JP4840847B2 - 改変型2−デオキシリボース5−リン酸アルドラーゼ及びその利用 - Google Patents
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Description
一方、DERAが一段階アルドール反応を触媒することが報告されている(非特許文献1(J.Am.Chem.Soc.112、2014−2016(1990))。この報告の中で、大腸菌由来DERAは、アクセプター基質としてのフェニルアルデヒドと、ドナー基質としてのアセトアルデヒドとの間のアルドール反応は触媒しない、と記載されている。このことから、大腸菌由来のDERAは、ベンゼン環を含み疎水性が高い化合物を基質としたアルドール反応を触媒することができないものと考えられた。
ここで、アルドラーゼによる(S)−BHPの合成はこれまでに報告がない。(S)−BHPは生理活性などを有する化合物を合成する際の光学活性中間体として有用である。たとえば、以下の反応(Tetrahedron Lett. 33,2557-2560 (1992)を参照)によって(S)−BHPから、抗菌性化合物合成原料(J.Org.Chem.48,5017−5022(1983)を参照)に用いられるキラル1,2,4−ペンタントリオールが得られる。
尚、国際公開第03/077868号パンフレット(特許文献1)には、デオキシリボースに対する活性を改善する目的で大腸菌由来DERAの最適化が報告されているが、(S)−BHPの合成についての言及はない。
[1] 野生型2−デオキシリボース5−リン酸アルドラーゼのアミノ酸配列において、配列番号:1に示すアミノ酸配列の73位、76位、139位、238位、及び239位のアミノ酸からなる群より選択される一以上のアミノ酸に相当するアミノ酸が置換されたアミノ酸配列からなり、238位及び/又は239位の置換後のアミノ酸が以下の通りである、改変型2−デオキシリボース5−リン酸アルドラーゼ:
238位の置換後のアミノ酸はチロシン、グリシン、アルギニン又はアラニン;
239位の置換後のアミノ酸はメチオニン、アスパラギン、グリシン又はロイシン。
[2] 前記野生型2−デオキシリボース5−リン酸アルドラーゼが、大腸菌(E.coli)由来の2−デオキシリボース5−リン酸アルドラーゼである、[1]に記載の改変型2−デオキシリボース5−リン酸アルドラーゼ。
[3] 前記野生型2−デオキシリボース5−リン酸アルドラーゼのアミノ酸配列が、配列番号:1に示すアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列である、[1]に記載の改変型2−デオキシリボース5−リン酸アルドラーゼ。
[4] 前記野生型2−デオキシリボース5−リン酸アルドラーゼのアミノ酸配列が、配列番号:1に示すアミノ酸配列である、[1]に記載の改変型2−デオキシリボース5−リン酸アルドラーゼ。
[5] 配列番号:1に示すアミノ酸配列において73位及び/又は76位のアミノ酸が置換されており、置換後のアミノ酸が以下の通りである、[4]に記載の改変型2−デオキシリボース5−リン酸アルドラーゼ:
73位の置換後のアミノ酸はプロリン、システイン、トレオニン、セリン又はトリプトファン;
76位の置換後のアミノ酸はアルギニン、チロシン又はトリプトファン。
[6] 配列番号:1に示すアミノ酸配列において139位のアミノ酸が置換されており、置換後のアミノ酸がバリン又はメチオニンである、[4]に記載の改変型2−デオキシリボース5−リン酸アルドラーゼ。
[7] 配列番号:1に示すアミノ酸配列において238位及び/又は239位のアミノ酸が置換されており、置換後のアミノ酸が以下の通りである、[4]に記載の改変型2−デオキシリボース5−リン酸アルドラーゼ:
238位の置換後のアミノ酸はチロシン、グリシン、アルギニン又はアラニン;
239位の置換後のアミノ酸はメチオニン、アスパラギン、グリシン又はロイシン。
[8] 以下の(1)〜(18)のいずれかのアミノ酸配列からなる、[1]に記載の改変型2−デオキシリボース5−リン酸アルドラーゼ:
(1)配列番号:1のアミノ酸配列において、73位バリンがプロリンに置換されてなるアミノ酸配列;
(2)配列番号:1のアミノ酸配列において、73位バリンがシステインに置換され、76位フェニルアラニンがアルギニンに置換されてなるアミノ酸配列;
(3)配列番号:1のアミノ酸配列において、73位バリンがトレオニンに置換されてなるアミノ酸配列;
(4)配列番号:1のアミノ酸配列において、73位バリンがトレオニンに置換され、76位フェニルアラニンがチロシンに置換されてなるアミノ酸配列;
(5)配列番号:1のアミノ酸配列において、73位バリンがセリンに置換され、76位フェニルアラニンがトリプトファンに置換されてなるアミノ酸配列;
(6)配列番号:1のアミノ酸配列において、73位バリンがシステインに置換されてなるアミノ酸配列;
(7)配列番号:1のアミノ酸配列において、73位バリンがプロリンに置換され、76位フェニルアラニンがチロシンに置換されてなるアミノ酸配列;
(8)配列番号:1のアミノ酸配列において、73位バリンがトリプトファンに置換され、76位フェニルアラニンがトリプトファンに置換されてなるアミノ酸配列;
(9)配列番号:1のアミノ酸配列において、139位イソロイシンがバリンに置換されてなるアミノ酸配列;
(10)配列番号:1のアミノ酸配列において、139位イソロイシンがメチオニンに置換されてなるアミノ酸配列;
(11)配列番号:1のアミノ酸配列において、238位セリンがチロシンに置換され、239位セリンがメチオニンに置換されてなるアミノ酸配列;
(12)配列番号:1のアミノ酸配列において、238位セリンがグリシンに置換され、239位セリンがアスパラギンに置換されてなるアミノ酸配列;
(13)配列番号:1のアミノ酸配列において、238位セリンがアルギニンに置換され、239位セリンがグリシンに置換されてなるアミノ酸配列;
(14)配列番号:1のアミノ酸配列において、238位セリンがアラニンに置換され、239位セリンがロイシンに置換されてなるアミノ酸配列;
(15)配列番号:1のアミノ酸配列において、239位セリンがロイシンに置換されてなるアミノ酸配列;
(16)配列番号:1のアミノ酸配列において、238位セリンがグリシンに置換されてなるアミノ酸配列
(17)配列番号:1のアミノ酸配列において、73位バリンがプロリンに置換され、76位フェニルアラニンがチロシンに置換され、238位セリンがアルギニンに置換され、239位セリンがグリシンに置換されてなるアミノ酸配列;
(18)配列番号:1のアミノ酸配列において、73位バリンがプロリンに置換され、76位フェニルアラニンがチロシンに置換され、238位セリンがアラニンに置換され、239位セリンがロイシンに置換されてなるアミノ酸配列。
[9] [1]〜[8]のいずれかに記載の改変型2−デオキシリボース5−リン酸アルドラーゼをコードする、単離された核酸。
[10] [9]に記載の核酸を保持するベクター。
[11] [9]に記載の核酸を保有する形質転換体。
