つぎにこの発明を具体例に基づいて説明する。図1に示す例は、伝達するべき動力(エネルギ)の形態を変更せずに設定できるいわゆる固定変速比として四つの前進段および一つの後進段を設定するように構成した例であり、特にエンジンなどの動力源1を車両の前後方向に向けて搭載するFR車(フロントエンジン・リヤドライブ車)に適するように構成した例である。すなわち、動力源1に連結されている入力部材2と同一の軸線上と、これに平行な軸線上とのそれぞれに、動力を分配し、また伝達および遮断する機構が配置されている。ここで、動力源1は、内燃機関や電気モータあるいはこれらを組み合わせた構成など、車両に使用されている一般的な動力源であってよい。なお、以下の説明では、動力源1を仮にエンジン1と記す。また、入力部材2はエンジン(E/G)1の出力した動力を伝達できる部材であればよく、ドライブプレートや入力軸であってよい。以下の説明では、入力部材2を入力軸2と記す。これらエンジン1と入力軸2と間に、ダンパーやクラッチ、トルクコンバータなどの適宜の伝動手段を介在させることができる。
前記各軸線上に配置されている機構は、入力された動力をそのまま出力し、あるいはその一部をそのまま出力するとともに、他の動力を、エネルギ形態を変換して出力し、さらには空転して動力の伝達を行わないように構成された伝動手段の一種である。図1に示す例では、差動機構とこれに反力を与えかつその反力の可変な反力機構とによって構成されている。差動機構は、要は、三つの回転要素によって差動作用を行うものであればよく、歯車やローラを回転要素とした機構であり、そのうちの歯車式差動機構としてはシングルピニオン型遊星歯車機構やダブルピニオン型遊星歯車機構を使用することができる。また、反力機構は、選択的にトルクを出力できる機構であればよく、油圧などの流体式のポンプモータや電気的に動作するモータ・ジェネレータなどを用いることができる。
図1に示す例では、差動機構としてシングルピニオン型遊星歯車機構が用いられ、また反力を生じさせるための反力機構(この発明のモータに相当する)として可変容量型油圧ポンプモータが用いられている。以下の説明では、エンジン1と同軸上の遊星歯車機構を仮に第2遊星歯車機構5と記し、また油圧ポンプモータを仮に第2ポンプモータ6と記す。さらに、これと平行に配置されている遊星歯車機構を仮に第1遊星歯車機構7と記し、また油圧ポンプモータを第1ポンプモータ9と記す。なお、第1ポンプモータ9を図にはPM1と記し、第2ポンプモータ6を図にはPM2と記すことがある。
第2遊星歯車機構5は、外歯歯車であるサンギヤS2と、これと同心円上に配置された内歯歯車であるリングギヤR2と、これらのサンギヤS2とリングギヤR2とに噛み合っているピニオンギヤを自転かつ公転自在に保持しているキャリヤC2とを回転要素とするシングルピニオン型のものである。そのリングギヤR2に入力軸2が連結されており、したがってリングギヤR2が入力要素となっている。またそのサンギヤS2に反力機構としての第2ポンプモータ6が接続されている。すなわち、サンギヤS2が反力要素となっている。
この第2ポンプモータ6は、押出容積を変更できる可変容量型であり、特に押出容積をゼロから正負の両方向に変化させることのできるいわゆる両振り型のものであり、第2遊星歯車機構5を挟んで前記入力軸2とは反対側に、これら遊星歯車機構5および入力軸2と同一軸線上に配置されている。この種の第2ポンプモータ6としては、各種の形式のものを採用することができ、例えば斜板ポンプや斜軸ポンプ、あるいはラジアルピストンポンプなどを用いることができる。
一方、第1遊星歯車機構7は、上記の第2遊星歯車機構5と同様の構成であって、サンギヤS1とリングギヤR1とこれらに噛み合っているピニオンギヤを自転および公転自在に保持しているキャリヤC1とを回転要素とし、これら三つの回転要素によって差動作用を行うシングルピニオン型の遊星歯車機構である。そのリングギヤR1が入力要素となり、またサンギヤS1が反力要素となり、さらにキャリヤC1が出力要素となっている。すなわち、前記入力軸2にカウンタドライブギヤ8Aが取り付けられており、これに噛み合っているカウンタドリブンギヤ8Bが第1遊星歯車機構7のリングギヤR1に連結されている。なお、この第1遊星歯車機構7と前述した第2遊星歯車機構5とは、軸線方向に互いにずれて配置され、半径方向で重ならないようになっている。これらのカウンタドライブギヤ8Aとカウンタドリブンギヤ8Bとからなるカウンタギヤ対(以下、仮に第1カウンタギヤ対と記す)8は、いわゆる入力用伝動機構を構成しており、これは、摩擦車を利用した伝動機構やチェーンもしくはベルトなどを使用した巻き掛け伝動機構に置き換えることができる。
さらに、第1遊星歯車機構7のサンギヤS1に反力機構としての第1ポンプモータ9が連結されている。この第1ポンプモータ9は、押出容積を変更できる可変容量型であり、図1に示す例では、押出容積をゼロから正負のいずれか一方向に変化させることのできるいわゆる片振り型のものであり、前記第1遊星歯車機構7に対してエンジン1側(図1の左側)に、第1遊星歯車機構7と同一軸線上に配置されている。また、この第1ポンプモータ9としては、上述した第2ポンプモータ6と同様に、斜板ポンプや斜軸ポンプ、あるいはラジアルピストンポンプなどを用いることができる。
上記の第1遊星歯車機構7および第1ポンプモータ9と同一の軸線上に第1ドライブ軸10と第2ドライブ軸11との二本のドライブ軸が配置されている。これらのうち一方のドライブ軸、例えば第2ドライブ軸11は中空構造であって、第1ドライブ軸10の外周側に相互に回転自在に嵌合している。そして、これらのドライブ軸10,11は第1遊星歯車機構7を挟んで第1ポンプモータ9とは軸線方向で反対側に配置されている。
第1ドライブ軸10は第1遊星歯車機構7のサンギヤS1に連結され、したがってサンギヤS1が出力要素となっている。また第2ドライブ軸11は第2遊星歯車機構5のキャリヤC2にトルク伝達可能に連結され、このキャリヤC2が出力要素となっている。すなわち、このキャリヤC2にカウンタドライブギヤ12Aが連結され、そのカウンタドライブギヤ12Aに噛み合っているカウンタドリブンギヤ12Bが第2ドライブ軸11に回転自在に嵌合して支持されている。これらのカウンタドライブギヤ12Aおよびカウンタドリブンギヤ12Bからなるカウンタギヤ対(以下、仮に第2カウンタギヤ対と記す)12は、いわゆる出力用伝動機構を構成しており、これは、摩擦車を利用した伝動機構やチェーンもしくはベルトなどを使用した巻き掛け伝動機構に置き換えることができる。
各ドライブ軸10,11から動力が伝達されるドリブン軸13は、各ドライブ軸10,11と平行になるように、前記入力軸2や第2遊星歯車機構5および第2ポンプモータ6と同一軸線上に配置されている。したがって、図1に示す変速機はいわゆる二軸構造になっている。これら各ドライブ軸10,11とドリブン軸13との間には、異なる変速比を設定するための複数の伝動機構が設けられている。これらの各伝動機構は、トルクの伝達に関与した場合にそれぞれの回転数比に応じて、入力軸2とドリブン軸13との間の変速比を設定するためのものであり、歯車機構や巻き掛け伝動機構、摩擦車を使用した機構などを採用することができる。図1に示す例では、前進走行のための四つのギヤ対14,15,16,17と後進走行のためのギヤ対18とが設けられている。
前記の第1ドライブ軸10は、中空構造の第2ドライブ軸11の端部から突出しており、その突出した部分に第1速駆動ギヤ14Aと第3速駆動ギヤ16Aとリバース駆動ギヤ18Aとが取り付けられている。その配列順序は、第1ドライブ軸10の先端(図1の右端)側から、リバース駆動ギヤ18A、第1速駆動ギヤ14A、第3速駆動ギヤ16Aの順であり、これは、ギヤ比の大きい順(ピット円半径の小さい順、もしくは歯数の少ない順)である。このような配列とすることにより、第1ドライブ軸10の先端部を支持する軸受(図示せず)に掛かる荷重を相対的に低荷重とし、軸受を小型化することができる。また、第2ドライブ軸11には、その先端側(図1の右側)から順に、第2速駆動ギヤ15Aおよび第4速駆動ギヤ17Aが取り付けられている。したがって、第1および第2のドライブ軸10,11の一方には、奇数段の駆動ギヤが取り付けられ、他方には偶数段の駆動ギヤが取り付けられている。言い換えれば、第1ドライブ軸10に第2速および第4速の駆動ギヤを取り付け、第2ドライブ軸11に第1速および第3速の駆動ギヤを取り付けてもよい。
