(実施形態1)
本実施形態の火災感知器は、図1に示すように、一対の音源部1a,1b(以下、両音源部を特に区別しないときは単に「音源部1」という)と、音源部1a,1bを制御する制御部2とを備えている。
さらに、火災感知器は、各音源部1a,1bから送波された超音波の音圧を検出する一対の受波素子3a,3b(以下、両受波素子を特に区別しないときは単に「受波素子3」という)と、信号処理部4とを備えている。信号処理部4は、各受波素子3a,3bの出力に基づいて火災の有無を判断する。なお、ここでは超音波を送受波する音源部1および受波素子3を採用しているが、音源部1および受波素子3は、超音波に限らず音波を送受波するものであればよい。
制御部2は、図示しないが、音源部1に駆動信号を与えて音源部1を駆動する駆動回路と、当該駆動回路を制御するマイクロコンピュータからなる制御回路とで構成されており、音源部1から超音波が間欠的に送波されるように音源部1を間欠的に駆動する。
音源部1と受波素子3とは、第1の音源部1aと第1の受波素子3aとを組とし、第2の音源部1bと第2の受波素子3bとを組として、板状の音響セル5の一表面側に、各組を成す音源部1a,1bと受波素子3a,3bとが互いに離間して対向配置されている。また、音響セル5の上記一表面には、音源部1から送波された超音波の反射を防止する吸音層(図示せず)が設けられている。これにより、音源部1から送波された超音波が音響セル5表面で反射して受波素子3に入射するのを防止することができて、反射波の干渉を防止することができ、特に、音源部1から送波させる超音波として連続波を用いる場合に有効である。
ここにおいて、音源部1と受波素子3とは各組ごとに両者間の距離が異なるように配置されており、本実施形態では、第1の音源部1aと第1の受波素子3aとの離間距離に比べて、第2の音源部1bと第2の受波素子3bとの離間距離が長く設定されている。これにより、図2(a)に示すように、第1の音源部1aから送波された第1の超音波Sw1と第2の音源部1bから送波された第2の超音波Sw2とは、経路長の異なる伝播経路を通して、それぞれと組を成す受波素子3a,3bに伝播される。
つまり、第1の受波素子3aで受波される第1の超音波Sw1の伝播経路長L1は、第1の音源部1aと第1の受波素子3aとの離間距離である。これに対し、第2の受波素子3bで受波される第2の超音波Sw2の伝播経路長L2は、第2の音源部1bと第2の受波素子3bとの離間距離である。なお、各音源部1a,1bからの超音波Sw1,Sw2が互いに干渉することがないように両伝播経路を隔てる隔壁を設けてもよい。
音響セル5は、音源部1および受波素子3が固定されることにより、音源部1と受波素子3との相対的な位置関係(音源部1−受波素子3間の離間距離)を決定している。つまり、第1の音源部1aと第1の受波素子3aとの間の超音波Sw1の伝播経路長L1並びに第2の音源部1bと第2の受波素子3bとの間の超音波Sw2の伝播経路長L2は音響セル5によって決められている。ここで、音響セル5の材質としてはたとえばアクリル樹脂、金属などが考えられるが、特に材質を限定する趣旨ではない。
本実施形態においては、両音源部1a,1bに同一特性のものが用いられるとともに、両受波素子3a,3bに同一特性のものが用いられる。さらに、両音源部1a,1bは同一の条件(たとえば、送波させる超音波の音圧、周波数)で駆動されるとともに、両受波素子3a,3bが同一の条件(たとえば、直流バイアス電圧)で使用されている。
ここに、火災感知器の周囲環境(たとえば、温度、湿度、気圧)が所定の状態に設定され、且つ音源部1や受波素子3に経時変化が生じておらず(たとえば、出荷前)、音源部1と受波素子3との間の監視空間に煙がない状態を図2(a)に示す。つまり、図2(a)の状態では、各音源部1a,1bからの超音波Sw1,Sw2は、その伝播経路長L1,L2の違いから、各受波素子3a,3bにおいて受波される際には音圧P10,P20が互いに異なる。なお、ここでは第1の受波素子3aで受波される超音波Sw1の音圧をP10、第2の受波素子3bで受波される超音波Sw2の音圧をP20とする。
つまり、音源部1から送波された超音波は監視空間を伝播する際に伝播経路長に応じて音圧が減衰することとなるので、経路長L2の伝播経路を通る超音波Sw2の音圧P20は、経路長L1(<L2)の伝播経路を通る超音波Sw1の音圧P10に比べて低くなる。制御部2は、両超音波Sw1,Sw2の送波のタイミングが揃うように、両音源部1a,1bを同時に駆動する。
ところで、信号処理部4は、図1に示すように、音圧比を算出する音圧比算出部40と、煙濃度を推定する煙濃度推定部41と、火災の有無を判断する火災判断部42と、音圧比算出部40で算出された音圧比を記憶する記憶部43とを有している。
音圧比算出部40は、第1の受波素子3aと第2の受波素子3bとのそれぞれで受波される超音波Sw1,Sw2間の音圧比を算出する。煙濃度推定部41は、音圧比算出部40で算出される音圧比の初期値からの変化量に基づいて音源部1と受波素子3との間の監視空間の煙濃度を推定する。火災判断部42は、煙濃度推定部41にて推定された煙濃度と所定の閾値とを比較して火災の有無を判断する。
