JP4892801B2 - 透明無機蒸着膜層を有する生分解性フィルム積層体および袋状物 - Google Patents

透明無機蒸着膜層を有する生分解性フィルム積層体および袋状物 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、生分解性フィルム積層体に関するものであり、より特定的には、透明無機薄膜層を設けた生分解性ポリ乳酸フィルム積層体に関する。さらには、本発明により得られた生分解性フィルム積層体を用いた袋状物に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年の環境問題に対する意識の高まりから、天然素材または生分解性構成素材を利用した商品の開発が盛んに行われている。
【0003】
このような世の中の流れから、包装材料用など様々な分野でポリL乳酸フィルムの検討が実施されている。包装材料のうち、特に食品包装の分野では内容物を酸素による酸化に起因する風味の変化から守るため、ガスバリア性持つフィルムが用いられることが多い。また、近年内容物が見えるように酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化珪素/アルミニウム混合膜を施した透明無機膜が提案されている。
【0004】
しかしながら、ポリ乳酸フィルムに上記透明絵無機膜を設けようとすると、無機膜層とポリ乳酸フィルムとの接着性が低く、無機膜層とポリ乳酸フィルム間で層間剥離し、ガスバリア性包装体としての機能を十分果たせないことがあった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
この発明の主目的は、層間接着力が高く、なおかつ生分解性の高い透明無機膜層を持つフィルム積層体を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、透明無機膜層(A)、L-乳酸とD-乳酸のモル比(L/D)が1〜9、反応性又は極性基濃度が100〜500当量/106gである脂肪族ポリエステルを含むことを特徴とするアンカー層(B)、生分解性フィルム層(C)、が積層されたことを特徴とする生分解性フィルム積層体である。また、本発明は上記の生分解性積層体を用いたことを特徴とする袋状物である。
【0007】
まず、アンカー層に関して説明する。本発明に用いられるアンカー層は、脂肪族ポリエステルを非ハロゲン系有機溶剤に溶解させたアンカー剤をフィルム上に塗布することにより設置される。
アンカー剤に用いられる脂肪族ポリエステルは乳酸残基を好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、特に好ましくは90モル%以上、最も好ましくは95モル%以上含む。乳酸残基が60モル%未満であると、良好な接着強度、良好な生分解性が得られないことがある。また、上記脂肪族ポリエステルの乳酸残基の含有量は接着性の面から99.99モル%以下であることが好ましい。
また、重量では、上記脂肪族ポリエステルは乳酸残基を好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上含有していることが好ましい。
【0008】
上記脂肪族ポリエステル中の乳酸残基のL−乳酸とD−乳酸のモル比(L/D)は、1〜9の範囲にあることが好ましい。L/Dが1よりも小さいとき、すなわちD−乳酸過剰であると、コスト的に高くなってしまうことがある。またL/Dが9を越えてしまうと、非ハロゲン系の汎用溶剤に対する溶解性が悪化し、アンカー剤が塗工し難くなることがある。
【0009】
ポリエステル中のL−乳酸とD−乳酸のモル比は、仕込み量から求めているが、ポリエステル中のL−乳酸とD−乳酸のモル比を旋光光度計(堀場製作所SEPA−200)を用いて決定したものと同じであることを確認した。
【0010】
前記、非ハロゲン系剤とはメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、テトロヒドロフラン、ジエチルエーテル等のエーテル系溶剤等が挙げられる。
【0011】
上記脂肪族ポリエステルの還元粘度は0.3〜1.0dl/gであることが好ましい。還元粘度が0.3dl/g未満であると、コーティング時にハジキが生じたり、接着強度不足が生じたりすることがある。また、還元粘度が1.0dl/gを超えると、コーティング液の粘度が高くなり、コーティング適性が悪化することがある。
