従来から、例えば自動車等の各種車両において、2輪駆動状態と4輪駆動状態とに切換えることができる各種の2輪・4輪駆動力切換機構が提案されている(例えば特許文献1参照。)。この特許文献1に記載された車両の駆動力切換機構は、操舵輪側である前輪側車軸101,102を連結する終減速装置内に形成されている。この駆動力切換機構は、図7に示すように、被駆動側の第1軸103と、第1軸103と同軸上に設けられる駆動側の第2軸104と、第1軸103と第2軸104とを連結・離脱可能なクラッチ機構とを備えている。
第1軸103は、図7に示すように、ハウジング105に対して回転自在に取付けられている。ハウジング105内には、ディファレンシャル106が設けられている。ディファレンシャル106は、車軸に直交して回転可能に取付けられるディファレンシャルケース107内に設けられている。ディファレンシャルケース107には、ピニオンギア108と噛み合うリングギア109が取付けられている。
一方の第2軸104は、図7に示すように、第1軸103の外端部に隣接してハウジング105に対して回転自在に取付けられている。第2軸104の端部には、図示せぬ変速機からの出力軸に連結されるとともに、第2軸104に駆動力を伝達するヨーク110が固定されている。
クラッチ機構には、図7に示すように、第1軸103と第2軸104の間に両軸間を連結・離脱可能な切換部材111が設けられている。切換部材111は、第1軸103の外周及び第2軸104の外周にわたりスプライン結合することで軸方向に摺動可能とされている。
切換部材111を軸方向に摺動させるクラッチ機構は、図7及び図8に示すように、出力ギア112及びラック113を有している。ラック113には、フォーク114が軸方向に移動可能に固設されている。フォーク114の端部には、切換部材111が固設されている。ラック113は、図8に示すように、出力ギア112が回転することによって、ハウジング105に取付けられたシャフト115に対して摺動するようになっている。フォーク114には、スイッチ押付部114aが一体に設けられている。この従来の駆動力切換機構は、フォーク114の移動によりスイッチ押付部114aがスイッチ116を押し付けることで、4輪駆動状態であることを電気的に検知している。
出力ギア112は、ギアが噛み合うタイミングや離れるタイミングまで待つ待ち機構である図示を省略したスパイラルスプリングを介して、同じく図示せぬモータに取付けられている。出力ギア112は、図示せぬモータの駆動に応じて回転される。モータの駆動は、図示せぬ制御装置により制御される。モータが駆動すると、スパイラルスプリングを介して出力ギア112に駆動力が伝達される。出力ギア112が回転駆動すると、ラック113が軸方向に移動し、ラック113に固設されたフォーク114が軸方向に移動する。フォーク114の移動により、フォーク114の端部に固設された切換部材111は、第1軸103及び第2軸104上を摺動するようになっている。
この従来の駆動力切換機構は、終減速装置内にクラッチ機構を設けているため、ディファレンシャル106を含む1つのユニット(終減速装置)を交換するだけで、2輪駆動と4輪駆動の切換機構を構成する車両とすることができる。また、クラッチ機構をディファレンシャル106の入力側に設けたので、ディファレンシャル106の各歯車により減速される前にクラッチ機構が第1軸103と第2軸104とを係合・離脱することになる。ディファレンシャル106の出力側に設けられるクラッチ機構と比べると、強度を必要としない。従って、同一材料を用いた場合には、クラッチ機構を小さくすることができるとしている。
一方、この種の駆動力切換機構の他の一例としては、例えば被駆動側の第1軸103及び駆動側の第2軸104における係合状態と係合解除状態とを電気的に検出する2つのオン・オフスイッチを備えた2輪・4輪駆動力切換機構がある。図9は、従来の2輪・4輪駆動力切換機構の他の構成例を概略的に示している。なお、この従来例において、図7及び図8に示す従来例と実質的に同じ部材には同一の部材名と符号を付している。
