JP4831717B2 - 被覆工具 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、切削工具や耐摩工具等として用いる被覆工具に関するものであり、より詳しくは、靭性と耐摩耗性とが優れた超硬合金製基体やサーメット等の硬質基体の表面に、基体との密着性が優れた皮膜を設けた被覆工具に関する。
【0002】
【従来の技術】
超硬合金、高速度鋼、あるいは特殊鋼などからなる工具基体の表面に、単層または多層の硬質皮膜を施した被覆工具は、皮膜の耐摩耗性と基体の強靭性とを兼ね備えているため、広く実用に供されている。特に、高速で切削する場合や切削液を用いずに乾式旋削加工する場合には、切削工具の刃先温度が1000℃前後にまで上昇するため、高温環境下における被削材との接触による摩耗や断続切削等の機械的衝撃に耐える必要があり、耐摩耗性と靭性の両特性が優れた被覆工具が常用されている。
【0003】
一般に、被覆工具の硬質皮膜としては、耐摩耗性と靭性とが優れることが要求されるため、周期律表の4a、5a、6a族金属の炭化物、窒化物、または炭窒化物からなる膜が用いられており、また耐酸化性に優れる酸化アルミニウム膜も用いられている。これらの硬質皮膜は、良く知られているように、CVD法あるいはPVD法により成膜される。PVD膜は圧縮応力を有しており、CVD膜は引っ張り応力を有している。PVD法は多数の元素を含有する膜を比較的容易に成膜できる特長を有しているが、CVD膜に比べて、基体と膜の間や皮膜相互間の密着性が劣る欠点がある。これに対して、CVD法は、化学反応を用いて成膜するために多数の元素を含有する膜を成膜することが困難である欠点はあるが、600〜1050℃の高温で成膜するために、膜の密着性が高いことや高い温度で使用しても膜特性の劣化が少ないなどの特長がある。このため、切削加工中に刃先が比較的高い温度に上昇する旋削工具等の皮膜にはCVD法で成膜されたTiC、TiN、TiCN、Al膜などが実用化されている。
【0004】
しかし、技術の進歩ととともに、より高硬度かつ高強度になった被削材をより効率良く加工する要求が強まっており、CVD膜の基体/皮膜間の密着強度を更に高める必要が生じてきた。一方、膜の密着性を高めるために成膜温度を高めると膜中にCo等が多量に拡散し、膜硬度が低下し膜の耐摩耗性が悪くなる欠点があった。
【0005】
本発明者らは、上記従来技術における被覆工具の欠点を解決するために、先に、基体表面より被覆外層に向かって基体中の主成分であるWやCoの拡散量を、対(4a+5a+6a+Fe族)のX線強度比が0〜0.04ないしは0.02の範囲内に入るように制御することにより皮膜の密着性が向上することを見出し特許第2733809号に開示した。また、基体表面の欠陥層の割合を30%以下に制御することにより皮膜の密着性が向上することを見出し特開平8−257809号として当該技術を開示した。なお、被覆工具において旧来より用いられている窒化チタン膜の耐剥離性を改善するために、基体の直上に成膜された窒化チタンが、基体中の硬質相上では結晶粒径が0.02〜0.1μmの柱状あるいは成長方向に長い粒状であり、金属結合相上では0.01〜0.05μmの粒状結晶粒からなっている被覆切削工具が特開平8−318406号として開示されている。本発明者等が当該公報記載の技術に従い再現検討した結果では、得られた被覆切削工具は膜の密着性や耐摩耗性が必ずしも満足できるものではなかった。これは、後述の、基体表面から皮膜部方向に突きだした突起が形成されていないためであり、また、金属結合相上のTiNの結晶粒子が粒状であるものの硬質相上の柱状粒子よりも細かく強度が不十分であるためと考えられる。また、これらいずれの先行例においても、現在の高硬度高強度材を高効率に加工するためには充分な膜の密着性と耐摩耗性が実現されておらず、更に膜の密着性と耐摩耗性とを高める必要があることが明らかになった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、これらの実状を踏まえ、本願発明者らが先に提案した発明、すなわち上記の、基体表面から被覆外層に向かっての基体主成分の拡散を制御する発明と基体表面の欠陥を制御する発明とを更に発展させたものである。すなわち、本発明が解決しようとする課題は、膜の密着性と耐摩耗性の両者が優れ、優れた工具寿命を持つ被覆工具を提供することにある。
