特許文献2(特開平2−206302号公報)に記載の装置は、前述したように、内燃機関の回転速度及び当該内燃機関に固有の排出粒子濃度特性に基づいて予め定められた排出粒子濃度を抑制するトルク指令パターンからそのときの回転速度に対応するトルク指令値を求める一方、アクセルペダルの踏込み角度に応じたゼロから1までの倍率の駆動トルク低減信号を求め、それらを乗算して電動機の駆動トルク指令値を求め、その駆動トルク指令値が得られるよう電動機を駆動して駆動トルクをアシストしている。電動機によるアシスト駆動に際して、内燃機関に対しては排煙濃度を低減するための特別な制御は行わない。
ところで、特許文献2に記載のような通常の車両に搭載される内燃機関(ディーゼルエンジン)の燃料噴射量の制御は、アクセル開度と回転数に基づいて燃料噴射量を決定する所謂ミニマムマキシマムスピード制御方式の特性が採用されている。ミニマムマキシマムスピード制御方式では、アクセルペダルの踏込み角度に応じて最大出力トルクが変化するよう出力トルク特性が設定されるため、アクセルペダルの踏込み角度が最大でない中間領域の開度に操作した場合は、それに応じた出力トルク特性に沿って燃料噴射量が推移し、内燃機関に接続された負荷の引摺り抵抗との平衡点から新たな平衡点へと移動するが、この間、最大でもアクセルペダルの踏込み角度に対応した燃料噴射量に止まる結果、過度の噴射量となることはない。これにより特許文献2の装置では、内燃機関がほぼ無負荷の状態で急速に目標回転数を上げる所謂フリーアクセル時に、電動機を駆動して駆動トルクをアシストするだけで、内燃機関に対しては特別な制御を行わなくても、内燃機関がその自律的な噴射量制御に従って特に低速度領域において大きなトルクを発生することを抑制し、排煙濃度が悪化することが避けられる。
一方、建設機械等に通常使用される特許文献1(特公昭62−8620号公報)に記載のような所謂オールスピード制御方式の内燃機関では、全回転数領域にわたって目標回転数と実回転数の差である回転数偏差に応じて燃料噴射量が定められるため、上記のようにアクセルを中間領域に操作した場合でも、コントロールダイヤルを普通の速度で操作すると、回転数偏差信号が急に増大し、その結果、燃料噴射量は最大の状態を経過してから新たな平衡点に到達する。従って低速回転数域から最大噴射量で運転されるため、排煙濃度が悪化し、かつ騒音・燃費も悪影響を受ける。
特許文献3(特開2000−345885号公報)及び特許文献4(特開2001−355489公報)に記載の装置も、内燃機関の燃料制御方式がアクセル開度と回転数に基づいて燃料噴射量を決定する所謂ミニマムマキシマムスピード制御方式であることを前提として、最大燃料噴射量を減量補正して新たな最大燃料噴射量としたり(特許文献3)、車両停車時の燃料噴射量を車両走行時の燃料噴射量よりも少ない燃料噴射量となるように規定する(特許文献4)ものであり、建設機械等に通常使用される特許文献1(特公昭62−8620号公報)に記載のような所謂オールスピード制御方式の内燃機関には適用できない技術である。
また、特許文献3の技術そのものにおいても、最大燃料噴射量を減量補正するための補正係数が小さい場合には排煙濃度を小さく抑えることができる一方、所要のエンジン回転数に達するまでにかかる時間が長くなり、反対に補正係数を1に近い大きい値とすれば所要のエンジン回転数に達するまでの時間の増加を抑えることができるが、一方排煙濃度は悪化することになる。従って排煙濃度と所要のエンジン回転数に達するまでの時間との双方を満足することは困難である。
特許文献4の技術も、車両停車時の最大燃料噴射量を小さい値にすれば排煙濃度を小さく抑えることができる一方、所要のエンジン回転数に達するまでにかかる時間が長くなり、反対に車両停車時の最大燃料噴射量を大きい値にすれば所要のエンジン回転数に達するまでの時間の増加を抑えることができるが、一方排煙濃度は悪化することになる。結局、特許文献3の技術と同様に、排煙濃度と所要のエンジン回転数に達するまでの時間との双方を満足することは困難である。
更に、特許文献2に記載の技術と特許文献3及び特許文献4に記載の技術を組み合わせて特許文献1に記載のような所謂オールスピード制御方式の内燃機関に適用し、電動機によるアシスト駆動を行うとともに、内燃機関の燃料噴射量の制御をフリーアクセル状態と通常使用状態とで切替えるようにすることを考えた場合、電動機によるアシスト駆動を停止したときの平衡点は、内燃機関のみによる出力トルクと引摺り抵抗(外部負荷)との平衡点からずれているのが通常であるため、電動機によるアシスト駆動を停止した瞬間、内燃機関への燃料噴射量は電動機でアシスト駆動された状態での燃料噴射量からそのときの回転数偏差信号に応じた燃料噴射量に急激に変動する。このため内燃機関のみの出力トルクと引摺り抵抗とがバランスする新たな平衡点に到達するまで、黒煙濃度が悪化したり騒音が大きくなったりする弊害が避けられない。これを避けるため燃料噴射量の時間的変化に制限を設けることも可能であるが、内燃機関のみの出力トルクと引摺り抵抗とがバランスする新たな平衡点から離れている場合には、新たな平衡点に達するまで時間がかかる不具合がある。
本発明の第1の目的は、所謂オールスピード制御方式の内燃機関を搭載した建設機械において、内燃機関がほぼ無負荷の状態で急速に目標回転数を上げる所謂フリーアクセル操作時に、電動発電機のアシスト駆動により排煙濃度を改善しかつ騒音や燃費の増大を抑制することができる建設機械の内燃機関回転数制御装置を提供することである。
本発明の第2の目的は、所謂オールスピード制御方式の内燃機関を搭載した建設機械において、内燃機関がほぼ無負荷の状態で急速に目標回転数を上げる所謂フリーアクセル操作時に、電動発電機のアシスト駆動により排煙濃度を改善しかつ騒音や燃費の増大を抑制するとともに、内燃機関のみの駆動時の引摺り抵抗との平衡点に速やかに収束させることができる建設機械の内燃機関回転数制御装置を提供することである。
