JP4888834B2 - 化粧シート - Google Patents

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Description

本発明は、例えば木質系ボード類、無機系ボード類、金属板等の表面に接着剤で貼り合わせて化粧板として用いる化粧シートに関するものである。
従来、前記化粧板の用途に用いられる化粧シートとしては、塩化ビニル樹脂製シートが最も一般的であった。しかし近年になって、塩化ビニル樹脂は焼却時に酸性雨の原因となる塩化水素ガスや猛毒物質であるダイオキシンの発生の要因となり、さらに塩化ビニル樹脂製シートに添加された可塑剤のブリードアウトの問題などもあり、環境保護の観点から、それらの取り扱いには種々の配慮が求められている。このような状況のもと、近年はポリプロピレンやポリエチレン、アクリルなどの塩化ビニル樹脂以外の材料を使用した化粧シートが要望されるようになった。
このような事情により、塩化ビニル樹脂に替わる樹脂として、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、エチレンビニルアルコール、アクリル等の樹脂およびその共重合体を使用した化粧シートが提案され、市販されるようになってきている。
その中でも、化粧シートに要求される適度な柔軟性、耐磨耗性、耐傷性、耐熱性、耐薬品性、後加工性、透明性等を備え、なおかつ安価で提供されるポリプロピレンを用いた化粧シートがもっとも数多く提案されており、中には単層のものもあるが、意匠性の観点から、2層以上の積層構造のものが大部分を占めている。
また近年は、ポリプロピレン樹脂を用いた化粧シートが市場で広く出まわってきた事もあり、化粧シートを板状の基材に貼り合わせて作る化粧板は、従来の木質基材のものだけではなく、アルミ基材や鋼板基材などに貼り合わせたものも多くなってきている。木質基材に貼り合せた化粧板の場合には、木質基材の裏面側にV字の溝を掘り、その溝に沿って折り曲げを行う事で化粧板を様々な形状に加工していたが、例えば鋼板基材に貼り合せた化粧版の場合には、V溝などを設けずにプレス機などを用いて直接折り曲げ加工を行う為、木質基材に貼り合せたものと比べて、化粧シートには引張や折り曲げなどの負荷がより多くかかり、結果化粧シートの白化や割れが生じて、意匠性を低下させてしまう事がある。
これらの問題の解決のために、柔軟性に富んだポリプロピレンを使用した提案(例えば特許文献1参照)や、ポリプロピレンにエチレン系エラストマーとスチレン系エラストマーを添加した樹脂をマレイン酸変性して、白化が生じにくい接着性樹脂層として使用する提案(例えば特許文献2参照)が種々提案されている。
これらのうち特に特許文献2に係る提案においては、水素添加スチレンブタジエン共重合エラストマーを混合する事で白化抑制効果が得られるようにしているが、使用する樹脂が特殊かつ高価であり、コスト高になってしまう。また、水素添加スチレンブタジエン共重合エラストマーがポリプロピレン中に微分散されるが、あくまでポリプロピレンとは異種の材料である為に完全相容はせず、混練などの条件あるいは加工環境などによっては白化が発生する事もある。また異種材料の混合の為、廃材のリサイクルなども考えた場合には、可能な限りオレフィン材料のみを用いた化粧シートが望ましい。
特開2006−88349号公報 特開2004−181705号公報
本発明は、以上のような問題点を解決するためになされたものであり、その課題とするところは、基材シート上に、アンカーコート層と、ポリプロピレンを主体とする構成材料からなる2層以上の透明樹脂層とがこの順で少なくとも積層されている化粧シートであって、しかも基材シートと透明樹脂層との密着性能をも向上させ、更に鋼板基材などに貼り合わせて折り曲げ加工を行なった際にも、折り曲げ加工部が白化などを起こさない化粧シートを提供することである。
請求項1に記載の発明は、基材シート上に、アンカーコート層と、ポリプロピレンを主体とする材料構成からなる2層以上の透明樹脂層とがこの順で少なくとも積層されている化粧シートであって、前記透明樹脂層のうちの前記アンカーコート層と接する層が、JIS Z 1702で規定される弾性率1〜800MPaのホモポリプロピレン樹脂60〜95重量部と、エチレン・αオレフィン共重合樹脂5〜40重量部との混合物からなり、かつ、前記ホモポリプロピレン樹脂とエチレン・αオレフィン共重合樹脂のそれぞれにおいて、JIS K7210にて規定されるメルトマスフローレートを比較した場合に、ホモプロピレン樹脂のメルトマスフローレートが、エチレン・αオレフィン共重合樹脂のメルトマスフローレートの3倍以上、70倍以下であることを特徴とする化粧シートである。