【0007】
上述したように、従来の発明はいずれも膜中への基体主成分の拡散や基体表面の形態を個々に着目して工具特性を改善するものであった。本願発明者らは、膜の密着性を本源的に決定する基体とその直上に成膜された皮膜との間の界面をより詳細に検討することにより、基体表面から皮膜部方向または皮膜部内に突きだした突起を形成することにより、膜の密着性と耐摩耗の両者をより一層高めることができることを見出し、本発明を完成した。すなわち本発明は、主たる成分が周期率表の4a、5a、6a族の炭化物、窒化物、炭窒化物の1種または2種以上の硬質相とFe、Ni、Co、Mo、Crの1種または2種以上の結合相とよりなる硬質基体の表面に、周期律表の4a、5a、6a属金属およびAlの炭化物、窒化物、酸化物、硼化物、酸炭化物、酸窒化物、酸炭窒化物、炭硼化物、窒硼化物、炭窒硼化物から選ばれた単層皮膜または2種以上の多層皮膜が被覆されており、基体表面から皮膜部方向に突きだした突起が形成され、上記突起内の粒界に上記硬質相の主成分が偏析していることを特徴とする被覆工具である。
【0008】
本発明によれば、超硬合金やサーメット等からなる周知の硬質基体を用い、基体表面から皮膜部内に突きだした突起が形成されていることにより、基体と皮膜間の密着性が改善され、優れた工具寿命を持つ被覆工具が得られる。その理由は明確ではないが、基体表面から皮膜中に突起が突き出ているためアンカー効果によって基体と皮膜間の密着性が向上したものと考えられる。
【0009】
本発明において、基体を構成する硬質相の主成分および/または結合の主成分(以下、両者を合わせて、基体主成分と略称する。)と皮膜第1層主要部の主成分とが上記突起中に含有されていることが好ましい。その理由は明確ではないが、上記突起と基体および皮膜第1層主要部と間に同一元素が共有されていることにより、基体表面と膜間の密着性が本突起の存在により更に向上し、更に優れた工具寿命を持つ被覆工具が得られたものと考えられる。ここに云う、基体を構成する硬質相と結合相の主成分とは、例えば基体が炭化タングステン基超硬合金である場合はそれぞれWとCoがこれに対応している。
【0010】
また、本発明において、上記突起の上部(皮膜表面側)が突起下部(基体側)よりも基体と平行方向により大きく拡がっていることが好ましい。突起をこのような形状にすることにより膜中に突起がより強く食い込むことになり更に強いアンカー効果が期待でき、更に優れた膜密着性と工具寿命が得られる。
【0011】
本発明において、上記の突起が基体表面の結晶粒間から形成されていることが好ましい。こうすることにより、膜の密着性がより向上し、より優れた工具寿命を持つ被覆工具が得られる。一般に基体の結合相を構成する成分(例えばCo)は硬質相を構成する成分(例えばW)に比べて融点が低い。このため、上記突起が結晶粒間即ち結合相の表面から形成されていることにより、結合相から基体主成分が突起部すなわち皮膜部へスムーズに元素拡散するため皮膜の密着性が高まると考えられる。なお、硬質相成分は結合相成分に引き連れられて皮膜中に拡散すると考えられる。
【0012】
また、本発明において、上記突起が粒状の結晶粒から構成されていることが好ましい。こうすることにより、突起の形成時に結晶成長が三次元方向により拡がりやすく易くなり、突起の外層側が突起下部よりも基体と平行方向により大きく拡がった形状になりやすくなるため更に強いアンカー効果が期待でき、更に優れた膜密着性と工具寿命が得られる。ここで、突起の結晶形状は走査電子顕微鏡(SEM)や後述の透過電子顕微鏡(TEM)を用いた断面写真で観察することが出来る。断面写真は基体や膜部の断面を観察するものであり、結晶粒の三次元構造は観察できないが、断面写真に写された形状が略楕円形状になっていることから結晶粒が粒状であると判別できる。
【0013】
本発明において、上記突起部を形成する結晶粒の粒径は大略50〜500nmであることが好ましい。結晶粒径が50nm未満の時には突起上部の横方向への拡がりが充分でなく膜の密着性が低下し、500nmを越えると突起中のCo等の結合相成分が多くなりすぎ突起の強度が低下するため膜の密着性が低下する欠点が現れる。上記の好ましい範囲では、突起部の形状と強度とのバランスが良くなり、さらに優れた膜密着性と工具寿命が得られる。ここで、突起部の結晶粒径とは上記の断面写真に写された結晶粒断面の長径長さのことを云う。
