以下、本発明によるマイクロアクチュエータ、マイクロアクチュエータアレー、マイクロアクチュエータ装置及び光スイッチシステムについて、図面を参照して説明する。
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の第1の実施の形態による光スイッチシステムを示す概略構成図である。説明の便宜上、図1に示すように、互いに直交するX軸、Y軸及びZ軸を定義する(後述する図についても同様である。)。図1において、X’軸及びY’軸は、X軸及びY軸をそれぞれZ軸回りに45゜回転した軸を示す。光スイッチアレー1の基板11の面がXY平面と平行となっている。また、Z軸方向のうち矢印の向きを+Z方向又は+Z側、その反対の向きを−Z方向又は−Z側と呼び、X軸方向及びY軸方向についても同様とする。なお、Z軸方向の+側を上側、Z軸方向の−側を下側という場合がある。
この光スイッチシステムは、図1に示すように、光スイッチアレー1と、m本の光入力用光ファイバ2と、m本の光出力用光ファイバ3と、n本の光出力用光ファイバ4と、光スイッチアレー1に対して後述するように磁界を発生する磁界発生部としての磁石5と、光路切替状態指令信号に応答して、当該光路切替状態指令信号が示す光路切替状態を実現するための制御信号を光スイッチアレー1に供給する制御部としての外部制御回路6と、を備えている。図1に示す例では、m=3、n=3となっているが、m及びnはそれぞれ任意の数でよい。
本実施の形態では、磁石5は、光スイッチアレー1の下側に配置された永久磁石であり、光スイッチアレー1に対して、X軸方向に沿ってその+側へ向かう略均一な磁界を発生している。もっとも、磁界発生部として、磁石5に代えて、例えば、他の形状を有する永久磁石や、電磁石などを用いてもよい。
光スイッチアレー1は、図1に示すように、基板11と、基板11上に配置されたm×n個のミラー31とを備えている。m本の光入力用光ファイバ2は、基板11に対するY’軸方向の一方の側からY’軸方向に入射光を導くように、XY平面と平行な面内に配置されている。m本の光出力用光ファイバ3は、m本の光入力用光ファイバ2とそれぞれ対向するように基板11に対する他方の側に配置され、光スイッチアレー1のいずれのミラー31によっても反射されずにY’軸方向に進行する光が入射するように、XY平面と平行な面内に配置されている。n本の光出力用光ファイバ4は、光スイッチアレー1のいずれかのミラー31により反射されて−X’軸方向に進行する光が入射するように、XY平面と平行な面内に配置されている。m×n個のミラー31は、m本の光入力用光ファイバ2の出射光路と光出力用光ファイバ4の入射光路との交差点に対してそれぞれ、後述するマイクロアクチュエータにより進出及び退出可能にZ軸方向に移動し得るように、2次元マトリクス状に基板11上に配置されている。なお、本例では、ミラー31の向きは、その法線がXY平面と平行な面内においてY軸’と45゜をなすY軸と平行となるように設定されている。もっとも、その角度は適宜変更することも可能であり、ミラー31の角度を変更する場合には、その角度に応じて光出力用光ファイバ4の向きを設定すればよい。なお、この光スイッチシステムの光路切替原理自体は、従来の2次元光スイッチの光路切替原理と同様である。
図2は、図1中の光スイッチアレー1を模式的に示す概略平面図である。光スイッチアレー1は、基板11(図2では図示せず)と、該基板11上に2次元状に配置されたm×n個の可動板12と、各可動板12に搭載されたミラー31とを備えている。図1及び図2並びに後述する図では、説明を簡単にするため、9個の光スイッチを3行3列に配置しているが、光スイッチの数は何ら限定されるものではない。光スイッチアレー1のうちのミラー31以外の部分が、マイクロアクチュエータアレーを構成している。なお、本発明では、マイクロアクチュエータや光スイッチは、アレー化することなく単体で用いてもよい。
次に、図1中の光スイッチアレー1の単位素子としての1つの光スイッチの構造について、図3乃至図6を参照して説明する。
図3は、図1中の光スイッチアレー1の単位素子としての1つの光スイッチを模式的に示す概略平面図である。図4は、図3中のA−A’線に沿った概略断面図である。ただし、図4は可動板12の断面のみを示している。図5は、図3中の可動板12を上から見たときのAl膜22のパターン形状を示す図である。理解を容易にするため、図5において、Al膜22の部分にハッチングで示している。なお、図5には、基板11に形成された固定電極41aも破線で示している。図6は、図3及び図5中のB−B’線に沿った断面を+Y側から−Y軸方向に見た概略断面図である。ただし、図6には、−Y軸方向に見たミラー31も併せて示している。図6は、ミラー31が上側に保持されて光路に進出した状態を示している。なお、図6では、図面表記の便宜上、後述する凸部24の図示を省略してそれによる段差がないものとして示している。
光スイッチアレー1の単位素子としての1つの光スイッチは、図2及び図3に示すように、シリコン基板等の基板11上に設けられ基板11と共に1つのマイクロアクチュエータを構成する可動部としての1つの可動板12と、可動板12に搭載された被駆動体である光学素子としてのミラー31とを有している。
可動板12は、薄膜で構成され、図3乃至図6に示すように、可動板12の平面形状の全体に渡る下側の窒化ケイ素膜(SiN膜)21及び上側のSiN膜23と、これらの膜21,23の間において部分的に形成された中間のAl膜22とから構成されている。すなわち、可動板12は、下から順にSiN膜21,23を積層した2層膜からなる部分と、下から順にSiN膜21、Al膜22及びSiN膜23を積層した3層膜からなる部分とを、併有している。Al膜22のパターン形状は図5に示す通りであるが、これについては後述する。可動板12は、SiN膜21,23とAl膜22との熱膨張係数の差によって生じる内部応力、並びに、成膜時に生じた内部応力により、図6に示すように基板11に対して上向き(+Z方向)に湾曲するように、予め定められた膜厚及び成膜条件によって形成されている。
