空気調和機や冷凍サイクル装置で使用される電動機用駆動装置は、インバータ制御によって圧縮機用電動機を駆動するインバータ装置と、このインバータ装置の母線電圧(例えば220V〜280V)を商用100Vの交流電源から生成する直流電源装置(以降、適宜「コンバータ」という)とで構成されるが、直流電源装置は、ダイオードブリッジからなる整流回路と倍電圧コンデンサとで構成される倍電圧コンバータ回路(倍電圧整流回路)を備えている。
ダイオードブリッジからなる整流回路では、整流した直流電圧に高調波(リップル)が重畳される。この高調波は、機器の誤動作や部品の異常発熱などの直接障害を引き起こすだけでなく、その総量が増加することによる力率の低下が発電・送電設備の損失増加を引き起こすので、電気製品に関する電源高調波の規制が本格的に施行されている。
空気調和機や冷凍サイクル装置で使用される電動機用駆動装置として、例えば特許文献1では、直流電源装置で使用する倍電圧コンデンサを最低限必要な容量よりも大きい容量のものを選択し、インバータ装置の母線電圧に現れるリプルの含有率を抑制する技術が提案されている。以下、図12と図13を参照して簡単に説明する。なお、図12は、従来の電動機用駆動装置の構成例を示すブロック図である。図13は、図12に示す電動機用駆動装置においてリアクトルの通電制御を行う場合の電圧・電流波形図である。
図12に示す電動機用駆動装置は、商用電源140にリアクトル141を介して接続される倍電圧コンバータ回路142と、倍電圧コンバータ回路142の出力端に接続されるインバータ装置143とを備え、インバータ装置143に空気調和機や冷凍サイクル装置で使用する圧縮機用電動機7が接続される場合において、整流回路154と強制通電制御部155とスイッチ156とを設けたものである。
倍電圧コンバータ回路142は、4個のダイオード146〜149のブリッジで構成される整流回路150と、整流回路150の直流出力端間に直列に配置される倍電圧用コンデンサ151,152とで構成されている。整流回路150の一方の交流入力端は、リアクトル141を介して商用電源140の一方の交流出力端に接続され、整流回路150の他方の交流入力端は、倍電圧用コンデンサ151,152の直列接続端と共に直接商用電源140の他方の交流出力端に接続されている。この構成によって、倍電圧コンバータ回路142の直流出力端間に、交流100Vから昇圧して生成した倍電圧の直流電圧(母線電圧)が発生する。
インバータ装置143は、倍電圧コンバータ回路142の直流出力端間に発生する直流電圧をスイッチング素子によってスイッチングして圧縮機用電動機7を駆動する交流電圧を生成する。
整流回路154は、ダイオードブリッジ構成であり、一方の交流入力端は、リアクトル141を介して商用電源140の一方の交流出力端に接続され、他方の交流入力端は、直接商用電源140の他方の交流出力端に接続され、整流回路154の直流出力端間にスイッチ156が接続されている。そして、強制通電制御部155が、商用電源140のゼロクロス点(ゼロクロス時刻)を検出して、スイッチ156の開閉制御を図13に示すように行うようになっている。
具体的には、強制通電制御部155は、ゼロクロス点から交流電圧の絶対値が増大する正及び負の各半サイクルの初期期間において、スイッチ156を所定期間だけオン動作させて商用電源140をリアクトル141経由で短絡してリアクトル141に強制的に電流を流し、流れる電流の立ち上がり特性を改善するようにしている。
すなわち、強制通電制御部155は、図13に示すように、ゼロクロス点Pzcから所定期間Tだけスイッチ156をオン動作させる。リアクトル141には、交流電源電圧の瞬時値Vivに立ち上がりを近づけた交流電流Iivが流れる。そして、その電流が流れている所定期間Tを経過した時点でスイッチ156をオフ動作させると、短絡が解除されリアクトル141に流れていた電流が倍電圧コンデンサ151または倍電圧コンデンサ152に流れ込むことになる。
このとき、このように強制的に電流が流れている強制通電期間Tは、倍電圧コンデンサ151,152の容量に応じて、シミュレーションによって力率が最適になるように決定することができる。
これによって、倍電圧コンデンサ151,152として、倍電圧コンバータ回路142の直流出力電圧(インバータ装置143の母線電圧)のリプル含有率を所望の値に抑制する程度に大きな容量のものを選択し、その容量増加による力率低下分をリアクトル141の強制通電時間Tを適宜に決定して補償することができる。
なお、図12に示す整流回路154と強制通電制御部155とスイッチ156とを設けない構成、つまり、インバータ装置の前段に設ける直流電源装置をダイオードブリッジからなる整流回路と倍電圧コンデンサとのみで構成される電動機用駆動装置では、100Vの交流電源入力に対してコンバータ出力(例えば220V〜280V)を得る場合、倍電圧コンデンサの許容リプル電流との関係でコンバータ出力に対して最低限必要な静電容量以上の倍電圧コンデンサを特別仕様でない一般系列品の中から選択するか、若しくは、コンデンサメーカが空気調和機や冷凍サイクル装置の用途向けに特別仕様で製造した特殊系列品である比較的低容量であるがESR(等価直列抵抗)を抑制して高許容リプル電流としたコンデンサを選択するかを行っていた。
また、インバータ装置の前段に設ける直流電源装置をダイオードブリッジからなる整流回路と倍電圧コンデンサとのみで構成される電動機用駆動装置では、リアクトルは、単に突入電流抑制用として機能するので、充放電特性をよくして力率を低下させないようにするため、倍電圧コンデンサの容量を小さくすると、倍電圧コンデンサの容量と負荷の大きさとの関係によって母線電圧に10Hz〜30Hzの低周波揺動が現れる現象が起こる(図14参照)。図14は、母線電圧に載る低周波の揺動波形を示した図である。
