JP4909433B2 - 光変調器 - Google Patents

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Description

本発明は、光変調器に関し、特に、電気光学効果を有する材料で形成され、厚みが150μm以下の薄板と、該薄板の裏面に接着された補強板とを含む光変調器に関する。
従来、光通信分野や光測定分野において、電気光学効果を有する基板上に光導波路や変調電極を形成した導波路型光変調器が多用されている。
光変調周波数の広帯域化を実現するためには、変調信号であるマイクロ波と光波との速度整合を図ることが重要であり、これまでに、様々な方法が考案されている。具体例を挙げれば、バッファ層の厚膜化、電極の高アスペクト化やリッジ構造などがこれにあたる。
また、以下の特許文献1又は2においては、30μm以下の厚みを有する極めて薄い基板(以下、「第1基板」という。)に、光導波路並びに変調電極を組み込み、第1基板より誘電率の低い他の基板(以下、「第2基板」という。)を接合し、マイクロ波に対する実効屈折率を下げ、マイクロ波と光波との速度整合を図ることが行われている。
これらのように、薄板化された第一基板を用いることで、変調器の設計自由度が飛躍的に高まり、例えばバッファ層を用いずとも、広帯域かつ低駆動電圧の光変調器が作製可能となる。またさらに、マイクロ波の伝搬損失低減の観点からは、誘電率の低い材料を基板に用いることと同義に、第1基板を具体的には150μm以下とすることで、特に26GHz以上の領域においてマイクロ波の誘電体に対する放射損失を低減できることが以下の非特許文献1により公開され、変調器の広帯域化に適用されている。
特許文献1又は2では、主に、第1基板にはLiNbO(以下、「LN」という。)が利用され、第2基板には、石英、ガラス、アルミナなどLNより低誘電率の材料が使用されている。しかしながら、これら異種材料の組合せでは、線膨張係数の違いにより、温度変化に伴って応力が誘起され、LNのピエゾ効果により意図しない屈折率変化が生じる。その結果、変調器として使用する際には、温度ドリフトやDCドリフトが発生することとなり、長期的な信頼性に劣る。特許文献2においては、光導波路を有する第一基板を略平面とし、また接着層を設けることで、光導波路基板における応力の分散を促進しこのような不具合を低減することが開示されている。しかしながら、線膨張係数が完全に合致した接着層剤の開発には多大な労力が必要であり、さらに、変調器へ適用の際には、汚染源としての影響、熱履歴耐性、機械的強度耐性も克服する必要がある。
光変調素子を形成する基板に不要な応力が加わるのを防ぐため、光変調素子を形成した基板に、該基板と同一素材で形成された基板を接着することが、特許文献3に開示されている。
しかし、特許文献3に記載の、薄い基板(以下、「薄板」という。)と厚い基板(以下、「補強板」という。)とを張り合わせた光変調器においては、温度変化による応力の付与はなくなるが、補強材にも自発分極を有する強誘電体を利用することとなるため、温度変化により基板表面に電荷が発生する、所謂、焦電効果を生じる。しかも、基板の厚みが大きいほど、焦電効果が顕著となるため、薄板と補強板とを張り合わせた光変調器では、むしろ補強板の焦電効果が変調器の温度特性やDCドリフトに与える影響が大きい。
特開昭64−18121号公報 特開2003−215519号公報 特開平4−381913号公報
山根他、「サンドブラスト法によるLN基板加工」、住友大阪セメント・テクニカルレポート2003年版、pp49-54(2003)
本発明が解決しようとする課題は、上述したような問題を解決し、厚みが150μm以下の薄板と、該薄板の裏面に接着された補強板とを含む光変調器において、焦電効果の影響を効果的に除去することにより温度ドリフトやDCドリフトの点で信頼性を一層向上させた光変調器を提供することである。
