JP4899183B2 - 蛋白質複合体 - Google Patents

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Description

本発明は、蛋白質複合体に関するものであり、更に詳しくは、表面をアルコール修飾したシリカ系メソ多孔体の細孔内部にヘモグロビン等の蛋白質を備える蛋白質内包複合体及びその用途に関するものである。本発明は、表面をアルコール修飾したシリカ系メソ多孔体の細孔内部にヘモグロビン等の蛋白質の活性を安定に保持して、その機能を発揮することが可能な新規蛋白質−修飾シリカ系メソ多孔体複合体及びその機能性部材としての用途に関する新技術・新製品を提供するものである。
蛋白質の一種であるヘモグロビンなどの酸素運搬蛋白質は、合成錯体では得られない特有の酸素、一酸化炭素、及び一酸化窒素を結合させる機能を有しており、また、環境に負荷を与える心配のない安全な蛋白質であることから、その多様な用途が期待される。しかし、蛋白質は、一般的に、光、酸素、熱、pH、溶媒等に対して敏感であり、それらに晒されるとすぐに変性を起こすなど、生体から取り出し、純粋な化合物にすると、不安定になる傾向がある。
蛋白質は、アミノ酸が連結されてなるポリペプチドが一定の形態に折りたたまれて立体構造を形成し、その立体構造中に活性部位を形成している。例えば、このような構造を有する酵素が不活性化する機構としては、例えば、蛋白質分解酵素により、酵素を構成するポリペプチド鎖が切断される場合や、熱、pH等の外部環境変化により、蛋白質の立体構造が変化し、活性部位が破壊される場合などがある。
これらの酵素の不活性化を防止する方法として、例えば、蛋白質分子内に、S−S結合や、グルタルアルデヒド等による架橋を新たに導入し、蛋白質分子自身の構造をrigidにする試みがなされている。しかし、これらの改変は、各酵素ごとにその方法が異なり、蛋白質の十分な安定性が得られない場合も多く、汎用性が低いという問題点がある。
また、様々な蛋白質の安定化に応用される方法として、例えば、種々の固定化酵素に応用されている蛋白質の固定化手法が提案されている。しかし、例えば、従来の固定化酵素では、蛋白質を直接樹脂等に固定させているため、蛋白質分解酵素により分解されたり、外部環境の変化により立体構造が変化することを防止することができない。また、蛋白質の固定化手法として、例えば、酵素をゲルに封じ込める包括固定化法や、半透性のポリマー被膜により被覆するマイクロカプセル法が提案されている。そして、これらの方法によれば、酵素は、蛋白質分解酵素による分解を受けることがなく、安定性の向上が期待される。
しかしながら、これらの方法においては、酵素と外部を覆う構造体とは、一般的に、分子サイズに合致した形では固定されていないため、酵素をゲル格子や、カプセル内にしっかりと固定できず、酵素が漏出し、失活するという不具合が生じる(特許文献1)。また、これらの方法では、外部環境の変化に伴う酵素の立体構造変化を防止する効果も低い。
一方、特定の成分、例えば、ポリエチレングリコール(特許文献2)や、糖脂質(非特許文献1)で、蛋白質の表面を修飾することにより、酵素の安定化を図る方法が提案されている。しかしながら、これらの方法では、酵素を覆う構造体は、酵素の分子サイズに合致しておらず、構造安定性が不十分であるため、外部環境の変化に伴い酵素の立体構造が変化することを十分に防止することは困難である。
他方、いわゆる人工酵素が提案されており、例えば、金属フタロシアニンを高分子物質に結合させて酵素活性を発現させたもの(特許文献3、特許文献4)、ポルフィリンにイミダゾール基を導入して配位させ、触媒機能を高めようとするもの(非特許文献2)、等が提案されている。これらの手段によれば、酵素の安定性は向上するが、その特異性は天然の酵素にはるかに及ばないという問題がある。そこで、当技術分野においては、蛋白質を安定に保持してその活性を有効に利用することが可能な新しい蛋白質の高度利用技術の開発が強く要請されていた。