【0012】
尚、当該還元粘度は、サンプル濃度0.125g/25ml、測定溶剤クロロホルム、測定温度25℃で、ウベローデ−粘度管を用いて測定した値である。
【0013】
上記脂肪族ポリエステルのガラス転位温度Tgは35〜60℃の範囲にあることが好ましい。Tgが35℃未満であると、蒸着膜の接着強度が不十分となることがあり、Tgが60℃を越えると、蒸着膜にクラックが生じ易くなり、意匠性やガスバリア性に劣ることがある。Tgの好ましい下限は38℃であり、さらに好ましい下限は40℃である。また、Tgの好ましい上限は57℃であり、さらに好ましい上限は55℃である
【0014】
尚、Tgは樹脂10mgをアルミニウムパンに取り、アルミニウム蓋をかぶせて強くクリンプし、これをDSC(示差走査熱量計)法により10℃/分の昇温速度で測定した値である。
【0015】
脂肪族ポリエステルの反応性又は極性基の濃度は100〜500当量/106gの範囲にあることが必要である。反応性又は極性基の濃度が100当量/106g未満であると良好な無機蒸着膜との密着性が得られないことがある。また500当量/106gを越えると耐水性が悪化してしまうことがある。
反応性基とは、他の基と反応して共有結合可能な基であり、たとえば、水酸基、エポキシ基、アミノ基、イミノ基、カルボン酸基、などが挙げられる。また極性基としては、たとえば水酸基、アミノ基、イミノ基、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基、これらの塩(アミノ基、イミノ記の場合は塩素、臭素等のバロゲン塩、酢酸塩など、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基の場合はカリウム、ナトリウム等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩など)の基などが挙げられる。これら反応性基又は局性基の中では水酸基が高い密着性が得られる点で好ましい。
これらの基の濃度は仕込量からの計算、滴定、等公知の様々な方法で測定することができる。
【0016】
なお、水酸基を例にして反応性基の濃度の求め方を説明すると、水酸基の濃度は仕込量より計算した値(反応に添加する多価アルコールやポリグリセリンの水酸基価から算出)に酸価を測定して得られた酸価(ラクチドの分解による酸価=ラクチドの分解による水酸基価)を足して求めても良いし、さらには、過剰のフェニルイソシアネートを加え樹脂水酸基を反応させ、次に未反応のフェニルイソシアネートを過剰のジエチルアミンと反応させ、未反応ジエチルアミン量を酸により滴定する等の滴定法で求めることもできる。
【0017】
これらの基を導入する方法を以下に例示する。
水酸基を例に取ると、水酸基濃度を上記範囲にする方法としては、例えば、分子量自体を調整して合わせる方法、ラクチドを用いてポリ乳酸を重合する際や、重合中に多価アルコール化合物を添加する方法、ポリ乳酸を重合後、多価アルコールを加えて解重合する方法、ヒドロキシ基含有エポキシ化合物等と反応させて末端部に複数の水酸基を導入する方法等が挙げられる。
【0018】
多価アルコール化合物としては、ポリグリセリン、ポリビニルアルコール、ソルビトール、グルコース、ガラクトース等糖類、ペンタエリスリトールなどが挙げられる。これらの中でもポリグリセリンが好ましい。
【0019】
ポリグリセリンの重合度は3〜20が好ましく、より好ましくは5以上であり、上限はより好ましくは15以下である。重合度が3未満では、良好な無機蒸着膜への密着性が得られないことがある。またポリグリセリンの重合度が20を越えると、耐水性が悪化してしまうことがある。
【0020】
ポリグリセリンの含有量は脂肪族ポリエステル中20重量%以下が好ましく、より好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下、特に好ましくは3重量%以下である。また、ポリグリセリンの含有量は好ましくは0.01重量%以上、より好ましくは0.05重量%以上、さらに好ましくは0.1重量%以上、特に好ましくは0.2重量%以上である。