本発明の参考例としては、電気光学効果を有する材料で形成され、厚みが150μm以下の薄板と、該薄板に形成された光導波路と、該光導波路内を通過する光を変調するための変調電極と、該薄板より厚みの大きい補強板とを含む光変調器において、該補強板には、焦電効果が該薄板より低く、線膨張係数が該薄板と同等である材料を用いたことを特徴とする。
本発明における「線膨張係数が同等」とは、単に薄板の線膨張係数と一致するものだけを意味するのではなく、薄板と補強板とを組合せた際に、両者の線膨張係数差により、温度ドリフトやDCドリフトが発生しても、これらのドリフト量が光変調器を使用する上で問題とならない範囲であるならば、両者の線膨張係数は同等とみなされる。
ニオブ酸リチウムの場合、X軸方向、Y軸方向の線膨張係数が16×10−6/℃であり、Z軸方向5×10−6/℃であることから、例えば、線膨張係数が1〜35×10−6/℃の範囲を同等とみなす場合もあるし、光変調器の種類にも依存するが、DCドリフトなどで変調動作点が初期印加電圧に対して変化する場合に、該変化量が50%以内の時は、両者の線膨張係数はほぼ同等といえる場合もある。
請求項1に係る発明は、電気光学効果を有する材料で形成され、厚みが150μm以下の薄板と、該薄板に形成された光導波路と、該光導波路内を通過する光を変調するための変調電極と、該薄板より厚みの大きい補強板とを含む光変調器において、該薄板と該補強板との間に、該薄板材料と同等の材料で、基板の厚みが略等しく、かつ自発分極の方向が該薄板と互いに相反するように配置された焦電効果低減部を設けたことを特徴とする。
本発明における「薄板材料と同等の材料」とは、薄板材料とほぼ同じ温度変化に対する焦電効果を有し、かつ線膨張係数がほぼ同じ特性を有する材料であり、該材料を使用することにより薄板に生じる焦電効果を低減することが可能な材料を意味する。また、「基板の厚みが略等しい」とは、厚みが同一のものに限らず、仮に基板の厚みが異なっても、焦電効果を低減することが可能な厚みであれば、本発明の技術的範囲に属するものである。
なお、本発明に係る光変調器において、該薄板材料がLN、LT、あるいは両者の固溶体からなり、該補強板は、ブラックLN基板、ブラックLT基板を用いることが好ましいここで「ブラックLN」「ブラックLT」とは、LN基板又はLT基板から酸素の一部を除き、酸素欠陥を多くしたものであり、LN基板やLT基板と比較し、導電性を高くしたものを意味する。
また、本発明に係る光変調器において、該補強板は、分極反転処理により焦電効果を抑制する機構を持つことが好ましい
また、本発明に係る光変調器において、該薄板材料がLN、LT、あるいは両者の固溶体からなり、該補強板は、LN基板あるいはLT基板をキュリー温度以上で熱処理し、マルチドメイン構造を発現させたことが好ましいここで「マルチドメイン構造」とは、自発分極の向きが異なるドメインを多数導入した構造を意味する。
また、本発明に係る光変調器において、該薄板と該焦電効果低減部とは、直接接合法により接合されていることが好ましい
また、本発明に係る光変調器において、該薄板と該焦電効果低減部とは、該薄板より屈折率の低い接着層で接合されていることが好ましい
また、本発明に係る光変調器において、該薄板の裏面にはバッファ層が形成されていることが好ましい
また、本発明に係る光変調器において、該薄板の自発分極軸が主面の法線方向であることが好ましい
本発明の参考例のように、薄板に接着される補強板には、焦電効果が該薄板より低く、線膨張係数が該薄板と同等である材料を用いたため、温度変化に伴う焦電効果の発生を抑制でき、しかも、薄板と補強板との間には、熱膨張差が生じないため、温度変化による応力の誘起が生じず、極めて変調特性の安定した光変調器を提供することができる。
