JP4840063B2 - 多軸基材の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、繊維補強複合材料の強化繊維布帛として好適に使用される多軸基材の製造方法に関するものである。
炭素繊維などの強化繊維を用いた繊維補強複合材料は、その優れた力学特性や軽量化効果などから、航空機をはじめ、船舶およびスポーツ・レジャー用途など様々な用途に使用されている。これらの繊維補強複合材料においては、より均質な構成にするために、強化繊維糸条からなるシート状物を、通常は、例えば、0°、±45°および90°のような方向にずらして交差積層して用いる。しかしながら、シート状物として通常の二方向性織物を使用すると、繊維の配列方向が0°(経方向)と90°(緯方向)の二方向にのみしか配列されていないことから、例えば、±45°などの方向については、織物を45°の方向に裁断して使用せざるを得なく、材料のロスが大きくなることや積層に時間がかかるという問題があった。
上記の課題に対して、シート状物の長手方向、幅方向および斜め方向にそれぞれ強化繊維糸条を並行に配列し、これらの積層体をステッチして一体化した多軸ステッチ基材が提案されている。この多軸ステッチ基材においては、一枚の材料で多方向の積層構成が得られることから、材料のカットロスの削減や積層作業の軽減が可能となった。
このような多軸ステッチ基材の製造においては、クリールから強化繊維糸条を複数本引き出して引き揃えてたて糸シート(0°方向、基材の長手方向)の層として挿入して積層し、積層体を得る工程を経る。特に、一層当たりの強化繊維糸条の目付が50〜150g/mと低目付の層を形成する場合、ボビンから解舒された強化繊維糸条を、いかに糸条幅が狭まらないように引き揃えてたて糸シート化し、挿入して積層するかが重要となる。すなわち、強化繊維糸条幅が狭まってしまうと、強化繊維糸条間の隙間(ギャップ)の大きい不均一な材料しか得られない問題があった。強化繊維糸条間のギャップは、それに樹脂を含浸して繊維補強複合材料を成形した場合、樹脂リッチ部分を形成して、応力集中が生じた場合の破壊の起点になりやすくなる。また、硬化収縮によりこの部分が凹んでしまい、表面凹凸が大きくなる問題を引き起こしていた。更に、強化繊維糸条間のギャップが積層体の最外層に発生した場合は、製品の意匠性を大幅に損なうことになる。
この課題を解決すべく、強化繊維糸条を横取解舒して予備延伸(開繊)し、0°方向のシートを挿入する方法(特許文献1参照。)や、繊維糸条を縦取解舒して開繊し、シート化して一旦巻き取り、かかるシートをたて方向やその他のよこ方向に挿入し積層する方法(特許文献2、3参照。)が提案されている。しかしながら、これらで提案の方法では、単に強化繊維糸条を開繊する処理のみで、その後に各強化繊維糸条の幅を規制する処理は行なわれていない。このような方法では、個々に拡がり性にばらつきを有している強化繊維糸条のそれぞれを、所望の糸条幅に均一に制御することができないという問題があり、また、各繊維糸条の位置が正確に決められないため、シートにおける目付および厚みのバラツキが大きくなるという問題を有していた。
このように、トウから直接、たて糸シートを挿入し積層する方法やその手段に関して、多糸条のたて糸の糸条幅を制御して、強化繊維糸条間のギャップを形成させることなくたて糸シートの層を挿入・積層して、交差積層できる安価な多軸基材の製造方法は見出されておらず、かかる課題を解決できる技術が渇望されていた。
特表2004−521197号公報 特表2001−516406号公報 国際公開特許WO98/10128号パンフレット
本発明の目的は、上記課題を解決すること、すなわち、多繊維糸条からなるたて糸シートを形成する繊維糸条間の隙間(ギャップ)を形成させることなくたて糸シートの層を挿入して交差積層することができる、安価な多軸基材の製造方法を提供することにある。
本発明は、かかる課題を解決するために次のような手段を採用するものである。すなわち、本発明の多軸基材の製造方法は、多数本の繊維糸条が並行にシート状に配列されて層を構成し、該層の少なくとも2層以上が該層を構成する繊維糸条が交差するように積層されて積層体を構成し、該積層体の最上層にたて糸シートが配置されて一体化されてなる多軸基材の製造方法において、下記の(A)〜(C)の工程を経た後に、下記の(D)〜(G)の工程を順に経ることを特徴とする多軸基材の製造方法である。
(A)繊維糸条をボビン群から横取解舒して、たて糸として引き揃えてたて糸シートの層を少なくとも1層形成するたて糸シート形成工程、
(B)繊維糸条をボビン群から横取解舒して、よこ糸として引き揃えてよこ糸シートの層を少なくとも1層形成するよこ糸シート形成工程、
(C)たて糸シートを、複数のたて糸に分割してそれぞれの配列位置を決め、それらを引き揃えて再度たて糸シートを形成するたて糸シート再形成工程、
(D)前記のたて糸シートの層と前記のよこ糸シートの層を、各層を構成するセンス糸条が交差するように積層して積層体を形成する積層工程
(E)前記の積層体の最上層に配置されているたて糸シートを、次の(F)の一体化工程で一体化する前にさらに開繊手段により開繊するたて糸シート開繊工程、
(F)前記の積層体を一体化手段により一体化し多軸基材とする一体化工程、
(G)一体化された多軸基材を、直径75〜400mmのコアに巻き取る巻取工程。
本発明の多軸基材の製造方法の好ましい態様によれば、前記の(A)のたて糸シート形成工程において、たて糸シートを形成する際に、予備開繊手段によりたて糸シートを開繊することである。
本発明の多軸基材の製造方法の好ましい態様によれば、前記の(A)のたて糸シート形成工程および前記の(E)のたて糸シート開繊工程において、予備開繊手段および/または開繊手段が複数のローラで構成されるローラ群を通過させることである。
本発明の多軸基材の製造方法の好ましい態様によれば、前記の(A)のたて糸シート形成工程において、ローラ群が、その軸方向に揺動している揺動ローラと揺動していない非揺動ローラとの組み合わせで構成されていることである。
本発明の多軸基材の製造方法の好ましい態様によれば、前記の(A)のたて糸シート形成工程、前記の(C)のたて糸シート再形成工程および前記の(E)のたて糸シート開繊工程において、たて糸の配列位置を決める手段が、所定の寸法の溝を設けた溝付ローラ、穴が空いた板、筬もしくはそれらの組み合わせであることである。
本発明の多軸基材の製造方法の好ましい態様によれば、前記の(A)のたて糸シート形成工程および前記の(C)のたて糸シート再形成工程において、たて糸が接触角度90°以上で接触するローラ全ての直前でたて糸の位置をガイドにて規制することである。
本発明の多軸基材の製造方法の好ましい態様によれば、前記の(F)の一体化工程において、一体化手段がステッチ糸条で体化するものであることである。