上記の各ギヤ対14,15,16,17,18における従動ギヤ14B,15B,16B,17B,18Bが、ドリブン軸13に回転自在に嵌合して支持されている。すなわち、第1速従動ギヤ14Bは上記の第1速駆動ギヤ14Aに噛み合った状態でドリブン軸13に回転自在に嵌合している。また、第3速従動ギヤ16Bは、第3速駆動ギヤ16Aに噛み合った状態でドリブン軸13に回転自在に嵌合し、かつ第1速従動ギヤ14Bに隣接して配置されている。さらに、第2速従動ギヤ15Bは、第2速駆動ギヤ15Aに噛み合った状態でドリブン軸13に回転自在に嵌合し、かつ第3速従動ギヤ16Bに隣接して配置されている。そして、第4速従動ギヤ17Bは、第4速駆動ギヤ17Aに噛み合った状態でドリブン軸13に回転自在に嵌合し、かつ第2速従動ギヤ15Bに隣接して配置されている。一方、リバース従動ギヤ18Bはドライブ軸11に回転自在に嵌合しており、このリバース従動ギヤ18Bとリバース駆動ギヤ18Aとの間にはアイドルギヤ18Cが配置され、リバース駆動ギヤ18Aの回転方向とリバース駆動ギヤ18の回転方向とが同じになるように構成されている。したがって、第1速ないし第4速のギヤ対14,15,16,17が前進速伝動機構に相当し、リバースギヤ対18が後進速伝動機構に相当する。
これらのギヤ対14,15,16,17,18を選択的に動力伝達可能な状態にするための切換機構が設けられている。この切換機構は、各ギヤ対14,15,16,17,18をいずれかのドライブ軸10,11とドリブン軸13とに選択的に連結する機構であり、したがって従来の手動変速機などにおける同期連結機構(シンクロナイザー)を使用することができ、あるいは噛み合いクラッチ(ドグクラッチ)や摩擦式クラッチなどを使用することができる。また、上記の従動ギヤをドリブン軸13に一体的に取り付けた場合には、駆動ギヤをドライブ軸に対して回転自在とし、その駆動ギヤをドライブ軸に対して選択的に連結するようにドライブ軸側に切換機構を設けることができる。
図1に示す例では、切換機構として同期連結機構が使用されており、上記の第1速従動ギヤ14Bと第3速従動ギヤ16Bとの間に第1シンクロ19が配置され、また第2速従動ギヤ15Bと第4速従動ギヤ17Bとの間に第2シンクロ20が配置され、さらにリバース従動ギヤ18Bに隣接してリバース(R)シンクロ21が設けられている。これらのシンクロ19,20,21は、従来の手動変速機で用いられているものと同様であって、ドリブン軸13に一体のハブにスリーブがスプライン嵌合され、そのスリーブを軸線方向に移動することにより次第にスプライン嵌合するチャンファーもしくはスプラインが各従動ギヤに一体に設けられ、さらにスリーブの移動に伴って、従動ギヤ側の所定の部材に次第に摩擦接触して回転を同期させるリングが設けられている。
したがって第1シンクロ19は、そのスリーブ19Sを図1の右側に移動させることにより、第1速従動ギヤ17Bをドリブン軸13に連結し、またスリーブ19Sを図1の左側に移動させることにより、第3速従動ギヤ16Bをドリブン軸13に連結し、さらにスリーブ19Sを中央に位置させることにより、いずれの従動ギヤ14B,16Bとも係合せずにニュートラル状態となるように構成されている。また、第2シンクロ20は、そのスリーブ20Sを図1の右側に移動させることにより、第2速従動ギヤ15Bをドリブン軸13に連結し、またスリーブ20Sを図1の左側に移動させることにより、第4速従動ギヤ17Bをドリブン軸13に連結し、さらにスリーブ20Sを中央に位置させることにより、いずれの従動ギヤ15B,17Bとも係合せずにニュートラル状態となるように構成されている。さらに、リバースシンクロ21は、そのスリーブ21Sを図1の左側に移動させることにより、リバース従動ギヤ18Bをドリブン軸13に連結するように構成されている。
さらに、車両の発進の際に第2ポンプモータ6とドリブン軸13とを連結する発進用伝動機構が設けられている。すなわち、第2ポンプモータ6に対して動力を出し入れするロータ軸6Aもしくはこれを第2遊星歯車機構5のサンギヤS2に連結している軸に、カウンタドライブギヤ30Aが取り付けられており、このカウンタドライブギヤ30Aに噛み合っているカウンタドリブンギヤ30Bが第2ドライブ軸11に回転自在に嵌合して支持されている。これらのカウンタドライブギヤ30Aとカウンタドリブンギヤ30Bとからなるカウンタギヤ対(以下、仮に第3カウンタギヤ対と記す)30は、前述した第2カウンタギヤ対12と軸線方向で隣接して配置されており、したがってそれぞれのドリブンギヤ12B,30Bが、第2ドライブ軸11上で互いに隣接している。
これらのドリブンギヤ12B,30Bの間に第2ドライブ軸11に対してこれらのドリブンギヤ12B,30Bを選択的に連結する切換機構が設けられている。この切換機構は、同期連結機構(シンクロナイザー)や噛み合いクラッチ(ドグクラッチ)もしくは摩擦式クラッチからなるものであって、図1には同期連結機構からなるスタート(S)シンクロ22が記載されている。このスタートシンクロ22は、この発明の発進用切換機構に相当し、ドリブン軸13に一体のハブにスプライン嵌合したスリーブ22Sを備えており、このスリーブ22Sを挟んだ両側に、各ドリブンギヤ12B,30Bに一体化させたスプラインが配置されている。したがって、スリーブ22Sを軸線方向に移動させることにより、そのスリーブ22Sがいずれかのスプラインに嵌合して、いずれかのドリブンギヤ12B,30Bを第2ドライブ軸11に連結するように構成されている。
上記の各スリーブ19S,20S,21S,22Sは、図示しないリンケージを介して手動操作によって切換動作させるように構成することができ、あるいはそれぞれに個別に設けたアクチュエータ23,24,25,26によって切換動作させるように構成することができる。また、上記の各ポンプモータ6,9の押出容積を電気的に制御するため、また各アクチュエータ23,24,25,26を電気的に制御するための電子制御装置(ECU)27が設けられている。この電子制御装置27は、マイクロコンピュータを主体として構成され、入力されたデータや予め記憶しているデータおよびプログラムに従って演算を行い、押出容積を設定し、あるいはシンクロ19,20,21,22を動作させるための指令信号を出力するようになっている。
なおここで、各ポンプモータ6,9に関する油圧回路について簡単に説明すると、図2に示すように、これらのポンプモータ6,9は閉回路によって連通されている。すなわち、各ポンプモータ6,9の吸入ポート6S,9S同士が油路28によって連通され、また吐出ポート6D,9D同士が油路29によって連通されている。その吸入ポートとは、前進走行する際に遊星歯車機構に対して反力を与えるように押出容積を設定した場合に、相対的に低圧となるポートであり、これとは反対に相対的に高圧となるポートが吐出ポートである。なお、圧油の不可避的な漏洩が生じるから、圧油の補給を行うチャージポンプ(図示せず)を上記の閉回路に接続してもよい。
したがって上記の変速機は、互いに平行な二つの軸線上にドライブ軸やドリブン軸、各差動機構を配置した構成であるから、外径を小さくして車載性を向上させることができ、特に車両の前後方向に向けて配置する場合の車載性を向上させることができる。さらに、第2のモータのロータ軸は、第2の差動機構における反力要素とドリブン軸とに連結されるが、これと平行な軸線上に配置されている他の回転部材を介してドリブン軸に連結されるように構成されているので、第2のモータの配置の自由度が高くなり、またロータ軸が一方向にのみ突き出た構成のモータを使用できるので、その構成を簡素化して信頼性の高いものとすることができ、また小型化することができる。