この低周波の揺動は、次のようにして発生する。倍電圧コンデンサがコンバータ動作を行っているときは、母線電圧は、電源周波数の2倍の周波数で、正弦波ではなく多少前のめりに歪んだ波形をしている。この歪んだ波形は、倍電圧コンデンサ容量とコンバータの二次側負荷の大きさとの関係で変化してくるが、電源周波数の2倍の基本周波数の両側に10〜30Hzの側帯波を持っている。これが、コンバート後の直流成分に映りこんできて10〜30Hzで母線電圧を揺らす現象が起こる。この低周波揺動は、負荷が大きくなるに連れて顕著になる。
母線電圧が低周波で揺動すると、力率、効率の低下を招来する上に、圧縮機全体の機械的振動を助長させる要因となるので、空気調和機や冷凍サイクル装置の運転上最も避けなければならない問題である。
そこで、インバータ装置の前段に設ける直流電源装置をダイオードブリッジからなる整流回路と倍電圧コンデンサとのみで構成される電動機用駆動装置において倍電圧コンデンサの容量を小さくする場合は、従来では、倍電圧コンデンサと並列に平滑用コンデンサを設け、倍電圧コンデンサの容量を小さく設定した分、平滑用コンデンサの容量を大きく設定してリプル含有率を減らすようにしているが、母線電圧の低周波揺動を抑制するには、平滑用コンデンサとして760μF以上の大容量のものが必要である。
要するに、特許文献1では、大容量の平滑用コンデンサを使用しないで、かつ、力率を低下させずに倍電圧コンデンサの容量を大きくし、高調波を抑制する技術を開示しているということができる。
特開平11−98842号公報(直流電源装置、電動機用駆動装置、空気調和機及び冷凍サイクル装置)
以下に図面を参照して、この発明にかかる直流電源装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1による直流電源装置を備える電動機用駆動装置の構成を示すブロック図である。図1に示す直流電源装置は、50Hzまたは60Hzの商用電源1にリアクトル2を介して接続される倍電圧コンバータ回路3及びコンバータスイッチング回路4と、コンバータスイッチング回路4を制御するコンバータスイッチング制御ドライバ部5とを備えている。そして、倍電圧コンバータ回路3の出力端には、インバータ装置6が接続され、インバータ装置6には、空気調和機や冷凍サイクル装置で使用する圧縮機用電動機7が接続されている。
リアクトル2は、倍電圧コンバータ回路3及びコンバータスイッチング回路4への急激な突入電流を防ぐとともに、力率を1.0に近づける所定のインダクタンス値が選択されている。
倍電圧コンバータ回路3は、4個のダイオード10a〜10dのブリッジで構成される整流回路11と、整流回路11の直流出力端間に直列に配置される倍電圧用コンデンサ12,13とで構成されている。整流回路11の一方の交流入力端は、リアクトル2を介して商用電源1の一方の交流出力端に接続され、他方の交流入力端は、倍電圧用コンデンサ12,13の直列接続端と共に直接商用電源1の他方の交流出力端に接続されている。この構成によって、倍電圧コンバータ回路3の直流出力端3a,3b間に、AC100Vから昇圧して生成した倍電圧の直流電圧が発生する。
コンバータスイッチング回路4は、4個のダイオード15a〜15dのブリッジで構成される整流回路16と、整流回路16の出力端間に接続されるスイッチング素子17とで構成されている。整流回路16の一方の交流入力端は、リアクトル2を介して商用電源1の一方の交流出力端に接続され、整流回路16の他方の交流入力端は、直接商用電源1の他方の交流出力端に接続されている。なお、スイッチング素子17は、IGBTであり、そのコレクタ電極とエミッタ電極との間にはフライホイールダイオード18が接続されている。そして、スイッチング素子17のゲート電極には、コンバータスイッチング制御ドライバ部5からオン・オフ制御信号5aが印加される。
インバータ装置6は、倍電圧コンバータ回路3の直流出力端3a,3bにそれぞれ接続される母線20a,20b間に直列配置される上アームスイッチング素子及び下アームスイッチング素子の3組(21a,21b)(21c,21d)(21e,21f)で構成されるスイッチング回路と、スイッチング回路の各スイッチング素子をオン・オフ駆動するインバータ制御ドライバ部22とを備え、上アームスイッチング素子及び下アームスイッチング素子の3組(21a,21b)(21c,21d)(21e,21f)それぞれの直列接続端が出力端を構成し、そこに圧縮機用電動機7が接続されている。なお、スイッチング回路の各スイッチング素子は、図示例ではIGBTであり、そのコレクタ電極とエミッタ電極との間にフライホイールダイオード23が接続されている。
そして、インバータ装置6では、検出系として、圧縮機用電動機7の駆動電流を監視する電流センサ25と、圧縮機用電動機7の運転状況を監視する速度センサ26と、3個の下アームスイッチング素子それぞれを流れる電流を監視する電流センサ27a,27b,27cと、負極性側の母線20bの電圧を監視する母線電圧センサ28と、各センサの監視結果を取り込むセンサ検出部29とが設けられ、センサ検出部29から各センサの監視結果30がインバータ制御ドライバ部22に出力される。
