JP4840837B2 - 旨味を有する新規ペプチド、及びそれを旨味成分とする調味料 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、魚醤中に存在し、旨味を有するトリペプチドおよびテトラペプチド、及びそれらを旨味成分とする調味料に関する。
【0002】
【従来の技術】
ペプチドがいろいろな食物の味に好ましい作用を有するということは周知である。日本酒(sake)から単離されるVal−GlnおよびIle−Glnジペプチドは、合成酒の完全さを向上させる(Kirimura, J., Shimuzu, A., Kimizuka, A., Ninomiya, 1, and Katsuya, N. (1969) The contribution of peptides and amino acids to the taste of foodstuffs. J Agric. Food Chem., 17, 689〜695)。グルタチオン(γ−Glu−Cys−Gly,GSH)は、牛肉エキス中のこく味(kokumi flavor)(持続性、こくおよび厚み)を増加させると報告されている(Ueda, Y, Yonemitsu, M, Tsubuku, 1, Sakaguchi, M, and Miyajima, R. (1997) Flavor characteristics of glutathione in raw and cooked foodstuffs. Biosci. Biotech. Biochem., 61, 1977〜1980)。Ishii ら(Ishii, K, Tsuchida, M., Nishimura, 1, Okitani, A., Nakagawa, A., Hatae, K, and Shimada, A. (1995) Changes in the taste and taste components of beef during heating at a low temperature for a long time. J Home Econ. Jpn., 46, 229〜234)も、高ペプチド含量の牛肉エキスは、低ペプチド含量のものより柔らかい味を与えると報告している。Mojarro-Guerra ら(Mojarro-Guerra, S. H., Amado, R., Arrigoni, R, and Solms, J. (1991) Isolation of low-molecular-weight taste peptide from vacherin mont d'Or cheese. J Food Sci., 56, 943〜947)は、チーズから単離される7種類のペプチドが、チーズの味全体を増加させることを報告している。これら食物中のペプチドは、若干の風味特性または味全体を高めると考えられる。Fujimaki ら(Fujimaki, M., Arai, S., Yamashita, M., Kato, H., and Noguchi M. (1973) Taste peptide fractionation from a fish protein hydrolysate. Agric. Biol. Chem., 37, 2891〜2898)は、魚タンパク質加水分解物中において、酸性オリゴペプチド画分が、顕著なだし味および好ましい後味を与えることを報告している。αキモトリプシンを用いたダイズタンパク質加水分解物は、だし味と僅かな苦味を有している(Arai, S., Yamashita, M., and Fujimaki, M. (1972) Glutamy]. oligopeptides as factors responsible for tastes of a proteinase-modified soybean protein. Agric. Biol. Chem., 36, 1253〜1256)。
【0003】
更に、いくつかのペプチドは、それら自体味を有すると報告されている。Ohyama ら(Ohyama, S., Ishibashi, N., Tamura, M., Nishizaki, H., and Okai, H. (1988) Synthesis of bitter peptides composed of aspartic acid and glutamic acid. Agric. Biol. Chem., 52, 871〜872)は、Gly−Asp、Asp−LeuおよびGlu−Leuのようないくつかのペプチドが旨味(umami taste)を示すことを報告している。N末端にグルタミン酸およびC末端にアスパラギン酸、グルタミン酸、セリンまたはトレオニンのような親水性アミノ酸を有する若干の合成ジペプチドも、旨味を有することが報告されている(Arai, S., Yamashita, M., Noguchi, M., and Fujimaki, M. (1973) Tastes of L-glutamyl oligopeptides in relation to their chromatographic properties. Agric. Biol. Chem., 37, 151〜156)。チロシン、フェニルアラニン、ロイシンまたはイソロイシンのような疎水性アミノ酸をC末端に有する同様のペプチドは、苦い味を有することも報告されている。
【0004】
Kirimura ら(1969、前出)は、いろいろな食品中で見出される60種類のオリゴペプチドの味を報告している。それらは、三群、すなわち、酸味、苦味およびほとんど味のない群に分類された。Ala−Asp、γ−Glu−GluおよびGly−Asp−Ser−Glyのようなペプチドは、酸味があり、Leu−Leu、Arg−ProおよびVal−Valのようなペプチドは苦く、Lys−Glu、Phe−PheおよびGly−Gly−Gly−Glyのようなペプチドはほとんど味がなかった。これらデータから、彼らは、酸味および苦味ジペプチドについての法則を発見した。彼らの法則によれば、酸味ジペプチドは、2個の酸性アミノ酸、酸性および中性のアミノ酸、または酸性および芳香族のアミノ酸から成った。もう一方で、苦味ジペプチドは、大きなアルキル基を持つ中性アミノ酸または大きいおよび小さいアルキル基の組合せを含む中性アミノ酸、中性および芳香族のアミノ酸、または中性および塩基性のアミノ酸の組合わせから成った。味のないジペプチドは、小さいアルキル基を含む2個のアミノ酸、酸性および塩基性アミノ酸、または2個の芳香族アミノ酸から構成された。彼らは、甘味アミノ酸から成るジペプチドGly−Gly、Gly−AlaおよびGly−Pro、およびLys−GluおよびArg−Gluのような酸性および塩基性のアミノ酸からなるものが、ほとんど味がないことを報告している。