(1)上記第1及び第2の目的を達成するために、本発明は、内燃機関と、前記内燃機関により駆動される作業機と、前記作業機に対する作動指令を出力する作業機作動指令手段と、前記内燃機関の燃料噴射量を調整する燃料噴射量制御手段と、前記内燃機関の目標回転数を設定するための目標回転数信号を出力する目標回転数設定手段であって、操作されることによって前記目標回転数を増減する目標回転数設定手段と、前記内燃機関の実回転数を検出する実回転数検出手段とを備え、前記目標回転数設定手段からの前記目標回転数信号と前記実回転数検出手段からの実回転数信号との差信号である回転数偏差信号に基づいた第1燃料噴射量を前記燃料噴射量制御手段に指令する作業機械の内燃機関回転数制御装置において、前記内燃機関に連結された電動発電機と、前記電動発電機との間で電力伝達可能に接続された蓄電手段と、前記電動発電機と前記蓄電手段との間に設置された電力変換手段と、前記回転数偏差信号に基づいた第1燃料噴射量を前記燃料噴射量制御手段に指令するモードを第1モードとして設定し、これとは別に、前記内燃機関に接続された負荷の引摺り抵抗に概略見合った出力トルクを発生する第2燃料噴射量を前記燃料噴射量制御手段に指令する第2モードを設定し、前記作業機作動指令手段が操作されておらずかつ前記目標回転数設定手段が目標回転数増加方向に操作されたときは前記第2モードに切替えて前記燃料噴射量制御手段に前記第2燃料噴射量を指令するとともに、前記回転数偏差信号に基づいたトルク指令を前記電力変換手段に出力して前記蓄電手段からの電力により前記電動発電機を駆動する制御手段とを備え、前記制御手段は、前記第2モードに切替えた後、前記目標回転数設定手段の目標回転数増加方向への操作が停止しかつ前記回転数偏差信号が予め定められた所定範囲に入ったときは、前記燃料噴射量制御手段に指令する燃料噴射量を前記第2燃料噴射量から徐々に増やすとともに、前記電力変換手段に対するトルク指令を徐々に減らし、最終的に前記燃料噴射量制御手段の制御モードを前記第1モードに移行して前記燃料噴射量制御手段に前記第1モードにおける前記第1燃料噴射量を指令し、かつ前記電力変換手段に対するトルク指令の出力を停止するものとする。
これにより作業機作動指令手段が操作されておらずかつ目標回転数設定手段が目標回転数増加方向に操作されたとき(フリーアクセル操作時)は、電動発電機によりアシスト駆動されるだけでなく、内燃機関の燃料噴射量制御は内燃機関に接続された負荷の引摺り抵抗に概略見合った出力トルクを発生する第2燃料噴射量を燃料噴射量制御手段に指令する第2モードに切替えられるので、内燃機関の燃料噴射量は引摺り抵抗に見合うだけの最少の燃料噴射量に抑えられ、排煙濃度の悪化や騒音及び燃費の増大が抑制される。また、このとき、回転数偏差信号に基づいたトルク指令に基づいて電動発電機を駆動し、電動発電機の電動機動作により内燃機関がアシスト駆動トルクを受けることになるので、内燃機関の回転数を速やかに目標回転数近傍まで上げることができる。
また、第1モードによる内燃機関のみの駆動に移行する際に燃料噴射量を徐々に増やしトルク指令を徐々に減らす処理(制御の収束処理)ことにより、内燃機関の回転数が目標回転数近傍に達してからスムーズに電動発電機によるアシスト駆動を停止し、通常の内燃機関のみによる回転数偏差信号に基づく運転状態に復帰するので、内燃機関のみの出力トルクと引摺り抵抗とがバランスする新たな平衡点へと速やかに収束し、かつそのときの排煙濃度の悪化や騒音の増大を抑制することができる。
(2)上記(1)において、好ましくは、前記制御手段は、前記第2モードにおいて、前記回転数偏差信号の増大に応じてトルク指令が増大するよう設定したトルク特性からトルク指令を演算し、このトルク指令に基づいて前記電力変換手段に対するトルク指令を決定する。
これにより電動発電機の電動機動作によるアシスト駆動トルクが、内燃機関の出力トルクを規定する回転数偏差信号に対応して定められるので、電動発電機及び内燃機関のトルク特性を正確に合わせ込むことができ、精度の良い制御が実現できる。
(3)また、上記(2)において、好ましくは、前記トルク特性は、前記回転数偏差信号の増大に応じてトルク指令が増大する領域において、前記第1モードにおける前記第1燃料噴射量に対応する前記内燃機関のトルク特性に近似するよう設定されている。
このように両トルク特性を近似させることにより、電動発電機のアシスト駆動を停止し、回転数偏差信号に基づいた第1燃料噴射量をにより内燃機関を運転する第1モードに移行する際の作動点(平衡点)が内燃機関のみの出力トルクと引摺り抵抗との平衡点と近くなり、スムーズに内燃機関のみの運転に移行可能となる。
(4)更に、上記(2)において、前記制御手段は、前記トルク特性から演算したトルク指令から、前記第2モードにおける前記第2燃料噴射量に対応する前記内燃機関の出力トルクを差引き、その値を前記回転数偏差信号に基づいたトルク指令として前記電力変換手段に出力する。
これによっても電動発電機の出力トルクと内燃機関の出力トルクの合計出力トルクは、同一の回転数偏差信号に対する内燃機関の出力トルクの特性とほぼ類似の特性となるので、電動発電機のアシスト駆動停止の際の作動点(平衡点)が内燃機関のみの出力トルクと引摺り抵抗との平衡点と近くなり、スムーズに内燃機関のみの運転に移行可能となる。
(5)上記(2)において、前記制御手段は、前記トルク特性から演算したトルク指令をそのまま前記回転数偏差信号に基づいたトルク指令として前記電力変換手段に出力してもよい。
この場合も、内燃機関の回転数が目標回転数近傍に達したときに上記(1)で述べた制御の収束処理を行うことにより、スムーズに内燃機関のみの運転に移行可能となる。
(6)また、上記(1)〜(5)において、好ましくは、前記第2モードにおける前記第2燃料噴射量は、前記第1モードにおいて前記目標回転数信号がアイドリング回転数であるときの前記目標回転数信号に基づいた前記第1燃料噴射量に相当する燃料噴射量である。
これにより簡便な処理により内燃機関の引摺り抵抗に見合った出力トルクに近い特性を得ることができる。
(7)上記(1)〜(5)において、前記第2モードにおける前記第2燃料噴射量は、前記内燃機関の実回転数に応じた負荷の引摺りトルクを予め定めておき、この予め定められた引摺りトルク値からそのときの前記内燃機関の実回転数に対応する引摺りトルクを求め、この引摺りトルクに見合ったトルク値に基づいて定められた燃料噴射量であってもよい。
これにより引摺り抵抗が内燃機関の実回転数に応じて大幅に変動する場合であっても、その引摺り抵抗に対応する第2燃料噴射量を算出するため、引摺り抵抗の変動に追随して内燃機関の出力トルクを適切に制御することができる。
