JP4856391B2 - トラッキング電流検出装置 - Google Patents

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本件の発明は,有機電気絶縁物に炭化導電路が形成され,該炭化導電路を通じて電流が流れるトラッキング現象の発生を検知して火災の発生を未然に防止する装置に関する。
従来から,コンセントに差し込まれた電気機械器具のプラグの電極(刃)間の絶縁物(樹脂)に炭化導電路が形成された場合,該炭化導電路に電極間の電圧による電流が流れ,該電流と抵抗によるジュール熱でプラグの樹脂絶縁物が発火し火災に至る,所謂トラッキング火災の発生が知られている。
トラッキング火災は前述のプラグに限ったものではなく,例えば回路遮断器のように樹脂絶縁物上に端子を有する配線器具や電気機械器具等では,その端子間でも発生することが知られている。
このようなトラッキング火災は,炭化導電路が形成されたごく初期の段階から発火に至るまでの各段階で,流れる電流の大きさがその他の電気機械器具が消費する電流に対して小さいことが多く,一般的な配線用遮断器やヒューズなどの過電流保護装置では検知あるいは保護し難い現象のひとつであった。
そのため,従来は,電流中の高周波成分の有無や,電流のピーク値の変化,電流の立ち上がりやピークの位相変化などから現象の発生を検知する技術が開発されてきた。
特開 昭57−193924 特開 平 9−5379 特開 平10−14086 特開 2000−324676 特開 2001−103657 特開 2001−289900 特開 2001−289903 特開 2001−324529 特開 2001−324533 特開 2004− 20496 特開 2004− 22172 特開 2004− 22462 特開 2004−279205 特開 2004−153877
しかしながら,近年の電気機械器具では,変圧器を使用せず商用交流を直接整流してコンデンサで平滑する電源を有するもの,インバータに見られるように周波数制御やSCRの点弧角制御など故意に電流波形を制御したものが多く存在し,それらは電流波形が単純な正弦波ではないので,前述の従来技術ではトラッキング現象による電流と一般の電気機械器具の使用による電流を正確に区別し難くなっている。
そこで本件の発明は,従来の技術とは異なる視点で,トラッキング現象の発生をより正確に検知できる手段を提供しようとするものである。
請求項1の発明は,商用電路に発生するトラッキング電流を検出するトラッキング電流検出装置であって,前記商用電路に設けられ該商用電路に流れる負荷電流を検出する電流検出部と,該電流検出部により検出された電流波形をデジタル値に変換するA/D変換部と,該A/D変換部から出力される所定の周期分のデジタル値を記録する第一のレジスタ部と,該第一のレジスタ部に記憶された前記所定の周期分のデジタル値から所定の演算により波高率を計算する演算部と,該演算部により得られた前記所定の周期分毎の演算結果を保持する第二のレジスタと,前記第二のレジスタ部に保持された演算結果を基に所定の条件と比較することによりトラッキング電流が発生しているかどうかを判定する判定部と,
を備えて構成されて,前記商用電路における負荷電流が流れる極間に流れるトラッキング電流の検出の判定要素に電流の波高率を含むことを特徴としてトラッキング電流検出装置を提供したものである。
請求項の発明は,商用電路に発生するトラッキング電流を検出するトラッキング電流検出装置であって,前記商用電路に設けられ該商用電路に流れる負荷電流を検出する電流検出部と,該電流検出部により検出された電流波形をデジタル値に変換するA/D変換部と,該A/D変換部から出力される所定の周期分のデジタル値を記録する第一のレジスタ部と,該第一のレジスタ部に記憶された前記所定の周期分のデジタル値から所定の演算により波高率と波形率を計算する演算部と,該演算部により得られた前記所定の周期分毎の演算結果を保持する第二のレジスタと,前記第二のレジスタ部に保持された演算結果を基に所定の条件と比較することによりトラッキング電流が発生しているかどうかを判定する判定部と,を備えて構成されて,前記商用電路における負荷電流が流れる極間に流れるトラッキング電流の検出の判定要素に電流の波高率と波形率の両方を含むことを特徴としてトラッキング電流検出装置を提供したものである。
