JP4831495B2 - 磁気フィルター - Google Patents

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本発明は、磁気フィルターに関する。さらに詳細には、多孔質アルミナに多数分布している細孔に磁性体材料を充填することによって、磁性体を微小磁性体に細分化せしめるとともに、アルミナ表面に均一且つ高密度に分布せしめ、磁場中に設置したときに大きな磁場勾配が形成され、液体(または気体)からの粒子の分離効率を高めた磁気フィルターに関する。
磁場中に置いた磁気フィルターが作る磁気力を利用し、懸濁液から微粒子を吸着分離する技術を磁気分離といい、工業排水の浄化等へ応用されている(非特許文献1、2参照)。
磁気フィルターを使用した磁気分離装置は、図1にその概略図を示すように、ポンプが接続された排液パイプないしは排気パイプ途中に磁気フィルターを設定し、その外側周辺に磁石を設置して、磁気フィルターに磁場をかけ、パイプの一端からポンプアップした液体を通液せしめ、磁気フィルターを通過したときに粒子が磁気フィルターに補足され、液体だけが出口側から排出されるシステムからなるものである。このシステムにおいては、ポンプにより磁気フィルターに送られた懸濁液は、外部磁場により磁化された磁気フィルターを通過する際に磁気力により液中の微粒子が吸着され浄化された液体が排水される。なお、図1では被処理物は、懸濁液としたが、その対象は液体に限るものではなく微粒子を含む気体でも良い。
使用される磁気フィルターの形状にはいろいろあるが、図1で示すものは円形フレームに磁性体細線がメッシュ状に帳設され、これがパイプに多数取り付けられ、液体がメッシュを抜けて排出されるように構成されている。この磁気フィルターを用いた磁気分離を高勾配磁気分離といい、現段階では、この構造のものが最もポピュラーであり、強い磁気力が得られるといわれ、その原理等を含め高勾配磁気分離システムの概要については学術文献に記載されている(たとえば、非特許文献3 )。
三橋和成、吉崎亮造、岡田秀彦、小原健司、和田仁:分析化学、vol.52、No.2、p.121、日本分析化学会、2003年。 小原健司、三橋和成、和田仁、熊倉浩明、岡田秀彦:vol.39、No.6、p.24、日本材料科学会、2002年12月20日。 小原健司、渡辺恒雄、西島茂宏、岡田秀彦、佐保典英:応用物理、vol.71、No.1、p.57、日本応用物理学会、2002年。
磁気分離を効率良く行うには強い磁気力を得ることが重要である。一般に、磁気力は、(磁場の強さ)×(粒子の大きさ)×(磁場勾配)に比例する。粒子の大きさは浄化したい懸濁液によるため、磁気力を向上させ分離効率をあげるためには磁場を強くするか磁場勾配を大きくすることが重要である。粒子には拡散力があり、これは粒子が小さいほど大きくなる。上の式から粒子が小さいほど磁気力は小さくなる。従って磁気分離により分離できる粒子の大きさには限界があり、磁気力を上回る拡散力をもつ微粒子は分離できない。これを解決するためには結局、磁場の強さを大きくするか、磁場勾配を大きくする外はなく、これらを大きくすれば、より小さな微粒子を分離することができる。
磁場中に置かれた磁性体の作る磁場勾配は、一般に磁性体が微小になるほど大きくなる。例えば半径aの円柱が側面に垂直に磁化されて磁化Mをもつ場合、磁場勾配はM/aであることが知られている。
図1で示した高勾配磁気分離システムでは磁場勾配を大きくするために金属細線のメッシュを磁気フィルターに用いているが、使用されている細線の直径はせいぜい百μm程度であり、それ以下のものを作製し、求めることは経済的、技術的に困難であった。
すなわち、従来の磁気フィルターは、磁性体金属の細線からなるメッシュを積層させたものや、エキスパンドメタル等が用いられている。しかしながら、これらは何れも微細な線を作ることが困難であり、そこには経済的、技術的に限界があった。
従来の磁気フィルターは、如上の現状であり、その細線構造には限界があり、したがって得られる磁気力にも限界があった。そのため、磁気分離効率を向上させようとするにおいては充分でなく、更なる効率のアップが求められていた。本発明はこれに応えようとするものである。すなわち、本発明は、磁性体の微細化を可能とする簡単でしかも製造効率的にも再現性のあるすぐれた手段によって磁気フィルターを提供しようというものである。さらにまた、これによって、磁場勾配を飛躍的に増大させた、磁気分離効率の大幅アップを可能とする磁気フィルターを提供しようというものである。
そのため本発明者らにおいては、鋭意研究した結果、アルミニウムを陽極酸化させることにより得られてなる多孔質アルミナの微細孔中に磁性体を充填することによって、細分化された均一且つ高密度に分布した微小磁性体を設計することができること、これによって、これまでのメッシュ構造等の磁気フィルターに比し分離効率の高い磁気フィルターを容易に得ることが出来ることを見いだした。本発明は、この知見に基づいてなされたものである。
