以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しつつ説明する。本実施形態は、インクジェットヘッドから記録用紙に対してインクの液滴を噴射することにより、記録用紙に所望の文字や画像などを記録(印刷)するインクジェットプリンタに、本発明を適用したものである。また、本発明のインクジェットプリンタは、単独のプリンタ装置としてだけでなく、コピー機能、スキャナ機能、ファクシミリ機能などを備えた多機能装置(MFD:Multi Function Device )のプリンタとしても適用することができるものである。
図1は、本実施形態に係るインクジェットプリンタの概略構成を示す平面図である。図1に示すように、インクジェットプリンタ200は、一方向に沿って往復移動可能に構成されたキャリッジ202と、このキャリッジ202に搭載されたインクジェットヘッド100(液滴噴射ヘッド)、及び、サブタンク204a〜204dと、インクを貯留するインクカートリッジ206a〜206dと、インクジェットヘッド100の後述するノズル4からフラッシング動作時に噴射されたインクの液滴を受容する受け皿213(液滴受容部)などを備えている。
キャリッジ202は、図1の左右方向(走査方向)に平行に延びる2本のガイド軸217に跨って取り付けられ、ガイド軸217に沿って往復移動可能に構成されている。また、キャリッジ202には、無端ベルト218が連結されており、キャリッジ駆動モータ219によって無端ベルト218が走行駆動されたときに、キャリッジ202は、無端ベルト218の走行にともなって左右方向に移動するようになっている。
このキャリッジ202には、インクジェットヘッド100と4つのサブタンク204が搭載されている。インクジェットヘッド100は、キャリッジ202とともに走査方向に往復移動しつつ、その下面(図1の紙面向こう側の面)に設けられたノズル4(図3参照)から、図示しない用紙搬送機構の搬送モータ220(図7参照)によって図1の下方(走査方向と交差する紙送り方向)に搬送される記録用紙Pにインクの液滴を噴射する。これにより、記録用紙Pに所望の文字や画像などが記録される。
4つのサブタンク204は走査方向(Y方向)に沿って並べて配置されている。これら4つのサブタンク204a〜204dには、例えば4色のインク、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラックが図1の左から順にそれぞれ一時的に貯留されている。また、これら4つのサブタンク204には、チューブジョイント220が一体的に設けられている。そして、これらのチューブジョイント220に連結された可撓性のチューブ205a〜205dを介して、4つのサブタンク204a〜204dと4つのインクカートリッジ206a〜206dとがそれぞれ接続されている。
4つのインクカートリッジ206a〜206dには、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラックの、4色のインクがそれぞれ貯留されており、これらのインクカートリッジ206a〜206dは、インクジェットプリンタ本体側に静置されたホルダ207に着脱自在に装着されている。
4つのインクカートリッジ206a〜206dに貯留された4色のインクは、サブタンク204a〜204dに一時的に貯留された後、インクジェットヘッド100に供給される。
受け皿213は、走査方向に関するキャリッジ202の移動範囲内のうち、記録用紙Pと対向する印刷領域(通常噴射領域)よりも外側(図1における左側)の領域(以下、フラッシング領域ともいう)に配置されている(図8参照)。受け皿213は、直方体形状をしており、上方に開口した矩形状の凹部213aを有している。凹部213aは、上方(図1の紙面手前方向)から見ると、複数のノズル4が配置された液滴噴射面の投影面積よりも大きな矩形状をしている。凹部213aには、スポンジや不織布のような多孔質部材から形成された吸収部材214が配置されている。この吸収部材214は、後述するフラッシング動作時に、キャリッジ202がフラッシング領域に移動してくると、インクジェットヘッド100の下面(複数のノズル4が配置された液滴噴射面)と対向し、複数のノズル4から噴射されたインクの液滴を吸収する。
次に、インクジェットヘッド100について説明する。図2はインクジェットヘッドの斜視図である。
