以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1は第1実施形態の体積効率算出手段11のブロック図で、この体積効率算出手段11はエンジンコントローラ10に備えられる。
図1にはエンジンの具体的な構成を示していないが、エンジンの燃焼室に導入される吸気量が吸気管内の吸気の流速の変化に依存して制御される方式のものであればよい。すなわち、エンジンは吸気通路にスロート部を設けると共に、このスロート部下流の吸気を燃焼室へと吸い込むポンプとしての機能を有している。具体的には、図43の下方に示したように、エンジンの有するポンプ機能により吸気通路22に吸い込まれた吸気は、吸気通路22に設けられたスロットル弁21(スロート部)により調量され、コレクタ27に一旦蓄えられた後、吸気ポートより各気筒の燃焼室(シリンダ)へと分配供給される。各気筒の吸気ポートには燃料噴射弁29が設けられ、エンジンコントローラ10からの信号を受けて、この燃料噴射弁29が所定の時期に燃料を噴射供給する。燃焼室内で燃焼したガスは排気通路23へと排出される。排気通路には三元触媒などの触媒が設けられ、ここで排気中の有害成分が浄化される。
図1のブロック図を説明する前に、本発明で新たに導入している「正規化体積効率」と「仮想流速」について説明する。
さて、体積効率と流速との関係を、エンジン機種に関係なく記述することができれば、エンジン機種毎に適合する必要がなくなるので、エンジン設計の開発期間を短縮することに大いに貢献する。このため、本発明者が種々の実験を行った結果として創出されたのが本発明の吸気モデルである。本発明者により初めて得られたエンジンの平衡状態における実験結果を図6(a)に示す。図6(a)は仮想流速と正規化体積効率の関係を表しており、この特性によれば特性が急激に変化するところがないので仮想流速より正規化体積効率を精度良く求めることができ、この逆に正規化体積効率より仮想流速を精度良く求めることができることがわかる。
ここで、「体積効率」、「充填効率」、「スロットル弁全開時体積効率」、「正規化体積効率」といった用語の説明をしておく。一般的な意味での体積効率、充填効率の定義は次の通りである。
体積効率=1サイクル当たりのシリンダ吸入新気物質量
/大気状態で総行程容積を満たしたときの気体の物質量
…(補1−1)
充填効率=1サイクル当たりのシリンダ吸入新気物質量
/標準状態で総行程容積を満たしたときの気体の物質量
…(補1−2)
これに対して本発明では、スロットル弁全開時体積効率ηvwotを独自に次のように定義する。
ηvwot=1サイクル当たりのシリンダ吸入新気物質量
/スロート部下流の状態の気体で総行程容積を満たしたときの気体の物質量
…(補1−3)
これら3つの式は、全て総行程容積(排気量)で正規化されているという共通点はあるが、(補1−1)式の体積効率はあまり環境条件によらないエンジンのポンプ吸い込み能力を示す相対的な指標であり、一方、(補1−2)式の充填効率は吸気の絶対量を示す。
これに対して、(補1−3)式のスロットル弁全開時体積効率ηvwotは、エンジンというよりはシリンダがマニフォールドからどれだけの体積の空気を排出するかの指標であって、スロットル弁による気体の状態変化の影響を除いたエンジンの相対的なポンプ吸い込み能力を示す指標である。
(補1−1)式の体積効率と、(補1−3)式のスロットル弁全開時体積効率ηvwotの関係は、スロート部の上下流が等温であると仮定すれば、スロート部上流圧力をP1、スロート部下流圧力をP2として、
ηvwot=体積効率×(P1/P2) …(補1−4)
となる。すなわち、スロットル弁全開時(WOT)にはP1≒P2あるいは大気状態≒スロート部下流状態となるから、
ηvwot≒体積効率|wot …(補1−5)
の関係が成り立ち、かつスロットル弁全開時体積効率ηvwotは、スロート部上流圧力P1やスロート部下流圧力P2あるいはスロットル弁開度などによってあまり変化しないので、このあまり変化しない値としての「スロットル弁全開時体積効率」を(補1−3)式のように定義したわけである。
ここで注意しておくと、(補1−1)式、(補1−2)式、(補1−3)式のように3つの効率は、分母をある状態で定義(正規化)しているだけなので、いずれの効率も1.0が上限というわけではないことである。例えば、吸気管の動的効果やターボ過給機による過給、吸排気弁のオーバーラップや吸排気脈動による残留ガスの掃気効果によっては体積効率、スロットル弁全開時体積効率は1.0を大きく上回ることがあり、充填効率は気温が標準状態より低いときのように状態量が分子より分母が小さくなってしまえば1.0以上になる。
上記のスロート部とは、吸気通路の途中で吸気を絞る部位のことで、例えばスロットル弁の設けられる部位である。ここでは、バタフライ型のスロットル弁を有するエンジンに限られない点を明確にするため、スロットル弁部ではなくスロート部という表現を用いている。
次に、図6(a)の縦軸に用いている「正規化体積効率」の定義は次の通りである。
正規化体積効率[無名数]=体積効率[無名数]
/スロットル弁全開時体積効率[無名数]
…(補2)
すなわち、正規化体積効率は上記(補1−1)式の体積効率を上記(補1−3)式のスロットル弁全開時体積効率ηvwotで除算した値である。
一方、図6(a)横軸の「仮想流速」の定義は吸気の流速を上記(補1−3)式の正規化体積効率で除した値つまり次式の通りである。
仮想流速[m/s]=流速[m/s]/正規化体積効率[無名数] …(補3)
この仮想流速u’は本発明者が初めて創出した値である。仮想流速に「仮想」を付しているように、仮想流速u’は現実に存在する物理量ではなく試行錯誤のすえに想到した値である。比較のため、現実に存在する物理量である流速と、正規化体積効率との関係を図6(a)に重ねて示してみると、流速を用いたときには一点鎖線で示したように所定値v1の手前で急激に特性が立ち下がりこの所定値v1で特性が切れてしまっていることがわかる。これは、流速そのものは速くなっていくと物理的に音速で制限されて収束してしまうので、流速が音速付近の領域になると正規化体積効率のようなパラメータとの相関がなくなってしまうためである。すなわち、図6(a)の横軸の所定値v1は、上記(補3)式において音速cを流速に代入したときの値に相当する。
これに対して、流速をさらに正規化体積効率で除した値である仮想流速u’を、図6(a)のように横軸に採ったときには、所定値v1で特性が終了することがなく、音速cを超える流速領域まで緩やかな特性が得られている。そして、この特性に基づけば、仮想流速u’より正規化体積効率を、この逆に正規化体積効率より仮想流速u’を精度良く求めることができるのである。上記(補3)式のように流速を正規化体積効率で除算した値は、流速に関係する値ではあるものの現実には存在しない物理量であるので、「仮想」を付しているのである。
上記(補3)式のように仮想流速u’を定義したとき、仮想流速u’と正規化体積効率との間には、図5(a)に示したよりスッキリした関係が得られることも本発明者が初めて見出した事項である。すなわち、図6(a)が横軸、縦軸とも実数表示であったのに対して図5(a)は横軸、縦軸とも自然対数で表示したものである。図5(a)に示すこの両対数表示の特性によれば、仮想流速u’の小さな領域(つまりスロットル弁開度の大きな領域)で正規化体積効率はほぼ一定となり、所定値v2より大きな仮想流速u’の領域(つまりスロットル弁開度の小さな領域)では仮想流速u’が増大するほど正規化体積効率が減少する、というほぼ線形に近い関係が得られている。
図5(a)、図6(a)に示す仮想流速u’と正規化体積効率の関係は、一般的なエンジンであればどんな機種でも高い相関を示すことを本発明者が実験によって確認している。一般的なエンジンであればどんな機種でも高い相関を示す、という意味は、図5(a)、図6(a)に示す特性をエンジン機種に関係なく共通に用いることができる、つまりエンジン機種が相違しても再適合する必要がないという意味である。一般的なエンジン、という意味は、過給機を備えた車両を除くという意味である。ただし、過給機を備えたエンジンに対して本発明を適用できない、ということではなく、正規化体積効率に対して所定の補正を行うことによって過給機を備えたエンジンにも適用できる(第9実施形態で後述する)。
なお、上記(補3)式右辺の流速は吸気ポートから燃焼室へと流入する吸気の流速のことであり、この場合にスロットル弁21下流においては吸気の密度変化がないと仮定して考えている。また、吸気弁が開いてから閉じるまでの間、実際の吸気流速は一定でないのであるが、ここでは簡単のため平均の流速で考えている。
さらに述べると、仮想流速は逆数を採るなどの変形(第16実施形態で後述する)や単位の変更を行ってもよい。ここで、単位の変更とは、仮想流速u’から流速へと変換することをいう(第12実施形態で後述する)。さらには仮想流速以外の物理パラメータとすることも可能である。例えば、図5(b)、図6(b)に横軸を仮想マッハ数M’で置き換えたものを示す。ここで、仮想マッハ数M’は仮想流速u’をさらに音速cで除算した値、つまり次式により定義される値である。
仮想マッハ数[無名数]=仮想流速[m/s]/音速[m/s] …(補4)
図5(a)、図5(b)、図6(a)、図6(b)の縦軸の正規化体積効率も同様で、正規化を行えば体積効率以外の物理パラメータとすることも可能である。例えば図7に示したようにスロットル弁21上流の吸気圧力をP1、スロットル弁21上流の吸気密度をρ1、スロットル弁21下流の吸気圧力をP2、スロットル弁21の下流の吸気の密度をρ2としたとき、正規化体積効率に代えて、スロットル弁21下流圧力P2をスロットル弁21上流圧力P1で除算したスロットル弁前後吸気圧力比(P2/P1)やスロットル弁21下流の吸気密度ρ2をスロットル弁21上流の吸気密度ρ1で除算したスロットル弁前後吸気密度比(ρ2/ρ1)であってよい(図5(a)、図5(b)、図6(a)、図6(b)参照)。
ここで、上記(補3)式右辺の流速は
流速[m/s]=(総行程容積[m3]/スロットル弁開口面積[m2])
×(エンジン回転速度[rpm]/120) …(補5)
であるので、これを上記(補3)式に代入し、かつスロットル弁全開時体積効率を(補3)式右辺の正規化体積効率として代入すれば次式が得られる。
仮想流速[m/s]=(総行程容積[m3]×スロットル弁全開時体積効率
×(エンジン回転速度[rpm]/120))
/スロットル弁開口面積[m2] …(補6)
スロットル弁全開時体積効率を(補3)式右辺の正規化体積効率として代入することとしたのは、スロットル弁21が全開のときの体積効率はスロットル弁21下流より総行程容積までの間の体積効率と略同等なのでスロットル弁全開時体積効率で置換えても比較的高い精度で正規化体積効率を得ることができるためである。
また、流速は音速cによって変化するので、その変化分をも考慮するのであれば(補6)式に代えて次式により仮想流速を求めればよい。
仮想流速[m/s]=(T[K]/T0[K])^(1/2)
×(総行程容積[m3]×スロットル弁全開時体積効率
×(エンジン回転速度[rpm]/120))
/スロットル弁開口面積[m2]) …(補7)
ただし、T[K] :吸気温度、
T0[K]:標準状態の吸気温度(298K)、
(補7)式右辺の(T/T0)^(1/2)は吸気温度変化に伴う音速の変化に対しての補正である。(補7)式右辺の^は累乗を表している。
上記の図5(a)、図5(b)、図6(a)、図6(b)に示した特性を用いるには同特性をテーブルにしてエンジンコントローラ10内のメモリに記憶させておき、その記憶させたテーブルを用いて仮想流速u’や仮想マッハ数M’から正規化体積効率、スロットル弁前後吸気圧力比(P2/P1)、スロットル弁前後吸気密度比(ρ2/ρ1)のいずれかを算出したり、この逆に正規化体積効率、スロットル弁前後吸気圧力比(P2/P1)、スロットル弁前後吸気密度比(ρ2/ρ1)のいずれか一つから仮想流速u’や仮想マッハ数M’を算出すればよい。
ただし、算出方法はこうしたテーブル検索に限られるものでなく、演算式を用いることも可能である。これについて説明すると、特開2002−130039公報では、スロットル弁を通過する空気流量を演算式により算出する際に必要となる関数Φ(P2/P1)を、スロットル弁前後吸気圧力比(P2/P1)が所定値以下のときと所定値を超えるときの2つに分け、次のように式で計算させている。
(1)P2/P1≦1/(1+κ)のとき
Φ(P2/P1)={κ/(2(κ+1))}^1/2 …(補8)
(2)P2/P1>1/(1+κ)のとき
Φ(P2/P1)=[(κ−1)/2κ×{(1−P2/P1)+P2/P1}
×(1−P2/P1)]^1/2 …(補9)
ここで、P1はスロットル弁上流の吸気圧力、P2はスロットル弁下流の吸気圧力、κは吸気の比熱比である。^は累乗を表している。
本発明との関係では、(補8)式、(補9)式の関数Φ(P2/P1)をスロットル弁前後吸気圧力比(P2/P1)で除算して音速cを乗算した値が、本発明の仮想流速u’に相当するので、(補8)式、(補9)式の関数Φ(P2/P1)を用いて次式により本発明の仮想流速u’を算出することができる。
(3)P2/P1≦1/(1+κ)のとき
u’[m/s]=c[m/s]×(P1/P2)×Φ(P2/P1)
=c×(P1/P2)×{κ/(2(κ+1))}^1/2
…(補10)
(4)P2/P1>1/(1+κ)のとき
u’[m/s]=c[m/s]×(P1/P2)×Φ(P2/P1)
=c×(P1/P2)×[(κ−1)/2κ
