JP4873801B2 - 有機化合物の構造解析方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、高エネルギー衝突誘導解離法−MS/MS(CID−MS/MS;High−energy Collision−Induced Dissociation−Mass/Mass Spectrometry)により、有機化合物の構造解析を行う方法に関し、詳細には、含窒素有機化合物について、チャージリモートフラグメンテーションを生じさせる方法、ならびにそれに使用する試薬に関する。
【0002】
【従来の技術】
化学構造式が未知あるいは推定される有機物質について、その構造解析と同定化を行う手段として、種々の物理化学的方法が採用されている。例えば、最もオーソドックスな手段としては、対象となる有機化合物についての赤外線吸収スペクトル(IR)、プロトンあるいは炭素核磁気共鳴スペクトル( 1 H−あるいは 13 C−NMR)、質量分析法(MS)、X−線結晶回折等を行い、得られたデータを解析し、その化学構造式の決定、同定等が行われている。
【0003】
このような構造解析手段は、科学の進歩とともに、著しい発展を遂げてきており、例えば、含窒素有機化合物としてのペプチド類の高度な構造決定法としてMS/MS法が多用されてきている。このMS/MS法においては、一般的には、エレクトロスプレー(ESI;Electrospray Ionization)法や、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI;Matrix−Assisted Laser Desorption/Ionization)といったイオン化法に、中性分子で分子開裂を生じさせる衝突誘導解離(CID;Collision−Induced Dissociation)や、ポストソースディケイ(PSD;Post−Source Decay)を組み合わせた方法である。
【0004】
MS/MSスペクトルは、高感度であること、混合物でも測定が可能であるという利点を有していることより、ペプチドの一次配列決定法として広く用いられている方法である。しかし、多くの場合、観測されるフラグメントイオン(開裂イオン)は、例えばペプチド類の場合には、アミド結合で開裂したイオンピークが入り混じり、その構造解析を複雑なものとしている。また、ペプチドを構成するアミノ酸残基に対応した分子量差の情報を得ることはできても、例えば異性体の関係にあるロイシン(Leu)とイソロイシン(Ile)の区別をつけることは困難なものとなっている。さらには、分子量が同じグルタミン(Gln)とリジン(Lys)の判別を行うことも困難なものである。
【0005】
また、アルギニン(Arg)やリジン(Lys)を多く含むペプチド類にあっては、アミノ酸構造の中に他の塩基性基、具体的にはグアニジン基あるいはアミノ基をさらに有しているため、この方法によると、チャージサイトが分散化することとなり、その結果複雑なスペクトルを与え、構造解析をさらに困難なものとしている。
【0006】
最近になって、これらの問題点を解決する解析方法として、高エネルギー衝突誘導解離法(CID;High−energy Collision−Induced Dissociation)により得られる、チャージリモートフラグメンテーション(CRF;Charge−Remote Fragmentation)を利用するMS/MS解析が注目されてきている。
【0007】
すなわちこのCRFは、例えばペプチド類の分子末端、特にN−末端にスルホン酸残基を導入するか、あるいはN−末端を第4級アンモニウム塩残基として極性官能基を保持させ(チャージさせ)、一段目のMSで分子関連イオンを選択し、引き続き、強制的なフラグメンテーション化、すなわち、高エネルギー衝突誘導解離(CID)を行うと、チャージリモートフラグメンテーション(CRF)が二段目のMSで観測されることを特徴としている。
【0008】
ここで観測されるCRFは、分子末端に存在するスルホン酸基あるいは第4級アンモニウム塩等の極性官能基の遠方から、極性官能基に向かって開裂が規則的に生じることを特徴としている。
【0009】
このCRFが観測される基本的な開裂様式を、下記の模式的な化学式で示す。すなわち開裂は、極性官能基の遠方の方からa,b,c,d,e,fの様式で生じ、それに対応するフラグメントイオンのピークが特徴的に観測されることとなる。
【0010】
【化6】
【0011】
この方法は、両側からの断片化がともに観測される前記した低エネルギーでのフラグメンテーションに比較して、精度の高い構造情報が得られるものであり、これまでにポリアミン類あるいはマイトトキシに代表されるポリエーテル有機分子などの長鎖有機化合物の微量構造解析に、絶大な威力を発揮している方法である。
【0012】
