この点に鑑み、特許文献3、4には、インナ部材の部分球面状の外周面と、アウタ部材の部分凹球面状の内周面とが、互いに摺接するリンクブッシュが紹介されている。これらの文献に記載のリンクブッシュによると、こじり方向の荷重が加わると、インナ部材とアウタ部材とが相対的に摺動する。このため、インナ部材の弾性部材の変形を抑制することができる。すなわち、インナ部材延いてはリンクブッシュの耐久性が低下するのを抑制することができる。
しかしながら、特許文献3、4に紹介されているリンクブッシュによると、組付作業が複雑で難しいものであった。すなわち、図10からでもわかるように、アウタ部材502の内径側の空間は、樽形円柱状(軸方向中央が最大径かつ軸方向両端が最小径)を呈している。このため、インナ部材をアウタ部材の内径側に摺動可能に配置するのが難しいものであった。
図11に、特許文献3に紹介されているリンクブッシュの軸方向断面図を示す。なお、図10と対応する部位については、同じ符号で示す。図11に示すように、アウタ部材502は、一対の分割体502a、502bからなる。リンクブッシュ600は、これら一つの分割体502a、502bでインナ部材501を挟み込むことにより、組み付けられる。
図12に、特許文献4に紹介されているリンクブッシュの軸方向断面図を示す。なお、図10と対応する部位については、同じ符号で示す。図12に示すように、インナ本体501aとアウタ部材502との間には、摺動部材501cが介装されている。リンクブッシュ700の組付においては、まずインナ本体501a外周面に接着剤を塗布し、次いでインナ本体501aとアウタ部材502との間の空間部にウレタン系エラストマを注入し、当該ウレタン系エラストマを硬化させることにより、インナ本体501a外周面に摺動部材501cを接着する。ところで、硬化の際、ウレタン系エラストマは収縮する。当該収縮作用により、摺動部材501cとアウタ部材502内周面との間にクリアランスが形成される。その後、ウレタン系エラストマの軸方向両側には、アウタ部材502及びインナ本体501a間に液密的に介在した環状のシール部材510a、510bにより潤滑油511a、511bが封入された油室512a、512bが形成される。このように、特許文献3、4に紹介されているリンクブッシュ600、700の場合、組付作業の工数が多かった。また、組み付け作業が複雑だった。
本発明のリンクブッシュおよびその組付方法は、上記課題に鑑みて完成されたものである。したがって、本発明は、組付作業が簡単なリンクブッシュおよびその組付方法を提供することを目的とする。
(1)上記課題を解決するため、本発明のリンクブッシュは、インナ本体と、該インナ本体の外周面に固定され部分球面状の摺動外周面を持つ摺動部材と、を備えるインナ部材と、該インナ部材の外径側に配置され該摺動外周面に摺接する部分凹球面状の摺動内周面を持つアウタ部材と、を備えてなるリンクブッシュであって、前記アウタ部材の軸方向中央と、前記摺動内周面の球面中心とは、軸方向に互いにずれて配置されており、該アウタ部材の軸方向両端には、広口部と、該広口部よりも口径の小さい狭口部と、が開設されていることを特徴とする。
インナ部材とアウタ部材とは、摺動外周面と摺動内周面とにより、互いに部分球面状に摺接している。このため、本発明のリンクブッシュによると、こじり方向(前出図10の白抜き矢印方向)の荷重が加わる場合であっても、摺動外周面と摺動内周面の当接面ですべりが発生するため、インナ部材の摺動部材の変形を抑制することができる。したがって、インナ部材の摺動部材延いてはリンクブッシュの耐久性が低下するのを抑制することができる。
また、アウタ部材には、広口部と狭口部とが開設されている。このため、まずインナ部材を作製し、次いで当該インナ部材を広口部からアウタ部材の内径側に圧入することにより、比較的簡単にリンクブッシュを組み付けることができる。
また、アウタ部材の摺動内周面は、広口部から狭口部に亘り、徐々に狭まるテーパ状を呈している。摺動内周面は、インナ部材をアウタ部材の内径側に圧入する際、インナ部材の摺動外周面をガイドする。このため、組付作業の際、インナ部材を圧入しやすい。
(2)好ましくは、上記(1)の構成において、前記摺動部材は、前記インナ本体の前記外周面に加硫接着されており、前記摺動外周面は、加硫成形に用いられる成形型の型面により形成される構成とする方がよい。
