そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、応答性に優れるとともに、誤報の発生を低減して信頼性の高い煙感知器を提供することにある。
すなわち、本発明の煙感知器は、監視空間に音波を提供する音波発生部と、音波発生部を制御する制御部と、監視空間を介して音波発生部からの音波を受信する音波受信部と、音波受信部の出力を用いて監視空間の異常を検知する信号処理部とを備え、信号処理部は、音波受信部の出力と基準値との間の差に基づいて監視空間の煙濃度を推定する煙濃度推定部と、煙濃度推定部によって求めた煙濃度を所定の閾値と比較した結果に基づいて前記異常を判定する煙濃度判定部とを含むことを特徴とする。
本発明の煙感知器によれば、減光式煙感知器で問題となるバックグランド光の影響を回避して煙の検出感度が向上するとともに、散乱光式煙感知器に必要なラビリンス体を設ける必要がなく、監視空間に煙粒子が拡散しやすくなって応答性の向上を図れる。
音波発生部の発生する音波は、上記した煙感知器の効果を達成できれば特に限定されないが、例えば、周波数が1kHz以上の音波であることが好ましい。また、以下に述べる理由により、20kHz以上の周波数を有する超音波を使用することが特に好ましい。すなわち、超音波を使用する場合は、監視空間における煙濃度の増加に対する監視空間を通過する際の超音波の減衰量が大きいため、煙の検出感度が向上する。また、煙検出時の音波が周囲の人に聞こえないことや、直進性が高く、外乱超音波の遮蔽が容易である等の効果もある。
本発明の好ましい実施形態にかかる煙感知器において、音波発生部は、異なる周波数を有する複数の音波を提供する機能を有し、信号処理部は、監視空間に存在する煙の種類および煙濃度の異なる複数のテスト条件下で予め調べた音波発生部の提供する音波の周波数と音波受信部の出力との間の関係を示すデータを記憶する記憶部と、前記複数の音波の各々を実際の監視空間に提供して得られる音波受信部の出力と記憶部のデータとを用いて監視空間に存在する煙粒子の種類を決定する煙粒子判定部とを有し、煙濃度推定部は、煙粒子判定部によって決定された煙粒子が監視対象として予め決められた煙粒子と一致する時、監視空間の煙濃度を推定する。この場合は、粒子判定部において監視空間に存在する粒子の種類を推定することで、例えば、煙粒子と湯気とが識別可能となるから、散乱光式煙感知器および減光式煙感知器に比べてより正確に煙感知を行うことができ、台所や浴室での使用にも適した煙感知器を提供することができる。また、監視空間において検出された煙粒子が監視対象として予め決められた煙粒子である場合に監視空間の煙濃度を推定するから、監視対象でない場合にその後の煙濃度の推定に必要な演算処理を省くことができる。さらに、火災の詳細な性質、たとえば、燃料系の火災で発生するタール状の黒煙のような粘性の大きな液状粒子が発生するケースを一般の火災の黒煙から識別することも可能になる。尚、監視空間の煙濃度は、特定周波数の超音波を監視空間に提供した場合の音波受信部の出力の基準値からの変化量に基づいて推定することができる。
記憶部に記憶されるデータは、基準状態にある監視空間を介して音波を受信した場合の音波受信部の出力と、実際の監視空間を介して音波を受信した場合の音波受信部の出力の間の差として定義される出力変化量と音波発生部の提供する音波の周波数との間の関係、または前記出力変化量を所定の基準値で除した出力変化率と音波発生部の提供する音波の周波数との間の関係のいずれかを含むことが好ましい。出力変化率を用いれば、音波発生部の出力周波数に応じて音波受信部の出力の基準値が変動する場合でも、基準値の変動の影響を受けずに監視空間に存在する粒子の種類を推定することができる。
音波発生部は、異なる周波数を有する複数の音波を提供する機能を有する単一の音波発生素子からなり、制御部は、前記複数の音波が順次監視空間に提供されるように音波発生部を制御することが好ましい。この場合は、各種の音波を発信可能な音波発生素子を複数備える場合に比べて、音波発生部の小型化、低コスト化を図れる。
音波発生部は、所定周波数の音波を定期的に監視空間に提供し、信号処理部は、当該所定周波数の音波を監視空間に提供して得られる音波受信部の出力に基づいて、音波発生部の制御条件と音波受信部の出力の信号処理条件の少なくとも一方を変更することが好ましい。この場合は、音波発生部の出力変動や音波受信部の感度変動を定期的にキャンセルすることが可能となり、長期にわたって安定した感度で煙粒子を検出することができる。
音波発生部は、通電による発熱体の温度変化により空気に熱衝撃を与えて超音波を発生させる超音波発生部であることが好ましい。この場合は、超音波発生部が平坦な周波数特性を有しており、発生させる超音波の周波数を広範囲にわたって変化させることができる。また、超音波発生部から残響の少ない単パルス状の超音波を提供することが可能となる。
超音波発生部は、ベース基板、ベース基板上に設けられる発熱体層と、発熱体層とベース基板との間に設けられる多孔質構造の熱絶縁層とを含むことを特徴とすることが好ましい。この場合は、熱絶縁層が多孔質層からなるので、熱絶縁層が非多孔質層からなる場合に比べて、熱絶縁層の断熱性が向上して超音波発生効率が高くなり、低消費電力化を図れる。
制御部は、単パルス状の超音波を監視空間に提供するように超音波発生部を制御することが好ましい。この場合は、音波受信部が周辺部材からの反射波による干渉を受けにくくなり、煙濃度推定部での煙濃度の推定精度を高めることが可能になる。
また、信号処理部によって異常が検知されると、制御部は監視空間に提供する超音波とは異なる可聴域の周波数の警報音を発するように音波発生部を制御することが好ましい。この場合は、音波発生部から警報音を発生させることができるので、警報音を出力するスピーカなどを別途に設ける必要がなく、小型化および低コスト化が可能となる。
信号処理部は、音波発生部から音波受信部に音波が到達するまでに要する時間に基づいて音速を求める音速検出部と、前記音速に基づいて監視空間の温度を推定する温度推定部と、温度推定部によって推定された温度を所定の閾値と比較した結果に基づいて監視空間の異常を判定する温度判定部とをさらに含むことが好ましい。特に、信号処理部は、煙濃度判定部と温度判定部の判定の少なくとも一方が異常である場合、火災有りと判定する火災判定部をさらに含むことが好ましい。この場合は、煙感知器を火災感知器として使用するにあたり、別途に温度検出素子を用いることなく火災発生時の温度上昇によっても火災を感知することが可能となり、煙の感知と温度の感知の両方によって火災の感知をより正確に行える。また、温度推定部によって推定された温度に応じて、音波発生部から提供される音波の周波数を音速検出部によって求めた音速を用いて補正する周波数補正部をさらに含むことが好ましい。音速を求める手段を個別に設ける場合に比べ、装置構成を簡略化することができる。
本発明の音波式煙感知器は、内空間が音波の伝播路として使用され、音波発生部と音波受信部の間に配置して音波の拡散範囲を狭める筒体を有することが好ましい。この場合は、音波発生部からの音波は筒体内を通ることで拡散が抑制されることにより、音波発生部と音波受信部との間における音波の拡散による音圧の低下を抑制できる。したがって、監視空間中に煙粒子がない状態において音波受信部で受信される音波の音圧を高く維持でき、煙濃度の変化量に対する音波受信部の出力の変化量が比較的大きくなってSN比が向上するという利点がある。
音波発生部は、筒体の音波入射口に対向するように配置される音波発生面を有し、音波発生面の面積は、音波入射口の開口面積と同一もしくはそれ以上であることが好ましい。この場合は、筒体がたとえば直管状のときに、音波発生部の音波発生面から提供される音波は筒体内を平面波として進行するので、筒体の長手方向に沿う側面で音波が反射して音波干渉を生じることがなく、音圧の低下を回避することができる。
また、制御部は、筒体に固有の共振周波数の超音波を、筒体の長手方向の両端間を超音波が伝搬するのに要する伝搬時間よりも長い送波時間に亘って連続的に監視空間に提供するように音波発生部を制御することが好ましい。この場合は、筒体が音響管として機能することにより、筒体内において共振が発生して音波発生部からの音波の音圧が増大するので、煙濃度の変化量に対する音波受信部の出力の変化量が大きくなり、SN比が向上する。また、共振により筒体の長手方向の端面で反射した音波においては、実効的な送波距離が反射の回数に応じて延長され、煙濃度の変化量に対する音波受信部の出力の変化量が一層大きくなる。
また、筒体は長手方向の両端面が閉じており、一方の端面に音波発生部が配置され、長手方向に沿う側面のうち音波発生部からの音波による圧力変化が最大となる位置に音波受信部が配置されることが好ましい。この場合は、煙濃度の変化量に対する音波受信部の出力の変化量を極力大きくすることができる。また、両端面が閉じた音響管を共振させた場合、端面で音波が反射することにより共振し、特に、波長の短い超音波では、端面に微小な凹凸があるだけでも端面で反射する際に音圧が低下することになるが、筒体の側面に音波受信部を設けることで、筒体の端面に音波受信部が設けられる場合に比べて、筒体の端面を凹凸の少ない平坦な面とすることができ、結果的に、筒体の端面での音波の反射を音波受信部によって阻害することなく共振によって音圧をより効果的に増加することが可能となる。
また、制御部は、筒体の内部空間における長手方向の寸法を自然数で除した長さの波長の音波が監視空間に提供されるように音波発生部を制御し、音波受信部は、筒体の長手方向の中央部に配置されることが好ましい。この場合は、筒体の内部空間における長手方向の寸法を自然数で除した長さの波長の音波が音波発生部から発信されるので、筒体の長手方向の中央部においては音波による圧力変化が常に最大となる。したがって、上述した波長の条件を満たしていれば音波の周波数が異なる場合でも、筒体の長手方向の中央部に配置された音波受信部によって、音波の圧力変化が最大となる位置で音圧の検出が可能となり、複数箇所に音波受信部を配置する場合に比べて低コスト化が可能となる。
本発明の音波式煙感知器は、音波発生部からの音波を音波受信部に向けて反射する反射部材を有することが好ましい。この場合は、音波発生部からの音波は音波受信部に直接波として到達することがなく、少なくとも一回は反射面で反射されるので、音波発生部と音波受信部との間で共振が生じやすくなる。また、制御部は、音波発生部から発信され、音波受信部で受信される音波の伝搬距離に基づく共振周波数の音波が、音波発生部から音波受信部に音波が伝搬するのに要する伝搬時間よりも長い時間に亘って連続的に監視空間に提供されるように音波発生部を制御することが好ましい。この場合は、音波発生部と音波受信部との間で共振が発生して音圧が増大し、結果的にSN比が向上するという利点がある。また、反射部材で反射した音波においては、実効的な音波の伝播距離が反射の回数に応じて延長され、煙濃度の変化量に対する音波受信部の出力の変化量がより一層大きくなるという長所がある。
また、反射部材は、音波発生部に隣接して配置される第1反射板と、監視空間を介して第1反射板に対向するように音波受信部に隣接して配置される第2反射板とを含むことが好ましい。この場合は、音波発生部からの音波が反射面で反射され、音波発生部と音波受信部との間で効果的に共振を生じさせることができる。また、第1反射板と第2反射板の少なくとも一方は、監視空間に面する側に凹型曲面を有することが好ましい。反射面において音波発生部からの音波を音波受信部に集音するので、音波の拡散による音圧の低下を抑制することができ、煙濃度の変化量に対する音波受信部の出力の変化量が大きくなって、SN比が向上する。
本発明のさらに好ましい実施形態にかかる煙感知器として、音波発生部は、外部空間から煙が侵入可能な監視空間に音波を提供する第1音波発生部と、煙が侵入できない参照空間に音波を提供する第2音波発生部とを有し、音波受信部は、第1音波発生部からの音波を受信する第1音波受信部と、第2音波発生部からの音波を受信する第2音波受信部とを有し、信号処理部は、第1音波受信部および第2音波受信部の出力を用いて、監視空間の異常を検知する。この場合は、煙感知器の周囲環境(例えば、温度)の変化に応じた基準値と、第1音波受信部の実際の測定出力とが比較されるので、監視空間の異常をより正確に検知することができる。
煙濃度推定部は、第1音波受信部の出力と基準値との間の差に基づいて監視空間の煙濃度を推定し、第1音波受信部の出力を、第2音波受信部の出力の経時変化に基づいて補正する出力補正部をさらに含むことが好ましい。この場合は、煙感知器の周囲環境の変化あるいは第1音波発生部や第1音波受信部の経時変化に応じて第1音波発生部からの音波の音圧が変化したり、煙濃度が一定でも媒質である空気を伝搬する際の音波の減衰率が変化したり、第1音波受信部の感度が変化したりすることがあっても、これらの変化に起因した第1音波受信部の出力変動の影響は出力補正部での補正によって除去することができる。したがって、誤報の発生を抑制して煙感知器の信頼性の高めることができる。
また、音波発生部と音波受信部の間に配置され、内空間が音波の伝播路として使用される筒体を含み、筒体は、内空間を監視空間と参照空間とに分割する仕切壁を有し、監視空間を提供する筒体の一部は、外部空間から監視空間内に煙が侵入可能な大きさの連通孔を有し、第1音波発生部と第2音波発生部は、監視空間と参照空間の両方に同時に音波が提供されるように、筒体の一端部に配置される単一の音波発生素子で構成され、第1音波受信部と第2音波受信部は、前記単一の音波発生素子から提供された音波を監視空間と参照空間のそれぞれを介して受信するように筒体の他端部に配置されることが好ましい。この場合は、第1音波発生部と第2音波発生部とが単一の音波発生素子からなるので、第1音波発生部と第2音波発生部とは同様に経時変化することとなり、第1音波発生部の経時変化に応じて第1音波発生部からの音波の音圧が変化しても、この変化に起因した第2音波発生部の出力変動の影響は上記した出力補正部での補正によって確実に除去することができ、誤報を低減する上で有効である。
また、参照空間は少なくとも煙を侵入させない大きさの微細孔を有する煙遮蔽部を有することが好ましい。この場合は、微細孔によって参照空間と外部空間とが連通されているので、参照空間への浮遊粒子の侵入を遮断しながらも、火災感知器の周囲環境のたとえば湿度や大気圧などの変化が微細孔を通して参照空間に反映されるので、出力補正部における補正を適切に行える。
また、制御部は、第1音波受信部および第2音波受信部の出力が同一周波数且つ同一位相となるように、第1音波発生部および第2音波発生部を同期させて制御し、信号処理部は、第1音波受信部および第2音波受信部の出力の差に相当する差動出力を用いて監視空間の異常を検知することが好ましい。この構成によれば、煙感知器の周囲環境の変化に起因した第2音波受信部の出力変動が差動出力に影響することはなく、結果的に監視空間における煙濃度の推定の精度が向上する。
第1音波発生部および第2音波発生部の各々は、異なる周波数の複数の音波を提供する機能を有し、信号処理部は、監視空間に存在する煙の種類および煙濃度の異なる複数のテスト条件下で予め調べた第1音波発生部の提供する音波の周波数と上記差動出力との間の関係を示すデータを記憶する記憶部と、前記複数の音波の各々を実際の監視空間に提供して得られる第1音波受信部の出力と記憶部のデータを用いて、監視空間に存在する煙粒子の種類を決定する煙粒子判定部とを有し、煙濃度推定部は、煙粒子判定部によって決定された煙粒子が監視対象として予め決められた煙粒子と一致する時、監視空間の煙濃度を推定することが好ましい。この場合は、煙粒子判定部において監視空間に存在する煙粒子の種別を推定するので、たとえば煙粒子と湯気とを識別することが可能になり、台所や浴室での使用にも適した煙感知器を提供することができる。また、火災の詳細な性質、たとえば、燃料系の火災で発生するタール状の黒煙のような粘性の大きな液状粒子が発生するケースを一般の火災の黒煙から識別することも可能になる。結果として、散乱光式煙感知器および減光式煙感知器に比べ、監視空間に存在する煙に関してより正確な情報を提供することができる。
記憶部に記憶されるデータは、上記差動出力を第2音波受信部の出力で除した値と第1音波発生部の出力する音波の周波数との間の関係を含むことが好ましい。この場合は、第2音波受信部の出力の変動の影響を受けずに監視空間に存在する煙粒子の種類を推定することができる。
