JP4880116B2 - 劇症c型肝炎ウイルス株の遺伝子 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、C型肝炎ウイルスによる劇症肝炎を罹患した患者より検出されたC型肝炎ウイルスの遺伝子及び該遺伝子によりコードされるポリペプチドに関する。
【0002】
【従来の技術】
わが国では、劇症肝炎の原因の90%以上がウイルス性肝炎といわれているが、そのなかでもA型肝炎ウイルス(HAV)又はB型肝炎ウイルス(HBV)によるものが多く、C型肝炎ウイルス(HCV)によるものはそれ程多いものではない。しかしながら、稀ではあるが、HCV感染による劇症肝炎も報告されており、したがってHCVは、劇症肝炎を発症する原因ウイルスともなり得る可能性を秘めている。
【0003】
ところで、C型肝炎は、A型肝炎又はB型肝炎と異なり、一般的には、HCVに感染しても、強い急性肝炎となることは少なく、感染の急性期であっても、まったく無症状のまま進行し、その後に慢性感染することが多い。
したがって、他のウイルス感染症における強毒、弱毒株の相違が、ウイルスゲノムの突然変異によることなどから考えると、一般的に前記のような慢性感染の経過を示すHCVと、劇症肝炎を発症させるHCVとの間には、ウイルスゲノム上に遺伝子情報の違いがあるものと推測することができる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
そのため、HCV感染による劇症肝炎患者から分離したHCVの全ウイルスゲノムをクローニングし、その配列を決定し、劇症肝炎を引き起こすHCVの遺伝子を解明することは、新たなHCVウイルスの培養法の確立、感染性HCVのcDNAクローンの確立、HCVウイルスの病原性の相違を決定する遺伝子領域の探索、又は新たなHCVウイルスの遺伝子診断法の確立、更にはHCVウイルスによる劇症肝炎に対する治療方法の開発等にとって、極めて重要なことと考えられる。
したがって、本発明は前記の点に鑑み、劇症肝炎を発症させたC型肝炎ウイルスの全ウイルスゲノム配列を解明して、その遺伝子配列検索の手がかりを提供することを課題とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
かかる課題を解決するために、本発明者は、C型肝炎ウイルス(HCV)感染による劇症肝炎患者から分離したHCVの全ウイルスゲノムのクローニングし、その塩基配列を決定し、これまで報告されているウイルスゲノム配列と比較を行った。その結果、劇症C型肝炎患者から分離されたウイルス株は、慢性肝炎患者から分離されたウイルス株とは異なる遺伝子情報を有する、全長9678塩基長を有する、配列番号1に示す塩基配列を有するものであり、該塩基配列の341番から9439番に、配列番号2に示す3033個のアミノ酸残基をコードする長い翻訳領域が存在することを確認するとともに、配列番号2に示すアミノ酸配列のうち、特にアミノ酸番号161〜191で表されるアミノ酸配列が公知のHCVのものと異なる特徴的部分であることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
即ち、本発明は、以下の発明を包含する。
(1)配列番号2に示すアミノ酸配列のうち、アミノ酸番号161〜191で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチド。
(2)アミノ酸残基数が31〜3033である前記(1)に記載のポリペプチド。
(3)配列番号2に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載のポリペプチドをコードする塩基配列を含むDNA。
(5)配列番号1に示す塩基配列のうち、ヌクレオチド番号821〜913で表される塩基配列と同一又は相補的な塩基配列を含むDNA。
(6)塩基数が93〜9678である前記(4)又は(5)に記載のDNA。
(7)配列番号1に示す塩基配列と同一又は相補的な塩基配列からなるDNA。
【0007】
本発明により提供される劇症肝炎を発症させたHCVのゲノム配列は、従来の慢性C型肝炎患者から分離されたウイルス株とは異なった遺伝子情報を有することから、その病原性が異なるものである。したがって、本塩基配列の翻訳領域より、従来のHCV株とは異なる遺伝子情報をもつ遺伝子配列を決定し、それを利用することにより、前記する、新たなHCVウイルスの遺伝子診断法の確立、更にはHCVウイルスによる劇症肝炎に対する遺伝子治療法の開発に一つの指針を与えるものである。
【0008】
例えば、慢性感染の経過を示す公知のHCVについては、既に、クローニングされた遺伝子をもとに作成された組換え体ウイルス蛋白質を抗原に用いて輸血用血液中に存在する抗ウイルス抗体を検出する系が構築されており(Kuo G. et al., Science, 244, 362 (1989))、また、逆転写反応によりRNA遺伝子をそれと相補的なcDNAに置換した後、その一部をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法によって増幅するというRT−PCR法によってHCV遺伝子を高感度に検出する系が確立されている(Okamoto H. et al., Japan. J. Exp. Med., 60, 215 (1990))。そして、これらの方法によってHCVが感染している輸血用血液を発見することが可能になっている。
したがって、これらの方法に本発明を適用することにより、従来法では検出することができなかった劇症肝炎を発症させるHCVの検出が可能になると考えられる。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明のポリペプチドは、配列番号2に示すアミノ酸番号1〜3033からなるアミノ酸配列のうち、アミノ酸番号161〜191で表されるアミノ酸配列を含むものであり、該ポリペプチドを構成するアミノ酸残基の数は、通常31〜3033である。
【0010】
本発明のポリペプチドは、配列番号2に示すアミノ酸配列のうち、アミノ酸番号161〜191で表されるアミノ酸配列が特に公知のHCVと異なる特徴的部分である。したがって、前記アミノ酸配列以外の部分においては、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されていてもよい。
前記のアミノ酸の欠失、置換又は付加は、出願前周知技術である部位特異的変異誘発法により実施することができる。
【0011】
かかる1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドは、Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)(以下「モレキュラー・クローニング第2版」という。)、Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1〜38, John Wiley & Sons (1987-1997)(以下「カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー」という。)、Nucleic Acids Research, 10, 6487 (1982)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 79, 6409 (1982)、Gene, 34, 315 (1985)、Nucleic Acids Research, 13, 4431 (1985)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82, 488 (1985)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81, 5662 (1984)、Science, 224, 1431 (1984)、WO85/00817、Nature, 316, 601 (1985)等に記載の方法に準じて調製することができる。
【0012】
本発明のDNAは、前記ポリペプチドをコードする塩基配列を含むDNAであり、例えば、配列番号1に示すヌクレオチド番号1〜9678からなる塩基配列のうち、ヌクレオチド番号821〜913で表される塩基配列と同一又は相補的な塩基配列を含むDNAが挙げられる。
本発明のDNAの塩基数は、通常93〜9678である。
【0013】
前記の配列番号1に示す塩基配列のうち、ヌクレオチド番号821〜913で表される塩基配列と同一又は相補的な塩基配列を含むDNAは、ヌクレオチド番号821〜913で表される塩基配列を含む、配列番号1に示す塩基配列の全配列又は部分配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズしうるDNAを包含する。
【0014】