【0014】
また、本発明において、基体を構成する硬質相の主成分が上記突起の粒界に偏析していることが好ましい。上記突起の粒界に基体硬質相の主成分例えばWが偏析していることにより突起自体の強度が高まり、基体と膜間をより高強度の突起で密着性強化することになり、更に優れた膜密着性が得られる。また、突起の粒界に硬質相の主成分が偏析していることにより、相対的に粒内に含有される結合相主成分量が豊富になり、結合相主成分の融点が低いため結晶粒が三次元方向に拡がりやすくキノコ状の突起が形成されやすくなり、更に膜の密着性が高まる効果が得られる。ここで、突起部の粒界に基体硬質相の主成分が偏析しているか否かは、後の実施例中で詳述するように、突起部の断面TEM像と、その領域をエネルギー分散型X線分析装置(EDX)で分析した元素マップとを比較することにより、TEM像の粒界に相当する部分に硬質相の主成分元素の濃度が高まっていることにより、偏析していることがわかる。また、突起部内で両者が比較的近傍にある粒界部と粒内部とをEDXで定量分析した時、粒界部の硬質相主成分含有量が粒内部の硬質相主成分含有量よりも多いことによっても偏析の有無が識別できる。また、上記と同様の理由で、粒界部近傍のWとCo量のW/Co比は1.7倍以上であることが好ましい。1.7倍以上で粒界強度向上と三次元拡散の効果が顕著に現れ特に優れた膜密着性と工具寿命とが得られる。
【0015】
本発明において、上記突起中に含有される基体主成分の量特に結合相成分は、該突起よりも外層側の膜中に含有される基体主成分量よりも多いことが好ましい。こうすることにより、皮膜と基体間に優れた密着性を確保しながら、しかも、より外層側にある皮膜の耐摩耗性を高めることが出来、更に良好な工具寿命を持つ被覆工具が得られる。これは、基体直上の皮膜中に基体主成分が拡散していると優れた膜の密着性が得られるものの、基体の結合相成分(例えばCo)が膜中に拡散していると膜の硬度が低下し耐摩耗性が低下するためである。このため、基体直上の皮膜には基体主成分が拡散していることが望ましいが、外層側では基体主成分、特に基体結合相成分量が低下していることが望ましい。
【0016】
本発明の被覆工具において、硬質基体にはWC−Co、WC−TiC−Co、WC−TiC−TaC−CoやこれらにTiN、ZrC、NbC、VC等が添加若しくは置換された超硬合金や、TiC−TiN−W−Mo−Ni−Co、TiCN−W−Ta−Nb−Mo−Co−Ni等のサーメットを用いることが好ましい。こうすることにより、被覆工具に最適な耐摩耗性と靱性とをバランス良く有した基体が形成でき、その表面に更に耐摩耗性や耐酸化性の優れた皮膜を密着性良く形成することにより、特に優れた工具特性と寿命を有する被覆合金が得られる。
【0017】
また、本発明において、上記基体を構成する硬質相と結合相の主成分はそれぞれWとCoであることが好ましい。こうすることにより、被覆工具に最適な耐摩耗性と靱性とをバランス良く有した基体が形成できるとともに、上述のように、基体表面に形成される突起の形状と強度とが、より皮膜の密着性を強化する形で形成され、より優れた工具特性と寿命を有する被覆合金が得られる。
【0018】
本発明の被覆工具において、上記突起は必ずしも基体表面上に成膜された第1層中に形成されている必要はない。例えば、基体内からW、C、Co等の基体構成物質が基体表面に拡散することにより形成された拡散物や、基体からの拡散物と成膜成分とが反応することにより形成されたものでも良い。但し、基体からの拡散物と皮膜成分とが反応することにより形成されたものが好ましく、両成分が含有されていることにより優れた膜密着性と工具寿命とが得られる。例えば、炭化タングステン基超硬合金を用い第1層がTiN膜である場合、突起部は主にTi、W、C、Coから成っており、その粒界部にWが偏析していることが好ましい。
【0019】