第1軸と第2軸とを連結・離脱可能なクラッチ機構は、図9に示すように、2輪駆動側に切換える時にコイルばね118が撓んで、フォーク114の端部に固設された図示せぬ切換部材を被駆動側の第1軸及び駆動側の第2軸における係合を解除する方向に付勢する。クラッチ機構を4輪駆動側に切換える時は、コイルばね117が撓んで、フォーク114を被駆動側の第1軸及び駆動側の第2軸を係合する方向に付勢する。これにより、2輪駆動と4輪駆動の切換機構の待ち機構が構成されている。
2輪・4輪駆動状態を電気的に検知する2つのスイッチのうち第1スイッチ116aは、ラック113側のハウジング105に固定されている。第1スイッチ116aの接触子は、フォーク114が2輪駆動状態にあるとき、ラック113に傾斜して形成されたスイッチ押付部113aによって押し込まれることでオン状態となり、オン信号を図示せぬ制御部へ送るようになっている。一方の第2スイッチ116bは、シャフト115側のハウジング105に固定されている。第2スイッチ116bの接触子は、フォーク114が4輪駆動位置(図9に破線で示す位置)に移動すると、ラック113に突設されたスイッチ押付部113bによって押し込まれてオン状態となり、オン信号を図示せぬ制御部へ送るようになっている。
特開平10−297313号公報(図2、図3、その説明部分)
ところで、上記特許文献1に記載された駆動力切換装置は、図8に示すように、4輪駆動状態であることを電気的に検知するスイッチ116をハウジング105内に突設した構成とされており、フォーク114のスイッチ押付部114aがスイッチ116の接触子を押し付けることで、4輪駆動状態と2輪駆動状態との切換えを電気的に行っている。しかしながら、スイッチ116を設置する部位に加えて、出力ギア112、ラック113、フォーク114等の各構成部材間の相互位置の設定や位置合わせを正確に行う必要がある。このため、製品に高い寸法精度が必要であり、製品ごとにバラツキが発生しやすく、不良品の発生も少なくない。その結果、スイッチ116、出力ギア112、ラック113、フォーク114等の各構成部材間の位置関係や間隔などを高度に組み付け調整し、それらの調整を厳格に検査しなければならない。それに伴い、これらの組立作業に極めて手間がかかり、相当な時間と労力が費やされ、組立工数が増大する。それに伴い生産効率の悪化と人件費、設備費や製造コスト等の増加を招き易い。
また、スイッチ116等の故障、ハーネスの断線やショート等による異常、回路の短絡故障という様々な問題を有している。装着すべき部品点数が多くなり、内部構造が複雑化するだけでなく、小型軽量化を図ることもできない。ハウジング105に対するスイッチ116の組立性や寸法精度の関係から、潤滑油がハウジング105とスイッチ116との間の隙間を介して外部へ流出し易いという様々な問題を有している。
また、ハウジング105内に密集して配されたクラッチ機構等の各種の構成部品の設置空間や移動空間に加えて、スイッチ116を設置する設置空間が必要となる。スイッチ116の配置位置や大きさなどにより設計上の制約を受けて出力ギア112、ラック113、フォーク114等の各種の構成部品の設置位置、大きさや形状によって設置スペースに制約を生じるという諸々の問題を有している。図9に示した従来の2輪・4輪駆動力切換機構にあっても、上記様々な問題点を有している点では従前どおり変わるところはない。
本発明は、上記従来の課題を解消すべくなされたものであり、構造の簡略化、組立の容易化、装置全体の小型化、コンパクト化、及びコスト低減を実現することができる駆動力切換装置及び終減速装置を提供することを目的としている。
本発明は、被駆動側の第1軸と、前記第1軸と同軸上に配された駆動側の第2軸と、前記第1軸と前記第2軸とを係合する係合位置及び前記第1軸と前記第2軸との係合を解除する係合解除位置に切換える切換え部材と、前記第1軸と前記第2軸の軸方向と直交する方向に出力軸を有する正逆回転可能なモータと、前記モータの正逆回転に連動して前記切換え部材を前記第1軸と前記第2軸の軸方向に往復動させることにより、前記第1軸と前記第2軸とを係合・係合解除するクラッチ機構とを備えてなり、前記クラッチ機構が、前記モータの前記出力軸に設けられたピニオンと、前記切換え部材に連結されたシフト部材と、前記ピニオンと噛み合うとともに、前記シフト部材を前記第1軸と前記第2軸の軸方向に往復動させるラック部材と、前記ラック部材が前記モータの正逆回転により前記係合位置側又は前記係合解除位置側に移動するとき前記シフト部材に対してシフト力を伝達する一対のコイルばねと、を有してなる駆動力切換装置であって、前記ラック部材が、前記係合位置及び前記係合解除位置間にラック歯を有し、最終の前記ラック歯と前記ピニオンの歯とが間歇的に当接し合うことで、前記コイルばねが前記シフト部材に対してシフト力を蓄積する構成を有してなることを特徴とする駆動力切換装置にある。
