本発明は、シクロデキストリン誘導体、シクロデキストリン誘導体の製造方法、及びクオラムセンシングの阻害方法に関する。
クオラムセンシング(Quorum Sensing)とは、単細胞微生物であるバクテリアが、自らの細胞密度を感知して遺伝子の発現をコントロールする機構のことをいう。Quorumとは、法律用語で「定足数」を意味し、より具体的には、クオラムセンシングで、バクテリアが増殖して定足数を超えたところで、一斉に遺伝子の発現を活性化するシステムのことをいう。
クオラムセンシングでは、バクテリアはオートインデューサーと呼ばれる化学物質を介して周囲の菌体密度を感知し、菌体密度がある一定値を超えたことを感知すると、様々な遺伝子の転写・発現が活性化される。例えば、バクテリアのうち、グラム陰性細菌は、N−アシル−L−ホモセリンラクトン(N−acyl−L−homoserine lactone、以下単にAHLという場合がある。)をオートインデューサーとして使っており、クオラムセンシングは病原性因子の発現を誘導する場合が多い。
このように、バクテリアは、クオラムセンシングにより病原性発現を誘導する場合が多い。このため、病原性を抑制するためには、AHLを系から排除してバクテリア相互が互いを感知できないようにすることによって、クオラムセンシングを阻害することが有効な手段となる。そして、AHLをトラップすることができる物質として、天然に存在するグルコースが環状に結合した環状オリゴ糖たるシクロデキストリン(以下、単にCDという場合がある。)が有望視されている。天然に存在するシクロデキストリンとしては、6、7、8個のグルコースからなるCDを挙げることができ、それぞれα−CD、β−CD、γ−CDを呼ばれている。
非特許文献1で使用されているα−CD、β−CD、γ−CDの固定化ゲルによるAHLのトラップも一定の成果を得ることができるものの、現状においてはα−CD、β−CD、γ−CDはAHLに対する選択性が低く、病原性抑制効果を得るためには高濃度のCDを用いなければならないという課題がある。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、AHLのようなオートインデューサーを、高い選択率でトラップできるシクロデキストリン誘導体及びその製造方法を提供することにある。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その他の目的は、AHLのようなオートインデューサーを、再現性よく、高い選択率でトラップできるクオラムセンシングの阻害方法を提供することにある。
上記目的の下、本発明者等が鋭意検討を行った結果、CDを所定の置換基で修飾することにより、AHLのようなオートインデューサーを再現性よく、かつ選択的にトラップできることを見出し、本発明を完成させた。
上記課題を解決するための本発明のシクロデキストリン誘導体は、クオラムセンシングを阻害するために用いられ、下記一般式(1)で表されることを特徴とする。
(一般式(1)中、CDZはシクロデキストリン残基を表し、該シクロデキストリン残基がα−シクロデキストリンの残基である場合にはn=1〜18、β−シクロデキストリンの残基である場合にはn=1〜21、γ−シクロデキストリンの残基である場合にはn=1〜24の整数であり、X1は、−NH−、−O−、−S−、−CH2−、−(C=O)O−、−(C=S)O−、−(C=O)S−、−O(C=O)−、−S(C=O)−、−O(C=S)−、−NR2(C=O)−、−NR2(C=S)−、−(C=O)−、−(C=S)−、−(C=O)NR2−、及び−(C=S)NR2−のいずれかであって、R1、R2は、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有していてもアミノ基、置換基を有していてもよいエーテル結合を有する基、及び置換基を有していてもよいチオエーテル結合を有する基のいずれかを表す。)
この発明によれば、クオラムセンシングを阻害するために、上記一般式(1)で表されるシクロデキストリン誘導体を用いるので、分子間疎水性相互作用が発揮され、その結果、AHLのようなオートインデューサーを、再現性よく、高い選択率でトラップできるシクロデキストリン誘導体を提供することができる。
本発明のシクロデキストリン誘導体の好ましい態様においては、前記一般式(1)中の、X1が−NH−、R1が炭素数7以上のアルキル基である。
この発明によれば、一般式(1)中の、X1が−NH−、R1が炭素数7以上のアルキル基であるので、置換基が長鎖のアルキルアミノ基となって、その結果、トラップの選択性がさらに向上しやすくなる。
上記課題を解決するための本発明のシクロデキストリン誘導体の製造方法は、本発明のシクロデキストリン誘導体の製造方法であって、前記シクロデキストリン誘導体の前駆体を得る第1合成工程と、前記前駆体から前記シクロデキストリン誘導体を得る第2合成工程と、を有することを特徴とする。