請求項2に記載の発明は、前記弾性率1〜800MPaのホモポリプロピレン樹脂が、ペンタッド分率1%以上85%以下であることを特徴とする請求項1に記載の化粧シートである。
請求項に記載の発明は、前記2層以上の透明樹脂層が、Tダイによる加熱溶融共押出ラミネート法によって積層されてなることを特徴とする請求項1または2に記載の化粧シートである。
請求項に記載の発明は、前記2層以上の透明樹脂層のうちの前記アンカーコート層と接する層の構成材料には前記混合物100重量部に対し0.1〜2.0重量部の不飽和カルボン酸あるいはその無水物がグラフト重合されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の化粧シートである。
請求項1に記載の発明によれば、基材シート上に、アンカーコート層と、ポリプロピレンを主体とする材料構成からなる2層以上の透明樹脂層とがこの順で少なくとも積層されている化粧シートであって、前記透明樹脂層のうちの前記アンカーコート層と接する層が、JIS Z 1702で規定される弾性率1〜800MPaのホモポリプロピレン樹脂60〜95重量部と、エチレン・αオレフィン共重合樹脂5〜40重量部との混合物からなることを特徴としているので、その透明樹脂層と基材シート側との間にそれらの積層を剥離させるような応力が生じた時、その応力を吸収するように働き、密着力を向上させることが可能となる。さらには弾性率の低いポリプロピレン系樹脂を用いているので、例えば鋼板上に貼り合わせた後の折り曲げ加工などにおいて、シート延伸による結晶の配向化に起因する白化などを抑制することができるようになる。また融点の高いホモポリプロピレンを用いる事で、熱履歴による剥離強度の低下を抑制させることもできる。
また、前記ホモポリプロピレン樹脂とエチレン・αオレフィン共重合樹脂のそれぞれにおいて、JIS K7210にて規定されるメルトマスフローレートを比較した場合に、ホモプロピレン樹脂のメルトマスフローレートが、エチレン・αオレフィン共重合樹脂のメルトマスフローレートの3倍以上、70倍以下であることを特徴としているので、透明樹脂層中のマトリックス・ドメイン構造を、透明樹脂層とアンカーコート層などとの間に剥離させるような応力が加わった時にその応力を吸収する能力を最大限に発揮させるようにすることが可能となる。その結果、さらなる密着力向上の効果が得られるようになる。
また、請求項2に記載の発明によれば、前記弾性率1〜800MPaのホモポリプロピレン樹脂が、ペンタッド分率1%以上85%以下であることを特徴としているので、該ホモポリプロピレン樹脂を冷却固化させた際の非結晶領域を多くする事が可能になり、この領域は同じく前記のエチレン・αオレフィン共重合樹脂との相容性を高める効果が得られる。その結果、鋼板上に貼り合わせた後の折り曲げ加工などにおいて、ホモポリプロピレン樹脂とエチレン・αオレフィン共重合樹脂との間の乖離(クレイズ)に起因する白化を抑制する事が可能となる。
さらにまた、請求項に記載の発明によれば、前記2層以上の透明樹脂層が、Tダイによる加熱溶融共押出ラミネート法によって積層されてなることを特徴としているので、各透明樹脂層同士の積層が接着剤などを介することなく同時に行なえ、さらには基材シート側との積層も一度に行える為、効率的な化粧シートの製造が可能になる。
さらにまた、請求項に記載の発明によれば、前記2層以上の透明樹脂層のうちの前記アンカーコート層と接する層の構成材料には0.1〜2.0重量部の不飽和カルボン酸あるいはその無水物がグラフト重合されていることを特徴としているので、透明樹脂層の表面に極性基を導入させ、基材シート側と透明樹脂層との密着強度をより向上させることが可能となる。
以下本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る化粧シートの概略の断面構造を示す図である。この化粧シートは、非塩化ビニル系樹脂材料からなる基材シート1の上に、模様層2、アンカーコート層3が設けられていて、さらにその上にポリプロピレンを主体とする構成材料からなる透明樹脂層4及び透明樹脂層5が積層されてなるものである。
