JP4906206B2 - Al−Si系粉末合金材料及びその製造方法 - Google Patents

Al−Si系粉末合金材料及びその製造方法 Download PDF

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規なAl−Si系粉末合金材料及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来技術】
集積度が年々向上するICにおいて、回路を含むサブストレート(基材)から発生する熱を放熱して冷却するために種々の放熱板がその要求性能に応じて選択使用されている。この放熱板に要求される特性は、効率良く発生熱を放散させる高い熱伝導率と、基材と放熱板との熱膨張差を抑えるために低い熱膨張係数とをもつことである。例えば、図1に示すようにICパッケージに使用されている放熱板は銅(Cu)が使用されている。デバイス全体の軽量化の要求に伴い、放熱板の軽量化も求められている。
【0003】
放熱板の軽量化を図る方法として、比重がCuの約1/3のアルミニウムの使用が検討されている。ところが、アルミニウムは、Cuと比べて熱膨張係数が大きく、そのままCuの代替材料として使用することは困難である。
【0004】
また、アルミニウム粉末とSiC粉末の混合粉末の焼結体も提案されている。
しかし、かかる焼結体では、高い寸法精度とサブストレートとの密着性を高めるための表層平坦性の要求に応えるために、焼結体の切削等の機械加工が必要となる。すなわち、SiC相を含む焼結体は、機械加工性が極端に悪いため、生産性の点からみて現実的でない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
このように、Cu材料の代替材料として高熱伝導率・低熱膨張係数を有する新しい材料の開発が待たれているのが現状である。
【0006】
従って、本発明の主な目的は、高い熱伝導率と低い熱膨張係数とを兼ね備え、かつ、より軽量な材料を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定組成のアルミニウム系粉末合金が上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記のAl−Si系粉末合金材料及びその製造方法に係るものである。
【0009】
1.Si:15〜24.7質量%、Mg:0〜0.5質量%、Cu:0〜0.5質量%、Fe:0〜0.3質量%であり、残部がAl及び不可避不純物からなる粉末を固化成形して得られる、25〜200℃における平均熱膨張係数が12〜20ppmであり、かつ、熱伝導率k(W/mK)が下記式:k≧0.0993X −9.0586X+312.27
(ただし、Xは合金材料中のSi含有量(質量%)を示す。)
を満たす、Al−Si系粉末合金材料。
2.前記項1に記載の材料からなる放熱用部材。
3.Si:15〜24.7質量%、Mg:0〜0.5質量%、Cu:0〜0.5質量%、Fe:0〜0.3質量%であり、残部がAl及び不可避不純物からなる粉末を冷間予備成形し、得られた予備成形体を熱間押出した後、冷間鍛造することを特徴とする、25〜200℃における平均熱膨張係数が12〜20ppmであり、かつ、熱伝導率k(W/mK)が下記式:k≧0.0993X −9.0586X+312.27
(ただし、Xは合金材料中のSi含有量(質量%)を示す。)
を満たすAl−Si系粉末合金材料の製造方法。
4.熱間押出に先立って予備成形体を不活性ガス雰囲気中又は真空中450〜575℃で熱処理する前記項3記載の製造方法。
5.前記項3又は4に記載の方法によって製造されるAl−Si系粉末合金材料。
【0017】
【発明の実施の形態】
1.Al−Si系粉末合金材料
本発明のAl−Si系粉末合金材料は、Si:15〜50質量%、Mg:0〜0.5質量%、Cu:0〜0.5質量%、Fe:0〜0.3質量%であり、残部が実質的にAlからなる粉末(以下「本発明粉末」ともいう。)を固化成形して得られるものである。各成分及び特性について説明する。
(1)Si
