しかしながら、このようなシフト・バイ・ワイア方式のアクチュエータやそのアクチュエータの制御機器の故障時のバックアップとして設けられる変速ポジション切換機構は、たとえば、シフト・バイ・ワイアシステムが正常に動作している場合において作動されると、以下のような問題を発生する可能性がある。変速ポジション切換機構によりパーキングポジションへ強制的に自動変速機のシフトポジションが切換えられて、このときにシフト・バイ・ワイアシステムが正常に作動しており、かつ、シフトレバーがパーキングポジション以外の非パーキングポジション(前進走行ポジションや後進走行ポジション)であると、シフト・バイ・ワイアシステムは、シフトポジションを非パーキングポジションに切換えようと自動変速機を制御する。その結果、バックアップシステムとしての変速ポジション切換機構によるシフトポジションの切換制御と、シフト・バイ・ワイアシステムによるシフトポジションの切換制御とが背反する。
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、シフト切換装置のアクチュエータが作動不能な状態に陥っても車両を安全な状態に保持できるバックアップ用の切換機構を備え、シフト切換装置が正常な場合にこの切換機構が誤操作されても車両が異常な状態に陥ることを回避できる、自動変速機のシフト切換装置を提供することである。
第1の発明に係る自動変速機のシフト切換装置は、運転者による操作に従った電気信号に基づいて、アクチュエータにより機械要素を動かして複数のシフトポジションの中から操作に対応する1つのシフトポジションに切換えるための電気的シフト切換手段と、運転者による操作によりシフトポジションを切換えるための機械的シフト切換手段と、電気的シフト切換手段によるシフト切換動作が正常であるときに機械的シフト切換手段の作動を検出すると、電気的シフト切換手段の動作を制限するための制限手段とを含む。
第1の発明によると、電気的シフト切換手段は、上述したシフト・バイ・ワイア方式のように機械要素を組合わせてシフトポジションを切換えるのではなく、電気信号でアクチュエータを制御して自動変速機の機械要素であるマニュアルシャフトを回転させて、複数のシフトポジションの中から運転者の操作に対応する1つのシフトポジションに切換える。このアクチュエータが、たとえば、作動不可能な場合においては(ただし、アクチュエータは作動可能な場合であってもよい)、機械的シフト切換手段によりシフトポジションを(たとえば非PポジションからPポジションに)切換えることができる。ところが、運転者が誤って機械的シフト切換手段を操作して、電気的シフト切換手段によるシフト切換動作が正常であるときに機械的シフト切換手段が作動されると、制御対象が自動変速機のシフト機構の1つであるのに2つの制御指令が発生する。このような場合には、電気的シフト切換手段の動作を制限して、機械的シフト切換手段の作動を優先させる。その結果、シフト切換装置のアクチュエータが作動不能な状態に陥っても車両を安全な状態に保持できるバックアップ用の切換機構(機械的シフト切換手段)を備え、シフト切換装置(電気的シフト切換手段)が正常な場合にこの切換機構が誤操作されても車両が異常な状態に陥ることを回避できる、自動変速機のシフト切換装置を提供することができる。
第2の発明に係る自動変速機のシフト切換装置においては、第1の発明の構成に加えて、制限手段は、電気的シフト切換手段の動作を制限することに加えて、車両の駆動力を制限するための手段を含む。
第2の発明によると、車両の駆動力を制限するので、たとえ、電気的シフト切換手段の動作を制限して、機械的シフト切換手段の作動を優先させることにより、一時的に走行ポジション(DポジションやRポジション)が自動変速機で形成されたとしても車両の駆動力が制限されているので、車両の不用意な動きを回避することができる。
第3の発明に係る自動変速機のシフト切換装置においては、第1の発明の構成に加えて、制限手段は、運転者による操作に従った電気信号に基づく要求シフトポジションと、自動変速機の実シフトポジションとが一致していない場合に、電気的シフト切換手段の動作を制限するための手段を含む。