本構成によると、インナ本体と摺動部材とを比較的堅固に接着することができる。また、例えば前出図12に示すように、収縮作用を利用して摺動部材501cの外周面(本発明における摺動外周面に相当)を形成する場合、摺動外周面と摺動内周面との間のクリアランスの幅は、摺動部材501cの弾性体材料(ウレタン系エラストマ)の収縮量により決定される。このため、弾性体材料の収縮量と、リンクブッシュに要求されるスペックと、が合致しない場合には、所望のクリアランスを確保できない場合がある。
この点、本構成によると、摺動部材は、成形型を用いた加硫成形等により作製される。このため、摺動外周面と摺動内周面との間に、所望幅のクリアランスを確保することができる。
また、摺動部材の摺動外周面は、成形型の型面により形成される。このため、摺動外周面を滑らかに形成することができる。したがって、摺動外周面と摺動内周面との間の摺動抵抗を小さくすることができる。
(3)好ましくは、上記(2)の構成において、前記摺動外周面と前記摺動内周面との間のクリアランスの径方向幅は、0.05mm以上0.2mm以下に設定されている構成とする方がよい。
例えば前出図12に示すように、収縮作用を利用して摺動部材501cの外周面(本発明における摺動外周面に相当)を形成する場合、摺動外周面と摺動内周面との間のクリアランスは、比較的大きくなりがちである。このため、微小なクリアランスが要求されるリンクブッシュには、収縮作用を利用した当該クリアランス付与方法では成立させることが難しいのである。
これに対して、本構成によると、摺動部材は、成形型を用いた加硫成形により作製される。このため、摺動外周面と摺動内周面との間に、0.05mm以上0.2mm以下という微小なクリアランスを確保することができる。
ここで、クリアランスの径方向幅を0.05mm以上に設定したのは、0.05mm未満の場合、摺動抵抗が大きくなり、こじり方向のばね定数が高くなってしまうからである。
また、クリアランスの径方向幅を0.2mm以下に設定したのは、0.2mm超過の場合、インナ部材とアウタ部材との相対的ながたつき(ガタ)が大きくなるからである。
(4)好ましくは、上記(1)ないし上記(3)のいずれかの構成において、前記摺動部材の材料をウレタン系ゴムとする方がよい。例えば鉄道車両の台車など、乗物にリンクブッシュを用いる場合、車両の走行安定性の観点から、軸直角方向のばね定数は高い方が好ましく、これに対して、車両の乗り心地の観点から、こじり方向(前出図10の白抜き矢印方向)および捩り方向(前出図10のインナ部材501軸回り方向)のばね定数は、低い方が好ましい。
ここで、軸直角方向のばね定数を高くするためには、例えば、摺動部材の硬度を高くすればよい。また、摺動部材の軸直角方向の肉厚を小さくすればよい。しかしながら、これらの対策をとる場合、軸直角方向のばね定数のみならず、こじり方向および捩り方向のばね定数も高くなってしまうおそれがある。
この点、本発明のリンクブッシュによると、摺動外周面と摺動内周面とが互いに部分球面状に摺接している。このため、摺動部材の硬度を高くしたりゴム厚を小さくして、軸直角方向のばね定数を高くしつつ、こじり方向および捩り方向のばね定数を低くすることができる。したがって、本発明のリンクブッシュは、特に鉄道車両の台車などの乗物に用いるのに好適である。
ここで、摺動部材の材料としてウレタン系ゴムを用いたのは、許容応力の高い高強度であり、耐摩耗性が良く、高いばね定数に設定しやすく、摺動する部位の材料としては好適だからである。
(5)また、上記課題を解決するため、本発明のリンクブッシュの組付方法は、上記(1)ないし上記(4)のいずれかのリンクブッシュの組付方法において、前記インナ部材を、前記アウタ部材の前記広口部から、該インナ部材の軸線と該アウタ部材の軸線とが互いに交差した状態で、前記摺動部材の摺動外周面の球面中心と前記アウタ部材の摺動内周面の球面中心とが略一致するまで、相対的に圧入するインナ部材圧入工程と、略一致した該球面中心を中心として、該アウタ部材の軸線と該インナ部材の軸線とが略一致するまで、該インナ部材を相対的に回転するインナ部材回転工程と、を有することを特徴とする。
ここで、「相対的に」とは、アウタ部材およびインナ部材のうち、少なくとも一方を動かすことをいう。例えば、相対的に圧入する場合、不動のアウタ部材に対してインナ部材を圧入しても、不動のインナ部材に対してアウタ部材を環装してもよい。また、両部材を動かしてもよい。また、例えば、相対的に回転する場合、不動のアウタ部材に対してインナ部材を回転しても、不動のインナ部材に対してアウタ部材を回転してもよい。また、両部材を回転してもよい。