可動板12は、図3に示すように、ミラー31を搭載するための搭載部(すなわち、ミラー31用の支持基体)としての長方形状のミラー搭載板12aと、ミラー搭載板12aの端部に接続された2本の帯状の支持板12bとを含む。本実施の形態では、これらの2本の支持板12bが、互いに機械的に並列接続された2本の梁部となっている。支持板12bは、それぞれの端部に脚部12c及び脚部12dを有している。脚部12c及び12dはいずれも基板11に固定されており、可動板12は、脚部12c及び12dを固定端として、図6に示すように、ミラー搭載板12a側が持ち上がるようになっている。このように、本実施の形態では、可動板12は、脚部12c及び12dを固定端とする片持ち梁構造を持つ可動部となっている。本実施の形態では、基板11及びこれに積層された後述する絶縁膜13,14,15等が、固定部を構成している。
可動板12には、図3に示すように、可動板12のミラー31を搭載している部分を含む領域を取り囲むように、凸部24が設けられている。凸部24は、図4に示すように、可動板12を構成する複層膜を凸型にすることにより形成されている。このように凸部24を設けることにより、段差が生じるため、可動板12のうち、凸部24で囲まれた領域及び凸部24が設けられた領域は、内部応力による湾曲が抑制され、平面性を維持することができる。このため、可動板12は、図6のように内部応力による湾曲によりミラー31を上側の位置に持ち上げた状態であっても、ミラー31を搭載している部分は平面であるため、搭載されているミラー31の形状を一定に保つことができる。
このように、可動板12は、凸部24で囲まれた領域及び凸部24が設けられた領域は湾曲が抑制されるが、支持板12bの脚部12dに近い領域は、凸部24が設けられていない。これにより、凸部24が設けられていない支持板12bの領域の湾曲によって、可動板12は、脚部12c,12dを固定端として、図6のように、ミラー搭載板12a側が持ち上がるようになっている。また、支持板12bの脚部12dに近い領域は、凸部24が設けられていないことにより、弾性部としての板ばね部となっている。
ここで、可動板12のAl膜22の形状について、図5を参照して説明する。本実施の形態では、駆動力として2つのローレンツ力と静電力の合計3つの力を用いて可動板12を駆動するために、図5に示すような形状に、Al膜22をパターニングしている。
Al膜22のうちパターン22aは、2つの脚部12dのそれぞれから、可動板12の外周の縁に沿って延びて可動板12の先端側(+X側)まで延び、可動板12の先端の一辺12eに沿ってY軸方向に延びた直線状のパターン22cに接続されている。パターン22cは、磁界内に配置されて通電により駆動力としての第1のローレンツ力を生じる第1の電流経路(第1のローレンツ力用電流経路)である。以下、パターン22cを第1のローレンツ力電流経路22cと呼ぶ場合がある。パターン22cもAl膜22のうちのパターンである。パターン22aは、ローレンツ力電流経路22cに電流を供給するための配線パターンである。パターン22aは、図6に示すように、+Y側の脚部12dにおいて絶縁膜15及びSiN膜21のコンタクトホールを介してAl膜等からなる配線パターン42aに接続されるとともに、−Y側の脚部12dにおいて同様に別の配線パターン(図6では図示せず)と接続され、脚部12dを介してそれらの配線パターンから第1のローレンツ力用駆動信号としての電流が供給される。図1に示す磁石5によって、ローレンツ力用電流経路22cがX軸方向の磁界内に置かれている。したがって、パターン22aを介してローレンツ力電流経路22cに電流を供給すると、第1のローレンツ力用電流経路22cに、その電流の向きに応じて、+Z方向又は−Z方向のローレンツ力が生ずる。
なお、図6及び図7に示すように、基板11上には、基板11側から順にシリコン酸化膜等の絶縁膜13,14,15が積層され、配線パターン42aは、絶縁膜14,15間に形成されている。
Al膜22のうちパターン22bは、2つの脚部12cのそれぞれから、可動板12の内側の縁に沿って延びて可動板12の先端側(+X側)まで延び、パターン22cと隣接して平行してY軸方向に延びた直線状のパターン22dに接続されている。パターン22dは、磁界内に配置されて通電により駆動力としての第2のローレンツ力を生じる第2の電流経路(第2のローレンツ力用電流経路)である。以下、パターン22dを第2のローレンツ力電流経路22dと呼ぶ場合がある。パターン22dもAl膜22のうちのパターンである。第2のローレンツ力用電流経路22dの形状は、第1のローレンツ力用電流経路22cの形状とほぼ同じ形状を有しているため、両者に同じ大きさの電流を互いに逆方向に流すと、両者に生ずるローレンツ力がほぼ同じで逆向きとなり打ち消し合うことになる。
また、パターン22bは、可動板12の先端側に配置された長方形状のパターン22eに接続されている。パターン22eは、駆動力としての静電力を発生するための可動電極である。以下、パターン22eを可動電極22eと呼ぶ場合がある。パターン22e,22bもAl膜22のうちのパターンである。
パターン22bは、ローレンツ力電流経路22dに電流を供給するため及び可動電極22eに電位を印加するための配線パターンである。パターン22bは、+Y側の脚部12cにおいて絶縁膜15及びSiN膜21のコンタクトホールを介してAl膜等からなる配線パターン(図6では図示せず)に接続されるとともに、−Y側の脚部12cにおいて同様に別のローレンツ力用配線パターン(図6では図示せず)と接続されている。脚部12cを介してそれらの配線パターンから、第2のローレンツ力用駆動信号としての電流が供給される。図1に示す磁石5によって、ローレンツ力用電流経路22dがX軸方向の磁界内に置かれている。したがって、パターン22bを介してローレンツ力電流経路22dに電流を供給すると、ローレンツ力用電流経路22dに、その電流の向きに応じて、+Z方向又は−Z方向のローレンツ力が生ずる。また、その電流供給状態から切り替えて、Al膜からなる固定電極41aとの間に電圧(静電力用電圧、静電力用駆動信号)が印加される。固定電極41aは、図5及び図6に示すように、基板11上の絶縁膜13,14間に形成され、可動電極22eと対向する位置に配置されている。可動電極22eと固定電極35との間に電圧が印加されると、両者の間に駆動力としての静電力が生じ、この静電力により可動板12は基板11に引き寄せられる。