かかる構造解析法をペプチド構造の解析に応用させるためには、ペプチドのN−末端にスルホン酸残基のような極性官能基を選択的に導入するか、あるいはそのN−末端を第4級アンモニウム塩残基等に変換してやらなければならない。しかしながら、ペプチド類を構成するアミノ酸には、アルギニン(Arg)やリジン(Lys)を始めアミノ酸分子内部に他の塩基性官能基を有するものが存在する。例えば、ブラジキニン、β−アラニン、オルニチン、ジアミノプロピオン酸などは、側鎖にアミノ基を有しており、これら化合物のN−末端のみを選択的にスルホン化、あるいは第4級アンモニウム化することは困難な状態にある。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の問題点を鑑み、上記の高エネルギー衝突誘導解離法−MS/MS(CID−MS/MS)を用いて含窒素有機化合物の構造解析を行う場合に際して、効果的にチャージリモートフラグメンテーション(CRF)を生じさせる方法、それに使用する試薬、ならびにCRFを誘起させることによる有機化合物の解析方法を提供することを課題とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
かかる課題を解決するための請求項1に記載の本発明は、高エネルギー衝突誘導解離法−MS/MS(CID−MS/MS)によりチャージリモートフラグメンテーション(CRF)を誘起させる方法において、含窒素有機化合物の末端に、次式(I):
【0015】
【化7】
【0016】
で示されるスクアリル酸残基を導入させて行うことを特徴とする方法である。
【0017】
すなわち、本発明はCID−MS/MS法により規則性のあるチャージリモートフラグメンテーション(CRF)を誘起するためには、長鎖分子の末端に、強酸性あるいは強塩基性の極性官能基の存在させることが必須となるが、この極性官能基として、強酸性と芳香族性を併せもつ、前記式(I)で示されるスクアリル酸残基を、極性官能基として使用する点に特徴を有するものである。
【0018】
本発明者らの検討によれば、前記式(I)で示されるスクアリル酸残基の基本となるスクアリル酸は、硫酸と有機カルボン酸のちょうど中間であるトリフルオロ酢酸に匹敵する強酸性を有しており、このスクアリル酸残基を含窒素有機化合物の末端に導入すること(スクアリル化すること)により、CID−MS/MS法で、規則性のあるCRFを誘導することが確認された。かかるスクアリル酸残基を分子末端に導入することによるCRF誘導への応用例は、これまで文献未記載であり、本発明者らによって最初に行われたものである。
【0019】
したがって、請求項3に記載の本発明は、また別の態様として、高エネルギー衝突誘導解離法−MS/MS(CID−MS/MS)によりチャージリモートフラグメンテーション(CRF)を誘起させるために、含窒素有機化合物の末端に、次式(I):
【0020】
【化8】
【0021】
で示されるスクアリル酸残基を導入させるための試薬である。
【0022】
より具体的な請求項4に記載の発明は、上記の式(I)で示されるスクアリル酸残基を導入するための試薬が、次式(II):
【0023】
【化9】
【0024】
(式中、R1およびR2は、同一または異なって、水素原子、低級アルキル基、アルケニル基、アリール基またはアラルキル基を表わす)
で示されるスクアリル酸誘導体からなる試薬である。
【0025】
例えば、分子末端にアミノ基を有する含窒素有機化合物の場合には、この式(II)で示されるスクアリル酸誘導体を使用し、当該化合物と直接反応させることにより、効率良く、分子末端のアミノ基に、式(I)で示されるスクアリル酸残基を導入することができるものである。
【0026】
また、含窒素有機化合物の末端に式(I)で示されるスクアリル酸残基を導入させる手段としては、スクアリル酸残基を有する化合物を純有機合成化学的手法により結合させて行うこともできる。そのための具体的な請求項5に記載の発明は、式(I)で示されるスクアリル酸残基を導入するための試薬が、次式(III):
【0027】
【化10】
【0028】
(式中、R3は水素原子、低級アルキル基、アルケニル基、アリール基またはアラルキル基を表わし、R4はアミノ基の保護基を表わし、nは1または2の整数を表わす)
で示されるスクアリルアミノ酸誘導体からなる試薬である。
【0029】
またさらに本発明は、CID−MS/MSにより規則性のあるCRFを誘起させることからなる、有機化合物の構造解析方法を提供するものでもあり、そのための具体的な請求項6に記載の本発明は、含窒素有機化合物の分子末端に次式(I):
【0030】
【化11】
【0031】
で示されるスクアリル酸残基を導入させ、CID−MS/MSにより、CRFを誘起させることからなる有機化合物の構造解析方法である。
【0032】
すなわち、CID−MS/MS法により規則性のあるチャージリモートフラグメンテーション(CRF)を誘起させるためには、解析対象となる含窒素有機化合物の分子末端に、式(I)で示されるスクアリル酸残基を導入させることを特徴とする。
【0033】
そのための式(I)で示されるスクアリル酸残基の導入方法としては、より具体的には、解析対象となる含窒素有機化合物の分子末端にスクアリル酸残基を直接導入するか、あるいはスクアリル酸残基を有する化合物を有機化学的に結合させることにより行われる。
【0034】
したがって本発明は、別の態様として、かかる有機化合物の構造解析方法において、スクアリル酸残基の導入方法をも提供するものであり、より具体的な請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の有機化合物の構造解析方法において、含窒素有機化合物の分子末端にスクアリル酸残基を導入させるために、請求項4に記載の式(II)で示されるスクアリル酸誘導体を使用する、当該有機化合物の構造解析方法である。