Siは、通常15〜50質量%程度、好ましくは20〜40質量%とする。Siが15質量%未満の場合は、熱膨張係数が高くなりすぎることがある。また、Siが50質量%を超える場合は、加工性が低下するとともに、所望の熱伝導性が得られなくなるおそれがある。
(2)Mg、Cu及びFe
Mg、Cu及びFeは、Mg:0〜0.5質量%(好ましくは0〜0.3質量%)、Cu:0〜0.5質量%(好ましくは0〜0.3質量%)、Fe:0〜0.3質量%(好ましくは0〜0.2質量%)である。これらの範囲に設定することによって、優れた熱伝導性及び冷間鍛造性を付与することができる。また、パッケージとしての耐腐食性も向上させることができる。Mg、Cu又はFeは、含有量が0質量%の場合も本発明に包含されるが、一般的に下限値はいずれも1質量ppm程度である。
(3)Al
前記(1)及び(2)の成分のほか、残部が実質的にAlからなる。また、その他の成分として、不可避不純物が含まれていても良い。
(4)熱膨張係数及び熱伝導率
本発明材料は、熱膨張係数が25〜200℃の間で平均12〜20ppm程度、特に14〜19ppmの範囲にあることが望ましい。この範囲内に設定すれば、熱膨張が効果的に抑制できる結果、例えばプラスチック製のサブストレートとの接合状態をより効果的に維持することができる。
【0018】
本発明材料は、熱伝導率k(W/mK)が下記式:
k≧0.0993−9.0586X+312.27
(ただし、Xは合金材料中のSi含有量(質量%)を示す。)
を満たすことが望ましい。
【0019】
上記の式は、放熱板として許容できる熱膨張係数及び熱伝導率との関係を示す。すなわち、本発明材料では、熱膨張係数を低く抑えるためにはできるだけSi含有量を多くすれば良いが、それだけ熱伝導率が下がることになる。このため、放熱板として使用するためには、Si含有量と熱伝導率の関係を求め、放熱板としてより好適に使用できる範囲を規定したのが上記式である。これを図示すると図2のような曲線となる。熱膨張係数はSiの含有量でほぼ決まることから、例えば所望の熱膨張係数を得るためにSi含有量を25質量%と設定した場合において、曲線よりも下側の熱伝導率をもつ材料よりも、曲線よりも上側の熱伝導率をもつ材料が放熱板としてより有効であることが示される。一定のSi含有量で熱伝導率を制御する方法としては、例えば製造条件、Mg、Cu又はFeの含有量等の調整により適宜実施することができる。
【0020】
本発明のAl−Si系粉末材料は、高い熱伝導率、低い熱膨張係数等を有し、また比較的軽量であることから、これらの特性が活かされる各用途に使用することができる。特に、放熱用部材(アルミニウム基軽量放熱板)として有効である。例えば、電子機器放熱用部材(放熱板)として好適に用いることができる。とりわけ、プラスチックスに接触又は接合して使用される放熱用部材として最適である。なお、放熱板として使用する場合には、公知の放熱板と同様の方法で使用することができる。
2.Al−Si系粉末合金材料の製造方法
本発明材料は、原料として本発明粉末を使用するほかは、公知の粉末合金の製法に従って固化成形して製造することができる。特に、本発明材料は、Si:15〜50質量%、Mg:0〜0.5質量%、Cu:0〜0.5質量%、Fe:0〜0.3質量%であり、残部が実質的にAlからなる粉末を冷間予備成形し、得られた予備成形体を熱間押出した後、冷間鍛造することを特徴とする方法によって好適に得ることができる。
【0021】
本発明粉末は、上記の組成を有している限り、どのような形態をとることもできる。すなわち、各成分の単体金属の粉末を含むものであっても良いし、あるいは各成分のいずれかを含む合金粉末を含むものであっても良い。
【0022】
また、本発明粉末は、いずれの調製方法に得られるものも使用することができる。例えば、空気、窒素、アルゴン等を噴霧媒とするガスアトマイズ法、回転円盤法等の公知の方法により製造された粉末を好適に使用できる。
【0023】
本発明粉末の粒度は限定的でないが、通常は目開き355μmのスクリーンを通過したもの、好ましくは目開き150μmのスクリーンを通過したものが使用できる。この粒度範囲内に設定すれば、より優れた冷間鍛造性等を達成することができる。