本発明の多軸基材の製造方法の好ましい態様によれば、前記のステッチ糸条で一体化するステッチ手段において、ステッチコームが多軸基材の全幅に渡って面状体のカバーを有することである。
本発明の多軸基材の製造方法の好ましい態様によれば、前記の(F)の一体化工程において、一体化手段が積層体の層間および表面に配置された樹脂材料で一体化するものであることである。
本発明によれば、繊維糸条から構成される多繊維糸条のたて糸およびよこ糸を、撚りが入ることなく引き揃え、たて糸およびよこ糸を並行に配してシート化して交差積層して、たて糸シートを開繊することにより、一層当たりの繊維糸条の目付が低目付であっても繊維糸条間の隙間(ギャップ)が形成されず、高い積層構成の自由度を有した多軸基材を得ることができる。かかる多軸基材を用いることにより、表面品位、力学特性、その耐久性および品質安定性に優れた繊維補強複合材料を安価に製造することができる。
本発明の多軸基材の製造方法は、多数本の繊維糸条が並行にシート状に配列されて層を構成し、該層の少なくとも2層以上が該層を構成する繊維糸条が交差するように積層されて積層体を構成し、該積層体の最上層にたて糸シートが配置されて一体化されてなる多軸基材の製造方法において、下記の(A)〜(C)の工程を経た後に、下記の(D)〜(G)の工程を順に経ることを特徴とする多軸基材の製造方法である。
(A)繊維糸条をボビン群から横取解舒して、たて糸として引き揃えてたて糸シートの層を少なくとも1層形成するたて糸シート形成工程、
(B)繊維糸条をボビン群から横取解舒して、よこ糸として引き揃えてよこ糸シートの層を少なくとも1層形成するよこ糸シート形成工程、
(C)たて糸シートを、複数のたて糸に分割してそれぞれの配列位置を決め、それらを引き揃えて再度たて糸シートを形成するたて糸シート再形成工程、
(D)前記のたて糸シートの層と前記のよこ糸シートの層を、各層を構成する繊維糸条が交差するように積層して積層体を形成する積層工程
(E)前記の積層体の最上層に配置されているたて糸シートを、次の(F)の一体化工程で一体化する前にさらに開繊手段により開繊するたて糸シート開繊工程、
(F)前記の積層体を一体化手段により一体化し多軸基材とする一体化工程、
(G)一体化された多軸基材を、直径75〜400mmのコアに巻き取る巻取工程。
次に、本発明の多軸基材の製造方法を、図面に基づいて説明する。図1は、本発明の多軸基材を製造する製造工程と製造装置の一例を説明するための概略側断面図である。また、図2は、本発明の開繊工程の一例を説明するための概略側断面図である。
図1において、本発明に係る多軸基材saは、たて方向(多軸基材の長手方向、0°方向)の強化用の繊維糸条(たて糸群0)が並行に配列したたて糸シートs1を含む少なくとも2つ以上の層が、交差積層されて積層体を構成し、搬送手段bcにより搬送されて一体化手段stにて、一体化されたものである。
一体化された多軸基材saは、巻取手段wdにより巻物状物ptとして巻き取られる。たて糸シートs1は、たて糸シート挿入手段wa1などによって挿入し積層される。多軸基材saには、たて糸シートs1以外にもよこ糸シートs2、s3などが積層され、よこ糸シートs2、s3は、よこ糸シート挿入手段we1、we2などによって挿入し積層される。
以下、本発明における(A)たて糸シート形成工程、(B)よこ糸シート形成工程、(C)たて糸シート再形成工程、(D)積層工程、(E)たて糸シート開繊工程、(F)一体化工程ならびに(G)巻取工程の各工程について、図1を参照しながら詳細に説明する。
(A)たて糸シート形成工程
本工程では、たて糸クリールclに配置された繊維糸条を、巻回したボビンbb群から横取解舒して、それぞれのたて糸を引き揃えてたて糸シートs1の層を少なくとも1層形成する。たて糸クリールclに配置された繊維糸条を横取解舒し、たて糸群0を送り出す送出手段としては、例えば、一定速度で駆動する駆動ローラd1、d2にて、ボビン群bbから繊維糸条を解舒するものが挙げられる。駆動ローラd2は、解舒される繊維糸条の速度を更に安定させるために、ニップローラn1と組み合わせて用いてもよいし、たて糸群0の緩みを抑制するために、ダンサーローラなどの張力調整手段を組み合わせて用いてもよい。
また、ボビンbb群を保持するボビンホルダーの軸自体を、駆動モータで回転させる手段によっても、繊維糸条を横取解舒することができるが、ボビン数が多くなると必要な駆動モータ数も多くなるため、この手段は特にボビン数が少ない場合に適する。
本工程におけるたて糸群0の繊維糸条の横取解舒では、ボビンbb群にコンタクトローラct1を接触させつつ、繊維糸条であるたて糸群0を解舒することが好ましい。コンタクトローラct1により、解舒時に繊維糸条に撚りが確実に入らないようにすることができる。特に、扁平状の繊維糸条の場合には仮撚が混入し易いが、コンタクトローラct1を用いることにより、仮撚が繊維糸条に混入することを最小限に抑制することができ、たて糸シートs1内に繊維糸条間の隙間(ギャップ)が形成されることを防止することができる。
ここで、ボビンbb群にコンタクトローラct1を接触させつつ、繊維糸条を解舒すると、より安定して糸条幅の変動や仮撚の混入を防止することができる。本発明では繊維糸条を横取解舒するため、繊維糸条が縦取解舒される場合のような撚りが入ることもない。これにより、たて糸群0の糸条幅を安定して保持することができる。コンタクトローラct1は、コンタクトローラct1自体の自重または弾性機構でボビンbbに対して巻き径が変化しても追従できるような機構にしておくと、定常的に同じ線圧でボビンbbに押さえつけることができ、より一層高い効果を奏することができる。
たて糸群0それぞれの繊維糸条は、規制手段を用いて糸条幅を規制することが好ましい。このような規制手段としては、例えば、リード(筬)L0、L1、L3にたて糸群0を通過させるものが挙げられる。リードL0、L1、L3は、正確に糸条幅を規制するために複数箇所に設けることが好ましい。特に複数のリードを用いる場合は、クリール側(上流側)における規制幅を、巻取側(下流側)における規制幅の100〜150%に規制することが好ましい。規制幅は、より好ましくは103〜130%であり、更に好ましくは105〜110%である。上記態様のように、規制幅を段階的に規制していくことにより、更に正確に糸条幅を規制することができる。
上記リードL0、L1、L3を配置する位置は、予備開繊手段sp1や駆動ローラd1など、繊維糸条を接触角度90°以上で接触させるローラの直前に配置することが好ましい。特に、繊維糸条を接触角度90°以上で接触させるローラは、たて糸とローラとの間で滑りが発生し難くいため、本来配列するべきでない位置でたて糸繊維糸条がローラーに接触してしまうと、ローラ上でたて糸の斜行を誘発し易く、複数のたて糸同士で糸長差が発生してしまう。このような糸長差は、たて糸シートs1における局所的な弛みなどの原因となり得るため、品位の高い多軸基材が得られ難くなる。そのため図1のように、繊維糸条を接触させるローラ全ての直前にリードL0、L1、L3を配置することがとりわけ好ましい態様である。