本発明は、被駆動側の第1軸と駆動側の第2軸とを係合する係合位置及び第1軸と第2軸との係合を解除する係合解除位置の2つの位置に対応して、係合位置側又は係合解除位置側に移動するラック部材における最終のラック歯とピニオンの歯との噛合・噛合解除を行うことができるクラッチ機構の構成に主要な特徴部を有している。
本発明の好適な一例としては、例えばラック部材の最終のラック歯がピニオンの歯を超えるまで移動し、最終のラック歯がピニオンの歯を超えた後、ピニオンを回転駆動するモータを空回り(空転)させるとともに、ラック部材とピニオンとの係合を解除することによりラック部材を確実に停止させることができるようになる。
上記構成を備えることにより、例えば被駆動側の第1軸と駆動側の第2軸とを係合する係合状態及び第1軸と第2軸との係合を解除する係合解除状態を電気的に検出し、その検出信号に基づきモータの回転を停止させる構成を排除することができるようになり、限られた設置空間を有効に使用することが可能となる。しかも、設置空間の省スペース化を達成することができるとともに、設置空間がコンパクトにできるようになり、装置全体の簡略化、小型化及びコンパクト化などを達成することができ、経済効果も極めて大きくなる。
本発明では、装置の大幅な設計変更を伴うことなく、被駆動側の第1軸及び駆動側の第2軸における係合状態と係合解除状態とを電気的に検出するスイッチ、スイッチ専用の配線や回路基板などの電気構成部品を排除することができる。このため、部品点数が少なくなり、効率的に容易に且つ正確に組立作業を行うことが可能となる。それに加えて、組立不良品による修正作業を回避することができるとともに、品質の優れた安価な製品を得ることができる。
本発明にあっては、例えば駆動力切換装置にモータの正逆回転駆動を制御するモータ駆動制御手段を備えることができる。このモータ駆動制御手段では、所定の時間だけモータの回転を継続させた後、モータを停止させて、ラック部材とピニオンとの噛合状態が解除された位置において、所定のシフトストロークを得ることができる。このモータ駆動制御手段としては、特に限定されるものではないが、例えばラック部材とピニオンとの噛合状態が解除されたとき、所定の時間だけモータの回転駆動を継続させるとともに停止させるタイマ手段を備えることができる。
本発明においては、被駆動側の第1軸及び駆動側の第2軸における係合状態と係合解除状態とを検出するスイッチ類などの電気構成部品を必要としないため、ハウジング内に取り付けられるクラッチ機構等の各構成部品間に格別な位置関係や間隔などの製作精度を要求されることもない。その結果、クラッチ機構等の各構成部品を高度に組付け調整することを要求されず、安定して駆動力切換装置を作動させることができるようになる。
一般に、2輪駆動状態から4輪駆動状態に切換えるのにあたり、ラック部材が、モータの回転により被駆動側の第1軸及び駆動側の第2軸における係合解除位置側から係合位置側へ移動するとき、第1軸及び第2軸の位相がずれることで、2輪駆動状態及び4輪駆動状態を切換える切換え部材により第1軸及び第2軸に係合することができない場合がある。
また、4輪駆動状態から2輪駆動状態に切換えるのにあたり、ラック部材が、モータの回転により被駆動側の第1軸及び駆動側の第2軸における係合位置側から係合解除位置側へ移動するとき、第1軸及び第2軸に対して切換え部材の係合解除に要する力が過大となり、切換え部材と第1軸及び第2軸との係合状態を解除することができない場合がある。
本発明の好適な一例としては、例えばラック部材が、モータの正逆回転により被駆動側の第1軸及び駆動側の第2軸における係合位置側又は係合解除位置側に移動するとき、2輪駆動状態及び4輪駆動状態を切換える切換え部材に連結されたシフト部材に対して、シフト力を伝達する一対のコイルばねを備えることができる。
