以下、本発明を適用した画像形成装置として、電子写真方式のカラーレーザープリンタ(以下、単にプリンタという)の実施形態について説明する前に、本発明を理解する上で参考になる参考形態に係るプリンタについて説明する。
まず、第1参考施形態に係るプリンタの基本的な構成について説明する。図1は、第1参考形態に係るプリンタの要部を示す概略構成図である。このプリンタは、イエロー,マゼンダ,シアン,ブラック(以下、Y,M,C,Kと記す)の各色のトナー像を形成するための4つのプロセスユニット1Y,M,C,Kを備えている。また、光書込ユニット50、レジストローラ対54、転写ユニット60等も備えている。各符号の末尾に付された添字Y,M,C,Kは、それぞれイエロー,マゼンダ,シアン,ブラック用の部材であることを示す。
潜像形成手段たる光書込ユニット50は、Y,M,C,Kの各色に対応する図示しないレーザーダイオードからなる4つの光源、正六面体のポリゴンミラー、これを回転駆動するためのポリゴンモータ、fθレンズ、レンズ、反射ミラー等を有している。レーザーダイオードから射出されたレーザー光Lは、ポリゴンミラーの何れか1つの面で反射してポリゴンミラーの回転に伴って偏向せしめられながら、後述する4つの感光体のうちの何れかに到達する。4つのレーザーダイオードからそれぞれ射出されるレーザー光Lにより、4つの感光体の表面がそれぞれ光走査される。
プロセスユニット1Y,M,C,Kは、潜像担持体としてのドラム状の感光体3Y,M,C,K、これらにそれぞれ個別に対応する現像装置40Y,M,C,Kなどを有している。感光体3Y,M,C,Kは、図示しない駆動手段によって所定の線速で図中時計回り方向に回転駆動せしめられる。そして、図示しないパーソナルコンピュータ等から送られてくる画像情報に基づいて変調されたレーザー光Lを発する光書込ユニット50により、暗中にて光走査されて、Y,M,C,K用の静電潜像を担持する。
図2は、4つのプロセスユニット1Y,M,C,Kのうち、Y用のプロセスユニット1Yを転写ユニット(図1の60)の中間転写ベルト61とともに示す拡大構成図である。同図において、Y用のプロセスユニット1Yは、感光体3Y、帯電ブラシローラ4Y、図示しない除電ランプ、現像手段たる現像装置40Y等を、1つのユニットとして共通のユニットケーシング(保持体)に保持させて、プリンタ本体に対して着脱可能にしたものである。
被帯電体であり且つ潜像担持体であるY用の感光体3Yは、アルミニウム素管からなる導電性基体の表面に、負帯電性の有機光光導電物質(OPC)からなる感光層が被覆された直径24[mm]程度のドラムであり、図示しない駆動手段によって所定の線速で図中時計回り方向に回転駆動せしめられる。これにより、感光体3Yの表面は、後述する1次転写ニップ(中間転写ベルト61との当接位置)、クリーニング位置(クリーニングブレード21Yとの当接位置)、帯電前ニップ(帯電前当接シート10Yとの当接位置)、帯電ニップ(帯電ブラシローラ4Yとの当接位置)、光書込位置、現像領域を順次通過する。
帯電部材としての帯電ブラシローラ4Yは、図示しない軸受けによって回転可能に受けられる金属製の回転軸部材5Yと、これの表面に立設せしめられた複数の導電性の植毛繊維6Yとを有している。そして、回転軸部材5Yを中心にして図示しない駆動手段によって図中反時計回り方向に回転駆動されながら、それぞれの植毛繊維6Yの先端側を感光体3Yに摺擦させる。金属製の回転軸部材5Yには、図示しない電源や配線等からなる帯電バイアス供給装置が接続されており、これによって重畳電圧(交流電圧に直流電圧を重畳)からなる帯電バイアスが印加される。帯電ブラシローラ4Yの複数の植毛繊維6Yからなるブラシと、感光体3Yとが当接する帯電ニップやその近傍では、各植毛繊維6Yと感光体3Yとの間に放電が発生して、感光体3Yの表面を例えば負極性に一様帯電せしめる。
後述するクリーニング位置(クリーニングブレード21Yとの当接位置)を通過した後の感光体3Y表面は、帯電ニップで一様帯電せしめられるのに先立って、帯電前当接シート10Yとの当接位置である帯電前ニップに進入する。導電性シートからなる帯電前当接シート10Yは、発泡ポリウレタンなどの弾性材料からなる弾性部材11Yの表面に貼り付けられており、この弾性部材11Yを介して感光体3Yに向けて押圧されている。かかる構成の帯電前当接シート10Yには、図示しない電源や配線等からなる帯電前バイアス供給手段により、トナーの帯電極性と同極性(感光体の帯電極性や帯電バイアスの直流成分の極性に対しても同極性となる)の直流電圧からなる帯電前バイアスが供給される。帯電前ニップに進入した転写残トナー中の逆帯電トナーは、帯電前当接シート10Yと感光体3Yとの間の放電、あるいは帯電前当接シート10Yからの電荷注入により、正規極性であるマイナス極性に十分に帯電せしめられる。また、帯電前ニップに進入した転写残トナー中の低帯電量トナーも、放電あるいは電荷注入によってマイナス極性に十分に帯電せしめられる。これにより、転写残トナー中の逆帯電トナーや低帯電量トナーによる画質劣化が抑えられる。
本プリンタでは、帯電ブラシローラ4Y、これを回転可能に支持する図示しない軸受け、帯電前当接シート10Y、弾性部材11Y等により、感光体3Yの周面を一様帯電せしめる帯電装置が構成されている。
帯電ニップで一様帯電せしめられたY用の感光体3Yの表面には、上述した光書込ユニット(50)による光走査でY用の静電潜像が形成され、この静電潜像はY用の現像装置40YによってYトナー像に現像される。
Y用の現像装置40Yは、ケーシング41Yに設けられた開口から周面の一部を露出させる現像ローラ42Yを有している。この現像ローラ42Yは、その長手方向の両端からそれぞれ突出している軸が図示しない軸受けによってそれぞれ回転自在に支持されている。ケーシング41Yには、Yトナーが内包されており、回転駆動されるアジテータ43Yによって図中右側から左側へと搬送される。アジテータ43Yの図中左側方には、図示しない駆動手段によって図中反時計回り方向に回転駆動されるトナー供給ローラ44Yが配設されている。このトナー供給ローラ44Yのローラ部はスポンジ等の弾性発泡体からなり、アジテータ43Yから送られてくるYトナーを良好に捕捉する。このようにして捕捉されたYトナーは、トナー供給ローラ44Yと現像ローラ42Yとの当接部で現像ローラ42Yに供給される。そして、現像剤担持体たる現像ローラ42Y内の表面に担持されたYトナーは、現像ローラ42Yの図中反時計回り方向の回転駆動に伴って規制ブレード45Yとの接触位置を通過する際にその層厚が規制されたり、摩擦帯電が促されたりした後、感光体3Yと対向する現像領域に搬送される。