【0005】
Arai ら(1973、前出)は、N末端にグルタミル残基を含有する12種類のジペプチドの味を、C末端アミノ酸に依って三群、すなわち、旨味群(Glu−Asp、Glu−Thr、Glu−Ser、Glu−Glu)、無味群(Glu−Gly、Glu−Ala、Glu−Pro、Glu−Val)および苦味群(Glu−Ile、Glu−Leu、Glu−Tyr、Glu−Phe)に分類した。
この分類は、C末端アミノ酸の性状および疎水性に依る。
【0006】
Ney(Ney, K. H. (1971) Prediction of bitterness of peptides from their amino acid composition. Z. Lebensm. Unters. Torsch., 147, 64〜68)によって報告された法則によれば、1.4kcal/molより高いQ値を有するペプチドは味が苦く、1.3kcal/molより低いQ値を有するものは苦くないと報告している。
【0007】
一方、Wang ら(Wang, K, Maga, J. A, and Bechtel, P. J. (1996) Taste properties and synergisms of beefy meaty peptide. J Food Science, 61, 837〜839)は、牛肉から得られた美味ペプチド(BMP、beefy meaty peptide)と、グルタミン酸一ナトリウム(MSG)および/または塩との間の相乗作用を報告している。Konosu(Konosu, S. (1993) Fish paste products. Tech. Res. J, 18, 450〜462 (in Japanese))も、塩がグリシン、アラニンおよびセリンの甘味を増加させたことを報告している。Arai ら(1973、前出)は、塩がペプチドGlu−gly−Serの旨味を増加させたことを示した。ペプチドの旨味は、MSGおよび/またはIMPの添加によって更に増加することも報告されている。
【0008】
これまでに、タンパク質加水分解物、またはチーズのような多数の発酵食品から、いろいろな苦味ペプチドが単離された(Shiba, T. and Nunami, K. (1974) Structure of a bitter peptide in casein hyrolyzate by bacterial proteinase. Tetrahedron letters, 6, 509〜512)。もう一方において、カゼイン加水分解物から単離されるジ−またはトリペプチドを含有するいくつかのグルタミン酸は、苦味を隠すことが報告された(Arai, S. (1981) Science of Taste, Asakura, Tokyo, pp. 185 (in Japanese))。これら上述のデータは、いろいろな種類のペプチドが、タンパク質加水分解物または発酵食品に極めて複雑な呈味作用を与えるということを明示している。
【0009】
一般に魚醤(フィッシュソース)と呼ばれている、魚介類を原料とした調味料は、東南アジアではニョクマム、ナン・プラー、パティス、日本ではいしる、しょっつる、いかなご醤油等が著名である。これらは、小魚やエビ等魚介類原料に食塩を20〜30%添加し樽に漬け込み、1〜2年間放置することにより、内臓に含まれる自己消化酵素によってタンパク質が分解され、液化したものを採取して製品としている。この方法によって作られる魚醤は、独特の旨みに富んでいる。
【0010】
魚醤は、長い発酵期間中に生じた多量のペプチドを含有している。Miyazawa ら(Miyazawa, K, Le, C, Ito, K, and Matsumoto, R (1979) Studies on Fish Sauce. J Fac. Appl. Biol. Sci., Hiroshima Univ., 18, 55〜63)は、魚醤から3種類のペプチドを精製した。これらペプチドは、Gly−Pro、Ala−GlyおよびGly−Glyであったが、それらの味は記載されておらず、魚醤の味に関与するペプチドについては解明されていない。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、魚醤の深い且つ複雑な味に関与しているペプチドを単離・同定し、それらを旨味成分とする、魚醤の旨味を有しかつ魚醤特有の臭気が改善された調味料を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決するため、魚醤中の旨味成分を詳細に検討した結果、特定のペプチドが魚醤の深い且つ複雑な味に関与していることを見いだした。また、それらのペプチドを調味料の旨味成分として利用しうることが見いだされ、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、魚醤中から単離される特定のトリペプチドおよびテトラペプチドからなる旨味成分を提供する。
魚醤中の旨味成分は、適当な分離カラムを用いて魚醤から分離することができる。魚醤試料を、塩酸溶液等を添加することにより希釈し、pH5以下の酸性溶液とし、イオン交換樹脂、例えばDowex 50Wx4(200〜400メッシュ,H+型)のカラムに充填し、脱イオン水を用いて、流出液が中性域(pH6〜8)に達するまで洗浄する。魚醤中に存在する食塩および有機酸はカラムに吸着されず、アミノ酸およびペプチドと分離することができる。吸着したアミノ酸およびペプチドを、アルカリ溶液、例えば3N NH4OHを用いてカラムから溶離する。溶離液を、真空中で蒸発乾固させ、残留物を脱イオン水中に溶解させる。この溶液を、イオン交換樹脂、例えばDowex 1x8(100〜200メッシュ,酢酸型)カラム(5x30cm)に加え、脱イオン水を用いて洗浄する。水を用いて溶離した画分を、真空中で蒸発乾固させ、脱イオン水中に溶解させる。吸着した物質を、酸性溶液、例えば2N酢酸を用いて溶離させる。酢酸塩を除去するために、その溶離液を真空中で蒸発乾固させた後、脱イオン水に溶解させる。こららの操作により、アミノ酸およびペプチドからなる二つの画分を得ることができる。
