ところで、特許文献1に開示されているような流体機械で、冷媒としてのCO2を臨界圧力以上まで圧縮する場合、圧縮機構(82)の吐出冷媒の圧力は例えばHFC冷媒と比較して約3倍以上になる。このため、冷媒をCO2とする場合、圧縮機構(82)の各摺動部では、潤滑油によって形成される油膜の膜圧が薄く成り易い。従って、このような場合、各摺動部の油膜の膜圧を充分確保するために、油の粘度を高くする必要がある。一方、このような理由から高粘度の油を用いるようにすると、各摺動部の潤滑後に駆動モータ(83)の上側の空間で回収された油が、油戻し通路(90)を介して油溜め部(88)へ戻りにくくなってしまう。このため、油溜め部(88)の油が不足してしまい、各摺動部を充分潤滑できなくなってしまう虞が生じる。以上のように、CO2を臨界圧力以上まで圧縮する流体機械では、冷凍機油として高粘度の油を用いることから、潤滑後の油を速やかに回収できる対策を講じる必要がある。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、冷媒としてのCO2を臨界圧力以上まで圧縮する流体機械において、圧縮機構の潤滑に利用された後の油を油溜め部へ確実に返送できるようにすることである。
第1の発明は、冷媒としてのCO2を臨界圧力以上まで圧縮する圧縮機構(50)と、該圧縮機構(50)を駆動する駆動モータ(40)と、上記圧縮機構(50)及び駆動モータ(40)が収容されると共に内部に冷媒が満たされるケーシング(30)と、該ケーシング(30)内に形成される油溜め部(48)の油を上記圧縮機構(50)へ供給する油供給手段(47)と、該圧縮機構(50)へ供給した後の油を上記油溜め部(48)へ返送するための油戻し通路(42d)とを備えた流体機械を前提としている。そして、この流体機械は、上記駆動モータ(40)を駆動制御すると共にワイドギャップ半導体素子(62)を有するインバータ装置(60)を備え、上記ワイドギャップ半導体素子(62)で発生した熱を上記油戻し通路(42d)へ流入する油に付与させるように構成されていることを特徴とするものである。
第1の発明では、駆動モータ(40)が圧縮機構(50)を駆動することで、圧縮機構(50)で冷媒としてのCO2が臨界圧力以上まで圧縮される。また、駆動モータ(40)は、インバータ装置(60)による周波数制御により、回転速度が可変となっている。
ケーシング(30)内の冷媒には、圧縮機構(50)を潤滑するための油が含まれており、この油はケーシング(30)内の油溜め部(48)に溜まっている。油供給手段(47)は、油溜め部(48)に溜まった油を圧縮機構(50)へ供給する。その結果、圧縮機構(50)の各摺動部の潤滑がなされる。潤滑後の油は、油戻し通路(42d)を介して再び油溜め部(48)へ返送される。
ここで、CO2を圧縮する流体機械では、上述した理由から、各摺動部を確実に潤滑するために高粘度の油を用いる必要がある。ところが、このように高粘度の油を用いると、潤滑後の油が油戻し通路(42d)を流れにくくなり、油溜め部(48)に回収される油の量が不足してしまうことがある。そこで、本発明では、圧縮機構(50)の潤滑に利用された油を加熱して油戻し通路(42d)へ流入させるようにしている。
具体的には、圧縮機構(50)の潤滑後の油には、インバータ装置(60)に実装されるワイドギャップ半導体素子(62)の動作熱が放出される。なお、ワイドギャップ半導体素子(62)は、炭化ケイ素(SiC)素子、窒化ガリウム(GaN)、ダイヤモンド素子等に代表される半導体素子であり、例えばシリコン(Si)素子と比較して、バンドギャップが大きい。このため、ワイドギャップ半導体素子(62)は耐熱温度が高く、その結果、動作温度も高い特性を有する。従って、本発明では、このワイドギャップ半導体素子(62)の動作熱により、潤滑後の油を充分昇温させることができる。
ワイドギャップ半導体素子(62)から放出された熱により、潤滑後の油が昇温すると、この油の粘度が低下する。このため、本発明では、潤滑後の油が、油戻し通路(42d)を速やかに流通して油溜め部(48)へ返送される。従って、圧縮機構(50)の潤滑性を充分確保するために高粘度の油を用いても、潤滑後の油を確実に油溜め部(48)へ返送することができる。なお、油溜め部(48)では、油の熱がケーシング(30)の外部へ放出されるため、油溜め部(48)中の油の温度が過度に上昇して粘度が低くなることはない。従って、再び油供給手段(47)によって圧縮機構(50)へ供給される油は、摺動部を潤滑するために充分な粘度を有することになる。
第2の発明は、第1の発明の流体機械において、上記ワイドギャップ半導体素子(62)が、ケーシング(30)内に配置されていることを特徴とするものである。
第2の発明では、ケーシング(30)内に配置されたワイドギャップ半導体素子(62)から、潤滑後の油に熱が放出される。その結果、油戻し通路(42d)へ流入する油の粘度が低下し、この油が速やかに油溜め部(48)へ返送される。
また、本発明では、ワイドギャップ半導体素子(62)をケーシング(30)内に配置することで、ワイドギャップ半導体素子(62)から発生する電磁波ノイズがケーシング(30)によりシールドされる。
第3の発明は、第2の発明の流体機械において、上記ケーシング(30)内には、上記駆動モータ(40)の上側に第1空間(S1)が形成される一方、駆動モータ(40)の下側に油溜め部(48)を有する第2空間(S2)が形成され、上記油戻し通路が、上記ケーシング(30)の内壁と上記駆動モータ(40)の固定子コア部(42a)との間に形成されて上記第1空間(S1)と第2空間(S2)とを繋ぐコアカット部(42d)により構成され、上記ワイドギャップ半導体素子(62)は、上記第1空間(S1)又は上記コアカット部(42d)の上端近傍に配置されていることを特徴とするものである。
第3の発明では、上記ケーシング(30)の内部が、駆動モータ(40)によって、その上側の第1空間(S1)と、その下側の第2空間(S2)とに仕切られる。圧縮機構(50)の潤滑に利用された後、第1空間(S1)に流出した油は、駆動モータ(40)のコアカット部(42d)を流通して第2空間(S2)の油溜め部(48)へ返送される。
ここで、本発明では、第1空間(S1)又はコアカット部(42d)の上端近傍に、ワイドギャップ半導体素子(62)を配置している。このため、第1空間(S1)からコアカット部(42d)へ流入する油は、ワイドギャップ半導体素子(62)によって確実に加熱される。
第4の発明は、第2又は第3の発明の流体機械において、上記ワイドギャップ半導体素子(62)には、放熱フィン(64)が取り付けられていることを特徴とするものである。