透明樹脂層5は、主に化粧シートの模様層の保護と意匠性の向上および、耐傷性、耐摩耗性、耐薬品性などが発現するように設けられており、上述したようにポリプロピレンを主体とする構成材料からなっている。耐傷性や耐摩耗性、さらには熱履歴に対する耐性を重視する場合には、プロピレンを単独で重合してできるホモポリプロピレンが好適に用いられる。ホモポリプロピレンはランダムポリプロピレンやブロックポリプロピレンと比較すると結晶化度が高く、弾性率などの数値も高い為、耐傷性や耐摩耗性などの性能が比較的良好となる。またホモポリプロピレンはポリプロピレンの中でも特に融点や軟化点などが高く、特にチグラーナッタ触媒により重合されたホモポリプロピレンの融点は160℃以上に達する為、熱履歴に対する耐性も高く、好ましく用いられる。
一方、本発明の化粧シートの木質基材や鋼板などへの貼り合わせの後における折り曲げなどの加工適性や、透明性などを重要視する場合には、透明樹脂層5の構成材料としては、プロピレン90〜99重量部に対しエチレン、ブテン、ヘキセン、オクテン、4−メチルペンテンなどを1つ以上トータルで1〜10重量部をランダム共重合したものや(ただし、両者の合計重量部を100としたときの割合である)、またアタクティックポリプロピレン成分を意図的に多く導入させたホモポリプロピレン樹脂を用いる方法が好適に用いられる。一般的にランダムポリプロピレンやアタクティックポリプロピレン成分を意図的に多く導入させたホモポリプロピレンは成形物の結晶化度を小さくする事ができる為、柔軟性が増し、透明性も向上するようになる。
上記した透明樹脂層5の構成材料の中に、各種ゴム成分を添加することで、それによって構成される透明樹脂層の柔軟性と透明性をより向上させるようにしてもよい。ゴム成分の種類としては、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、αオレフィンコポリマーゴム、クロロプレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、ニトリルゴム、多硫化ゴムなどが挙げられるが、材料の種類によっては、透明性を阻害する要因となりかねない為、注意が必要である。
また、化粧シートの機能性向上の為に、透明樹脂層5には必要に応じて熱安定剤、難燃剤、紫外線吸収剤、光安定剤、造核剤、ブロッキング防止剤、触媒補足剤などが適宜添加されていてもよい。
一方の透明樹脂層4の主たる役割は、前記した透明樹脂層5と基材シート1側との密着性を向上させることにある。その為に、この透明樹脂層4には、基材シート1側との積層を剥離させようとする応力が働いた時に、その剥離応力を分散・吸収させるような性能を付与させた層となっている。
特に、共押出にて透明樹脂層5と透明樹脂層4とを積層する場合には、透明樹脂層4も同じくプロピレン系樹脂を用いると、同種材料同士の共押出積層になる為、それらの積層強度は強固なものになる。
もし仮に、プロピレン成分が主体となっていない構成材料であっても、それが図2のようなマトリックス・ドメイン構造になっており(符号21はドメイン、22はマトリックスを表す)、かつマトリックス22がプロピレンであるような場合には、共押出積層により両方の透明樹脂層間の積層強度は強固なものとなる。
しかしながら、透明樹脂層4にプロピレン系樹脂以外の材料を主成分とする樹脂を用いて、かつマトリックス22がプロピレン以外の材料になる場合には、多くの場合、共押出しされたものの積層部分の界面において密着力が発現しない。結晶化度を極端に低くした樹脂や、タッキファイヤーなどの粘着成分を添加した樹脂などの中には、プロピレン系樹脂以外の樹脂でもプロピレン樹脂と共押出して積層強度が得られるものもあるが、多くの場合は耐熱性に難があり、熱履歴があるとその後に強度の大幅な低下を招くことが多い。
本発明においては、透明樹脂層5を構成する材料としては、前述のようにポリプロピレン樹脂を主体として用い、この透明樹脂層4を構成する材料も同じくプロピレン樹脂を主体とする材料、特に弾性率1〜800MPaのホモポリプロピレン樹脂60〜95重量部と、エチレン・αオレフィン共重合樹脂5〜40重量部とを含有する混合物とすることで、例えば、鋼板基材に本発明の化粧シートを貼り合わせた後の折り曲げ加工においても白化が生じることなく、かつその他の層との密着性も高いものとすることが可能となる。またホモポリプロピレン樹脂が主成分となる為、熱履歴熱履歴による剥離強度の低下を抑制させる事もできる。なお、上記樹脂の割合は、両者の合計重量部を100としたときの割合である。