また、監視空間と上記参照空間との間には隔壁が配置され、監視空間は第1音波発生部と隔壁の一表面との間に定義され、参照空間は、第2音波発生部と隔壁の反対側の表面との間に定義され、第1音波受信部と第2音波受信部は、隔壁に配設されるとともに、監視空間に面する第1受波部と参照空間に面する第2受波部とを有する単一の差動型音波受信部によって構成され、差動型音波受信部は、制御部が第1音波発生部および第2音波発生部を同期させて制御する時、第1音波受信部で受信した音波と第2音波受信部で受信した音波の間の音圧差を差動出力として提供することが好ましい。第1音波受信部と第2音波受信部とを別々に設けて両者の出力差を差分出力とする場合のように第1音波受信部と第2音波受信部とで個別に生じたノイズが差分出力にそれぞれ重畳することはなく、差動出力に含まれるノイズを低減することができ、結果的にSN比の向上を図れる。
信号処理部は、第2音波発生部のみから音波を参照空間に提供した時の差動型音波受信部の出力を参照値として計測し、参照値の経時変化に基づいて差動出力を補正する出力補正部をさらに含むことが好ましい。この場合は、差動型音波受信部の感度が変化することがあっても、差動出力の基準値からの変化量の変動は出力補正部での補正によって除去することができ、長期にわたって安定した精度で煙粒子を感知することができる。
本発明のさらに別の好ましい実施形態にかかる煙感知器として、音波発生部は、音波受信部が感度を有する固定周波数よりも高い周波数の第1音波を提供する第1音波発生部と、第1音波の周波数よりも前記固定周波数だけ高い周波数の第2音波を提供する第2音波発生部とを有し、制御部は、第1音波と第2音波を同時に監視空間に提供するように、第1音波発生部と第2音波発生部を制御し、音波受信部は、第1音波と第2音波とが監視空間において互いに干渉して得られるビート波を受信することが好ましい。この場合は、第1音波および第2音波の周波数を比較的高く設定しながらも、音波受信部で受信するビート波の周波数を比較的低くすることができる。すなわち、音波発生部からの音波の周波数を高くすることで監視空間に存在する煙粒子による音波の音圧変化率を向上させつつ、音波受信部が受信する疎密波の周波数を低くすることによって感度を向上させることができ、結果的にSN比の向上を図れるという利点がある。
また、内空間が音波の伝播路として使用され、第1音波発生部と音波受信部との間に配置して音波の拡散範囲を狭める第1筒体と、内空間が音波の伝播路として使用され、第2音波発生部と音波受信部との間に配置して音波の拡散範囲を狭める第2筒体とを含み、第1筒体の音波放射口から提供される音波と第2筒体の音波放射口から提供される音波が、音波受信部の手前で互いに干渉するように、音波受信部に対して第1筒体および第2筒体を配置することが好ましい。この場合は、監視空間を伝播する音波の拡散による音圧の低下を抑制することができる。しかも、第1筒体および第2筒体の外側でビート波を生じさせるので、音波受信部で受信するビート波の周波数が低い場合にも、各筒体の内周面の粘性抵抗が原因でビート波が減衰してしまうことはない。したがって、煙濃度の変化に対する音波受信部の出力の変化量が大きくなってSN比が向上する。
また、内空間が音波の伝播路として使用され、第1音波発生部と第2音波発生部の一方と音波受信部との間に配置して音波の拡散範囲を狭める筒体を含み、筒体の音波放射口から提供される音波が、第1音波発生部および第2音波発生部の他方から提供される音波と音波受信部の手前で干渉するように、音波受信部に対して筒体を配置することが好ましい。この場合は、筒体を設けることで、第1音波発生部と第2音波発生部の一方と音波受信部との間における音波の拡散による音圧の低下を抑制することができる。また、第1音波発生部と第2音波発生部の他方からの音波については、筒体による制限を受けることなく周波数を設定することができるので、第1音波発生部からの音波の周波数と第2音波発生部からの音波の周波数との差に相当する固定周波数を自由に設定することができる。つまり、音波受信部の感度の高い周波数にビート波の周波数を合わせることができるという利点がある。
本発明のさらなる特徴およびその効果は、以下の発明を実施するための最良の形態からより明確に理解されるだろう。
以下、添付図面を参照しながら、本発明の音波式煙感知器の好ましい実施形態として、超音波を用いた火災感知器について詳細に説明する。
(第1実施形態)
本実施形態の火災感知器は、図1に示すように、超音波を監視空間に提供する音波発生部1と、音波発生部1を制御する制御部2と、監視空間を介して音波発生部1からの超音波の音圧を検出する超音波受信部としての受波素子3と、受波素子3の出力に基づいて火災の有無を判断する信号処理部4とで主として構成される。
音波発生部1と受波素子3は、図2(A)および図2(B)に示すように、円板状のプリント基板からなる回路基板5上に互いに離間して対向配置される。制御部2および信号処理部4は、回路基板5に設けられる。図2(A)中、符号6は、音波発生部1以外で発生した超音波が受波素子3に入射するのを阻止するために受波素子3の周辺に設けられる遮音壁である。遮音壁6の形成は火災検知における誤報の低減に有効である。また、回路基板5上には、超音波の反射を防止する吸音層(図示せず)が設けられており、回路基板5で反射した超音波が反射波として干渉し、受波素子3に入射するのを防止することができる。吸音層の形成は、音波発生部1からの超音波として連続波を用いる場合に有効である。
本実施形態の音波発生部1としては、空気に熱衝撃を与えることで超音波を発生させる超音波発生素子が用いられており、圧電素子に比べ、残響時間が短い超音波を提供できる。また、受波素子3としては、共振特性のQ値が圧電素子に比べて十分に小さく、受波した信号に含まれる残響成分の発生期間が短い静電容量型のマイクロホンを用いている。
音波発生部1は、図3に示すように、単結晶のp形のシリコン基板からなるベース基板11と、ベース基板11の表面(図3における上面)に形成される多孔質シリコン層からなる熱絶縁層(断熱層)12と、熱絶縁層12の上面に発熱体として形成される金属薄膜からなる発熱体層13と、ベース基板11の上面において発熱体層13と電気的に接続される一対のパッド14とで主として構成される。尚、ベース基板11の平面形状は長方形状であって、熱絶縁層12、発熱体層13それぞれの平面形状も長方形状に形成されている。また、ベース基板11の上面のうち熱絶縁層12が形成されていない領域にはシリコン酸化膜からなる絶縁膜(図示せず)が形成されている。
音波発生部1では、発熱体層13の両端のパッド14間に通電して発熱体層13に急激な温度変化を生じさせると、発熱体層13に接触している空気(媒質)に急激な温度変化(熱衝撃)が生じる。したがって、発熱体層13に接触している空気は、発熱体層13の温度上昇時には膨張し、発熱体層13の温度下降時には収縮するから、発熱体層13への通電を適宜に制御することによって空気中を伝搬する超音波を発生させることができる。要するに、音波発生部1を構成する超音波発生素子は、発熱体層13への通電に伴う発熱体層13の急激な温度変化を媒質の膨張収縮に変換することによって媒質を伝搬する超音波を発生するので、圧電素子のように機械的振動により超音波を発生する場合に比べ、残響の少ない単パルス状の超音波を監視空間に提供することができる。
熱絶縁層12を構成する多孔質シリコン層は、略60〜略70%の多孔度を有しており、ベース基板11として用いるシリコン基板の一部をフッ化水素水溶液とエタノールとの混合液からなる電解液中で陽極酸化処理することにより形成できる。陽極酸化処理により形成された多孔質シリコン層は、結晶粒径がナノメータオーダの微結晶シリコンからなるナノ結晶シリコンを多数含んでいる。多孔質シリコン層は、多孔度が高くなるにつれて、熱伝導率および熱容量が小さくなるので、熱絶縁層12の熱伝導度および熱容量をベース基板11の熱伝導度および熱容量に比べて小さくし、熱絶縁層12の熱伝導度と熱容量との積をベース基板11の熱伝導度と熱容量との積に比べて十分に小さくすることにより、発熱体層13の温度変化を空気に効率よく伝達することができる。また、発熱体層13と空気との間で効率的な熱交換が得られ、ベース基板11が熱絶縁層12からの熱を効率良く受け取って熱絶縁層12の熱を逃がすことができる。したがって、発熱体層13からの熱が熱絶縁層12に蓄積されるのを防止できる。
尚、熱伝導率が148W/(m・K)、熱容量が1.63×106J/(m3・K)の単結晶のシリコン基板を陽極酸化して形成される多孔度が約60%の多孔質シリコン層は、熱伝導率が約1W/(m・K)、熱容量が約0.7×106J/(m3・K)であり、多孔度が約70%の多孔質シリコン層の場合は、熱伝導率が約0.12W/(m・K)、熱容量が約0.5×106J/(m3・K)である。本実施形態の熱絶縁層12は、多孔度が約70%の多孔質シリコン層によって形成されている。
発熱体層13は、高融点金属の一種であるタングステンにより形成してあるが、発熱体層13の材料はタングステンに限らず、例えば、タンタル、モリブデン、イリジウム、アルミニウムなどを採用してもよい。また、音波発生部1では、ベース基板11の厚さを300〜700μm、熱絶縁層12の厚さを1〜10μm、発熱体層13の厚さを20〜100nm、各パッド14の厚さを0.5μmとしてあるが、これらの厚さは一例であって特に限定するものではない。また、ベース基板11の材料としてSiを採用しているが、ベース基板11の材料はSiに限らず、例えば、Ge、SiC、GaP、GaAs、InPなどの陽極酸化処理による多孔質化が可能な他の半導体材料でもよく、いずれの場合にも、ベース基板11の一部を多孔質化することで形成した多孔質層を熱絶縁層12とすることができる。
音波発生部1は、一対のパッド14を介した発熱体層13への通電に伴う発熱体層13の温度変化に伴って超音波を発生するものであり、発熱体層13へ与える駆動電圧波形あるいは駆動電流波形からなる駆動入力波形を例えば周波数がf1の正弦波波形とした場合、理想的には、発熱体層13で生じる温度振動の周波数が駆動入力波形の周波数f1の2倍の周波数f2となり、駆動入力波形f1の略2倍の周波数の超音波を発生させることができる。すなわち、本実施形態の音波発生部1は、平坦な周波数特性を有しており、発生させる超音波の周波数を広範囲にわたって変化させることができる。また、正弦波波形の半周期の孤立波を駆動入力波形として一対のパッド14間へ与える場合は、残響の少ない略1周期の単パルス状の超音波を発生させることができる。このような単パルス状の超音波を用いることにより、反射による干渉が起こりにくくなるので、上記吸音層を省略することもできる。また、熱絶縁層12が多孔質層により構成されているので、熱絶縁層12が非多孔質層(例えば、SiO2膜など)からなる場合に比べて、熱絶縁層12の断熱性が向上して超音波発生効率が高くなり、消費電力を節約できるという効果もある。
音波発生部1を制御する制御部2は、図示していないが、音波発生部1に駆動入力波形を与えて音波発生部1を駆動する駆動回路と、当該駆動回路を制御するマイクロコンピュータからなる制御回路とで構成される。
受波素子3を構成する静電容量型のマイクロホンは、図4(A)および図4(B)に示すように、シリコン基板に厚み方向に貫通する窓孔31を設けた矩形状のフレーム30と、フレーム30の対向する2辺に跨る形で配置される片持ち梁式の受圧部32とを備えている。フレーム30の上面には熱酸化膜35が形成され、熱酸化膜35上にはシリコン酸化膜36が形成され、シリコン酸化膜36上にはシリコン窒化膜37が形成されている。受圧部32の一端部は、シリコン窒化膜37を介してフレーム30に支持され、他端部がシリコン窒化膜37の上方に対向するように配置されている。受圧部32の他端部に対向するシリコン窒化膜37上には、金属薄膜(例えば、クロム膜など)からなる固定電極34が形成され、受圧部32の他端部の上面には、金属薄膜(例えば、クロム膜など)からなる可動電極33が形成されている。尚、フレーム31の下面にはシリコン窒化膜38が形成されている。受圧部32は、シリコン窒化膜37、38とは別工程で形成されるシリコン窒化膜により形成されている。
この静電容量型のマイクロホンからなる受波素子3においては、固定電極34と可動電極33とを電極とするコンデンサが形成されるから、受圧部32が疎密波の圧力を受けることにより固定電極34と可動電極33との間の距離が変化すると、電極間の静電容量が変化する。従って、固定電極34および可動電極33に設けたパッド(図示せず)間に直流バイアス電圧を印加しておけば、パッド間には超音波の音圧に応じて微小な電圧変化が生じ、超音波の音圧を電気信号に変換することができる。
信号処理部4は、図1に示すように、受波素子3の出力の基準値からの減衰量に基づいて音波発生部1と受波素子3との間の監視空間の煙濃度を推定する煙濃度推定部41と、煙濃度推定部41で推定された煙濃度と所定の閾値とを比較して火災の有無を判定する煙濃度判定部42と、音波発生部1の提供する超音波を受波素子3が受信するまでに要した時間に基づいて音速を求める音速検出部43と、音速検出部43で求めた音速に基づいて監視空間の温度を推定する温度推定部44と、温度推定部44で推定された温度と規定温度とを比較して火災の有無を判定する温度判定部45とを有している。信号処理部4は、マイクロコンピュータにより構成されており、上記各部41〜45は、上記マイクロコンピュータに適宜のプログラムを搭載することにより実現されている。また、信号処理部4には、受波素子3の出力信号をアナログ−ディジタル変換するA/D変換器などが設けられている。
煙濃度推定部41は、受波素子3の出力の基準値からの減衰量に基づいて煙濃度を推定する。音波発生部1からの超音波の周波数が一定であれば、減衰量は監視空間内の煙濃度に略比例して増加するので、あらかじめ測定した煙濃度と減衰量との関係データ(例えば、煙濃度と減衰量との関係式)を記憶しておけば、減衰量から煙濃度を推定することができる。
煙濃度判定部42は、煙濃度推定部41で推定された煙濃度が上記閾値未満の場合には「火災無し」と判定し、上記閾値以上の場合には「火災有り」と判定して火災感知信号を制御部2へ出力する。ここで、制御部2は火災感知信号を受信すると、音波発生部1から可聴域の音波からなる警報音が発生するように音波発生部1への駆動入力波形を制御する。このように、音波発生部1から警報音を発生させることができるので、警報音を出力するスピーカなどを別途に設ける必要がなく、火災感知器全体の小型化および低コスト化を図れる。
音速検出部43は、音波発生部1と受波素子3との間の距離と音波発生部1の提供する超音波を受波素子3が受信するまでに要した時間とを用いて音速を求める。温度推定部44は、大気中の音速と絶対温度との周知の関係式を利用して前記音速から監視空間の温度を推定する。温度判定部45は、温度推定部44で推定された温度が上記規定温度未満の場合には「火災無し」と判定し、上記規定温度以上の場合には「火災有り」と判定して火災感知信号を制御部2へ出力する。制御部2は、この火災感知信号に基づき、可聴域の音波からなる警報音が発せられるように音波発生部1への駆動入力波形を制御する。尚、本実施形態では、煙濃度判定部42や温度判定部45から出力される火災感知信号を制御部2へ出力する構成を採用しているが、制御部2以外の外部の通報装置へ出力するようにしてもよい。
上記した本実施形態の火災感知器によれば、受波素子3の出力の基準値からの減衰量に基づいて推定した煙濃度を所定の閾値と比較して火災の有無を判定するので、減光式煙感知器で問題となるバックグランド光の影響をなくして誤報の発生を低減することができる。また、散乱光式煙感知器に必要なラビリンス体を不要とすることができ、火災発生時に監視空間へ煙粒子が拡散しやすくなるから、散乱光式煙感知器に比べて応答性の向上を図れる。さらに、本実施形態の火災感知器では、音速検出部43によって求めた音速に基づいて監視空間の温度を推定し、推定した温度から火災の有無を判定するので、別途に温度検出素子を用いることなく火災発生時の温度上昇によっても火災を感知することが可能となり、火災の発生をより正確に感知することが可能になる。
(第2実施形態)