発明1は、液体又は気体の透過流路を有する磁性体構造により構成された磁気フィルターであって、前記磁性体構造は、陽極酸化を施したアルミニウムワイヤー表面に分布している径が15〜50nmの微細細孔に磁性体が充填された後、酸により陽極皮膜の一部を溶出し前記磁性体の一部が露出されてなる前記アルミニウムワイヤーの多数本が、その中心線方向を揃えて結束され、前記アルミニウムワイヤー間に生じた間隙が前記透過流路とされてなることを特徴とする磁気フィルターを提供する
発明は、発明1の磁気フィルターにおいて、その磁性体が、鉄、Co、Niの一種又は2種以上からなることを特徴とする磁気フィルターを提供する

本発明の磁気フィルターは、陽極酸化法による多孔質アルミナを利用して直径がnmオーダーの微細細線構造に設計することができ、高いコストのかかる従来法のものに比し、コスト的に安く、性能的にもはるかに大きな磁気力を発生させることが可能となった。その製作プロセスは、電解液中で電流を流すだけで作製できるため、低コストで大面積のものが容易に作製できるものである。これによって磁気分離を高能率化し、高速かつ大量の処理を行うことができ、従来の磁気フィルターでは分離することが困難であった超微粒子をも分離することができ、優れた作用効果が奏せられる。
加えて、従来の浄化法では物質の分離にフィルターを用いることが一般的である。フィルターには紙、活性炭、セラミック等いろいろなものがあるが、いずれにしても使用後に粒子の付着したフィルターを廃棄せざるをえない。これが2次廃棄物となり、特に放射性物質のような有害あるいは有用物質を処理した場合に問題となっている。磁気分離では磁場の印加を止めることにより粒子を容易に回収することができ、使用する磁気フィルターは原理的には何度でも再利用できる。従って2次廃棄物が発生しないため環境負荷が低く、廃棄物処理のコストが削減できるのも利点の一つに挙げられる。
ポーラスアルミナはアルミニウムを陽極酸化させることにより表面にできる皮膜で図2のような構造をもつ。穴の径は作製条件により変化し、約10nmから数百nmのものを作ることができる。また、酸化時間を変えることにより任意の長さの孔を作ることができる。この穴の中に電解析出等の方法により磁性体を充填し、図3(a)のような断面をもつものを作ることができる。電解析出時間を調整することによって図3(b)に示すようにアルミナの表面と同一水準面にすることができる。そして、電解析出操作終了後に酸等によりアルミナを一部溶解させることにより図3(c)に示すように直径が数十nmレベルから10nmレベルの細線がつきだした状態のものを作ることができる。
磁場中に置かれた磁性体の作る磁場勾配は、一般に磁性体が微小になるほど大きくなる。例えば半径aの円柱が側面に垂直に磁化されて磁化Mをもつ場合、磁場勾配はM/aであることは前述したとおりである。図1で示した高勾配磁気分離では磁場勾配を大きくするために金属細線のメッシュを磁気フィルターに用いているが、この細線の直径はせいぜい百μm程度であり、それ以下のものを作製することは困難であった。ところが、本発明のポーラスアルミナ中に充填した磁性体では、直径を約10nmまで小さくすることができるため、それの作る磁場勾配は飛躍的に向上し、高効率の磁気分離が実現できる。
磁気フィルターの形状、構造としては、例えば図4、図5に示されている。もちろんこれらの態様はあくまでも一つの具体的例を示すものであり、本発明はこれらの態様に限定されるわけではない。
微細な磁性体が充填されたアルミニウムの中実線、ワイヤーを用意し、これに上記したアルミナ化、磁性体充填等のプロセスからなる一連の処理を施し、表面に形成した微細な孔に磁性体が充填された線状体(1)、ワイヤーを得る。図4に示すように、このワイヤー(1)を液体が流れるカラムあるいはパイプ(2)の中に充填して、その線材(1)の間隙(3)を流路としたもの(図4)である。
さらに別の設計例としては、例えば、入り口に近い部分のアルミニウムに充填させる磁性体細線は、径が大きいもの、すなわち比較的磁気力が小さいものを配置し、出口に近づくにしたがって径の小さいもの、すなわち磁気力の大きいものを配置することにより、入り口付近で大きな粒子を捕獲し出口に近づくにつれ次第に小さな粒子を捕獲するように設計し、粒子を大きさ別に捕獲するように設計することも含まれ、このような設計によってより効率をあげることができる。本発明は、この態様も実施態様として含むものである。
以下、本発明を、図面及び実施例に基づいて説明するが、これらは本発明を要に理解するための一助として開示するものであり、本発明はこれらによって限定されるものではない。
実施例1;
始めにアルミニウム板を陽極酸化し多孔質アルミナを作製する。