透明樹脂層4のホモポリプロピレン樹脂の弾性率が800MPaを超える場合には、剛性が高すぎる為に、例えば、化粧シートを鋼板基材に貼り合せた後の折り曲げ加工において、白化が発生してしまう。また1MPa未満の場合には、層の弾性率が低すぎる為に、充分な剥離強度が発現しない。なお、上記弾性率は、JIS Z 1702にしたがって測定される。さらに好ましい弾性率は、50〜500MPaである。
また透明樹脂層4のホモポリプロピレン樹脂とエチレン・αオレフィン共重合樹脂との比率において、ホモポリプロピレン系樹脂の割合が95重量部を超える場合には、エチレン・αオレフィン共重合樹脂による応力吸収能力が充分に発揮されず、充分な剥離強度が発現しない。また60重量部未満の場合には、透明樹脂層4の凝集力が低下してしまい、同じく充分な剥離強度が発現しない。さらに好ましい比率は、ホモポリプロピレン樹脂65〜85重量部、エチレン・αオレフィン共重合樹脂15〜35重量部である。
上記ホモポリプロピレン樹脂をペンタッド分率1%以上85%以下に限定する事によって、該ホモポリプロピレン樹脂を冷却固化させた際の非結晶領域を多くする事が可能になり、この領域は同じく前記のエチレン・αオレフィン共重合樹脂との相容性を高める効果が得られる。ペンタッド分率とは、ポリプロピレン中の5個連続でメチル基が同方向を向いているモノマー単位のプロピレン数を、ポリプロピレン全体中のモノマー単位のプロピレン数で割って100倍したものであり、ペンタッド分率の低いものほど、冷却固化した際に非結晶部分を多く含む。その結果、ホモポリプロピレン樹脂とエチレン・αオレフィン共重合樹脂のそれぞれの非結晶部分が相容しあう為、鋼板上に貼り合わせた後の折り曲げ加工などにおいて、ホモポリプロピレン樹脂とエチレン・αオレフィン共重合樹脂との間の乖離(クレイズ)に起因する白化を抑制する事が可能となる。
ペンタッド分率が85%を超えるものでは、冷却固化させた際の非結晶領域が充分でない為に、ホモポリプロピレン樹脂とエチレン・αオレフィン共重合樹脂との間の乖離(クレイズ)に起因する白化を抑制することはできない。またペンタッド分率が1%未満ホモポリプロピレン樹脂は、現在の技術では安定的かつ大量に製造する方法が確立されていない。
上記条件を満足するような透明樹脂層4の構成材料に対して、さらにホモポリプロピレン樹脂のメルトマスフローレートを、エチレン・αオレフィン共重合樹脂のメルトマスフローレートの3倍以上、70倍以下の範囲内とすることによって、エチレン・αオレフィン共重合樹脂による応力吸収能力を最大限に発揮することができる。尚、JIS K7210にて規定されるメルトマスフローレートは、エチレン・αオレフィン共重合樹脂では190℃で溶融した場合の測定値、ホモポリプロピレン樹脂では230℃で溶融した場合の測定値であり、両者は測定条件が異なるが、数値の比較としては、それぞれの条件下で測定した数値同士の比較でよい。
ホモポリプロピレン樹脂のメルトマスフローレートが、エチレン・αオレフィン共重合樹脂のメルトマスフローレートの3倍未満の場合には、両者の粘度差が小さい為に、エチレン・αオレフィン共重合樹脂がスジ状に引き伸ばされた形になり、層の凝集力を低下させてしまう。さらに粘度差が接近し、逆にエチレン・αオレフィン共重合樹脂のメルトマスフローレートがホモポリプロピレン樹脂のメルトマスフローレートの2倍以上程度にまでなった場合には、マトリックスとドメインの関係が逆転し、エチレン・αオレフィン共重合樹脂がマトリックスにくる為に、共押出積層物の界面の強度が小さくなる。
また逆に、ホモポリプロピレン樹脂のメルトマスフローレートが、エチレン・αオレフィン共重合樹脂のメルトマスフローレートの70倍を超えた場合には、その溶融粘度差が大きすぎる為に、エチレン・αオレフィン共重合樹脂のドメインサイズが大きくなりすぎて、充分な応力吸収能力が発揮できなくなる。
さらに好ましい上記比率は、10倍以上、60倍以下である。
また、透明樹脂層4の厚さは、4〜30μmが好ましい。
上述した透明樹脂層4と透明樹脂層5との積層方法、及びそれらの積層物の基材シートの上部への積層方法としては、ドライラミネート法やサンドラミネート法をはじめとする公知の手法を用いてもよいが、Tダイによる加熱溶融共押出しラミネート法を用いることで、様々な利点を得ることができる。例えば、透明樹脂層4と透明樹脂層5との間には接着剤層を設けなくても良くなり、また透明樹脂層4と透明樹脂層5との積層物と基材シートとのラミネートが同時に行なえ、効率的な製造が可能になる。さらには、共押出ラミネートを行なう際、冷却ロールに、化粧シートに付与したい意匠形状とは凹凸を反転させた柄を予め付与しておくことで、化粧シート表面へのエンボス模様の付与も同時に行なうことができるようにもなる。