さて、コンバータスイッチング制御ドライバ部5は、リアクトル2を通過する交流電流31からゼロクロス点(zero cross timing)を検出するとともに、インバータ装置6からのフィードバック制御情報として、一方の母線20aでの母線電圧情報(v2)32と、インバータ制御ドライバ部22から制御演算上推定する圧縮機用電動機7についての推定情報(電気角wre、トルク電流iq)33とを取り込み、それらを図2に示すスイッチング基本タイミングテーブル44に適用してスイッチング素子17へのオン・オフ制御信号5aを生成する。
図2は、コンバータスイッチング制御ドライバ部5がコンバータスイッチング回路4のスイッチング素子をスイッチング制御する基本タイミングを説明する図である。図2において、符号35は商用電源1の0Vレベルであり、符号36は商用電源1の正の半サイクル側での電圧波形であり、符号37はリアクトル2を通過する商用電源1からの入力波形である。
入力波形37は、倍電圧コンバータ回路3から見ると、一次側の電流波形を示しているが、図示例では、定常運転モード47においてゼロクロス点38から遅れたSW開始点51で立ち上がり、SW終了点52で最大値になり、以降減少して増加し商用電源1の電圧波形36と同様の経過を取って変化している波形が示されている。
横軸は、ゼロクロスポイント38から図示例では正の半サイクルを経て次のゼロクロス点に向かう経過時間(msec)を表している。また、縦軸は、負荷側の運転出力(watt)を表し、上から下に向かって、100Vの冷房定格運転帯40と100Vの暖房定格運転帯41と過負荷運転帯42とが示されている。これらの運転出力の関係は、冷房定格運転帯40<暖房定格運転帯41<過負荷運転帯42である。
ここで、コンバータスイッチング制御ドライバ部5は、その設定されるスイッチング基本タイミングテーブル44に基づきコンバータスイッチング回路4のスイッチング素子17のスイッチング制御(以降「SW」と記す場合もある)を行うが、母線電圧のボトム値が250Vを下回るような負荷でSWを開始するようにし、SW開始後におけるスイッチング基本タイミングテーブル44を、二次側出力の負荷状態によって低負荷から高負荷へと流れるに従って、上に突の直角三角形状をした定常運転モード47と、平行四辺形状をした昇圧運転モード48と、四角形状をしたリミット運転モード49とに分割し、冷房定格運転帯40と暖房定格運転帯41と過負荷運転帯42と各運転モードとの関係として、定常運転モード47内に冷房定格運転帯40が入り、定常運転モード47と昇圧運転モード48との境界に暖房定格運転帯41が位置し、過負荷運転帯42でリミット運転モード49に入るようにしている。
定常運転モード47でのSW開始点(SW_start_point)51は、直角三角形の斜辺47aと交差する位置にあり、SW終了点(SW_end_point)52は、直角三角形の高さ辺47bと一致した位置にあり、SW開始点51とSW終了点52との間がSWをする範囲、つまり、スイッチング時間幅t_widthである。ゼロクロス点38から斜辺47aまでの経過時刻t_startの時点でスイッチング素子17がオン動作する。また、ゼロクロス点38から高さ辺47bまでの経過時刻t_endの時点でスイッチング素子17がオフ動作する。したがって、スイッチング時間幅t_width=スイッチング終了時刻t_end−スイッチング開始時刻t_startである。
次に、図2に示すように、スイッチング基本タイミングテーブル44に沿った形で、各出力帯と各運転モードとを配置するとき、定常運転モード47でのスイッチングパターン(ゼロクロスタイミングからスイッチング素子17のスイッチング制御を開始するまでのスイッチング開始タイミング及びスイッチング時間幅)を、シミュレーションなどの手法によって、インバータ装置6のインバータ制御ドライバ部22が制御演算上推定する負荷出力推定値に対応して高調波規制、力率値、母線電圧が規定値に収まるように最適化して設定する。
例えば、高調波電源負荷条件での母線電圧の高調波成分を分析し、それが製品としての規格値に収まるように、軽負荷の場合には、スイッチング終了時刻t_endが2.5msec周辺、スイッチング時間幅t_widthの上限を600〜800μsec程度に設ける形によって、或いは、スイッチング素子17のコレクタ電流が2.0〜3.0Arms程度に抑制できるようにスイッチング時間幅t_widthにリミットを加える形によって、二次負荷を変えながら調整する。
図3は、スイッチング基本タイミングテーブル44の詳細を説明する図である。以上のようにスイッチング基本タイミングを定めると、そのテーブルを図3に示すように作成する。図3に示すスイッチング基本タイミングテーブル44は、(1)スイッチング時間幅[μsec]と負荷[W]との関係テーブルと、(2)ゼロクロス点からのスイッチングスタート時間[msec]と負荷[W]との関係テーブルとで構成されている。(1)スイッチング時間幅[μsec]と負荷[W]との関係テーブルは、50Hzと60Hzとで共通に用いられる一つの関係テーブルである。(2)ゼロクロス点からのスイッチングスタート時間[msec]と負荷[W]との関係テーブルは、50Hz用の関係テーブルと60Hz用の関係テーブルとで構成される。
コンバータスイッチング制御ドライバ部5には、スイッチング基本タイミングテーブル44として、図3に示すような、(1)スイッチング時間幅[μsec]と負荷[W]との関係テーブルと、(2)ゼロクロス点からのスイッチングスタート時間[msec]と負荷[W]との関係テーブルとが実装される。
実際の製品では、インバータの制御もコンバータの制御も行ういわゆるマイコンやDSPなど、ゼロクロス点などのポート情報を得てソフトウェアで制御する半導体チップで構成され、ソフトウェアにスイッチング基本タイミングテーブル44を入れてプログラムとして実装される。