特開2000−139459号公報 特開平2−222698号公報 特公平2−5765号公報 特開平2−57260号公報 岡畑ら、Journal of Organic Chemistry、第60巻、2244頁(1995) Science,275,949−951(1997)
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、蛋白質の立体構造及びサブユニット構造を安定に担持することが可能な蛋白質複合体を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、特定のアルコールによって修飾したシリカ系メソ多孔体の細孔内部に、特定の状態で蛋白質を吸着させ、アルコール修飾したシリカ系メソ多孔体の細孔内部に蛋白質を内包させた蛋白質複合体を形成させることにより所期の目的を達成できことを見出し、更に研究を重ねて、本発明を完成させるに至った。本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、アルコール修飾したシリカ系メソ多孔体の細孔内部に、へモグロビン等のサブユニット蛋白質を、安定に、高機能性を保持して、且つ大きな吸着量で吸着担持させた新規蛋白質複合体及びその用途を提供することを目的とするものである。
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)アルコール修飾したシリカ系メソ多孔体の細孔内部に蛋白質を備える蛋白質内包複合体において、蛋白質が前記アルコール修飾したシリカ系メソ多孔体の細孔内壁に吸着されている、蛋白質複合体であって、
前記シリカ系メソ多孔体が、1)ケイ素原子と酸素原子を必須成分として含む化合物の多孔体であり、2)細孔のサイズがメソ孔であり、3)細孔容積が0.1〜1.5mL/gであり、4)比表面積が200〜1500mであり、5)表面にシラノール基(−SiOH基)有すること、前記シラノール基(−SiOH基)が、エタノールで修飾され、エトキシ基を形成していること、前記アルコール修飾シリカ系メソ多孔体の中心細孔直径が、4〜15nmであること、を特徴とする蛋白質複合体。
(2)前記蛋白質が、前記シリカ系メソ多孔体の細孔内部で多量体を形成して、高密度に集積している、前記(1)に記載の蛋白質複合体。
)アルコール修飾シリカ系メソ多孔体において、全細孔容積に占める、中心細孔直径の±40%の範囲内の直径を有する細孔の全容積の割合が60%以上である、及び/又は1nm以上のd値に相当する回折角度に1本以上のピークを有するX線回折パターンを示す、前記(1)に記載の蛋白質複合体。
)前記アルコール修飾シリカ系メソ多孔体に吸着させた蛋白質の重量が、シリカ系メソ多孔体100重量部当たり、0.5〜50重量部である、前記(1)に記載の蛋白質複合体。
)前記(1)から()のいずれかに記載の蛋白質複合体を製造する方法であって、前記シリカ系メソ多孔体をアルコールで表面修飾したアルコール修飾シリカ系メソ多孔体を得る工程と、前記アルコール修飾シリカ系メソ多孔体の細孔内壁に蛋白質を吸着させる工程とを含むこと、前記シリカ系メソ多孔体が、1)ケイ素原子と酸素原子を必須成分として含む化合物の多孔体であり、2)細孔のサイズがメソ孔であり、3)細孔容積が0.1〜1.5mL/gであり、4)比表面積が200〜1500mであり、5)表面にシラノール基(−SiOH基)有すること、前記シラノール基(−SiOH基)が、エタノールで修飾され、エトキシ基を形成していること、前記アルコール修飾シリカ系メソ多孔体の中心細孔直径が、4〜15nmであること、を特徴とする蛋白質複合体の製造方法。
)前記(1)から()のいずれか1項に記載のアルコール修飾したメソ多孔体の細孔内部に蛋白質を内包させた蛋白質複合体を機能性成分として含むことを特徴とする蛋白質の活性を安定に有する機能性部材。