第3の発明によると、電気的シフト切換手段によるシフト切換動作が正常であるときには、電気的シフト切換手段は、運転者による操作に従った電気信号に基づく要求シフトポジションと自動変速機の実シフトポジションとが不一致の場合には一致するようにシフトポジションを切換えようとする。一方、機械的シフト切換手段は、このような電気的シフト切換手段の動作とは関係なく、たとえばシフトポジションを非PポジションからPポジションに切換えようとする。このため、制御指令が整合しない可能性があるので、電気的シフト切換手段の動作を制限して、機械的シフト切換手段の作動を優先させて、制御指令の競合を回避できる。
第4の発明に係る自動変速機のシフト切換装置は、第1〜3のいずれかの発明の構成に加えて、車両の状態により制限手段による制限期間を設定するための設定手段をさらに含む。
第4の発明によると、車両の状態が不用意な挙動をしない場合においては、たとえば制限期間を短くすることにより、非定常な状態を極力短くすることができる。
第5の発明に係る自動変速機のシフト切換装置は、第1〜4のいずれかの発明の構成に加えて、機械的シフト切換手段の作動が検出されなくなると、制限手段による制限を解除するための手段をさらに含む。
第5の発明によると、機械的シフト切換手段の作動が検出されなくなると、制御指令が整合しない可能性がなくなる(整合する)。このため、電気的シフト切換手段の動作を制限したり、車両の駆動力を制限したりすることを解除して、非定常な状態から定常な状態にすることができる。
第6の発明に係る自動変速機のシフト切換装置は、第1〜4のいずれかの発明の構成に加えて、車両のイグニッションスイッチがオフにされると、制限手段による制限を解除するための手段をさらに含む。
第6の発明によると、イグニッションスイッチがオフにされると、制御指令が整合しない可能性がなくなり(整合する)、また、車両の不用意な動きもない。このため、電気的シフト切換手段の動作を制限したり、車両の駆動力を制限したりすることを解除して、非定常な状態から定常な状態にすることができる。
第7の発明に係る自動変速機のシフト切換装置は、第1〜4のいずれかの発明の構成に加えて、運転者による操作に従った電気信号に基づく要求シフトポジションと、自動変速機の実シフトポジションとが一致すると、制限手段による制限を解除するための手段をさらに含む。
第7の発明によると、要求シフトポジションと実シフトポジションとが一致すると、制御指令が整合しない可能性がなくなる(整合する)。このため、電気的シフト切換手段の動作を制限したり、車両の駆動力を制限したりすることを解除して、非定常な状態から定常な状態にすることができる。
第8の発明に係る自動変速機のシフト切換装置は、第1〜7のいずれかの発明の構成に加えて、機械的シフト切換手段の作動履歴を記憶するための手段をさらに含む。
第8の発明によると、機械的シフト切換手段の作動履歴を記憶しておいて、どのような状態で作動されたのかを分析することができる。
第9の発明に係る自動変速機のシフト切換装置は、第1〜8のいずれかの発明の構成に加えて、電気的シフト切換手段によるシフト制御が正常であるときに機械的シフト切換手段の作動を検出すると、運転者に警告を報知するための手段をさらに含む。
第9の発明によると、電気的シフト切換手段によるシフト制御が正常であるにもかかわらず、バックアップ用の機械的シフト切換手段が操作されたため、運転者の誤操作であることが考えられる。このため、運転者に警告を報知して、誤操作の可能性を運転者に認知させることができる。
第10の発明に係る自動変速機のシフト切換装置においては、第1〜9のいずれかの発明の構成に加えて、機械的シフト切換手段は、アクチュエータが作動不可能な状態においても作動可能な動力源により作動されるものである。
第10の発明によると、電気的シフト切換手段のアクチュエータは多くの場合電気モータであることが多い。この電気の供給が中断された場合であっても(すなわち、アクチュエータが作動不可能な状態であっても)、機械的シフト切換手段によりシフトポジションを切換えることができる。
第11の発明に係る自動変速機のシフト切換装置においては、第1〜9のいずれかの発明の構成に加えて、機械的シフト切換手段は、電力を必要としない機械的な力により作動されるものである。
第11の発明によると、電力を必要としない機械的な力(たとえば、運転者による特定のノブの引き上げ)により、シフトポジションを切換えることができる。
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがってそれらについての詳細な説明は繰返さない。