(8)また、上記(1)〜(5)において、前記第2モードにおける前記第2燃料噴射量は、前記第1モードにおいて前記内燃機関の引摺り抵抗に見合った出力トルクを発生する一定値であってもよい。
これにより摺り抵抗が内燃機関の回転数に対してあまり変化しない場合には、第2燃料噴射量を引摺り抵抗に概略見合った一定の燃料噴射量に設定することにより、制御構成を簡便にすることができる。
本発明によれば、所謂オールスピード制御方式の内燃機関を搭載した建設機械において、内燃機関がほぼ無負荷の状態で急速に目標回転数を上げる所謂フリーアクセル操作時に、電動発電機のアシスト駆動により排煙濃度を改善しかつ騒音や燃費の増大を抑制することができる。また、回転数偏差信号に基づいたトルク指令に基づく電動発電機のアシスト駆動により内燃機関の回転数を速やかに目標回転数近傍まで上げることができる。
また、本発明によれば、内燃機関のフリーアクセル操作時に、電動発電機のアシスト駆動により排煙濃度を改善しかつ騒音や燃費の増大を抑制することができるとともに、内燃機関のみの駆動時の引摺り抵抗との平衡点に速やかに収束させることができ、かつそのときの煙濃度の悪化や騒音及び燃費の増大を抑制することができる。
以下に本発明の建設機械の内燃機関回転数制御装置の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係わる建設機械の内燃機関回転数制御装置の全体構成を示す図である。この実施の形態は、建設機械が油圧ショベルである場合に本発明を適用したものである。
図1において、1は油圧ショベルに備えられる内燃機関であり、この内燃機関1の出力軸には油圧ポンプ5,6,7の入力軸が接続され、油圧ポンプ5,6,7は内燃機関1により回転駆動される。油圧ポンプ5,6は可変容量型の主ポンプであり、油圧ポンプ7は固定容量型のパイロットポンプである。主ポンプ5,6から吐出された圧油はコントロールバルブ装置(切替弁手段)14を介してブーム、アーム、バケット、旋回、右走行、左走行用の各油圧アクチュエータ8,9,10,11,12,13に供給される。油圧アクチュエータ8,9,10,11,12,13のそれぞれに対応して操作レバー装置(作業機作動指令手段)19,20,21,22,23,24が設けられ、操作レバー装置19,20,21,22,23,24を操作することによりコントロールバルブ装置14が操作され、油圧アクチュエータ8,9,10,11,12,13が駆動される。また、操作レバー装置19,20,21,22,23,24は電気レバー装置であり、それらの作動指令はコントローラ25に入力される。コントローラ25はそれらの作動指令に基づいて所定の演算処理を行い、コントロールバルブ装置14に対応する駆動信号を出力する。コントロールバルブ装置14はそれらの駆動信号により作動し、主ポンプ5,6から吐出された圧油を対応する各油圧アクチュエータ8,9,10,11,12,13に配分する。油圧アクチュエータ8,9,10,11,12,13とこれらにより駆動されるブーム、アーム、バケット、旋回、右走行、左走行の各被駆動部材は内燃機関1により駆動される作業機を構成する。
内燃機関1はディーゼルエンジンであり、燃料噴射量を調整する電子ガバナ(燃料噴射量制御手段)2を備えている。内燃機関1の目標回転数信号はエンジンコントロールダイヤル(目標回転数設定手段)18により設定され、電子ガバナ2はその目標回転数信号に基づいて作動する。
本実施の形態に係わる内燃機関回転数制御装置は上記のような建設機械(油圧ショベル)に備えられるものであり、内燃機関1の出力軸及び油圧ポンプ5,6,7の入力軸に動力伝達歯車を介して連結された電動発電機15と、電動発電機15との間で電力伝達可能に接続された蓄電装置(蓄電手段)17と、電動発電機15と蓄電装置17との間に設置された電力変換装置(電力変換手段)16と、内燃機関1の実回転数を検出する回転センサ(実回転数検出手段)4と、上記のコントローラ(制御手段)25とを備えている。
コントローラ25は、第1の機能として、上記のように操作レバー装置19,20,21,22,23,24からの作動指令に基づいて所定の演算処理を行い、コントロールバルブ装置14に対応する駆動信号を出力する。
また、コントローラ25は、第2の機能として、エンジンコントロールダイヤル18からの目標回転数指令、電気式の操作レバー装置19,20,21,22,23,24からの作動指令、回転センサ4からの実回転数信号、蓄電装置17に内蔵された電圧センサからの電圧信号を入力し、所定の演算処理を行い、電子ガバナ2と電力変換装置16に制御信号を出力する。
コントローラ25の第2の機能の詳細について説明する。
まず、内燃機関1におけるオールスピード制御方式の燃料噴射料制御について説明する。
オールスピード制御方式の燃料噴射料制御とは、エンジンコントロールダイヤル18からの目標回転数信号Nrと回転センサ4からの実回転数信号Neとからその差信号として回転数偏差信号ΔN=Nr−Neを演算し、この回転数偏差信号ΔNがゼロに近づくように電子ガバナ2に燃料噴射量を指令することにより、内燃機関1の回転数と出力トルクを制御するものである。
図2はオールスピード制御方式で使用される燃料噴射量特性Q(ΔN)を示す図である。この燃料噴射量特性Q(ΔN)は、回転数偏差信号ΔNが増大するにしたがって燃料噴射量Qは斜めの直線Q1の特性に沿って直線比例的に増大するよう設定されている。また、回転数偏差信号ΔNがある所定の値ΔNaに達すると、燃料噴射量Qは最大Qmaxとなり、それ以上回転数偏差信号ΔNが増大したときは、燃料噴射量Qは最大Qmaxの一定値に保持される。通常のエンジン制御では、燃料噴射量特性Q(ΔN)を記憶しておき、そのときの回転数偏差信号ΔNを燃料噴射量特性Q(ΔN)に参照して対応する燃料噴射量を求め、その燃料噴射量を目標値として電子ガバナ2に与え、燃料噴射量を制御する。
図3は、そのように燃料噴射量が制御されたときの内燃機関1の出力トルク特性fe(ΔN)を示す図である。この出力トルク特性fe(ΔN)は燃料噴射量特性Q(ΔN)に対応しており、回転数偏差信号ΔNが増大するにしたがって出力トルクfeは斜めの直線fe1の特性に沿って直線比例的に増大するように設定されている。また、回転数偏差信号ΔNが所定の値ΔNaに達すると、出力トルクfeは最大値femaxに達し、それ以上回転数偏差信号ΔNが増大しても、出力トルクfeは最大出力トルクfemaxの一定値に保持される。
