JP4911415B2 - 非特異性吸着抑制材料 - Google Patents
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Description
生体組織、細胞、タンパク質、脂質等、夾雑物が多量に含まれるサンプルから、測定したい生体分子やタンパク質、核酸のみを感度よく検出するためには、計測応答部分の高感度化を図るとともに、夾雑物の非特異性吸着によるノイズ応答をできるだけ下げる工夫が必要である。
しかし、デキストラン層が厚く(約100nm)、検出物質が層中に入り込むなどして熱力学的・動力学的パラメータに問題を与えたり、あるいは実際に吸着しているかのような挙動も見受けられ、正確な測定には向かない場合がある。
L. Stigh らのグループ,"Methods for site controlled coupling to carboxymethyldextran surfaces in surface plasmon resonance sensors", Biosensors & Bioelectronics 10 (1995) 813-822.)
したがって、高分子PEGでも抑えられなかったような低分子の生体分子の吸着を抑えることができ、しかも2種類の高分子を段階を経て修飾するような手間をさけて簡便な手法で極小領域を修飾できるような分子層の開発が望まれている。
すなわち、本発明では次の1〜6の構成を採用する。
1.基材表面に、一般式(1)で表される化合物の単分子膜を形成してなる非特異性吸着抑制材料。
HO(CH2CH2O)m−(CH2)n−SH (1)
式中、mは1〜3の整数、nは2〜8の整数を表す。
2.前記基材が、導電性金属及び金属酸化物から選ばれた材料により構成されたものであることを特徴とする1に記載の非特異性吸着抑制材料。
3.前記単分子膜が、一般式(1)で表される化合物と、標的分子を認識しこれに結合する分子との混合単分子膜であることを特徴とする1又は2に記載の非特異性吸着抑制材料。
4.前記標的分子を認識しこれに結合する分子が、分子の末端にチオール基(−SH)を有する分子であることを特徴とする3に記載の非特異性吸着抑制材料。
5.前記標的分子を認識しこれに結合する分子が、糖、アプタマー、核酸から選択されたものであることを特徴とする3又は4に記載の非特異性吸着抑制材料。
6.前記混合単分子膜中の前記標的を認識しこれに結合する分子の割合が0.1〜60%であることを特徴とする3〜5のいずれかに記載の非特異性吸着抑制材料。
さらに、一般式(1)で表される化合物と、標的分子を認識しこれに結合する分子との混合単分子膜を形成することにより、目的タンパク質や核酸、ペプチドなどを検出する際に問題となっていた非特異性吸着によるノイズレベルを下げて目的分子・物質のみを高感度に検出することが可能となるので、プロティンチップやDNAチップなどの各種チップ化にも重要な技術となるものである。
これら金属や半導体等は硫黄を含む有機化合物が自己組織的に金属-Sの結合を作り安定に修飾膜を形成することが知られているものである。基材の形状やサイズは任意であり、各種サイズの板状の基材や粒子状の基材を使用することができる。
HO(CH2CH2O)m−(CH2)n−SH (1)
式中、mは1〜3の整数、nは2〜8の整数を表す。
上記一般式(1)で表される化合物としては、該化合物の−SH基が酸化されてジスルフィド基(−SS−)となり、二量体化した化合物を使用してもよい。これらの化合物は、例えば、後記の製造例にしたがって製造することができる。
この非特異性吸着抑制分子を、(a)標的分子を認識しこれに結合する分子(糖鎖を有するアルカンチオールやアプタマー、一本鎖核酸など)と一緒に混合溶液としたものを用いて基材表面を修飾する、または、(b)標的認識分子をあらかじめ吸着させた後に、非特異性吸着抑制分子溶液と反応させる2段階の方法を用いる、ことにより基板表面に混合単分子膜を構築することができる。この混合単分子膜を用いた場合には、標的分子以外の生体分子の非特異性吸着によるノイズレベル応答を低くおさえ、標的分子(例えば、糖においてはレクチン、アプタマーに対してはタンパク質、一本鎖核酸においては相補塩基対配列を有する核酸)の応答を高感度に検出することができる。