また上記の様にTダイによる加熱溶融共押出しラミネート法を用いる場合には、透明樹脂層4を構成する材料には、予め0.1〜2.0重量部の不飽和カルボン酸あるいはその無水物をグラフト重合しておくと、さらに密着力を向上させることが可能になる。ポリオレフィン樹脂は基本的には極性基を持たないため、ラミネート界面の密着性を向上させるには、何らかの方法で極性基を導入する必要がある為である。
押出ラミネート法において、ラミネート界面に極性基を導入する最も一般的な方法としては、樹脂温度を上げることにより、空気中の酸素によって溶融樹脂を酸化させる方法があるが、ポリプロピレン系樹脂の場合には、空気による酸化の影響が出始めるのはおよそ300℃近傍からであるが、この温度域ではポリプロピレン系樹脂の熱劣化も始まる為、成形条件の設定が難しい。
また、オゾンガスを溶融樹脂のラミネート界面に吹付けることにより、溶融樹脂を強制酸化させる方法も一般的であるが、この場合は無色透明なオゾンガスを巾方向に均一に吹付ける技術が難しい。オゾン処理量の不足は密着強度を低下させることはもちろんのこと、逆にプロピレン系樹脂における過剰なオゾン処理は、積層界面の樹脂を劣化させてしまう可能性もあるので注意が必要である。
これらの方法に比べて、予めラミネート界面にあたる透明樹脂層4を構成する材料に0.1〜2.0重量部程度の不飽和カルボン酸あるいはその無水物をグラフト重合しておく方法は、押出温度が300℃以下の低温であっても効果が期待でき、巾方向の極性基の導入量もほぼ均一なものになるという特徴をもつ。また、空気酸化やオゾン吹き付けによる極性基の導入方法は、その処理量がラミネートの速度に依存してしまうが、極性基を予めグラフト重合させておく方法では、その心配もない。
グラフト重合量としては、0.1〜2.0重量部が最適である。0.1重量部未満では、極性基の導入量としては少なく、充分なラミネート強度が発現しない。また2.0重量部を超えるとポリマーの分解が起きてしまい、樹脂の脆化や黄変などの問題が発生する。
尚、不飽和カルボン酸あるいはその無水物としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フタル酸、シトラコン酸、イタコン酸、およびそれらの無水物などが挙げられるが、これらの中で無水マレイン酸が特に好ましい。
以下、本発明の化粧シートに関してさらに詳細な説明を続ける。
透明樹脂層4と基材シート1との間に設けてあるアンカーコート層3の構成材料としては、非塩化ビニル樹脂の材料を用いるのであれば、その材質などに制限は無いが、ポリオールとイソシアネートとの反応でウレタン結合を形成する2液硬化型ウレタン系樹脂が好ましく用いられる。そして、ポリオール成分としてはポリエステルポリオールか、あるいはポリエステルポリウレタンポリオールが好適に用いられる。さらにはイソシアネート成分としては、ヘキサメチレンジイソシアネートあるいはイソホロンジイソシアネートのうち、少なくとも一方を含むものが好ましく用いられる。またアンカーコート層3の形成方法としてはグラビア法(グラビア印刷法、グラビア塗布法)が好適に用いられるが、必ずしもこれに限定されるものではない。
本発明の化粧シートにおいては、基材シート1としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリスチレン、ABS、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸ブチル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリアミド、ナイロン6、ナイロン66などの非塩化ビニル系の樹脂材料からなるシートが具体的な例として挙げることができる。このうち、リサイクル性などを考慮すると、ポリプロピレンやポリエチレンからなる基材シートが望ましいが、必ずしもこの限りではない。
また、基材シート1を構成する上記樹脂中には、無機顔料、酸化防止剤、光安定剤、ブロッキング防止剤などの添加剤の1種もしくは2種以上を適宜の量で添加することは可能である。
本発明の化粧シートにおいては、基材シート1に隠蔽性を付与することができる。隠蔽を施す理由は、貼り合わせる木質系ボード、無機系ボード、金属板などの下地材が、化粧シートの表面から見えないようにするためである。但し、下地材の素材感を活かしたい場合には、その限りではない。