ポリグリセリンの含有量が20重量%を越えると耐水性が悪化してしまうことがある。また、0.01重量%未満では、無機蒸着層の接着力が低下することがある。
【0021】
水酸基以外では、アミノ基の場合の例としては、ポリアリルアミン、ポリメタリルアミン、ポリNエチルアミノアクリレート等、ジエタノールアミン等の存在下にラクチドを開環重合させる方法が挙げられる。
イミノ基の場合の例としては、ポリエチレンイミン等の存在下にラクチドを開環重合させる方法が挙げられる。
カルボン酸基の場合の例としては、ポリ(メタ)アクリル酸などの存在下にラクチドを開環重合させる方法が挙げられる。
スルホン酸基の場合には、スルホイソフタル酸等の存在下にラクチドを開環重合させる方法等が挙げられる。
【0022】
アンカー剤に用いられる脂肪族ポリエステルにおいて、乳酸以外に他のオキシ酸、ジカルボン酸とジオールからなるポリエステルを共重合しても良い。共重合可能な乳酸以外のオキシ酸としては、グリコール酸、2−ヒドロキシイソ酪酸、3−ヒドロキシ酪酸、16−ヒドロキシヘキサデカン酸、2−ヒドロキシ−2−メチル酪酸、12−ヒドロキシステアリン酸、4−ヒドロキシ酪酸、10−ヒドロキシステアリン酸、リンゴ酸、クエン酸、グルコン酸等が挙げられる。また、カプロラクトンのようなヒドロキシ酸の分子内エステル、ラクチドのようなα−オキシ酸から水分子を失って生成した環状エステルも用いられる。
【0023】
ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸などが挙げられ、ジオールとしてはエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオールなどが挙げられる。なお、ジカルボン酸とジオールからなるポリエステルを共重合させた場合の乳酸の含有量(モル%)の算出は、ジカルボン酸、ジオールを個々の単位として計算する。また、ポリグリセリンもポリオール成分としてモル数計算に入れ算出する。
【0024】
次に、脂肪族ポリエステルの製造方法について説明する。
脂肪族ポリエステルの製造方法としては、特に限定されず、従来の公知の方法を用いることができる。例えば、乳酸の二量体であるラクチドと、他のオキシ酸等を溶融混合し、公知の開環重合触媒(たとえばオクチル酸スズ、アルミニウムアセチルアセトナート)を使用し、加熱開環重合させる方法や加熱および減圧により直接脱水重縮合を行う方法等が挙げられる。
【0025】
アンカー剤には、必要に応じて、多官能イソシアネート、多官能エポキシ、メラミン等の架橋剤、粘度調整剤、劣化防止剤、着色料等を配合することができる。
特には、脂肪族系のイソシアネートが好ましい。脂肪族系のイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、水添トルイレンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネートなどが挙げられ、これらの3量体がとくに好ましい。
本発明のアンカー剤は、生分解性の面から、上記脂肪族ポリエステルを固形分中に70重量%以上、さらには80重量%以上、特には90重量%以上含むことが好ましい。
【0026】
アンカー剤は生分解性のフィルム、好ましくはポリ乳酸フィルムに塗布される。塗布方法としては特に限定されず、リバースロールコーター、グラビアコーター、マイクログラビアコーター、コンマコーター、バーコーター、エアドクターコーター等公知の方法が用いられる。
【0027】
アンカー剤層の膜厚は特に限定されないが、0.01μm以上、2.0μm以下が好ましく0.01μm未満であるとフィルムと薄膜層の密着強度が十分に得られず、2.0μmを越えると薄膜層を真空蒸着により成型する際に薄膜層に微細なクラックが発生し、外観上好ましくなくなる場合がある。また、包装材として用いる場合、ガスバリア性が低下することがある。
【0028】
また、フィルムにアンカーコート剤を塗工する際には、フィルムの延伸前にアンカー剤をコートしその後延伸するインラインコートであってもかまわないし、延伸後別工程で塗工するオフラインコートであってもよい。
ポリ乳酸フィルム(C)としては、ポリL酸フィルム、特にはL乳酸含有率が97モル%以上の光学純度のものが好ましく、99モル%以上のものがさらに好ましい。