ここで、燃料噴射量Q(ΔN)のゼロ点とトルク特性fe(ΔN)のゼロ点とが一致していないのは、内燃機関1の内部摩擦等によりΔT0に相当する損失が生じているためであり、内燃機関1の外部に出力するトルクがゼロを越えるのは回転数偏差信号がΔN3を越えてからである。また、内燃機関1のトルク特性fe(ΔN)は実回転数、吸気温度、吸気圧力等により若干変動するものである。
図2に示す燃料噴射量特性Q(ΔN)は目標回転数信号Nr毎に設定され、そのときの目標回転数信号Nrに応じて対応する燃料噴射量特性Q(ΔN)が選択され、燃料噴射量Qが求められる。
図4は、図2に示すような燃料噴射量特性Q(ΔN)により燃料噴射量が制御されたときの全回転数範囲にわたる内燃機関1の出力トルク特性Te(N)を示す図である。図中、斜めの直線R1,R2,…,Rnの特性は図3のトルク特性fe(ΔN)の斜めの直線fe1の特性に対応しており、燃料噴射量の制御領域(レギュレーション領域)である。すなわち、目標回転数信号Nr毎に図3のトルク特性fe(ΔN)の斜めの直線F1の特性に対応する直線R1,R2,…,Rnのレギュレーション領域の特性が設定される。また、それらの特性(直線R1,R2,…,Rn)の上端のトルク値は、図3のトルク特性fe(ΔN)の直線F1の上端の最大出力トルクfemaxに対応し、直線R1,R2,…,Rnの上端を結んだ曲線は全負荷領域(燃料噴射量が最大となる領域)の特性である。直線Tnは燃料噴射量ゼロに対応する内燃機関1のトルク特性を示したものであり、レギュレーション領域の直線R1,R2,…,Rnと直線Tnとの交点P1,P2,…,Pnにおける回転数が、直線R1,R2,…,Rnに対応する目標回転数信号Nrの値(目標回転数)となる。
以上のようなオールスピード制御方式のエンジンにおいては、例えば、エンジンコントロールダイヤル18により目標回転数をアイドリング回転数に設定して内燃機関1を始動させるとき、図4の直線R1の特性が得られる。アイドル回転数では、通常、操作レバー装置19,20,21,22,23,24は操作されず、内燃機関1に接続されている負荷の引摺り抵抗Twと内燃機関1の出力トルクとが平衡する直線R1上の点Aにおいて内燃機関1が運転される。
また、エンジンコントロールダイヤル18により目標回転数を直線Rmに相当する回転数に設定した場合は、直線Rmの特性が得られる。この場合、操作レバー装置19,20,21,22,23,24が操作されていない非作業時は、アイドリング回転数を設定した場合と同様、負荷の引摺り抵抗Twと内燃機関1の出力トルクとが平衡する直線Rm上の点Dにおいて内燃機関1が運転される。
この状態で操作レバー装置19,20,21,22,23,24の任意のものを操作すると、油圧ポンプ5,6からの圧油がコントロールバルブ装置14を介して油圧アクチュエータ8,9,10,11,12,13の対応するものに供給され、所要の作業が行われる。このとき、各油圧アクチュエータの負荷変動に応じて目標回転数信号Nrと実回転数信号Neと差信号である回転数偏差信号ΔNが変化するため、この回転数偏差信号ΔNの変化に応じて燃料噴射量が変化し、内燃機関1は主として図4の直線Rm上の点D−点C間で運転される。
本実施の形態において、コントローラ25の第2の機能は、内燃機関1の燃料噴射量の制御モードとして図2に示す燃料噴射量特性Q(ΔN)を用いたオールスピード制御方式によるもの(回転数偏差信号ΔNに基づいた第1燃料噴射量を燃料噴射量制御手段である電子ガバナ2に指令するモード)を第1モードとして設定し、これとは別に、内燃機関1に接続された負荷の引摺り抵抗に概略見合った出力トルクを発生する第2燃料噴射量(以下単に負荷の引摺り抵抗に概略見合った第2燃料噴射という)を燃料噴射量制御手段である電子ガバナ2に指令する第2モードを設定し、操作レバー装置19,20,21,22,23,24(作業機作動指令手段)が操作されておらずかつエンジンコントロールダイヤル(目標回転数設定手段)18が目標回転数増加方向に操作されたときは第2モードに切替えて電子ガバナ2に第2燃料噴射量を指令するとともに、回転数偏差信号ΔNに基づいたトルク指令を電力変換装置16に出力して蓄電装置17からの電力により電動発電機15を駆動し、電動発電機15によるアシスト駆動を行うものである。また、第2モードに切替えた後、エンジンコントロールダイヤル18の目標回転数増加方向への操作が停止しかつ回転数偏差信号ΔNが予め定められた所定範囲に入ると、電子ガバナ2に指令する燃料噴射量を第2モードの第2燃料噴射量から徐々に増やすとともに、電力変換装置16に対するトルク指令を徐々に減らし、最終的に燃料噴射量の制御モードを第1モードに移行して電子ガバナ2に第1モードにおける第1燃料噴射量を指令させ、かつ電力変換装置16に対するトルク指令を停止させるものである。
このような制御を行うため、コントローラ25の記憶装置には、図2に示した燃料噴射量特性Q(ΔN)及び図3に示した内燃機関1の出力トルク特性fe(ΔN)と、図5に示す電動発電機15の出力トルク特性fm(ΔN)が記憶されている。
図5の出力トルク特性fm(ΔN)は回転数偏差信号ΔNに基づいたトルク指令を演算するのに用いるものである。図5には、比較のため、燃料噴射量特性Q(ΔN)及び出力トルク特性fe(ΔN)を合わせて示している。図5において、トルク特性fm(ΔN)は、回転数偏差信号ΔNが増大するにしたがって出力トルクfmは斜めの直線fm1の特性に沿って直線比例的に増大するよう設定されている。また、回転数偏差信号ΔNが所定の値ΔNbに達すると、出力トルクfmは最大値fmmaxに達し、それ以上回転数偏差信号ΔNが増大しても、出力トルクfmは最大出力トルクfmmaxの一定値に保持される。トルク特性fm(ΔN)における回転数偏差信号ΔNの増大に応じてトルク指令fmが直線比例的に増大する直線fm1の領域の特性は、内燃機関1の出力トルク特性fe(ΔN)の直線fe1の特性に近似する(傾きが同じになる)ように設定されている。
以下に、コントローラ25の第2の機能が行う処理内容を図6に示すフローチャートに従って説明する。図6のフローチャートに示す処理は所定の時間間隔(例えば10ms)で開始されるものである。