この現像領域では、図示しない電源から出力される負極性の現像バイアスが印加される現像ローラ42Yと、感光体3Yの静電潜像との間に、負極性のYトナーを現像ローラ42Y側から潜像側に静電移動させる現像ポテンシャルが作用する。また、現像ローラ42Yと感光体3Yの一様帯電箇所(地肌部)との間に、負極性のYトナーを地肌部側から現像ローラ42Y側に静電移動させる非現像ポテンシャルが作用する。現像ローラ42Y上のYトナーは、現像ポテンシャルの作用によって現像ローラ42Y上から離脱して感光体3Yの静電潜像上に転移する。この転移により、感光体3Y上の静電潜像がYトナー像に現像される。
なお、本プリンタでは、現像剤としてYトナーを主成分とする一成分現像剤を用いる一成分現像方式を現像装置40Yに採用しているが、Yトナーと磁性キャリアとを含有する二成分現像剤を用いる二成分現像方式を採用してもよい。
現像領域で現像されたYトナー像は、感光体3Yの回転に伴って感光体3Yと中間転写ベルト61とが当接するY用の1次転写ニップまで搬送され、ここで中間転写ベルト61上に中間転写される。この1次転写ニップを通過した後の感光体3Y表面には、中間転写ベルト61上に転写されなかった転写残トナーが付着している。この転写残トナーは、クリーニングブレード21Yを感光体3Yに当接させているドラムクリーニング装置20Yによって感光体3Y表面から除去される。そして、ドラムクリーニング装置20Yで回転駆動される回収スクリュウ22Yの回転に伴って図紙面に直交する方向に搬送されながら、ドラムクリーニング装置20Y外に排出される。排出された転写残トナーは、図示しない廃トナーボトル内に収容される。
Y用のプロセスユニット1Yについて説明してきたが、他色用のプロセスユニット1M,C,KはY用のプロセスユニット1Yと同様の構成になっているので説明を省略する。
先に示した図1において、各色のプロセスユニット1Y,M,C,Kの下方には、転写ユニット60が配設されている。この転写ユニット60は、無端状の中間転写ベルト61を、複数の張架ローラによって張架しながら、図中反時計回り方向に無端移動せしめる。複数の張架ローラとは、具体的には、従動ローラ62、駆動ローラ63、4つの1次転写バイアスローラ66Y,M,C,K等のことである。
従動ローラ62、1次転写バイアスローラ66Y〜K、駆動ローラ63は、何れも中間転写ベルト61の裏面(ループ内周面)に接触している。そして、4つの1次転写バイアスローラ66Y,M,C,Kは、金属製の芯金にスポンジ等の弾性体が被覆されたローラであり、それぞれY,M,C,K用の感光体3Y,M,C,Kに向けて押圧されて、中間転写ベルト61を挟み込んでいる。これにより、4つの感光体3Y,M,C,Kと中間転写ベルト61のおもて面とがベルト移動方向において所定の長さで接触するY,M,C,K用の4つの1次転写ニップが形成されている。
4つの1次転写バイアスローラ66Y,M,C,Kの芯金には、それぞれ図示しない転写バイアス電源によって定電流制御される1次転写バイアスが印加されている。これにより、4つの1次転写バイアスローラ66Y,M,C,Kを介して中間転写ベルト61の裏面に転写電荷が付与され、各1次転写ニップにおいて中間転写ベルト61と感光体3Y,M,C,Kとの間に転写電界が形成される。なお、本プリンタにおいては、1次転写手段として1次転写バイアスローラ66Y,M,C,Kを設けているが、ローラに代えて、ブラシやブレード等のものを用いてもよい。また、転写チャージャーなどを用いてもよい。
各色の感光体3Y,M,C,K上に形成されたY,M,C,Kトナー像は、各色の1次転写ニップで中間転写ベルト61上に重ね合わせて1次転写される。これにより、中間転写ベルト61上には4色重ね合わせトナー像(以下、4色トナー像という)が形成される。
中間転写ベルト61における駆動ローラ63に対する掛け回し箇所には、2次転写バイアスローラ67がベルトおもて面側から当接しており、これによって2次転写ニップが形成されている。この2次転写バイアスローラ67には、図示しない電源や配線からなる電圧印加手段によって2次転写バイアスが印加されている。これにより、2次転写バイアスローラ67と接地された2次転写ニップ裏側ローラ64との間に2次転写電界が形成されている。中間転写ベルト61上に形成された4色トナー像は、ベルトの無端移動に伴って2次転写ニップに進入する。
本プリンタは、図示しない給紙カセットを備えており、その中に記録紙Pを複数枚重ねた記録紙束の状態で収容している。そして、一番上の記録紙Pを所定のタイミングで給紙路に送り出す。送り出された記録紙Pは、給紙路の末端に配設されたレジストローラ対54のレジストニップ内に挟み込まれる。
レジストローラ対54は、給紙カセットから送られてきた記録紙Pをレジストニップに挟み込むために両ローラを回転駆動させているが、記録紙Pの先端を挟み込むとすぐに両ローラの回転駆動を停止させる。そして、記録紙Pを中間転写ベルト61上の4色トナー像に同期させ得るタイミングで2次転写ニップに向けて送り出す。2次転写ニップでは、中間転写ベルト61上の4色トナー像が2次転写電界やニップ圧の作用によって記録紙P上に一括2次転写されて、記録紙Pの白色と相まってフルカラー画像となる。
このようにしてフルカラー画像が形成された記録紙Pは、2次転写ニップから排出された後、図示しない定着装置に送られてフルカラー画像が定着せしめられる。
2次転写ニップを通過した後の中間転写ベルト61表面に付着している2次転写残トナーは、ベルトクリーニング装置68によってベルト表面から除去される。
次に、本発明者らが行った実験について詳述する。
[実験1]
本発明者らは、図1に示した第1参考形態に係るプリンタと同様の構成の試験機を用意した。そして、この試験機を用いて、帯電ブラシローラに対する逆帯電トナーの蓄積に起因する黒スジ画像の発生状況を調べる実験を行った。具体的には、まず、K用の帯電ブラシローラに対するKトナーの蓄積速度を速める目的で、K用のプロセスユニット(1K)からドラムクリーニング装置を取り外して、試験機のK用のプロセスユニットをクリーナーレス方式とした。かかる構成では、K用の感光体(3K)上の転写残トナーがクリーニングされることなく、その全量が帯電ニップに進入するようになる。そして、その後にK用の現像装置(40K)の現像ローラに回収される。
トナーとしては、平均粒径が8.5[μm]に調整された粉砕法によるトナーであって、外添剤を添加したものを用いた。
帯電ブラシローラとしては、直径5[mm]の回転軸部材上に導電性の植毛繊維(太さ=2デニール)を20万本植毛してブラシ状に形成した外径(φ)11[mm]のものを使用した。かかる構成の帯電ブラシローラを感光体に当接させて、感光体表面移動方向に2[mm]の長さ(ニップ幅)の帯電ニップを形成した。