第4の発明では、ワイドギャップ半導体素子(62)に放熱フィン(64)を設けることで、潤滑後の油に対する放熱量が増大し、油の粘度が効率良く低下する。
第5の発明は、第4の発明の流体機械において、上記放熱フィン(64)は、ケーシング(30)の内壁に沿って配置される筒状の基部(64a)と、該基部(64a)の内壁に立説された板状の複数のフィン部(64b)とで構成されていることを特徴とするものである。
第5の発明では、放熱フィン(64)の基部(64a)を筒状とすることで、ワイドギャップ半導体素子(62)の動作熱が基部(64a)を介して広範囲に亘って放出される。また、基部(64a)の内壁には、複数のフィン部(64b)が支持されているため、放熱フィン(64)の伝熱面積が拡大する。更に、フィン部(64b)は、基部(64a)に対して鉛直な姿勢で支持されているため、各フィン部(64b)に付着した油が落ち易くなる。
第6の発明は、第3の発明の流体機械において、上記ワイドギャップ半導体素子(62)は、駆動モータ(40)の固定子コア部(42a)の上端部に支持されていることを特徴とするものである。
第6の発明は、固定子コア部(42a)の上端部にワイドギャップ半導体素子(62)を支持させることで、ワイドギャップ半導体素子(62)の支持部材が不要となる。また、上述のように、第1空間(S1)に流出した油は、固定子コア部(42a)の周囲に形成されるコアカット部(42d)を流れる。このため、この位置にワイドギャップ半導体素子(62)を支持させることで、ワイドギャップ半導体素子(62)の動作熱をコアカット部(42d)へ流入する油へ確実に付与することができ、この油の昇温効果が向上する。
第7の発明は、第6の発明の流体機械において、上記駆動モータ(40)の固定子コア部(42a)の上端には、絶縁部(42c)が形成され、上記ワイドギャップ半導体素子(62)は、絶縁部(42c)の上面に取り付けられていることを特徴とするものである。
第7の発明では、固定子コア部(42a)の上端部に形成される絶縁部(42c)にワイドギャップ半導体素子(62)が取り付けられる。つまり、本発明では、絶縁部(42c)が、固定子コア部(42a)とコイル部とを絶縁するためのインシュレータと、ワイドギャップ半導体素子(62)の基板との双方に兼用される。
第8の発明は、第1の発明の流体機械において、上記ワイドギャップ半導体素子(62)が、ケーシング(30)の外壁に取り付けられ、上記ワイドギャップ半導体素子(62)で発生した熱がケーシング(30)を介して上記油戻し通路(42d)へ流入する油に付与されるように構成されていることを特徴とするものである。
第8の発明では、第2の発明と異なり、ワイドギャップ半導体素子(62)がケーシング(30)の外壁に取り付けられる。そして、ワイドギャップ半導体素子(62)によってケーシング(30)が加熱され、加熱されたケーシング(30)によって潤滑後の油が加熱される。その結果、油戻し通路(42d)へ流入する油の粘度が低下する。
第9の発明は、第8の発明の流体機械において、上記ケーシング(30)内には、上記駆動モータ(40)の上側に第1空間(S1)が形成される一方、駆動モータ(40)の下側に油溜め部(48)を有する第2空間(S2)が形成され、上記油戻し通路は、上記ケーシング(30)の内壁と上記駆動モータ(40)の固定子コア部(42a)との間に形成されて上記第1空間(S1)と第2空間(S2)とを繋ぐコアカット部(42d)により構成され、上記ワイドギャップ半導体素子(62)は、ケーシング(30)の外壁で、且つ上記第1空間(S1)又は上記コアカット部(42d)の上端近傍と隣接する部位に取り付けられていることを特徴とするものである。
第9の発明では、上記ケーシング(30)の内部が、駆動モータ(40)によって、その上側の第1空間(S1)と、その下側の第2空間(S2)とに仕切られる。圧縮機構(50)の潤滑に利用された後、第1空間(S1)に流出した油は、駆動モータ(40)のコアカット部(42d)を流通して第2空間(S2)の油溜め部(48)へ返送される。
ここで、本発明では、ケーシング(30)の外壁において、第1空間(S1)又はコアカット部(42d)の上端近傍と隣接する部位にワイドギャップ半導体素子(62)を取り付けている。このため、第1空間(S1)からコアカット部(42d)へ流入する油は、ケーシング(30)を介してワイドギャップ半導体素子(62)から放出される熱によって、確実に加熱される。
第10の発明は、第8又は第9の発明の流体機械において、上記ワイドギャップ半導体素子(62)を覆う断熱部材(66)を備えていることを特徴とするものである。
第10の発明では、ケーシング(30)の外壁に取り付けられるワイドギャップ半導体素子(62)が、断熱部材(66)によって覆われる。その結果、ワイドギャップ半導体素子(62)の動作熱が確実にケーシング(30)に伝熱されるので、油の昇温効果が向上する。
第11の発明は、第1の発明の流体機械において、上記圧縮機構(50)が、ケーシング(30)内に高圧冷媒を吐出するように構成され、上記ケーシング(30)には、その内部の高圧冷媒を該ケーシング(30)の外部へ流出させる吐出管(35)が接続されていることを特徴とするものである。
第11の発明では、圧縮機構(50)で圧縮された後の高圧冷媒がケーシング(30)内に吐出される。そして、ケーシング(30)内の高圧冷媒は、吐出管(35)よりケーシング(30)の外部へ流出する。つまり、本発明の流体機械は、ケーシング(30)内が高圧冷媒で満たされる、いわゆる高圧ドーム型である。
このように、ケーシング(30)内を高圧冷媒で満たすようにすると、油に対する冷媒の密度が高くなる。その結果、冷媒に含まれる油は、高圧冷媒に押し上げられ易くなるので、圧縮機構(50)の潤滑後の油は、油溜め部(48)へ一層戻りにくくなる。一方、本発明では、潤滑後の油がワイドギャップ半導体素子(62)の作動熱によって加熱され、油の粘度が低下するため、この油を油溜め部(48)へ確実に戻すことができる。
第12の発明は、第3又は第9の発明の流体機械において、上記圧縮機構(50)は、ケーシング(30)内に高圧冷媒を吐出するように構成され、上記ケーシング(30)には、その内部の高圧冷媒を該ケーシング(30)の外部へ流出させる吐出管(35)が上記第1空間(S1)に繋がっていることを特徴とするものである。
第12の発明では、圧縮機構(50)で圧縮された後の高圧冷媒がケーシング(30)内に吐出される。この冷媒は、駆動モータ(40)の上側の第1空間(S1)に流れ、その後に吐出管(35)からケーシング(30)の外部へ流出する。