本実施形態の火災感知器は、図5に示すように、制御部2および信号処理部4の構成が相違すること除いて第1実施形態と実質的に同じである。したがって、第1実施形態と同様の構成要素については同一の符号を付して重複する説明を省略する。
音波発生部1の出力周波数と音圧の単位減衰率との関係は、図6に示すように、監視空間に存在する(浮遊する)煙粒子の種類に応じて異なることが予備実験によって確認されている。ここで、監視空間に煙粒子が存在しない状態で受波素子3によって受信される音圧(以下、基準音圧)をI0、減光式煙濃度計での評価でx%/mとなる濃度の煙粒子が監視空間に存在する状態で受波素子3によって受信される音圧をIxとする時、音圧の減衰率は(I0−Ix)/I0と定義される。特に、x=1のときの減衰率を単位減衰率と定義する。尚、基準音圧I0と音圧Ixとは、監視空間における煙粒子の有無を除いては同一の条件で検出されるものとする。図6中、「A」は監視空間に黒煙の煙粒子が存在する場合の出力周波数と音圧の単位減衰率との関係を示す近似曲線(黒丸が測定データ)であり、「B」は監視空間に白煙の煙粒子が存在する場合の出力周波数と音圧の単位減衰率との関係を示す近似曲線(黒四角が測定データ)であり、「C」は監視空間に湯気の粒子が存在する場合の出力周波数と音圧の単位減衰率との関係を示す近似曲線(黒三角が測定データ)である。ここに示す単位減衰率は、音波発生部1と受波素子3との間の距離を30cmに設定したときの出力周波数ごとのデータである。また、図6における右端の各データは、出力周波数が82kHzのときのデータであり、出力周波数が82kHzのときのデータを1として各出力周波数の単位減衰率を規格化した結果を図7に示す。要するに、図7は、横軸が出力周波数、縦軸が相対的単位減衰率となっている。また、白煙の煙粒子のサイズは800nm程度、黒煙の煙粒子のサイズは200nm程度、湯気の粒子のサイズは数μm〜20μm程度である。
本実施形態では、上述の関係に基づいて、制御部2が、周波数の異なる複数種の超音波が監視空間に順次提供されるように音波発生部1を制御する。信号処理部4は、少なくとも受波素子3の基準出力(基準音圧に対する受波素子3の出力)、監視空間に存在する煙粒子の種類および煙粒子濃度に応じた音波発生部1の出力周波数と受波素子3の出力の相対的単位減衰率との関係データ(上述の図7より抽出されるデータ)、煙粒子に関して特定周波数(例えば、82kHz)における単位減衰率(上述の図6より抽出されるデータ)を記憶した記憶部48と、音波発生部1から実際の監視空間に提供された各周波数の超音波ごとの受波素子3の出力と記憶部48に記憶されている関係データとを用いて当該監視空間に存在する煙粒子の種類を推定する煙粒子判定部46とを有する点に特徴がある。煙濃度推定部41は、煙粒子判定部46で推定された煙粒子に関して、特定周波数(例えば、82kHz)の超音波に対する受波素子3の出力の基準値からの減衰量に基づいて監視空間の煙濃度を推定する。そして、煙濃度判定部42は、煙濃度推定部41によって推定された煙濃度と所定の閾値とを比較して火災の有無を判定する。
以下に、本実施形態の火災感知器の動作例を図8のフローチャートを参照しながら説明する。まず、音波発生部1から複数種の超音波を順次監視空間に提供し、各超音波に対する受波素子3の出力を信号処理部4で計測する(ステップS11)。煙粒子判定部46は、出力周波数ごとに受波素子3の出力と記憶部48に記憶されている基準出力とから音圧の減衰率を求め(ステップS12)、出力周波数が82kHzでの音圧の減衰率に対する20kHzでの音圧の減衰率の比を算出する(ステップS13)。記憶部48には、音波発生部1の出力周波数と受波素子3の出力の相対的単位減衰率との関係データとして、出力周波数が82kHzでの相対的単位減衰率に対する20kHzでの相対的単位減衰率の比(図7の場合、白煙が0、黒煙が0.2、湯気が0.5)が記憶されており、煙粒子判定部46は、算出した減衰率の比を記憶部48に記憶されている関係データと比較し、関係データの中で減衰率の比が最も近い種類の煙粒子を監視空間に存在する煙粒子と推定する(ステップS14)。例えば、煙粒子が白煙の場合には、図9に示すように、減光式煙濃度計で計測される煙濃度と音圧の減衰率との関係は直線で示すことができる。本実施形態では、推定された煙粒子の種類が白煙もしくは黒煙(監視対象の煙粒子)であれば、煙濃度推定部41における処理に移行する(ステップS15)。したがって、煙粒子の種類が湯気であると推定された場合は、火災ではないのでその後の処理が省略される。煙濃度推定部41は、推定された種類の煙粒子に関して、特定周波数(例えば、82kHz)の超音波に対する受波素子3の出力の減衰率の記憶部48に記憶されている単位減衰率に対する比を算出し、その比の値がyの場合に監視空間の煙濃度が減光式煙濃度計での評価における煙濃度y%/mに相当すると推定する(ステップS16)。煙濃度判定部42は、ステップS16で推定された煙濃度と所定の閾値(例えば、減光式煙濃度計での評価で10%/mとなる煙濃度)とを比較し、推定された煙濃度が上記閾値未満の場合には「火災無し」と判定し、上記閾値以上の場合には「火災有り」と判定して火災感知信号を制御部2へ出力する。
上記説明では、出力周波数が82kHzのときの減衰率と20kHzのときの減衰率とを用いているが、これらの出力周波数の組み合わせに限定されない。異なる組み合わせの出力周波数を用いたり、より多くの出力周波数に対する減衰率を用いてもよく、その場合は煙粒子の種類の推定精度を高めることができる。また、本実施形態では、煙濃度推定部41が特定周波数として1周波数を対象としているが、特定周波数として複数の周波数を対象とし、特定周波数ごとに推定した煙濃度の平均値を求めるようにしてもよい。この場合も、煙濃度の推定精度が向上する。尚、煙粒子判定部46は、煙濃度推定部41や煙濃度判定部42と同様に、信号処理部4を構成するマイクロコンピュータに適宜のプログラムを搭載することによって実現できる。
また、煙粒子判定部46における煙粒子の種類の推定精度を高める観点から、制御部2は、音波発生部1から提供される超音波の周波数を所定の周波数範囲(例えば、20kHz〜82kHz)の下限周波数(例えば、20kHz)から上限周波数(例えば、82kHz)まで変化させている。本実施形態では、周波数の異なる4種類の超音波が順次監視空間に提供されるように制御されているが、音波発生部1から提供される超音波の周波数は4種類に限らず、複数種類であればよく、例えば、2種類とすれば、3種類以上の超音波を使用する場合に比べて、制御部2および信号処理部4の負担を軽減できるとともに、制御部2および信号処理部4の簡略化を図れる。
また、本実施形態では、音波発生部1として実施形態1で説明した超音波発生素子を用いており、単パルス状の超音波を発生させることができるので、監視空間に順次提供される超音波をそれぞれ周波数の異なる単パルス状の超音波とすれば、音波発生部1として共振周波数の異なる複数の圧電素子を用いて各圧電素子から連続波の超音波を提供する場合に比べ、低コスト化および低消費電力化を図れる。しかも、1つの超音波発生素子で複数種の超音波を生成できるので、各種の超音波を発生させるための超音波発生素子を複数個使用する場合に比べ、音波発生部1の小型化、低コスト化が可能となる。
尚、記憶部48に記憶する関係データは、音波発生部1の出力周波数と受波素子3の出力の基準値からの減衰量との関係を示すデータであればよく、上述の相対的単位減衰率に代えて、受波素子3の出力の基準値からの減衰量や、受波素子3の出力の基準値からの減衰量を基準値(I0)で除しただけの減衰率、あるいは単位減衰率を採用した関係データであってもよい。
本実施形態の火災感知器によれば、第1実施形態で述べたのと同じ理由から、散乱光式煙感知器に比べて応答性を向上できるとともに、減光式煙感知器に比べて火災検知に関して誤報の発生を低減することができる。しかも、煙粒子判定部46において、監視空間に存在する煙粒子の種類を推定することで固体の煙粒子と湯気とを識別可能となるから、散乱光式煙感知器および減光式煙感知器に比べて湯気に起因した誤報の発生を低減することが可能となり、台所や浴室での使用にも適した火災感知器となる。さらに、煙粒子判定部46によって白煙の煙粒子と黒煙の煙粒子を識別可能となるから、火災の性質についての情報を得ることも可能となる。さらに、火災感知器を設置している室内の掃除や天井裏の電気工事などの際に浮遊する粉塵と煙粒子との識別も可能になるため、粉塵などに起因した誤報の発生を低減する上でも有効である。
本実施形態の第1変更例として、図10に示すように、互いに出力周波数の異なる複数の超音波発生素子1aで音波発生部1を構成してもよい。この場合には、各超音波発生素子1aとして、圧電素子のように機械的振動により超音波を発生する素子を用い、各超音波発生素子1aをそれぞれの共振周波数で駆動することにより、音波発生部1からの超音波の音圧を高めることができる。音波発生部1からの超音波の音圧が高くなると、受波素子3で受波される超音波の音圧の変動範囲が広くなり、結果的に、煙濃度の変化量に対する受波素子3の出力の変化量が大きくなってSN比が向上するという利点がある。また、各超音波発生素子1aにそれぞれ対応付けた複数の受波素子3を設け、各受波素子3が各々に対応する各超音波発生素子1aからの超音波を受波するように構成されている。したがって、各受波素子3として共振特性のQ値が比較的大きな圧電素子などを用い、各受波素子3をそれぞれの共振周波数の超音波の受信に用いることにより、受波素子3の感度を向上させてSN比の向上を図ることができる。この場合、各超音波発生素子1aを順次駆動して複数種の超音波を順次送波させるだけでなく、複数の超音波発生素子1aを一斉に駆動して複数種の超音波を同時に発信することも可能になる。複数種の超音波を同時に発信すれば、複数種の超音波の音圧の減衰量を同時に検出することで、監視空間の経時的変化(例えば煙粒子の濃度の時間変化)の影響を受けることなく、同一条件で複数種の超音波について音圧の減衰量を検出することができ、煙粒子の種類や煙濃度をより精度よく推定することができる。
また、本実施形態の第2変更例として、図11に示すように、複数の超音波発生素子1aからなる音波発生部1に対して単一の受波素子3を設け、各超音波発生素子1aを順次駆動して複数種の超音波を順次監視空間に提供し、これら複数種の超音波を単一の受波素子3で順次受信するようにしてもよい。この場合、受波素子3として、例えば第1実施形態で説明した静電容量型のマイクロホンのように共振特性のQ値が小さい素子を用いることが望ましい。図11の構成によれば、複数の受波素子3を設ける場合に比べ、受波素子3の低コスト化、火災感知器の小型化を図れる。
また、本実施形態の第3変更例として、図12に示すように、圧電型超音波センサなどの超音波の発信と受信の両方に使用可能な超音波発生素子1aを用い、超音波発生素子1aを制御部2だけでなく信号処理部4にも接続することで、超音波発生素子1aを受波素子3として兼用しても良い。この変更例では、音波発生部1を複数の超音波発生素子1aで構成しており、各超音波発生素子1aから提供される超音波を当該超音波発生素子1aに向けて反射する反射壁7を音波発生部1と対向配置することにより、各超音波発生素子1aからの超音波の反射波をそれぞれ受信することになる。この場合は、超音波が反射壁7と超音波発生素子1aとの間を往復し、受波素子3として機能する超音波発生素子1aで受信されることになるので、超音波発生素子1aと反射壁7との間の空間が監視空間となる。反射壁7が必要であるものの、素子数の低減による低コスト化を図ることができる。
さらに、本実施形態の第4変更例として、図13に示すように、音波発生部1として第1実施形態で説明した単一の超音波発生素子を用い、制御部2が音波発生部1へ与える駆動入力波形の周波数を順次変化させることにより、周波数の異なる複数種の超音波を順次監視空間に提供する一方で、受波素子3を複数個設けるようにしてもよい。この場合は、受波素子3として共振特性のQ値が比較的大きな圧電素子などを用い、各受波素子3をそれぞれの共振周波数の超音波の受信に用いることにより、受波素子3の感度を向上させることができ、結果的にSN比を高めることができる。尚、複数種の超音波を1つの受波素子3で受信する構成では、周波数ごとに受波素子3の感度が異なっていると各種の超音波ごとにSN比のばらつきを生じるが、上述のように各種の超音波の受波を個別の受波素子3で行う構成では、各受波素子3の感度を揃えておくことにより各種の超音波ごとのSN比のばらつきを抑制することができる。
尚、上記した実施形態において、信号処理部4は、定期的に、所定周波数(例えば、上述の特定周波数と同じ82kHz)の超音波に対する受波素子3の出力に基づいて、音波発生部1の出力変動や受波素子3の感度変動がキャンセルされるように、制御部2による音波発生部1の制御条件と受波素子3の出力の信号処理条件との少なくとも一方を変更するようにすることが好ましい。火災感知器による火災の判定精度を長期にわたって安定に保つことができる。
また、本実施形態の火災感知器においても、第1実施形態と同様に、信号処理部4に、音速検出部43、温度推定部44、温度判定部45を設けてもよい。
また、音波発生部1と制御部2と受波素子3と信号処理部4とを1枚の回路基板5に設けてケース(図示せず)内に収納する一体型の火災感知器の他に、音波発生部1と制御部2とを備えた音波発信ユニットと、受波素子3と信号処理部4とを備えた音波受信ユニットとを別体として互いに対向配置する分離型の火災感知器を構成してもよい。また、音波発生部1は、図3に示す超音波発生素子に限らず、例えば、アルミニウム製の薄板を発熱体部として当該発熱体部への通電に伴う発熱体部の急激な温度変化による熱衝撃によって超音波を発生させるものであってもよい。
上記した各実施形態において、制御部2が、防虫効果のある周波数の超音波を発信するように音波発生部1を制御することで、監視空間に虫が侵入するのを防止することができ、虫に起因した誤報の発生を低減できる。例えば、煙濃度を推定するために音波発生部1から提供する超音波とは別に、防虫効果のある周波数の超音波を定期的に発信するようにしてもよい。あるいは、煙濃度を推定するために音波発生部1から送波する超音波の周波数を防虫効果のある周波数に設定してもよい。
(第3実施形態)
本実施形態の火災感知器は、図14(A)および図14(B)に示すように、内空間が超音波の伝播路として使用され、超音波の拡散範囲を狭める筒体50が音波発生部1と受波素子3との間に配置されることを除いて実質的に第1実施形態と同じである。したがって、第1実施形態と同様の構成要素については同一の符号を付して重複する説明を省略する。
筒体50は、監視空間における超音波の伝搬経路の少なくとも一部に配置される。具体的には、本実施形態の筒体50は、長手方向の両端面が開放された略直方体の角筒構造を有し、長手方向の一端面(図14(A)における右端面)を音波発生部1に近接させて配置することにより当該一端面が音波発生部1で閉じられ、他端面(図14(A)における左端面)は受波素子3から所定距離によって離されている。筒体50を設けることで、音波発生部1からの超音波が拡散して音圧低下するのを抑制することができる。
また、本実施形態の火災感知器においては、図15(A)に示すように、音波発生部1を構成する超音波発生素子の発熱体層13の表面(図3参照)が、筒体50の超音波入射口に対向して配置されるとともに、超音波入射口と同一もしくはそれより大きい形状、好ましくは略同形状の大きさに形成されている。一例として、筒体50の超音波入射口の開口面積が10mm角の正方形状を有する時、発熱体層13の表面を10mm角の正方形状とする。この構成によれば、発熱体層13の急激な温度変化が筒体50の超音波入射口の全域に一様に伝わるので、音波発生部1からの超音波は筒体50内を平面波として進行する。したがって、筒体50の側面での反射波による干渉を生じることなく、超音波の音圧低下を防ぐことができる。
あるいは、図15(B)に示すように、音波発生部1を複数の超音波発生素子で構成し、これらの超音波発生素子を同期させて駆動する場合は、これら複数の超音波発生素子を並べて形成される音波発生部1の超音波発生面を、筒体50の超音波入射口に対向配置するとともに、超音波入射口と同一もしくはそれより大きい形状、好ましくは略同形状に形成すれば、上述した図15(A)の場合と同等の効果を得ることができる。一例として、筒体50の超音波入射口の開口面積が10mm角の正方形状を有する時、各超音波発生素子それぞれの発熱体層13が5mm角の正方形状を有し、これら4つの超音波発生素子を並べて10mm角の正方形状の超音波発生面を形成すればよい。