本実施の形態では、可動電極22eと固定電極41aとの間の静電力用電圧、第1のローレンツ力用電流経路22cに流す電流、及び第1のローレンツ力用電流経路22dに流す電流を制御することで、ミラー31が上側(基板11と反対側)に保持された状態(図6、後述する図7(a))、ミラー31が後述する図7(c)に示す下側位置に保持された状態、及び、ミラー31が後述する図7(b)に示す下側中間位置に保持された状態にすることができる。本実施の形態では、後述するように、外部制御回路6によって、このような制御が行われるようになっている。
図7は、1つの光スイッチの可動部及びこれに設けられたミラー31が保持される各位置を模式的に示す概略側面図である。図7において、各部の構造は大幅に簡略化して示している。図6及び図7において、Kは、ミラー31の進出位置に対する光路の断面を示している。なお、図7(a)は、図6と同じ状態を示している。
ここで、いかなる制御信号を与えることによって、図3乃至図6に示す1つの光スイッチのミラー31が図7に示す各位置に保持されるかについて、図8を参照して説明する。図8は1つの光スイッチに与える制御信号の例を示す説明図である。図8において、図5中の要素と同一又は対応する要素には同一符号を付し、その重複する説明は省略する。
ここでは、理解を容易にするため、図8に示すように、切替スイッチSWR,SWL、可変直流電圧源VV,VH及び可変直流電流源IV,IHが接続されているものと、考える。
図8に示すように、−Y側の脚部12dにおいて、パターン22aがグラウンド(接地)に接続されている。一方、+Y側の脚部12dにおけるパターン22aとグラウンドとの間に可変直流電流源IVが接続されている。したがって、可変直流電流源IVからの電流が第1のローレンツ力用電流経路22cに流れる第1のローレンツ力用電流となる。可変直流電流源IVは、例えば、正電流+I(この値の設定例は後述する。)、及び、ゼロから負電流−I(この値の設定例は後述する。)までの値の可変の電流を出力し得るものとする。ここで、正電流とは、第1のローレンツ力用電流経路22cに−Z方向(基板11へ向かう方向)の第1のローレンツ力を生じさせる電流をいい、負電流とは、第1のローレンツ力用電流経路22cに+Z方向(基板11から遠ざかる方向)の第1のローレンツ力を生じさせる電流をいう。
切替スイッチSWR,SWLは互いに連動して切り替わり、切替スイッチSWRの接点a1,c1間が選択的に接続されるとともに切替スイッチSWLの接点a2,c2間が選択的に接続された状態と、切替スイッチSWRの接点b1,c1間が選択的に接続されるとともに切替スイッチSWLの接点b2,c2間が選択的に接続された状態とに、切り替わる。
図8に示すように、切替スイッチSWRの共通接点c1は、+Y側の脚部12cにおいてパターン22bに接続されている。切替スイッチSWRの切替接点a1とグラウンドとの間に、可変直流電圧源VHが接続されている。可変直流電圧源VHは、例えば、接地電位を基準とした負の電位−V(この値の設定例は後述する。)とゼロ電位(接地電位)とを選択的に切替接点a1に印加し得るものとする。切替スイッチSWRの切替接点b1とグラウンドとの間に、可変直流電流源IHが接続されている。可変直流電流源IHは、切替スイッチSWR,SWLが切替接点b1,b2側(すなわち、可変直流電流源IH側)に切り替えられている場合、ゼロから正電流+Iまでの値の可変の電流を出力し得るものとする。ここで、正電流とは、第2のローレンツ力用電流経路22dに−Z方向(基板11へ向かう方向)の第2のローレンツ力を生じさせる電流をいう。
図8に示すように、切替スイッチSWLの共通接点c2は、−Y側の脚部12cにおいて、パターン22bに接続されている。また、切替スイッチSWLの切替接点a2は電気的に浮いており、切替スイッチSWLの切替接点b2は、グラウンドに接続されている。
したがって、切替スイッチSWR,SWLが切替接点b1,b2側(すなわち、可変直流電流源IH側)に切り替えられている場合、可変直流電流源IHからの電流が第2のローレンツ力用電流経路22dに流れる第2のローレンツ力用電流となる。この切替状態では、可変直流電流源IHから第2のローレンツ力用電流が流れると、パターン22b,22dの電気抵抗により電圧降下が生ずる。しかし、パターン22b,22dの電気抵抗は小さいことから、この第2のローレンツ力用電流によるパターン22b,22dの電圧降下はほぼゼロであるため、可動電極22eには接地電位を基準としたほぼゼロの電位(ほぼ接地電位)が印加されることになる。第2のローレンツ力用電流によるパターン22b,22dの電圧降下は、可変直流電圧源VVによって印加される電位よりも小さくすることができるので、無視して良い。すなわち、切替スイッチSWR,SWLが可変直流電流源IH側に切り替えられている場合は、可動電極22eに印加されている電位は、近似的に、接地電位を基準としたゼロの電位(すなわち、接地電位)であるとして差し支えない。以下の説明では、このような状態では、可動電極22eの電位はゼロであるとする。
一方、切替スイッチSWR,SWLが切替接点a1,a2側(すなわち、可変直流電圧VH側)に切り替えられている場合、第2のローレンツ力用電流経路22dには第2のローレンツ力用電流は流れず、可動電極22eには、接地電位を基準とした可変直流電圧源VHによる電位が印加される。
また、図8に示すように、固定電極41aとグラウンドとの間には、可変直流電圧源VVが接続されている。可変直流電圧源VVは、例えば、接地電位を基準とした正の電位+V(この値の設定例は後述する。)とゼロ電位(接地電位)とを選択的に固定電極41aに印加し得るものとする。
図7(a)は、前記静電力(固定電極41aと可動電極22eとの間の電圧(電位差)による両者間の静電力)並びに前記第1及び第2のローレンツ力が印加されていない状態を示している。また、切替スイッチSWR,SWLを可変直流電流源IH側に切り替えた状態で、ローレンツ力用電流経路22d,22eに互いに同じ大きさのローレンツ力用電流を互いに逆方向に流した場合にも、両者に生ずる第1及び第2のローレンツ力がほぼ同じで逆向きとなり打ち消し合うので、ほぼ図7(a)に示す状態となる。換言すれば、図7(a)に示す状態において、ローレンツ力用電流経路22d,22eに互いに同じ大きさのローレンツ力用電流を互いに逆方向に流せば、図7(a)に示す状態を維持することができる。なお、図7(a)に示す状態において、固定電極41aと可動電極22eとの間の電圧がV又は2Vとなっても、固定電極41aと可動電極22eとの間の距離が十分に長く、両者の間に作用する静電力は十分に小さくて、ほぼ図7(a)に示す状態が保持される。