基材シート1に対する隠蔽性(隠蔽性層)や模様層2の付与は、基材シート1の表面あるいは裏面、あるいはその両方にグラビア印刷、凹版印刷、フレキソ印刷、シルク印刷、静電印刷、インクジェット印刷などの公知の印刷方法によるものが一般的であるが、必ずしもこの限りではない。またこの際に用いられるインキも公知のもの、すなわちビヒクルに染料または顔料などの着色剤や体質顔料などを添加し、さらに可塑剤、安定剤、ワックス、グリース、乾燥剤、硬化剤、増粘剤、分散剤、充填剤などを任意に添加して溶剤、希釈剤などで充分混練してなるインキでよい。
また、上記化粧シート用の基材シート1とは別の任意の転写用基材シートに、上記形成方法などによって隠蔽性層あるいは模様層、あるいはその両方を形成しておき、前記した熱ラミネート法、ドライラミネート法、またはウエットラミネート法、押出ラミネート法などにより、上記基材シート1と貼り合わせた後に、前記転写用基材シートを剥離して、隠蔽性層あるいは模様層、あるいはその両方を基材シート1上に転写する方法を用いることもできる。
また、基材シート1の製造方法としてTダイ押出法を用いる場合には、それを製膜するための合成樹脂材料を染料や顔料などの隠蔽性のある着色剤により直接着色して加熱溶融状態でTダイから押出して、得られる基材シート1を着色して隠蔽性を付与するようにしてもよい。
この場合のTダイ押出法における基材シート1の着色方法としては、ドライカラー法やマスターバッチ法などがあるが、特に限定されるものではない。ドライカラー法とは、顔料を分散助剤や界面活性剤で処理した微粉末状の着色剤を、基材シート1を製膜するための着色されていない通常の合成樹脂材料中に直接混入して着色を行う方法である。一方、マスターバッチ法とは、基材シート1を製膜するための着色されていない通常の合成樹脂材料と高濃度の顔料を、溶融混練して予備分散したマスターバッチペレットを予め作製しておき、押出ホッパ内でこのマスターバッチペレットと基材シート1を製膜するための着色されていない通常の合成樹脂材料とをドライブレンドする方法である。
着色に使用される顔料の種類も通常用いられているものでよいが、特に耐熱性、耐候性を考慮して、酸化チタン、群青、カドミウム顔料、酸化鉄などの無機顔料が望ましい。また有機顔料でもフタロシアニン顔料、キナクリドン顔料などは使用できる。顔料の対樹脂比率や色相は、隠蔽の度合い、意匠性を鑑みて適宜決められるものであり、特に制約はない。
また、基材シート1に模様層2を施す方法としては、基材シート1の表面に施す方法と、基材シート1自体(シート1の層内)に施す方法がある。表面に施す方法としては上記のような印刷方法や転写方法を用いることができる。基材シート1自体に施す方法としては、高濃度の顔料を基材シート1を構成する樹脂とは流動特性の異なる樹脂に溶融混練して予備分散したマスターバッチペレット、あるいは木粉、ガラス粉末などを、基材シート1を製膜するための隠蔽性を付与した上記合成樹脂材料に添加して加熱溶融し、押出し、製膜することにより、隠蔽性のある基材シート1自体にマスターバッチペレットや木粉やガラス粉末などによる模様を付与する方法もある。勿論、基材シート1自体に着色隠蔽性や模様を付与するこれらの方法と、前述した印刷方法、転写方法などを併用することもできる。
また、隠蔽性のある基材シート1の製造方法としてカレンダー法を用いる場合において、同様の手法、即ち基材シート1をカレンダー法にて製造しながら、同時に基材シート1自体に着色隠蔽性や模様を付与する方法、またはこれらの方法と前述した印刷方法、転写方法などを併用した手法で、基材シート1に対して隠蔽性および模様を付与することができる。
本発明の化粧シートにおいては、場合によっては、化粧シートの表面の手触り感や、より一層の意匠感を得るため、図3のように、透明樹脂層5に凹陥模様6を施し、さらに必要に応じてその凹陥部内に充填インキ7を埋め込むようにしてもよい。そしてさらに化粧シートの意匠感や諸物性などを高める為の施策として、化粧シートの最表層への表面保護層8を積層するようにしてもよい。
凹陥模様6を施す方法としては、通常の熱圧エンボス加工法でも良いが、前記したように化粧シートの製造方法としてTダイ共押出法を用いる場合には、溶融樹脂を冷却固化させるチルロールの表面に凹陥模様を反転した突起模様を施しておき、押し出された樹脂をチルロールとプレスロールとの間でエンボスして、透明樹脂層あるいは透明ポリプロピレン樹脂層の表面に凹陥模様を施す方法が好適に用いられる。