【0035】
さらにまた請求項8に記載の本発明は、請求項6に記載の有機化合物の構造解析方法において、含窒素有機化合物の分子末端にスクアリル酸残基を導入させるために、請求項5に記載の式(III)で示されるスクアリルアミノ酸誘導体を使用する、当該有機化合物の構造解析方法である。
【0036】
【発明の実施の形態】
本発明が目的とするCID−MS/MSにより、CRFを誘起させることからなる含窒素有機化合物の構造解析方法に使用しうる化合物としては、その分子末端にアミノ基を有する化合物があげられ、具体的には、アミノ酸類似構造を有する化合物、ペプチド類、ペプチドエステル類、ポリアミン類、ポリアミンエーテル類または分子末端にアミノ基を有する鎖状もしくは環状有機化合物である。
【0037】
これらの化合物は、天然由来の構造未知の化合物であっても、さらに化学構造式が既に確定しているあるいは推定されている化合物であってもよい。また、有機化合物として分子内に本来的に末端アミノ基を有している化合物でなくても、化学合成的に分子末端にアミノ基を導入し、変換させた化合物であってもよい。要は、CID−MS/MSにより、CRFを誘起させ得る末端アミノ基を有する化合物に、本発明の方法または試薬等を適用することができ、そのCRFを確認することで化学構造式の確定を行うことができるのである。
【0038】
なお、本発明で使用する含窒素有機化合物としては、末端アミノ基以外に、分子内にグアニジン、芳香族および脂肪族アルコール、チオール、インドール、イミダゾール、アミンなどの求核性基を有していてもよい。スクアリル酸残基の導入は、これら官能基と反応することなく、末端アミノ基へのみ導入が行い得るものである。
【0039】
本発明で使用する上記の式(I)で示されるスクアリル酸残基の導入は、基本的には、以下の2方法により行うことができる。すなわち第1の方法としては、含窒素有機化合物に、上記した式(II)で示されるスクアリル酸誘導体を反応させることにより、直接スクアリル酸残基を導入させることにより行われる。具体的には、例えば、側鎖にアミノ基が存在しない含窒素有機化合物の場合には、弱塩基性条件下に、式(II)で示されるスクアリル酸誘導体を直接作用させることにより、目的とするスクアリル酸残基が導入される。
【0040】
なおこの場合において、末端アミノ基以外に側鎖アミノ基を有する化合物、たとえば、ペプチド構成アミノ酸としてリジン、β−アラニン、オルニチン、ジアミノプロピオン酸などが存在する場合には、エドマン分解法あるいは本発明者らが開発したエドマン分解法に準じた新エドマン分解法を組み合わせることによってこれらアミノ基をフェニルチオウレア化(例えばリジンの場合にはチオカルバメート化)等で保護した後、スクアリル酸誘導体を作用させることで、末端アミノ基にスクアリル酸残基を選択的に導入することができる。
【0041】
第2の方法としては、例えば、含窒素有機化合物に、スクアリル酸残基を有する化合物を、純有機化学的に結合させ、目的とするスクアリル酸残基が分子末端部分に導入された化合物へ誘導する方法である。具体的には、式(III)で示されるスクアリルアミノ酸誘導体を使用して、有機化学的に分子末端に式(I)で示されるスクアリル酸残基を有する化合物へ誘導する方法である。
【0042】
この第2の方法は、分子末端に式(III)で示されるスクアリルアミノ酸誘導体と化学的に結合し得る置換基を有する化合物に応用することができる。そのような置換基としては、アミノ基、水酸基、ハロゲン原子、カルボン酸基等を挙げることができる。なお、分子末端にアミノ基を有するペプチド類、ペプチドエステル類、ポリアミン類、ポリアミンエーテル類にあっては、上記の第1の方法による式(II)で示されるスクアリル酸誘導体を用いた直接スクアリル酸残基の導入以外に、この第2の方法によるスクアリル酸残基の導入も可能であり、また効果的な場合もある。
【0043】
したがって、本発明は、CID−MS/MSにより、CRFを効果的に誘起させるために、含窒素有機化合物の末端アミノ基に、上記式(I)で示されるスクアリル酸残基を導入するための、式(II)で示されるスクアリル酸誘導体、あるいは式(III)で示されるスクアリルアミノ酸誘導体からなる、スクアリル酸残基導入試薬でもある。
【0044】
上記の本発明のスクアリル酸残基導入試薬である式(II)のスクアリル酸誘導体を使用するスクアリル酸残基の導入の反応条件は、具体的には、例えば、適当な溶媒を用い、pHが中性〜8程度の条件下に、スクアリル酸残基を導入するべき含窒素有機化合物と、式(II)で示されるスクアリル酸誘導体からなる試薬を反応させることにより、効果的に目的とする末端アミノ基にスクアリル酸残基が導入された化合物を得ることができる。
【0045】
本発明の試薬となる式(II)で示されるスクアリル酸誘導体との反応に使用する溶媒としては、目的とする反応に直接の影響を与えない溶媒であればどのようなものでも使用することができ、例えば水、緩衝液、有機溶媒あるいはそれらの混合溶媒等を使用することができる。有機溶媒としては、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒が好ましく使用される。また緩衝水溶液としては、pHが中性〜8程度を有する適当な緩衝液、例えばリン酸緩衝液を挙げることができる。
