一般に、ランニング時において、とくに着地後のフットフラット(ソール全面接地)時から蹴り出し時にかけては、足のリスフラン関節を中心に前側の中足骨部分および後側の足根骨部分が下方に押し下げられるように力が作用して、リスフラン関節付近が下方に移動し、また蹴り出し時には、足のリスフラン関節を挟んで前側の中足骨部分が上方に持ち上げられるとともに後側の足根骨部分が下方に押し下げられるように力が作用して、リスフラン関節付近が上下動することが知られている。
しかしながら、特許文献1に記載のものでは、当該切込みが着用者の足のリスフラン関節に沿うように形成されておらず、このため、足のリスフラン関節付近の下方移動および上下動にともなうアッパーの変形を効果的に吸収することができない。また、特許文献2に記載された内側伸縮部は、足の内側のリスフラン関節の一部を覆ってはいるが、リスフラン関節に沿って配設されてはおらず、このため、特許文献1のものと同様に、足のリスフラン関節付近の下方移動および上下動にともなうアッパーの変形を効果的に吸収することができない。さらに、特許文献3に記載のものでは、各切欠きの位置が、特許文献2に記載の内外側伸縮部の各上端位置と略一致しており、したがって、この場合には、特許文献2の場合と同様に、足のリスフラン関節付近の下方移動および上下動にともなうアッパーの変形を効果的に吸収することができない。
また、特許文献1ないし3に記載のものでは、切込みおよび伸縮部がソールと略直交する方向に配設されており、このため、シューズの着地時に足裏に荷重が作用した際に、足のスウェル部分(足の外周に沿った最も膨出した部分)の足幅方向への膨張にともなうアッパーの幅方向の伸びを効果的に吸収することができない。
その一方、コート系スポーツ種目(例えばバレーボールやバスケットボール、テニス等)においては、競技時にサイドステップや足の踏込み動作(例えばバレーボールにおけるスパイク直前の踏切り動作)が多く用いられる傾向があるが、このサイドステップの際の着地時や踏込み動作時には、足の外甲側部分をしっかりとホールドする必要がある一方で、サイドステップや踏込み動作の際の着地時および踏み出し時には、足の内甲側における中足趾節関節部分および足関節部分が屈曲変形して床面側に倒れ込むために、アッパーの内甲側の中足趾節関節部分および足関節部分におけるねじれ変形を吸収する必要がある。
しかしながら、特許文献1ないし3に記載のものでは、内甲側の切込みまたは内側伸縮部が着用者の足の中足趾節関節または足関節に沿うように形成されておらず、このため、足の内甲側の中足趾節関節部分および足関節部分の屈曲変形にともなうアッパーのねじれ変形を効果的に吸収することができない。また、特許文献1ないし3に記載のものにおいて、外甲側の中足趾節関節部分に低剛性領域が設けられている場合には、サイドステップの際、アッパーが外甲側に変形するので、踏込みの力が逃げてしまう結果、パフォーマンスが落ちる。さらに、内甲側の中足趾節関節または足関節に沿う部位以外に低剛性領域が設けられている場合には、アーチ部分のフィット感およびホールド感が劣るという不具合が発生する場合がある。
本発明は、このような従来の実情に鑑みてなされたもので、本発明が解決しようとする課題は、運動時(とくにランニング時またはサイドステップ時)において、アッパーの変形を効果的に吸収でき、アッパーのフィット性を向上できるシューズ用アッパー構造を提供することにある。また、本発明は、ランニングの際の着地時において、足のスウェル部分の膨張にともなうアッパーの変形を効果的に吸収できるとともに、足のリスフラン関節付近の下方移動および上下動にともなうアッパーの変形を効果的に吸収できるシューズ用アッパー構造を提供しようとしている。さらに、本発明は、ランニングの際の着地時において、足のスウェル部分の膨張にともなうアッパーの変形を効果的に吸収できるとともに、シューズの履き口に生じるアッパーの変形を効果的に吸収できるシューズ用アッパー構造を提供しようとしている。また、本発明は、サイドステップ時および踏込み動作時の着地および踏み出し時において、足の内甲側の中足趾節関節部分および足関節部分の屈曲にともなうアッパーの変形を効果的に吸収できるシューズ用アッパー構造を提供しようとしている。さらに、本発明は、サイドステップ時の踵接地時において、足の回外にともなうアッパーの変形を効果的に吸収できるシューズ用アッパー構造を提供しようとしている。
請求項1の発明に係るシューズのアッパー構造は、シューズのソールに固着され、着用者の足を覆うアッパー本体と、アッパー本体の外甲側または内甲側のいずれか一方において、着用者の足のリスフラン関節に対応する位置またはその直近近傍位置に設けられ、当該リスフラン関節に沿って帯状に延びかつ周囲領域よりも剛性の低い第1の低剛性領域とを備えている。
請求項2の発明に係るシューズのアッパー構造は、シューズのソールに固着され、着用者の足を覆うアッパー本体と、アッパー本体の外甲側および内甲側の双方において、着用者の足のリスフラン関節に対応する位置またはその直近近傍位置に設けられ、当該リスフラン関節に沿って帯状に延びかつ周囲領域よりも剛性の低い第1の低剛性領域とを備えている。
これらの場合には、アッパー本体の外甲側または(および)内甲側において、着用者の足のリスフラン関節に沿って帯状に延びかつ周囲領域よりも剛性の低い第1の低剛性領域が設けられるので、とくに、着地後のフットフラット(ソール全面接地)時から蹴り出し時にかけての局面のようにリスフラン関節付近が下方に移動する際や、蹴り出し時のようにリスフラン関節付近が上下動する際には、第1の低剛性領域がその周囲領域よりも弾性変形しやすいことにより、第1の低剛性領域を挟んで上側および下側の各アッパー領域が互いに独立して変形できるようになり、これにより、リスフラン関節付近の下方移動および上下動にともなうアッパーの変形を効果的に吸収でき、アッパーのフィット性を向上できる。
また、これらの場合には、第1の低剛性領域が足のリスフラン関節に沿って延設されることで、第1の低剛性領域がソールと斜めに交差する方向に配設されている。これにより、シューズの着地時に足裏に荷重が作用した際に、足のスウェル部分(足の外周に沿った最も膨出した部分)の足幅方向への膨張にともなうアッパーの幅方向の伸びを効果的に吸収できる。
さらに、請求項2の発明の場合には、第1の低剛性領域がアッパー本体の外甲側および内甲側の双方に設けられることで、リスフラン関節付近の下方移動および上下動にともなうアッパーの変形をより効果的に吸収できるとともに、足のスウェル部分の足幅方向への膨張にともなうアッパーの幅方向の伸びをより効果的に吸収でき、アッパーのフィット性をさらに向上できる。
なお、第1の低剛性領域をアッパー本体の外甲側にのみ設けた場合には、ランニングやウォーキングなどのようにソール外甲側から着地することによりアッパー外甲側の変形が大きく、しかも中足部内甲側のホールド性を要求される競技に好適のアッパー構造を実現できる。これに対して、第1の低剛性領域をアッパー本体の内甲側にのみ設けた場合には、テニスやバレーボールなどのようにソール内甲側から着地することによりアッパー内甲側の変形が大きく、しかも中足部外甲側のホールド性を要求される競技に好適のアッパー構造を実現できる。また、第1の低剛性領域をアッパー本体の内甲側および外甲側の双方に設けた場合には、軽度のウォーキングなどのようにソールに作用する荷重が小さくしかも中足部両側のホールド性をそれ程要求されないスポーツに好適のアッパー構造を実現できる。
請求項3の発明では、請求項1または2において、第1の低剛性領域の上端が、アッパー本体の足甲部に形成された、前後方向に延びる開口部に臨んでおり、下端がアッパー本体の下端の近傍まで延びている。
この場合には、第1の低剛性領域の上端がアッパー本体の足甲部の開口部に臨んでいることで、第1の低剛性領域を挟んで上側および下側の各アッパー領域が互いに独立して変形しやすくなっており、これにより、リスフラン関節付近の下方移動および上下動にともなうアッパーの変形をより効果的に吸収できる。
請求項4の発明では、請求項3において、第1の低剛性領域が、その下端よりも上端が幅広になっており、上端から下端にかけてテーパ状に形成されている。
この場合には、第1の低剛性領域の上端の弾性変形量を下端の弾性変形量よりも大きくできるので、シューズのアッパーの実際の変形態様に合致したアッパー構造を実現できる。
請求項5の発明では、請求項1または2において、アッパー本体が、シューズの表側に配置される表材、シューズの裏側に配置される裏材、およびこれらの間に介装される内装材から構成されており、第1の低剛性領域が少なくとも表材に縫合されている。
請求項6の発明では、請求項1または2において、シューズの表示サイズ長をLとし、足の踵高さをHとするとき、第1の低剛性領域の上端が、踵後端から0.6Lの位置に配置され、下端が、踵後端から0.3Lの位置でかつシューズの足裏当接面から0.4Hの位置に配置されている。
請求項7の発明では、請求項1または2において、第1の低剛性領域が接地面となす角度が0〜40度に設定されている。
