル基材表面だけにシリコーン樹脂皮膜1012を形成することができる。
また、上述のように気体1024を噴射しないで同様のシリコーン樹脂1023を用いて塗布し、予め定められた深さまでシリコーン樹脂1023が進入した後、開口部1011aから気体1024を噴出させると、図30に示すように、ノズル1004の周囲(開口部1011aの壁面)の所望の深さ(たとえば数μm程度)までシリコーン樹脂皮膜1012bを形成することができる。
すなわち、上述した液滴吐出面の撥水層1012に加えて、ノズル基材1011の開口部1011a縁端から予め定められた深さまでごく薄い撥水膜1012b(開口部1011a壁面の撥水膜)を形成することができる。
このようにして作製したノズル板1002の撥水層1012に対して、EPDMゴム(ゴム硬度50度)を用いてワイピングを実施した。その結果、1000回のワイピングに対してもノズル板1002の撥水層1012は、良好な撥水性を維持することができた。また、撥水層1012が形成されたノズル部材1002を、70℃のインクに14日間浸漬処理した。その結果、その後も初期と変わらない撥水性を維持することができた。
次に、液体吐出ヘッドの好ましい他の例について図31を参照して説明する。なお、図31は同ヘッドのノズル板の拡大断面説明図である。
この液体吐出ヘッドのノズル板1102は、ノズル基材となる樹脂部材1121と高剛性部材1125とを熱可塑性接着剤1126で接合し、樹脂部材1121の表面にはSiO2薄膜層1122とフッ素系撥水層1123を順次積層形成したものであり、樹脂部材1121に所要径のノズル孔(開口部)1104を形成し、高剛性部材1125にはノズル孔1104に連通するノズル連通口1127を形成している。
SiO2薄膜層1122の形成には、比較的熱のかからない、つまり、樹脂部材に熱的影響の発生しない範囲の温度で成膜可能な方法で形成する。具体的にはスパッタリング、イオンビーム蒸着、イオンプレーティング、CVD(化学蒸着法)、P−CVD(プラズマ蒸着法)などが適しているといえる。
SiO2薄膜層1122の膜厚は、密着力が確保できる範囲で必要最小限の厚さとするのが工程時間,材料費から見て有利である。この膜厚があまり厚くなると、エキシマレーザでのノズル孔加工に支障がでてくる場合があるからである。すなわち、樹脂部材1121はきれいにノズル孔形状に加工されていても、SiO2薄膜層1122の一部が十分に加工されず、加工残りになることがある。
したがって、具体的には密着力が確保でき、エキシマレーザ加工時にSiO2薄膜層1122が残らない範囲として、膜厚1Å〜300Åの範囲内が好ましく、より好ましくは、10Å〜100Åの範囲内である。実験によると、SiO2薄膜層1122の膜厚が30Åでも密着性は十分であり、エキシマレーザによる加工性についてはまったく問題がなかった。また、300Åでは僅かな加工残りが観察されたが使用可能範囲であり、300Åを超えるとかなり大きな加工残りが発生し、使用不可能なほどのノズル異形が見られた。
撥水層1123の材料はインクをはじく材料であればいずれも用いることができるが、具体的には、フッ素系撥水材料、前述したシリコーン系撥水材料を挙げることができる。
フッ素系撥水材料については、いろいろな材料が知られているが、ここでは、パーフルオロポリオキセタン及び変性パーフルオロポリオキセタンの混合物(ダイキン工業製、商品名:オプツールDSX)を1Å〜30Åの厚さに蒸着することで必要な撥水性を得ている。実験結果では、オプツールDSXの厚さは、10Åでも20Å,30Åでも撥水性,ワイピング耐久性能に差は見られなかった。よって、コストなどを考慮するとより好適には、1Å〜20Åが良い。また、フッ素系撥水層1123の表面には樹脂製のフィルムに粘着材を塗布した粘着テープ1124が貼り付けられていて、エキシマレーザ加工時の補助機能を果たしている。