図4は、コンバータスイッチング制御ドライバ部5の構成例を示すブロック図である。図4において、乗算器60には、インバータ制御ドライバ部22から制御演算上推定する圧縮機用電動機7についての推定情報33として、トルク電流推定値iq_hatと、電動機電気角速度推定値wre_hatとが入力される。運転している電動機の差交磁束(定数φ)faiと比例定数k_gainとは、既知の情報として予めコンバータスイッチング制御ドライバ部5が保持している。
図1において、倍電圧コンバータ部3から母線20a,20bに直流電圧が送出され、インバータ装置6が圧縮機用電動機7を駆動すると、検出系(速度センサ26、電流センサ25,27a,27b,27c、母線電圧センサ28)が検出する圧縮機用電動機7の電流や機械角の状態がセンサ検出部29を介してインバータ制御ドライバ部22に入力される。
インバータ制御ドライバ部22は、各種の制御アルゴリズムに則って圧縮機用電動機7の電気角wreやトルク電流iqを推定している。また、電動機固有の鎖交磁束φが分かっていれば、wre×iq×φに比例定数kを掛けた値で圧縮機用電動機7の瞬時の出力値が推定できる。
つまり、図4において、コンバータスイッチング制御ドライバ部5では、まず、乗算器60にて、圧縮機用電動機7の瞬時の出力値を求める。そして、乗算器60にて求めた圧縮機用電動機7の瞬時の出力値に対して応答のための固有の時定数を有する低域通過フィルタ(lpf_for_inp)61を適用し、制御上、母線電圧のリプルや負荷変動に対する制御系の応答をある程度遅くし安定的に動作するようにした後に、スイッチング時間幅t_widthを二次側出力値に対応させるテーブル(Table width vs watt)62と、ゼロクロス点38からのスイッチング開始時間t_startを二次側出力値に対応させるテーブル(Table start tim vs watt)63とを適用する。
そして、テーブル62から得られるテーブル値に、リミッタ(0−3_lim)64を適用して上下限を制限した後、それに応答のための固有の時定数を有する低域通過フィルタ(LPF)66を適用し、制御上、母線電圧のリプルや負荷変動に対する制御系の応答をある程度遅くし安定的に動作するようにし、スイッチング基本タイミングで用いるタイミング時間幅t_widthを得る。
また、テーブル63から得られるテーブル値に、リミッタ(0−30_lim)65を適用して上下限を制限した後、それに応答のための固有の時定数を有する低域通過フィルタ(LPF)67を適用し、制御上、母線電圧のリプルや負荷変動に対する制御系の応答をある程度遅くし安定的に動作するようにし、スイッチング基本タイミングで用いるスイッチング開始時間t_startを得る。
図4では、母線電圧情報32の扱いは示されていない。この点に関しては、実施の形態3(図7、図8)にて説明するが、母線電圧のボトム値が250Vを下回ると、図2に示したスイッチング基本タイミングの条件で各運転モードが制御される。その結果、例えば図5に示すような母線電圧のボトム値の変動を伴う運転が可能になる。
このとき、上記したシミュレーションでは、定常運転モードにおいてコンバータスイッチング回路4のスイッチング素子17をスイッチングするパターンをテーブル化し、そのテーブルによるスイッチングタイミングを、乗算器60にて求める負荷出力推定値に対応して、コンバータ(直流電源装置)としての高調波規制、力率値、母線電圧が製品としての規定値に収まるように最適化してあるので、高調波規制、力率値、母線電圧の各規制値をクリアすることができる。
また、リミッタ処理によってスイッチング時間幅t_widthに上限値を設定するので、商用電源入力が100Vよりも低い場合でも、スイッチング素子17に流れる電流を抑制しながら、スイッチングタイミングそのものをゼロクロスタイミングから遅らせたスイッチング開始タイミングでもって母線電圧を昇圧することができ、インバータ出力を安定に維持することができる。
そして、スイッチングタイミングそのものをゼロクロス点38から遅らせるスイッチング開始時間t_startにもリミッタ処理によって上限値を定めるので、商用電源入力が100Vよりも低い場合で過負荷による無理な運転が行われる場合でも、スイッチング時間幅t_widthに上限値を設定することと相俟って、コンバータスイッチング回路4への負担を抑制することができる。
図5は、インバータ装置6の母線電圧のボトム値の変化の一例を説明する図である。図5では、「冷房定格出力」と「暖房定格出力」と「過負荷運転」とに対して、上から下に向かって、「85〜90V電源標準負荷運転軌跡」と、「100V電源標準負荷運転軌跡」と、「100V電源高調波規格運転軌跡(標準)」と、「110〜115V電源標準負荷運転軌跡」とが示されている。各軌跡の左端側は母線電圧が上がりすぎる場合を示し、右端側は母線電圧が下がりすぎる場合を示している。そして、「100V電源高調波規格運転軌跡(標準)」を下端とし「100V電源標準負荷運転軌跡」の上方までハッチングしたほぼ三角形状の領域が「許容される母線電圧ボトム領域」となっている。
図5に示すように、高調波測定時には、測定電源負荷に応じて母線電圧が若干低下するが、高調波規格に収まる運転が可能となる。元々のスイッチング基本タイミングテーブル44が高調波規格と力率の値をクリアするようにシミュレーションで設定してあるので、実機にて調整を殆ど行うことなく、リアクトル2のインダクタンスの低減を試みることが可能となる。