切替スイッチSWR,SWLの切替状態、並びに、可変直流電圧源VV,VH及び可変直流電流源IV,IHの出力とによって当該光スイッチに供給される電流及び電圧が、当該光スイッチに対する制御信号である。図7に示す各状態に保持するのに必要な制御信号の例は、以下の説明から理解される。
図7(a)に示す状態では、可動板12における支持板12bの脚部12dに近い領域がなす板ばね部のバネ力によって、+Z方向に湾曲した状態に復帰し、可動部が固定部から離れてミラー31が上側位置に保持される。これにより、ミラー31が光路Kに進出して当該光路Kに入射した光を反射させ、反射状態となる。
図7(b)に示す状態は、例えば、前記静電力を印加しない状態で、可変直流電流源IV,IHのいずれか一方のみにて、ローレンツ力用電流経路22c,22dのいずれか一方のみに所定の大きさの正電流を流して下向きのローレンツ力を発生させた場合(勿論、電流の設定はこれ以外にも無数にある。)に、保たれる状態である。この状態では、可動部が固定部と当接せずに固定部からスペースを残して離れた位置(下側中間位置)で、下向きのローレンツ力と可動板12の前記バネ力とが釣り合って静止し、可動板12及びミラー31がこの下側中間位置に保持される。前記スペースは、可動板12の可動電極22eと固定部の固定電極41aとの間に十分な静電力が発生できる距離に設定されている。この状態では、ミラー31が光路Kから退出して、光路Kに入射した光がミラー31で反射されずにそのまま通過し、非反射状態となる。
図7(b)に示す状態において、可変直流電圧源VH及び/又は可変直流電圧源VVによって、可動板12の可動電極22eと固定部の固定電極41aとの間に所定電圧を印加して十分な静電力を印加すると、その静電力によって、可動板12及びミラー31が更に下方へ移動していき、図7(c)に示すように、可動板12が固定部に当接する下側位置で静止する。
図7(b)に示す状態から図7(c)に示す状態への移行は、具体的には、例えば、可変直流電流源IVにより所定の大きさの正の第1のローレンツ力用電流が流されており、切替スイッチSWR,SWLが可変直流電圧源VH側に切り替えられている場合は、可動電極22eに所定値以上の絶対値を持つ負の電位を印加しかつ固定電極41aにゼロ電位(接地電位)を印加するか、可動電極22eにゼロ電位(接地電位)を印加しかつ固定電極41aに所定値以上の絶対値を持つ正の電位を印加するか、あるいは、可動電極22eに所定値以上の絶対値を持つ負の電位を印加しかつ固定電極41aに所定値以上の絶対値を持つ正の電位を印加することで、達成される。また、図7(b)に示す状態から図7(c)に示す状態への移行は、可変直流電流源IVからの電流が流れておらず、切替スイッチSWR,SWLが可変直流電流源IH側に切り替えられ、可変直流電流源IHから第2のローレンツ力用電流経路22dに第2のローレンツ力用電流が流されている場合は、前述したように可動電極22eの電位がゼロ電位(接地電位)であるので、可変直流電圧源VVによって固定電極41aに所定値以上の絶対値を持つ負の電位を印加することで、達成される。
図7(b)に示す状態から図7(c)に示す状態へ移行した後、それまで流していた第1又は第2のローレンツ力用電流をゼロにして、第1又は第2のローレンツ力の印加を停止する。そのローレンツ力の印加が停止されても、前記静電力が印加されているので、前記静電力によって、可動板12及びミラー31が図7(c)に示す下側位置に保持され続ける。
図7(c)に示す状態においても、前記図7(b)に示す状態と同様に、ミラー31が光路Kから退出しており、非反射状態となっている。
なお、図7(c)に示す状態は、流される電流の大きさや電位の大きさが変動しても、ある一定の条件で維持することができる。
第1及び第2のローレンツ力用電流経路22c,22dにそれぞれ第1及び第2のローレンツ力用電流が流れていない場合は、可動電極22eに所定値以上の絶対値を持つ負の電位を印加しかつ固定電極41aにゼロ電位(接地電位)を印加するか、可動電極22eにゼロ電位(接地電位)を印加しかつ固定電極41aに所定値以上の絶対値を持つ正の電位を印加するか、あるいは、可動電極22eに所定値以上の絶対値を持つ負の電位を印加しかつ固定電極41aに所定値以上の絶対値を持つ正の電位を印加することで、図7(c)に示す状態を維持することができる。
次に、第1のローレンツ力用電流経路22cに負の第1のローレンツ力用電流が流され、第2のローレンツ力用電流経路22dには第2のローレンツ力用電流が流れていない場合について、説明する。ここで、図7(a)に示す位置から図7(b)に示す位置へ可動板12を引き下げるときに必要な大きさの正電流を+Iと、これと大きさは同じで流れる方向が逆の負電流を−Iと定義する。この負電流−Iは、可動板12を基板11から遠ざける方向(+Z方向)のローレンツ力を生じさせる。後述する動作例では、この正電流−Iが印加された状態で、図7(c)に示す状態を保つ必要がある。これを達成するのに必要な固定電極41aと可動電極22eとの間の電位差の大きさは、原理的に設定することが可能である。すなわち、この電位差の大きさの下限よりも(実用上の都合による要請で)わずかに大きい電位差に当たる電圧Vを定義し、負であれば−V、正であれば+Vとしておく。可動電極22eに電位−Vを印加するとともに固定電極41aにゼロ電位を印加するか、可動電極22eにゼロ電位を印加するとともに固定電極41aに電位+Vを印加するか、あるいは、可動電極22eに電位−Vを印加するとともに固定電極41aに電位+Vを印加すれば、第1のローレンツ力用電流経路22cに負電流−Iが流されても、図7(c)に示す状態を維持することができる。
図7(c)に示す状態において、第1及び第2のローレンツ力用電流経路22c,22dに電流を流さないで固定電極41aの電位及び可動電極22eの電位を共にゼロ電位として、前記第1及び第2のローレンツ力並びに前記静電力の印加を停止すると、図7(a)に示す状態に戻る。一方、図7(c)に示す状態において、第1及び第2のローレンツ力用電流経路22c,22dの一方に正電流+Iを流すと、図7(b)に示す状態となる。