ここで、繊維糸条の接触角度とは、繊維糸条がロールに接触する接点とロールから離れる接点との間で、繊維糸条がロールに接触している円弧に対するロールの中心角を指す。繊維糸条を通過させる規制手段としては、例えば、リードなど所定の寸法を有している規制ガイドであれば特に制約はない。
それぞれの繊維糸条の糸条幅は、規制ガイドの位置、間隔およびセパレーター部(筬羽)厚みなどを調整することにより制御することができる。このように繊維糸条の糸条幅を規制したたて糸シートs1を、後述の(D)たて糸積層工程に導いて、たて糸シートs1を挿入し積層することにより、繊維糸条間のギャップを形成することなく所望の目付の多軸基材を得ることができる。
リード(筬)以外の規制手段としては、繊維糸条の糸条幅を規制する所定の寸法の溝(鍔)などを有している溝付(鍔付)ガイドローラ、コーム(櫛)、孔(円形、矩形)、水平方向のガイド(筒状、板状)、垂直方向のガイド(筒状、板状)およびそれらを組み合わせたものなどを使用することができるが、孔あきガイド板や溝付(鍔付)ガイドローラは、繊維糸条の糸条幅をより精度よくコントロールすることができるため、本発明において好ましい態様といえる。
本工程では、たて糸シートs1を形成する際に、予備開繊手段によりたて糸シートs1を開繊することが好ましい。積層体の最上層に配置されるたて糸シートs1は、それ単独では形態保持の効果が殆どないため、下流に搬送されていくに従って次第に繊維糸条の糸幅が狭くなり易い。しかしながら、本工程でたて糸シートs1を予備的に開繊しておくことにより、サイジング剤で拘束されたたて糸が適度にほぐされ、後述する(E)のたて糸シート開繊工程でより開繊し易い状態にし、効果的に開繊を行うことができる。このような予備開繊により、多軸基材中での繊維糸条間のギャップを確度高く抑制することができるのである。
たて糸群0それぞれの糸条幅を開繊する予備開繊手段sp1としては、例えば、ローラr0、r1、r2群に、たて糸群0を通過させるものが挙げられる。このようなローラ群について、ローラr1はその軸方向に揺動する揺動ローラとし、その前後のローラr0、r2は揺動しない非揺動ローラとすると、より幅広く開繊することができるため、本発明における好ましい態様といえる。
前記の揺動ローラは、自由回転でき、かつ、ラダーローラ、彫刻ローラ、それに類するローラなど接触面積を減じたローラが好ましく用いられる。このような観点から、揺動ローラへのたて糸群0の接触角度は90°未満であることが好ましい。一方、前記の非揺動ローラは、自由回転でき、かつ、通常の円形ローラが好ましく用いられる。ここで、上記ローラ群の表面は、繊維糸条の毛羽発生を抑制する観点から、その表面は梨地加工などを施して繊維糸条との摩擦係数を小さくしたものであることが好ましい。
ここで、複数のたて糸に分割するとは、例えば、たて糸群0を予備開繊手段sp1に通過させるとき、隣り合うたて糸同士を交互に異なるローラr1、r1’にそれぞれ通過させることを示す。その目的はシート化前の部分でたて糸シート1を形成させると、隣り合うたて糸同士が開繊したときに、それぞれ干渉せずに最大限に開繊できるためである。繊維糸条の位置決めを行うために、リードL0を用いてもよい。前記の手法で1本おきに交互に異なるローラーに通過させたたて糸糸条のその他の効果としては、隣り合うたて糸同士の隙間が十分に保たれているため、開繊して糸幅が広がっても隣りの繊維糸条と重なり合って糸長差が生じる問題を未然に解決することができる。
また、前記ローラr0、r1、r2群が、50〜250℃の範囲の温度に加熱されているか、および/または、かかる温度範囲の雰囲気下で繊維糸条を前記ローラr0、r1、r2群に擦過させることが好ましい。かかる温度範囲にすることによって、繊維糸条に付着しているサイジング剤を軟化させることができ、ボビン上での糸条幅が狭い繊維糸条であっても容易に拡幅が可能となり、たて糸シート化する際に繊維糸条間のギャップの発生をなくすることができる。前記のたて糸解舒工程において、ボビンbbから解舒する際にたて糸である繊維糸条を50〜250℃の範囲の温度に加熱することによっても、同様の開繊効果を得ることができる。温度が50℃より低いと拡幅する効果が低く、250℃を超えるとサイジング剤を劣化させる場合がある。
(B)よこ糸シート形成工程
本工程では、前記(A)のたて糸シート形成工程と同様の手段により、多軸基材0°方向と異なる角度、例えば、45°や90°によこ糸を配列させていけばよい。但し、(A)のたて糸シート工程では、多軸基材の全幅を構成するのに必要なボビンbb群がたて糸クリールclに配置されているが、本工程では多軸基材の全幅を構成するボビン数は必要なく、生産性を損なわないレベル、例えば、5〜50cm幅のよこ糸シート幅を構成するのに必要なボビン数を用意し、よこ糸シートs2、s3を形成すればよい。よこ糸シートs2、s3を並行に順次配列していけば、多軸基材saの全幅に渡る層を構成することができる。
(C)たて糸シート再形成工程
本工程では、前記(A)のたて糸シート形成工程でたて糸シートs1に形成される繊維糸条を、複数のたて糸に分割してそれぞれの配列位置を決め、それらを引き揃えて再度たて糸シートs1を形成する。前記(A)のたて糸シート形成工程では、たて糸の状態やシート化前の部分たて糸シートの状態で、例えば、リードL0、L1、L3などの規制手段により分割していた。
これに対して、本工程では、たて糸シートs1を形成している状態で、それぞれのたて糸を規制手段により複数のたて糸に分割して、それぞれの配列位置を決める。このことにより、各たて糸の斜行や蛇行を確度高く抑制し、複数のたて糸同士の糸長差を確実に解消することができる。
このような糸長差が存在すると、たて糸シートs1における局所的な弛みなどが発生し、品位の高い多軸基材が得られ難くなる。本工程における規制手段としては、例えば、リードL2、L4、孔あきガイド板L5など、前記(A)のたて糸シート形成工程で記載したものを用いることができ、正確に繊維糸条の糸条幅を規制するために複数箇所に設けることが好ましい。特に、スペース上の制約がある場合は、孔あきガイドL5を用いることが好ましい。リードL2、L4を配置する位置は、駆動ローラd2など、繊維糸条を接触角度90°以上で接触させるローラの直前に配置することが好ましい。
(D)積層工程
本工程では、たて糸シートs1およびよこ糸シートs2、s3の層を交差積層して積層体を形成する。本工程でいう積層とは、図1および図2に示すように搬送されているたて糸シートやよこ糸シートs2、s3などに積層ローラct2を介して接触させながら積層する態様だけでなく、積層ローラct2を介さずに接触させない状態(浮かした状態)で搬送されているたて糸シートs1やよこ糸シートs2、s3などと同方向に搬送している態様も含まれる。