つぎに、上述した変速機の作用について説明する。図3は、いずれかのギヤ対14,15,16,17,18のギヤ比で決まる各変速段を設定する際の第1および第2のポンプモータ(PM1,PM2)6,9、および各シンクロ19,20,21,22の動作状態をまとめて示す図表であって、この図3における各ポンプモータ6,9についての「0」は、ポンプ容量(押出容積)を実質的にゼロとし、そのロータ軸が回転させられても圧油を発生することがなく、また油圧が供給されても出力軸が回転しない状態(フリー)を示し、「LOCK」はそのロータの回転を止めている状態を示している。さらに「PUMP」は、ポンプ容量を実質的なゼロより大きくするとともに圧油を吐出している状態を示し、したがって該当する第1あるいは第2のポンプモータ6,9はポンプとして機能している。また、「MOTOR」は、一方のポンプモータ6(もしくは9)が吐出した圧油が供給されてモータとして機能している状態を示し、したがって該当する油圧ポンプモータ9(もしくは6)は軸トルクを発生している。
そして、各シンクロ19,20,21,22についての「右」、「左」は、それぞれのスリーブ19S,20S,21S,22Sの図1での位置を示すとともに、丸括弧はダウンシフトするための待機状態、カギ括弧はアップシフトするための待機状態を示し、そして「N」は該当するシンクロ19,20,21,22をOFF状態(中立位置)に設定している状態を示し、斜体の「N」は引き摺りを低減するためOFF状態(中立位置)に設定していることを示す。
ニュートラルポジションが選択されてニュートラル状態を設定する際には、各ポンプモータ6,9の押出容積がゼロとされ、また各シンクロ19,20,21,22が「OFF」状態とされる。すなわちそれぞれのスリーブ19S,20S,21S,22Sが中央位置に設定される。したがって、いずれのギヤ対14,15,16,17,18もドリブン軸13に連結されていないニュートラル状態となる。その結果、各ポンプモータ6,9がいわゆる空回り状態となる。したがって、各遊星歯車機構5,7のリングギヤR2,R1にエンジン1からトルクが伝達されても、サンギヤS2,S1に反力が作用しないため、出力要素であるキャリヤC2,C1に連結されている各ドライブ軸10,11にはトルクが伝達されない。
シフトポジションがドライブポジションなどの走行ポジションに切り替えられると、第1シンクロ19および第2シンクロ20の各スリーブ19S,20Sが図1の右側に移動させられるとともに、スタートシンクロ22のスリーブ22Sが図1の右側に移動させられる。したがって、第1速従動ギヤ14Bと第2速従動ギヤ15Bがドリブン軸13にそれぞれ連結され、その結果、第1ドライブ軸10とドリブン軸13とが第1速ギヤ対14を介して連結され、また第2ドライブ軸11とドリブン軸13とが第2速ギヤ対15を介して連結される。すなわち、ギヤ対の連結状態としては、第1速と第2速とを設定する状態となる。また、第3カウンタギヤ対30のドリブンギヤ30Bが第2ドライブ軸11に連結されるので、第3カウンタギヤ対30を介して前記ロータ軸6Aと第2ドライブ軸11がトルク伝達可能に連結される。なお、第2ドライブ軸11は第2速ギヤ対15および第2シンクロ20によってドリブン軸13に連結されているから、結局、ロータ軸6Aはドリブン軸13に連結される。
この状態では、車両が未だ停止しているので、各遊星歯車機構7,5では、キャリヤC1,C2が停止している状態でリングギヤR1,R2にエンジン1から動力が入力され、したがってサンギヤS1,S2がそれぞれのリングギヤR1,R2の回転方向とは反対の方向に回転する。この状態で、各ポンプモータ9,6の押出容積を次第に大きくすると、先ず、第1ポンプモータ9の回転数が第2ポンプモータ6の回転数より高回転数であることにより第1ポンプモータ9がポンプとして機能し、油圧を発生する。それに伴う反力が第1遊星歯車機構7におけるサンギヤS1に作用するので、キャリヤC1にこれをリングギヤR1と同方向に回転させるトルクが現れる。その結果、第1速ギヤ対14を介してドリブン軸13に動力が伝達される。
上記の第1ポンプモータ9はいわゆる逆回転してポンプとして機能しているから、その吸入ポート9Sから圧油を吐出し、これが第2ポンプモータ6の吸入ポート6Sに供給される。その結果、第2ポンプモータ6がモータとして機能し、そのロータ軸6Aからいわゆる正回転方向のトルクが出力され、そのトルクが第3カウンタギヤ対30および第2ドライブ軸11ならびに第2速ギヤ対15を介してドリブン軸13に伝達される。すなわち、エンジン1から入力された動力の一部が第1遊星歯車機構7および第1速ギヤ対14を介してドリブン軸13に伝達され、また他の動力が圧油の流動の形にエネルギ変換され、これが第2ポンプモータ6に伝達され、さらにこの第2ポンプモータ6からドリブン軸13に伝達される。このように発進時には、いわゆる機械的な動力伝達と流体を介した動力伝達が行われ、ドリブン軸13にはこれらの動力を合算した動力が出力される。したがってドリブン軸13が出力部材もしくは出力軸となっている。
このような動力の伝達状態では、ドリブン軸13に現れるトルクは、第1速ギヤ対14を介した機械的伝達のみの場合のトルクより大きくなり、したがって変速機の全体としての変速比は、第1速ギヤ対14によって決まるいわゆる固定変速比より大きくなる。また、その変速比は、流体を介した動力の伝達割合に応じて変化する。そのため、第1遊星歯車機構7におけるサンギヤS1およびこれに連結されている第1ポンプモータ9の回転数が次第にゼロに近づくのに従って流体を介した動力伝達の割合が低下し、変速機の全体としての変速比は第1速の固定変速比に近づく。そして、第1ポンプモータ9の押出容積が最大まで増大してその回転が停止することにより、固定変速比である第1速となる。
この状態で第2ポンプモータ6の押出容積がゼロに設定されるので、第2ポンプモータ6が空転するとともに、第1ポンプモータ9がロックされてその回転が止められる。すなわち、各ポンプモータ9,6を連通させている閉回路が第2ポンプモータ6によって閉じられることになるので、押出容積が最大になっている第1ポンプモータ9は圧油を供給および吐出できなくなり、その回転が止められる。その結果、第1遊星歯車機構7のサンギヤS1にはこれを固定するトルクが作用することになる。そのため、第1遊星歯車機構7ではサンギヤS1を固定した状態でリングギヤR1に動力が入力されるので、出力要素であるキャリヤC1にはこれをリングギヤR1と同方向に回転させるトルクが生じ、これが第1ドライブ軸10および第1速ギヤ対14を介して、出力軸としてのドリブン軸13に伝達される。こうして固定変速比である第1速が設定される。
この第1速の状態で第2シンクロ20をOFF状態に設定すれば、すなわちそのスリーブ20Sを中立位置に設定すれば、第2ポンプモータ6を連れ回すことがないので、いわゆる引き摺りによる動力の損失を回避することができる。また、第2シンクロ20のスリーブ20Sを図1の右側に移動させたまま、スタートシンクロ22のスリーブ22Sを図1の左側に移動させて、第2カウンタギヤ対12のドリブンギヤ12Bを第2ドライブ軸11に連結すれば、第2遊星歯車機構5の出力要素であるキャリヤC2が第2ドライブ軸11に連結されるので、固定変速比である第2速へのアップシフト待機状態となる。一方、スタートシンクロ22のスリーブ22Sを図1の右側に移動させてロータ軸6と第2ドライブ軸11との間でトルクを伝達できる状態にしておけば、第1速より大きい変速比を設定するダウンシフト待機状態となる。
第1速から第2速へのアップシフト待機状態では第2ポンプモータ6およびこれに連結されているサンギヤS2がリングギヤR2とは反対の方向に回転している。したがって第2ポンプモータ6の押出容積を正の方向に増大させると、第2ポンプモータ6がポンプとして機能し、それに伴う反力がサンギヤS2に作用する。その結果、リングギヤR2に入力されたトルクとサンギヤS2に作用する反力とを合成したトルクがキャリヤC2に作用し、これが正回転し、かつその回転数が次第に増大する。言い換えれば、エンジン1の回転数が次第に引き下げられる。そのキャリヤC2から第2カウンタギヤ対12および第2ドライブ軸11ならびに第2速ギヤ対15を介してドリブン軸13にトルクが伝達される。