【0024】
本発明粉末は、予備成形することが好ましい。予備成形は、公知の合金粉末の冷間での成形法に従えば良い。例えば、プレス法、CIP法等を採用することができる。予備成形の成形圧は、本発明粉末の組成、所望の合金特性等に応じて適宜設定すれば良い。
【0025】
上記で得られた予備成形体は、熱処理することが好ましい。熱処理することによって、粉末表面に吸着した水分を除去し、押出後のブリスターの発生をより効果的に抑制するとともに、押出後の成形体の熱伝導性をいっそう高めることができる。さらに、押出後の成形体強度をある程度抑える一方で伸びを高めることができる。熱処理条件は、一般に窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気中又は真空中(通常1torr以下の真空中)450〜575℃で30分〜10時間程度とすれば良い。
【0026】
次いで、熱間押出を行う。熱間押出の方法(操作条件)は、公知の熱間押出方法に従って実施することができる。熱間押出の温度は通常400〜500℃程度に設定すれば良い。
【0027】
また、熱間押出する場合、金型前方に金属板(例えば、純アルミニウム系、A5000系Al−Mg合金等)を押出材料である上記成形体の前に配置することが好ましい。これにより、押出材表面に金属板組成の薄い皮膜を形成することができ、Al−Si材料が最表面にある場合に起こり得るSiとAlの界面における経時的な孔食又は全面腐食をより確実に防止することができる。
【0028】
熱間押出された成形体は、所望の形状を付与するために冷間鍛造を行う。本発明では、必要に応じて、冷間鍛造に先立って、成形体の熱処理を実施しても良い。熱処理によって冷間鍛造性をより高めることができる。熱処理条件は、通常200〜400℃程度で0.5〜2時間程度とすれば良い。
【0029】
【発明の効果】
本発明によれば、高い熱伝導率と低い熱膨張係数とを兼ね備えた軽量な材料を提供することができる。また、冷間鍛造性にも優れており、最終製品の平坦性、寸法安定性等にも優れた効果を発揮できる。
【0030】
本発明のAl−Si系粉末合金材料は、これらの特性が要求される箇所・部位に使用することができる。特に、放熱性に優れており、放熱用部材として好適に使用できる。例えば、電子機器放熱用部材、電機製品の放熱用部材、自動車の放熱部材等として好適に用いることができる。電子機器放熱用部材として用いる場合、コンピューターのCPU、MPU等からの発生熱を効率的に放散することができる。特に、本発明の材料は、プラスチックス等の有機質材料を材質とするサブストレートと接触又は接合して使用される電子機器放熱用部材として好適である。
【0031】
【実施例】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴を一層明確にする。但し、本発明の範囲は、実施例の態様に制限されない。
【0032】
実施例1
空気アトマイズ法により、表1に示す成分1〜10を有するアルミニウム合金粉末を調製し、355μmの目開きの篩を通過させた。得られた粉末100gを面圧2トン/cm2で冷間静水圧形成することにより、丸棒(直径約30mm×長さ約70mm)を得た。この丸棒を熱間押出用ビレットとして使用した。
【0033】
上記ビレットを10−2torrの真空中570℃×2時間の熱処理に供した後、真空炉内で200℃まで冷却してから炉外に取り出した。次いで、このビレットを空気雰囲気の炉に入れ、400℃まで昇温し、その温度で0.5時間保持した。次に、ビレットを最大荷重100トンの押出機のコンテナ(内径32mm)に挿入し、押出成形によって直径10mmの丸棒(熱膨張係数及び熱伝導率測定用試験体)及び2mm×20mmのフラットバー(冷間鍛造試験用試験体)を作製した。
【0034】
各試験体を用いて、熱膨張係数及び熱伝導率の測定ならびに冷間鍛造試験を実施した。その結果を表1に示す。なお、各試験方法はそれぞれ下記の要領で実施した。
(1)熱膨張係数及び熱伝導率