前記の「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズしうるDNA」とは、前記ヌクレオチド番号821〜913で表される塩基配列を含む、配列番号1に示す塩基配列の全配列又は部分配列からなるDNAをプローブとして、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法、サザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより得られるDNAを意味し、具体的には、コロニー又はプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC(saline-sodium citrate)溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウムよりなる)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるDNAが挙げられる。
【0015】
ハイブリダイゼーションは、モレキュラー・クローニング第2版、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー、DNA Cloning 1: Core Techniques, A Practical Approach, Second Edition, Oxford University Press (1995)等の実験書に記載されている方法に準じて行うことができる。
ハイブリダイズしうるDNAとしては、具体的には、前記ヌクレオチド番号821〜913で表される塩基配列を含む、配列番号1に示す塩基配列の全配列又は部分配列と少なくとも80%以上の相同性を有するDNA、好ましくは95%以上の相同性を有するDNAが挙げられる。
【0016】
劇症C型肝炎ウイルスのクローニングは、例えば、次のようにして行うことができる。
劇症C型肝炎患者の血清から全RNAを調製する方法として、酸性グアニジンイソチオシアネート・フェノール・クロロホルム(acid-guanidinium-isothiocyanate-phenol-chloroform; AGPC)法〔Analytical Biochemistry, 162, 156 (1987)、実験医学 9, 1937 (1991)、日本ジーン社製ISOGEN−LS〕、チオシアン酸グアニジン−トリフルオロ酢酸セシウム法〔Methods in Enzymology, 154, 3 (1987)〕等を用いることができる。
【0017】
全RNAからポリ(A)+RNAとしてmRNAを調製する方法として、オリゴ(dT)固定化セルロースカラム法(モレキュラー・クローニング第2版)やオリゴdTラテックスを用いる方法等を用いることができる。
ファースト・トラック・mRNA単離キット〔Fast Track mRNA Isolation Kit;インビトロジェン(Invitrogen)社製〕、クイック・プレップ・mRNA精製キット〔Quick Prep mRNA Purification Kit;ファルマシア(Pharmacia)社製〕等のキットを用いて血清等から直接mRNAを調製することもできる。
得られた全RNA又はmRNAを用い、常法によりcDNAライブラリーを作製する。
【0018】
cDNAライブラリー作製法としては、モレキュラー・クローニング第2版やカレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー、DNACloning1: Core Techniques, A Practical Approach, Second Edition, Oxford University Press (1995) 等に記載された方法、あるいは市販のキット、例えばマウス白血病ウイルスリバーストランスクリプターゼ(Superscript II、Life Technologies社製;ロックビル、メリーランド)、スーパースクリプト・プラスミド・システム・フォー・cDNA・シンセシス・アンド・プラスミド・クローニング〔SuperScript Plasmid System for cDNA Synthesis and Plasmid Cloning;ギブコBRL(Gibco BRL)社製〕やザップ−cDNA・シンセシス・キット〔ZAP-cDNA Synthesis Kit、ストラタジーン社製〕を用いる方法等が挙げられる。
【0019】
cDNAライブラリーを作製するためのクローニングベクターとしては、大腸菌K12株中で自律複製できるものであれば、ファージベクター、プラスミドベクター等いずれでも使用できる。
具体的には、ZAP Express〔ストラタジーン社製、Strategies, 5, 58 (1992)〕、pBluescript II SK(+)〔Nucleic Acids Research, 17, 9494 (1989)〕、Lambda ZAP II(ストラタジーン社製)、λgt10、λgt11〔DNA Cloning, A Practical Approach, 1, 49 (1985)〕、λTriplEx (クローンテック社製)、λExCell(ファルマシア社製)、pT7T318U(ファルマシア社製)、pcD2〔Mol. Cell. Biol., 3, 280 (1983)〕、pUC18〔Gene, 33, 103 (1985)〕、pAMo〔J. Biol. Chem., 268, 22782-22787 (1993) 、別名pAMoPRC3Sc(特開平05-336963号)〕等が挙げられる。
【0020】
宿主微生物としては、大腸菌Escherichia coliに属する微生物であればいずれも用いることができる。具体的には、Escherichia coli XL1-Blue MRF'〔ストラタジーン社製、Strategies, 5, 81 (1992)〕、Escherichia coli C600〔Genetics, 39, 440 (1954)〕、Escherichia coli Y1088〔Science, 222, 778 (1983)〕、Escherichia coli Y1090〔Science, 222, 778 (1983)〕、Escherichia coli NM522〔J. Mol. Biol., 166, 1 (1983)〕、Escherichia coli K802〔J. Mol. Biol., 16, 118 (1966)〕、Escherichia coli JM105〔Gene, 38, 275 (1985)〕、Escherichia coli SOLRTM Strain(ストラタジーン社製)、Escherichia coli LE392(モレキュラー・クローニング第2版)等を用いることができる。
【0021】
前記方法により作製したcDNAライブラリーに加え、市販のcDNAライブラリーも利用することができる。
前記で作製したcDNAライブラリーより、本発明のDNAを有するcDNAクローンを、アイソトープ又は蛍光標識したプローブを用いたコロニー・ハイブリダイゼーション法又はプラーク・ハイブリダイゼーション法〔モレキュラー・クローニング第2版〕等により選択することができる。
【0022】
プローブとしては、一部明らかになっている塩基配列に基いたプライマーを用いて、PCR〔PCR Protocols, Academic Press (1990)〕を利用した方法でcDNAの一部を増幅した断片や、一部明らかになっている塩基配列に基いたオリゴヌクレオチドを利用することができる。
【0023】
プライマーとして、全長cDNAの5’末端側及び3’末端側の両方の塩基配列がEST等により明らかになっている場合には、その塩基配列に基いて調製したプライマーを用いることができる。
前記により選択された本発明のDNAを有するcDNAクローンより、前記の方法に準じてmRNAからcDNAを合成する。
【0024】
また、該cDNAの両端にアダプターを付加し、このアダプターの塩基配列と一部明らかになっている塩基配列に基づいたプライマーでPCRを行う5’−RACE(rapid amplification of cDNA ends)及び3’−RACE〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85, 8998 (1988)〕により、プライマーに用いた配列よりも5’末端側及び3’末端側のcDNA断片を得ることができる。
得られたcDNA断片をつなぎあわせることにより、本発明の全長DNAを取得することができる。
【0025】
前記の方法により取得されたDNAの塩基配列は、該DNA断片をそのまま又は適当な制限酵素等で切断後常法によりベクターに組み込み、通常用いられる塩基配列解析方法、例えばサンガー(Sanger)らのジデオキシ法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 74, 5463 (1977)〕、あるいはパーキン・エルマー社(PerkinElmer:373A・DNAシークエンサー)、ファルマシア社、ライコア(LI-COR)社等の塩基配列分析装置を用いて分析することにより決定することができる。
【0026】
前記方法により得られた塩基配列情報に基づき、DNA合成機で化学合成することにより目的とするDNAを調製することもできる。DNA合成機としては、チオホスファイト法を利用した島津製作所社製のDNA合成機、フォスフォアミダイト法を利用したパーキン・ エルマー社製のDNA合成機model392等が挙げられる。