【0046】
この場合、反応条件を種々制御することにより、アミノ基のみの選択的なスクアリル化が行われることが判明した。例えば、ブラジキニンにあっては、アミノ基はN−末端のみならず、C−末端にもグアニジン基のアミノ基が存在するが、反応pHを適宜調整することにより、C−末端グアニジン基のアミノ基にはスクアリル酸残基は全く導入されていないものであった。
【0047】
したがって、本発明が提供するCID−MS/MSにより、CRFを効果的に誘起させるために、含窒素有機化合物の末端アミノ基をスクアリル化するための式(II)で示されるスクアリル酸誘導体からなる、スクアリル酸残基導入試薬は、極めて有用性の高い反応試薬であるといえる。
【0048】
この場合の式(II)で示されるスクアリル酸誘導体における置換基「R1」および「R2」における低級アルキル基は、炭素原子数1〜5程度の直鎖状あるいは分子鎖状のアルキル基であり、より具体的には、メチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル基等が挙げられる。そのなかでもメチル基あるいはtert−ブチルであるものが特に好ましい。
【0049】
また、アルケニル基としては、アリル基、プロペニル基等が挙げられ、アリール基としては、フェニル、トルイル、ハロゲノフェニル、ニトロフェニル等の置換または未置換フェニル基があげられ、さらにアラルキル基としてはベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。
【0050】
上記の置換基「R1」と「R2」は、それぞれ同一であっても、また互いに異なっていてもよい。その中でも、置換基「R1」および「R2」の組み合わせとして、メチル基またはtert−ブチル基の組み合わせであるものが、特に好ましいものである。
【0051】
本発明の式(II)で示されるスクアリル酸誘導体のなかで置換基「R1」および「R2」がともにメチル基である化合物は市販されており、これを出発化合物として他の置換基を有するスクアリル酸誘導体を得ることができる。
【0052】
さらに別の方法として、例えば、Synthetic Communication:27(12)、2177−2180に記載の方法に準じて合成することもできる。
【0053】
一方、本発明の別のスクアリル酸残基導入試薬である式(III)で示されるスクアリルアミノ酸誘導体を使用してスクアリル酸残基を導入する場合には、純有機化学的な合成手段を用いて行うことができる。例えば、分子末端にアミノ基を有する含窒素有機化合物に対して、一般的なペプチド合成手法を採用し、式(III)で示されるスクアリルアミノ酸誘導体を反応させた後、保護基等が存在する場合には、当該保護基を除去することにより、目的とするスクアリル酸残基が導入された化合物を得ることができる。
【0054】
この場合の式(III)で示されるスクアリルアミノ酸誘導体における置換基「R3」としての低級アルキル基は、炭素原子数1〜5程度の直鎖状あるいは分子鎖状のアルキル基であり、より具体的には、メチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル基等が挙げられる。そのなかでもメチル基あるいはtert−ブチルであるものが特に好ましい。
【0055】
アルケニル基としては、アリル基、プロペニル基等が挙げられ、アリール基としては、フェニル、トルイル、ハロゲノフェニル、ニトロフェニル等の置換または未置換フェニル基があげられ、さらにアラルキル基としてはベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。
【0056】
また、置換基「R4」のアミノ基の保護基としては、一般的に使用されるアミノ基の保護基を意味し、具体的には、アシル基、ベンジル基、アルコキシカルボニル基、アルキルスルホニル基またはアリールスルホニル基等を挙げることができる。より具体的には、アシル基としては、アセチル基、トリフルオロアセチル基、プロピオニル基等の低級脂肪酸残基、置換または非置換のベンゾイル基等を挙げることができる。アルコキシカルボニル基としてはt−ブトキシカルボニル(Boc)を、アルキルスルホニル基としてはメタンスルホニル基を、またアリールスルホニル基としてはトルエンスルホニル基、p−トルエンスルホニル基等を挙げることができる。
【0057】
なお、これらのスクアリルアミノ酸誘導体は、例えば、Organic Letters:1(10)、1663−1666(1999)に記載の方法に準じて合成することができる。
【0058】
なお、前記した如く、ペプチド分子内に側鎖アミノ基を有する化合物であるリジンが存在する場合には、スクアリル化するチャージサイトが複数存在することとなるので、本発明の試薬を反応させる前に、エドマン分解法を組み合わせることによって、リジンの側鎖アミノ基をフェニルチオカルバミン化して保護するとともに、末端アミノ酸を開裂除去させ、2番目のアミノ酸の遊離アミノ基をスクアリル化する手段を採用し、効果的にCRFを生じさせることができる。