本工程では、形成されたたて糸シートs1の層を、積層ローラct2を介して搬送されているたて糸シートs1やよこ糸シート2、s3など実質的に接触させながら交差積層することが好ましい。但し、たて糸シートs1が積層体の最下層(1層目)である場合には、接触させるべき積層体が存在しないため、積層ローラct2を介して積層体に接触させながら積層することはできないが、この場合は、図1の搬送手段bcに接触させることを意味する。積層ローラct2を用いると、前記(C)のたて糸シート再形成工程で開繊した状態が形態保持されて、繊維糸条間のギャップの発生のない状態で安定して挿入し積層することができる。
ここで「実質的に接触させながら」とは、たて糸シート全体が確実に積層体に接触している態様の他に、たて糸シートs1が自重や僅かな張力ムラにより撓むことによりたて糸シートs1の一部でも積層体に接触している態様を含む。より具体的には、積層ローラct2が積層体から10mm以下の範囲を指す。たて糸シートs1を積層ローラct2を介して接触させながら交差積層することによって、最上層に配置されたたて糸シートs1においては積層したたて糸シートs1が積層体から浮き上がって捻れたり、配向角度がずれることを抑制する効果をも発現する。
たて糸を送り出すための送出手段としては、少なくとも駆動ローラd2およびニップローラn1(駆動してもよいし、駆動ローラに従属して消極回転してもよい)、および/または、ニップローラと組み合わされない駆動ローラd1、d2から構成される送出ローラによって、たて糸シートs1を送り出す手段が挙げられる。前記の駆動ローラd1、d2の表面がプラスチックで被覆されており、かつ、たて糸との接触角度が90°以上であると、駆動ローラd1、d2とたて糸との間に滑りが発生せず、確実にかつ安定してたて糸シートを送り出すことができる。
送出ローラを用いる場合は、送出ローラよりもクリール側(上流側)に配置している自由回転ローラが存在する場合、自由回転ローラの少なくとも1つにおけるたて糸の接触角度を90°未満とすることが好ましい。このような態様であると、繊維糸条間のギャップの発生のない状態で安定して挿入し積層することができるだけでなく、個々のたて糸の糸長を容易に均一にするための遊びを有した区間を部分的に存在させることができ、均一なたて糸シートs1を送り出すことができる。
前記(A)のたて糸シート形成工程と本工程とは連続的に行われ、その間にたて糸シートs1を一旦巻き取る工程が含まれないことが好ましい。すなわち、個々のたて糸ボビンからたて糸を引き出し引き揃えてシート化して、そのまま本工程にたて糸シートs1を挿入し積層することが好ましい。たて糸シートs1を一旦巻き取る工程を経ると、余分な工程が増えて製造コストの上昇を招く場合があるだけでなく、工程において個々のたて糸の糸長を均一にできずにたて糸シートが不均一なものとなり易く、得られる多軸基材にシート面の不均一さなどの表面凹凸を発生させたり、力学特性を低下させる場合がある。
よこ糸シートs2、s3の積層においても、積層ローラct2を介して積層体に接触させながら交差積層してもよいし、積層ローラct2を介さず交差積層してもよい。積層ローラct2を介さない積層方法としては、積層体の上方によこ糸シートs2、s3を一旦配置して、そのまま下方に並行移動させて交差積層する方法が挙げられる。よこ糸シートs2、s3は、たて糸シートs1よりも幅が狭くても本発明の課題を解決できるため、いずれの方法によっても繊維糸条間の隙間が形成されずに、繊維糸条間のギャップの発生のない層を安定して交差積層することができる。よこ糸シート幅をたて糸シート幅と同一またはそれ以上にする場合は、たて糸シートs1と同様に積層ローラct2を介した交差積層が好ましい。挿入されたよこ糸シートs2、s3は、たて糸シート積層とは異なり、よこ糸シートs2、s3を挿入・積層する度に切断することが好ましい。このように積層していくと、よこ糸シートs2、s3を折り返して挿入する必要がなくなるため、低目付のシートであっても繊維糸条間のギャップが形成され難いという本発明の効果をより高く奏することができる。
少なくとも前記たて糸シートs1またはよこ糸シートs2、s3を含む交差積層される各層または交差積層された各層は、一体化される箇所まで各層の全幅の半分以上の幅を有する搬送手段bcで搬送されることが好ましい。搬送手段bcとしては、ベルトコンベアが好ましく用いられる。より好ましい搬送手段の幅は、多軸基材全幅の90〜110%である。多軸基材全幅の半分以下の幅を有する搬送手段bcを用いると、積層したたて糸シートs1およびよこ糸シートs2、s3が自重で撓んで糸条が捻れたり、配向角度がずれる他に糸幅が縮んで繊維糸条間のギャップが発生しやすい。
上記の問題は、多軸基材全幅の半分以上の幅を有する搬送手段を用いることにより抑制することができる。このような撓み(繊維糸条の弛み)抑制により、配向角度が正確かつ均一なシートが積層された多軸基材を得ることができる。通常は、所定の長さにカットされたチョップドファイバーを用いるために、上記のようなベルトコンベアが使用されるが、本発明は、チョップドファイバーを用いない多軸基材を製造する場合においても、前記のベルトコンベアを用いて積層体を搬送することにより、本発明の課題を解決することを見出したところに特徴を有するものである。
(E)たて糸シート開繊工程
本工程では、積層体の最上層に配置されているたて糸シートs1を、後述(F)の一体化工程で一体化される前に開繊手段により開繊する。
本工程においては、図2に示したように、交差積層された各層の中で、最上層に配置するたて糸シートs1を複数のたて糸に分割して規制手段でそれぞれの配列位置を決め、それらを引き揃えて再度形成したたて糸シートs1を、複数のローラで構成されるローラ群(開繊手段sp2)を通過させている。かかる工程を経ることにより、前記(C)のたて糸シート再形成工程から、後述(F)の一体化工程へと搬送する間にたて糸の糸幅が縮んで形成される繊維糸条間のギャップを解消することができ、より確実に繊維糸条間のギャップの発生のないたて糸シートの層を形成させることができる。
また、前記ローラー群(開繊手段sp2)の場所としては、後述(F)の一体化手段stのできるだけ直前に配置することが、開繊された直後の繊維糸条間のギャップが形成されてない状態のままで一体化されるため本発明の効果を最大限に発揮できる。開繊手段sp2の位置と一体化手段との位置とが離れていると、開繊された繊維糸条間がしだいに狭くなり、その状態で一体化されるため繊維糸条間のギャップが形成される。また、開繊手段sp2としては、前記(A)のたて糸シート形成工程における開繊手段sp1のローラ群と同様の構成のものを用いることができる。特に本工程では、搬送手段bcにローラ群を配置・組み込む必要があるため、可能な限り簡易に構成することが好ましい。このような観点からは、ローラ群は、例えば、加熱も揺動もしない固定ローラr11、r12、r13を2〜7本、より好ましくは3〜5本を、少なくとも1本の接触角度を30〜180°の範囲で接触させることが好ましい。かかる範囲内で接触させると、効率的にたて糸のそれぞれを開繊することができ、再度形成したたて糸シートs1において、より確実に繊維糸条間のギャップを解消することができる。前記(A)のたて糸シート形成工程において予備開繊しておくことにより、予めサイジング剤で拘束されたたて糸が適度にほぐされてより開繊し易い状態となっているため、上記のような簡易に構成された開繊手段でも十分な効果を得ることができ、多軸基材中での繊維糸条間のギャップを確度高く抑制することができる。