この発明によれば、シクロデキストリン誘導体の前駆体を得る第1合成工程と、前駆体からシクロデキストリン誘導体を得る第2合成工程と、を有するので、工業的に実用性の高い方法でシクロデキストリン誘導体を製造することができ、その結果、AHLのようなオートインデューサーを、再現性よく、高い選択率でトラップできるシクロデキストリン誘導体の製造方法を提供することができる。なお、クオラムセンシングの阻害をターゲットとして病原性を抑制する技術についての報告はあるが、こうしたものは遺伝子組み換えを伴うものであり、実用化には大きなハードルが存在する。本発明は、工業的に実用性の高い手法を採用することにより、実用化へのハードルが低く、非常に高い優位性が存在する。
本発明のシクロデキストリン誘導体の製造方法の好ましい態様においては、前記第1合成工程が、トシル化することによりシクロデキストリン誘導体の前駆体を得る工程である。
この発明によれば、第1合成工程が、トシル化することによりシクロデキストリン誘導体の前駆体を得る工程であるので、工業的に汎用性の高い方法で前駆体を得ることができるようになり、その結果、より実用性の高いシクロデキストリン誘導体の製造方法を提供することができる。
上記課題を解決するための本発明のクオラムセンシングの阻害方法は、バクテリア中に本発明のシクロデキストリン誘導体を存在させることによってクオラムセンシングを阻害することを特徴とする。
この発明によれば、バクテリア中にシクロデキストリン誘導体を存在させることによって、シクロデキストリン誘導体がクオラムセンシングを阻害するので、その結果、AHLのようなオートインデューサーを、再現性よく、高い選択率でトラップできるクオラムセンシングの阻害方法を提供することができる。
本発明のクオラムセンシングの阻害方法の好ましい態様においては、前記クオラムセンシングの阻害が、前記シクロデキストリン誘導体がオートインデューサーをトラップすることによって行われる。
この発明によれば、クオラムセンシングの阻害が、シクロデキストリン誘導体がオートインデューサーをトラップすることによって行われるので、オートインデューサーのトラップが高い効率で行われるようになり、その結果、AHLのようなオートインデューサーのトラップの選択率を向上させやすくなる。
本発明のクオラムセンシングの阻害方法の好ましい態様においては、前記バクテリアがグラム陰性細菌であり、前記オートインデューサーがN−アシル−L−ホモセリンラクトンである。
この発明によれば、バクテリアがグラム陰性細菌であり、オートインデューサーがN−アシル−L−ホモセリンラクトンであるので、オートインデューサーのトラップがさらに高い効率で行われるようになり、その結果、本発明のクオラムセンシングの阻害方法を適用する意義が大きくなる。
本発明によれば、AHLのようなオートインデューサーを、再現性よく、高い選択率でトラップできるシクロデキストリン誘導体を提供することができる。
本発明によれば、AHLのようなオートインデューサーを、再現性よく、高い選択率でトラップできるシクロデキストリン誘導体の製造方法を提供することができる。
本発明によれば、AHLのようなオートインデューサーを、再現性よく、高い選択率でトラップできるクオラムセンシングの阻害方法を提供することができる。
次に、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
(シクロデキストリン誘導体)
本発明のシクロデキストリン誘導体は、クオラムセンシングを阻害するために用いられ、下記一般式(1)で表される。
(一般式(1)中、CDZはシクロデキストリン残基を表し、該シクロデキストリン残基がα−シクロデキストリンの残基である場合にはn=1〜18、β−シクロデキストリンの残基である場合にはn=1〜21、γ−シクロデキストリンの残基である場合にはn=1〜24の整数であり、X1は、−NH−、−O−、−S−、−CH2−、−(C=O)O−、−(C=S)O−、−(C=O)S−、−O(C=O)−、−S(C=O)−、−O(C=S)−、−NR2(C=O)−、−NR2(C=S)−、−(C=O)−、−(C=S)−、−(C=O)NR2−、及び−(C=S)NR2−のいずれかであって、R1、R2は、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有していてもアミノ基、置換基を有していてもよいエーテル結合を有する基、及び置換基を有していてもよいチオエーテル結合を有する基のいずれかを表す。)
本発明においては、一般式(1)に示すシクロデキストリン誘導体を用いるので、分子間疎水性相互作用が発揮され、その結果、AHLのようなオートインデューサーを、再現性よく、高い選択率でトラップできるシクロデキストリン誘導体を提供することができる。
一般式(1)中、CDZはシクロデキストリン残基を表し、より具体的には、α−シクロデキストリン(α−CD)、β−シクロデキストリン(β−CD)、及びγシクロデキストリン(γ−CD)のいずれかの残基である。ここで、シクロデキストリン残基とは、シクロデキストリンから水酸基(OH)が所定の個数引き抜かれることによって形成される所定の価数を有する基をいう。
シクロデキストリンは、天然に存在するグルコースが環状に結合した環状オリゴ糖である。6、7、8個のグルコースからなるCDをそれぞれα−、β−、γ−CDと呼ぶ。シクロデキストリンの分子全体は親水性、空孔内は疎水性という構造を有していることから、水溶液中で様々な有機化合物を空孔内に取り込み複合体を形成する性質を持っている。ゲスト化合物の大きさがCDの空孔の大きさに適合すればするほど、複合体を形成しやすい。そのため、シクロデキストリンは代表的なホスト分子として知られている。その特徴を活かして、シクロデキストリンに適当な長さのスペーサーを介して色素を導入する分子認識センサーや分子指示薬などに用いられている。以下に、α−CD、β−CD、γ−CDの分子構造を示す。