なお、ここでは、直流電圧源VH,VVを用いた駆動方法について説明したが、交流電圧による駆動も可能である。それについては、前記特許文献3に開示されている手法と同様な手法が適用可能である。
1つの光スイッチに着目すると、本実施の形態では、可動板12が図7(c)に示す下側位置に所定時間以上継続して位置しないように、図7(c)に示す下側位置から、図7(b)に示す下側中間位置に位置した後に、図7(c)に示す下側位置に戻る動作(「当接継続中止動作」と呼ぶ。)を行うように、当該光スイッチのマイクロアクチュエータが制御される。この制御を実現するためには、例えば、非反射状態を長時間に渡って維持し続ける間は、可動板12が図7(b)に示す下側中間位置及び図7(c)に示す下側位置に交互に位置するように、当該光スイッチのマイクロアクチュエータを制御すればよい。そのために必要な具体的な制御信号は、先の説明から理解できる。
このように、本実施の形態では、非反射状態を長時間に渡って維持し続ける場合であっても、ミラー31及び可動板12が図7(c)に示す下側位置に位置する継続期間を短くすることができるので、可動板12が固定部に貼り付き難くなり、図7(c)に示す位置から図7(a)に示す位置に戻る際に、可動部が固定部から離れ易くなって作動不良や動作遅延を招き難くなる。
ところで、可動板12と固定部との貼り付きを防止するだけであるなら、非反射状態を長時間に渡って維持し続ける間においても、静電力用電圧(固定電極41aと可動電極22eとの間の電圧)を常時ゼロにするとともに第1又は第2のローレンツ力用電流を常時+Iにして、常時図7(b)に示す下側中間位置に維持するだけでもよい。しかし、このように長時間に渡る期間において第1又は第2のローレンツ力用電流を+Iに維持すると、消費電力が著しく増大してしまう。これに対し、本実施の形態では、非反射状態を維持する期間は、図7(b)に示す下側中間位置と図7(c)に示す下側位置を交互に繰り返すので、図7(b)に示す下側中間位置は必要最小限の時間に留めることができることから、消費電力を大幅に低減することができる。
図9は、本実施の形態による光スイッチシステムの光スイッチアレー1及び外部制御回路6を示す電気回路図である。ただし、図9では、外部制御回路6については、その一部の構成要素のみを模式的に示している。図9において、光スイッチアレー1の外側に配置されている要素が、外部制御回路6の構成要素である。
図3乃至図6に示す単一の光スイッチは、電気回路的には、1個のコンデンサ(固定電極41aと可動電極22eとがなすコンデンサに相当)と、1個の第1のコイル(第1のローレンツ力用電流経路22cに相当)と、1個の第2のコイル(第2のローレンツ力用電流経路22dに相当)と見なせる。図9では、m行n列目の光スイッチのコンデンサ、第1のコイル及び第2のコイルをそれぞれCmn、LAmn,LBmnと表記している。例えば、図9中の左上の(1行1列目の)光スイッチのコンデンサ、第1のコイル及び第2のコイルをそれぞれC11,LA11,LB11と表記している。図9では、説明を簡単にするため、既に説明したように、9個の光スイッチを3行3列に配置している。もっとも、光スイッチの数は何ら限定されるものではなく、例えば100行100列の光スイッチを有する場合も、原理は同一である。
光スイッチアレー1では、制御線の本数を減らすために、図9に示すように、行毎及び列毎の共通配線を施している。
光スイッチアレー1には、図9に示すように、端子EBL1〜EBL3、端子EBR1〜EBR3、端子S0〜S3及び端子EA1〜EA3が設けられている。これらの端子は、外部制御回路6に接続するための外部接続用の端子である。本実施の形態では、前述した配線パターン42aなどによって、図9に示す電気的な接続が実現されている。前記各端子は、例えば、配線パターンの一部を電極パッドとすることにより構成することができる。
1列目のコンデンサC11,C21,C31の固定電極41aは、端子S1に共通して電気的に接続されている。2列目のコンデンサC12,C22,C32の固定電極41aは、端子S2に共通して電気的に接続されている。3列目のコンデンサC13,C23,C33の固定電極41aは、端子S3に共通して電気的に接続されている。このように、本実施の形態では、各列毎に、当該列のマイクロアクチュエータの固定電極41aが電気的に共通して接続されている。
1行目の第2のコイルLB11,LB12,LB13が直列に接続され、その一端が端子EBL1に他端が端子EBR1にそれぞれ接続されている。2行目の第2のコイルLB21,LB22,LB23が直列に接続され、その一端が端子EBL2に他端が端子EBR2にそれぞれ接続されている。3行目の第2のコイルLB31,LB32,LB33が直列に接続され、その一端が端子EBL3に他端が端子EBR3にそれぞれ接続されている。各コンデンサCmnの可動電極22eは、同じマイクロアクチュエータの第2のコイルLBmnの図9中の左端に接続されている。
1行目の第2のコイルLB11,LB12,LB13は、端子EBR1,EBL1間に電流を流したときにこれらの第2のコイルLB11,LB12,LB13に発生するローレンツ力の向きが同一になるように、電流の向きをそろえて接続されている。この点は、2行目の第2のコイルLB21,LB22,LB23及び3行目の第2のコイルLB31,LB32,LB33についても、同様である。本実施の形態では、電流を端子EBR1〜EBR3から端子EBL1〜EBL3にそれぞれ向かう方向に流したときに(この方向の電流が正電流である。)、マイクロアクチュエータの第2のローレンツ力用電流経路22dに第2のローレンツ力が下向きに働くように設定されている。
本実施の形態では、このようにして、行毎に、第2のコイルLBmnに対する制御信号としての電流が同時に供給されるように配線されている。
1列目の第1のコイルLA11,LA21,LA31が直列に接続され、その一端が端子EA1に他端が端子S0にそれぞれ接続されている。2列目のコイルLA12,LA22,LA32が直列に接続され、その一端が端子EA2に他端が端子S0にそれぞれ接続されている。3列目のコイルLA13,LA23,LA33が直列に接続され、その一端が端子EA3に他端が端子S0にそれぞれ接続されている。