請求項1の発明によれば,検出の判定要素に電流の波高率を含んだので,トラッキング現象の発生をより正確に検知できる装置を提供することができる。
請求項の発明によれば,検出の判定要素に電流の波高率と波形率の両方を含んだので,トラッキング現象の発生をより正確に検知できる装置を提供することができる。
本件の発明者は,各種家電製品とトラッキング現象により生じる電流波形を詳細に観察調査した。図1〜図5は代表的な家電製品の使用による電流波形であり,図1は掃除機の突入電流の波形,図2はエアコンプレッサーの運転時の電流波形,図3は電子レンジの稼働時の電流波形,図4は扇風機の回転時の電流波形,図5はパソコン(スイッチング電源)の使用時の電流波形である。
対して図6〜図9はプラグのトラッキング現象発生時の電流波形で,図6と図7はシンチレーションと呼ばれるトラッキング初期の段階で炭化導電路に電流が流れ部分的に赤熱しているような段階,図8はシンチレーションの段階を経て炎が出始めた頃の段階,図9はトラッキング短絡と呼ばれる段階で炎が大きく出ている際の電流波形である。
図1〜図5に示す家電製品の電流波形と,図6〜図9に示すトラッキングによる電流波形を比較した場合,トラッキング現象による電流は,図9のトラッキング短絡の状態以外では電流値が小さいこと,複雑に波形が変化しているので高周波成分を含んでいるであろうこと,個々の半波波形毎に電流値の変化が大きいこと,電流波形が正弦波状ではなく,ある位相範囲だけ電流が大きくなる図3の電子レンジや図5のパソコン(スイッチング電源)の波形に似ていることが分かる。そしてそれらは,すでに従来技術でトラッキング現象の検知要素として取り入れられているような電流波形上の特徴である。
ここで,本件発明の発明者は,図6〜図9のトラッキング現象による電流波形の特徴として,半周期毎の電流値の変化が不規則で大きいということもさることながら,波形様相そのものの変化が大きいという点に着目した。すなわち波形の半周期毎の幅や高さが不規則に変化している点に着目した。
一般的に交流波形の様相を表す指標として,波高率と波形率が知られている。波高率は,最大値/実効値で求められ,半周期あるいは1周期に対して電流が沢山流れる部分の波形幅が狭く鋭く尖ってピーク値が高い波形ほど大きな値を示す。また波形率は,実効値/平均値で求められ,半周期または1周期に対して電流が沢山流れる部分の波形の幅が広いほど小さな値を示す。
そこで,本件の発明者は,前述の図1〜図9の波形に対して,1周期毎に波高率と波形率を計算し結果を図10〜図18のように各波形に重ねるとともに,図19〜図27のように縦軸が波高率,横軸が波形率である座標上にプロットした。
その結果次のようなことが分かった。そのひとつは,トラッキング現象による電流の波高率は,家電製品の電流の波高率に比べ,値そのものが大きく,不規則に変化しているということである。図10〜図14の機器の電流の波高率が概ね1.4〜2.7の範囲にあり,変化の様相も一定もしくは緩やかな変化でしかないのに比べ,図15〜図18のトラッキング現象による電流の波高率は1.8〜3.8の範囲にあるとともに,様相も不規則で値の変化も大きい。
従って,例えば単純に波高率にしきい値を設けて,ある値以上の波高率を検知した場合はトラッキング現象が起きている可能性があると判定することができる。例えば図1〜図9すなわち図10〜図18の電流波形で波高率が3以上の値を示すのは図15,図17,図18の場合であって,それらはいずれもトラッキング現象時の電流波形である。また適当な判定区間を設けてその区間内における波高率や波形率の値から判定することが可能である。例えば,判定区間内の波高率もしくは波形率の変化回数を判定条件とすることができる。すなわち,0.2秒の判定区間内における任意の波高率においてひとつ前の波高率との変化幅が+側又は−側で0.5以上である回数が計2回以上という判定条件を基に図10から図18の波形を選別すると,図15,図17,図18の場合が該当し,それらはいずれもトラッキング現象時の電流波形である。その場合,判定条件に0.5以上値が変化する前の波高率の変化方向が0.5以上変化した方向と同一でないというような条件を加えることもできる。波形率も同様である。さらに,前述の波高率がしきい値以上であり,且つ波高率または波形率が一定幅以上変化した回数が2回以上である,というように条件を組み合わせて判定することもできる。