先ず、99.99%のアルミニウムシートを用意し、アセトンで脱脂後図6に示す電解装置を用いて陽極酸化した。陰極にはカーボンを用い、電解液には10%硫酸または0.3Mシュウ酸を用いた。直流電源を用い、電圧は硫酸の場合28V、シュウ酸の場合40Vで約5時間陽極酸化処理を行った。図7に生成した多孔質アルミナのSEM像を示す。硫酸を用いた場合は約15nm(図7(a))、シュウ酸を用いた場合は約50nmの細孔が得られた(図7(b))。
さらに室温において同様の装置を用い磁性体の電解析出を行った。Niを充填する場合は120g/l硫酸ニッケル、40g/lホウ酸水溶液中で50Hzの交流電流を用い電解析出を行った。電圧は硫酸被膜の場合15V、シュウ酸被膜の場合28Vであった。また電解時間は30秒から10分であった。電解析出を5分間行った試料をリン酸溶液(5wt%)に十分な時間浸し、アルミナ部分を完全に溶解除去したもののSEM像を図8(a)に示す。このSEM像から多数の細線ができていることがわかる。シュウ酸被膜に10分析出させた試料は一部を5wt%リン酸溶液に適当な時間浸し、アルミナを一部溶解させ、Niの一部を露出するようにした。そのSEM像を図8(b)に示す。またNi電解液で電解析出した後の試料のX線回折パターンを図9に示す。これらのデータから、生成した細線は、Niから構成されてなるものであることが確認された。
以上によって作製されてなるNi細線、すなわち、Niを細孔に充填した多孔質アルミナの磁化過程を、SQUID磁束計を用い調べた。図10に例として硫酸溶液中で陽極酸化処理して得られたアルミナ被膜中の細孔にNiを充填させた試料の磁化曲線を示す。測定は300Kで行った。実線は面に垂直、すなわち細線に平行に磁場をかけた場合、点線は面に水平、すなわち細線に垂直に磁場をかけた場合のものである。いずれの場合も強磁性を示すことが確認された。強磁性であるため弱磁場においても効率的に磁場勾配を発生させることができる。
こうして作製した試料は、これを図4,5に示す態様の磁気フィルターに設定、使用することにより、効率の良い磁気分離を達成することができ、従来法によるものに比し、格段に優れた磁気分離が実現できるものであある。
実施例2;
実施例1に示したものと同じ方法でシュウ酸皮膜を作製した。これを基板とし、100mlの水に対してFeSO45g、ホウ酸2.5g、L+アスコルビン酸0.1g、グリセリン0.2mlを溶解した物に少量のアンモニア水を加えpHを5にしたものを電解液として用い、室温で29Vの交流を使い電解析出を行うことにより鉄の細線を作製した。これを300Kで磁化曲線を測定したところ図10のように強磁性を示す結果が得られた。但し、磁場は細線に平行に印加した。
電解液に硫酸コバルト10wt%、ホウ酸30g/l水溶液を用いたところコバルトの細線の作製に成功した。
磁気フィルターを使用した分離操作、液体や気体の微粒子除去操作は新しくしく、今後大いに期待がもてる技術である。特に近年、環境中の粒子系浮遊物は、問題となっており、その除去については厳しい基準が制定され、これまで以上に効率の良い除去手段が求められている。本発明は、このようなニーズに応えられる磁気分離手段を提供するものでありその意義は極めて大きい。今後各種廃液、排ガスの処理工程において、大いに普及し寄与することが期待される。
:磁気分離装置の概要システムを説明する図。 :陽極酸化による本発明の多孔質アルミナの構造を示す図。 :磁性体を充填させた多孔質アルミナの断面図。 :本発明の磁気フィルターの実施態様を示す斜視図。 :本発明の磁気フィルターを構成するワイヤーの実施態様を示す斜視図。 :磁気フィルター試料作成装置。 :ポーラスアルミナのSEM像。 (a):硫酸を使用した陽極酸化アルミナ皮膜のSEM像。 (b):シュウ酸を使用した陽極酸化アルミナ皮膜のSEM像。 :ポーラスアルミナ中にできたNi細線のSEM像。 (a):アルミナを完全に除去したもの。 (b):アルミナを一部除去したもの。 :Ni電解液で電解析出した細線試料のX線回折パターン :Niを充填したポーラスアルミナの磁化曲線。 :Feを充填したポーラスアルミナの磁化曲線。

Claims (2)

  1. 液体又は気体の透過流路を有する磁性体構造により構成された磁気フィルターであって、前記磁性体構造は、陽極酸化を施したアルミニウムワイヤー表面に分布している径が15〜50nmの微細細に磁性体が充填された後、酸により陽極皮膜の一部を溶出し前記磁性体の一部が露出されてなる前記アルミニウムワイヤーの多数本が、その中心線方向を揃えて結束され、前記アルミニウムワイヤー間に生じた間隙が前記透過流路とされてなることを特徴とする磁気フィルター
  2. 請求項1に記載された磁気フィルターにおいて、その磁性体が、鉄、Co、Niの一種又は2種以上からなることを特徴とする磁気フィルター
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