×{(1−P2/P1)+P2/P1}
×(1−P2/P1)]^1/2 …(補11)
ここで、(補10)式、(補11)式のcが音速である。
これら(補10)式、(補11)式に対して上記(補4)式を用いると、仮想マッハ数M’についても次式により算出することができる。
(5)P2/P1≦1/(1+κ)のとき
M’[無名数]=u’[m/s]/c[m/s]
=(P1/P2)×{κ/(2(κ+1))}^1/2
…(補12)
(6)P2/P1>1/(1+κ)のとき
M’[無名数]=u[m/s]/c[m/s]
=(P1/P2)×[(κ−1)/2κ
×{(1−P2/P1)+P2/P1}
×(1−P2/P1)]^1/2 …(補13)
この結果、(補10)式、(補11)式、(補12)式、(補13)式がスロットル弁前後吸気圧力比(P2/P1)より仮想流速u’や仮想マッハ数M’を算出するための演算式になる。また、(補10)式、(補11)式、(補12)式、(補13)式においてスロットル弁前後吸気圧力比(P2/P1)に代えてスロットル弁前後吸気密度比(ρ2/ρ1)や正規化体積効率を用いることができる。
このようにしてスロットル弁前後吸気圧力比(P2/P1)、スロットル弁前後吸気密度比(ρ2/ρ1)または正規化体積効率のいずれか一つから仮想流速u’や仮想マッハ数M’を算出するための演算式が得られた。
ただし、この反対に仮想流速u’や仮想マッハ数M’よりスロットル弁前後吸気圧力比(P2/P1)、スロットル弁前後吸気密度比(ρ2/ρ1)または正規化体積効率を求める演算式はないので、このときには図5(a)、図5(b)、図6(a)、図6(b)に示した内容のテーブルを用いて検索する必要がある。
これで、本発明で新たに導入している「正規化体積効率」と「仮想流速」についての説明を終える。
図1に戻り、スロットル弁開度検出手段としてのスロットルセンサ1は、実際のスロットル弁開度を検出する。ここではアクセルペダルと関係なくエンジンコントローラ10からの指令(目標スロットル弁開度)を受けるアクチュエータによりスロットル弁が駆動される、いわゆる電子制御スロットル装置を対象としており、この電子制御スロットル装置ではスロットルセンサ1により検出される実際のスロットル弁開度が目標スロットル弁開度と一致するようにフィードバック制御している。スロットルセンサ1では、スロットル弁開度をポテンションメータなど電圧に変換してからスロットル弁開度に変換する。
スロットルセンサ1からの信号が、クランク角センサ(2、3)からの信号と共に入力されるエンジンコントローラ10は、体積効率を算出する手段11の機能を備えている。
この体積効率算出手段11は、スロットル弁開口面積算出手段12、パージ弁開口面積算出手段13、総開口面積算出手段14、エンジン回転速度算出手段15、スロットル弁全開時体積効率算出手段16、仮想流速または仮想マッハ数算出手段17、正規化体積効率算出手段18、乗算手段19からなっている。
まず、スロットル弁開口面積算出手段12ではアクセルセンサ1により検出される実スロットル弁開度から所定のテーブルを検索することによりスロットル弁開口面積Atvoを算出する。テーブルの内容として一例を図2に示す。図2の特性はバタフライ型のスロットル弁のものとは違っている。このように、本発明ではバタフライ型のスロットル弁だけでなくバタフライ型以外のスロットル弁を備えているものをも対象としている。
パージ弁開口面積算出手段13ではパージ弁に与えるパージ弁デューティ比から図3を内容とするテーブルを検索することにより、パージ弁開口面積Apを算出し、総開口面積算出手段14ではこれらスロットル弁開口面積Atvoとパージ弁開口面積Apの和を総開口面積Aとして算出する。本発明はパージ弁を備えるエンジンだけを対象とするものでなく、パージ弁を備えないエンジンをも対象としている。すなわち、パージ弁を備えないエンジンではパージ弁開口面積Ap=0としてやればよいだけである。
クランク角センサは、ポジションセンサ2とフェーズセンサ3とからなっている。ポジションセンサ2はクランク軸に取り付けられるシグナルプレートに対向して設けられ、クランク角の10°毎に立ち上がる信号(ポジション信号)を発生させる。フェーズセンサ3はカム軸に取り付けられるシグナルプレートに対向して設けられ、気筒判別を行うための信号(フェーズ信号)を発生させる。これらポジション信号、フェーズ信号の2つの信号を受けるエンジン回転速度算出手段15では所定の信号処理を行ってエンジン回転速度Neを算出する。また、図示しないが、エンジンコントローラ10ではポジション信号、フェーズ信号の2つの信号から燃料噴射の噴射タイミングや点火タイミングの基点となる基準位置信号を生成している。
スロットル弁全開時体積効率算出手段16ではエンジン回転速度Neから図4を内容とするテーブルを検索することにより、スロットル弁21下流(スロート部下流)の吸気をポンプ(燃焼室)に吸い込む効率であって、スロットル弁21を全開にしたときにスロットル弁21下流の吸気をポンプに吸い込む効率を表すスロットル弁全開時体積効率ηvwotを算出する。エンジンは幅広いエンジン回転速度領域を持つと共に、吸気管を備えているので一般的に静的効果・動的効果・熱的効果などにより運転状態や環境条件の相違でエンジンに吸入される空気量(体積効率)が大きく変化するが、スロットル弁全開時に限ればエンジン回転速度毎に特徴的な特性を得ることができるので、図4に示す特性を適合により予め求めてエンジンコントローラ10内のメモリに記憶させておく。図4の特性は一例を示す。図示しないが、スロットル弁全開時体積効率ηvwotは1.0を超えることもあり得る。すなわち、図4の特性はエンジン仕様により定まる値であり、エンジン仕様が異なれば違った特性になる。
仮想流速または仮想マッハ数算出手段17では、総開口面積A、エンジン回転速度Ne、スロットル弁全開時体積効率ηvwot、エンジン総行程容積Vtotalに基づいて次式により仮想流速u’をまたはこの仮想流速u’を音速cで除算した値である仮想マッハ数M’を算出する。
u’[m/s]=(Vtotal[m3]×ηvwot×(Ne[rpm]/120))
/A[m2] …(1)
M’[無名数]=u’[m/s]/c[m/s]
=(Vtotal[m3]×ηvwot×(Ne[rpm]/120))
/(A[m2]×c[m/s]) …(2)
(1)式右辺においてエンジン回転速度Ne[rpm]を120で割っているのは1行程(エンジン2回転分)あたりの値[/s]とするためである。
ここで、上記(1)式の仮想流速u’や上記(2)式の仮想マッハ数M’は本発明で初めて導入している物理量であり、それらの定義については上記(補3)、(補4)式により説明した。
上記(1)式右辺のエンジン総行程容積Vtotalは、多気筒エンジンでは全気筒分の行程容積の合計(排気量)である。ただし、多気筒エンジンであっても例えばV型エンジンでバンク毎に吸気系が完全に独立している場合や、吸気弁を閉じたままにして一部の気筒を休止する構造を採る場合には、有効な容積を設定あるいは演算する。例えばV型エンジンでは独立したバンク毎に総行程容積を扱えばよい。また、吸気弁を閉じたままにして一部の気筒を休止する構造を採るエンジンでは、休止時と休止時以外とで別々の総行程容積を用意しておけばよい。実施形態では全気筒分で考えるが、1気筒当たりで考えてもかまわない。
また、流速は音速によって変化するので、その変化分をも考慮するのであれば、上記(1)式に代えて次式により仮想流速u’や仮想マッハ数M’を求めればよい。
u’[m/s]=(T/T0)^(1/2)
×(Vtotal[m3]×ηvwot×(Ne[rpm]/120))
/A[m2]) …(3a)
M’[無名数]=u’[m/s]/c[m/s]
=(T/T0)^(1/2)
×(Vtotal[m3]×ηvwot×(Ne[rpm]/120))
/(A[m2]×c[m/s]) …(3b)
ただし、T[K] :吸気温度、
T0[K]:標準状態の吸気温度(298K)、
(3a)式、(3b)式の各右辺の(T/T0)^(1/2)は温度変化に伴う音速の変化に対しての補正である。
正規化体積効率算出手段18では、(1)式や(3a)式の仮想流速u’から図5(a)または図6(a)を内容とするテーブルを検索することにより、または(2)式や(3b)式の仮想マッハ数 M’から図5(b)または図6(b)を内容とするテーブルを検索することにより正規化体積効率を算出する。
仮想流速または仮想マッハ数算出手段17がスロットル弁全開時体積効率ηvwotを用いるときには、正規化体積効率算出手段18が算出する正規化体積効率は、上記(補2)式で定義した値、つまり体積効率をスロットル弁全開時体積効率ηvwotで除算した値であるので、乗算手段19では正規化体積効率算出手段18が算出する正規化体積効率にスロットル弁全開時体積効率ηvwotを乗算した値を体積効率ηvとして算出する。
このようにして求めた体積効率ηvを、エンジン制御にどのように用いるかは第10〜第16の実施形態により後述する。
ここで、第1実施形態の作用、効果を説明する。
第1実施形態(請求項1に記載の発明)によれば、エンジン回転速度Neと、総行程容積Vtotalと、スロットル弁全開時体積効率ηvwot(スロットル弁21下流より総行程容積までの間の吸気の体積効率)と、スロットル弁開口面積Atvo(スロート部面積)とに基づいて、仮想流速u’や仮想マッハ数M’を上記の(3a)式や(3b)式により算出する。ここで、上記(3a)式、(3b)式右辺の分子はスロットル弁21(スロート部)下流の吸気を燃焼室へと吸い込むポンプとしての吸い込み能力を表している。
そして、これら仮想流速u’や仮想マッハ数M’から図5(a)、図5(b)または図6(a)、図6(b)を内容とするテーブルを検索することにより正規化体積効率を算出している。
この場合に、仮想流速u’や仮想マッハ数M’と正規化体積効率の関係は、一般的なエンジンであればどんな機種でも高い相関を示すことを本発明者が実験によって確認している。一般的なエンジンであればどんな機種でも高い相関を示す、という意味は、図5(a)、図5(b)または図6(a)、図6(b)に示す特性をエンジン機種に関係なく共通に用いることができるという意味であり、これによって、エンジンの汎用性ある吸気モデルを新たに構築することができたのである。このため、この汎用性のある吸気モデルを用いることで、エンジン開発期間を大幅に短縮することができる。
また、スロットル弁21が全開のときの体積効率は、スロットル弁21下流より総行程容積までの間の体積効率と略同等であることに着目し、本実施形態では、スロットル21弁(スロート部)下流の吸気をポンプに吸い込む効率を表す体積効率として、スロットル弁全開時体積効率ηvwot(スロットル弁下流の空気をポンプに吸い込む効率)を採用している。このときには、正規化体積効率が、体積効率をスロットル弁全開時体積効率ηvwotで除算した値であるので、上記のようにして求めた正規化体積効率に対して、スロットル弁全開時体積効率ηvwotを除算することによって体積効率ηvを直ちに算出することができる。
このように本実施形態によれば、エンジンの燃焼室に導入される吸気量が吸気管内の吸気の流速の変化に依存して制御される方式のものにおいて、仮想流速または仮想マッハ数と正規化体積効率の関係を利用することで、エンジンの平衡状態における体積効率を高い精度で算出することができる。
第1実施形態では、仮想流速u’または仮想マッハ数M’に基づいて、正規化体積効率を算出するようにしているが、図52(a)、(b)に示したように仮想流速u’または仮想マッハ数M’に基づいて、スロットル弁前後吸気圧力比算出手段231やスロットル弁前後吸気密度比算出手段232がスロットル弁前後吸気圧力比(スロート部前後吸気圧力比)やスロットル弁前後吸気密度比(スロート部前後吸気密度比)を算出するようにしてもかまわない。
図8は第2実施形態で、第1実施形態の図1と置き換わるものである。図1と同一部分には同一番号をつけている。
第1実施形態では仮想流速u’または仮想マッハ数M’から正規化体積効率を算出するものであったが、第2実施形態はこの逆に目標正規化体積効率から目標仮想流速tu’または目標仮想マッハ数tM’を算出するようにしたものである。
エンジンコントローラ10には、エンジン目標トルク算出手段35、目標充填効率算出手段36、目標体積効率算出手段37、エンジン回転速度算出手段15、スロットル弁全開時体積効率算出手段16、目標正規化体積効率算出手段38、目標仮想流速または目標仮想マッハ数算出手段39、目標スロットル弁開口面積算出手段40、パージ弁開口面積算出手段13、目標総開口面積算出手段41、目標スロットル弁開度算出手段42を備える。
まず、エンジン目標トルク算出手段35では、アクセルセンサ31により検出されるアクセル操作量に基づいてドライバの要求するエンジン出力トルクであるエンジン目標トルクを算出する。アクセル操作量に基づいて車両の要求する軸トルクを算出し、これに車速と変速比を考慮してエンジン目標トルクを求めるようにしてもかまわない。さらに、ハイブリッド車の場合にはモータとエンジンとで要求トルクを分配するので、分配される分をエンジン目標トルクとすればよい。また、補機類が加わるときにはそのぶんだけエンジン目標トルクを大きくする。
目標充填効率算出手段36では、この目標トルクとエンジン回転速度Neとから図9を内容とするマップを検索することにより目標充填効率tηcを算出する。