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、アルコール修飾したシリカ系メソ多孔体の細孔内部に蛋白質を備える蛋白質内包複合体であって、蛋白質が前記アルコール修飾したシリカ系メソ多孔体の細胞内壁に吸着されていること、更には、蛋白質が前記シリカ系メソ多孔体の細孔内部で多量体を形成して、高密度に集積した蛋白質として、前記アルコール修飾したシリカ系メソ多孔体の細孔内壁に吸着されていること、を特徴とするものである。ここで、高密度に集積した蛋白質とは、ヘモグロビン等の蛋白質が多量体を形成して高度に集積化していることを意味する。
次に、本発明の蛋白質複合体を、ヘモグロビン複合体を代表例として説明する。しかし、本発明で用いられる蛋白質は、ヘモグロビンに限定されるものではなく、本発明では、ヘモグロビン複合体に準じて、他の蛋白質についても同様に作製及び利用することが可能である。本発明は、シリカ系メソ多孔体の細孔内部にヘモグロビンを備えるヘモグロビン複合体であって、前記ヘモグロビンは、前記細孔内部で多量体を形成しており、該多量体は、高密度に集積して、前記シリカ系メソ多孔体の細孔内壁に吸着していることを特徴とするものである。
本発明のヘモグロビン複合体は、多孔質で表面積の非常に大きいアルコール修飾シリカ系メソ多孔体を使用し、該アルコール修飾シリカ系メソ多孔体の細孔内部にヘモグロビンを吸着させたものであり、それにより、アルコール修飾していないシリカ系メソ多孔体と比較して、ヘモグロビンの吸着量を著しく増大させることができる。また、このヘモグロビン複合体では、アルコール修飾シリカ系メソ多孔体の細孔中でヘモグロビンの多量体を形成させ、更に、その立体構造を、メソ多孔体の細孔内壁によって吸着、保持できるために、ヘモグロビンの安定性を顕著に向上させることが可能になる。
本発明の蛋白質複合体においては、前記立体構造が、前記アルコール修飾シリカ系メソ多孔体の細孔内壁に囲まれる状態で維持されることにより、ヘモグロビンの安定性をより向上させることができる。ヘモグロビンは、前記アルコール修飾シリカ系メソ多孔体の細孔内に効率よく吸着され、また、その立体構造が、シリカ系メソ多孔体の細孔内で保持されるため、特に安定化される傾向となる。
また、本発明では、アルコール修飾シリカ系メソ多孔体における細孔の中心細孔直径は、3〜6nmであることが好ましい。細孔の中心細孔直径を3〜6nmとすることにより、ヘモグロビンの立体構造の維持が容易となるため、よりヘモグロビンを安定化することができる。
本発明のヘモグロビン複合体においては、前記アルコール修飾シリカ系メソ多孔体の細孔内部に、酸化触媒が更に担持されていることが好ましい。このように、ヘモグロビン複合体に、更に酸化触媒を担持せしめることにより、これを、例えば、濃縮された酸素、一酸化炭素、及び一酸化窒素などを効率よく酸化するための反応に用いることができる。更に、本発明のヘモグロビン複合体においては、酸化触媒を担持させることにより、有機溶媒(例えば、ベンゼン、トルエン等)中で、過酸化脂質を効率よく酸化する酵素活性を付与することができる。
次に、本発明で使用されるアルコール修飾シリカ系メソ多孔体について説明すると、本発明において、アルコール修飾シリカ系メソ多孔体とは、ケイ素原子と酸素原子を必須成分として含む化合物の多孔体であり、細孔のサイズがメソ孔であるものを意味するものとして定義される。ここで、メソ孔とは、中心細孔直径が2〜50nmであるものを言う。なお、中心細孔直径とは、シリカ系メソ多孔体の細孔容積(V)を細孔直径(D)で微分した値(dV/dD)を細孔直径(D)に対してプロットした曲線(細孔径分布曲線)の最大ピークにおける細孔直径を意味する。前記アルコール修飾シリカ系メソ多孔体とは、そのシリカ系メソ多孔体の表面のシラノール基(−SiOH基)をアルコールで修飾して、アルコキシ基を形成したものである。
そして、上述の細孔分布曲線は、シリカ系メソ多孔体を、液体窒素温度(−196℃)に冷却して窒素ガスを導入し、定容量法によりその吸着量を求め、次いで、導入する窒素ガスの圧力を徐々に増加させ、各平衡圧に対する窒素ガス吸着量をプロットして吸着等温線を得た後に、Cranston−Inklay法を適用して求めることができる曲線である。