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明する。
基材シートとして、ランダムポリプロピレン樹脂100重量部に無機顔料を6重量部、フェノール系酸化防止剤を0.2重量部、ヒンダードアミン系光安定剤を0.3重量部、ブロッキング防止剤を0.2重量部添加してなる樹脂を溶融押出して得られたシートを用い、その表面にコロナ処理を施した後、グラビア印刷法により絵柄用インキ(東洋インキ製造株式会社製;ラミスター)を使用して木目模様を施し、模様層を形成した。さらに木目模様の模様層2上に2液硬化型のウレタン系アンカーコート剤(三井化学ポリウレタン株式会社製;タケラック(主剤)とタケネート(硬化剤))からなるアンカーコート剤をグラビア印刷法により厚み約1μmで塗工して、アンカーコート層を形成した。
次に、アンカーコート層の上面に、軟質ポリプロピレン樹脂(株式会社プライムポリマー製 プライムTPO 半硬質ホモタイプ)100重量部にフェノール系酸化防止剤を0.2重量部、ヒンダードアミン系光安定剤を0.5重量部、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を0.5重量部添加したもの(樹脂A)と、表1に示す配合割合で樹脂1〜2を溶融混練したもの(樹脂B)を、厚みの比が、樹脂A層/樹脂B層=65μm/15μmで、かつ樹脂B層とアンカーコート層とが接するように、押出温度230℃でTダイ共押出ラミネート法により2層構成になる透明樹脂層を積層し、例1〜3に係る本発明の化粧シートを得た。なお、例1は参考例である。
Figure 0004888834
表1に示す樹脂は以下の通りである。
[プライムTPO(半硬質ホモタイプ)]
メルトマスフローレート8、ペンタッド分率68%、弾性率430MPaのホモポリプロピレン(株式会社プライムポリマー製)。
[タフマーP]
メルトマスフローレート0.4のエチレン・プロピレン共重合体(三井化学株式会社製)。
[タフマーPの分解物]
上記タフマーPを低分子量化したもの。メルトマスフローレート3。
樹脂B層を構成する樹脂を、表2に示す配合割合で溶融混練したものに代えた他は、上記例1〜3と同様の手法を用いて、比較のための例4〜6に係る化粧シートを得た。
Figure 0004888834
表2に示す樹脂は以下の通りである。
[プライムポリプロ(ホモタイプ)]
メルトマスフローレート21、ペンタッド分率95%、弾性率1450MPaのホモポリプロピレン(株式会社プライムポリマー製)。
[プライムポリプロ(ランダムタイプ)]
メルトマスフローレート24、弾性率640MPaのエチレンランダムポリプロピレン(株式会社プライムポリマー製)。
このようにして得られた例1〜6のそれぞれの化粧シートについて次の4項目の評価を行った。
<比較評価>
(1)23℃雰囲気下での剥離強度。
(2)90℃のオーブンで72時間加熱した後の剥離強度。
(3)表面保護層(大日本インキ化学工業株式会社製 UCクリヤー)を樹脂A層の表面にコーティングした後の耐候試験[耐候試験機(ダイプラウインテス社製:ダイプラメタルウェザー)を使用し、照度70mW/cm2(波長300〜400nm)、ブラックパネル温度53℃とし、20時間照射と4時間の結露モードを繰り返し、96時間経過後の剥離強度。
(4)厚さ0.5mmの鋼板上に貼り合せた後、5℃の環境下で1R曲げを行なった際の、折り曲げ加工部の白化の程度。
尚、鋼板上への貼り合わせの際は、接着剤を活性化させて接着剤と化粧シートとの密着力を向上させるために、接着剤を塗布した鋼板を200℃のオーブンで3分間加熱した後、鋼板の熱が冷めないうちにラミネーターを用いて化粧シートを貼り合わせ、その直後に冷水で冷却するという方法を採った。
上記の試験方法による評価結果を、表3に示す。
Figure 0004888834
単位:N/25mm
表3からも明らかなように、本発明に係る例1〜3の化粧シートは、折り曲げ加工時の白化が抑制されているが、それに比べて比較のための例4および5の化粧シートでは、折り曲げ加工時の白化が生じてしまっている。また、ランダムポリプロピレン樹脂を用いた比較のための例5では、90℃の熱履歴後の剥離強度にも低下傾向が見られているが、本発明に係る例1〜3の化粧シートにおいては、例5と比較して剥離強度の低下は小さい。これは本発明に係る例1〜3の化粧シートにおいて、弾性率が低く、ペンタッド分率も低いホモポリプロピレン樹脂を用いた効果である。比較のための例6の化粧シートでは、折り曲げ白化こそ見られないものの、エチレン・αオレフィン共重合樹脂を含有していない為に応力緩和能力が乏しい為、剥離強度値が全体的に低めである。