請求項1に係る発明により、薄板と同一の電荷量を持ち、かつ、その極性を異にする焦電効果低減部を配することにより、温度変化によって生じる薄板の電界をキャンセルすることができ、しかも焦電効果低減部は線膨張係数が薄板と同じであるため、温度変化による応力の誘起が生じず、極めて変調特性の安定した光変調器を提供することができる。
また、補強板には、ブラックLN基板又はブラックLT基板を用いることにより、線膨張係数が薄板と同じであるにも拘らず、導電性が薄板より高いため、薄板と補強板との間に熱膨張差が発生せず、しかも補強板における焦電効果の発生も抑制することができる。
また、補強板には、分極反転処理により焦電効果を抑制した基板を用いることにより、分極反転された領域では焦電効果が、分極反転されていない領域とは逆向きに発生し、補強板全体としては焦電効果が抑制されたものとなり、線膨張係数が薄板と同じであるにも拘らず、焦電効果の発生を抑制することが可能となる。
また、補強板は、LN基板又はLT基板をキュリー温度以上で熱処理することにより、複数の分極域が形成され、分極方向が乱れた状態となる基板であるため、補強板全体としては焦電効果が抑制される。しかも、線膨張係数を薄板と同じとすることができる。
また、薄板と焦電効果低減部とは、直接接合法により接合されることにより、機械的強度が強く、また、後の変調器作成プロセスにおいても熱処理温度に対する制約が生じない。
また、薄板と焦電効果低減部とは、該薄板より屈折率の低い接着層で接合されることにより、薄板側から補強板側に光波が漏出するのを防止することが可能となり、強閉じ込めの導波路を形成できる。
また、薄板の裏面にはバッファ層が形成されることにより、薄板側から補強板側に光波が漏出するのを防止することが可能となり、強閉じ込めの導波路を形成できる。
また、薄板の自発分極軸が主面の法線方向である場合には、補強板や焦電効果低減部を薄板の裏面に配置することにより、焦電効果を効果的に低減させた光変調器を提供することが可能となる。
本発明の参考例に係る光変調器の概略図である。 本発明の参考例に係る光変調器に使用される分極反転した補強板を示す図である。 本発明の参考例に係る光変調器であり、薄板の裏面にバッファ層を設けたものを示す図である。
以下、本発明を好適例を用いて詳細に説明する。
本発明の参考例として、電気光学効果を有する材料で形成され、厚みが150μm以下の薄板と、該薄板の表面又は裏面に形成された光導波路と、該薄板の表面に形成され、該光導波路内を通過する光を変調するための変調電極と、該薄板の裏面に接着された補強板とを含む光変調器において、該補強板には、焦電効果が該薄板より低く、線膨張係数が該薄板と同等である材料を用いたことを特徴とする。
図1は、本発明の参考例に係る光変調器の概略図である。電気光学効果を有する材料で形成された薄板1には、図1のように薄板の表面に光導波路4が形成され、併せて、該光導波路4を通過する光波を変調するため、不図示の変調電極(信号電極や接地電極等)が薄板表面に形成されている。なお、光導波路は、薄板の裏面に形成することも可能である。
光導波路の形成方法としては、Tiなどを熱拡散法やプロトン交換法などで基板表面に拡散させることにより形成することができる。また、特許文献3のように薄板1の表面に光導波路の形状に合わせてリッジを形成し、光導波路を構成することも可能である。
信号電極や接地電極などの変調電極は、Ti・Auの電極パターンの形成及び金メッキ方法などにより形成することが可能である。さらに、必要に応じて光導波路形成後の基板表面に誘電体SiO等のバッファ層(不図示)を設け、バッファ層の上に変調電極を形成することも可能である。