図2に示すように、インクジェットヘッド100は、複数枚のプレートからなる流路ユニット1の上面にプレート型の圧電アクチュエータ2が接合されている。そして、このプレート型の圧電アクチュエータ2の上面に外部機器との電気的接続に用いられるフレキシブルフラットケーブル3が接合されており、このフレキシブルフラットケーブル3の上面に駆動回路であるドライバIC5が接続されている。そして、流路ユニット1の下面側に開口されたノズル4(図3参照)から下向きにインクの液滴を噴射する。
次に、流路ユニット1について、図3〜図5を参照しつつ説明する。図3は、流路ユニットの分解斜視図である。図4は、流路ユニットの拡大分解斜視図である。図5は、図2のA−A線断面図である。図3に示すように、流路ユニット1は、下層から順にノズルプレート11、スペーサプレート12、ダンパープレート13、2枚のマニホールドプレート14a,14b、サプライプレート15、ベースプレート16及びキャビティプレート17の合計8枚の薄い平板を、それぞれの平板面が対向するように積層し、接着剤で接合した構造となっている。各プレート12〜17は、ポリイミドなどの合成樹脂製のノズルプレート11を除き、42%ニッケル合金鋼板製であり、それらの板厚は50μm〜150μm程度である。
ノズルプレート11には、微小径の多数の液滴噴射用のノズル4(ノズル径20μm)が、ノズルプレート11における長手方向(X方向)に沿って微小間隔に多数個穿設されている。このノズル4は、長手方向(X方向)に平行な5列に適宜間隔で配列されている。つまり、複数のノズル4(4a〜4d)は、図3の手前側からイエローインク、シアンインク、マゼンタインク、ブラックインクの順で各色ごとにX方向に沿って多数個穿設されており、そのノズル列がY方向に沿って配置されている。なお、図示されていないがブラックインク4dのノズル列は2列配置されている。
図4に示すように、キャビティプレート17には、複数の圧力室36がノズル4(4a〜4d)の列に対応して各色ごとに5列の圧力室36a〜36dが図3の手前側からイエロー、シアン、マゼンタ、ブラックの順に配列されている。各圧力室36は、平面視細長形状にキャビティプレート17の板厚を貫通して形成されており、その長手方向がノズル4の列と直交する方向(Y方向)に沿うようにして配置されている。なお、ブラックインクの圧力室列36dは2列配置されている。
各圧力室36における先端部36aは、ベースプレート16、サプライプレート15、2枚のマニホールドプレート14a,14b、ダンパープレート13及びスペーサプレート12に、穿設されている微小径の連通孔37を介して、ノズルプレート11の各ノズル4に連通している。
キャビティプレート17の下面に隣接するベースプレート16には、各圧力室36の一端36bに接続する連通孔38が穿設されている。ベースプレート16の下面に隣接するサプライプレート15には、後述する共通インク室7から各圧力室36へインクを供給するための接続流路40が穿設されている。そして、各接続流路40には、共通インク室7からインクが入る入口孔と、連通孔38と対向するように開口する出口孔と、入口孔と出口孔との間であって、接続流路40中で最も大きな流路抵抗となるように断面積を小さく形成された絞り部とが設けられている。
2枚のマニホールドプレート14a,14bには、圧力室36a〜36dの各列の下に沿って長い5つの共通インク室7a〜7dが板厚を貫通して形成されている。すなわち、図3及び図5に示すように、2枚のマニホールドプレート14a,14bを積層し、且つ、その上面をサプライプレート15で覆い、下面をダンパープレート13で覆うことにより、合計5つの共通インク室7が形成される。
図4及び図5に示すように、マニホールドプレート14aの下面に隣接するダンパープレート13の下面側には、共通インク室7と隔絶されたダンパー室45が凹んで形成されている。この各ダンパー室45の形成位置及び形状は、図3に示すように、各共通インク室7と同様になっている。ダンパー室45上部の薄い板状の天井部が、弾性変形して振動することにより、インク噴射時に、圧力室36で発生した圧力変動を吸収減衰させるダンパー効果を奏する。
また、図3に示すように、キャビティプレート17、ベースプレート16及びサプライプレート15の長手方向の一方端部には、上下の位置を対応させて、それぞれ4つのインク供給口47a〜47dが穿設されている。インクカートリッジ6からチューブ205及びチューブジョイント220を介して供給されたインクは、これらインク供給口47から共通インク室7の長手方向の一方端部に供給される。