本発明のリンクブッシュの組付方法(以下、適宜、「本発明の組付方法」と略称する。)は、インナ部材圧入工程とインナ部材回転工程とを有する。インナ部材圧入工程においては、インナ部材の軸線とアウタ部材の軸線とを交差させた状態で、インナ部材をアウタ部材の内径側に相対的に圧入する。当該圧入は、インナ部材の摺動外周面の球面中心とアウタ部材の摺動内周面の球面中心とがほぼ一致するまで、行われる。
インナ部材回転工程においては、ほぼ一致した球面中心を中心として、アウタ部材に対して、インナ部材を相対的に回転する。当該回転は、アウタ部材の軸線とインナ部材の軸線とがほぼ一致するまで、行われる。
本発明の組付方法によると、インナ部材圧入工程において、アウタ部材の広口部から、インナ部材を圧入する。このため、狭口部から圧入する場合と比較して、広口部と狭口部との口径差の分だけインナ部材を圧入しやすい。
また、アウタ部材の摺動内周面は、広口部から狭口部に亘り、徐々に狭まるテーパ状を呈している。インナ部材圧入工程において、当該摺動内周面は、インナ部材の摺動外周面をガイドする。このため、インナ部材を圧入しやすい。
また、インナ部材圧入工程完了後において、インナ部材の摺動外周面とアウタ部材の摺動内周面とは、比較的広い面積で、互いに部分球面状に面接触している。このため、インナ部材回転工程において、インナ部材の回転を滑らかに行うことができる。すなわち、比較的小さい荷重を加えても、円滑にインナ部材を回転させることができる。また、インナ部材の摺動外周面とアウタ部材の摺動内周面とが互いに部分球面状に面接触しているため、インナ部材の回転自由度が高い。したがって、仮に、インナ部材回転工程において、インナ部材を回転させている途中で摺動外周面と摺動内周面との間の摺動抵抗が急に大きくなっても、摺動抵抗が小さい回転方向を探ることにより(例えばインナ部材をジグザグに揺動させながら回転させることにより)、確実にインナ部材の軸線とアウタ部材の軸線とをほぼ一致させることができる。このように、本発明の組付方法によると、比較的簡単にリンクブッシュを組み付けることができる。
(6)好ましくは、上記(5)の構成において、前記インナ部材圧入工程の前に、前記摺動部材を前記インナ本体の前記外周面に加硫接着すると共に、前記摺動外周面を加硫成形に用いられる成形型の型面により形成するインナ部材作製工程を有する構成とする方がよい。
本構成によると、インナ本体と摺動部材とを比較的堅固に接着することができる。また、例えば前出図12に示すように、収縮作用を利用して摺動部材501cの外周面(本発明における摺動外周面に相当)を形成する場合、摺動外周面と摺動内周面との間のクリアランスの幅は、摺動部材501cの弾性体材料(ウレタン系エラストマ)の収縮量により決定される。このため、弾性体材料の収縮量と、リンクブッシュに要求されるスペックと、が合致しない場合には、所望のクリアランスを確保できない場合がある。
この点、本構成によると、摺動部材は、成形型を用いた加硫成形により作製される。このため、摺動外周面と摺動内周面との間に、所望幅のクリアランスを確保することができる。
また、摺動部材の摺動外周面は、成形型の型面により形成される。このため、摺動外周面を滑らかに形成することができる。したがって、インナ部材圧入工程およびインナ部材回転工程において、摺動外周面と摺動内周面との間の摺動抵抗を小さくすることができる。
(7)好ましくは、上記(5)または上記(6)の構成において、前記インナ部材圧入工程において、前記インナ部材の軸線と前記アウタ部材の軸線とは、互いに略直角に交差している構成とする方がよい。本構成によると、インナ部材圧入工程において、摺動外周面と摺動内周面との間の摺接面積が比較的小さくなる。このため、比較的簡単にインナ部材を圧入することができる。
本発明によると、組付作業が簡単なリンクブッシュおよびその組付方法を提供することができる。
以下、本発明のリンクブッシュを、鉄道車両の台車(ボルスタレス台車)に用いるリンクブッシュとして具現化した実施の形態について説明する。なお、本発明の組付方法の実施の形態についても併せて説明する。
まず、本実施形態のリンクブッシュの配置について説明する。図1に、本実施形態のリンクブッシュが用いられている台車の牽引装置の斜視図を示す。図2に、同牽引装置の斜視分解図を示す。図中、方位は、車両後方から前方を見た場合を基準に定義されている(以下の図も同様である。)。
これらの図に示すように、牽引装置1は、いわゆる一本リンク方式の牽引装置であり、台車枠の前後一対の横はり90F、90R間に配置されている。なお、図1中、横はり90Fは、説明の便宜上、透過して示す。