図1は、シクロデキストリンの立体構造を示す模式的斜視図である。シクロデキストリンは平面的には上記構造を有するが、立体的には図1に示すとおり、カップ状の構造を有する。そして、上述のとおり、空孔内は疎水性、分子全体は親水性を有するので、ゲスト化合物たるオートインデューサーを内部に捕捉することができる。
置換基たる−X1−R1は、シクロデキストリンを構成する各グルコースが有する水酸基を置換して結合している。一般式(1)中、シクロデキストリン残基(CDZ)がα−シクロデキストリン(α−CD)の残基である場合にはn=1〜18の整数であるが、好ましくはn=1〜15、より好ましくはn=1〜12、さらに好ましくはn=1〜6、特に好ましくはn=1〜3、最も好ましくはn=1である。一般式(1)中、シクロデキストリン残基(CDZ)がβ−シクロデキストリン(β−CD)の残基である場合にはn=1〜21の整数であるが、好ましくはn=1〜18、より好ましくはn=1〜15、さらに好ましくはn=1〜12、特に好ましくはn=1〜6、さらに特に好ましくはn=1〜3、最も好ましくはn=1である。一般式(1)中、シクロデキストリン残基(CDZ)がγ−シクロデキストリン(γ−CD)の残基である場合にはn=1〜24の整数であるが、好ましくはn=1〜20、より好ましくはn=1〜15、さらに好ましくはn=1〜12、特に好ましくはn=1〜6、さらに特に好ましくはn=1〜3、最も好ましくはn=1又は2である。したがって、シクロデキストリン残基の種類に応じて、所定の数の置換基たる−X1−R1が、シクロデキストリン構造部分(シクロデキストリン残基)に結合していることになる。
置換基たる−X1−R1の置換位置は任意である。例えば、一般式(1)中のCDZがα−CDの1価の残基でn=1の場合、置換基の置換可能な位置は18カ所ある。またn=2の場合、置換可能な18カ所のうちの任意の2カ所に2つの置換基がそれぞれ結合することができる。n=3の場合、置換可能な18カ所のうちの任意の3カ所に3つの置換基がそれぞれ結合することができる。以下、nの数が多くなっても同様である。また、CDZがβ−CD(置換可能な位置21カ所)である場合やγ−CD(置換可能な位置24カ所)である場合も同様である。
シクロデキストリン構造部分(シクロデキストリン残基)がα−CDの1価の残基、n=1の場合におけるシクロデキストリン誘導体の一例を以下に示す。
また、シクロデキストリン構造部分(シクロデキストリン残基)がγ−CDの2価の残基、n=2の場合におけるシクロデキストリン誘導体の一例を以下に示す。
上述のとおり、シクロデキストリン構造部分(シクロデキストリン残基)と、置換基の個数との組み合わせと、によって置換位置は様々考えられるので、本発明のシクロデキストリン誘導体は種々の構造式を想定することができる。このため、本発明においては、説明の便宜のために、一般式(1)のように、シクロデキストリン構造部分(シクロデキストリン残基)を「CDZ」とし、これにn個の置換基「−X1−R1」が結合しているという表記にしている。
また、本発明においては、説明の便宜から、図1に示すシクロデキストリンの立体構造を利用して、シクロデキストリン誘導体を下記一般式(2)のように表すこともできる。
一般式(1),(2)中、X1は、−NH−、−O−、−S−、−CH2−、−(C=O)O−、−(C=S)O−、−(C=O)S−、−O(C=O)−、−S(C=O)−、−O(C=S)−、−NR2(C=O)−、−NR2(C=S)−、−(C=O)−、−(C=S)−、−(C=O)NR2−、及び−(C=S)NR2−のいずれかである。これらのうち、オートインデューサーをより選択的にトラップしやすくする観点から、X1は、−NH−、又は−O−のいずれかであることが好ましく、−NH−であることがより好ましい。
一般式(1),(2)中、R1,R2は、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有していてもアミノ基、置換基を有していてもよいエーテル結合を有する基、及び置換基を有していてもよいチオエーテル結合を有する基のいずれかを表す。
置換基を有してもよいアルキル基は、アルキル基と置換基を有するアルキル基とにわけることができるが、これらに用いるアルキル基は、直鎖又は分岐のいずれであってもよく、炭素数が、通常1以上、好ましくは3以上、より好ましくは7以上、通常20以下、好ましくは15以下、より好ましくは12以下とする。この範囲とすれば、よりオートインデューサーを選択的にトラップしやすくなるとともに、再現性もより確保しやすくなる。特に、炭素数を7以上とすることにより、クオラムセンシングの阻害能を大きく改善できるようになる。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、及びドデシル基等を挙げることができる。