図1に、本実施の形態に係る自動変速機のシフト切換装置を備えたシフト制御システム10の構成を示す。本実施の形態においては、異常発生時には、運転者の操作により、シフトポジションを、非PポジションからPポジションに移動させる。
このシフト制御システム10は、車両のシフトポジションを切り換えるために用いられる。シフト制御システム10は、Pスイッチ20、シフトスイッチ26、車両電源スイッチ28、車両制御装置(以下、「EFI−ECU」と表記する)30、パーキング制御装置(以下、「SBW(Shift By Wire)−ECU」と表記する)40、アクチュエータ(モータ)42、エンコーダ46、シフト制御機構48、表示部50、メータ52および駆動機構60を含む。シフト制御システム10は、電気制御によりシフトポジションを切り換えるシフトバイワイヤシステムとして機能する。具体的にはシフト制御機構48がアクチュエータ42により駆動されてシフトポジションの切り換えを行なう。
車両電源スイッチ28は、車両電源のオン・オフを切り換えるためのスイッチである。車両電源スイッチ28は、特に限定されるものではないが、たとえば、イグニッションスイッチである。車両電源スイッチ28がドライバなどのユーザから受付けた指示はEFI−ECU30に伝達される。たとえば、車両電源スイッチ28がオンされることにより、図示しない補機バッテリから電力が供給されて、シフト制御システム10が起動される。
Pスイッチ20は、シフトポジションをパーキングポジション(以下、「Pポジション」と呼ぶ)とパーキング以外のポジション(以下、「非Pポジション」と呼ぶ)との間で切り換えるためのスイッチであり、スイッチの状態をドライバに示すためのインジケータ22、およびドライバからの指示を受付ける入力部24を含む。ドライバは、入力部24を通じて、シフトポジションをPポジションに入れる指示を入力する。入力部24はモーメンタリスイッチであってもよい。入力部24が受付けたドライバからの指示は、SBW−ECU40に伝達される。なお、このようなPスイッチ20以外により、非PポジションからPポジションにシフトポジションを切り換えるものであってもよい。
SBW−ECU40は、シフトポジションをPポジションと非Pポジションとの間で切り換えるために、シフト制御機構48を駆動するアクチュエータ42の動作を制御し、現在のシフトポジションの状態をインジケータ22に提示する。シフトポジションが非Pポジションであるときにドライバは入力部24を押下すると、SBW−ECU40はシフトポジションをPポジションに切り換えて、インジケータ22に現在のシフトポジションがPポジションである旨を提示する。
アクチュエータ42は、スイッチドリラクタンスモータ(以下、「SRモータ」と表記する)により構成され、SBW−ECU40からの指示を受けてシフト制御機構48を駆動する。エンコーダ46は、アクチュエータ42と一体的に回転し、SRモータの回転状況を検出する。本実施の形態のエンコーダ46は、A相、B相およびZ相の信号を出力するロータリーエンコーダである。SBW−ECU40は、エンコーダ46から出力される信号を取得してSRモータの回転状況を把握し、SRモータを駆動するための通電の制御を行なう。
シフトスイッチ26は、シフトポジションをドライブポジション(D)、リバースポジション(R)、ニュートラルポジション(N)、ブレーキポジション(B)などのポジションに切り換えたり、またPポジションに入れられているときには、Pポジションを解除したりするためのスイッチである。シフトスイッチ26が受付けたドライバからの指示はEFI−ECU30に伝達される。EFI−ECU30は、ドライバからの指示に基づき、駆動機構60におけるシフトポジションを切り換える制御を行なうとともに、現在のシフトポジションの状態をメータ52に提示する。駆動機構60は、無段変速機構から構成されているが、有段変速機構から構成されてもよい。
図2に示すように、シフトスイッチ26は、たとえば、シフトレバー1102と、シフトレバー1102が摺動される第1の溝1104と、シフトレバー1102が摺動される第2の溝1106と、シフトレバー1102が摺動される第3の溝1108と、シフトレバー1102が摺動される第4の溝1110とから構成される。
第1の溝1104に沿ってシフトレバー1102がその終端(下端)まで到達して、予め定められた時間以上、シフトレバー1102が運転者により保持されることによりブレーキポジションに設定される。このとき、シフトレバー1102は、矢印1126で示すように移動される。