【0014】
更にそれぞれの画分を、限外濾過膜を用いて分子量により複数の画分に分けることができる。例えば、用いる限外濾過膜のカットオフ値を300〜700Daとすれば、アミノ酸及びジペプチドを主に含む画分とトリペプチド以上を主に含む画分とに分離することができる。濾過に際しては、加圧下、例えば2〜5kg/cm2の条件下にて行うのが好ましい。
【0015】
上記画分から更に、適当な分離カラム、例えばオクタデシルシリカ(ODS)カラムを用いてペプチドおよびアミノ酸を単離することができる。ペプチドおよびアミノ酸の溶出は、UV検出器によって検出することができる。溶離されるピークをフラクション毎に集めることにより、目的とするペプチドを回収することができる。
【0016】
精製されたペプチドのアミノ酸配列は、プロテインシークエンサー(例えば、476A,Applied Biosystems Inc., フォスター)を用いて分析することができる。
【0017】
分子質量測定は、質量分析計(例えば、JEOL SX−102質量分析計(JEOL,Ltd.,東京))を用いて行うことができる。
得られたペプチドが本発明のペプチドであることを確認するために行う官能評価は、合成または分離されたペプチドを、脱イオン水(5mM)中に溶解させ、数滴の希NaOHまたはHClを用いて、pHを5〜7に調整し、任意に選出したパネルメンバーによって行うことができる。また、評価は塩存在下および塩不存在下で味が異なることも考えられるため、塩存在下および塩不存在下で実施する。塩存在下の評価は、例えば、食塩 0.1〜0.6%溶液中で行うのが好ましい。
【0018】
本発明の特に好ましい旨味成分であるトリペプチドおよびテトラペプチドは、Tyr−Pro−Orn、Val−Pro−Orn、Gly−Pro−Orn−Gly、Val−Pro−Glu、Glu−Met−Pro、及びAsp−Met−Proから選ばれる一種又は二種以上の混合物である。
【0019】
一方、上記のようにして魚醤中の旨味成分として特定されたペプチドは、ペプチド合成機を用いた固相法、または液相法によって合成することができる。
合成されたペプチドの精製は、公知の方法、例えば液体クロマトグラフを用いて、カラム分離することにより行うことができる。
【0020】
本発明の特徴の一つは、魚醤中に発見された旨味成分であるトリペプチドおよびテトラペプチドが、食塩が存在しないときは顕著な旨味を呈しないが、塩存在下で旨味性を有することである。そのような旨味成分は、上記6種以外にも種々存在すると思われる。
【0021】
これらの旨味ペプチドを単離するために用いる魚醤原料としては、例えば、これらに限定するわけではないが、東南アジアではニョクマム、ナン・プラー、パティス、日本ではいしり、しょっつる、いかなご醤油等が使用できる。上記魚醤の他、いかなる魚醤であっても原料として用いることができるが、ペプチド含量の高い魚醤を用いるのが好ましい。
【0022】
本発明における調味料とは、ニョクマム、ナン・プラー、パティス、いしる、しょっつる、又はいかなご醤油等の魚醤をはじめとする魚介エキス、だし、畜肉エキス、ブイヨン等の蛋白分解エキス、抽出エキス、みそ、醤油等であり、これらの調味料に旨味成分として本発明の旨味成分であるトリペプチドおよびテトラペプチドを添加することもできる。また、本発明の旨味成分であるトリペプチドおよびテトラペプチドを、グルタミン酸ナトリウムのように調味料として用いることもできる。
【0023】
本発明において調味料とは、粉末状または液体状の何れであってもよい。
本発明の旨味成分であるトリペプチドおよびテトラペプチドを旨味成分として調味料中に添加する場合の添加濃度は、1mg〜10g/100mlの範囲が好ましい。具体的には、調味料を添加する食品を考慮して定められる。
【0024】
本発明の旨味成分であるトリペプチドおよびテトラペプチドを旨味成分とする調味料を用いることができる食品は、特に制限されないが、おでんつゆの他、はんぺん、蒲鉾、ちくわ等の水産練製品;ハム、ソーセージ、ベーコンなど畜肉加工品;肉団子、ハンバーグ、ミートボールなどの肉製品;キムチ、浅漬け、らっきょう等の漬物類;肉まん、餃子、シュウマイ、春巻き、焼きそば、焼きめし、ふりかけ、珍味、佃煮、せんべい、あられ、スナック菓子、ソース、インスタントラーメンスープ、カップ麺スープ、ブイヨン、ルー、麺類つゆ、たれ等がある。
【0025】
【実施例】
以下、本発明に関して、実施例を示して説明する。
実施例1
分画
分画スキームを図1に示す。ベトナム製魚醤試料(100mL)を、900mLの0.5M HClを用いて希釈し、Dowex 50Wx4(200〜400メッシュ,H+型)のカラム(5x30cm)に充填し、脱イオン水を用いて、流出液が中性のpHに達するまで洗浄した。吸着したアミノ酸およびペプチドを、3N NH4OHを用いて溶離した。溶離液を、アンモニアを除去するために真空中で蒸発乾固させ、残留物を脱イオン水中に溶解させた。この溶液を、Dowex 1x8(100〜200メッシュ,酢酸型)カラム(5x30cm)に加え、脱イオン水を用いて洗浄した。水を用いて溶離した画分を、真空中で蒸発乾固させ、脱イオン水中に溶解させて100mLとした(フラクションB,中・塩基性画分)。吸着した物質を、2N酢酸を用いて溶離させた。酢酸塩を除去するために、その溶離液を真空中で蒸発乾固させた後、脱イオン水を用いて元の容量(100mL,フラクションC,酸性画分)にし、pH5.62に調整した。
【0026】
それぞれの画分(フラクションBおよびC)を、図2に示されるように、限外濾過膜(YC05,Amicon,Inc.,ビバリー)を用いて濾過した。用いられる膜の分子排除限界は、500Daであった。窒素圧を3.5kg/cm2で調節した。限外濾過後、4つの画分を得た。フラクションB(中・塩基性画分)から得られたのは、低分子(フラクションBL)および高分子(フラクションBH)重量画分であった。フラクションC(酸性画分)からの低分子(フラクションCL)および高分子(フラクションCH)重量画分も得られた。それら画分を全て、真空中で蒸発乾固させ、脱イオン水を用いて元の魚醤容量(100mL)とし、希HClまたはNaOHを用いてそれらのpHを5.62に調整後、官能評価に用いた。
【0027】
各画分のアミノ酸分布