アルキル基に用いることができる置換基は特に制限されず、例えば、水酸基;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等の炭素数1〜10のアルコキシ基;メトキシメトキシ基、エトキシメトキシ基、プロポキシメトキシ基、エトキシエトキシ基、プロポキシエトキシ基、メトキシブトキシ基等の炭素数2〜12のアルコキシアルコキシ基;メトキシメトキシメトキシ基、メトキシメトキシエトキシ基、メトキシエトキシメトキシ基、メトキシエトキシエトキシ基、エトキシエトキシメトキシ基等の炭素数3〜15のアルコキシアルコキシアルコキシ基;フェニル基、トリル基、キシリル基等の炭素数6〜12のアリール基(これらは任意の置換基で更に置換されていてもよい。);フェノキシ基、トリルオキシ基、キシリルオキシ基、ナフチルオキシ基等の炭素数6〜12のアリールオキシ基;アリルオキシ基、ビニルオキシ基等の炭素数2〜12のアルケニルオキシ基等を挙げることができる。
更に、他の置換基として、例えば、2−チエニル基、2−ピリジル基、4−ピペリジル基、モルホリノ基等の複素環基;シアノ基;ニトロ基;ヒドロキシル基;アミノ基;N,N−ジメチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基等の炭素数1〜10のアルキルアミノ基;メチルスルホニルアミノ基、エチルスルホニルアミノ基、n−プロピルスルホニルアミノ基等の炭素数1〜6のアルキルスルホニルアミノ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;カルボキシル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル等の炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基;メチルカルボニルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、n−プロピルカルボニルオキシ基、イソプロピルカルボニルオキシ基、n−ブチルカルボニルオキシ基等の炭素数2〜7のアルキルカルボニルオキシ基;メトキシカルボニルオキシ基、エトキシカルボニルオキシ基、n−プロポキシカルボニルオキシ基、イソプロポキシカルボニルオキシ基、n−ブトキシカルボニルオキシ基等の炭素数2〜7のアルコキシカルボニルオキシ基等を挙げることもできる。
これら置換基のうち、工業的な観点から、水酸基、炭素数6〜12のアリール基を用いることが好ましく、水酸基、フェニル基であることがより好ましい。
置換基を有してもよいアルコキシ基は、アルコキシ基と置換基を有するアルコキシ基とにわけることができるが、これらに用いられるアルコキシ基は、直鎖又は分岐のいずれであってもよく、炭素数が、通常1以上、通常20以下、好ましくは15以下とする。この範囲とすれば、よりオートインデューサーを選択的にトラップしやすくなるとともに、再現性もより確保しやすくなる。アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等を挙げることができる。これらのうち、工業的な合成のしやすさからは、好ましくはイソプロポキシ基を挙げることができる。
アルコキシ基に用いることができる置換基は特に制限されず、上記アルキル基に用いることができる置換基から適宜選択することができる。
置換基を有していてもアミノ基としては、特に制限はないが、−R3−NH−R4−OH(R3,R4は、直鎖のアルキル基である。)の構造を有することが好ましい。直鎖アルキルたるR3,R4の炭素数は、通常1以上、また、通常5以下、好ましくは3以下、より好ましくは2以下とする。この範囲とすれば、よりオートインデューサーを選択的にトラップしやすくなるとともに、再現性もより確保しやすくなる。
アミノ基に用いることができる置換基は特に制限されず、上記のものの他、上記アルキル基に用いることができる置換基から適宜選択することができる。
置換基を有していてもよいエーテル結合を有する基としては、特に制限はないが、−R5−O−R6−OH(R5,R6は、直鎖のアルキル基である。)の構造を有することが好ましい。直鎖アルキルたるR5,R6の炭素数は、通常1以上、また、通常5以下、好ましくは3以下、より好ましくは2以下とする。この範囲とすれば、よりオートインデューサーを選択的にトラップしやすくなるとともに、再現性もより確保しやすくなる。
エーテル結合を有する基に用いることができる置換基は特に制限されず、上記のものの他、上記アルキル基に用いることができる置換基から適宜選択することができる。
置換基を有していてもよいチオエーテル結合を有する基としては、特に制限はないが、−R7−S−R8−OH(R7,R8は、直鎖のアルキル基である。)の構造を有することが好ましい。直鎖アルキルたるR7,R8の炭素数は、通常1以上、また、通常5以下、好ましくは3以下、より好ましくは2以下とする。この範囲とすれば、よりオートインデューサーを選択的にトラップしやすくなるとともに、再現性もより確保しやすくなる。
チオエーテル結合を有する基に用いることができる置換基は特に制限されず、上記のものの他、上記アルキル基から適宜選択することができる。
一般式(1),(2)中、X1が−NH−、R1が炭素数7以上のアルキル基であることが特に好ましい。これにより、置換基が長鎖のアルキルアミノ基となって、その結果、トラップの選択性がさらに向上しやすくなる。