また、筒体50は、図16に示すように、音波発生部1を筒体50で覆った構成や、図17に示すように、筒体50の一端面を音波発生部1から所定距離だけ離して対向配置する構成を採用してもよい。さらに、音波発生部1の中心軸と受波素子3の中心軸とが同一軸上にない場合、例えば、音波発生部1の中心軸に対して受波素子3が傾いて配置される場合は、図18に示すように、音波発生部1と受波素子3との間に伝搬経路に沿って曲げられた筒体50を配置してもよい。さらに、図19に示すように、長手方向に直交する断面が、超音波の進行方向に向かって大きくなる音響ホーンを筒体50として用いてもよい。尚、筒体50は角筒に限らず丸筒であってもよい。
本実施形態の火災感知器によれば、第1実施形態で述べたのと同様の効果に加え、筒体50を設けたことにより、超音波の拡散による音圧低下を抑制することができるので、SN比が向上するというさらなる効果がある。そして、音波発生部1の発熱体層13の表面を筒体50の超音波入射口と略同一の大きさに形成する場合は、筒体50内での超音波同士の干渉による音圧低下を回避できる点で特に好ましい。
(第4実施形態)
本実施形態の火災感知器は、図20に示すように、音波発生部1と受波素子3との間隔と同じ長さの筒体50を、音波発生部1と受波素子3とで筒体50の長手方向の両端面が閉じられるように配置したことを除いて実質的に第1実施形態と同じである。したがって、第1実施形態と同様の構成要素については同一の符号を付して重複する説明を省略する。
図20に示すように配置された筒体50は、両端面が閉じられた音響管と同様に固有の共振周波数を有する。つまり、筒体50の長手方向の寸法をLとするときに、L=(n/2)×λの関係(ただし、nは自然数)を満たす波長λに対応する周波数f(超音波の伝搬速度をcとしてf=c/λで定義される)が筒体50の共振周波数となる。したがって、L=(n/2)×λの関係を満たす超音波の連続波が長手方向の端面から筒体50内に入射すると、当該超音波の少なくとも一部が筒体50の長手方向の両端面で反射を繰り返すことにより、反射波と音波発生部1からの直接波とが重なって共振し、筒体50の内部において図21に示すように時間経過に伴って超音波の音圧が増大する。
そこで、本実施形態では、制御部2において、筒体50内に固有の共振周波数の超音波が提供されるように音波発生部1を制御することにより、筒体50内で共振を生じさせ、音波発生部1からの超音波の音圧を増大させている。この場合、筒体50内で共振を生じさせるために、単パルス状の超音波ではなく、L/λを超える複数周期(以下、m周期という)の超音波を音波発生部1から提供する必要がある。そこで、制御部2は、m(>L/λ)周期の超音波の連続波が筒体50内に提供されるように音波発生部1を制御する。言い換えると、音波発生部1から連続して提供される超音波の発信時間tp(つまりtp=m×λ/c)が、筒体50の長手方向の両端間を超音波が伝搬するのに要する伝搬時間ts(つまりts=L/c)よりも大きくなる(つまりtp>ts)ように制御部2で音波発生部1を制御する。受波素子3は、筒体50内で共振が発生して超音波の音圧が飽和したタイミング(図21中「S」のタイミング)で超音波の音圧を検出する。通常、音波発生部1からの超音波の発信が終了した時点で超音波の音圧が飽和するので、一例として、音波発生部1からの超音波の発信を終了すると同時に、受波素子3において超音波の音圧を検出すればよい。
本実施形態においては、図22に示すように、筒体50の一端面に音波発生部1が、他端面に受波素子3がそれぞれ配置されている。両端面が閉じた音響管においては、超音波による圧力変化が両端部で最大になるので、受波素子3は超音波による圧力変化が最大となる部位で超音波の音圧を検出することができる。換言すれば、超音波の音圧の腹(つまり空気の移動速度の節)となる部位で受波素子3が超音波の音圧を検出することができる(図22中、「W1」と「W2」の縦方向の間隔が圧力変化の大きさを表す)。その結果、煙濃度の変化量に対する受波素子3の出力の変化量を極力大きくすることができる。なお、図23に示すように、筒体50の一端面に音波発生部1および受波素子3を並べて配置し、筒体50の長手方向の他端面(図23右端面)を閉じた形状とした場合でも、受波素子3は超音波による圧力変化が最大となる部位で音圧を検出することができる。
また、図24に示すように、両端面が閉じた筒体50一端面に音波発生部1を配置し、長手方向に沿う側面のうち音波発生部1からの超音波による圧力変化が最大となる位置に受波素子3を配置してもよい。超音波による圧力変化が最大となる箇所は、両端が閉じた音響管の長手方向における両端部だけでなく、長手方向に沿って一端面からλ/2(λは超音波の波長)ごとにある。この箇所に受波素子3を配置すれば、上記した場合と同様に、煙濃度の変化量に対する受波素子3の出力の変化量を極力大きくすることができる。
さらに、図25は、筒体50の側面のうち音波発生部1からの超音波による圧力変化が最大となる位置に受波素子3を配置した場合の他例であって、具体的には、制御部2が、筒体50の内部空間における長さ寸法Lを自然数nで除した長さの波長λ(つまりλ=L/n)の超音波が監視空間に提供されるように音波発生部1を制御することを前提として、筒体50の長手方向の中央部に受波素子3を配置している。要するに、波長λ(=L/n)の超音波が音波発生部1から提供されると、筒体50の長手方向の中央部は長手方向の一端面から必然的にλ/2のn倍だけ離れた位置となり、超音波による圧力変化が常に最大となる。この構成では、上述した波長λ(=L/n)の条件を満たしていれば超音波の周波数が異なる場合でも、筒体50の長手方向の中央部に配置された受波素子3によって超音波の圧力変化が最大となる位置で音圧を検出することが可能となり、超音波の周波数ごとに異なる位置に受波素子3を配置する場合に比べて、筒体50の設計が容易になる。
ところで、両端面が閉じた音響管を共振させる場合、長手方向の各端面で超音波が反射することにより共振し、特に、波長の短い超音波では、端面に微小な凹凸があるだけでも端面で反射する際に干渉による音圧低下を招く恐れがあるが、図24のように筒体50の側面に受波素子3を配置すれば、筒体50の端面に設けられる場合に比べ、筒体50の端面を凹凸の少ない平坦な面とすることができ、結果的に、筒体50の端面での超音波の反射を受波素子3で阻害することなく共振による音圧増加を得ることができる。尚、図22ないし図25の構成では、筒体50内が監視空間となるので、筒体50の長手方向に沿う側面には内部に煙等を案内する孔(図示せず)が設けられている。尚、煙をさらに導入し易くする観点から、この孔は一部が開放されている他の実施形態の筒体に設けても良い。また、孔の配置は、筒体の側面に限定されない。
また、超音波の伝搬速度である音速cは媒質の絶対温度に応じて変化するので、筒体50の共振周波数は常に一定ではなく、媒質の温度変化による音速変化に起因して変動する。そのため、音波発生部1からの超音波の周波数を筒体50の共振周波数と正確に合わせるためには、音波発生部1からの超音波の周波数を温度変化に伴う音速変化に応じて補正する必要がある。本実施形態では、温度変化に伴う音速変化に応じて音波発生部1からの超音波の周波数を補正する周波数補正部(図示せず)を制御部2に設けてある。したがって、音速変化に起因して筒体50の共振周波数が変動することがあっても、音波発生部からの超音波の周波数は周波数補正部によって変動後の筒体50の共振周波数に補正されるので、筒体50内において確実に共振を発生させることができる。また、この周波数補正部は、第1実施形態で説明した音速検出部43において、音波発生部1が超音波を発信してから受波素子3によって受信されるまでの時間差に基づいて求めた音速を用いて音波発生部1からの超音波の周波数補正を実施しており、結果的に、音速を求める手段を個別設ける場合に比べて煙感知器の構成をシンプルにすることができる。
以下に、本実施形態の具体例を示す。音速cが340m/s、筒体50の長手方向の寸法Lが34mmのとき、L=(n/2)×λの関係を満たすには、音波発生部1が発信する超音波の周波数f(=c/λ)をたとえば100kHz(n=20)や、50kHz(n=10)とすればよい。すなわち、100kHzや50kHzは筒体50の共振周波数であり、これらの周波数の超音波を音波発生部1から発信することにより、図21に示すように時間経過に応じて超音波の音圧が共振によって増大する。ここで、上述したように、m(>L/λ)周期の超音波の連続波を監視空間に提供する必要があるので、制御部2は、たとえば100kHzの場合には100周期、50kHzの場合には50周期程度の超音波が音波発生部1から連続的に提供されるように音波発生部1を制御する。この構成では、筒体50内で共振が発生して超音波の音圧が飽和したタイミング(図21中の「S」のタイミング)で受波素子3が検出する超音波の音圧は、筒体50のない構成で単パルス状の超音波を送受波した場合の数十倍の音圧となる。
また、本実施形態の変更例として、筒体50の長手方向の一端面のみを閉じた(他端面が開口した)構成を採用してもよい。この場合も、筒体50は長手方向の一端が閉じられた音響管と同様に固有の共振周波数を有する。つまり、筒体50の長手方向の寸法をLとするときに、L=(1/4+n/2)×λの関係(ただし、n=0、1、2、3、…)を満たす波長λに対応する周波数f(=c/λ)が筒体50の共振周波数となる。したがって、L=(1/4+n/2)×λの関係を満たす超音波の連続波が長手方向の端面から筒体50内に入射すると、当該超音波の少なくとも一部が筒体50の長手方向の両端面で反射を繰り返すことにより、反射波と音波発生部1からの直接波とが重なって共振し、筒体50の内部において図21に示すように時間経過に応じて音圧が増大する。この場合、筒体50内で共振を生じさせるために、制御部2は、単パルス状の超音波ではなく、m(>L/λ)周期の超音波の連続波を発信するように音波発生部1を制御する。言い換えると、音波発生部1から超音波を連続して発信する発信時間tp(=m×λ/c)が、筒体50の長手方向の両端間を超音波が伝搬するのに要する伝搬時間ts(=L/c)よりも大きくなる(つまりtp>ts)ように制御部2で音波発生部1を制御する。なお、筒体50の一方の端面を開口端とする場合、開口端よりも僅かΔLだけ外側に、超音波の音圧の節(つまり空気の移動速度の腹)が生じるので、共振周波数を求める際に用いる長さLを上記ΔLだけ補正(開口端の補正)すれば、より正確な共振周波数を求めることができる。
上記した本実施形態の火災感知器によれば、筒体50内で共振を生じさせることで、音波発生部1と受波素子3との間における音圧の低下を一層抑制することができ、煙濃度の変化量に対する受波素子3の出力の変化量が大きくなってSN比を高めることができる。しかも、共振により筒体50の長手方向の端面で反射を繰り返す超音波においては、実効的な伝播距離が反射の回数に応じて延長されるので、このことも煙濃度の変化量に対する受波素子3の出力の変化量の増大に寄与し、非共振の単パルス状の超音波が受波素子3で受波される場合に比較して超音波の減衰量は数倍に増大する。
(実施形態5)
本実施形態の火災感知器は、図26に示すように、音波発生部1と受波素子3との対向面がそれぞれ超音波を反射する第1反射面Re1と第2反射面Re2とを形成していることを除いて実質的に第1実施形態と同じである。したがって、第1実施形態と同様の構成要素については同一の符号を付して重複する説明を省略する。
本実施形態においては、音波発生部1と受波素子3との間の超音波の伝搬経路は、両端に第1および第2の各反射面Re1、Re2を有する気柱と同様に、固有の共振周波数を有する。つまり、音波発生部1と受波素子3との間の距離をLとするとき、L=(n/2)×λの関係(ただし、nは自然数)を満たす波長λに対応する周波数f(波の伝搬速度をcとしてf=c/λで定義される)が音波発生部1と受波素子3との間の超音波の伝搬経路における共振周波数となる。したがって、L=(n/2)×λの関係を満たす超音波の連続波が音波発生部1から発信されると、当該超音波の少なくとも一部が第2反射面Re2で反射されて反射波(図26中に破線で示す)となり、さらにこの反射波が第1反射面Re1で反射されて反射波となり、これらの反射波が音波発生部1から発信される後続の超音波と同位相で重なって共振し、時間経過に応じて超音波の音圧が増大する。
したがって、制御部2は、距離Lに基づく超音波の伝搬経路に固有の共振周波数の超音波が監視空間に提供されるように音波発生部1を制御することにより、音波発生部1と受波素子3との間の超音波の伝搬経路で共振を生じさせ、超音波の音圧を増大させることができる。また、第4実施形態と同様に、音波発生部1から超音波を連続して発信する送波時間tpが、音波発生部1と受波素子3との間を超音波が伝搬するのに要する時間tsよりも大きくなるように制御部2で音波発生部1を制御する。これにより、音波発生部1からの超音波は少なくとも第2反射面Re2での反射波と重なって共振し、したがって音波発生部1と受波素子3との間における超音波の音圧低下を抑制することができる。受波素子3は、音波発生部1と受波素子3との間で共振が生じて音圧が飽和したタイミングで超音波の音圧を検出する。
また、第4実施形態と同様に、温度変化に伴う音速変化に応じて音波発生部1からの超音波の周波数を補正する周波数補正部(図示せず)が制御部2に設けられているので、音波発生部1と受波素子3との間において確実に共振を発生させることができる。
以下に、本実施形態の具体例を示す。音速cが340m/s、音波発生部1と受波素子3との間の距離Lが34mmのとき、L=(n/2)×λの関係を満たすには、音波発生部1から発信する超音波の周波数f(=c/λ)をたとえば105kHz(n=21)とすればよい。すなわち、105kHzは伝搬経路の共振周波数であり、この周波数の超音波を音波発生部1から提供することにより、超音波の音圧が共振によって増大する。ここで、m(>L/λ)周期の超音波の連続波を発信する必要があるので、制御部2は、105kHzの超音波の場合、少なくとも11周期程度の超音波が連続的に監視空間に提供されるように音波発生部1を制御する。105kHzの超音波を用いる場合において、超音波を音波発生部1から105周期連続的に発信すれば、超音波が両反射板Re1、Re2間を5往復する間に反射波同士、あるいは反射波と音波発生部1からの直接波とが重なることにより音圧が増大する。この構成では、共振が発生して音圧が飽和したタイミングで受波素子3が検出する超音波の音圧は、共振周波数以外の単パルス状の超音波を送受波した場合の数十倍の音圧となる。
本実施形態の火災感知器によれば、第1実施形態で述べたのと同様の効果に加え、音波発生部1と受波素子3との間の超音波の伝搬経路で共振を発生させるようにしたことで、超音波が監視空間を伝播する間に音圧低下するのを抑制することができ、結果的にSN比の向上を図れる。さらに、共振により反射面Re1、Re2で反射した超音波においては、実効的な伝播距離が反射の回数に応じて延長され、実質的に超音波は音波発生部1と受波素子3との間の距離Lの数倍の伝播距離を経て受波素子3に到達する。このことも煙濃度の変化量に対する受波素子3の出力の変化量の増大に寄与し、非共振の単パルス状の超音波が受波素子3で受信される場合に比して超音波の減衰量は数倍に増大する。
(第6実施形態)
本実施形態の火災感知器は、図27に示すように、音波発生部1と受波素子3との対向面において、超音波の反射率を向上させる反射板60を設けたことを除いて実質的に第5実施形態と同じである。したがって、第5実施形態ならび第5実施形態が引用する実施形態と同様の構成要素については同一の符号を付して重複する説明を省略する。