このような標的認識分子としては、例えば12-メルカプトドデシル-β-マルトシド(マルトシド基はCon Aを特異的に認識する)のような、末端にメルカプト基又はジスルフィド基を有する糖、各種のタンパク質を認識する末端に上記官能基を有するアプタマー、一本鎖核酸を認識するこれと相補塩基対配列を有する末端に上記官能基を有する核酸等が挙げられる。
混合単分子膜を構成する非特異性吸着抑制分子としては、上記の一般式(1)において−(CH2)n−のnが2〜8の整数である化合物だけではなく、nが2〜11の整数である化合物も使用することができる。
以下の例では、式(HO(CH2CH2O)3-(CH2) 2-SH)で表される化合物をPEGC2SH、(HO(CH2CH2O)3-(CH2)4-SH)で表される化合物をPEGC4SHのように、式(HO(CH2CH2O)3-(CH2) n-SH)で表される化合物を−(CH2)n−の炭素数nによりPEGCnSHと略記する。
また、基材表面に形成した単分子膜の性状は、表面プラズモン共鳴センサー(ビアコアT100システム又はビアコア2000システム)にて表面の屈折率の変化を測定することによって評価した。
(非特異性吸着抑制分子トリエチレングリコールアルキルチオールPEGCnSHの合成)
(1)テトラエチレングリコールモノチオール[トリエチレングリコールC2チオール(HO(CH2CH2O)3-(CH2) 2-SH, PEGC2SH)]の合成
(1−1)テトラエチレングリコールモノトシラートの合成
(2)トリエチレングリコールC4チオール(HO(CH2CH2O)3-(CH2) 4-SH, PEGC4SH)の合成
(2−1)4−ブロモブチルトリエチレングリコールの合成
(3)トリエチレングリコールC6〜C11チオール(HO(CH2CH2O)3-(CH2) n-SH, PEGC8SH:n=6〜11)の合成
上記(2−1)〜(2−4)に記載した手順と同様にして、トリエチレングリコールC6チオール(HO(CH2CH2O)3-(CH2) 6-SH, PEGC6SH)、トリエチレングリコールC8チオール(HO(CH2CH2O)3-(CH2) 8-SH, PEGC8SH)及びトリエチレングリコールC11チオール(HO(CH2CH2O)3-(CH2) 11-SH, PEGC11SH)を合成した。
(抑制分子内アルキル鎖の長さとタンパク質の吸着抑制能の関係)
上記各製造例で得られたアルキル鎖長の異なる非特異性吸着抑制分子(PEGCnSH: HO(CH2CH2O)3-(CH2) n-SH, n=2, 4, 6, 8, 11)の1μM 水溶液または水-エタノール混合液(エタノール20%)を調製し、10μL/分の流速で2500秒流し、金基材上に固定化して単分子膜を形成した。非特異性吸着抑制分子に導入してあるチオール基が、金基材と接すると同時に金−SHの結合を作り、金基材表面に吸着する。非特異性吸着抑制分子の吸着量はビアコアT-100で測定した結果、613RU (n=2), 622RU (n=4), 866RU (n=6), 1392RU (n=8), 905RU (n=11) (RU:レゾナンスユニット、1000RU=1ng/mm2)となった。
図1にみられるように、n=2の場合に29.1RUの変化(吸着)が確認され、カルボキシメチルデキストランコーティング層のチップ(CM5)の場合にみられる吸着(125.8RU)に比較すると、4分の1以下の吸着に抑えられていることがわかる。Con Aの非特異性吸着を抑える効果はアルキル鎖長が長いほど顕著になり、n=11の場合の非特異性吸着抑制分子層表面では、Con Aの吸着は1.7RUとなり、完全に吸着が抑えられていることが確認された。
(各非特異性吸着抑制分子の密生度の電気化学的評価)