一般式(1),(2)で表される本発明のシクロデキストリン誘導体の好ましい具体例(n=1)を以下に示す。但し、本発明のシクロデキストリン誘導体は下記具体例に限定されるものではない。また、各具体例の右隣には、それぞれの化合物の便宜的な名称を記載してある。なお、下記具体例中、シクロデキストリン残基はβ−CD残基を表している。また、下記具体例中、「Ph」はフェニル基を表す。
(シクロデキストリン誘導体の製造方法)
本発明のシクロデキストリン誘導体の製造方法は、上記シクロデキストリン誘導体の製造方法であって、シクロデキストリン誘導体の前駆体を得る第1合成工程と、前駆体からシクロデキストリン誘導体を得る第2合成工程と、を有する。これにより、工業的に実用性の高い方法でシクロデキストリン誘導体を製造することができ、その結果、AHLのようなオートインデューサーを、再現性よく、高い選択率でトラップできるシクロデキストリン誘導体の製造方法を提供することができる。
第1合成工程では、シクロデキストリン誘導体の前駆体を得る。シクロデキストリン誘導体の前駆体は、第2合成工程で所望のシクロデキストリン誘導体を得ることができるものであれば特に制限はない。また、その合成方法も適切な方法を適宜用いればよいが、好ましくは、第1合成工程を、トシル化することによりシクロデキストリン誘導体の前駆体を得る工程とする。これにより、工業的に汎用性の高い方法で前駆体を得ることができるようになり、その結果、より実用性の高いシクロデキストリン誘導体の製造方法を提供することができる。
トシル化は、通常、シクロデキストリンを構成するグルコースに結合した水酸基の水素をトシル基で置換することによって行う。例えば、塩化トシル(塩化パラトルエンスルホニル:TsCl)を用いて以下の反応で前駆体たるトシル化されたシクロデキストリンの誘導体を得ることができる。なお、以下の反応は、シクロデキストリンにβ−CDを用いた例である。
第2合成工程では、前駆体からシクロデキストリン誘導体を得る。具体的には、所定の反応を用いてトシル基を本発明に用いる所望の置換基に置換すればよい。こうした方法は、所望の反応が行える方法を適宜用いることができる。
(クオラムセンシングの阻害方法)
本発明のクオラムセンシングの阻害方法は、バクテリア中に本発明のシクロデキストリン誘導体を存在させることによって行う。これにより、シクロデキストリン誘導体がクオラムセンシングを阻害するので、その結果、AHLのようなオートインデューサーを、再現性よく、高い選択率でトラップできるクオラムセンシングの阻害方法を提供することができる。
クオラムセンシングの阻害は、通常、シクロデキストリン誘導体がオートインデューサーをトラップすることによって行われる。これにより、オートインデューサーのトラップが高い効率で行われるようになり、その結果、AHLのようなオートインデューサーのトラップの選択率を向上させやすくなる。
そして、本発明のクオラムセンシングの阻害方法においては、バクテリアがグラム陰性細菌であり、オートインデューサーがAHLであることが好ましい。これにより、オートインデューサーのトラップがさらに高い効率で行われるようになり、その結果、本発明のクオラムセンシングの阻害方法を適用する意義が大きくなる。
バクテリアとしてグラム陰性細菌を用いる場合、セラチア菌を用いることが好ましい。セラチア菌は、腸内細菌科に属するグラム陰性の桿菌であり、水や土中など自然界に広く存在するものである。セラチア菌は、一般的に病原性は弱く、健康な人ではほとんど問題にならない菌である。しかしながら、感染防御能力が低下している人が感染すると、おもに尿路系(腎臓、尿管、膀胱など)や呼吸器系(気管支、肺など)などが侵され、腎炎、肺炎などを来たし、腎不全、呼吸不全へと重症化する場合がある。また、最近は多くの抗生物質に耐性を示すセラチア菌も出現している。
セラチア菌は、室温で培養すると鮮やかな赤色色素(Prodigiosin)を生産することが知られている。このため、赤色色素の生産量を測定することにより、クオラムセンシングの阻害度合いを見積もることができる。すなわち、セラチア菌のオートインデューサーであるAHLを、本発明のシクロデキストリン誘導体でトラップすることにより、セラチア菌が各細胞間の情報伝達(クオラムセンシング)をすることができなくなり、その活性が落ちて、赤色色素の生産量が減少する。換言すれば、クオラムセンシングの阻害度合いが大きければ大きいほど赤色色素の生産量が少なくなるという関係となる。このため、セラチア菌を培養した場合に生産される赤色色素の量を測定することによりクオラムセンシングの阻害度合いを見積もることができる。そして、赤色色素の生産量は、所定の波長での培養液の吸光度を利用して測定することができる。
本発明のクオラムセンシングの阻害方法の利点の一つは、バクテリアを殺菌することなく、病原性を抑制できる点にある。従来から使用されている抗生物質は、殺菌を行うことによって病原性の抑制を行うという手法を採用しているが、薬剤耐性菌の出現を避けることができないという問題がある。本発明のクオラムセンシングの阻害方法では、バクテリアを殺菌しないので、薬剤耐性菌の出現を考慮しなくてよい上、細菌毒性を低く抑えることが可能となる。