1列目の第1のコイルLA11,LA21,LA31は、端子EA1,S0間に電流を流したときにこれらの第1のコイルLA11,LA21,LA31に発生するローレンツ力の向きが同一になるように、電流の向きをそろえて接続されている。この点は、2列目の第1のコイルLA12,LA22,LA32及び3列目の第1のコイルLA13,LA23,LA33についても、同様である。本実施の形態では、電流を端子EA1,EA2,EA3から端子S0に向かう方向に流したときに(この方向の電流が正電流である。)、マイクロアクチュエータの第1のローレンツ力用電流経路22cにローレンツ力が下向きに働くように設定されている。
本実施の形態では、このようにして、列毎に、第1のコイルLAmnに対する制御信号としての電流が同時に供給されるように配線されている。
なお、本実施の形態で用いられている光スイッチアレー1には、図9に示すように、アドレス回路や列選択スイッチや行選択スイッチ等は搭載されていない。
本実施の形態で用いられている光スイッチアレー1は、例えば、膜の形成及びパターニング、エッチング、犠牲層の形成・除去などの半導体製造技術を利用して、製造することができる。なお、ミラー31は、例えば、ミラー31に対応する凹所をレジストに形成した後、電解メッキによりミラー31となるべきAu、Niその他の金属を成長させ、その後に前記レジストを除去することで、形成することができる。
そして、本実施の形態では、図9に示すように、図8中の切替スイッチSWR,SWL、可変直流電圧源VH及び可変直流電流源IHにそれぞれ相当する切替スイッチSWR1,SWL1、可変直流電圧源VH1及び可変直流電流源IH1が、1行目の光スイッチに対して共通して設けられている。切替スイッチSWR1の共通接点が端子EBR1に接続され、切替スイッチSWL1の共通接点が端子EBL1に接続されている。符号H1は、切替スイッチSWR1,SWL1、可変直流電圧源VH1及び可変直流電流源IH1が全体として構成している電流・電位切替供給部を示している。
同様に、図8中の切替スイッチSWR,SWL、可変直流電圧源VH及び可変直流電流源IHにそれぞれ相当する切替スイッチSWR2,SWL2、可変直流電圧源VH2及び可変直流電流源IH2が、2行目の光スイッチに対して共通して設けられている。切替スイッチSWR2の共通接点が端子EBR2に接続され、切替スイッチSWL2の共通接点が端子EBL2に接続されている。符号H2は、切替スイッチSWR2,SWL2、可変直流電圧源VH2及び可変直流電流源IH2が全体として構成している電流・電位切替供給部を示している。
同様に、図8中の切替スイッチSWR,SWL、可変直流電圧源VH及び可変直流電流源IHにそれぞれ相当する切替スイッチSWR3,SWL3、可変直流電圧源VH3及び可変直流電流源IH3が、3行目の光スイッチに対して共通して設けられている。切替スイッチSWR3の共通接点が端子EBR3に接続され、切替スイッチSWL3の共通接点が端子EBL3に接続されている。符号H3は、切替スイッチSWR3,SWL3、可変直流電圧源VH3及び可変直流電流源IH3が全体として構成している電流・電位切替供給部を示している。
図9に示すように、図8中の可変直流電圧源VV及び可変直流電流源IVにそれぞれ相当する可変直流電圧源VV1及び可変直流電流源IV1が、1列目の光スイッチに対して共通して設けられている。同様に、図8中の可変直流電圧源VV及び可変直流電流源IVにそれぞれ相当する可変直流電圧源VV2及び可変直流電流源IV2が、2列目の光スイッチに対して共通して設けられている。同様に、図8中の可変直流電圧源VV及び可変直流電流源IVにそれぞれ相当する可変直流電圧源VV3及び可変直流電流源IV3が、3列目の光スイッチに対して共通して設けられている。端子S0は、外部制御回路6において接地されている。
本実施の形態では、外部制御回路6は、前述した要素等によって、端子EBL1〜EBL3に流れる電流及び端子EBL1〜EBL3に印加される電位、端子EA1〜EA3に流れる電流、及び、端子S1〜S3に印加される電位を制御することで、光スイッチアレー1の各光スイッチの光路切替状態を制御するとともに、前述した当接継続中止動作を実現する。外部制御回路6は、光路切替状態指令信号に応答して当該光路切替状態指令信号が示す光路切替状態を実現するための制御信号を、端子EBL1〜EBL3に流れる電流及び端子EBL1〜EBL3に印加される電位、端子EA1〜EA3に流れる電流、及び、端子S1〜S3に印加される電位として供給し、その光路切替状態を実現するとともに、前述した当接継続中止動作を実現する。なお、外部制御回路6の具体的な回路構成自体は、以下に説明する動作例から明らかである。
次に、本実施の形態による光スイッチシステムの動作例について、説明する。なお、以下の説明では、m行n列目の光スイッチのミラー31をMmnとする。例えば、図9中の左上の(1行1列目の)光スイッチのミラー31は、ミラーM11と表記する。また、以下の説明では、図7(a)に示す位置を「(a)位置」、図7(b)に示す位置を「(b)位置」、図7(c)に示す位置を「(c)位置」とそれぞれ呼ぶ。
図10は、外部制御回路6の可変直流電圧源VV1〜VV3、可変直流電流源IV1〜IV3及び電流・電位切替供給部H1〜H3がそれぞれ対応する端子に供給する電位及び電流のタイミングチャートの一例を示すものである。
電源を入れた初期状態である時刻t1では、全てのミラーMmnは、(a)位置にある。次に、時刻t2において、可変直流電圧源VV1〜VV3から電位+Vを供給し、電流・電位切替供給部H1〜H3は可変直流電圧源VH1〜VH3側に切り替えて電位−Vを供給する。
次いで、時刻t3で、可変直流電流源IV1〜IV3からそれぞれ正電流+Iを供給する。このとき、全てのミラーMmnは(c)位置へ移動する。引き続いて、時刻t4で、IV1〜IV3の電流をゼロに戻す。このとき、可動電極22eと固定電極41aとの間には静電力が働いているので、全てのミラーMmnは(c)位置に位置した状態を保つ。なお、時刻t4の後のように、可変直流電圧源VV1〜VV3により電位+Vが印加され、電流・電位切替供給部H1〜H3により電位−Vが印加され、かつ、可変直流電流源IV1〜IV3の電流がゼロである状態が、本実施の形態による光スイッチシステムの定常状態であり、一連の動作(一連の光路切替動作や一連の当接継続中止動作)は、この状態で一旦終了し、次の動作に進むのが通例となる。