牽引装置1は、ブラケット2と牽引リンク3と中心ピン4と心皿5とを備えている。ブラケット2は、鋼製であってブロック状を呈している。ブラケット2は、横はり90Rの左右方向中央から、下方に突出して配置されている。ブラケット2の前面からは、左右一対のボルト座20R、21Rが、前方に突出して形成されている。ボルト座20R、21Rは、各々、直方体状を呈している。ボルト座20Rにはボルト固定孔200Rが、ボルト座21Rにはボルト固定孔210Rが、それぞれ形成されている。
牽引リンク3は、リンク本体30と、前後一対の軸部材31F、31Rと、前後一対のリンクブッシュ32F、32Rと、を備えている。図3に、牽引リンクの部分分解斜視図を示す。図3に示すように、リンク本体30は、鋼製であって前後方向に延びる細板状を呈している。リンク本体30の前後端には、一対のリンク孔300F、300Rが形成されている。リンク孔300Fにはリンクブッシュ32Fおよび軸部材31Fが、リンク孔300Rにはリンクブッシュ32Rおよび軸部材31Rが、それぞれ配置されている。
ここで、リンクブッシュ32F、32Rの配置、構成、組付方法、作用効果は、同じである。また、軸部材31F、31Rの配置および構成は、同じである。したがって、以下、これらの部材を代表して、前方のリンクブッシュ32F、軸部材31Fについてのみ説明し、後方のリンクブッシュ32R、軸部材31Rについての説明を割愛する。
リンクブッシュ32Fは、リング状(短軸円筒状)を呈している。リンクブッシュ32Fは、リンク孔300Fの内径側に圧入、固定されている。リンクブッシュ32Fの構成については、後で詳しく説明する。軸部材31Fは、鋼製であって、左右方向に延びる棒状を呈している。軸部材31Fは、胴部310Fと、一対のボルト貫通片311F、312Fと、を備えている。胴部310Fは、左右方向に延びる円柱状を呈している。胴部310Fは、リンクブッシュ32Fの内径側に圧入、固定されている。
ボルト貫通片311F、312Fは、胴部310Fの左右両端から、各々、左右方向に突出して形成されている。ボルト貫通片311Fにはボルト貫通孔313Fが、ボルト貫通片312Fにはボルト貫通孔314Fが、それぞれ形成されている。図1、図2に戻って、軸部材31R(前述したように軸部材31Fと同じ構成を有する)のボルト貫通孔313Rと、前記ボルト座20Rのボルト固定孔200Rとは、同軸直線上に並置されている。ボルト91Rは、ボルト貫通孔313Rを貫通し、ボルト固定孔200Rにねじ止めされている。同様に、軸部材31Rのボルト貫通孔314Rと、前記ボルト座21Rのボルト固定孔210Rとは、同軸直線上に並置されている。ボルト92Rは、ボルト貫通孔314Rを貫通し、ボルト固定孔210Rにねじ止めされている。このように、ボルト91R、92Rを介して、ブラケット2と牽引リンク3(詳しくは軸部材31R)とが接続されている。
中心ピン4は、鋼製であって上下方向に延びる直方体状を呈している。中心ピン4の下方部分は、前方に湾曲し、かつ左右二股に分岐している。各々の分岐端には、直方体状のボルト座40F、41Fが形成されている。ボルト座40Fにはボルト固定孔400Fが、ボルト座41Fにはボルト固定孔410Fが、それぞれ形成されている。心皿5は、鋼製であって平板状を呈している。心皿5は、中心ピン4の上端に固定されている。心皿5の上面には、車体(図略)が搭載されている。
ところで、前記軸部材31Fのボルト貫通孔313Fと、ボルト座40Fのボルト固定孔400Fとは、同軸直線上に並置されている。ボルト91Fは、ボルト貫通孔313Fを貫通し、ボルト固定孔400Fにねじ止めされている。同様に、前記軸部材31Fのボルト貫通孔314Fと、ボルト座41Fのボルト固定孔410Fとは、同軸直線上に並置されている。ボルト92Fは、ボルト貫通孔314Fを貫通し、ボルト固定孔410Fにねじ止めされている。このように、ボルト91F、92Fを介して、牽引リンク3(詳しくは軸部材31F)と中心ピン4とが接続されている。
以上説明したように、台車と車体との間には、横はり90R(台車枠)、ブラケット2、牽引リンク3、中心ピン4、心皿5が介装されている。このため、台車と車体との間において、駆動力および制動力は、横はり90R〜ブラケット2〜牽引リンク3〜中心ピン4〜心皿5〜車体の順に、伝達、授受される。
次に、リンクブッシュの構成について説明する。図4に、図3のIII−III方向断面図を示す。図4に示すように、リンクブッシュ32Fは、インナ部材33Fとアウタ部材34Fとを備えている。本実施形態では、リンクブッシュ32Fの軸直角方向(上下方向)のばね定数は、15kN/mm以上に設定されている。