帯電ブラシローラに印加する帯電バイアスとしては、ピーク・ツウ・ピーク電圧Vpp1.0[kV]、印字時周波数300[Hz]、非印字時(紙間時)周波数10[Hz]、デューティー45[%]の交流電圧に、−500[V]の直流電圧Vdcを重畳したものを採用した。印字時の300[Hz]を紙間領域で10[Hz]に落とすことで、帯電ブラシローラに捕捉された転写残トナーを感光体に吐き出させることが可能になる。吐き出されたトナーは、上述したように、感光体上から現像ローラ上に回収される。但し、低帯電量トナーは回収され難い。また、周波数を10[Hz]に落としても、逆帯電トナーは帯電ブラシローラから吐き出されないため、帯電ブラシローラ上に徐々に蓄積していく。
感光体上の転写残トナーには1次転写ニップ内で中間転写ベルトからプラス極性の電荷が付与される。そして、試験機においては、このような電荷の付与により、転写残トナーのほぼ半量が正規極性とは逆のプラス極性に帯電している逆帯電トナーになっている。この逆帯電トナーは、帯電ニップに進入すると、帯電ブラシローラ(4K)と感光体(3K)とのうち、よりマイナス側に大きな電位となっている帯電ブラシローラに付着して、そこに蓄積していく。
感光体(3Y,M,C,K)としては、ドラム状の金属芯金に、厚み3[μm]の下引き層、厚み0.2[μm]の電荷発生層、厚み23[μm]の電荷輸送層を順に積層して、静電容量を約110[pF/cm2]にしたものを用いた。連続プリント動作中には、かかる構成の感光体を120[mm/sec]の線速で回転させた。
帯電前当接シートとしては、ポリビニリデンフルオロエチレン(PVDF)に導電材としてのカーボン粉末を分散せしめた体積抵抗105[Ω・cm]、表面抵抗105[Ω/□]の材料からなる厚み約0.1[mm]の導電性シートを用いた。この導電性シートを厚み約3[mm]のモルトプレーン(イノアックコーポレーション社製 SM−55)からなる弾性部材の表面に貼り付けて、これを介して導電性シートを感光体に向けて押圧した。この弾性部材には、シート接着面に微妙な凹凸を設けているため、帯電前当接シートにはその凹凸にならった図3のような凹凸が発生している。同図において、K用の感光体3Kは、図中矢印方向に回転する。弾性部材11Yの表面に貼り付けられた帯電前当接シート10Kは、第1箇所Pa1と、第2箇所Pa2と、第3箇所Pa3とを有している。そして、凸部である第1箇所Pa1、第3箇所Pa3は、感光体3Kに向けての突出量が互いに同じになっている。同図では、便宜上、帯電前当接シート10Kと感光体3Kとを非接触で示しているが、実際には、帯電前当接シート10Kにおける少なくとも第1箇所Pa1及び第3箇所Pa2を感光体3Kにそれぞれ所定の圧力で当接させている。これに対し、凹部である第2箇所Pa2は、感光体表面移動方向(矢印方向)において第1箇所Pa1と第3箇所Pa3との間に介在しており、第1箇所Pa1や第3箇所Pa3よりも弱い圧力で感光体3Kに当接しているか、あるいは感光体3Kに対して非接触で対向している。なお、図中における△1は、凸部である第1箇所Pa1や第3箇所Pa3の頂点と、凹部である第2箇所Pa2の底点との高低差を示している。
この帯電前当接シート10Kと、感光体3Kとの間におけるパッシェンの法則による放電開始電位差は±610[V]になっている。かかる構成において、1次転写ニップで中間転写ベルトから若干のプラス電荷が供給された感光体3Kの表面には、約0〜−100[V]程度の電位が残留している。よって、帯電前当接シート10Kに供給する帯電前バイアスの値を、−710[V]以上(−710Vかあるいはこれよりもマイナス側に大きな値)にするか、あるいは+610[V]以上にすれば、帯電前当接シート10Kと感光体3Kとの間に放電を発生させることが可能である。但し、本プリンタでは、トナーとして正規極性がマイナス極性であるものを用いており、転写残トナーをマイナス極性に帯電せしめるためにマイナス極性の帯電前バイアスを採用する必要がある。よって、帯電前バイアスの値を、−710[V]以上にすることで、帯電前当接シート10Kと感光体3Kとの間で放電を発生させることができるが、実験では−500[V]にして、放電ではなく、電荷注入によって転写残トナーにマイナス極性(正規極性)の電荷を付与するようにした。
以上の試験機により、モノクロのツー・バイ・ツーのハーフチャート(ハーフトーン階調画像)を4000枚のA4用紙に5[%]の画像面積率で連続プリントした。そして、4000枚目のハーフチャートを拡大観察して、黒スジムラの発生度合いを評価した。具体的には、クリーナーレス方式になっているK用のプロセスユニット内において、帯電前当接シートへのKトナーの固着に起因して帯電ブラシローラにK逆帯電トナーが蓄積していくと、上述のハーフチャートに黒スジムラが発生することがわかっている。そこで、4000枚目のハーフチャートにおける黒スジムラの有無を確認し、無しを○、少しあるが問題ないレベルを△、問題あるレベル×と評価した。△又は○であれば、従来の帯電前当接シートよりも格段に耐トナー固着性が向上していると言える。
表1におけるトナーワックス強度比とは、特開2004−246345号公報に記載されているように、母材樹脂、着色剤、及び潤滑剤たるワックスを含有するトナーにおいて、全反射吸収赤外分光法によるワックスのピーク強度を母材樹脂のピーク強度で除算した値である。このトナーワックス強度比が0.40以上になると、ワックスが帯電前当接シートに対するトナーの固着を急激に助長し始めることが、本発明者らの実験によって確かめられている。
また、表1における最大圧縮量とは、帯電前当接シート10Kにおいて感光体3Kに向けて突出している第1箇所Pa1や第3箇所Pa3に対応する弾性部材11K箇所の最大圧縮量を表している。この最大圧縮量については、次のようにして求めた。即ち、厚み3[mm]×幅6[mm]×長さ11[mm]のモルトプレーン(イノアックコーポレーション社製 SM−55)を長さ方向に4つ連結させて被検部材を作成した。そして、平らな台の上に載せた状態のこの被検部材の上におもりを載せてそのときの縮み量を測定した。重さの異なる複数のおもりでその縮み量をそれぞれ測定していき、被検部材に係る圧力と圧縮率との関係を図4のようにグラフ化した。そして、このグラフに基づいて、試験機における弾性部材11Kの最大圧縮量を推定した。また、第1箇所Pa1や第3箇所Pa2における最大当接圧力を推定した。