請求項8の発明では、請求項1または2において、第1の低剛性領域の弾性係数が、周囲領域の弾性係数に対して20〜99.5%低くなっている。
請求項9の発明に係るシューズのアッパー構造は、シューズのソールに固着され、着用者の足を覆うアッパー本体と、アッパー本体の外甲側または内甲側のいずれか一方において、アッパー本体の履き口における着用者の足の踝直下の位置から足の踵骨前端部付近の位置まで帯状に延びる、周囲領域よりも剛性の低い第2の低剛性領域とを備えている。
請求項10の発明に係るシューズのアッパー構造は、シューズのソールに固着され、着用者の足を覆うアッパー本体と、アッパー本体の外甲側および内甲側の双方において、アッパー本体の履き口における着用者の足の踝直下の位置から足の踵骨前端部付近の位置まで帯状に延びる、周囲領域よりも剛性の低い第2の低剛性領域とを備えている。
これらの場合には、アッパー本体の履き口まで延びる第2の低剛性領域が配設されることで、シューズの着地時に履き口に生じるアッパーの変形を効果的に吸収でき、これにより、履き口周りのフィット性を向上できる。また、これらの場合には、第2の低剛性領域がアッパー本体の履き口における着用者の足の踝直下の位置から足の踵骨前端部付近の位置まで延設されていることで、第2の低剛性領域がソールと斜めに交差する方向に配設されている。これにより、シューズの着地時に足裏に荷重が作用した際に、足のスウェル部分の足幅方向への膨張にともなうアッパーの幅方向の伸びを効果的に吸収でき、アッパーのフィット性を向上できる。
また、請求項10の発明の場合には、第2の低剛性領域がアッパー本体の外甲側および内甲側の双方に設けられることで、シューズの履き口に生じるアッパーの変形をより効果的に吸収できるとともに、足のスウェル部分の足幅方向への膨張にともなうアッパーの幅方向の伸びをより効果的に吸収でき、アッパーのフィット性をさらに向上できる。
なお、第2の低剛性領域をアッパー本体の外甲側にのみ設けた場合には、ランニングやウォーキングなどのようにソール外甲側から着地することによりアッパー外甲側の変形が大きく、しかも踵部内甲側のホールド性を要求される競技に好適のアッパー構造を実現できる。これに対して、第2の低剛性領域をアッパー本体の内甲側にのみ設けた場合には、テニスやバレーボールなどのようにソール内甲側から着地することによりアッパー内甲側の変形が大きく、しかも踵部外甲側のホールド性を要求される競技に好適のアッパー構造を実現できる。また、第2の低剛性領域をアッパー本体の内甲側および外甲側の双方に設けた場合には、バドミントンなどのようにアッパー両側の変形が大きくしかも中足部両側のホールド性を要求される競技に好適のアッパー構造を実現できる。
請求項11の発明では、請求項9または10において、第2の低剛性領域の上端が下端よりも幅広になっており、上端から下端にかけてテーパ状に形成されている。
この場合には、第2の低剛性領域の上端の弾性変形量を下端の弾性変形量よりも大きくできるので、シューズのアッパーの実際の変形態様に合致したアッパー構造を実現できる。
請求項12の発明では、請求項9または10において、アッパー本体が、シューズの表側に配置される表材、シューズの裏側に配置される裏材、およびこれらの間に介装される内装材から構成されており、第2の低剛性領域が少なくとも表材に縫合されている。
請求項13の発明では、請求項9または10において、シューズの表示サイズ長をLとし、足の踵高さをHとするとき、第2の低剛性領域の上端が、踵後端から外甲側で0.2Lの位置に配置され、内甲側で0.25Lの位置に配置されるとともに、下端が、踵後端から0.3Lの位置でかつシューズの足裏当接面から0.4Hの位置に配置されている。
請求項14の発明では、請求項9または10において、第2の低剛性領域が接地面となす角度が35〜75度である。
請求項15の発明では、請求項9または10において、第2の低剛性領域の弾性係数が、周囲領域の弾性係数に対して、20〜99.5%低くなっている。
請求項16の発明に係るシューズのアッパー構造は、シューズのソールに固着され、着用者の足を覆うアッパー本体と、アッパー本体の外甲側または内甲側のいずれか一方において、着用者の足のリスフラン関節に沿って帯状に延びるとともに、上端がアッパー本体の足甲部の前後方向の開口部に臨みかつ下端がアッパー本体の下端の近傍まで延びる、周囲領域よりも剛性の低い第1の低剛性領域と、アッパー本体の外甲側または内甲側のいずれか一方において、アッパー本体の履き口における着用者の足の踝直下の位置から足の踵骨前端部付近の位置まで帯状に延びるとともに、下端が第1の剛性領域の下端に連結された、周囲領域よりも剛性の低い第2の低剛性領域とを備えている。
請求項17の発明に係るシューズのアッパー構造は、シューズのソールに固着され、着用者の足を覆うアッパー本体と、アッパー本体の外甲側および内甲側の双方において、着用者の足のリスフラン関節に沿って帯状に延びるとともに、上端がアッパー本体の足甲部の前後方向の開口部に臨みかつ下端がアッパー本体の下端の近傍まで延びる、周囲領域よりも剛性の低い第1の低剛性領域と、アッパー本体の外甲側および内甲側の双方において、アッパー本体の履き口における着用者の足の踝直下の位置から足の踵骨前端部付近の位置まで帯状に延びるとともに、下端が第1の剛性領域の下端に連結された、周囲領域よりも剛性の低い第2の低剛性領域とを備えている。
これらの場合には、アッパー本体の外甲側または(および)内甲側において、着用者の足のリスフラン関節に沿って帯状に延びかつ上端がアッパー本体の足甲部の前後方向の開口部に臨む第1の低剛性領域と、アッパー本体の履き口における着用者の足の踝直下の位置から足の踵骨前端部付近の位置まで帯状に延びる第2の低剛性領域とが連結されることで、第1、第2の低剛性領域を挟んで上側の上部アッパー領域が下側の下部アッパー領域から分離されており、これにより、とくに、着地後のフットフラット時から蹴り出し時にかけての局面のようにリスフラン関節付近が下方に移動する際や、蹴り出し時のようにリスフラン関節付近が上下動する際には、上下部アッパー領域が互いに独立して変形できるようになり、これにより、リスフラン関節付近の下方移動および上下動にともなうアッパーの変形を確実に吸収でき、アッパーのフィット性を向上できるとともに、足への追従性を向上できる。
また、これらの場合には、第1、第2の低剛性領域がソールと斜めに交差する方向に配設されているので、シューズの着地時に足裏に荷重が作用した際には、足のスウェル部分の足幅方向への膨張にともなうアッパーの幅方向の伸びを確実に吸収できる。
さらに、請求項17の発明の場合には、第1、第2の低剛性領域がアッパー本体の外甲側および内甲側の双方に設けられることで、上下部アッパー領域がアッパー本体の外甲側および内甲側の双方において互いに独立して変形でき、これにより、リスフラン関節付近の下方移動および上下動にともなうアッパーの変形をより確実に吸収でき、アッパーのフィット性をさらに向上できるとともに、足への追従性を一層向上できるようになるばかりでなく、足のスウェル部分の足幅方向への膨張にともなうアッパーの幅方向の伸びをより確実に吸収できる。
請求項18の発明では、請求項16または17において、第1および第2の低剛性領域が略V字状に配設されている。
請求項19の発明では、請求項16または17において、アッパー本体が、第1および第2の低剛性領域を隔てて、第1および第2の低剛性領域から上側の上部アッパー領域と、第1および第2の低剛性領域から下側の下部アッパー領域とに分離されている。
請求項20の発明に係るシューズのアッパー構造は、シューズのソールに固着され、着用者の足を覆うアッパー本体と、アッパー本体の内甲側において、着用者の足の中足趾節関節に対応する位置またはその直近近傍位置に設けられ、当該中足趾節関節に沿って延びかつ周囲領域よりも剛性の低い第3の低剛性領域とを備えている。
この場合には、アッパー本体の内甲側において、着用者の足の中足趾節関節に沿って延びかつ周囲領域よりも剛性の低い第3の低剛性領域が設けられるので、とくに、サイドステップの際の着地時および踏み出し時のように、足の内甲側の中足趾節関節部分が屈曲変形する際には、第3の低剛性領域がその周囲領域よりも弾性変形しやすいことにより、第3の低剛性領域を挟んで前側および後側の各アッパー領域が互いに独立して変形できるようになり、これにより、足の内甲側の中足趾節関節部分の屈曲にともなうアッパーのねじれ変形を効果的に吸収でき、アッパーのフィット性を向上できるとともに、足の前足部の動きを阻害せずに前足部の動きに対するアッパーの追従性を向上できる。また、この場合、第3の低剛性領域をアッパーの内甲側にのみ設けることで、サイドステップ時にアッパーの外甲側の変形を抑制でき、これにより、サイドステップ時の踏み出し動作にスムーズに移行できる。
請求項21の発明では、請求項20において、第3の低剛性領域の上端が、アッパー本体の足甲部に形成された、前後方向に延びる開口部に臨んでおり、下端がアッパー本体の下端またはその近傍あるいはその上方位置まで延びている。