インクカートリッジ206a〜206dから供給された各インクは、それぞれのインク供給口47a〜47dから共通インク室7a〜7dに供給された後、図5に示すように、サプライプレート15の接続流路40及びベースプレート16の貫通孔38を経由して各圧力室36a〜36dに分配供給される。そして、後述するように、圧電アクチュエータ2の駆動部49の駆動により、インクは各圧力室36内から連通孔37を通って、その圧力室36に対応する各ノズル4a〜4dに至る。
本実施形態においては、図3に示すように、インク供給口47a〜47dがそれぞれ4つ設けられているのに対して、共通インク室7、ノズル4、圧力室36が5つ設けられており、図3の左方から3番目に位置するインク供給口47dのみ、2つの共通インク室7b、7bにインクが供給されるように構成されている。これは、このインク供給口47dには、ブラックインクが供給されるように設定されており、ブラックインクがその他のカラーインクに比べて使用頻度が高いからである。そのため、2つの共通インク室7b、7bに供給されたブラックインクは、対応して2つの圧力室36d、36dの列および2つのノズル4d、4dの列から噴射される。また、他のインク供給口47a,47b,47cには、それぞれイエロー、シアン及びマゼンタの各インクがそれぞれ単独に供給され、対応する各共通インク室7からそれぞれの圧力室36およびノズル4にまでインク色ごとに供給され、噴射される。流路ユニット1の上面には、フィルタ20が接着剤等で貼着されている(図2参照)。
次に、圧電アクチュエータ2について説明する。図6は、図2のB−B線断面図である。図6に示すように、圧電アクチュエータ2は、1枚の厚さが約30μmの合計9枚の圧電シート41〜43を積層した構造である。この圧電アクチュエータ2は、下層から圧電シート41と圧電シート42とが交互に合計7枚積層されており、その上層に2枚の圧電シート43が積層されている。下側から偶数番目の圧電シート41、42間の境界面には、流路ユニット1における各圧力室36に対向した箇所ごとに細幅の個別電極44が配置されている。下側から奇数番目の各圧電シート41、42間の境界面には、複数の圧力室36に対して共通の共通電極46が配置されている。
圧電アクチュエータ2の上面(流路ユニット1の反対側)であり、最上段のシートの上面には、複数の表面電極48(図3参照)が形成されており、個別電極44及び共通電極46と電気的なスルーホールを介して接続されている。また、この表面電極48は、フレキシブルフラットケーブル3(図2参照)上のドライバIC5(後述するヘッドドライバ64)と電気的に接続される。共通電極46は、グランド(GND)に電気的に接続されている。そして、ドライバIC5からの駆動電圧が個別電極44に伝達されると、選択的に1つの圧力室36に積層方向に対向する複数の個別電極44、共通電極46間に挟まれる圧電シート41、42の部分から、その圧力室36内のインクに圧力を付与する1つの駆動部49が形成される。
駆動部49における最下層の圧電シート41を除く圧電シート41,42の分極方向はその厚み方向である。個別電極44と共通電極46間に電圧を印加し、圧電シート41,42にその分極方向と同じ方向に電界を生成すると、電極44,46の間に挟まれた圧電シートが活性層として働き、圧電縦効果により分極方向と平行(上下方向)に延び、圧力室36の容積を縮小する。すると、圧力室36内のインクに圧力が付与されてインクが噴射される。
次に、インクジェットプリンタ200の全体制御を司る制御装置60について説明する。図7は、インクジェットプリンタの電気的な構成を示すブロック図である。図7に示される制御装置60は、中央処理装置であるCPU(Central Processing Unit)と、インクジェットプリンタ200の全体動作を制御するための各種プログラムやデータ等が格納されたROM(Read Only Memory)と、CPUで処理されるデータなどを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)などを備えている。
さらに、この制御装置60(制御手段)は、記録制御部61とフラッシング制御部62とを備えている。
記録制御部61は、PCなどの入力装置300から入力されたデータに基づいて、キャリッジ202(図1参照)を往復駆動するキャリッジ駆動モータ219、インクジェットヘッド100のヘッドドライバ64、記録用紙Pを搬送する用紙搬送機構(図示省略)に含まれる搬送モータ220などを制御して、印刷領域においてノズル4からインクの液滴を噴射して、記録用紙Pへの画像などの記録動作(通常噴射動作)を行わせるものである。