(F)一体化工程
本工程では、交差積層された各層を一体化手段stで一体化する。一体化手段stとしては、編組織を形成したステッチ糸条が積層体を一体に保持するものであることが好ましい。このようなステッチ糸条を用いると、安定かつ確実に積層体を一体に保持することができ、繊維糸条の配列角度などがずれる懸念がなく、取扱性にも優れる。ステッチ糸条は、安定して積層体を保持するために繊維糸条の配向角度に適した編組織を適宜選択することができる。例えば、ガイドバー1枚の場合は、鎖編、1/1トリコット編およびそれらの組み合わせなどが挙げられ、また、ガイドバー2枚の場合は、鎖編と挿入糸との組み合わせなど編組織を適用することができる。中でも、鎖編と挿入糸との組み合わせにすると、ステッチ糸条による繊維糸条の締め付けを相対的に緩くすることができ、繊維補強複合材料を成形する場合に用いられる樹脂の含浸性を高く発現することができる。更には、繊維糸条の屈曲を小さくすることもでき、特に圧縮強度や引張強度などの優れた力学特性を発現することができる。このような効果は、多軸基材が3層以上の積層体の場合、または、0°層を有するものである場合に特に高く発現される。
ステッチ糸条で積層体を一体に保持する場合、ステッチコームscが、多軸基材saの全幅に渡って面状体のカバーfcを有するものであることが好ましい。ステッチコームscとは、ステッチ糸条を編組織するステッチニードルが積層体を貫通する際に、積層体が浮き上がるのを抑制させる積層体の法線方向の位置を規制するものを指す。通常は、ステッチニードル同士の間のそれぞれに均等間隔で配置された線状のピンまたは板状のコームの集合体である。
また、面状体のカバーfcは、線状のピンまたは板状のコームと最上層に配置されている層とが接触を開始するポイントを、多軸基材saの全幅に渡ってカバーするものを指す。このような面状体のカバーfcを有していると、積層体の最上層に配置されているたて糸シートの層またはよこ糸シートの層との配列位置を乱すことを抑制することができる。換言すると、かかる面状体のカバーfcを有していないと、線状のピンまたは板状のコームが、最上層に配置されている層の繊維糸条に引っ掛かってしまい、その配列を乱してたて糸シートまたはよこ糸シートに繊維糸条間のギャップを発生させてしまう場合がある。
積層する層数にも依存するが、ステッチ糸条の供給量は、3,000〜12,000mm/ラック(480コース)であることが好ましい。ステッチ糸条の供給量は、より好ましくは4,000〜10,000mmである。供給量が3000mm未満では、糸切れが頻発し、生産性を低下させる場合があるだけでなく、樹脂の含浸性や力学特性を低下させる場合がある。一方、供給量が12000mmを超えると、ステッチ糸条が緩み過ぎて繊維糸条がずれたりして一体化した層が崩れる場合がある。
本発明で用いられるステッチ糸条は、繊維糸条の繊度の15%以下の繊度であるものが好ましく、より好ましくは5%以下であり、更に好ましくは1%以下の繊度のものである。ステッチ糸条の繊度は小さければ小さいほど、その存在に起因する影響を小さくできる。すなわち、繊維糸条の屈曲や蛇行を抑制し、本質的に有する力学特性を発現することができるのである。このような観点から、ステッチ糸条の繊度は0.5〜10texの範囲であることが好ましい。ステッチ糸条の繊度は、より好ましくは0.5〜5texの範囲であり、更に好ましくは1〜3texの範囲である。ステッチ糸条の繊度が0.5texよりも小さいと、ステッチする際の糸切れが頻発する場合があり、一方、10texを超えると、繊維糸条の屈曲や蛇行を誘発する場合がある。
使用するステッチ糸条には特に制限はないが、ステッチ糸条が、特に、炭素繊維やガラス繊維などの無機繊維の場合、比強度や比弾性率に優れ、収縮による問題が小さい。別の観点からは、ステッチ糸条が、特に、ポリアミド、ポリエステル、パラフェニレンベンゾビスオキサゾール、アラミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレン、ポリビニルアルコールおよびポリアリレート等からなる有機繊維の場合は、無機繊維に比べて大幅に糸切れを抑制することができる。中でも、繊度を小さくできる点、複合材料での力学特性発現の面からポリアミドからなるステッチ糸条を用いることが特に好ましい態様である。
一体化手段としては、積層体の層間および表面に樹脂材料(例えば、不織布、粒子、カットファイバー、配列した糸条、およびそれらの組み合わせ等)を配置し、樹脂材料にて積層体を一体に保持することもできる。樹脂材料は、その一部または全部を熱などにより溶解させて一体化してもよいし、もともと粘着性を有するものを単に配置して一体化してもよい。このように一体化手段によると、ステッチしないため繊維糸条をニードルで損傷する可能性がなく、より高い力学特性を有する複合材料を得ることができる。
樹脂材料としては、広い面積を効率よく均一に一体化するためには不織布を用いることが好ましい。また、賦型性を高めるためには粒子を用いることが好ましく、目的によって使い分けることができる。中でも不織布は、多軸基材の生産性を最大限に高めることができるため、最も好ましい態様といえる。不織布としては、一体化できる最小限の量が配置されていればよく、2〜10g/mの目付であることが好ましい。また、用いられるポリマーの融点が170℃以下の場合、比較的低い温度で溶解させて一体化することができる。
(G)巻取工程
一体化された多軸基材saは、ニップローラn2を経て、巻取手段wdにより、多軸基材の巻物状物ptとして巻き取られる。すなわち、本工程では、一体化された多軸基材saが、直径が好適には75〜400mmのコアに巻き取られる。本発明で使用される多軸基材saを巻き取る、例えば、紙管や鉄管などのコアの好ましい直径は150〜320mmである。多層に積層された多軸基材saにおいては、直径が75mm未満のコアの場合、その内層と外層との間で周長差が発生し、内層で多軸基材saが弛むことに起因して、繊維糸条の屈曲やシワなどを誘発する場合がある。一方、直径が400mmを超えるコアでは、周長差の面では有利であるが、巻物自体が嵩張るため運搬コストが高くなるなど、不都合を生じる場合がある。
本発明の多軸基材の製造方法においては、特に5層を超える層を積層した場合は、それを巻き取ること自体が問題になる場合がある。そのような場合には、巻き取らずに、所定長さ毎に切断し、連続的にシート状の多軸基材を製造することができる。