第2ポンプモータ6がポンプとして機能することにより発生した圧油はその吸入ポート6Sから第1ポンプモータ9の吸入ポート9Sに供給される。そのため、第1ポンプモータ9がモータとして機能して正回転方向にトルクを出力し、これが第1遊星歯車機構7のサンギヤS1に作用する。第1遊星歯車機構7のリングギヤR1にはエンジン1から動力が入力されているので、そのトルクとサンギヤS1に作用するトルクとが合成されてキャリヤC1から第1ドライブ軸10に出力される。すなわち、油圧を介した動力伝達が、機械的な動力伝達と並行して生じ、ドリブン軸13にはこれらの動力を合算した動力が伝達される。そして、第2ポンプモータ6の回転数が次第に低下することにより、第2遊星歯車機構5および第2速ギヤ対15を介した機械的動力伝達の割合が次第に増大し、変速機の全体としての変速比は、第1速ギヤ対14で決まる変速比から第2速ギヤ対15で決まる変速比に次第に低下する。その変化は、上述した発進後に固定変速比である第1速に変化する場合と同様に、連続的な変化となる。すなわち、無段変速となる。そして、第2ポンプモータ6の押出容積が最大まで増大してその回転が停止することにより、固定変速比である第2速となる。
この状態で第1ポンプモータ9の押出容積がゼロに設定されるので、第1ポンプモータ9が空転するとともに、第2ポンプモータ6がロックされてその回転が止められる。すなわち、各ポンプモータ6,9を連通させている閉回路が第1ポンプモータ9によって閉じられることになるので、押出容積が最大になっている第2ポンプモータ6は圧油を供給および吐出できなくなり、その回転が止められる。その結果、第2遊星歯車機構5のサンギヤS2にはこれを固定するトルクが作用することになる。そのため、第2遊星歯車機構5ではサンギヤS2を固定した状態でリングギヤR2に動力が入力されるので、出力要素であるキャリヤC2にはこれをリングギヤR2と同方向に回転させるトルクが生じ、これが第2カウンタギヤ対12および第2ドライブ軸11ならびに第2速ギヤ対15を介して、出力軸としてのドリブン軸13に伝達される。こうして固定変速比である第2速が設定される。
この第2速の状態で第1シンクロ19をOFF状態に設定すれば、すなわちそのスリーブ19Sを中立位置に設定すれば、第1ポンプモータ9を連れ回すことがないので、いわゆる引き摺りによる動力の損失を回避することができる。また、第1シンクロ19のスリーブ19Sを図1の左側に移動させて第3速従動ギヤ16Bをドリブン軸13に連結すれば、固定変速比である第3速へのアップシフト待機状態となる。一方、第1シンクロ19のスリーブ19Sを図1の右側に移動させて第1速従動ギヤ14Bをドリブン軸13に連結しておけば、第1速へのダウンシフト待機状態となる。
第2速から第3速へのアップシフト待機状態では第1ポンプモータ9およびこれに連結されているサンギヤS1がリングギヤR1とは反対の方向に回転している。したがって第1ポンプモータ9の押出容積を正の方向に増大させると、第1ポンプモータ9がポンプとして機能し、それに伴う反力がサンギヤS1に作用する。その結果、リングギヤR1に入力されたトルクとサンギヤS1に作用する反力とを合成したトルクがキャリヤC1に作用してこれが正回転し、そのトルクが第1ドライブ軸10および第3速ギヤ対16を介して出力軸であるドリブン軸13に伝達される。また、変速比の低下に伴ってエンジン1の回転数が次第に引き下げられる。
第1ポンプモータ9がポンプとして機能することにより発生した圧油はその吸入ポート9Sから第2ポンプモータ6の吸入ポート6Sに供給される。そのため、第2ポンプモータ6がモータとして機能して正回転方向にトルクを出力し、これが第2遊星歯車機構5のサンギヤS2に作用する。第2遊星歯車機構5のリングギヤR2にはエンジン1から動力が入力されているので、そのトルクとサンギヤS2に作用するトルクとが合成されてキャリヤC2から第2カウンタギヤ対12を介して第2ドライブ軸11に出力される。すなわち、油圧を介した動力伝達が、機械的な動力伝達と並行して生じ、ドリブン軸13にはこれらの動力を合算した動力が伝達される。そして、第1ポンプモータ9の回転数が次第に低下することにより、第1遊星歯車機構7および第3速ギヤ対16を介した機械的動力伝達の割合が次第に増大し、変速機の全体としての変速比は、第2速ギヤ対15で決まる変速比から第3速ギヤ対16で決まる変速比に次第に低下する。その変化は、上述した発進後に固定変速比である第1速に変化する場合や第1速から第2速にアップシフトする場合と同様に、連続的な変化となる。すなわち、無段変速となる。そして、第1ポンプモータ9の押出容積が最大まで増大してその回転が停止することにより、固定変速比である第3速となる。
この状態で第2ポンプモータ6の押出容積がゼロに設定されるので、第2ポンプモータ6が空転するとともに、第1ポンプモータ9がロックされてその回転が止められる。すなわち、各ポンプモータ6,9を連通させている閉回路が第2ポンプモータ6によって閉じられることになるので、押出容積が最大になっている第1ポンプモータ9は圧油を供給および吐出できなくなり、その回転が止められる。その結果、第1遊星歯車機構7のサンギヤS1にはこれを固定するトルクが作用することになる。そのため、第1遊星歯車機構7ではサンギヤS1を固定した状態でリングギヤR1に動力が入力されるので、出力要素であるキャリヤC1にはこれをリングギヤR1と同方向に回転させるトルクが生じ、これが第1ドライブ軸10および第3速ギヤ対16を介して、出力軸としてのドリブン軸13に伝達される。こうして固定変速比である第3速が設定される。
この第3速の状態で第2シンクロ20をOFF状態に設定すれば、すなわちそのスリーブ20Sを中立位置に設定すれば、第2ポンプモータ6を連れ回すことがないので、いわゆる引き摺りによる動力の損失を回避することができる。また、第2シンクロ20のスリーブ20Sを図1の左側に移動させて第4速従動ギヤ17Bをドリブン軸13に連結すれば、固定変速比である第4速へのアップシフト待機状態となる。一方、第2シンクロ20のスリーブ20Sを図1の右側に移動させて第2速従動ギヤ15Bをドリブン軸13に連結しておけば、第2速へのダウンシフト待機状態となる。
第3速から第4速へのアップシフト待機状態では、第2ポンプモータ6およびこれに連結されているサンギヤS2がリングギヤR2とは反対の方向に回転している。したがって第2ポンプモータ6の押出容積を正の方向に増大させると、第2ポンプモータ6がポンプとして機能し、それに伴う反力がサンギヤS2に作用する。その結果、リングギヤR2に入力されたトルクとサンギヤS2に作用する反力とを合成したトルクがキャリヤC2に作用してこれが正回転し、そのトルクが第2カウンタギヤ対12を介して第2ドライブ軸11に伝達され、さらに第4速ギヤ対17を介して出力軸であるドリブン軸13に伝達される。また、変速比の低下に伴ってエンジン1の回転数が次第に引き下げられる。
第2ポンプモータ6がポンプとして機能することにより発生した圧油はその吸入ポート6Sから第1ポンプモータ9の吸入ポート9Sに供給される。そのため、第1ポンプモータ9がモータとして機能して正回転方向にトルクを出力し、これが第1遊星歯車機構7のサンギヤS1に作用する。第1遊星歯車機構7のリングギヤR1にはエンジン1から動力が入力されているので、そのトルクとサンギヤS1に作用するトルクとが合成されてキャリヤC1から第1ドライブ軸10に出力される。すなわち、油圧を介した動力伝達が、機械的な動力伝達と並行して生じ、ドリブン軸13にはこれらの動力を合算した動力が伝達される。そして、第2ポンプモータ6の回転数が次第に低下することにより、第2遊星歯車機構5および第4速ギヤ対17を介した機械的動力伝達の割合が次第に増大し、変速機の全体としての変速比は、第3速ギヤ対16で決まる変速比から第4速ギヤ対17で決まる変速比に次第に低下する。その変化は、上述した各固定変速比の間での変速と同様に、連続的な変化となる。すなわち、無段変速となる。そして、第2ポンプモータ6の押出容積が最大まで増大してその回転が停止することにより、固定変速比である第4速となる。