特許文献1に記載の技術では、ゼロクロスポイントからの一定期間内にスイッチ素子をオン動作させた場合に、リアクトルのインダクタンスが電流波形の立ち上がりを決定するので、高調波規制をクリアし、力率を上げるためには、当該文献に記載のように、電流波形の立ち上がりを電源電圧波形の立ち上がりに近いカーブを描かせる必要があり、そのため、インダクタンス値は、4mH以上と大きな値なっている。
これに対して、この実施の形態1では、電源100V入力で、負荷が1500W以下クラスならば、力率のクリア値は0.9でよいので、実際にインダクタンス値が2.5mH周辺クラスであっても、詳細にシミュレーションすると、一回のスイッチングのみで、力率と高調波規制の双方を同時にクリア可能なスイッチングのポイントを見つけ出すことができるので、試作調整が容易になる。
このように、実施の形態1によれば、高調波測定評価条件での入力と電源負荷のとき、シミュレーションで検証した結果として、二次負荷に応じて母線電圧を調節しながら高調波規格をクリアする最適なスイッチング動作を行うので、殆ど実機での細かい調整を行うことなく、高調波規制と力率とをクリアすることができる。
また、リアクトルのインダクタンス値や直流重畳性能について、従来よりも限界値まで下げることがシミュレーションベースで可能となる。
そして、通常の運転モードでは、高調波測定評価条件よりも電源負荷が小さくなり、母線電圧もその分上昇するので、機器の運転に問題が生ずることはなく、安定運転が可能となる。
加えて、コンバータスイッチング回路の整流ダイオード及びスイッチング素子に流れる電流をスイッチング時間幅に上限値を設定して制限するので、当該整流ダイオード及びスイッチング素子に対する要求仕様を緩和することができる。したがって、低電流品で済ませることが可能となり、また、コンバータスイッチング回路部分にヒートシンクを設置して放熱させる必要もなくなる。
実施の形態2.
図6は、この発明の実施の形態2による直流電源装置を備える電動機用駆動装置の構成を示すブロック図である。なお、図6では、図1(実施の形態1)に示した構成要素と同一ないしは同等である構成要素には同一の符号が付されている。ここでは、この実施の形態2に関わる部分を中心に説明する。
図6に示すように、実施の形態2による直流電源装置を備える電動機用駆動装置では、図1(実施の形態1)に示した構成において、倍電圧コンバータ回路3に代えて、倍電圧コンバータ部70が設けられている。倍電圧コンバータ回路70では、図1に示した倍電圧コンバータ回路3における倍電圧コンデンサ12,13の直列回路が、倍電圧コンデンサ12a,13aの直列回路と倍電圧コンデンサ12b,13bの直列回路とを並列接続し、各直列接続端を共通に整流回路11の他方の交流入力端と共に直接商用電源1の他方の交流出力端に接続した構成になっている。
換言すると、倍電圧コンバータ回路70では、図1に示した倍電圧コンバータ回路3における倍電圧コンデンサ12,13の直列回路において、倍電圧コンデンサ12が2つの倍電圧コンデンサ12a,12bの並列接続で構成され、倍電圧コンデンサ13を2つの倍電圧コンデンサ13a,13bの並列接続で構成されている。
ここで、2並列2直列接続に用いるコンデンサについて、二次側電流I2、コンデンサ容量C、発熱ΔTc、放熱係数βの各式を用いて実際の理論的な側面から具体的に説明する。二次側電流I2は、コンデンサ容量C、母線電圧vから、母線リプル電圧幅Vrippleと母線リプル電圧周波数frippleを用いて式(1)のように表される。コンデンサ容量Cは、電極表面積S、電極間距離d、電極間誘電率ε、定数kを用いて式(2)のように表される。発熱ΔTcは、リプル電流Irip、ESR(等価直列抵抗)R、放熱係数(W/℃cm2)βを用いて式(3)のように表される。また、放熱係数(W/℃cm2)βは、コンデンサ放熱係数β、コンデンサ電極表面積Sを用いて式(4)のように表される。
通常、倍電圧コンデンサの選択については、式(1)で示される二次側電流I2の要求から、二次側母線のリプル電圧幅Vrippleからコンデンサの静電容量Cの下限値を決定し、その決定した下限値よりも上の容量値を持つコンデンサを、コンデンサの許容リプル電流値から選択せざるをえない。そのため、式(1)からコンデンサの静電容量Cが大きいものは、許容リプル電流にも有利に働くため、許容リプル電流が決まれば、それを基にコンデンサが決定していた。つまり、式(1)からは容量の下限値が示されるが、実際には、容量の下限値ではなく、許容リプル電流の制限からコンデンサを決定していた。
今、静電容量が2000μFのコンデンサを倍電圧コンデンサに持ってくる場合と、静電容量が1000μFのコンデンサを2つ並列に接続して合計2000μFの倍電圧コンデンサを構成する場合とを比べるため、式(3)に示される発熱ΔTcを比較する。静電容量が1000μFのコンデンサを2つ並列に接続して使用するときの各パラメータをダッシュつきで表現する。
式(2)からコンデンサ容量Cは、電極表面積Sに比例し、式(4)から電極表面積Sの−0.2乗が放熱係数βに比例している。式(4)から静電容量が1000μFのコンデンサの放熱係数は、静電容量が2000μFのコンデンサの1.2倍大きくなる。電極表面積Sは、静電容量に比例して1/2であり、2つ並列に接続してあるので、リプル電流は、1/2になる。ここで、ESRは同じと仮定すると、ΔTc’=0.435ΔTcとなり、温度上昇は、静電容量が2000μFのコンデンサの43.5%まで抑えられることになるので、その分、静電容量1000μFのコンデンサの方が、許容リプル電流を2.30の0.5乗倍、つまり1.51倍多く流せることになる。