【0059】
すなわち、リジンが存在する場合には、フェニルイソチオシアネートによりリジン側鎖のアミノ基をフェニルチオカルバミン化して保護するとともに、末端アミノ酸のアミノ基もフェニルイソチオシアネートとのカップリング反応によりフェニルチオカルバミン化される。ついで、トリフルオロ酢酸の処理により、フェニルチオカルバミン化した末端アミノ酸は、環化・切断反応することにより、フェニルチオヒダントインとして除去され、その結果、当初のペプチド結合における2番目のアミノ酸がN−末端アミノ酸となるが、リジン側鎖のフェニルチオカルバミン化されたアミノ基はそのまま保護されている。
【0060】
したがってこの段階では、スクアリル化されるチャージサイトは、新たなN−末端アミノ基のみとなっていることより、本発明の試薬をその段階で反応させれば、当該アミノ基のみが選択的にスクアリル化され、効果的なCRFを生じさせることができることとなる。
【0061】
ところで古典的なエドマン分解法にあっては、例えばフェニルイソチオシアネートを用いてカップリング反応を行なわれている。したがって、かかる古典的なエドマン分解法を実施した場合には、ペプチド分子内に存在するリジンの側鎖アミノ基は、通常フェニルチオカルバミン化されている。しかしながら、側鎖アミノ基が多い化合物では、フェニルチオカルバミン化すると極性基がブロックされてイオン化率が悪くなり、この状態で末端アミノ基をスクアリル化してCRFを誘起させても、所望の規則的なフラグメンテーションが生じたものの、その誘発はそれほど効果的でないことが判明した。
【0062】
そこで本発明者らは、より効果的なCRFを誘起させるために、エドマン分解法において使用するフェニルイソチオシアネートに替えて、次式(IV):
【0063】
【化12】
【0064】
(式中、R5は極性の高い置換基を表わす)
で示されるフェニル基のパラ位に極性置換基を導入したフェニルイソチオシアネートを用いたエドマン分解法(新エドマン分解法)を行った。その結果、トリフルオロ酢酸の処理により、末端アミノ酸は、環化・切断反応することにより除去され、当初のペプチド結合における2番目のアミノ酸がN−末端アミノ酸となる一方で、リジン側鎖のアミノ基は、上記の式(IV)によりp−置換フェニルチオカルバミン化されているが、かかるパラ位の置換基の極性によりイオン化効率が高まり、きわめて効果的にCRFが生じることを確認した。
【0065】
そのような「R5」の置換基としては、グアニジル基、グアニジノメチル基、アニジノ基、アミジノメチル基等を挙げることができ、なかでもフェニル基のパラ位にグアニジノメチル基を導入したフェニルイソチオシアネートが好結果を与えた。したがって、本発明はまた別の態様として、リジン等を含有するペプチドにおける新エドマン分解法を提供するものでもある。
【0066】
【実施例】
以下に本発明を、個々の実施例を説明することにより、詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらのみに限定されず、種々の応用もまた本発明の範囲内であることに注意すべきである。
【0067】
実施例1:スクアリル化試薬の調製[式(II)R 1 =メチル、R 2 =tert−ブチルである試薬の合成]
【0068】
【化13】
【0069】
ジメチルスクアリン酸エステル(3.0g、21.1mmol)のテトラヒドロフラン溶液(50ml)を0℃まで冷却し、カリウムtert−ブトキサイド(2.4g、21.4mmol)のテトラヒドロフラン溶液(20ml)を攪拌しながら滴下した。15分後、1N塩酸水溶液を加えて反応液を酸性として、ジエチルエーテルにて抽出した。抽出液を洗浄後、乾燥を行い、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製(溶出溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=5:1)して、白色結晶として目的物を1.5g(収率:39%)得た。
【0070】
同様にして、以下の試薬を合成した。
【化14】
【0071】
実施例2:アンジオテンシン−Iのスクアリル化と、CID−MS/MS解析
【0072】
【化15】
【0073】
50nmolのアンジオテンシン−I(1)の200μl 0.1Mリン酸緩衝液(pH8)に、上記実施例1で得たtert−ブチル、メチルスクアリン酸エステル(2)500nmolのジオキサン50μl溶液を加え、室温下に2日間攪拌を行った。反応液を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて精製し、N−末端がスクアリル化されたアンジオテンシン−I(3)を主生成物として得た。なお副生成物としてtert−ブチル基が残存し、かつ水和したと考えられる化合物が、MALDI・MSスペクトルから確認された。
【0074】
得られた、N−末端がスクアリル化されたアンジオテンシン−I(3)をCID−MS/MS解析に付した。その結果得られたシークエンスイオンピークのチャート図を図1に示した。
図中に示したチャート図からも判明するように、規則的なCRFが生じていることが理解される。
【0075】