第2の溝1106に沿ってシフトレバー1102がその終端(右端)まで到達して、予め定められた時間以上、シフトレバー1102が運転者により保持されることによりニュートラルポジションに設定される。このとき、シフトレバー1102は、矢印1120で示すように移動される。
第2の溝1106に沿ってシフトレバー1102がその終端(右端)まで到達して、さらに第3の溝1108に沿ってシフトレバー1102がその終端(上端)まで到達して、予め定められた時間以上、シフトレバー1102が運転者により保持されることにより後進走行ポジションに設定される。このとき、シフトレバー1102は、矢印1122で示すように移動される。
第2の溝1106に沿ってシフトレバー1102がその終端(右端)まで到達して、さらに第4の溝1110に沿ってシフトレバー1102がその終端(下端)まで到達して、予め定められた時間以上、シフトレバー1102が運転者により保持されることにより前進走行ポジションに設定される。このとき、シフトレバー1102は、矢印1124で示すように移動される。
図2に示すシフト切換装置1110のシフトレバー1102は、運転者がシフトレバー1102から手を離している状態の中立位置にあることを示す。すなわち、図2に示すように、中立位置にあるシフトレバー1102を、矢印1120のように動かすことにより自動変速機がニュートラル状態となるニュートラルポジションに、矢印1122のように動かすことにより自動変速機が後進走行状態となる後進走行ポジションに、矢印1124のように動かすことにより前進走行ポジションに、矢印1126のように動かすことにより自動変速機が前進走行状態となる前進走行ポジションであってエンジンブレーキ作動状態となるブレーキポジションに設定される。なお、以下の説明においては、ブレーキポジション(Bポジション)についての説明は割愛する。
また、SBW−ECU40には、自動変速機に設けられたNSW(Neutral Start Switch)から実際に自動変速機のシフトポジションがどの位置にあるのかを示すNSW接点信号が入力される。また、SBW−ECU40には、後述する異常時車両固定用アクチュエータ72のノブ72Aが基準位置にあることを検出する異常時車両固定用ノブ基準位置センサ720からオン信号が入力される(SBW−ECU40は、異常時車両固定用アクチュエータ72のノブ72Aが基準位置にあると判断できる)。運転者によりノブ72Aが引き上げられ基準位置から外れるとこの信号がオフになり(SBW−ECU40は、異常時車両固定用アクチュエータ72のノブ72Aが作動位置にあると判断できる)、運転者によりノブ72Aが引き上げられたことを検出する。なお、この異常時車両固定用ノブ基準位置センサ720に加えて、異常時車両固定用アクチュエータ72が作動状態になることを検出するセンサを設けてもよい。
なお、EFI−ECU30は、シフト制御システム10の動作を統括的に管理する。特に、エンジンの出力を制限して車両の駆動力を制限する。表示部50は、EFI−ECU30またはSBW−ECU40が発したドライバに対する指示や警告などを表示する。メータ52は、車両の機器の状態やシフトポジションの状態などを提示する。
図3に、シフト制御機構48の構成を示す。シフトポジションは、Pポジション、非Pポジション(R、N、Dの各ポジションを含み、さらにDポジションに加えて1速固定のD1ポジションや1、2速固定(2速固定)のD2ポジションを含んでも良い)である。シフト制御機構48は、アクチュエータ42により回転されるマニュアルシャフト102、マニュアルシャフト102の回転に伴って回転するディテントプレート100、ディテントプレート100の回転に伴って動作するロッド104、図示しない変速機の出力軸に固定されたパーキングギア108、パーキングギア108をロックするためのパーキングロックポール106、ディテントプレート100の回転を制限してシフトポジションを固定するディテントスプリング110およびころ112を含む。ディテントプレート100は、アクチュエータ42により駆動されてシフトポジションを切り換えるシフト手段として機能する。マニュアルシャフト102、ディテントプレート100、ロッド104、ディテントスプリング110およびころ112は、シフト切換機構の役割を果たす。また、エンコーダ46は、アクチュエータ42の回転量に応じた計数値を取得する。
