JP4821004B2 - キトサン/セリシン複合体ナノファイバー及びその人工皮膚への利用 - Google Patents
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Description
また、組織再生には、足場(scaffold)としての三次元構造が必要であることから、人工皮膚素材には、生体適合性や安全性のほか、適度な力学的強度、細胞接着に資する十分な比表面積、あるいは酸素や栄養分を供給し細胞や再生組織の侵入路となる多孔構造が形成され得るものであることが求められている。
足場として機能する三次元構造としては、スポンジ体、ハニカム体、あるいは繊維を重層した不織布などが知られているが、そのうちの不織布を構成する繊維としては、従来から知られているマイクロメーターオーダー(ミクロンオーダー)の極細繊維のほか、さらに細いナノメーターオーダーの繊維(ナノファイバー)の開発・実用化が進められている。ナノファイバーは、通常100nm以下の平均径を有し、従来の極細繊維に比較しても格段に大きな比表面積を有するため、細胞接着効率の点で有利である。また、当該繊維から調製された不織布は、in vivoにおける細胞外マトリックスの微視的構造に近似することから、再生医療への応用についての考察がされている。
したがって、本発明が解決しようとする課題は、人工皮膚などの人工臓器用の素材として、あるいは創傷被覆材として安全であり、しかも組織再生能力の高い医療用材料の提供と、これを利用した人工臓器や創傷被覆材などを提供することにある。
(1) キトサンとセリシンの複合体を含む、平均直径が50〜500nmの繊維。
(2) キトサンとセリシンの重量比が60〜90:40〜10である、(1)に記載の繊維。
(3) キトサンとセリシンの重量比が80:20である、(2)に記載の繊維。
(4) さらに、合成高分子材料を含む、(1)〜(3)のいずれか1に記載の繊維。
(5) 合成高分子材料が、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール、及びPVPのいずれか1以上である、(4)に記載の繊維。
(6) キトサンとセリシンを酸の存在下に水に溶解し、当該水溶液を電界紡糸することからなる、(1)〜(5)のいずれか1に記載の繊維の製造方法。
(7) 酸が酢酸である、(6)に記載の製造方法。
(8) 当該水溶液に、ポリエチレンオキサイドを溶解させることを含む、(6)又は(7)に記載の製造方法。
(9) (1)〜(5)のいずれか1に記載の繊維からなるマット。
(10) (9)に記載のマットからなる医療用材料。
(11) 人工皮膚である、(10)に記載の医療用材料。
(12) 創傷被覆材である、(10)に記載の医療用材料。
キトサンは、主にカニやエビなどの甲殻類、あるいは昆虫、貝、キノコ等から得られるキチンを脱アセチル化して得られる多糖類であり、通常、脱アセチル化度が60%以上のものをいうが、本発明においては、70%程度以上、より好ましくは80%程度以上、さらに好ましくは90%程度以上のものが使用される。キチンには分子結晶構造の違いによってα型、β型、γ型の3種類存在するが、いずれのキチンを用いたキトサンを使用してもよい。
キトサンの分子量は、製造方法によって、例えば3万ないし100万以上まで幅があり、本発明においてとくに限定されないが、分子量が大きくなり過ぎると溶解性が低下し、溶液濃度や粘度と紡糸性に問題が生じる傾向にあるため、比較的低分子量の5万〜25万程度のものが好ましい。
セリシンは、蚕の繭中にフィブロインを取り囲むかたちで20〜30%含まれるたんぱく質であり、絹糸(フィブロイン糸)を得るための精錬行程における廃液から回収することによって得られる。セリシンの分子量は2万程度から50万以上まで幅があり、本発明においてはとくに限定されないが、2〜5万程度のものが好ましい。
キトサン及びセリシンのいずれも、市販品として入手できる。
本発明において、キトサン/セリシン複合体とは、キトサンとセリシンの単純混合物、あるいは静電結合、ファンデルワールス結合体などをいい、一部共有結合を含んでいても良い。
本発明のキトサン/セリシン複合体において、キトサンとセリシンの配合比は、重量比で、約60〜90:40〜10、好ましくは70〜85:30〜15程度である。キトサンの量が60%より少ないと、紡糸性が悪くなる傾向があり、また、90%より多いと、セリシンの配合効果が希薄となるため好ましくない。