実施例3:ブラジキニンのスクアリル化と、CID−MS/MS解析
【0076】
【化16】
【0077】
50nmolのブラジキニン(4)の200μl 0.1Mリン酸緩衝液(pH8)に、上記実施例1で得たtert−ブチル、メチルスクアリン酸エステル(2)500nmolのジオキサン50μl溶液を加え、室温下に2日間攪拌を行った。反応液を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて精製し、N−末端がスクアリル化されたブラジキニン(5)を得た。
【0078】
得られたN−末端がスクアリル化されたブラジキニン(5)をCID−MS/MS解析に付した。その結果得られたシークエンスイオンピークのチャート図を図2に示した。
図中に示したチャート図からも判明するように、規則的なCRFが生じていることが理解される。
【0079】
実施例4:エンケファリン類縁化合物のスクアリル化と、CID−MS/MS解析
【0080】
【化17】
【0081】
オピオイドペプチドの一種であるエンケファリン(Tyr−Gly−Gly−Phe−Leu)の類縁化合物としてGly−Gly−Phe−Leu(6)を選択し、この化合物へのスクアリル化とCID−MS/MS解析を検討した。
【0082】
式(III)で示されるスクアリルアミノ酸誘導体[R3=i−Pr;R4=Cbz(ベンジルオキシカルボニル)]である化合物(7)206mg(0.548mmol)および化合物(6)132mg(0.274mmol)をジクロロメタン5mlに溶解させ、この溶液に攪拌下、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール93mg(0.685mmol)、ベンゾトリアゾール−1−イルオキシ−トリス(ジメチチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート303mg(0.685mmol)およびジイソプロピルエチルアミン107mg(0.822mmol)を氷冷下に加えた。反応液を室温に昇温させ、12時間攪拌した。次いで、反応液を1N塩酸水溶液で酸性とした後、酢酸エチルにて2回抽出した。有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、次いで飽和食塩水にて洗浄した後、無水硫酸マグネシウムにて乾燥した。溶媒を減圧留去して、得られた残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=1:1〜1:0)に付して分離精製し、N−末端にスクアリル基含有のGly−Gly−Phe−Leu(Bzl)を、淡黄色油状物質として113mg(49%)得た。
【0083】
[α]16 D:−2.5°(c=0.93、CHCl3)
HRMS(FAB):m/z(C45H54N5O11):計算値840.3820(M+H)+;実測値:840.3820
【0084】
次いで上記で得られた、N−末端にスクアリル基を含有するGly−Gly−Phe−Leu(Bzl)33mg(0.0393mmol)を30%臭化水素酸/酢酸の混合液3mlに加え、室温で2時間攪拌した。反応液を減圧留去して、得られた残留物をCosmosil(登録商標)を用いたカラムクロマトグラフィー(水/メタノール=2:1〜1:1)に付して分離精製し、目的とするN−末端にスクアリル基を含有した化合物(8)を、淡黄色油状物質として13mg(60%)得た。
【0085】
[α]19 D:+23.5°(c=4.0、H2O)
HRMS(FAB):m/z(C27H36N5O9):計算値574.2512(M+H)+;実測値:574.2514
【0086】
得られたN−末端にスクアリル基を有する化合物(8)をCID−MS/MS解析に付した。その結果得られたフラグメントイオンピークのチャート図を図3に示した。図中の結果からも明らかなように、フラグメントイオンピークのチャート上に規則的なCRFが生じていることが判明する。
【0087】
実施例5:フィラントトキシン類縁化合物のスクアリル化と、CID−MS/MS解析
【0088】
【化18】
【0089】
ハチ毒のフィラントトキシン(PhTX)は、ポリアミン構造を有するグルタミン酸受容体の非競合型遮断薬である。この類縁化合物として生体ポリアミンの一種であるスペルミンを選択し、この化合物へのスクアリル化とCID−MS/MS解析を検討した。
【0090】
(a)スクアリルアミノ酸誘導体(13)の合成
【0091】
【化19】
【0092】
文献公知の化合物(9)629mg(1.09mmol)のメタノール溶液に、10%パラジウム−炭素(100mg)および酸無水物(10)200mgを加え、水素ガス雰囲気下に1時間攪拌した後、触媒を濾別した。濾液を減圧下に濃縮して、得られた混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=0:1〜1:1)に付して分離精製し、化合物(11)を淡黄色油状物質として533mg(93%)得た。
【0093】