本発明において、上記アルコール修飾シリカ系メソ多孔体の中心細孔直径は、特に、4〜15nmであることが好ましい。中心細孔直径が4nm未満では、ヘモグロビンの細孔内への吸着が不充分となる傾向があり、中心細孔直径が15nmを超えると、ヘモグロビンが効率よく立体構造が保持されない傾向がある。すなわち、シリカ系メソ多孔体の中心細孔直径を上記範囲内にすることにより、ヘモグロビンの吸着を高効率化でき、立体構造の保持も容易となるため、ヘモグロビンを更に安定化することが可能となる。
本発明において、上記アルコール修飾シリカ系メソ多孔体は、0.1〜1.5mL/gの細孔容積を有するものであることが好ましく、また、200〜1500mの比表面積を有するものであることが好ましい。そして、上記シリカ系メソ多孔体は、全細孔容積に占める、中心細孔直径の±40%の範囲内の直径を有する細孔の全容積の割合が60%以上の多孔体であることが好ましい。
ここで、全細孔容積に占める、中心細孔直径の±40%の範囲内の直径を有する細孔の全容積の割合が60%以上とは、例えば、中心細孔直径が3.00nmである場合、この3.00nmの±40%、すなわち、1.80〜4.20nmの範囲にある細孔の容積の合計が、全細孔容積の60%以上を占めていることを意味する。
この条件を満たす多孔体は、細孔の直径が非常に均一であることを意味し、このような細孔配列構造を有するアルコール修飾シリカ系メソ多孔体に蛋白質を吸着させることにより、蛋白質の安定性及び吸着量をより向上させることができる。なお、細孔容積は、上述のように、アルコール修飾シリカ系メソ多孔体を液体窒素温度に冷却して窒素ガスを導入する方法(窒素吸着法)により算出することができる。
本発明において、上記アルコール修飾シリカ系メソ多孔体は、1nm以上のd値に相当する回折角度に1本以上のピークを有するX線回折パターンを示す多孔体であることが好ましい。X線回折パターンでピークが現われる場合は、そのピーク角度に相当するd値の周期構造がアルコール修飾シリカ系メソ多孔体中にあることを意味する。
したがって、1nm以上のd値に相当する回折角度に1本以上のピークがあることは、細孔が1nm以上の間隔で規則的に配列していることを意味する。このように、非常に規則的な細孔配列構造を有するアルコール修飾シリカ系メソ多孔体に蛋白質を吸着させることにより、蛋白質の安定性及び吸着量をより向上させることが可能になる。
本発明では、上述のシリカ系メソ多孔体における、細孔の配列状態(細孔配列構造)は、特に制限されるものではないが、シリカ系メソ多孔体としては、例えば、ヘキサゴナルの細孔配列構造を有するものや、キュービックやディスオーダの細孔配列構造を有するものが例示される。
ここで、シリカ系メソ多孔体がヘキサゴナルの細孔配列構造を有するとは、シリカ系メソ多孔体の細孔の配置が六方構造であることを意味する(Inagaki, et. al., Bull. Chem. Soc. Jpn., 69, 1449 (1996); Q. Huo et. al., Science, 268, 1324 (1995)参照)。ヘキサゴナルの細孔配列構造としては、2d−ヘキサゴナル(2次元ヘキサゴナル)及び3d−ヘキサゴナル(3次元ヘキサゴナル)が挙げられる。本発明において好適に用いることのできる2次元ヘキサゴナルの細孔配列構造を有するアルコール修飾シリカ系メソ多孔体は、2次元ヘキサゴナル配列構造に基づいて、六角柱状の細孔が互いに平行に規則的に形成されている。
シリカ系メソ多孔体がキュービックの細孔配列構造を有するとは、シリカ系メソ多孔体中の細孔の配置が立方構造であることを意味する(J. C. Vartuli et. al., Chem. Mater., 6, 2317, 1994; Q. Huo et.al., Nature, 368, 317, 1994参照)。そして、シリカ系メソ多孔体がディスオーダの細孔配列構造を有するとは、細孔の配置が不規則であることを意味する(P. T. Tanev et. al., Science, 267, 865, 1995; S. A. Bagshaw et. al., Science, 269, 1242, 1995; R. Ryoo et. al., J. Phys. Chem., 100, 17718, 1996参照)。