ベトナム製魚醤は、結合アミノ酸、特に、アスパラギン酸、グルタミン酸、プロリン、グリシン、リシンおよびヒスチジンが多かった。それら含量の合計は、全結合アミノ酸の76%(4,296mg/100mL)であった。表1は、500Daより小さい(フラクションBL)および大きい(フラクションBH)分子量を有する中・塩基性画分、および500Daより小さい(フラクションCL)および大きい(フラクションCH)分子量を有する酸性画分のそれぞれの加水分解前後のアミノ酸組成を示す。加水分解は常法に準じ、6N HCl、110℃16時間の条件にて実施した。
【0028】
加水分解前の高分子画分、フラクションBHおよびCHにおいて、残留する全アミノ酸は、加水分解前の低分子画分それぞれの場合の僅か10%未満であり、限外濾過の結果として、アミノ酸がほぼ充分に分離されたことが示唆された。フラクションBHおよびBLの加水分解後、増加した全アミノ酸含量は、それぞれ740および586mg/100mLであった。酸性画分のフラクションCHおよびCLについて、その値はそれぞれ512および195mg/100mLであった。したがって、高分子画分、フラクションBHおよびCHは、低分子画分、フラクションBLおよびCLよりも多くのペプチドを含有していた。
【0029】
【表1】
Figure 0004840837
【0030】
図3および4は、高分子画分、フラクションBHおよびCHの加水分解前後の主な増加アミノ酸含量を示す。中・塩基性高分子画分(フラクションBH)の場合、増加したアスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、リシンおよびヒスチジンは、全増加アミノ酸の80%であった。アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、リシンおよびヒスチジンの増加は、それぞれ、72、136、82、226および70mg/100mLとなり、それぞれ、加水分解後の全増加アミノ酸の10、18、11、30および9%に相当した(図3)。
【0031】
酸性高分子画分(フラクションCH)の場合、増加したアスパラギン酸、グルタミン酸、グリシンおよびヒスチジンは、全増加アミノ酸の70%であった。アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシンおよびヒスチジンの増加は、それぞれ、131、148、42および38mg/100mLとなり、それぞれ、加水分解後の全増加アミノ酸の26、29、8および7%に相当した(図4)。
【0032】
実施例2
ペプチド画分の官能評価
表2は、単純合成エキスの組成を示す。
【0033】
単純合成エキスは、魚醤の呈味有効成分であると確認された11種の化合物(グルタミン酸、アスパラギン酸、アラニン、プロリン、トレオニン、バリン、ヒスチジン、チロシン、シスチン、メチオニン、およびピログルタミン酸)を魚醤中の濃度になるように混合したもので、魚醤の味を良く再現している。グルタミン酸含量が極めて高いため、高および低グルタミン酸合成エキスの両方について官能試験を行い、グルタミン酸含量の影響を見た。
【0034】
表3は、単純合成エキスに加えられるペプチド画分の寄与に関する官能評価の結果を示す。中・塩基性高分子画分(フラクションBH)および酸性高分子画分(フラクションCH)を、低および高グルタミン酸11成分単純合成エキスに加えた。数値は、味および風味特性それぞれの項目についてのt値である。それら値は、その値が0より大きいほど、味は強くなり、その値が0より小さいほど、味は弱くなることを意味している。
【0035】
【表2】
Figure 0004840837
【0036】
【表3】
Figure 0004840837
【0037】
低および高グルタミン酸単純合成エキスへの中・塩基性高分子画分(フラクションBH)の添加は、甘味を大きく増加させたが、それは、低グルタミン酸エキスの場合、高グルタミン酸エキスの場合より大きかった。酸性高分子画分(フラクションCH)の添加により、甘味は僅かに減少したが、酸味は、まろらかさの減少と共に著しく増加した。両方の画分とも、苦味、高グルタミン酸エキスのフラクションCHの場合を除く旨味、持続性、先味および後味を有意に増加させた。渋み、こくおよび伸びも、フラクションCHの添加によって増大した。これら結果から、高分子画分(フラクションBHおよびCH)中のペプチドは、魚醤の味および風味特性に大きく貢献したということが明らかである。
【0038】
実施例3
ペプチドの単離
実施例1の魚醤画分それぞれを、オクタデシルシリカ(ODS)カラム(Inertsil ODS−3,4.6x250mm,GL Sciences Inc., 東京)クロマトグラフィーに付した。溶離は、0.05%TFA含有アセトニトリルで150分以内に0〜20%の直線勾配によって0.7mL/分の流量で行った。ペプチドおよびアミノ酸を、UV検出器によって215nmで検出した。溶離される主要ピークをフラクションコレクターによって集めた。注入量は20μLであったが、更に別の分析用に実質的な量を得るために、注入を5回繰り返した。これらプールされたピークを凍結乾燥させ、300μLの脱イオン水中に溶解させた。
【0039】
3種類のペプチドを、図5に示される中・塩基性高分子画分(フラクションBH)から単離した。これらペプチドは、プロテインシークエンサー(476A,Applied Biosystems Inc., フォスター)によって、Tyr−Pro−Orn、Val−Pro−OrnおよびGly−Pro−Orn−Glyと確認された。オルニチンが、これらトリペプチドの共通成分であるということは興味深い。オルニチンは、タンパク質中には取り込まれないということは周知である。したがって、これらペプチドは、抗生物質のような細菌生産物に由来しうる。中・塩基性低分子画分(フラクションBL)からは、一つのペプチドだけが単離され、プロテインシークエンサー(476A,Applied Biosystems Inc., フォスター)によってAla−Proと確認された(図6)。図7に示される酸性高分子画分(フラクションCH)から単離されたペプチドはなかったが、図8に示される酸性低分子画分(フラクションCL)からは、13種類のペプチドが単離された。これらピークからの10種類のジペプチドは、プロテインシークエンサー(476A,Applied Biosystems Inc., フォスター)によってAsp−Glu、Asp−Pro、Asp−Phe、Glu−Pro、Glu−Phe、Gly−Phe、Gly−Tyr、Val−Pro、Tyr−ProおよびPhe−Proと確認された。3種類のトリペプチドも、プロテインシークエンサー(476A,Applied Biosystems Inc., フォスター)によってAsp−Met−Pro、Glu−Met−ProおよびVal−Pro−Gluと確認された。