【0027】
得られた塩基配列の新規性に関しては、BLAST 等の相同性検索プログラムを用いて、GenBank、EMBL及びDDBJ等の塩基配列データベースを検索することにより確認することができる。
新規な塩基配列については、アミノ酸配列に変換した後、FASTA、フレームサーチ(FrameSearch)等の相同性検索プログラムを用いて、GenPept 、PIR 、Swiss-Prot等のアミノ酸配列データベースを検索することにより、相同性をもつ既存の遺伝子を検索することができる。
【0028】
前記記載の方法により取得した本発明のDNAを宿主細胞中で発現させ、本発明のポリペプチドを製造するために、モレキュラー・クローニング第2版、カレント・プロトコールズ・インモレキュラー・バイオロジー等に記載された方法を用いることができる。
すなわち、本発明のDNAを適当な発現ベクターのプロモーター下流に挿入した組換えベクターを造成し、該ベクターを宿主細胞に導入することにより、本発明のポリペプチドを発現する形質転換体を取得し、該形質転換体を培養することにより、本発明のポリペプチドを製造することができる。
【0029】
宿主細胞としては、細菌、酵母、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞等、目的とする遺伝子を発現できるものであればいずれも用いることができる。
発現ベクターとしては、前記宿主細胞において自律複製可能ないしは染色体中への組込みが可能で、本発明のDNAを転写できる位置にプロモーターを含有しているものが用いられる。
【0030】
細菌等の原核生物を宿主細胞として用いる場合、本発明のポリペプチド遺伝子発現ベクターは原核生物中で自律複製可能であると同時に、プロモーター、リボソーム結合配列、本発明のDNA及び転写終結配列より構成された組換えベクターであることが好ましい。プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。
【0031】
発現ベクターとしては、例えば、pSE280(インビトロジェン社製)、pGEMEX−1(Promega社製)、pQE−8(QIAGEN社製)、pKYP10(特開昭58−110600号)、pKYP200〔Agric. Biol. Chem., 48, 669 (1984)〕、pLSA1〔Agric. Biol. Chem., 53, 277 (1989)〕、pGEL1〔Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 82, 4306 (1985)〕、pBluescript II SK(-)(STRATAGENE社)、pTrs30(FERM BP−5407)、pTrs32(FERM BP−5408)、pGHA2(FERM BP−400)、pGKA2(FERM B−6798)、pTerm2(特開平3−22979号、US4686191、US4939094、US5160735)、pKK233−3(アマシャム・ファルマシア・バイオテク社製)、pGEX(Pharmacia社製)、pETシステム(Novagen社製)、pSupex、pTrxFus(Invitrogen社)、pMAL−c2(New England Biolabs社)等が挙げられる。
【0032】
プロモーターとしては、宿主細胞中で発現できるものであればいかなるものでもよい。例えば大腸菌を宿主とした場合は、trpプロモーター(Ptrp)、lac プロモーター(Plac)、PLプロモーター、T7プロモーター、PRプロモーター等の、大腸菌やファージ等に由来するプロモーター等が挙げられる。また、Ptrpを2つ直列させたプロモーター(Ptrp×2)、tacプロモーター、T7lacプロモーター、let I プロモーターのように人為的に設計改変されたプロモーター等も用いることができる。枯草菌を宿主とした場合は、枯草菌のファージであるSPO1やSPO2のプロモーター、penPプロモーター等が挙げられる。
【0033】
リボソーム結合配列としては、シャイン−ダルガノ(Shine-Dalgarno)配列と開始コドンとの間を適当な距離(例えば6〜18塩基)に調節したプラスミドを用いることが好ましい。
本発明のDNAの発現には転写終結配列は必ずしも必要ではないが、構造遺伝子の直下に転写終結配列を配置することが好ましい。
【0034】
宿主細胞としては、エシェリヒア属、セラチア属、バチルス属、ブレビバクテリウム属、コリネバクテリウム属、ミクロバクテリウム属、シュードモナス属等に属する微生物、例えば、Escherichia coli XL1-Blue、Escherichia coli XL2-Blue、Escherichia coli DH1、Escherichia coli MC1000、Escherichia coli KY3276、Escherichia coli W1485、Escherichia coli JM109、Escherichia coli HB101、Escherichia coli No.49、Escherichia coli W3110、Escherichia coli NY49、Serratia ficariaSerratia fonticolaSerratia liquefaciensSerratia marcescens Bacillus subtilis Bacillus amyloliquefaciensBrevibacterium ammmoniagenesBrevibacterium immariophilum ATCC14068、Brevibacterium saccharolyticum ATCC14066、Corynebacterium glutamicum ATCC13032、Corynebacterium glutamicum ATCC14067、Corynebacterium glutamicum ATCC13869、Corynebacterium acetoacidophilum ATCC13870、Microbacterium ammoniaphilum ATCC15354、Pseudomonas sp. D-0110等が挙げられる。
【0035】
組換えベクターの導入方法としては、前記宿主細胞へDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、カルシウムイオンを用いる方法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 69, 2110 (1972)〕、プロトプラスト法(特開昭63-248394号)、エレクトロポレーション法〔Gene, 17, 107 (1982)、Molecular & General Genetics, 168, 111 (1979)〕等が挙げられる。酵母菌株を宿主細胞として用いる場合には、発現ベクターとして、例えば、YEp13(ATCC37115)、YEp24(ATCC37051)、YCp50(ATCC37419)、pHS19、pHS15等を用いることができる。
【0036】
プロモーターとしては、酵母菌株中で発現できるものであればいずれのものを用いてもよく、例えば、PH05プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター、gal 1プロモーター、gal 10プロモーター、ヒートショックポリペプチドプロモーター、MFα1プロモーター、CUP 1プロモーター等のプロモーターが挙げられる。
【0037】
宿主細胞としては、サッカロマイセス属、シゾサッカロマイセス属、クルイベロミセス属、トリコスポロン属、シワニオミセス属、ピヒア属等に属する酵母菌株が挙げられ、具体的には、Saccharomyces cerevisiaeSchizosaccharomyces pombe Kluyveromyces lactisTrichosporon pullulansSchwanniomyces alluviusPichia pastoris等が挙げられる。
【0038】
組換えベクターの導入方法としては、酵母にDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、エレクトロポレーション法〔Methods in Enzymology, 194, 182 (1990)〕、スフェロプラスト法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81, 4889 (1984)〕、酢酸リチウム法〔Journal of Bacteriology, 153, 163 (1983)〕等が挙げられる。
【0039】
動物細胞を宿主として用いる場合には、発現ベクターとして、例えば、pcDNAI/Amp(インビトロジェン社製)、pcDNAI、pAMoERC3Sc、pCDM8〔Nature, 329, 840 (1987)〕、pAGE107〔特開平3-22979号、Cytotechnology, 3, 133 (1990) 〕、pREP4(インビトロジェン社製)、pAGE103〔Journal of Biochemistry, 101, 1307 (1987)〕、pAMo、pAMoA、pAS3−3(特開平2-227075号)等が用いられる。