すなわち、本実施形態においては、板状の一対の反射板60が対向配置され、音波発生部1および受波素子3は各反射板60の略中央部に配設されている。音波発生部1における受波素子3との対向面、および受波素子3における音波発生部1との対向面は、各反射板60の表面と面一になっている。この構成によれば、音波発生部1と受波素子3との間の伝搬経路において超音波が拡散によって広がったとしても、受波素子3あるいは音波発生部1の周囲の反射板60で反射されることにより伝搬経路に戻されるので、超音波の拡散による音圧低下を抑制することができ、煙濃度の変化量に対する受波素子の出力の変化量を大きくできてSN比が向上する。
本実施形態の第1変更例として、図28に示すように、パラボラ状に湾曲された反射板61を用いてもよい。この反射板61は、凹型の曲面を反射面として有するので、各反射板で超音波を反射する際に受波素子3に超音波が集音され、超音波の拡散による音圧低下をより一層抑制することができる。尚、凹型の曲面を反射面として有する反射板61を、音波発生部1と受波素子3のいずれか一方の側にのみ配置しても良い。
また、本実施形態の第2変更例として、図29に示すように、平板状の一対の反射板60の一方に音波発生部1および受波素子3を並べて配置してもよい。素子数の低減による低コスト化を図ることができる。また、この構成においては、音波発生部1からの超音波は受波素子3に直接波として到達することがなく、少なくとも一回は対向配置された反射板60で反射されるので、音波発生部1と受波素子3との間で共振が生じやすくなる。あるいは、図30に示すように、音波発生部1および受波素子3に対向配置された平板状の反射板60の代わりに、パラボラ状の反射板61を配置しても良い。集音機能が向上して、超音波の拡散による音圧低下を一層抑制することができる。
尚、図29や図30に示す構成においては、音波発生部1と受波素子3との間の距離をLとすると、反射板同士の間の距離はL/2となるから、L/2=(n/2)×λの関係(ただし、nは自然数)を満たす波長λに対応する周波数fが、音波発生部1と受波素子3との間の超音波の伝搬経路における共振周波数となる。
(第7実施形態)
本実施形態の火災感知器は、図31に示すように、超音波を発信する音波発生部が第1音波発生部100および第2音波発生部110で構成され、超音波を受信する音波受信部が第1受波素子120および第2受波素子130で構成されるとともに、信号処理部4が後述の出力補正部49を備えることを除いて第1実施形態の煙感知器と実質的に同じである。したがって、同様の構成要素については同一の符号を付して重複する説明を省略する。
本実施形態においては、図32に示すように、円盤状のプリント基板からなる回路基板5の表面には、第1音波発生部100と第1受波素子120とが、監視空間を介して対向配置され、第2音波発生部110と第2受波素子130とが、参照空間を介して対向配置されている。制御部2および信号処理部4は、回路基板5に設けられている。
第1音波発生部100と第1受波素子120との間の監視空間は、火災の有無を監視するため、火災感知器の周囲の外部空間(外気)に通じており、第2音波発生部110と第2受波素子130との間の参照空間は、少なくとも煙粒子を含む浮遊粒子を遮断する遮断壁8によって包囲されている。つまり、第1音波発生部100は監視空間に超音波を発信し、第2音波発生部110は参照空間に超音波を発信する。
第1音波発生部100と第2音波発生部110のそれぞれには、第1実施形態と同様の超音波発生素子を使用でき、第1受波素子120と第2受波素子130のそれぞれには、第1実施形態と同様の静電容量型のマイクロホンを採用することができる。一方、第1音波発生部100および第2音波発生部110を制御する制御部2は、第1音波発生部100および第2音波発生部110に駆動入力波形を与えて駆動する駆動回路と、当該駆動回路を制御するマイクロコンピュータからなる制御回路とで構成される。
信号処理部4は、煙濃度推定部41、煙濃度判定部42、音速検出部43、温度推定部44、温度判定部45に加え、第1受波素子120の出力を補正するための出力補正部49が設けられている点に特徴がある。
すなわち、煙濃度推定部41は、第1音波発生部100からの超音波の音圧を検出する第1受波素子120の出力の基準値からの減衰量に基づいて煙濃度を推定する。煙濃度判定部42は、煙濃度推定部41で推定された煙濃度が閾値未満の場合には「火災無し」と判定し、閾値以上の場合には「火災有り」と判定して火災感知信号を制御部2へ出力する。制御部2は、火災感知信号を受信すると、可聴域の音波からなる警報音を第1音波発生部100から発生させる。一方、音速検出部43は、第1音波発生部100が超音波を発信してから第1受波素子120に受信されるまでの時間差に基づいて音速を求める。温度推定部44は、音速検出部43で求めた音速に基づいて監視空間の温度を推定する。温度判定部45は、温度推定部44で推定された温度と規定温度とを比較して火災の有無を判定し、煙濃度推定部41と同様に、所定の閾値以上の場合には「火災有り」と判定して火災感知信号を制御部2へ出力する。
尚、信号処理部4は、マイクロコンピュータにより構成されており、信号処理部4を構成する各部(40〜45、49)は、マイクロコンピュータに適宜のプログラムを搭載することにより実現される。
以下、本実施形態の特徴部である出力補正部49について詳細に説明する。第1受波素子120の出力は、監視空間の煙濃度の増減以外に、火災感知器の置かれた周囲環境の変化(たとえば、温度、湿度、大気圧などの変化)や、第1音波発生部100や第1受波素子120の経時変化(たとえば、経年劣化)に起因する第1音波発生部100からの超音波の音圧変化や、第1受波素子120の感度変化によって変動する恐れがある。本実施形態では、出力補正部49が、第2受波素子130の出力(参照値)の初期値からの変化率に基づいて第1受波素子120の出力を補正し、上記した出力変動の影響を除いた後、第1受波素子120の補正された出力をそれぞれ音速検出部43と煙濃度推定部41に送るようにしている。
具体的に説明すると、出力補正部49は、第2音波発生部110から参照空間に発信した超音波の音圧を検出する第2受波素子130の出力を受け、予め決められた第2受波素子130の出力の初期値からの変化率に基づく補正係数を求め、この補正係数を用いて補正した第1受波素子120の出力を煙濃度推定部41に出力する。ここで、第2受波素子130の出力の初期値は、たとえば周囲環境(たとえば、温度、湿度、大気圧)が所定の状態に設定され、且つ経時変化が生じていないとき(たとえば、出荷前)に検出された第2受波素子130の出力値であって、あらかじめ出力補正部49に保持されている。あるいは、煙感知器の設計段階において同等の初期値をプログラム上で設定してもよい。尚、本実施形態では、第1音波発生部100を駆動して監視空間の煙濃度を検出する前に毎回、第2音波発生部110を駆動して第2受波素子130の出力を計測し、補正係数を算出するように構成されている。したがって、補正係数は監視空間における煙濃度の検出の度に更新される。
一例として、本実施形態においては、第1音波発生部100と第2音波発生部110とを同一の条件(たとえば、発信する超音波の音圧、周波数)で駆動するとともに、第1受波素子120と第2受波素子130とを同一の条件(たとえば、直流バイアス電圧)で使用し、さらに第1音波発生部100および第1受波素子120の位置関係と第2音波発生部110および第2受波素子130の位置関係とを同一に設定することにより、監視空間に浮遊粒子の侵入がなく、監視空間と参照空間とが同様の状態(たとえば、温度、湿度、大気圧)であるとき、第1受波素子120の出力と第2受波素子130の出力とが略同一になるようにしている。この場合、第2受波素子130の出力の初期値と第1受波素子120の出力の基準値とは略同値となる。ここにおいて、制御部2は、第1音波発生部100と第2音波発生部110とを同時に駆動する必要はないものの、超音波の発信時間の累計が第1音波発生部100と第2音波発生部110とで同一となるようにそれぞれを制御する。
参照空間は、遮断壁8で包囲されているので、温度に関しては外部空間(外気)および監視空間と同じになるものの、煙粒子や湯気などが侵入することはなく、これらの存在よって超音波が減衰することはない。尚、遮断壁8には、浮遊粒子を通過させない大きさの微細孔(図示せず)が多数形成されたるフィルタ(たとえば多孔質セラミックフィルタ)が設けられており、微細孔を通して参照空間と外部空間とが連通されている。したがって、参照空間においては、温度以外に湿度や大気圧に関しても外部空間および監視空間と同じになる。
これにより、第2受波素子130の実際の出力の前記初期値からの変化率は、周囲環境(たとえば、温度、湿度、大気圧)の変化、あるいは第2音波発生部110や第2受波素子130の経時変化(第1音波発生部100や第1受波素子120の経時変化と同じ)に応じて決まる。第1受波素子120の出力は、この変化率に基づく補正係数を用いて補正されるので、周囲環境の変化や経時変化の影響を除いた第1受波素子120の出力が得られ、これを用いて以後の火災判定が煙濃度判定部42および温度判定部45によって実施される。要するに、外乱因子を除去して、監視空間の煙濃度のみを反映した情報に基づいて正確な火災判定を行うことができるのである。
以下に、本実施形態の火災感知器の一動作例を、図33のフローチャートを参照しながら具体的に説明する。まず、火災感知器の出荷前において第2音波発生部110を駆動して第2受波素子130の出力の初期値を取得し、当該初期値を出力補正部49に保持する(ステップS1)。そして、火災感知器が所望の場所に設置された後、第1音波発生部100を駆動する前に第2音波発生部110を駆動して第2受波素子130の実際の出力を得る。この第2受波素子130の実際の出力の前記初期値からの変化率に基づいて補正係数が算出される(ステップS2)。その後、第1音波発生部100を駆動して第1受波素子120からの出力を取得し、この出力を出力補正部49において前記補正係数を使用して補正することにより、第1受波素子120の出力から周囲環境の変化や経時変化の影響を除去する(ステップS3)。そして、補正後の第1受波素子120の出力を用いて、煙濃度推定部41で監視空間の煙濃度を推定し、煙濃度判定部42で火災の有無を判定する(ステップS4)。ステップS4が終了すれば、補正係数を算出するステップS2に戻り、上述したステップS2〜S4の動作が定期的に繰り返される。
尚、本実施形態の変更例として、第1音波発生部100と第2音波発生部110、第1受波素子120と第2受波素子130とをそれぞれ別構成とし、第1音波発生部100と第2音波発生部110とを別条件で駆動するとともに、第1受波素子120と第2受波素子130とを別条件で使用するようにしてもよい。さらに、図34に示すように、第1音波発生部100と第1受波素子120との位置関係が、第2音波発生部110と第2受波素子130の位置関係と互いに異なるようにしてもよい。図34の場合は、第1音波発生部100と第1受波素子120との間の距離を第2音波発生部110と第2受波素子130との間の距離よりも大きく設定してある。
また、監視空間の煙濃度を複数回検出する毎に補正係数の算出を1回行う構成を採用しても良い。たとえば、補正係数が変動することの少ない環境においては、補正係数の算出(つまり更新)の頻度を少なくすることによって低消費電力化を図ることが好ましい。
本実施形態の火災感知器によれば、第1実施形態で述べたのと同様の効果に加え、出力補正部49によって第1受波素子120の出力変動の影響を除去してから火災判定を行うので、誤報の発生を低減して火災感知器の動作信頼性を一層向上することができる。
(第8実施形態)
本実施形態の火災感知器は、図35に示すように、第1音波発生部100と第1受波素子120との間に筒体51を配置するとともに、第2音波発生部110と第2受波素子130との間に筒体52を配置したことを除いて実質的に第7実施形態と同じである。したがって、第7実施形態および第7実施形態が引用する実施形態と同様の構成要素については同一の符号を付して重複する説明を省略する。
筒体51、52の各々は、図35に示すように直管状の角筒であって、長手方向の一端面が第1音波発生部100および第2音波発生部110の各々で閉塞され、他端面が第1受波素子120および第2受波素子130の各々で閉塞される。したがって、筒体51の内部が監視空間であり、筒体52の内部が参照空間に相当する。筒体51には、煙粒子を含む浮遊粒子が通過する大きさの孔53が複数設けられており、孔53によって監視空間と外部空間とが連通される。一方、筒体52は遮断壁8を兼ねており、浮遊粒子を通過させない大きさの微細孔(図示せず)が多数形成されたフィルタ(たとえば多孔質セラミックフィルタ)を少なくとも一部に有している。このように、第1音波発生部100と第2音波発生部110からの超音波は筒体51、52の内部を通過するので、超音波の音圧が拡散によって低下するのを防ぐことができる。
尚、筒体51、52の長さ寸法、開口形状を同一にすれば、監視空間と参照空間とが同様の雰囲気(たとえば、温度、湿度、大気圧)にある時、第1受波素子120の出力と第2受波素子130の出力との一致度が高くなる。その結果、出力補正部49における第1受波素子120の出力の補正精度が一層向上する。
たとえば、第1受波素子120と第2受波素子130とのそれぞれに周囲環境の変化や経時変化によりMsensという量(0≦Msens≦1)の感度低下が生じたと仮定すると、第2受波素子130の出力をPref、第2受波素子130の出力(参照値)の初期値をPref0、第1受波素子120の出力をPmes、第1受波素子120の出力の基準値をPmes0、出力補正部49で補正後のPmesをPmes’、Pmes’のPmes0からの減衰量をΔPmesとすれば、Pref=(1−Msens)×Pref0の式から補正係数(1−Msens)を算出することができ、この補正係数を用いて、Pmes’=Pmes×(1/(1−Msens))よりPmes’を算出すれば、Pmes0−Pmes’によって減衰量ΔPmesを求めることができる。
本実施形態の変更例として、図36に示すように、回路基板5の表面に筒体51、52を重ねて配置してもよい。また、図37に示すように、第1音波発生部100と第1受波素子120との間にのみ筒体51を設けるようにしてもよい。図37の場合は、筒体51は第1音波発生部100と第1受波素子120との間隔よりも短く形成されており、長手方向の各端面を第1音波発生部100と第1受波素子120とからそれぞれ離して配置することにより長手方向の両端面が開口している。この場合も、第1音波発生部100からの超音波については筒体51内を通ることで拡散が抑制されるので、超音波の拡散による音圧低下を抑制することができる。尚、第1音波発生部100あるいは第1受波素子120と筒体51との間が監視空間となるので孔53はなくても良い。
本実施形態の火災感知器によれば、第7実施形態で述べたのと同様の効果に加え、筒体51を配置することによって第1音波発生部100と第1受波素子120との間における超音波の拡散による音圧低下を抑制することができるので、煙濃度の変化量に対する第1受波素子120の出力の変化量が比較的大きくなり、結果的にSN比が向上するというさらなる効果がある。
(第9実施形態)
本実施形態の火災感知器は、図38(A)および図38(B)に示すように、筒体50の内部空間を仕切壁54によって上下に2等分することで監視空間と参照空間を形成するとともに、第1音波発生部100と第2音波発生部110とが単一の超音波発生素子140によって形成されることを除いて実質的に第7実施形態と同じである。したがって、第7実施形態および第7実施形態が引用する実施形態と同様の構成要素については同一の符号を付して重複する説明を省略する。
本実施形態の筒体50は、監視空間側に監視空間と外部空間とを連通し煙粒子を含む浮遊粒子を通過させる大きさの孔53を有し、第1受波素子120と第2受波素子130が、監視空間と参照空間のそれぞれの一端に配置されている。筒体50のうち参照空間を形成する部分は遮断壁8を兼ねており、浮遊粒子を通過させない大きさの微細孔(図示せず)が多数形成されたフィルタ(たとえば多孔質セラミックフィルタ)を少なくとも一部に有している。また、第1音波発生部100と第2音波発生部110は、監視空間と参照空間の他端において跨る形で配置された単一の音波発生素子140によって提供される。尚、図38(B)では、第1受波素子120および第2受波素子130の図示が省略されている。