本発明にあっては、ラック部材が、モータの回転により係合解除位置から係合位置へ移動するとき、切換え部材と被駆動側の第1軸及び駆動側の第2軸との位相が合致するまでは、一方のコイルばねにシフト操作力が蓄えられる。それらの位相が合致すると、蓄えられたシフト操作力によって切換え部材と被駆動側の第1軸との係合が行われる。
上記操作とは逆の操作により、ラック部材が、モータの回転により係合位置から係合解除位置へ移動するとき、切換え部材と被駆動側の第1軸及び駆動側の第2軸との位相が合致するまでは、他方のコイルばねにシフト操作力が蓄えられる。それらの位相が合致すると、蓄えられたシフト操作力によって係合解除が行われる。このように、一対のコイルばねによる待ち機構をモータの正逆回転方向の双方に機能させることができるようになる。
また、この待ち機構の作動中においては、上述したように、ラック部材における最終のラック歯がピニオンの歯を超えた後、ラック部材とピニオンとの係合を解除するとともに、モータを空転させることができるため、モータに対して過大な負荷が作用しない。その結果、モータの破損や焼損等を防止することができるとともに、ラック部材等の各構成部品に対する強度を厳格に設定する必要がない。
本発明は、特に限定されるものではないが、例えば農業機械、建設土木機械、運搬機械等の作業用車両、バギー車及び自動車などの各種の車両における終減速装置内に上記駆動力切換装置を効果的に使用することができる。
本発明は、被駆動側の第1軸と駆動側の第2軸とを係合する係合位置及び第1軸と第2軸との係合を解除する係合解除位置において、モータを空転させることができるクラッチ機構を備えることにより、構造を簡略化してスリム化を達成することができるようになり、組立作業を効率よく確実に行うことができる簡単な構造を備えた高品質の駆動力切換装置及び終減速装置が得られる。
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて具体的に説明する。
図1は、本発明の代表的な実施形態である駆動力切換装置を備えた車両の終減速装置の内部構造を概略的に示す説明図であり、図2は、本発明の実施形態である駆動力切換装置の一構成例を概略的に示す説明図である。なお、図1は、図面を見やすくするため、駆動力切換装置20のハウジング11から少し外側に離間した部位にモータ22を設けたように示されているが、本発明はこれに限定されるものではない。
図1において、符号10は、一方の左右車輪のディファレンシャルを収容する車両の終減速装置の全体構成を示している。この終減速装置10は、例えば図示せぬエンジンの出力側に連結される変速機の出力側に連結される。終減速装置10のハウジング11内には、差動制限装置(ディファレンシャル)12が設けられている。この差動制限装置12は、車軸に回転可能に取付けられるディファレンシャルケース13内に設けられている。差動制限装置12には、図示を省略した左右前輪が取り付けられる同じく図示せぬ前輪側車軸が連結される。
図1に示す終減速機構10内には、本発明の特徴部をなす駆動力切換装置20が設けられている。この駆動力切換装置20は、前輪側の差動制限装置12の入力軸である第1軸14(被駆動側の第1軸14)と、第1軸14と同軸上に配される第2軸15(駆動側の第2軸15)とを備えている。
差動制限装置12の第1軸14は、図1に示すように、ハウジング11に対して回転自在に取付けられており、差動制限装置12側にリングギア16と噛み合うピニオンギア17を有している。一方の第2軸15は、第1軸14の外端部に隣接してハウジング11に回転自在に支承されている。第2軸15の端部には、図示せぬ変速機からの出力軸に連結されるヨーク18が固設されている。第2軸15は、ヨーク18を介して駆動力を伝達されるようになっている。
上記のように構成された終減速装置10の構成部分は、駆動力切換装置20の構造を除くと、従来のものと基本的な構成において変わるところはない。従って、図示例に限定されるものではない。