また、フラッシング制御部62は、キャリッジ202を往復駆動するキャリッジ駆動モータ219、インクジェットヘッド100のヘッドドライバ64(ドライバIC5)などを制御して、印刷領域外に位置するフラッシング領域において、受け皿213内に配置された吸収部材214に向かってノズル4からインクの液滴を噴射するフラッシング動作を行わせるものである。なお、フラッシング動作は、記録前に行われる記録前フラッシングや、最後のフラッシングから一定の時間が経過したときに行なわれる定期フラッシング、使用者が選択して行なわれるフラッシング動作など、各種のプログラムがROMの中に予め記憶され、CPUにより制御されている。
ここで、フラッシング制御部62によるフラッシング動作について説明する。長期間にわたってノズル4からインクの液滴が噴射されていない状態が続くと、インクの溶媒分が乾燥することによって、インクジェットヘッド100のノズル4内のインクの粘度が高くなる(増粘する)。このようなインクの増粘が生じると、記録用紙Pへの画像などの記録のためにノズル4から液滴を噴射する際に、噴射不良が生じる虞がある。
そこで、インクジェットプリンタ200は、印刷動作前もしくは印刷中に、フラッシング領域でインクの液滴を噴射させて増粘インクを排出するフラッシング動作を行う。具体的には、フラッシング指令がフラッシング制御部62に出力されると、フラッシング制御部62によってキャリッジ駆動モータ219を駆動して、キャリッジ202を図1の左方に移動させ、インクジェットヘッド100を受け皿213と対向する位置に移動させた後に、受け皿213内に配置された吸収部材214に向かって各ノズル4からインクを一度に噴射させて、ノズル4内の増粘インクを排出する。すると、ノズル4から排出された増粘インクは、吸収部材214の表面に図1の左方から順にイエロー、シアン、マゼンタ、ブラックで付着して、吸収部材214内に時間の経過とともに吸収される。吸収部材214内に吸収されたインクは、受け皿213の下面に接続された廃液タンク(図示せず)に送られる。
このとき、各インクが、インクの種類によって固化しやすさが異なっている場合、固化しやすいインクがフラッシング動作時に吸収部材214に付着した後、吸収部材214内部に吸収される前に、吸収部材214の表面に固化してしまう。この吸収部材214上に固化した状態で、新たに次のフラッシング動作によって噴射が行なわれると、さらに固化したインクがその上に付着していくため、この一連の動作が繰り返されることによって固化しやすいインクが吸収部材214上に山状に堆積していく。
本実施形態においては、ブラックインクには顔料インクを用いており、その他のイエロー、シアン、マゼンタインクには染料インクを用いている。顔料インクとは、顔料成分が溶媒である界面活性剤や水などに溶解せずに、溶媒中に粒子状に分散しており、ノズル4から記録用紙Pに対して噴射されると、顔料成分の粒子が記録用紙Pの表面に残り、粒子自体が発色しているインクである。染料インクとは、染料成分が溶媒である界面活性剤や水などに溶解しており、ノズル4から記録用紙Pに対して噴射されると、染料成分が溶けた溶媒が記録用紙Pに浸透することで発色しているインクである。一般的に顔料インクの溶媒分は揮発性が高く、染料インクに比べて固化しやすい。
それぞれのインクの固化しやすさの指標を表1に示す。この指標は、ブラックインク(Bk)を基準としており、完全蒸発粘度から算出されている。完全蒸発粘度とは、インク内に含まれる顔料/染料成分や揮発しない成分を除いた、水分や揮発性の界面活性剤などが蒸発したときに残るインクの粘度である。この完全蒸発粘度をそれぞれのインクに対して算出して、ブラックインクが1となるようにそれぞれのインクの完全蒸発粘度に係数をかけて、指標としている。指標の値が大きくなるにつれて、固化しやすいインクと判断することができる。なお、本実施形態では、インクの固化しやすさの指標として、完全蒸発粘度を基準として算出しているが、測定方法、装置、条件、また、溶媒の種類等などが同じ条件で算出されなくても、インクの固化しやすさを相対的に表すことができれば、この限りでない。
つまり、ブラックインクが最も固化しやすいインク、イエローインクが最も固化しにくいインクとなっており、ブラックインク(Bk)>シアンインク(C)>マゼンタインク(M)>イエローインク(Y)の順に固化しにくくなっている。そのため、フラッシング動作時にノズル4から一度に噴射されたインクの液滴が吸収部材214に付着した後、ブラックインクの液滴が付着した吸収部材214上には、その内部に吸収される前に表面でブラックインクが固化し、山状に堆積されていく。