大気状態検出手段32では、大気の状態つまり吸気温度Taと大気圧力Paを検出する。通常は図43に示したように吸気通路22に取り付けられた吸気温度センサ33や大気開放された部分に取り付けられる大気圧センサ34を用いる。大気圧としては簡単には標準状態であるとしてよい。この場合には体積効率=充填効率となる。
目標体積効率算出手段37では、目標充填効率tηcを体積効率に変換した値を目標体積効率tηvとして算出する。
ここで、体積効率は上記(補1−1)式に示したように大気状態の吸気でエンジン総行程容積Vtotalを満たしたときの効率であるため、吸気の絶対量を表すパラメータではない。標準状態の吸気でエンジン総行程容積Vtotalを満たしたときの効率である充填効率から体積効率へと変換するには大気状態で補正すればよいので、次式により目標体積効率tηvを算出する。
tηv=(P0/Pa)×(Ta/T0)×tηc …(4)
ただし、P0:標準状態の吸気圧力(絶対圧力)、
T0:標準状態の吸気温度(絶対温度)、
Pa:大気状態の吸気圧力(絶対圧力)、
Ta:大気状態の吸気温度(絶対温度)、
ここで、標準状態の吸気圧力は絶対圧力で99kPa、標準状態の吸気温度は絶対温度で298Kである。
目標正規化体積効率算出手段38では、次式により目標正規化体積効率を演算する。
目標正規化体積効率=tηv/ηvwot …(5)
すなわち、目標正規化体積効率は、目標体積効率tηv(体積効率の目標値)をスロットル弁全開時体積効率ηvwotで除算した値である。
目標仮想流速または目標仮想マッハ数算出手段39では、目標正規化体積効率から図5(a)または図6(a)を内容とするテーブルを検索することにより仮想流速の目標値である目標仮想流速tu’を、または目標正規化体積効率から図5(b)または図6(b)を内容とするテーブルを検索することにより仮想マッハ数の目標値である目標仮想マッハ数tM’を算出する。
目標スロットル弁開口面積算出手段40(目標スロート部面積算出手段)では目標仮想流速tu’と、スロットル弁全開時体積効率ηvwotと、エンジン回転速度Neと、総行程容積Vtotalとに基づいて次式により目標スロットル弁開口面積tAtvo(目標スロート部面積)を、または目標仮想マッハ数tM’と、音速cと、スロットル弁全開時体積効率ηvwotと、エンジン回転速度Neと、総行程容積Vtotalとに基づいて次式により目標スロットル弁開口面積tAtvo(目標スロート部面積)を算出する。
tAtvo[m2]=(Vtotal[m3]×ηvwot×(Ne[rpm]/120))
/tu’[m/s]) …(6)
tAtvo[m2]=(Vtotal[m3]×ηvwot×(Ne[rpm]/120))
/(tM’×c[m/s]) …(7)
上記(6)式は上記(1)式を、上記(7)式は上記(2)式をそれぞれ変形して得られる式である。
目標総開口面積算出手段41では目標スロットル弁開口面積tAtvoとパージ弁開口面積Apとの和を目標総開口面積tAとして算出する。もちろん、パージ弁が開いてないときにはパージ弁開口面積Ap=0であり、目標総開口面積tAは目標スロットル弁開口面積tAtvoと一致する。
目標スロットル弁開度算出手段42ではこの目標総開口面積tAから図2を内容とするテーブルを検索することにより目標スロットル弁開度を算出する。
スロットル弁制御手段43では、スロットルセンサ1により検出される実スロットル弁開度がこの目標スロットル弁開度と一致するようにスロットル弁アクチュエータを制御する。
第2実施形態(請求項1に記載の発明)によれば、目標体積効率tηvとスロットル弁全開時体積効率ηvwotとから目標正規化体積効率を算出し、この目標正規化体積効率から図5(a)、図5(b)または図6(a)、図6(b)を内容とするテーブルを検索することにより目標仮想流速tu’や目標仮想マッハ数tM’を算出し、これら目標仮想流速tu’や目標仮想マッハ数tM’に基づいて上記の(6)式や(7)式により目標スロットル弁開口面積tAtvo(目標スロート部面積)を算出している。ここで、上記(6)式、(7)式右辺の分子はスロットル弁21(スロート部)下流の吸気を燃焼室へと吸い込むポンプとしての吸い込み能力を表している。
この場合に、目標正規化体積効率と目標仮想流速tu’や目標仮想マッハ数tM’との関係は、「目標」がついても同じである。すなわち、目標正規化体積効率と目標仮想流速tu’や目標仮想マッハ数tM’との関係は、一般的なエンジンであればどんな機種でも高い相関を示すことを本発明者が実験によって確認している。一般的なエンジンであればどんな機種でも高い相関を示す、という意味は、図5(a)、図5(b)または図6(a)、図6(b)に示す特性をエンジン機種に関係なく共通に用いることができるという意味であり、これによって、エンジンの汎用性ある吸気モデルを新たに構築できている。このため、この汎用性のある吸気モデルを用いることで、エンジン開発期間を大幅に短縮することができる。
また、スロットル弁21が全開のときの体積効率は、スロットル弁21下流より総行程容積までの間の体積効率と略同等であることに着目し、本実施形態では、スロットル21弁(スロート部)下流の吸気をポンプに吸い込む効率を表す体積効率として、スロットル弁全開時体積効率ηvwotを採用している。このときには、目標正規化体積効率が、体積効率の目標値である目標体積効率tηvをスロットル弁全開時体積効率ηvwot(スロットル弁下流の空気をポンプに吸い込む効率)で除算した値であるので、目標体積効率tηvをスロットル弁全開時体積効率ηvwotで除算することによって目標正規化体積効率を直ちに算出することができる。
このように第2実施形態によっても、エンジンの燃焼室に導入される吸気量が吸気管内の吸気の流速の変化に依存して制御される方式のものにおいて、目標仮想流速tu’または目標仮想マッハ数tM’と目標正規化体積効率の関係を利用することで、目標スロットル弁開口面積tAtvoを高い精度で算出することができる。
第2実施形態では、目標正規化体積効率を算出し、この目標正規化体積効率に基づいて目標仮想流速tu’または目標仮想マッハ数tM’を算出しているが、図53(a)、(b)に示したように目標正規化体積効率に代えて、目標スロットル弁前後吸気圧力比算出手段241や目標スロットル弁前後吸気密度比算出手段242が目標スロットル弁前後吸気圧力比(目標スロート部前後吸気圧力比)や目標スロットル弁前後吸気密度比(目標スロート部前後吸気密度比)を算出し、これら目標スロットル弁前後吸気圧力比や目標スロットル弁前後吸気密度比に基づいて目標仮想流速tu’または目標仮想マッハ数tM’を算出するようにしてもかまわない。
また、第2実施形態では、目標仮想流速tu’または目標仮想マッハ数tM’に基づいてポンプとしての吸い込み能力(Vtotal×体積効率×Ne/120)を一定としたときのスロットル弁開口面積(スロート部面積)の目標値である目標スロットル弁開口面積tAtvo(目標スロート部面積)を算出する場合で説明したが、図53(c)に示したように目標仮想流速tu’または目標仮想マッハ数tM’に基づいて、目標吸い込み能力算出手段243がスロットル弁開口面積(スロート部面積)を一定としたときのポンプとしての吸い込み能力(Vtotal×体積効率×Ne/120)の目標値である目標吸い込み能力を算出するようにしてもかまわない。算出した目標吸い込み能力は、これを総行程容積Vtotalと、Ne/120とで除算することによって体積効率を得ることができる。
さらに、図53(d)に示したように目標吸い込み能力算出手段243が目標エンジン回転速度を算出する目標エンジン回転速度算出手段244である場合、つまり目標吸い込み能力が目標エンジン回転速度である場合に、エンジン回転速度制御手段245が、実回転速度Neがこの目標エンジン回転速度と一致するようにエンジン回転速度を制御するようにしてもかまわない。
図10は第3実施形態で、第1実施形態の図1中のスロットル弁全開時体積効率算出手段16と置き換わるものである。図1と同一部分には同一番号をつけている。
第3実施形態は、吸気弁カム位相(吸気弁の開閉時期)を可変に制御し得る可変バルブタイミング機構(VTC機構)50を備えるものを前提としている。VTC機構50を備えるエンジンでは、吸気弁カム位相が変化し、その影響を受けてスロットル弁全開時体積効率ηvwotが変化する。そこで、実際の吸気カム位相に基づいて第1正規化スロットル弁全開時体積効率を算出し、この第1正規化スロットル弁全開時体積効率をスロットル弁全開時体積効率ηvwotに代えて用いる。
具体的に説明すると、スロットル弁全開時体積効率算出手段16は、吸気カム位相検出手段52、最適吸気カム位相算出手段53、吸気カム位相オフセット角算出手段54、正規化スロットル弁全開時体積効率算出手段55、吸気系平均温度検出手段56、吸気脈動補正係数算出手段57、第1正規化スロットル弁全開時体積効率算出手段58を備える。
まず、吸気カム位相検出手段52では、ポジションセンサ2からのポジション信号と、フェーズセンサ3からのフェーズ信号に基づいて実吸気カム位相を検出する。実吸気弁カム位相としては例えば吸気弁閉時期や吸気弁開時期を用いればよい。
最適吸気カム位相算出手段53では、エンジン回転速度Neから図11を内容とするテーブルを検索することにより最適吸気カム位相(吸気量が最大となるときの吸気カム位相)を算出する。最適吸気カム位相はエンジン回転速度Neによって大きく変わることが知られている。そこで、図11に示したようにエンジン回転速度Ne毎に最適吸気カム位相を予め記憶して設定しておくことでこれを求めることができる。
吸気カム位相オフセット角算出手段54では、実吸気カム位相と最適吸気カム位相の差分を吸気カム位相オフセット角として算出する。例えば、図12において×印が実吸気カム位相だとすると吸気カム位相オフセット角は図示された値となる。実吸気カム位相は最適吸気カム位相より進角側、遅角側のいずれの側にもくるので、最適吸気カム位相を基点としてオフセット角を求めればよい。
正規化スロットル弁全開時体積効率算出手段55では、吸気カム位相オフセット角から図13を内容とするテーブルを検索することにより正規化スロットル弁全開時体積効率を算出する。
吸気カム位相を変化させたときの吸気量の変化を正規化すると、吸気カムオフセット角に対して図13のように上に凸の略2次の曲線を描く。図13に示すこの特性をテーブルにしてエンジンコントローラ10に備えるメモリに記憶させておくことにより吸気カム位相の相違による吸気量の変化を補正する。
図13において一般的には左右不対称な特性となるエンジンもあるが、図13に示したように大略線対称とすればよい。また、左右のうちの片方だけの特性をテーブルにしてエンジンコントローラ10に備えるメモリに記憶させておいてもよく、この場合にはメモリの節約になる。
ここで、スロットル弁全開時体積効率に用いる「正規化」とは、最適吸気カム位相にあるときを1.0として、これより吸気カム位相がずれたときを1.0未満の値とすることを意味する。言い換えると、スロットル弁全開時体積効率について用いる「正規化」とは、基準とする状態のときスロットル弁全開時体積効率が1.0となるように定めている。第3実施形態においては、最適カム位相のときが基準とする状態のときである。これに対して、第1実施形態で導入しているスロットル弁全開時体積効率については図4に示したように基準とする状態を定めていないので、1.0を採り得ないことがある。
VTC機構50とエンジン仕様がそれほど変わらなければエンジン機種に関係なく図13に示す特性を共通で使用できる。
吸気系平均温度検出手段56では吸気系平均温度Taveを検出する。吸気系平均温度Taveは吸気温度を基準にしてエンジン壁(吸気ポート、燃焼室)の温度によって変化する。その関係は図14のように吸気温度Taとエンジン壁代表温度との差ΔTが大きいほど吸気との熱の授受が多くなり吸気温度Taからの差が大きくなる。そこで、水温センサ51により検出される冷却水温Tw(エンジン壁代表温度)から吸気温度センサ33により検出される吸気温度Taを差し引いて温度差ΔT(=Tw−Ta)を求め、この温度差ΔTより図14を内容とするテーブルを検索することにより吸気温度変化分ΔTaを求め、求めた吸気温度変化分ΔTaを吸気温度Taに加算した値を吸気系平均温度Taveとして算出する。例えば冷却水温Twがエンジンの暖機完了によって吸気温度Taより高くなると、図14において吸気温度変化分ΔTaがプラスとなり、吸気温度Taにこのプラス分ΔTaを加算した値が吸気系平均温度Taveとなる。
吸気脈動補正係数算出手段57では、エンジン回転速度Ne、吸気系平均温度Tave、第1実施形態で算出されている仮想流速u’(または第12実施形態で算出されている流速)に基づいて正規化スロットル弁全開時体積効率の吸気脈動補正係数を算出する。
吸気脈動下では図15のように吸気カムオフセット角と正規化スロットル弁全開時体積効率の略2次の関係が大きく変化して、吸気カムオフセット角によらず正規化スロットル弁全開時体積効率がほぼ一定の値を採る(実線参照)。これに対して一点鎖線の特性は吸気脈動がないときの特性である。そこで、吸気脈動の共鳴周波数f0付近では正規化スロットル弁全開時体積効率を第1正規化スロットル弁全開時体積効率に反映させる程度を低くするため吸気脈動補正係数を導入する。この吸気脈動補正係数を導入する範囲は、図16、図17に示したように共鳴周波数f0を略中心にした所定周波数f1〜f2の間である。
上記の共鳴周波数f0は次式(ヘルムホルツ共鳴の式)により簡易的に求めることができる。
f0[Hz]=(c[m/s]/2π)
×{(吸気管断面積[m2]/吸気系容積[m2])
×吸気系長さ[m]}^(1/2) …(8)