シリカ系メソ多孔体が、ヘキサゴナルやキュービック等の規則的細孔配列構造を有する場合は、細孔の全てがこれらの規則的細孔配列構造である必要はない。すなわち、シリカ系メソ多孔体は、ヘキサゴナルやキュービック等の規則的細孔配列構造とディスオーダの不規則的細孔配列構造の両方を有していることが可能である。しかしながら、全ての細孔のうち、80%以上は、ヘキサゴナルやキュービック等の規則的細孔配列構造となっていることが好ましい。
本発明において、上記シリカ系メソ多孔体としては、有機基を有するシリカ系メソ多孔体、有機基を有しないシリカ系メソ多孔体が例示される。そして、いずれのシリカ系メソ多孔体の場合においても、ケイ素以外の金属元素(例えば、Al、Zr、Ti等)を更に含むことができる。なお、いずれのシリカ系メソ多孔体であっても、表面にはシラノール基(−SiOH基)が存在している。そのOHをアルコールで修飾したものをアルコール修飾シリカ系メソ多孔体と言う。
有機基を有するシリカ系メソ多孔体とは、シリカ系メソ多孔体を構成するケイ素原子の少なくとも一部に、有機基が、炭素−ケイ素結合を形成することによって結合しているものを言う。有機基としては、例えば、アルカン、アルケン、アルキン、ベンゼン、シクロアルカン等の炭化水素から1以上の水素がとれて生じる炭化水素基や、アミド基、アミノ基、イミノ基、メルカプト基、スルフォン基、カルボキシル基、エーテル基、アシル基、ビニル基等が挙げられる。
シリカ系メソ多孔体は、後記する実施例1に記載されるように、好適には、例えば、乾燥水ガラスを、空気中で焼成し、ジケイ酸ソーダに結晶化させ、この結晶を水に分散させ、その後、濾過して固形分を回収することでカネマイトとして合成されるが、これに制限されるものではない。
次に、本発明で使用される蛋白質について説明すると、本発明の蛋白質複合体においては、蛋白質が使用されるが、ここではヘモグロビンを代表例として説明すると、ヘモグロビンの構造は、図1で表すことができる。シリカ系メソ多孔体に吸着させるヘモグロビンの重量は、シリカ系メソ多孔体100重量部当たり、0.5〜50重量部であることが好ましく、20〜50重量部であることがより好ましい。ヘモグロビンの吸着量が上記範囲である場合、ヘモグロビンのシリカ系メソ多孔体への吸着が効率的に生じ、安定化の程度が向上する。
本発明では、蛋白質は、前記ヘモグロビンに限定されるものではなく、前記アルコール修飾シリカ系メソ多孔体の細孔内壁に吸着し得る全ての蛋白質が対象とされ、好適には、例えば、サブユニット構造を持った蛋白質が例示される。しかし、本発明は、これらに制限されるものではなく、上記アルコール修飾シリカ系メソ多孔体の細孔内壁に吸着し得るものであれば、ヘモグロビンと類似の、あるいはそれ以外の任意の蛋白質に適用される。次に、本発明のヘモグロビン複合体について説明すると、本発明のヘモグロビン複合体は、シリカ系メソ多孔体の細孔内部にヘモグロビンを備えており、前記ヘモグロビンは、前記細孔内部で多量体を形成しており、更に、該多量体は、前記シリカ系メソ多孔体の細孔内壁に吸着して複合体を形成している。
ここで、ヘモグロビンの多量体とは、2以上の蛋白質が、直接に又は水などの低分子を介して、結合してなる化合物を言い、結合には、共有結合、イオン結合、水素結合、配位結合が含まれる。しかし、これらの結合の種類は、特に制限されるものではない。
本発明では、上記蛋白質複合体の製造方法としては、例えば、上記アルコール修飾シリカ系メソ多孔体の粉末と、ヘモグロビン等の蛋白質の水溶液(リン酸バッファpH6.9)とを混合し、25℃程度で数時間震盪させ、その後、遠心分離を行うことで、沈殿物として蛋白質複合体を製造する方法が例示される。本発明では、上記アルコール修飾シリカ系メソ多孔体と、任意の蛋白質を水溶液中で接触させ、室温で数時間混合、撹拌することで、上記蛋白質複合体を製造することができる。図2は、図1に示すシリカ系メソ多孔体の細孔内部にヘモグロビンを備える、ヘモグロビン複合体を模式的に示す斜視図である。なお、図2は、図1のシリカ系メソ多孔体の中心部分の細孔のみを拡大して示したものである。