このような構成とすると、圧縮機構(50)の潤滑に利用された油は、高圧冷媒と共に第1空間(S1)へ順次流出することになる。このため、第1空間(S1)内には油が滞り易くなる。一方、本発明では、潤滑後の油がワイドギャップ半導体素子(62)の作動熱によって加熱され、油の粘度が低下するため、第1空間(S1)に滞る油を油溜め部(48)へ速やかに戻すことができる。
第13の発明は、第12の発明の流体機械において、上記圧縮機構(50)は、上記第2空間(S2)に高圧冷媒を吐出するように構成されていることを特徴とするものである。
第13の発明では、圧縮機構(50)からは、駆動モータ(40)の下側の第2空間(S2)へ冷媒が吐出される。この冷媒は、油と共に駆動モータ(40)のロータの隙間等を通過して第1空間(S1)へ流れ、吐出管(35)からケーシング(30)の外部へ流出する。このように圧縮機構(50)から吐出された冷媒が駆動モータ(40)を通過すると、駆動モータ(40)の熱が冷媒中の油に付与される。その結果、その後に第1空間(S1)から油戻し通路(42d)へ流入する油の温度が一層高くなり、油の粘度は一層低くなる。
第14の発明は、第1乃至第13のいずれか1つの発明の流体機械において、上記ワイドギャップ半導体素子は、SiC素子(62)であることを特徴とするものである。
第14の発明では、ワイドギャップ半導体素子として、耐熱性に優れ、動作温度の高いSiC素子(62)が用いられる。
第15の発明は、冷媒が循環して冷凍サイクルを行う冷媒回路(10)を備えたヒートポンプ装置を前提としている。そして、このヒートポンプ装置は、上記冷媒回路(10)に、第1乃至第14のいずれか1つの発明の流体機械(20)が接続されていることを特徴とするものである。
第15の発明では、第1乃至第14のいずれか1つの発明の流体機械(20)が冷媒回路(10)に接続され、室内の暖房や給湯等に利用されるヒートポンプ装置が構成される。
本発明では、インバータ装置(60)のワイドギャップ半導体素子(62)で油戻し通路(42d)へ流入する油を加熱し、この油の粘度を低下させるようにしている。このため、本発明によれば、高粘度の油を用いるようにしても、この油を油戻し通路(42d)を介して速やかに油溜め部(48)へ戻すことができる。従って、油溜め部(48)に回収される油が不足することがなく、圧縮機構(50)の各摺動部を充分に潤滑することができる。
また、本発明によれば、ワイドギャップ半導体素子(62)の動作熱を油の加熱用の熱源として有効利用できる。しかも、ワイドギャップ半導体素子(62)は、例えばシリコン素子と比較して動作温度が高いため、油を効果的に昇温させて、その粘度を低下させることができる。
また、本発明によれば、ワイドギャップ半導体素子(62)が、油に熱を付与して冷却されるので、ワイドギャップ半導体素子(62)の熱抵抗を低減でき、更には、ワイドギャップ半導体素子(62)が熱により破損してしまうのを確実に防止できる。
第2の発明では、ワイドギャップ半導体素子(62)を冷媒で満たされるケーシング(30)内に配置している。このため、本発明によれば、ワイドギャップ半導体素子(62)の熱を直接的に冷媒中の油へ付与することができ、油の粘度を効率良く低下させることができる。
また、本発明によれば、ワイドギャップ半導体素子(62)をケーシング(30)内に配置することで、ワイドギャップ半導体素子(62)から発する電磁波ノイズをケーシング(30)によってシールドすることができ、更にはワイドギャップ半導体素子(62)をケーシング(30)内にコンパクトに収納することができる。また、このようにワイドギャップ半導体素子(62)をケーシング(30)内に配置することで、ワイドギャップ半導体素子(62)をケーシング(30)の外部から絶縁でき、更には比較的表面温度の高いワイドギャップ半導体素子(62)が人の手に触れてしまうのを確実に防止できる。
第3の発明によれば、駆動モータ(40)の上側の第1空間(S1)又はコアカット部(42d)の上端近傍にワイドギャップ半導体素子(62)を配置するようにしたので、第1空間(S1)からコアカット部(42d)へ流入する油を確実に加熱することができる。また、このようにして、油がコアカット部(42d)を流れ易くなると、コアカット部(42d)の数量を減らしたり、コアカット部(42d)の通路断面積を小さくしたりできる。
第4の発明によれば、ワイドギャップ半導体素子(62)に放熱フィン(64)を取り付けるようにしたので、ワイドギャップ半導体素子(62)から油への放熱量を増大できる。従って、油戻し通路(42d)へ流入する油の粘度を一層効果良く低下させることができる。また、ワイドギャップ半導体素子(62)の放熱量が増大した分だけ、このワイドギャップ半導体素子(62)を効果的に冷却することができる。
特に、第5の発明によれば、放熱フィン(64)の基部(64a)を筒状とすることで、ワイドギャップ半導体素子(62)の作動熱を広範囲に広げることができる。その結果、広範囲に亘る油を昇温でき、油の粘度を確実に低下させることができる。また、基部(64a)及びフィン部(64b)は、その壁面が鉛直となっているため、壁面に付着した油を速やかに落下させることができる。
第6の発明では、駆動モータ(40)の固定子コア部(42a)の上端部にワイドギャップ半導体素子(62)を支持させるようにしている。このため、ワイドギャップ半導体素子(62)の支持部材が不要となり、この流体機械の部品点数を削減することができる。
また、固定子コア部(42a)の上端部近傍には、コアカット部(42d)へ流入する油が流れるため、この油をワイドギャップギャップ半導体素子(62)で確実に加熱することができる。更に、ワイドギャップ半導体素子(62)の熱を固定子コア部(42a)に伝熱させることで、ワイドギャップ半導体素子(62)の冷却効果を高めることができる。
特に、第7の発明では、固定子コア部(42a)の上端に形成される絶縁部(42c)の上面にワイドギャップ半導体素子(62)を取り付けている。このため、本発明によれば、絶縁部をインシュレータと、ワイドギャップ半導体素子(62)の基板との双方に共用することができる。更に、絶縁部(42c)にワイドギャップ半導体素子(62)を取り付けることで、駆動モータ(40)のコイル部からワイドギャップ半導体素子(62)までの距離を短くすることができる。従って、ワイドギャップ半導体素子(62)とコイル部との間の配線長さを短縮できる。
第8の発明では、ケーシング(30)の外壁にワイドギャップ半導体素子(62)を取付けて、ケーシング(30)を介してワイドギャップ半導体素子(62)の熱を油へ付与するようにしている。このように、ワイドギャップ半導体素子(62)をケーシング(30)の外部に設けると、ワイドギャップ半導体素子(62)のメンテナンスや交換が容易となる。また、ワイドギャップ半導体素子(62)からは、ケーシング(30)の外部の空間へも放熱するため、ワイドギャップ半導体素子(62)の冷却効果を高めることができる。