表1において、実験番号8だけは、他の実験番号とは異なり、弾性部材11Kとしてシート接着面に凹凸を形成していないものを用い、帯電前当接シート10Kにおける感光体3Kとの当接面をフラットにした。すると、表1に示すように、この実験番号8だけ、4000枚目のハーフチャートにおける黒スジムラの発生度合いが許容範囲を超える×となった。このような実験結果になったのは、次に説明する理由からであると考えられる。即ち、まず第1の理由としては、実験番号8で使用したトナーは、ワックス強度比がトナー固着を発生させ易い0.40という値であったことである。但し、ワックス強度比だけみれば、実験番号6も同様の0.40となっている。また、実験番号7では、よりトナー固着を発生させ易い05.0となっている。にもかかわらず、実験番号6や7では、黒スジムラが○あるいは△となっており、許容範囲に留まっている。これは、実験番号6や7では、帯電前当接シート10Kの第2箇所Pa2が有効に働いたためである。具体的には、第1箇所Pa1よりも弱い力で感光体3Kに当接しているか、あるいは感光体3Kに非接触で対向している第2箇所Pa2は、第1箇所Pa1よりも感光体表面移動方向下流側で第1箇所Pa1に隣接していることで、圧力による固着トナーの下流側への成長を第1箇所Pa1との間でほぼくい止めることができる。そして、第2箇所Pa2よりも感光体表面移動方向下流側にある第3箇所Pa3を長期間に渡って転写残トナーに直接接触せしめて電荷を注入することで、画質劣化の発生を長期間に渡って抑えることができたのである。
なお、実験番号3や4において、黒スジムラの評価結果が○よりも劣る△になったのは、次に説明する理由によるものと考えられる。即ち、第1箇所Pa1や第3箇所Pa3と、感光体3Kとの当接圧力を弱めるほど、当接圧力に起因するそれら箇所に対するトナー固着を抑えることができる。しかし、電荷注入方式では、ある程度の圧力で帯電前当接シート10Kを感光体3Kに当接させないと、転写残トナーとシートとの密着不良によって電荷注入が良好に行われなくなる。電荷注入を良好に行うことができる当接圧力の下限値は、0.02[N/mm2]程度であると考えられる。実験番号3や4では、表1に示したように、最大当接圧力が0.02[N/mm2]よりも低い0.005[N/mm2]となっている。このため、第1箇所Pa1に対するトナー固着はそれほど起こっていないものの、転写残トナーと第1箇所Pa1との密着不良による電荷注入不足が発生して、黒スジムラが発生したのである。
また、実験番号1、2、5、6では、最大当接圧力が0.02[N/mm2]以上になっているため、転写残トナーに対する電荷注入が良好に行われる代わりに、第1箇所Pa1に対するトナー固着が発生してしまう。しかし、第3箇所Pa2に対するトナー固着はそれほど起こらなかった。その理由は次に説明する通りである。即ち、本実験では、第1箇所Pa1、第3箇所Pa3の突出量を互いに同じにしているので、トナー固着がなければ、第1箇所Pa1、第3箇所Pa3ともに最大当接圧力によって転写残トナーに電荷を良好に注入することができる。但し、第1箇所Pa1は、感光体表面移動方向の最上流側に位置しており、転写残トナーの層厚を規制する役割も担っているため、第1箇所Pa1の入口付近と感光体3Kとの間には、比較的多量のトナーが進入する。そして、これにより、固着トナーが第1箇所Pa1の入口付近で発生して、それが徐々に感光体表面移動方向下流側に向けて成長していく。一方、第3箇所Pa3と感光体3Kとの間に対しては、予めの層厚規制によってごく少量の転写残トナーしか進入させない。そして、第3箇所Pa3の入口付近に対する転写残トナーの押圧力が、第1箇所Pa1の入口付近に対する転写残トナーの押圧力よりも弱くなる。このため、第3箇所Pa3では、第1箇所Pa1に比べてトナー固着が発生し難くなり、長期間に渡って転写残トナーを第3箇所Pa3に直接接触させて、良好な電荷注入を行うことができたのである。
また、実験番号7において、黒スジムラの評価結果が○よりも劣る△になったのは、トナーとして、トナーワックス強度が0.5という全実験番号の中で最大のものを用いたからである。
[実験2]
本発明者らは、次に、帯電前バイアスとして、放電を発生させない−500[V]という値のものに代えて、−800[V]という放電を発生させるものを採用して、放電方式によって転写残トナーに電荷を付与するようにした。その代わりに、最大当接圧力を0.02[N/mm2]未満にした。放電方式では、転写残トナーの層厚を規制し得る程度の弱い力で第1箇所Pa1や第3箇所Pa3を感光体3Kに当接させれば足りるからである。この他の条件は実験1と同様にして4000枚のハーフチャートを連続プリントしたところ、帯電前当接シート10Kとして、感光体3Kとの当接面がフラットになっている従来のものを用いる場合に比べて、黒スジムラの発生を抑えることができた。
このような実験結果が得られたのは、次に説明する理由からであると考えられる。即ち、第1箇所Pa1においては、電荷注入方式に比べて感光体3Kとの当接圧力が弱くなっているものの、第1箇所Pa1と感光体3Kとの間に介在した固着トナーにより、固着トナーよりも感光体表面移動方向下流側で、第1箇所Pa1と感光体3Kとの間にギャップが発生する。そして、このギャップで比較的多量の放電が発生することにより、固着トナーが下流側に向けて徐々に成長していく。ところが、第2箇所Pa2は、第1箇所よりも弱い力で感光体3Kに当接しているか、あるいは感光体3Kに非接触で対向しているので、転写残トナーの第2箇所Pa2に対する密着が不十分となる。このため、第2箇所Pa2においては、第1箇所に比べて多量の放電が発生するものの、トナー固着の固着が第1箇所Pa1よりも抑えられるか(接触の場合)、あるいは回避される(非接触の場合)かする。そして、第2箇所Pa2と感光体3Kとの間で放電を長期間に渡って良好に発生させて、転写残トナー中の逆帯電トナーや低帯電量トナーを十分に帯電せしめることができたのである。
[実験3]
帯電前当接シート10K及び弾性部材11Kの組合せとして、A型、B型、C型という3種類のものを用意した。A型は、図5に示すように、帯電前当接シート10Kにおける第1箇所Pa1よりも第3箇所Pa3の方が感光体3Kに向けての突出量が大きくなっているものである。また、B型は、図6に示すように、帯電前当接シート10Kにおける第1箇所Pa1よりも第3箇所Pa3の方が感光体3Kに向けて突出量が小さくなっているものである。また、C型は、帯電前当接シート10Kにおける感光体3Kとの当接面に凹凸を設けずに、従来と同様に当接面をフラットにしたものである。なお、図5や図6において、△2は、第1箇所Pa1における頂点と、第2箇所Pa2における底点との高低差を示している。また、△3は、第1箇所Pa1における頂点と、第3箇所Pa3における頂点との高低差を示している。
