車両においてエンジンと駆動輪との間には、エンジンの回転を変速させることで駆動力を変化させる変速機が配設されており、この変速機の1つに変速比を無段階的に変速させることが可能な無段変速機がある。この無段変速機の一例として、平行に配設された2つの回転軸にそれぞれ相対回転不能に取り付けられているプライマリプーリおよびセカンダリプーリと、これらプライマリプーリおよびセカンダリプーリに巻き掛けられた伝動ベルトと、によって主に構成されているベルト式無段変速機がある。プライマリプーリおよびセカンダリプーリは、それぞれ固定シーブおよび可動シーブによって構成され、それぞれの可動シーブが前記回転軸上を軸心方向に移動することで互いのプーリに巻き掛けられている伝動ベルトの掛かり径が変化されて無段階的な変速が可能となる。
図6は、従来のベルト式無段変速機200の構成を説明するための断面図である。ベルト式無段変速機200は、非回転部材であるケース202内において、図示しないエンジンにトルクコンバータ等を介して連結されることで入力側回転部材として機能するプライマリシャフト204と、出力側回転部材として機能するセカンダリシャフト206の2本の回転部材を備えており、そのプライマリシャフト204に相対回転不能に取り付けられているプライマリプーリ208と、セカンダリシャフト206に相対回転不能に取り付けられているセカンダリプーリ210と、これらプライマリプーリ208およびセカンダリプーリ210に巻き掛けられている伝動ベルト211とを、備えている。プライマリプーリ208は、プライマリシャフト204に対して相対回転不能且つ軸心方向の移動不能に固定されている固定シーブ212と、プライマリシャフト204に対して相対回転不能且つ軸心方向の移動可能な可動シーブ214とで、主に構成されている。同様に、セカンダリプーリ210は、セカンダリシャフト206に対して相対回転不能且つ軸心方向の移動不能に固定されている固定シーブ216と、セカンダリシャフト206に対して相対回転不能且つ軸心方向の移動可能な可動シーブ218とで、主に構成されている。このプライマリプーリ208およびセカンダリプーリ210のそれぞれの可動シーブ214、218が軸心方向に移動することで、プライマリプーリ208およびセカンダリプーリ210の溝幅が変化するため、伝動ベルト211の掛かり径が連続的に変化されて、無段階的な変速が可能となっている。
プライマリプーリ208の可動シーブ214は、可動シーブ214の軸心方向において伝動ベルト211側とは反対側に形成されているプライマリ油室220内の油圧に基づく押圧力によって軸心方向に移動させられる。このプライマリ油室220は、可動シーブ214と油室形成部材222によって形成される油密な空間であり、この空間内に所定の油圧を有する作動油が供給されると、その油圧に基づく押圧力によって可動シーブ214が軸心方向に移動させられる。同様にセカンダリプーリ210の可動シーブ218は、可動シーブ218の軸心方向において伝動ベルト211とは反対側に形成されているセカンダリ油室224内の油圧に基づく押圧力によって移動させられる。このセカンダリ油室224は、可動シーブ218と油室形成部材226によって形成される油密な空間であり、この空間内に所定の油圧を有する作動油が供給されると、その油圧に基づく押圧力によって可動シーブ218が軸心方向に移動させられる。
このように構成されるベルト式無段変速機200の変速比が減速側すなわち高変速比側に変速されると、プライマリプーリ208の可動シーブ214が固定シーブ212に対して遠ざかる方向に移動されることで、プライマリプーリ208側に巻き掛けられている伝動ベルト211の掛かり半径が小さくなる。一方、セカンダリプーリ210では、セカンダリプーリ210の可動シーブ218が固定シーブ216に接近する方向に移動されることで、セカンダリプーリ210側に巻き掛けられている伝動ベルト211の掛かり径が大きくなる。このように、それぞれのプーリ208、210に巻き掛けられている伝動ベルト211の掛かり径が変化することで減速側に変速される。ここで、ベルト式無段変速機200の変速比が最大変速比に変速されると、図6に示されるように、プライマリプーリ208の可動シーブ214の側端が油室形成部材222の側壁に当接させられる構造となっている。これにより、最大変速比時の可動シーブ214の位置が機械的に決定されることで、伝動ベルト211の掛かり径が幾何的に決定される。