インナ部材33Fは、インナ本体35Fと摺動部材36Fとを備えている。インナ本体35Fは、S45C(機械構造用炭素鋼)製であってリング状を呈している。また、インナ本体35Fは、直管状を呈している。インナ本体35Fの内径側には、前記軸部材31Fの胴部310F(前出図3参照)が圧入、固定されている。
摺動部材36Fは、ウレタン系ゴム製であってリング状を呈している。摺動部材36Fは、インナ部材33Fの外径側に配置されている。摺動部材36Fの内周面は、軸方向(左右方向)に直線状を呈している。摺動部材36Fの内周面は、インナ本体35Fの外周面に、加硫接着されている。一方、摺動部材36Fの外周面は、摺動外周面360Fとなっている。摺動外周面360Fは部分球面状を呈している。すなわち、摺動外周面360Fは、球面中心oを中心とする半径rの球表面s1の一部を構成している。
アウタ部材34Fは、S45C製であってリング状を呈している。アウタ部材34Fは、摺動部材36Fの外径側に配置されている。アウタ部材34Fの軸方向一端(右端)には広口部341Fが、軸方向他端(左端)には狭口部342Fが、それぞれ開設されている。狭口部342Fの口径は、広口部341Fの口径よりも、小さく設定されている。
アウタ部材34Fの外周面は、軸方向に直線状を呈している。一方、アウタ部材34Fの内周面は、摺動内周面340Fとなっている。摺動内周面340Fと摺動外周面360Fとは、互いに摺接している。また、摺動内周面340Fおよび摺動外周面360Fには、各々ラバーグリス(図略)が塗布されている。また、摺動外周面360Fと摺動内周面340Fとの間のクリアランスの径方向幅は、0.05mm以上0.2mm以下に設定されている。摺動内周面340Fは、摺動外周面360Fと型対称の、部分凹球面状を呈している。すなわち、摺動内周面340Fは、球面中心oを中心とする半径rの球裏面s2の一部を構成している。このように、摺動外周面360Fの球面中心と、摺動内周面340Fの球面中心とは、一致している(共に球面中心o)。また、摺動外周面360Fの半径と、摺動内周面340Fの半径とは、一致している(共に半径r)。
インナ部材33Fおよびアウタ部材34Fの軸方向中央cと、摺動外周面360Fおよび摺動内周面340Fの球面中心oとは、軸方向に幅a1だけずれて配置されている。また、アウタ部材34Fの広口部341Fと狭口部342Fとの間には、口径差(半径差)a2が設定されている。
次に、リンクブッシュの動きについて説明する。前述したように、アウタ部材34Fの摺動内周面340Fと、摺動部材36Fの摺動外周面360Fとは、互いに部分球面状に摺接している。このため、インナ部材33Fは、アウタ部材34Fの内径側において、あらゆる方向に回転することができる。
例えば、前出図1に示すように、横はり90R(台車枠)に対して、心皿5(つまり車体)が左右方向に傾く場合、リンクブッシュ32F、32Rには、こじり方向の荷重が加わる。図5に、こじり方向の荷重が加わる場合の本実施形態のリンクブッシュの前端部分の斜視拡大図を示す。なお、図中、点線は、前出図1のリンクブッシュの状態(以下、「基準状態」と称す。)を示す。
図5に示すように、リンクブッシュ32Fに、こじり方向(上〜右〜下〜左と回る正逆回転方向)に荷重が加わると、リンクブッシュ32Fのインナ部材33Fは、アウタ部材34Fの内径側において、図中白抜き矢印で示すように、回転する。この際、摺動部材36Fの摺動外周面360F(図5において表出している部分をハッチングで示す。)が、アウタ部材34Fの摺動内周面340Fに対して、こじり方向に摺動する。
また、例えば、前出図1に示すように、横はり90R(台車枠)に対して、心皿5(つまり車体)が前後方向に傾く場合、リンクブッシュ32F、32Rには、捩り方向の荷重が加わる。図6に、捩り方向の荷重が加わる場合の本実施形態のリンクブッシュの前端部分の斜視拡大図を示す。なお、図中、点線は基準状態を示す。
図6に示すように、リンクブッシュ32Fに、捩り方向(上〜前〜下〜後と回る正逆回転方向)に荷重が加わると、リンクブッシュ32Fのインナ部材33Fは、アウタ部材34Fの内径側において、図中白抜き矢印で示すように、回転する。この際、摺動部材36Fの摺動外周面が、アウタ部材34Fの摺動内周面に対して、捩り方向に摺動する。なお、リンクブッシュ32Fに、こじり方向および捩り方向に同時に荷重が加わる場合、インナ部材33Fは、上記図5、図6における回転動作を同時に行う。