多軸基材saを巻き取るための巻取手段としては、例えば、多軸基材の巻物の表面に接して駆動ローラを配置し、巻物と駆動ローラとの摩擦で回転させる表面駆動方式や、コア自体を回転させる直接駆動方式が挙げられる。表面駆動方式の場合は、特に巻き始め部分(巻物の巻芯部分)に弛みが発生し易いため、コアの直接駆動方式で多軸基材を巻き取ることが好ましい。
本発明の多軸基材の製造方法によると、前記の積層体を一体化するステッチ糸条が、一回のステッチにて一体化された多軸基材を容易に製造することができる。一回のステッチで一体化してこそ、本発明の効果を最大限に発揮することができる。
本発明で製造される多軸基材の品質安定性の指標としては、積層された各層において2mmを超える繊維糸条間のギャップの頻度が挙げられる。この繊維糸条間のギャップの頻度は各層ごとの値を全層で平均した値であり、0.5個/m以下であることが好ましい。繊維糸条間のギャップの頻度が0.5個/mを超えると、繊維補強複合材料にした場合に表面にピット(樹脂の未充填部分)が発生して、表面品位が劣る場合や、樹脂リッチ層が形成されて力学特性(特に、環境耐久性や湿熱環境下での圧縮強度)や品質安定性に劣る場合があるので、用途によっては望ましくない。本発明で製造される多軸基材は、繊維糸条間のギャップの頻度が0.5個/m以下であってこそ、本発明の効果を最大限に発揮できるのである。
本発明における2mmを超える繊維糸条間のギャップの頻度(1m当たり存在個数)とは、次のように測定した層ごとの各値を、さらに全層で平均したものを指す。すなわち、測定サンプルの最表層に存在する2mm幅を超える繊維糸条間のギャップの個数をカウントする。具体的には、繊維糸条Aとその隣りの繊維糸条Bとの隙間について、2mmを超える箇所が1箇所でもあればその隙間を1つとカウントする。その繊維糸条間のギャップの幅は、サンプルの平面方向についてノギスを用いて測定したものを用いる。測定する範囲は、サンプル端部の5cmを除いた任意の1m幅×1m長さ(1m)内とする。但し、サンプル幅が1.1m幅より狭い場合は、(サンプル端部の5cmを除いた幅)×(測定範囲が1mになるように決められる長さ)の範囲とする。このような測定を3回繰り返して平均値をとり、その層の繊維糸条間のギャップの頻度とする。次いで、ステッチ糸条を解き、測定サンプルの内層を露出させて前述の方法と同様にして、各層についてカウントする。この測定で求められた各層の繊維糸条間のギャップの頻度を平均して、繊維基材における繊維糸条間のギャップの頻度とする。
本発明で用いられる繊維糸条としては、繊維補強複合材料用の繊維糸条として使用できるものを用いることが好ましく、例えば、炭素繊維、黒鉛繊維、ガラス繊維、および、アラミド、パラフェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリアリレートおよびポリイミド等からなる有機繊維等が挙げられ、これらの1種または2種類以上を併用したものを使用することができる。中でも、炭素繊維は、比強度・比弾性率に優れており、好ましく用いられる。
繊維糸条は、取り扱い性やステッチングときの耐ニードル擦過性を向上させるために、0.2〜2.5重量%のサイジング剤が付着されていることが好ましい。上記範囲内のサイジング剤が付着されている繊維糸条は、毛羽発生が効率的に抑えられる。
繊維糸条は、無撚でも有撚でも使用することができるが、引張や圧縮等の力学特性の面からは、1ターン/m未満の実質的に無撚のものが好ましい。また、繊維糸条のトータル繊度は、好ましくは500〜7,000texであり、より好ましくは1,000〜2,000texである。トータル繊度が小さすぎると、クリールの設置台数が多くなり、設備や場所の問題が発生する。また、繊維糸条が高価であり、このような細繊度の繊維糸条を多数本使用することになるので、多軸基材そのものも高価になってしまう。一方、トータル繊度が大きすぎると、例えば、150g/m/層以下の低目付の多軸基材を得る際に僅かな力で糸条幅が変動しやすく、安定した糸条幅の維持が困難な場合がある。
繊維糸条は、糸条幅が5〜30mmであり、糸条幅/糸条厚比が30〜100の炭素繊維糸条であることが好ましい。このような扁平状の炭素繊維糸条を用いることにより、低目付の多軸基材を容易に得ることができる。糸条幅が5mm未満もしくは糸条幅/糸厚比が30未満の場合は、繊維糸条がねじれる問題が殆どなく、本発明の効果が十分発揮されない場合がある。また、繊維糸条が十分開繊されず、低目付化が困難な場合がある。一方、糸条幅が30mmを超えるかまたは糸条幅/糸厚比が100を超えると、糸条幅が変動し易く、安定した糸条幅の維持が困難となる場合がある。
本発明の多軸基材の製造方法で得られた多軸基材は、層の1層当たりの繊維糸条目付が50〜150g/mの範囲であることが好ましい。その繊維糸条目付は、より好ましくは80〜120g/mの範囲である。かかる目付を、前記トータル繊度の繊維糸条を用いた多軸基材を得る場合に適用することにより、本発明の効果が最大限に発現される。各層の繊維糸条の目付が150g/mを超えると、本発明の意義が希薄となる場合がある。一方、目付が50g/m未満の場合は、繊維補強複合材料において所望の強度を得ようとすると、あまりにも多数の層を積層する必要がでてくるため、生産性に劣る場合がある。
多軸基材は、マトリックス樹脂を含浸させてプリプレグやセミプレグにした後に加熱・固化させる成形方法で、繊維補強複合材料にすることができる。本発明でより好ましい成形方法としては、生産性の高いResin Transfer Molding(RTM)、Resin film Infusinon(RFI)、Reaction Injection Molding(RIM)、および真空圧成形法等の注入成形方法が挙げられる。中でも、成形コストの面から、RTMと、真空圧成形法が好ましく用いられる。
RTMとしては、例えば、雄型および雌型により形成したキャビティ中に樹脂を加圧して注入する成形法があり、好ましくは、キャビティを減圧して樹脂注入する。また、真空圧成形法としては、例えば、雄型または雌型のいずれか一方とフィルム等のバッグ材(例えば、ナイロンフィルムやシリコンラバー等)により形成したキャビティを減圧し、大気圧との差圧にて樹脂注入する成形法があり、好ましくは、キャビティ内のプリフォームに樹脂拡散媒体(メディア)を配置して樹脂含浸を促進し、成形後に複合材料からメディアを分離する。
本発明でられた多軸基材は、好適には航空機、自動車および船舶などの構造部材、外装部材および内装部材などをはじめ、コンクリートや鉄鋼などの構造体(橋脚、梁、管など)などの補修・補強や建築物の耐震部材、ゴルフシャフト、ラケット、釣竿および自転車用品などのスポーツ用品などに好適に用いられる。
以下、本発明の多軸基材の製造方法を、実施例により詳細に説明する。実施例で使用した材料は、次のとおりである。