ナノファイバーを得るための電界紡糸装置は、例えば、図1に示すとおりであり、ニードルシリンジ(1)、ノズル(ニードル)(2)、基板(3)、直流高電圧電源(4)、及びインフュージョンポンプ(5)を備えている。
シリンジ1のノズル2先端にポリマー溶液が表面張力の作用で留まっている時に、ノズル先端と基板3間に、高電圧を印加すると、ノズル先端においてポリマー溶液の静電反発力が表面張力を上回り、ノズル先端から溶液が連続的に吐出され、繊維形状のまま長繊維シートとして基板上に捕集される。
また、図2のとおり、基板を円筒状の回転体に変更すれば、人工血管など、管状の医療用材料を得ることができる。
原料溶液のポリマー濃度、吐出速度、印加電圧、ポリマーの種類、溶媒の種類等により適宜に設定されるが、一般には、ポリマー濃度3〜20重量%、好ましくは7〜15重量%、吐出速度0.1〜10ml/hr、好ましくは1〜3ml/hr、印加電圧5〜35kV、好ましくは15〜27kVを目安とする。
また、シリンジ/基板間距離は、4〜30cm、好ましくは8〜15cm、装置内の温度は室温±10℃、湿度は、相対湿度30〜70%、好ましくは40〜60%に調整する。
印加電圧を上記範囲より大きくしたり、シリンジ/基板間距離を上記範囲より狭くすると、ノズルと基板間で放電する危険性があり、また、印加電圧を上記範囲より小さくしたり、シリンジ/基板感距離を上記範囲より広くとったり、相対湿度を上記範囲外にすると、紡糸性が不良となる傾向がある。
基板は、銅あるいはアルミニウムなど導電性の良い金属を備え、高電圧印加時の電極となり得るものであれば如何なる形状、大きさでもよいが、例えば、図1及び図2では、銅板上に高分子シートのような絶縁シート(ポリエチレンテレフタレート(PET))を積層し、絶縁シートを適宜サイズに切り取って、切り取り周縁部を銅テープで縁取りして、ナノファイバーの受部を形成している。ファイバーの受部には、紙やガーゼなどの繊維シートを敷いてもよい。
キトサンは水に難溶であるため、溶解補助のために有機酸又は無機酸を加えることが好ましい。有機酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、アスコルビン酸、グリコール酸などが、また、無機酸としては、塩酸、硝酸などが挙げられる。酸の使用量は、キトサンの分子量にもよるが、キトサン100重量部に対し20〜80重量%、好ましくは40〜70重量%であり、これより少ないと溶解補助能が発現されず、これより多いと、残留酸量が増え人工皮膚として適さなくなる。
他の高分子物質を加える場合には、別途高分子物質の溶液を調製し、キトサン/セリシン溶液に添加して、十分に撹拌して原料溶液を得る。
各原料物質の水溶液の調製において、必要であれば30〜60℃程度に加温してもよい。
中和方法は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、重炭酸ナトリウム等のアルカリ水溶液に浸漬する、アルカリ水溶液を噴霧する、あるいはアンモニア飽和蒸気中に放置する、など、いずれの方法によってもよい。
本発明のナノファイバーは、比表面積が極めて大きく、当該繊維をたい積した不織布状の薄膜ないしマットは、in vivoにおける細胞外マトリックスの微視的構造に近似した気孔構造を有することから、損傷し、欠損した生体組織の再生において優れた足場(scaffold)として機能する。したがって、本発明のナノファイバー、あるいはその薄膜ないしマットは、損傷・欠損した生体組織の部位に対応した形状・構造に成形して、皮膚、血管、神経、骨、軟骨、食道、弁、その他臓器などの再生のために直接使用し、また、in vitroにおける、組織培養における足場として使用することができる。
本発明のナノファイバーは、さらに、手術用の縫合糸、また、不織布状の薄膜に成形し、必要に応じて粘着シートに積層して創傷被覆材として利用することができる。本発明の創傷被覆材は、薬物を使わずに、創傷面に当接するだけで、自然治癒を顕著に促進することができる。
キトサン(分子量217,000:片倉チッカリン社製)、セリシン(分子量30,000:セーレン(株)製)、PEO(分子量400,000:SCIENTIFIC POLYMER PRODUCTS社製)、及び蒸留水の、表1に示した量を用いた。キトサンを蒸留水に30分間浸漬し、酢酸を添加し、4時間程度撹拌してキトサン水溶液を得た。ついで、セリシン及びPEOを加え、40〜50℃程度に加温しながら8時間程度撹拌し、キトサン/セリシン/PEO水溶液を得た。