以上説明した、本発明のシクロデキストリン誘導体、シクロデキストリン誘導体の製造方法、クオラムセンシングの阻害方法を用いることによって、AHLのようなオートインデューサーを、再現性よく高い選択率でトラップすることができるようになる。
次に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
[実施例1〜5、比較例1]
(第1合成工程)
0.4NのNaCl aq 300ml中に、β−CDを10g(9mmol)と、塩化p−トルエンスルホニル10g(60mmol)と、を加え、氷浴中で3時間激しく撹拌した。濾液を、1NのHClで中和し、グラスフィルターで濾過しアセトン洗浄、真空乾燥を行った。生成物の確認を、IR,MALDI−TOF−MS,1H−NMRにより行ったところ、トシル化されたβ−CD(前駆体、6−OTs−β−CD)が得られたことが確認された(収量3g,収率30%)。なお、IRの測定は、JASCO社(日本分光株式会社)製のFT/IR−430を用い、MALDI−TOF−MSの測定は、Burker社(ブルカー・ダルトニクス株式会社)製のAutoflexIIを用い、NMRの測定は、VARIAN社製のVNMRS−500を用いて行った。これは以下の実験でも同様である。
(第2合成工程)
イ.シクロデキストリン誘導体(CD1)の合成(実施例1)
上記具体例で示したCD1を以下の方法で合成した。
2−エチルヘキシルアミン15ml(密度0.79,質量12g)に、上記前駆体(6−OTs−β−CD)を1.3g(0.97mmol)加え、Ar雰囲気下で40℃の油浴で一晩撹拌を行った。次いで、ロータリーエバポレーターで未反応の2−エチルヘキシルアミンを飛ばし、アセトン100mlで撹拌した。その後、減圧濾過を行い、MeOH:H2O=3:1の溶液15mlに溶かし、再びアセトン100ml中で撹拌、減圧濾過を行い、乾燥し目的物を得た。生成物の確認は、IR,MALDI−TOF−MS,1H−NMRにより行った。その結果、CD1が合成されていることが確認された。また、収率は93%であった。
ロ.シクロデキストリン誘導体(CD2)の合成(実施例2)
上記具体例で示したCD2を以下の方法で合成した。
フェネチルアミン15ml(密度0.962,質量14g)に、上記前駆体(6−OTs−β−CD)を1.3g(0.97mmol)加え、Ar雰囲気下で40℃の油浴で一晩撹拌を行った。次いで、ロータリーエバポレーターで未反応のフェネチルアミンを飛ばし、アセトン100mlで撹拌した。その後、減圧濾過を行い、MeOH:H2O=3:1の溶液15mlに溶かし、再びアセトン100ml中で撹拌、減圧濾過を行い、乾燥し目的物を得た。生成物の確認は、IR,MALDI−TOF−MS,1H−NMRにより行った。その結果、CD2が合成されていることが確認された。また、収率は95%であった。
ハ.シクロデキストリン誘導体(CD3)の合成(実施例3)
上記具体例で示したCD3を以下の方法で合成した。
2−(2−アミノエチルアミノ)−エタノール15ml(密度1.06,質量16g)に、上記前駆体(6−OTs−β−CD)を1.3g(0.97mmol)加え、Ar雰囲気下で40℃の油浴で一晩撹拌を行った。次いで、ロータリーエバポレーターで未反応の2−(2−アミノエチルアミノ)−エタノールを飛ばし、アセトン100mlで撹拌した。その後、減圧濾過を行い、MeOH:H2O=3:1の溶液15mlに溶かし、再びアセトン100ml中で撹拌、減圧濾過を行い、乾燥し目的物を得た。生成物の確認は、IR,MALDI−TOF−MS,1H−NMRにより行った。その結果、CD3が合成されていることが確認された。また、収率は80%であった。
ニ.シクロデキストリン誘導体(CD4)の合成(実施例4)
上記具体例で示したCD4を以下の方法で合成した。
2−(2−アミノエトキシ)−エタノール15ml(密度1.055,質量16g)に、上記前駆体(6−OTs−β−CD)を1.3g(0.97mmol)加え、Ar雰囲気下で40℃の油浴で一晩撹拌を行った。次いで、ロータリーエバポレーターで未反応の2−(2−アミノエトキシ)−エタノールを飛ばし、アセトン100mlで撹拌した。その後、減圧濾過を行い、MeOH:H2O=3:1の溶液15mlに溶かし、再びアセトン100ml中で撹拌、減圧濾過を行い、乾燥し目的物を得た。生成物の確認は、IR,MALDI−TOF−MS,1H−NMRにより行った。その結果、CD4が合成されていることが確認された。また、収率は98%であった。
ホ.シクロデキストリン誘導体(CD5)の合成(実施例5)
上記具体例で示したCD5を以下の方法で合成した。
2−アミノ−1−ブタノール15ml(密度0.94,質量14g)に、上記前駆体(6−OTs−β−CD)を1.3g(0.97mmol)加え、Ar雰囲気下で40℃の油浴で一晩撹拌を行った。次いで、ロータリーエバポレーターで未反応の2−アミノ−1−ブタノールを飛ばし、アセトン100mlで撹拌した。その後、減圧濾過を行い、MeOH:H2O=3:1の溶液15mlに溶かし、再びアセトン100ml中で撹拌、減圧濾過を行い、乾燥し目的物を得た。生成物の確認は、IR,MALDI−TOF−MS,1H−NMRにより行った。その結果、CD5が合成されていることが確認された。また、収率は95%であった。
(クオラムセンシングの阻害度合いの測定)