アルキル鎖長が長くなると、非特異性吸着抑制分子膜中の分子の密生度があがり、タンパク質の非特異性吸着の抑制効果が一段と高くなると考えられる。
そこで、各非特異性吸着抑制分子による分子層の密生度を、次のようにして電気化学的に評価した。
PEGCnSH (n=2, 4, 6, 8, 11)の各分子の溶液(1mM 水-エタノール混合溶液)に、市販の金単結晶電極を1時間浸漬し、電極表面に非特異性吸着抑制分子の単分子膜を作製した。この修飾層を、0.5 M 水酸化カリウム水溶液内で、電位を-0.5 Vから-1.2 V まで掃引し、金表面から還元的に分子を脱離させ、そのときの電気量より元の吸着分子数を求め、その結果を図2に示した。
RS-Au + e- → RS- + Au
図2にみられるように、アルキル鎖長が長くなるにつれて電気量が増大していくことがわかる。つまり、アルキル鎖長が長くなるにつれて、単位面積あたりの分子の密生度が高くなっており、この効果でタンパク質の抑制効果が一層高まったものといえる。
(非特異性吸着抑制分子およびマルトシド基含有分子混合吸着層によるCon Aの認識、シグナルーノイズレベルの向上)
12-メルカプトドデシル-β-マルトシド(マルトシド基はCon Aを特異的に認識する)と各種アルキル鎖長の非特異性吸着抑制分子[PEGCnSH(n=2, 4, 6, 8, 11)]の混合溶液[12-メルカプトドデシル-β-マルトシド:PEGCnSH (n=2, 4, 6, 8, 11)=1:9(モル比),0.1 mM水-エタノール混合液(エタノール20%)]を用いて、実施例1と同様の手順で、金基材上に12-メルカプトドデシル-β- マルトシドと各種アルキル鎖長の非特異性吸着抑制分子を共吸着した単分子膜を形成した。この単分子膜における、Con Aの認識効果(吸着量)をビアコア2000システムにより測定した結果を図3に示す。
図3(a)はこの膜上におけるCon Aの認識効果(Con A吸着量)を調べた結果であり、各非特異性吸着抑制分子の左側の淡色のグラフはPEGCnSH分子のみの修飾膜(PEGCnSH(n=2, 4, 6, 8, 11)0.1 mM水-エタノール混合液(エタノール20%)にて修飾)でのCon Aの非特異性吸着量を示し、右側の濃色のグラフは混合単分子膜におけるCon Aの吸着量を表す。この図によれば、n=2から6まではほぼ吸着量が等しく、n=8でもCon Aはよく認識されていることがわかる。
この図3(b)にみられるように、マルトシド分子と共吸着させる機能分子のアルキル鎖長が長くなるにつれて、非特異的な吸着が抑えられ、結果としてシグナルーノイズ比の著しい向上が実現できる。n=11の場合に関しては、非特異性吸着抑制分子の長さが分子認識部位であるマルトシド基の高さを大きく超えてしまうため[図4(C)参照]、ノイズ応答は下がってもシグナル応答の方も大きく減少することから、シグナルーノイズ比は小さくなる(図3(a)参照)。これに対して、本発明のn=2〜8の非特異性吸着抑制分子を用いた場合には、シグナル-ノイズ比も大きく、高感度で標的分子を検出することができる。
このときの混合単分子膜の模式図を図4に示した。図4(A)はPEGC2SHと12-メルカプトドデシル-β- マルトシドを用いた混合単分子膜、図4(B)はPEGC6SHと12-メルカプトドデシル-β- マルトシドを用いた混合単分子膜、そして図4(C)はPEGC11SHと12-メルカプトドデシル-β- マルトシドを用いた混合単分子膜の模式図である。図4(C)にみられるように、PFGC11SHを用いた混合単分子膜では、非特異性吸着抑制分子の長さが分子認識部位であるマルトシド基の高さを大きく超えてしまうため、ノイズ応答は下がってもシグナル応答の方も大きく減少することから、シグナルーノイズ比は小さくなる。
(様々な分子量の生体分子吸着抑制効果)
実施例1で得られた、本発明の非特異性吸着抑制材料(n=2,4,6,8,11)を用いて、各抑制材料における様々な分子量の生体分子の非特異的な吸着量をビアコアT−100システムを用いて測定し、その結果を表1に示した。