まず、ステップ101でコントローラ25に入力される各種入力を読み込む。入力は、回転センサ4からの実回転数信号、蓄電装置17からの蓄電電圧信号・蓄電手段の温度信号等、エンジンコントロールダイヤル18からの目標回転数信号、操作レバー装置19,20,21,22,23,24からの作業機作動指令信号である。また、目標回転数信号Nrと実回転数信号Neの差を演算して、回転数偏差信号ΔNを得る。
次にステップ102で、作業機作動指令信号に基づいて作業機作動指令がされているかどうか(操作レバー装置19,20,21,22,23,24の少なくとも1つが操作されているかどうか)を判別し、作業機作動指令がされていれば(Yesの場合)、ステップ110に進む。作業機作動指令がされていなければ(Noの場合)、ステップ103へ進む。
ステップ110では、内燃機関1の燃料噴射量の制御モードとして、図2に示した燃料噴射量特性Q(ΔN)を用いる第1モードを選択し、燃料噴射量特性Q(ΔN)にそのときの回転数偏差信号ΔNを参照して対応する燃料噴射量Qを演算し、この燃料噴射量Qを回転数偏差信号ΔNに基づいた第1燃料噴射量として電子ガバナ2に出力する。また、電力変換装置16には出力停止を指令し、電動発電機15からの出力トルクをゼロにする。そして「戻る」に進み、次回の処理を待つ。
ステップ103では、目標回転数信号Nrに基づいてエンジンコントロールダイヤル18が目標回転数増加方向に操作されているかどうかを判定する。エンジンコントロールダイヤル18が目標回転数増加方向に操作されていれば(Yesの場合)、内燃機関1はフリーアクセルの状態にあると判定してステップ104に進む。エンジンコントロールダイヤル18が目標回転数増加方向に操作されていなければステップ105に進む。
ステップ104では、内燃機関1の燃料噴射量の制御モードを上記の第1モードから第2モードに切替え、電子ガバナ2に内燃機関1に接続された負荷の引摺り抵抗Twに概略見合った第2燃料噴射量を指令するとともに、回転数偏差信号ΔNに基づいたトルク指令を電力変換装置16に出力して蓄電装置17からの電力により電動発電機15を駆動し、電動発電機15によるアシスト駆動を行う。
ステップ104の処理内容の詳細を説明する。
<第2モードの第2燃料噴射量の演算>
ステップ104における第2モードの第2燃料噴射量(内燃機関1に接続された負荷の引摺り抵抗Twに概略見合った第2燃料噴射量)の演算は、例えば、内燃機関1に接続された負荷の引摺り抵抗Twに概略見合った第2燃料噴射量を演算するための値として、所定の回転数偏差信号ΔN2を予め定めてコントローラ25に記憶しておき、図2に示した燃料噴射量特性Q(ΔN)にその所定の回転数偏差信号ΔN2を参照して対応する燃料噴射量Q(ΔN2)を算出することにより行う。
ここで、所定の回転数偏差信号ΔN2の決め方について説明する。
所定の回転数偏差信号ΔN2は内燃機関1に接続された負荷の引摺り抵抗Twに概略見合った第2燃料噴射量を演算するための値である。内燃機関1の引摺り抵抗Twは油圧ポンプ5〜7、油圧アクチュエータ8〜13を含む油圧系統の作動油温度、或いは追加の油圧ポンプの有無等によって変化するため、例えば図4の直線Rm上の点Dのような最終的平衡点を事前に正確に予測することは困難である。そこで、次善の策として、最終的平衡点Dの回転数偏差信号ΔNdより小さく、それに近い値をΔN2として決める。ただし、最終的な平衡点Dに相当するΔNdより小さく、それに近い値として、本実施の形態では、内燃機関1の加速指令が発せられた点である図4の直線R1上の点A(目標回転数がアイドリング回転数である場合のレギュレータ領域の直線R1上の平衡点)の回転数偏差ΔNgに着目し、その回転数偏差ΔNgを所定の回転数偏差信号ΔN2として設定する。
<回転数偏差信号ΔNに基づいたトルク指令の演算>
ステップ104における回転数偏差信号ΔNに基づいたトルク指令の演算は、図5に示したトルク特性fm(ΔN)を用いて例えば下記の方法1及び2のいずれかにより行う。
1.トルク特性fm(ΔN)から演算したトルク指令から、上記第2モードにおける第2燃料噴射量に対応する内燃機関1の出力トルクを差引き、その値を回転数偏差信号に基づいたトルク指令とする。
2.トルク特性fm(ΔN)から演算したトルク指令をそのまま回転数偏差信号に基づいたトルク指令とする。
上記方法1及び2の相違を図7を用いて説明する。図7は、方法1で電力変換装置16に対するトルク指令を演算した場合と方法2で電力変換装置16に対するトルク指令を演算した場合のフリーアクセル操作時における平衡点(図7中F点)近傍におけるそれぞれのトルク指令と合計出力トルク(電動発電機15の出力トルクと内燃機関1の出力トルクの合計)の変化を示す図である。なお、図7でTeは回転数偏差ΔNを一定値ΔN2(図4の直線R1上の点Aの回転数偏差ΔNf)に保持した場合の内燃機関1の出力トルクfe(ΔN2)を示し、Tnは前述したように燃料噴射量ゼロに対応する内燃機関1のトルク特性を示したものである。
方法2のようにトルク特性fm(ΔN)から求めたトルクfmをそのまま電動発電機15の出力トルクとして指令すると、電動発電機15の出力トルクと内燃機関1の出力トルクとを加算した合計出力トルク(全体トルク)はfm(ΔN)+fe(ΔN2)になるため、内燃機関1に接続された引摺り抵抗Twとの平衡点は図7のfm(ΔN)+fe(ΔN2)の線図上の点Eとなる。この平衡点Eを目標にしても、その点Eは内燃機関1のみの出力トルクと引摺りトルクTwとの平衡点である図7のfe(ΔN)の線図上の点Fの比較的近傍であり、ほぼ所要の目的を達成する。しかし、更に収束を早めるためには、方法1のように電動発電機15の出力トルクをfm(ΔN)−fe(ΔN2)とすることが好ましい。このようにすることにより、内燃機関1の出力トルクfe(ΔN2)と電動発電機15の出力トルクfm(ΔN)−fe(ΔN2)とを加算した合計出力トルクはfm(ΔN)となり、その特性は、図7のfm(ΔN)の線図に示すように内燃機関1の第1モードでのトルク特性fe(ΔN)に近似することができる。従って、この場合、内燃機関1に接続された引摺り抵抗Twとの平衡点は図7のfe(ΔN)の線図上の点Fの極近傍となり、内燃機関1のみの出力トルクと引摺りトルクTwとの平衡点Fとほぼ一致させることができる。