これらA〜C型の帯電前当接シート10Kについてそれぞれ、4000枚目のハーフチャートにおける黒スジムラの発生度合いを評価する実験を行った。帯電前バイアスとしては、帯電前当接シート10Kと感光体3Kとの間に放電を発生させない−500[V]の直流電圧を採用した。この結果を次の表2に示す。なお、表2において、第1圧縮量は、弾性部材11Kにおける第1箇所Pa1との対向領域における圧縮量を示している。また、第2圧縮量は、弾性部材11Kにおける第3箇所Pa3との対向領域における圧縮量を示している。また、第1最大当接圧力は、第1箇所Pa1と感光体3Kとの最大当接圧力を示している。また、第2最大当接圧力は、第3箇所Pa3と感光体3Kとの最大当接圧力を示している。
表2において、帯電前当接シート10Kとして、従来と同様に感光体3Kとの当接面がフラットになっているC型のものを用いた実験番号15では、4000枚目のハーフチャートにおける黒スジムラの発生度合いが許容範囲を超える×となった。このような実験結果になったのは実験1における実験番号8と同様の理由からである。
また、帯電前当接シート10Kとして、第1箇所Pa1の方が第3箇所Pa3よりも突出しているC型のものを用いた実験番号14でも、4000枚目のハーフチャートにおける黒スジムラの発生度合いが許容範囲を超える×となった。このような実験結果になったのは次に説明する理由からであると考えられる。即ち、C型の帯電前当接シート10Kでは、少なくとも、感光体3Kに向けて最も突出している第1箇所Pa1を、良好な電荷注入が得られる0.02[N/mm2]以上の当接圧力で感光体3Kに当接させる必要がある。このため、実験番号14では、表2に示すように、第1箇所Pa1を0.04[N/mm2]の当接圧力で感光体3Kに当接させている。このような条件では、電荷注入を実現する目的で比較的強く感光体3Kに当接させている第1箇所Pa1によって多量の転写残トナーの層厚を規制させることにより、第1箇所Pa1に対して比較的短期間でトナーを固着させてしまう。このトナー固着の感光体表面移動方向下流側に向けての成長については、第1箇所Pa1と第2箇所Pa2との間でほぼくい止めることが可能であるが、かなり弱い圧力で感光体3Kに当接しているか、あるいは感光体3Kに非接触で対向している第2箇所Pa2では、転写残トナーに対して良好な電荷注入を行うことができない。また、第1箇所Pa1よりも弱い力で第3箇所Pa3においても、転写残トナーに対して良好な電荷注入を行うことが困難である。このため、第1箇所Pa1のほぼ全領域までトナー固着を成長させてしまうと、黒スジムラを発生させてしまうのである。
一方、帯電前当接シート10Kとして、第3箇所Pa3の方が第1箇所Pa1よりも突出しているA型のものを用いた実験番号9〜13においては、何れも黒スジムラを許容範囲内の△又は○に留めることができている。これは次に説明する理由によるものと考えられる。即ち、表2に示したように、これらの実験番号では、第1箇所Pa1を0.02[N/mm2]という比較的弱い圧力で感光体3Kに当接させている。このような圧力は、転写残トナーに対する電荷注入を良好に行うことができないものの、転写残トナーの層厚を規制するには十分な力である。よって、第1箇所Pa1によって転写残トナーの層厚を十分に規制しつつ、第1箇所Pa1を0.02[N/mm2]以上の圧力で感光体3Kに当接させる場合に比べて、第1箇所Pa1における固着トナーの成長速度を遅くすることができる。更には、長期間をかけて固着トナーを第1箇所Pa1のほぼ全領域まで成長させたとしても、第1箇所Pa1と第2箇所Pa2との間で、その成長をほぼくい止めることができる。第3箇所Pa3については、第1箇所Pa1よりも強い圧力で感光体3Kに当接させることになるが、第3箇所Pa3と感光体3Kとの間には、予めの層厚規制によってごく少量の転写残トナーしか進入させない。このため、第3箇所Pa3においては、転写残トナーに対する押圧力を第1箇所Pa1よりも弱めて、トナー固着やその厚み成長を長期間に渡って抑えることができる。以上の結果、逆帯電トナーや低帯電トナーに起因する画質劣化の発生を長期間に渡って抑えることができたのである。
なお、実験番号10において、黒スジムラの評価結果が○よりも劣る△になったのは、次に説明する理由によるものと考えられる。即ち、A型の帯電前当接シート10Kを用いて、電荷注入方式で転写残トナーに電荷を付与するためには、感光体3Kに向けて最も突出している第3箇所Pa3を0.02[N/mm2]以上の圧力で感光体3Kに当接させる必要がある。ところが、実験番号10では、第3箇所Pa3をそれよりも弱い0.015[N/mm2]という圧力で当接させているため、第3箇所Pa3による電荷注入が不十分になったと考えられる。
[実験4]
帯電前バイアスとして、放電を発生させない−500[V]という値のものに代えて、−800[V]という放電を発生させるものを採用して、放電方式によって転写残トナーに電荷を付与するようにした。その代わりに、第1箇所Pa1の感光体3Kに対する最大当接圧力と、第3箇所Pa3の感光体3Kに対する最大当接圧力とを、何れも0.02[N/mm2]未満にした。放電方式では、転写残トナーの層厚を規制し得る程度の弱い力で第1箇所Pa1や第3箇所Pa3を感光体3Kに当接させれば足りるからである。この他の条件は実験3と同様にして4000枚のハーフチャートを連続プリントしたところ、帯電前当接シート10Kとして、A型のものを用いた場合には、B型やC型のものを用いる場合に比べて、黒スジムラの発生を抑えることができた。
第1参考形態に係るプリンタでは、各色のプロセスユニット(1Y,M,C,K)における帯電前当接シートとして、図3に示した試験機のものと同様のものを用いている。即ち、それら帯電前当接シートは、感光体に当接する第1箇所Pa1を有している。また、第1箇所Pa1よりも感光体表面移動方向下流側で第1箇所Pa1よりも窪んでいることで、第1箇所Pa1よりも弱い力で感光体に当接するか、あるいは感光体に非接触で対向するかしている第2箇所Pa2も有している。更には、第2箇所Pa2よりも感光体表面移動方向下流側で第2箇所Pa2よりも感光体に向けて突出して感光体に当接する第3箇所Pa3も有している。第1箇所Pa1における感光体に向けての突出量、第3箇所Pa3における感光体に向けての突出量は互いに同じであり、両箇所はほぼ同じ圧力で感光体に当接する。
各色のプロセスユニットにおいて、帯電前当接シートに供給する帯電前バイアスとしては、帯電前当接シートと感光体との間に確実に放電を発生させ始める−710[V]よりもマイナス側に大きな−800[V]を採用している。即ち、本プリンタでは、帯電前ニップにおいて、放電方式によって転写残トナーに電荷を付与するようになっている。
帯電前当接シートの第1箇所Pa1や第3箇所Pa3と、感光体との当接圧力については、良好な電荷注入を実現し得る0.02[N/mm2]よりも小さくしている。放電方式では、転写残トナーの層厚を規制し得る程度の弱い力で第1箇所Pa1や第3箇所Pa3を感光体に当接させれば足りるからである。