次に,図19〜図27において,グラフの様相を比較すると,図19〜図23の一般家電製品のものでは定点あるいは直線状に変化しているのに対し図24〜図27のトラッキング現象のものでは,ふくらみをもった集団としての様相を示していることが分かる。すなわち図19〜図23の一般家電製品では,波高率と波形率の各値は定点もしくは比例的に変化するばらつきの少ない1次関数としての様相を示しているのに対して,図24〜図27のそれはランダムであり,極端な場合波高率が大きくなっても波形率は小さくなるというような変化をも含み,ばらつきを有する1次関数としての様相を示している。
従って,ある区間内で波高率と波形率の変化様相を観測し,トラッキング現象が起きている可能性があるかどうかを判断できる。
電路の一部にトラッキング現象が発生していても,同一の電路内で一般の家電製品のような電気機械器具が同時に稼働していると,トラッキング現象による電流波形が電気機械器具の電流波形と重なり,一般には電気機械器具の電流の方が大きい値であるので前述の波高率と波形率はおおよそ電気機械器具の電流に依存することになるので,トラッキング現象の発生を検知できないが,電気機械器具は一日中常に運転されるものではなく,一方のトラッキング現象は電圧が印加されている限り発生するから,トラッキング現象だけの電流しか流れていない時間帯が必ず存在することになり,その時に前述のような判定による検知が可能である。
また,前述の波高率,波形率による判定は,従来の他の方法,例えば高周波による検知,電流のピーク値の変化による検知,電流の立ち上がりやピーク値の位相の変化による検知などと組み合わせても使用可能である。
次に本件発明を使用した実施例を図を用いて詳細に説明する。図28は,具体的な検出装置の実施例である。図28において1,1’は電路であって本例では単相2線式の例である。2はタイミング検出部で,商用交流の電圧周期をそのゼロクロス毎に検出している。3は電流検出用の変流器,4は変流器3の負担抵抗で,負担抵抗4の両端に1の電路の電流波形が電圧として出力される。
5はA/D変換器で負担抵抗4の両端に表れた電圧を適当なサンプリング時間毎にデジタル値に変換する。6は第一のレジスタで半周期または1周期分のサンプリング時間毎のデジタル値を1セットのデータとして記憶する。7は演算部で第一のレジスタ6内の半周期または1周期分のデータから,半周期または1周期の波高率か波形率のいずれか一方,または波高率と波形率の両方を計算する。
8は第二のレジスタで,半周期または1周期毎の7の演算部の演算結果を,適当な判定期間分保持する。9は判定部で,第二のレジスタ8に保持された演算結果を基にトラッキングが発生しているかどうかを判定し,トラッキングが発生していると判定すれば10のSCRをトリガーして11のリレーコイルを駆動し12の警報接点をONして接点に連動する図示しない警報装置を駆動する。なお,警報接点12は,電路に置かれた主回路接点としてトラッキングを検出した場合には主回路を直接遮断するようにしてもよい。
ここで,9の判定部による判定は,半周期または1周期毎に行うことができる。この場合,第二のレジスター内のデータは,半周期または1周期毎に,判定期間分のデータのうち最古のデータを破棄し,最新のデータを新たに保持して1セットのデータとする。また判定は,判定期間毎に行っても良い。その場合は,判定期間分のデータが揃った時点で9の判定部が判定を行い,判定後は第二のレジスターのデータを一括してリセットし,新たに判定期間分のデータを保存し始めるようにすることができる。
前述のように,単純に波高率にしきい値を設け,波高率の値が該しきい値を超えたかどうかで判定する場合では,図28の第二のレジスタは不要で,演算部7の演算結果から直接に判定部9がしきい値と比較して判定することができる。
判定期間内の波高率または波形率の値を基に判定を行う場合は,前述の特定の変化幅があった回数をカウントする方法のほか,波高率がしきい値を超えた回数をカウントする方法もある。また,前述のように波高率と波形率の両方から,判定期間内で半周期または1周期毎に波高率が大きくなっても波形率は小さくなっているとか,逆に波高率は小さくなっているのに波形率は大きくなっているような変化をしている場合,さらには,判定期間内での波高率と波形率の1次回帰直線に対するバラツキを計算し,該バラツキがしきい値以上である場合などを判定条件とすることが可能である。