ところで、この可動シーブ214は、ベルト211より、ベルト211が巻き掛けられている側の角度範囲(ベルト211と接する側)において大きな押圧力を受け、それに続いて反対側では押圧力は小さくなり、プライマリシャフト204が一回転する間に押圧力が変化して大きな押圧力振幅を受ける。その押圧力を可動シーブ214はそのまま油室形成部材222を押圧するため、この押圧力がプライマリシャフト204を回転可能に支持する軸受228および油室形成部材222等を固定するためのナット230にも同様に負荷され、この押圧力によってナット230等の耐久性が低下する恐れがあった。
これに対して、特許文献1では、最大変速比に変速されたとき、プライマリシャフトに軸心方向の移動不能に嵌め付けられたストッパと可動シーブが当接することで、ナット等が押圧されることを阻止している。
図1は、本発明が好適に適用された車両用動力伝達装置10の骨子図である。この車両用動力伝達装置10は、横置き型の自動変速機であって、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両に好適に採用されるものであり、走行用の駆動源としてエンジン12を備えている。内燃機関にて構成されているエンジン12の出力は、エンジン12のクランク軸、流体伝動装置としてのトルクコンバータ14から前後進切換装置16、入力軸36、ベルト式無段変速機(CVT)18、減速歯車装置20を介して終減速機22に伝達され、左右の駆動輪24L、24Rに分配される。
トルクコンバータ14は、エンジン12のクランク軸に連結されたポンプ翼車14p、およびタービン軸34を介して前後進切換装置16に連結されたタービン翼車14tを備えており、流体を介して動力伝達を行うようになっている。また、それらのポンプ翼車14pおよびタービン翼車14tの間には、ロックアップクラッチ26が設けられており、図示しない油圧制御装置の切換弁などよって係合側油室および解放側油室に対する油圧供給が切り換えられることにより、係合または解放されるようになっており、完全係合されることによってポンプ翼車14pおよびタービン翼車14tは一体回転させられる。上記ポンプ翼車14pには、ベルト式無段変速機18を変速制御したりベルト狭圧力を発生させたり、或いは各部に潤滑油を供給したりするための油圧を発生させる機械式のオイルポンプ28が設けられている。
前後進切換装置16は、ダブルピニオン型の遊星歯車装置を主体として構成されており、トルクコンバータ14のタービン軸34はサンギヤ16sに一体的に連結され、ベルト式無段変速機18の入力軸36は、キャリヤ16cに一体的に連結されている一方、キャリヤ16cとサンギヤ16sは前進用クラッチC1を介して選択的に連結され、リングギヤ16rは後進用ブレーキB1を介してハウジングに選択的に固定されるようになっている。前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1は、何れも油圧シリンダによって摩擦係合させられる油圧式摩擦係合装置であり、図2に示されるように、前進用クラッチC1が係合させられると共に後進用ブレーキB1が解放されることにより、前後進切換装置16は一体回転状態とされることにより前進用動力伝達経路が成立させられて、前進方向の駆動力がベルト式無段変速機18側へ伝達される一方、後進用ブレーキB1が係合させられると共に前進用クラッチC1が解放されることにより、前後進切換装置16は後進用動力伝達経路が成立させられて、入力軸36はタービン軸34に対して逆方向に回転させられるようになり、後進方向の駆動力がベルト式無段変速機18側へ伝達される。また、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1が共に解放されると、前後進切換装置16は動力伝達を遮断するニュートラル(遮断状態)状態になる。