この水溶液を、図1Aの電界紡糸装置のシリンジ1に充填し、ノズルと基板間の距離を8cm、装置内雰囲気を相対湿度約50%に調整したのち、印加電圧25〜30kV、吐出速度2ml/hrでノズル先端から連続的に紡糸し、図1Aの基板上に繊維を捕集した。基板は、図1Bのとおり、銅板の上にポリエチレンテレフタレート(PET)シート6を積層し、PETシートに2cm四方の穴を開けて、穴の外周縁に銅テープ8を取り付けて高電圧マイナス電極を取り付け、穴の底部に紙テープ7をセットしてナノファイバーの受部とした。
試料膜の表面をE−101型イオンスパッタで金属(Au)蒸着した後、走査型電子顕微鏡(SEM)(日立製作所モデルS−2300型)を用い、加速電圧25kV、ワーキング距離25mmで観察したところ、図3A及びBのとおり、平均直径約170nmのナノファイバーの不織布状を示した。
実施例1で得られたナノファイバー・マットを、5%NaOH水溶液中に1時間程度浸漬して中和したのち、3回水洗し、乾燥して、ナノファイバーマットを得た。図3C及びDにSEM像を示す。
[実施例3]電界紡糸3
実施例1で得られたナノファイバーマットを、5%NH3水溶液の飽和蒸気中に4日間放置して中和したのち、水洗、乾燥して、ナノファイバー・マットを得た。
[実施例4]電界紡糸4
キトサン、セリシン、PEO、及び蒸留水の量を、表1に記載のとおりに変更した以外は実施例1と同様にしてナノファイバー・マットを得た。
[実施例5]電界紡糸5
実施例4で得られたナノファイバー・マットを、5%NaOH水溶液中に1時間程度浸漬して中和したのち、3回水洗し、乾燥して、ナノファイバー・マットを得た。
キトサン、セリシン、PEO、及び蒸留水の量を、表1に記載のとおりに変更した以外は実施例1と同様にしてナノファイバー・マットを得た。
得られたナノファイバー・マットを10×3mmに折りたたみ、厚さ0.1mmに調整して、デシケーター中で、十分に乾燥させ、広角X線回折(WAXD)測定を行った。
測定は、東芝製XC−40H広角X線回折装置により(コリメーター0.5mm径、カメラ長32mm)、CuKα線(Niフィルターろ過)(40kV、20mA)を用いて、8時間撮影することによって行った(図4)。
同じ試料を使用し、赤道線(β=0°)上について広角X線回折強度を測定した。
測定は、理学電機製RINT2100を用い、走査範囲2θ:3°〜40°、スキャンスピード:1°/min、走査軸:2θ/θ、X線:CuKα線(管電圧40kV、管電流20mA)のNiフィルターろ過X線を用いて行った(図5〜7)。
図5はセリシン粉末の、図6はPEO粉末の、図7はキトサン/セリシン/PEO=7/3/2のナノファイバーのWAXD強度曲線を示す。
図7によれば、2θ=9.52°、20.8°、23.1°、29.8°、35.2°に中和されたキトサンに似た形で回折ピークが現れた。中和前のX線回折強度曲線より、中和後のX線回折強度曲線に似ているため、電界紡糸中に酢酸溶液が拡散し、ナノファイバー中に酢酸がほとんど残らなかったと考えられる。また、2θ=16.0°、20.8°、23.1°、36.4°に現れた回折ピークは、わずかに混合したPEOの影響と思われる。2θ=29.8°、35.2°の2つの子午線反射が強く出ているので、ナノファイバーは高い分子配向を示していると思われる。
図5によって、セリシンは低結晶性であること、また、図6から、PEOは明確な結晶回折を示すことがわかった。
実施例6で得られたナノファイバー・マットを、5%NaOH水溶液中に1時間程度浸漬して中和したのち、3回水洗し、乾燥して、ナノファイバー・マットを得た。
[比較例1]
キトサン(分子量100,000:富士紡績(株)製)6g、PEO(分子量400,000:SCIENTIFIC POLYMER PRODUCTS社製)4g、酢酸3g及び蒸留水87gを用いて調製した原料溶液を用いた以外は、実施例3と同様にしてナノファイバー・マットを得た。
[比較例2]
比較例1において使用した材料を表1に記載した割合で用いる以外は、実施例1と同様にしてナノファイバー・マットを得た。
創傷作成:マウスの背中に脱毛剤を塗り、3分程度おいた。その後、表皮をこすり取って剥がして創傷を準備した。