【0029】
さらに、アンカー剤がコートされたフィルムには透明無機膜層が施される。
透明無機膜層としては、無機酸化物の蒸着膜が好ましい。蒸着膜の無機酸化物としては、酸化珪素薄膜、酸化アルミニウム薄膜、酸化珪素と酸化アルミニウムの2元系の薄膜などが好ましい。
【0030】
ここで言う透明無機膜としては、光透過性の金属光沢を持たない無機膜であって、透明蒸着膜を設ける前の全光線透過率(JIS K7105に準拠して測定)をa、基材に透明蒸着膜を設けた後の全光線透過率(JIS K7105に準拠して測定)をbとした際、b/aが0.25以上のものが好ましく、より好ましくは0.5以上、さらに好ましくは0.6以上、特に好ましくは0.7以上、最も好ましくは0.8以上になるものが望ましい。
【0031】
透明無機膜を設けた積層体としては、積層体の全光線透過率(JIS K7105に準拠して測定)で25%以上であることが好ましく、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは60%以上、特に好ましくは70%以上、最も好ましくは80%以上である。全光線透過率が25%未満であると、包装体等として用いた場合に内容物が見えにくく、好ましくない。
【0032】
酸化硅素薄膜とはSi、SiO、SiO2等から成り立っていると考えられ、これらの比率も作成条件異なる。この成分中に、特性が損なわれない範囲で微量(全成分に対して3%程度まで)の他成分を含んでもよい。
酸化アルミニウム薄膜とはAl、AlO、Al23等から成り立っていると考えられ、これらの比率も作成条件で異なる。この成分中に、特性が損なわれない範囲で微量(全成分に対して3%程度まで)の他成分を含んでもよい。
酸化硅素と酸化アルミニウムの2元系薄膜とは酸化アルミニウムと酸化硅素の混合物、あるいは化合物等とから成り立っていると考えられる。ここでいう酸化アルミニウムとは、Al,AlO,Al23等の各種アルミニウム酸化物の混合物から成り立ち、酸化アルミニウム内での各々の含有率等は作成条件で異なる。酸化珪素とは、Si,SiO,SiO2 等から成り立っていると考えられ、これらの比率も作成条件で異なる。本発明における該薄膜の酸化アルミニウムの比率としては、20重量%以上、99重量%以下であって、好ましくは30重量%以上、95重量%以下である。また、この成分中に、特性が損なわれない範囲で微量(全成分に対して3%程度まで)の他成分を含んでもよい。
【0033】
これら薄膜の厚さとしては、特にこれを限定するものではないが、ガスバリア性及び可尭性の点からは、5−800nmが好ましく、更に好ましくは7−500nmである。
【0034】
かかる無機酸化物薄膜の作成には、真空蒸着法、スパッター法、イオンプレーテイングなどのPVD法(物理蒸着法)、あるいは、CVD法(化学蒸着法)などが適宜用いられる。例えば、真空蒸着法においては、蒸着源材料として、酸化珪素薄膜の場合にはSiOやSiとSiO2の混合物等が用いられ、酸化アルミニウム薄膜の場合にはAlやAl23等 が用いられ、酸化珪素と酸化アルミニウムの2元系薄膜の場合にはAl23とSiO2やAlとSiO2等が用いられる。また、加熱方式としては、抵抗加熱、高周波誘導加熱、電子ビーム加熱等を用いることができる。また、反応性ガスとして、酸素、窒素、水蒸気等を導入したり、オゾン添加、イオンアシスト等の手段を用いた反応性蒸着を用いてもよい。また、基板にバイアス等を加えたり、基板温度を上昇、あるいは、冷却したり等、本発明の目的を損なわない限りに於て、作成条件を変更してもよい。スパッター法やCVD法等のほかの作成法でも同様である。また、本発明品は、そのままで使用されてもよいが、他の生分解性のフィルム、または薄層をラミネートまたはコーティングして使用してもよい。
【0035】
このようにして得られた、無機薄膜膜を設けた生分解性フィルム積層体は、高い酸素遮断性能、高い水分遮断性能を持ち、かつ透明であり、加えて高い生分解性を持つだけでなく、無機薄膜と基材との間にアンダーコート層を設けているために高い層間接着力を持ち、皺や折り曲げなどによっても基材フィルムと無機薄膜層とが剥離することないため、様々な取り扱い後も高度のバリア性を保持する。
【0036】
酸素透過率は5.0cc/m2・24hrs 以下で、水分透過率は5.0g/m2・24hrs 以下であることが好ましい。