この状態で第1ポンプモータ9の押出容積がゼロに設定されるので、第1ポンプモータ9が空転するとともに、第2ポンプモータ6がロックされてその回転が止められる。すなわち、各ポンプモータ6,9を連通させている閉回路が第1ポンプモータ9によって閉じられることになるので、押出容積が最大になっている第2ポンプモータ6は圧油を供給および吐出できなくなり、その回転が止められる。その結果、第2遊星歯車機構5のサンギヤS2にはこれを固定するトルクが作用することになる。そのため、第2遊星歯車機構5ではサンギヤS2を固定した状態でリングギヤR2に動力が入力されるので、出力要素であるキャリヤC2にはこれをリングギヤR2と同方向に回転させるトルクが生じ、これが第2カウンタギヤ対12を介して第2ドライブ軸11に伝達され、さらに第4速ギヤ対17を介して、出力軸としてのドリブン軸13に伝達される。こうして固定変速比である第4速が設定される。
この第4速の状態で第1シンクロ19をOFF状態に設定すれば、すなわちそのスリーブ19Sを中立位置に設定すれば、第1ポンプモータ9を連れ回すことがないので、いわゆる引き摺りによる動力の損失を回避することができる。また、第1シンクロ19のスリーブ19Sを図1の左側に移動させて第3速従動ギヤ16Bをドリブン軸13に連結しておけば、第3速へのダウンシフト待機状態となる。
つぎに後進段について説明する。シフトポジションがニュートラルポジションからリバースポジションに切り替えられるなどのことによって後進段を設定する指示が行われると、スタートシンクロ22のスリーブ22Sが図1の右側に移動させられて第2カウンタギヤ対12がロータ軸6Aと第2ドライブ軸11との間でトルク伝達可能な状態になり、また第2シンクロ20のスリーブ20Sが図1の右側に移動させられて、第2速従動ギヤ16Bがドリブン軸13に連結される。すなわち、第2ポンプモータ6のロータ軸6Aから第2ドライブ軸11を経由してドリブン軸13に到る動力伝達経路が形成される。またこれと併せて、リバースシンクロ21のスリーブ21Sが図1の左側に移動させられてリバース従動ギヤ18Bがドリブン軸13に連結される。
この状態で第1ポンプモータ9の押出容積を次第に増大させる。また、第2ポンプモータ6の押出容積を、上述した前進段(前進走行)の場合とは反対の負の方向に次第に増大させる。車両が停止している状態ではドリブン軸13は回転していないから、これに連結された第2ポンプモータ6は停止している。これに対して、第1遊星歯車機構7では第1ドライブ軸10に連結されているキャリヤC1が固定されている状態でリングギヤR1にエンジン1から動力が入力されるから、サンギヤS1およびこれに連結されている第1ポンプモータ9がリングギヤR1とは反対方向に回転している。
したがって、第1ポンプモータ9のトルク容量を次第に増大させると、第1ポンプモータ9がポンプとして機能し、油圧を発生する。それに伴う反力がサンギヤS1に作用するので、出力要素であるキャリヤC1にはこれを前進走行時と同方向に回転させるトルクが生じ、これが第1ドライブ軸10に伝達される。この第1ドライブ軸10とドリブン軸13との間に配置されているリバースギヤ対18は、アイドルギヤ18Cを備えているので、第1ドライブ軸10が前進走行時と同方向に回転すると、ドリブン軸13はこれとは反対に方向に回転し、したがって後進走行することになる。
また、第1ポンプモータ9がポンプとして機能して発生した圧油が、その吸入ポート9Sから第2ポンプモータ6の吸入ポート6Sに供給される。その第2ポンプモータ6の押出容積は上述したように負側に設定されるから、第2ポンプモータ6は、圧油が吸入ポート6Sに供給されることにより、前進走行時とは反対方向に回転し、そのトルクが第3カウンタギヤ対30および第2ドライブ軸11ならび第2速ギヤ対15を介してドリブン軸13に伝達される。すなわち、ドリブン軸13には、第1遊星歯車機構7およびリバースギヤ対18を介した機械的な動力伝達と、各ポンプモータ6,9の間のいわゆる流体を介した動力伝達とによって動力が伝達される。
そして、第1ポンプモータ9の押出容積を次第に大きくすることによりその回転数が次第に低下し、それに伴って流体を介した動力伝達の割合が次第に低下するので、変速比はリバースギヤ対18のギヤ比によって決まる変速比に次第に低下する。すなわち、変速比が連続的に変化する。そして、各ポンプモータ6,9の押出容積を最大にすることにより、固定変速比としての後進段が設定される。
上述したように図1に示す変速機では、流体伝動を伴わずに設定できるいわゆる固定変速比として前進4段・後進1段の変速比を設定でき、またそれらの固定変速比の間の変速比を連続的に設定でき、したがって全体として変速比幅の広い無段変速を行うことができる。また、各ドライブ軸10,11やドリブン軸13、各遊星歯車機構7,5およびポンプモータ9,6などの回転部材を配置する軸線が二本のいわゆる二軸構成となるので、外径を小さくして全体としての構成を小型化でき、しかもエンジン1の回転中心軸線の延長線上もしくはこれと平行な軸線上で動力を出力できるから、外径の制約が大きくかつ軸長の制約が相対的に小さいFR車に対する車載性に優れた変速機とすることができる。
また、前進方向への発進時および後進方向への発進時に上記のスタートシンクロ22によって第2ポンプモータ6をドリブン軸13に連結することにより、機械的な動力伝達に加えて流体を介した動力伝達によってドリブン軸13に動力を伝達できる。スタートシンクロ22がこのように動作させられるため、発進時の変速比が、ギヤ比の大きい第1速ギヤ対14やリバースギヤ対18によって決まる変速比より大きくなり、その結果、発進時の駆動トルクを相対的に大きくして発進加速性を良好なものとすることができる。
さらに、上記の変速機で前進段としての各固定変速比を設定する場合、いずれかのポンプモータ6,9の押出容積をゼロにし、それに伴って他のポンプモータ9,6をロックするから、これらの固定変速比では流体伝動が行われない。すなわち、エネルギ形態の変換を行うことなく動力を伝達することができ、かつ動力の伝達経路を動力伝達可能な状態に維持するために特にエネルギを必要としないので、動力の伝達効率を従来になく向上させることができる。
さらに、図1に示す構成では、第2ポンプモータ6のロータ軸6Aからドリブン軸13にトルクを伝達する機構として、第3カウンタギヤ対30および第2ドライブ軸11ならび第2シンクロ20と第2速ギヤ対15からなる機構を備えている。すなわち、この機構がこの発明における発進用伝動機構に相当し、ロータ軸6Aと平行な軸線上の回転部材を介して、ロータ軸6Aからドリブン軸13にトルクを伝達するようになっている。そのため、第2ポンプモータ6がドリブン軸13と同一の軸線上でかつ第2遊星歯車機構5とドリブン軸13との間に配置されていても、ロータ軸6Aは第2ポンプモータ6を貫通してその両側に突き出ている必要はない。すなわち、第2ポンプモータ6は第1ポンプモータ9と同様に、ロータ軸6Aが軸線方向の一方向にのみ突き出たいわゆる片出しの構造のものでよい。したがって第2ポンプモータ6を構成が簡単であり、そのため小型で信頼性の高いものとすることができる。
ここで、第3カウンタギヤ対30の変速比(そのドリブンギヤ30Bの回転数とドライブギヤ30Aの回転数との比)について説明すると、ロータ軸6からドリブン軸13にトルクを伝達する場合、第3カウンタギヤ対30が変速作用を行うとともに、第2ドライブ軸11とドリブン軸13との間でトルクを伝達するギヤ対が変速作用を行う。後者のギヤ対として前述した第4速ギヤ対17を使用するなど、後者のギヤ対が増速作用を行う場合、第3カウンタギヤ対30の変速比は、前記増速作用を行うギヤ対の変速比より大きいことが好ましい。このように構成すれば、第2ポンプモータ6が出力したトルクを増大させてドリブン軸13に伝達でき、その結果、発進時の駆動トルクを大きくすることが可能になる。
なお、図1に示す構成の変速機において、前進方向への発進時および後進方向への発進時に、第2速ギヤ対15に替えて、第4速ギヤ対17をトルク伝達可能な状態とすることにより第2ドライブ軸11からドリブン軸13に動力を伝達してもよい。そのように構成した場合の各ポンプモータ9,6およびシンクロ19,20,21,22の動作状態を図4にまとめて示してある。この図4で前述した図3と異なる部分は、○を付して「左」と記してある部分であり、前進方向への発進時および後進段を設定する場合のそれぞれで、第2シンクロ20のスリーブ20Sが図1の左側に移動させられて、第4速従動ギヤ17Bがドリブン軸13に連結される。