(8)式の音速cは標準状態の音速c0と、吸気系平均温度Taveと、標準状態の吸気温度T0とから次式により算出する。
c[m/s]=c0×(Tave[K]/T0[K])^(1/2) …(9)
ただし、c0[m/s]:332m/s
T0[K] :298K
また、同じ系の高次の共鳴や他の構造による共鳴系がある場合は、複数の共鳴周波数を設定すればよい。
まとめると、吸気系平均温度Taveから(9)式により音速cを算出し、この音速cから(8)式により共鳴周波数f0を算出し、この共鳴周波数f0に対して所定の幅を設けて第1周波数f1[Hz]と第2周波数f2[Hz]を設定する。ここで、周波数fとエンジン回転速度Neとの間にはf[Hz]=(Ne[rpm]/120)×気筒数の関係があるので、f1、f2を次式により回転速度Neと同じ単位[rpm]に変換する。
f1N[rpm]=f1×(120/気筒数)
f2N[rpm]=f2×(120/気筒数)
そして、f1N<Ne<f2Nでありかつ約90m/s(マッハ数で0.2〜0.3)≧仮想流速(または流速)であるとき吸気脈動補正係数=0、それ以外にあるとき吸気脈動補正係数=1とする。このため、吸気脈動補正係数の特性は図18のようになる。
ここで、約90m/s≧仮想流速(または流速)であるときを条件とするのは、吸気脈動が生じる領域に限定するためである。逆に言うと、約90m/s<仮想流速(または流速)であるときには吸気脈動が消えて共鳴が起こらないので、f1N<Ne<f2Nであっても補正する必要はない(吸気脈動補正係数=1)。
第1正規化スロットル弁全開時体積効率算出手段58では、正規化スロットル弁全開時体積効率と、吸気脈動補正係数とを用いて、次式により第1正規化スロットル弁全開時体積効率を算出する。
第1正規化スロットル弁全開時体積効率
=1−(1−正規化スロットル弁全開時体積効率)×吸気脈動補正係数
…(10)
(10)式を具体的に計算してみると、吸気脈動の生じる領域では吸気脈動補正係数=0であるから、第1正規化スロットル弁全開時体積効率=1となる。なお、吸気脈動の生じない領域では第1正規化スロットル弁全開時体積効率=正規化スロットル弁全開時体積効率である。
このようにして算出した第1正規化スロットル弁全開時体積効率は、第1実施形態のスロットル弁全開時体積効率ηvwotに代えて用いる。
なお、正規化スロットル弁全開時体積効率の前に「第1」をつけたのは後述する実施形態でも正規化スロットル弁全開時体積効率を算出するので、それらと区別するためである。
このように第3実施形態によれば、実際の吸気カム位相を検出し、エンジン回転速度Neに応じて最適吸気カム位相を算出し、実吸気カム位相と最適吸気カム位相から吸気カム位相オフセット角を算出し、この吸気カム位相オフセット角に基づいて正規化スロットル全開時体積効率を算出し、エンジン回転速度Neと、吸気系平均温度Taveと、仮想流速または流速とに基づいて吸気脈動補正係数を算出し、この吸気脈動補正係数を前記正規化スロットル弁全開時体積効率に乗算した値を第1正規化スロットル弁全開時体積効率として算出し、この第1正規化スロットル弁全開時体積効率をスロットル弁全開時体積効率ηvwotに代えて用いるので、吸気カム位相の相違や吸気脈動の有無によるスロットル弁全開時体積効率の変化を補正して正規化スロットル弁全開時体積効率を精度よく求めることができる。
第3実施形態では、実際の吸気カム位相を検出し、この実際の吸気カム位相に基づいて正規化スロットル弁全開時体積効率を算出し、この正規化スロットル弁全開時体積効率を前記スロットル弁全開時体積効率ηvwotに代えて用いる場合で説明したが、これに限られるものでない。例えば、目標吸気カム位相を算出し、実際の吸気カム位相がこの目標吸気カム位相と一致するように制御する吸気カム位相制御手段とを備えるエンジンでは、目標吸気カム位相に基づいて正規化スロットル弁全開時体積効率を算出し、この正規化スロットル弁全開時体積効率を前記スロットル弁全開時体積効率に代えて用いればよい。
図19は第4実施形態、図20は第5実施形態、図22は第6実施形態、図24は第7実施形態、図26は第8実施形態、図29は第9実施形態で、第1実施形態の図1中のスロットル弁全開時体積効率算出手段16とそれぞれ置き換わるものである。
ここで、スロットル弁全開時体積効率について用いる「正規化」はこれら第4実施形態〜第9実施形態でも用いている。すなわち、図19に示す第4実施形態では目標EGR率Megrがゼロのとき、図20に示す第5実施形態では冷却水温Twと吸気温度Taの温度差ΔTがゼロのとき、図22に示す第6実施形態では冷却水温Twが基準温度である80℃のとき、図24に示す第7実施形態では目標当量比TFBYAが1.0のとき(目標空燃比が理論空燃比のとき)、図26に示す第8実施形態では吸気制御弁が閉状態のとき、図29に示す第9実施形態ではターボ過給機111が働いていないときがそれぞれ基準となる状態のときであり、このとき第4実施形態の第2正規化スロットル弁全開時体積効率、第5実施形態の第3正規化スロットル弁全開時体積効率、第6実施形態の第4正規化スロットル弁全開時体積効率、第7実施形態の第5正規化スロットル弁全開時体積効率、第8実施形態の第6正規化スロットル弁全開時体積効率、第9実施形態の第7正規化スロットル弁全開時体積効率がそれぞれ1.0となる、
図19に示す第4実施形態は、EGR装置を備えるものを前提としている。EGR装置は、吸気通路22と排気通路23を連通するEGR通路24、EGR通路24の開口面積を可変に調整し得るEGR弁25、EGR弁25を駆動するアクチュエータ26からなっている。このようなEGR装置を備えるエンジンでは、吸気通路22にEGRガスが導入されるときにはその影響を受けてスロットル弁全開時体積効率が変化する。そこで、目標EGR率に基づいて正規化スロットル弁全開時体積効率を算出する。具体的には目標EGR率がゼロのときを基準の状態とする正規化スロットル弁全開時体積効率を導入する。すなわち、EGRが働くときには目標EGR率に応じたEGRガスの導入分だけスロットル弁全開時体積効率が低下するとみなすことで正規化スロットル弁全開時体積効率を算出する。
図19において、スロットル弁全開時体積効率算出手段16は、目標EGR率算出手段61、第2正規化スロットル全開時体積効率算出手段62を備える。
目標EGR率算出手段61では、運転条件(エンジンの負荷と回転速度Ne)に応じて目標EGR率Megrを算出する。目標EGR率Megrに代えてEGR弁25の開度から推定した実EGR率でもよい。
第2正規化スロットル全開時体積効率算出手段62では、1−Megrの値を第2正規化スロットル全開時体積効率として算出する。すなわち、第2正規化スロットル弁全開時体積効率は目標EGR率Megrがゼロのとき1.0であり、目標EGR率Megrが大きくなるほど1.0より小さくなる値である。
このようにして算出した第2正規化スロットル弁全開時体積効率は、第1実施形態のスロットル弁全開時体積効率ηvwotに代えて用いる。
第4実施形態によれば、目標EGR率Megrを算出し、この目標EGR率Megrに基づいて第2正規化スロットル弁全開時体積効率を算出し、この第2正規化スロットル弁全開時体積効率をスロットル弁全開時体積効率ηvwotに代えて用いるので、EGRガスの導入によるスロットル弁全開時体積効率の変化を補正して正規化スロットル弁全開時体積効率を精度よく求めることができる。
第4実施形態では 外部EGR装置としてのEGR弁25について説明したが、EGRの方法はこれに限定されるものでなく、他に内部EGR装置を備えるエンジンがある。例えば排気弁に対してVTC機構を設けたものでは、排気カム位相(排気弁の開閉時期など)を変更することで燃焼室内に残留する既燃ガスの量、つまりEGR率を可変に制御できるため、排気弁に対するVTC機構が内部EGR装置として機能する。こうした内部EGR装置を備えるエンジンの場合にも第4実施形態を適用できる。すなわち、内部EGR装置を備えるエンジンの場合には、上記の目標EGR率Megrに代えて、内部EGR率の目標値や実際値を用いればよい。
図20に示す第5実施形態において、スロットル弁全開時体積効率算出手段16としての第3正規化スロットル弁全開時体積効率算出手段71では、水温センサ51からの冷却水温Twより吸気温度センサ33からの吸気温度Taを差し引いた値を温度差ΔT(=Tw−Ta)として求め、この温度差ΔTから図21を内容とするテーブルを検索することにより第3正規化スロットル弁全開時体積効率を算出する。図21のように第3正規化スロットル弁全開時体積効率は、温度差ΔTがゼロのとき1.0となり、温度差ΔTが正の値で大きくなるほど1.0より小さくなる値である。例えば、温度差ΔTがプラスつまり冷却水温Twが吸気温度Taより高いときには吸気は冷却水から熱を受けて上昇し、このときスロットル弁全開時体積効率が低下することを図21の特性図が表している。温度差ΔTがマイナスの例としては、例えば車両を暖かいガレージの中においていて冷たい外気に出した直後がある。冷却水温Twはエンジン壁代表温度であり、これに代えてエンジン油温でもよい。図21に示した特性はエンジンの機種毎に適合する必要がある。
吸気温度Taより冷却水温Tw(エンジン壁代表温度)が高いときには吸気密度が低下しその吸気密度の低下による圧力損失でスロットル弁全開時体積効率が低下するのであるが、第5実施形態によれば、冷却水温Tw(エンジン壁代表温度)と吸気温度Taを検出し、冷却水温Twより吸気温度Taを差し引いた値である温度差ΔTに基づいて第3正規化スロットル弁全開時体積効率を算出し、この第3正規化スロットル弁全開時体積効率をスロットル弁全開時体積効率ηvwotに代えて用いるので、吸気温度Taより冷却水温Twが高いときにおいても、スロットル弁全開時体積効率の変化を補正して正規化スロットル弁全開時体積効率を精度よく求めることができる。
図22に示す第6実施形態において、スロットル弁全開時体積効率算出手段16としての第4正規化スロットル弁全開時体積効率算出手段81では、水温センサ51からの冷却水温Twより図23を内容とするテーブルを検索することにより第4正規化スロットル弁全開時体積効率を算出する。図23のように第4正規化スロットル弁全開時体積効率は、冷却水温Twが80℃のとき1.0となり、冷却水温Twがこの80℃より大きくなるほど1.0より小さくなる値である。図23において80℃は暖機完了温度(基準温度)である。80℃以上では吸気が冷却水から熱を受けて上昇し、このときスロットル弁全開時体積効率が低下することを図23の特性図が表している。なお、80℃はあくまで一例であり、図23に示した特性はエンジンの機種毎に適合する必要がある。
第6実施形態によれば、冷却水温Tw(エンジン壁代表温度)に基づいて第4正規化スロットル弁全開時体積効率を算出し、この第4正規化スロットル弁全開時体積効率をスロットル弁全開時体積効率ηvwotに代えて用いるので、第5実施形態と同様の作用効果が得られる。第6実施形態は第5実施形態の簡易版という位置づけであり、第6実施系形態のように冷却水温Twだけに依存させて正規化スロットル弁全開時体積効率を算出させてもある程度の精度を得ることができる。
図24に示す第7実施形態において、スロットル弁全開時体積効率算出手段16としての第5正規化スロットル弁全開時体積効率算出手段91では、目標当量比TFBYA(目標空燃比)から図25を内容とするテーブルを検索することにより第5正規化スロットル弁全開時体積効率を算出する。図25のように第5正規化スロットル弁全開時体積効率は、目標当量比TFBYAが1.0のとき1.0であり、目標当量比TFBYAが1.0を超える領域(リッチ領域)では目標当量比TFBYAが大きくなるほど1.0を超えて大きくなり、この反対に目標当量比TFBYAが1.0未満の領域(リーン領域)では目標当量比TFBYAが小さくなるほど1.0より小さくなる値である。
図25においてリッチ領域で正規化スロットル弁全開時体積効率が1.0を超える値となるのは、リッチ領域のように理論空燃比の混合気の燃料より多いと燃料噴射弁29(図43参照)より噴射された燃料噴霧の気化に伴う冷却効果が高まりスロットル弁全開時体積効率が大きくなるためである。図25に示す特性は、燃料の種類、燃料噴射弁29や吸気ポート形状の仕様に大差なければエンジン仕様に関係なく共通で用いることができる。
上記の目標当量比TFBYAは第13実施形態で後述するように燃料噴射パルス幅Tiの演算時に算出される値である。
燃料は気化する際に気化熱を奪って吸気弁や吸気そのものを冷却する。すなわち、燃料が多いほど冷却効果が高まりスロットル弁全開時体積効率が向上するのであるが、第7実施形態によれば、燃料の多さを表す目標当量比TFBYAに基づいて第5正規化スロットル弁全開時体積効率を算出し、この第5正規化スロットル弁全開時体積効率をスロットル弁全開時体積効率ηvwotに代えて用いるので、理論空燃比の混合気の燃料よりも多い燃料のときにも、スロットル弁全開時体積効率の変化を補正して正規化スロットル弁全開時体積効率を精度よく求めることができる。
第7実施形態では、目標当量比TFBYA(目標空燃比)で説明したが、この目標当量比TFBYAに代えて実当量比(実空燃比)でもかまわない。ここでいう実当量比とは次の値である。燃費向上のため所定の運転域において理論空燃比(このとき目標当量比は1.0)よりリーン空燃比(このとき目標当量比は1.0より小さな値)へと切換えて運転しているエンジンがある。理論空燃比よりリーン空燃比の切換時やこの逆への切換時に空燃比をステップ的に切換えたのでは運転ショックが生じることがあるので、ランプ処理などを行って緩やかに空燃比を切換えている。この場合に、目標当量比に対してランプ処理の施された値が実当量比である。