同様に考えて、発熱ΔTcの比較だけで倍電圧コンデンサの静電容量の削減を考えるとすれば、静電容量が360μFのコンデンサを2つ並列に接続した場合でも、放熱係数が1.41倍になる。リプル電流を計算すると、静電容量が2000μFのコンデンサの1つ使いとほぼ同じ大きさのリプル電流が許容可能な結果となる。実際には、許容リプル電流の大きさ以外に、コンバータとして母線電圧の変動の大きさが負荷側でどこまで許容可能かということも倍電圧コンデンサの容量を決定する要因になるが、当該倍電圧コンデンサの2並列接続によって許容リプル電流を大きくすることできるので、静電容量を下げることが可能となる。
このように、1つの倍電圧コンデンサを2つの倍電圧コンデンサの並列接続で構成した2並列2直列接続とすることで、1つの倍電圧コンデンサに要求される許容リプル電流を半減させ得るとともに、2つの部品とすることで、倍電圧コンデンサを放熱的に有利にすることができる。
したがって、図1に示した倍電圧コンバータ回路3のように、2つの倍電圧コンデンサを単に直列接続するよりも、図6に示すように2並列2直列接続とする方が、結果的にトータルのコンデンサの静電容量を大幅に下げることができ、回路実装面積が小さくなっても同等負荷で使用することができる。
また、従来では、コンデンサメーカが空気調和機や冷凍サイクル装置の用途向けに特別仕様で製造した特殊系列品である比較的低容量であるが高許容リプル電流品を使用していたが、この2並列2直列接続を応用することで、高容量、高許容リプル電流品のコンデンサの一般系列品を考えたとき、低容量で放熱的に有利であるので、単位面積当たりの許容リプル電流が、高容量、高許容リプル電流品に比べて大きく取れる。つまり、一般系列品の採用が可能になる。
一方、実際には、倍電圧コンデンサの容量を絞った倍電圧コンバータ回路70を用いる場合には、従来例で説明したように、母線電圧に低周波の揺動が発生し(図14参照)、その低周波揺動は、負荷が大きくなるにつれて顕著になるので、空気調和機や冷凍サイクル装置の運転に適さなくなる。
これを防ぐには、従来技術では、倍電圧コンデンサの容量を大きくするか、別に大きい容量の平滑コンデンサを入れなければならない。しかし、この実施の形態2では、スイッチング素子17を実施の形態1に示した手順でスイッチング制御することで、図14に示すような母線電圧の低周波の揺動は抑制することができる。これは、次のようなシミュレーションを実施して確認できた。
すなわち、コンバータの2次側の負荷で変化する母線電圧のリプル波形に対応して、スイッチングのタイミングをずらしながら適切なタイミングを選び、10〜30Hzの側帯波を抑制するようにスイッチングを行って母線の電圧波形を歪ませることで、図14に示すような母線電圧の低周波の揺動に含まれる10〜30Hzの側帯波の成分を変化させ、母線電圧波形のFFT解析などの方法によって含有成分を取り出し、その含有成分を0dB以下に落とすことで、低周波の揺動を抑制できることが確認できた。
実施の形態3.
図7は、この発明の実施の形態3による直流電源装置を備える電動機用駆動装置の構成を示すブロック図である。なお、図7では、図1(実施の形態1)に示した構成要素と同一ないしは同等である構成要素には同一の符号が付されている。ここでは、この実施の形態3に関わる部分を中心に説明する。
図7に示すように、実施の形態3による直流電源装置を備える電動機用駆動装置では、図1(実施の形態1)に示した構成において、コンバータスイッチング制御ドライバ部5に代えて、コンバータスイッチング制御ドライバ部75が設けられている。コンバータスイッチング制御ドライバ部75は、例えば図8に示すように構成されている。
図8に示すように、コンバータスイッチング制御ドライバ部75では、図4に示したコンバータスイッチング制御ドライバ部5において、母線電圧情報32の処理ブロック80〜91が追加されている。ここでは、この追加された処理ブロック80〜91を中心に説明する。
図8において、V2_btmは、母線電圧情報32から得られる現在の母線電圧のボトム値である。この観測した母線電圧のボトム値V2_btmは、低域通過フィルタ(lpf_for_vol)82にて、応答をスイチィング制御よりも速くするフィルタリング処理を受けた後に、加減算器85の減算入力端と加減算器86の加算入力端とに入力される。
テーブル(v_bottom_drop_tbl_harmonic_meas._vs_watt2)83は、高調波規格測定条件での運転シミュレーション時での母線電圧ボトム値の変化を二次側出力に対応させるテーブルであり、低域通過フィルタ61の出力(圧縮機用電動機7の運転状態推定値)に基づくテーブル値を加減算器85の加算入力端に出力する。
符号84は、母線電圧のボトム値がこれ以上大きくならない母線電圧ボトム上限値(vbtm_high)である。これは、既知の値(定数:V)であり、予めコンバータスイッチング制御ドライバ部75が保持している。この母線電圧ボトム上限値(vbtm_high)84は、加減算器86の減算入力端に入力される。
加減算器85の出力を受けるリミッタ(unsigned satur1)87と、加減算器86の出力を受けるリミッタ(unsigned satur2)88とは、それぞれ、差分の正値のみを取り出し、負数は、ゼロにする。これによって、母線電圧のボトム値が、テーブル83での下限値よりも下がった場合には上げる修正が行われ、母線電圧ボトム上限値(定数)84よりも上がった場合には下げる修正が行われる。