電気光学効果を有する材料としては、例えば、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、PLZT(ジルコン酸チタン酸鉛ランタン)、及び石英系の材料及びこれらの組み合わせが利用可能である。特に、電気光学効果の高いニオブ酸リチウム(LN)結晶、タンタル酸リチウム(LT)、あるいはLN及びLTの固溶体が好適に利用される。
基板の厚みとしては、150μm以下が好ましく、その理由は、マイクロ波の伝搬損失を抑制する効果が得られるためである。さらに好ましくは、基板厚さは30μm以下であり、この場合には光波とマイクロ波の速度整合条件が飛躍的に緩和され、広帯域かつ低駆動電圧の光変調器が実現できる。また、基板厚さは10μm以下でもよく、この場合には、(薄板下部に低屈折率層を設けることにより、)より強閉じ込めの導波路を形成可能である。
光変調素子を含む薄板の製造方法は、数百μmの厚さを有する基板に上述した光導波路を形成し、基板の裏面を研磨して、150μm以下の厚みを有する薄板を作成する。その後薄板の表面に変調電極を作り込む。また、光導波路や変調電極などの作り込みを行った後に、基板の裏面を研磨することがも可能である。なお、光導波路形成時の熱的衝撃や各種処理時の薄膜の取り扱いによる機械的衝撃などが加わると、薄板が破損する危険性もあるため、これらの熱的又は機械的衝撃が加わり易い工程は、基板を研磨して薄板化する前に行うことが好ましい。
補強板に求められる重要な要素は、補強板として機能する機械的強度を有しており、焦電効果が該薄板より低く、線膨張係数が該薄板と同等である材料を使用することである。このような条件を満足するため、本発明では、補強板の材料として薄板と同じ材料を選択することで、線膨張係数を薄板と同一とし、さらに、選択した材料に焦電効果を下げる処理を施すことにより、補強板として好適なものを提供することが可能となった。
補強板としては、以下のように、薄板と同様の材料に3種の処理のいずれかを施したものが利用可能である。
(1)基板の酸素欠陥を多くし、導電性を高める処理
具体的には、市販されているLN又はLTを還元雰囲気中で熱処理又はプラズマ処理を行うことにより、基板内の酸素を一部除去することにより製造することが可能である。このような処理により製造された基板は、酸素欠陥を多く含んでおり、導電性も処理前より向上する。通常、このような処理が施された基板は、「ブラック」あるいは「Reduced」と呼ばれている。幾つかのLN,LT供給メーカーからもブラックLN,ブラックLTの名称で主にSAWデバイス用途で市販されており、簡易にはこれらのウエハを使用することも可能である。
(2)分極反転処理により焦電効果を抑制する処理
基板に、高電圧(LNの場合、18kv/mm以上)を局所的に印加し、図2のように、基板5内の分極方向を部分的に反転する領域6を形成する。これにより、分極反転された領域では、分極反転されていない領域とは逆向きに焦電効果が発生し、補強板全体としては焦電効果が抑制されたものとなる。分極反転領域のパターンは、ランダムなパターン又は規則的パターンのいずれでも良いが、分極反転領域又は非分極反転領域のサイズを、光導波路や変調電極と比較し、十分小さな微細パターンとすることが、補強板に発生する焦電効果の影響を薄板に及ぼさないために、特に好ましい。また、薄板に発生する焦電効果を見越して、補強板全体に発生する焦電効果が、該薄板の焦電効果を打ち消すように働くよう、分極反転領域の総面積を調整することも可能である。
具体的には少なくとも一辺が30μm以下で構成される多角形の集合体からなり、隣り合うそれぞれが分極の主軸をそれぞれ異にするもの、あるいは同様に円形の集合体でもよい。また、補強基板としてSLN(stoichometric LN)、SLTを用いれば、分極反転抗電界がともに低いため、より容易に分極反転パターンを形成可能できるだけでなく、屈折率もCLN、CLTよりも低いため、薄板に形成された光導波路のアンダークラッドとしての機能も兼ねることができる。同様にして、Mg,Zn,Scなどの不純物を添加して育成されたLN,LTも好適に利用できる。