このように構成した場合、発進時に流体伝動を伴ってドリブン軸13に伝達されるトルクが、第2速ギヤ対20を使用する場合に比較して小さくなる。その結果、発進時の駆動トルクが小さくなるから、圧雪路や泥濘路などのいわゆる低μ路での発進を安定して行うことができる。したがって、発進時におけるいわゆるトルクアシスト側の変速比もしくはギヤ対の選択は、路面状況に応じて行うことが好ましく、例えば運転者がスノーモードスイッチをオン操作した場合、トラクションコントロールシステムが動作して駆動トルクを一時的に低下させた場合、カメラなどを使用した路面センサーが低μ路であることを検出した場合などにいわゆるトルクアシスト側の変速比を小さくするように制御する。この発明の発進用伝動機構は、このように変速比の切り替えを行う構成を含む。
つぎにこの発明の他の具体例を説明する。なお、以下に説明する各具体例は、上述した図1に示す構成の一部を変更したものであるから、以下の説明では、図1の構成と異なる部分を説明し、図1に示す構成と同様の部分には、図1に付した符号と同様の符号を付してその説明を省略する。また、以下に説明する図では、エンジン1および各アクチュエータ23,24,25,26ならびに電子制御装置27は省略してある。
図5に示す例は、第2カウンタギヤ対12のドリブンギヤ12Bを第2ドライブ軸11に取り付けて、第2遊星歯車機構5のキャリヤC2と第2ドライブ軸11とを常時連結した構成とし、またスタートシンクロ22とドリブン軸13との間にスタートギヤ対31を設けることにより、スタートシンクロ22はロータ軸6Aとドリブン軸13とを選択的に連結するように構成した例である。すなわち、スタートギヤ対31は、ドリブン軸13に取り付けられたドリブンギヤ31Bと、このドリブンギヤ31Bに噛み合うとともに第2ドライブ軸11に回転自在に嵌合して支持されたドライブギヤ31Aとから構成されている。なお、スタートギヤ対31は、そのドライブギヤ31Aの歯数が、ドリブンギヤ31Bの歯数より少ない減速機構として構成されている。そのドライブギヤ31Aは、第2ドライブ軸11上で前記第3カウンタギヤ対30のドリブンギヤ30Bと隣接して配置されており、これらのドリブンギヤ30Bとドライブギヤ31Aとの間に、切換機構としてのスタートシンクロ22が配置されている。
このスタートシンクロ22は、前記ドリブンギヤ30Bとドライブギヤ31Aとの一方(図5ではカウンタドリブンギヤ30B)に設けられているハブにスプライン嵌合しているスリーブ22Sと、このスリーブ22Sが係合するように他方(図5ではドライブギヤ31A)に設けられたスプラインとを備えており、スリーブ22Sを軸線方向に移動させることにより、これらドリブンギヤ30Bとドライブギヤ31Aとを選択的に連結するように構成されている。
図5に示すように構成した場合であっても、固定変速比として前進4段・後進1段を設定することができる。それらの固定変速比およびその中間の変速比を設定するための各シンクロ19,20,21,22の動作状態、および各ポンプモータ9,6の動作状態を図6にまとめて示してある。なお、この図6における各符号の意味は前述した図3における各符号の意味と同じである。
図5に示す構成で図1に示す例と異なる部分は、スタートシンクロ22が中立位置と図5での右側の係合位置との二位置に切り換えられ、左側の係合位置が無い点であり、したがって図6に示す図表では、図3の図表におけるスタートシンクロの欄の「左」が「N」に置き換えられており、図6の他の欄は図3と同様である。
図6に示すように、図5に示す構成の変速機では、各ポンプモータ9,6が図1に示す構成の変速機と同様に動作して各変速比が設定され、したがって各ポンプモータ9,6の動作に伴う各遊星歯車機構7,5の動作も図1に示す構成の変速機と同様であるから、図5に示す変速機で各変速比を設定する際の動作についての説明は省略する。そして、図5に示すように構成した場合であっても、図1に示す構成の変速機と同様に、全体としての構成を小型化して車載性を向上させることができ、また発進加速性を向上させることができるとともに、動力の伝達効率を向上させることができる。さらに、各ポンプモータ9,6をロータ軸が軸方向の一方向にのみ突き出したいわゆる片出し構造にすることができるので、その構成を簡素化して小型化を図り、またその信頼性を向上させることができる。
上記の図5に示す構成では切換機構(シンクロ)が四つ使用されており、これを三つにした例を図7に示してある。具体的に説明すると、第1ドライブ軸10にはその先端側から順に、第1速駆動ギヤ14A、第3速駆動ギヤ16A、リバース駆動ギヤ18Aが取り付けられており、また中空軸である第2ドライブ軸11にはその先端側から順に、第4速駆動ギヤ17A、第2速駆動ギヤ15Aが取り付けられている。さらに、その第2速駆動ギヤ15Aよりも第1遊星歯車機構7側に、スタートギヤ対31におけるドライブギヤ31Aが配置され、第2ドライブ軸11の外周側に回転自在に嵌合して支持されている。すなわち、エンジン1に遠い方から順に、第1速ギヤ対14、第3速ギヤ対16、リバースギヤ対18,第4速ギヤ対17、第2速ギヤ対15、スタートギヤ対31が配置されている。そして、それぞれの従動ギヤ14B,16B,18B,17B,15B,31Bがドリブン軸13上に配列され、かつドリブン軸13に対して回転自在に嵌合して支持されている。
これらの従動ギヤ14B,16B,18B,17B,15B,31Bのうち、互いに隣接する従動ギヤ同士の間に、それらをドリブン軸13に対して選択的に連結する切換機構が設けられている。すなわち、第1速従動ギヤ14Bと第3速従動ギヤ16Bとの間に第1シンクロ19が配置され、リバース従動ギヤ18Bと第4速従動ギヤ17Bとの間に第2シンクロ20が設けられ、さらに第2速従動ギヤ15Bとスタートドリブンギヤ31Bとの間にスタートシンクロ22が設けられている。なお、第2ドライブ軸11に回転自在に嵌合させられている第3カウンタギヤ対12におけるドリブンギヤ12Bとスタートギヤ対31におけるドライブギヤ31Aとが、一体となって回転するように互いに連結されている。
図7に示すように構成した場合であっても、固定変速比として前進4段・後進1段を設定でき、またそれらの変速比の間の変速比を無段階に設定することができる。そして、各固定変速比を設定する場合には、それぞれの固定変速比に対応するギヤ対を、いずれかのドライブ軸10,11とドリブン軸13との間でトルク伝達可能な状態にするようにシンクロ19,20,22を動作させる。また、いわゆる中間の変速比は、その中間変速比に対して低速側の固定変速比と高速側の固定変速比とを設定する両方のギヤ対を、ドライブ軸10,11とドリブン軸13との間でトルク伝達可能な状態とするようにシンクロ19,20,22を動作させて設定され、さらに前進発進時あるいは後進発進時には、第1速ギヤ対14もしくはリバースギヤ対18とスタートギヤ対31とがドリブン軸13に対してトルクを伝達できるようにシンクロ19,20,22を動作させる。したがって、それらのシンクロ19,20,22および各ポンプモータ9,6の動作状態をまとめて示せば、図8のとおりである。この図8における各符号の意味は前述した図3あるいは図6における各符号の意味と同じである。
したがって、図7に示すように構成した場合には、図1や図5に示すように構成した場合と同様に動作させることができ、また同様の効果を得ることができる。これに加えて図7に示す構成では、この発明の切換機構に相当するシンクロが三つあればよく、それに伴ってシンクロを動作させるアクチュエータの数も少なくなるので、変速機の全体としての構成を小型化でき、また車載性を向上させることができる。
つぎに、図9に示す例は、前述した図1に示す構成におけるリバースギヤ対18の構成をスライドギヤの構成に変更し、それに伴ってリバースシンクロ21を廃止した例である。すなわち、第1シンクロ19におけるスリーブ19Sには、リバース従動ギヤ18Bが一体的に形成されており、その外周側には、第1ドライブ軸10に一体化させたリバース駆動ギヤ18Aが配置されている。そして、これらリバース駆動ギヤ18Aとリバース従動ギヤ18Bとの間に選択的に挿入されて各ギヤ18A,18Bに噛み合うアイドルギヤ18Cが軸線方向に移動可能に配置されている。このアイドルギヤ18Cを前後動させるためのアクチュエータとしては、例えば前述した図1に示すリバースシンクロ21のスリーブ21Sを移動させるアクチュエータを使用することができる。