[12] ベンゼン環に置換基を有するか又は無置換のベンジルオキシアセトアルデヒドからなるアクセプター基質と、炭素数3〜6のケトンからなるドナー基質とを、2−デオキシリボース5−リン酸アルドラーゼを触媒としたアルドール反応で結合させることを特徴とする、β−ケトールの合成方法。
[13] 前記2−デオキシリボース5−リン酸アルドラーゼが、[1]〜[8]のいずれかに記載の改変型2−デオキシリボース5−リン酸アルドラーゼである、[12]に記載の合成方法。
[14] 前記アクセプター基質が、以下の化学式で表される化合物である、[12]又は[13]に記載の合成方法、
[15] 前記基質がベンジルオキシアセトアルデヒドであり、前記ドナー基質がアセトンである、[12]又は[13]に記載の合成方法。
[16] 2−デオキシリボース5−リン酸アルドラーゼのアミノ酸配列における73位のアミノ酸、76位のアミノ酸、139位のアミノ酸、238位のアミノ酸、及び239位のアミノ酸からなる群より選択される一以上のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列を構築することを特徴とする、改変型2−デオキシリボース5−リン酸アルドラーゼのデザイン方法。
[17] 以下のステップを含むことを特徴とする、改変型2−デオキシリボース5−リン酸アルドラーゼのデザイン方法:
(1)2−デオキシリボース5−リン酸を基質とした場合の、触媒反応中の野生型又は改変型2−デオキシリボース5−リン酸アルドラーゼの立体構造情報を用意するステップ;
(2)前記立体構造情報において、基質部分を2−デオキシリボース5−リン酸から目的基質に置換するステップ;
(3)野生型又は改変型2−デオキシリボース5−リン酸アルドラーゼの分子力学計算を実施し、エネルギー最小化構造を算出するステップ;
(4)計算前後の構造を比較し、側鎖の移動が認められたアミノ酸を置換候補として選抜するステップ;
(5)野生型又は改変型2−デオキシリボース5−リン酸アルドラーゼのアミノ酸配列において、前記選抜したアミノ酸が置換されたアミノ酸配列を構築するステップ。
[18] 前記ステップ(4)の前に、野生型2−デオキシリボース5−リン酸アルドラーゼを構成するアミノ酸の中より、目的基質から3Å内にあるアミノ酸を抽出し、前記ステップ(4)では抽出された該アミノ酸の中から置換候補を選抜する、[17]に記載のデザイン方法。
[19] 前記目的基質がβ−ケトールである、[17]又は[18]に記載のデザイン方法。
本発明の第1の局面は改変型2−デオキシリボース5−リン酸アルドラーゼ(改変型DERA)に関する。本発明は、野生型DERAがベンジルオキシアセトアルデヒドとアセトン間のアルドール反応を触媒し、β−ケトールを合成する事実を見出したこと(後述の実施例を参照)、及び野生型DERAにおける特定のアミノ酸の置換がDERAの合成活性及び基質特異性の向上に効果的であるとの知見(後述の実施例を参照)に基づき、β−ケトールの合成活性が野生型DERAよりも向上した改変型DERAを提供する。本発明の改変型DERAは、対応する野生型酵素のアミノ酸配列において特定のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列を有する。本発明の改変型DERAは、典型的には、天然に存在するDERA、即ち野生型のDERAにおいて一部のアミノ酸を他のアミノ酸に置換することによって作製或いは設計される。このように本発明の改変型DERAの基礎となる(由来する)DERAのことを本明細書では「野生型DERA」と表現する。また、野生型DERAを構成するアミノ酸の中で、置換対象となるアミノ酸(つまり、野生型DERAの構成アミノ酸の中で、改変型DERAと比較して相違が認められるもの)のことを「置換アミノ酸」又は「置換対象アミノ酸」という。
(1)配列番号:1のアミノ酸配列において、73位バリンがプロリンに置換されてなるアミノ酸配列(バリアント1)
(2)配列番号:1のアミノ酸配列において、73位バリンがシステインに置換され、76位フェニルアラニンがアルギニンに置換されてなるアミノ酸配列(バリアント2)
(3)配列番号:1のアミノ酸配列において、73位バリンがトレオニンに置換されてなるアミノ酸配列(バリアント3)
(4)配列番号:1のアミノ酸配列において、73位バリンがトレオニンに置換され、76位フェニルアラニンがチロシンに置換されてなるアミノ酸配列(バリアント4)
(5)配列番号:1のアミノ酸配列において、73位バリンがセリンに置換され、76位フェニルアラニンがトリプトファンに置換されてなるアミノ酸配列(バリアント5)
(6)配列番号:1のアミノ酸配列において、73位バリンがシステインに置換されてなるアミノ酸配列(バリアント6)
(7)配列番号:1のアミノ酸配列において、73位バリンがプロリンに置換され、76位フェニルアラニンがチロシンに置換されてなるアミノ酸配列(バリアント7)
(8)配列番号:1のアミノ酸配列において、73位バリンがトリプトファンに置換され、76位フェニルアラニンがトリプトファンに置換されてなるアミノ酸配列(バリアント8)
(9)配列番号:1のアミノ酸配列において、139位イソロイシンがバリンに置換されてなるアミノ酸配列(バリアント9)
(10)配列番号:1のアミノ酸配列において、139位イソロイシンがメチオニンに置換されてなるアミノ酸配列(バリアント10)
(11)配列番号:1のアミノ酸配列において、238位セリンがチロシンに置換され、239位セリンがメチオニンに置換されてなるアミノ酸配列(バリアント11)
(12)配列番号:1のアミノ酸配列において、238位セリンがグリシンに置換され、239位セリンがアスパラギンに置換されてなるアミノ酸配列(バリアント12)
(13)配列番号:1のアミノ酸配列において、238位セリンがアルギニンに置換され、239位セリンがグリシンに置換されてなるアミノ酸配列(バリアント13)
(14)配列番号:1のアミノ酸配列において、238位セリンがアラニンに置換され、239位セリンがロイシンに置換されてなるアミノ酸配列(バリアント14)
(15)配列番号:1のアミノ酸配列において、239位セリンがロイシンに置換されてなるアミノ酸配列(バリアント15)
(16)配列番号:1のアミノ酸配列において、238位セリンがグリシンに置換されてなるアミノ酸配列(バリアント16)
(17)配列番号:1のアミノ酸配列において、73位バリンがプロリンに置換され、76位フェニルアラニンがチロシンに置換され、238位セリンがアルギニンに置換され、239位セリンがグリシンに置換されてなるアミノ酸配列(バリアント17)
(18)配列番号:1のアミノ酸配列において、73位バリンがプロリンに置換され、76位フェニルアラニンがチロシンに置換され、238位セリンがアラニンに置換され、239位セリンがロイシンに置換されてなるアミノ酸配列(バリアント18)