また、本発明の被覆工具において、基体表面上に形成される第1層はTiC、TiCN、ZrN、ZrC、ZrCN等であってもよいが、TiNであることがより好ましい。TiN膜にすることにより、反応性の高いTi元素を用い、しかも基体と膜間の密着性を阻害するη相が出来にくくなるため、基体との密着性がより高まる効果が得られる。また、第1層以降では、TiN、TiC、TiCN、ZrN、ZrC、ZrCN、TiZrCN、HfN、HfC、HfCN、TiHfCN、Al、ZrO,HfOやこれらにWやCo、B、O等が含有された膜あるいはこれらの成分が複合された膜群を単層または多層膜の形で形成されているのが好ましい。こうすることにより、これら非酸化膜系の耐摩耗性・高摺動性と酸化膜系の耐酸化・耐溶着・高摺動性とを組み合わせて使うことが出来、被加工材と加工条件に合わせて、より最適な工具特性を持つ被覆工具を実現することが出来る。
【0020】
また、本発明の被覆工具において、基体表面上に形成された皮膜は熱CVD法により成膜されたものであり、膜の残留応力が引張応力であることが好ましい。これは熱CVD法で成膜した皮膜が最も優れた膜密着性を示すためである。なお、成膜方法はプラズマCVD法あるいはアークイオンプレーティング法等のPVD法によってもよいが、プラズマCVD法で成膜すると膜中の塩素量が2質量%を越え膜硬度と耐摩耗性が低下し、工具寿命が低下する欠点が現れ易い。また、PVD法で成膜すると膜の残留応力が圧縮応力になるとともに膜と基体間の密着性が低下し、膜が剥離しやすくなり、工具寿命が低下する欠点が現れやすくなる。
【0021】
【発明の実施の態様】
以下、本発明の被覆工具を、実施例等によって具体的に説明するが、これら実施例により本発明が限定されるものではない。
【0022】
(実施例1)
WC:85質量%、TiC:3質量%、(Ta、Nb)C:4質量%、Co:8質量%の組成よりなる超硬合金製スローアウェイチップを熱CVD炉内にセットし、500℃までH:100vol%で圧力が40kPaの雰囲気中で昇温した後、さらにN:60vol%、CH:2vol%、残り:Hの圧力40kPaの雰囲気下で900℃まで昇温した。その後、熱CVD法により成膜温度900℃で、TiClガス:1.5vol%、Nガス:45vol%、残り:Hキャリヤーガスから成る混合ガスを反応炉内にトータル4000ml/分流し、成膜圧力15kPaで30分間反応させることにより厚さ0.8μmのTiN膜を形成した。続いて、成膜温度850℃、TiClガス:1.5vol%、CHCNガス:1vol%、Nガス:45vol%、残り:Hキャリヤーガスで構成された原料ガス:毎分6000mlをCVD炉内に流し、成膜圧力:5kPaで厚さ6μmのTiCN膜を成膜した。続いて、980℃でHキャリヤーガスおよびTiClガスとCHガスとをトータル2200ml/分を15間流して成膜圧力5kPaでまずTiC膜を成膜し、そのまま連続して本構成ガスに更に30ml/分のCOとCOの混合ガスを追加して15分間成膜することによりTiCO膜を作製した。
【0023】
その後、続いてAl金属小片を詰め350℃に保温した小筒中にHガスを流量310ml/分とHClガス:130ml/分とを流すことにより発生させたAlClガスおよびHガス:2l/分とCOとCOの混合ガス200ml/分とをCVD炉内に流し成膜圧力5kPa、成膜温度1025℃で反応させることにより酸化アルミニウム膜を2μm厚さ成膜した。そしてその上に成膜温度1000℃で、TiClガス:1.2vol%、Nガス:35vol%、残りHキャリヤーガスで構成された原料ガス:毎分4000mlをCVD炉内に流し、成膜圧力:12kPa、で30分間反応させることにより厚さ0.8μmの窒化チタン膜を形成することにより、本発明例1を作製した。
【0024】
本発明の被覆工具の基体と膜間の界面近傍のDarkSTEM像を図1に、その模式図を図2に示す。DarkSTEM像は透過した散乱電子を像化したもので、SEMと同様に、原子番号の大きい原子で構成されている部分ほど明るく写される特徴がある。図1では、試料が比較的厚いため、突起を形成する結晶粒が立体的に撮影されている。図2の模式図では、突起の領域を太い実線で表すとともに、突起を構成する結晶粒の粒界を点線で示した。
【0025】
図1、2よりWC粒子1間の結合相部2からキノコ状の突起3が膜中に突きだしていること、また、突起3は長径が50〜500nmの粒状結晶から構成されており、その粒界は明るく撮影されていることから、粒界は粒内よりも原子量の大きい元素を含有していることがわかる。また、WC粒子直上の層状部分4は主に柱状結晶粒により形成されており、図2中右側4部の右上部分より、その主な結晶粒の幅は25〜125nmと突起3の結晶粒幅よりも小さいことがわかる。また、突起3の上方の皮膜部分5は更に細かい組織を有していることもわかる。これらの部分をEDXで分析した結果、突起部3のTi、Co、W量はそれぞれ79.0、6.0、16.1質量%、WC直上部4は87.4、5.2、7.3質量%、上方部5は91.2、2.8、6.1質量%であった。これより、これらの主成分はいずれもTiであり、CoとWの含有量は突起部3、WC直上部4、上方部5の順に減少していくことがわかる。