信号処理部4にはさらに、後述の減衰係数を推定する減衰係数推定部44や音圧比を補正する音圧比補正部45等が設けられているが、以下ではまず、信号処理部4の基本構成について説明する。なお、信号処理部4は、マイクロコンピュータにより構成されており、上記各手段40〜45は、上記マイクロコンピュータに適宜のプログラムを搭載することにより実現されている。また、信号処理部4には、受波素子3の出力信号をアナログ−ディジタル変換するA/D変換器(図示せず)なども設けられている。
音圧比算出部40は、経路長L2の伝播経路を通る第2の超音波Sw2の音圧を、経路長L1(<L2)の伝播経路を通る第1の超音波Sw1の音圧で除したものを音圧比として算出する。音圧比の初期値は、図2(a)に示した状態で、音源部1から受波素子3に超音波を送波することにより音圧比算出部40で算出される音圧比R0(=P20/P10)であって、あらかじめ記憶部43に記憶される。また、このように算出した音圧比R0を初期値とするのではなく、設計段階で同等の初期値を設定(プログラム上で設定)するようにしてもよい。
煙濃度推定部41は、音圧比算出部40で算出される音圧比RSと、あらかじめ記憶部43に記憶された音圧比の初期値R0とを比較して、両者の差(つまり初期値R0からの音圧比RSの変化量)に基づいて監視空間の煙濃度を推定する。詳しくは後述するが、音圧比算出部40で算出される音圧比RSの初期値R0からの変化量は、監視空間の煙濃度に略比例して増加する。そのため、あらかじめ測定した煙濃度と前記変化量との関係データに基づいて煙濃度と前記変化量との関係式を求めて記憶部43に記憶しておけば、上記関係式を用いて前記変化量から煙濃度を推定することができる。
また、火災判断部42は、煙濃度推定部41にて推定された煙濃度が上記閾値未満の場合には「火災無し」と判断する一方で、上記閾値以上の場合には「火災有り」と判断して火災感知信号を制御部2へ出力する。ここで、制御部2は、火災判断部42からの火災感知信号を受信すると、音源部1から可聴域の音波からなる警報音が発生するように音源部1への駆動信号を制御する。したがって、音源部1から警報音を発生させることができるので、警報音を出力するスピーカなどを別途に設ける必要がなく、火災感知器全体の小型化および低コスト化が可能となる。なお、火災判断部42からの火災感知器信号の出力先は制御部2に限らず、たとえば、外部の通報装置へ出力するようにしてもよい。
上述した構成によれば、音源部1や受波素子3の経時変化や周囲環境の変化に起因して音源部1や受波素子3に特性変化が生じた場合でも、これらの特性変化が、音圧比算出部40で算出される音圧比R1に影響することはない。
すなわち、音源部1や受波素子3に特性変化が生じると、監視空間に煙がなくても、図2(b)に示すように受波時の第1の超音波Sw1の音圧P11と第2の超音波Sw2の音圧P21とは図2(a)の各値(P10,P20)から変動(低下)することがある。ただし、図2(b)の状態においても音圧比算出部40で算出される音圧比R1(=P21/P11)に関しては、図2(a)の状態で算出される初期値R0(=P20/P10)と略同一となる(つまりR1=R0)。
要するに、音源部1の経時変化や周囲環境の変化に起因した特性変化は両音源部1a,1bにおいて同様に生じ、受波素子3の経時変化や周囲環境の変化に起因した特性変化は、両受波素子3a,3bにおいて同様に生じる。したがって、音源部1や受波素子3の特性変化は、音圧比算出部40で算出される音圧比R1には影響しない。
これに対して、監視空間に煙粒子(あるいはその他の浮遊粒子)が侵入すると、図2(c)に示すように受波時の第1の超音波Sw1の音圧P1Sと第2の超音波Sw2の音圧P2Sとの音圧比RS(=P2S/P1S)は初期値R0(=P20/P10)から変化する。すなわち、監視空間に煙が入り込むと、音源部1からの超音波は受波素子3に到達するまでに音圧が低下するが、このときの音圧の減衰量は監視空間中を超音波が伝播した距離と監視空間の煙濃度との両方に依存する。そのため、音圧比RSは、超音波Sw1の伝播経路長L1と超音波Sw2の伝播経路長L2との差(L2−L1)、および監視空間の煙濃度に応じた分だけ初期値R0から変化する。
具体的に説明すると、減光式煙濃度計での評価での監視空間の煙濃度をC〔%/m〕、煙濃度1〔%/m〕に対する1〔m〕当たりの超音波の減衰率をβとすれば、音圧P1SはP1S≒P10(1−βCL1)、音圧P2SはP2S≒P20(1−βCL2)で表される。ここで、P10,P20は図2(a)の例において各受波素子3a,3bでそれぞれ受波される超音波Sw1,Sw2の音圧を表しており、L1,L2(いずれも〔m〕)についてはL1<L2<1と仮定している。上式で表されるP1SおよびP2Sと、音圧比の初期値R0=P20/P10とを用いれば、音圧P1SとP2Sとの音圧比RS(=P2S/P1S)の初期値R0からの変化量(つまり、R0−RS)は次式で表される。
R0−RS=R0βC(L2−L1)/(1−βL1)
ここにおいてβL1が1よりも十分に小さければ、R0−RS=R0βC(L2−L1)となり、音圧比RSの初期値R0からの変化量(R0−RS)は、経路長の差(L2−L1)および監視空間の煙濃度Cに比例する形で表されることとなる。したがって、β、L1、L2が既知であれば、音圧比RSの初期値R0からの変化量(R0−RS)に基づいて監視空間の煙濃度C〔%/m〕を推定することができる。