バクテリアとしてグラム陰性細菌のセラチア菌(Serratia marcescens AS−1株)を用いた。また、LB液体培地の組成は、ペプトンを10g/l、酵母エキスを5g/l、NaClを5g/lとした。セラチア菌(Serratia marcescens AS−1株)は、AHLを介して情報伝達(クオラムセンシング)を行い、下記構造の赤色色素(Prodigiosin)を生産する。そこで、Prodigiosinの生産量を測定することによって、クオラムセンシングの阻害の度合いを評価した。以下に、具体的な評価方法を示す。
上記AS−1株を、4mlのLB液体培地で、25℃で15〜18時間前培養して培養液を得た。そして、この前培養液40μlを、新しい4mlのLB液体培地に接種し、さらに評価対象たるシクロデキストリン誘導体(CD1〜5)又は比較対象たるβ−CD(比較例1)をそれぞれ2mg添加し、25℃で24時間振とう培養を行った。こうして得た培養液1mlを、マイクロチューブに移し、遠心分離(13,500×g,5min)することで集菌した。次いで、培養上清を取り除き4%HCl−メタノールを1ml加え、ボルテックスで菌体を破砕して色素を抽出した。そして、色素抽出液を遠心分離(13,500×g,5min)し、上清をマイクロチューブに150μlとった後、蒸留水で10倍希釈した。
こうして得た色素抽出液の534nmの吸光度を紫外可視分光光度計(日本分光株式会社製 V−550)で測定し、Prodigiosin生産量(A534)とした。また、培養液を蒸留水で15倍希釈し、600nmの濁度を紫外可視分光光度計で測定した値を菌体濁度(OD600)とした。そして、菌体あたりのProdigiosin生産量をA534/OD600で算出し、その相対比を比較することでProdigiosin生産阻害効果を見積もった。
以上の評価を、シクロデキストリン誘導体を添加しない場合(control)、β−CDを添加した場合(比較例1)、CD1〜CD5を添加した場合(実施例1〜5)、のそれぞれについて行った。結果を表−1に示す。
[実施例2]
(第1合成工程)
実施例1と同様にして、前駆体(6−OTs−β−CD)を合成した。
(第2合成工程)
イ.シクロデキストリン誘導体(C3−β−CD)の合成(実施例6)
上記具体例で示したC3−β−CD(具体例の「C3〜10,12−β−CD」において、n=3の場合)を以下の方法で合成した。
n−プロピルアミン15ml(密度0.7173,質量11g)に、上記前駆体(6−OTs−β−CD)を1.3g(0.97mmol)加え、Ar雰囲気下で40℃の油浴で一晩撹拌を行った。次いで、ロータリーエバポレーターで未反応のn−プロピルアミンを飛ばし、アセトン100mlで撹拌した。その後、減圧濾過を行い、MeOH:H2O=3:1の溶液15mlに溶かし、再びアセトン100ml中で撹拌、減圧濾過を行い、乾燥し目的物を得た。生成物の確認は、IR,MALDI−TOF−MS,1H−NMRにより行った。その結果、C3−β−CDが合成されていることが確認された。また、収率は96%であった。
ロ.シクロデキストリン誘導体(C4−β−CD)の合成(実施例7)
上記具体例で示したC4−β−CD(具体例の「C3〜10,12−β−CD」において、n=4の場合)を以下の方法で合成した。
n−ブチルアミン15ml(密度0.7392,質量11g)に、上記前駆体(6−OTs−β−CD)を1.3g(0.97mmol)加え、Ar雰囲気下で40℃の油浴で一晩撹拌を行った。次いで、ロータリーエバポレーターで未反応のn−ブチルアミンを飛ばし、アセトン100mlで撹拌した。その後、減圧濾過を行い、MeOH:H2O=3:1の溶液15mlに溶かし、再びアセトン100ml中で撹拌、減圧濾過を行い、乾燥し目的物を得た。生成物の確認は、IR,MALDI−TOF−MS,1H−NMRにより行った。その結果、C4−β−CDが合成されていることが確認された。また、収率は98%であった。
ハ.シクロデキストリン誘導体(C5−β−CD)の合成(実施例8)
上記具体例で示したC5−β−CD(具体例の「C3〜10,12−β−CD」において、n=5の場合)を以下の方法で合成した。
n−ペンチルアミン15ml(密度0.7544,質量11g)に、上記前駆体(6−OTs−β−CD)を1.3g(0.97mmol)加え、Ar雰囲気下で40℃の油浴で一晩撹拌を行った。次いで、ロータリーエバポレーターで未反応のn−ペンチルアミンを飛ばし、アセトン100mlで撹拌した。その後、減圧濾過を行い、MeOH:H2O=3:1の溶液15mlに溶かし、再びアセトン100ml中で撹拌、減圧濾過を行い、乾燥し目的物を得た。生成物の確認は、IR,MALDI−TOF−MS,1H−NMRにより行った。その結果、C5−β−CDが合成されていることが確認された。また、収率は95%であった。
ニ.シクロデキストリン誘導体(C6−β−CD)の合成(実施例9)
上記具体例で示したC6−β−CD(具体例の「C3〜10,12−β−CD」において、n=6の場合)を以下の方法で合成した。