しかも、本発明に係る例1〜3の化粧シートは、紫外線照射の後も、強度低下は最低限に抑制されている。さらにその中でも、ポリプロピレン樹脂のメルトマスフローレートが、エチレン・αオレフィン共重合樹脂のメルトマスフローレートの3倍以上、70倍以下である例2および3の化粧シートにおいて、その傾向が強い。比較のための例4〜6を見ると、例5の化粧シートにおいて、紫外線照射の後も、強度低下は最低限に抑制されている。このことから、エチレン・αオレフィン共重合樹脂のメルトマスフローレートの3倍以上、70倍以下であり、かつポリプロピレン樹脂の弾性率が1〜800MPaの範囲内にある場合には、紫外線照射の剥離強度に限っては、強度低下は最低限に抑制されるであろう事が示唆される。
また、例1〜3の中の数値の比較としては、例1よりも例2の方が剥離強度値が大きく、例3では更に大きくなっている。例1と2の比較から、ホモポリプロピレン樹脂のメルトマスフローレートが、エチレン・αオレフィン共重合樹脂のメルトマスフローレートの3倍以上、70倍以下の範囲にある事で、化粧シートの剥離強度をより強固なものにし、さらに例2と3の比較から、マレイン酸のグラフト重合により、剥離強度値の更なる向上効果が得られている事が分かる。いずれにせよ、弾性率1〜800MPaのホモポリプロピレン樹脂60〜95重量部と、エチレン・αオレフィン共重合樹脂5〜40重量部との混合物からなる透明樹脂層を有する化粧シートは、基材シートと透明樹脂層との密着性能を向上させ、かつ鋼板折り曲げ白化に対しては、折り曲げ加工部の白化などが生じない化粧シートとなっている。
本発明の化粧シートは、塩化ビニル樹脂を一切使用しないため環境問題の心配もなく、かつ市場での流通量の多いポリプロピレン系樹脂を主材料として採用している為に、安価で供給安定性が高いながらも、耐薬品性や耐傷付き性なども高い。さらに鋼板基材などに貼り合せた後の後加工性も良好である。さらに、耐熱密着性や耐候密着性も充分な値を有する。従って、意匠性にも優れた極めて実用性の高い化粧シートを提供することができる。
本発明の化粧シートの一実施形態に係る概略の断面構造を示す説明図である。 本発明の化粧シートの透明樹脂層のマトリックス・ドメイン構造を示す説明図である。 本発明の化粧シートの他の実施形態に係る概略の断面構造を示す説明図である。
符号の説明
1…基材シート
2…模様層
3…アンカーコート層
4…透明樹脂層
5…透明樹脂層
6…凹陥模様
7…充填インキ
8…表面保護層
21…ドメイン
22…マトリックス

Claims (4)

  1. 基材シート上に、アンカーコート層と、ポリプロピレンを主体とする材料構成からなる2層以上の透明樹脂層とがこの順で少なくとも積層されている化粧シートであって、前記透明樹脂層のうちの前記アンカーコート層と接する層が、JIS Z 1702で規定される弾性率1〜800MPaのホモポリプロピレン樹脂60〜95重量部と、エチレン・αオレフィン共重合樹脂5〜40重量部との混合物からなり、かつ、
    前記ホモポリプロピレン樹脂とエチレン・αオレフィン共重合樹脂のそれぞれにおいて、JIS K7210にて規定されるメルトマスフローレートを比較した場合に、ホモプロピレン樹脂のメルトマスフローレートが、エチレン・αオレフィン共重合樹脂のメルトマスフローレートの3倍以上、70倍以下である
    ことを特徴とする化粧シート。
  2. 前記弾性率1〜800MPaのホモポリプロピレン樹脂が、ペンタッド分率1%以上85%以下であることを特徴とする請求項1に記載の化粧シート。
  3. 前記2層以上の透明樹脂層が、Tダイによる加熱溶融共押出ラミネート法によって積層されてなることを特徴とする請求項1または2に記載の化粧シート。
  4. 前記2層以上の透明樹脂層のうちの前記アンカーコート層と接する層の構成材料には前記混合物100重量部に対し0.1〜2.0重量部の不飽和カルボン酸あるいはその無水物がグラフト重合されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の化粧シート。
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