図9に示すように構成した場合であっても、固定変速比として前進4段・後進1段を設定することができる。それらの固定変速比およびその中間の変速比を設定するための各シンクロ19,20,22の動作状態、およびリバースギヤ対18におけるアイドルギヤ(Rギヤ)18Cの動作位置、ならびに各ポンプモータ9,6の動作状態を図10にまとめて示してある。なお、この図10における各符号の意味は前述した図3における各符号の意味と同じである。
図9に示す構成で図1に示す例と異なる部分は、リバースシンクロ19に替えて前記アイドルギヤ18Cが軸線方向にスライドする点であり、したがって図10に示す図表では、図3の図表におけるリバースシンクロ(Rシンクロ)の欄が「Rギヤ」に置き換えられており、図10の他の欄は図3と同様である。
図10に示すように、図9に示す構成の変速機では、各ポンプモータ9,6が図1に示す構成の変速機と同様に動作して各変速比が設定され、したがって各ポンプモータ9,6の動作に伴う各遊星歯車機構7,5の動作も図1に示す構成の変速機と同様であるから、図9に示す変速機で各変速比を設定する際の動作についての説明は省略する。そして、図9に示すように構成した場合であっても、図1に示す構成の変速機と同様に、全体としての構成を小型化して車載性を向上させることができ、また発進加速性を向上させることができるとともに、動力の伝達効率を向上させることができる。さらに、各ポンプモータ9,6をロータ軸が軸方向の一方向にのみ突き出したいわゆる片出し構造にすることができるので、その構成を簡素化して小型化を図り、またその信頼性を向上させることができる。
上述したように各ポンプモータ9,6は、圧油を相互に授受できるように連通されているから、油路を簡素化するために以下に説明するように構成することが好ましい。図11はその一例を示しており、ここに示す例は、前述した図7に示す構成の一部を変更したものである。すなわち、第1ポンプモータ9の半径方向で外側に第2ポンプモータ6が配置されている。その第2ポンプモータ6のロータ軸6Aは、第2遊星歯車機構5の中心軸線や各ドライブ軸10,11と平行であって、第2遊星歯車機構5の外周側を通ってドリブン軸13側に延びている。そして、このロータ軸6と第2遊星歯車機構5のサンギヤS2とが、第4カウンタギヤ対32を介して連結されている。すなわち、ロータ軸6Aにドライブギヤ32Aが取り付けられ、これに噛み合っているドリブンギヤ32Bが、前記サンギヤS2と一体のサンギヤ軸5Aに取り付けられている。そのサンギヤ軸5Aはドリブン軸13の端部に接近する位置まで延びている。そして、スタートシンクロ22は、前述したスタートギヤ対31に替えてサンギヤ軸5Aをドリブン軸13に選択的に連結し、かつ第2速従動ギヤ15Bをドリブン軸13に選択的に連結するように構成されている。他の構成は、図7に示す構成と同様であるから、図11に図7と同様の符号を付してその説明を省略する。
図11に示す構成におけるスタートシンクロ22は、要は、第2ポンプモータ6からドリブン軸13に対するトルクの伝達と、第2速ギヤ対15を介したドリブン軸13に対するトルクの伝達とを選択的に可能にするものであるから、これは、図7に示すスタートシンクロ22と機能の点では替わるところがない。したがって、図11に示す構成の変速機における各シンクロ19,29,22およびポンプモータ9,6を前述した図8に示すように動作させることにより、前進4段・後進1段の固定変速比とこれの中間の変速比とを無段階に設定することができる。
また、図11に示す構成であっても、第2ポンプモータ6のロータ軸6Aをこれと平行な軸線上の他の回転部材であるサンギヤ軸5Aを経由してドリブン軸13に連結するから、第2ポンプモータ6はそのロータ軸6Aが軸線方向での一方向にのみ突き出たいわゆる片出し構造のものでよい。そのため、前述した各具体例と同様に、第2ポンプモータ6の構造を簡素化してその小型化や信頼性の向上を図ることができる。また、各ポンプモータ9,6を隣接して配置できるので、これらの間の油路を短くし、またその構成を簡素化することができる。さらには、各ポンプモータ9,6をその油路を含めてユニット化することが容易であり、そのため、変速機の全体としての製造性や組立性を向上させることができる。なお、変速機の全体としての構成を小型化し、また車載性を向上させることができるなどの作用・効果は前述した各具体例と同様である。
各ポンプモータ9,6を半径方向に並べて配置する構成は、前述した図1に示す構成の変速機にも適用することができる。図1に示す構成における第2ポンプモータ6を第1ポンプモータ9に隣接して配置した例を図12に示してある。図12に示す構成では、第2ポンプモータ6が第1ポンプモータ9の外周側に隣接してかつ平行に配置されている。そのロータ軸6Aには、ドライブギヤ32Aが取り付けられ、このドライブギヤ32Aが前述した第3カウンタギヤ対30におけるドライブギヤ30Aに噛み合っている。したがって、これらのドライブギヤ32A,30Aによって第4カウンタギヤ対32が形成されている。他の構成は、図1に示す構成と同様であり、したがって図12に示す構成のうち図1に示す構成と同様の部分には図1と同様の符号を付してある。
なお、図12に示す構成の変速機は、第2ポンプモータ6の配置位置および第2ポンプモータ6とサンギヤS2との連結機構が図1に示す構成の変速機とは異なるだけであるから、各シンクロ19,20,21,22および各ポンプモータ9,6を前述した図3に示すように動作させることにより、前進4段・後進1段の変速比を無段階に設定することができる。したがって、図1に示す構成の変速機と同様に、小型化して車載性を向上させることができ、またいわゆるFR車への車載性が良好になる。さらには動力の伝達効率が良好になって燃費を向上させることができる。これに加えて図12に示すように構成すれば、各ポンプモータ9,6の油路構成が簡単になり、またこれらをユニット化できるなどの利点がある。
前述した図11に示す構成における各ギヤ対14,15,16,17,18の配列を図12に示す配列とすることができる。その例を図13に示してある。また、この図13に示す構成の変速機で前進4段・後進1段の変速比を無段階に設定するための各シンクロ19,20,21,22および各ポンプモータ9,6の動作状態を図14に図表にまとめて示してある。したがって、図13に示すように構成した場合であっても、図11や図12に示すように構成した場合と同様の作用・効果を得ることができる。
図11における各ギヤ対14,15,16,17,18の配列を変更した他の例を図15に示してある。図15に示す構成の変速機では、エンジン1に遠い方からエンジン1側に向けて、第3速ギヤ対16、第1速ギヤ対14、リバースギヤ対18、第4速ギヤ対17、第2速ギヤ対15の順に配列されている。その第3速ギヤ対16における第3速駆動ギヤ16Aは第1ドライブ軸10に回転自在に嵌合して支持されており、その第3速駆動ギヤ16Aを第1ドライブ軸10に選択的に連結する第2シンクロ20が、第1ドライブ軸10上に配置されている。
第1速駆動ギヤ14Aは第1ドライブ軸10に取り付けられ、これに噛み合っている第1速従動ギヤ14Bはドリブン軸13に回転自在に嵌合して支持されている。その第1速従動ギヤ14Bに隣接して第4速従動ギヤ17Bが配置され、この第4速従動ギヤ17Bはドリブン軸13に回転自在に嵌合して支持されている。これら第1速従動ギヤ14Bと第4速従動ギヤ17Bとの間に第1シンクロ19が配置され、これらの従動ギヤ14B,17Bをドリブン軸13に選択的に連結するようになっている。なお、第4速従動ギヤ17Bに噛み合っている第4速駆動ギヤ17Aは第2ドライブ軸11に取り付けられている。
その第1シンクロ19におけるスリーブ19Sにリバース従動ギヤ18Bが一体に形成されており、その外周側に、前記第1ドライブ軸10に取り付けられたリバース駆動ギヤ18Aが配置されている。そして、このリバース駆動ギヤ18Aとリバース従動ギヤ18Bとの間に挿入されてそれぞれに噛み合うスライド式のアイドルギヤ18Cが軸線方向に前後動するように配置されている。