本発明の生分解性フィルム積層体は、和洋菓子、水産絞り製品、干し物、もち、佃煮などの包装に用いることが出来る。本発明の脱酸素剤入り包装用包装材料の使用形態としては、袋、フタ材、カップ、チューブ、スタンディングバッグ、トレイなどがある。ヒートシール層は袋、チューブ、スタンディングバッグなどの用途の場合には必要となる。更に、装飾または、内容物の説明のために印刷を施したり、意匠用フィルムあるいは、補強剤等と張り合わせてもよい。又、ゲルボ特性をはじめとする機械特性が優れているため、ラミネート工程、印刷工程、製袋工程での劣下が少なく、袋化したのちも、その取り扱いに対して、必要以上に注意を要しない。
【0037】
【実施例】
ポリエステルの製造例1
DLラクチド1000部、重合度が10であるポリクリセリン(ダイセル化学PGL10:水酸基濃度850KOHmg/g)10部、開環重合触媒として、アルミニウムアセチルアセトナート1部を4つロフラスコに仕込み、窒素雰囲気下、180℃で3時間加熱溶融させることにより開環重合させ、残留ラクチドを減圧下留去させることにより、ポリエステル(I)を得た。
【0038】
ここで、ポリエステル(I)の水酸基濃度を求めるには、理論的には、ポリエステル(I)の水酸基濃度は、ポリクリセリン由来の水酸基だけで決まり、また、酸価もOとなるはずだが、実際には、原料には不純物が含まれていることが一般的であり、この場合、DLラクチド中に含まれるラクチル乳酸が不純物の大部分を占める。このような場合、ポリクリセリンの代わりに不純物のラクチル乳酸が重合開始剤として働き、不純物がなければ生じないはずの水酸基が生じることがある。また、オキシ酸であるラクチル乳酸においては、酸価と水酸基価は等量であるので、不純物由来の水酸基濃度は、ポリエステル(I)の酸価を測定することにより知ることができる。よって、ポリクリセリンの水酸基濃度と測定した酸価を加えると、求める脂肪族ポリエステルの水酸基濃度が得られる。
【0039】
上記の方法に基づき、ポリエステル(I)の水酸基濃度を以下のようにして求めた。ポリエステル(I)中のグリセリン由来の水酸基濃度は、(850×1000)/56×10/(1000+10)=150という計算(KOH換算水酸基濃度/KOHの分子量×ポリクリセリンの重量部/ポリマーの重量部)に基づき、150当量/106gであった。また、不純物由来の水酸基濃度、すなわち、ポリエステル(I)の酸価の測定値は40当量/106gであった。よって、ポリエステル(I)の水酸基濃度は、合計値の190当量/106gと求められた。なお、酸価はポリエステル(I)0.2gを25mlのクロロホルムに溶解し、0.1NのKOHエタノール溶液で滴定した。滴定の指示薬としてはフェノールフタレインを用いた。
【0040】
ポリエステルの製造例2
DLラクチド1000部、重合度が10であるポリクリセリン(ダイセル化学PGL10:水酸基濃度850KOHmg/g)5.6部、開環重合触媒として、アルミニウムアセチルアセトナート1部を4つロフラスコに仕込み、窒素雰囲気下、180℃で3時間加熱溶融させることにより開環重合させ、残留ラクチドを減圧下留去させることにより、ポリエステル(II)を得た。
ここで、ポリエステル(II)の水酸基濃度を実施例1と同様にして求めたところ、ポリクリセリン由来の水酸基濃度は85当量/106g、不純物由来の水酸基濃度は25当量/106gであった。よって、ポリエステル(II)の水酸基濃度は合計値110当量/106gである。
【0041】
ポリエステルの製造例3
DLラクチド1000部、重合度が10であるポリクリセリン(ダイセル化学PGL10:水酸基濃度850KOHmg/g)16.5部、開環重合触媒として、アルミニウムアセチルアセトナート1部を4つロフラスコに仕込み、窒素雰囲気下、180℃で3時間加熱溶融させることにより開環重合させ、残留ラクチドを減圧下留去させることにより、ポリエステル(III)を得た。
ここで、ポリエステル(III)の水酸基濃度を実施例1と同様にして求めたところ、ポリクリセリン由来の水酸基濃度は246当量/106g、不純物由来の水酸基濃度は30当量/106gであった。よって、ポリエステル(III)g水酸基濃度は合計値276当量/106gである。
【0042】