本実施形態の特徴部をさらに具体的に説明する。筒体50は、10mm角の正方形状の開口面を有する角筒状であって、内部空間が仕切壁54によって2等分されることにより、監視空間と参照空間とはそれぞれ5mm×10mmの開口面を有する。ここで、超音波発生素子140のうち、媒質としての空気に振動を与える超音波発生面は10mm角の正方形状としてある。超音波発生素子140は、監視空間と参照空間とに均等に超音波を発信するように配置される。この場合、第2受波素子130の出力の初期値と第1受波素子120の出力の基準値とは同値となる。なお、監視空間と参照空間とに対して超音波発生素子140が均等に超音波を発信するように配置されていない場合や監視空間と参照空間の形状が異なる場合には、第2受波素子130の出力の初期値と第1受波素子120の出力の基準値との比率を用いて補正係数を算出すればよい。
本実施形態の火災感知器によれば、第7実施形態で述べたのと同様の効果に加え、第1音波発生部100と第2音波発生部110とが単一の超音波発生素子140からなるので、第1音波発生部100と第2音波発生部110とは同様に経時変化することとなり、第1音波発生部100からの超音波の音圧変化に起因した第1受波素子120の出力変動の影響を出力補正部49で確実に除去することができるという効果がある。
(第10実施形態)
本実施形態の火災感知器は、図39に示すように、超音波を発信する音波発生部が第1音波発生部100および第2音波発生部110で構成され、超音波を受信する音波受信部が第1受波素子120および第2受波素子130で構成されるとともに、信号処理部4が後述の出力補正部49を備えることを除いて第2実施形態の煙感知器と実質的に同じである。したがって、第2実施形態と同様の構成要素については同一の符号を付して重複する説明を省略する。
本実施形態では、制御部2が、周波数の異なる複数種の超音波が順次監視空間に提供されるように第1音波発生部100を制御する。信号処理部4は、少なくとも第1受波素子120の基準出力(基準音圧に対する第1受波素子120の出力)、監視空間に存在する浮遊粒子の種類および浮遊粒子濃度に応じた第1音波発生部100の出力周波数と第1受波素子120の出力の相対的単位減衰率との関係データ、煙粒子に関して特定周波数(たとえば、82kHz)における単位減衰率を記憶した記憶部48と、第1音波発生部100から実際の監視空間に発信された各周波数の超音波ごとの第1受波素子120の出力と記憶部48に記憶されている関係データとを用いて監視空間に浮遊している煙粒子の種類を推定する煙粒子判定部46と、煙粒子判定部46で推定された粒子が、監視対象としてあらかじめ決められた粒子である場合に前記特定周波数の超音波における第1受波素子120の出力の基準値からの変化量に基づいて監視空間の煙濃度を推定する煙濃度推定部41と、煙濃度推定部で推定された煙濃度と所定の閾値とを比較して火災の有無を判断する煙濃度判定部42とを有する。また、信号処理部4には、第7実施形態と同様に、第2受波素子130の出力の初期値からの変化率に基づいて第1受波素子120の出力を補正する出力補正部49が設けられており、煙粒子判定部46および煙濃度推定部41においては、出力補正部49での補正後(つまり、周囲環境の変化や経時変化の影響を除いた)第1受波素子120の出力を用いて処理が行われる。
制御部2は、第1音波発生部100へ与える駆動入力波形の周波数を順次変化させることにより、第1音波発生部100から周波数の異なる複数種の超音波を順次発信させる。例えば、第1音波発生部100の発信する超音波の周波数範囲は、20kHz〜82kHzである。また、本実施形態では、周波数の異なる4種類の超音波が順次発信されるように制御部2が第1音波発生部100を制御している。
また、本実施形態では、第1音波発生部100から各種の超音波を発信する前に、第2音波発生部110からも第1音波発生部100と同じ周波数の超音波を発信して第2受波素子130の出力の初期値からの変化率に基づいて補正係数を算出している。すなわち、制御部2は、第2音波発生部110へ与える駆動入力波形の周波数を順次変化させることにより、第2音波発生部110から周波数の異なる複数種の超音波を順次発信する。例えば、第2音波発生部110の発信する超音波の周波数範囲は、20kHz〜82kHzである。
記憶部48に記憶する関係データは、第1音波発生部100の出力周波数と第1受波素子120の出力の基準値からの減衰量との関係を示すデータであればよく、上述の相対的単位減衰率に代えて、たとえば、第1受波素子120の出力の基準値からの減衰量や、第1受波素子120の出力の基準値からの減衰量を基準値で除した減衰率、あるいは単位減衰率を採用した関係データであってもよい。
このように、本実施形態によれば、第2実施形態で述べた効果に加え、第7実施形態で述べた出力補正による効果も得られるので、応答性に優れるとともに、誤報の少ない火災感知器を提供することができる。
本実施形態の変更例として、図40に示すように、互いに出力周波数の異なる複数の超音波発生素子で第1音波発生部100および第2音波発生部110をそれぞれ構成してもよい。この場合には、各超音波発生素子として圧電素子のように機械的振動により超音波を発生する素子を用い、各超音波発生素子をそれぞれの共振周波数で駆動することにより、第1音波発生部100および第2音波発生部110の各々から発信される超音波の音圧を高めてSN比の向上を図ることができる。また、各超音波発生素子を順次駆動して複数種の超音波を順次発信するだけでなく、複数の超音波発生素子を一斉に駆動して複数種の超音波を同時に発信することも可能になる。この場合は、複数種の超音波の音圧の減衰量を同時に検出することができ、監視空間の短期的な経時変化(たとえば浮遊粒子の濃度変化)の影響を受けることなく、複数種の超音波について音圧の減衰量を検出して、浮遊する煙粒子の種類や煙濃度をより高い精度で推定することができる。
また、図40に示す火災感知器の場合は、図41に示すように、第1音波発生部100を構成する複数の超音波発生素子の各々に対して対向するように第1受波素子120を配置するとともに、第2音波発生部110を構成する複数の超音波発生素子の各々に対向するように第2受波素子130を配置することが好ましい。この場合、第1受波素子120および第2受波素子130のそれぞれに共振特性のQ値が比較的大きな圧電素子を用いるとともに、第1受波素子120および各第2受波素子130をそれぞれの共振周波数の超音波の受信に用いれば、第1受波素子120および第2受波素子130の感度の向上を図れる。
あるいは、図12の火災感知器と同様の技術思想に基づいて、第1音波発生部100と第1受波素子120、および第2音波発生部110と第2受波素子130をそれぞれ、圧電型超音波センサなどの超音波の発信と受信の両方に使用可能な超音波発生素子で兼用してもよい。この場合は、各超音波発生素子から発信された超音波を当該超音波発生素子に向けて反射する反射面を設ける必要があるものの、素子数の低減による低コスト化を図ることができる。
また、第1音波発生部100から複数種の超音波を発信する毎に補正係数の算出を1回行う構成であってもよく、たとえば補正係数が変動することの少ない環境においては、補正係数の算出(つまり更新)の頻度を少なくすることによって低消費電力化を図ることが好ましい。この場合、第2音波発生部110から複数種の超音波を発信する必要はなく、特定周波数(たとえば、82kHz)の超音波に対する第2受波素子130の出力の初期値からの変化量に基づいて補正係数を算出すればよい。
また、本実施形態の火災感知器においても、第7実施形態と同様に、音速検出部43、温度推定部44、温度判定部45を信号処理部4に設けて、火災の判定精度をさらに高めることができる。
(第11実施形態)
本実施形態の火災感知器は、図42に示すように、音波発生部が第1音波発生部100および第2音波発生部110で構成され、超音波を受信する音波受信部が第1受波素子120および第2受波素子130で構成されるとともに、第1受波素子120および第2受波素子30の出力の差を増幅して出力する差動増幅部9とを備えることを除いて第1実施形態の煙感知器と実質的に同じである。したがって、第1実施形態と同様の構成要素については同一の符号を付して重複する説明を省略する。
本実施形態においては、図35に示す場合と同様に、円盤状のプリント基板からなる回路基板5の表面に第1音波発生部100と第1受波素子120とが監視空間を介して対向配置され、第2音波発生部110と第2受波素子130とが参照空間を介して対向配置されている。制御部2、差動増幅部9および信号処理部4は、回路基板5に設けられる。また、第1音波発生部100と第1受波素子120との間に筒体51を配置するとともに、第2音波発生部110と第2受波素子130との間に筒体52を配置してある。第1音波発生部100と第2音波発生部110それぞれによって提供される超音波は筒体51、52の内部を通過するので、超音波の音圧が拡散によって低下するのを防ぐことができる。また、筒体51には、煙粒子を含む浮遊粒子が通過する大きさの孔53が複数設けられており、孔53によって監視空間と外部空間とが連通される。一方、筒体52は遮断壁の機能を兼ねており、浮遊粒子を通過させない大きさの微細孔(図示せず)が多数形成されたフィルタ(たとえば多孔質セラミックフィルタ)を少なくとも一部に有している。これにより、参照空間においては、温度以外に湿度や大気圧に関しても外部空間および監視空間と同じ条件になる。
第1音波発生部100と第2音波発生部110のそれぞれには、第1実施形態と同様の超音波発生素子を使用でき、第1受波素子120と第2受波素子130のそれぞれには、第1実施形態と同様の静電容量型のマイクロホンを採用することができる。また、信号処理部4は、後述する差動増幅部9から出力を受けることを除いて、第1実施形態の信号処理部4と同様の機能を有している。
一方、制御部2は、第1音波発生部100および第2音波発生部110に駆動入力波形を与えて駆動する駆動回路と、当該駆動回路を制御するマイクロコンピュータからなる制御回路とで構成されている。この制御部2は、第1音波発生部100および第2音波発生部110のそれぞれから発信される超音波が互いに同一周波数且つ同一位相となるように、第1音波発生部100および第2音波発生部110から超音波を発信する同期モードと、第1音波発生部100および第2音波発生部110の一方のみから超音波を発信する非同期モードの2種類の制御モードを有する。
本実施形態では、第1音波発生部100と第2音波発生部110とを同一の条件(たとえば、超音波の音圧)で駆動するとともに、第1受波素子120と第2受波素子130とを同一の条件(たとえば、直流バイアス電圧)で使用する。また、第1音波発生部100および第1受波素子120の位置関係と、第2音波発生部110および第2受波素子130の位置関係とを同一に設定してある。したがって、制御部2が同期モードで第1音波発生部100および第2音波発生部110を制御した際に、監視空間に浮遊粒子の侵入がなく、監視空間と参照空間とが同様の状態(たとえば、温度、湿度、大気圧)であれば、第1受波素子120の出力と第2受波素子130の出力とが周波数および位相だけでなく強度についても同一になるようにしてある。
以下、本実施形態の特徴部である差動増幅部9について詳細に説明する。差動増幅部9は、前記したように、第1受波素子120および第2受波素子130の出力の差分をとり、さらに当該差分を増幅して出力するものであって、制御部2が同期モードで第1音波発生部100および第2音波発生部110を制御した際の差動増幅部9の出力を以下では差動出力と呼ぶ。つまり、差動出力は、第1受波素子120および第2受波素子130の出力が同一周波数且つ同一位相となるように制御部2が第1音波発生部100および第2音波発生部110を同期させて制御したときの第1受波素子120および第2受波素子130の出力の差に相当する。したがって、上述したように監視空間に浮遊粒子の侵入がなく監視空間と参照空間とが同様の状態(たとえば、温度、湿度、大気圧)であれば、差動出力はゼロになる。そこで、本実施形態では差動出力の初期値をゼロとする。
差動出力は、信号処理部4の煙濃度推定部41に送られ、煙濃度推定部41では、制御部2が同期モードで第1音波発生部100および第2音波発生部110を制御した際の差動増幅部9の出力である差動出力の前記初期値(ゼロ)からの変化量に基づいて煙濃度を推定する。すなわち、監視空間を介して第1音波発生部100からの超音波を受信する第1受波素子120の出力の減衰量は、監視空間の煙濃度に略比例して増加するものの、浮遊粒子の侵入が遮断された参照空間を介して第2音波発生部110からの超音波を受信する第2受波素子130の出力は監視空間の煙濃度によっては変化しないので、第1受波素子120および第2受波素子130の出力の差に相当する差動出力の変化量は、監視空間の煙濃度に略比例して増加する。したがって、あらかじめ測定した煙濃度と差動出力の変化量との関係データに基づいて、煙濃度と変化量との関係式を求めて記憶しておけば、差動出力の変化量から煙濃度を推定することができる。尚、煙濃度推定部41の出力から火災の有無を判定して、警報音を発生させる構成は第1実施形態と同じであるので省略する。
一方、音速検出部43は、第1音波発生部100と第1受波素子120との間の距離と、第1音波発生部100からの超音波が第1受波素子120に受波されるまでの時間差とを用いて音速を求める。なお、音速検出部43は、煙濃度を推定するための第1音波発生部100からの超音波とは別に、制御部2が非同期モードで第1音波発生部100を制御して所定周波数の超音波を第1音波発生部100から定期的に送波させ、当該超音波が第1受波素子120に受波されるまでの時間差に基づいて音速を求めるようにしてもよい。あるいは、第2音波発生部110から超音波を発信させ、当該超音波が第2受波素子130に受波されるまでの時間差に基づいて音速を求めてもよい。温度推定部44は、周知の大気中の音速と絶対温度との関係式を利用して音速から監視空間の温度を推定する。尚、温度推定部44の出力から火災の有無を判定して、警報音を発生させる構成は第1実施形態と同じであるので省略する。
以下に、本実施形態の火災感知器の動作について図43を参照しながら説明する。制御部2は、定期的に同期モードで第1音波発生部100および第2音波発生部110を制御することにより、第1音波発生部100および第2音波発生部110から同時に超音波を発信させる。ここで、監視空間に煙が無ければ(図5(E)において、「煙無し」)、図5(A)に示す第2受波素子130の出力と図5(B)に示す第1受波素子120の出力とは同一となり、両者の差分は図5(C)に示すようにゼロとなる。したがって、図5(C)の差分を増幅した差動増幅部9の出力である図5(D)の差動出力もゼロ(初期値)となる。ここにおいて、煙濃度推定部41は、差動出力の初期値からの変化量に基づいて監視空間の煙濃度を推定するが、差動出力の初期値からの変化量はゼロであるから、推定される煙濃度は閾値未満となり、煙濃度判定部42において「火災無し」と判定される。
一方、監視空間に煙が存在すれば(図5(E)において、「煙有り」)、図5(A)に示す第2受波素子130の出力は変化しないものの、図5(B)に示す第1受波素子120の出力は監視空間の煙濃度に応じて減衰し、図5(C)のように両者に差が生じる。したがって、図5(C)の差分を増幅した差動増幅部9の出力である差動出力はゼロ(初期値)から変化する(図5(D))。このときの差動出力の初期値からの変化量は監視空間の煙濃度に略比例して増加する。ここにおいて、煙濃度推定部41は、差動出力の初期値からの変化量に基づいて監視空間の煙濃度を推定し、煙濃度判定部42は、煙濃度推定部41で推定された煙濃度が閾値以上である時、「火災有り」と判定する。
本実施形態の変更例として、第1音波発生部100と第2音波発生部110とを別条件で駆動するとともに、第1受波素子120と第2受波素子130とを別条件で使用するようにしてもよい。この場合、監視空間に浮遊粒子の侵入がなく監視空間と参照空間とが同様の状態(たとえば、温度、湿度、大気圧)であるときに、第1音波発生部100および第2音波発生部110から同一周波数且つ同一位相の超音波を送波させても差動出力はゼロにはならないが、このときの差動出力を初期値とすれば、当該初期値からの差動出力の変化量に基づいて監視空間の煙濃度を推定することができる。