【0040】
上記のように、魚醤画分から17種類のペプチドが単離され且つ確認された。これらジペプチドの多くが、トリペプチドのC末端または中心にプロリンを含有していたことは興味深い。魚あるいは微生物由来のプロテイナーゼおよびペプチダーゼは、プロリンのN末端ペプチド結合をほとんど加水分解できないということが示唆されうる。
【0041】
初期保持時間成分の検討
図5〜8に示されるクロマトグラムにおいて、より初期の保持時間の領域(先端ピーク)には、多数の小さいピークが存在した。したがって、他のペプチドの存在を確かめるために、その先端ピークを集め、加水分解前後のアミノ酸分析に用いた。図9は、加水分解前後の中・塩基性高分子画分(フラクションBH)からの先端ピーク中の結合アミノ酸を示す。アスパラギン酸、グルタミン酸、プロリン、グリシンおよびリシンの5種類のアミノ酸が、その画分の先端ピーク中の主要成分として確認された。アスパラギン酸およびグルタミン酸は、加水分解後に、それぞれ13倍および19倍まで増加した。グリシンおよびリシンも、加水分解後に、それぞれ11倍および15倍まで増加した。図10は、中・塩基性低分子画分(フラクションBL)からの先端ピークに関するデータを示す。この場合、プロリン、グリシン、アラニン、バリン、リシンおよびヒスチジンの多数のアミノ酸が、加水分解後に増加した。最大の増加は、プロリンおよびグリシンで見られ、それぞれ、34倍および14倍まで増加した。
【0042】
図11は、酸性高分子画分(フラクションCH)からの先端ピークに関するデータを示す。加水分解後に増加したアミノ酸の量はかなり多く、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、リシンおよびヒスチジンは、加水分解後に多量に見出された。これらの結果から、これら画分中には、上述のように単離され且つ確認されたもの以外にも多数の他の種類のペプチドが存在するということが明らかである。
【0043】
先端ピークの分析は、初めの15分以内のピーク分離がほぼ充分であったので、酸性低分子画分(フラクションCL)(図8)の場合は行わなかった。
【0044】
実施例4
ペプチドの合成
試薬
ジペプチド、トリペプチドおよびテトラペプチドの合成には、9−フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)アミノ酸、Fmoc−Glu(OtBu)・H2O、Fmoc−Gly、Fmoc−Pro、Fmoc−Tyr(tBu)、Fmoc−Val、Fmoc−MetおよびFmoc−Asp(OtBu)を、Peptide Institute,Inc., 大阪から購入した。Fmoc−Orn(Boc)−OH、H−Pro−OtBu・HClおよびH−Glu(OtBu)−OtBu・HClは、Noba Biochem Co., シュヴァルバッハから入手した。Fmoc−アミノ酸樹脂として、TentaGel S Trt−Orn(Boc)Fmocを、Fluka Chemika Co., ブフスから入手した。Fmoc−Gly−CLEAR酸およびFmoc−Phe−CLEAR酸樹脂は両方とも、Peptide Institute,Inc., 大阪から購入した。
【0045】
カップリングおよび脱保護剤用の試薬として、2−(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸(HBTU)、N−ヒドロキシベンゾトリアゾール・H2O(HOBt)およびベンゾトリアゾール−1−イルオキシトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロリン酸(BOP)は、Noba Biochem Co., シュヴァルバッハから入手した。ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)、ピペリジン、脱水N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)およびN−メチルモルホリン(NMM)は、Kanto Chemical Co.,Inc., 東京から購入した。トリフルオロ酢酸(TFA)は、Wako Pure Chemical Industries,Ltd., 大阪から購入した。他の試薬は、分析用等級のものであり、Wako から入手した。
【0046】
固相法
ペプチドを、ペプチド合成機(PSSM−8システム,Shimadzu,京都)を用いた固相法によって合成した。Fmoc−アミノ酸樹脂は、DMFを用いて予め洗浄した。Fmoc−アミノ酸を、次のカップリングサイクルを用いて逐次的にカップリングさせた。1.DMF洗浄(2x2分);2.30%(v/v)ピペリジン/DMF洗浄(5分);3.DMF洗浄(5x2分);4.カップリング工程(30分);5.DMF洗浄(2x2分)。アミノ酸のカップリングには、Fmoc−アミノ酸それぞれをDMF中に溶解させた後、HBTU、HOBtおよびDIEAの試薬混合物を用いて活性化させ、そして反応容器中に移した。カップリング反応は30分間続けた。反応後ピペリジンを用いた末端Fmocの切断し、その樹脂を、DMF(2回)、メタノール(5回)およびtert−ブチルメチルエーテル(2回)を用いて洗浄後、真空中で注意深く1時間乾燥させた。ペプチド樹脂を、94%TFA、5%アニソールおよび1%エタンジオールの混合物と一緒に3時間撹拌することによって、ペプチドを切断し且つ保護基をはずした。その混合物を濾過し、TFAを用いて樹脂を2回洗浄した。合わせた濾液を冷エーテルと直接混合した。ペプチドを−20℃で2時間完全に沈澱させ、遠心分離によって集めた。その生成物を、冷エーテルを用いて2回洗浄し、遠心分離によって集めた後、真空中で充分に乾燥させた。
【0047】
上記の方法により、Tyr−Pro−Orn(19.5mg)、Val−Pro−Orn(16.7mg)、Gly−Pro−Orn−Gly(22.9mg)およびGlu−Phe(13.0mg)を合成した。
【0048】
液相法
下記の3種類のトリペプチドは、上記固相法では正しく合成されなかった。したがって、これらペプチドを液相法によって合成した。
【0049】
Val−Pro−Glu.