図26に示す第8実施形態において、吸気制御弁(可変吸気装置)への開閉指令値を受ける第6正規化スロットル弁全開時体積効率算出手段91では、吸気制御弁への開指令値のときにエンジン回転速度Neから図28を内容とするテーブルを検索することにより第6正規化スロットル弁全開時体積効率を算出する。図28のように第6正規化スロットル弁全開時体積効率は、吸気制御弁が閉状態(基準の状態)にあるとき1.0であり、吸気制御弁が開状態にあるときエンジン回転速度Neに応じ1.0より大きくなったり1.0より小さくなったりする値である。
上記の吸気制御弁は、吸気管集合部より吸気ポートまでの吸気管長を可変に制御し得る可変吸気装置として機能する。6気筒エンジンに対する吸気制御弁102の例を図27に示すと、吸気制御弁102が閉じている状態では吸気管集合部103より吸気ポート104までの吸気管長が長くなって中低速トルクが豊かになり、これに対して吸気制御弁102を開くと吸気管長が短くなって高速トルクが豊かな特性になる。
可変吸気装置には吸気ポート長自体を伸縮したりするものなど様々なタイプがあるので、図28に示した特性はエンジンに備わる可変吸気装置に合わせてエンジン機種毎に適合する。
多気筒エンジンにおいては吸気制御弁によって吸気管集合部より吸気ポートまでの吸気管長を変えて体積効率の向上をはかることがあるのであるが、第8実施形態によれば、この吸気制御弁への開閉指令値に基づいて、第6正規化スロットル弁全開時体積効率を算出し、この第6正規化スロットル弁全開時体積効率をスロットル弁全開時体積効率ηvwotに代えて用いるので、吸気管集合部より吸気ポートまでの吸気管長を可変に制御する場合でも、スロットル弁全開時体積効率の変化を補正して正規化スロットル弁全開時体積効率を精度よく求めることができる。
図29に示す第9実施形態は、ターボ過給機111を備えるエンジンを前提としている。ターボ過給機111を備えるエンジンでは、ターボ過給機111が働くときスロットル弁全開時体積効率が大きくなる。そこで、実際の過給圧に基づいて正規化スロットル弁全開時体積効率を算出し、この正規化スロットル弁全開時体積効率をスロットル弁全開時体積効率ηvwotに代えて用いる。具体的には、過給圧検出手段としての過給圧センサ112はコレクタ27周辺に設置され、スロットル弁21の上流圧力(つまり過給圧)を検出する。過給圧センサ112の信号をそのまま使うと圧力脈動の影響を受けてしまうので、過給圧センサ112の信号に対してなまし処理を付加する。過給機はターボ過給機111に限らず、機械式の過給機でもかまわない。
過給圧センサ112により検出される過給圧と大気圧センサ34により検出される大気圧Paとが入力される第7正規化スロットル全開時体積効率算出手段113では、過給圧を大気圧Paで除した値(過給圧/Pa)を第7正規化スロットル弁全開時体積効率として算出する。第7正規化スロットル弁全開時体積効率はターボ過給機111が作動していない状態(過給圧が大気圧に等しい)で1.0となり、ターボ過給機111が作動して過給圧が大気圧Paより高くなるほど1.0より大きくなる値である。
大気圧センサ34を設けているのは標準状態の大気圧より外れた場合を考慮するためであるので、標準状態でかまわないのなら、大気圧を標準状態の大気圧としてよい(このときは大気圧センサ34は不要)。
第9実施形態によれば、ターボ過給機111を備え、実際の過給圧を検出し、この過給圧と大気圧の比を第7正規化スロットル弁全開時体積効率として算出し、この第6正規化スロットル弁全開時体積効率をスロットル弁全開時体積効率ηvwotに代えて用いるので、過給による圧力上昇よってスロットル弁全開時体積効率が大幅に上昇する場合おいても、スロットル弁全開時体積効率の変化を補正して正規化スロットル弁全開時体積効率を精度よく求めることができる。
大気圧として標準状態の値を用いるときには、高価な大気圧センサを使わなくとも略同等の効果を発揮することができる。
第9実施形態では、実際の過給圧に基づいて正規化スロットル弁全開時体積効率を算出し、この正規化スロットル弁全開時体積効率を前記スロットル弁全開時体積効率ηvwotに代えて用いる場合で説明したが、目標過給圧を算出し、実際の過給圧がこの目標過給圧と一致するように過給圧を制御する過給圧制御手段とを備えるエンジンでは、目標過給圧に基づいて正規化スロットル弁全開時体積効率を算出し、この正規化スロットル弁全開時体積効率を前記スロットル弁全開時体積効率ηvwotに代えて用いるようにしてもかまわない。
図30は第10実施形態、図36は第11実施形態、図41は第12実施形態、図43は第13実施形態、図44は第14実施形態、図46は第15実施形態で、これら6つの実施形態は、図1に示す第1実施形態の体積効率算出手段11により算出されている体積効率ηvを、エンジン部品(EGR弁25やエアフローメータ141)の診断やエンジン制御(燃料噴射量の制御など)に用いるものである。
まず、図30に示す第10実施形態は、EGR弁25(EGR装置)を備えているエンジンを前提として、第1実施形態の体積効率算出手段11により算出されている体積効率ηvに基づいてEGR弁25に閉故障があるか否かを診断するものである。第1実施形態の図1、第4実施形態の図19と同一部分には同一番号を付している。
詳述すると図30においてエンジンコントローラ10には体積効率算出手段11、目標EGR率算出手段61のほか、充填効率推定値算出手段132、充填効率検出手段133、EGR弁閉故障判定手段134を備える。
充填効率推定値算出手段132では第1実施形態の体積効率算出手段11により算出されている体積効率ηv、吸気温度センサ33により検出される吸気温度Ta、大気圧センサ34により検出される大気圧Paに基づいて次式により充填効率推定値ηcestを算出する。
ηcest=(Pa/P0)×(T0/Ta)×ηv …(11)
ただし、P0[kPa]:標準状態の吸気圧力(99kPa)、
T0[K] :標準状態の吸気温度(298K)、
(11)式は、第2実施形態のところで前述した上記(4)式を、充填効率について解いた式と同様の式である。
充填効率検出手段133では実際の充填効率を検出する。これについては、コレクタ応答モデルを用いて1吸気当たりのシリンダ空気質量を演算するようにした技術が特開2000−161113号公報に記載されているので、この1吸気当たりのシリンダ空気質量を用いて充填効率を検出する。
図31は充填効率検出手段133のブロック図である。図31において、充填効率検出手段133は、電圧→流量演算手段151、エアフローメータ誤差補正手段152、吸気脈動なまし処理手段153、圧力変化量演算手段154、1吸気当たりシリンダ吸気質量演算手段155、充填効率検出値演算手段156を備える。
ホットワイヤ式のエアフローメータ141の出力電圧を受ける電圧→流量演算手段151では、このエアフローメータ出力電圧から所定のテーブルを検索することにより空気流量Q0(質量流量)に変換する。エアフローメータ誤差補正手段152ではこの空気流量Q0に補正係数を乗算した値を誤差補正後の空気流量Qafmとして算出する。ここで、補正係数はエンジン回転速度Neと、図1により得られている仮想流速(またはスロットル弁開度)とから所定のマップを検索して求められる値である。空気流量Q0の補正は吸気脈動の影響を受けて空気流量Q0が大きくなり過ぎるのを補正するためのものである。
吸気脈動なまし処理手段153では誤差補正後の空気流量Qafmに対して次式によりなまし処理を実行して単位時間当たりスロットル弁通過空気流量Mtを算出する。
Mt=Qafm×加重平均係数+(1−加重平均係数)×Mt(前回値)
…(12)
ただし、Mt(前回値):Mtの前回値、
コレクタ圧力センサ142により検出されるコクレタ27圧力Pcolを入力するコレクタ圧力変化量演算手段154では、コレクタ圧力変化量ΔP(=Pcol−Pcol(前回値))を算出する。
1吸気当たりシリンダ吸気質量演算手段155では、次式により1吸気当たりシリンダ吸気質量Mcを演算する。
Mc0=Mt−ΔP×Vcol/(R・Ta) …(13)
Mc=係数×(Mc0/Ne)/気筒数 …(14)
ただし、Vcol:コレクタ容積、
Ta :吸気温度、
R :ガス定数、
充填効率検出値演算手段156では次式により充填効率検出値ηcrealを演算する。
ηcreal=Mc/Mcbase …(15)
ただし、Mcbase:標準状態の1吸気当たりシリンダ吸気質量(一定値)、
図30に戻り、EGR弁閉故障判定手段134では次のようにしてEGR弁25に閉故障が生じているか否かを判定する。すなわち、充填効率検出値ηcrealと充填効率推定値ηcestを比較して充填効率検出値ηcrealが異常とみなせるほど大きいときにEGR弁25に閉故障があると診断する。具体的に説明すると、図32は充填効率推定値ηcest(破線参照)と、EGR弁25の閉故障によりEGRガスが吸気通路22に導入されなかったときの充填効率検出値ηcreal(実線参照)とを重ねて示したもので、充填効率検出値ηcrealが充填効率推定値ηcestより大きくなる側に外れる突起が生じている。これは、EGR弁25を開いてEGRガスを導入しようとしているのにEGR弁25の閉故障により実際にはEGRガスが入らないと、燃焼室に推定値より実際の吸気量が多く入るためであり、EGRを行う運転域でこのような充填効率検出値ηcrealの突起が現れる。この場合、図32に示す特性は両対数表示なので、実数表示における充填効率検出値ηcrealと充填効率推定値ηcestの差は図32においては比(ずれ率)となり、ずれ率は目標EGR率が大きいほど大きくなる。
さて、図33のように横軸に目標EGR率を、縦軸にEGR弁25の閉故障時の充填効率検出値ηcrealと充填効率推定値ηcestのずれ率(=ηcreal/ηcest)を採ると、両者のあいだにに比例関係(相関)が成立し、しかもずれ率と目標EGR率とが略同等となる。このため、この相関線に近いときにはEGR弁25に閉故障の疑いがあるといえる。しかし、実際にはずれ率や目標EGR率にも誤差を含んでいるので、特にずれ率や目標EGR率の数値の小さいところでは正確な診断が難しくなる。そこで、EGR弁25の閉故障診断の確からしさを向上するためにずれ率や目標EGR率の誤差が小さくて確実にEGR弁25の閉故障を診断(検出)できる条件(あるいは領域)を設定する。すなわち、図34に示したように、ずれ率が所定の「閉故障判定ずれ率」以下の領域や目標EGR率が所定の「更新許可EGR率」以下の領域を、EGR弁25の閉故障判定領域から除き、ずれ率が「閉故障判定ずれ率」を超えかつ目標EGR率が「更新許可EGR率」を超えている領域のみをEGR弁25の閉故障判定領域として設定する。
図35に示すフローチャートはEGR弁25に閉故障が生じているか否かを判定するためのもので、EGR弁閉故障判定手段134で行われる操作を示している。図35のフローは一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。
図35においてステップ161では充填効率推定値算出手段132により算出される充填効率推定値ηcest、充填効率検出手段133により検出される充填効率検出値ηcreal、エンジン回転速度Ne、冷却水温Tw、目標EGR率Megr、図1の仮想流速または仮想マッハ数算出手段17により算出される仮想流速または仮想マッハ数のうち仮想流速を読み込む。
ステップ162ではずれ率更新条件が成立しているか否かをみる。ずれ率更新条件は次の各条件が成立しているか否かをみて全ての条件が成立している場合に、ずれ率更新条件が成立したと判断し、一つでも成立していなければ、ずれ率更新条件が成立したと判断しない。
イ)EGR弁25が非故障状態であること。
ロ)エンジン回転速度Neが所定回転速度(アイドル回転速度)以上であること。
ハ)充填効率検出値ηcrealまたは充填効率推定値ηcestの所定時間当たり変化率が所定値以下であること。
ニ)冷却水温Twが所定温度以上であること。エンジン油温をも検出しているときに は冷却水温Twかエンジン油温の少なくとも一方が所定温度以上であること。
ホ)仮想流速が略60〜100m/s以上の高流速状態であること。
ヘ)上記イ)〜ホ)の成立状態が所定時間以上継続したこと。
上記ハ)の成立を要求するのは定常においてEGR弁25の閉故障判定を行うためである。上記ニ)の成立を要求するのはエンジンの暖機完了後にEGR弁25の閉故障判定を行うためである。上記ホ)の成立を要求するのはこの領域でのみ図32に示した突起が出現するためである。
ずれ率更新条件が成立していればステップ163に進み、目標EGR率Megrと所定の更新許可EGR率を比較する。更新許可EGR率は図34に示した閉故障判定しない領域の境界を定める目標EGR率(適合値)のことである。目標EGR率Megrが更新許可EGR率以下であるときにはそのまま今回の処理を終了する。
目標EGR率Megrが更新許可EGR率を超えているときにはステップ164に進み充填効率検出値ηcrealとこの充填効率推定値ηcestとの比をずれ率として、つまり次式によりずれ率tmpを算出する。
tmp=ηcreal/ηcest …(16)
ステップ165では次式によりずれ率の加重平均値tmpaveを算出する。
tmpave=(tmp+15×tmpave(前回))/16 …(17)
ただし、tmpave(前回):tmpの前回値、