以上の構成の本プリンタにおいては、実験2の結果で立証されたように、帯電前当接シートの第2箇所Pa2と、感光体との間において、第2箇所Pa2に対するトナー固着を従来よりも抑えるか(接触の場合)、回避するか(非接触の場合)して、長期間に渡って、第2箇所Pa2と感光体との間で放電を良好に発生させる。これにより、画質劣化の発生を長期間に渡って抑えることができる。
なお、帯電前当接シートとして、それ自体は扁平であるものの、それを感光体に向けて押さえ付ける弾性部材(例えば11K)のシート接着面に押圧を設けたことで、感光体との当接面に凹凸(第1箇所〜第3箇所)を設けたもの、を用いた例について説明したが、これに限られるものではない。帯電前当接シートとして、それ自体が、感光体との当接面に凹凸を有するものを用いてもよい。そして、かかる構成の帯電前当接シートを、弾性部材を介して感光体に当接させるのではなく、片持ち支持してその自由端側を感光体に当接させてもよい。
また、第1箇所Pa1や第3箇所Pa3の頂点と、第2箇所Pa2の底点との高低差△1については、0.1[mm]以上、2[mm]以下にしている。これは次に説明する理由による。即ち、高低差△1を0.1[mm]未満に設定すると、第1箇所Pa1の感光体に対する当接圧力と、第2箇所Pa2の感光体に対する当接圧力とに有意差を生じせしめることが困難になるからである。
また、Y,M,C,Kトナーとしては、それぞれ、上述のワックス強度比が0.01以上、0.40未満であるものを用いている。これは次に説明する理由による。即ち、ワックス強度比が0.01未満のトナーでは、母材樹脂にワックスを含有させることによる効果を得ることが困難になってしまう。これに対し、ワックス強度比が0.39から0.40に上昇すると、トナー固着が急激に発生し易くなり始める。
図7は、第1参考形態に係るプリンタの変形例装置におけるY用のプロセスユニットを拡大して示す拡大構成図である。他色用のプロセスユニット(1M,C,K)もY用のものと同様の構成になっている。この変形例装置では、上述した試験機と同様に、いわゆるクリーナーレス方式を採用している。クレーナーレス方式とは、感光体3Yなどの潜像担持体上に付着している転写残トナーをクリーニング回収するための専用の手段を用いることなく潜像担持体上での画像形成プロセスを実行する方式のことである。また、クリーニング回収するための専用の手段とは、具体的には、転写残トナーを潜像担持体から分離した後、再び潜像担持体に付着させることなく、廃トナー容器まで搬送して回収したり、現像装置内に搬送してリサイクル回収したりする手段である。転写残トナーを潜像担持体から掻き取るクリーニングブレード(例えば図2の21Y)も、専用の手段に含まれる。
かかるクリーナーレス方式について詳述する。クリーナーレス方式は、大別すると、散らし通過型と、一時捕捉型と、併用型とがある。これらのうち、散らし通過型では、潜像担持体に摺擦するブラシ等の散らし部材を用いて、潜像担持体上の転写残トナーを引っ掻くことで、転写残トナーと潜像担持体との付着力を弱める。そして、その後、現像スリーブや現像ローラ等の現像部材と潜像担持体とが対向する現像領域、あるいはその直前において、潜像担持体上の転写残トナーを現像ローラなどの現像部材に静電転移させることで、現像装置内に回収する。この回収に先立って、転写残トナーは、潜像書込のための光書込位置を通過するが、転写残トナー量が比較的少量であれば、潜像書込に悪影響を及ぼすことはない。但し、正規極性とは逆極性に帯電している逆帯電トナーが転写残トナー中に含まれていると、それは現像部材上に回収されないので、地汚れなどを引き起こしてしまう。かかる逆帯電トナーによる地汚れの発生を抑える目的で、潜像担持体上の転写残トナーを正規極性に帯電せしめるためのトナー帯電手段を、転写位置(例えば1次転写ニップ)と散らし部材による散らし位置との間、あるいは散らし位置と現像領域との間、に設けることが望ましい。散らし部材としては、板金やユニットケーシング等に貼り付けられた導電性繊維からなる複数の植毛繊維を有する固定ブラシ、金属製の回転軸部材に複数の植毛繊維を立設せしめたブラシローラ、導電性のスポンジ等からなるローラ部を有するローラ部材などを用いることができる。固定ブラシは植毛繊維の量が比較的少量で構成できるため安価であるという利点があるが、潜像担持体を一様帯電せしめるための帯電部材として兼用する場合には、十分な帯電均一性を得ることができなくなる。これに対し、ブラシローラでは、十分な帯電均一性を得ることができるので好適である。
クリーナーレス方式における一時捕捉型では、表面を潜像担持体に接触させながら無端移動させる回転ブラシ部材などの捕捉部材によって、潜像担持体上の転写残トナーを一時的に捕捉する。そして、プリントジョブ終了後やプリントジョブ間の紙間タイミングなどにおいて、捕捉部材上の転写残トナーを吐き出させて潜像担持体に再転移させた後、現像ローラなどの現像部材に静電転移させて、現像装置内に回収する。上述した散らし通過型では、ベタ画像形成時やジャム発生後などといった転写残トナーがかなり多くなってしまう場合に現像部材への回収能力を超えて画像劣化を引き起こすおそれがあるのに対し、一時捕捉型では捕捉部材で捕捉した転写残トナーを現像部材に少しずつ回収してかかる画像劣化の発生を抑えることができる。
クリーナーレス方式における併用型では、散らし通過型と一時捕捉型とを併用する。具体的には、潜像担持体に接触する回転ブラシ部材などを、散らし部材及び捕捉部材として併用する。回転ブラシ部材等に直流電圧だけを印加することで回転ブラシ部材等を散らし部材として機能させる一方で、必要に応じてバイアスを直流電圧から重畳電圧に切り換えることで、回転ブラシ部材等を捕捉部材として機能させる。
本変形例装置では、一時捕捉型のクリーナーレス方式を採用している。具体的には、感光体3Yは、図中時計回り方向に所定の線速で回転駆動されながら中間転写ベルト61のおもて面に接触してY用の1次転写ニップを形成している。そして、植毛繊維6Yと感光体3Yとの間に放電を生じせしめて、感光体3Y表面をマイナス極性に一様帯電せしめる。同時に、感光体3Y上に付着している転写残トナーを前述の帯電バイアスの作用によって複数の植毛繊維6Yに転移させて一時的に捕捉する。そして、プリントジョブ終了後や紙間タイミングなどに、帯電バイアスを重畳電圧から直流電圧に切り換えて、植毛繊維6Y上に捕捉しておいた転写残トナーを感光体3Y上に再転移させた後、感光体3Y上から現像ローラ42Yを経て現像装置40Y内に回収する。