図2に示すヘモグロビン複合体において、シリカ系メソ多孔体の細孔内には、ヘモグロビンが存在している。それらは、図2の構造に限定されるものではなく、例えば、多量体を形成している場合もあり得る。
また、本発明のヘモグロビン複合体においては、前記シリカ系メソ多孔体の細孔内部に酸化触媒が更に担持されていることが好ましい。このような酸化触媒としては、好適には、例えば、酸化ルテニウム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化チタン等が挙げられ、これらは、例えば、濃縮された酸素、一酸化炭素、一酸化窒素の酸化反応に用いることができる。
酸化触媒の担持量は、0.1〜5重量%程度が一般的である。更に、このような酸化触媒をシリカ系メソ多孔体の細孔内部に担持させる方法も、特に制限されるものではないが、例えば、シリカ系メソ多孔体を、酸化触媒又はその前駆体の溶液中に入れて攪拌した後、減圧乾燥し、更に必要に応じて、加熱等により前駆体を酸化させることにより、酸化触媒を担持したヘモグロビン複合体を得ることが可能である。上述のように、本発明では、ヘモグロビン複合体を代表例として説明したが、本発明は、上記ヘモグロビン複合体に限定されるものではなく、他の適宜の蛋白質についても同様の手法で蛋白質複合体を作製し、提供することが可能である。
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)アルコール修飾したシリカ系メソ多孔体の細孔内部にヘモグロビンを安定に、且つ大きな吸着量で吸着させたヘモグロビン複合体を提供することができる。
(2)ヘモグロビン複合体と同様に、他の適宜の蛋白質を同様の手法で複合化し、提供することができる。
(3)蛋白質を安定に保持して、その活性を安定、且つ高活性で発揮させることが可能な蛋白質の高度利用技術を提供することができる。
(4)蛋白質の活性を維持して、安定、且つ有効に発揮することが可能な新規機能性部材を提供することができる。
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
本実施例では、シリカ系メソ多孔体の合成を行った。
(合成例)
水ガラス1号271.59gを水828.41gと混合した後、80℃に加熱した。別途、ドコシルトリメチルアンモニウムクロライド80gを70℃の水1リットルに添加し、溶解後、トリイソピルベンゼン70ml(60g)を更に添加し、ホモミキサーで30分攪拌した。この乳化液を水ガラス溶液に瞬時に添加して、更に5分攪拌した。これに2規定塩酸を約1時間かけて添加し、pH8.5の状態で、約3時間攪拌した。これを吸引濾過した後、70℃の熱水に再分散・濾過を繰り返し、濾液の伝導度が100μS/cm以下であることを確認した。これを45℃で3日間乾燥した後、550℃で6時間焼成することにより、中心細孔直径6.2nmのシリカ系メソ多孔体を得た。得られたシリカ系メソ多孔体を、以下「大口径FSM」とする。
大口径FSMについて、粉末X線回折及び窒素吸着等温線の測定を行った。粉末X線回折は、理学RAD−B装置を用いて測定し、窒素吸着等温線は、液体窒素温度において、定容積法により求めた。X線回折パターンにより、大口径FSMは、2次元ヘキサゴナルの細孔配列構造を有していることが分かった。また、窒素吸着等温線からCranston−Inklay法で計算した細孔分布曲線によると、全細孔容積に占める、中心細孔直径の±40%の範囲内の直径を有する細孔の全容積の割合は、60%以上であることが分かった。
(FSMのエタノール修飾)
エタノール溶媒中(100ml)に、乾燥させた上記シリカ系メソ多孔体(1g)を加えて撹拌し、分散させた後に、100℃で24時間乾留を行った。その後、回収した試料は、45℃で乾燥させた。
孔径が均一なシリカ多孔体は、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウムを鋳型として用いて合成しており、二次元六方構造を有するシリカ多孔体である。これを未修飾試料として取り扱うが、未修飾体の窒素吸着測定から算出した比表面積は1211m−1、孔径は6.2nmであった。粉末X回折(XRD)分析から、得られた表面修飾体は、二次元六方構造を保持していることが確認された。