本発明の駆動力切換装置20の基本構成としては、図1に示すように、被駆動側の第1軸14と駆動側の第2軸15とを係合する係合位置A、及び第1軸14及び第2軸15との係合状態を解除する係合解除位置Bの2つの位置に切換えることができる切換え部材である筒状のスリーブ21と、第1軸14及び第2軸15の軸方向と直交する方向に出力軸を有する正逆回転可能なモータ22と、モータ22の正逆回転駆動に連動して、スリーブ21を第1軸14及び第2軸15の軸方向に往復動させることで、第1軸14及び第2軸15の両軸間を係合・係合解除することができるクラッチ機構とを備えている。このクラッチ機構は、本発明の最も主要な特徴部を有している。
被駆動側の第1軸14及び駆動側の第2軸15における係合位置A及び係合解除位置Bの双方に移動するスリーブ21の内周面には、図1に示すように、内スプラインが形成されている。内スプラインは、第1軸14の外周に形成される外スプライン及び第2軸15の外周に形成される外スプラインに対応して形成されている。このスリーブ21は、これらの外スプラインに沿って軸方向に摺動自在に配されており、被駆動側の第1軸14と係脱可能とされている。ハウジング11内には、シフトロッド26が被駆動側の第1軸14と駆動側の第2軸15の軸方向に向けて固設されている。
本発明におけるクラッチ機構は、図1及び図2に示すように、モータ22の出力軸に設けられたピニオン23及びピニオン23と噛み合うラック部材24からなるラックピニオン機構と、先端部がスリーブ21に連結されるとともに、基端部がシフトロッド26に対して摺動するシフト部材であるシフトフォーク25とを備えている。ラック部材24及びシフトフォーク25間のシフトロッド26には、それぞれ一対のコイルばね27,27が介装されている。ラック部材24は、図2に示すように、被駆動側の第1軸14と駆動側の第2軸15の軸方向に一対の折曲部を有する平面略コ字状をなしており、シフトフォーク25の基端部を跨いでシフトロッド26に対して摺動自在に支承されている。
図示例によれば、ラック部材24のピニオン23と面する部位には、2つのラック歯24a,24aが形成されている。ラック部材24は、図1及び図2に示すように、被駆動側の第1軸14と駆動側の第2軸15とを係合する係合位置A及び第1軸14と第2軸15との係合を解除する係合解除位置B間を超えて移動する必要がないことから、係合位置A及び係合解除位置B間だけに所定数のラック歯24aを有している。係合位置A及び係合解除位置B間を超える領域においては、ラック部材24の移動限を規制するためにラック歯24aが形成されていない。
この実施形態によると、ピニオン23は、ラック部材24の最終のラック歯24aが通過する係合位置A又は係合解除位置Bの位置まで所定角度回転させることができる。ラック部材24の最終のラック歯24aに対してピニオン23の歯を通過させることで、モータ22を空転させることができるとともに、所定の時間を経過した後、モータ22の回転駆動を停止させることができる。ラック部材24の最終のラック歯24aがピニオン23の歯を超えるまで移動し、最終のラック歯24aがピニオン23の歯を超えた後、ラック部材24を確実に停止させることができる。これにより、例えば被駆動側の第1軸14及び駆動側の第2軸15における係合状態と係合解除状態とを電気的に検出するスイッチ類などの電気構成部品を排除することができる。
ラック部材24のラック歯24aは、図示例に限定されるものではない。ラック歯24aとしては、例えば係合位置A又は係合解除位置Bに移動する側の最終のラック歯24aであってピニオン23の歯と噛合する側の歯面に、ピニオン23との噛合状態を解除する逃げ面を有する歯先形態に構成することができる。これにより、係合位置A及び係合解除位置Bの2つの位置においてピニオン23の歯をラック歯24aに対して円滑に通過させることができるようになり、モータ22を円滑に数回転空回りをさせることが可能となる。
本発明におけるクラッチ機構として上記ラックピニオン機構を備えることにより、被駆動側の第1軸14及び駆動側の第2軸15における係合状態と係合解除状態とを電気的に検出するスイッチ、スイッチ専用の配線や回路基板などの電気構成部品を排除することができるようになり、限られた設置空間を有効に使用することが可能となる。しかも、設置空間の省スペース化を達成することができるので、設置空間をコンパクトにすることができるようになり、駆動力切換装置20の大幅な設計変更を伴わずに装置全体の簡略化、小型化及びコンパクト化などを達成することができる。