【0040】
プロモーターとしては、動物細胞中で発現できるものであればいずれも用いることができ、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)のIE(immediate early)遺伝子のプロモーター、SV40の初期プロモーター又はメタロチオネインのプロモーター、レトロウイルスのプロモーター、ヒートショックプロモーター、SRαプロモーター等が挙げられる。また、ヒトCMVのIE遺伝子のエンハンサーをプロモーターと共に用いてもよい。
【0041】
動物細胞としては、マウス・ミエローマ細胞、ラット・ミエローマ細胞、マウス・ハイブリドーマ細胞、ヒトの細胞であるナマルバ(Namalwa)細胞又はNamalwa KJM-1細胞、ヒト胎児腎臓細胞、ヒト白血病細胞、アフリカミドリザル腎臓細胞、チャイニーズ・ハムスターの細胞であるCHO細胞、HBT5637(特開昭63-299号)等が挙げられる。
マウス・ミエローマ細胞としては、SP2/0、NSO等、ラット・ミエローマ細胞としてはYB2/0等、ヒト胎児腎臓細胞としてはHEK293(ATCC: CRL-1573)等、ヒト白血病細胞としては、BALL-1等、アフリカミドリザル腎臓細胞としてはCOS-1、COS-7等が挙げられる。
【0042】
組換えベクターの導入方法としては、動物細胞にDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、エレクトロポレーション法〔Cytotechnology, 3, 133(1990)〕、リン酸カルシウム法(特開平2-227075号)、リポフェクション法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84, 7413 (1987)〕、Virology, 52, 456 (1973)に記載の方法等が挙げられる。
【0043】
昆虫細胞を宿主として用いる場合には、例えばバキュロウイルス・イクスプレッション・ベクターズ、ア・ラボラトリー・マニュアル〔Baculovirus Expression Vectors, A Laboratory Manual, W. H. Freeman and Company, New York (1992)〕、モレキュラー・バイオロジー、ア・ラボラトリー・マニュアル(Molecular Biology, A Laboratory Manual)、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー、Bio/Technology, 6, 47 (1988)等に記載された方法によって、ポリペプチドを発現することができる。
【0044】
即ち、組換え遺伝子導入ベクター及びバキュロウイルスを昆虫細胞に共導入して昆虫細胞培養上清中に組換えウイルスを得た後、更に組換えウイルスを昆虫細胞に感染させ、ポリペプチドを発現させることができる。
該方法において用いられる遺伝子導入ベクターとしては、例えば、pVL1392、pVL1393、pBlueBacIII(ともにインビトロジェン社製)等が挙げられる。
バキュロウイルスとしては、例えば、夜盗蛾科昆虫に感染するウイルスであるアウトグラファ・カリフォルニカ・ヌクレアー・ポリヘドロシス・ウイルス(Autographa californica nuclear polyhedrosis virus) 等を用いることができる。
【0045】
昆虫細胞としては、Spodoptera frugiperdaの卵巣細胞、Trichoplusia niの卵巣細胞、カイコ卵巣由来の培養細胞等を用いることができる。Spodoptera frugiperdaの卵巣細胞としてはSf9、Sf21(バキュロウイルス・イクスプレッション・ベクターズ、ア・ラボラトリー・マニュアル)等、Trichoplusia niの卵巣細胞としてはHigh 5、BTI-TN-5B1-4(インビトロジェン社製)等、カイコ卵巣由来の培養細胞としてはBombyx mori N4等が挙げられる。
【0046】
組換えウイルスを調製するための、昆虫細胞への前記組換え遺伝子導入ベクターと前記バキュロウイルスの共導入方法としては、例えば、リン酸カルシウム法(特開平2-227075号)、リポフェクション法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84, 7413 (1987)〕等が挙げられる。
遺伝子の発現方法としては、直接発現以外に、モレキュラー・クローニング第2版に記載されている方法等に準じて、分泌生産、融合蛋白質発現等を行うことができる。
酵母、動物細胞又は昆虫細胞により発現させた場合には、糖又は糖鎖が付加されたポリペプチドを得ることができる。
【0047】
以上のようにして得られる形質転換体を培地に培養し、培養物中に本発明のポリペプチドを生成蓄積させ、該培養物から採取することにより、本発明のポリペプチドを製造することができる。
本発明の形質転換体を培地に培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。
【0048】
大腸菌又は酵母等の微生物を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
炭素源としては、グルコース、フルクトース、スクロース、糖蜜、デンプン、デンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類が用いられる。
【0049】
窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸もしくは有機酸のアンモニウム塩又はその他の含窒素化合物の他、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕及び大豆粕加水分解物、各種発酵菌体又はその消化物等が用いられる。
無機物としては、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等が用いられる。
【0050】
培養は、通常振盪培養又は深部通気攪拌培養等の好気的条件下、15〜40℃で16〜96時間行う。培養期間中、pHは3.0〜9.0に保持する。pHの調整は、無機又は有機の酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム、アンモニア等を用いて行う。
培養中は必要に応じて、アンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
【0051】
プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドール酢酸(IAA)等を培地に添加してもよい。
【0052】
動物細胞を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、一般に使用されているRPMI1640培地、EagleのMEM培地又はこれら培地に牛胎児血清等を添加した培地等が用いられる。培養は、通常5%CO2存在下、35〜37℃で3〜7日間行い、培養中は必要に応じて、カナマイシン、ペニシリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
【0053】
昆虫細胞を宿主細胞として得られた形質転換体を培養する培地としては、一般に使用されているTNM-FH培地[ファーミンジェン(Pharmingen)社製]、Sf900IISFM[ライフテクノロジーズ(Life Technologies)社製]、ExCell400 、ExCell405[いずれもJRHバイオサイエンシーズ(JRH Biosciences)社製]等が用いられる。
【0054】
培養条件は、pH6〜7、培養温度25〜30℃がよく、培養時間は通常1〜5日間である。また、培養中は必要に応じて、ゲンタマイシン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
前記形質転換体の培養液から、前記方法により発現させた本発明のポリペプチドを単離精製するためには、通常の酵素の単離、精製法を用いればよい。
例えば、本発明のポリペプチドが、細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後、細胞を遠心分離により回収し水系緩衝液に懸濁後、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモゲナイザー、ダイノミル等により細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。
【0055】