また、シリコーン系撥水材料としては、前述したように、室温硬化型の液状シリコーンレジン若しくはエラストマーがあり、基材表面に塗布され、室温で大気中に放置することにより重合硬化して撥インク性の皮膜が形成されることが好ましい。
また、シリコーン系撥水材料は加熱硬化型の液状シリコーンレジン若しくはエラストマーであり、基材表面に塗布され、加熱処理することにより硬化し撥インク性の皮膜を形成することであってもよい。
また、シリコーン系撥水材料は紫外線硬化型の液状シリコーンレジン若しくはエラストマーであり、基材表面に塗布され、紫外線を照射することにより硬化し撥インク性の皮膜を形成することであってもよい。
また、シリコーン系撥水材料の粘度は1000cp以下であることが好ましい。
ここで、ノズル孔を加工するエキシマレーザ加工機について図32を参照して簡単に説明する。
レーザ発振機1181から射出されたエキシマレーザビーム1182はミラー1183、1185、1188によって反射され、加工テーブル1190に導かれる。レーザビーム1182が加工テーブル1190に至るまでの光路には、加工物(ワーク)1191に対して最適なビームが届くように、ビームエキスパンダ1184、マスク1186、フィールドレンズ1187、結像光学系1189が所定の位置に設けられている。加工物1191は加工テーブル1190上に載置され、レーザビーム1182を受けることになる。加工テーブル1190は、周知のXYZテーブル等で構成されていて、必要に応じて加工物1191を移動し所望の位置にレーザビーム1182を照射することができるようになっている。ここでレーザは、エキシマレーザを利用して説明したが、アブレーション加工が可能である短波長な紫外光レーザであれば、種々なレーザが利用可能である。
次に、ノズル板1102の製造工程について図33を参照して説明する。
図33(a)に示すようにノズル基材となる樹脂フィルム1121を準備する。例えば、Dupont製ポリイミドフィルムであるカプトン(商品名)の粒子無しのフィルムを使用している。一般的なポリイミドフィルムはロールフィルム取り扱い装置での取り扱い性(滑り)からフィルム材料の中にSiO2(シリカ)などの粒子が添加されている。ところが、エキシマレーザでノズル孔加工を行う場合には、SiO2(シリカ)の粒子がエキシマレーザによる加工性が悪いためノズル異形が発生する。そこで、SiO2(シリカ)の粒子が添加されていないフィルムを使用しているのである。
そして、図33(b)に示すように、樹脂フィルム1121の表面にSiO2薄膜層1122を形成する。このSiO2薄膜層1122の形成は、真空チャンバ内で行われるスパッタリング工法によることが好ましい。SiO2薄膜層1122の膜厚は数Å〜200Å程度が好ましく、ここでは10〜50Åの厚さに形成している。
ここで、スパッタリングの方法としては、Siをスパッタした後、Si表面にO2イオンを当てることでSiO2膜を形成する方法を用いることが、SiO2膜1122の樹脂フィルム1121への密着力が向上すると共に、均質で緻密な膜が得られ、撥水膜のワイピング耐久性向上により効果的である。
次いで、図33(c)に示すように、SiO2膜1122の表面にフッ素系撥水剤123aを塗布する。塗布方法としては、スピンコータ、ロールコータ、スクリーン印刷、スプレーコータなどの方法が使用可能であるが、真空蒸着で成膜する方法が撥水膜の密着性を向上させることにつながる。
また、その真空蒸着は、図33(b)でのSiO2薄膜層1122を形成した後、そのまま真空チャンバ内で実施することでさらに良い効果が得られる。すなわち、SiO2薄膜層1122を形成後、一旦真空チャンバからワークを取り出すと、不純物などが表面に付着することにより密着性が損なわれる。
なお、フッ素系撥水材料としては、フッ素非晶質化合物としてパーフルオロポリオキセタンまたは変形パーフルオロポリオキセタンまたは双方の混合物を使用することで、インクに対する必要な撥水性を得ることができる。前述したダイキン工業製「オプツールDSX」は「アルコキシシラン末端変性パーフルオロポリエーテル」と称されることもある。