また、比較のために、市販の高分子ポリエチレングリコール(分子量2000)や市販品A(金属表面用ブロッキング剤 株式会社ナノビオテック)で修飾した金基材表面、及びカルボキシメチルデキストランコーティングのチップ(CM5)、並びに未修飾金表面について測定した結果を併せて記載した。
本効果は、市販の高分子ポリエチレングリコール(分子量2000)や市販品A(金属表面用ブロッキング剤 株式会社ナノビオテック)で修飾した表面と比較しても、高分子量のものから低分子量、特に分子量数百の低分子の生体分子の非特異的な吸着を抑えるのに有効であることが確認できた。
(非特異性吸着抑制分子およびトロンビン認識核酸アプタマー分子混合吸着層によるトロンビンの認識、シグナル−ノイズレベルの向上)
トロンビンを認識する核酸アプタマー〔HS-C6-TTT TTT TTT TTT GGT TGG TGT GGT TGG(配列番号3),分子量8814.49〕と、実施例1と同様の非特異性吸着抑制分子(n=2〜11)を用いて、ビアコア社の金チップの表面に下記の手順でアプタマー混合単分子膜を形成した。核酸アプタマーのC6は、(CH2)6を意味する。得られた共吸着層に対して、トロンビンの吸着量をビアコアシステムT-100により測定した結果を図5に示す。また、シグナルノイズレベルを比較した結果を図6に示す。
溶媒としてHBS-EP緩衝液(10mM HEPES、150mM NaCl、3.4mM EDTA、0.005% Tween 20)/50mM KCL溶液(pH7.4)を使用し、核酸アプタマーは250nMに調整したものを吸着量に応じて5分間ずつ流し、最初のアプタマー吸着量を制御した。この後、各PEGCnSH分子の0.1mM 溶液を流速5μl / 分で1時間流し、アプタマー混合単分子膜を構築した。比較のため、一般的に実験によく使用される水酸基末端チオールであるメルカプトエタノール(ME)を非特異性吸着抑制分子として用いた場合の例を同時に示す。
MEを用いた場合も、図中に示すようにトロンビンの非特異性吸着は比較的低く抑えられるが、本発明の非特異性吸着抑制分子(n=2-8)においては、非特異性吸着の抑制効果がさらに抑えられていることが確認できた。PEGC2SHを非特異性吸着分子として用いた場合、トロンビンの吸着が格段によいことが確認できた。水酸基末端(ME)の場合はSN比が5程度であるのに対し、各PEGCnSHを用いた場合は50倍以上、となり、PEGC6SHを用いた場合は147となった。水酸基末端のアルカンチオール分子に対して、PEGC6SHでは26倍向上していることがわかる。(図6参照)
Claims (5)
- 基材表面に、一般式(1)で表される化合物と、標的分子を認識しこれに結合する分子との混合単分子膜を形成してなる、SPR応答による標的分子検出用材料。
HO(CH2CH2O)m−(CH2)n−SH (1)
式中、mは1〜3の整数、nは2〜8の整数を表す。 - 前記基材が、導電性金属及び金属酸化物から選ばれた材料により構成されたものであることを特徴とする、請求項1に記載の標的分子検出用材料。
- 前記標的分子を認識しこれに結合する分子が、分子の末端にチオール基(−SH)を有する分子であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の標的分子検出用材料。
- 前記標的分子を認識しこれに結合する分子が、糖、アプタマー、核酸から選択されたものであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の標的分子検出用材料。
- 前記混合単分子膜中の前記標的を認識しこれに結合する分子の割合が0.1〜60%であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の標的分子検出用材料。
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