なお、図3の斜視図においては、ディテントプレート100の谷(Pポジション位置)しか示していないが、実際には図3の拡大平面図に示すように、ディテントプレート100には、D、N、R、Pの4つのポジションに対応する4つの谷が存在する。なお、以下においては、D、N、Rの各ポジションを(まとめて)非Pポジションとして、Pポジションと非Pポジションとの切換えについて説明する。しかしながら、本発明は、Pポジションと非Pポジションとの間における切換えに限定されるものではない。
図3は、シフトポジションが非Pポジションであるときの状態を示している。この状態では、パーキングロックポール106がパーキングギア108をロックしていないので、車両の駆動軸の回転は妨げられない。この状態からアクチュエータ42によりマニュアルシャフト102を時計回り方向に回転させると、ディテントプレート100を介してロッド104が図3に示す矢印Aの方向に押され、ロッド104の先端に設けられたテーパ部によりパーキングロックポール106が図3に示す矢印Bの方向に押し上げられる。ディテントプレート100の回転に伴ってディテントプレート100の頂部に設けられた4つの谷のうちの一方、すなわち非Pポジション位置120にあったディテントスプリング110のころ112は、山122を乗り越えて他方の谷、すなわちPポジション位置124へ移る。ころ112は、その軸方向に回転可能にディテントスプリング110に設けられている。ころ112がPポジション位置124に来るまでディテントプレート100が回転したとき、パーキングロックポール106は、パーキングギア108と嵌合する位置まで押し上げられる。これにより、車両の駆動軸が機械的に固定され、シフトポジションがPポジションに切り換わる。
シフト制御システム10においては、シフトポジション切換時にディテントプレート100、ディテントスプリング110およびマニュアルシャフト102などのシフト切換機構に係る負荷を低減するために、SBW−ECU40が、ディテントスプリング110のころ112が山122を乗り越えて落ちるときの衝撃を少なくするように、アクチュエータ42の回転量を制御する。
このようなシフト制御システム10において、車両が停止している状態において、車両の電源系統に異常が発生して、シフトポジションの変更ができなくなった場合を想定して、以下のような運転者により操作される機構を有する異常時車両固定用アクチュエータ72を備える。
異常時車両固定用アクチュエータ72は、運転者により引き上げられるノブ72Aと、ばねの付勢力に抗するノブ72Aの引き上げ力をプレート72Cに伝達するロッド72Bと、プレート72Cにより引っ掛けられてマニュアルシャフト102を回転させるために、マニュアルシャフト102に設けられた、つめ部72Dとから構成される。図3に示すように、ノブ72Aを引き上げることにより、シフトポジションが非PポジションからPポジションに切り換えられる。
つめ部72Dは、マニュアルシャフト102の円周表面に突出するように設けられ、たとえば平板の形状を有する。図4に示すように、つめ部72Dが取り付けられる位置は、シフトポジションのPポジションの位置と非ポジション(図4ではDポジション)の位置とに関係する。図4に、一点鎖線によりロッド72Bが最も伸びた、プレート72Cの位置を「基準位置」として、実線によりロッド72Bが最も縮んだプレート72Cの位置を「作動位置」として、それぞれ示す。なお、ロッド72Bは直線状の部材であるものに限定されない。
ロッド72Bが最も伸びた状態においては、アクチュエータ42の駆動力によりマニュアルシャフト102が回転されて、非Pポジション(Dポジション、Nポジション、Rポジション)およびPポジションのいずれのポジションも選択可能な状態になる。一方、ロッド72Bが最も縮んだ状態においては、アクチュエータ42が駆動されたとしてもマニュアルシャフト102の回転が規制されて、Pポジションから非Pポジション(Dポジション、Nポジション、Rポジション)に移動させることができなくなる。また、ロッド72Bが最も伸びた状態から縮んだ状態になることにより、シフトポジションはDポジションからPポジションに強制的に移される(太い矢示Pを参照)。ロッド72Bが最も縮んだプレート72Cの作動位置にある状態を、異常時車両固定用アクチュエータ72が作動状態(運転者により引き上げられている状態)であるという。