また、煙濃度推定部41は、音圧比RSにおける初期値R0からの変化量を初期値R0で除した変化率(R0−RS)/R0に基づいて監視空間の煙濃度を推定する構成であってもよい。音圧比の変化率においては、製造過程で生じた音源部1や受波素子3の特性のばらつきなどにより火災感知器間で生じる初期値R0のばらつきの影響が除去されている。したがって、監視空間の煙濃度が同一であれば、初期値R0によらず煙濃度の推定結果を一律に揃えることができ、煙濃度への換算が容易になる。
なお、上述した条件下では、監視空間に煙粒子が流入することで音圧比RSが初期値R0より大きくなること(つまりR0−RSが負の値になること)はない。したがって、火災判断部42では煙濃度推定部41から出力される煙濃度に対して負の閾値は設定されておらず、万一、煙濃度推定部41から負の煙濃度が出力されても、火災判断部42は誤検出と判断して「火災無し」と判断する。
上記構成により、火災感知器は、それぞれ伝播経路長L1,L2の異なる複数の超音波Sw1,Sw2間の音圧比RSの初期値R0からの変化量に基づいて煙濃度を推定するので、音源部1や受波素子3に生じる特性変化の影響で非火災報や失報を生じることはない。要するに、音源部1や受波素子3に生じる特性変化は複数の超音波Sw1,Sw2に一律に影響するため、音圧比RSの変化に基づいて推定される煙濃度が特性変化の影響を受けることはない。
次に、減衰係数推定部44および音圧比補正部45について説明する。
減衰係数推定部44は、周囲環境の変化に応じて変化する空気による超音波の吸収減衰の減衰係数を推定する。音圧比補正部45は、減衰係数推定部44で推定された減衰係数に基づいて音圧比を補正する。
すなわち、背景技術の欄で説明したように、音源部1からの超音波は、煙がない状態でも監視空間での吸収減衰および拡散減衰により音圧が低下するが、このうち吸収減衰による音圧低下率B1は、伝播経路の経路長xを用いてB1=e−α・xで表される。
ここでαは吸収減衰の減衰係数であって、当該減衰係数αは、媒質(空気)の温度、湿度、気圧と、超音波の周波数との関数で表されることが知られている(参考文献1)。超音波の周波数は制御部2によって決定されているので、減衰係数推定部44は、少なくとも監視空間の温度と湿度とをパラメータとして減衰係数αを推定する。
本実施形態では、信号処理部4は、監視空間の温度を計測する温度計測部46と、監視空間における音速を計測する音速計測部47とを有している。減衰係数推定部44は、温度計測部46で計測される温度および音速計測部47で計測される音速から算出される監視空間の湿度と、温度計測部46で計測される温度とをパラメータに用いて減衰係数αを推定する。つまり、監視空間における音速C〔m/s〕は、監視空間における温度T〔℃〕と水蒸気圧Eと気圧Pとの関数で次式のように表すことができる。
そのため、気圧Pを1〔atm〕と仮定した場合、音速Cと温度Tとが求まれば上記数2より水蒸気圧Eが求まり、当該水蒸気圧Eから監視空間内の湿度を算出できる。
音速計測部47は、各受波素子3a,3bでそれぞれ受波される超音波Sw1,Sw2の伝播経路長差(L2−L1)を、超音波Sw1,Sw2を受波するタイミングの時間差Δt0(図3(a)参照)で除することにより監視空間の音速を算出する。つまり、監視空間の音速が変化すると、伝播経路長差(L2−L1)が一定であれば、超音波Sw1,Sw2の受波タイミングの時間差Δt0が変化する(図3(b)のΔt0’参照)。
したがって、音速計測部47は、(L2−L1)/Δt0より監視空間における音速を算出することができる。なお、図6(a)は音圧比の初期値R0が算出された状態において受波素子3で受波される超音波Sw1,Sw2の波形を示し、監視空間の音速のみが変化した状態において受波素子3で受波される超音波Sw1,Sw2の波形を図6(b)に示す。
このように、音速計測部47は(L2−L1)/Δt0により音速を求めるので、音速を計測するためにサーミスタ、熱電対、温度センサICのデバイスを付加する必要がなく、火災感知器の部品点数の増加を抑制することができる。
音圧比補正部45は、上述のようにして得られた減衰係数αに基づいて、減衰係数αに起因した音圧比算出部40の出力(音圧比RS)の初期値R0からの変動分をキャンセルするように音圧比RSを補正する。
要するに、周囲環境の変化(たとえば、温度、湿度、気圧などの変化)に伴い減衰係数αが変化すると、監視空間での超音波の吸収減衰による音圧低下率B1(=e−α・x)が変化し、その結果、第1の超音波Sw1と第2の超音波Sw2との音圧比RSが変動する。さらに詳しく説明すると、音圧低下率B1は伝播経路長xの関数として表されるものであるから、伝播経路長が異なる第1および第2の超音波Sw1,Sw2間では、減衰係数αの変化量が同じであっても、音圧低下率B1の変化量に差が生じる。したがって、減衰係数αが変化すれば、煙濃度にかかわらず第1および第2の超音波Sw1,Sw2の音圧比RSは変化する。
そこで、本実施形態の音圧比補正部45は、減衰係数αの変化に起因した音圧比RSの変動分をキャンセルするように、減衰係数αの変化に応じて音圧比RSを補正する。具体的には、図1に示すように音圧比算出部40の後段に音圧比補正部45を設け、音圧比算出部40で算出された音圧比RSを音圧比補正部45で補正してから煙濃度推定部41に渡すようにしてある。このときの補正値は、減衰係数αの変化による音圧低下率B1の変動分を取り除くように決定される。これにより、煙濃度推定部41では、減衰係数αの変化に起因した初期値R0からの変動分がキャンセルされた音圧比RSを用いて、監視空間の煙濃度を推定することができる。そのため、煙濃度推定部41で推定される煙濃度に、周囲環境変化による減衰係数αの変化が影響することを防止できる。