この場合には、第3の低剛性領域の上端がアッパー本体の足甲部の開口部に臨んでいることで、第3の低剛性領域を挟んで前側および後側の各アッパー領域が互いに独立して変形しやすくなっており、これにより、中足趾節関節部分の屈曲変形にともなうアッパーのねじれ変形をより効果的に吸収できる。なお、第3の低剛性領域の下端は、アッパー本体の下端まで延びている。あるいは、第3の低剛性領域の下端は、アッパー本体の下端の近傍まで、またはアッパー本体の下端の上方位置まで延びている。この場合には、製造工程を簡略化できる。
請求項22の発明では、請求項21において、第3の低剛性領域は、上端が下端よりも幅広になっており、上端から下端にかけてテーパ状に形成されている。
この場合には、第3の低剛性領域の上端の弾性変形量を下端の弾性変形量よりも大きくできるので、シューズのアッパーの実際の変形態様に合致したアッパー構造を実現できる。
請求項23の発明では、請求項20において、アッパー本体が、シューズの表側に配置される表材、シューズの裏側に配置される裏材、およびこれらの間に介装される内装材から構成されており、第3の低剛性領域が少なくとも表材に縫合されている。
請求項24の発明では、請求項21において、シューズの表示サイズ長をLとするとき、第3の低剛性領域の上端が踵後端から0.75Lの位置に配置され、下端が踵後端から0.6Lの位置に配置されている。
請求項25の発明では、請求項20において、第3の低剛性領域が接地面となす角度が35〜65度である。
請求項26の発明では、請求項20において、第3の低剛性領域の弾性係数が、周囲領域の弾性係数に対して、20〜99.5%低くなっている。
請求項27の発明に係るシューズのアッパー構造は、シューズのソールに固着され、着用者の足を覆うアッパー本体と、アッパー本体の内甲側において、着用者の足関節に対応する位置またはその直近近傍位置に設けられ、当該足関節に沿って延びかつ周囲領域よりも剛性の低い第4の低剛性領域とを備えている。
この場合には、アッパー本体の内甲側において、着用者の足関節に沿って周囲領域よりも剛性の低い第4の低剛性領域が設けられるので、とくにサイドステップの際の踵接地時のように、回外(内反と内転とのコンビネーション)の動きが足関節の周りに発生しているとき、この動きによるアッパー本体の変形を第4の低剛性領域により効果的に吸収でき、アッパー本体のフィット性を向上できるとともに、足首部の動きを阻害せずに足首部の動きに対するアッパーの追従性を向上できる。また、サイドステップ時の着地および踏み出し時において、足関節部分が内甲側に屈曲変形する際には、第4の低剛性領域により、足関節部分の屈曲にともなうアッパーのねじれ変形を効果的に吸収でき、アッパーのフィット性を向上できるとともに、足首部の内側への倒れ込み動作を阻害せずに足首部の動きに対するアッパーの追従性を向上できる。
請求項28の発明では、請求項27において、第4の低剛性領域が、着用者の足の距骨下関節を覆うように、距骨後端から距骨下関節に沿った位置に配置されている。
この場合には、サイドステップの際の踵接地時に、足の回外によるアッパーの変形を第4の低剛性領域により一層効果的に吸収できる。
請求項29の発明では、請求項27において、第4の低剛性領域の前端が、アッパー本体の足甲部に形成された前後方向に延びる開口部に臨んでおり、後端がアッパー本体の履き口部に臨んでいる。
この場合には、第4の低剛性領域を挟んで上側および下側の各アッパー領域が互いに独立して変形しやすくなっており、これにより、足関節付近の動きにともなうアッパーの変形をより効果的に吸収できる。
請求項30の発明では、請求項27において、アッパー本体が、シューズの表側に配置される表材、シューズの裏側に配置される裏材、およびこれらの間に介装される内装材から構成されており、第4の低剛性領域が少なくとも表材に縫合されている。
請求項31の発明では、請求項27において、シューズの表示サイズ長をLとし、足の踵高さをH’とするとき、第4の低剛性領域の上端が、踵後端から0.1Lの位置でかつシューズの足裏当接面から0.8H’の位置に配置され、下端が、踵後端から0.3Lの位置でかつシューズの足裏当接面から0.4H’の位置に配置されている。
請求項32の発明では、請求項27において、第4の低剛性領域の弾性係数が、周囲領域の弾性係数に対して、20〜99.5%低くなっている。
請求項33の発明に係るシューズのアッパー構造は、シューズのソールに固着され、着用者の足を覆うアッパー本体と、アッパー本体の内甲側において、着用者の足の中足趾節関節に対応する位置またはその直近近傍位置に設けられ、当該中足趾節関節に沿って延びかつ周囲領域よりも剛性の低い第3の低剛性領域と、アッパー本体の内甲側において、着用者の足関節に対応する位置またはその直近近傍位置に設けられ、当該足関節に沿って延びかつ周囲領域よりも剛性の低い第4の低剛性領域とを備えている。
この場合には、アッパー本体の内甲側において着用者の足の中足趾節関節に沿って延びる第3の低剛性領域が設けられるので、とくにサイドステップ時の着地および踏み出し時のように、足の内甲側の中足趾節関節部分が屈曲変形する際には、第3の低剛性領域がその周囲領域よりも弾性変形しやすいことにより、第3の低剛性領域を挟んで前側および後側の各アッパー領域が互いに独立して変形できるようになり、これにより、足の内甲側の中足趾節関節部分の屈曲にともなうアッパーのねじれ変形を効果的に吸収でき、アッパーのフィット性を向上できるとともに、足の前足部の動きを阻害せずに前足部の動きに対するアッパーの追従性を向上できる。また、この場合、第3の低剛性領域をアッパーの内甲側にのみ設けることで、サイドステップ時にアッパーの外甲側の変形を抑制でき、これにより、サイドステップ後の踏み出し動作にスムーズに移行できる。さらに、この場合には、アッパー本体の内甲側において着用者の足関節に沿って第4の低剛性領域が設けられるので、とくにサイドステップの際の踵接地時のように、回外の動きが足関節の周りに発生しているとき、この動きによるアッパーの変形を第4の低剛性領域により効果的に吸収でき、アッパーのフィット性を向上できるとともに、足首部の内側への倒れ込み動作を阻害せずに足首部の動きに対するアッパーの追従性を向上できる。
以上のように本発明の第1の発明によれば、アッパー本体の外甲側または(および)内甲側において、着用者の足のリスフラン関節に沿って帯状に延びかつ周囲領域よりも剛性の低い第1の低剛性領域を設けるようにしたので、とくに、着地後のフットフラット時から蹴り出し時にかけての局面のようにリスフラン関節付近が下方に移動する際や、蹴り出し時のように足のリスフラン関節付近が上下動する際に、第1の低剛性領域を挟んで上側および下側の各アッパー領域が互いに独立して変形でき、これにより、リスフラン関節付近の下方移動および上下動にともなうアッパーの変形を効果的に吸収できるとともに、第1の低剛性領域がリスフラン関節に沿って延設されることで、第1の低剛性領域がソールと斜めに交差する方向に配設されるので、シューズの着地時に足裏に荷重が作用した際に、足のスウェル部分の足幅方向への膨張にともなうアッパーの幅方向の伸びを効果的に吸収できる。また、第1の低剛性領域がアッパー本体の外甲側および内甲側の双方に設けられる場合には、リスフラン関節付近の下方移動および上下動にともなうアッパーの変形をより効果的に吸収でき、足のスウェル部分の足幅方向への膨張にともなうアッパーの幅方向の伸びをより効果的に吸収できる。
本発明の第2の発明によれば、アッパー本体の履き口まで延びる第2の低剛性領域を配設するようにしたので、シューズの着地時にシューズの履き口に生じるアッパーの変形を効果的に吸収できるとともに、第2の低剛性領域をアッパー本体の履き口における着用者の足の踝直下の位置から足の踵骨前端部付近の位置まで延設するようにしたので、第2の低剛性領域がソールと斜めに交差する方向に配設されることになり、これにより、シューズの着地時に足裏に荷重が作用した際に、足のスウェル部分の足幅方向への膨張にともなうアッパーの幅方向の伸びを効果的に吸収でき、アッパーのフィット性を向上できる。また、第2の低剛性領域がアッパー本体の外甲側および内甲側の双方に設けられる場合には、シューズの履き口に生じるアッパーの変形をより効果的に吸収できるとともに、足のスウェル部分の足幅方向への膨張にともなうアッパーの幅方向の伸びをより効果的に吸収でき、アッパーのフィット性をさらに向上できる。