・繊維糸条:
商品名:“トレカ”(登録商標)(東レ社製)、グレード:T700GC−12K、引張強度4,900MPa、引張弾性率235GPa、フィラメント数12,000本、トータル繊度800tex、ボビン上の糸条幅6mm、糸条厚み0.16mm、糸条幅/糸条厚み比38(扁平形態)、エポキシ樹脂を主成分とするサイジング剤を0.5重量%付着してなる扁平状の無撚炭素繊維糸条。
・ステッチ糸条:
商品名:“テトロン”(登録商標)(東レ社製)、グレード:56T−24、フィラメント数24本、トータル繊度5.6texであるポリエステル繊維(PETマルチフィラメント)糸条。
(実施例1)
配向角度[+90°/0°]で2層が積層され、かつ、各層の目付が120g/m/層である幅125cmの多軸基材Aを作製した。以下、各工程について詳細を記載する。
(A)たて糸シート形成工程:
たて糸クリールに188本配置された無撚炭素繊維糸条を、0.5m/minの速度で横取解舒した。横取解舒においては、別途設けたたて糸との接触角度が120°の駆動ローラd1で引き出した。また、送出ローラよりもクリール側に配置している自由回転ローラr0、r2のたて糸の接触角度はいずれも最大で80°とした。無撚炭素繊維糸条を、糸条幅を同一に規制しながら125cm幅のたて糸シートを形成した。規制手段として、3つのリードL0、L1、L3に無撚炭素繊維糸条を通過させる手段を用いた。その際、クリール側のリードL0の筬羽間の幅は、巻取側リードL1の105%とし、巻取側リードL1とL3との幅は同一とした。また、コンタクトローラct2の直前には巻取側リードL2を配置した。
(B)よこ糸シート形成工程:
よこ糸クリールに18本配置された無撚炭素繊維糸条を、別途設けた駆動ローラで引出しながら、実質的に一定速度で横取解舒した。各ボビンには、自重でボビン径の変化に追従できる機構を有するコンタクトローラを接触させつつ解舒した。よこ糸シートの積層では間欠的によこ糸シートが積層されるため、ボビン群からは実質的に一定速度で横取解舒されるように、よこ糸クリールとよこ糸シート挿入手段との間にダンサーローラを配置した。無撚炭素繊維糸条のそれぞれを、ボビン上の糸条幅よりも大きい9mmの糸条幅に開繊しながら引き揃えた。開繊手段として、隣り合う無撚炭素繊維糸条同士を交互に異なるローラにそれぞれ通過させる手段を用いた。各ローラは200℃の範囲の雰囲気下に配置した。開繊された無撚炭素繊維糸条を、糸条幅を同一に規制しながら10cm幅のよこ糸シートを形成した。規制手段として、1つのリードに無撚炭素繊維糸条を通過させる手段を用いた。その際、リードはよこ糸シート挿入手段の直前とした。
(C)たて糸シート再形成工程:
たて糸シートを形成している無撚炭素繊維糸条を、それぞれの無撚炭素繊維糸条に分割して配列位置を決め、それらを引き揃えて再度たて糸シートを形成した。分割した無撚炭素繊維糸条の配置位置を決める規制手段として、2つのリードL2、L4と、孔あきガイド板L5とに炭素繊維糸条を通過させる手段を用いた。その際、リードL2、L4、L5とで規制する無撚炭素繊維糸条の位置は同一になるように配置した。
(D)積層工程:
形成されたよこ糸シートを、よこ糸シート挿入手段により挿入した。よこ糸シート挿入手段として、2つのクランプ、すなわち、よこ糸シートの一方を把持して搬送手段の上方に配置するクランプ、および、積層体の上方に配置されたよこ糸シートのもう一方を把持するクランプを用い、両クランプがそのまま下方に移動して挿入する手段を用いた。挿入されたよこ糸シートは、搬送手段で搬送されはじめると同時に切断した。ここで搬送手段として、基材全幅の90%の幅を有するベルトコンベアで0.5m/minの速度で搬送した。積層体には自重で撓む現象は見られなかった。
一方、再形成されたたて糸シートを一旦巻き取ることなく、搬送手段から20cm離れた位置に配置されたローラを介してよこ糸シートに接触させずに、たて糸シートをよこ糸シートが搬送されている方向と同方向に挿入・搬送した。たて糸シートの送出手段として、表面がプラスチックで被覆されたたて糸との接触角度が130°の駆動ローラd1、d2および駆動ローラd2に従属して消極回転するニップローラn1から構成される送出ローラ手段を用いた。
(E)たて糸シート開繊工程:
最上層に配置されているたて糸シートを構成している複数のたて糸に分割してそれぞれの配列位置を穴あきガイドL5で決めて、それらを引き揃えて再度たて糸シートを形成して、3本の固定ローラr11、r12、r13、r12の接触角度75°の開繊手段sp2を通過させた。
(F)一体化工程:
交差積層された2層の積層体を、5ゲージ(2.0コース/cm)、ループ距離3.8mm(2.6ウェール/cm)になるように、1回のステッチにて一体化した。編組織は、ガイドバー2枚を用いて、鎖編と2×1ラップ挿入糸との組み合わせ、鎖編のステッチ糸条の供給量は3,700mm/ラック(480コース)とした。
(G)巻取工程:
一体化した多軸基材を、表面駆動の巻取手段にて直径が300mmの紙管に3m巻き取った。
得られた多軸基材は、たて糸シートの層を基材の最上層以外に安定して挿入し積層することができた。また、各層において繊維糸条間の隙間(ギャップ)は殆ど見受けられず、2mmを超える繊維糸条同士の隙間の頻度は、0.3個/mであった。
(実施例2)
配向角度[0°/+90°/0°]で3層が積層され、(A)のたて糸シート形成工程で、無撚炭素繊維糸条のそれぞれを、ボビン上の糸条幅よりも大きい糸条幅(9mm)に開繊しながら引き揃えた。開繊手段として、その軸方向に揺動するローラr1(自由回転し、その表面には軸方向と平行に複数のスリットが彫刻されているもの)、揺動しない非揺動のローラr0、r2(梨地加工された円形の自由回転ローラ)に、隣り合う炭素繊維糸条同士を交互に異なるローラr1、r1’にそれぞれ通過させる手段を用いた。ローラr1、r1’、r0、r2群などは150℃の範囲の雰囲気下に配置した点、(D)の積層工程で、ダイレクトに積層ローラct2(積層体とのクリアランス距離=1mm)を介してよこ糸シートに接触させながらたて糸シートを挿入した点、(F)の一体化工程で、最上層に配置されているたて糸シートが接触を開始するポイントにステッチコームにステンレス製の面状体のカバーfcを取り付け、ステッチコームとの接触によるたて糸の目曲がりを防止した点、および(G)の巻取工程で、直径が80mmの紙管を用いた点以外は、実施例1と同様にして多軸基材を得た。
得られた多軸基材のステッチ糸を解いて分解して観察した結果、たて糸の各々の糸長および糸条幅のばらつきは殆ど観察されなかった。また、各層において繊維糸条間の隙間(ギャップ)は殆ど見受けられず、2mmを超える繊維糸条同士の隙間の頻度は0.1個/mであり、実施例1で得られた多軸基材よりも優れた多軸基材であった。
(比較例1)