次に、本実施形態のリンクブッシュの組付方法について説明する。本実施形態の組付方法は、インナ部材作製工程とインナ部材圧入工程とインナ部材回転工程とからなる。インナ部材作製工程においては、インナ本体35Fの外周面に、摺動部材36Fを加硫接着する。本工程においては、まず、図示しない金型のキャビティ内に、インナ本体35Fを配置する。ここで、インナ本体35F配置後のキャビティは、摺動部材36Fと同じ形状を呈している。また、金型の型面は、摺動外周面360Fと型対称の形状を呈している。続いて、キャビティ内に、ウレタン系ゴム材料を注入し充填する。そして、摺動部材36Fをインナ本体35Fの外周面に、加硫接着させる。また、金型の型面により、摺動部材36Fに、摺動外周面360Fを形成する。このようにして、本工程においては、インナ部材33Fが作製される。
インナ部材圧入工程においては、インナ部材33Fを、アウタ部材34Fの内径側に、相対的に圧入する。図7(a)に、インナ部材圧入工程初期の様子を上方から見た断面図を示す。図7(b)に、同工程初期の様子をインナ部材正面方向から見た断面図を示す。図7(a)に示すように、インナ部材33Fは、アウタ部材34Fの内径側に、インナ部材33Fの軸線b1とアウタ部材34Fの軸線b2とがほぼ直角になるように、圧入される。圧入は、アウタ部材34Fの広口部341Fから行われる。ここで、アウタ部材34Fの摺動内周面340Fは、広口部341Fから狭口部342Fに亘るテーパ状を呈している。このため、図7(b)に示すように、圧入の際、インナ部材33Fの摺動外周面360Fは、アウタ部材34Fの摺動内周面340Fにガイドされる。
図8(a)に、インナ部材圧入工程終期の様子を上方から見た断面図を示す。図8(b)に、同工程終期の様子をインナ部材正面方向から見た断面図を示す。これらの図に示すように、終期においては、インナ部材33Fの摺動外周面360Fの球面中心o1と、アウタ部材34Fの摺動内周面340Fの球面中心o2とが、一致している。このため、インナ部材33Fの摺動外周面360Fと、アウタ部材34Fの摺動内周面340Fとが、互いに部分球面状に摺接している(図8(a)において摺接部分を点線ハッチングで示す。)。このようにして、本工程においては、インナ部材33Fがアウタ部材34Fの内径側に圧入される。
インナ部材回転工程においては、アウタ部材34Fの内径側において、インナ部材33Fを回転させる。図9(a)に、インナ部材回転工程中期の様子を上方から見た断面図を示す。図9(b)に、同工程中期の様子をインナ部材正面方向から見た断面図を示す。なお、本工程初期の状態は、前出図8(a)、(b)の状態と同じである。
図9(a)、(b)に示すように、本工程においては、インナ部材33Fを、アウタ部材34Fの内径側において、回転させる。なお、インナ部材33Fの回転方向は、インナ部材33Fの軸方向両端のうち小径端がアウタ部材34Fの広口部341Fに向かい、かつインナ部材33Fの軸方向両端のうち大径端がアウタ部材34Fの狭口部342Fに向かう方向である(図9(a)の白抜き矢印方向(紙面反時計回り方向))。回転の際、摺動外周面360Fと摺動内周面340Fとは、互いに部分球面状に摺接している(図9(a)において摺接部分を点線ハッチングで示す。)。回転は、インナ部材33Fの軸線b1と、アウタ部材34Fの軸線b2とが、ほぼ一致するまで(図9(a)における軸線b1と軸線b2との挟角θがほぼ0°になるまで)行われる。このようにして、本工程においては、インナ部材33Fがアウタ部材34Fの内径側において回転される。本工程が完了すると、組付作業が完了し、前出図4に示すリンクブッシュ32Fが完成する。
次に、本実施形態のリンクブッシュおよびその組付方法の作用効果について説明する。本実施形態のリンクブッシュ32F(32Rも同様、以下省略)によると、インナ部材33Fとアウタ部材34Fとが、摺動外周面360Fと摺動内周面340Fとにより、互いに部分球面状に摺接している。このため、こじり方向の荷重が加わる場合であっても、摺動部材36Fの変形を抑制することができる。したがって、摺動部材36F延いてはリンクブッシュ32Fの耐久性が低下するのを抑制することができる。
また、本実施形態のリンクブッシュ32Fによると、摺動外周面360Fと摺動内周面340Fとが互いに部分球面状に摺接しているため、軸直角方向のばね定数を高くしつつ(本実施形態においては15kN/mm以上)、こじり方向および捩り方向のばね定数を低くすることができる。このため、走行安定性と乗り心地の両立をはかることができる。
また、本実施形態のリンクブッシュ32Fによると、摺動外周面360Fと摺動内周面340Fとの間のクリアランスの径方向幅が、0.05mm以上0.2mm以下に設定されている。このため、摺動部材36Fとアウタ部材34Fとの相対的ながたつきが小さい。