そこで、吸収部材214上に付着したブラックインクを吸収部材214に吸収させるために、フラッシング動作が行われた後に、吸収部材214におけるブラックインクが付着した位置に、ノズル4から最も固化しにくいイエローインクの液滴が噴射されるようにキャリッジ202を移動させる。最も固化しにくいイエローインクの液滴を吸収部材214上に付着したブラックインクの上に噴射すると、イエローインクがブラックインクの上に着弾し、堆積していたブラックインクが溶解する。このように、吸収部材214上の固化しやすいブラックインクを固化しにくいイエローインクと溶解させることで、イエローインクにより溶解されたインクは、ブラックインクのみの場合よりも固化しにくくなり、吸収部材214に吸収されやすくなる。
つまり、キャリッジ202を、最も固化しやすいブラックインクが噴射された位置に対して、最も固化しにくいイエローインクを噴射できるように、所定の距離だけ印刷領域側に移動させることで、複数のノズル4から噴射されたイエローインクの液滴を、吸収部材214上に付着しているブラックインクに向かって滴下することができる。
このとき、フラッシング動作後に吸収部材214上に固化したブラックインクを溶解させるイエローインクを噴射する複数のノズル4(第2ノズル)は、インクジェットヘッド100がフラッシング領域に位置しているときに、印刷領域から複数の各色のノズル4の並び方向において最も遠く(図8参照)に配置されている。つまり、ブラックインクを始めとする、イエローインクよりも固化しやすいインクのノズル4の配列が、最も固化しにくいイエローインクのノズル4の配置位置よりも印刷領域側に位置しているため、最も固化しやすいブラックインクを溶解させるための移動が、キャリッジ202を印刷領域から離れる方向ではなく、印刷領域側に移動させるだけでよいため、インクジェットプリンタ200をキャリッジ202の移動方向に関して小型化することができる。
また、フラッシング動作時において、ノズル4bから吸収部材214に向かって噴射されて吸収部材214上に堆積したブラックインクは、山状となっている。すると、フラッシング動作が行われた後に、溶解させる目的でノズル4aから噴射させるイエローインクの液滴の着弾面積が非常に小さく、着弾させることが困難であるとともに、着弾した場合でも、山状であるため十分に溶解させることができず、溶解残りがあることがあり、十分に溶解させるためには、より多くのイエローインクを噴射させる必要があり、フラッシング消費量が多くなる可能性がある。
本来、固化しやすいインクによる堆積物が発生することを考慮すると、スポンジのような多孔質の吸収部材は、より吸収力の大きい吸収材を用いることで吸収材上に残る堆積物が少なくすることが考えられる。一般的に多孔質の吸収部材の吸収力は、その開孔径に関わらず、開口率(吸収部材の開孔体積の割合)が大きい方がよく、「開口径×開口数」は、「小×多」または、「大×少」であってもよい。しかしながら、開口径が小さく数の多いものを利用する場合、一般的に製造コストが高くなり好ましくない。また、開口径が大きく、数を少ないものを採用する場合、吸収材に吸収される液体は、開口径が大きいため、その吸収材に保持される力(毛管力による)が弱くなり、吸収材に液体を保持することができず、廃液を多く吸収できたとしても、そのフォームからインク漏れ等を起こしてしまう可能性があった。
そこで、ブラックインクが滴下される吸収部材214の部分に、他の色のインクが滴下される吸収部材よりも表面の濡れ性が高い吸収部材を用いる。図8は、フラッシング動作時のフラッシング領域の平面図である。図9は、受け皿を上方から見た図である。
図8及び図9に示すように、吸収部材214は、表面の濡れ性の異なる2種類の第1の吸収部材215と第2の吸収部材216とを有する。第2の吸収部材216は、受け皿213の凹部213a内に配置されている。また、第2の吸収部材216には、キャリッジ2がフラッシング領域に位置しているときに、インクジェットヘッド100のブラックインクを噴射する複数のノズル4dが配置された液滴噴射面と対向する位置に、凹部216aが上方に開口して形成されている。そして、この凹部216a内に、第1の吸収部材215が配置されている。