また、被駆動側の第1軸14及び駆動側の第2軸15における係合状態と係合解除状態とを検出するスイッチ、スイッチ専用の配線や回路基板などの電気構成部品を排除することができることと相まって、部品点数が少なくなり、簡単に、効率的に且つ正確に組立作業を行うことが可能となる。それに加えて、組立不良品による修正作業を防止することができるとともに、品質の優れた安価な製品が得られる。
本発明のクラッチ機構を作動するモータ22には、図1に示すように、モータ22の正逆回転駆動を制御するモータ駆動制御手段28が電気的に接続されている。モータ駆動制御手段28は、ピニオン23とラック部材24との噛合状態が解除されたとき、所定の時間だけモータ22の回転を継続させるとともに停止させるタイマ手段を有している。このモータ駆動制御手段28としては、例えばCPU、ROM、RAM等を有するマイクロコンピュータにより構成することができる。本発明にあっては特に限定されるものではないが、例えばモータ駆動制御手段28には、ピニオン23とラック部材24との噛合状態が解除されたときの信号が読み込まれ、その読み込んだ信号に基づいてモータ22の回転を継続・停止する時間を制御することができる。
上記モータ駆動制御手段28を備えることにより、所定の時間だけモータ22の回転を継続させた後、モータ22を停止させることができるようになり、ピニオン23とラック部材24との噛合状態が解除された位置において、シフトフォーク25に対して所定のシフトストロークが得られる。スリーブ21、モータ22、ピニオン23、シフトフォーク25、ラック部材24、シフトロッド26等の各構成部品間に格別な位置関係や間隔などの製作精度を要求されることはなくなる。高度に組み付け調整することを要求されることもなく、クラッチ機構を安定して作動させることができるようになる。
ところで、2輪駆動(2WD)から4輪駆動(4WD)に切換えるのにあたっては、ラック部材24がピニオン23の回転駆動により、被駆動側の第1軸14と駆動側の第2軸15との係合を解除する係合解除位置Bから第1軸14と第2軸15とを係合する係合位置Aへ移動するとき、第1軸14と第2軸15との位相がずれることで、例えばスリーブ21と第1軸14とを係合することができない場合がある。
また、4輪駆動状態から2輪駆動状態に切換えるのにあたり、ラック部材24がピニオン23の回転駆動により、係合位置A側から係合解除位置B側へ移動するとき、例えば第1軸14及び第2軸15とスリーブ21との間の係合解除に要する力が過大となり、第1軸14とスリーブ21との係合状態を解除することができない場合がある。
本実施形態の好適な一例としては、ラック部材24及びシフトフォーク25間にそれぞれ介装された一対のコイルばね27,27は、ラック部材24がモータ22の正逆方向の回転により係合位置A側又は係合解除位置B側に移動するとき、シフトフォーク25に対してシフト力を付与するように構成されている。各コイルばね27は、ラック部材24がモータ22の正逆回転により係合位置A側又は係合解除位置B側へ移動したときからスリーブ21の作動を許容するまでの間、シフトフォーク25に対してシフト力を蓄積する待ち機構としての機能を有している。コイルばね27による待ち機構をモータ22の正逆回転方向の双方に機能させることができるようになり、一対のコイルばね27,27を両待ち機構として使用することができる。
また、一対のコイルばね27,27による待ち機構の作動中においては、ラック部材24における最終のラック歯24aがピニオン23の歯を超えた後、ラック部材24とピニオン23との係合状態を解除するとともに、モータ22を空回りさせることができる。モータ22に対して過大な負荷が作用しない。このため、モータ22の破損や焼損等を防止することができるようになり、ピニオン23、ラック部材24等の各構成部品に対する強度を厳格に設定する必要がなくなる。