かかる構成の第2変形例装置では、帯電前ニップに進入する転写残トナーの量が専用のクリーニング手段を備える構成に比べて遙かに多くなるので、本発明が特に効果的である。
[実施形態]
次に、実施形態に係るプリンタについて説明する。なお、以下に特筆しない限り、実施形態に係るプリンタの構成は、第1参考形態と同様である。
実施形態に係るプリンタでは、各色のプロセスユニット(1Y,M,C,K)における帯電前当接シートとして、図5に示した試験機のものと同様のものを用いている。即ち、それら帯電前当接シートは、感光体に当接する第1箇所Pa1を有している。また、第1箇所Pa1よりも感光体表面移動方向下流側で第1箇所Pa1よりも窪んでいることで、第1箇所Pa1よりも弱い力で感光体に当接するか、あるいは感光体に非接触で対向するかしている第2箇所Pa2も有している。更には、第2箇所Pa2よりも感光体表面移動方向下流側で第2箇所Pa2よりも感光体に向けて突出して感光体に当接する第3箇所Pa3も有している。第3箇所Pa3における感光体に向けての突出量は、第1箇所Pa1における感光体に向けての突出量よりも大きくなっている。このため、第3箇所Pa3は、第1箇所Pa1よりも強い圧力で感光体に当接する。
各色のプロセスユニットにおいて、帯電前当接シートに供給する帯電前バイアスとしては、帯電前当接シートと感光体との間に確実に放電を発生させ始める−710[V]よりも小さな−500[V]を採用している。即ち、本プリンタでは、帯電前ニップにおいて、帯電前当接シートからの電荷注入によって転写残トナーに電荷を付与するようになっている。
帯電前当接シートの第3箇所Pa3と、感光体との当接圧力については、良好な電荷注入を実現し得る0.02[N/mm2]以上になっている。但し、帯電前当接シートの第1箇所Pa1と、感光体との当接圧力については、0.02[N/mm2]よりも小さくしている。第3箇所Pa3で良好な電荷注入を実現し得るので、それよりも感光体表面移動方向上流側にある第1箇所Pa1については、転写残トナーの層厚を規制し得る程度の弱い力で感光体に当接させれば足りるからである。
以上の構成の本プリンタにおいては、帯電前当接シートの第1箇所に固着してしまったトナーの感光体表面移動方向下流側への成長を、第1箇所Pa1と第2箇所Pa2との間でほぼくい止めるとともに、第3箇所Pa3と感光体との間には予めの層厚規制によってごく少量のトナーしか進入させない。これにより、実験1の結果で立証されたように、第3箇所から転写残トナーへの電荷注入を長期間に渡って良好に行うことで、画質劣化の発生を長期間に渡って抑えることができる。
なお、第1箇所Pa1における頂点と、第3箇所Pa3における頂点との高低差△3については、0.5[mm]以上、3[mm]以下にしている。これは次に説明する理由による。即ち、高低差△3を0.5[mm]未満にすると、第1箇所Pa1における感光体との当接圧力と、第3箇所Pa3における感光体との当接圧力とに有意差を生じさせるのが困難になる。また、高低差△3を3[mm]よりも大きくしてしまうと、第1箇所Pa1と感光体との当接圧力を0.02[N/mm2]よりも小さくしつつ、第3箇所Pa3と感光体との当接圧力を0.02[N/mm2]以上にすることが困難になってしまう。
また、帯電前シートを貼り付ける弾性部材(例えば11K)における第3箇所Pa3との対向箇所の圧縮量については、0.1[mm]以上、2[mm]以下の範囲にするように、弾性部材の感光体に対する押圧力を調整している。これは次に説明する理由による。即ち、0.1[mm]未満の圧縮量では、第3箇所Pa3を0.02[N/mm2]以上の圧力で感光体に当接させるのが困難になる。また、圧縮量が2[mm]を超えると、圧力に起因する第3箇所Pa3に対するトナー固着が急激に助長され始めるからである。
次に、第2参考形態に係るプリンタについて説明する。なお、以下に特筆しない限り、第2参考形態に係るプリンタの構成は、第1参考形態と同様である。
図8は、第2参考形態に係るプリンタのY用の帯電前当接シート10Yと、Y用の感光体3Yとを示す拡大構成図である。他色用のプロセスユニット(1M,C,K)も、同様の構成になっている。なお、同図においては、便宜上、帯電前当接シート10Yと感光体3Yとを非接触で示しているが、実際には、帯電前当接シート10Yと感光体3Yとは当接している。
同図において、帯電前当接シート10Yが貼り付けられている弾性部材11Yは、そのシート貼り付け面に段差が形成されている。このため、扁平状の帯電前当接シート10Yにも、その段差にならった段差が形成されている。
Pa4という符号が付されているシート箇所は、感光体3Yに当接する第1の当接箇所である。また、Pa5という符号が付されているシート箇所は、第1の当接箇所Pa4よりも感光体表面移動方向下流側で第1の当接箇所Pa4よりも感光体3Yに向けて突出して感光体3Yに当接する第2の当接箇所である。第1の当接箇所Pa4と、第2の当接箇所Pa5との間に、窪みは形成されていない。
このような帯電前当接シートを有する各色のプロセスユニットにおいて、帯電前当接シートに供給する帯電前バイアスとしては、帯電前当接シートと感光体との間に確実に放電を発生させ始める−710[V]よりも小さな−500[V]を採用している。即ち、本プリンタでは、帯電前ニップにおいて、帯電前当接シートからの電荷注入によって転写残トナーに電荷を付与するようになっている。
帯電前当接シートの第2の当接箇所Pa5と、感光体との当接圧力については、良好な電荷注入を実現し得る0.02[N/mm2]以上になっている。但し、帯電前当接シートの第1の当接箇所Pa4と、感光体との当接圧力については、0.02[N/mm2]よりも小さくしている。第2の当接箇所Pa5で良好な電荷注入を実現し得るので、それよりも感光体表面移動方向上流側にある第1の当接箇所Pa4については、転写残トナーの層厚を規制し得る程度の弱い力で感光体に当接させれば足りるからである。
以上の構成の本プリンタにおいては、帯電前当接シートの全面を0.02[N/mm2]以上という比較的強い圧力で感光体に当接させていた従来の電荷注入方式とは異なり、第1の当接箇所Pa4を0.02[N/mm2]未満という比較的弱い圧力で感光体に当接させる。これにより、帯電前当接シートにおける入口付近箇所に対する転写残トナーの固着を抑えたり、固着トナーの成長を抑えたりする。更には、第2の当接箇所Pa5と感光体との間には、予めの層厚規制によってごく少量のトナーしか進入させないことから、帯電前当接シートの出口付近に対する転写残トナーの固着を長期間に渡って抑えたり、固着トナーの成長を長期間に渡って抑えたりすることができる。
なお、第1の当接箇所Pa4の頂点と、第2の当接箇所Pa5の頂点との高低差については、0.5[mm]以上、3[mm]以下にしている。その理由は、上述の高低差△3を0.5[mm]以上、3[mm]以下にするのと同様である。