また、IR測定により、エタノールが表面に結合していると確認された。更に、窒素吸着測定から、有機修飾に伴い得られた表面修飾体の比表面積(1050m−1)、孔径(6nm)は、いずれも減少していることが示された。ここで、細孔容積は、メソ孔表面への修飾を評価するため、相対圧90%での窒素吸着量から算出した。以上から、アルコール修飾することで孔表面を初め、シリカ多孔体の表面全てがアルコールで覆われた表面修飾体が生成したことが明らかとなった。
本実施例では、蛋白質複合体の合成を行った。エタノール修飾FSMの粉末100gと、ヘモグロビンの水溶液(リン酸バッファpH6.9)5mL(ヘモグロビンのモル濃度:6mg/ml)とを混合し、25℃で5時間震盪させた。その後、7000rpmで20分間遠心分離を行い、沈殿物を凍結乾燥した。これにより、ヘモグロビンとFSMとの複合体(以下、「複合体1」という。)を得た。
エタノール修飾FSMに代えて、FSMを用いた他は、実施例1と同様にして、ヘモグロビンと未修飾FSMとの複合体(以下「複合体2」という。)を得た。図1に、ヘモグロビンの構造を模式的に示した説明図を示す。また、図2に、シリカ系メソ多孔体の細孔内部にヘモグロビンを備える、ヘモグロビン複合体を模式的に示した説明図を示す。
(1)吸着量の測定
複合体1と2に対するヘモグロビンの吸着量を測定した。吸着量の測定は、上記遠心分離で得られた上澄みを用いて行った。測定の結果を図3に示す。図3の左の縦軸は、それぞれのシリカ系メソ多孔体100mgに対するヘモグロビンの吸着量、横軸は、吸着平衡濃度を示す。FSM−etoxyはエタノール修飾FSM、FSMは未修飾FSMである。エタノール修飾FSMには、蛋白質が吸着していく様子が伺えるが、未修飾FSMでは、蛋白質の吸着量がエタノール修飾FSMに比べて少ないことが分かる。
(2)窒素吸着の測定
図4の左図に、複合体1の、窒素吸着曲線を示す。エタノール修飾FSMに対し、ヘモグロビンの吸着量の異なる3種類の複合体(エタノール修飾FSM 100mgに対し、ヘモグロビンが、それぞれ、A:0mg B:10mg C:30mgの吸着量)を作り、それぞれについて、窒素吸着特性について調べた。縦軸は、窒素の吸着量を示し、横軸に、そのときの相対圧力を示す。
Aでは、P/P=0.4付近で急激に立ち上がっている。このことは、規則正しい孔が綺麗に開いていること示している。一方、ヘモグロビンが吸着したエタノール修飾FSMでは、ヘモグロビンの吸着量が増えるに従い、非表面積及び細孔容量が減少していることが分かる。このことは、孔の中にヘモグロビンが導入されていることを示している。
(3)細孔分布の測定
図4の右図に、窒素吸着等温線から求めたエタノール修飾FSM、及び複合体1の細孔分布曲線を示す。Aがエタノール修飾FSM、B、C(エタノール修飾FSM 100mgに対し、ヘモグロビンが、それぞれ、B:30mg C:20mgの吸着量)がヘモグロビンエタノール修飾FSMを示す。Aでは、6nm付近にシャープなピークが見られる。一方、ヘモグロビンが吸着したエタノール修飾FSM(B、C)では、ヘモグロビンの吸着量が増えるに従って、細孔容量が減少していることが分かる。
(4)円偏光2色性スペクトルの測定
図5は、円偏光2色性スペクトルであり、複合体1(A)、ヘモグロビン(B)、変性ヘモグロビン(C)である。図5から明らかなように、変性タンパク(C)は吸収がほとんど現れないのに対し、複合体1(A)は、ヘモグロビンと同様に400nm付近に吸収が現れた。これは、複合体1がヘモグロビンが変性せずに細孔の中で安定に存在していることを示している。
(5)一酸化炭素の吸着
(一酸化炭素吸着量評価試験)
ヘモグロビン複合体45mgを水10mlに分散させた分散液を調製した。このヘモグロビン複合体に、一酸化炭素を5分間バブリングした。一酸化炭素をバブリングした後の、ヘモグロビン複合体について、スペクトルを測定した。その結果を図6に示す。