前記無細胞抽出液を遠心分離することにより得られた上清から、通常の酵素の単離精製法、即ち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)−セファロース、DIAION HPA-75 (三菱化学社製)等レジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S-Sepharose FF(ファルマシア社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の手法を単独又は組み合わせて用い、精製標品を得ることができる。
【0056】
また、前記ポリペプチドが細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に細胞を回収後破砕し、遠心分離を行うことにより得られた沈殿画分より、通常の方法により該ポリペプチドを回収後、該ポリペプチドの不溶体を蛋白質変性剤で可溶化する。
前記可溶化液を、蛋白質変性剤を含まない又は蛋白質変性剤の濃度が蛋白質が変性しない程度に希薄な溶液に希釈、あるいは透析し、該ポリペプチドを正常な立体構造に構成させた後、前記と同様の単離精製法により精製標品を得ることができる。
【0057】
本発明のポリペプチド又はその糖修飾体等の誘導体が細胞外に分泌された場合には、培養上清に該ポリペプチド又はその糖鎖付加体等の誘導体を回収することができる。
即ち、該培養物を前記と同様の遠心分離等の手法により処理することにより可溶性画分を取得し、該可溶性画分から、前記と同様の単離精製法を用いることにより、精製標品を得ることができる。
【0058】
また、本発明のポリペプチドを他のタンパク質との融合タンパク質として生産し、融合したタンパク質に親和性をもつ物質を用いたアフィニティークロマトグラフィーを利用して精製することもできる。例えば、ロウらの方法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 86, 8227(1989)、Genes Develop., 4, 1288 (1990)〕、特開平05-336963号、特開平06-823021号に記載の方法に準じて、本発明のポリペプチドをプロテインAとの融合タンパク質として生産し、イムノグロブリンGを用いるアフィニティークロマトグラフィーにより精製することができる。また、本発明のポリペプチドをFlagペプチドとの融合タンパク質として生産し、抗Flag抗体を用いるアフィニティークロマトグラフィーにより精製することができる〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 86, 8227 (1989)、Genes Develop., 4, 1288(1990) 〕。更に、該ポリペプチド自身に対する抗体を用いたアフィニティークロマトグラフィーで精製することもできる。
【0059】
更に、本発明のポリペプチドは、該ポリペプチドの有するアミノ酸配列情報に基づいて、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t−ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法によっても製造することができる。
また、アドバンスト・ケムテック(Advanced ChemTech)社、パーキン・エルマー社、ファルマシア社、プロテイン・テクノロジー・インストゥルメント(Protein Technology Instrument)社、シンセセル・ベガ(Synthecell-Vega)社、パーセプティブ(PerSeptive)社、島津製作所等のペプチド合成機を利用し化学合成することもできる。
【0060】
精製した本発明のポリペプチドの構造解析は、蛋白質化学で通常用いられる方法、例えば遺伝子クローニングのためのタンパク質構造解析(平野久著、東京化学同人発行、1993年)に記載の方法により実施可能である。
トランスジェニック動物とは、外来遺伝子を動物の発生初期に導入して得られる動物のことであり、例えばマウス、ラット、又はウシ、ヒツジなどの家畜などが挙げられる。以下にトランスジェニックマウスの作製について述べる。
【0061】
トランスジェニックマウスはHogan, B.ら[Manupulating the mouseembryo. A laboratory manual. 2nd ed. 1994. Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York.]及びYamamura, K.ら[J. Biochem., 96, 357-363 (1984)]の方法に準じて製造することができる。すなわち、ホルモン処理した雌のC57BL/6マウスを交配させた後、受精卵を取り出し、受精卵の雄性前核内に、調製したベクター部分を含まない導入遺伝子のフラグメントをマイクロガラスピペットを用いてマイクロインジェクションする。得られた遺伝子導入卵のうち、生き残った数百個の偽妊娠雌マウスの卵管に移植し、トランスジェニックマウスを作製する。
【0062】
更に、本発明のポリペプチドを認識する抗体は、以下のようにして作製することができる。
まず、前記で得られた該蛋白質を抗原として免疫する。免疫する方法としては、動物の皮下、静脈内又は腹腔内に抗原をそのまま投与してもよいが、抗原性の高いキャリアタンパク質を結合させて投与したり、又は適当なアジュバントとともに抗原を投与することが好ましい。
【0063】
キャリアタンパク質としては、スカシガイヘモシアニン、キーホールリンペットヘモシアニン、牛血清アルブミン、牛チログロブリン等が挙げられ、アジュバンドとしては、フロインドの完全アジュバント(Complete Freund's Adjuvant)、水酸化アルミニウムゲルと百日咳菌ワクチン等が挙げられる。
免疫動物としては、ウサギ、ヤギ、3〜20週令のマウス、ラット、ハムスターなどの非ヒト哺乳動物が挙げられる。
【0064】
抗原の投与は、1回目の投与の後、1〜2週間毎に3〜10回行う。抗原の投与量は動物1匹当たり50〜100μgが好ましい。各投与後、3〜7日目に免疫動物の眼底静脈叢又は尾静脈より採血し、該血清の抗原との反応性について、酵素免疫測定法[酵素免疫測定法(ELISA法):医学書院刊(1976年)]などで確認する。
そして、該血清が十分な抗体価を示した非ヒト哺乳動物を、血清又は抗体産生細胞の供給源とする。
【0065】
ポリクローナル抗体は、該血清を分離、精製することにより調製することができる。
モノクローナル抗体は、該抗体産生細胞と非ヒト哺乳動物由来の骨髄腫細胞とを融合させてハイブリドーマを作製し、該ハイブリドーマを培養するか、動物に投与して該細胞を腹水癌化させ、該培養液又は腹水を分離、精製することにより調製することができる。
抗体産生細胞は、抗原投与された非ヒト哺乳動物の脾細胞、リンパ節、末梢血などから採取する。
【0066】
骨髄腫細胞としては、マウスから得られた株化細胞である、8-アザグアニン耐性マウス(BALB/c由来)骨髄腫細胞株P3-X63Ag8-U1(P3-U1)[G.Kohlerら;ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・イムノロジィ(Europ. J. Immunol.), 6, 511(1976)]、SP2/0-Ag14(SP-2)[M.Shulmanら;ネイチャー(Nature), 276, 269(1978)]、P3-X63-Ag8653(653)[J.F.Kearneyら;ジャーナル・オブ・イムノロジィ(J. Immunol.), 123, 1548(1979)]、P3-X63-Ag8(X63) [G.Kohlerら;ネイチャー(Nature), 256, 495(1975)]など、イン・ビトロ(in vitro)で増殖可能な骨髄腫細胞であればいかなるものでもよい。これらの細胞株の培養及び継代についてはアンチボディーズ・ア・ラボラトリー・マニュアル[Antibodies -A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988、以下「アンチボディーズ・ア・ラボラトリー・マニュアル」という。]に従い、細胞融合時までに2×107個以上の細胞数を確保する。
【0067】
前記で得られた抗体産生細胞と骨髄腫細胞とを洗浄した後、ポリエチレングリコール−1000(PEG-1000)などの細胞凝集性媒体を加え、細胞を融合させ、培地中に懸濁させる。細胞の洗浄にはMEM培地又はPBS(リン酸水素二ナトリウム1.83g、リン酸二水素カリウム0.21g、食塩7.65g、蒸留水1リットル、pH7.2)などを用いる。また、融合細胞を懸濁させる培地としては、目的の融合細胞のみを選択的に得られるように、HAT培地{正常培地[RPMI-1640培地に1.5mMグルタミン、5×10-5M 2-メルカプトエタノール、10μg/mlジェンタマイシン及び、10%牛胎児血清(FCS)(CSL 社製)を加えた培地]に10-4Mヒポキサンチン、1.5×10-5Mチミジン及び4×10-7Mアミノプテリンを加えた培地}を用いる。
【0068】
培養後、培養上清の一部をとり、酵素免疫測定法により、抗原蛋白質に反応し、非抗原蛋白質に反応しないサンプルを選択する。ついで、限界希釈法によりクローニングを行い、酵素免疫測定法により安定して高い抗体価の認められたものをモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ株として選択する。