好ましくは、保存的アミノ酸置換をアルドール反応に関与しないアミノ酸残基に生じさせることによって相同タンパク質を得る。ここでの「保存的アミノ酸置換」とは、あるアミノ酸残基を、同様の性質の側鎖を有するアミノ酸残基に置換することをいう。アミノ酸残基はその側鎖によって塩基性側鎖(例えばリシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えばアスパルギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えばアスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えばグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐側鎖(例えばスレオニン、バリン、イソロイシン)、芳香族側鎖(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン)のように、いくつかのファミリーに分類されている。保存的アミノ酸置換は好ましくは、同一のファミリー内のアミノ酸残基間の置換である。
二つの配列の比較及び同一性の決定は数学的アルゴリズムを用いて実現可能である。配列の比較に利用可能な数学的アルゴリズムの具体例としては、KarlinおよびAltschul (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-68に記載され、KarlinおよびAltschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-77において改変されたアルゴリズムがあるが、これに限定されることはない。このようなアルゴリズムは、Altschulら (1990) J. Mol. Biol. 215:403-10に記載のNBLASTプログラムおよびXBLASTプログラム(バージョン2.0)に組み込まれている。あるアミノ酸配列に相同的なアミノ酸配列を得るには例えば、XBLASTプログラムでscore = 50、wordlength = 3としてBLASTポリペプチド検索を行えばよい。同様に、ある核酸に相同的なヌクレオチド配列を得るには例えば、NBLASTプログラムでscore = 100、wordlength = 12としてBLASTヌクレオチド検索を行えばよい。比較のためのギャップアライメントを得るためには、Altschulら (1997) Amino Acids Research 25(17):3389-3402に記載のGapped BLASTが利用可能である。BLASTおよびGapped BLASTを利用する場合は、対応するプログラム(例えばXBLASTおよびNBLAST)のデフォルトパラメータを使用することができる。詳しくはhttp://www.ncbi.nlm.nih.govを参照されたい。配列の比較に利用可能な他の数学的アルゴリズムの例としては、MyersおよびMiller (1988) Comput Appl Biosci. 4:11-17に記載のアルゴリズムがある。このようなアルゴリズムは、例えばGENESTREAMネットワークサーバー(IGH Montpellier、フランス)またはISRECサーバーで利用可能なALIGNプログラムに組み込まれている。アミノ酸配列の比較にALIGNプログラムを利用する場合は例えば、PAM120残基質量表を使用し、ギャップ長ペナルティ=12、ギャップペナルティ=4とすることができる。
二つのアミノ酸配列の同一性を、GCGソフトウェアパッケージのGAPプログラムを用いて、Blossom 62マトリックスまたはPAM250マトリックスを使用し、ギャップ加重=12、10、8、6、又は4、ギャップ長加重=2、3、又は4として決定することができる。また、二つの核酸配列の相同度を、GCGソフトウェアパッケージ(http://www.gcg.comで利用可能)のGAPプログラムを用いて、ギャップ加重=50、ギャップ長加重=3として決定することができる。
<野生型DERAをコードする遺伝子の取得>
野生型DERA遺伝子はDERA産生菌から取得することができる。ここでのDERA産生菌とは、DERA遺伝子を本来的に保有する菌、又はDERA遺伝子が外来的に導入された菌のことをいう。前者の例として大腸菌K−12株を挙げることがき、後者の例としては大腸菌K−12株のDERA遺伝子をクローニングしたベクターを保有する大腸菌株を挙げることができる。
DERA遺伝子を本来的に保有する菌からDERA遺伝子を取得するには、例えば、当該菌のゲノムDNAを鋳型とし、DERA特異的なプライマーを用いたPCR等を実施すればよい。一方、DERA遺伝子がクローニングされたベクターを保有する菌を利用できる場合には、常法に従って、当該菌からDERA遺伝子を抽出・精製することができる。
尚、大腸菌K−12株及び大腸菌K−12株のDERAをクローニングしたベクターを保有する大腸菌はいずれもアメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)などのカルチャーコレクションより取得することができる。
以上のようにして取得された野生型DERA遺伝子に対して、発現産物であるタンパク質において特定のアミノ酸が置換されるように変異を加えることにより、目的とする改変型DERAをコードする遺伝子を作製することができる。このような位置特異的塩基配列置換のための方法は当該技術分野において数多く知られており(例えば、Molecular Cloning, Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkを参照)、その中から適切な方法を選択して用いることができる。
本発明の他の局面は、上記本発明の改変型DERAに関連する核酸に関する。この局面では、改変型DERAをコードする単離された核酸、改変型DERAをコードする核酸を同定するためのプローブとして用いることができる核酸、改変型DERAをコードする核酸を増幅又は突然変異等させるためのプライマーとして用いることができる核酸が提供される。
改変型DERAをコードする核酸は、典型的には、改変型DERAの調製に利用される。改変型DERAをコードする核酸を用いた遺伝子工学的調製方法によれば、より均質な状態の改変型DERAを得ることが可能である。また、当該方法は、大量の改変型DERAを調製する場合にも好適な方法といえる。尚、改変型DERAをコードする核酸の用途は改変型DERAの調製に限られない。例えば、改変型DERAの作用機構の解明などを目的とした実験用のツールとして、或いはDERAの更なる改変体をデザイン又は作製するためのツールとして、当該核酸を利用することもできる。
核酸がベクターや組成物の一部として存在していても又は外来性分子として細胞内に存在していても、人為的操作の結果として存在している限り「単離された核酸」である。
尚、特に言及しない限り、本明細書において単に「核酸」と記載した場合には、単離された状態の核酸を意味する。
(1)配列番号:2の塩基配列において、73位バリンをコードする部分が、プロリンをコードする塩基に置換されてなる塩基配列(バリアント1)