本発明の第3の発明によれば、アッパー本体の外甲側または(および)内甲側において、着用者の足のリスフラン関節に沿って帯状に延びかつ上端がアッパー本体の足甲部の前後方向の開口部に臨む第1の低剛性領域と、アッパー本体の履き口における着用者の足の踝直下の位置から足の踵骨前端部付近の位置まで帯状に延びる第2の低剛性領域とを連結するようにしたので、第1、第2の低剛性領域を挟んで上側の上部アッパー領域を下側の下部アッパー領域から分離でき、これにより、とくに、着地後のフットフラット時から蹴り出し時にかけての局面のようにリスフラン関節付近が下方に移動する際や、蹴り出し時のようにリスフラン関節付近が上下動する際に、上下部アッパー領域が互いに独立して変形でき、リスフラン関節付近の上下動にともなうアッパーの変形を確実に吸収でき、アッパーのフィット性を向上できるとともに、第1、第2の低剛性領域がソールと斜めに交差する方向に配設されることで、シューズの着地時に足裏に荷重が作用した際に、足のスウェル部分の足幅方向への膨張にともなうアッパーの幅方向の伸びを確実に吸収できる。また、第1、第2の低剛性領域がアッパー本体の外甲側および内甲側の双方に設けられる場合には、上下部アッパー領域がアッパー本体の外甲側および内甲側の双方において互いに独立して変形でき、リスフラン関節付近の下方移動および上下動にともなうアッパーの変形をより確実に吸収でき、アッパーのフィット性をさらに向上できるとともに、足への追従性を一層向上できるばかりでなく、足のスウェル部分の足幅方向への膨張にともなうアッパーの幅方向の伸びをより確実に吸収できる。
本発明の第4の発明によれば、アッパー本体の内甲側において、着用者の足の中足趾節関節に沿って延びかつ周囲領域よりも剛性の低い第3の低剛性領域を設けるようにしたので、とくにサイドステップの際の着地時および踏み出し時のように、足の内甲側の中足趾節関節部分が屈曲変形する際には、第3の低剛性領域がその周囲領域よりも弾性変形しやすいことにより、第3の低剛性領域を挟んで前側および後側の各アッパー領域が互いに独立して変形できるようになり、これにより、足の中足趾節関節部分の屈曲にともなうアッパーのねじれ変形を効果的に吸収できる。
本発明の第5の発明によれば、アッパー本体の内甲側において、着用者の足関節に沿って延びかつ周囲領域よりも剛性の低い第4の低剛性領域を設けるようにしたので、とくにサイドステップの際の踵接地時のように、足関節周りに足の回外が発生しているとき、この回外の動きによるアッパーの変形を第4の低剛性領域により効果的に吸収できる。また、サイドステップ時の着地および踏み出し時において、足関節部分が内甲側に屈曲変形する際には、第4の低剛性領域により、足関節部分の屈曲にともなうアッパーのねじれ変形を効果的に吸収できる。
本発明の第6の発明によれば、アッパー本体の内甲側において、着用者の足の中足趾節関節に沿って延びかつ周囲領域よりも剛性の低い第3の低剛性領域と、着用者の足関節に沿って延びかつ周囲領域よりも剛性の低い第4の低剛性領域とを設けるようにしたので、サイドステップの際の踵接地時のように、足関節周りに足の回外が発生しているとき、この回外の動きによるアッパーの変形を第4の低剛性領域により効果的に吸収できるとともに、サイドステップの際の着地時および踏み出し時のように、足の内甲側の中足趾節関節部分および足関節部分が屈曲変形する際には、第3および第4の低剛性領域より、足の中足趾節関節部分および足関節部分の屈曲にともなうアッパーのねじれ変形を効果的に吸収できる。
以下、本発明の実施例を添付図面に基づいて説明する。
図1ないし図6は、本発明の一実施例によるアッパー構造を説明するための図であって、 図1は本発明の一実施例によるアッパー構造を採用するランニングシューズの平面図、図2および図3は図1の外甲側側面図、図4は図2のIV-IV線断面図、図5は外甲側から見た足の骨格図、図6は上方から見た足の骨格図、図7はランニングシューズ(図1)のフィット感についての官能試験結果を従来のシューズと比較して示すグラフである。
図1および図2に示すように、シューズ1は、ソール2と、その上に設けられ、着用者の足Fを覆うアッパー本体3とを備えている。
アッパー本体3は、シューズ1の踵部から中足部を経て前足部まで延びており、足Fの踵部、左右両側部および足甲部を覆っている。アッパー本体3の下面は、シューズ1のソール2の上面に固着されている。アッパー本体3は、履き口3aと、これに連続してシューズ1の足甲部に形成された、前後方向に延びる開口部3bとを有している。開口部3bには、これを覆う舌革部4が設けられている。また、アッパー本体3の踵部の内部には、足Fの踵部をホールドするための、例えば硬質樹脂からなるヒールカウンタ部材35が設けられている。
アッパー本体3の開口部3bの縁部の両側には、鳩目5a、6aをそれぞれ有する鳩目飾り5、6が取り付けられている。前側の鳩目飾り5と後側の鳩目飾り6とは連結されておらず、これらの間は分断されている。各鳩目5a、6aには、靴紐7が挿通されている。なお、図2においては、図示の便宜上、靴紐7を省略した状態が示されている。
アッパー本体3の外甲側には、第1および第2の低剛性領域10、11が設けられている。第1の低剛性領域10は、その前端から後端にかけて斜め下方に延びており、第2の低剛性領域11は、その前端から後端にかけて斜め上方に延びるとともに、その前端が第1の低剛性領域の後端に連結されている。第1、第2の低剛性領域10、11は、略V字状に配設されている。
第1の低剛性領域10は、もっとも好ましくは、足のリスフラン関節に対応する位置またはその直近近傍位置に設けられており、足のリスフラン関節に沿って帯状に延びている。
ここで、リスフラン関節について簡単に説明すると、図5および図6に示す足の骨格図において、各足指の中足骨MB1〜MB5と、立方骨CUおよび楔状骨CNとの間の関節をリスフラン関節(足根中足関節)という。各図中の一点鎖線TBLは、リスフラン関節に沿ったラインを示している。また、CAは踵骨を、FIは腓骨をそれぞれ示している。
図2において、第1の低剛性領域10の配設方向を示すライン10Cは、着用者の足のリスフラン関節に沿ったラインTBL(図5、図6)に実質的に一致している(図3参照)。ここで、ライン10Cは、第1の低剛性領域10の上端10aにおける幅方向の中点と、下端10bにおける幅方向の中点とを結ぶ線分で表される。なお、図3に示すものでは、ライン10CがラインTBLに正確に一致しておらず、若干ずれているように見えるが、これは、第1の低剛性領域10およびリスフラン関節が図3紙面垂直方向に奥行きを有していることにより、視点の位置によってこのような見掛け上のずれを生じるためである。仮に視点を第1の低剛性領域10の真正面の直近位置に配置した場合には、第1の低剛性領域10のライン10Cはリスフラン関節のラインTBLと略一致することになる。
また、第1の低剛性領域10の上端10aは、鳩目飾り5、6の間を通って開口部3bに臨んでおり、下端10bは、アッパー本体3の下端の近傍に配置されている。好ましくは、第1の低剛性領域10の上端10aは下端10bよりも幅広になっており、第1の低剛性領域10は、上端10aから下端10bにかけてテーパ状に形成されている。これは、シューズのアッパーの実際の変形時には、第1の低剛性領域10の上端10aの弾性変形量が下端10bの弾性変形量よりも大きくなることを考慮したものである。
第1の低剛性領域10の配置に関しては、別の言い方をすれば、シューズの表示サイズ長をLとし、足の踵高さをHとするとき、上端10aが、踵後端から0.6Lの位置に配置され、下端10bが、踵後端から0.3Lの位置でかつシューズの足裏当接面Saから0.4Hの位置(つまり踵骨前端部CA’付近の位置)に配置されているのが好ましい(図3参照)。ここで、シューズの表示サイズ長Lがシューズの全長よりも短くなっているのは、表示サイズ長Lには、シューズのアッパー本体の踵部の厚みやシューズの捨て寸(遊び代)が含まれないからである。また、足の踵高さHとは、シューズの足裏当接面Saから足の踝(図2の例では外踝)中心KLまでの高さのことである。第1の低剛性領域10の下端10bを踵後端から0.3Lの位置に配置したのは、ランニング等の直進系の動きにおけるヒールインパクト時には、踵骨前端CA’から後側では、関節の変形はほとんど発生しないからである。
第1の低剛性領域10の配設方向に関しては、別の言い方をすれば、第1の低剛性領域10の配設方向を示すライン10Cがシューズの接地面Sに対してなす角度をαとするとき、α=10〜40°であるのが好ましい。これは、典型的な足の場合、外甲側において、リスフラン関節に沿ったラインTBLが接地面Sとなす角度は約25度であるが、これには±15度程度の個人差があることを考慮したためである。
第1の低剛性領域10は、例えば人工皮革、合成繊維またはメッシュ素材などから構成されており、その周囲のアッパー本体領域よりも低い剛性を有している。第1の低剛性領域10の弾性係数は、周囲のアッパー本体領域の弾性係数に対して、20〜99.5%低くなっているのが好ましい。
第1の低剛性領域10を構成する素材としては、第1の低剛性領域10の長手方向の伸びとこれと直交する方向の伸びとが同程度のものでもよいが、同じ大きさの荷重に対して、長手方向と直交する方向の伸びの方が長手方向の伸びよりできるだけ大きいもの(つまり伸びに対する顕著な異方性があるもの)が好ましい。これは、伸びやすい方向を長手方向と直交する方向に配設することで、踵接地からフットフラット時にはアッパー本体の変形を吸収する一方、伸びにくい方向を長手方向に配設することで、フットフラット時から蹴り出し時にかけては、アッパー本体の伸びを規制してアッパー本体の内部で足が前後方向に移動しないようにしてホールド性を向上させるためである。