【0069】
酵素免疫測定法
抗原蛋白質又は抗原蛋白質を発現した細胞などを96ウェルプレートにコートし、ハイブリドーマ培養上清もしくは精製抗体を第一抗体として反応させる。
第一抗体反応後、プレートを洗浄して第二抗体を添加する。
第二抗体とは、第一抗体のイムノグロブリンを認識できる抗体を、ビオチン、酵素、化学発光物質又は放射線化合物等で標識した抗体である。具体的にはハイブリドーマ作製の際にマウスを用いたのであれば、第二抗体としては、マウスイムノグロブリンを認識できる抗体を用いる。
反応後、第二抗体を標識した物質に応じた反応を行い、抗原に特異的に反応するモノクローナル抗体を生産するハイブリドーマとして選択する。
【0070】
モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ細胞を培養して得られる培養液、又はプリスタン処理〔2,6,10,14-テトラメチルペンタデカン(Pristane)0.5mlを腹腔内投与し、2 週間飼育する〕した8〜10週令のマウス又はヌードマウスに、モノクローナル抗体産生ハイブリドーマ細胞を腹腔内投与して腹水癌化させた腹水から、分離、精製することにより調製できる。
【0071】
モノクローナル抗体を分離、精製する方法としては、遠心分離、40〜50%飽和硫酸アンモニウムによる塩析、カプリル酸沈殿法、DEAE-セファロースカラム、陰イオン交換カラム、プロテインA又はG- カラム又はゲル濾過カラム等を用いるクロマトグラフィー等を、単独又は組み合わせて行う方法が挙げられる。この方法により、IgG 又はIgM 画分を回収し、精製モノクローナル抗体を取得することができる。
【0072】
【実施例】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
(実施例1)
1.劇症C型肝炎ウイルスのクローニング:
(1)患者背景:
輸血、薬剤性肝障害、アルコール性肝障害などの既往歴のない男性(32歳)が急性の肝障害を発症し治療のため入院した。入院後直ちに肝性昏睡となり、劇症肝炎と診断された。急性期の血清よりHCVが検出され、その他のウイルスマーカーは検出できず、HCV感染による劇症肝炎と診断された。その後の治療により患者は回復し、肝機能正常となり、ウイルスも検出されなくなった。その経過を図1に示す。
【0073】
(2)ウイルスの全RNAの調製及びcDNAの合成
患者の急性期に採取した血清250μlより、全RNAを、酸性グアニジンイソチオシアネート・フェノール・クロロホルム(acid-guanidinium-isothiocyanate-phenol-chloroform; AGPC)(ISOGEN−LS;日本ジーン社製)を使用し、抽出し、イソプロパノールにより沈殿させ、エタノールにて洗浄後、20μlのDEPC−処理水(和光純薬工業社製)を加え、溶解した。
前記で得た全RNAの20μl溶液のうち10μlを、ランダムプライマー(6−mer)による逆転写、及びマウス白血病ウイルスリバーストランスクリプターゼ(Superscript II、Life Technologies社製;ロックビル、メリーランド)による処理を、37℃にて1時間行い、cDNAを合成した。
【0074】
(3)HCVの単離
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行うべく、1μlのcDNAをTaKaRa LA Taq ポリメラーゼ(宝酒造社製)に付した。劇症肝炎患者から分離したHCVゲノムの全領域を得るために、HC−J6(アクセッション番号:D00944)のシークエンスをもとにデザインした20−merのPCRプライマーを使用し、5’末端及び3’末端を除くHCVゲノム全領域を含む12個のHCV cDNAフラグメント(DNA断片)に増幅した。
【0075】
その12個の各DNA断片のHCVゲノム配列に相当する場所を、HC−J6の核酸配列に従って、その核酸配列の始まりと終わりを番号付けすると、64〜466、337〜829、637〜1303、1158〜2348、2305〜3491、3489〜4648、4566〜5951、5902〜6983、6967〜8015、7972〜8872、8700〜9262、9251〜9613であった。
なお、PCRの条件は、95℃30秒間の変性、60℃30秒間のアニーリング、及び70℃1分間の反応を各40サイクル行うことによるPCRを行った。
【0076】
続いて、5’−RACE法及び3’−RACE法を用いて、5’末端側及び3’末端側のウイルスRNAの核酸配列を決定した。
即ち、5’末端配列を決定するために、cDNAを5’−非翻訳領域(5’−UTR)プライマー(アンチセンス)により合成し、ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼにより合成したcDNAの5’末端にポリC配列を付加した後、次いでPCR(cDNA末端の増幅のための5’−RACEシステム:Life Technologies社製;Version 2.0)により増幅した。
【0077】
また、3’末端配列を決定するために、抽出したRNAを、ポリ−A−ポリメラーゼ(宝酒造社製)を使用してポリアデニル化し、(T)33含有の38−merオリゴヌクレオチドによりcDNAに変換し、3’−UTRプライマー及び逆転写に使用するプライマーにより増幅した。増幅生成物をアガロースゲル電気泳動により分離し、次いで、pGEM−T EASYベクター(Promega社,マジソン、ウィスコンシン州)中にクローニングし、Big Dye Terminator Mix及び自動DNAシークエンサーmodel310(PE Biosystems社、カリフォルニア州)によりシークエンスした。
【0078】
以上により、全ウイルスゲノム配列を得、これをJFH−1株と命名した。得られたJFH−1株は、全長9678塩基長であり、その塩基配列を配列番号1に示した。
以上により決定された全ウイルスゲノムの塩基配列は、その341番から9439番の間に、3033個のアミノ酸残基をコードする長い翻訳領域を有するものであった。そのアミノ酸配列を配列番号2に示した。
【0079】
比較のために、遺伝子型2aのHCVに感染している慢性肝炎患者6名よりHCVを分離し、前記と同様にHCVのcDNAをクローニングしてその塩基配列を決定した。これらの全ウイルスゲノムを、それぞれJCH−1株〜JCH−6株と称する。なお、これらの株の塩基配列は、JCH−1株=9681塩基長;JCH−2株=9677塩基長;JCH−3株=9678塩基長;JCH−4株=9676塩基長;JCH−5株=9691塩基長及びJCH−6株=9686塩基長であった。
【0080】
2.ウイルスゲノムの塩基配列の解析
劇症肝炎患者から分離したJFH−1株と、慢性肝炎患者から分離したJCH−1株〜JCH−6株、及び、すでにその塩基配列が解明されているHC−J6株(アクセッション番号:D00944)との遺伝子配列上の違いを知るために、6パラメーター法(Gojoboriら、J. Med. Evol., 1982; 18: 414-423)及びN−J(Neighbor-Joining)法(Saitouら、Mol. Biol. Evol., 1987; 4: 406-425)による分子系統樹による解析を行った。その結果を図2に示す。
【0081】
図中に示した結果から判明するように、慢性肝炎患者から分離された全てのクローンが、クラスターを形成するが、劇症肝炎患者から分離したJFH−1株は、他の遺伝子型(1a,1b,2b,2c)に比べると、遺伝子型2aに近いものの、明らかに慢性肝炎患者から分離されたクローンのクラスターからは独立している。更に、HCVゲノム上の遺伝子領域ごとに、その各分離株の遺伝子的な違いを知るために、全ての分離株間の遺伝子距離と、JFH−1株と他の株間の遺伝子距離を、核酸については6パラメーター法で、またアミノ酸は木村の2パラメーター法(Kimura, Proc. Natl. Acad. Sci., U.S.A. 1969; 63: 1181-1188)で計算した。
【0082】
劇症肝炎患者から分離されたJFH−1株と、他の慢性肝炎患者から分離された株間の、遺伝子距離の平均を、全ての分離株間の遺伝子距離の平均で割って得られる比を求めて、JFH−1株が各遺伝子領域でどの程度他の分離株と異なっているかを検討した。核酸についての結果を表1に、アミノ酸についての結果を表2に示す。
【0083】
【表1】
Figure 0004880116
【0084】
UTR:比翻訳領域
E:エンベローブ領域
NS:比構造領域
*:遺伝子距離の平均は、JFH−1株と他の遺伝子型2a株との間で計算した。
**:遺伝子距離の平均は、JFH−1株を含む、遺伝子型2a株との間の全ての間で計算した。
***:HC−J6株を含まないデータである。
【0085】
【表2】
Figure 0004880116
【0086】
NA:計算せず
UTR:比翻訳領域
E:エンベローブ領域
NS:比構造領域
*:遺伝子距離の平均は、JFH−1株と他の遺伝子型2a株との間で計算した。