したがって、周囲環境の変化により空気による吸収減衰の減衰係数αが変化することがあっても、火災判断部42では、減衰係数αの変化の影響を受けずに火災発生の有無を判断して、減衰係数αの変化に起因した非火災報や失報を低減することができる。その結果、火災の有無の判断の確度が向上するという利点がある。
ところで、本実施形態の火災感知器は、図1に示すように、音響セル5の熱膨張による伝播経路長の変化量を求める変化量測定部48と、音速計測部47での音速の算出に用いられる伝播経路長を補正する経路長補正部49を信号処理部4にさらに有している。
経路長補正部49は、変化量測定部48で求めた伝播経路長L1,L2の変化量に基づいて、第1および第2の超音波Sw1,Sw2の伝播経路長L1,L2を補正する。すなわち、伝播経路長L1,L2は、音響セル5の寸法によって決まる音源部1−受波素子3間の離間距離であるから、音響セル5が熱膨張により変形すると、その変形量に応じて伝播経路長L1,L2も変化する。そのため、音速計測部47が音速を算出する際に用いる伝播経路長の差(L2−L1)を固定値とすると、実際の監視空間の音速と音速計測部47で求まる音速との間に誤差が生じる。経路長補正部49は、このような理由で音速計測部47にて求められる音速に生じる誤差分を補正する。
具体的に説明すると、音速計測部47が音速の算出時に用いる伝播経路長L1,L2のデフォルト値は、予めメモリ(図示せず)に登録されており、音速計測部47はこのメモリから伝播経路長L1,L2のデフォルト値を読み出す。経路長補正部49は、音速計測部47が読み出した伝播経路長L1,L2のデフォルト値に、所定の熱膨張係数Kを用いて1+K・ΔTcで表される補正係数を乗じることにより伝播経路長L1,L2を補正する。
ここで、熱膨張係数Kは、超音波Sw1,Sw2の進行方向となる音源部1と受波素子3との対向方向(図2における左右方向)についての音響セル5の線膨張係数であり、音響セル5の材質に応じて予め決められる。なお、温度範囲によって熱膨張係数が変わる場合、熱膨張係数Kは、音響セル5の使用温度範囲(たとえば−15〜50〔℃〕)内で決められる。
ΔTcは、音響セル5の温度Tc1の所定の基準温度Tc0からの変化量(Tc1−Tc0)を表している。つまり、メモリに登録されている伝播経路長L1,L2のデフォルト値は、音響セル5が基準温度Tc0にあるときの伝播経路長L1,L2である。
音響セル5の温度は、温度計測部46とは別に信号処理部4に設けられているセル温度計側部50によって計測される。セル温度計測部49は、音響セル5に埋め込まれているサーミスタ、熱電対、温度センサIC等の温度センサの出力から音響セル5自体の温度を計測する。
変化量測定部48は、セル温度計測部49で計測された温度Tc1と基準温度Tc0とからΔTc(=Tc1−Tc0)を求め、このΔTcと熱膨張係数Kとを用いて伝播経路長L1,L2の変化量を求める。経路長補正部49は、変化量測定部48で求められた変化量に基づいて補正係数(1+K・ΔTc)を決定する。
したがって、補正後の超音波Sw1の伝播経路長はL1×(1+K・ΔTc)で表され、補正後の超音波Sw2の伝播経路長はL2×(1+K・ΔTc)で表される。一例として、熱膨張係数Kが70〔ppm/℃〕、伝播経路長L1のデフォルト値が40〔mm〕であり、音響セル5の温度が基準温度から20〔℃〕上昇した場合、補正後の伝播経路長L1は40×1.0014=40.056〔mm〕となる。
音速計測部47はこれら補正後の伝播経路長L1,L2を用いて音速を算出する。
以上説明した構成によれば、経路長補正部49が、音速計測部47での音速の算出に用いられる伝播経路長を補正するので、温度変化が生じて音響セル5に熱膨張による変形が生じても、煙濃度の推定の確度が低下することを防止できるという効果がある。すなわち、音響セル5が変形して超音波Sw1,Sw2の伝播経路長が変化しても、音速計測部47は、経路長補正部49で補正された伝播経路長を用いて音速を算出するので、音速を正確に求めることができる。
したがって、温度計測部46で計測される温度および音速計測部47で算出される音速から算出される監視空間の湿度が精度よく求まり、この湿度と温度とを用いて減衰係数推定部44にて推定される減衰係数αの推定確度は高くなる。結果的に、煙濃度推定部41での監視空間の煙濃度の推定確度は向上し、火災の有無の判断の確度が向上するという利点がある。
また、変化量測定部48は、温度計測部46とは別に設けられたセル温度計側部50によって計測される音響セル5自体の温度を用いて音響セル5の熱膨張による伝播経路長L1,L2の変化量を求めている。そのため、変化量測定部48は、伝播経路長L1,L2の変化量を精度よく求めることでき、補正の精度が向上する。
すなわち、変化量測定部48は、音源部1と受波素子3との間の監視空間の温度ではなく、音響セル5自体の温度の計測結果を用いているので、監視空間の温度を用いる場合に比べて、伝播経路長L1,L2の変化量を精度よく求めることができる。なお、セル温度計側部50は、上述のように音響セル5に埋め込まれた温度センサの出力から温度を計測する構成に限らず、火災感知器のうち音響セル5と同等の温度変化を生じる部分の温度を音響セル5自体の温度として計測する構成であってもよい。