なお、異常時車両固定用アクチュエータ72が作動状態であるときには、ばねの付勢力に抗して運転者によりノブ72Aが引き上げられている状態であるので、運転者がノブ72Aの引き上げを中止してしまうと、ばねの付勢力によりプレート72Cの位置が「基準位置」となり、異常時車両固定用アクチュエータ72が作動状態でなくなる。また、この付勢力を与えるのは、ばねに限定されない。電力、ばね以外の弾性力、圧力および磁力などによるものであってもよい。さらに、プレート72Cの位置が「基準位置」にある場合には、通常のSBW−ECU40およびアクチュエータ42によるシフトポジションの切り換えが可能になる。
なお、上述したように異常時車両固定用アクチュエータ72は、運転者の力により作動されるが、本発明はこれに限定されない。異常時車両固定用アクチュエータ72は、アクチュエータ42の電力供給線とは別系統の電力供給線を介して供給された電力により作動されるものであってもよい。さらに、詳しくは、異常時車両固定用アクチュエータ72は、電力以外の、弾性力、圧力および磁力などにより作動されるものであってもよい。
図5を参照して、本実施の形態に係る自動変速機のシフト切換装置を備えたシフト制御システム10のSBW−ECU40で実行されるプログラムの制御構造について説明する。なお、このプログラムは、予め定められたサイクルタイムで繰り返し実行される。
ステップ(以下、ステップをSと記載する)100にて、SBW−ECU40は、SBW−ECU40自体が正常であるか否かを判断する。このとき、たとえば、以下のようにしてSBW−ECU40は、SBW−ECU40が正常であるか否かをセルフチェックする。SBW−ECU40は、予め定められた時間間隔で、EFI−ECU30(他のECUでもよい)から特定のコマンド(セルフチェックを要求するコマンド)および変数を受信する。SBW−ECU40は、その変数を予めSBW−ECU40内に設定された演算式に代入した結果をEFI−ECU30に送信する。EFI−ECU30は、SBW−ECU40から受信した結果が正しい場合には、SBW−ECU40にセットされた正常フラグを送信する。SBW−ECU40は、この正常フラグの状態を記憶しておいて、正常フラグがセットされていると、SBW−ECU40は、SBW−ECU40自体が正常であると判断する。なお、この逆に、SBW−ECU40は、EFI−ECU30(他のECUでもよい)自体が正常であるか否かを判断するために、上述したEFI−ECU30が実行した正常フラグをEFI−ECU30に送信する処理を行なう。このように、複数のECU間で、互いにセルフチェックができるように構成しておくと、ECU自体で自己が正常に動作しているか否かを判断することができる。SBW−ECU40は、SBW−ECU40自体が正常であると判断すると(S100にてYES)、処理はS200へ移される。もしそうでないと(S100にてNO)、処理はS900へ移される。
S200にて、SBW−ECU40は、異常時車両固定用ノブ72Aは作動位置にあるか否かを判断する。このとき、SBW−ECU40は、異常時車両固定用ノブ基準位置センサ720から入力された信号がオフであると異常時車両固定用ノブ72Aは基準位置にないことに基づいて、作動位置にあると判断する。このようにすることにより、フェールセーフ側に設計することができる。なお、上述したように、異常時車両固定用アクチュエータ72が作動状態になることを検出するセンサを設けて、このセンサからの信号に基づいて、異常時車両固定用ノブ72Aは作動位置にあるか否かを判断するようにしてもよい。異常時車両固定用ノブ72Aは作動位置にあると判断されると(S200にてYES)、処理はS300へ移される。もしそうでないと(S200にてNO)、この処理は終了する。
S300にて、SBW−ECU40は、エンジンが作動しているか否かを判断する。このとき、SBW−ECU40は、EFI−ECU30から受信した信号(たとえば、エンジン回転数信号)に基づいて、エンジンが作動しているか否かを判断する。エンジンが作動していると判断されると(S300にてYES)、処理はS400へ移される。もしそうでないと(S300にてNO)、この処理は終了する。
S400にて、SBW−ECU40は、NSW接点信号に基づいて、自動変速機の実際のシフトポジション(実シフトポジション)を判定する。
S500にて、SBW−ECU40は、実シフトポジションはPポジション以外であるか否かを判断する。実シフトポジションはPポジション以外であると判断されると(S500にてYES)(すなわち、Rポジション、Nポジション、Dポジションのいずれか)、処理はS600へ移される。もしそうでないと(S500にてNO)(すなわち、Pポジション)、この処理は終了する。