ステップ166ではずれ率更新終了判定カウンタcnt(ゼロに初期設定)を1だけインクリメントし、ステップ167でそのずれ率更新終了判定カウンタcntと16を比較する。ずれ率量更新終了判定カウンタcntが16を超えていなければそのまま今回の処理を終了する。
次回よりステップ164〜166の操作を繰り返すと、やがてずれ率更新終了判定カウンタcntが16を超えるので、このときにはステップ168に進み、ずれ率加重平均値tmpaveと所定の閉故障判定ずれ率とを比較する。閉故障判定ずれ率は図34に示した閉故障判定しない領域の境界を定めるずれ率(適合値)のことである。ずれ率加重平均値tmpaveが閉故障判定ずれ率を超えたときにはステップ169に進んでEGR弁25に閉故障が生じていると判定する。これに対して、ずれ率加重平均値tmpaveが閉故障判定ずれ率以下であるときにはステップ168よりステップ171に進んでEGR弁25に閉故障は生じてないと判定する。
ステップ170では次回に再びEGR弁25の閉故障を判定するため、ずれ率更新終了判定カウンタcnt=0とする。このずれ率更新終了判定カウンタcnt=0によりステップ166でずれ率更新終了判定カウンタcntのイクリメントが繰り返されることになり、ずれ率更新終了判定カウンタcntが16を超えるたびにステップ168〜171に進んでEGR弁25の閉故障判定を行う。
第10実施形態によれば、スロットル弁21(スロート部)下流の空気を燃焼室へと吸い込むポンプとしての吸い込み能力と、スロットル弁開口面積Atvo(スロート部面積)とに基づいて仮想流速u’または仮想マッハ数M’を算出し、この算出した仮想流速u’または仮想マッハ数M’に基づいて正規化体積効率を算出し、この正規化体積効率にスロットル弁21下流の空気をポンプに吸い込む効率(ηvwot)を乗算して体積効率ηvを算出し、この体積効率ηvに基づいて充填効率推定値ηcestを算出し、実際の充填効率を検出し、この充填効率検出値ηcrealと充填効率推定値ηcestの比であるずれ率tmpを算出し、このずれ率tmpに基づいてEGR弁21(EGR装置)に閉故障があるか否かを判定するので、エンジンの汎用性ある吸気モデルが新たに構築可能となる上に、さらにEGR通路24に流量センサを設けてEGR領域で実際にEGRガスが流れているか否か(EGRガスが流れていなればEGR弁25に閉故障がある)を診断したり、EGR弁25の下流に温度センサを設けてEGR領域で実際にEGRガスが流れているか否か(このEGR弁下流の温度が吸気温度にほぼ等しければEGR弁25に閉故障がある)を診断したりすることなく、EGR弁25に閉故障が生じているか否かを診断(検出)することができ、これによりEGRガス流量やEGRガス温度などを検出するセンサを使用しなくとも済むこととなりコスト的に優れる。
図36は第11実施形態で、第10実施形態の図30と置き換わるものである。図30と同一部分には同一番号をつけている。
第10実施形態では図1の体積効率算出手段11により算出されている体積効率ηvに基づいてEGR弁25に閉故障が生じているか否かを診断したが、第11実施形態は図1の体積効率算出手段11により算出されている体積効率ηvに基づいてEGR弁25に開故障が生じているか否かを診断するものである。
図36においてEGR弁開故障判定手段181では充填効率検出値ηcrealと充填効率推定値ηcestを比較して充填効率検出値ηcrealが異常とみなせるほど小さいときにEGR弁25に開故障が生じていると診断する。ここでのEGR弁25の開故障判定についての考え方や構成は、第10実施形態と同様であるので、第10実施形態と相違する部分を主に説明する。
図37は充填効率推定値ηcest(破線参照)と、閉じているはずのEGR弁25の開故障によりEGRガスが吸気通路22に導入されてしまったときの充填効率検出値ηcreal(実線参照)とを重ねて示したもので、図32に示した場合と相違して、充填効率検出値ηcrealが充填効率推定値ηcestより下に外れている部分が生じている。これは、EGR弁25を閉じてEGRガスの導入を停止しようとしているのに実際にはEGR弁25の開故障によりEGRガスが吸気通路22へと導入されると、推定値より実際の吸気量が入らなくなるためであり、EGRを行わない運転領域でこのような充填効率検出値ηcrealの落ち込みが現れる。この場合、図37において横軸、縦軸とも対数表示なので、実数表示における充填効率検出値ηcrealと充填効率推定値ηcestの差は図37においては比(ずれ率)となり、ずれ率は目標EGR率が大きいほど負の値で小さくなる。
さて、図38のように横軸に目標EGR率を、縦軸にEGR弁25の開故障時の充填効率検出値ηcrealと充填効率推定値ηcestのずれ率(=ηcreal/ηcest)を採ると、両者のあいだに比例関係(相関)が成立し、しかもずれ率の絶対値と目標EGR率とが略同等となる。このため、この相関線に近いときはEGR弁25に開故障の疑いがあるといえる。しかし、実際にはずれ率や目標EGR率にも誤差を含んでいるので、正確な診断(検出)が難しくなる領域は除く必要がある。そこで、EGR弁25の開故障判定の確からしさを向上するためにずれ率や目標EGR率の誤差が少なくて確実にEGR弁25の開故障を診断(検出)できる条件(あるいは領域)を設定する。すなわち、図39に示したように、ずれ率が所定の「開故障判定ずれ率」以上の領域や目標EGR率が所定の「更新許可EGR率」以下の領域はEGR弁25の開故障判定領域から除き、ずれ率が「開故障判定ずれ率」未満でありかつ目標EGR率が「更新許可EGR率」を超えている領域のみをEGR弁25開故障判定領域として設定する。
図40のフローはEGR弁25に開故障が生じているか否かを判定するためのもので、EGR弁開故障判定手段181で行われる操作を示している。図40のフローは一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。図35と同一部分には同一のステップ番号をつけている。
第10実施形態と相違する部分を主に説明すると、ステップ174では、ずれ率加重平均値tmpaveと所定の開故障判定ずれ率とを比較する。開故障判定ずれ率は図39に示した開故障判定しない領域の境界を定めるずれ率(適合値)のことである。ずれ率加重平均値tmpaveが開故障判定ずれ率未満になったときにはステップ175に進んでEGR弁25に開故障が生じていると判定する。これに対して、ずれ率加重平均値tmpaveが開故障判定ずれ率以上であるときにはステップ174よりステップ176に進んでEGR弁25に開故障は生じてないと判定する。
ステップ170では次回に再びEGR弁25の開故障を判定するため、ずれ率更新終了判定カウンタcnt=0とする。このずれ率更新終了判定カウンタcnt=0によりステップ166でずれ率更新終了判定カウンタcntのイクリメントが繰り返されることになり、ずれ率更新終了判定カウンタcntが16を超えるたびにステップ174〜176に進んでEGR弁25の開故障判定を行う。
第11実施形態によれば、スロットル弁21(スロート部)下流の空気を燃焼室へと吸い込むポンプとしての吸い込み能力と、スロットル弁開口面積Atvo(スロート部面積)とに基づいて仮想流速u’または仮想マッハ数M’を算出し、この算出した仮想流速u’または仮想マッハ数’に基づいて正規化体積効率を算出し、この正規化体積効率にスロットル弁21下流の空気をポンプに吸い込む効率(ηvwot)を乗算して体積効率ηvを算出し、この体積効率に基づいて充填効率推定値ηcestを算出し、実際の充填効率を検出し、この充填効率検出値ηcrealと充填効率推定値ηcestの比であるずれ率tmpを算出し、このずれ率に基づいてEGR弁21(EGR装置)に開故障があるか否かを判定するので、エンジンの汎用性ある吸気モデルが新たに構築可能となる上に、さらにEGR通路24に流量センサを設けて非EGR領域で実際にEGRガスが流れているか否か(EGRガスが流れていればEGR弁25に開故障がある)を診断したり、EGR弁25の下流に温度センサを設けて非EGR領域で実際にEGRガスが流れているか否か(このEGR弁下流の温度が吸気温度より高ければEGR弁25に開故障がある)を診断したりすることなく、EGR弁25に開故障が生じているか否かを診断(検出)することができ、これによりEGRガス流量やEGRガス温度などを検出するセンサを使用しなくとも済むのこととなりコスト的に優れる。
第10、第11の実施形態では、充填効率検出値ηcrealと充填効率推定値ηcestの比であるずれ率tmpに基づいてEGR弁25に閉故障や開故障があるか否かを判定したが、充填効率検出値ηcrealと充填効率推定値ηcestの差に基づいてEGR弁25に閉故障や開故障があるか否かを判定するようにしてもかまわない。
また、第10、第11の実施形態では外部EGR装置としてのEGR弁25について説明したが、EGRの方法はこれに限定されるものでなく、第4実施形態で前述したように、内部EGR装置を備えるエンジンがある。こうした内部EGR装置を備えるエンジンの場合にも第10、第11の実施形態を適用できる。すなわち、内部EGR装置を備えるエンジンの場合には、上記目標EGR率Megrに代えて、内部EGR率の目標値や実際値を用いればよい。
図41は第12実施形態で、第1実施形態の図1と置き換わるものである。図1と同一部分には同一番号をつけている。
第1実施形態と相違する部分を主に説明すると、体積効率算出手段11に対して流速算出手段185を追加して設けている。この流速算出手段185では、体積効率算出手段11により算出される体積効率ηvと、仮想流速または仮想マッハ数算出手段17により算出されている仮想流速u’とから次式により、または体積効率算出手段11により算出される体積効率ηvと、仮想流速または仮想マッハ数算出手段17により算出されている仮想マッハ数M’と、音速cとから次式により流速uを算出する。
u[m/s]=u’[m/s]×ηv …(18a)
u[m/s]=M’×c[m/s]×ηv …(18b)
一般的にエンジンにはバタフライ型のスロットル弁が用いられるが、このスロットル弁部を流れる吸気の流速を一般的な円筒管の流体モデルや標準オリフィスのモデルを用いて算出することが周知である(特開2002−130039参照)。
しかしながら、実際にバタフライ型スロットル弁部を流れる吸気の流速を計測してみると、その計測値とこれらのモデルをそのまま適用して計算した結果とは一致しない。その理由は、スロットル弁開口面積が同じでもバタフライ型スロットル弁部を流れる吸気の物理的な振る舞いがモデルと異なるためであると思われる。計測値と、モデルをそのまま適用して計算した結果との間に特に顕著な差が現れるのはバタフライ型スロットル弁が全開に近い(スロットル弁開口面積が大きい)低レイノルズ数流れの領域である。
これをさらに詳述すると、図42は横軸にバタフライ型スロットル弁の上流側の吸気圧力P1と下流側の吸気圧力P2の比であるスロットル弁前後吸気圧力比(P2/P1)を、縦軸にバタフライ型スロットル弁部を流れる吸気の流速を採ったときの特性で、所定値Aは臨界圧力に対するスロットル弁前後吸気圧力比、所定値Bはチョーク時の吸気流速である。この場合に、バタフライ型スロットル弁前後で吸気が等温変化するとみなしたときの理論式(等温変化モデル)によれば、細い実線で示したようにスロットル弁前後吸気圧力比(P2/P1)が所定値Aに達するまでは流速は所定値Bに一致し、スロットル弁前後吸気圧力比(P2/P1)が所定値Aに達した後に流速は徐々に小さくなっている。また、バタフライ型スロットル弁前後で吸気が断熱変化するとみなしたときの理論式(断熱変化モデル)によれば破線のように、スロットル弁前後吸気圧力比(P2/P1)が所定値Aに達するまでは流速は所定値C(所定値Bより所定値だけ大きい)に一致し、スロットル弁前後吸気圧力比(P2/P1)が所定値Aに達した後に流速は徐々に小さくなっている。
一方、計測値(実験値)は一点鎖線で示した通りであり、スロットル弁前後吸気圧力比(P2/P1)が比較的大きな領域において等温変化するとみなしたときの理論式に一致している。
このように、第12実施形態によれば、スロットル弁21(スロート部)下流の空気を燃焼室へと吸い込むポンプとしての吸い込み能力と、スロットル弁開口面積Atvo(スロート部面積)とに基づいて仮想流速u’または仮想マッハ数M’を算出し、この算出した仮想流速u’または仮想マッハ数M’に基づいて正規化体積効率を算出し、この正規化体積効率にスロットル弁21下流の空気をポンプに吸い込む効率(ηvwot)を乗算して体積効率ηvを算出し、この体積効率ηvに仮想流速u’を乗算して、またはこの体積効率ηvに仮想マッハ数M’と音速cを乗算して流速uを算出するので、エンジンの汎用性ある吸気モデルが新たに構築可能となる上に、さらにバタフライ型スロットル弁が全開に近い領域においてもバタフライ型スロットル弁部を流れる吸気の流速を精度良く算出することができる。
図43は第13実施形態のブロック図で、第10実施形態の図30と置き換わるものである。第10実施形態と同一部分には同一番号をつけている。
第10実施形態と相違する部分を主に説明すると、燃料噴射パルス幅算出手段191(燃料供給量算出手段)では次式のように充填効率推定値ηcestを用いて基本噴射パルス幅Tpを算出した後、シーケンシャル噴射時の燃料噴射パルス幅Ti(燃料供給量)を算出する。
Tp[ms]=係数1×係数2×ηcest …(19)
Ti[ms]=Tp×TFBYA×α×2+Ts …(20)
ただし、係数1 :1吸気当たりシリンダ吸気量への換算係数、
係数2 :1吸気当たりシリンダ吸気量の燃料噴射パルス幅への換算 係数、