第9の発明では、ケーシング(30)の外壁において、駆動モータ(40)の上側の第1空間(S1)又はコアカット部(42d)の上端近傍に隣接する部位に、ワイドギャップ半導体素子(62)を取り付けるようにしている。このため、本発明によれば、第1空間(S1)からコアカット部(42d)へ流入する油を確実に加熱することができる。また、このようにして、油がコアカット部(42d)を流れ易くなると、コアカット部(42d)の数量を減らしたり、コアカット部(42d)の通路断面積を小さくしたりできる。
特に、第10の発明によれば、ワイドギャップ半導体素子(62)の周囲を断熱部材(66)で覆うようにしたので、ワイドギャップ半導体素子(62)の熱がケーシング(30)の外部空間へ放出されてしまうのを抑制できる。このため、本発明によれば、ワイドギャップ半導体素子(62)からケーシング(30)内の油へ伝わる熱量を増大させることができ、油の粘度を効率良く低下させることができる。
第11の発明では、ケーシング(30)内を高圧冷媒で満たすようにし、ワイドギャップ半導体素子(62)の周囲を高圧冷媒雰囲気としている。その結果、油が冷媒に押し上げられる易くなることから、従来であれば潤滑後の油が油溜め部(48)へ一層戻りにくくなるが、本発明では、ワイドギャップ半導体素子(62)の作動熱を利用して油の粘度を低下させているため、この油を油戻し通路(42d)を介して確実に油溜め部(48)へ返送させることができる。
一方、仮にケーシング(30)内を低圧冷媒(圧縮機構(50)の吸入冷媒)で満たすようにした場合、ワイドギャップ半導体素子(62)の熱により低圧冷媒が加熱され、圧縮機構(50)の圧縮効率の低下を招く虞がある。これに対し、本発明では、ワイドギャップ半導体素子(62)の熱により、圧縮機構(50)の吐出冷媒が加熱されるだけなので、圧縮機構(50)の圧縮効率が低下することはない。しかも、ワイドギャップ半導体素子(62)で加熱された高圧冷媒を室内の暖房や給湯に利用する場合には、ヒートポンプ装置等の暖房能力や給湯能力の向上を図ることができる。
特に、第12の発明では、駆動モータ(40)の上側の第1空間(S1)に吐出管(35)を接続しているため、潤滑後の油が第1空間(S1)に滞り易くなるが、本発明では、ワイドギャップ半導体素子(62)の作動熱を利用して油の粘度を低下させているため、この油を油戻し通路(42d)を介して確実に油溜め部(48)へ返送させることができる。
また、本発明によれば、第1空間(S1)から吐出管(35)へ流出する高圧冷媒をワイドギャップ半導体素子(62)で加熱することができる。従って、この高圧冷媒を室内の暖房や給湯に利用する場合には、ヒートポンプ装置等の暖房能力や給湯能力を一層向上できる。
第13の発明では、圧縮機構(50)から第2空間(S2)へ冷媒を吐出するようにしている。このため、第2空間(S1)から第1空間(S1)へ冷媒が流れる際、この冷媒中に含まれる油を駆動モータ(40)の熱により加熱することができる。従って、本発明によれば、第1空間(S1)に滞る油の粘度を更に低下させることができ、第1空間(S1)の油を速やかに油溜め部(48)へ戻すことができる。
第14の発明によれば、ワイドギャップ半導体素子としてSiC素子(62)を用いるようにしたので、潤滑後の油を昇温するための作動熱を充分得ることができる。また、ワイドギャップ半導体素子(62)を比較的廉価に構成することができる。
上記第15の発明によれば、第1から第14までの流体機械(20)をヒートポンプ装置に適用するようにしている。このため、本発明によれば、信頼性の高い流体機械(20)を有するヒートポンプ装置を提供することができる。
特に、第11の発明や第12の発明のように、ケーシング(30)内を高圧冷媒で満たすようにすると、ワイドギャップ半導体素子(62)から発生した熱を圧縮機構(50)の吐出冷媒に付与することができる。このため、ワイドギャップ半導体素子(62)から発生した熱を室内の暖房や給湯に利用することができ、このヒートポンプ装置の省エネ性を向上させることができる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
《実施形態1》
本発明の実施形態1に係るヒートポンプ装置は、室内の冷房と暖房とを切り換えて行う空気調和装置(1)を構成している。図1に示すように、空気調和装置(1)は、冷媒回路(10)を備えている。冷媒回路(10)には、冷媒として二酸化炭素(CO2)が充填されている。この冷媒回路(10)では、冷媒が循環することで蒸気圧縮式の冷凍サイクルが行われる。また、本実施形態の冷媒回路(10)では、冷媒を臨界圧力以上まで圧縮する、いわゆる超臨界サイクルが行われる。
<冷媒回路の構成>
冷媒回路(10)には、圧縮機(20)と室内熱交換器(21)と膨張弁(22)と室外熱交換器(23)と四路切換弁(24)とが接続されている。実施形態1の圧縮機(20)は、ロータリー型の圧縮機であり、本発明の流体機械を構成している。この圧縮機(20)の詳細は後述する。室内熱交換器(21)は、室内に設置されている。室内熱交換器(21)では、冷媒と室内空気との間で熱交換が行われる。室外熱交換器(23)は、室外に設置されている。室外熱交換器(23)では、冷媒と室外空気との間で熱交換が行われる。膨張弁(22)は、冷媒を減圧する減圧手段であり、例えば電子膨張弁で構成されている。四路切換弁(24)は、第1から第4までの4つのポートを備えている。四路切換弁(24)は、第1ポートが圧縮機(20)の吐出側と、第2ポートが室内熱交換器(21)と、第3ポートが圧縮機(20)の吸入側と、第4ポートが室外熱交換器(23)とそれぞれ繋がっている。四路切換弁(24)は、第1ポートと第2ポートとが繋がると同時に第3ポートと第4ポートとが繋がる状態(図1の実線で示す状態)と、第1ポートと第4ポートとが繋がると同時に第2ポートと第3ポートとが繋がる状態(図1の破線で示す状態)とに設定が切り換わるように構成されている。
<圧縮機の構成>
図2に示すように、圧縮機(20)は、中空で密閉型のケーシング(30)を備えている。ケーシング(30)は、円筒状の胴部(31)と、胴部(31)の上端部に設けられる天板部(32)と、胴部(31)の下端部に設けられる底板部(33)とを備えている。ケーシング(30)では、胴部(31)の下側寄りに吸入管(34)が接続され、天板部(32)に吐出管(35)が接続されている。吐出管(35)は、天板部(32)を上下に貫通しており、その下端部がケーシング(30)の内部空間に開口している。なお、ケーシング(30)は、例えば鉄等の金属材料で構成されている。