以上の理由により、本実施の形態では方法2を採用し、fm(ΔN)−fe(ΔN2)をトルク指令として電力変換装置16に出力する。電力変換装置16はこのトルク指令に対応して蓄電装置17からの電力を変換し、電動発電機15に出力して所望の出力トルクfm(ΔN)−fe(ΔN2)を得る。
ステップ104の処理が終了すると、「戻る」に進み、次回の処理を待つ。
ステップ103の判定結果がNoであった場合、ステップ105では、前回の処理が第1モードの処理であったかどうかを判別し、前回の処理が第1モードの処理である場合(Yesの場合)には、ステップ110へ進む。前回の処理が第1モードの処理でない場合(Noの場合)には、エンジンコントロールダイヤル18の操作は終了しているが、まだ内燃機関1の実回転数が目標回転数近傍に到達していない状態であると判定して、ステップ106に進む。
ステップ106以下の処理は、燃料噴射量の制御モードを第2モードに切替えた後、エンジンコントロールダイヤル18の目標回転数増加方向への操作が停止しかつ回転数偏差信号ΔNが予め定められた所定範囲に入ると、電子ガバナ2に指令する燃料噴射量を第2モードの第2燃料噴射量から徐々に増やして第1モードの第1燃料噴射量に近づけるとともに、電力変換装置16に対するトルク指令を徐々に減らし、最終的に燃料噴射量の制御モードを第1モードに移行して電子ガバナ2に第1燃料噴射量を指令させ、かつ電力変換装置16に対するトルク指令を停止させるものである。
すなわち、まずステップ106では、内燃機関1の回転数が目標回転数近傍に到達したかどうかを判定するための値として、所定の回転数偏差信号ΔN1(図7参照)を予め定めてコントローラ25に記憶しておき、回転数偏差信号ΔNとその所定の回転数偏差信号ΔN1とを比較する。回転数偏差信号ΔNがΔN1より大きければ(Noの場合)、まだ内燃機関1の回転数が目標回転数近傍に到達していない状態であると判定してステップ104へ進む。回転数偏差信号ΔNの絶対値がΔN1以下であれば(Yesの場合)、内燃機関1の回転数が目標回転数近傍に到達したと判定して、ステップ107に進み、燃料噴射量の制御モードを第2モードから第1モードへ移行する(切替える)処理を開始する。
所定の回転数偏差信号ΔN1としては、図5に示す内燃機関1の出力トルク特性fe(ΔN)の最大出力トルクfemaxに対応する回転数偏差ΔNaを越えることはなく、図7の平衡点F(fe(ΔN)とTwとの交点)近傍の回転数偏差信号ΔNfに近い値が望ましい。例えば、通常では出力トルク特性fe(ΔN)のトルク値が最大になる回転数偏差信号ΔNは100〜200min-1程度であるので、所定の回転数偏差信号ΔN1としては好ましくは50min-1程度以下、より好ましくは20min-1程度である。
ステップ107では、内燃機関1の出力トルクを段階的に増やして燃料噴射量の制御モードを第2モードから第1モードへ円滑に移行することを目的として、所定の回転数偏差信号ΔN2に予め定められた増分δN2を加算し、これを新たな回転数偏差信号ΔN2としてステップ108に進む。
ここで、ステップ104において、その新たな回転数偏差信号ΔN2に基づいて燃料噴射量制御を行うと、燃料噴射量は燃料噴射量特性Q(ΔN)を用いてQ(ΔN2)として演算され、電力変換装置16に対するトルク指令はfm(ΔN)−fe(ΔN2)として演算されるため、電子ガバナ2の燃料噴射量が増加して内燃機関1の出力トルクが増加するとともに、その増加分だけ電動発電機15の出力トルクが減少する。その結果、ステップ104において回転数偏差信号ΔN2に増分δN2を加算する処理を繰り返すことにより、内燃機関1の出力トルクfe(ΔN2)と電動発電機15の出力トルクfm(ΔN)−fe(ΔN2)は、それらの合計出力トルクをfm(ΔN)に保ったまま、それぞれ、図7のG点からF点(内燃機関出力トルク)及びH点からM点(電動発電機出力トルク)へと破線矢印のように移行する。
ステップ108では、燃料噴射量の制御モードを第1モードに切り換えるに十分な程度まで合計出力トルクfm(ΔN)が最終的な平衡点Fに近づいたかどうかを判定するため、合計出力トルクfm(ΔN)と内燃機関1の出力トルクfe(ΔN2)との差(例えば図7の点Jと点Lとのトルクの差)、fm(ΔN)−fe(ΔN2)を算定し、その絶対値|fm(ΔN)−fe(ΔN2)|が予め定められた許容値ε以下になったかどうか判定する。|fm(ΔN)−fe(ΔN2)|≦εでなければ、処理を継続するためステップ104に進む。|fm(ΔN)−fe(ΔN2)|≦εであれば、合計出力トルクfm(ΔN)が目標の平衡点Fの近傍に到達したと判定してステップ109へ進む。
なお、ステップ108の処理内容として、合計出力トルクfm(ΔN)と内燃機関1の出力トルクfe(ΔN2)との差の絶対値|fm(ΔN)−fe(ΔN2)|が予め定められた許容値ε以下になったかどうか判定すると説明したが、その演算値fm(ΔN)−fe(ΔN2)は結果として電力変換装置16に対するトルク指令はfm(ΔN)−fe(ΔN2)に等しいので、その判定を行うことは、電力変換装置16に対するトルク指令はfm(ΔN)−fe(ΔN2)であるK点の値が許容値ε以下になったかどうか(0に近づいたかどうか)を判定することと等価である。
ステップ109では、ステップ107において処理の中で繰り返し増加させた回転数偏差信号ΔN2を元に戻すために、その初期値として予め定められたΔN20を新たなΔN2として、ステップ110に進む。
ステップ110では、前述したように、内燃機関1の燃料噴射量の制御モードとして、図2に示した燃料噴射量特性Q(ΔN)を用いる第1モードを選択し、燃料噴射量特性Q(ΔN)にそのときの回転数偏差信号ΔNを参照して対応する燃料噴射量Qを演算し、この燃料噴射量Qを回転数偏差信号ΔNに基づいた第1燃料噴射量として電子ガバナ2に出力する。また、電力変換装置16には出力停止を指令し、電動発電機15からの出力トルクをゼロにする。そして「戻る」に進み、次回の処理を待つ。
以上のように構成した本実施の形態の動作を説明する。