ポリエステルの製造例4
DLラクチド1000部、重合度が10であるポリクリセリン (ダイセル化学PGL10:水酸基濃度850KOHmg/g)26.3部、開環重合触媒としてアルミニウムァセチルァセトナート1部を4つロフラスコに仕込み、窒素雰囲気下、180℃で3時間加熱溶融させることにより開環重合させ、残留ラクチドを減圧下留去させることにより、ポリエステル(IV)を得た。
ここで、ポリエステル(IV)の水酸基濃度を実施例1と同様にして求めたところ、ポリクリセリン由来の水酸基濃度は409当量/106g、不細物由来の水酸基濃度は50当量/106gであった。よって、ポリエステル(IV)の水酸基濃度は合計値459当量/106gである。
なお、ポリエステル(I)から(IV)の特性は表1に示した。
【0043】
【表1】
Figure 0004892801
【0044】
・還元粘度
サンプル濃度0.125g/25ml、測定溶剤クロロホルム、測定温度25℃でウベローデ粘度管を用いて測定した。
・ガラス転移点
DSC法により測定した。
・乳酸残基(重量%)
仕込量より計算した。また、500MHzのNMRにより、ポリエステル中にも同じ量が含まれていることを確認した。
・L/D比
仕込量から求めた。また、旋光度計(堀場製作所SEPA−200)を用いてポリエステル中の乳酸残基のL/D比も同じであることを確認した。
【0045】
アンカーコートフィルム(I)〜(IV)の製造例
厚さ50μmのポリL乳酸フィルムの片面に、ポリエステル(I)1重量部およびトルエン40重量部からなる塗液をグラビアコーターで、乾燥膜厚が0.02μmになるように塗布してアンカー剤層を形成し、アンカーコートフィルム(I)を得た。
ポリエステルを(II)〜(IV)にした以外は同様にして、アンカーコートフィルム(II)〜(IV)を得た。
【0046】
アンカーコートフィルム(V)、(VI)の製造例
厚さ50μmのポリL乳酸フィルムの片面に、ポリエステル(I)1重量部、脂肪族イソシアネート(商品名デュラネートTPA−100、旭化成工業(株)製)、トルエン36重量部およびシクロヘキサノン4重量部からなる塗液をグラビアコーターで、乾燥膜厚が0.02μmになるように塗布してアンカー剤層を形成し、アンカーコートフィルム(V)を得た。
ポリエステル(I)をポリエステル(III)に代えて同様にしてアンカーコートフィルム(VI)を得た。
【0047】
アンカーコートフィルム(VII)の製造例
厚さ50μmのポリL乳酸フィルムの片面に、バイロン200(共重合ポリエステル、東洋紡績株式会社製)1重量部、コロネートL(日本ポリウレタン株式会社製)0.1部、ジブチルスズラウレート0.02部、トルエン20重量部およびメチルエチルケトン20重量部からなる塗液をグラビアコーターで、乾燥膜厚が0.02μmになるように塗布してアンカー剤層を形成し、アンカーコートフィルム(VII)を得た。
【0048】
フィルム(VIII)
厚さ50μmのポリL乳酸フィルムをそのまま用いた。
【0049】
実施例および比較例
各種フィルムを用いて下記に示す方法でフィルム上に各種の透明無機蒸着膜層を設けた。
【0050】
酸化珪素系膜の製造
蒸着源として、3−5mm程度の大きさの粒子状のSi(純度99.9%)とSiO2 (純度99.9%)を用い、電子ビーム蒸着法で、上記アンカーコートフィルム上に酸化硅素系ガスバリア薄膜の形成を行った。蒸着材料は、混合せずに、2つに区切っていれた。加熱源として、電子銃(以下EB銃)を用い、SiとSiO2 のそれぞれを時分割で加熱した。その時のEB銃のエミッション電流を1.3Aとし、SiとSiO2 への加熱比は、30:10とした。フィルム送り速度は、80m/minとし、約200nm厚の透明酸化珪素系膜を作った。又、蒸気圧は酸素ガスの供給量を調整し、1×10-5Torrとした。
【0051】
酸化アルミニウム系膜の製造
蒸着源として、3−5mm程度の大きさの粒子状のAl23 (純度99.9%)を用い、電子ビーム蒸着法で、前記アンカーコートフィルム上に酸化アルミニウム系ガスバリア薄膜の形成を行った。加熱源として、電子銃(以下EB銃)を用い、エミッション電流を1.3Aとした。フィルム送り速度は、80m/minとし、200nm厚の酸化アルミニウム系膜を作った。又、蒸気圧は酸素ガスの供給量を調整し、1×10-5Torrとした。