【0026】
図3は図1と同じ部分をさらにイオンミリングすることにより更に薄層化した後撮影したDarkSTEM像で、図4はその模式図である。図3、4より、突起が粒状結晶粒群から構成されており、しかも結晶粒界が明るく撮影されていることから結晶粒界が原子量の大きい元素で構成されていることがより明瞭にわかる。また、EDXでスポット分析した結果、粒内はCoとWとが5.4と10.9質量%であるのに対して、幅が広い粒界からなる3重点部分(図4中の点6部分)は9.4と33.1質量%とWが特に豊富であった。これから粒界にWが偏析していることがわかる。この測定結果は、粒内のW/Co比が約2であるのに対して、粒界のW/Co比は3.5と大きく粒内の1.7倍以上であることを示している。
【0027】
図5は図3、4の領域におけるWの分布をEDXにより分析した元素マッピング図である。図5においてWの分布は図3、4に見られる前記粒界の編み目構造とほぼ一致しているおり、このことからも前記粒界にWが偏析していることがわかる。
【0028】
(実施例2)
基体表面から皮膜部内に突きだした突起が形成されているものの、突起が粒状結晶から構成されていない場合の工具寿命への影響を明らかにするため、実施例1と同じ超硬合金製スローアウェイチップを熱CVD炉内にセットし、500℃までH2:100vol%、圧力40kPaの雰囲気中で昇温した後、さらにN2:60vol%、CO:4vol%、残り:H2、圧力40kPaの雰囲気下で900℃まで昇温した。その後、熱CVD法により成膜温度900℃で、TiCl4ガス:1.5vol%、N2ガス:37vol%、残り:H2キャリヤーガスから成る混合ガスを反応炉内にトータル4000ml/分流し、成膜圧力15kPaで30分間反応させることにより厚さ0.8μmのTiN膜を形成した。続いて、実施例1と同じ条件でTiCN膜、TiC膜、TiCO膜、酸化アルミニウム膜、TiN膜を実施例1と同じ膜厚だけ成膜することにより、参考例2を作製した。
【0029】
実施例1と同様に撮影した基体/膜間のDarkSTEM像を図6に、その模式図を図7に示す。図6、7より、基体表面から皮膜中に突きだした多数の突起が見られ、特に、WC粒子1間の結合相部2からキノコ状の突起3が膜中に突きだしていること、また、これらの突起は粒状ではなく微細な結晶組織を有していることがわかる。EDXでTiとCo、W量を分析の結果、突起部分3はそれぞれ66.1、11.2、22.7質量%であり、WC直上部4は72.2、13.7、14.1質量%、上方部5は73.0、15.5、11.5質量%であった。このことから、それぞれの部分の主成分はTiであり、本発明例の突起部3のCoとWの含有量はWC直上部4や上方の膜部5よりも少ないことがわかる。また、EDXによる元素マッピングでは突起部3の粒界にWの偏析は検出されなかった。
【0030】
(比較例3)
基体表面から皮膜部内に突きだした突起が形成されていない場合の影響をあきらかにするため、実施例1、2と同じ超硬合金製スローアウェイチップを熱CVD炉内にセットし、500℃までH:100vol%で圧力が26.3kPaの雰囲気中で昇温した後、さらにN:80vol%、残り:Hの大気圧下で900℃まで昇温した。その後、熱CVD法により成膜温度900℃で、TiClガス:1.5vol%、Nガス:90vol%、残り:Hキャリヤーガスから成る混合ガスを反応炉内にトータル4000ml/分流し、成膜圧力6.6kPaで30分間反応させることにより厚さ0.8μmのTiN膜を形成した。続いて、実施例1、2と同じ条件でTiCN膜、TiC膜、TiCO膜、酸化アルミニウム膜、TiN膜を実施例1、2と同じ膜厚だけ成膜することにより、比較例3を作製した。
【0031】
実施例1、2と同様に比較例3の基体/膜間のDarkSTEM像を撮影したが、WC粒子の表面上と結合相部の表面上のいずれにも、膜中に突きだした突起は見られなかった。
【0032】