上述したように、第1の低剛性領域10の弾性係数を周囲のアッパー本体領域の弾性係数に対して20%以上低く設定するのは、数%でも低ければ効果のあることが確認されているが、実際の製品においては素材や製造上のばらつきが経験上±10%程度存在するので、これを考慮して、双方の弾性係数が逆転することのないようにするためである。また、周囲のアッパー本体領域の弾性係数が200N/mmで第1の低剛性領域10の弾性係数が1N/mmである(つまり99.5%低い)組合せにおいても好ましい効果を奏することが実験的に確認されており、このため、この組合せの例を上限とした。
なお、上記弾性係数の測定は、JIS K 6505 で規定される引張試験方法に基づいて行う。試験片は、実際のシューズのアッパー本体の一部を切り取ることによって採取し、当該試験片に対して引張試験を行う。第1の低剛性領域10を含む試験片の場合には、第1の低剛性領域10の長手方向(すなわち、図2中のライン10Cの方向)と直交する方向に引張荷重を作用させる。そして、20%伸びを生じたときの応力の値をそのときの伸びで除した値を弾性係数とした。なお、20%伸びを生じるまでに破断したときは、破断応力の値を破断時の伸びで除した値を弾性係数とした。
例えば、第1の低剛性領域10がランニングシューズやウォーキングシューズに適用される場合には、その弾性係数としては、1〜15N/mm程度が好ましく、インドア競技用シューズや野球用スパイクシューズに適用される場合には、その弾性係数としては、3〜30N/mm程度が好ましい。これは、それぞれの競技においてアッパーに発生する応力を考慮したものである。ランニングシューズに適用された場合の一実施例としては、第1の低剛性領域10の弾性係数が1.5N/mmで、周囲のアッパー本体領域の弾性係数が3.8N/mmである。この場合、第1の低剛性領域10の弾性係数は周囲のアッパー本体領域の弾性係数に対して60%低くなっている。
第1の低剛性領域10は、図2のIV-IV線断面図である図4(a)に示すように、一定の隙間eを隔てて突き合わされた、例えばメッシュ素材からなる表材30、31の上にその両側縁部がオーバラップして配設されるとともに、該両側縁部が各表材30、31に縫合されている(図2中、ステッチを示す点線参照)。表材30、31の内側には、一定の空隙を隔てて裏材32が配設されており、表材30、31および裏材32の間の空隙には、例えばスポンジからなる内装材33が充填されている。第1の低剛性領域10の幅dの値としては、例えば3mm以上に設定される。これは、幅が3mm未満になると、その縫合等の組立作業が容易でなくなるのがその主な理由である。
第1の低剛性領域10は、図4(b)に示すように、その一側縁部を一方の表材(例えば表材30)の上にオーバラップして縫合するとともに、他側縁部を他方の表材(例えば表材31)の下にオーバラップして縫合するようにしてもよい。
また、図4(c)に示すように、表材30、裏材32、内装材33からなるアッパー部分と、表材31、裏材32’、内装材33’からなるアッパー部分とを一定間隔を隔てて対向配置するとともに、各アッパー部分の間に第1の低剛性領域10を配設して、第1の低剛性領域10の両側縁部を表材30、裏材32および表材31、裏材32’に縫合するようにしてもよい。
第1の低剛性領域10の両側縁部を表材30、31に縫合したことにより、第1の低剛性領域10は、ステッチの配設方向である長手方向に伸びにくくなっており、その結果、第1の低剛性領域10は、長手方向と直交する幅方向に相対的に伸びやすくなっている。この場合において、上述したように、長手方向と直交する方向に伸びやすい異方性素材を用いるようにすれば、ステッチによる作用と相俟って、第1の低剛性領域10が、長手方向と直交する方向により伸びやすくなる。
第2の低剛性領域11は、もっとも好ましくは、アッパー本体3の履き口3aにおける着用者の足の踝直下の位置から足の踵骨前端部付近の位置まで帯状に延びている。
好ましくは、第2の低剛性領域11の上端11aは下端11bよりも幅広になっており、第2の低剛性領域11は、上端11aから下端11bにかけてテーパ状に形成されている。
第2の低剛性領域11の配置に関しては、別の言い方をすれば、シューズの表示サイズ長をLとし、足の踵高さをHとするとき、上端11aが、踵後端から0.2Lの位置に配置されるとともに、下端11bが、踵後端から0.3Lの位置でかつシューズの足裏当接面から0.4Hの位置(つまり踵骨前端部CA’付近の位置)に配置されているのが好ましい。
第2の低剛性領域11の配設方向に関しては、別の言い方をすれば、第2の低剛性領域11の配設方向を示すライン11Cがシューズの接地面Sに対してなす角度をβとするとき、β=35〜65°であるのが好ましい。これは、典型的な足の場合、外甲側において、アッパー本体3の履き口3aにおける着用者の足の踝直下の位置から足の踵骨前端部付近の位置まで延びるライン11Cが接地面Sとなす角度は約50度であるが、これには±15度程度の個人差があることを考慮したためである。なお、ライン11Cは、第2の低剛性領域11の上端11aにおける幅方向の中点と、下端11bにおける幅方向の中点とを結ぶ線分で表される。
第2の低剛性領域11は、第1の低剛性領域10と同様に、例えば人工皮革、合成繊維またはメッシュ素材などから構成されており、その周囲のアッパー本体領域よりも低い剛性を有している。第2の低剛性領域11の弾性係数は、第1の低剛性領域10と同様に、周囲のアッパー本体領域の弾性係数に対して、20〜99.5%低くなっているのが好ましい。
第2の低剛性領域11を構成する素材としては、第2の低剛性領域11の長手方向の伸びとこれと直交する方向の伸びとが同程度のものでもよいが、長手方向と直交する方向の伸びの方が長手方向の伸びよりできるだけ大きいもの(つまり伸びに対する顕著な異方性があるもの)が好ましい。
ここで、第2の低剛性領域11の弾性係数を周囲のアッパー本体領域の弾性係数に対して20%以上低く設定するのは、数%でも低ければ効果のあることが確認されているが、実際の製品においては素材や製造上のばらつきが経験上±10%程度存在するので、これを考慮して、双方の弾性係数が逆転することのないようにするためである。また、周囲のアッパー本体領域の弾性係数が200N/mmで第2の低剛性領域11の弾性係数が1N/mmである(つまり99.5%低い)組合せにおいても好ましい効果を奏することが実験的に確認されており、このため、この組合せの例を上限とした。
なお、弾性係数の測定は、JIS K 6505 で規定される引張試験方法に基づいて行う。試験片は、実際のシューズのアッパー本体の一部を切り取ることによって採取し、当該試験片に対して引張試験を行う。第2の低剛性領域11を含む試験片の場合には、第2の低剛性領域11の長手方向(すなわち、図2中のライン11Cの方向)と直交する方向に引張荷重を作用させる。そして、20%伸びを生じたときの応力の値をそのときの伸びで除した値を弾性係数とした。なお、20%伸びを生じるまでに破断したときは、破断応力の値を破断時の伸びで除した値を弾性係数とした。
例えば、第2の低剛性領域11がランニングシューズやウォーキングシューズに適用される場合には、その弾性係数としては、1〜15N/mm程度が好ましく、インドア競技用シューズや野球用スパイクシューズに適用される場合には、その弾性係数としては、3〜30N/mm程度が好ましい。これは、それぞれの競技において、アッパーに発生する応力を考慮したものである。ランニングシューズに適用された場合の一実施例としては、第1の低剛性領域10の弾性係数が1.5N/mmで、周囲のアッパー本体領域の弾性係数が3.8N/mmである。この場合、第1の低剛性領域10の弾性係数は周囲のアッパー本体領域の弾性係数に対して60%低くなっている。
第2の低剛性領域11は、第1の低剛性領域10と同様に(図4(a)参照)、一定の隙間eを隔てて突き合わせられた、例えばメッシュ素材からなる表材30、31の上にその両側縁部がオーバラップして配設されるとともに、該両側縁部が各表材30、31に縫合されている。表材30、31の内側には、一定の空隙を隔てて裏材32が配設されており、表材30、31および裏材32の間の空隙には、たとえスポンジからなる内装材33が充填されている。第2の低剛性領域11の幅dの値としては、例えば3mm以上に設定される。これは、幅が3mm未満になると、その縫合等の組立作業が容易でなくなるのが主な理由である。
また、第2の低剛性領域11は、第1の低剛性領域10と同様に(図4(b)参照)、その一側縁部を一方の表材(例えば表材30)の上にオーバラップして縫合するとともに、他側縁部を他方の表材(例えば表材31)の下にオーバラップして縫合するようにしてもよい。
さらに、第2の低剛性領域11は、第1の低剛性領域10と同様に(図4(c)参照)、表材30、裏材32、内装材33からなるアッパー部分と、表材31、裏材32’、内装材33’からなるアッパー部分とを一定間隔を隔てて対向配置して、これらのアッパー部分の間に配設するとともに、その両側縁部を表材30、裏材32および表材31、裏材32’に縫合するようにしてもよい。