S600にて、SBW−ECU40は、制限制御を開始する。制限制御には、シフト・バイ・ワイアシステムの動作制限制御および駆動力制限制御とを含む。シフト・バイ・ワイアシステムの動作制限制御とは、シフトスイッチ26から入力された要求シフトポジションと実シフトポジションとが不一致であっても、SBW−ECU40からアクチュエータ42に作動指令信号を出力しないことである。すなわち、シフト・バイ・ワイアシステムにより要求シフトポジションになるように実シフトポジションを修正しない。また、駆動力制限制御とは、エンジンのスロットルバルブの開度を制限するようにしたり、インジェクタからの燃料噴射を停止(フューエルカット)させるようにしたりする信号を、SBW−ECU40からEFI−ECU30に送信して、エンジンの出力を制限または停止する。さらに、パワートレーンにおいて駆動力の伝達を遮断するようにしてもよい。この駆動力の遮断として、
(1)自動変速機における走行時に必ず係合される摩擦係合要素(クラッチ)の解放、
(2)ECB(Electronically Controlled Break)の作動、
(3)EPB(Electronically Parking Break)の作動等がある。
S700にて、SBW−ECU40は、異常時車両固定用ノブ72Aが基準位置にあって、かつ、シフトスイッチ26により検出される要求シフトポジションとNSW接点信号により判定される実シフトポジションとが一致しているか否か(シフトポジションの不一致が解消しているか否か)を判断する。このとき、SBW−ECU40は、異常時車両固定用ノブ基準位置センサ720から入力された信号がオンであると異常時車両固定用ノブ72Aは基準位置にあること判断する。異常時車両固定用ノブ72Aは基準位置にあると判断され、かつ、シフトポジションの不一致が解消している判断されると(S700にてYES)、処理はS800へ移される。もしそうでないと(S700にてNO)、処理はS700へ戻されて、異常時車両固定用ノブ72Aは基準位置にあると判断され、かつ、シフトポジションの不一致が解消している判断されるまで制限制御が継続される。
S800にて、SBW−ECU40は、制限制御を解除する。これにより、シフト・バイ・ワイアシステム制限制御および駆動力制限制御が停止される。このS800の処理後、この処理は終了する。
S900にて、SBW−ECU40は、不揮発性ROM(Read Only Memory)に「シフト・バイ・ワイアシステムのSBW−ECUが正常でないこと」を示すダイアグを書き込む。このS900の処理後、この処理は終了する。
なお、S200の処理は、以下のように行なってもよい。
1)シフトスイッチ26からPポジションへの切換要求が入力されていないにもかかわらず、エンコーダ46のカウント数が予め定められたカウントしきい値(このカウントしきい値は適宜設定される)を越えて変化した場合に、異常時車両固定用ノブ72Aが作動位置にある(すなわち、異常時車両固定用720が作動)と判断。
2)NSW接点信号に基づいて判断された実シフトポジションとシフトスイッチ26から入力された信号に基づいて判断された要求シフトポジションとの不一致の場合に、異常時車両固定用ノブ72Aが作動位置にある(すなわち、異常時車両固定用720が作動)と判断。
なお、上述した制限制御(シフト・バイ・ワイアシステムの動作制限制御および駆動力制限制御)の期間については、車両の状態(不用意に動くか否か等)に基づいて変化させることも可能である。
なお、S700の処理は、以下のように行なってもよい。異常時車両固定用ノブ72Aは基準位置にあると判断されたことに加えて(あるいは代えて)、
1)車両電源スイッチ28(イグニッションスイッチ)がオフにされたことを検出するとS800の処理を実行するように判断。
2)Pスイッチ20が作動されたことを検出するとS800の処理を実行するように判断。
さらに、S700の処理は、異常時車両固定用ノブ72Aは基準位置にあると判断されるか、または、シフトポジションの不一致が解消している判断されると、S800の処理を実行するように判断してもよい。
さらに、上述のフローチャートの処理に加えて、以下のような処理を加えても構わない。シフト・バイ・ワイアシステムが正常であるにもかかわらず、異常時車両固定用アクチュエータ72が作動されたときに、