(3)基板をキュリー温度以上で熱処理し、分極方向をランダムな状態とする処理
基板をキュリー温度以上で熱処理し、分極方向をランダムな状態とすることで、焦電効果の原因となる自発分極がランダムな状態となり、補強板全体としては焦電効果が抑制される。具体的には、一致溶融組成ニオブ酸リチウム(Congruent LN)の場合には、キュリー温度(約1130℃)以上に基板を加熱する。また、一致溶融組成タンタル酸リチウム(CLT)の場合には、キュリー温度(約690℃)以上に基板を加熱することにより、マルチドメイン化することが可能である。また、熱処理に際し、予めTiなどの金属薄膜を形成し、冷却速度を大きくとると、より効果的にマルチドメイン構造を得られる。
薄板1と補強板3とは、互いの線膨張係数、格子定数、構成物質が等しいため、直接接合法による接着が可能である。直接接合法は、接合面を酸もしくはアルカリ薬剤洗浄し、清浄面同士を適当な加重下にて着け合わせると、水素結合を介して互いが吸着することを利用する。接合力は一般的に、引き続き行われる熱処理にて向上し、300℃以上の温度が好適に用いられる。また、直接接合法は、プラズマクリーニング後に貼りあわせて行うことでも可能であり、この場合は室温下でも実用十分な強度を示す。
薄板1と補強板3とは、接着層2を介して接着することも可能である。接着層として、エポキシ系接着剤、熱硬化型接着剤、紫外線硬化性接着剤、半田ガラス、熱硬化性、光硬化性あるいは光増粘性の樹脂接着剤シートなど、種々の接着材料を使用することが可能である。薄板1の厚さが特に10μm程度の場合には、接着層2の屈折率を薄板のものより低い材料を選択することにより、薄板側から補強板側に光波が漏出するのを防止することが可能となり、強閉じ込め導波路を作製することができる利点がある。
本発明では、薄板1と補強板3とが同一の線膨張係数を有するため、接着層の厚さマージンは、異種材料間を接着する場合と比較して大幅に改善できるが、応力の影響を極少とするためには、その厚さは100μm以下が好ましい。さらに好ましくは、50μm以下である。
また、補強板自身が焦電効果をほとんど持たない場合には、接着層は導電性、絶縁性のいずれの材料種でも使用可能である。
また、図3に示すように薄板1の裏面に、薄板より低誘電率のバッファ層10を形成し、薄板側から補強板側に光波が漏出するのを防止することが可能となり、薄板1の厚さが特に10μm程度の場合には、強閉じ込めの導波路を形成できる。バッファ層は、薄板より低誘電率の誘電体が好ましく、光変調器の技術分野で多用されているSiO膜などが好適に利用することが可能である。
以上の説明では、専ら補強板の焦電効果を抑制する方法を中心に説明したが、次に薄板に生じる焦電効果をキャンセルする方法について説明する。
具体的には、薄板と補強板との間に、該薄板材料と同等の材料で、基板の厚みが等しく、かつ自発分極の方向が該薄板と互いに相反するように配置された焦電効果低減部を設ける。この構成により、薄板と同一の電荷量を持ち、かつ、その極性を異にする焦電効果低減部を配することとなるため、温度変化によって生じる薄板の電界をキャンセルすることができ、しかも焦電効果低減部は線膨張係数が薄板と同じであるため、温度変化による応力の誘起が生じず、極めて変調特性の安定した光変調器を提供することができる。また、自発分極の大きさが異なる材料間においても、基板厚さとの自発分極の積が同等であれば薄板に生じる焦電効果をキャンセルできる。
さらに、上述したように、補強板を分極反転する際に、予め、薄板に発生する焦電効果をキャンセルできるように、分極反転領域を調整することも可能である。
次に、本発明の光変調器に係る具体的な実施例及びその試験について説明する。