第2の低剛性領域11の両側縁部を表材30、31に縫合したことにより、第2の低剛性領域11は、長手方向に伸びにくくなっており、その結果、第2の低剛性領域11は、長手方向と直交する幅方向に相対的に伸びやすくなっている。この場合において、上述したように、長手方向と直交する方向に伸びやすい異方性素材を用いるようにすれば、ステッチによる作用と相俟って、第2の低剛性領域11が、長手方向と直交する方向により伸びやすくなる。
このような本実施例によれば、アッパー本体3の外甲側において、着用者の足のリスフラン関節に沿って帯状に延びかつ周囲領域よりも剛性の低い第1の低剛性領域10を設けたので、とくに、着地後のフットフラット時から蹴り出し時にかけての局面のようにリスフラン関節付近が下方に移動する際や、蹴り出し時のようにリスフラン関節付近が上下動する際には、第1の低剛性領域10がその周囲領域よりも弾性変形しやすいことにより、第1の低剛性領域10を挟んで上側および下側の各アッパー領域が互いに独立して変形できるようになり、これにより、リスフラン関節付近の下方移動および上下動にともなうアッパーの変形を効果的に吸収できる。
また、この場合には、第1の低剛性領域10が足のリスフラン関節に沿って延設されることで、第1の低剛性領域10がソール2と斜めに交差する方向に配設されており、これにより、シューズの着地時に足裏に荷重が作用した際に、足のスウェル部分(足の外周に沿った最も膨出した部分)の足幅方向への膨張にともなうアッパーの幅方向の伸びを効果的に吸収できる。
さらに、アッパー本体3の外甲側において、アッパー本体3の履き口3aにおける着用者の足の踝直下の位置から足の踵骨前端部CA’付近の位置まで帯状に延びかつ周囲領域よりも剛性の低い第2の低剛性領域11を設けたので、シューズの着地時に履き口3aに生じるアッパーの変形を効果的に吸収でき、履き口3a周りのフィット性を向上できる。また、第2の低剛性領域11がソール2と斜めに交差する方向に配設されることで、シューズの着地時に足裏に荷重が作用した際に、足のスウェル部分の足幅方向への膨張にともなうアッパーの幅方向の伸びを効果的に吸収できる。
しかも、本実施例では、アッパー本体3の外甲側において、第1、第2の低剛性領域10、11を互いに連結して配設したことにより、第1、第2の低剛性領域10、11を挟んで上側の上部アッパー領域3Aが下側の下部アッパー領域3Bから分離されており(言い換えれば、上部アッパー領域3Aがアッパー本体3の外甲側で「島」状に分離しており)、これにより、とくに、着地後のフットフラット時から蹴り出し時にかけての局面のようにリスフラン関節付近が下方に移動する際や、蹴り出し時のように足のリスフラン関節付近が上下動する際には、上部アッパー領域3Aが下部アッパー領域3Bから独立して変形できるようになり、これにより、リスフラン関節付近の下方移動および上下動にともなうアッパーの変形を確実に吸収でき、足への追従性を向上できる。また、上部アッパー領域3Aが下部アッパー領域3Bから独立した領域になったことで、上部アッパー領域3Aを着用者の足甲部の複雑な凹凸形状に沿わせることが可能になり、これにより、足甲部のフィット性を向上できる。
次に、上述のように構成されたアッパー構造を備えたシューズを被験者に着用してもらい、実際の運動時におけるシューズのフィット感について官能試験を行った。試験条件は以下の通りである。
i)被験者数:43名
ii)着用シューズ:本発明品(図1、図2に示すもの)
iii)運動条件:ランニング(時速10km、走行距離1km)
iv)評価の仕方:ランニング時のフィット感を、「悪い」、「やや悪い」、「普通」、「やや良い」、「良い」の5段階で評価した
官能試験結果を図7に示す。同図中、横軸は5段階の各評価を示しており、縦軸は、横軸の各評価をした被験者数を被験者数全体に占める度数で表したものである。したがって、例えば50%とは、被験者43名のうちの半数である約22名が評価したことを示している。なお、同図中、シューズのアッパーに低剛性領域が設けられていない従来のシューズ(従来品)についても同様の官能試験を行っており、その結果を本発明品の隣に併せて記載してある。
図7から分かるように、本発明品について「やや良い」または「良い」と評価した被験者数はいずれも従来品についての被験者数を上回っている。本発明品について「やや良い」および「良い」と評価した被験者数はそれぞれ51%および21%であり、両者を合わせると、全体の72%の被験者が本発明について「やや良い」または「良い」という評価を行っている。
このように、本発明品のシューズについて、フィット感が優れているという官能評価が得られたのは、シューズのアッパーに設けた第1、第2の低剛性領域によって、アッパーの変形が効果的に吸収されたからである。
〔変形例1〕
前記実施例では、第1、第2の低剛性領域10、11がアッパー本体3の外甲側にのみ設けられた例を示したが、本発明の適用はこれに限定されない。
第1、第2の低剛性領域10、11は、アッパー本体3の内甲側にのみ設けられていてもよい。この場合においても、前記実施例と同様の作用効果を奏する。また、第1、第2の低剛性領域10、11は、アッパー本体3の内甲側および外甲側の双方に設けられていてもよい。この場合には、上下部アッパー領域3A、3Bがアッパー本体3の外甲側および内甲側の双方において互いに独立して変形できるようになり、これにより、リスフラン関節付近の上下動にともなうアッパーの変形をより確実に吸収でき、足への追従性を一層向上できるようになるとともに、シューズの履き口に生じるアッパーの変形をより確実に吸収でき、足のスウェル部分の足幅方向への膨張にともなうアッパーの幅方向の伸びをより確実に吸収できる。
〔変形例2〕
前記実施例では、第1、第2の低剛性領域10、11が互いに連結して設けられた例を示したが、本発明の適用はこれに限定されない。
第1、第2の低剛性領域10、11のいずれか一方をアッパー本体3の外甲側または(および)内甲側に設けるようにしてもよい。
第1の低剛性領域10をシューズのアッパー本体3の内甲側に設ける場合、第1の低剛性領域10の配設角度αは、α=0〜30°であるのが好ましい。これは、典型的な足の場合、内甲側において、リスフラン関節に沿ったラインTBLが接地面Sとなす角度は約15度であるが、これには±15度程度の個人差があることを考慮したためである。前記実施例における外甲側のαの範囲を含めれば、角度αが満足すべき角度範囲としては、α=0〜40°となる。
前記実施例のように、第1の低剛性領域10をアッパー本体3の外甲側にのみ設けた場合には、ランニングやウォーキングなどのようにソール外甲側から着地することによりアッパー外甲側の変形が大きく、しかも中足部内甲側のホールド性を要求される競技に好適のアッパー構造を実現できる。これに対して、第1の低剛性領域10をアッパー本体3の内甲側にのみ設けた場合には、テニスやバレーボールなどのようにソール内甲側から着地することによりアッパー内甲側の変形が大きく、しかも中足部外甲側のホールド性を要求される競技に好適のアッパー構造を実現できる。また、第1の低剛性領域10をアッパー本体3の内甲側および外甲側の双方に設けた場合には、軽度のウォーキングなどのようにソールに作用する荷重が小さくしかも中足部両側のホールド性をそれ程要求されないスポーツに好適のアッパー構造を実現できる。
第2の低剛性領域11をシューズのアッパー本体3の内甲側に設ける場合、第2の低剛性領域11の上端11aは、踵後端から0.25Lの位置に配置されているのが好ましい。また、第2の低剛性領域11の配設角度βは、β=45〜75°であるのが好ましい。これは、典型的な足の場合、内甲側において、アッパー本体3の履き口3aにおける着用者の足の踝直下の位置から足の踵骨前端部付近の位置まで延びるライン11Cが接地面Sとなす角度は約60度であるが、これには±15度程度の個人差があることを考慮したためである。前記実施例における外甲側のβの範囲を含めれば、角度βが満足すべき角度範囲としては、β=35〜75°となる。
前記実施例のように、第2の低剛性領域11をアッパー本体3の外甲側にのみ設けた場合には、ランニングやウォーキングなどのようにソール外甲側から着地することによりアッパー外甲側の変形が大きく、しかも踵部内甲側のホールド性を要求される競技に好適のアッパー構造を実現できる。これに対して、第2の低剛性領域11をアッパー本体3の内甲側にのみ設けた場合には、テニスやバレーボールなどのようにソール内甲側から着地することによりアッパー内甲側の変形が大きく、しかも踵部外甲側のホールド性を要求される競技に好適のアッパー構造を実現できる。また、第2の低剛性領域11をアッパー本体3の内甲側および外甲側の双方に設けた場合には、バドミントンなどのようにアッパー両側の変形が大きくしかも中足部両側のホールド性を要求される競技に好適のアッパー構造を実現できる。
次に、図8ないし図10は、本発明の他の実施例によるアッパー構造を説明するための図であって、 図8は本発明の他の実施例によるアッパー構造を採用するバレーボールシューズの平面図、図9はシューズの内甲側側面図、図10はシューズの外甲側側面図である。なお、これらの図において、前記実施例と同一符号は同一または相当部分を示している。また、各図においては、靴紐が省略された状態が示されている。