まず、エンジンコントロールダイヤル18により目標回転数をアイドリング回転数に設定して内燃機関1を始動させるときについて説明する。目標回転数をアイドリング回転数に設定した内燃機関1の始動時は、操作レバー装置19,20,21,22,23,24は操作されておらずかつエンジンコントロールダイヤル18は目標回転数増加方向に操作されていないので、コントローラ25は、エンジンコントロールダイヤル18からの目標回転数信号Nrと回転センサ4からの実回転数信号Neとからその差信号として回転数偏差信号ΔN=Nr−Neを演算し(ステップS101)、その後、内燃機関1の燃料噴射量の制御モードとして、図2に示した燃料噴射量特性Q(ΔN)を用いる第1モードを選択する(ステップ101→102→103→105→110)。この第1モードでは、燃料噴射量特性Q(ΔN)にそのときの回転数偏差信号ΔNを参照して対応する燃料噴射量Qを演算し、この燃料噴射量Qを回転数偏差信号ΔNに基づいた第1燃料噴射量として電子ガバナ2に出力するとともに、電力変換装置16には出力停止を指令し、電動発電機15からの出力トルクをゼロにする。これにより図4の直線R1の特性が得られ、図4の直線R1の特性線上において、回転数偏差信号ΔNがゼロに近づくように燃料噴射量が制御され、内燃機関1に接続されている負荷の引摺り抵抗Twと内燃機関1の出力トルクとが平衡する直線R1上の点Aにおいて内燃機関1が運転される。
次に、内燃機関1がほぼ無負荷の状態にあるときにエンジンコントロールダイヤル18を急速に操作して内燃機関1の目標回転数を図4の直線Rmに相当する値まで上げる所謂フリーアクセル操作時について説明する。このフリーアクセル操作時は、作業機作動指令がされておらず、エンジンコントロールダイヤル18は目標回転数増加方向に操作されているので、コントローラ25は、内燃機関1の燃料噴射量の制御モードを第1モードから第2モードに切替えて、電子ガバナ2に内燃機関1に接続された負荷の引摺り抵抗Twに概略見合った第2燃料噴射量(Q(ΔN2))を指令するとともに、回転数偏差信号ΔNに基づいたトルク指令(fm(ΔN)−fe(ΔN2))を電力変換装置16に出力して蓄電装置17からの電力により電動発電機15を駆動し、電動発電機15によるアシスト駆動を行う(ステップ101→102→103→104)。燃料噴射量の制御モードを第2モードに切替えた後、エンジンコントロールダイヤル18の目標回転数増加方向への操作が停止しかつ回転数偏差信号ΔNが所定の回転数偏差信号ΔN1より小さくなって予め定められた所定範囲に入るまで上記の制御が継続される(ステップ101→102→103→105→106→104)。
これにより内燃機関1は電動発電機15によりアシスト駆動されるだけでなく、内燃機関1の燃料噴射量は引摺り抵抗に見合うだけの最少の燃料噴射量に抑えられるため、排煙濃度を改善しかつ騒音や燃費の増大を抑制することができる。
また、このとき、回転数偏差信号に基づいたトルク指令に基づいて電動発電機15を駆動し、電動発電機15の電動機動作により内燃機関1がアシスト駆動トルクを受けることになるので、内燃機関1の回転数を速やかに目標回転数近傍まで上げることができる。
その後、回転数偏差信号ΔNが所定の回転数偏差信号ΔN1より小さくなると(すなわち、所定の範囲に入ると)、内燃機関1の回転数が目標回転数近傍に達したと判断して、所定の回転数偏差信号ΔN2に予め定められた増分δN2を加算することにより、電子ガバナ2に指令する燃料噴射量を第2モードの第2燃料噴射量から徐々に増やして第1モードの第1燃料噴射量に近づける(図7のG点→J点)とともに、電力変換装置16に対するトルク指令を徐々に減らし(図7のH点→K点)(ステップ101→102→103→105→106→107→108→104)、最終的に燃料噴射量の制御モードを第1モードに移行して電子ガバナ2に第1燃料噴射量を指令させ、かつ電力変換装置16に対するトルク指令を停止させる(図7のF点)(ステップ101→102→103→105→106→107→108→109→110)。
これにより内燃機関1の回転数が目標回転数近傍に達してからスムーズに電動発電機15によるアシスト駆動を停止し、通常の内燃機関1のみによる回転数偏差信号に基づく運転状態に復帰するので、内燃機関1のみの出力トルクと引摺り抵抗とがバランスする新たな平衡点Fへと速やかに収束し、かつそのときの排煙濃度の悪化や騒音の増大を抑制することができる。
本実施の形態の効果を従来技術と比較してより詳細に説明する。
特許文献2(特開平2−206302号公報)に記載の装置は、前述したように、内燃機関の回転速度及び当該内燃機関に固有の排出粒子濃度特性に基づいて予め定められた排出粒子濃度を抑制するトルク指令パターンからそのときの回転速度に対応するトルク指令値を求める一方、アクセルペダルの踏込み角度に応じたゼロから1までの倍率の駆動トルク低減信号を求め、それらを乗算して電動機の駆動トルク指令値を求め、その駆動トルク指令値が得られるよう電動機を駆動して駆動トルクをアシストしている。電動機によるアシスト駆動に際して、内燃機関に対しては排煙濃度を低減するための特別な制御は行わない。
ここで、特許文献2に記載のような通常の車両に搭載される内燃機関(ディーゼルエンジン)の燃料噴射量の制御は、アクセル開度と回転数に基づいて燃料噴射量を決定する所謂ミニマムマキシマムスピード制御方式の特性が採用されている。図8にミニマムマキシマムスピード制御方式の特性により燃料噴射量が制御されるときの全回転数範囲にわたる内燃機関の出力トルク特性を示す。ミニマムマキシマムスピード制御方式では、図8に示すように、アクセルペダルの踏込み角度に応じて最大出力トルクが変化するよう出力トルク特性S1〜Snが設定されている。このためアクセルペダルの踏込み角度が最大でない中間領域の開度に操作し、例えば出力トルク特性S2が設定される場合は、アクセルペダルの踏み込み角度の増加に応じて燃料噴射量は増大し、内燃機関の出力トルクは図8のその出力トルク特性S2に沿って点A1→B1→D1のように推移して、内燃機関に接続された負荷の引摺り抵抗Twとの平衡点Aから新たな平衡点D1へと移動する。この間、最大でもアクセルペダルの踏込み角度に対応した噴射量に止まる結果、過度の噴射量となることはない。これにより特許文献2の装置では、内燃機関がほぼ無負荷の状態で急速に目標回転数を上げる所謂フリーアクセル時に、電動機を駆動して駆動トルクをアシストするだけで、内燃機関に対しては特別な制御を行わなくても、内燃機関がその自律的な噴射量制御に従って特に低速度領域において大きなトルクを発生することを抑制し、排煙濃度が悪化することが避けられる。