図6によれば、一酸化炭素をバブリングすることでスペクトルが変化しており、一酸化炭素がヘモグロビン複合体に吸着されていることが確認された。これらの結果から、本発明の蛋白質複合体が、一酸化炭素吸着剤として十分に利用できることが分かった。
以上詳述したように、本発明は、蛋白質複合体に係るものであり、本発明によれば、例えば、ヘモグロビンを安定的に十分な吸着量で吸着させた、酸素等の吸着剤として十分に活用することが可能なヘムタンパク複合体を提供することが可能となる。また、本発明の蛋白質複合体の製造方法によれば、例えば、ヘモグロビンを安定的に十分な吸着量で吸着させたヘモグロビン複合体を、効率的、且つ確実に製造することができる。本発明は、ヘモグロビン等の蛋白質の活性を、安定、且つ有効に保持して、その多様な機能性を発揮させることが可能な新規機能性部材を提供することができることから、前記アルコール修飾シリカ系メソ多孔体と任意の蛋白質を利用した新しい蛋白質の高度利用技術を実現するものとして有用である。
ヘモグロビンの構造を模式的に示す説明図である。 シリカ系メソ多孔体の細孔内部にヘモグロビンを備える、ヘモグロビン複合体を模式的に示す説明図である。 シリカ系メソ多孔体に対するヘモグロビンの吸着量を示す説明図である。 ヘモグロビンが導入されたシリカ系メソ多孔体の、窒素吸着曲線(左)と、細孔分布曲線(右)の図である。 円偏光2色性スペクトルの測定結果を示す。 一酸化炭素が吸着したヘモグロビンとヘモグロビンFSMの吸収スペクトルを示す。

Claims (6)

  1. アルコール修飾したシリカ系メソ多孔体の細孔内部に蛋白質を備える蛋白質内包複合体において、蛋白質が前記アルコール修飾したシリカ系メソ多孔体の細孔内壁に吸着されている、蛋白質複合体であって、
    前記シリカ系メソ多孔体が、1)ケイ素原子と酸素原子を必須成分として含む化合物の多孔体であり、2)細孔のサイズがメソ孔であり、3)細孔容積が0.1〜1.5mL/gであり、4)比表面積が200〜1500mであり、5)表面にシラノール基(−SiOH基)有すること、前記シラノール基(−SiOH基)が、エタノールで修飾され、エトキシ基を形成していること、前記アルコール修飾シリカ系メソ多孔体の中心細孔直径が、4〜15nmであること、を特徴とする蛋白質複合体。
  2. 前記蛋白質が、前記シリカ系メソ多孔体の細孔内部で多量体を形成して、高密度に集積している、請求項1に記載の蛋白質複合体。
  3. アルコール修飾シリカ系メソ多孔体において、全細孔容積に占める、中心細孔直径の±40%の範囲内の直径を有する細孔の全容積の割合が60%以上である、及び/又は1nm以上のd値に相当する回折角度に1本以上のピークを有するX線回折パターンを示す、請求項1に記載の蛋白質複合体。
  4. 前記アルコール修飾シリカ系メソ多孔体に吸着させた蛋白質の重量が、シリカ系メソ多孔体100重量部当たり、0.5〜50重量部である、請求項1に記載の蛋白質複合体。
  5. 請求項1からのいずれかに記載の蛋白質複合体を製造する方法であって、前記シリカ系メソ多孔体をアルコールで表面修飾したアルコール修飾シリカ系メソ多孔体を得る工程と、前記アルコール修飾シリカ系メソ多孔体の細孔内壁に蛋白質を吸着させる工程とを含むこと、前記シリカ系メソ多孔体が、1)ケイ素原子と酸素原子を必須成分として含む化合物の多孔体であり、2)細孔のサイズがメソ孔であり、3)細孔容積が0.1〜1.5mL/gであり、4)比表面積が200〜1500mであり、5)表面にシラノール基(−SiOH基)有すること、前記シラノール基(−SiOH基)が、エタノールで修飾され、エトキシ基を形成していること、前記アルコール修飾シリカ系メソ多孔体の中心細孔直径が、4〜15nmであること、を特徴とする蛋白質複合体の製造方法。
  6. 請求項1からのいずれか1項に記載のアルコール修飾したメソ多孔体の細孔内部に蛋白質を内包させた蛋白質複合体を機能性成分として含むことを特徴とする蛋白質の活性を安定に有する機能性部材。
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