第1の吸収部材215と第2の吸収部材216とは、それぞれ表面の濡れ性が異なる材質で形成されている。吸収材は、一般的に汎用性の高い吸収材(例えば、ウレタン樹脂や、メラミン樹脂など)から、第1の吸収部材215の表面(第1付着領域)は、第2の吸収部材216の表面(第2付着領域)よりも濡れ性が高いものを適宜選択する。
また、第1の吸収部材215の表面は、酸素を処理ガスとするプラズマ処理によって、親液性に優れた膜が形成濡れ性が高くなっていてもよい。つまり、第1の吸収部材215の表面に滴下されたインクの液滴は、第2の吸収部材216の表面に滴下されたインクの液滴よりも表面に濡れ広がりやすくなっている。なお、第1の吸収部材215の表面の濡れ性を高めるための表面処理としては、コロナ放電、オゾン放電なども挙げられる。また、濡れ性の高い吸収材に対して、さらに表面処理が行われてあってもよい
このように、第1の吸収部材215の材質に、第2の吸収部材216の材質よりも表面の濡れ性が高い材質を用いることで、容易に、第1の吸収部材215の表面の濡れ性を第2の吸収部材216の表面の濡れ性よりも高くすることができる。また、第1の吸収部材215の表面に、第2の吸収部材216の表面よりも濡れ性の高い膜を形成することでも、容易に、第1の吸収部材215の表面の濡れ性を第2の吸収部材216の表面の濡れ性よりも高くすることができる。
したがって、この第1の吸収部材215の上に滴下されたブラックインクは、平滑化して濡れ広がる。つまり、この状態でフラッシング動作が行われた後に、キャリッジ202を移動して、第1の吸収部材215上に付着したブラックインク上に、ノズル4からイエローインクの液滴を噴射させると、イエローインクのブラックインクへの着弾面積が大きく、且つ、高さが平滑化されていて、イエローインクをブラックインクへ着弾させやすくなるとともに、少ないイエローインクの噴射量でもブラックインクを溶解させやすくなっている。
次に、フラッシング動作から、その後に第1の吸収部材215上のブラックインクを溶解させるまでの一連の動作について説明する。図10は、フラッシング動作から、その後に第1の吸収部材上のブラックインクを溶解させるまでの一連の動作を示す図である。
まず、印刷前や印字中にフラッシング動作指令がフラッシング制御部62に入力されると、フラッシング制御部62によってキャリッジ駆動モータ219が駆動されて、キャリッジ202を図1の左方へ移動させ、インクジェットヘッド100を受け皿213と対向する位置に移動させる。そして、図10(a)に示すように、最も固化しにくいイエローインクを噴射する複数のノズル4(第1ノズル)からは液滴を噴射させずに、残りのブラックインク、シアンインク、マゼンタインクを噴射する複数のノズル4(第2ノズルを含む)から各色のインクの液滴を噴射させる。すると、第1の吸収部材215上にブラックインクが付着するととも、第2の吸収部材216上にシアンインク及びマゼンタインクが付着する。
そして、図10(b)に示すように、第2の吸収部材216上に付着したシアンインク及びマゼンタインクは、第2の吸収部材216に吸収される。第1の吸収部材215上に付着したブラックインクは、第1の吸収部材215上に濡れ広がり、吸収される前に固化している状態となる。
そこで、フラッシング動作後に、フラッシング制御部62によってキャリッジ駆動モータ219を駆動して、キャリッジ202を図1の右方へ移動させる。このとき、インクジェットヘッド100のイエローインクを噴射する複数のノズル4が配置された液滴噴射面が、第1の吸収部材215の図1の最も左方と対向すると、イエローインクを噴射する複数のノズル4からイエローインクの液滴噴射を開始させる。そして、図10(c)に示すように、キャリッジ202を図1の右方へ移動させながら、第1の吸収部材215の図1の最も右方まで、イエローインクを噴射する複数のノズル4からイエローインクの液滴を連続的に噴射させる。
こうすることで、第1の吸収部材215上に付着し濡れ広がったブラックインクにイエローインクが滴下されて、堆積していたブラックインクが溶解して、第1の吸収部材215に吸収される。また、このとき、第1の吸収部材215上に付着し濡れ広がったブラックインクは平滑化しているため、このブラックインクの端部付近と頂点付近との液体の量(高さ位置)はほぼ変わらない。したがって、キャリッジ202を移動させつつ、第1の吸収部材215の位置に応じてイエローインクの液滴量を制御する必要がなく、液適量一定のまま連続的にノズル4からイエローインクの液滴を噴射させるだけで、第1の吸収部材215に付着したブラックインク全体を容易に溶解させることができる。また、例えば、インクの堆積物を測定検出するようなセンサ等を受け部に備えて、イエローインクの液滴量の制御して溶解させるような複雑な構成をさせなくても、溶解残りの少ないように、容易に溶解させることができる。