一方、建設機械等に通常使用される、図4に示すような出力トルク特性を持つ所謂オールスピード制御方式の従来の内燃機関1の回転数制御装置では、全回転数領域にわたって目標回転数と実回転数の差である回転数偏差ΔNに応じて燃料噴射量が定められるため、上記のようにアクセルを中間領域の開度に操作した場合でも、コントロールダイヤル18を普通の速度で操作すると、回転数偏差信号ΔNが急に増大し、その結果、図2の燃料噴射量特性Q(ΔN)により回転数偏差信号ΔNに見合った大きな燃料噴射量が演算され、電子ガバナ2に指令される。その場合、回転数偏差信号ΔNが最大燃料噴射量Qmaxに対応する値ΔNaを超えている場合は、その最大燃料噴射量Qmaxに制限される(点B)。そして、最大燃料噴射量Qmaxに対応する出力トルクで内燃機関1が加速され(点B−点C)、目標回転数に近づくに従って回転数偏差信号が小さくなるので、燃料噴射量は少なくなっていき、最終的には引摺り抵抗Twとの新たな平衡点Dで出力トルクが平衡して、内燃機関1は点Dの実回転数及び出力トルクで運転を持続することになる。この過程で内燃機関1は低速領域から大きな燃料噴射量を受けて運転されるため、排煙濃度が悪化し、騒音・燃費も悪影響を受けることになる。
このような従来技術に対し、本実施の形態では、操作レバー装置19,20,21,22,23,24(作業機作動指令手段)が操作されていない状態である、内燃機関1が無負荷状態で、エンジンコントロールダイヤル1(目標回転数設定手段)が目標回転数増加方向に操作された所謂フリーアクセル操作時は、内燃機関1の燃料噴射量は内燃機関1に接続された負荷の引摺り抵抗Twに概略見合った第2燃料噴射量に切り替えられるので、内燃機関1の燃料噴射量は引摺り抵抗Twに対抗するだけの最小限の燃料噴射量に抑えられ、排煙濃度の悪化は抑制される。また、このとき、電動発電機15の電動機動作により内燃機関1がアシスト駆動トルクを受けることになるので、それにより内燃機関1の回転数を速やかに目標回転数近傍まで上げることができる。更に、内燃機関1の回転数が目標回転数近傍に達してからスムーズに電動発電機15によるアシストを停止し、通常の内燃機関1のみによる回転数偏差信号に基づく運転状態に復帰する。これにより内燃機関1のみの出力トルクと引摺り抵抗とがバランスする新たな平衡点Fへと速やかに収束し、かつそのときの排煙濃度の悪化や騒音の増大を抑制することができる。
以上に本発明の一実施の形態を説明したが、本実施の形態は本発明の精神の範囲内で種々の変形が可能である。例えば、図6に示すフローチャートのステップ104では、内燃機関1の燃料噴射量制御の第2モードにおいて、内燃機関1に接続された負荷の引摺り抵抗Twに概略見合った第2燃料噴射量を、所定の回転数偏差信号ΔN2を用いて図2に示した燃料噴射量特性Q(ΔN)により演算した燃料噴射量Q(ΔN2)としたが、内燃機関1の引摺り抵抗が実回転数Neに対して大幅に変動する場合は、第2モードにおける第2燃料噴射量は、現実の引摺り抵抗に合わせて実回転数に対して設定したトルク特性により求めた燃料噴射量としてもよい。この場合は、例えばステップ104で、Q=Q(ΔN2)により燃料噴射量(第2燃料噴射量)を求める代わりに、図4の引摺り抵抗Twに近似して予め定められた、内燃機関1の実回転数に対して想定される引摺りトルク値からその時点での実回転数に対応するトルク値を求め、図3及び図5に示す内燃機関1のトルク特性fe(ΔN)からそのトルク値に対応する回転数偏差ΔN3を求め、更に、その回転数偏差ΔN3を図2及び図5に示す燃料噴射量特性Q(ΔN)に参照して対応する燃料噴射量(第2燃料噴射量)を求め、この燃料噴射量を電子ガバナ2に指令する。また、このときの回転数偏差ΔN3に対応するトルク指令を、例えば、トルク指令=fm(ΔN)−fe(ΔN3)により演算し、電力変換装置16に出力する。その後、図6のフローチャートのステップ107に最初に進んだときは、図3のトルク特性fe(ΔN)からそのときの内燃機関1の出力トルクに対応した回転数偏差ΔNを求め、これをそのときの所定の回転数偏差ΔN2として増分δN2を加算して新たな回転数偏差信号ΔN2を求め、以降の処理を行えばよい。
低温環境で内燃機関の循環油粘度が高くなった場合や、内燃機関に例えば大容量の固定容量油圧ポンプを装着した場合などは、内燃機関1の引摺り抵抗が実回転数Neに対して大幅に変動する。このように引摺り抵抗が内燃機関の実回転数に応じて大幅に変動する場合であっても、上記のように構成することにより、その引摺り抵抗に対応する第2燃料噴射量を算出するため、引摺り抵抗の変動に追随して内燃機関1の出力トルク適切に制御することができる。
また、引摺り抵抗が内燃機関1の回転数に対してあまり変化しない場合には、図6に示すフローチャートのステップ104において、第2モードで用いる第2燃料噴射量を引摺り抵抗に概略見合った所定の一定値としてもよい。この場合、例えばQ=Q(ΔN2)により燃料噴射量(第2燃料噴射量)を求めるの代わりに、常時一定の出力トルク値を使用して図3及び図5に示す内燃機関1のトルク特性fe(ΔN)からそのトルク値に対応する回転数偏差ΔN4(一定値)を求め、更に、その回転数偏差ΔN4を図2及び図5に示す燃料噴射量特性Q(ΔN)に参照して対応する燃料噴射量(一定値;第2燃料噴射量)を求め、この燃料噴射量を電子ガバナ2に指令する。また、このときの回転数偏差ΔN3に対応するトルク指令を、例えば、トルク指令=fm(ΔN)−fe(ΔN4)により演算し、電力変換装置16に出力する。最初にステップ107に進んだときは、上記と同様、図3のトルク特性fe(ΔN)からそのときの内燃機関1の出力トルクに対応した回転数偏差ΔNを求め、これをそのときの所定の回転数偏差ΔN2とすればよい。
これにより第2燃料噴射量及び電動発電機15に対するトルク指令がそれぞれ一定値であることから、制御構成を簡便にすることができる。
また、以上の説明では、蓄電装置17からの電力で電動発電機15を駆動する場合のみを説明したが、公知の手段により内燃機関1の余剰の動力を活用して電力変換装置16からの指令により電動発電機15に発電機作動を行わせて、蓄電装置17に電力を蓄積することを行い、電動機作動時の動力消費を補充してもよい。また、動力回収手段を備えて、回収動力で電動発電機15を駆動して電力に変換し蓄電装置16に蓄えることも好適である。