図8ないし図10に示すように、シューズ1’は、ソール2’と、その上に設けられ、着用者の足Fを覆うアッパー本体3’とを備えている。
アッパー本体3’は、シューズ1’の踵部から中足部を経て前足部まで延びており、足Fの踵部、左右両側部および足甲部を覆っている。アッパー本体3’の下面は、シューズ1’のソール2’の上面に固着されている。アッパー本体3’は、履き口3’aと、これに連続してシューズ1の足甲部に形成された、前後方向に延びる開口部3’bとを有している。開口部3’bには、これを覆う舌革部4’が設けられている。
アッパー本体3’の内甲側において、着用者の足の第1趾の中足趾節関節MJ1に対応する位置またはその直近近傍位置には、第1趾中足趾節関節MJ1に沿って延びかつ周囲領域よりも剛性の低い第3の低剛性領域12が設けられている。なお、図8中、MBは中足骨を、PPは基節骨をそれぞれ示しており、添え字の1、2はそれぞれ第1趾、第2趾を示している。
図9において、第3の低剛性領域12の配設方向を示すライン12Cは、着用者の足の第1趾中足趾節関節MJ1に沿っている。ここで、ライン12Cは、第3の低剛性領域12の上端12aにおける幅方向の中点と、下端12bにおける幅方向の中点とを結ぶ線分で表される。なお、図9に示すものでは、ライン12Cが第1趾中足趾節関節MJ1に正確に一致しておらず、若干ずれているように見えるが、これは、第3の低剛性領域12および第1趾中足趾節関節MJ1が図9紙面垂直方向に奥行きを有していることにより、視点の位置によってこのような見掛け上のずれを生じるためである。仮に視点を第3の低剛性領域12の真正面の直近位置に配置した場合には、第3の低剛性領域12のライン12Cは第1趾中足趾節関節MJ1と略一致することになる。
また、第3の低剛性領域12の上端12aは、開口部3’bに臨んでおり、下端12bは、アッパー本体3の下端に配置されている。好ましくは、第3の低剛性領域12の上端12aは下端12bよりも幅広になっており、第3の低剛性領域12は、上端12aから下端12bにかけてテーパ状に形成されている。これは、シューズのアッパーの実際の変形時には、第3の低剛性領域12の上端12aの弾性変形量が下端12bの弾性変形量よりも大きくなることを考慮したものである。なお、第3の低剛性領域12は、上端12aから下端12bにかけて全体が幅広の帯状に形成されていてもよい。
第3の低剛性領域12の配置に関しては、別の言い方をすれば、シューズの表示サイズ長をLとするとき、上端12aが、踵後端から0.75Lの位置に配置され、下端12bが、踵後端から0.6Lの位置に配置されているのが好ましい(図9参照)。ここで、第3の低剛性領域12の下端12bを踵後端から0.6Lの位置に配置したのは、これより後側では、関節のねじれはほとんど発生しないからである。
第3の低剛性領域12の配設方向に関しては、別の言い方をすれば、第3の低剛性領域12の配設方向を示すライン12Cがシューズの接地面Sに対してなす角度をγとするとき、γ=35〜65°であるのが好ましい。これは、典型的な足の場合、内甲側において、第1中足骨骨体前端と第2中足骨骨頭とを結ぶ線が約50度であるが、これには±15度程度の個人差があることを考慮したためである。
第3の低剛性領域12は、第1の低剛性領域10と同様に、例えば人工皮革、合成繊維またはメッシュ素材などから構成されており、その周囲のアッパー本体領域よりも低い剛性を有している。第3の低剛性領域12の弾性係数は、第1の低剛性領域10と同様に、周囲のアッパー本体領域の弾性係数に対して、20〜99.5%低くなっているのが好ましい。
第3の低剛性領域12を構成する素材としては、第3の低剛性領域12の長手方向の伸びとこれと直交する方向の伸びとが同程度のもの(例えばメッシュ)でもよいが、長手方向と直交する方向の伸びの方が長手方向の伸びよりできるだけ大きいもの(つまり伸びに対する顕著な異方性があるもの)が好ましい。具体的には、スパンデックス(つまりポリウレタン弾性繊維)等が用いられる。
また、周囲のアッパー本体領域よりも硬度の高い高硬度素材(例えばナイロン、ラバー、ウレタン等)を第3の低剛性領域12の一部または全面に塗布、接着、熱溶着、コーティング等により固着するようにしてもよい。
ここで、第3の低剛性領域12の弾性係数を周囲のアッパー本体領域の弾性係数に対して20%以上低く設定するのは、数%でも低ければ効果のあることが確認されているが、実際の製品においては素材や製造上のばらつきが経験上±10%程度存在するので、これを考慮して、双方の弾性係数が逆転することのないようにするためである。また、周囲のアッパー本体領域の弾性係数が200N/mmで第3の低剛性領域12の弾性係数が1N/mmである(つまり99.5%低い)組合せにおいても好ましい効果を奏することが実験的に確認されており、このため、この組合せの例を上限とした。
なお、弾性係数の測定は、第1、第2の低剛性領域10、11の場合において説明したように、JIS K 6505 で規定される引張試験方法に基づいて行う。
第3の低剛性領域12は、第1の低剛性領域10と同様に(図4(a)参照)、一定の隙間eを隔てて突き合わせられた、例えばメッシュ素材からなる表材30、31の上にその両側縁部がオーバラップして配設されるとともに、該両側縁部が各表材30、31に縫合されている。表材30、31の内側には、一定の空隙を隔てて裏材32が配設されており、表材30、31および裏材32の間の空隙には、たとえスポンジからなる内装材33が充填されている。第3の低剛性領域12の幅dの値としては、例えば3mm以上に設定される。これは、幅が3mm未満になると、その縫合等の組立作業が容易でなくなるのが主な理由である。
また、第3の低剛性領域12は、第1の低剛性領域10と同様に(図4(b)参照)、その一側縁部を一方の表材(例えば表材30)の上にオーバラップして縫合するとともに、他側縁部を他方の表材(例えば表材31)の下にオーバラップして縫合するようにしてもよい。
さらに、第3の低剛性領域12は、第1の低剛性領域10と同様に(図4(c)参照)、表材30、裏材32、内装材33からなるアッパー部分と、表材31、裏材32’、内装材33’からなるアッパー部分とを一定間隔を隔てて対向配置して、これらのアッパー部分の間に配設するとともに、その両側縁部を表材30、裏材32および表材31、裏材32’に縫合するようにしてもよい。
第3の低剛性領域12の両側縁部を表材30、31に縫合したことにより、第3の低剛性領域12は、長手方向に伸びにくくなっており、その結果、第3の低剛性領域12は、長手方向と直交する幅方向に相対的に伸びやすくなっている。この場合において、上述したように、長手方向と直交する方向に伸びやすい異方性素材を用いるようにすれば、ステッチによる作用と相俟って、第3の低剛性領域12が、長手方向と直交する方向により伸びやすくなる。
この場合には、アッパー本体3’の内甲側において、着用者の足の中足趾節関節MJに沿って延びかつ周囲領域よりも剛性の低い第3の低剛性領域12が設けられるので、とくに、サイドステップ時の着地および踏み出し時のように、足の内甲側の中足趾節関節MJ部分が屈曲変形する際には、第3の低剛性領域12がその周囲領域よりも弾性変形しやすいことにより、第3の低剛性領域12を挟んで前側および後側の各アッパー領域が互いに独立して変形できるようになり、これにより、足の内甲側の中足趾節関節部分MJの屈曲にともなうアッパー本体3’のねじれ変形を効果的に吸収でき、アッパーのフィット性を向上できるとともに、足の前足部の動きを阻害せずに前足部の動きに対するアッパー本体3’の追従性を向上できる。また、この場合、第3の低剛性領域12をアッパー本体3’の内甲側にのみ設けることで、サイドステップ時にアッパー本体3’の外甲側の変形を抑制でき、これにより、サイドステップ後の踏み出し動作にスムーズに移行できる。
一般に、バレーボールシューズの場合には、競技時(例えばレシーブの際)にシューズ前足部のアッパー内甲側部分が床面と強く接触して当該アッパー内甲側部分が摩耗するが、上述したように、第3の低剛性領域12に高硬度素材を固着した場合には、アッパー内甲側部分の摩耗を低減でき、シューズの耐久性を向上できる。
図9に示す例では、第3の低剛性領域12の下端12bがアッパー本体3’の下端に配置されたものを示したが、本発明の適用はこれに限定されない。本発明は、図11に示すように、第3の低剛性領域12の下端12bがアッパー本体3’の下端の近傍に配置されたものや、図12に示すように、第3の低剛性領域12の下端12bがアッパー本体3’の下端から離れた足甲部分に配置されたものにも同様に適用できる。なお、図11の例では、第3の低剛性領域12が帯状に形成されたものを示しており、図12の例では、第3の低剛性領域12がテーパ状に形成されたものを示している。
また、図9、図11および図12に示すように、シューズ1’のアッパー本体3’の内甲側において、着用者の足関節に対応する位置またはその直近近傍位置には、当該足関節に沿って延びかつ周囲領域よりも剛性の低い第4の低剛性領域13が設けられている。足関節は、主として、距骨Tc、踵骨CA、舟状骨NBおよびこれらの連結部分から構成されている。