さらに、ノズル4からのイエローインクの液滴噴射は、1度の噴射で、フラッシング動作としての液滴噴射と、第1の吸収部材215に付着したブラックインクを溶解させるための液滴噴射とを兼ねている。したがって、ノズル4から噴射されるイエローインクの液滴の消費量を低減することができる。
さらに、最も固化しにくいイエローインクのノズル配列が、キャリッジの走査方向に対して最も印刷領域側から遠いところに配置されているため、ブラックインクだけでなく、他のインク(シアン、マゼンタ)に対しても、吸収部材上に溶解させることができる。
次に、本実施形態に種々の変更を加えた変形例について説明する。ただし、本実施形態と同様の構成を有するものについては同じ符号を付し、適宜その説明を省略する。
本実施形態では、キャリッジ202に搭載されたサブタンク304a〜304dは、走査方向(Y方向)に沿って、図11の左から順に、イエロー、ブラック、シアン、マゼンタの順で配置され、図示しないが、これらのサブタンク304a〜304dには、各チューブを介して各インクカートリッジからそれぞれのインクが供給されている。インクジェットヘッド100の流路ユニット1のノズルプレート11は、そのノズルの配列が、図3での手前側からイエロー、ブラック、シアン、マゼンタの順に配置され、ブラックインク用のノズルは2列配列されていて、これらのノズルにそれぞれのインクが供給されるように、上述の実施形態と同様に圧力室および共通インク室およびダンパー室など、接続流路、貫通路等が構成されている。各インクとも、ブラックインクが顔料インクで、そのほかのインクが染料インクを用いていて、吸収部材214も、最も固化しやすいブラックインクが滴下される吸収部材214の部分(凹み部216a)に、他の色のインクが滴下される吸収部材216よりも表面の濡れ性が高い吸収部材215を用いている(図12参照)。
つまり、最も固化しにくいイエローインクのノズル4(第2ノズル)は上述の実施形態と同様に、キャリッジ202の走査方向の印刷領域から最も遠くに配置されていて、最も固化しやすいブラックインクを噴射するノズル4(第1ノズル)が、最も固化しにくいイエローインクを噴射する複数のノズル4のキャリッジ202の走査方向の印刷領域側に隣接している。
これにより、この最も固化しやすいブラックインクを溶解させるための移動が、キャリッジ202を印刷領域から離れる方向ではなく、イエローインクに隣接する最も近い距離だけ印刷領域側に移動させるだけなので、インクジェットプリンタ200をキャリッジ202の移動方向に関して小型化することができる。
また、キャリッジ202の移動距離が短くなることで、移動時間が短くなり、複数のノズル4aから噴射されたイエローインクを、吸収部材215に付着したブラックインクが付着し固化しきる前に迅速にイエローインクを滴下して溶解させることができ、ブラックインクを効果的に溶解させることができる(図13参照)。
さらに、フラッシング後にキャリッジを移動させる距離が少なくてすむため、固化しやすいブラックインクが吸収部材215の上で付着し固化しきる前にイエローインクで溶解させることができ、溶解効率が促進できる。
また、別の変形例について説明する。本実施形態においては、フラッシング動作時には、イエローインクの液滴をノズル4から噴射させずに、その後の第1の吸収部材215に付着したブラックインクを溶解させるためにイエローインクの液滴をノズル4から噴射して、フラッシング動作としての液滴噴射を兼ねていたが、フラッシング動作のときには、イエローインクも含めて全てのノズル4から液滴を噴射して、その後の第1の吸収部材215に付着したブラックインクを溶解させるための液滴噴射として、再度イエローインクの液滴をノズル4から噴射してもよい。これにより、煩雑な制御が必要なく容易に、第1の吸収部材215に付着したブラックインクを溶解させることができる。
また、本実施形態では、最も固化しにくいイエローインクのノズル配列位置が、キャリッジの走査方向の印刷領域側から最も遠くに配置させ、キャリッジ202を移動させながら、吸収部材上の濡れ広がったブラックインクの数箇所にイエローインクの液滴を滴下させ、他のインクの噴射位置にもイエローインクを噴射させるようになっているが、第1の吸収部材215上に濡れ広がったブラックインクだけにイエローインクが滴下されるようにキャリッジ202を移動させて、その位置でキャリッジ202を固定して1箇所からイエローインクを滴下してもよい。これにより、煩雑な制御が必要なく容易に、第1の吸収部材215に付着したブラックインクを溶解させることができる。