n−ヘキシルアミン15ml(密度0.7649,質量11g)に、上記前駆体(6−OTs−β−CD)を1.3g(0.97mmol)加え、Ar雰囲気下で40℃の油浴で一晩撹拌を行った。次いで、ロータリーエバポレーターで未反応のn−ヘキシルアミンを飛ばし、アセトン100mlで撹拌した。その後、減圧濾過を行い、MeOH:H2O=3:1の溶液15mlに溶かし、再びアセトン100ml中で撹拌、減圧濾過を行い、乾燥し目的物を得た。生成物の確認は、IR,MALDI−TOF−MS,1H−NMRにより行った。その結果、C6−β−CDが合成されていることが確認された。また、収率は96%であった。
ホ.シクロデキストリン誘導体(C7−β−CD)の合成(実施例10)
上記具体例で示したC7−β−CD(具体例の「C3〜10,12−β−CD」において、n=7の場合)を以下の方法で合成した。
n−ヘプチルアミン15ml(密度0.7754,質量12g)に、上記前駆体(6−OTs−β−CD)を1.3g(0.97mmol)加え、Ar雰囲気下で40℃の油浴で一晩撹拌を行った。次いで、ロータリーエバポレーターで未反応のn−ヘプチルアミンを飛ばし、アセトン100mlで撹拌した。その後、減圧濾過を行い、MeOH:H2O=3:1の溶液15mlに溶かし、再びアセトン100ml中で撹拌、減圧濾過を行い、乾燥し目的物を得た。生成物の確認は、IR,MALDI−TOF−MS,1H−NMRにより行った。その結果、C7−β−CDが合成されていることが確認された。また、収率は96%であった。
ヘ.シクロデキストリン誘導体(C8−β−CD)の合成(実施例11)
上記具体例で示したC8−β−CD(具体例の「C3〜10,12−β−CD」において、n=8の場合)を以下の方法で合成した。
n−オクチルアミン15ml(密度0.7819,質量12g)に、上記前駆体(6−OTs−β−CD)を1.3g(0.97mmol)加え、Ar雰囲気下で40℃の油浴で一晩撹拌を行った。次いで、ロータリーエバポレーターで未反応n−オクチルアミンを飛ばし、アセトン100mlで撹拌した。その後、減圧濾過を行い、MeOH:H2O=3:1の溶液15mlに溶かし、再びアセトン100ml中で撹拌、減圧濾過を行い、乾燥し目的物を得た。生成物の確認は、IR,MALDI−TOF−MS,1H−NMRにより行った。その結果、C8−β−CDが合成されていることが確認された。また、収率は98%であった。
ト.シクロデキストリン誘導体(C9−β−CD)の合成(実施例12)
上記具体例で示したC9−β−CD(具体例の「C3〜10,12−β−CD」において、n=9の場合)を以下の方法で合成した。
n−ノニルアミン15ml(密度0.79,質量12g)に、上記前駆体(6−OTs−β−CD)を1.3g(0.97mmol)加え、Ar雰囲気下で40℃の油浴で一晩撹拌を行った。次いで、ロータリーエバポレーターで未反応のn−ノニルアミンを飛ばし、アセトン100mlで撹拌した。その後、減圧濾過を行い、MeOH:H2O=3:1の溶液15mlに溶かし、再びアセトン100ml中で撹拌、減圧濾過を行い、乾燥し目的物を得た。生成物の確認は、IR,MALDI−TOF−MS,1H−NMRにより行った。その結果、C9−β−CDが合成されていることが確認された。また、収率は97%であった。
チ.シクロデキストリン誘導体(C10−β−CD)の合成(実施例13)
上記具体例で示したC10−β−CD(具体例の「C3〜10,12−β−CD」において、n=10の場合)を以下の方法で合成した。
n−デシルアミン15ml(密度0.951,質量14g)に、上記前駆体(6−OTs−β−CD)を1.3g(0.97mmol)加え、Ar雰囲気下で40℃の油浴で一晩撹拌を行った。次いで、ロータリーエバポレーターで未反応のn−デシルアミンを飛ばし、アセトン100mlで撹拌した。その後、減圧濾過を行い、MeOH:H2O=3:1の溶液15mlに溶かし、再びアセトン100ml中で撹拌、減圧濾過を行い、乾燥し目的物を得た。生成物の確認は、IR,MALDI−TOF−MS,1H−NMRにより行った。その結果、C10−β−CDが合成されていることが確認された。また、収率は97%であった。
(クオラムセンシングの阻害度合いの測定)
クオラムセンシングの阻害度合いの評価を実施例1と同様にして行った。なお、比較対象としてβ−CDを再度評価した(比較例2)。結果を表−2に示す。
表−1、2の結果から、まず、天然物であるβ−CDでは、Prodigiosinの生産量のデータが大きく変動(40%以上データが変動する)し、実験の再現性がとれない場合があることがわかった。これに対して、本発明のシクロデキストリン誘導体においては、実験毎の変動は若干あるものの、β−CD程の変動ではなく、再現性に優れることがわかった。
表−1、2の結果から、controlと比較して、全てのシクロデキストリン誘導体において、Prodigiosinの生産量が下がっているため、AHLのトラップが良好に行われ、クオラムセンシングの阻害効果が発揮されることがわかる。また、表−2の結果から、炭素数が7以上のアルキル基を一般式(1)のR1に用いると、クオラムセンシングを阻害する効果が大きく向上することがわかる。
また、表−2における菌体濁度をみてわかるように、シクロデキストリン誘導体の添加によっても菌の数はほとんど変わっていない。これらの結果から、本発明のシクロデキストリン誘導体が、セラチア菌(Serratia marcescens AS−1株)を殺菌することがなく、きわめて毒性が低いことがわかる。
シクロデキストリンの立体構造を示す模式的斜視図である。