また,AD変換器の前に高域周波数遮断フィルタを用いる方法,電流にしきい値を設けて,該しきい値以下の電流においては波高率や波形率の評価を行わないなどの方法を用いることで,電源ノイズを原因とする波形率,波高率のばらつきを抑えることができ,効果的にトラッキング現象の判定ができる。
一般の家電製品のような電気機械器具が稼働しており,その電流にトラッキング現象による電流が隠れている場合は,トラッキング現象の検知が困難である旨の説明を行ったが,その場合でも,一周期前と現在の波形の差分をとって変化するトラッキング現象の波形を捉える方法がある。
図29はその方法による実施例である。図29において,1,1’は電路,2は電源電圧の周期タイミングの検出部,3は変流器,4は変流器3の負担抵抗で,電路1の電流波形が電圧として負担抵抗4の両端に現れる。5はA/D変換器で適当なサンプリング時間毎に負担抵抗4の両端の電圧をデジタル値化して第一のレジスタ6に2周期分を記憶する。なお,次の1周期分のデータを取り込んだ場合は,2周期分のデータのうち古い方の1周期分のデータを破棄して新しい方の1周期分のデータを古い方に移動させ,空いた新しい方のデータ格納部に最新の1周期分のデータを取り込むようにする。
13は波形差検出部で,前述の第一のレジスタ内の新しい方の1周期分のデータと古い方の1周期分のデータの差を演算し,新たな1周期分のデータとして第二のレジスタ8に記憶する。7は演算部,14は第三のレジスタ,15は判定部,10はSCR,11はリレーコイル,12は警報接点で,これらの働きは図28の演算部7,第二のレジスタ8,判定部9,SCR10,リレーコイル11,警報接点12と働きとしては同じなので説明は省略する。
このように,最新の1周期分の電流波形とひとつ前の電流波形の差を取るようにした場合,もし電気機械器具を使用していても,その電流が定常電流であれば,定常電流の1周期毎の差はほとんどゼロとできるからその影響をキャンセルできる。一方,トラッキング現象による電流は,常に波形や大きさが変化して一定ではないから,1周期毎の差を取った場合,変化する波形として捉えることができる。その変化する波形について前述の波高率と波形率のいずれか一方または両方による処理を行えば,電気機械器具を使用していても,トラッキング現象の発生を検知できる装置を得ることができる。
図30〜図33にその様子を波形で説明する。図30は,図3に示す電子レンジ稼働時の電流波形と図8に示すトラッキング発火初期の電流波形を合成した波形で,前述の条件を模擬した電流波形である。図31は図30の電流波形から1周期毎に波高率と波形率を計算し,その値を基の電流波形に重ね合わせたものであるが,トラッキング発火初期の電流値は電子レンジ使用時の電流値に対して大幅に小さいので,図30はほとんど図3に示す波形と区別できない。従ってこの方法では,波高率と波形率の計算結果は図12とほぼ同様となって本件発明による装置でトラッキング現象の発生は検出できない。図34は図31の計算結果による波高率を縦軸に,波形率を横軸にプロットした図である。
図32は,図30の電流波形において各周期毎にその1周期前の電流波形との差を取った場合の電流波形,図33がその波高率と波形率の計算結果を重ねた図,図35は波高率を縦軸に波形率を横軸にプロットした図である。図32,図33,図35の電流波形,波高率,波形率の様相は,ほぼ図8,図17,図26と類似となる。従って,この方法によれば電気機械器具の定常電流のほとんどをキャンセルし,トラッキング電流波形を捉えることができるから,本件発明によりトラッキング現象の発生を検知することができる。
図32に示す波形が,図8に示すトラッキング電流波形に完全に一致しないのは,トラッキング電流も1周期前の波形との差分となること,またキャンセルを想定した定常電流といえども正確には1周期前と波形が微妙に異なっていることなどの理由による。定常電流同士での1周期前との波形差はトラッキング電流波形に対するノイズとなり,極端な場合,定常電流同士の波形差の波高率がトラッキング電流並に大きい値となることが考えられる。そこで,図30の電流において周期毎にその1周期前の電流波形との差をとるのではなく,適当な期間分の平均的な波形との差を取る方法も考えられる。また,前述の方法と同様に,差分の電流にしきい値を設けてノイズを排除し,該しきい値以下の電流においては波高率や波形率の評価を行わないなどの対策が考えられる。