本実施形態の火災感知器によれば、第1実施形態で述べた効果に加え、差動増幅部9を設けたことで、第1受波素子120単体の出力ではなく、差動出力の初期値からの変化量に基づいて監視空間の煙濃度を推定するので、周囲環境の変化があっても、この変化の影響を受けずに監視空間の煙濃度を精度よく推定することができ、結果的に火災感知器の動作信頼性をさらに向上することができる。すなわち、周囲環境の変化(たとえば、温度、湿度、大気圧などの変化)に応じて、第1音波発生部100から発信される超音波の音圧が変化したり、煙濃度が一定でも媒質である空気を伝搬する際の超音波の減衰率が変化したり、第1受波素子120の感度が変化したりすることが原因で、監視空間の煙濃度にかかわらず第1受波素子120の出力が変化することがあるが、このときの第1受波素子120の出力変動と同等の出力変動は、第2受波素子130の出力にも生じるので、第1受波素子120および第2受波素子130の出力の差に相当する差動出力においては、第1受波素子120の出力変動と第2受波素子130の出力変動とが相殺され、これにより出力変動の影響を確実に除去できるのである。
(第12実施形態)
本実施形態の火災感知器は、図44に示すように、第1受波素子120と第2受波素子130とが単一の差動型受波素子200からなることを除いて実質的に第11実施形態と同じである。したがって、第11実施形態および第11実施形態が引用する実施形態と同様の構成要素については同一の符号を付して重複する説明を省略する。
本実施形態では、図45に示すように、監視空間を形成する筒体51と、参照空間を形成する筒体52とが、回路基板5の厚み方向に積み重ねて配置されている。これにより、監視空間と参照空間とは、隔壁55を隔てて上下に隣接する。隔壁55は、筒体51および筒体52の共通の側壁であってもよい。また、筒体51の長手方向における第1音波発生部100と反対側の端面、および筒体52の長手方向における第2音波発生部110と反対側の端面はそれぞれ閉じられている。
差動型受波素子200は、上述した監視空間と参照空間とを隔てる隔壁55に配設されている。この差動型受波素子200は、筒体51の内部空間である監視空間側と筒体52の内部空間である参照空間側とのそれぞれに音圧を受ける受圧部が形成されており、両受圧部で受けた音圧の差を検出する。また、図44では省略しているが、差動型受波素子200と信号処理部4との間には差動型受波素子200の出力を増幅する増幅器が設けられている。ここでは、制御部2が第1音波発生部100および第2音波発生部110を同期モードで制御した際の差動型受波素子200の出力が増幅器によって増幅されたものを差動出力とする。つまり、このように第1受波素子120と第2受波素子130とを単一の差動型受波素子200としたことで、第1受波素子120および第2受波素子130の出力の差分に相当する成分を差動型受波素子200から直接取り出すことができるので、第11実施形態で説明したように第1受波素子120と第2受波素子130との差分をとる差動増幅部9が不要になる。
尚、本実施形態の変更例として、図46に示すように、単一の筒体50の内部空間を長手方向の中央部に設けた隔壁55によって監視空間と参照空間とに2等分するようにしてもよい。この筒体50は、監視空間側に煙粒子を含む浮遊粒子が通過する大きさに形成され監視空間の内外を連通させる孔53を有し、第1音波発生部100と第2音波発生部110とが、筒体50の長手方向の両端面に配置されている。筒体50のうち参照空間を形成する部分は遮断壁を兼ねており、浮遊粒子を通過させない大きさの微細孔(図示せず)が多数形成されたフィルタ(たとえば多孔質セラミックフィルタ)を少なくとも一部に有している。この微細孔によって参照空間と外部空間とを連通させることで、参照空間への浮遊粒子の侵入を遮断しながらも、火災感知器の周囲環境のたとえば湿度や大気圧などの変化が微細孔を通して参照空間にも反映され、これらの変化に起因した出力変動の影響を差動出力から除去することができる。
次に、本実施形態で用いる差動型受波素子200について説明する。この差動型受波素子200は、互いに対向配置された固定電極と可動電極とを有し、両受圧部で受けた音圧の差に応じて固定電極と可動電極との間の距離が変化して電極間の静電容量が変化する静電容量型のマイクロホンからなる。たとえば、図47(A)および図47(B)に示すように、差動型受波素子200は、それぞれシリコン基板に厚み方向に貫通する窓孔211が形成された矩形枠状の一対のフレーム210と、両フレーム210の間に挟みこまれた導電性材料からなる固定板230と、各フレーム210の固定板230とは反対側の表面においてそれぞれ窓孔211を閉塞する形に形成された導電性材料からなる一対の可動板220とを備える。固定板230は、窓孔211内に固定電極232を有し、各可動板220は固定電極232との対向部位にそれぞれ可動電極222を有する。ここで、可動板220における可動電極222の周囲には、フレーム210の厚み方向に可動電極222が振動可能となるように保持する可撓部223が形成されている。さらに、両可動電極222は、固定電極232に設けた透孔233を通して導電性材料からなる連結片224で互いに連結されており一体に動作する。各可動板220は、それぞれ窓孔211の周囲に形成されたパッド221に電気的に接続されており、固定板230は一方のフレーム210の一表面に形成されたパッド231に対してフレーム210に形成した貫通孔配線234によって電気的に接続されている。図47(A)では省略されているが、フレーム210は固定板230と可動板220と各パッド221、231と貫通孔配線234との接触部位には絶縁膜を有する。なお、本実施形態では、可動板220と固定板230とをそれぞれ金属薄膜から形成しているが、その他の材料で形成してもよい。また、可撓部223はたとえばコルゲート構造であってもよい。
図47(A)および図47(B)に示した構成の静電容量型のマイクロホンからなる差動型受波素子200では、固定電極232と両可動電極222とを電極とするコンデンサが形成されるから、各可動電極222がそれぞれ受圧部として機能し、疎密波の圧力を受けることによって固定電極232と各可動電極222との間の距離が変化すると、これら電極間の静電容量が変化する。ここで、両可動電極222は一体に動作するので、固定電極232と両可動電極222との間の静電容量は、一方の可動電極222で受けた音圧と他方の可動電極222で受けた音圧との差分に応じて変化する。したがって、固定電極232に電気的に接続したパッド231と、各可動電極222にそれぞれ電気的に接続したパッド221との間に直流バイアス電圧を印加しておけば、パッド間には超音波の音圧に応じて微小な電圧変化が生じるから、超音波の音圧を電気信号に変換することができる。ここでは、両パッド221は連結片224を介して電気的に接続されているので、直流バイアス電圧はいずれか一方のパッド221とパッド231との間に印加すればよい。また、連結片224を絶縁体材料から形成することで両可動電極222が電気的に分離された構成とし、固定電極232といずれか一方の可動電極222との間の静電容量の変化を計測するようにしてもよい。
このように構成される差動型受波素子200は、監視空間と参照空間とを隔てる隔壁55に対して、一方の可動板220を監視空間に向け他方の可動板220を参照空間に向けるように配設されることにより、監視空間で第1音波発生部100から受けた超音波の音圧と参照空間で第2音波発生部110から受けた超音波の音圧との差を出力する。この構成によれば、差動型受波素子200は平坦な周波数特性を有し、また、出力における残響成分の発生期間が短いという利点がある。
ところで、本実施形態の信号処理部4は、制御部2が第2音波発生部110を非同期モードで制御し、第2音波発生部110のみから超音波を発信させた状態での差動型受波素子200の出力を計測し、この差動型受波素子200の出力の初期値からの変化量に基づいて差動出力を補正する出力補正部(図示せず)を有する。すなわち、出力補正部は、差動型受波素子200の出力の初期値からの変化率に基づく補正係数を保持し、この補正係数を使用して補正した差動出力を煙濃度推定部41に出力する。差動型受波素子200の出力の初期値は、火災感知器に経時変化(たとえば、経年劣化)が生じていないとき(たとえば、製造過程や出荷前)に検出された差動型受波素子200の出力値であって、あらかじめ出力補正部に保持される。あるいは、差動型受波素子200の出力の初期値をプログラム上で設定してもよい。本実施形態では、制御部2および信号処理部4は、第1音波発生部100および第2音波発生部110を駆動して監視空間の煙濃度を検出する前に毎回、第2音波発生部110を駆動して差動型受波素子200の出力を計測して補正係数を算出するように構成されており、したがって、補正係数は監視空間における煙濃度の検出の度に更新される。そして、差動型受波素子200の出力の初期値からの変化率は、第1音波発生部100および第2音波発生部110や差動型受波素子200の経時変化(たとえば、経年劣化)に応じて決まることとなり、この変化率に基づく補正係数を用いて差動出力を補正すれば、経時変化等の影響を除いた差動出力が得られ、結果的に監視空間における煙濃度の推定精度が向上する。
以下に、本実施形態の火災感知器の動作例を図48のフローチャートを参照しながら説明する。まず、火災感知器の出荷前において第2音波発生部110を非同期モードで駆動して差動型受波素子200の出力(参照値)の初期値を取得し、当該初期値を出力補正部に保持する(ステップS1)。そして、火災感知器を所望の場所に設置した後、第1音波発生部100および第2音波発生部110を同期モードで駆動する前に、第2音波発生部110を非同期モードで駆動して差動型受波素子200の出力を計測し、この差動型受波素子200の出力の前記初期値からの変化率に基づいて補正係数を算出する(ステップS2)。その後、第1音波発生部100および第2音波発生部110を同期モードで同時に駆動して差動出力を取得し、この差動出力を出力補正部において上記補正係数を使用して補正することにより、差動出力から経時変化の影響を除去する(ステップS3)。そして、補正後の差動出力を用いて、煙濃度推定部41で監視空間の煙濃度を推定し、煙濃度判定部42で火災の有無を判定する(ステップS4)。ステップS4が終了すれば、補正係数を算出するステップS2に戻り、上述したステップS2〜S4の動作が定期的に繰り返される。
たとえば、差動型受波素子200に経時変化によってMsensという量(0≦Msens≦1)の感度低下が生じたとすると、第2音波発生部110のみから超音波を発信させたときの差動型受波素子200の出力(参照値)をPref、差動型受波素子200の出力の初期値をPref0、第1音波発生部100のみから超音波を発信したときの差動型受波素子200の出力をPmes、差動型受波素子200の出力の初期値をPmes0とすれば、出力補正部は、Pref=(1−Msens)×Pref0の式から補正係数(1−Msens)を算出することができ、この補正係数を用いて、Pmes0−Pref0=(1/(1−Msens))×(Pmes−Pref)より差動出力(Pmes−Pref)を補正することができる。
なお、監視空間の煙濃度を複数回推定するごとに補正係数の算出を1回行う構成を採用しても良い。たとえば、補正係数が変動することの少ない環境においては、補正係数の算出(つまり更新)の頻度を少なくすることによって低消費電力化を図ることが好ましい。
本実施形態の火災感知器によれば、第1受波素子120と第2受波素子130とを単一の差動型受波素子200としたので、差動出力に含まれるノイズを低減することができ、SN比が向上するという効果がある。また、定期的に、出力補正部で差動出力を補正することにより、第1音波発生部100および第2音波発生部110や差動型受波素子200の経時変化(たとえば、経年劣化)に応じた差動出力の変動を除去することができ、煙感知の長期的な動作信頼性が高くなる。
(第13実施形態)
本実施形態の火災感知器は、図49に示すように、超音波を発信する音波発生部が第1音波発生部100および第2音波発生部110で構成され、超音波を受信する音波受信部が第1受波素子120および第2受波素子130で構成されるとともに、信号処理部4が後述の差動増幅部9を備えることを除いて第2実施形態の煙感知器と実質的に同じである。したがって、第2実施形態と同様の構成要素については同一の符号を付して重複する説明を省略する。
本実施形態においては、制御部2が、第1音波発生部100と第2音波発生部110のそれぞれから周波数の異なる複数種の超音波が順次発信されるように第1音波発生部100および第2音波発生部110を同期モードで制御する。信号処理部4の記憶部48は、少なくとも第2受波素子130の出力、監視空間に存在する煙粒子の種類および煙粒子濃度に応じた第1音波発生部100の出力周波数と差動出力の相対的単位変化率(第1受波素子120の出力の相対的単位減衰率に相当)との関係データ、煙粒子に関して特定周波数(たとえば、82kHz)における差動出力の単位変化率を記憶する。粒子判定部46は、第1音波発生部100から実際の監視空間に発信された各周波数の超音波ごとの差動出力と記憶部48に記憶されている関係データとを用いて監視空間に存在する煙粒子の種類を推定する。また、煙濃度推定部41は、推定された煙粒子が予め監視対象とされている煙粒子である場合に、前記特定周波数の超音波に対する差動出力の初期値からの変化量に基づいて監視空間の煙濃度を推定する。煙濃度判定部42は、煙濃度推定部41にて推定された煙濃度と所定の閾値とを比較して火災の有無を判定する。尚、特定周波数として複数の周波数を対象とし、特定周波数ごとに推定した煙濃度の平均値を求めるようにしてもよい。この場合は、煙濃度の推定精度がさらに向上する。
記憶部48に記憶する関係データは、第1音波発生部100の出力周波数と差動出力の初期値からの変化量との関係を示すデータであればよく、上述の相対的単位変化率に代えて、たとえば、差動出力の初期値からの変化量や、差動出力の初期値からの変化量を第2受波素子130の出力で除しただけの変化率、あるいは単位変化率を採用した関係データであってもよい。
尚、本実施形態の火災感知器においても、第11実施形態と同様に、音速検出部43、温度推定部44、温度判定部45を信号処理部4に設けて、火災の判定精度をさらに高めることができる。
このように、本実施形態によれば、第2実施形態で述べたのと同様の効果に加え、第11実施形態で述べた差動増幅部9を設けたことによる効果も得られるので、応答性に優れるとともに、誤報の少ない火災感知器を提供することができる。
(第14実施形態)
本実施形態の火災感知器は、図50に示すように、超音波発生部として第1音波発生部100および第2音波発生部110を有し、受波素子3は、第1音波発生部100および第2音波発生部110から発振された超音波の周波数差に相当する周波数(固定周波数)を有する疎密波(ビート波)を受信することを除いて実質的に第1実施形態と同じである。したがって、第1実施形態と同様の構成要素については同一の符号を付して重複する説明を省略する。
第1音波発生部100と第2音波発生部110のそれぞれには、第1実施形態と同様の超音波発生素子を使用でき、受波素子3には、第1実施形態と同様の静電容量型のマイクロホンを採用することができる。一方、第1音波発生部100および第2音波発生部110を制御する制御部2は、第1音波発生部100および第2音波発生部110に駆動入力波形を与えて駆動する駆動回路と、当該駆動回路を制御するマイクロコンピュータからなる制御回路とで構成されている。信号処理部4は、第1実施形態と同様に、煙濃度推定部41、煙濃度判定部42、音速検出部43、温度推定部44、温度判定部45を備えている。