また、弾性部材の第2の当接箇所Pa5との対向箇所における圧縮量については、0.1[mm]以上、2[mm]以下の範囲にしている。その理由は、弾性部材における第3箇所Pa3との対向箇所の圧縮量を0.1[mm]以上、2[mm]以下にするの同様である。
また、第1の当接箇所Pa4と第2の当接箇所Pa5とを互いに隣接させる必要はない。例えば、先に説明した実施例に係るプリンタの帯電前当接シートにおける第1箇所Pa1は、第2の当接箇所よりも感光体表面移動方向上流側で感光体に当接する第1の当接箇所でもある。また、同帯電前当接シートにおける第3箇所Pa3は、第1の当接箇所よりも感光体表面移動方向下流側で第1の当接箇所よりも感光体に向けて突出して感光体に当接する第2の当接箇所でもある。
これまで、複数のプロセスユニット1Y,M,C,Kによるトナー像を重ね合わせて転写することで多色トナー像を得るいわゆるタンデム方式のプリンタの例について説明したが、シングル方式で多色トナー像を形成する画像形成装置にも、本発明の適用が可能である。このシングル方式とは、感光体等の潜像担持体の周りに各色用の複数の現像手段を配設し、使用する現像手段を順次切り換えながら潜像担持体上に形成した各色の可視像を中間転写体に順次重ね合わせて転写する方式である。また、単色画像だけを形成する画像形成装置にも、本発明の適用が可能である。
以上、第1参考形態や実施形態に係るプリンタにおいては、第1箇所Pa1の頂点と、第2箇所Pa2の底点との高低差を0.1[mm]以上、2[mm]以下にしている。かかる構成では、第1箇所Pa1の感光体に対する当接圧力と、第2箇所Pa2の感光体に対する当接圧力とに有意差を容易に発生させることができる。
また、実施形態に係るプリンタにおいては、第1箇所Pa1における頂点と、第3箇所Pa3における頂点との高低差△3を、0.5[mm]以上、3[mm]以下にしている。かかる構成では、第1箇所Pa1を容易に0.02[N/mm^「2」^]未満の圧力で感光体に当接させつつ、第3箇所Pa3を容易に0.02[N/mm^「2」^]以上の当接圧力で感光体に当接させることができる。
また、第2参考形態に係るプリンタにおいては、第1の当接箇所Pa4における頂点と、第2の当接箇所Pa5における頂点との高低差を0.5[mm]以上、3[mm]以下にしている。かかる構成では、第1の当接箇所Pa4を容易に0.02[N/mm^「2」^]未満の圧力で感光体に当接させつつ、第2の当接箇所Pa5を容易に0.02[N/mm^「2」^]以上の当接圧力で感光体に当接させることができる。
また、各参考形態や実施形態に係るプリンタにおいては、弾性変形可能な弾性部材(例えば11K)を介して、帯電前当接部材たる帯電前当接シートを潜像担持体たる感光体に向けて押圧している。かかる構成では、帯電前当接部材として、凹凸のない扁平なものを用いても、弾性部材の表面の凹凸や段差により、帯電前当接部材における感光体との当接面に凹凸や段差を設けることができる。
また、第1参考形態に係るプリンタにおいては、帯電前当接シートとして、第1箇所Pa1、第2箇所Pa2及び第3箇所Pa3を設けたもの用いている。そして、弾性部材における第1箇所Pa1との当接箇所、及び第3箇所Pa3との当接箇所、の圧縮量をそれぞれ0.1[mm]以上、2[mm]以下の範囲にする押圧力で、帯電前当接シートを感光体に向けて押圧している。かかる構成では、第1箇所Pa1における感光体に対する当接圧力や、第3箇所Pa3における感光体に対する当接圧力を、容易に0.02[N/mm^「2」^]以上にして、第1箇所Pa1や第3箇所Pa3から転写残トナーへの電荷注入を良好に行うことができる。
また、実施形態に係るプリンタにおいては、帯電前当接シートとして、第1箇所Pa1、第2箇所Pa2及び第3箇所Pa3を設けたものを用いている。そして、弾性部材における第3箇所Pa3との対向箇所の圧縮量を0.1[mm]以上、2[mm]以下の範囲にする押圧力で、帯電前当接シートを感光体に向けて押圧している。かかる構成では、第3箇所Pa3を確実に0.02[N/mm^「2」^]以上の圧力で感光体に当接させて、第3箇所Pa3から転写残トナーへの電荷注入を良好に行うことができる。
また、第2参考形態に係るプリンタにおいては、帯電前当接シートとして、第1の当接箇所Pa4、及び第2の当接箇所Pa5を設けたものを用いている。そして、弾性部材における第2の当接箇所Pa5との対向箇所の圧縮量を0.1[mm]以上、2[mm]以下の範囲にする押圧力で、帯電前当接シートを感光体に向けて押圧している。かかる構成では、第2の当接箇所Pa5を確実に0.02[N/mm^「2」^]以上の圧力で感光体に当接させて、第2の当接箇所Pa5から転写残トナーへの電荷注入を良好に行うことができる。
また、各参考形態や実施形態に係るプリンタにおいては、帯電部材として、回転可能に支持される回転軸部材と、回転軸部材の周面に立設せしめられた複数の起毛たる植毛繊維からなるロール状のブラシ部とを有する帯電ブラシローラ、を用いている。かかる構成では、ブラシ部の先端と感光体との間の放電によって、感光体を一様帯電せしめることができる。更には、クリーナーレス方式を採用する場合には、転写残トナーをブラシ内に良好に捕捉させることができる。
なお、第1参考形態や実施形態に係るプリンタにおいては、第2箇所Pa2と感光体とを非接触にしている。かかる構成では、第2箇所Pa2よりも感光体表面移動方向下流側に第3箇所Pa3を設けることで、第2箇所Pa2を第1箇所Pa1と第3箇所Pa3との間に橋渡しするようにして、第2箇所Pa2と感光体との間に確実にギャップを形成することができる。更には、第2箇所Pa2に対するトナー固着を回避することができる。
また、実施形態や第2参考形態に係るプリンタにおいては、帯電前当接シートに帯電前バイアスを供給する帯電前バイアス供給手段として、帯電前当接シートと感光体との間に放電を発生させない値である−500[V]の非放電直流電圧を所定のタイミングで帯電前当接シートに供給するもの、を用いている。かかる構成では、電荷注入方式によって転写残トナーに電荷を付与することができる。
また、各参考形態や実施形態に係るプリンタにおいては、トナーが、母材樹脂、着色剤、及び潤滑剤たるワックスを含有するものであり、且つ全反射吸収赤外分光法によるワックスのピーク強度を母材樹脂のピーク強度で除算した値であるワックス強度比が0.01以上、0.40未満になっている。かかる構成では、ワックス強度比が0.01未満であることに起因してワックスによる効果が得られなくなるといった事態を回避しつつ、ワックスによってトナー固着を助長してしまうといった事態を抑えることができる。