ケーシング(30)内には、駆動モータ(40)と駆動軸(45)と圧縮機構(50)とが収容されている。
駆動モータ(40)は、ケーシング(30)内の上部寄りの空間に配置されている。そして、ケーシング(30)の内部空間は、駆動モータ(40)の上側の第1空間(S1)と、駆動モータ(40)の下側の第2空間(S2)とに仕切られている。上記第1空間(S1)には、上述した吐出管(35)が繋がっている。
駆動モータ(40)は、ロータ(41)とステータ(42)とを備えている。ロータ(41)は、駆動軸(45)の周囲に固定されている。ステータ(42)は、ロータ(41)の外周側に設けられている。ステータ(42)は、ケーシング(30)の胴部(31)の内壁に固定される固定子コア部(42a)と、固定子コア部(42a)の上側及び下側にそれぞれ設けられるコイル部(42b)とを有している。また、固定子コア部(42a)には、その軸方向における上下両端面に、それぞれインシュレータ(42c)が設けられている。インシュレータ(42c)は、絶縁材料から成り、固定子コア部(42a)とコイル部(42b)とを絶縁するための絶縁部を構成している。更に、固定子コア部(42a)の外周と、ケーシング(30)の内壁との間には、軸方向に延びる複数のコアカット部(42d)が形成されている。このコアカット部(42d)は、固定子コア部(42a)の周方向に所定間隔置きに形成されている。各コアカット部(42d)は、第1空間(S1)と第2空間(S2)とを繋いでいる。各コアカット部(42d)は、第1空間(S1)に流出した油(冷凍機油)を第2空間(S2)の油溜め部(48)へ返送するための油戻し通路を構成している。
駆動軸(45)は、ケーシング(30)の軸心を上下方向に延びて形成されている。駆動軸(45)には、下側寄りの部位に偏心部(46)が形成されている。偏心部(46)は、駆動軸(45)よりも大径であり、且つ駆動軸(45)の軸心から所定量偏心している。また、駆動軸(45)には、その下端部に油ポンプ(47)が設けられている。油ポンプ(47)は、ケーシング(30)の底部に形成される油溜め部(48)に溜まった油を、遠心力によって汲み上げる構造となっている。油ポンプ(47)で汲み上げられた油は、駆動軸(45)に形成された油供給通路(図示省略)を介して、圧縮機構(50)の各摺動部へ供給される。つまり、油ポンプ(47)は、油溜め部(48)の油を圧縮機構(50)へ供給するための油供給手段を構成している。また、駆動軸(45)の上側には、油分離板(49)が設けられている。油分離板(49)は、圧縮機構(50)から吐出された後、駆動モータ(40)のロータ(41)の周囲等を通過した冷媒中に含まれる油を遠心力によって径方向外側に飛散させるように構成されている。
圧縮機構(50)は、ケーシング(30)内の下部寄りであって、上記第2空間(S2)に配置されている。圧縮機構(50)は、シリンダ(51)とフロントヘッド(52)とリヤヘッド(53)とピストン(54)とを備えている。
シリンダ(51)は、円環状に形成されており、その外周面がケーシング(30)の内壁に固定されている。シリンダ(51)の内側には、円柱状のシリンダ室(55)が形成されている。また、シリンダ(51)には、径方向に延びる吸入通路(51a)が形成されている。吸入通路(51a)は、シリンダ室(55)と上記吸入管(34)とを連通させている。
フロントヘッド(52)は、シリンダ(51)の上側に、リヤヘッド(53)は、シリンダ(51)の下側にそれぞれ取り付けられている。そして、フロントヘッド(52)はシリンダ室(55)の上端開口部を、リヤヘッド(53)はシリンダ室(55)の下端開口部をそれぞれ閉塞している。更に、フロントヘッド(52)には上部軸受け(56)が、リヤヘッド(53)には下部軸受け(57)がそれぞれ設けられている。駆動軸(45)は、フロントヘッド(52)及びリヤヘッド(53)を貫通しながら、上部軸受け(56)及び下部軸受け(57)に回転自在に支持されている。
フロントヘッド(52)には、シリンダ室(55)とケーシング(30)の内部空間とを連通させる吐出ポート(52a)が形成されている。吐出ポート(52a)には、図示しない吐出弁が設けられている。更に、フロントヘッド(52)には、吐出ポート(52a)を覆うように消音マフラー(58)が取り付けられている。
上記ピストン(54)は、シリンダ室(55)に配置されている。ピストン(54)には、その内部に上記偏心部(46)が嵌り込んでいる。駆動軸(45)が回転すると、ピストン(54)は、駆動軸(45)の軸心から偏心しながらシリンダ室(55)内を回転する。その結果、圧縮機構(50)では、シリンダ室(55)に形成される圧縮室の容積が変化し、冷媒の圧縮動作が行われる。
圧縮機構(50)は、圧縮した後の高圧冷媒を上記吐出ポート(52a)を介してケーシング(30)内に吐出するように構成されている。つまり、実施形態1の圧縮機(20)は、ケーシング(30)の内部空間が高圧冷媒で満たされる、いわゆる高圧ドーム型の圧縮機を構成している。
<インバータ回路の構成>
圧縮機(20)は、上記駆動モータ(40)を駆動制御するためのインバータ装置(60)を備えている。インバータ装置(60)には、各種の電子部品として、スイッチング素子を構成する炭化シリコン(SiC)素子(62)や、ドライバを構成するシリコン(Si)素子(63)等が実装されている。上記SiC素子(62)は、そのバンドギャップが約2.2〜3.0eVであり、その耐熱温度が約400℃である、ワイドギャップ半導体素子を構成している。一方、Si素子(63)は、そのバンドギャップが約1.1eVであり、その耐熱温度が約120℃である、低耐熱性素子を構成している。つまり、Si素子(63)は、SiC素子(62)よりも耐熱温度が低くなっている。
図2に示すように、インバータ装置(60)は、ケーシング(30)の上部に設けられている。インバータ装置(60)は、基板(61)を有し、この基板(61)がケーシング(30)の胴部(31)の貫通孔に嵌り込んでいる。基板(61)では、その一方の面がケーシング(30)の第1空間(S1)に臨み、この面に上記SiC素子(62)が設置されている。つまり、SiC素子(62)は、第1空間(S1)に配置されている。また、基板(61)では、その他方の面がケーシング(30)の外部空間に臨み、この面に上記Si素子(63)が設置されている。つまり、基板(61)は、SiC素子(62)がケーシング(30)の内部に位置し、Si素子(63)がケーシング(30)の外部に位置するようにケーシング(30)に取り付けられている。また、本実施形態では、SiC素子(62)が圧縮機構(50)と吐出管(35)の間の空間に配置されている。