ベルト式無段変速機18は、入力軸36に設けられている入力側部材である有効径が可変の入力側可変プーリ42と、出力軸44に設けられている出力側部材である有効径が可変の出力側可変プーリ46と、それらの可変プーリ42、46に巻き掛けられた摩擦接触する動力伝達部材として機能する伝動ベルト48とを備えており、可変プーリ42、46と伝動ベルト48との間の摩擦力を介して動力伝達が行われる。可変プーリ42および46は、入力軸36および出力軸44にそれぞれ固定された固定シーブ42aおよび46aと、入力軸36および出力軸44に対して軸心まわりの相対回転不能且つ、軸心方向の移動可能に設けられた可動シーブ42bおよび46bと、それらの間のV溝幅が可変とする推力を付与する入力側油圧機構42cおよび出力側油圧機構46cとを備えて構成されており、入力側可変プーリ42の油圧シリンダの油圧が制御されることにより、両可変プーリ42、46のV溝幅が変化して伝動ベルト48の掛かり径(有効径)が変更され、変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が連続的に変化させられる。
図3は、図1の車両用動力伝達装置10の一部であるベルト式無段変速機18の構成を説明するための要部断面図である。ベルト式無段変速機18は、非回転部材であるミッションケース12内において、互いに平行に配設されている入力回転部材である入力軸36および出力回転部材である出力軸44、入力軸36に相対回転不能に設けられている入力側可変プーリ42、出力軸44に相対回転不能に設けられている出力側可変プーリ46、およびこれらの入力、出力側可変プーリ42、46にそれぞれ巻き掛けられて互いのプーリ42、46を作動的に連結する伝動ベルト48を備えている。なお、本実施例の入力軸36が本発明のプライマリシャフトに対応しており、出力軸44が本発明のセカンダリシャフトに対応しており、入力軸可変プーリ42が本発明のプライマリプーリに対応しており、出力側可変プーリ46が本発明のセカンダリプーリに対応している。
入力軸36は、軸受52および軸受54等によって回転可能に支持されており、図1に示すエンジン12の駆動力がトルクコンバータ14および前後進切換装置16を介して伝達されることで回転駆動される。出力軸44は、軸受56、58等によって回転可能に支持されており、入力軸36の回転が伝動ベルト48を介して作動的に伝達されることで回転させられる。なお、この出力軸44の出力が、図1に示す減速歯車装置20および終減速機22を介して左右の駆動輪24に伝達される。
入力軸36には、入力側可変プーリ42が相対回転不能に設けられている。入力側可変プーリ42は、入力軸36に対して相対回転不能且つ軸心方向の移動不能に固定されている固定シーブ42aと、入力軸36に対して相対回転不能且つ軸心方向の移動可能に嵌め付けられている可動シーブ42bとを備えている。固定シーブ42aは、入力軸36と一体成形された略円板状の部材であり、伝動ベルト48が巻き掛けられる側の壁面には所定の勾配を有する斜面60が形成されている。可動シーブ42bは、入力軸36に軸心方向の移動可能に嵌め付けられている。また、可動シーブ42bは、入力軸36の外周面に摺動可能に嵌め付けられている円筒状の内側筒部62と、その内側筒部62の固定シーブ42a側の端部から径方向外側に向かって伸びる略円板状の接続部64と、その接続部64の外周部から固定シーブ42aに隔離する方向に伸びる外側筒部66とを、備えている。なお、本実施例の固定シーブ42aが本発明の第1の固定シーブに対応しており、可動シーブ42bが本発明の第1の可動シーブに対応している。
接続部64の固定シーブ42a側の側壁には、斜面60と同じ勾配を有する斜面68が形成されている。これらの斜面60および斜面68によってV字状のV溝が形成され、そのV溝に伝動ベルト48が巻き掛けられている。ここで、可動シーブ42bが軸心方向に移動することで、前記V溝の溝幅が変化して伝動ベルト48の掛かり径(有効径)が変更され、変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が連続的に変化させられる。なお、図3の実線に示す入力側可変プーリ42側の伝動ベルト48の掛かり径が最小値となっている状態が、変速比γが最大変速比に変速された状態に対応しており、一点鎖線で示す伝動ベルト48の掛かり径が最大値となっている状態が、変速比γが最小変速比に変速された状態に対応している。
この可動シーブ42bは、可動シーブ42bの伝動ベルト48側とは反対側に形成されている第1油室70および第2油室72の油圧に基づく押圧力によって軸心方向に移動させられる。第1油室70および第2油室72には、入力軸36内に軸心と平行に形成されている供給油路74、およびその供給油路74に径方向に形成されている供給油路76、78を通って作動油が供給される。なお、この作動油の油圧は、図示しない電子制御装置によって制御されるリニアソレノイドバルブなどによって適宜調圧制御される。