その後、空中で放置し、これにより、図33(d)に示すように、フッ素系撥水剤1123aとSiO2薄膜層1122とが、空気中の水分を仲介として化学的結合をし、フッ素系撥水層1122になる。
次いで、図33(e)に示すように、フッ素系撥水層1121の塗布された面に粘着テープ1124を貼り付ける。この粘着テープ1124を貼るときには気泡が生じないように貼り付けることが必要である。気泡があると、気泡のある位置に開けたノズル孔は、加工時の付着物などで品質の良くないものになってしまうことがあるからである。
その後、図33(f)に示すように、ポリイミドフィルム1121側からエキシマレーザを照射してノズル孔1104を形成する。ノズル孔1104の加工後は、粘着テープ1124を剥がして使用することになる。なお、ここでは、図31で説明したノズル板1102の剛性を上げるために用いられる高剛性部材1125は説明を省略したが、この工程に適用すれば、図33(d)に示す工程と図33(e)に示す工程の間に実施するのが適当である。
次に、液体吐出ヘッドを製造するときに用いる装置の概要について図34を参照して説明する。
この装置は、USAのOCLI(OPTICAL COATING LABORATORY INC.)が開発した、「メタモードプロセス」と呼ばれる工法を装置化したものであり、ディスプレイなどの反射防止・防汚膜の作製に使用されている。
この装置では、矢示方向に回転するドラム1201の周囲4個所にSiスパッタ用ステーション1202、O2イオンガン用ステーション1203、Nbスパッタ用ステーション1204、オプツール蒸着用ステーション1205が配置されて、全体が真空引きできるチャンバの中にある。
先ずSiスパッタ用ステーション1202によりSiをスパッタし、その後、O2イオンガン用ステーション1203によりO2イオンをSiに当ててSiO2とする。その後、オプツール蒸着用ステーション1205でオプツールDSXを適宜蒸着する。なお、液体吐出ヘッドでは、反射防止膜の機能は必要ないので、Nbスパッタ用ステーション1204は使用せず、SiO2、オプツールDSXを1層ずつ形成する。この装置を使用することで、上述したように、SiO2薄層1122を形成した後、そのまま真空チャンバ内でオプツールDSXの真空蒸着を実施することが可能となる。
次に、液体吐出ヘッドの撥水層の臨界表面張力について説明する。
撥水層の臨界表面張力は5〜40mN/mであることが好ましく、特に、5〜30mN/mであることがより好ましい。30mN/mを超えると、長期の使用においてインクがノズルプ板に対して濡れすぎる現象が生じるため、繰り返し印刷をしていると、インクの吐出曲がりや粒子化異常が生じてしまうおそれが生じる。また、40mN/mを超えると、初期からノズルプレートに対して濡れすぎる現象が生じるため、初期からインクの吐出曲がりや粒子化異常が生じてしまう。
ここで、表3に記載する撥水層材料をアルミニウム基盤上に塗布し、加熱乾燥することで撥水層を形成したノズル板を製作し、撥水層の臨界表面張力を測定したところ表3に示すようになった。
なお、臨界表面張力はZisman法で求めることができる。つまり、表面張力が既知の液体を撥水層の上にたらし、接触角θを測定し、液体の表面張力をx軸にcosθをy軸にプロットすると右肩下がりの直線が得られる(Zisman Plot)。この直線がY=1(θ=0)となるときの表面張力を臨界表面張力γcとして算出することができる。その他の方法として、Fowkes法、Owens and Wendt法、Van Oss法を用いて臨界表面張力を求めることもできる。
前述した各例の撥水層を形成した液体吐出ヘッドを製作し、前述したカラーインクの具体例で説明したシアンインクを吐出させ、液滴飛翔過程をビデオ撮影して観察したところ、いずれのノズル板を用いた場合にも正常に粒子化していることを確認し、吐出安定性が良好であることを確認した。