次いで、得られた化合物(11)のジクロロメタン溶液に、12N塩酸水溶液の10μlを氷冷下に攪拌しながら加えた。室温に昇温後1.5時間攪拌した。反応終了後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で中和し、酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムにて乾燥し、溶媒を留去した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=0:1〜1:1)に付して分離精製し、化合物(12)を淡黄色油状物質として435mg(92%)得た。
【0094】
上記で得られた化合物(12)のジクロロメタン溶液に、トリフルオロ酢酸を氷冷下、攪拌しながら加えた。室温に昇温後1.5時間攪拌し、反応液を減圧下に濃縮し、得られた濃縮物をジクロロメタンに溶解し、攪拌下トリエチルアミンを加えた。反応溶液を減圧下濃縮して、化合物(13)[式(III):R3=i−Pr;R4=n−BuCO]を得た。本化合物(13)は精製することなくそのまま次の反応に付した。
【0095】
(b)スペルミンのスクアリル化とCID−MS/MS解析
【0096】
【化20】
【0097】
上記で得た化合物(13)をジクロロメタンに溶解し、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール205mg(1.52mmol)、ベンゾトリアゾール−1−イルオキシ−トリス(ジメチチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート676mg(1.52mmol)、ジイソプロピルエチルアミン295mg(2.28mmol)および化合物(14)381mg(0.761mmol)を氷冷下に、攪拌しながら順次加えた。反応液を室温に昇温させ、20時間攪拌した。反応終了後、酢酸エチルにて抽出し、有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、1N塩酸水溶液、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧留去して、得られた残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=1:1〜1:0)に付して分離精製し、淡黄色油状物質を453mg(75%)得た。
【0098】
次いで、上記で得られた淡黄色油状物質をアセトン1mlに溶解し、1N塩酸水溶液1mlを加え室温にて2時間攪拌した。溶媒を留去して、目的とするスクアリル基が導入された化合物(15)を250mg(96%)得た。
【0099】
得られた化合物(15)をCID−MS/MS解析に付した。その結果得られたフラグメントイオンピークのチャート図を図4に示した。
図中に示したチャート図からも判明するように、規則的なCRFが生じていることが理解される。特に本実施例におけるスペルミンの場合には、ポリアミンメチレン鎖の間隔が、−C3−C4−C3−であるか、あるいは、−C4−C3−C3−であるかという、配列の区別が問題となるが、この区別を行い得る一次構造情報が得られていることが判明している。
【0100】
実施例6:マストパランに対するエドマン分解ならびにスクアリル化と、CID−MS/MS解析
【0101】
【化21】
【0102】
(a)エドマン分解
マストパラン(16)20nmolのエタノール:トリエチルアミン:水=7:1:1の混合溶液200μlに、フェニルイソチオシアネート(17)溶液20μlを加え、窒素ガス気流下に50℃にて10分間加熱した。反応終了後、反応内容物を減圧乾燥し、次いで水100μlおよびヘプタン:酢酸エチル=10:1の混合溶液400μlを加え、攪拌した後、遠心分離を行った。上層の有機層を捨て、下層の水層を得た。得られた水層に対し再びヘプタン:酢酸エチル=10:1の混合溶液400μlを加え、攪拌した後遠心分離を行い、上清の有機層を捨て、水層を得た。さらにこの水層に対してヘプタン:酢酸エチル=2:1の混合溶液400μlを加え、攪拌した後遠心分離を行い、上清の有機層を捨て、水層を得た。得られた水層を減圧乾燥後、トリフルオロ酢酸10μlを加え、窒素ガス気流下に50℃にて3分間加熱した後減圧乾燥し、エドマン分解生成物を得た。
【0103】
(b)スクアリル化とCID−MS/MS解析
上記で得られたエドマン分解生成物に、そのまま0.1Mリン酸緩衝液(pH8)40μlを加え、上記実施例1で得たtert−ブチル、メチルスクアリン酸エステル(2)400nmolのジオキサン40μl溶液を加え、室温下に2日間攪拌を行った。加熱後、トリフルオロ酢酸20μlを加えて50℃にて6分間加熱し、減圧乾燥し、マストパランのN−末端のアミノ酸であるイソロイシン(Ile)が開裂除去され、2番目のアスパラギン(Asn)のアミノ基がスクアリル化された生成物(18)を得た。
【0104】
得られた生成物(18)をCID−MS/MS解析に付したところ、規則的なCRFが生じているものの、このものでは構造解析には不十分であることが判明した。
【0105】
実施例7:Fc−55に対する新エドマン分解ならびにスクアリル化と、CID−MS/MS解析
【0106】
【化22】
【0107】
(a)新エドマン分解