インバータ装置(60)には、放熱フィン(64)及び樹脂カバー(65)が取り付けられている。
図2及び図3に示すように、放熱フィン(64)は、SiC素子(62)の表面に固定される基部(64a)と、該基部(64a)の内壁に設けられる複数のフィン部(64b)とで構成されている。基部(64a)は、上下に開口を有する円筒状に形成されており、ケーシング(30)の内壁に沿うように形成されている。フィン部(64b)は、板状の形成されており、基部(64a)の内壁に鉛直な姿勢で立設されている。フィン部(64b)は、基部(64a)の内壁の全周に亘って所定間隔置きに配列されている。
樹脂カバー(65)は、一端が開口する箱形に形成されている。そして、樹脂カバー(65)は、その内部にSi素子(63)を収納するようにケーシング(30)の胴部(31)に取り付けられている。つまり、樹脂カバー(65)は、Si素子(63)を外部から覆うことでSi素子(63)を絶縁するための樹脂部材を構成している。
上述したように、実施形態1の圧縮機(20)では、第1空間(S1)にSiC素子(62)が配置されている。そして、この圧縮機(20)では、SiC素子(62)の動作に伴う熱をコアカット部(42d)に流入する油に付与するように構成されている。このSiC素子(62)による油の加熱動作についての詳細は後述する。
−運転動作−
次に、この空気調和装置(1)の運転動作について説明する。この空気調和装置(1)は、冷房運転と暖房運転とが可能となっている。これらの運転では、インバータ装置(60)により、圧縮機(20)の駆動モータ(40)が駆動されることで、駆動軸(45)が回転する。その結果、圧縮機構(50)では、ピストン(54)の回転に伴い圧縮室の容積が拡縮され、圧縮機構(50)で冷媒の圧縮動作が行われる。
<暖房運転>
暖房運転では、四路切換弁(24)が図1の実線で示す状態となる。また、膨張弁(22)の開度が適宜調節される。
図2に示す圧縮機(20)では、圧縮機構(50)で冷媒としてのCO2が臨界圧力以上となるまで圧縮される。圧縮機構(50)で圧縮された冷媒は、高圧冷媒となって吐出ポート(52a)よりケーシング(30)内の第2空間(S2)へ流出する。この高圧冷媒は、ケーシング(30)内を上方へ流れる。
一方、ケーシング(30)内の第1空間(S1)には、上記SiC素子(62)及び放熱フィン(64)が位置している。SiC素子(62)は、スイッチング動作に伴い発熱している。このため、SiC素子(62)から発生する熱は、放熱フィン(64)を介して高圧冷媒へ付与される。その結果、SiC素子(62)が冷却される一方、高圧冷媒が昇温する。また、本実施形態では、SiC素子(62)から発生する熱の一部が基板(61)を伝ってケーシング(30)の外部へも放出する。このため、SiC素子(62)が更に冷却される。
SiC素子(62)の熱を奪った高圧冷媒は、吐出管(35)よりケーシング(30)の外部へ流出する。この冷媒は、室内熱交換器(21)を流れる。室内熱交換器(21)では、冷媒が室内空気へ放熱する。その結果、室内の暖房が行われる。この際、室内熱交換器(21)では、上述のようにしてSiC素子(62)から奪った熱も室内へ放出される。つまり、この暖房運転では、SiC素子(62)から回収した熱が室内の暖房に利用される。
室内熱交換器(21)で放熱した後の冷媒は、膨張弁(22)を通過する際に減圧されて、室外熱交換器(23)を流れる。室外熱交換器(23)では、冷媒が室外空気から吸熱して蒸発する。室外熱交換器(23)で蒸発した冷媒は、吸入管(34)を介して圧縮機(20)の圧縮機構(50)内へ吸入される。
<冷房運転>
冷房運転では、四路切換弁(24)が図1の破線で示す状態となる。また、膨張弁(22)の開度が適宜調節される。
図2に示す圧縮機(20)では、圧縮機構(50)で冷媒としてのCO2が臨界圧力以上となるまで圧縮される。圧縮機構(50)で圧縮された冷媒は、高圧冷媒となって吐出ポート(52a)よりケーシング(30)内の第2空間(S2)へ流出する。この高圧冷媒は、ケーシング(30)内を上方へ流れる。SiC素子(62)から発生した熱は、上述の暖房運転と同様、放熱フィン(64)を介して高圧冷媒へ付与される。その結果、SiC素子(62)が冷却される。また、SiC素子(62)から発生する熱の一部は、基板(61)を伝ってケーシング(30)の外部へも放出する。
SiC素子(62)の冷却に利用された高圧冷媒は、吐出管(35)よりケーシング(30)の外部へ流出する。この冷媒は、室外熱交換器(23)を流れる。室外熱交換器(23)では、冷媒が室外空気へ放熱する。この際、室外熱交換器(23)では、上述のようにしてSiC素子(62)から奪った熱も室外へ放出される。
室外熱交換器(23)で放熱した後の冷媒は、膨張弁(22)を通過する際に減圧されて、室内熱交換器(21)を流れる。室内熱交換器(21)では、冷媒が室内空気から吸熱して蒸発する。その結果、室内の冷房が行われる。室内熱交換器(21)で蒸発した冷媒は、吸入管(34)を介して圧縮機(20)の圧縮機構(50)内へ吸入される。
−冷凍機油の流れについて−
次に、圧縮機(20)の各摺動部を潤滑するための油(冷凍機油)の流れについて図2を参照しながら説明する。なお、上述のように、この圧縮機(20)では、CO2が臨界圧力以上まで圧縮されるため、圧縮機構(50)の吐出冷媒の圧力は、例えばHFC冷媒と比較して約3倍以上にもなる。このため、この圧縮機(20)では、圧縮機構(50)のピストン(54)や各軸受け部(56,57)の各摺動部に形成される油膜厚さを充分確保するため、高粘度の冷凍機油を用いるようにしている。具体的には、本実施形態において、冷凍機油としてPAG(ポリアルキレングリコール)を用いている。また、この冷凍機油は、100℃における動粘度が18〜20mm2/secの範囲であり、粘度指数(油の温度による動粘度の変化の割合を表す指標)が150〜200の範囲である。
第2空間(S2)の底部の油溜め(48)に溜まった油は、油ポンプ(47)によって上方に汲み上げられる。この油は、油供給通路を通じて、圧縮機構(50)の各摺動部へ供給される。ここで、上述のように各摺動部を潤滑する油は高粘度である。このため、圧縮機構(50)で冷媒を臨界圧力以上まで圧縮しても、各摺動部の油膜の膜圧を充分確保することができる。
以上のようにして、各摺動部の潤滑に利用された油は、圧縮機構(50)の吐出冷媒と共に、駆動モータ(40)のロータ(41)の周りを上方に通過する。この際には、ロータ(41)から生じる熱が冷媒中に含まれる油に放出されるため、油の粘度が若干低下する。ロータ(41)を通過した油は、油分離板(49)によって径方向外側に飛散しながら、第1空間(S1)に流出する。