図4は、図3の第1油室70、第2油室72等で構成される入力側油圧機構42cの構造を説明するために拡大した要部断面図である。第1油室70は、可動シーブ42bおよびその可動シーブ42bに沿うように配設されている第1油室形成部材80に囲まれて形成されている。第1油室形成部材80は、軸受52および後述する第2油室形成部材82とともにナット84が締結されることで軸心方向の移動不能に固定されている。また、第1油室形成部材80は、入力軸36から径方向に伸びる内側壁部86と、その内側壁部86の外周部から軸心と平行に伸びる円筒部88と、その円筒部88の端部から径方向外側に伸びる外側壁部90によって構成されている。この外側壁部90の外周縁には、オイルシール92が配設されており、外周壁部90の外周縁と可動シーブ42bの外側筒部66の内周面との間からの作動油の漏洩が阻止されている。これにより、第1油室70内は油密に保たれている。第1油室70には、作動油が供給油路76および、供給油路78から内側筒部62を貫通するように形成されている連通油路94を通って供給される。この作動油の油圧に基づいて押圧力が発生し、可動シーブ42bが押圧されて軸心方向に移動させられる。なお、本実施例の第1油室70が本発明の油室に対応しており、本実施例の第1油室形成部材80が本発明の油室形成部材に対応している。
第2油室72は、軸受52と第1油室形成部材80との間に挟まれるようにして固定されている第2油室形成部材82と、この第2油室形成部材82と第1油室形成部材80との間を仕切るように配設されている仕切部材96と、によって構成されている。第2油室形成部材82は、入力軸36の外周面から径方向に伸びるとともに、軸受52と第1油室形成部材80との間に挟まれることで軸心方向の移動が阻止されている円板状の壁部98と、その壁部98の外周縁から軸心と平行に伸びる円筒部100とで、構成されている。仕切部材96は、第1油室形成部材80の円筒部88の外周面と第2油室形成部材82の円筒部100の内周面との間を軸心方向に摺動可能に配設されている。仕切部材96の内周縁にはオイルシール102が配設されており、この内周縁と第1油室形成部材80の円筒部88との摺動部からの作動油の漏洩が阻止されているとともに、仕切部材96の外周縁にはオイルシール104が配設されており、この外周縁と第2油室形成部材82の円筒部100との摺動部からの作動油の漏洩が阻止されている。これにより、第2油室72内は油密に保たれている。
この第2油室72には、第1油室形成部材80の内側壁部86と円筒部88との接続部近傍に形成され、第1油室70と第2油室72とを連通する連通油路106を介して作動油が供給される。第2油室72に作動油が供給されると、その作動油の油圧に基づいて仕切部材96が軸心方向に移動させらる。そして、可動シーブ42bの外側筒部66の端部が仕切部材96の壁面に当接されているため、外側筒部66を介して可動シーブ42bが軸心方向に移動させられる。このように、可動シーブ42bは、第1油室70および第2油室72の2つの油室より発生する押圧力によって移動させられ、十分な押圧力が確保される。
ここで、図4は、可動シーブ42bが軸心方向において最もナット84側に移動された状態、すなわち変速比γが最大変速比となった状態を示している。この状態において、可動シーブ42bの内側筒部62の側端部と第1油室形成部材80の内側壁部86の壁面との間には常時間隙Lが形成されている。すなわち、この間隙Lは変速比γに拘わらず、常時形成されることとなる。
図3に戻り、出力軸44には、出力側可変プーリ46が相対回転不能に設けられている。出力側可変プーリ46は、出力軸44に対して相対回転不能且つ軸心方向の移動不能に固定されている固定シーブ46aと、出力軸44に対して相対回転不能且つ軸心方向の移動可能に嵌め付けられている可動シーブ46bとを備えている。固定シーブ46bは、出力軸44と一定成形された略円板状の部材であり、伝動ベルト48が巻き掛けられる側の壁面には、所定の勾配を有する斜面108が形成されてる。可動シーブ46bは、出力軸44に軸心方向の移動可能に嵌め付けられている。また、可動シーブ46bは、出力軸44の外周面に摺動可能に嵌め付けられている円筒状の内側筒部110と、その内側筒部110の固定シーブ46a側の端部から径方向外側に向かって伸びる略円板状の接続部112と、その接続部112の外周部から固定シーブ46aに隔離する方向に伸びる外側筒部114とを、備えている。なお、本実施例の固定シーブ46aが本発明の第2の固定シーブに対応しており、可動シーブ46bが本発明の第2の可動シーブに対応している。