(2)配列番号:2の塩基配列において、73位バリンをコードする部分が、システインをコードする塩基に置換され、76位フェニルアラニンをコードする部分が、アルギニンをコードする塩基に置換されてなる塩基配列(バリアント2)
(3)配列番号:2の塩基配列において、73位バリンをコードする部分が、トレオニンをコードする塩基に置換されてなる塩基配列(バリアント3)
(4)配列番号:2の塩基配列において、73位バリンをコードする部分が、トレオニンをコードする塩基に置換され、76位フェニルアラニンをコードする部分が、チロシンをコードする塩基に置換されてなる塩基配列(バリアント4)
(5)配列番号:2の塩基配列において、73位バリンをコードする部分が、セリンをコードする塩基に置換され、76位フェニルアラニンをコードする部分が、トリプトファンをコードする塩基に置換されてなる塩基配列(バリアント5)
(6)配列番号:2の塩基配列において、73位バリンをコードする部分が、システインをコードする塩基に置換されてなる塩基配列(バリアント6)
(7)配列番号:2の塩基配列において、73位バリンをコードする部分が、プロリンをコードする塩基に置換され、76位フェニルアラニンをコードする部分が、チロシンをコードする塩基に置換されてなる塩基配列(バリアント7)
(8)配列番号:2の塩基配列において、73位バリンをコードする部分が、トリプトファンをコードする塩基に置換され、76位フェニルアラニンをコードする部分が、トリプトファンをコードする塩基に置換されてなる塩基配列(バリアント8)
(9)配列番号:2の塩基配列において、139位イソロイシンをコードする部分が、バリンをコードする塩基に置換されてなる塩基配列(バリアント9)
(10)配列番号:2の塩基配列において、139位イソロイシンをコードする部分が、メチオニンをコードする塩基に置換されてなる塩基配列(バリアント10)
(11)配列番号:2の塩基配列において、238位セリンをコードする部分が、チロシンをコードする塩基に置換され、239位セリンをコードする部分が、メチオニンをコードする塩基に置換されてなる塩基配列(バリアント11)
(12)配列番号:2の塩基配列において、238位セリンをコードする部分が、グリシンをコードする塩基に置換され、239位セリンをコードする部分が、アスパラギンをコードする塩基に置換されてなる塩基配列(バリアント12)
(13)配列番号:2の塩基配列において、238位セリンをコードする部分が、アルギニンをコードする塩基に置換され、239位セリンをコードする部分が、グリシンをコードする塩基に置換されてなる塩基配列(バリアント13)
(14)配列番号:2の塩基配列において、238位セリンをコードする部分が、アラニンをコードする塩基に置換され、239位セリンをコードする部分が、ロイシンをコードする塩基に置換されてなる塩基配列(バリアント14)
(15)配列番号:2の塩基配列において、239位セリンをコードする部分が、ロイシンをコードする塩基に置換されてなる塩基配列(バリアント15)
(16)配列番号:2の塩基配列において、238位セリンをコードする部分が、グリシンをコードする塩基に置換されてなる塩基配列(バリアント16)
(17)配列番号:2の塩基配列において、73位バリンをコードする部分が、プロリンをコードする塩基に置換され、76位フェニルアラニンをコードする部分が、チロシンをコードする塩基に置換され、238位セリンをコードする部分が、アルギニンをコードする塩基に置換され、239位セリンをコードする部分が、グリシンをコードする塩基に置換されてなる塩基配列(バリアント17)
(18)配列番号:2の塩基配列において、73位バリンをコードする部分が、プロリンをコードする塩基に置換され、76位フェニルアラニンをコードする部分が、チロシンをコードする塩基に置換され、238位セリンをコードする部分が、アラニンをコードする塩基に置換され、239位セリンをコードする部分が、ロイシンをコードする塩基に置換されてなる塩基配列(バリアント18)
以上のような相同核酸は例えば、制限酵素処理、エキソヌクレアーゼやDNAリガーゼ等による処理、位置指定突然変異導入法(Molecular Cloning, Third Edition, Chapter 13 ,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)やランダム突然変異導入法(Molecular Cloning, Third Edition, Chapter 13 ,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)による変異の導入などによって得られる。また、紫外線照射など他の方法によっても相同核酸を得ることができる。
プローブとして利用される場合には核酸断片を標識化することができる。標識化には例えば、蛍光物質、酵素、放射性同位元素を用いることができる。
使用目的(クローニング、タンパク質の発現)に応じて、また宿主細胞の種類を考慮して適当なベクターが選択される。大腸菌を宿主とするベクターとしてはM13ファージ又はその改変体、λファージ又はその改変体、pBR322又はその改変体(pB325、pAT153、pUC8など)等、酵母を宿主とするベクターとしてはpYepSec1、pMFa、pYES2等、昆虫細胞を宿主とするベクターとしてはpAc、pVL等、哺乳類細胞を宿主とするベクターとしてはpCDM8、pMT2PC等を例示することができる。
本発明の核酸のベクターへの挿入、選択マーカー遺伝子の挿入(必要な場合)、プロモーターの挿入(必要な場合)等は標準的な組換えDNA技術(例えば、Molecular Cloning, Third Edition, 1.84, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkを参照することができる、制限酵素及びDNAリガーゼを用いた周知の方法)を用いて行うことができる。
宿主細胞としては、取り扱いの容易さの点から、大腸菌などの細菌細胞を用いることが好ましい。
形質転換体の培養に使用する培地の栄養源としては、形質転換体の培養に通常用いられるものを使用することができる。炭素源としては資化可能な炭素化合物であればよく、例えばグルコース、シュークロース、ラクトース、マルトース、ラクトース、糖蜜、ピルビン酸などが使用される。また、窒素源としては利用可能な窒素化合物であればよく、例えばペプトン、肉エキス、酵母エキス、カゼイン加水分解物、大豆粕アルカリ抽出物などが使用される。その他、リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩、マグネシウム、カルシウム、カリウム、鉄、マンガン、亜鉛などの塩類、特定のアミノ酸、特定のビタミンなどが必要に応じて使用される。
上記のようにして得られた精製酵素を、例えば凍結乾燥や真空乾燥或いはスプレードライなどにより粉末化して提供することも可能である。その際、精製酵素を予めリン酸緩衝液、トリエタノールアミン緩衝液、トリス塩酸緩衝液やGOODの緩衝液に溶解させておいてもよい。好ましくは、リン酸緩衝液、トリエタノールアミン緩衝液を使用することができる。尚、ここでGOODの緩衝液としてはPIPES、MES又はMOPSが挙げられる。