第1空間(S1)に流出した油は、SiC素子(62)及び放熱フィン(64)の周囲を流れる。ここで、SiC素子(62)は、スイッチング動作に伴い発熱しているため、SiC素子(62)の熱が、放熱フィン(64)を介して油へ放出される。その結果、油が加熱されて昇温する。また、放熱フィン(64)では、基部(64a)の壁面やフィン部(64b)の壁面が鉛直となっているため、これらの壁面に付着した油は速やかに滴下する。
SiC素子(62)の動作熱が付与された油は、コアカット部(42d)に流入する。ここで、コアカット部(42d)を流下する油は、加熱されることにより粘度が低くなっている。このため、この油は、コアカット部(42d)を速やかに流れて、第2空間(S2)へ流出し、その後に油溜め部(48)に回収される。従って、第1空間(S1)に油が滞ることにより、圧縮機構(50)の各摺動部へ供給される油が不足してしまうことが回避される。
−実施形態1の効果−
上記実施形態1では、インバータ装置(60)のSiC素子(62)でコアカット部(42d)へ流入する油を加熱して、油の粘度を低下させるようにしている。このため、上記実施形態1によれば、比較的高粘度の油を用いても、潤滑後の油をコアカット部(42d)を介して速やかに油溜め部(48)へ戻すことができる。従って、油溜め部(48)に回収される油が不足することがなく、圧縮機構(50)の各摺動部を充分に潤滑することができる。また、このようにして油の粘度を低下させることで、コアカット部(42d)の数量の削減、コアカット部(42d)の通路断面の縮小化を図ることができる。
上記実施形態1によれば、SiC素子(62)の動作熱を油加熱用の熱源として有効利用できる。しかも、SiC素子(62)は、例えばSi素子(63)と比較して動作温度が高いため、油を効果的に昇温させて、その粘度を低下させることができる。
更に、上記実施形態1によれば、SiC素子(62)が油に熱を付与することにより冷却されるので、SiC素子(62)の熱抵抗を低減でき、更には、SiC素子(62)が熱により破損してしまうのを確実に回避できる。
上記実施形態1によれば、SiC素子(62)をケーシング(30)内に配置することで、SiC素子(62)から発する電磁波ノイズをケーシング(30)によってシールドすることができ、更にはSiC素子(62)をケーシング(30)内にコンパクトに収納することができる。また、SiC素子(62)をケーシング(30)内に配置することで、SiC素子(62)をケーシング(30)の外部から絶縁でき、更には比較的表面温度の高いSiC素子(62)が人の手に触れてしまうのを確実に防止できる。
上記実施形態1によれば、SiC素子(62)に放熱フィン(64)を取り付けるようにしたので、SiC素子(62)から油への放熱量を増大させることができる。従って、油戻し通路(42d)へ流入する油の粘度を一層効果的に低下させることができる。また、SiC素子(62)の放熱量が増大した分だけ、このSiC素子(62)を効果的に冷却することができる。
ここで、上記実施形態1では、放熱フィン(64)の基部(64a)を筒状としているため、SiC素子(62)の作動熱を広範囲に広げることができる。その結果、油の昇温効果が向上し、油の粘度を効果的に低下させることができる。また、基部(64a)及びフィン部(64b)は、その壁面が鉛直となっているため、壁面に付着した油を速やかに落下させることができる。
更に、上記実施形態1では、ケーシング(30)内を高圧冷媒で満たすようにし、SiC素子(62)から高圧冷媒へも作動熱を放出させるようにしている。このため、SiC素子(62)を一層効果的に冷却することができる。また、この空気調和装置(1)では、SiC素子(62)から奪った熱を暖房に利用できるので、この空気調和装置(1)の省エネ性を向上できる。
また、上記実施形態1では、圧縮機構(50)から第2空間(S2)へ吐出された高圧冷媒が、駆動モータ(40)を通過して第1空間(S1)へ流れる。このため、高圧冷媒中の油を駆動モータ(40)の熱によって加熱でき、その後にコアカット部(42d)へ流入する油の粘度を更に低下させることができる。
また、上記実施形態1では、SiC素子(62)よりも耐熱温度の低いSi素子(63)をケーシング(30)の外部に配置するようにしている。このため、高圧冷媒からSi素子(63)へ付与される熱量を最小限に留めることができ、Si素子(63)が熱により破損してしまうのを確実に回避できる。その結果、このインバータ装置(60)の信頼性を向上できる。
また、上記実施形態1では、基板(61)の一方の面にSiC素子(62)を配置し、他方の面にSi素子(63)を配置し、SiC素子(62)がケーシング(30)の内部に、Si素子(63)がケーシング(30)の外部にそれぞれ位置するように、基板(61)をケーシング(30)に嵌め込むようにしている。このため、SiC素子(62)とSi素子(63)の基板(61)の共用化を図ることができる。また、このような構成とすると、SiC素子(62)から発生する熱を基板(61)を介してケーシング(30)の外部へ放出することができ、SiC素子(62)の放熱効果を高めることができる。
−実施形態1の変形例−
上記実施形態1については、以下のような変形例のような構成としても良い。
〈変形例1〉
図4に示すように、変形例1のインバータ装置(60)は、SiC素子(62)とSi素子(63)とが別体に構成されている。Si素子(63)は、ケーシング(30)の胴部(31)の外壁に基板(61)を介して取り付けられている。また、この変形例1では、上記実施形態1と異なり、Si素子(63)が樹脂カバー(65)で覆われてない。
一方、変形例1のSiC素子(62)は、駆動モータ(40)の固定子コア部(42a)の上端部に支持されている。具体的には、上述のように固定子コア部(42a)の上端には、コイル部(42b)に対して絶縁を図るためのインシュレータ(42c)が形成されており、SiC素子(62)は、インシュレータ(42c)の上面に取り付けられている。以上のようにして、この変形例1では、SiC素子(62)が、コアカット部(42d)の上端近傍に位置している。
この変形例1では、コアカット部(42d)の上端近傍において、SiC素子(62)の作動熱より油を加熱するようにしている。このため、この変形例1によれば、コアカット部(42d)に流入する油を確実に昇温させ、油の粘度を低下させることができる。