熱膨張係数(平均熱膨張係数)は、JIS/R1618−1994に規定された方法に従って測定した。熱伝導率(熱伝導度)は、JIS/R1611−1991に規定された方法に従って測定した。
(2)冷間鍛造試験
冷間鍛造性の評価を文献「塑性と加工 vol.22,no.241(1981−2)」(塑性加工学会 冷間鍛造分科会)の「金属材料の冷間据込み性試験方法」に従い、試験体側面にクラックが出始める「限界据込み率」を求めることによって実施した。鍛造サンプルは、直径8.5mm、高さ10.5mmの円柱状材料を用いた。鍛造条件は、鍛造速度:20mm/秒、温度:室温とした。鍛造試験後、目視によりクラックの有無を確認し、クラックがない最大の据込み率を「限界据込み率」とし、これが40%以上のものを「○」、30%以上のものを「△」、30%未満のものを「×」とした。
【0035】
【表1】
Figure 0004906206
【0036】
表1の結果からも明らかなように、Si量が15質量%未満では熱膨張係数が高すぎ、また50質量%を超えると熱伝導率が低くなるとともに冷間鍛造性が悪くなる。また、Feが0.3質量%を超えたり、Cu又はMgが0.5質量%を超えると熱伝導率が大幅に低下するとともに冷間鍛造性も低くなる。これらに対し、本発明品(成分3〜6)は、熱膨張係数が16〜20ppmと低く、熱伝導率が120〜215W/mKと高い水準を維持できることがわかる。これにより、軽量な放熱用部材として有効であることが明らかである。
【0037】
実施例2
表1の成分3〜6を用い、実施例1と同様にして熱間押出用ビレットを作製した。このビレットを用い、表2に示す熱処理条件及び押出温度としたほかは、実施例1と同様にして2種類の試験体(サンプル1〜13)を作製した。押出温度での保持時間はいずれも0.5時間とした。得られた試験体について、実施例1と同様に熱膨張係数及び熱伝導率の測定ならびに冷間鍛造試験を実施した。その結果を表2に示す。また、Si含有量と熱伝導率との関係を上記式による曲線とともに図2に示す。
【0038】
【表2】
Figure 0004906206
【0039】
表2及び図2の結果からも明らかなように、Si含有量が同じであれば熱処理条件による熱膨張係数の差はあまり認められなかった。一方、熱伝導率は、高温・長時間の処理により上昇することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【図1】放熱板(Cu)が設置されたICパッケージの概略断面図である。
【図2】Si含有量と熱伝導率との関係を示す曲線である。

Claims (5)

  1. Si:15〜24.7質量%、Mg:0〜0.5質量%、Cu:0〜0.5質量%、Fe:0〜0.3質量%であり、残部がAl及び不可避不純物からなる粉末を固化成形して得られる、25〜200℃における平均熱膨張係数が12〜20ppmであり、かつ、熱伝導率k(W/mK)が下記式:k≧0.0993X −9.0586X+312.27
    (ただし、Xは合金材料中のSi含有量(質量%)を示す。)
    を満たす、Al−Si系粉末合金材料。
  2. 請求項1に記載の材料からなる放熱用部材。
  3. Si:15〜24.7質量%、Mg:0〜0.5質量%、Cu:0〜0.5質量%、Fe:0〜0.3質量%であり、残部がAl及び不可避不純物からなる粉末を冷間予備成形し、得られた予備成形体を熱間押出した後、冷間鍛造することを特徴とする、25〜200℃における平均熱膨張係数が12〜20ppmであり、かつ、熱伝導率k(W/mK)が下記式:k≧0.0993X −9.0586X+312.27
    (ただし、Xは合金材料中のSi含有量(質量%)を示す。)
    を満たすAl−Si系粉末合金材料の製造方法。
  4. 熱間押出に先立って予備成形体を不活性ガス雰囲気中又は真空中450〜575℃で熱処理する請求項記載の製造方法。
  5. 請求項又はに記載の方法によって製造されるAl−Si系粉末合金材料。
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