ナノファイバー・マット貼付テープ:実施例1で得られたナノファイバー・マットを1×2cmに切断し、粘着テープの中央部に貼着して貼付テープを作製した。
創傷処置:貼付テープのナノファイバー・マット面をマウスの創傷部位に貼付し、0、3、6、及び10日ごとに剥がして、マットを貼付しないマウスをコントロールとして、治療効果を観察した。目視による治療成績を表2に示し、0、3、6及び10日後の創傷部写真を図8A、9A、10A、11Aに示す。観察後、新しい貼付テープを貼り付けた。
貼付後10日目に治療領域の皮膚を切り取り、固定してスライスした切片をヘマトキシリン・エオジン染色して、皮膚断面を観察した(図12A)。
実施例2、3、5、及び7で得られたナノファイバー・マットを使用する以外は前記と同様にして、創傷の治療効果を観察した(表2、図8B〜E、9B〜E、10B〜E、11B〜E、12B〜E)。
表2の結果から明らかなとおり、本発明のマットを貼付したものは表皮のみの浅い傷について、創傷処置10日目には、コントロールに比較して全例で、良好な結果を示した。経過観察においても、本発明のマットは、ほぼ全例でコントロールに比較して改善がみられた。
CSP822の3タイプによる治療経過に若干の差があり、Unタイプが有利であったのは、セリシンの優れた生体適合性によるものと考えられる。これに対し、中和処理したNaタイプ及びNH3タイプでは、中和・水洗過程で、若干のセリシンが溶出したことによるものと推定される。
また、比較例1で得られたファイバー・マットを用い、実施例8と同様にして、表皮の浅い傷に対する治癒効果を観察した。10日目の創傷部の写真画像を図13に、また、皮膚断面画像を図14に示す。
創傷作成:マウスの背中の表皮を金属ブラシで強くこすり、真皮層まで達する傷を付けた。
その後、実施例8と同様に、実施例1で得られたナノファイバー・マットを装着した貼付テープのマット面をマウスの創傷部位に貼付し、0、3、及び6日目に剥がして、マットを貼付しないマウスをコントロールとして、治療効果を観察した。目視による治療成績を表3に示し、0、3、及び6日後の創傷部写真を図16A〜Cとして示した。観察後、新しい貼付テープを貼り付けた。
貼付後6日目に治療領域の皮膚を切り取り、固定してスライスした切片をヘマトキシリン・エオジン染色して、皮膚断面を観察した(図17A)。
実施例4、及び比較例2で得られたナノファイバー・マットを使用する以外は前記と同様にして、深い傷の治療効果を観察した(図15、図16D〜F、図17B、及びb)。
表3、及び図15〜17の画像から、本発明のマットで処置した場合、深い傷による損傷皮膚の治癒・再生が促進されることが明らかとなった。
2 ノズル(ニードル)
3 基板
4 直流高電圧電源
5 インフュージョンポンプ
6 PETシート
7 紙テープ
8 銅テープ
Claims (12)
- キトサンとセリシンを含む溶液を電界紡糸して得られる、平均直径が50〜500nmの繊維。
- キトサンとセリシンの重量比が60〜90:40〜10である、請求項1に記載の繊維。
- キトサンとセリシンの重量比が80:20である、請求項2に記載の繊維。
- さらに、合成高分子材料を含む溶液を電界紡糸して得られる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の繊維。
- 合成高分子材料が、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール、及びポリビニルピロリドンのいずれか1以上である、請求項4に記載の繊維。
- キトサンとセリシンを酸の存在下に水に溶解し、当該水溶液を電界紡糸することからなる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の繊維の製造方法。
- 酸が酢酸である、請求項6に記載の製造方法。
- 当該水溶液に、ポリエチレンオキサイドを溶解させることを含む、請求項6又は7に記載の製造方法。
- 請求項1〜5のいずれか1項に記載の繊維からなるマット。
- 請求項9に記載のマットからなる医療用材料。
- 人工皮膚である、請求項10に記載の医療用材料。
- 創傷被覆材である、請求項10に記載の医療用材料。
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