ところで、本実施形態では、音源部1は、後述のように空気に熱衝撃を与えることで超音波を発生させる音波発生素子が用いられ、圧電素子に比べて残響時間が短い超音波を送波する。受波素子3としては、共振特性のQ値が圧電素子に比べて十分に小さく、受波信号に含まれる残響成分の発生期間が短い静電容量型のマイクロホンが用いられる。
ここにおいて、音源部1は、図4に示すように、単結晶のp形のシリコン基板からなるベース基板11の一表面(図4における上面)側に多孔質シリコン層からなる熱絶縁層(断熱層)12が形成されている。熱絶縁層12の表面側には発熱体部として金属薄膜からなる発熱体層13が形成され、ベース基板11の上記一表面側には発熱体層13と電気的に接続された一対のパッド14,14が形成されている。
なお、ベース基板11の平面形状は矩形状であって、熱絶縁層12、発熱体層13それぞれの平面形状も矩形状に形成してある。また、ベース基板11の上記一表面側において熱絶縁層12が形成されていない部分の表面にはシリコン酸化膜からなる絶縁膜(図示せず)が形成されている。
上述の音源部1は、発熱体層13の両端のパッド14,14間に通電され発熱体層13に急激な温度変化が生じると、発熱体層13に接触している空気(媒質)に急激な温度変化(熱衝撃)が生じる(つまり、発熱体層13に接触している空気に熱衝撃が与えられる)。したがって、発熱体層13に接触している空気は、発熱体層13の温度上昇時には膨張し発熱体層13の温度下降時には収縮するから、発熱体層13への通電を適宜に制御することによって空気中を伝播する超音波を発生させることができる。
要するに、音源部1を構成する音波発生素子は、発熱体層13への通電に伴う発熱体層13の急激な温度変化を媒質の膨張収縮に変換することにより媒質を伝播する超音波を発生する。したがって、この音源部1は、圧電素子のように機械的振動により超音波を発生する場合に比べて、残響の少ない超音波を送波させることができる。
上述の音源部1はベース基板11としてp形のシリコン基板を用いており、熱絶縁層12は多孔度が略60〜略70%の多孔質シリコン層からなる多孔質層により構成されている。したがって、ベース基板11として用いられるシリコン基板の一部をフッ化水素水溶液とエタノールとの混合液からなる電解液中で陽極酸化処理することにより熱絶縁層12となる多孔質シリコン層を形成することができる。なお、陽極酸化処理により形成された多孔質シリコン層は、結晶粒径がナノメータオーダの微結晶シリコンからなるナノ結晶シリコンを多数含んでいる。
多孔質シリコン層は、多孔度が高くなるにつれて熱伝導率および熱容量が小さくなる。ここで、熱絶縁層12の熱伝導率および熱容量をベース基板11の熱伝導率および熱容量に比べて小さくし、熱絶縁層12の熱伝導率と熱容量との積をベース基板11の熱伝導率と熱容量との積に比べて十分に小さくする。これにより、発熱体層13の温度変化を空気に効率よく伝達することができ発熱体層13と空気との間で効率的な熱交換が起こり、且つ、ベース基板11が熱絶縁層12からの熱を効率よく受け取って熱絶縁層12の熱を逃がすことができる。
したがって、発熱体層13からの熱が熱絶縁層12に蓄積されるのを防止することができる。なお、熱伝導率が148W/(m・K)、熱容量が1.63×106J/(m3・K)の単結晶のシリコン基板を陽極酸化して形成される多孔度が60%の多孔質シリコン層は、熱伝導率が1W/(m・K)、熱容量が0.7×106J/(m3・K)であることが知られている。本実施形態では、熱絶縁層12を多孔度が略70%の多孔質シリコン層により構成してあり、熱絶縁層12の熱伝導率が0.12W/(m・K)、熱容量が0.5×106J/(m3・K)となっている。
発熱体層13は、高融点金属の一種であるタングステンにより形成してあるが、発熱体層13の材料はタングステンに限らず、たとえば、タンタル、モリブデン、イリジウム、アルミニウムなどを採用してもよい。また、上述の音源部1では、ベース基板11の厚みを300〜700μm、熱絶縁層12の厚みを1〜10μm、発熱体層13の厚みを20〜100nm、各パッド14の厚みを0.5μmとしてある。ただし、これらの厚みは一例であって特に限定するものではない。
また、ベース基板11の材料としてSiを採用しているが、ベース基板11の材料はSiに限らず、たとえば、Ge、SiC、GaP、GaAs、InPなどの陽極酸化処理による多孔質化が可能な他の半導体材料でもよい。いずれの場合にも、ベース基板11の一部を多孔質化することで形成した多孔質層を熱絶縁層12とすることができる。
上述のように音源部1は、一対のパッド14,14を介した発熱体層13への通電に伴う発熱体層13の温度変化に伴って超音波を発生する。したがって、音源部1は発熱体層13へ与えられる駆動電圧波形あるいは駆動電流波形からなる駆動信号をたとえば周波数f1の正弦波波形とした場合、理想的には、f1の2倍の周波数f2の超音波を発生させることができる。