本発明は他の局面として、DERAを触媒としたβ−ケトールの合成方法を提供する。本発明の合成方法では、アクセプター基質としてベンゼン環に置換基を有するか又は無置換のベンジルオキシアセトアルデヒド(以下の化学式)を使用し、ドナー基質として炭素数3〜6のケトンを用い、DERAを触媒としたアルドール反応で両者を結合させることでβ−ケトールを合成する。尚、アクセプター基質に対してドナー基質を0.5〜10等量添加して反応を行うことが好ましい。また、水に溶解しない基質の場合は、乳化剤としてジメチルスルホキシド(DMSO)等を使用することが好ましい。
この反応では、基質の前記緩衝液への溶解性を高めるために、メタノール、エタノール、アセトン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)等の水と相溶性を有する有機溶媒を添加することもできる。これらの有機溶媒の使用量は、前記緩衝液に対して0.01〜30重量%であることが好ましい。
また、この反応は、トルエン、ジエチルエーテル、ヘキサンや、酢酸エチル等の水と相溶性を有しない有機溶媒と前記緩衝液を用いて2相系で反応を行うことも可能であり、更には、これらの有機溶媒中で、前記緩衝液を用いることなく反応を行うこともできる。
ベンジルオキシアセトアルデヒド(前記(化3))の反応液中の濃度は、特に制限されないが、通常、0.01〜20重量%が好ましい。
また、アセトンとしては、市販のものを使用することができる。アセトンの使用量は、ベンジルオキシアセトアルデヒド1モルに対して0.5〜20モルであり、好ましくは2〜10モルである。
この反応の反応温度は、使用するアルドラーゼの熱安定性により異なるが、通常1〜80℃である。
この反応で製造される5−ベンジルオキシ−4−ヒドロキシ−2−ペンタノン((S)−BHP)の単離・精製は、抽出、蒸留或いはカラムクロマトグラフィー等の公知の方法により行うことができる。
本発明はさらに他の局面として改変型DERAのデザイン方法を提供する。本発明のデザイン方法によって得られる構造情報を基にして、改変型DERAを製造(調製)することができる。
本発明は大別して2種類のデザイン方法を提供する。第1のデザイン方法は、野生型DERAに対して特定のアミノ酸置換を行うことにより収量や基質特異性の向上ができたという事実に基づくものであり、2−デオキシリボース5−リン酸アルドラーゼのアミノ酸配列における73位のアミノ酸、76位のアミノ酸、139位のアミノ酸、238位のアミノ酸、及び239位のアミノ酸からなる群より選択される一以上のアミノ酸を他のアミノ酸に置換することを特徴とする。
一方、本発明の第2のデザイン方法は、改変型DERAを取得する際に本発明者らが採用した手法の有効性が実験的に確認されたことに基づき、コンピュータ上でのモデリング手法を含む。具体的には、以下のステップ(1)〜(5)を含むことを特徴とする。
(1)2−デオキシリボース5−リン酸(以下、「2DR5P」ともいう)を基質とした場合の、触媒反応中の野生型2−デオキシリボース5−リン酸アルドラーゼの立体構造情報を用意するステップ。
(2)前記立体構造情報において、基質部分を2−デオキシリボース5−リン酸から目的基質に置換するステップ。
(3)野生型2−デオキシリボース5−リン酸アルドラーゼの主鎖を固定し、側鎖のみ振動する条件で分子力学計算を実施し、エネルギー最小化構造を算出するステップ。
(4)計算前後の構造を比較し、側鎖の移動が認められたアミノ酸を置換候補として選抜するステップ。
(5)野生型2−デオキシリボース5−リン酸アルドラーゼのアミノ酸配列において、前記選抜したアミノ酸が置換されたアミノ酸配列を構築するステップ。
立体構造情報を取得した後、基質と活性中心アミノ酸(167位のリジン)を抽出しておくとよい。
目的基質の例として各種β−ケトール(例えば(S)−BHP)を挙げることができる。
(a)野生型2−デオキシリボース5−リン酸アルドラーゼの構成アミノ酸の中で、目的基質であるβ−ケトールの末端メチル基周辺に位置するアミノ酸を置換候補として選抜するステップ。
具体的には例えば、目的基質を(S)−BHPに設定した場合、酵素の活性中心アミノ酸近傍に位置することとなる、(S)−BHPの末端メチル基に面する疎水性アミノ酸を置換候補として選抜するとよい。
尚、このステップ(a)の前においても、野生型DERAを構成するアミノ酸の中より、目的基質から3Å内にあるアミノ酸を抽出することにし、ステップ(a)では抽出されたアミノ酸の中から置換候補を選抜することが好ましい。
本発明において「アルドラーゼ活性」とは、2−デオキシリボース5−リン酸(2DR5P)をD−グリセルアルデヒド3−リン酸とアセトアルデヒドに分解する活性をいう。アルドラーゼ活性の測定方法は、既報の方法(Eur.J.Biochem.125,561−566(1982)、J.Am.Chem.Soc.117,3333−3339(1995))に準ずる。アルドラーゼ活性の測定方法の原理、使用する試薬、及び測定条件を以下に示す。
<測定原理>
DERAによる2DR5Pの分解反応によって生じるアセトアルデヒドをアルコール脱水素酵素でエタノールに変換させる。この時共役して減少するNADH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型)の量から2DR5P分解活性を算出する。
<試薬>
活性測定液:100mM Tris−HCl(pH7.5)、0.2mM 2DR5P、200U出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)由来アルコールデヒドロゲナーゼ(シグマ社)、0.1mM NADH
<測定条件>
1mlの活性測定液に酵素液を添加し、40℃でのNADHの減少に伴う波長340nmの吸収度の減少を2分間測定する。1分間当たり1μmolのNADHを減少させる酵素量を酵素活性の1単位(U)とする。尚、NADHの340nmにおけるミリモル吸光係数は6.22mM−1cm−1とする。
2−デオキシリボース5−リン酸アルドラーゼ(DERA)の新規な用途を見出すべく、様々なアクセプター基質及びドナー基質を用いた合成反応系におけるDERAの触媒活性を網羅的に検索した。具体的には下記実施例記載の大腸菌K−12株由来のDERA凍結乾燥粉末を用い、トリエタノールアミン緩衝液(pH7.3)中で、0.5Mアセトン及び0.05M各種アルデヒドを加え、触媒活性を検討した。検索の結果、驚くべきことにベンジルオキシアセトアルデヒドをアクセプター基質とし、アセトンをドナー基質とした一段階アルドール反応による(S)−BHPの合成をDERAが触媒することを見出した。これまでに大腸菌由来のDERAが一段階アルドール反応を触媒するという報告はあるものの、一方でフェニルアルデヒドとアセトアルデヒドとを結合する反応を触媒しないという報告があることから、大腸菌由来のDERAは、ベンゼン環を含み疎水性が高い化合物を基質としたアルドール反応を触媒することができないものと予想された。本発明者らが見出した上記合成反応はこの予想に反するものであり、DERAの新規な用途を提供する。