上記の第4速ギヤ対17よりもエンジン1側に第2速ギヤ対15が配置されており、その駆動ギヤ15Aは第2ドライブ軸11に取り付けられ、これに噛み合っている第2速従動ギヤ15Bはドリブン軸13に回転自在に嵌合して支持されている。したがって、スタートシンクロ22は、サンギヤ軸5Aと第2速従動ギヤ15Bとをドリブン軸13に選択的に連結するように構成されている。
つぎに前進3段・後進1段の変速比を無段階に設定できるように構成した例を説明する。図16はその一例を示し、これは前述した図3に示す第4速ギヤ対17を廃止し、また第2シンクロ20を廃止してその機能をスタートシンクロ22が受け持つように構成した例である。したがって図16に示す構成の変速機では、設定できる前進側の固定変速比が3速になる以外は、図11もしくは図13に示す構成と同様の作用・効果を得ることができる。
また、前進2段・後進1段の変速比を無段階に設定できるように構成した例を図17に示す。ここに示す例は、図16に示す構成における第3速ギヤ対16を廃止し、またリバースシンクロ22を廃止してその機能を第1シンクロ19が受け持つように構成した例である。したがって図17に示す構成の変速機では、設定できる前進側の固定変速比が2速になる以外は、図11もしくは図13あるいは図16に示す構成と同様の作用・効果を得ることができる。
上述したいずれの具体例においても第2遊星歯車機構5のリングギヤR2にエンジン1から動力を入力してリングギヤR2を入力要素とし、またサンギヤS2を第2ポンプモータ6に連結してサンギヤS2を反力要素としたが、これらを入れ替えた構成とすることができる。その例を図18に示してある。ここに示す例は、入力軸2が第2遊星歯車機構5のサンギヤS2に連結され、またリングギヤR2に第4カウンタギヤ対32を介して第2ポンプモータ6が連結されている。他の構成は、図11に示す構成と比較して第1カウンタギヤ対8と第2カウンタギヤ対12との配置位置が異なるだけで、それ以外は図11に示す構成と同様であり、したがって図18に図11と同様の符号を付してその説明を省略する。また、図18に示す構成は、図11における第2遊星歯車機構5の入力要素と反力要素とを入れ替えたものであるから、各変速比を設定するためには各シンクロおよびポンプモータを前述した図8に示すように動作させればよい。
図18に示す構成では、図11に示すように構成した変速機と同様に、前進4段・後進1段の変速比を無段階に設定でき、また小型化が容易で車載性(特にFR車に対する車載性)を向上させることができ、さらには動力伝達効率を向上させることができるなど、図11に示す構成の変速機と同様の作用・効果を得ることができる。これに加えて、図18に示すように構成した場合には、発進時に第2ポンプモータ6のトルクを充分に大きく増幅することができる。
すなわち、通常走行時における第2ポンプモータ6の付加トルクTpm2は、
Tpm2=(κ12/ρ2)・Tin
である。ここで、κ12は第2カウンタギヤ対12のギヤ比、ρ2は第2遊星歯車機構5のギヤ比(サンギヤの歯数をリングギヤの歯数で除した値)、Tinは入力軸2に入力される入力トルクである。一方、発進時の出力トルクToは、
To=κ8・(1+ρ1)・κ1・Tin+Tpm2/κ12
である。なお、κ8は第1カウンタギヤ対8のギヤ比である。さらに、通常走行時における入力軸2から第2ポンプモータ6に向けた減速比κpm2は、
κpm2=ρ2・κ12
である。これは、ポンプモータの性能限界が求めることができ、具体的には第2ポンプモータ6の許容最大トルクと許容最大回転数とが決めることができる。
発進時には上記の出力トルクToの式における右辺第二項のTpm2/κ12を大きくする必要がある。すなわち、第2カウンタギヤ対12のギヤ比κ12を小さくする必要がある。そこで、このギヤ比κ12を求めると、第2遊星歯車機構5のギヤ比ρ2は機構上、0.3程度以上でかつ0.6程度以下に制約されるので、これを仮にρ2=0.5とし、また第2ポンプモータ6に許容されるトルクTpm2は入力トルクTinの6割程度以下であるから仮に(κ12/ρ2)=0.5とすれば、第2カウンタギヤ対12のギヤ比κ12は、
κ12=0.5×0.5=0.25
となる。したがって、発進時の出力トルクToは、
To=κ8・(1+ρ1)・κ1・Tin+Tpm2/κ12
=κ8・(1+ρ1)・κ1・Tin+4.00×Tpm2
となり、第2ポンプモータ6のトルクを充分に大きくして出力トルクを増大させることができる。そのため、第2ポンプモータ6を小型化し、それに伴って変速機の全体としての構成を小型・軽量化することが可能になる。
第2遊星歯車機構5における入力要素と反力要素とを入れ替える構成の変更は、前述した図12に示す構成にも適用することができ、その例を図19に示してある。ここに示す例は、第2遊星歯車機構5のサンギヤS2に入力軸2を連結するとともに、リングギヤR2を第2カウンタギヤ対12のドライブギヤ12Aに連結し、他の構成は図12に示す構成と同様にしたものである。したがって、図19に示すように構成した変速機では、その各シンクロおよびポンプモータを前述した図3に示すように動作させることにより各変速比を無段階に設定することができる。また、第2ポンプモータ6のトルクを増幅する増幅率が大きくなり、相対的に小型もしくは小容量のポンプモータを使用することが可能になって、変速機の全体としての構成を小型・軽量化することができる。
さらに、この発明では、動力の分配を行う遊星歯車機構としてダブルピニオン型のものを使用することができる。その例を図20に示してあり、ここに示す例は、前述した図18に示す構成における第2遊星歯車機構5をシングルピニオン型遊星歯車機構に替えてダブルピニオン型遊星歯車機構によって構成し、それに伴ってリンクギヤR2を出力要素とするとともに、キャリヤC2を反力要素としたものである。すなわち、サンギヤS1に第1のピニオンギヤが噛み合っており、その第1ピニオンギヤとリングギヤR2とに第2のピニオンギヤが噛み合っており、これらのピニオンギヤがキャリヤC2によって自転および公転自在に保持されている。そのリングギヤR2が第2カウンタギヤ対12を介して第2ドライブ軸11に連結されており、またキャリヤC2に第4カウンタギヤ対32を介して第2ポンプモータ6が連結されている。
図20に示すように構成した場合であっても、その各シンクロおよびポンプモータを前述した図8に示すように動作させることにより各変速比を無段階に設定することができる。また、第2ポンプモータ6のトルクを増幅する増幅率が大きくなり、相対的に小型もしくは小容量のポンプモータを使用することが可能になって、変速機の全体としての構成を小型・軽量化することができる。
なお、上述した各具体例では、ドリブン軸13を出力軸として構成したが、この発明では、ドリブン軸13とは別に出力軸を設け、その出力軸にドリブン軸13から動力を伝達して変速機から出力するように構成してもよい。その場合、出力軸は前述したドライブ軸10,11と同一の軸線上に配置してもよい。また、この発明では、第2ポンプモータ6をいわゆる両振り型のものとする構成に替えて、第1ポンプモータ9をいわゆる両振り型のものにして構成することができ、要は、少なくともいずれか一方が両振り型のものであればよい。
1…エンジン(動力源)、 2…入力軸(入力部材)、 5…遊星歯車機構(第2遊星歯車機構)、 S2…サンギヤ、 R2…リングギヤ、 C2…キャリヤ、 6…油圧ポンプモータ(第2ポンプモータ)、 7…遊星歯車機構(第1遊星歯車機構)、 8…カウンタギヤ対(第1カウンタギヤ対)、 9…油圧ポンプモータ(第1ポンプモータ)、 10…第1ドライブ軸、 11…第2ドライブ軸、 12…カウンタギヤ対(第2カウンタギヤ対)、 13…ドリブン軸、 14…第1速ギヤ対、 16…第3速ギヤ対、 18…リバースギヤ対、 15…第2速ギヤ対、 17…第4速ギヤ対、 19…第1シンクロ、 20…第2シンクロ、 21…リバースシンクロ、 22…スタートシンクロ、 27…電子制御装置(ECU)、 28…油路、 29…油路、 30…第3カウンタギヤ対、 31…スタートギヤ対、 32…第4カウンタギヤ対。