また、本実施形態のリンクブッシュ32Fの組付方法によると、インナ部材圧入工程において、アウタ部材34Fの広口部341Fから、インナ部材33Fを圧入する。このため、狭口部342Fから圧入する場合と比較して、口径差a2の分だけ(前出図4参照)インナ部材33Fを圧入しやすい。
特に、本実施形態のリンクブッシュ32Fのように、軸直角方向のばね定数が高い場合、インナ部材33Fの圧入はとりわけ困難になる。この点、本実施形態の組付方法によると、広口部341Fと狭口部342Fとの間に上記口径差a2が設定されている。このため、リンクブッシュ32Fのばね定数が高い場合であっても、比較的簡単にインナ部材33Fを圧入することができる。このように、本実施形態の組付方法は、ばね定数の高いリンクブッシュ32Fを組み付けるのに好適である。
また、広口部341Fと狭口部342Fとの間に口径差a2が設定されているため、インナ部材圧入工程において、作業者がインナ部材33Fの圧入方向を確認しやすい。言い換えると、作業者が、間違えて狭口部342Fからインナ部材33Fを圧入してしまうおそれが小さい。
また、本実施形態の組付方法によると、インナ部材圧入工程において、アウタ部材34Fの摺動内周面340Fが、インナ部材33Fの摺動外周面360Fをガイドする(前出図7(b)参照)。このため、アウタ部材34Fの内径側にインナ部材33Fを圧入しやすい。
また、インナ部材圧入工程完了後において、インナ部材33Fの摺動外周面360Fとアウタ部材34Fの摺動内周面340Fとは、比較的広い面積で、互いに部分球面状に面接触している。このため、後工程であるインナ部材回転工程において、インナ部材33Fの回転を滑らかに行うことができる。すなわち、小さい荷重により、比較的簡単にインナ部材33Fを回転させることができる。
また、摺動外周面360Fと摺動内周面340Fとが互いに部分球面状に面接触しているため、アウタ部材34F内径側におけるインナ部材33Fの回転自由度が高い。したがって、仮に、インナ部材回転工程において、インナ部材33Fを回転させている途中で摺動抵抗が急に大きくなっても、摺動抵抗が小さい回転方向を探ることにより(例えばインナ部材33Fをジグザグに揺動させながら回転させることにより)、確実にインナ部材33Fの軸線b1とアウタ部材34Fの軸線b2とをほぼ一致させることができる。このように、本実施形態の組付方法によると、比較的簡単にリンクブッシュ32Fを組み付けることができる。
また、本実施形態の組付方法によると、摺動部材36Fの摺動外周面360Fは、インナ部材作製工程において、金型の型面により形成される。このため、例えば前出図12に示すように、収縮作用を利用して摺動部材501cの外周面(本実施形態における摺動外周面360Fに相当)を形成する場合と比較して、摺動外周面360Fの面精度を高くすることができる。
また、型面により形成された摺動外周面360Fは、比較的滑らかである。このため、後工程であるインナ部材圧入工程およびインナ部材回転工程において、摺動外周面360Fと摺動内周面340Fとの間の摺動抵抗を小さくすることができる。また、リンクブッシュ32F使用時においても、摺動外周面360Fと摺動内周面340Fとの間の摺動抵抗を小さくすることができるため、一層、こじり方向および捩り方向のばね定数を低くすることができる。また、摺動部材36Fはインナ本体35Fに加硫接着されるため、摺動部材36Fとインナ本体35Fとを比較的堅固に接着することができる。
また、例えば前出図12に示すように、収縮作用を利用して摺動部材501cの外周面(本実施形態における摺動外周面360Fに相当)を形成する場合、摺動外周面360Fと摺動内周面340Fとの間のクリアランスは、比較的大きくなりがちである。このため、微小なクリアランスが要求されるリンクブッシュ32Fには、収縮作用を利用した当該クリアランス付与方法では成立させることが難しいのである。
これに対して、本実施形態の組付方法によると、摺動部材36Fは、成形型を用いた加硫成形により作製される。このため、摺動外周面360Fと摺動内周面340Fとの間に、0.05mm以上0.2mm以下という極めて微小なクリアランスを確保することができる。このように、本実施形態の組付方法は、特に微小なクリアランスを要求されるリンクブッシュを組み付けるのに好適である。
また、本実施形態の組付方法によると、インナ部材圧入工程において、インナ部材33Fの軸線b1とアウタ部材34Fの軸線b2とが、互いにほぼ直角に交差している(前出図7(a)参照)。このため、摺動外周面360Fと摺動内周面340Fとの間の摺接面積が、比較的小さくなる。したがって、比較的小さな荷重で、簡単にインナ部材33Fを圧入することができる。