本件発明による装置は,従来の装置と併用することが可能である。従来技術で述べた過去の公開特許公報による技術は,皆それぞれに検知が困難なトラッキング現象の発生をその電流波形の特徴から検知しようとしたものであり,検出レベルや誤検出の問題などで完璧な技術とは言えなないが,全く有用性がないとも言えない。
図36に示す実施例は,本件発明による装置を従来の装置と併用した実施例である。図において1,1’,2,3,4,10,11,12は図28や図29と同様であるので説明を省略する。17は本件発明による図28や図29に示す装置であってタイミング検出部や変流器,負担抵抗,SCR,リレーを除いたものである。また16は従来技術で述べた過去の公開特許公報の技術による装置である。
16,17共にひとつの変流器3と負担抵抗4を共有して電路の電流波形からそれぞれの方法によりトラッキング現象の発生を検出し,最終判定部18で双方の検出信号を受けてトラッキング現象の発生をより正確に検知しSCR10をトリガーしてリレー11を作動させる。
最終判定部18は,16あるいは17の検出装置のいずれか一方が一時的に検知出力を発生した場合,適当な期間待機状態となる。待機期間中に残りの装置から検知出力が発生した場合,最終判定部18はSCR10をトリガーしリレー11を駆動する。
図28の装置の7の演算部と図29の装置における7の演算部において波高率,波形率の計算を半周期毎で行う方法と,1周期毎で行う方法がある。+−で交互に同一の波形を繰り返す交流電流では,半周期毎で計算した場合と1周期毎で計算した場合は値が同一になる。電気機械器具の使用による定常電流はこのような電流に近い。
しかし,トラッキング現象による電流波形は図6〜図9に示すように半周期毎に変化する波形であるので,例えば半周期は電流が流れていても次の半周期は電流が流れないなども起こりうる。また,商用交流を直接半波整流するような電源回路を有する電気機械器具では,+か−のいずれか一方の電流しか流れない。
このような場合は半波毎に電流有りと電流無しの波形が交互に現れることになるが,波高率や波形率の計算において分母,分子が零もしくは零に非常に近い値になり計算上甚だ都合が悪い。この場合は計算結果として前の半周期の値をその半周期の計算結果として代入するか,半周期飛びに計算するなどの方法がある。
1周期毎に計算する場合は,そのような不都合が生じないばかりか,1周期毎の実効値や平均値が小さくなるので結果的に波高率や波形率は大きい値となって通常の電機機械器具の定常電流と区別しやすくなり都合がよい。
以上のように本件の発明では,従来の技術とは異なる視点で,トラッキング現象の発生をより正確に検知できる装置を提供できる。
本件発明は,検出装置の設置箇所より以後の電路におけるトラッキングの発生を検知して警報したり,電路を遮断して保護する装置に利用できる。特に近年は,老朽化した電気設備が多くみられ,そのような設備では極間の絶縁不良からトラッキングなどの火災事故の発生が危惧されている。設備を一新すればその不安は解消するが,多大な費用を要することとなる。そこで本件発明のような検知装置を電路に備えることで,より少ない費用で不安を解消することが可能となる。また,本件発明による装置は,トラッキング現象のみならず,同様の波形様相を示す電路の異極間のアーク放電短絡や,同一極の半断線によるアーク放電を伴う通電などの事故についても検知する装置に利用できる。
掃除機の突入電流の波形例 エアーコンプレッサーの運転時の電流波形例 電子レンジの稼働時の電流波形例 扇風機の回転時の電流波形例 パソコンの使用時の電流波形例 トラッキング現象(シンチレーション時)の電流波形例1 トラッキング現象(シンチレーション時)の電流波形例2 トラッキング現象(発火初期)の電流波形例 トラッキング現象(発火後期)の電流波形例 図1に示す掃除機の突入電流の波形に1周期毎に計算した波高率と波形率を重ねた図 図2に示すエアーコンプレッサーの運転時の電流波形に1周期毎に計算した波高率と波形率を重ねた図 図3に示す電子レンジの稼働時の電流波形に1周期毎に計算した波高率と波形率を重ねた図 図4に示す扇風機の回転時の電流波形に1周期毎に計算した波高率と波形率を重ねた図 図5に示すパソコンの使用時の電流波形に1周期毎に計算した波高率と波形率を重ねた図 図6に示すトラッキング現象(シンチレーション時)の電流波形に1周期毎に計算した波高率と波形率を重ねた図 図7に示すトラッキング現象(シンチレーション時)の電流波形に1周期毎に計算した波高率と波形率を重ねた図 