図2〜図4は、本発明の駆動力切換装置20を4輪駆動から2輪駆動へ切換える作動の一例を示している。以下、図2〜図4を参照しながら、駆動力切換装置20を4輪駆動から2輪駆動へ切換える作動の一例を説明する。図2は、駆動力切換装置20が4輪駆動側に切換えられた状態を示している。なお、図2に示す4輪駆動状態においては、スリーブ21及びシフトフォーク25は、図1に実線で示す位置にある。
いま、運転者が図示せぬ切換スイッチを4輪駆動側から2輪駆動側へ作動すると、駆動力切換装置20のモータ22へ通電される。モータ22が時計回り方向に正回転すると、クラッチ機構のピニオン23に駆動力が伝達される。ピニオン23が正回転すると、クラッチ機構のラック部材24は、図1及び図2に示すように、被駆動側の第1軸14と駆動側の第2軸15とを係合する係合位置Aから第1軸14と第2軸15との係合を解除する係合解除位置Bへ向かってシフトロッド26上を摺動する。ラック部材24が係合解除方向へ移動すると、クラッチ機構のシフトフォーク25がコイルばね27を介して係合位置A及び係合解除位置B間の距離だけ移動する。シフトフォーク25の移動により、図1に示すスリーブ21は、被駆動側の第1軸14及び駆動側の第2軸15の外スプライン上を摺動する。スリーブ21が係合位置Aから駆動側の第2軸15上の係合解除位置Bへ切換わると、図示を省略した変速機の出力軸からの駆動トルクは、同じく図示せぬ後輪に伝達される。
このとき、スリーブ21の内スプラインと被駆動側の第1軸14及び駆動側の第2軸15の外スプラインとの位相が不一致であり、第1軸14及び第2軸15とスリーブ21との間の係合解除に要する力が過大となり、スリーブ21が摺動できない場合がある。この場合には、モータ22を作動させても、シフトフォーク25は、図3に示すように、ラック部材24と一緒にシフトロッド27に沿って摺動できない。このため、一方のコイルばね27は、図3に示すように、ラック部材24及びシフトフォーク25間で撓むこととなる。図3は、一方のコイルばね27による4輪駆動の抜き待ち状態を示している。スリーブ21の内スプラインと被駆動側の第1軸14及び駆動側の第2軸15の外スプラインとの位相が合致するまでは、一方のコイルばね27にシフト操作力が蓄えられる。それらの位相が合致すると、蓄えられたシフト操作力によって、スリーブ21の内スプラインと被駆動側の第1軸14との係合解除が行われるとともに、スリーブ21の内スプラインと駆動側の第2軸15の外スプラインとの係合が行われる。
ラック部材24が、図3に示すように、ピニオン23の歯を通過してラック歯24aの最終の歯を超える位置まで移動すると、モータ22が時計回り方向に数回転空回りする。回転駆動されるピニオン23の歯とピニオン23の歯を通過したラック歯24aの最終の歯とが、間歇的に当接し合うので、ラック部材24は、ラック歯1ピッチ分だけ往復動を繰り返す状態となる。このとき、モータ駆動制御手段28では、常法に従いラック部材24とピニオン23との噛合状態が解除されたときの信号が読み込まれる。その読み込んだ信号に基づいて、モータ駆動制御手段28のタイム手段によってモータ22の回転を所定の時間だけ継続させている。その所定の時間を経過した後、モータ22の回転を停止させる。
スリーブ21の内スプラインと被駆動側の第1軸14及び駆動側の第2軸15の外スプラインとの位相が合致すると、一方のコイルばね27に蓄えられたシフト操作力によって、シフトフォーク25が係合位置A及び係合解除位置B間の距離だけシフトロッド26上を移動する。それに伴い、スリーブ21の内スプラインが被駆動側の第1軸14及び駆動側の第2軸15の外スプラインに沿って摺動する。そして、駆動力切換装置20が、4輪駆動状態から2輪駆動状態に機械的に切換わる。この状態を図4に示す。図4は、駆動力切換装置20が、4輪駆動側から2輪駆動側に機械的に切換えられた状態を示している。図4に示す2輪駆動状態においては、スリーブ21及びシフトフォーク25は、図1に一点鎖線で示す位置にある。
次に、2輪駆動から4輪駆動への切換えについて説明する。図4〜図6は、本発明の駆動力切換装置20を2輪駆動から4輪駆動へ切換える作動の一例を示している。以下、図4〜図6を参照しながら、駆動力切換装置20を2輪駆動から4輪駆動へ切換える作動の一例を説明する。