マダカスカル産サソリ由来のペプチドであるFc−55(19)10nmolのエタノール:トリエチルアミン:水=7:1:1の混合溶液10μlに、ジボックグアニジルメチルフェニルイソチオシアネート(20)800nmolのジオキサン溶液1μlを加え、窒素ガス気流下に50℃にて5分間加熱した。反応終了後、反応内容物を減圧乾燥し、次いで水20μlおよびヘプタン:酢酸エチル=10:1の混合溶液200μlを加え、攪拌した後、遠心分離を行った。上層の有機層を捨て、下層の水層を得た。得られた水層に対し再びヘプタン:酢酸エチル=10:1の混合溶液200μlを加え攪拌した後遠心分離を行い、上層の有機層を捨て、水層を得た。さらに、ヘプタン:酢酸エチル=2:1の混合溶液200μlを加え攪拌した後遠心分離を行い、上層の有機層を捨て、水層を得た。得られた水層を減圧乾燥後、トリフルオロ酢酸10μlを加え、窒素ガス気流下に50℃にて3分間加熱した後減圧乾燥し、エドマン分解物を得た。
【0108】
(b)スクアリル化とCID−MS/MS解析
上記で得られたエドマン分解物に、リン酸緩衝液(pH=8)8μlを加え、上記実施例1で得たtert−ブチル、メチルスクアリン酸エステル(2)50μlのジオキサン2μl溶液を加え、室温下に4時間攪拌した。乾燥後FC−55のN−末端であるイソロイシン(Ile)が開裂除去され、二番目のロイシン(Leu)のアミノ基がスクアリル化された化合物(21)を得た。
【0109】
得られた化合物(21)をCID−MS/MS解析に付した。得られたシークエンスイオンピークのチャート図の結果から、新エドマン分解法を用いることにより、リジン側鎖のアミノ基がp−グアニジルメチルフェニルチオカルバミン化されているおり、このパラ位のグアニジルメチル基の極性によりイオン化効率が高まり、極めて明瞭である規則的なCRFが生じていることが観測された。
【0110】
なお、その他の生理活性ペプチド等も同様に、本発明の実施例1で得た試薬を反応させることにより、N−末端がスクアリル化され対応化合物が調製され、そのCID−MS/MS解析の結果、規則性のあるCRFが生じていることが確認された。なお、断片化は、sp3炭素間で起こり、sp2性を有するアミド結合や、芳香の切断は、ほとんど観測されなかった。
【0111】
【発明の効果】
高エネルギー CIDにより得られるチャージリモートフラグメント(CRF)を利用するMS/MS解析法は、開裂様式ならびに断片化様式が一定である利点から、長鎖有機分子の精度の高い一次構造情報を与えるものである。CRFを誘起するためには、長鎖分子の末端に、強酸性あるいは強塩基性の極性官能基の存在が必須である。
【0112】
本発明は、強酸性と芳香族性とを併せもつ複合ユニットとして、医薬品、光学材料の原料として利用されているスクアリン酸ジエステル類が、CID−MS・MS法による、含窒素有機化合物の構造解析の試薬として新たに利用できることを確認したものであり、今後複雑な含窒素系有機化合物の構造解析に、多大な威力を発揮するものである。
【0113】
本発明の方法によれば、超微量のサンプルによる構造解析が可能であり、特にピコモルレベルでのサンプルによる構造解析が可能である。この点は、天然界には極微量の生理活性物質が存在するが、これまでその化学構造の解析は、超微量であることより極めて困難なものであったが、本発明の方法を応用することにより簡単にその構造が解析され得る。したがって本発明は、今後の微量生理活性物質の検索とその構造解析に、多大な光明を与えるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例2で行ったスクアリル化したアンジオテンシン−IのCID−MS/MS解析によるCRFチャート図である。
【図2】実施例3で行ったスクアリル化したブラジキニンのCID−MS/MS解析によるCRFチャート図である。
【図3】実施例4で行ったスクアリル化したエンケファリン類縁化合物のCID−MS/MS解析によるCRFチャート図である。
【図4】実施例5で行ったスクアリル化したフィラントトキシン類縁化合物のCID−MS/MS解析によるCRFチャート図である。
Claims (4)
- 含窒素有機化合物が、ペプチド類、ペプチドエステル類、ポリアミン類、ポリアミンエーテル類または分子末端にアミノ基を有する鎖状もしくは環状有機化合物である請求項1に記載の方法。
- 高エネルギー衝突誘導解離法−MS/MS(CID−MS/MS)を用いて含窒素有機化合物の構造解析を行うに際して、高エネルギー衝突誘導解離法−MS/MS(CID−MS/MS)によりチャージリモートフラグメンテーション(CRF)を誘起させるために、当該含窒素有機化合物の末端に、次式(I):
で示されるスクアリル酸誘導体、または次式(III):
で示されるスクアリルアミノ酸誘導体である、請求項1に記載の方法。 - 高エネルギー衝突誘導解離法−MS/MS(CID−MS/MS)を用いて含窒素有機化合物の構造解析を行うに際して、高エネルギー衝突誘導解離法−MS/MS(CID−MS/MS)によりチャージリモートフラグメンテーション(CRF)を誘起させるために、当該含窒素有機化合物の末端に、次式(I):
で示されるスクアリル酸誘導体、または次式(III):
で示されるスクアリルアミノ酸誘導体である試薬。
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