また、変形例1では、固定子コア部(42a)の上端部にSiC素子(62)を支持させているので、SiC素子(62)の支持部材が不要となる。また、SiC素子(62)の熱は、固定子コア部(42a)にも伝熱するため、コアカット部(42d)内を流れる油を更に昇温させて、この油を速やかに油溜め部(48)へ送ることができる。また、SiC素子(62)から固定子コア部(42a)に放熱された分だけ、SiC素子(62)を更に冷却することができる。
また、変形例1では、インシュレータ(42c)の上面にSiC素子(62)を取り付けるようにしている。つまり、変形例1では、SiC素子(62)の基板とインシュレータ(42c)とを共用できる。更に、インシュレータ(42c)にSiC素子(62)を取り付けることで、コイル部(42b)からSiC素子(62)までの距離が短くなる。従って、コイル部(42b)とSiC素子(62)との間の配線長さを短縮化できる。
〈変形例2〉
図5に示すように、変形例2のインバータ装置(60)では、SiC素子(62)がケーシング(30)の外壁に取り付けられている。なお、変形例2では、Si素子(63)が別の箇所に設けられている(図示省略)。
具体的に、SiC素子(62)は、ケーシング(30)の胴部(31)の外壁において、第1空間(S1)と隣接する部位に基板(61)を介して取り付けられている。また、SiC素子(62)の表面には、断熱部材(66)は、一端が開口する箱形に形成されている。そして、断熱部材(66)は、その内部にSiC素子(62)を収納するようにケーシング(30)の胴部(31)に取り付けられている。なお、断熱部材(66)は、絶縁性の樹脂材料で構成されており、SiC素子(62)を外部から覆って絶縁している。
この変形例2では、SiC素子(62)の作動熱が、ケーシング(30)の胴部(31)の上部へ伝わり、更にこの熱が第1空間(S1)内の油へ付与される。このため、変形例2においても、コアカット部(42d)へ流入する油の粘度を低下させることができ、この油を速やかに油溜め部(48)へ返送することができる。
ここで、SiC素子(62)の周囲には、断熱部材(66)が設けられているため、SiC素子(62)の作動熱を確実にケーシング(30)側へ伝熱させることができる。従って、コアカット部(42d)へ流入する油を効率良く加熱することができる。また、この変形例2では、SiC素子(62)がケーシング(30)の外部に取り付けられるため、SiC素子(62)のメンテナンスや交換が容易となる。
なお、SiC素子(62)をケーシング(30)の外壁で、且つコアカット部(42d)の上端近傍に配置するようにしても良い。この場合、SiC素子(62)の作動熱がコアカット部(42d)へ流入する油へ伝わりやすくなり、この油を確実に加熱することができる。
《実施形態2》
図6に示すように、本発明の実施形態2に係る流体機械は、いわゆる低圧ドーム型のスクロール型圧縮機で構成されている。以下には、上記実施形態と異なる点について説明する。
圧縮機(20)は、ケーシング(30)の内部空間の上部寄りに圧縮機構(50)が、下部寄りに駆動モータ(40)がそれぞれ配置されている。そして、この圧縮機(20)では、駆動モータ(40)と圧縮機構(50)の間に第1空間(S1)が、駆動モータ(40)の下側に第2空間(S2)が、圧縮機構(50)の上側に第3空間(S3)がそれぞれ形成されている。
上記圧縮機構(50)は、ハウジング(70)の上側に固定スクロール(71)が取り付けられる一方、ハウジング(70)と固定スクロール(71)の間に可動スクロール(72)が設けられている。固定スクロール(71)と可動スクロール(72)とには、それぞれ渦巻き状のラップが形成され、各スクロール(71,72)のラップが互いに噛み合っている。駆動モータ(40)が、駆動軸(45)を駆動すると、圧縮機構(50)では、可動スクロール(72)が旋回運動を行い、各スクロール(71,72)の間の圧縮室の容積が拡縮され、冷媒の圧縮動作が行われる。圧縮機構(50)で圧縮された冷媒は、吐出ポート(52a)を介して第3空間(S3)へ吐出され、その後に吐出管(35)よりケーシング(30)の外部へ流出する。
この圧縮機(20)では、吸入管(34)が駆動モータ(40)の上側の第1空間(S1)に接続されている。そして、第1空間(S1)及び第2空間(S2)には、低圧冷媒が満たされている。また、実施形態2の駆動モータ(40)は、上記実施形態1と同様の構造であり、第1空間(S1)と第2空間(S2)とが、コアカット部(42d)を介して繋がっている。そして、実施形態2では、上述した変形例1と同様に、SiC素子(62)が、インシュレータ(42c)の上面に取り付けられている。
この実施形態2では、第1空間(S1)に流入した油が、コアカット部(42d)を介して第2空間(S2)の油溜め部(48)へ戻される。ここで、コアカット部(42d)の上端近傍では、SiC素子(62)の作動熱によりコアカット部(42d)へ流入する油が加熱される。従って、この実施形態2においても、油の粘度を低下させることで、この油を速やかに油溜め部(48)へ返送することができる。また、実施形態2では、SiC素子(62)の周囲が低圧冷媒雰囲気となるため、この冷媒によってSiC素子(62)を積極的に冷却することができる。
なお、この実施形態2において、上記実施形態1と同様に、SiC素子(62)を第1空間(S1)に配置して放熱フィン(64)を取り付けたり、変形例2と同様、SiC素子(62)をケーシング(30)の外壁に取り付けて良いのは勿論のことである。
《その他の実施形態》
上記各実施形態については、以下のような構成としてもよい。
上記各実施形態では、ワイドギャップ半導体素子として、SiC素子(62)を用いるようにしている。しかしながら、窒化ガリウム(GaN)素子や、ダイヤモンド素子等の他のワイドギャップ半導体素子を用いるようにしても良い。なお、ワイドギャップ半導体素子は、少なくとも1.2eV以上、更には2.0eV以上のバンドギャップを有することが好ましい。
上記各実施形態では、ロータリー型の圧縮機やスクロール型の圧縮機について、本発明を適用している。しかしながら、揺動スイング型の圧縮機や、他の型式の圧縮機に本発明を適用しても良い。また、ケーシング内に圧縮機構と膨張機構とが駆動軸を介して連結される、いわゆる一軸連結式の膨張圧縮機を構成する流体機械に本発明を適用しても良い。
上記各実施形態では、室内の冷房と暖房とを切り換えて行う空気調和装置において、本発明を適用するようにしている。しかしながら、冷媒回路(10)で冷凍サイクルを行いながら、水を加熱する給湯器や、他のヒートポンプ装置に本発明を適用するようにしても良い。
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。