本発明者らの検討した結果、以下の条件で反応させることによって95%の合成収率、約80%のエナンチオマー過剰率で(S)−BHPを合成できることが明らかとなった。
(1)反応液組成
0.5Mアセトン及び0.05Mベンジルオキシアセトアルデヒドを含有する200mlの緩衝液(0.1M トリエタノールアミン pH7.3 (1mM EDTAを含む))
(2)酵素量
大腸菌K−12株由来のDERAを3000U
(3)反応温度
30℃
(4)反応時間
72時間
2−1.大腸菌由来アルドラーゼ遺伝子の取得
Chenらの報告(J.Am.Chem.Soc.114、741−748(1992))に引用されているE.coli K−12由来DERA遺伝子をクローニングしたベクター(pBR322/deraと呼ぶ)を保有するE.coli ATCC86963株を、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)から入手した。
LB液体培地(ポリペプトン1%、酵母エキス0.5%、塩化ナトリウム0.5%(pH7.0))にE.coli ATCC86963株を接種し、37℃、18時間振とう培養した。培養液を遠心し、沈澱として湿菌体を得た。湿菌体より、Wizard Plus SV Minipreps(プロメガ社)キットを用いてプラスミドベクターpBR322/deraを精製した。
精製したpBR322/deraよりDERA遺伝子をPCRにて増幅し、発現ベクターpUC18のマルチクローニングサイトHind IIIからEcoRIにクローニングした。
DERA遺伝子末端の上流にHindIIIおよび下流にEcoRIリンカーを付与したプライマー(pUC18EcoRI-Fプライマー、pUC18HindIII-RVプライマー)を用いてPCRを行い、目的断片を増幅した。KOD−Plus−DNAポリメラーゼ(東洋紡社)を使用し、以下の手順でPCRを行った。即ち、緩衝液を5μl、25mMに調整した硫酸マグネシウムを2μl、各2mMに調整したdNTP混合溶液を5μl、10μMに調整した上記プライマーDNAを各々1.5μl、pBR322/dera 1ng、前記DNAポリメラーゼを1μl加え、全量を50μlに調整した。市販の温度サイクリング装置(Thermal cycler タカラ社)にて94℃で2分反応させた後、94℃で15秒、55℃で30秒、及び68℃で60秒からなる温度サイクルを25回行った。
反応終了後の反応液をアガロースゲル電気泳動に供して分離した後、目的の断片を切り出し、MinElute Gelextractgion Kit(QIAGEN社)を用いて遺伝子を精製した。
pUC18EcoRI-Fプライマー:5'-GGGGAATTCGATGACTGATCTGA(配列番号:3)
pUC18HindIII-RVプライマー:5'-GGGAAGCTTTTAGTAGCTGC(配列番号:4)
白色コロニーをLB液体培地(50μg/mlアンピシリン含有)に接種し、上記と同様にプラスミドpUC18/deraを精製した。精製したプラスミドを用いて以下の手順で塩基配列を決定した。まず、M13ユニバーサルプライマー(M13 M4プライマー(配列番号:5)又はM13 RVプライマー(配列番号:6)(タカラ社))及びビックダイターミネーターサイクルシーケンシングキット(パーキンエルマーアプライドバイオシステムズ社)を用いて目的の遺伝子を増幅した。次いでABI PISM 310ジェネティックアナライザー(パーキンエルマーアプライドバイオシステムズ社)を用いて塩基配列を解析した。
得られた配列データを解析し、インサートが配列番号:2の大腸菌由来遺伝子配列に一致する事を確認した。つまり、インサートの塩基配列が、配列番号X03224としてGenBank、EMBAL等のデータベースに公開されているDERA(遺伝子名deoC)遺伝子配列と一致した。
M13 M4プライマー;5’-GTTTTCCCAGTCACGAC(配列番号:5)
M13 RVプライマー;5’-CAGGAAACAGCATTGAC(配列番号:6)
pUC18/dera組換え大腸菌の培養は、50μg/mlアンピシリンを含むTerrific broth培地(トリプトン1.2%,酵母エキス2.4%、グリセロール40ml/l、リン酸2水素カリウム0.231%、リン酸水素2カリウム1.254%(リン酸は別途滅菌処理を行う))20mlに、LB寒天培地(50μg/mlアンピシリン含有)上に生育させたコロニーを植菌し、37℃で18時間振とう培養した。本培養液を50μg/mlアンピシリンを含むTerrific broth培地1000mlに加え、37℃で、OD660=0.6になるまで培養した後、終濃度が1mMになるようにIPTGを加え、さらに6時間培養した。培養終了後、遠心分離(5000g、10分)により集菌し、0.85%NaClで洗菌し、さらに遠心処理を行い湿菌体を得た。
酵素の粗精製はWongら(J.Am.Chem.Soc.,114,741−748(1992))の報告を参考に行った。湿菌体重の5倍量の100mM Tris−HCl(pH7.3)緩衝液(1mM EDTA含有)に懸濁させ、超音波破砕後、遠心分離し、上清を回収した。上清に1%(w/v)ストレプトマイシン硫酸塩を加えて20分間放置した後、遠心分離し、核酸を沈澱画分として取り除いた。得られた上清に硫酸アンモニウムを加え、30から80%(w/v)で沈澱する画分を遠心分離して得た。得られた沈澱に上記緩衝液を加えて懸濁した後、透析チューブ(和光純薬社)に移し、蒸留水に対して透析を行った。透析後、液体窒素にて予備凍結を行い、続いて凍結乾燥機(東京理化器械社)にて凍結乾燥を行い、粗酵素粉末を得た。
DERAによる2DR5Pの分解反応によって生じるアセトアルデヒドをアルコール脱水素酵素でエタノールに変換させることとし、この時共役して減少するNADH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型)の量から2DR5P分解活性を算出した。
活性測定液(100mM Tris−HCl(pH7.5)、0.2mM 2DR5P、200U出芽酵母由来アルコールデヒドロゲナーゼ(シグマ社)、0.1mM NADH)に酵素液を加え1mlとし、40℃でのNADHの減少に伴う波長340nmの吸収度の減少を2分間測定した。40℃で1分間当たり1μmolのNADHを減少させる酵素量を酵素活性の1単位(U)と定義した。尚、NADHの340nmにおけるミリモル吸光係数は6.22mM−1cm−1とした。
J.Am.Chem.Soc.118、4322−4343(1996)を参照し、以下の反応でラセミ体の合成標品を作製した。
文献値(J.Am.Chem.Soc.121、669−685(1999))