薄板の光変調素子は、基板に、厚み500μmのZカット型CLNを使用し、Ti拡散プロセスにより、基板表面に光導波路を形成する。次に、バッファ層として厚み0.6μmのSiO膜を基板表面に形成し、その後、メッキプロセスで高さ30μmの変調電極を形成する。
電極を形成した基板表面に熱可塑性樹脂を塗布し、研磨用ジグに該基板を貼り付け固定する。その後、基板の裏面を、ラップ盤研磨機(キャリア:ガラス繊維入エポキシ樹脂 ラップ剤:GC#1200 20wt%aq)にて、速度35min−1、ラップ圧12.75〜9.81kPaの条件下において基板の厚さがおよそ50μm、あるいは、仕上がり厚みからおよそ20μm厚い状態となるまで粗研磨する。この後、パット材質に不織布、加工液にはコロイダルシリカを用いたメカノケミカルポリッシング(CMP)により設定厚まで精密鏡面研磨を行う。今回、基板の設定厚は10μmとした。
また、次の各手順により、実施例1〜3に使用する補強板と、比較例としての補強板を作成した。
(実施例1:参考例)
実施例1の補強板としては、薄板と同じ基板を使用し、石英チューブ炉内に、該基板を導入し、Hガス中で600℃、10時間に渡り還元処理を行いブラックLNを作製した。ブラックLNの体積抵抗値は1×10〜5×1012Ω・cm程度であり、還元処理前の体積抵抗値1×1014〜5×1015Ω・cm程度より導電性が高くなっている。また、室温から95℃まで温度を上昇させた際の表面電位を測定したところ、未処理LNは3kVであるのに対し、還元処理品は0.05kV以下(測定下限値)であった。さらに、この電荷が中和されるのに要する時間は、クリーンルーム内(室温23℃湿度40%)の自然放置条件下において、還元処理品がおよそ1secであるのに対し、未処理品は1日以上放置しても中和がなされなかった。なお、還元処理は、上述装置を用いて、減圧雰囲気下、350℃、5時間の還元処理、あるいはプラズマ表面改質装置内において、Arイオンプラズマ主体のイオンエッチング処理を0.5時間行うことでも可能であった。
(実施例2:参考例)
実施例2の補強板としては、薄板と同じ基板を使用し、補強基板の+Z表面に最小サイズ5×5μm正方形のモザイクパターンのフォトレジスト絶縁膜をフォトリソグラフィ法を用いて形成後、基板の表面及び裏面から液体電極を介して、22kV/mmの電界を印加し、分極反転を行った。室温から95℃まで温度を上昇させた際の表面電位を測定したところ、分極反転処理前のLNは3kVであるのに対し、還元処理品は0.05kV以下(測定下限値)であった。さらに、この電荷が中和されるのに要する時間は、クリーンルーム内(室温23℃湿度40%)の自然放置条件下において、還元処理品がおよそ1secであるのに対し、未処理品は1日以上放置しても中和がなされなかった。
(実施例3:参考例)
実施例3の補強板としては、薄板と同じ基板を使用し、+Z面にTi膜を100nm形成後、基板を1200℃で2時間、dry雰囲気下で加熱処理を行った。このときの、昇温速度は5℃/min、降温速度は20℃/minである。熱処理の前後で、クロスニコル配置した偏光板の間に該基板挿入し、透過光下で観察したところ、降温速度を昇温速度よりも多くとることで、より多くのマルチドメイン構造が得られることを確認した。
(比較例)
比較例の補強板としては、薄板と同じ基板を使用した。
(試験方法1)
実施例1〜3及び比較例の各補強板について、互いを直接接合法により接着した。
直接接合は、それぞれの基板を界面活性剤、有機溶剤を用い、超音波を付与して洗浄した後、電子工業用グレートのアンモニア水と過酸化水素水の混合薬液中にて5min浸漬し、表面を活性化処理した。超純水を用いてリンスを行った後、乾燥窒素にて表面をブローし、互いの結晶方位をそろえ、光導波路と光変調用の電極とが作りこまれた薄板と、補強基板とを張り合わせた。