**:遺伝子距離の平均は、JFH−1株を含む、遺伝子型2a株との間の全ての間で計算した。
***:HC−J6株を含まないデータである。
【0087】
以上のデータから判断すると、核酸での計算では、JFH−1株と他の株間の平均遺伝子距離は、0.1136±0.0073であり、全分離株のHCVの遺伝子全長における平均遺伝子距離は、0.0969±0.0140であり、その比は1.173であった。各領域別に見ると、平均遺伝子距離の比が最も高いのは、5’−URTであり、その比は1.387であった。
【0088】
また、アミノ酸での計算では、全翻訳領域のJFH−1株と他の株間の平均遺伝子距離は、0.0918±0.0052であり、全分離株のHCVの遺伝子全長における平均遺伝子距離は、0.0716±0.0139であり、その比は1.282であった。各領域別に見ると、平均遺伝子距離の比が高いのは、コア、NS3、NS5aであり、その比はそれぞれ1.560,1.464,1.596であった。したがって、劇症肝炎患者から分離されたJFH−1株には、これらの領域に、他のHCV分離株と異なる遺伝子情報を有することが考えられる。
【0089】
(実施例2)
劇症肝炎分離株(JFH−1)の遺伝子配列の解析からアミノ酸ではコア、NS3、NS5aの各領域が特に慢性肝炎の分離株の配列と異なっていることが示された。これらの変異によるJFH−1株の性質の変化が劇症肝炎の発症機序に関与している可能性を考え、JFH−1株と慢性肝炎分離株とのウイルス蛋白質の発現を検討した。
【0090】
コア蛋白質はウイルスのキャプシドを形成すると考えられている構造蛋白質だが、最近の報告では感染細胞内で感染細胞の様々な遺伝子発現を調節している多機能蛋白質と考えられている。コア蛋白質はそのC末端がプロセッシングされるが、その切断部位により分子量の異なる2種類のコア蛋白質が作られる。191アミノ酸からなるコア蛋白質をP23と呼び、179又は182アミノ酸からなるコア蛋白質をP21と呼ぶ。ウイルス粒子のキャプシドを形成しているのはP21と考えられるが、P21とP23は異なる機能と性質を持つことが予想されている。劇症肝炎分離株JFH−1のコア蛋白質P21とP23の発現について検討した。
【0091】
実験1:劇症肝炎分離株JFH−1と慢性肝炎5例から分離したウイルス株(JCH−1〜5)及びすでに報告されているJ6CF株のコア領域のアミノ酸配列を図3に示す。このアミノ酸配列を発現するウイルス遺伝子を図4(A)に示すようにT7プロモーター配列とポリAシグナル配列の間に挿入した。この発現ベクターを鋳型として、TNT Coupled Reticulocyte Lysate System (Promega)を用いてコア蛋白質を発現させ、SDS−PAGEにて電気泳動し、PVDF膜に転写して抗コアモノクローナル抗体で検出した。結果を図4(B)に示す。JFH−1株からはP21とP23の2種類のコア蛋白質が検出されたが、慢性肝炎分離株からは主にP23のみが検出された。
【0092】
実験2:次にJFH−1株とJCH−1株のキメラ遺伝子を作製することによりJFH−1株のどの部分の変異がP21/P23の発現の変化に関与しているかを検討した。図5(A)に示すように、JFH−1株とJCH−1株を60番目、90番目、160番目のアミノ酸で入れ替えたキメラ遺伝子を作製した。即ち、1〜60番のアミノ酸配列と61番以降のアミノ酸配列とのキメラペプチド、1〜90番のアミノ酸配列と91番以降のアミノ酸配列とのキメラペプチド、及び1〜160番のアミノ酸配列と161番以降のアミノ酸配列とのキメラペプチドをそれぞれコードするキメラ遺伝子を作製した。図5(A)に示すコア遺伝子領域の斜線部はJCH−1株と同一の部分、白塗りの部分はJFH−1株と同一の部分を示す。実験1と同じ方法でこの遺伝子を発現させた。結果を図5(B)に示す。この結果からJFH−1株と同じP21/P23の発現パターンを示すためにはコア蛋白質の161番アミノ酸以降の配列が重要であることがわかった。また、JCH−1株と同じ発現パターンを示すためにもコア蛋白質の161番アミノ酸以降の配列が重要であることがわかった。161番目以降のアミノ酸配列でJFH−1株とJCH−1株で異なるのは164番がJFH−1株:Y、JCH−1株:F、172番がJFH−1株:F、JCH−1株:C、173番がJFH−1株:P、JCH−1株:S、187番がJFH−1株:V、JCH−1株:Tであった。即ち、この4ヶ所の変異すべて又はいくつかの組み合わせでP21/P23の発現パターンが決まることが明らかとなった。
【0093】
実験3:実験1と2では発現ベクターはコア領域の遺伝子のみを挿入したものを用いたため、コア蛋白質の2ヶ所のプロセッシング部位のうちP21を切り出してくるもののみを検討できた。次にコア領域の更に下流つまりE1やE2蛋白質も発現させた状態でP21/P23の発現パターンの変化を検討した。図6(A)に示すように、ウイルス遺伝子のうち構造遺伝子領域全体を含んだ発現ベクターを構築した。コア領域のみを発現する発現ベクターとともに実験1,2と同じ方法で蛋白質を発現させ、コア蛋白質を検出した。結果を図6(B)に示す。コア領域のみを発現する場合に比べ構造遺伝子全体を発現させると、P21がP23と比べより多く作られるようになるが、JFH−1株ではJCH−1株よりもP21がより多く作られP23はより少なく検出された。
【0094】
実験4:P21/P23の発現パターンの変化を細胞内で確認するために実験1で用いた発現ベクターを細胞内に導入して細胞内で発現させた。発現ベクターDNAをFuGene6(ロッシュ・ダイアグノスティックス)を用いて293−T細胞に導入し細胞を回収、破砕して、SDS−PAGEにて電気泳動し、PVDF膜に転写して抗コアモノクローナル抗体で検出した。結果を図5に示す。JFH−1株ではP21とP23の両方を検出したが、JCH−1株からは主にP23を検出した。
【0095】
以上の実験1〜4の結果からJFH−1株は他の慢性肝炎から分離した株と比較してコア蛋白質の発現パターンが異なることが明らかとなった。HCVのコア蛋白質にはP21とP23の2種類があるが、JFH−1株ではP21がより作られやすいことが示された。P21はウイルス粒子のキャプシドを形成する蛋白質であり、JFH−1株ではP21がより多く作られることにより、感染細胞内でウイルス粒子がより多く産生されることが考えられる。
【0096】
次に、ウイルスのRNA複製に必要な非構造蛋白質の発現について検討した。RNA複製はRNA replicase活性を持つNS5bにより行われるが、NS5bを含む非構造蛋白質は複合体を形成してウイルスRNA複製を行っていると考えられている。そこで、まずNS5bの発現を検討し、更にNS5bの発現に重要であるNS3の発現を検討した。
【0097】
実験5:NS5bの発現を検討するためにJFH−1株とJCH−1株の翻訳領域全体を挿入した発現ベクターを構築した(図8(A))。この発現ベクターを実験4と同じ方法で培養細胞に導入してその細胞を回収、破砕してSDS−PAGEにて電気泳動し、PVDF膜に転写してウエスタンブロット法で検出した。図8(B)の下段に示すようにコア蛋白質はJFH−1株とJCH−1株ともに同じくらいの発現量を示したが、上段に示すNS5bの発現量は明らかにJFH−1株の方が多かった。
【0098】
実験6:次にNS5bのプロセッシングに必要なNS3から下流のウイルス遺伝子のみを挿入した発現ベクターを作製してNS3とNS5bの発現を検討した(図9(A))。方法は実験5と同じである。結果を図9(B)に示す。NS3の発現量はJFH−1株の方が多い。しかし、同じ抗体で検出されるNS3のN端側の分解産物が検出され、その量はJCH−1株の方が多かった。つまり、JFH−1株のNS3の方が安定であることが示された。更に、この発現ベクターを用いた場合のNS5bの発現量を検討した。やはりJFH−1株の方がNS5bの発現量が多いことが明らかとなった。実験5及び実験6の結果から、JFH−1株はJCH−1株に比べNS3の安定性が高いため、NS5bがより多く作られることが示された。JFH−1株感染細胞ではNS5bがより多く作られることによりRNA複製がより効率よく行われ、ウイルス複製とウイルスの産生も慢性肝炎株よりも効率よく行われることが示された。JFH−1株のNS3の遺伝子領域には慢性肝炎分離株と比べ21ヶ所の特異的なアミノ酸配列の変異がある。このアミノ酸変異がNS3の安定性に関与している可能性がある。また、NS2、NS3、NS4a、NS4b、NS5a、NS5bの非構造蛋白質は複合体を形成していることが示されている。このため、NS3以外の非構造蛋白質領域のアミノ酸変異もNS3の安定性の変化に関与している可能性がある。
【0099】
以上の結果から、JFH−1株は慢性肝炎からの分離株と比べてコア、NS3、NS5a領域に変異が多く、特にコア領域の変異はコア蛋白質のプロセッシングに関係しており、P21とP23の発現パターンを変化させた。この変化によりウイルス粒子産生の変化が推測された。この変化に関与しているJFH−1株の配列はコア蛋白質のアミノ酸配列で161番目から191番目のなかの慢性肝炎と比べ4個のアミノ酸の変異であると考えられた。また、JFH−1株はNS5bの発現も慢性肝炎分離株より多く、RNA複製がより効率的に行われることが考えられた。このNS5bの発現の変化にはNS3のアミノ酸の配列の変異が関与していると考えられた。これらの変異によるウイルスの性質の変化が劇症肝炎の病態に関係していると考えられた。