1)不揮発性ROMに「シフト・バイ・ワイアシステム正常時に異常時車両固定用アクチュエータ72が作動されたこと」を示すダイアグを書き込む。
2)異常時車両固定用アクチュエータ72に機械的な操作痕跡を残す。
3)運転者に警告を出力する。
さらに、異常時車両固定用アクチュエータ72が作動されたときに、不揮発性ROMに「異常時車両固定用アクチュエータ72が作動されたこと」を示すダイアグを書き込むようにしてもよい。
以上のような構造およびフローチャートに基づく、本実施の形態に係る自動変速機のシフト切換装置を備えたシフト制御システム10の動作を、図6および図7に示すタイミングチャートを参照して、説明する。
SBW−ECU40が正常であって(S100にてYES)、運転者が異常時車両固定用アクチュエータ72のノブ72Aを引き上げると(S200にてYES)、車両のエンジンが作動中であると(S300にてYES)、自動変速機の実シフトポジションが判定される(S400)。
図6および図7においては、運転者が異常時車両固定用アクチュエータ72のノブ72Aを引き上げたタイミングが時刻t(1)であって、異常時車両固定用アクチュエータ72の作動を検出したタイミングが時刻t(2)である。なお、図6および図7では、タイミングチャートでより表わし易いように、異常時車両固定用アクチュエータ72の作動をエンコーダ46のカウント値で検出している例を示している。
実シフトポジションがPポジション以外であると(S500にてYES)、制限制御が開始される(S600)。シフト・バイ・ワイアシステムの動作制限制御として、シフトスイッチ26に基づく要求シフトポジションになるような作動指令信号をSBW−ECU40からアクチュエータ42へ出力しない。また、駆動力制限制御として、エンジンの出力が制限されたり(スロットルバルブ開度制限)停止されたり(フューエルカット)、駆動力の駆動輪への伝達が中断される。
運転者が異常時車両固定用アクチュエータ72のノブ72Aから手を離すと、図3および図4に示すようにばねの付勢力により、異常時車両固定用ノブ72Aは基準位置に戻る(このタイミングが図5の時刻t(3)であって制限制御フラグはONのまま)。さらに、Pスイッチ20が操作されると、図5の1段目のシフトポジション信号(要求シフトポジション)と図5の2段目のNSW接点信号(実シフトポジション)とが一致して、シフトポジション不一致が解消して(S700にてYES)、制限制御が解除される。このタイミングが図5の時刻t(4)である。
さらに、図6は、運転者が異常時車両固定用アクチュエータ72のノブ72Aから手を離す前にPスイッチ20を操作した場合についてのタイミングチャートを示す。時刻t(5)においてPスイッチ20が操作されて、図6の1段目のシフトポジション信号(要求シフトポジション)と図6の2段目のNSW接点信号(実シフトポジション)とが一致して、シフトポジション不一致が解消する(制限制御フラグはONのまま)。この時刻t(5)の後の時刻t(6)において運転者が異常時車両固定用アクチュエータ72のノブ72Aから手を離すと、図3および図4に示すようにばねの付勢力により、異常時車両固定用ノブ72Aは基準位置に戻り(S700にてYES)、制限制御が解除される。
以上のようにして、本実施の形態に係る自動変速機のシフト切換装置によると、SBW−ECUの異常時等において運転者の操作により強制的にシフトポジションをPポジションに変更する異常時車両固定用アクチュエータを有する場合において、運転者が誤ってこのアクチュエータを作動させても、シフト・バイ・ワイアシステムの動作を制限して整合性を確保するとともに、駆動力を制限して車両の不用意な動きを回避することができる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
10 シフト制御システム、20 Pスイッチ、22 インジケータ、24 入力部、26 シフトスイッチ、28 車両電源スイッチ、30 EFI−ECU、40 SBW−ECU、42 アクチュエータ、46 エンコーダ、48 シフト制御機構、50 表示部、52 メータ、60 駆動機構、100 ディテントプレート、102 マニュアルシャフト、104 ロッド、106 パーキングロックポール、108 パーキングギア、110 ディテントスプリング、112 ころ、120 非Pポジション位置、122 山、124 Pポジション位置、720 異常時車両固定用ノブ基準位置センサ。