Fmoc−Val(339mg)およびPro−OtBu・HCl(171mg)のDMF(3mL)溶液に、3種類の試薬BOP(663mg)、HOBt(200mg)およびNMM(0.1mL)を0℃で加え、その混合物を室温で20時間撹拌した。溶媒を凍結乾燥によって除去後、その反応混合物を、EtOAcを用いて希釈し、10%クエン酸、H2O、飽和NaHCO3、H2Oおよび飽和NaClを用いて逐次的に洗浄し、MgSO4上で乾燥させ、真空中で濃縮した。その残査をシリカゲルクロマトグラフィー(Kieselgel 60,3.5x10cm,ヘキサン−EtOAc)に付して、Fmoc−Val−Pro−OtBu(190mg;37%収率)を得た。
【0050】
このFmoc−Val−Pro−OtBu(100mg)を、TFA(2mL)中に室温で溶解させ、1時間撹拌した。溶媒を凍結乾燥によって除去後、その反応混合物をシリカゲルクロマトグラフィー(Kieselgel 60,3.5x10cm,ヘキサン−EtOAc,EtOAc−MeOH)に付して、Fmoc−Val−Pro・OH(88mg;99%収率)を得た。
【0051】
上のジペプチド(88mg)およびGlu(OtBu)OtBu・HCl(51.8mg)のDMF(2mL)中溶液に、BOP(133mg)、HOBt(41mg)およびNMM(0.1mL)を0℃で加え、その混合物を上述のように反応させ且つ処理して、Fmoc−Val−Pro−Glu(OtBu)OtBu(82.8mg;59%収率)を得た。
【0052】
保護されたトリペプチドをTMF(2mL)中に室温で溶解させ、2時間撹拌した。溶媒を凍結乾燥によって除去後、残査をピペリジン(3mL)中に溶解させ、室温で3時間撹拌した。溶媒を凍結乾燥によって除去後、その反応混合物を逆相HPLCに付して、Val−Pro−Glu(39.6mg;95%収率)を得た。
【0053】
Glu−Met−Pro.
Fmoc−Met(371mg)およびPro−OtBu・HCl(171mg)のDMF(3mL)中溶液に、BOP(663mg)、HOBt(270mg)およびNMM(0.1mL)を0℃で加え、その混合物を上のように反応させ且つ処理して、Fmoc−Met−Pro−OtBu(230mg;44%収率)を生じた。このようにして得られたFmoc−Met−Pro−OtBu(120mg)を、DMF(1mL)およびピペリジン(1mL)中に溶解させ、上のように反応させて、H−Met−Pro−OtBu(65mg;94%収率)を生じた。上のジペプチド(65mg)およびFmoc−Glu(OtBu)・OH(194mg)をDMF(2mL)中に溶解させ、上のように反応させて、Fmoc−Glu(OtBu)−Met−Pro−OtBu(181.9mg;70%収率)を得た。
【0054】
この保護されたトリペプチドを、TFA(2.7mL)および0.3mLの硫化エチルメチル(Guttmann & Boissonnas,1959年)中に溶解させ、上のように処理して、Glu−Met−Pro(57.6mg;60%収率)を得た。
【0055】
Asp−Met−Pro.