低域通過フィルタ(lpf_for_slow1)89は、観測した母線電圧のボトム値とテーブル83での下限値との差分の応答を遅らせる時定数でもってリミッタ87の出力をフィルタリングする。また、低域通過フィルタ(lpf_for_slow2)90は、観測した母線電圧のボトム値と母線電圧ボトム上限値(定数)84との差分の応答を遅らせる時定数でもってリミッタ88の出力をフィルタリングする。
加算器91は、低域通過フィルタ61の出力(圧縮機用電動機7の運転状態推定値)と低域通過フィルタ89,90の各出力とを加算して、テーブル62,63に並列に出力する。以降、図4にて説明した手順で、スイッチング基本タイミングで用いるタイミング時間幅t_widthとスイッチング開始時間t_startとが得られる。
すなわち、この実施の形態3によるコンバータスイッチング制御ドライバ部75では、母線電圧のボトム値が、テーブル83での下限値と母線電圧ボトム上限値(定数)84との間にある場合には、図4にて説明した手順で制御が行われるが、母線電圧ボトム上限値(定数)84を超えた場合は、超えた分だけ低域通過フィルタ(lpf_for_slow1)89にて、応答とともにゲイン調整された値がマイナスされるので、スイッチング素子17のスイッチング時間幅を小さくするか、スイッチング時間幅をゼロにしてスイッチング制御そのものを実行しないようにすることで、母線電圧を下げる動作が行われる。
一方、母線電圧のボトム値がテーブル83での下限値を下回った場合は、下回った分だけ低域通過フィルタ(lpf_for_slow2)90にて応答とともに、ゲイン調整された値がプラスされるので、スイッチング素子17のスイッチング時間幅を上限値まで大きくするか、スイッチング時間幅が上限まで達している場合には、スイッチング開始タイミングそのものをさらに遅らせることで、母線電圧を上げる動作が行われる。
これによって、圧縮機用電動機7を同じ出力で運転している場合に、商用電源電圧入力が、100Vrmsよりも高く115Vrms程度である場合も、100Vrmsよりも低く85Vrmsである場合も、母線電圧が高く上昇したり、母線電圧が低下したりすることがないので、効率の悪化や、過電圧、過電流によるデバイスへのストレスの悪化を防ぐ運転が可能となり、図5に示したような母線電圧に対する効果を得ることができる。
このように、実施の形態3によれば、軽負荷による運転状態において、商用電源からの交流電圧入力が100Vよりも高くなると、母線電圧が上昇し、それとともにインバータ装置でのスイッチチング素子やコンバータスイッチング回路でのスイッチチング素子などのパワーデバイスに過電圧による過度のストレスが加わるようになるが、そのような場合に、母線電圧の上昇を抑制するので、各パワーデバイスの過電圧によるストレスを軽減することが可能となる。
また、過負荷による運転状態において、商用電源からの交流電圧入力が100Vよりも低くなると、母線電圧が低下し、それとともにインバータ装置でのスイッチチング素子やコンバータスイッチング回路でのスイッチチング素子などのパワーデバイスに過電流による電流と発熱との過度のストレスが加わるようになるが、そのような場合に、母線電圧の低下を抑制するので、各パワーデバイスの過電流によるストレスを軽減することが可能となる。
なお、この実施の形態3では、実施の形態1への適用例を示したが、実施の形態2にも同様に適用することができる。
実施の形態4.
図9は、この発明の実施の形態4による電動機駆動用電源装置の構成を示すブロック図である。なお、図9では、図6(実施の形態2)に示した構成要素と同一ないしは同等である構成要素には同一の符号が付されている。ここでは、この実施の形態4に関わる部分を中心に説明に説明する。
図9に示すように、実施の形態4による直流電源装置を備える電動機用駆動装置では、図6(実施の形態2)に示した構成において、コンバータスイッチング制御ドライバ部5に代えて、コンバータスイッチング制御ドライバ部100が設けられている。コンバータスイッチング制御ドライバ部100は、リアクトル2を通過する交流電流102から、ゼロクロス点(zero cross timing)を検出する他、一次電流(i1)を検出してモニタし、過電圧による無理な運転が行われた場合に各パワーデバイスが過電流によるストレスを受けないようにしている。
具体的には、コンバータスイッチング制御ドライバ部100は、一次電流(i1)をCT(電流トランス)などで取り込み、それを電圧変化に変えてマイコンやDSPに入力して2乗平均値を求め、その求めた一次電流の2乗平均値とRMS値によって予め定めた一次電流値とを比較して一次電流をモニタし、予め定めた上限値に達した場合に、スイッチング素子17をオフ動作させて母線電圧の昇圧が行われないように制御し、過電圧による無理な運転が行われた場合に各パワーデバイスが過電流によるストレスを受けないようにしている。
以下、図10と図11とを参照して、具体的に説明する。なお、図10は、図9に示すコンバータスイッチング制御ドライバ部の構成例を示すブロック図である。図11は、図9に示すインバータ装置の母線電圧のボトム値の変化を説明する図である。
図10では、図8に示したコンバータスイッチング制御ドライバ部75において、検出した一次電流の処理ブロック115〜124が追加されている。ここでは、この追加された処理ブロック115〜124を中心に説明する。