TFBYA :目標当量比、
α :空燃比フィードバック補正係数、
Ts[ms]:無効噴射パルス幅、
そして、所定の噴射時期になると、気筒毎に燃料噴射弁29(燃料供給手段)を燃料噴射パルス幅Tiの期間だけ開いて燃料噴射を行う。
第13実施形態によれば、スロットル弁21(スロート部)下流の空気を燃焼室へと吸い込むポンプとしての吸い込み能力と、スロットル弁開口面積Atvo(スロート部面積)とに基づいて仮想流速u’または仮想マッハ数M’を算出し、この算出した仮想流速u’または仮想マッハ数M’に基づいて正規化体積効率を算出し、この正規化体積効率にスロットル弁21下流の空気をポンプに吸い込む効率(ηvwot)を乗算して体積効率ηvを算出し、この体積効率ηvに基づいて充填効率推定値ηcestを算出し、この充填効率推定値ηcestに基づいて燃料噴射パルス幅Ti(燃料供給量)を算出するので、エンジンの汎用性ある吸気モデルが新たに構築可能となる上に、さらにL−ジェトロニック方式の燃料噴射装置に必要となるエアフローメータやD−ジェトロニック方式の燃料噴射装置に必要となる圧力センサなど高価な部品を使わなくても1吸気当たりシリンダ吸気量を推定して燃料噴射を行うことができる。
図44は第14実施形態で、第10実施形態の図30と置き換わるものである。第10実施形態と同一部分に同一番号をつけている。
第14実施形態は、充填効率検出値に基づいて燃料噴射パルス幅Ti(燃料供給量)を算出するものを前提とし、充填効率推定値ηcestと、充填効率検出手段133により検出される充填効率検出値ηcrealとを比較し、充填効率検出値ηcrealが充填効率推定値ηcestより異常とみなせるほど大きい側や小さい側にずれているときに充填効率検出手段としてのエアフローメータ141が異常な出力をしていると判断して充填効率検出値ηcrealを所定の範囲に制限し、その所定の範囲に制限した充填効率検出値ηcrealに基づいて燃料噴射パルス幅Tiを算出し、さらに充填効率検出値ηcrealが所定の範囲に制限されている状態が所定時間以上継続したときにはフェールセーフのため充填効率検出値ηcrealに代えて充填効率推定値ηcestを用いて燃料噴射パルス幅Tiを算出するものである。
ここでも、第10実施形態と相違する部分を主に説明すると、まずエアフローメータ出力異常判定手段201では充填効率検出値ηcrealと、充填効率推定値の上限値ηcestMAX、充填効率推定値の下限値ηcestMINとをそれぞれ比較して充填効率検出値ηcrealが充填効率推定値上限値ηcestMAXを上回ったり、この逆に充填効率ηcrealが充填効率推定値下限値ηcestMINを下回るときにはフェールセーフ処理手段202が充填効率検出値ηcrealを上限値ηcestMAXや下限値ηcestMINに制限し、燃料噴射パルス幅算出手段203が、この制限された充填効率検出値ηcrealに基づいて上記(19)式、(20)式により燃料噴射パルス幅Tiを算出する。さらに、エアフローメータ出力異常判定手段201において充填効率検出値ηcrealが上限値ηcestMAXや下限値ηcestMINに制限されている状態が所定時間以上継続したことを判定したときにはエアフローメータ出力に異常があると判定し、フェールセーフ処理手段202が充填効率検出値ηcrealを充填効率推定値ηcestへと切換え、切換えた後には燃料噴射パルス幅算出手段203が充填効率検出値ηcrealに代えて充填効率推定値ηcestを用いて上記(19)式、(20)式により燃料噴射パルス幅Tiを算出する。
上記の充填効率推定値の上限値ηcestMAX、充填効率推定値の下限値ηcestMINは充填効率推定値ηcestに所定の差または率を付加して算出すればよい。
ここで、エアフローメータ出力異常判定手段201及びフェールセーフ処理手段202の作用を図45により説明すると、図45上段に示す充填効率の波形のうち一点鎖線が充填効率推定値ηcestの動きを示し、この充填効率推定値ηcestを中心にして上下に所定範囲の制限幅を設けている。充填効率推定値ηcestの上側に細実線で示す波形が充填効率推定値の上限値ηcestMAX、充填効率推定値ηcestの下側に細実線で示す波形が充填効率推定値の下限値ηcestMINである。一方、図45上段に示す充填効率の波形のうち太い実線が、エアフローメータ出力に基づいて検出される充填効率検出値ηcrealの動きを示している。
いま、t1のタイミングで、エアフローメータ141出力が異常に大きくなり、このエアフローメータ出力に基づいて算出される充填効率検出値ηcrealが充填効率推定値の上限値ηcestMAXを外れて大きくなったと仮定すると、このt1のタイミングで充填効率検出値ηcrealが充填効率推定値の上限値ηcestMAXに制限されると共に、制限範囲張付きフラグが、図45の下より3段目に示すように0より1へと切換えられ、かつ制限範囲張付き継続時間タイマのデクリメントが図45の下より2段目のように開始される。
なお、エアフローメータ出力が異常となる原因に例えば短絡(ショート)がありこの短絡が生じた場合には、充填効率検出値ηcrealは充填効率推定値の下限値ηcestMINを下回ってゼロに向かうと考えられる。しかしながら、エアフローメータ出力が異常となる原因としては充填効率推定値の上限値ηcestMAXに制限される場合と、充填効率推定値の下限値ηcestMINに制限される場合とのいずれの場合も考え得るので、図45には充填効率検出値ηcrealが充填効率推定値の上限値ηcestMAXに制限される場合をモデル的に示している。従って、充填効率検出値ηcrealが充填効率推定値の下限値ηcestMINに制限される場合も同様に考えればよい。
一方、エンジンコントローラ10では異常判定制限条件が成立しているか否かを判定している。これは、次の各条件が成立しているか否かをみて全ての条件が成立している場合に、異常判定制限条件が成立したと判断して異常判定制限フラグ=1とし、一つでも成立していなければ異常判定制限条件が成立したと判断せず異常判定制限フラグ=0としている。
ト)大気状態検出手段(33、34)と体積効率算出手段11が非故障状態であるこ と。
チ)エンジン回転速度Neが所定回転速度(アイドル回転速度)以上であること。
リ)充填効率検出値ηcrealあるいは充填効率推定値ηcestの所定時間当たり変化率が所定値以下であること。
ヌ)冷却水温Twが所定温度以上であること。エンジン油温をも検出しているときに は冷却水温Twかエンジン油温の少なくとも一方が所定温度以上であること。
ル)上記ト)〜ヌ)の成立状態が所定時間以上継続したこと。
t2のタイミングで異常判定制限フラグ=1となり、この状態のまま制限範囲張付き継続時間タイマがゼロになったt3のタイミングよりさらに所定の遅延時間後のt4のタイミングで異常判定フラグが、図45の最下段のように0より1へと切換えられる(エアフローメータ出力に異常があることが判定された)。
このようにしてエアフローメータ出力に異常があることが判定されたときにはフェールセーフ処理を行う。すなわち、t4のタイミングより、充填効率推定値の上限値ηcestMAXに制限されていた充填効率検出値ηcrealより充填効率推定値ηcestへと切換える。ただし、ステップ的に充填効率検出値ηcrealより充填効率推定値ηcestへと切換えたのでは燃料噴射量が急変するので、この燃料噴射量の急変を避けるため切換時にランプ処理を行っている。
この結果、充填効率推定値の上限値ηcestMAXにあった充填効率検出値ηcrealが、t4のタイミングより充填効率推定値ηcestへと徐々に近づいてゆき、t5のタイミングで充填効率推定値ηcestと一致している。
このようにして、エアフローメータ出力に異常があることが判定されたときにはt4以降において充填効率検出値ηcrealに代えて充填効率推定値ηcestが、燃料噴射パルス幅Tiの算出のために用いられる。
第14実施形態によれば、スロットル弁21(スロート部)下流の空気を燃焼室へと吸い込むポンプとしての吸い込み能力と、スロットル弁開口面積Atvo(スロート部面積)とに基づいて仮想流速u’または仮想マッハ数M’を算出し、この算出した仮想流速u’または仮想マッハ数M’に基づいて正規化体積効率を算出し、この正規化体積効率にスロットル弁21下流の空気をポンプに吸い込む効率(ηvwot)を乗算して体積効率ηvを算出し、この体積効率ηvに基づいて充填効率推定値ηcestを算出し、この充填効率推定値ηcestに基づいて燃料噴射パルス幅Ti(燃料供給量)を算出するものを前提として、充填効率推定値ηcestに所定の差または率を付加した値を異常判定上限値ηcestMAX、異常判定下限値ηcestMINとして算出し、充填効率を検出し、この充填効率検出値ηcrealが異常判定上限値ηcestMAXを超えているときにこの異常判定上限値ηcestMAXに、また充填効率検出値ηcrealが異常判定下限値ηcestMINを下回っているときにこの異常判定下限値ηcestMINに制限し、充填効率検出値ηcrealが異常判定上限値または異常判定下限値に制限されている状態が所定時間以上継続したときにエアフローメータ141(充填効率検出手段)の出力に異常が生じていると判定するので、エンジンの汎用性ある吸気モデルが新たに構築可能となる上に、さらにエアフローメータ141についての診断が可能である。
また、第14実施形態によれば、充填効率検出値ηcrealが異常判定上限値ηcestMINまたは異常判定下限値ηcestMINにこの制限されているときにはその制限されている充填効率検出値ηcrealに基づいて、またエアフローメータ141の出力に異常が生じていると判定されたときには充填効率検出値ηcrealを充填効率推定値ηcestに切換え、その切換えた充填効率推定値ηcestに基づいて燃料噴射パルス幅Ti(燃料供給量)を算出するので、エアフローメータ141の出力に異常が生じているときでも、その異常なエアフローメータ141の出力に基づいて異常な燃料供給が実行されることがなく、システムの信頼性を向上することができる。
図46は第15実施形態で、第14実施形態の図44と置き換わるものである。第14実施形態と同一部分に同一番号をつけている。
第15実施形態は、目標スロットル弁開度を算出し、この目標スロットル弁開度が得られるようにスロットル弁用アクチュエータ213を制御しているものを前提として、エアフローメータ141出力に吸気脈動によるプラス誤差が大きくなる異常があることを判定したとき、目標スロットル弁開度を所定の上限値までに制限するようにしたものである。
具体的に説明すると、目標スロットル弁開度算出手段212では、アクセルセンサ31により検出されるアクセル操作量とエンジン回転速度Neとに基づいて目標スロットル弁開度を算出する。この目標スロットル弁開度の算出方法は特開平11−182298号公報に記載のものをそのまま用いればよい。
エアフローメータ出力異常判定手段211では、次のようにしてエアフローメータ出力に吸気脈動によるプラス誤差が大きくなる異常があるか否かを判定する。
図47は横軸にスロットル弁開度を、縦軸に吸気量を採ったものである。エアフローメータ出力に吸気脈動によるプラス誤差が大きくなる異常のないときには、吸気量は実線で示したようにスロットル弁全開付近において所定値Dへと収束する。しかしながら、エアフローメータ出力に吸気脈動よるプラス誤差が大きくなる異常のあるときには、吸気量は破線で示したようにスロットル弁全開付近(吸気量の飽和領域)での真の吸気量(実線参照)を超えて大きくなる。この原因として吸気管の抜け・外れや破損、交換などで吸気ダクトの形状が標準形から変形した場合に吸気脈動の発生周波数が変化することがある。こうした吸気脈動の発生周波数の変化により、エアフローメータ141によってはスロットル弁開度の大きな領域で大きなプラス誤差を生じて燃料噴射量の算出や各種運転パラメータの操作に異常をきたすことがある。
すなわち、ここでのエアフローメータ出力の異常は吸気脈動に伴ってプラス誤差が大きくなるものであるので、エアフローメータ出力異常判定手段211では、図48に示したように吸気脈動が生じる可能性のある領域、具体的には仮想流速が略60〜100m/s以下の低流速領域において、充填効率検出値ηcrealと充填効率推定値ηcestの差または比が所定値を超えた時間または回数を計測し、その計測値が判定値を超えたときエアフローメータ出力に吸気脈動によるプラス誤差が大きくなる異常があると判定する。
ここで、異常判定領域を吸気脈動が大きくなる領域として限定しているのは、限定しないとすれば、吸気脈動は前述したとおりヘルムホルツ共鳴などの原理に基いて発生するので、吸気系に破損や形状変更が発生した場合にどこで共鳴が発生するか特定するのが難しくなるためである。
目標スロットル弁開度制限手段213では、エアフローメータ出力異常判定手段211によりエアフローメータ出力に吸気脈動によるプラス誤差が大きくなる異常があると判定されたとき、目標スロットル弁開度を所定の上限値までに制限する。すなわち、エアフローメータ出力に吸気脈動によるプラス誤差が大きくなる異常があるときには、図47に示したように吸気量の飽和領域の手前に上限値Eを設定し、上限値Eを超える領域のスロットル弁開度を使用しない。この場合、スロットル弁開度を上限値Eに制限することによる圧力損失はスロットル弁21の全開出力からみると数%減にしかならないので、スロットル弁開度を上限値Eまでに制限したとしても通常走行に差し支えない範囲で車両の走行を続けることができる。言い換えると、エアフローメータ部の吸気脈動は、スロットル弁21を絞ってスロットル弁21を通過する吸気の流速を圧縮性流体の特性を示す程度の領域にまで早くすれば吸気脈動の減衰が大きくなって伝わらなくなる(吸気脈動が小さくなる)ので、仮想流速が略60〜100m/s(マッハ数で0.2〜0.3)以上あるいはこの値に対応する流速以上となるように(図48参照)、スロットル弁開度の上限値Eを定めてやればよい。