より詳細には、第4の低剛性領域13は、着用者の足の距骨下関節TJを覆うように、距骨Tc後端から距骨下関節TJに沿った位置に配置されている。第4の低剛性領域13は、下に凸の曲面形状を有しており、前後方向に帯状に延びている。なお、図9に示すものでは、第4の低剛性領域13が距骨下関節TJに正確に一致しておらず、若干ずれているように見えるが、これは、第4の低剛性領域13および距骨下関節TJが図9紙面垂直方向に奥行きを有していることにより、視点の位置によってこのような見掛け上のずれを生じるためである。仮に視点を第4の低剛性領域13の真正面の直近位置に配置した場合には、第4の低剛性領域13は距骨下関節TJと略一致することになる。
第4の低剛性領域13の前端13aは、アッパー本体3’の足甲部の開口部3’bに臨んでおり、後端(つまり上端)13bは、アッパー本体3’の履き口3’aに臨んでいる。
第4の低剛性領域13の配置に関しては、別の言い方をすれば、シューズの表示サイズ長をLとし、足の踵高さをH’とするとき、上端13bが、踵後端から0.1Lの位置でかつシューズの足裏当接面Saから0.8H’の位置に配置され、前後方向略中央部に配置された下端13cが、踵後端から0.3Lの位置でかつシューズの足裏当接面Saから0.4H’の位置に配置されているのが好ましい(図9参照)。ここで、足の踵高さH’とは、シューズの足裏当接面Saから足の踝(図9の例では内踝)中心KMまでの高さのことである。なお、図9中、TIは脛骨を示している。
第4の低剛性領域13は、第3の低剛性領域12と同様に、例えば人工皮革、合成繊維またはメッシュ素材などから構成されており、その周囲のアッパー本体領域よりも低い剛性を有している。第4の低剛性領域13の弾性係数は、第31の低剛性領域12と同様に、周囲のアッパー本体領域の弾性係数に対して、20〜99.5%低くなっているのが好ましい。
第4の低剛性領域13を構成する素材としては、第4の低剛性領域13の長手方向の伸びとこれと直交する方向の伸びとが同程度のものでもよいが、長手方向と直交する方向の伸びの方が長手方向の伸びよりできるだけ大きいもの(つまり伸びに対する顕著な異方性があるもの)が好ましい。具体的には、スパンデックス(つまりポリウレタン弾性繊維)等が用いられる。
ここで、第4の低剛性領域13の弾性係数を周囲のアッパー本体領域の弾性係数に対して20%以上低く設定するのは、数%でも低ければ効果のあることが確認されているが、実際の製品においては素材や製造上のばらつきが経験上±10%程度存在するので、これを考慮して、双方の弾性係数が逆転することのないようにするためである。また、周囲のアッパー本体領域の弾性係数が200N/mmで第4の低剛性領域13の弾性係数が1N/mmである(つまり99.5%低い)組合せにおいても好ましい効果を奏することが実験的に確認されており、このため、この組合せの例を上限とした。
なお、弾性係数の測定は、第1、第2の低剛性領域10、11の場合において説明したように、JIS K 6505 で規定される引張試験方法に基づいて行う。
第4の低剛性領域12は、第1の低剛性領域10と同様に(図4(a)参照)、一定の隙間eを隔てて突き合わせられた、例えばメッシュ素材からなる表材30、31の上にその両側縁部がオーバラップして配設されるとともに、該両側縁部が各表材30、31に縫合されている。表材30、31の内側には、一定の空隙を隔てて裏材32が配設されており、表材30、31および裏材32の間の空隙には、たとえスポンジからなる内装材33が充填されている。第3の低剛性領域12の幅dの値としては、例えば3mm以上に設定される。これは、幅が3mm未満になると、その縫合等の組立作業が容易でなくなるのが主な理由である。
また、第4の低剛性領域13は、第1の低剛性領域10と同様に(図4(b)参照)、その一側縁部を一方の表材(例えば表材30)の上にオーバラップして縫合するとともに、他側縁部を他方の表材(例えば表材31)の下にオーバラップして縫合するようにしてもよい。
さらに、第4の低剛性領域13は、第1の低剛性領域10と同様に(図4(c)参照)、表材30、裏材32、内装材33からなるアッパー部分と、表材31、裏材32’、内装材33’からなるアッパー部分とを一定間隔を隔てて対向配置して、これらのアッパー部分の間に配設するとともに、その両側縁部を表材30、裏材32および表材31、裏材32’に縫合するようにしてもよい。
第4の低剛性領域13の両側縁部を表材30、31に縫合したことにより、第4の低剛性領域13は、長手方向に伸びにくくなっており、その結果、第4の低剛性領域13は、長手方向と直交する幅方向に相対的に伸びやすくなっている。この場合において、上述したように、長手方向と直交する方向に伸びやすい異方性素材を用いるようにすれば、ステッチによる作用と相俟って、第4の低剛性領域13が、長手方向と直交する方向により伸びやすくなる。
この場合には、アッパー本体3’の内甲側において、着用者の足関節に沿って周囲領域よりも剛性の低い第4の低剛性領域13が設けられるので、とくにサイドステップの際の踵接地時のように、回外(内反と内転とのコンビネーション)の動きが足関節の周りに発生しているとき、この動きによるアッパー本体3’の変形を第4の低剛性領域13により効果的に吸収でき、アッパー本体3’のフィット性を向上できるとともに、足首部の内側への倒れ込み動作を阻害せずに足首部の動きに対するアッパー本体3’の追従性を向上できる。
また、この場合には、第4の低剛性領域13が、着用者の足の距骨下関節TJを覆うように、距骨TC後端から距骨下関節TJに沿った位置に配置されているので、サイドステップの際の踵接地時に、足の回外によるアッパー本体3’の変形を第4の低剛性領域13により一層効果的に吸収できる。
さらに、この場合には、第4の低剛性領域13の前端13aが、アッパー本体3’の足甲部の開口部3’bに臨んでおり、後端13bがアッパー本体3’の履き口3’aに臨んでいるので、第4の低剛性領域13を挟んで上側および下側の各アッパー領域が互いに独立して変形しやすくなっており、これにより、足関節付近の動きにともなうアッパー本体3’の変形をより効果的に吸収できる。
また、図9に示す例では、第3の低剛性領域12および第4の低剛性領域13の双方が設けられているので、とくにサイドステップの際の着地時および踏み出し時のように、足の内甲側の中足趾節関節部分が屈曲変形する際には、第3の低剛性領域により、足の内甲側の中足趾節関節部分の屈曲にともなうアッパーのねじれ変形を効果的に吸収でき、アッパーのフィット性を向上できるとともに、足の前足部の動きを阻害せずに前足部の動きに対するアッパーの追従性を向上でき、さらに、とくにサイドステップの際の踵接地時のように回外の動きが足関節の周りに発生しているときには、第4の低剛性領域により、回外によるアッパーの変形を効果的に吸収でき、アッパーのフィット性を向上できるとともに、足首部の内側への倒れ込み動作を阻害せずに足首部の動きに対するアッパーの追従性を向上できる。
次に、上述のように構成されたアッパー構造を備えたシューズを被験者に着用してもらい、実際の運動時におけるシューズのフィット感について官能試験を行った。試験条件は以下の通りである。
i)被験者数:32名
ii)着用シューズ:本発明品(図8ないし図10に示すもの)
iii)運動条件:サイドステップ(横方向に約1.5mの踏込み動作)すなわち、被験者が片方の足にシューズを着用し、シューズ着用側の横方向に約1.5m飛んで着地して地面に踏み込み、次に反対方向に戻るというステップを1回の動作として、これを10回連続して反復した
iv)評価の仕方:サイドステップ時のフィット感を、「悪い」、「やや悪い」、「普通」、「やや良い」、「良い」の5段階で評価した
官能試験結果を図13に示す。同図中、横軸は5段階の各評価を示しており、縦軸は、横軸の各評価をした被験者数を被験者数全体に占める度数で表したものである。したがって、例えば50%とは、被験者32名のうちの半数である16名が評価したことを示している。なお、同図中、シューズのアッパーに低剛性領域が設けられていない従来のシューズ(従来品)についても同様の官能試験を行っており、その結果を本発明品の隣に併せて記載してある。
図13から分かるように、本発明品について「やや良い」または「良い」と評価した被験者数はいずれも従来品についての被験者数を上回っている。本発明品について「やや良い」および「良い」と評価した被験者数はそれぞれ41%および31%であり、両者を合わせると、全体の72%の被験者が本発明について「やや良い」または「良い」という評価を行っている。なお、従来品について、「良い」と評価した被験者は0人であった。
このように、本発明品のシューズについて、サイドステップ時のフィット感が優れているという官能評価が得られたのは、シューズのアッパーに設けた第3、第4の低剛性領域によって、アッパーの変形が効果的に吸収されたからである。
なお、本発明は、第3の低剛性領域12または第4の低剛性領域13のいずれか一方のみが設けられたものにも同様に適用可能である。