また、本実施形態の組付方法によると、前出図11のリンクブッシュ600のように、アウタ部材502を、分割体502aと分割体502bとに、分割して作製する必要がない。このため、部品点数が少なくて済む。また、組付工数が少なくて済む。また、アウタ部材34Fの摺動内周面340Fに分割体同士の継ぎ目が出現しない。このため、使用時において、継ぎ目に起因する摺動抵抗のばらつき(摺接部分全面に亘るばらつき)を抑制することができる。また、継ぎ目に起因して摺動抵抗が大きくなるのを抑制することができる。
また、本実施形態の組付方法によると、インナ部材回転工程が完了した時点で、リンクブッシュ32Fが完成している。このため、完成後のリンクブッシュ32Fをリンク本体30のリンク孔300Fに圧入、固定する際(前出図3参照)、特別な設備等は不要であり、既存の設備をそのまま使うことができる。すなわち、本実施形態の組付方法によると、既存の設備(リンクブッシュ32Fをリンク孔300Fに圧入、固定する設備)にアドオンしやすい。
以上、本発明のリンクブッシュおよび組付方法の実施の形態について説明した。しかしながら、実施の形態は上記形態に特に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
例えば、上記実施形態においては、インナ本体35Fおよびアウタ部材34FをS45C製としたが、例えばSTKM13など他の鋼製であってもよい。また、鋼以外の材質であってもよい。また、インナ本体35Fの形状は、リング状でなくてもよい。すなわち、中空形状のみならず中実形状でもよい。
また、摺動部材36Fの実施形態の材質は、ウレタン系ゴムであり、JIS A 95°の硬度を有するものを用いたが、硬度としては、90〜98°のものが好適に用いることができる。また、この材質にすると、高強度で許容応力が大きいため、摺動部材のサイズをコンパクトにすることができる。また、ウレタン系ゴムの他、各種ゴムであってもよい。例えば、NR、SBR、BRなどのジエン系ゴムであってもよい。また、摺動部材36Fの材質は、樹脂であってもよい。例えば、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリアセタールなどの熱可塑性樹脂、あるいはポリオレフィン系、ウレタン系、ポリエステル系の熱可塑性エラストマであってもよい。
また、摺動部材36Fは、膜状であってもよい。すなわち、インナ本体35Fの形状を本実施形態におけるインナ部材33F(インナ本体35Fと摺動部材36Fとが合体した形状)の形状とし(前出図4参照)、当該インナ部材33Fの外周面に、例えばフッ素系樹脂、ダイヤモンドライクカーボンなどの膜からなる摺動部材36Fを形成してもよい。
また、摺動部材36Fの硬度を、インナ本体35Fの硬度よりも、大きく設定してもよい。また、軸直角方向のばね定数、摺動外周面360Fと摺動内周面340Fとの間のクリアランスの径方向幅も特に限定しない。要求されるスペックに応じて、所望の値とすればよい。
また、上記実施形態においては、本発明のリンクブッシュを一本リンク方式の牽引装置1に用いたが、例えばZリンク方式の牽引装置に用いてもよい。また、牽引装置1のみならず、例えば軸箱支持装置(例えばアルストム式、軸はり式など)、左右動ダンパ装置、ヨーダンパ装置などに用いてもよい。また、ボルスタレス台車のみならず、ボルスタ台車に用いてもよい。さらには、鉄道車両のみならず、自動車などに用いてもよい。
1:牽引装置、2:ブラケット、20R:ボルト座、200R:ボルト固定孔、21R:ボルト座、210R:ボルト固定孔、3:牽引リンク、30:リンク本体、300F:リンク孔、300R:リンク孔、31F:軸部材、31R:軸部材、310F:胴部、311F:ボルト貫通片、312F:ボルト貫通片、313F:ボルト貫通孔、313R:ボルト貫通孔、314F:ボルト貫通孔、314R:ボルト貫通孔、32F:リンクブッシュ、32R:リンクブッシュ、33F:インナ部材、34F:アウタ部材、340F:摺動内周面、341F:広口部、342F:狭口部、35F:インナ本体、36F:摺動部材、360F:摺動外周面、4:中心ピン、40F:ボルト座、400F:ボルト固定孔、41F:ボルト座、410F:ボルト固定孔、5:心皿、90F:横はり、90R:横はり、91F:ボルト、91R:ボルト、92F:ボルト、92R:ボルト。
a1:幅、a2:口径差、b1:軸線、b2:軸線、c:軸方向中央、o:球面中心、o1:球面中心、o2:球面中心、r:半径、s1:球表面、s2:球裏面、θ:挟角。