接続部112の固定シーブ46a側の側壁には、斜面108と同様の勾配を有する斜面116が形成されている。これら斜面108および斜面116によってV字状のV溝が形成され、そのV溝に伝動ベルト48が巻き掛けられている。ここで、可動シーブ46bが軸心方向に移動することで、前記V溝の溝幅が変化して伝動ベルト48の掛かり径(有効径)が変更され、変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が連続的に変化させられる。なお、図3の実線に示す出力側可変プーリ46側の伝動ベルト48の掛かり径が最大値となっている状態が、変速比γが最大変速比に変速された状態に対応しており、一点鎖線で示す伝動ベルト48の掛かり径が最小値となっている状態が、変速比γが最小変速比に変速された状態に対応している。
この可動シーブ46bは、可動シーブ46bの伝動ベルト48と反対側に形成されている第3油室118の油圧に基づく押圧力によって軸心方向に移動させられる。第3油室118には、出力軸44内に軸心と平行に形成されている供給油路120、およびその供給油路120から径方向に形成されている供給油路122、124を通って作動油が供給される。なお、この作動油の油圧は、図示しない電子制御装置によって制御されるリニアソレノイドバルブなどによって適宜調圧制御される。
図5は、図3の第3油室118等で構成される出力側油圧機構46cの構造を説明するために拡大した要部断面図である。第3油室118は、可動シーブ46bおよびその可動シーブ46bに沿うように湾曲して形成されている第3油室形成部材126に囲まれるようにして形成されている。第3油室形成部材126の外周縁には、オイルシール128が配設されており、第3油室形成部材126の外周縁と可動シーブ46bの外側筒部114の内周面との摺動部からの作動油の漏洩が阻止されている。これにより、第3油室118は油密に保たれている。第3油室形成部材126は、出力軸44と軸受58との間に挟まれて、軸心方向の移動が阻止されている。また、可動シーブ46bと第3油室形成部材126と間には、コイル状のスプリング129が介装されており、可動シーブ46bはスプリング129の弾性力によって、常時伝動ベルト48側に付勢されている。
出力軸44の外周面には、円周上に軸心に平行な複数本の連絡溝130が形成されているとともに、可動シーブ46bの内側筒部110の内周面にも同様に、円周上に軸心に平行な複数本の連絡溝132が形成されている。これらの連絡溝130および連絡溝132は、互いに円周方向において同じ位置に形成されており、これらの連絡溝130、132を跨ぐように複数個のボール134が介装されている。このボール134が介装されることにより、出力軸44と可動シーブ42bとの相対回転が阻止されているとともに、ボール134が回転することで軸心方向への移動が可能となっている。なお、入力側可変プーリ42においても入力軸36および可動シーブ42bは同様の構成となっているため、可動シーブ42bは、入力軸36に対して相対回転不能且つ軸心方向の移動可能とされている。
この第3油室118に図3の供給油路122および供給油路124を通って作動油が供給されると、この作動油の油圧に基づく押圧力が発生し、この押圧力およびスプリング129の弾性力に従って可動シーブ46bが軸心方向に移動させられる。