また、最も固化しにくいイエローインクのノズル配列が、キャリッジの走査方向に対して印刷領域側から最も遠くに位置していることが、ブラックインクだけでなく、その他のインクの吸収部材の堆積物に対して溶解させる効果があるため望ましいが、例えば、ブラックインク以外の他のインクが、吸収材上の堆積物が問題ならない場合などは、少なくとも最も固化しにくいイエローインクのノズル配列が、最も固化しやすいブラックインクのノズル配列よりも、キャリッジの走査方向に対して印刷領域側に遠い位置にあることだけでも、ブラックインクの噴射位置までキャリッジを走査させて、ブラックインクの噴射位置だけに、イエローインクを噴射してもよく、キャリッジの移動距離が少なくなり、イエローインクが低消費ですむ。さらに、少なくとも最も固化しにくいイエローインクのノズル配列が、最も固化しやすいブラックインクのノズル配列と隣接していれば、キャリッジのより走査時間が短くなり、ブラックインクの堆積物に対して、よりイエローインクを低消費、かつ、効果的、また短時間で一連のフラッシング動作を効果的に終了することができる。
また、本実施形態においては、ブラックインクに顔料インクを用いて、その他のイエロー、シアン、マゼンタインクに染料インクを用いていたが、全てのインクに染料インクを用いたときなどにおいても、本発明を適用することが可能である。例えば、全てのインクに染料インクを用いた場合においては、インクの固化のしやすさの指標は表2のようになる。この指標は、ブラックインク(Bk)を基準としており、染料インク内に含まれる水分に対するインク成分の割合を算出して、この値にブラックインクが1となるようにそれぞれ係数をかけている。
全てのインクに染料インクを用いた場合においては、インクジェットヘッド100がフラッシング領域に位置しているときに、印刷領域から最も遠い位置に位置するノズル4から順に、マゼンタ、ブラック、イエロー、シアンとする。そして、フラッシング動作の後に、最も固化しやすいブラックインクを溶解させるために、イエローインクの液滴を噴射させることで、本発明と同様の効果を得ることができる。
また、本実施形態においては、フラッシング動作ごとに、ブラックインクをイエローインクで溶解させていたが、ブラックインクの堆積物がノズル4に接触しない程度の所定期間や所定のフラッシング回数置きに、ブラックインクの堆積物をイエローインクで溶解させてもよい。また、本実施形態では4種類のインク(4色のインク)のみで行っているが、さらに多くのインク種類(インク色に限らない)を備えている場合でも適用可能で、複数種類のインクの中で相対的に最も固化しにくいインクをキャリッジの走査方向に対して印刷領域から遠い位置に配置し、最も固化しやすいインクを最も固化しにくいインクに隣接させる。なお残りのインクについては、印刷領域に向かって固化しにくい順に並べておくとよい。
また、インク受け部の形状や大きさ、配置などは、本実施形態の構成に限らずとも適用可能である。
以上説明した実施形態は、流路ユニットに圧電アクチュエータを積層して構成されてなるインクジェットヘッドを適用したものであるが、この構成に限るものではなく、ノズルからインクを吐出するための流路ユニットとインクを吐出するためのエネルギー素子(例えば、熱エネルギー素子)を有してなるインクジェットヘッドであれば、適用することが可能である。
また、本実施形態ではインク受け部が用紙のY軸方向の幅よりも外側(印刷領域よりも外側)における一方の側において設置され、フラッシングが行われるため、本実施形態を適用することで装置本体を小型化させる効果を有することができるが、例えばキャリッジの印刷領域の下方に設けられたプラテン上に吸収部材が設けられていて、印刷領域においてフラッシングを行うような場合であっても、本実施形態および変形例のノズル配列を採用することにより、効果的に固化しにくいインクを用いて固化しやすいインクの堆積物を溶解させることができる。
また、本発明を、記録用紙にインクを噴射して画像等を記録するインクジェット式のプリンタに適用したものであるが、本発明の適用対象は、このようなプリンタに限られず、様々な種類の液体をその用途に応じて対象に噴射する、種々の液滴噴射装置に本発明を適用することが可能である。