上記のようにして得られた本発明例1、2と比較例3の基体/皮膜間の密着性を評価するため、これらの被覆工具を用いて、以下の条件で断続切削することにより、欠損に至るまでの断続切削可能回数を評価した。刃先先端の欠け状況は倍率50倍の実体顕微鏡で観察した。
被削材:S53C溝入材(HS38)
切削条件:220m/min
送り:0.4mm/rev
切り込み:2.0mm
切削液使用せず(乾式切削)
【0033】
また、同様に、本発明例1、2と比較例3の被覆工具の耐摩耗性を評価するため、これらの試料を以下の条件で連続切削し、工具寿命に至るまでの連続切削可能時間を評価した。工具寿命は、連続切削中、毎分ごとに、逃げ面摩耗量を倍率200倍の光学顕微鏡により観察し、平均逃げ面摩耗量が0.3mmに達した時間を連続切削可能時間すなわち工具寿命と判断した。
被削材:FC25(HB230)
切削速度:300m/min
送り:0.3mm/rev
切り込み:2.0mm
切削液水溶性液を使用
【0034】
上記の切削試験の結果を表1にまとめて示す。
【0035】
【表1】
Figure 0004831717
【0036】
表1の「断続切削可能回数」欄より、比較例3の断続切削可能回数が650回であるのに対して、本発明例1、参考例2はそれぞれ1300と900回であり、それぞれ約2倍と1.4倍優れていることがわかる。すなわち、基体表面から皮膜部内に突起が突きだしている本発明例の基体/膜間の密着性と工具寿命が優れていることがわかる。また、本発明例1と参考例2とを比較することにより、基体表面から膜中に突きだしている突起が粒状の結晶粒群から成っており、その粒界にWが偏析している本発明例1の方が、粒状でない参考例2よりも更に1.4倍工具寿命が優れており、更に好ましいことがわかる。
【0037】
また、表1の「連続切削可能時間」欄より、比較例3の連続切削可能時間が40分であるのに対して、参考例2は45分、本発明例1は60分とそれぞれ長く耐摩耗性が優れていることがわかる。さらには、本発明例1の連続切削可能時間は比較例3の1.5倍、参考例2の1.3倍であり、突起よりもより外層側にある膜中に含有されている基体主成分の量、即ちWやCoの含有量が上記突起中の含有量よりも少ないと、膜の耐摩耗性が更に優れ、更に優れた工具寿命が得られることがわかる。
【0038】
【発明の効果】
上述のように、本発明によれば、基体表面から皮膜部内に突出した突起が形成されていることにより、従来に比して基体と膜間の密着性と耐摩耗性が良く、工具寿命の優れた被覆工具を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明例1の被覆工具の基体と膜間の界面近傍のDarkSTEM像を示す。
【図2】図2は、図1の主要部の模式図を示す。
【図3】図3は、図1と同じ部分をさらにイオンミリングすることにより更に薄層化した後撮影したDarkSTEM像を示す。
【図4】図4は、図3の主要部の模式図を示す。
【図5】図5は、図3の元素マッピング、Wの分布、を示す。
【図6】図6は、参考例2の被覆工具の基体と膜間の界面近傍のDarkSTEM像を示す。
【図7】図7は、図6の主要部の模式図を示す。

Claims (4)

  1. 主たる成分が周期率表の4a、5a、6a族の炭化物、窒化物、炭窒化物の1種または2種以上の硬質相とFe、Ni、Co、Mo、Crの1種または2種以上の結合相とよりなる硬質基体の表面に、周期律表の4a、5a、6a属金属およびAlの炭化物、窒化物、酸化物、硼化物、酸炭化物、酸窒化物、酸炭窒化物、炭硼化物、窒硼化物、炭窒硼化物から選ばれた単層皮膜または2種以上の多層皮膜が被覆されており、基体表面から皮膜部方向に突きだした突起が形成され、上記突起内の粒界に上記硬質相の主成分が偏析していることを特徴とする被覆工具。
  2. 請求項1記載の被覆工具において、上記突起が粒状の結晶粒から成っていることを特徴とする被覆工具。
  3. 請求項1又は2記載の被覆工具において、上記突起中に含有される基体主成分の量がより外層側の膜中に含有される基体主成分量よりも多いことを特徴とする被覆工具。
  4. 請求項1乃至いずれかに記載の被覆工具において、上記硬質相と結合の主成分がそれぞれWとCoであることを特徴とする被覆工具。
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