このようにして、エアフローメータ出力の吸気脈動によるプラス誤差が大きくなる異常時には目標スロットル弁開度の採りうる値が上限値Eまでの範囲に制限され、この制限された範囲内で目標スロットル弁開度が得られるようにアクチュエータ213がスロットル弁21を駆動する。
第15実施形態によれば、スロットル弁21(スロート部)下流の空気を燃焼室へと吸い込むポンプとしての吸い込み能力と、スロットル弁開口面積Atvo(スロート部面積)とに基づいて仮想流速u’または仮想マッハ数M’を算出し、この算出した仮想流速u’または仮想マッハ数M’に基づいて正規化体積効率を算出し、この正規化体積効率にスロットル弁21下流の空気をポンプに吸い込む効率(ηvwot)を乗算して体積効率ηvを算出し、この体積効率ηvに基づいて充填効率推定値ηcestを算出し、充填効率を検出し、吸気脈動が生じる可能性のある領域で充填効率検出値ηcrealと前記充填効率推定値ηcestの差または比が所定値を超えた時間または回数を計測し、この計測値が判定値を超えたか否かによりエアフローメータ141(充填効率検出手段)の出力に吸気脈動によるプラス誤差が大きい異常があるか否かを判定し、吸気脈動によるプラス誤差が大きい異常があると判定されたとき吸気脈動が生じないように目標スロットル弁開度を所定値までに制限し、この所定値までに制限された目標スロットル弁開度が得られるようにスロットル弁を制御するので、エンジンの汎用性ある吸気モデルが新たに構築可能となる上に、さらにエアフローメータ141の出力に吸気脈動によるプラス誤差が大きい異常が生じたときにも、運転性の悪化を防ぐことができる。
また、第15実施形態によれば、制限値である上限値Eをスロットル弁全開付近(吸気量の飽和領域)の手前に設定するので、エアフローメータ141の出力に吸気脈動に伴ってプラス誤差が大きい異常が生じたときにおいてもエンジン出力の低下を小さく抑えることができ、著しい運転性の低下を防ぐことができる。
これに対して、アフローメータ出力に吸気脈動によるプラス誤差が大きい異常が生じたときに、上限値を小さくして低速走行のみが可能とすることが考えられるが、このときには著しい運転性の低下が生じてしまう。
第14、第15の実施形態では、エアフローメータ141が質量流量を検出するセンサであるため、充填効率検出手段としてのエアフローメータ141により検出される充填効率検出値ηcestと、充填効率推定値ηcestとの比較により充填効率検出手段としてのエアフローメータ出力に異常があるか否か、あるいは充填効率検出手段としてのエアフローメータ出力に吸気脈動によるプラス誤差が大きい異常が生じているか否かの判定を行っているが、第14、第15の実施形態は質量流量を検出するセンサに限定されるものでない。例えば、体積流量センサ(例えばコクレタ圧力センサ)に対しては、実体積効率検出手段としてのこの体積流量センサにより検出される実際の体積効率ηvrealと、体積効率推定値ηvest(つまり第1実施形態で得られている体積効率ηv)との比較により、実体積効率検出手段としての体積流量センサ出力に異常があるか否かあるいは実体積効率検出手段としての体積流量センサに吸気脈動によるプラス誤差が大きい異常が生じているか否かの判定を行うことができる。
図49は第16実施形態で、第2実施形態の図8と置き換わるものである。第2実施形態と同一部分に同一番号をつけている。
第2実施形態と相違する部分を主に説明すると、アクセル要求開口面積算出手段221では、アクセルセンサ31により検出されるアクセル操作量とエンジン回転速度Neとからスロットル弁21のアクセル要求開口面積AAPOを算出する。
仮想流速の逆数または仮想マッハ数の逆数算出手段222では、このアクセル要求開口面積AAPOと、エンジン回転速度Neと、スロットル弁全開時体積効率ηvwotと、総行程容積Vtotalとから次式により仮想流速の逆数を、またはアクセル要求開口面積AAPOと、エンジン回転速度Neと、スロットル弁全開時体積効率ηvwotと、総行程容積Vtotalと、音速cとから仮想マッハ数の逆数を次式により算出する。
仮想流速の逆数[s/m]=AAPO[m2]
/(Vtotal[m3]×ηvwot×(Ne[rpm]/120))
…(21)
仮想マッハの逆数[無名数]=c[m/s]×{AAPO[m2]
/(Vtotal[m3]×ηvwot×(Ne[rpm]/120))}
…(22)
(21)式、(22)式は、仮想流速u’または仮想マッハ数M’を算出する上記(1)式、(2)式と同様の式である。
目標基本正規化体積効率算出手段223では仮想流速の逆数から図50(a)を内容とするテーブルを検索することにより、または仮想マッハ数の逆数から図50(b)を内容とするテーブルを検索することにより正規化体積効率を算出し、この算出した正規化体積効率を目標基本正規化体積効率とする。図50(a)、図50(b)は図5(a)、図5(b)に示した内容のうち横軸の仮想流速u’または仮想マッハ数M’を仮想流速の逆数または仮想マッハ数の逆数にして採り直したものである。
目標基本体積効率算出手段224ではこの目標基本正規化体積効率にスロットル弁全開時体積効率ηvwotを乗算してつまり次式により目標基本体積効率tηv0を算出する。
tηv0=目標基本正規化体積効率×ηvwot …(23)
目標体積効率算出手段225ではこの目標基本体積効率tηv0を目標当量比TFBYAで除算してつまり次式により目標体積効率tηvを算出する。
tηv=tηv0/TFBYA …(24)
目標正規化体積効率算出手段226ではこの目標体積効率tηvをスロットル弁全開時体積効率ηvwotで除算してつまり次式により目標正規化体積効率を算出する。
目標正規化体積効率=tηv/ηvwot …(25)
目標仮想流速の逆数または目標仮想マッハ数の逆数と算出手段227では、目標正規化体積効率から図50(a)を内容とするテーブルを検索することにより目標仮想流速の逆数を、または目標正規化体積効率から図50(b)を内容とするテーブルを検索することにより目標仮想マッハ数の逆数を算出する。
目標スロットル弁開口面積算出手段228では、これら目標仮想流速の逆数と、エンジン回転速度Neと、スロットル弁全開時体積効率ηvwotと、総行程容積Vtotalとから次式により目標スロットル弁開口面積tAtvoを、または目標仮想マッハ数の逆数と、エンジン回転速度Neと、スロットル弁全開時体積効率ηvwotと、総行程容積Vtotalと、音速cとから次式により目標スロットル弁開口面積tAtvoを算出する。
tAtvo[m2]=(目標仮想流速の逆数)
×(Vtotal[m3]×ηvwot×(Ne[rpm]/120))
…(26)
tAtvo[m2]={(目標仮想マッハ数の逆数)
×(Vtotal[m3]×ηvwot×(Ne[rpm]/120))} /c[m/s] …(27)
目標スロットル弁開度算出手段42ではこの目標スロットル弁開口面積tAtvoから目標スロットル弁開度を算出し、スロットル弁制御手段43ではこの目標スロットル弁開度となるようにスロットル弁開度を制御する。
第16実施形態によれば、エンジンの運転条件に応じた目標エンジントルクと目標空燃比とが得られるように、スロットル弁により吸入吸気量を、また目標当量比に応じて燃料噴射弁により燃料供給量をそれぞれ制御するエンジンの制御装置において、アクセル操作量とエンジン回転速度Neとからアクセル要求開口面積AAPOを算出し、エンジン回転速度Neからスロットル弁全開時体積効率ηvwotを算出し、前記アクセル要求開口面積AAPOと、エンジン回転速度Neと、前記スロットル弁全開時体積効率ηvwotと、総行程容積Vtotalとに基づいて仮想流速の逆数または仮想マッハ数の逆数を算出し、この仮想流速の逆数または仮想マッハ数の逆数から目標基本正規化体積効率を算出し、この目標基本正規化体積効率に前記スロットル弁全開時体積効率ηvwotを乗算して目標基本体積効率tηv0を算出し、この目標基本体積効率ηvを前記目標当量比で除算して目標体積効率tηvを算出し、この目標体積効率tηvを前記スロットル弁全開時体積効率ηvwotで除算して目標正規化体積効率を算出し、この目標正規化体積効率から目標仮想流速の逆数または目標仮想マッハ数の逆数を算出し、この目標仮想流速の逆数または目標仮想マッハ数の逆数と、エンジン回転速度Neと、前記スロットル弁全開時体積効率ηvwotと、総行程容積Vtotalに基づいて目標スロットル弁開口面積を算出し、この目標スロットル弁開口面積から目標スロットル弁開度を算出し、この目標スロットル弁開度となるようにスロットル弁開度を制御するので、第2実施形態と同様の作用効果が得られる。
詳述すると、目標基本正規化体積効率と、仮想流速の逆数や仮想マッハ数の逆数との関係または目標正規化体積効率と、目標仮想流速の逆数や目標仮想マッハ数の逆数との関係は、「目標」がついても同じである。すなわち、目標基本正規化体積効率と、仮想流速の逆数や仮想マッハ数の逆数との関係または目標正規化体積効率と、目標仮想流速の逆数や目標仮想マッハ数の逆数との関係は、一般的なエンジンであればどんな機種でも高い相関を示すことを本発明者が実験によって確認している。一般的なエンジンであればどんな機種でも高い相関を示す、という意味は、図50(a)、図50(b)に示す特性をエンジン機種に関係なく共通に用いることができるという意味であり、これによって、エンジンの汎用性ある吸気モデルを新たに構築できている。このため、この汎用性のある吸気モデルを用いることで、エンジン開発期間を大幅に短縮することができる。
また、本実施形態では、スロットル弁21が全開のときの体積効率は、スロットル弁21下流より総行程容積までの間の体積効率と略同等であることに着目し、スロットル21弁(スロート部)下流の吸気をポンプに吸い込む効率を表す体積効率として、スロットル弁全開時体積効率ηvwotを採用している。このときには、目標基本正規化体積効率が、体積効率の目標値である目標基本体積効率tηv0をスロットル弁全開時体積効率ηvwot(スロットル弁下流の空気をポンプに吸い込む効率)で除算した値であるので、目標基本正規化体積効率にスロットル弁全開時体積効率ηvwotを乗算することによって目標基本体積効率tηv0を直ちに算出することができる。
また、目標正規化体積効率が、体積効率の目標値である目標体積効率tηvをスロットル弁全開時体積効率ηvwot(スロットル弁下流の空気をポンプに吸い込む効率)で除算した値であるので、目標体積効率tηvをスロットル弁全開時体積効率ηvwotで除算することによって目標正規化体積効率を直ちに算出することができる。
さて、特開平11−182298号公報には、体積流量比と、スロットル弁の単位排気量当たりかつエンジン1回転当たりの開口面積(AA/(Ne×VOL))との関係を2度用いて目標スロットル弁開度を算出するものが開示されている。
ここで、スロットル弁の単位排気量当たりかつエンジン1回転当たりの開口面積は、スロットル弁開口面積を排気量VOLとエンジン回転速度Neで除算した値であるので、この値を上記(補5)式より作ってみると次式になる。
スロットル弁開口面積/(総行程容積×(エンジン回転速度/120))
=スロットル弁全開時体積効率/仮想流速 …(補14)
従って、当該公報でいうスロットル弁の単位排気量当たりかつエンジン1回転当たりの開口面積を、本願発明の仮想流速の逆数(ただし、スロットル弁全開時体積効率は1.0である)に、また当該公報でいう体積流量比を、本願発明の正規化体積効率に対応させることが可能である。そこで、当該公報にいうスロットル弁の単位排気量当たりかつエンジン1回転当たりの開口面積の逆数を縦軸に、体積流量比を横軸に採ったときの特性を、図5に示した特性に重ねてみると、図51のように当該公報の技術によれば仮想流速が大きな領域でバラツキが生じている(一点鎖線参照)。すなわち、当該公報の技術はエンジン回転速度Neに関係なくスロットル弁全開時体積効率ηvwotを常に1.0としたものに相当するのであるが、実際のエンジンでは図4に示したようにスロットル弁全開時体積効率ηvwotが1.0未満となることがあり、この場合において真の正規化体積効率からのずれが生じてしまうのである。
これに対して第16実施形態によれば、エンジン回転速度Neに応じて変化するスロットル弁全開時体積効率ηvwotを導入しているので、スロットル弁全開時体積効率ηvwotが1.0未満となる領域においても、真の正規化体積効率からのずれが生じることがない。
請求項1に記載の仮想流速または仮想マッハ数を算出する仮想流速・仮想マッハ数算出手段の機能は図1の仮想流速または仮想マッハ数算出手段17により、正規化体積効率・スロート部前後吸気圧力比・スロート部前後吸気密度比算出手段の機能は図1の正規化体積効率算出手段18によりそれぞれ果たされている。
請求項1に記載の目標正規化体積効率・目標スロート部前後吸気圧力比・目標スロート部前後吸気密度比算出手段の機能は図8の目標正規化体積効率算出手段38により、目標仮想流速・目標仮想マッハ数算出手段の機能は図8の目標仮想流速または目標仮想マッハ数算出手段39により、目標吸い込み能力・目標スロート部面積算出手段の機能は図8の目標スロットル弁開口面積算出手段40によりそれぞれ果たされている。