また、可動シーブ46bの連絡溝132の端部には、段付部136が形成されている。さらに、出力軸44の外周面にも同様の段付部138が形成されている。ここで、図5の状態は、図3の状態と同様に、可動シーブ46bが最も伝動ベルト48側に位置された状態、すなわち変速比γが最大変速比に変速された状態を示している。このような状態においては、図5に示すように、出力軸44の段付部138と可動シーブ46bの段付部136とが互いに当接されるようになっている。すなわち、変速比γが最大変速比に変速されるときには、互いの段付部136、138が当接されることで、可動シーブ46bの軸心方向の位置が決定され、伝動ベルト48の掛かり径が幾何的に決定される。また、この互いの段付部136、138には、押圧力による荷重が負荷されるが、この荷重による応力はそれほど大きなものではなく、しかも構造上この段付部136、138はそれぞれ軸心方向において、十分な強度を有しているため、耐久性には優れたものとなっている。ここで、本実施例では、出力側可変プーリ46側において最大変速時の可動プーリ42b、46bの位置決めが為されるが、図1に示す油圧制御装置139が入力側可変プーリ42側の第1油室および第2油室72の油圧を最大変速比が得られ且つトルク伝達可能な値に好適に制御することで、伝動ベルト48の狭圧力が制御され伝動ベルト48の滑りが抑制される。なお、本実施例の段付部136および段付部138が、本発明のストッパに対応している。
上述のように、本実施例のベルト式無段変速機18によれば、変速比が最大変速比に変速されたときに可動シーブの軸心方向の位置を決定する段付部136、138を出力側可変プーリ46側に設けることで、入力側可変プーリ42側のナット84等の固定部材には位置決めの際に荷重が負荷されないため、入力側可変プーリ42の耐久性低下が抑制される。また、出力側可変プーリ46においても段付部136、138以外の部材には押圧力は負荷されないため、出力側可変プーリ46の耐久性低下は抑制される。
また、本実施例のベルト式無段変速機18によれば、前記変速比が最大変速比に変速されると、出力軸44と可動シーブ46bとの段付部136、138が当接することで位置決めされるため、入力側可変プーリ42側での位置決めが為されず、入力側可変プーリ42側の耐久性低下が抑制される。また、出力側可変プーリ46側においても出力軸44と可動シーブ46bとの段付部136、138が当接するだけであり、これらの段付部136、138においても押圧力による比較的大きな応力は負荷されず、出力側可変プーリ46側の耐久性低下には影響されない。さらに、位置決め構造は段付部136、138を設けるだけであるため、構造が大型化せず、部品点数の増加も抑制される。
また、本実施例のベルト式無段変速機18によれば、入力軸36上を摺動する可動シーブ42bと第1油室形成部材80との間に変速比に拘わらず常時間隙Lが形成されているために、可動シーブ42bによるたとえばナット84等への押圧が阻止されて、ベルト式無段変速機18の耐久性の低下が抑制される。
また、本実施例のベルト式無段変速機18によれば、可動シーブ42bの内側筒部62の側端部と第1油室形成部材80の内側壁部86の壁面との間に間隙Lを形成したことで、伝動ベルト48の反力が内側筒部86に伝達されないため、入力軸36が一回転する間に伝動ベルト48の反力に起因する押圧力が変化して発生する押圧力振幅が防止される。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
たとえば、本実施例の車両用動力伝達装置10は、FF型車両に適用されるものであったが、特に車両の形式はFF型車両に限定されるものではなく、FR型車両など、他の形式の車両に備えられるベルト式無段変速機であっても本発明は適用することができる。
また、本実施例の可動シーブ42b、46bは、それぞれ入力軸36および出力軸44と可動シーブ42b、46bとの間にボールを介装することにより相対回転不能且つ軸心方向の移動可能としているが、たとえば可動シーブ42b、46bと入力軸36および出力軸44との間にスプラインを設けるなど、可動シーブ42b、46bは入、出力軸36、44に対して相対回転不能且つ軸心方向の移動可能に保持されるのであれば、他の方法で保持しても構わない。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
18:ベルト式無段変速機 36:入力軸(プライマリシャフト) 42:入力側可変プーリ(プライマリプーリ) 42a:固定シーブ(第1の固定シーブ) 42b:可動シーブ(第1の可動シーブ) 44:出力軸(セカンダリシャフト) 46:出力側可変プーリ(セカンダリプーリ) 46a:固定シーブ(第2の固定シーブ) 46b:可動シーブ(第2の可動シーブ) 48:伝動ベルト 70:第1油室(油室) 80:第1油室形成部材(油室形成部材) 136:段付部(ストッパ) 138:段付部(ストッパ) L:間隙