1H NMR(400MHz CDCl3):δ7.34(m,5H),4.57(d,J=12.2Hz, 1H), 4.54(d,J=12.2Hz, 1H),4.23(quintet,J=5.6Hz, 1H),3.49(dd,J=4.6, 9.6Hz, 1H),3.44(dd,J=6.0, 9.6Hz, 1H), 2.99(br s, 1H),2.69(dd,J=7.3, 17.0Hz, 1H),2.63(dd,J=4.4, 17.1Hz, 1H),2.18(s, 3H, Me)
化合物の検出及び定量は、ガスクロマトグラフを用いて下記の条件にて行った。上記ラセミ合成標品のガスクロマトグラフチャートを図1に示す。
機器:島津社 GC−1700
カラム:DB−1(15m×0.53mm ID、J&W SCIENTIFIC INC)
カラム温度:200℃(4分)
インジェクション温度:250℃
検出器温度:290℃
線速度:30m/s
検出:水素炎イオン化検出器(FID)
J.Am.Chem.Soc.121、669−685(1999)に従い、下記条件下、HPLCを用いて化合物の光学純度を測定した。上記ラセミ合成標品のHPLCチャートを図2に示す。
ポンプ:島津社 LC−10AD
移動相:n−ヘキサン/イソプロパノール=95/5
流速:1ml/min
カラム:CHIRALCELL OJ 0.46cm×25cm(ダイセル社)
カラム温度:40℃
検出:島津社 SPD−10A、210nm
大腸菌由来DERAの立体構造が既に報告されている(Science 294,369−374,(2001))。Protein Data Bank(http://www.pdbj.org/index_j.html)より該当する立体構造データ(PDB ID :1JCJ)を取得した。立体構造中の基質2DR5Pを(S)−BHPに置換した。基質置換後の立体構造において、InsightII(Accelrys社)を用いた分子力学法(力場:CVFF、タンパク主鎖固定)による計算を実施し、エネルギー最小化構造を算出した(図3を参照)。計算結果を基にして以下の通り変異位置を決定した。
(1)基質(S)−BHPから3Å以内における、計算前後のタンパク立体構造の変化より、基質のベンゼン環付近に配置されるアミノ酸に注目し、238位セリン及び239位セリンを変異位置として選抜した(図4を参照)。
(2)活性中心(102位アスパラギン、167位リジン、201位リジン)近傍に配置されることとなる、基質(S)−BHPの末端メチル基を取り囲むアミノ酸に注目し、73位バリン、76位フェニルアラニン、139位イソロイシンを変異位置として選抜した(図4を参照)。
Overlap extention PCR法を利用した位置特異的アミノ酸飽和変異導入により、野生型DERAの238位及び239位のアミノ酸置換を試みた。尚、位置特異的アミノ酸飽和変異法は、タンパクの立体構造より、求める機能の関与する位置を推定し、アミノ酸飽和変異を導入する「Semi−rational,semi−random」手法として知られ、酵素の機能改変に利用されている(J.Mol.Biol.331,585−592(2003))。
(変異導入用断片1を増幅させるプライマーセット1)
M13 RVプライマー:5’-CAGGAAACAGCATTGAC(配列番号:6)
238&239_RVプライマー:5'-AGCGCCAAAGCGGTAGTGACGC(配列番号:8)
(変異導入用断片2を増幅させるプライマーセット2)
M13 M4プライマー:5’- GTTTTCCCAGTCACGAC(配列番号:5)
238&239_Fプライマー:5'-GTCACTACCGCTTTGGCGCTNNSNNSCTGCTGGCAAGCCTGCTGAA(配列番号:7)
次いで、得られた変異導入用断片1及び2をプライマーとして用いてOverlap extention PCRを行い、238位アミノ酸及び239位アミノ酸を変異位置とした改変型DERA遺伝子を取得した。反応にはKOD−Plus−DNAポリメラーゼ(東洋紡社)を使用し、以下の手順で行った。即ち、緩衝液を2.5μl、25mMの硫酸マグネシウムを1μl、各2mMのdNTP混合溶液を2.5μl、変異導入用断片1及び2をそれぞれ1ng、前記DNAポリメラーゼを0.5μl加えて、全量を25μlに調整した。市販の温度サイクリング装置(Thermal cycler タカラ製)にて94℃で2分間反応させた後、94℃で15秒、55℃で30秒、及び68℃で60秒からなる反応サイクルを合計10回行った。
反応終了後、さらに下記の反応液を加えて、PCRを実施した。即ち、緩衝液を2.5μl、25mMの硫酸マグネシウムを1μl、各0.2mMのdNTP混合溶液を2.5μl、10μMに調整したM13 M4プライマー(配列番号:5)及びM13 RVプライマー(配列番号:6)を各1.5μl、前記DNAポリメラーゼを0.5μl加えて、追加する反応液量を25μlに調整した。市販の温度サイクリング装置(Thermal cycler タカラ社)にて94℃で2分間反応させた後、94℃で15秒、55℃で30秒、及び68℃で60秒からなる反応サイクルを合計20回行った。
得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、目的の遺伝子を抽出・精製した。抽出・精製した遺伝子を上記と同様に制限酵素処理し、pUC18の該当するクローニングサイトにクローニングし、pUC18/dera238&239を得た。当該ベクターを用いて、上記と同様に大腸菌JM109を形質転換し、238位アミノ酸及び239位アミノ酸を変異位置とした改変型DERAライブラリーを構築した。
238位アミノ酸及び239位アミノ酸を変異位置とした場合と同様の手順で、73位及び76位を対象としたアミノ酸飽和変異導入を実施した。但し、73位及び76位に特異的に変異を導入するための断片(変異導入用断片1及び2)の作製には以下のプライマーセットを用いた。
(変異導入用断片1を増幅させるプライマーセット1)
M13 RVプライマー:5’-CAGGAAACAGCATTGAC(配列番号:6)
73&76_RVプライマー:5’- CGTAGCGATACGGATTTCC(配列番号:10)
(変異導入用断片2を増幅させるプライマーセット2)
M13 M4プライマー:5’- GTTTTCCCAGTCACGAC(配列番号:5)
73&76_Fプライマー:5’-GGAAATCCGTATCGCTACGNNSACCAACNNSCCACACGGTAACGACGACA(配列番号:9)
238位アミノ酸及び239位アミノ酸を変異位置とした場合と同様の手順で、139位を対象としたアミノ酸飽和変異導入を実施した。但し、139位に特異的に変異を導入するための断片(変異導入用断片1及び2)の作製には以下のプライマーセットを用いた。
(変異導入用断片1を増幅させるプライマーセット1)
M13 RVプライマー;5’-CAGGAAACAGCATTGAC(配列番号:6)
139_Rプライマー、5’-CACTTTCAGCAGTACATTCG(配列番号:12)
(変異導入用断片2を増幅させるプライマーセット2)
M13 M4プライマー;5’- GTTTTCCCAGTCACGAC(配列番号:5)
139_Fプライマー、5'-CGAATGTACTGCTGAAAGTGNNSATCGAAACCGGCGAACTGAA(配列番号:11)