すなわち、上述の音源部1は、平坦な周波数特性を有しており、発生させる超音波の周波数を広範囲にわたって変化させることができる。また、上述の音源部1では、たとえば正弦波波形の半周期の孤立波を駆動信号として一対のパッド14,14間へ与えることによって、残響の少ない略1周期の単パルス状の超音波を発生させることができる。このような単パルス状の超音波を用いることにより、反射による干渉が起こりにくくなるので、上記吸音層を省略することもできる。また、音源部1は、熱絶縁層12が多孔質層により構成されているので、熱絶縁層12が非多孔質層(たとえば、SiO2膜など)からなる場合に比べて、熱絶縁層12の断熱性が向上して超音波発生効率が高くなり、低消費電力化を図れる。
また、上述の受波素子3を構成する静電容量型のマイクロホンは、図5に示すように構成されている。すなわち、受波素子3は、シリコン基板に厚み方向に貫通する窓孔31aを設けることで形成された矩形枠状のフレーム31と、フレーム31の一表面側においてフレーム31の対向する2つの辺に跨る形で配置されるカンチレバー型の受圧部32とを備えている。
フレーム31の一表面側には熱酸化膜35と熱酸化膜35を覆うシリコン酸化膜36とシリコン酸化膜36を覆うシリコン窒化膜37とが形成されている。受圧部32の一端部はシリコン窒化膜37を介してフレーム31に支持され、他端部が上記シリコン基板の厚み方向においてシリコン窒化膜37に対向している。また、シリコン窒化膜37における受圧部32の他端部との対向面に金属薄膜(たとえば、クロム膜など)からなる固定電極33aが形成されている。受圧部32の他端部におけるシリコン窒化膜37との対向面とは反対側に金属薄膜(たとえば、クロム膜など)からなる可動電極33bが形成されている。
なお、フレーム31の他表面にはシリコン窒化膜38が形成されている。また、受圧部32は、上記各シリコン窒化膜37,38とは別工程で形成されるシリコン窒化膜により構成されている。
図5に示した構成の静電容量型のマイクロホンからなる受波素子3では、固定電極33aと可動電極33bとを電極とするコンデンサが形成される。そのため、受波素子3は受圧部32が疎密波の圧力を受けることにより固定電極33aと可動電極33bとの間の距離が変化し、固定電極33aと可動電極33bとの間の静電容量が変化する。したがって、固定電極33aおよび可動電極33bに設けたパッド(図示せず)間に直流バイアス電圧を印加しておけば、パッドの間には超音波の音圧に応じて微小な電圧変化が生じるから、超音波の音圧を電気信号に変換することができる。
また、本実施形態では、変化量測定部48は、音響セル5の温度の計測値を用いて音響セル5の熱膨張による伝播経路長L1,L2の変化量を推測する例を示したが、この構成に限定する趣旨ではない。すなわち、変化量測定部48は、たとえばピエゾ素子などを用いて音響セル5の変形量を実測し、この変形量より伝播経路長L1,L2の変化量を求める構成であってもよい。
(実施形態2)
本実施形態の火災感知器は、各1個ずつの音源部1と受波素子3との間に経路長の異なる複数の伝播経路を形成するために、音源部1から送波された超音波を反射する一対の反射面を音響セル5に設けた点が実施形態1の火災感知器と相違する。なお、実施形態1と同様の構成要素には同一の符号を付して説明を適宜省略する。
本実施形態では、図6に示すように第1および第2の反射面7a,7bが音源部1から送波された超音波の進行方向(図6の左右方向)において互いに対向するように配置されている。各反射面7a,7bはそれぞれ超音波を反射するものであって、受波素子3は第1の反射面7a上に、音源部1は第2の反射面7b上にそれぞれ配置される。
ここで、音圧比算出部40は、音源部1から受波素子3に直接伝播される超音波(直達波)Sw1と、反射面7a,7bで反射されてから受波素子3に到達する超音波(反射波)Sw2との間で音圧比を算出する。すなわち、図6に示すように直達波が第1の超音波Sw1となるとともに、音源部1から送波された後に第1の反射面7aで反射され、さらに第2の反射面7bで反射されることによって受波素子3に伝わる反射波が第2の超音波Sw2となる。
なお、超音波Sw2に関して反射面7a,7bでの反射回数を増やせば、両超音波Sw1,Sw2間の伝播経路長の差が大きくなる。そのため、監視空間に煙が入り込んだときの音圧比RSの初期値R0からの変化量は大きくなるものの、超音波Sw2の伝播経路長が長くなることで受波素子3に到達する第2の超音波Sw2の音圧は低下する。したがって、超音波Sw2の反射面7a,7bでの反射回数は、受波素子3で受波される超音波Sw2の音圧と、煙粒子による音圧比RSの変化量とのバランスを考慮して決定することが望ましい。
ここにおいて、各超音波Sw1,Sw2が受波素子3に到達するタイミングには、伝播経路長L1,L2の差に応じた時間差Δt0(図3(a)参照)が生じる。この時間差Δt0は、伝播経路長L1,L2の差を音速で除することにより求められる。受波素子3において各超音波Sw1,Sw2を区別するためには、受波素子3で各超音波Sw1,Sw2をそれぞれ受波する期間を時間差Δt0内に収める必要がある。
つまり、たとえば音速が340m/sで、音源部1から送波される超音波の周波数が100kHzである場合、超音波は周期10μs、波長3.4mmとなる。この場合、伝播経路長L1,L2の差が68mmであると、超音波の波数が20波を超えれば超音波Sw1,Sw2同士の重なりが生じ、受波素子3で各超音波Sw1,Sw2を区別できなくなる。