(C)のたて糸シート再形成工程を経ずに配列位置を規制しなかった点、(E)のたて糸シート開繊工程を経ずに開繊手段sp2を通過させなかった点、開繊しなかった点以外は、実施例1と同様にして多軸基材を得た。得られた多軸基材のステッチ糸を解いて分解して観察した結果、たて糸の各々の糸長および糸条幅がばらついており一部に局所的な屈曲が観察された。更に、各層において2mmを超える繊維糸条間の隙間(ギャップ)が散見され、隙間の頻度は2個/mであった。
(比較例2)
(A)のたて糸解舒工程で、予め188本を整経したビームを用いた点、(B)のよこ糸シート形成工程で、よこ糸をコンタクトローラおよびダンサーローラを使用せずに、間欠的に横取解舒した点、(C)のたて糸シート再形成工程を経ずに配列位置を規制しなかった点、(D)の積層工程で、挿入されたよこ糸シートを切断せずに、多軸基材の端部で折り返しながら挿入した点、搬送手段としてベルトコンベアを用いず端部のみを把持して搬送した点、(E)のたて糸シート開繊工程を経ずにたて糸シートを開繊手段sp2に通過させなかった点、(F)の一体化工程で、たて糸シートが接触を開始するポイントにステッチコームにステンレス製の面状体のカバーfcを取り付けなかった点、および(G)の巻取工程で、直径が70mmの紙管を用いた点以外は、実施例1と同様にして多軸基材を得た。
得られた多軸基材のステッチ糸を解いて分解して観察した結果、たて糸の各々の糸長および糸条幅がばらついており一部に局所的な屈曲が観察された。また、よこ糸も搬送工程で積層体の自重で撓む現象が発生したことによる配列角度のズレがみられた。また、紙管の直径が小さいために巻取ったときの多軸基材の内層と外層との間の周長差が大きくなり、多軸基材の内層に僅かな繊維糸条の屈曲やシワが見られた。更に、各層において2mmを超える繊維糸条間の隙間(ギャップ)が散見され、隙間の頻度は4個/mであった。
本発明の多軸基材の製造方法によれば、一層当たりの繊維糸条の目付が低目付であっても繊維糸条間の隙間(ギャップ)が形成されず、高い積層構成の自由度を有した多軸基材を得ることができる。かかる多軸基材を用いると、表面品位、力学特性、その耐久性および品質安定性に優れた繊維補強複合材料を安価に製造することができるため、航空機、自動車および船舶などの構造部材、外装部材および内装部材などをはじめ、コンクリートなどの構造体の補修・補強、ゴルフシャフトや釣竿などのスポーツ用品などに用いることができる。
図1は、本発明の多軸基材を製造するための製造工程と製造装置の一例を説明するための概略側断面図である。 図2は、本発明の開繊工程の一例を説明するための概略側断面図である。
符号の説明
0:たて糸群
1:シート化前の部分たて糸シート
L0、L1、L2、L3、L4:リード
L5:孔あきガイド板
bb:ボビン
bc:搬送手段
cl:たて糸クリール
ct1:コンタクトローラ
ct2:積層ローラ
d1、d2:駆動ローラ
n1、n2:ニップローラ
pt:巻物状物
r0、r1、r1’、r2:ローラ
r11、r12、r13:固定ローラ
s1:たて糸シート
s2、s3:よこ糸シート
sa:多軸基材
sp1:予備開繊手段
sp2:開繊手段
st:一体化手段
sc:ステッチコーム
fc:面状体のカバー
wa1:たて糸シート挿入手段
wd:巻取手段
we1、we2:よこ糸シート挿入手段

Claims (9)

  1. 多数本の繊維糸条が並行にシート状に配列されて層を構成し、該層の少なくとも2層以上が層を構成する繊維糸条が交差するように積層されて積層体を構成し、該積層体の最上層にたて糸シートが配置されて一体化されてなる多軸基材の製造方法において、下記の(A)〜(C)の工程を経た後に、下記の(D)〜(G)の工程を順に経ることを特徴とする多軸基材の製造方法。
    (A)繊維糸条をボビン群から横取解舒して、たて糸として引き揃えてたて糸シートの層を少なくとも1層形成するたて糸シート形成工程、
    (B)繊維糸条をボビン群から横取解舒して、よこ糸として引き揃えてよこ糸シートの層を少なくとも1層形成するよこ糸シート形成工程、
    (C)前記のたて糸シートを、複数のたて糸に分割してそれぞれの配列位置を決め、それらを引き揃えて再度たて糸シートを形成するたて糸シート再形成工程、
    (D)前記のたて糸シートの層と前記のよこ糸シートの層を、各層を構成する繊維糸条が交差するように積層して積層体を形成する積層工程、
    (E)前記の積層体の最上層に配置されているたて糸シートを、次の(F)の一体化工程で一体化する前に、さらに開繊手段により開繊するたて糸シート開繊工程、
    (F)前記の積層体を一体化手段により一体化し多軸基材とする一体化工程、
    (G)一体化された多軸基材を、直径75〜400mmのコアに巻き取る巻取工程。
  2. (A)のたて糸シート形成工程において、たて糸シートを形成する際に、予備開繊手段によりたて糸シートを開繊することを特徴とする請求項1記載の多軸基材の製造方法。
  3. (A)のたて糸シート形成工程および(E)のたて糸シート開繊工程において、予備開繊手段および/または開繊手段が複数のローラで構成されるローラ群を通過させることを特徴とする請求項2記載の多軸基材の製造方法。
  4. (A)のたて糸シート形成工程において、ローラ群が、その軸方向に揺動している揺動ローラと揺動していない非揺動ローラとの組み合わせで構成されていることを特徴とする請求項3記載の多軸基材の製造方法。
  5. (A)のたて糸シート形成工程、(C)のたて糸シート再形成工程および(E)のたて糸シート開繊工程において、たて糸の配列位置を決める手段が、所定の寸法の溝を設けた溝付ローラ、穴が空いた板、筬もしくはそれらの組み合わせであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の多軸基材の製造方法。
  6. (A)のたて糸シート形成工程および(C)のたて糸シート再形成工程において、たて糸が接触角度90°以上で接触するローラ全ての直前でたて糸の位置をガイドで規制することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の多軸基材の製造方法。
  7. (F)の一体化工程において、一体化手段がステッチ糸条で一体化するものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の多軸基材の製造方法。
  8. ステッチ糸条で一体化するステッチ手段において、ステッチコームが多軸基材の全幅に渡って面状体のカバーを有することを特徴とする請求項7記載の多軸基材の製造方法。
  9. (F)の一体化工程において、一体化手段が積層体の層間および表面に配置された樹脂材料で一体化するものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の多軸基材の製造方法。
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