本実施形態においては、第1音波発生部100が、図51(A)に示すように、第1周波数の超音波(以下、第1超音波)を発信し、第2音波発生部110が、図51(B)に示すように、第1周波数よりも高い第2周波数の超音波(以下、第2超音波)を発信するように制御部2によって制御される。第1音波発生部100および第2音波発生部110は、いずれも受波素子3に対向する形で同一面に並設される。ここで、第2周波数は第1周波数よりも所定の固定周波数だけ高く設定されており、固定周波数は少なくとも第1周波数よりも低く設定されている。さらに、制御部2は、第1音波発生部100と第2音波発生部110の両方から監視空間に超音波が同時に発信されるように第1音波発生部100および第2音波発生部110を制御する。第1音波発生部100と第2音波発生部110の各々から発信された超音波が、監視空間の媒質(空気)の非線形性によって互いに干渉すると、図51(C)に示すように、両超音波の周波数の差に相当する周波数(固定周波数)を有した疎密波であるビート波が発生する。尚、図51(A)中の「W1」、図51(B)中の「W2」はそれぞれ第1超音波、第2超音波を表し、図51(C)中の「W3」はビート波を表している。つまり、監視空間においては、第1超音波(W1)と第2超音波(W2)とが1次波として入射されると、第2周波数と第1周波数との差である固定周波数のビート波(W3)が2次波として発生するのである。
一方、受波素子3としては、上述した固定周波数の疎密波に対して十分な感度を有するものを採用しており、受波素子3は、第1音波発生部100や第2音波発生部110の各々から発信された超音波そのものの音圧を検出するのではなく、ビート波の音圧を検出する。したがって、本実施形態の構成によれば、第1音波発生部100および第2音波発生部110)から発振される超音波の第1周波数および第2周波数を比較的高く設定しながらも、受波素子が受信するビート波の周波数(つまり固定周波数)を低く設定することができる。
以下に、本実施形態の具体例を示す。音速cが340m/s、第1音波発生部100および第2音波発生部110と受波素子3との間の距離Lが34mmのとき、第1音波発生部100からの第1超音波の周波数を200kHzに設定し、第2音波発生部110からの第2超音波の周波数を220kHzに設定する。ここで、制御部2はたとえば100周期程度ずつの超音波がそれぞれ連続的に発信されるように第1音波発生部100および第2音波発生部110を制御する。この場合、監視空間においては、第1周波数(=200kHz)と第2周波数(=220kHz)との差である固定周波数(=20kHz)のビート波が発生する。したがって、受波素子3においては20kHzの疎密波の音圧を検出することになり、一般的な受波素子3(上述した静電容量型のマイクロホンに限らず、たとえばエレクトレットコンデンサマイクなども含む)でも十分な感度で音圧の検出が可能になる。
また、信号処理部4の音速検出部43では、煙濃度を推定するために使用される超音波とは別に、所定周波数の疎密波が定期的に発信され、当該疎密波が受波素子3に受波されるまでの時間差に基づいて音速を求めるようにしてもよいし、煙濃度を推定するために発信される超音波を用いて音速を求めるようにしてもよい。求めた音速から監視空間の温度を推定し、推定した温度に基づいて火災の有無を判定する構成は第1実施形態と同じであるので省略する。
本実施形態の火災感知器によれば、第1実施形態で述べたのと同様の効果に加え、受波素子3で周波数の低いビート波を受信するので、一般的な受波素子でも十分な感度で音圧を検出することができる。一方、第1音波発生部100および第2音波発生部110から発信される超音波の周波数は高いので、監視空間内の煙粒子による受波素子3の出力減衰量が比較的大きくなって結果的にSN比が向上するという効果もある。
(第15実施形態)
本実施形態の火災感知器は、図52(A)および図52(B)に示すように、内空間が音波の伝播路として使用され、音波の拡散範囲を狭める筒体50が、第1音波発生部100および第2音波発生部110と受波素子3との間に配置されることを除いて実質的に第14実施形態と同じである。したがって、第14実施形態および第14実施形態が引用する実施形態と同様の構成要素については同一の符号を付して重複する説明を省略する。
図52(A)に示す筒体50は、直管状の角筒であって、長手方向の一端面に第1音波発生部100および第2音波発生部110が配置されるとともに、他端面に受波素子3が配置されている。筒体50を設けたことにより、超音波は、筒体50の内部空間を通ることで拡散が抑制され、超音波の音圧低下を抑制することができる。尚、この構成では筒体50内が監視空間となるので、たとえば筒体50の側面には内部に煙等を案内する孔(図示せず)が形成される。
また、筒体50は、長手方向の両端面が閉じられた音響管と同様に、固有の共振周波数を有する。つまり、筒体50の長手方向の寸法をLとするときに、L=(n/2)×λの関係(ただし、nは自然数)を満たす波長λに対応する周波数f(波の伝搬速度をcとしてf=c/λで表される)が筒体50の共振周波数となる。本実施形態では、制御部2が、筒体50に固有の共振周波数の超音波を第1音波発生部100および第2音波発生部110から発信させる。これにより、筒体50内で共振を生じさせて超音波の音圧を増大することができる。この場合、筒体50内で共振を生じさせるために、L/λを超える複数周期(以下、m周期という)の超音波を提供する必要があるので、制御部2は、m(>L/λ)周期の超音波の連続波を第1音波発生部100および第2音波発生部110から発信させる。言い換えると、各音波発生部から超音波を連続して発信する送波時間tp(つまりtp=m×λ/c)が、筒体50の長手方向の両端間を超音波が伝搬するのに要する伝搬時間ts(つまりts=L/c)よりも大きくなる(つまりtp>ts)ように制御部2で第1音波発生部100および第2音波発生部110を制御する。受波素子3は、筒体50内で共振が発生して超音波の音圧が飽和したタイミングでビート波の音圧を検出する。通常、音源部1からの超音波の送波が終了した時点で超音波の音圧が飽和するので、一例として、第1音波発生部100および第2音波発生部110からの超音波の発信が終了すると同時に、受波素子3においてビート波の音圧を検出すればよい。
また、図52(B)に示すように、第1音波発生部100と第2音波発生部110とを筒体50の長手方向の各端面にそれぞれ配置し、筒体50の長手方向に沿う側面における中央部に受波素子3を配置するようにしてもよい。
本実施形態の火災感知器によれば、第14実施形態で述べたのと同様の効果に加え、第1音波発生部100および第2音波発生部110と受波素子3との間の超音波の伝搬経路に筒体50を設けたことにより、超音波の拡散が抑制され、音圧の低下を防止することができる。さらに、筒体50内で共振を生じさせることで超音波の音圧が増大するので、SN比が一層向上する。特に、共振により筒体50の長手方向の端面で反射を繰り返す超音波においては、実効的な送波距離が反射の回数に応じて延長され、実質的に超音波は筒体50の長手方向の寸法Lの数倍の送波距離を経て受波素子3に到達することになる。この結果、超音波の減衰量は、非共振の単パルス状の超音波を受波素子3で受信する場合に比して数倍に増大し、検出感度の向上に大きく寄与する。
(第16実施形態)
本実施形態の火災感知器は、第1音波発生部100、第2音波発生部110および受波素子3の位置関係が異なることを除いて実質的に第15実施形態と同じである。したがって、第15実施形態と第15実施形態が引用する実施形態と同様の構成要素については同一の符号を付して重複する説明を省略する。
図53(A)に示す火災感知器においては、長手方向の一端が超音波の放射端として開口し、他端が第1音波発生部100に接続される筒体51と、一端が超音波の放射端として開口し、他端が第2音波発生部110に接続される筒体52とが使用されている。両筒体(51、52)は、それぞれの放射端を受波素子3に向け、両放射端から放射される超音波が受波素子3の手前(受波素子3と放射端との間)で互いに交差し、媒質(空気)の非線形性により干渉してビート波を生じるようにV字型に配置される。
また、各筒体(51、52)は、長手方向の一端面が閉じられた音響管と同様に固有の共振周波数を有する。つまり、各筒体(51、52)の長手方向の寸法をLとするときに、L=(1/4+n/2)×λの関係(ただし、n=0、1、2、3…)を満たす波長λに対応する周波数f(=c/λ)が筒体(51、52)の共振周波数となる。したがって、L=(1/4+n/2)×λの関係を満たす超音波の連続波が筒体(51、52)内に入射すると、当該超音波の少なくとも一部が筒体の両端面で反射を繰り返すことにより、反射波と直接波とが重なって共振し、筒体内部において超音波の音圧が増大する。この場合、筒体内で共振を生じさせるために、制御部2は、m(>L/λ)周期の超音波の連続波を発信するように第1音波発生部100および第2音波発生部110を制御する。言い換えると、第1音波発生部100および第2音波発生部110の各々から超音波を連続して発信する時間tp(=m×λ/c)が、筒体(51、52)の長手方向の両端間を超音波が伝搬するのに要する時間ts(=L/c)よりも大きくなる(つまりtp>ts)ように制御部2で第1音波発生部100および第2音波発生部110を制御する。なお、一方の端面を開口端とする場合、開口端よりも僅かΔLだけ外側に、超音波の音圧の節(つまり空気の移動速度の腹)が生じるので、共振周波数を求める際に用いる長さLを上記ΔLだけ補正(開口端の補正)すれば、より正確な共振周波数を求めることができる。
以下に、本実施形態の具体例を示す。音速cが340m/s、各筒体(51、52)の長手方向の寸法Lが34mmのとき、L=(1/4+n/2)×λの関係を満たすには、第1音波発生部100から発信する第1超音波の周波数を202.5kHz(n=40)に設定し、第2音波発生部110から発信する第2超音波の周波数を222.5kHz(n=44)に設定すればよい。ここで、上述したように、制御部2は、m(>L/λ)周期の連続した超音波(例えば、100周期程度の超音波)を発信するように第1音波発生部100および第2音波発生部110を制御する。監視空間においては、第1超音波(202.5kHz)と第2超音波(=222.5kHz)との差である固定周波数(=20kHz)のビート波が発生する。したがって、受波素子3は、20kHzの疎密波の音圧を検出することになり、一般的な受波素子3でも十分な感度で音圧の検出が可能である。また、第1超音波および第2超音波がそれぞれ202.5kHzおよび222.5kHzであるから、監視空間に煙粒子があれば200kHz相当の周波数の超音波と同等の音圧低下が生じ、受波素子3の出力の減衰量は比較的大きくなる。
本実施形態によれば、筒体(51、52)の外側でビート波を生じさせるので、受波素子3で受波するビート波の周波数が低い場合にも、筒体内周面の粘性抵抗が原因でビート波が減衰してしまうことはない。すなわち、筒体(51、52)の断面積(管径)が小さい場合には、筒体の内周面の粘性抵抗によって筒体内を通過するある周波数以下の疎密波の音圧が低下する恐れがある。しかしながら、本実施形態の構成では、筒体(51、52)内を通過する超音波は高い周波数を有するので、上記した問題点を回避でき、しかも共振を生じさせて超音波の音圧が増大するから、煙濃度の変化に対する受波素子3の出力の変化量が大きくなってSN比が向上する。
また、図53(B)に示すように、第1音波発生部100からの超音波を通す筒体51のみを設けるようにし、当該筒体51の放射端から放射される超音波と第2音波発生部110から発信される超音波とを、受波素子3の手前で干渉させるようにしてもよい。ここでは、筒体51の放射端と受波素子3との間に向けて、側方から第2音波発生部110が超音波を放射するように、第1音波発生部100、第2音波発生部110、筒体51および受波素子3が配置されている。この構成では、第2音波発生部110から発信される超音波については、筒体51を設けたことによる制限を受けることなく周波数を設定することができるので、第1音波発生部100からの超音波との周波数差に相当する固定周波数を自由に設定することができる。つまり、受波素子3での受波感度が最も高い周波数にビート波の周波数を合わせることができる。
上記した効果を以下の具体例に基づいてさらに説明する。音速cが340m/s、筒体51の長手方向の寸法Lが34mmのとき、L=(1/4+n/2)×λの関係を満たすには、第1音波発生部100からの第1超音波の周波数を202.5kHz(n=40)に設定すればよい。一方、第2音波発生部110からの第2超音波の周波数においては、筒体51の共振周波数に合わせる必要はないので、受波素子3における感度の周波数特性に基づいて設定することが望ましい。つまり、受波素子3の感度がたとえば12kHzの疎密波に対して最大となる場合、第2周波数を第1周波数(=202.5kHz)よりも12kHz高い214.5kHzに設定することが望ましい。この場合、監視空間においては、第1周波数(=202.5kHz)と第2周波数(=214.5kHz)との差である固定周波数(=12kHz)のビート波が発生する。したがって、受波素子3においては12kHzの疎密波の音圧を検出することになり、感度が最大となる周波数で動作させることができる。なお、図53(B)の構成で第1音波発生部100と第2音波発生部110との関係は逆であってもよい。
(第17実施形態)
本実施形態の火災感知器は、図54に示すように、超音波発生部として第1音波発生部100および第2音波発生部110を有し、受波素子3は、第1音波発生部100および第2音波発生部110から発振された超音波の周波数差に相当する周波数(固定周波数)の疎密波(ビート波)を受信することを除いて実質的に第2実施形態と同じである。したがって、第2実施形態と同様の構成要素については同一の符号を付して重複する説明を省略する。
本実施形態で使用される第1音波発生部100と第2音波発生部110のそれぞれには、第1実施形態と同様の超音波発生素子を使用でき、受波素子3には、第1実施形態と同様の静電容量型のマイクロホンを採用することができる。
制御部2は、第1音波発生部100および第2音波発生部110へ与える駆動入力波形の周波数を順次変化させることにより、第1音波発生部100および第2音波発生部110の各々から周波数の異なる複数種の超音波を順次発信させる。また、制御部2は、第1音波発生部100からの超音波の周波数を所定の周波数範囲(たとえば、20kHz〜82kHz)にわたって変化させる。このとき、第2音波発生部110は、第1音波発生部100からの超音波よりも固定周波数(たとえば、12kHz)だけ高い周波数範囲(たとえば、32kHz〜94kHz)にわたって超音波を発信する。尚、第2音波発生部110からの超音波の周波数は、第1音波発生部100からの超音波の周波数よりも固定周波数だけ常に高くなるようにされている。言い換えれば、第1音波発生部100からの第1超音波と、第2音波発生部110からの第1超音波の周波数よりも固定周波数だけ高い周波数の第2超音波との複数種の組み合わせが順次監視空間に提供される。
信号処理部4は、第2実施形態の信号処理部4と同様の構成が採用されている。すなわち、信号処理部4は、煙粒子判定部46、煙濃度推定部41、煙濃度判定部42を有し、マイクロコンピュータに適宜のプログラムを搭載することにより実現される。信号処理部4における処理は、疎密波を受信した受波素子3の出力に対して実施されることを除いて第2実施形態と同じである。
本実施形態によれば、第2実施形態で述べたのと同様に、監視空間に存在する煙粒子の種類と煙濃度に基づいて火災判定を行うので、誤報の発生を抑制して動作信頼性の高い火災感知器を提供することができる。また、第1音波発生部100および第2音波発生部110の各々からの超音波の周波数を高くすることで監視空間に存在する煙粒子による超音波の減衰率を向上させつつ、受波素子3では、これらの超音波の周波数差に相当する周波数(固定周波数)の疎密波(ビート波)を受信するので、一般的な受波素子でも十分な感度で音圧を検出することができ、結果的にSN比が向上するという利点がある。
上記した各実施形態においては、本発明の煙感知器の好ましい実施形態として火災感知器について詳細に説明した。火災感知器の場合は、監視空間内における煙粒子の増加によって生じる超音波受信部の出力の減少量(減衰量)に基づいて火災の判定を行っているが、本発明の煙感知器の用途はこれに限定されない。例えば、ある濃度の煙を監視空間に常に存在させる必要がある用途において、煙の濃度が所定値より低くなった時を監視空間の異常と判定することができる。要するに、ある濃度の煙が常に存在する監視空間を基準状態とし、煙濃度が薄くなって超音波受信部の出力の増加量に基づいて監視空間の異常を検知することも可能である。