そこで、伝播経路長L1,L2の差と音源部1から1回に送波される超音波の波数とを調整することにより、超音波同士の重なりが生じないようにすることが望ましい。火災感知器を小型化するために伝播経路長L1,L2の差を小さくする場合には、実施形態1で説明したように、空気に熱衝撃を与えることで超音波を発生する構成であって、残響の少ない単パルス状の超音波を送波可能な音源部1を採用することが有用である。
また、本実施形態では、音響セル5は、図7に示すように音源部1からの超音波の拡散範囲を狭める一対の拡散防止板6をさらに備えている。各拡散防止板6はそれぞれ平面視矩形状の平板からなり、一対の拡散防止板6は一表面同士を対向させるように略平行に配設される。ここで、一対の拡散防止板6は、音源部1からの超音波の進行方向に沿う面であって互いに対向する一表面間に音源部1の高さと略同寸法の間隙を形成し、この間隙に音源部1からの超音波を通すことで当該超音波の拡散範囲を狭める。
一対の拡散防止板6は、一表面間の間隙を通して音源部1からの超音波を伝播させるように、前記一表面の間に音源部1と受波素子3とを挟みこむ形で配設される。つまり、一対の拡散防止板6における互いに対向する一表面は、監視空間を囲むことにより超音波の拡散範囲を制限する一対の拡散防止面を構成する。
上述した一対の反射面7a,7bは、拡散防止板6の拡散防止面に沿う面内で互いに対向する形で両拡散防止板6の間に形成される。このように音響セル5が拡散防止板6を有することにより、音源部1から送波される超音波は、拡散防止板6の拡散防止面で囲まれた監視空間を通ることで拡散が抑制される。したがって、音源部1と受波素子3との間における超音波の拡散による音圧の低下が抑制されるという利点がある。
ところで、本実施形態では、図8に示すように、音速計測部47で算出される音速に所定の補正係数を乗じることにより音速を補正する音速補正部51が信号処理部4に設けられている。音速補正部51は、一対の拡散防止板6の間隔(つまり、一対の拡散防止面間の距離)に応じた補正係数を用いることにより、音速を補正する。
すなわち、監視空間内の音速は一律ではなく、たとえば空気の粘性により拡散防止面(拡散防止板6の一表面)付近では音速が低下する傾向にある。そのため、一対の拡散防止板6の間隔が狭く、あるいは超音波の波長が短くなるほど、監視空間内の平均的な音速も空気の粘性の影響を受けて低下することになる。
そこで、音速補正部51は、一対の拡散防止板6の間隔が狭く、あるいは超音波の波長が短くなるほど音速を低下させるように、音速計測部47で算出された音速を補正するための補正係数を決定する。これにより、温度および音速から算出される監視空間の湿度の算出精度が高くなり、この湿度と温度とを用いて減衰係数推定部44にて推定される減衰係数αの推定確度も高くなる。結果的に、煙濃度推定部41での監視空間の煙濃度の推定確度は向上し、火災の有無の判断の確度が向上するという利点がある。
なお、本実施形態のように超音波を反射する一対の反射面を音響セル5に設けた構成に限らず、実施形態1の構成に対して拡散防止板6および音速補正部51に付加しても、同様の効果を得ることができる。
さらに、本実施形態では、各反射面7a,7bが反射波を他方の反射面7a,7b上に焦点を結ぶ反射波として反射する形にそれぞれ湾曲した凹曲面(放物面)からなる。音源部1と受波素子3とは、各反射面7a,7b上において、他方の反射面7a,7bに平面波として入射し反射された超音波が焦点を結ぶ位置に配置されている。これにより、音源部1から送波され第1の反射面7aで反射された超音波は、第2の反射面7bで反射されることで受波素子3上に焦点を結ぶ。
要するに、図9(a)に示すように音源部1から放射状に広がりながら受波素子3側の第1の反射面7aに到達した超音波は、第1の反射面7aで反射されることによって図9(b)に示すように音源部1側の第2の反射面7bに対する平行波となる。平行波として第2の反射面7bに到達した超音波は、第2の反射面7bで反射されることによって図9(c)に示すように第1の反射面7a上の受波素子3の位置で焦点を結ぶこととなる。そのため、反射面7a,7bでの反射を繰り返しても超音波は拡散しにくく、且つ直線状に伝播する超音波と放射状に伝播する超音波とに関して伝播経路の経路長は同じになり、焦点での位相ずれによる干渉も生じない。
したがって、音源部1と受波素子3との間における超音波の音圧の低下を抑制することができる。その結果、煙濃度の変化量に対する受波素子3の出力の変化量が比較的大きくなり、SN比が向上する。
さらに詳しく説明すると、仮に反射面7a,7bがなければ、音源部1から送波された超音波は監視空間中で拡散減衰することにより、受波素子3で受波される際には伝播経路の経路長に応じて音圧が減衰する。これに対して、反射面7a,7bで反射される第2の超音波Sw2は、上述したように反射面7a,7bで反射されることにより他方の反射面7a,7b上に集音され、拡散減衰が抑制される。したがって、第2の超音波Sw2は、反射面7a,7bで反射されることなく同じ経路長L2を伝播される場合に比べると、音圧の減衰量が小さくなる。