上記のように合成されたFmoc−Met−Pro−OtBu(110mg)を、基本的に上述の記載手順にしたがって、Asp−Met−Pro(28.6mg;65%収率)の合成に用いた。
【0056】
実施例5
合成されたペプチドの精製
合成されたペプチドの精製は、Shimadzu LC−6AD液体クロマトグラフ(Shimadzu,京都)を用いて、Inertsil ODS−3カラム(10x250mm,GL Sciences Inc., 東京)により、室温において、40分間で0.05%TFA含有アセトニトリルの0〜20%の直線勾配により2mL/分の流量で行った。ペプチドを215nmで検出した。主要画分を集め、凍結乾燥させた。
【0057】
分析用HPLCに関して、用いられるシステムは、2個の Shimadzu ポンプ(LC−6AD)、UV分光光度計検出器(SPD−6A)およびシステムコントローラー(SCL−6B)から成る。
【0058】
実施例6
官能評価
合成されたペプチドを、脱イオン水(5mM)中に溶解させ、数滴の希NaOHまたはHClを用いて、pHを6.02に調整した。これらペプチドの官能評価は、女性2人、男性1人の3人のパネルメンバーによって行った。
【0059】
単離された17種類のペプチドの内、8種類のペプチドは商業的に入手可能であった。Ala−Pro、Asp−Glu、Asp−Phe、Gly−Phe、Gly−Tyr、Val−Pro、Tyr−ProおよびPhe−Proのような商業的に入手可能なジペプチドは、Bachem Co., ブベンドルフから入手し、官能評価に用いた。一つのジペプチドGlu−Phe、二つのトリペプチドおよび一つのテトラペプチドを、ペプチド合成機で合成した。3種類の他のトリペプチドは、液相法によって合成した。これら合成されたペプチド、Tyr−Pro−Orn(MW,392)、Val−Pro−Orn(MW,328)、Gly−Pro−Orn−Gly(MW,343)、Glu−Phe(MW,294)、Val−Pro−Glu(MW,343)、Glu−Met−Pro(MW,375)およびAsp−Met−Pro(MW,361)を、図12〜18に示される質量分析によって更に確認した。質量スペクトルはいずれも、これらペプチドの推定構造を充分に支持した。次に、これらペプチドを、食塩の存在下および非存在下において官能評価に用いた。
【0060】
合成されたいくつかのペプチドは量が少なかったので、これらペプチドを5mM水溶液として調べた。Asp−ProおよびGlu−Proについての官能評価は、それらの得られた量が不充分なために行わなかった。
【0061】
塩非存在下での評価
塩の非存在下において、苦味または酸味、旨味、またはほとんど無味を示した。魚醤中のプロリン含有ジペプチドの内、Phe−Proだけは苦味を与えた(表4)。プロリンを含有する5種類のトリペプチドの内、Tyr−Pro−OrnおよびVal−Pro−Ornは苦味を有した。
【0062】
塩存在下での評価
これらペプチドの味への塩の作用は、0.3%食塩の存在下で決定した(表4)。ほとんど全てのペプチドが、先味に甘みを示し、そしてVal−Pro−Orn、Glu−Met−ProおよびGly−Tyrを除いて、後味として旨味を有した。前者二つは先味に旨味を、後味に甘味を与えたが、最後の一つは、甘味だけを与えた。興味深いことに、塩の存在下におけるこれら甘味および旨味は、塩の非存在下の味とはほとんど無関係であった。つまり、食塩非存在下では甘みおよび旨味をほとんど示さなかったが、食塩存在下では甘みおよび旨味を示した。魚醤は高濃度の塩を含有しているので、これらペプチドは、魚醤の甘味および旨味の原因となっているといえる。これらデータは、ペプチド画分が合成エキスの甘味、旨味または酸味、更には、他の風味特性を増加させた前のデータ(表3)と充分に一致していた。
【0063】
【表4】
Figure 0004840837
【0064】
官能評価結果の考察
いくつかのペプチドについては、表4に示されるように、呈味作用が既に報告されている(Kirimuraら(1969、前出); Araiら(1973、前出); Noguchi, M., Arai, S., Yamashita, M., Kato, H., and Fujimaki M. (1975) Isolation and identification of acidic oligopeptides occurring in a flavor potentiating fraction from a fish protein hydrolysate. J Agric. Food Chem., 23, 49〜53.; Hessel, P. (1999) Amino acids, peptides, proteins. In Food Chemistry, (Belitz, H.-D. and Grosch, W, Ed.) 2nd ed. Springer, New York, pp. 8〜91)。これらペプチドの呈味特性は、食塩の非存在下において、酸味/旨味、旨味、無味(ほとんど味のない)、甘味および苦味に分類された。酸味ペプチドには、Asp−Glu、Tyr−ProおよびVal−Pro−Gluが含まれた。ほとんど無味なペプチドは、Gly−Pro−Orn−Gly、Asp−Phe、Glu−PheおよびGlu−Met−Proであった。甘味を有するペプチドは、Val−Proだけであり、旨味を有するものにも、Asp−Met−Proだけが含まれた。苦味ペプチドには、Tyr−Pro−Orn、Val−Pro−Orn、Ala−Pro、Gly−Phe、Gly−TyrおよびPhe−Proが含まれた。
【0065】
Ishibashi ら(Ishibashi, N., Kubo, M, Chino, M., Fukui, E, Shinoda, L, Kikuchi, E., Okai, R, and Fukui, S. (1988) Taste of proline-containing pepties. Agric. Biol. Chem., 52, 95〜98)は、プロリン含有ジペプチドが苦味を示したことを報告している。同じQ値を有するPro−GlyおよびGly−Proの味は、互いに異なっていた。前者は無味であったが、後者は苦味を有していた。彼らは、ペプチドの苦さにおけるプロリン残基の最も有意の役割が、プロリン分子のピロリジン環のためにペプチド骨格を折りたたむことによるペプチド分子の立体配座変更に依存していると報告している。したがって、本発明のトリペプチドの苦さは、このαイミノ酸によるそれらの分子の立体配座に由来しうる。