各光変調器の焦電効果を評価するため、温度を0〜70℃まで変化させ、光変調器のバイアス点の変動を計測した。25℃における初期バイアスを基準として、各温度でのバイアス点変動量(Δバイアス。単位V)計測結果を、表1に示す。
Figure 0004909433
表1の結果から、比較例と比較し、実施例1乃至3のいずれにおいても、温度ドリフト特性が改善していることが理解される。また、試験中及び試験後においても、実施例1〜3及び比較例のものには、薄板などにクラックなどの機械的損傷は発見できなかった。
(実施例4)
実施例4として光導波路が形成された、厚みが10μmのLN薄板と、同じく厚さが10μmのLN基板を焦電効果低減部として用い、互いに自発分極の向きが相対するようにして、上記直接接合法にて接着した。その後、実施例1の補強板を直接接合法にて接合したのち、電極を配し光変調器を得た。
光変調器の焦電効果を評価するため、温度を0〜70℃まで変化させ、光変調器のバイアス点の変動を計測した。25℃における初期バイアスを基準として、各温度でのバイアス点変動量(Δバイアス。単位V)計測結果を、表2に示す。
Figure 0004909433
実施例1乃至3のいずれと同様に、実施例4についても温度ドリフト特性が改善していることが理解される。また、温度変化後にも、光損失特性や消光比の劣化は見られなかった。
(実施例5:参考例)
次に、実施例5として、接着剤(商品名:アロンセラミックスC、東亜合成社製)を用い、実施例1の補強板を使用して、光変調器を作成した。接着層の厚さは50μmに設定した。伝搬する光波のニアフィールドパターンを比較例と比較したところ、実施例5の場合の方が光波の閉じ込めが強くなっていることを確認した。
(実施例6:参考例)
また、実施例6としては、上記の光変調素子を組み込んだ薄板の裏面に、バッファ層として厚み0.5μmのSiO膜を形成した。そして、実施例5の薄板に実施例1で使用した補強板を、エポキシ系UV硬化型接着剤(商品名:3505−HM、EMI社製)で接着し、図3に示す光変調器を作成した。接着層の厚さは10μmとした。伝搬する光波のニアフィールドパターンを比較例と比較したところ、実施例6の場合の方が光波の閉じ込めが強くなっていることを確認した。
上記実施例1〜6の変調器について長期信頼性試験を実施した。試験は、初期バイアスとして3.5Vを印加し、85℃の条件下で24時間の条件でバイアス点を1時間ごとにモニタリングした。実施例1〜6の全ての変調器は比較例よりも良好な長期信頼性を示した。
また、熱サイクル試験(−20℃から70℃の温度範囲、20サイクル、最高及び最低温度での保持時間30min、昇降温速度3℃/min)、熱衝撃試験(−40℃から85℃の温度範囲、20サイクル、昇降温速度42℃/min)を実施したが、直接接合面の剥離は生じず、また、界面に応力が集中することに起因するバイアス点の変化も見られなかった。
以上説明したように、本発明によれば、厚みが150μm以下の薄板と、該薄板の裏面に接着され、該薄板より厚みの大きい補強板とを含む光変調器において、焦電効果の影響を効果的に除去し、温度ドリフトやDCドリフトの点で信頼性を一層向上させた光変調器を提供することが可能となる。
1 薄板
2 接着剤
3,5 補強板
4 光導波路
6 分極反転領域
10 バッファ層

Claims (1)

  1. 電気光学効果を有する材料で形成され、厚みが150μm以下の薄板と、該薄板に形成された光導波路と、該光導波路内を通過する光を変調するための変調電極と、該薄板より厚みの大きい補強板とを含む光変調器において、
    該薄板と該補強板との間に、該薄板材料と同等の材料で、基板の厚みが略等しく、かつ自発分極の方向が該薄板と互いに相反するように配置された焦電効果低減部を設けたことを特徴とする光変調器。
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