238位アミノ酸及び239位アミノ酸を変異位置とした場合と同様の手順で、73位及び/又は76位変異DERA(バリアント1〜8)と、238位及び/又は239位変異DERA(バリアント11〜16)との変異組み合わせを実施した。但し、73位及び/又は76位に変異含む遺伝子断片、238位及び/又は239位に変位を含む変位断片(それぞれ変異組合せ用断片1及び2)の作製には以下のプライマーセットを用いた。
M13 RVプライマー:5’-CAGGAAACAGCATTGAC(配列番号:6)
alover-R1プライマー:5’-ACGGTTTTTTCTACGCCCAT(配列番号:13)
alover-F1プライマー:5’-ATGATGGAAGTGATCCGTGA(配列番号:14)
M13 M4プライマー:5’- GTTTTCCCAGTCACGAC(配列番号:5)
50μg/mlアンピシリン含有LB平板寒天培地上に生育した大腸菌(改変型DERAライブラリー)を1mlの培地(Terrific broth(50μg/ml アンピシリン、0.1mM IPTG含有))を加えた48穴培養プレート(日本ジェネティクス社)に接種した。接種した培養プレートを37℃恒温槽中で振盪培養した。培養開始18時間後に培養液を100μl、96wellマイクロプレートに分注し、分光計(テカン社)にて濁度を測定した(波長620nm)。残りの培養液を遠心(5000g、20分)して上清を取り除き、沈澱として菌体を得た。集菌した湿菌体に100μl CellLytic(SIGMA社)を加え溶菌し、粗酵素溶液とした。
新たな48穴培養プレートに粗酵素液(25μl)、緩衝液(100mM Bis-Tris pH7.3 1mM EDTA含有)、基質(100μl DMSOに、250μmolアセトン及び25μmolベンジルオキシアセトアルデヒドを溶解)を加え、24時間、30℃にて振盪させて反応を行った。反応終了後、50μlの5N塩酸および、3mlのアセトン(内部標準0.75mg/ml 3’,4’-dimethoxyacetophenoneを含む)を加えた。混合後、プレートを遠心し、上清をガスクロマトグラフ分析(2−6.の欄を参照)及びHPLC分析(2−7.の欄を参照)に供試した。これらの分析結果より、合成活性が高く且つ基質選択性にも優れた改変型DERAを産生する菌株を特定した。
以上のスクリーニングの結果得られた改変型DERA(バリアント1〜18)を図5の表に示す。この表に示すように、合成効率が高く、且つ立体選択性にも優れた改変型DERAを合計18種類、取得することに成功した。これらのバリアントはいずれも、野生型に比較して収率が向上している。また多くのバリアントではエナンチオマー過剰率の向上も認められる。この結果から、73位、76位、139位、238位、及び239位のアミノ酸置換がDERAの特性の改善に有効であることがわかる。一方、バリアント1〜4はエナンチオマー過剰率が90%以上であり、しかも収率が野生型よりも大幅に向上している。この結果から73位及び76位の置換が特に有効であるといえる。
本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
Claims (7)
- 以下の(1)〜(18)のいずれかのアミノ酸配列からなる、改変型2−デオキシリボース5−リン酸アルドラーゼ:
(1)配列番号:1のアミノ酸配列において、73位バリンがプロリンに置換されてなるアミノ酸配列;
(2)配列番号:1のアミノ酸配列において、73位バリンがシステインに置換され、76位フェニルアラニンがアルギニンに置換されてなるアミノ酸配列;
(3)配列番号:1のアミノ酸配列において、73位バリンがトレオニンに置換されてなるアミノ酸配列;
(4)配列番号:1のアミノ酸配列において、73位バリンがトレオニンに置換され、76位フェニルアラニンがチロシンに置換されてなるアミノ酸配列;
(5)配列番号:1のアミノ酸配列において、73位バリンがセリンに置換され、76位フェニルアラニンがトリプトファンに置換されてなるアミノ酸配列;
(6)配列番号:1のアミノ酸配列において、73位バリンがシステインに置換されてなるアミノ酸配列;
(7)配列番号:1のアミノ酸配列において、73位バリンがプロリンに置換され、76位フェニルアラニンがチロシンに置換されてなるアミノ酸配列;
(8)配列番号:1のアミノ酸配列において、73位バリンがトリプトファンに置換され、76位フェニルアラニンがトリプトファンに置換されてなるアミノ酸配列;
(9)配列番号:1のアミノ酸配列において、139位イソロイシンがバリンに置換されてなるアミノ酸配列;
(10)配列番号:1のアミノ酸配列において、139位イソロイシンがメチオニンに置換されてなるアミノ酸配列;
(11)配列番号:1のアミノ酸配列において、238位セリンがチロシンに置換され、239位セリンがメチオニンに置換されてなるアミノ酸配列;
(12)配列番号:1のアミノ酸配列において、238位セリンがグリシンに置換され、239位セリンがアスパラギンに置換されてなるアミノ酸配列;
(13)配列番号:1のアミノ酸配列において、238位セリンがアルギニンに置換され、239位セリンがグリシンに置換されてなるアミノ酸配列;
(14)配列番号:1のアミノ酸配列において、238位セリンがアラニンに置換され、239位セリンがロイシンに置換されてなるアミノ酸配列;
(15)配列番号:1のアミノ酸配列において、239位セリンがロイシンに置換されてなるアミノ酸配列;
(16)配列番号:1のアミノ酸配列において、238位セリンがグリシンに置換されてなるアミノ酸配列;
(17)配列番号:1のアミノ酸配列において、73位バリンがプロリンに置換され、76位フェニルアラニンがチロシンに置換され、238位セリンがアルギニンに置換され、239位セリンがグリシンに置換されてなるアミノ酸配列;
(18)配列番号:1のアミノ酸配列において、73位バリンがプロリンに置換され、76位フェニルアラニンがチロシンに置換され、238位セリンがアラニンに置換され、239位セリンがロイシンに置換されてなるアミノ酸配列。 - 請求項1に記載の改変型2−デオキシリボース5−リン酸アルドラーゼをコードする、単離された核酸。
- 請求項2に記載の核酸を保持するベクター。
- 請求項2に記載の核酸を保有する形質転換体(但し、ヒトを宿主とした形質転換によって得られるものを除く)。
- ベンゼン環に置換基を有するか又は無置換のベンジルオキシアセトアルデヒドからなるアクセプター基質と、炭素数3〜6のケトンからなるドナー基質とを、請求項1に記載の改変型2−デオキシリボース5−リン酸アルドラーゼを触媒としたアルドール反応で結合させることを特徴とする、β−ケトールの合成方法。
- 前記アクセプター基質が、以下の化学式で表される化合物である、請求項5に記載の合成方法、
- 前記基質がベンジルオキシアセトアルデヒドであり、前記ドナー基質がアセトンである、請求項5又は6に記載の合成方法。
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