次に、全てのミラーMmnが(c)位置にある状態から、各行(及び各列)のミラーのうち1つだけ(a)位置へ移動させる手順について説明する。時刻t6で、可変直流電圧源VV1により印加されている電位と電流・電位切替供給部H1に印加されている電位をゼロにする。すると、ミラーM11における可動電極22eと固定電極41aとの間の静電力はなくなり、可動板12の板ばね部のバネ力により、可動板12は上方向へ移動し、ミラーM11は(a)位置となる。時刻t7で、再び、可変直流電圧源VV1により電位+Vが印加されるとともに電流・電位切替供給部H1により電位−Vが印加される。このとき、ミラーM11は(a)位置であるので、ミラーM11は移動しない。次に、時刻t8〜t11は、時刻t6〜t8と同様で、ミラーM22とミラーM33に対するリリース動作(ミラーを(c)位置から(a)位置に移動させる動作)を行う。これら一連の動作で、ミラーM11,M22,M33が(a)位置となって反射状態となり、他のミラーは(c)位置を保って非反射状態を保つ。
次に、図11を用いて、ミラーの入れ替え動作、すなわち光路切替動作について説明する。ここでは、時刻t21では、図10中の時刻t11以降と同じ状態(すなわち、ミラーM11,M22,M33が(a)位置にあるとともに他のミラーが(c)位置にある定常状態)であるものとする。時刻t22で、可変直流電流源IV1から正電流+Iを流す。これにより、1列目で(a)位置にある可動板12の全ては(c)位置へ移動する。結局、(a)位置にあるミラーはミラーM11だけなので、ミラーM11のみが(c)位置へ移動する。その後、時刻t23で、可変直流電流源IV1の電流をゼロにする。次に、時刻t24で、可変直流電流源IV2から正電流+Iを流す。これにより、2列目で(a)位置にある可動板12の全ては(c)位置へ移動する。結局、(a)位置にあるM22のみが(c)位置へ移動する。その後、時刻t25で、可変直流電流源IV2の電流をゼロにする。次に、時刻t26でミラーM12を(c)位置から(a)位置へ移動するが、この手順は、図10の時刻t8と同じである。また、時刻t27の手順も図10の時刻t9と同じである。最後に、時刻t28で、ミラーM21を(c)位置から(a)位置へ移動して、入れ替えが終了する。その後、時刻t29で定常状態に戻す。
以上の図10及び図11を参照した動作説明から、本実施の形態による光スイッチシステムは、光路切替状態指令信号に応答して当該光路切替状態指令信号が示す任意の光路切替状態を実現できることが、わかる。
次に、図12を用いて、当接継続中止動作について説明する。ここでは、時刻t41では、図10中の時刻t11以降と同じ状態(すなわち、ミラーM11,M22,M33が(a)位置にあるとともに他のミラーが(c)位置にある定常状態)であるものとする。ここでは、この状態から、ミラーM21の当接継続中止動作を行う例を説明する。
まず、時刻t42で、可変直流電圧源VV1により印加されている電位をゼロにする。次に、時刻t43で、電流・電位切替供給部H1を可変直流電流源IH1側に切り替える。このとき、ミラーM11の光スイッチの可動電極22eと固定電極41aとの間の電圧はゼロになるが、ミラーM11はそもそも(a)位置にあるので、その位置は変わらない。また、ミラーM12,M13の光スイッチの可動電極22eと固定電極41aとの間の電圧はV(=+V−0)であるので、それによる静電力によって、ミラーM12,M13の位置は(c)位置のまま変わらない。
次いで、時刻t44から電流・電位切替供給部H1の可変直流電流源IV1の電流を徐々に変化させて、時刻t45で正電流+Iまでもっていく。これと同時に、可変直流電流源IV1の電流の時間変化と大きさがほぼ同じになるようにして、時刻t45で負電流−Iまで変化させる。この過程で、ミラーM11は(a)位置にあるので、本来は電流が与えられると位置が変化するはずであるが、可変直流電流源IV1と電流・電位切替供給部H1とでちょうど打ち消し合うように電流を印加しているので、両者のローレンツ力が相殺されるため、結局、ミラーM11は(a)位置を維持したまま、流れる電流量だけが変化していく。なお、ミラーM12,M13,M21,M31は、(c)位置にいるので、この過程で流れる電流は変化するが、位置変化は伴わない。すなわち、ミラーM12,M13の光スイッチの可動板12は、電流・電位切替供給部H1からの正電流により上方向のローレンツ力を受けるが、それらの光スイッチの可動電極22eと固定電極41aとの間の電圧はV(=+V−0)であるので、それによる静電力によって、ミラーM12,M13の位置は(c)位置のまま変わらない。また、ミラーM21,M31の光スイッチの可動板12は、可変直流電流源IV1からの負電流により下方向のローレンツ力を受けるので、ミラーM21,M31の位置は(c)位置のまま変わらない。
次に、時刻t45で、電流・電位切替供給部H2の電位をゼロにする。このとき、ミラーM21の光スイッチには、可変直流電流源IV1からの正電流+Iが流れ、その光スイッチの可動電極22eと固定電極41aとの間の電圧はゼロであるので、図7に関連した既に説明したように、ミラーM21は(b)位置となる。このとき、ミラーM21の固定部と可動板12との間には所定のスペースが空くので、長時間可動板12が固定部に当接されていることによる貼り付きが防止される。なお、電流・電位切替供給部H2の電位をゼロにしても、ミラーM22の位置は(a)位置のまま変わらず、ミラーM23は(c)位置のまま変わらない。その理由は、ミラーM22の場合、ミラーM22の光スイッチの可動電極22eと固定電極41aとの間に電圧Vが印加されているが、ミラーM22は(a)位置にいるため、両電極間の距離が十分に長いのでほとんど静電力が生じないとともに、その光スイッチには第1及び第2のローレンツ力用電流が両方とも流れておらずローレンツ力がかかっていないからである。また、ミラーM23の場合、その光スイッチには第1及び第2のローレンツ力用電流が両方とも流れておらずローレンツ力がかかっていない上に、ミラーM23は(c)位置にいて、ミラーM22の光スイッチの可動電極22eと固定電極41aとの間に電圧Vが印加されており、両者の間に十分大きな静電力が作用しているからである。