【0052】
酸化珪素/酸化アルミニウム2元系膜の製造
蒸着源として、3−5mm程度の大きさの粒子状のAl23(純度99.5%)とSiO2(純度99.9%)を用い、電子ビーム蒸着法で、前記アンカーコートフィルム上に酸化アルミニウム、酸化硅素薄膜の形成を行った。蒸着材料は、混合せずに、ハース内をカーボン板で2つに仕切り、加熱源として一台の電子銃(以下EB銃)を用い、Al23とSiO2のそれぞれを時分割で加熱した。その時のEB銃のエミッション電流を1.5Aとし、Al23とSiO2への加熱比は、40:10とした。フィルム送り速度は、80m/minとして、250nm厚の酸化珪素−酸化アルミニウム2元系膜を作った。又、蒸気圧は酸素ガスの供給量を調整して、1×10-5とした。
【0053】
このようにして得られた透明無機蒸着膜層が積層されたフィルムの特性を評価した。結果は表2、3に示す。
【0054】
接着性:1mm間隔の碁盤目(11本×11本)を切り、セロハンテープ剥離により密着性を評価した。
◎:95%以上の蒸着層が残った。
○:80%以上の蒸着層が残った
△:40%以上の蒸着層が残った
×:残った蒸着層は40%未満であった。
【0055】
耐水性:蒸着フィルムを10cm×10cmに切り取り、これを25℃の水に浸漬し、1時間後取り出して指で蒸着面を擦った。
◎:蒸着層は剥がれなかった。
○:蒸着層の一部が剥がれた。
△:蒸着層の大部分が剥がれた。
×:浸漬のみで蒸着層が剥がれた。
【0056】
耐熱性:80℃に熱したホットプレートに蒸着フィルムの蒸着面が上になるように置き、蒸着面を布で擦った。
◎:蒸着層は剥がれなかった。
○:蒸着層の一部が剥がれた。
△:蒸着層の半分程度が剥がれた。
×:蒸着層の大部分が剥がれた。
【0057】
生分解性:蒸着フィルムの10cm×10cmをコンポスター(生ゴミ処理機、三井ホーム社製〔MAM〕)中に入れ、7日後にサンプルの形態を目視で評価した。
○:フィルムは形をとどめていなかった。
△:フィルムは一部が形をとどめていた。
×:フィルムはそのままの形をとどめていた。
【0058】
全光線透過率:蒸着フィルムの全光線透過率をJIS K−7105に準拠して測定した。
【0059】
【表2】
Figure 0004892801
【0060】
【表3】
Figure 0004892801
【0061】
表2、表3でSiは酸化珪素系蒸着膜、Alは酸化アルミニウム系蒸着膜、Si−Alは酸化珪素/酸化アルミニウム2元系蒸着膜を表す。
【0062】
さらに、実施例9で得られた蒸着フィルムの蒸着面にポリ乳酸(L/D比=1/1(モル比、還元粘度=0.47dl/g)のトルエン/メチルエチルケトン溶液を乾燥膜厚で5μになるよう塗布し、乾燥させた。このフィルムを20cm×10cmに切り取り、塗布面を内側にして2つ折りにして2方を120℃でシールし、袋状物を得た。中に、中華風味の粉末スープを入れ、残りの一方をシールした。
この袋は、透明で内容物が見える上、酸素、水蒸気遮断性能も高く、食品等の包装に適するものであった。
【0063】
【発明の効果】
以上説明したとおり、この発明により、無機蒸着膜との接着性を飛躍的に向上させることができた無機透明蒸着膜層を有する生分解性フィルム積層体が得られる。

Claims (4)

  1. 透明無機薄膜層(A)、
    ポリグリセリン由来の水酸基を有し、L-乳酸とD-乳酸のモル比(L/D)が1〜9であり、水酸基濃度が100〜500当量/10 gであり、還元粘度が0.3〜1.0dl/gである脂肪族ポリエステルを含むことを特徴とするアンカー層(B)、
    生分解性フィルム層(C)、
    が積層されたことを特徴とする生分解性フィルム積層体。
  2. 前記ポリグリセリンの重合度が3〜20である請求項1に記載の生分解性フィルム積層体。
  3. 前記アンカー層(B)が前記脂肪族ポリエステルと架橋剤とが配合されたものであり、前記脂肪族ポリエステルは前記アンカー剤の固形分中の70重量%以上である、請求項1または2に記載の生分解性フィルム積層体。
  4. 請求項1〜3いずれかに記載の生分解性積層体を用いたことを特徴とする袋状物。
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