2輪駆動から4輪駆動に戻る場合には、上記操作と逆の操作となる。いま、運転者が図示せぬ切換スイッチを作動して、駆動力切換装置20のモータ22への通電方向を切換える。すると、モータ22は、反時計回り方向に逆回転する。モータ22が逆回転すると同時に、ピニオン23がモータ22と同一方向に回転駆動される。それに伴い、ラック部材24は、図4及び図6に示すように、上記操作とは逆の係合解除位置Bから係合位置Aへ向かってシフトロッド26上を摺動しながら、ピニオン23の歯を通過してラック歯24aの最終の歯を超える位置まで移動する。ここで、上記操作と同様の操作を繰り返すことによりラック部材24とピニオン23との噛合状態が解除され、モータ22が反時計回り方向に数回転空回りする。モータ駆動制御手段28のタイム手段では、常法に従いラック部材24とピニオン23との噛合状態が解除されたときの信号に基づいて、モータ22の回転を所定の時間だけ継続させた後、モータ22の回転を停止させる。
ラック部材24が、係合解除位置Bから係合位置Aへ向かってシフトロッド26上を摺動するとき、スリーブ21の内スプラインと被駆動側の第1軸14及び駆動側の第2軸15の外スプラインとの位相が不一致であり、ラック部材24と一緒にシフトフォーク25及びスリーブ21が摺動できない場合がある。このため、他方のコイルばね27は、図5に示すように、ラック部材24及びシフトフォーク25間で撓んだ状態となる。図5は、他方のコイルばね27による2輪駆動の入り待ち状態を示している。
このとき、スリーブ21の内スプラインと被駆動側の第1軸14及び駆動側の第2軸15の外スプラインとの位相が合致すると、シフトフォーク25は、図5及び図6に示すように、他方のコイルばね27に蓄えられたシフト操作力によって、係合位置A及び係合解除位置B間の距離だけシフトロッド26上を移動する。スリーブ21の内スプラインは、シフトフォーク25と一緒に駆動側の第2軸15及び被駆動側の第1軸14の外スプライン上を摺動する。そして、スリーブ21が駆動側の第2軸15上の係合解除位置Bから係合位置Aへ切換わると、駆動力切換装置20は、図6に示すように、2輪駆動状態から4輪駆動状態に機械的に切換わることとなる。図示を省略した変速機の出力軸からの駆動トルクは、図示せぬ後輪だけではなく、同じく図示せぬ前輪にも伝達されることとなる。
なお、この実施形態では、2輪駆動と4輪駆動との切換えは、運転者が図示せぬ切換スイッチを作動することによってモータ22への通電のオン・オフ、あるいは通電方向を切換えることで、2輪駆動と4輪駆動との切換えを任意に行う構成となっている。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば回転数センサにより前後輪の回転数に差が発生したことを検知することで、モータ22への通電を行い、4輪駆動状態から2輪駆動状態へ切換えるとともに、前後輪の回転数差がなくなったことを検知することで、2輪駆動への切換時とはモータ22の通電方向を逆に操作して、2輪駆動状態から4輪駆動状態に切換えることもできることは勿論である。
以上の説明からも明らかなように、上記実施形態では、常に前後輪に駆動力が伝達されており、2輪駆動時に前輪への駆動力を切り離す形式の車両に駆動力切換装置20を用いた場合について説明している。トランスファを備えることなく変速機から直接出力軸に駆動力を伝達する構成、変速機と前輪及び後輪の出力軸の間にトランスファを備える構成のものにも適用が可能である。また、マニュアルトランスミッションにおける2輪駆動と4輪駆動との切換えに用いられるシフトフォーク、オートマチックトランスミッションにおける2輪駆動と4輪駆動との切換えに用いられるシフトフォークに好適に使用することができるものである。本発明にあってはこれに限定されるものではなく、例えば入力側と出力側の2つの位置に切換えることができる各種の駆動力切換装置に使用することができることは勿論であり、本発明の初期の目的を十分に達成することができる。従って、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載した範囲内で様々に設計変更が可能である。