つまり、受波素子3で受波される前記第2の超音波Sw2の音圧P20は、反射面7a,7bで反射されることなく経路長L2の伝播経路を通して音源部1から受波素子3に伝播される超音波の音圧P2に比べて大きくなり、煙濃度の分解能が向上する。このとき、第2の超音波Sw2の音圧P20は、音圧P2と音圧増大係数A(>1)との積(A・P2)で表すことができる。なお、音圧増大係数は、超音波が反射面7a,7bで反射されることにより拡散減衰が抑制される度合いを表す係数であって、反射面7a,7bの形状や超音波の指向性などによって決まる。
以上説明した構成によれば、音圧比算出部40で算出される音圧比が複数の音源部1間で生じる特性変化のばらつきの影響や、複数の受波素子3間で生じる特性変化のばらつきの影響を受けることがない分だけ、音圧比の算出精度が向上する。すなわち、音圧比算出部40は、単一の音源部1から送波され単一の受波素子3で受波される複数の超音波Sw1,Sw2間の音圧比を算出するので、複数の音源部1あるいは受波素子3間で生じる特性変化のばらつきの影響を受けることがない。しかも、音源部1から同一タイミングで送波された超音波について音圧比を算出するので、算出される音圧比は音源部1の駆動タイミングによって生じる音圧のばらつきの影響を受けることもない。
ところで、本実施形態の火災感知器は、音速計測部47で計測された監視空間の音速に基づいて、音速の変化に起因した音圧比RSの初期値R0からの変動分をキャンセルするように音圧比RSを補正する指向性補正部52を信号処理部4にさらに有している。
要するに、監視空間における音速が変化すると、監視空間での超音波の指向性が変化し、その結果、第1の超音波Sw1と第2の超音波Sw2との音圧比RSが変動する。さらに詳しく説明すると、たとえば音源部1から正弦波パルス状の超音波が送波される場合、音源部1の真正面の方向に対する角度θを用いて、指向性係数(角度θ=0°での音圧を1としたときの音圧の大きさを示す係数)D1(θ)は以下の式で表される。なお、0≦θ≦sin−1(λ/4a)のときには数3が適用され、sin−1(λ/4a)≦θ≦π/2aのときに数4が適用される。
上式中のλは超音波の波長を表しており、aは音源部1のうち媒質としての空気に振動を与える発熱体層13の表面(送波面)の一辺長の1/2の長さを表す(つまり、音源部1の送波面は一辺が2aの正方形状となる)。波長λは、周知のように音速と周期(パルス幅)との積で表されるから、監視空間内での音速が変化すると、波長λが変化して上記指向性係数D1(θ)が変化する。
そして、指向性係数D1(θ)が変化すれば、前述の音圧増大係数Aが変化し、これに伴い反射面7a,7bで反射された第2の超音波Sw2の音圧P20(=A・P2)が変化する。ここで、変化後の音圧増大係数をA’(≠A)とすれば、変化後の第2の超音波Sw2の音圧P20’はP20’=A’・P2で表されることとなる。結果的に、第1および第2の超音波Sw1,Sw2の音圧比は、R0’(=P20’/P10)=A’・P2/P10となり、初期値R0(=P20/P10)=A・P2/P10から変化する。つまり、指向性係数D1(θ)が変化すれば、煙濃度にかかわらず第1および第2の超音波Sw1,Sw2の音圧比RSは変化する。
そこで、指向性補正部52は、音速の変化に起因した音圧比RSの変動分をキャンセルするように、音速の変化に応じて音圧比RSを補正する。具体的には、指向性補正部52は音圧比補正部45の後段に設けられ、音速計測部47での計測結果(音速)を受け、音速変化に起因した超音波の指向性変化による音圧増大係数の変動分(A’−A)を取り除くように、音圧比RSの補正値を決定する。これにより、煙濃度推定部41では、音速変化に起因した初期値R0からの変動分がキャンセルされた音圧比RSを用いて、煙濃度を推定することができるので、煙濃度推定部41で推定される煙濃度に音速変化による指向性の変化が影響することはない。
したがって、監視空間の音速変化により超音波の指向性が変化することがあっても、火災判断部42では、指向性変化の影響を受けずに火災発生の有無を判断でき、非火災報や失報を低減することができ、火災の有無の判断の確度が向上するという利点がある。
なお、本実施形態では、音圧比補正部45と指向性補正部52とにおいて、減衰係数αの変化と、指向性の変化との2つの要素を考慮して音圧比RSを補正するので、これら2つの要素を統合した補正に関する重回帰式を用いて補正を行う構成としてもよい。これにより、補正を行う際の演算処理にかかる負荷の軽減を図ることができる。重回帰式は、気圧が一定と仮定すれば、たとえば、温度と湿度との2次関数で表される。
その他の構成および機能は実施形態1と同様である。
ところで、上記各実施形態において、音響セル5としては、熱膨張係数が小さい材質を適用することが望ましい。これにより、たとえばセル温度計測部49の温度計測の誤差などにより経路長補正部49での伝播経路長の補正時に生じる誤差が小さくなり、結果的に監視空間の湿度の算出精度がより一層高くなる。特に、音響セル5の材質が石英の場合など、熱膨張係数が極端に小さく音響セル5の熱膨張による音速の変化量の所定分の1となる場合には、煙検知の精度によっては音響セル5の熱膨張による音速の補正を実質的に省略できる。
また、制御部2が、音源部1から防虫効果のある周波数の超音波を送波させるようにすれば、監視空間に虫が侵入するのを防止することができ、虫に起因した非火災報を低減できる。ここで、制御部2は、煙濃度を推定するために音源部1から送波する超音波に防虫効果のある周波数成分を含むようにしてもよい。