【0066】
若干のペプチドは、Asp−Phe、Glu−Phe、Val−ProおよびTyr−Proの味に見られるように、報告された味とはかなり異なった味を示した(表4)。その違いは、ペプチドの濃度または試験液のpHの違いに由来しうる。本実施例において、ペプチド溶液のpHは、官能評価の前に6.02に調整したが、報告されたジペプチド官能試験には、pHに関する記載はなかった。Wangら(Wang, K, Maga, J. A, and Bechtel, P. J. (1996) Taste properties and synergisms of beefy meaty peptide. J Food Science, 61, 837〜839)は、牛肉ペプチド(BMP)へのpHの作用を報告している。pH3.5での味は酸味であるが、pH6.5ではそれが旨味に変わり、そしてpH9.5では、旨味と共に甘味および塩辛味が現れた。濃度の異なるペプチド溶液についての官能評価は、合成されたペプチドの量が不充分であったので、行うことができなかった。
【0067】
Ney(1971、前出)によって報告された法則によれば、1.4kcal/molより高いQ値を有するペプチドは味が苦く、1.3kcal/molより低いQ値を有するものは苦くない。Q値の計算を、表3に示されるペプチドについて行った場合、1.4kcal/molより高いQ値を有するペプチドには、Ala−Pro、Asp−Pro、Asp−Phe、Glu−Pro、Glu−Phe、Gly−Tyr、Val−Pro、Tyr−Pro、Phe−Pro、Asp−Met−Pro、Glu−Met−ProおよびVal−Pro−Gluが含まれた。これらのペプチドの内、Ala−Pro、Gly−TyrおよびPhe−Proだけが苦味を示した。したがって、上述のNeyによって報告された法則は、全てのペプチドに当てはまらないかもしれないが、呈味は、濃度依存性でありうる。
【0068】
前出のKirimura ら(1969年)の法則に関しては、魚醤中で見出される若干のジペプチドは、この法則に従う。例えば、Asp−Gluは酸味を示し、Gly−PheおよびGly−Tyrは苦味を示した(表4)。
【0069】
前出のArai ら(1973年)の分類に関しては、Glu−Pheは苦味ジペプチドに分類されるが、それは、本評価ではほとんど味がないと判定されており(表4)、5mM濃度のGlu−Pheは、このジペプチドの閾値未満であったことが示唆される。
【0070】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、魚醤の深い且つ複雑な味に関与しているペプチドを旨味成分とする、魚醤の旨味を有しかつ魚醤特有の臭気が改善された調味料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は、Dowexイオン交換体による魚醤試料の分画フローを示す。
【図2】 図2は、限外濾過による魚醤画分の分別フローを示す。
【図3】 図3は、500Daより大きい分子量を有する中・塩基性画分(フラクションBH)の加水分解前後のアミノ酸含量を示す。
【図4】 図4は、500Daより大きい分子量を有する酸性画分(フラクションCH)の加水分解前後のアミノ酸含量を示す。
【図5】 図5は、500Daより大きい分子量を有する中・塩基性画分(BH)のHPLCプロフィールを示す。
【図6】 図6は、500Daより小さい分子量を有する中・塩基性画分(BL)のHPLCプロフィールを示す。
【図7】 図7は、500Daより大きい分子量を有する酸性画分(CH)のHPLCプロフィールを示す。
【図8】 図8は、500Daより小さい分子量を有する酸性画分(CL)のHPLCプロフィールを示す。
【図9】 図9は、中・塩基性高分子画分(フラクションBH)からの先端ピークの加水分解前後のアミノ酸含量を示す。
【図10】 図10は、中・塩基性低分子画分(フラクションBL)からの先端ピークの加水分解前後のアミノ酸含量を示す。
【図11】 図11は、酸性高分子画分(フラクションCH)からの先端ピークの加水分解前後のアミノ酸含量を示す。
【図12】 図12は、合成されたTyr−Pro−Ornのポジティブマススペクトルを示す。
【図13】 図13は、合成されたVal−Pro−Ornのポジティブマススペクトルを示す。
【図14】 図14は、合成されたGly−Pro−Orn−Glyのポジティブマススペクトルを示す。
【図15】 図15は、合成されたGlu−Pheのポジティブマススペクトルを示す。
【図16】 図16は、合成されたVal−Pro−Gluのポジティブマススペクトルを示す。
【図17】 図17は、合成されたGlu−Met−Proのポジティブマススペクトルを示す。
【図18】 図18は、合成されたAsp−Met−Proのポジティブマススペクトルを示す。

Claims (6)

  1. Tyr−Pro−Orn、Val-Pro-Orn、Gly−Pro−Orn−Gly、Val−Pro−Glu、Glu−Met−Pro、又はAsp−Met−Proであるトリペプチド又はテトラペプチド
  2. 調味料として使用する、請求項1に記載のトリペプチド又はテトラペプチド。
  3. 食品において、Tyr−Pro−Orn、Val−Pro−Orn、Gly−Pro−Orn−Gly、Val−Pro−Glu、Glu−Met−Pro、及びAsp−Met−Proからなる群より選択される、少なくとも一つのトリペプチド又はテトラペプチドを、食塩と共に用いて、食品に甘味又は旨味を付与する方法。
  4. 食品が、おでんつゆ、水産練製品、畜肉加工品、肉製品、漬物類、肉まん、餃子、シュウマイ、春巻き、焼きそば、焼きめし、ふりかけ、珍味、佃煮、せんべい、あられ、スナック菓子、ソース、インスタントラーメンスープ、カップ麺スープ、ブイヨン、ルー、麺類つゆ、又はたれである、請求項3に記載の方法。
  5. 請求項1に記載のトリペプチド又はテトラペプチドを1mg〜10g/100ml含む、調味料。
  6. 調味料が、さらに魚介エキス、だし、畜肉エキス、ブイヨン蛋白分解エキス、味噌、又は醤油を含む、請求項5に記載の調味料。
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