【0100】
【発明の効果】
本発明が提供する全ゲノム配列を有する劇症肝炎患者から分離されたJFH−1株は、他の慢性肝炎患者から分離されたウイルス株とは異なった遺伝子情報を有することより、その病原性が異なっているものと考えられる。
したがって、従来のHCV株が有する遺伝子情報と異なる、劇症肝炎患者から分離されたこのJFH−1株の遺伝子情報を利用することにより、新たなHCVウイルスの培養法の確立、感染性HVCのcDNAクローンの確立、HCVウイルスの病原性の相違を決定する遺伝子領域の探索、新たなHCVウイルスの遺伝子診断法の確立、更にはHCVウイルスによる劇症肝炎に対する治療方法の開発等を行うことが可能となる。
【0101】
【配列表】
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【図面の簡単な説明】
【図1】劇症肝炎患者の経過を示す図である。
【図2】分子系統樹による解析の結果を示す図である。
【図3】劇症肝炎分離株JFH−1と慢性肝炎5例から分離したウイルス株(JCH−1〜5)及びすでに報告されているJ6CF株のコア領域のアミノ酸配列を示す図である。
【図4】図3に示したアミノ酸配列を発現するウイルス遺伝子をT7プロモーター配列とポリAシグナル配列(pA)の間に挿入した発現ベクターの概略図(A)、及び該発現ベクターを鋳型としてコア蛋白質を発現させて電気泳動し、PVDF膜に転写して抗コアモノクローナル抗体で検出した結果(B)を示す。
【図5】JFH−1株とJCH−1株を60番目、90番目、160番目のアミノ酸で入れ替えたキメラ遺伝子をT7プロモーター配列とポリAシグナル配列(pA)の間に挿入した発現ベクターの概略図(A)、及び該発現ベクターを鋳型としてコア蛋白質を発現させて電気泳動し、PVDF膜に転写して抗コアモノクローナル抗体で検出した結果(B)を示す。
【図6】コア領域のみを発現する発現ベクター及び構造遺伝子領域全体を含んだ発現ベクターの概略図(A)、及び該発現ベクターを鋳型としてコア蛋白質を発現させて電気泳動し、PVDF膜に転写して抗コアモノクローナル抗体で検出した結果(B)を示す。
【図7】実験1で用いた発現ベクターを細胞内に導入して細胞内で発現させて電気泳動し、PVDF膜に転写して抗コアモノクローナル抗体で検出した結果を示す図である。
【図8】JFH−1株とJCH−1株の翻訳領域全体を挿入した発現ベクターの概略図(A)、及び該発現ベクターを細胞内に導入して細胞内で発現させて電気泳動し、PVDF膜に転写してウエスタンブロット法で検出した結果(B)を示す。
【図9】NS3から下流のウイルス遺伝子のみを挿入した発現ベクターの概略図(A)、及び該発現ベクターを細胞内に導入して細胞内で発現させて電気泳動し、PVDF膜に転写してウエスタンブロット法で検出した結果(B)を示す。
【符号の説明】
ALT アラニンアミノトランスフェラーゼ
PT プロトロンビン時間
FH.ami 劇症肝炎分離株JFH−1のコア領域のアミノ酸配列
CH1.ami 慢性肝炎分離株JCH−1のコア領域のアミノ酸配列
CH2.ami 慢性肝炎分離株JCH−2のコア領域のアミノ酸配列
CH3.ami 慢性肝炎分離株JCH−3のコア領域のアミノ酸配列
CH4.ami 慢性肝炎分離株JCH−4のコア領域のアミノ酸配列
CH5.ami 慢性肝炎分離株JCH−5のコア領域のアミノ酸配列
J6CF.ami J6CF株のコア領域のアミノ酸配列
FH 劇症肝炎分離株JFH−1
CH1-5 慢性肝炎分離株JCH−1〜5
CH1 慢性肝炎分離株JCH−1
CH2 慢性肝炎分離株JCH−2
CH3 慢性肝炎分離株JCH−3
CH4 慢性肝炎分離株JCH−4
CH5 慢性肝炎分離株JCH−5
FH ORF 劇症肝炎分離株JFH−1の翻訳領域全体を挿入した発現ベクター
CH1 ORF 慢性肝炎分離株JCH−1の翻訳領域全体を挿入した発現ベクター Cont. 陰性コントロール、HCVのcDNAを挿入していない発現ベクター
Myc human c-myc gene protein
HA ヒトインフルエンザウイルスのhemagglutinin protein

Claims (10)

  1. 配列番号2に示すアミノ酸配列のうち、アミノ酸番号161〜191で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
  2. C型肝炎ウイルスのコア蛋白質を構成する以下のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
    a)配列番号2に示すアミノ酸配列のうち、1番〜191番で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、又は
    b)劇症肝炎患者から分離されたC型肝炎ウイルス由来のポリペプチドであり、前記a)記載アミノ酸配列において、161番〜191番で表されるアミノ酸配列以外の部分に1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド
  3. C型肝炎ウイルスのコア蛋白質P21を構成する以下のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
    a)配列番号2に示すアミノ酸配列のうち、1番〜179番又は1番〜182番で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、又は
    b)劇症肝炎患者から分離されたC型肝炎ウイルス由来のポリペプチドであり、前記a)記載のアミノ酸配列において、161番〜179番又は161番〜182番で表されるアミノ酸配列以外の部分に1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド
  4. 配列番号2に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリペプチドをコードする塩基配列からなる核酸。
  6. C型肝炎ウイルスのコア蛋白質をコードする以下の塩基配列又はそれに相補的な塩基配列からなる核酸(ただし、該核酸がRNAの場合は、塩基配列中のチミンをウラシルに読み替えるものとする)。
    a)配列番号1に示す塩基配列のうち、341番〜913番で表される塩基配列からなる核酸、又は
    b)劇症肝炎患者から分離されたC型肝炎ウイルス由来のポリペプチドをコードする核酸であり、前記a)記載の核酸と95%以上の相同性を有する核酸
  7. C型肝炎ウイルスのコア蛋白質P21をコードする以下の塩基配列又はそれに相補的な塩基配列からなる核酸(ただし、該核酸がRNAの場合は、塩基配列中のチミンをウラシルに読み替えるものとする)。
    a)配列番号1に示す塩基配列のうち、341番〜877番又は341番〜886番で表される塩基配列からなる核酸、又は
    b)劇症肝炎患者から分離されたC型肝炎ウイルス由来のポリペプチドをコードする核酸であり、前記a)記載の核酸と95%以上の相同性を有する核酸
  8. C型肝炎ウイルスのコア蛋白質におけるC末端をコードする以下の塩基配列又はそれに相補的な塩基配列からなる核酸(ただし、該核酸がRNAの場合は、塩基配列中のチミンをウラシルに読み替えるものとする)。
    a)配列番号1に示す塩基配列のうち、821番〜913番で表される塩基配列からなる核酸、又は
    b)劇症肝炎患者から分離されたC型肝炎ウイルス由来のポリペプチドをコードする核酸であり、前記a)記載の核酸と95%以上の相同性を有する核酸
  9. 劇症C型肝炎ウイルスの全ゲノムをコードする以下の塩基配列又はそれに相補的な塩基配列からなる核酸(ただし、該核酸がRNAの場合は、塩基配列中のチミンをウラシルに読み替えるものとする)。
    a)配列番号1に示す塩基配列からなる核酸、又は
    b)劇症肝炎患者から分離されたC型肝炎ウイルス由来のポリペプチドをコードする核酸であり、前記a)記載の核酸と95%以上の相同性を有する核酸
  10. 劇症C型肝炎ウイルス株と慢性C型肝炎ウイルス株の識別方法であって、
    識別対象となるC型肝炎ウイルス株のゲノム中のコア蛋白質をコードする核酸の塩基配列をシークエンスし、
    その塩基配列から前記核酸がコードする蛋白質のアミノ酸配列を推定し、
    前記推定したアミノ酸配列において、配列番号2に示すアミノ酸配列の、
    164番に相当するアミノ酸残基がチロシン(Y)であり、
    172番に相当するアミノ酸残基がフェニルアラニン(F)であり、
    173番に相当するアミノ酸残基がプロリン(P)であり、及び/又は
    187番に相当するアミノ酸残基がバリン(V)である
    場合には、前記識別対象のC型肝炎ウイルス株が劇症C型肝炎ウイルス株であると判定する前記識別方法。
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