次に、時刻t46で、電流・電位切替供給部H2の電位を再び−Vにする。これにより、ミラーM21は再び(c)位置へ戻る。時刻t47,t48,t49は、時刻t42,t43,t44とちょうど逆の動作を行い、本システムの定常状態に復帰して一連の動作を終了する。
以上の図12を参照した当接継続中止動作の説明から、任意の光路切替状態における定常状態において(c)位置に位置する任意のミラーについて、他のミラーの位置を変更することなしに、当接継続中止動作を行うことができることが、わかる。
本実施の形態では、外部制御回路6の制御下で、各光スイッチの当接継続中止動作は、各光スイッチの(c)位置の状態が所定時間以上継続しないように、予め定めた適当タイミングで行われるようになっている。
本実施の形態によれば、このように前記当接継続中止動作が行われるので、ミラー31及び可動板12が図7(c)に示す下側位置に位置する継続期間を短くすることができる。よって、可動板12が固定部に貼り付き難くなり、図7(c)に示す位置から図7(a)に示す位置に戻る際に、可動板12が固定部から離れ易くなって作動不良や動作遅延を招き難くなる。また、本実施の形態によれば、前述したように、非反射状態を維持する期間は、図7(b)に示す下側中間位置と図7(c)に示す下側位置を交互に繰り返すことで、図7(b)に示す下側中間位置は必要最小限の時間に留めることができることから、消費電力を大幅に低減することができる。
さらに、本実施の形態によれば、前述した図9に示すように行毎及び列毎の共通配線を施しているので、アドレス回路等を搭載することなく外部に引き出す配線の本数を減らすことができる。そして、このように共通配線を施しているにも拘わらず、可動板12には静電力以外の駆動力発生する2つの駆動力発生部として2つのローレンツ力用電流経路22c,22dが設けられているため、あるミラー31の当接継続中止動作に際し、他のミラーの位置を変更するようなことがなくなり、適切な光路切替状態を維持することができる。
[第2の実施の形態]
図13は、本発明の第2の実施の形態による光スイッチシステムで用いられている光スイッチアレー101の1つの光スイッチの可動板12を上から見たときのAl膜22のパターン形状を示す図であり、図5に対応している。図13において、図5中の要素と同一又は対応する要素には同一符号を付し、その重複する説明は省略する。
図14は、本実施の形態による光スイッチシステムの光スイッチアレー101及び外部制御回路106を示す電気回路図であり、図9に対応している。図14において、図9中の要素と同一又は対応する要素には同一符号を付し、その重複する説明は省略する。
本実施の形態が前記第1の実施の形態と異なる所は、以下に説明する点のみである。
前記第1の実施の形態では、各光スイッチにおいて、パターン22bがローレンツ力用電流経路22cの配線として用いられるのみならず可動電極22eの配線としても用いられているのに対し、本実施の形態では、図13に示すように、各光スイッチにおいて、パターン22bはローレンツ力用電流経路22cの配線としてのみ用いられ、可動電極22eの配線としてパターン22fが追加されている。パターン22fもAl膜22のうちのパターンである。これに伴い、本実施の形態では、パターン22eを基板11側へ接続するための脚部12eが追加されている。
また、本実施の形態では、ローレンツ力用電流経路22cの配線と可動電極22eの配線とを分けたことに伴い、図14に示すように、光スイッチアレー101における配線や外部制御回路106の構成も、変更されている。
光スイッチアレー101において、図14に示すように、図9中の端子EBL1〜EBL3が除去され、第2のコイルLB11,LB21,LB31の図中左端が端子S0に接続されている。また、光スイッチアレー101において、図14に示すように、図9中の端子EBR1〜EBR3に代えて、端子EBV1〜EBV3及び端子EBI1〜EBI3が設けられている。各コンデンサCmnの可動電極22eは、同じマイクロアクチュエータの第2のコイルLBmnに接続されていない。
1行目のコンデンサC11,C12,C13は、端子EBV1に共通して電気的に接続されている。2行目のコンデンサC21,C22,C23は、端子EBV2に共通して電気的に接続されている。3行目のコンデンサC31,C32,C33は、端子EBV3に共通して電気的に接続されている。
コイルLB13の図14中の右端は端子EBI1に電気的に接続され、コイルLB23の図14中の右端は端子EBI2に電気的に接続され、コイルLB33の図14中の右端は端子EBI3に電気的に接続されている。
外部制御回路106において、図9中の切替スイッチSWR1〜SWR3,SWL1〜SWL3が除去されている。可変直流電圧源VH1〜VH3の一端が端子EBV1〜EBV3にそれぞれ接続されている。可変直流電流源IH1〜IH3の一端が端子EBI1〜EBI3にそれぞれ接続されている。
本実施の形態によっても、前記第1の実施の形態に関して図10乃至図12を参照して説明した動作と実質的に同一の動作が可能である。よって、本実施の形態によっても、前記第1の実施の形態と同様の利点が得られる。
以上、本発明の各実施の形態について説明したが、本発明はこれらの実施の形態に限定されるものではない。
例えば、前述した各実施の形態は、複数の光スイッチを2次元状に配置した光スイッチアレーを用いた光スイッチシステムの例であったが、本発明は1つの光スイッチのみを用いた光スイッチシステムであってもよい。この場合、光スイッチのマイクロアクチュエータの動作を制御する制御部は、図7及び図8を参照して説明したような動作を行うように制御するように構成すればよい。
また、前記実施の形態は本発明によるマイクロアクチュエータ装置を光スイッチシステムに適用した例であったが、その用途に限定されるものではない。
さらに、前記実施の形態では、静電力以外の駆動力として2つの駆動力として2つのローレンツ力が用いられていたが、本発明は、これに限定されるものではなく、静電力以外の駆動力として2つの駆動力として種々の駆動力を用いることができる。例えば、ローレンツ力で駆動する代わりに、圧電素子を用いて駆動してもよい。