図10において、i1_rmsは、観測した一次電流の2乗平均値である。この観測した一次電流値(i1_rms)は、低域通過フィルタ(lpf_for_middle)120にて応答を中程度に遅延させる時定数によるフィルタリング処理を受けた後、加減算器121の加算入力端に与えられる。テーブル(current tabl for harmonics meas.vs watt)124は、低域通過フィルタ61の出力(圧縮機用電動機7の運転状態推定値)に基づくテーブル値を加減算器121の減算入力端に与える。
テーブル124は、高調波負荷運転時において一次電流制限を行う上で目安となる一次電流値を対応させるテーブルである。そこでの一次電流値は、高調波負荷運転時での一次電流(Arms)を上側の値で丸めたものである。商用電源1からの入力電圧が想定値よりも低い場合や、RやLの負荷が大きい場合について、二次出力値に対応した一次電流値がこのテーブル124のテーブル値を超えた場合に、母線電圧のボトム値をテーブル82のテーブル値によるよりも多く低下させるように制御して、結果的に、一次電流値を下げる方向に作用する。
加減算器121の出力は、係数(drop_gain)122及びリミッタ(0.0〜1.0satur)123を経て乗算器126の一方の入力となる。テーブル83のテーブル値は、一次電流の上限値を示している。係数(drop_gain)122及びリミッタ(0.0〜1.0satur)123は、一次電流の実際値がテーブル83のテーブル値を超えるとき、母線電圧を少し下げて一次電流を減らす向きのゲイン量0.15を0.0〜1.0の範囲内でのリミット付きで出力する。
母線電圧のボトム値の下限値を与えるテーブル(v_bottom sabun−drop tabl vs watt)125は、低域通過フィルタ61の出力(圧縮機用電動機7の運転状態推定値)に基づきテーブル値を乗算器126の他方の入力に与える。テーブル125のテーブル値は、商用電源1からの入力電圧が想定値よりも低い場合や、RやLの負荷が大きい場合について、一次電流がテーブル124のテーブル値よりも大きい場合に、テーブル83のテーブル値が示す二次出力値に対応した目標母線電圧のボトム値よりもさらなる低下処理を行うときの下限値を表す。
但し、商用電源1からの入力電圧が90Vrmsのように低くなった場合は、所定の出力を得るために一次電流を非常に大きく要求するので、目標値よりも大きい電流値の電流を流さざるを得ない。そのため、母線電圧のボトム値もこのテーブル125のテーブル値の下限目標よりも下の値で平衡安定状態に入るので、このテーブル125のテーブル値には、小さい値を入れておく必要がある。一例として、0W/0V、300W/0V、1100W/−10Vのような下限量をテーブル値として使用する。
乗算器126では、係数(drop_gain)122及びリミッタ123でのゲイン量とテーブル125からの母線電圧の下限許容値とを掛け算して、現在の出力に合わせて母線電圧を低下させる電圧値が求められる。
テーブル83の出力と加減算器85の加算入力端との間に設けた加算器127では、テーブル83のテーブル値が示す二次出力値に対応した目標母線電圧のボトム値から乗算器126が求めた電圧値を引いて、一次電流を抑制する緩和した母線電圧ボトム目標値を求め、加減算器85の加算入力端に与える。
リミッタ87と低域通過フィルタ89との間には、増幅器128が挿入されている。また、リミッタ88と低域通過フィルタ90との間には、増幅器129が挿入されている。
このように構成されたコンバータスイッチング制御ドライバ部100では、過負荷による無理な運転で、予め製品に対応して決められた一次電流の上限値に達してしまった場合に、スイッチング素子17に対して倍電圧コンバータ回路70が無理に母線電圧の昇圧を行わないようなスイッチングを指令する。
これによって、母線電圧不足が生じ、インバータ制御ドライバ部22が無理に出力を取り出せなくなるので、商用電源1からの入力電圧が100Vよりも低い場合の一次側含めた各パワーデバイスの過電流によるストレスと機器からの発熱とを抑制することが可能となる。
また、一次電流値のテーブルの上限で制限して母線電圧を許容範囲の下限まで緩和させるので、例えば図11に示すような母線電圧を緩和したコンバータの運転が可能になる。図11では、「冷房定格出力」と「暖房定格出力」と「過負荷運転」とに対して、上から下に向かって、「100V電源標準負荷運転軌跡」と、「100V電源高調波規格運転軌跡(標準)」と、「母線電圧下限テーブル」と、「90V電源標準負荷運転軌跡(一次電流制限付き)」とが示されている。
「100V電源標準負荷運転軌跡」は、「冷房定格出力」「暖房定格出力」では、母線電圧がvbtom_high(母線電圧上限値(定数))と250Vとの間で変化しているが、「過負荷運転」では母線電圧が250Vよりも低下している。「100V電源高調波規格運転軌跡(標準)」は、「冷房定格出力」→「暖房定格出力」→「過負荷運転」と進行すると、母線電圧が250Vから230Vへと変化する。そして、母線電圧が母線電圧上限値(定数)vbtom_high以下で「100V電源高調波規格運転軌跡(標準)」までのハッチングしたほぼ三角形状の領域が「許容される母線電圧ボトム領域」となっている。一次電流制限目安からそれを超える電流が流れる場合、母線電圧のボトム値を下げ気味に制御して抑制することが示されている。
なお、この実施の形態4では、実施の形態2への適用例を示したが、実施の形態1,3にも同様に適用することができる。
斯くして、この発明によれば、倍電圧コンデンサの容量を低減し、リアクトルのインダクタンスを低減し、スイッチング回路部分のデバイスも消費電力を抑制でき、大きい電流仕様でないデバイスでコンバータを制御しつつ母線電圧が低周波で揺れるのを抑制でき、安定した直流電源装置を得ることが可能となる。