図8に示すトラッキング現象(発火初期)の電流波形に1周期毎に計算した波高率と波形率を重ねた図 図9に示すトラッキング現象(発火後期)の電流波形に1周期毎に計算した波高率と波形率を重ねた図 図10に示す掃除機の突入電流の波形の波高率と波形率を座標にプロットしたグラフの図 図11に示すエアーコンプレッサーの運転時の電流波形の波高率と波形率を座標にプロットしたグラフの図 図12に示す電子レンジの稼働時の電流波形の波高率と波形率を座標にプロットしたグラフの図 図13に示す扇風機の回転時の電流波形の波高率と波形率を座標にプロットしたグラフの図 図14に示すパソコンの使用時の電流波形の波高率と波形率を座標にプロットしたグラフの図 図15に示すトラッキング現象の電流波形の波高率と波形率を座標にプロットしたグラフの図 図16に示すトラッキング現象の電流波形の波高率と波形率を座標にプロットしたグラフの図 図17に示すトラッキング現象の電流波形の波高率と波形率を座標にプロットしたグラフの図 図18に示すトラッキング現象の電流波形の波高率と波形率を座標にプロットしたグラフの図 本件発明の一実施例の図 本件発明の一実施例の図 図12に示す電子レンジの稼働時の電流波形と図8に示すトラッキング現象による電流波形を合成した電流波形の図 図30の電流波形に1周期毎に計算した波高率と波形率を重ねた図 図30の電流波形において1周期毎に直前の1周期の波形との差を取った電流波形の図 図32の電流波形に1周期毎に計算した波高率と波形率を重ねた図 図31の電流波形の波高率と波形率を座標にプロットしたグラフの図 図33の電流波形の波高率と波形率を座標にプロットしたグラフの図 本件発明と従来の発明を併用した装置の実施例の図
符号の説明
1,1’・・・電路
2・・・タイミング検出部
3・・・変流器
4・・・負担抵抗
5・・・A/D変換器
6・・・第一のレジスタ
7・・・演算部
8・・・第二のレジスタ
9・・・判定部
10・・・SCR
11・・・リレーコイル
12・・・警報接点
13・・・波形差検出部
14・・・第三のレジスタ
15・・・判定部
16・・・従来発明の検出装置
17・・・本件発明の検出装置
18・・・最終判定部

Claims (2)

  1. 商用電路に発生するトラッキング電流を検出するトラッキング電流検出装置であって,
    前記商用電路に設けられ該商用電路に流れる負荷電流を検出する電流検出部と,
    該電流検出部により検出された電流波形をデジタル値に変換するA/D変換部と,
    該A/D変換部から出力される所定の周期分のデジタル値を記録する第一のレジスタ部と,
    該第一のレジスタ部に記憶された前記所定の周期分のデジタル値から所定の演算により波高率を計算する演算部と,
    該演算部により得られた前記所定の周期分毎の演算結果を保持する第二のレジスタと,
    前記第二のレジスタ部に保持された演算結果を基に所定の条件と比較することによりトラッキング電流が発生しているかどうかを判定する判定部と,
    を備えて構成されて,
    前記商用電路における負荷電流が流れる極間に流れるトラッキング電流の検出の判定要素に電流の波高率を含むことを特徴とするトラッキング電流検出装置。
  2. 商用電路に発生するトラッキング電流を検出するトラッキング電流検出装置であって,
    前記商用電路に設けられ該商用電路に流れる負荷電流を検出する電流検出部と,
    該電流検出部により検出された電流波形をデジタル値に変換するA/D変換部と,
    該A/D変換部から出力される所定の周期分のデジタル値を記録する第一のレジスタ部と,
    該第一のレジスタ部に記憶された前記所定の周期分のデジタル値から所定の演算により波高率と波形率を計算する演算部と,
    該演算部により得られた前記所定の周期分毎の演算結果を保持する第二のレジスタと,
    前記第二のレジスタ部に保持された演算結果を基に所定の条件と比較することによりトラッキング電流が発生しているかどうかを判定する判定部と,
    を備えて構成されて,
    前記商用電路における負荷電流が流れる極間に流れるトラッキング電流の検出の判定要素に電流の波高率と波形率の両方を含むことを特徴とするトラッキング電流検出装置。

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